審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成21行ケ10096審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10016審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10090審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10153審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24行ケ10147審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10202号
審決取消請求事件
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原告 株式会社利川プラスチック 同訴訟代理人弁護士 尾崎雅俊 和田慎也 同 弁理士 倉内義朗 安田久 被告大鳳株式会社 同訴訟代理人弁理士 蔵田昌俊 中村誠 幸長 保次郎 堀内 美保子 金子早苗 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/06/13 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が無効2010-800139号事件及び無効2010-800153号事件について平成23年5月16日にした審決を取り消す。 |
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事案の概要
本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記 14の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,発明の名称を「樹脂管ジョイント並びにその製造方法」とする特許3955913号(平成13年8月31日特許出願(出願時の請求項の数5)。平成19年2月9日付け手続補正書(甲10)による補正(以下「本件補正」という。)の後,同年5月18日設定登録。請求項の数1。以下「本件特許」という。)に係る特許権者である(甲1)。 なお,被告は,平成19年3月22日,ヨシミ加工から本件出願に係る特許を受ける権利を譲り受け,同月29日,特許庁長官に対し,本件出願の名義変更を届け出ている。 (2) 原告は,平成22年8月5日,本件特許について特許無効審判を請求し,特許庁に無効2010-800139号事件として係属した。また,原告は,同年9月2日,本件特許について更に特許無効審判を請求し,特許庁に無効2010-800153号事件として係属した。特許庁は,同月17日,これらの事件について,併合審理する旨決定した。 (3) 特許庁は,平成23年5月16日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との本件審決をし,同月26日,その謄本が原告に送達された。 2 本件発明の要旨 (1) 特許請求の範囲の請求項1の記載(本件補正後のものである。)は次のとおりである。以下,「本件発明」といい,その明細書(甲1,40)を本件明細書という。 【請求項1】止水材が,連続気泡疎水性発泡ウレタン発泡体,水膨潤性ウレタンよりなる発泡体又は非発泡体,連続気泡ポリオレフィン発泡体,連続気泡ゴム発泡体,水膨潤性ゴムよりなる発泡体又は非発泡体,吸水性繊維不織布或いは疎水性繊維不織布の何れかであり,外金型と,前記止水材を全周にわたり巻き付けた内金型との間に,ブロー成形機のダイより押し出したパリソンを位置させ,前記内金型と前記外金型と 2で前記パリソンを挟んで閉じることにより前記止水材を管内面に一体成形することを特徴とする樹脂スパイラル管ジョイントの製造方法 (2) なお,本件出願時の明細書(甲2。以下「当初明細書」という。)に記載された特許請求の範囲の請求項4は次のとおりである(甲2)。 【請求項4】ブロー成形機よりパリソンを押し出した後,パリソン及びパリソン内部に位置する止水材を円形に固定してなる内金型を挟んで外金型を閉じることによりブロー成形する止水材を管内面に一体成形してなる樹脂管ジョイントの製造方法3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,@本件補正は,当初明細書に記載された事項の範囲内で行われたものであり,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第3項に規定する要件を満たすものである,A本件発明は,本件明細書の発明の詳細な説明に記載されており,特許法36条6項1号(サポート要件)を満たすものである,B特許請求の範囲に記載された発明は明確であるから,特許法36条6項2号(明確性の要件)を満たすものである,C本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されており,平成14年法律第24号による改正前の特許法36条4項(実施可能要件)を満たすものである,D本件発明は,未完成発明ではない,E本件発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)ではない,F本件発明は,引用発明及び下記イの引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない,というものである。 ア 引用例1:特開平1-159230号公報(甲13)イ 引用例2:実願平2-88087号(実開平4-44589号)のマイクロフイルム(甲15) (2) なお,本件審決が認定した引用発明並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明:筒状インサートが,あらかじめ他のブロー成形機又は射出成形機等 3により所定形状に型成形されたものでダクトなどの中空成形物の剛性向上のために設けられる,合成樹脂製のものであり,金型(6),(7)と,前記筒状インサートを上端嵌合保持部に取り付けた上下動可能なインサートホルダーとの間に,単層成形機の押出ダイから押出したパリソンを位置させ,前記金型(6),(7)を型締めした後,前記インサートホルダーの上端に開口した吹込ノズルにより吹込まれる空気によりブロー成形を行うことにより,前記筒状インサートと前記パリソンが一体化する,ダクトなどの中空成形物を型成形する単層成形機を用いた2層中空成形法 イ 一致点:外金型と,管内面に一体成形される所定の部材を取り付けた支持部材との間に,ブロー成形機のダイより押し出したパリソンを位置させ,所定の成形を行うことにより前記所定の部材を管内面に一体成形する樹脂管の製造方法 ウ 相違点1:管内面に一体成形される所定の部材に関し,本件発明では,連続気泡疎水性発泡ウレタン発泡体,水膨潤性ウレタンよりなる発泡体又は非発泡体,連続気泡ポリオレフィン発泡体,連続気泡ゴム発泡体,水膨潤性ゴムよりなる発泡体又は非発泡体,吸水性繊維不織布或いは疎水性繊維不織布の何れかである,止水材であるのに対して,引用発明では,あらかじめ他のブロー成形機又は射出成形機等により所定形状に型成形されたものでダクトなどの中空成形物の剛性向上のために設けられる,合成樹脂製の筒状インサートである点 エ 相違点2:管内面に一体成形される所定の部材を取り付けた支持部材に関し,本件発明では,止水材を全周にわたり巻き付けた内金型であるのに対して,引用発明では,筒状インサートを上端嵌合保持部に取り付けた上下動可能なインサートホルダーである点 オ 相違点3:所定の成形を行うことに関し,本件発明では,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることであるのに対して,引用発明では,金型を型締めした後,インサートホルダーの上端に開口した吹込ノズルにより吹込まれる空気によりブロー成形を行うことである点 カ 相違点4:樹脂管の製造方法に関し,本件発明では,製造対象物が樹脂スパイ 4ラル管ジョイントであるのに対して,引用発明では,製造対象物がダクトなどの中空成形物である点4 取消事由 (1) 補正要件に係る判断の誤り(取消事由1) (2) サポート要件に係る判断の誤り(取消事由2) (3) 明確性に係る判断の誤り(取消事由3) (4) 実施可能要件に係る判断の誤り(取消事由4) (5) 未完成発明でないとした判断の誤り(取消事由5) (6) 新規性に係る判断の誤り(取消事由6) (7) 進歩性に係る判断の誤り(取消事由7) |
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当事者の主張
1 取消事由1(補正要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,当初明細書【0017】【0019】【0020】の記載を引用した上,【0019】の記載において説明された図3には,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることが示されているから,樹脂スパイラル管ジョイントの管内面に止水材を一体成形するに当たり,エアーノズルから送られる空気は必須ではなく,図3の外金型を閉じた成形後において,止水材を全周に渡り巻き付けた内金型を挟んで外金型が閉じた状態とされ,その際,パリソンを内金型と外金型とで挟んで閉じることにより,止水材が管内面に一体成形されることになるから,当初明細書には,本件発明の内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するとの構成が実質的に記載されていると判断している。 (2) しかし,そもそも,当初明細書では,止水材を管内面に「ブロー成形」で一体成形することが一貫して記載されているところ(【請求項2】【請求項4】【0001】【0005】【0006】【0009】【0015】〜【0017】【0020】【0023】【0025】【図1】〜【図3】),「ブロー成形」という用語は, 5学術用語として,「押出機,射出機構などによって溶融・成形されたパリソンを金型に配し,気体をパリソンに吹き込み,その吹き込み圧などで中空体の製品を成形する方法」と定義されるものであり(甲56),当初明細書には,上記用語についての特別の定義付けがない以上,同明細書における「ブロー成形」も,上記意味を有するものと解すべきである。 これに対し,本件補正により補正された本件発明に係る製造方法の成形種別は,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形する成形方法であり,当該技術分野において,一般的に理解されているブロー成形ではない。 したがって,本件補正は,当初明細書に記載された事項の範囲内において行われたものではないから,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第3項に違反する。 (3) よって,本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕当初明細書には,「ブロー成形」について記載があるが,その定義が記載されていないとしても,原告の主張するように,一般的なブロー成形法を意味するものとして一貫して「ブロー成形」について記載されているとはいえない。 よって,本件審決の判断に誤りはない。 2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,本件明細書【0017】【0019】【0020】の記載を引用した上,これらの記載によると,樹脂スパイラル管ジョイントの管内面に止水材を一体成形するに当たり,エアーノズルから送られる空気は必須ではなく,図3の外金型を閉じた成形後において,止水材を全周に渡り巻き付けた内金型を挟んで外金型が閉じた状態とされ,その際,パリソンを内金型と外金型とで挟んで閉じることにより,止水材が管内面に一体成形されることになるから,本件明細書には,本件発明の内金 6型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するとの構成が実質的に記載されていると判断している。 (2) しかし,そもそも,本件発明に係る製造方法の成形種別は,日本工業規格で定義され,当該技術分野において一般に理解されているブロー成形ではなく,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形する成形方法である。 これに対し,本件明細書の発明の詳細な説明には,ブロー成形法で一体成形することが一貫して記載されており(【0001】【0009】【0015】〜【0017】【0020】【0023】【0025】【図1】〜【図3】),ブロー成形法以外の製造方法に係る発明は全く記載されていない。 したがって,本件発明は,発明の詳細な説明に記載されたものではなく,サポート要件に違反するものである。 (3) よって,本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕本件発明は,一般的な意味のブロー成形法ではないが,一般的な意味のブロー成形と同様に,成形機のダイからパリソンを押し出すことで,パリソンを成形するものである。したがって,本件明細書中の「ブロー成形」の用語は,【0003】に記載された従来例についての「ブロー成形」を除き,「ブロー成形のようにパリソンを成形して行う方法」を意味している。 よって,本件審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(明確性の要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は明確であると判断した。 (2) しかし,特許請求の範囲の記載からすると,本件発明に係る製造方法の成形種別は,当該技術分野において一般に理解されているブロー成形ではなく,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形する成形方 7法であると解される。 これに対し,本件明細書には,ブロー成形法で一体成形することが一貫して記載されている上,【0009】では,「一体成形とは樹脂管ジョイントを成形時に止水材を接合するものを指し,具体的にはインジェクション成形あるいはブロー成形時にその溶融あるいは軟化樹脂が接着性を有している硬化前に止水材を一体化することをいう」との記載があるから,仮に,本件発明の一体成形との文言を,「ブロー成形時にその溶融あるいは軟化樹脂が接着性を有している硬化前に止水材を一体化する」と解釈する余地があるとすれば,本件発明がブロー成形法であると解釈する可能性も完全には否定しきれない。 また,本件特許の出願経過をみると,前記1〔原告の主張〕のとおり,当初明細書では,本件出願に係る発明がブロー成形法で止水材を管内面に一体成形することであると一貫して説明され,甲3(早期審査に関する事情説明書)でも,「本願発明ではブロー成形によって管内面に止水材を一体成形するのであって」などと,当該発明がブロー成形法で一体成形するものであると説明されているが,甲6(審判請求書)では,被告は,平成17年12月8日付け手続補正書による補正後の発明がブロー成形法ではなく,パリソンを外金型で押圧することによって管内面に止水材を一体成形する成形方法であると主張している。また,被告は,甲9(意見書)でも,平成18年11月13日付け手続補正書による補正後の発明が,ブロー成形法ではなく,パリソンを外金型で押圧することによって管内面に止水材を一体成形する成形方法であると主張している。 以上のとおり,本件明細書の記載を参酌し,更に本件特許の出願経過を参酌しても,本件発明がブロー成形法であるか否かが明らかでないから,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,明確性の要件を満たしていない。 (3) よって,本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕当初明細書,甲3及び本件明細書において,本件出願に係る発明が一般的な意味の 8ブロー成形法によるものであると一貫して説明されているとはいえず,原告の主張は失当である。 よって,本件審決の判断に誤りはない。 4 取消事由4(実施可能要件に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,パリソンの粘度,止水材の材質,内金型の凹部の幅や深さ,外金型の型締めの速度等についての条件によっては,検乙1及び乙4に示されるように,止水材に折畳部(止水材が外側に膨らんで,折り畳まれた状態でパリソンに挟持された部分)と評価できる部分が存在しないものを製造することができると判断した。 (2) しかし,本件発明は,製造方法に係る発明であるから,単に製造条件の一部を示す実験成績証明書(甲24)と製造物の一例(検乙1,甲25〜27)を提示することによって,その製造方法により折畳部の存しない樹脂スパイラル管ジョイントを製造することができるものと判断することはできない。そのような判断をするためには,本件発明の技術的範囲に含まれる製造条件であって,かつ,本件発明に記載されている製造条件を限定する(又は,他の製造条件を付加する)ことのない製造条件の下で,その製造条件を明確にして,安定的に折畳部が生じることなく,全ての径の樹脂スパイラル管ジョイントを製造することが可能であることが認定される必要がある。 しかるに,検乙1及び甲25ないし27では,本件発明によって折畳部が生じることなく樹脂スパイラル管ジョイントを製造することが可能であることの証拠としては著しく不充分であり,そもそも,検乙1が,本件発明に係る製造方法により製造されたものであることを裏付ける客観的な証拠も何ら提出されていない。 したがって,本件発明に係る製造方法によって,折畳部が発生しない樹脂スパイラル管ジョイントを製造することが可能であるとの本件審決の判断は,証拠及び根拠に乏しい不当な判断であるといわざるを得ない。 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明の記載は,本件発明を当業者が実施 9することができる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえないから,実施可能要件を満たしていない。 (3) よって,本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕本件発明に係る製造方法によって,折畳部が発生しない樹脂スパイラル管ジョイントを製造することができるとの本件審決の認定は,本件明細書の記載及び技術常識等の根拠と検乙1,甲24,乙4等の証拠に基づいた正当なものであり,原告の主張は失当である。 5 取消事由5(未完成発明でないとした判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,パリソンの粘度,止水材の材質,内金型の凹部の幅や深さ,外金型の型締めの速度等についての条件によっては,検乙1及び乙4に示されるように,止水材に折畳部と評価できる部分が存在せず,樹脂スパイラル管ジョイントに破損がないものを製造し得るものであり,それにより本件明細書【0016】【0022】【0025】に記載された効果を奏することができるものであるから,発明として未完成であるとは認められないと判断した。 (2) しかし,前記4〔原告の主張〕のとおり,検乙1及び甲25ないし27は,本件発明によって折畳部が生じることなく樹脂スパイラル管ジョイントを製造することが可能であることの証拠としては著しく不充分である。 (3) 本件審決は,十分な証拠及び根拠に基づかずに,本件発明は未完成でないとの判断をしたものであって,取り消されるべきである。 〔被告の主張〕本件審決の判断に誤りはない。 6 取消事由6(新規性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,本件発明と引用発明との相違点1ないし4を認定し,本件発明 10は引用発明ではないと判断した。 (2) しかし,本件発明は,製造方法に係る発明であるところ,相違点1に係る本件発明の構成は素材を規定するものであり,相違点4に係る本件発明の構成は製品の形状及び用途を規定するものであるから,本件発明が新規性を有するか否かは,相違点2及び3に係る本件発明の構成が新規性を有するか否かに基づいて判断されるべきである。 そして,相違点2及び3に係る本件発明の構成は,次のとおり,全て引用例1に記載されている。 ア 相違点2について 本件審決は,引用例1のインサートホルダーが,本件発明の内金型に相当するとは認められない理由として,インサートホルダーが内金型であるならば,甲20のA1部分のみではなく,筒状インサートの長さ全体にわたってインサートホルダーが設けられるはずであるが,筒状インサートのA1の部分以外に対してはインサートホルダーが設けられていない点を挙げている。 しかし,引用例1のインサートホルダーが,本件発明の内金型に相当するか否かは,引用例1のインサートホルダーが本件発明における内金型の機能を有するか否かに基づいて判断すべきである。 本件発明の内金型には,パリソンと一体化するもの(本件発明の止水材)を支持する機能(以下「支持機能」という)と,パリソンと一体化するものを外金型との間に挟んでパリソンと一体化する機能(以下「圧着機能」という。)があるが,まず,引用例1のインサートホルダーは,パリソンと一体化される筒状インサートを支持するものであるから,支持機能を有するものといえる。また,引用例1のインサートホルダーは,筒状インサート(正確にはA1の部分)を,金型(6),(7)との間で挟んでパリソンと一体化するものであるから,圧着機能も有するものといえる。引用例1のインサートホルダーは,筒状インサートのA1部分のみを支持するように設けられているが,これは,筒状インサートは,A1部分のみを支持すれば,金型(6),(7)によっ 11て筒状インサートとパリソンとが圧着されるのに充分な強度を有しているため,筒状インサートのA1以外の部分(すなわち,A2部分)にインサートホルダーを設ける必要がないからである。したがって,インサートホルダーが内金型であるならば,A1部分のみではなく,筒状インサートの長さ全体にわたってインサートホルダーが設けられるはずであるとの本件審決の指摘は誤りである。 したがって,引用例1のインサートホルダーは,本件発明の内金型に相当するものといえる。 イ 相違点3について 本件審決は,引用例1には,「金型(6),(7)の型締めが行なわれ,」との記載があるが,この記載からは金型(6),(7)を閉じることは理解できるが,それにより,筒状インサートとパリソンとが,インサートホルダーと金型(6),(7)との間で押圧されることまでは認めることができないと判断している。 しかし,そもそも,引用発明は,インサートと少なくとも1層のパリソンが一体化した中空成形物を型成形することを目的としており,そのために,金型(6),(7)の型面(6a),(7a)はインサートの外面との間にパリソンを介在させるために必要な間隙を有するように,インサートより僅かに大形に設定されるとの構成を有するものである。 したがって,金型(6),(7)を閉じれば,パリソンは金型(6),(7)の型面(6a),(7a)に押圧されて,筒状インサートの外周面に圧着されて一体化されるといえる。 以上のとおり,本件審決の上記指摘は明らかに誤りであり,引用例1には,相違点3に係る本件発明の構成が開示されている。 (3) したがって,本件発明は,引用発明と同一の発明であり,本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕 本件審決の判断に誤りはない。 7 取消事由7(進歩性に係る判断の誤り)について 12〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,相違点1及び4に係る本件発明の構成は引用例2に記載されていると認めたものの,相違点2及び3に係る本件発明の構成は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づいて,当業者が容易に発明することができたものとはいえないと判断した。 (2) しかし,前記6〔原告の主張〕のとおり,相違点2及び3は,本件発明と引用発明との相違点ではない。 そして,本件審決が認定したとおり,相違点1及び4は引用例2に記載されているところ,引用例1及び2は,いずれも樹脂成形に関する発明が記載された公開公報であって,技術分野が共通しているから,両者を組み合わせる動機付けが存在し,当業者であれば,引用発明と引用例2記載の事項とを組み合わせることにより,本件発明を容易に想到することができる。 (3) よって,本件発明の進歩性に係る本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕本件審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(補正要件に係る判断の誤り)について (1) 当初明細書(甲2)には,概略,次の記載がある。 ア 特許請求の範囲請求項4の記載は,前記第2の2(2)のとおりである。 イ 発明の詳細な説明 (ア) 本発明は,ブロー成形時に止水材を一体成形してなる樹脂管ジョイント並びにリング状波管ジョイントの製造方法に関するものである(【0001】)。 (イ) 従来,上下水道管等に用いられている樹脂管は,樹脂管ジョイントといわれる接続ジョイントを使用して接続され,離れた場所に水等を伝える働きをしている。 この場合,接続ジョイントは水の漏水,浸入を防ぐため,止水材(パッキン)を用い 13て止水される(【0002】)。 図5は,従来の樹脂スパイラル管ジョイントの接続例であり,樹脂スパイラル管ジョイントの管外表面に止水材が接着されている。止水材は樹脂スパイラル管ジョイントのブロー成形時にブロー成形外金型の表面に固定され,ブロー成形にて一体化されるか,あるいは,スパイラル管ジョイントを製造後,後工程として止水材が接着されている。一方,止水材を管内面に貼ることも考えられるが,目標の場所にきちんと貼ることが困難であるとともに,管が細い場合には管内に手を入れることができず,止水材を貼ることができない。 従来の樹脂スパイラル管ジョイントは,止水材がスパイラル管に一体化されているため,作業性は良いものの,外表面に止水材を設けると,輸送時等の破損,砂等の付着による止水性能の低下や,樹脂スパイラル管ジョイントの端部が管内にオス状態で突出しているため,水の抵抗となるなどの問題がある(【0003】)。 (ウ) 本発明は,樹脂管ジョイントの輸送や取付時に止水材の破損を起こさず,野外でのパイプ接続工事でも砂や砂利が付着しにくく,接続パイプ内に樹脂管ジョイントが突出して水の流れなどを邪魔することのない樹脂管ジョイントの製造方法を提供するものである(【0004】)。 (エ) 本発明は,管内面に止水材が一体成形された樹脂管ジョイントである。一体成形とは,樹脂管ジョイントを成形時に止水材を接合するものを指し,具体的には,ブロー成形時にその溶融あるいは軟化樹脂が接着性を有している硬化前に止水材を一体化することをいう。ブロー成形法で製造された管内面止水材付き一体成形樹脂スパイラル管ジョイントは,後工程で接着したものに比較して止水材が破損することがないとともに,後工程で止水材を貼ることができない小口径の樹脂スパイラル管ジョイントにも止水材を一体成形することができる(【0009】【0016】)。 (オ) 実施例図1は,ブロー成形法による成形実施例であり,成形前のブロー成形機の樹脂押し出しダイ,外金型,止水材を固定した内金型の関係を示す。外金型は開放された状態 14で,止水材を全周に渡り巻き付けた内金型が用意されている(【0017】)。 図2は,外金型を閉じる直前の状態を示すものであり,ブロー成形機のダイの隙間よりパリソンを押し出す(【0018】)。 図3は,止水材がセットされたコアー金型を挟んで外金型を閉じた状態を示す。パリソンは樹脂スパイラル管ジョイントとなるが,止水材付き内金型の直径よりパリソンの直径の方が大きいため,パリソンの一部は外金型より外部に押し出されることになるが,この押し出された樹脂は再度使用することができる(【0019】)。 (カ) 図3のブロー成形において,止水材が連続気泡樹脂発泡体,連続気泡ゴム発泡体,あるいは不織布の場合には,連続気泡体の一部あるいは不織布にパリソンが含浸するので,止水材は本件発明の樹脂スパイラル管ジョイントと十分に接合される。 しかし,パリソンの含浸量が多いと止水材の厚さが薄くなって止水力が低下することがあるので,この場合にはエアーノズルより空気を送ってパリソンの含浸量を適当に調整することができる。また,成形された本発明の樹脂スパイラル管ジョイントを内金型より取り外す時にエアーノズルよりエアーを出すことによって取り外しが容易になる(【0020】)。 (キ) 本発明の管内面に止水材を一体成形させた樹脂管ジョイントは,従来の管外面に止水材が一体化されているものと異なり,管内面に止水材が一体化されているため,止水材が剥離したり,異物が付着したり,汚れたりあるいは破損することがない。 また,接続パイプを樹脂管ジョイントに接続した後,水,電線,配管等を入れた場合に,従来と異なり,樹脂管ジョイントがメスジョイントとなっているため,ジョイントが水の流れや配管,電線等の挿入を妨害することがない。また,止水材をブロー成形法で一体成形することにより,手作業で管内面に止水材を後接着できなかった小口径の樹脂管ジョイントでも止水材を一体化することが可能となった(【0025】)。 (2) 以上の記載からすると,止水材を外金型の表面に固定し,ブロー成形により一体化する従来の樹脂管ジョイントの場合には,作業性は良いものの,止水材が外表面に出ているので,止水材の破損や止水性能の低下を招来し,また,樹脂管ジョイン 15トの端部が管内に突出しているため,水の抵抗や挿入の邪魔となるという問題があり,他方,止水材を管内面に貼る場合にも,目標の場所にきちんと貼ることが困難であり,管が細い場合には手をいれることができずに止水材を貼ることができないという問題があったため,当初明細書に記載された発明は,これらの課題を解決するため,外金型と止水材を全周にわたり巻き付けた内金型との間に,ブロー成形機のダイからパリソンを押し出し,止水材がセットされた内金型を挟んで外金型を閉じることにより止水材を管内面に一体成形し(【0017】〜【0019】),その結果,管内面に止水材が一体化されているため,止水材が剥離したり,異物が付着したり,汚れたりあるいは破損することがなく,手作業で管内面に止水材を後接着できなかった小口径の樹脂管ジョイントでも止水材を一体化することが可能となるとともに,樹脂管ジョイントがメスジョイントとなっているためジョイントが水の流れなどを妨害することもないという効果を奏するというものである(【0025】)。 そして,後記2のとおり,本件補正後の本件発明は,外金型と止水材を全周にわたり巻き付けた内金型との間に,ブロー成形機のダイより押し出したパリソンを位置させ,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するという技術的事項を有するものであるところ,当初明細書記載の発明も,本件発明と同様に,ブロー成形機よりパリソンを押し出した後,パリソン及びパリソン内部に位置する止水材を円形に固定してなる内金型を挟んで外金型を閉じることにより,止水材を管内面に一体成形するという技術的事項を有するものであるから,本件補正は,新規事項を追加するものであるということはできない。 なお,当初明細書の特許請求の範囲の請求項4には,「ブロー成形する止水材を管内面に一体成形してなる」との文言が記載されているが,同項には,「パリソン及びパリソン内部に位置する止水材を円形に固定してなる内金型を挟んで外金型を閉じることにより」との文言も記載されている上,発明の詳細な説明に上記認定した技術的事項が記載されていることは明らかであるから,「ブロー成形する止水材を管内面に一体成形してなる」との記載が適切さを欠くものであるとしても,これにより,本件 16補正が新規事項を追加するものであるということにはならない。 (3) 原告の主張についてこの点について,原告は,当初明細書では,ブロー成形法で止水材を管内面に一体成形することが一貫して記載されているのに対し,本件補正後の本件発明に係る製造方法の成形種別は,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形する成形方法であって,当該技術分野において一般に理解されているブロー成形ではないから,本件補正は,当初明細書に記載された事項の範囲内において行われたものではないと主張する。 しかし,一般に,ブロー成形とは,押出機,射出機構などによって溶融・形成されたパリソンを金型に配し,気体をパリソンに吹き込み,その吹込み圧などで中空体の製品を成形する方法をいい(甲16,56),パリソンを金型の形状に対応させるため,気体をパリソンに吹き込む工程が必須である。当初明細書に記載された発明では,止水材である連続気泡樹脂発泡体や不織布に対するパリソンの含浸量が多くなり,止水材の厚さが薄くなって止水力が低下する場合には,エアーノズルから空気を送ってパリソンの含浸量を調整したり,成形された本発明の樹脂スパイラル管ジョイントを内金型より取り外す時にエアーノズルからエアーを出して取り外しを容易にすることはあるものの(【0020】),前記のとおり,当該発明は,内金型を挟んで外金型を挟むことによってパリソンの成形を行うものであって,エアーノズルから送られる気体によって成形するものではないから,一般的なブロ-成形に用いるブロー成形機のダイを用いているとはいえ,その余の工程は,一般的なブロー成形と異なる機序によるものであることは明らかである。 もっとも,当初明細書の図面の簡単な説明における,図1ないし3について,それぞれ「本発明の管内面に止水材をブロー成形法で一体成形する工程において,」との記載,「一体成形とは樹脂管ジョイントを成形時に止水材を接合するものを指し,具体的にはブロー成形時にその溶融あるいは軟化樹脂が接着性を有している硬化前に止水材を一体化することをいう」との記載(【0009】),さらに,「止水材をブロ 17ー成形法で一体成形することにより,手作業で管内面に止水材を後接着できなかった小口径の樹脂管ジョイントでも止水材を一体化することが可能となった」との記載(【0025】)は,その文言自体が前記認定の機序を的確に反映したものとはなっていないため,当初明細書に記載された発明における止水材と管内面の一体成形の方法が一般のブロー成形法であることを想起させるものであることを否定することができない。 しかしながら,当初明細書記載の実施例における一体成形の方法(【0017】〜【0019】)や一体成形時にエアーノズルが果たす機能(【0020】)の記載に接した当業者であれば,当初明細書に記載された発明は,ブロー成形機のダイよりパリソンを押し出した後,パリソン及びパリソン内部に位置する止水材を円形に固定してなる内金型を挟んで外金型を閉じることにより,止水材を管内面に一体成形するという技術的事項を有するものであると理解するのは明らかである。 したがって,原告の主張は採用できない。 (4) 小括 よって,取消事由1は理由がない。 2 取消事由2(サポート要件に係る判断の誤り)について (1) 原告は,本件明細書には,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形する成形方法の記載はないから,本件発明は,サポート要件に違反すると主張する。 (2) そこで検討すると,本件発明は,前記第2の2のとおり,外金型と止水材を全周にわたり巻き付けた内金型との間に,ブロー成形機のダイより押し出したパリソンを位置させ,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するというものである。 他方,本件明細書(甲1,40)の発明の詳細な説明(【0001】〜【0004】【0009】【00015】〜【00020】【0025】)には,概略,前記1(1)イ(ア)ないし(キ)と同様の記載があり,本件発明が,当初明細書記載の発明と 18同様に,従来の樹脂管ジョイントにあっては,止水材を管外面に貼る場合は,止水材の破損や止水性能の低下を招来し,止水材を管内に貼る場合にも,目標の場所にきちんと貼ることが困難であるなどの問題点があったため,これらの課題を解決するため,外金型と止水材を全周にわたり巻き付けた内金型との間に,ブロー成形機のダイからパリソンを押し出し,止水材がセットされた内金型を挟んで外金型を閉じることにより止水材を管内面に一体成形することとし,その結果,止水材の剥離や異物の付着を防止するとともに,小口径の樹脂管ジョイントでも止水材を一体化することが可能となるなどの効果を奏するものであることが記載されている。 もっとも,本件明細書には,前記のとおり,本件発明における止水材と管内面の一体成形の方法が一般のブロー成形法であることを想起させるものであることを否定することができない記載があるが,本件明細書の記載に接した当業者であれば,本件発明は,前記のとおり,ブロー成形機よりパリソンを押し出した後,パリソン及びパリソン内部に位置する止水材を円形に固定してなる内金型を挟んで外金型を閉じることにより,止水材を管内面に一体成形するという,一般的なブロー成形と異なる技術的事項を有するものと理解することができるものである。 以上のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明には,本件発明の内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するとの事項が記載されているのであるから,この点でサポート要件違反があるということはできず,原告の主張は採用できない。 (3) 小括よって,取消事由2も理由がない。 3 取消事由3(明確性に係る判断の誤り)について (1) 原告は,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,「ブロー成形法」による樹脂スパイラル管ジョイントの製造方法であるか否かが明らかでないから,明確性の要件を満たしていないと主張する。 (2) しかし,前記第2の2のとおり,本件発明に係る特許請求の範囲には,ブロ 19ー成形法ではなく,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するとの構成が明確に記載されている。また,前記2のとおり,本件明細書の発明の詳細な説明にも,当該構成に係る事項が記載されているということができる。 以上のとおり,本件発明に係る特許請求の範囲には,止水材と管内面との一体成形について,ブロー成形法ではなく,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するとの構成が明確に記載されているのであり,明確性に欠けるものではない。 なお,ヨシミ加工が特許庁に提出した事情説明書(甲3)には,「本願発明ではブロー成形によって管内面に止水材を一体化するのであって」などと,本件出願に係る発明がブロー成形法によるものであることをうかがわせる記載もみられるが,同説明書には,「本願発明は,・・・特定の内金型を併用することにより,目的を達成できる」との記載もあるから,当該発明が少なくとも一般的なブロー成形とは異なるものであることは明らかにされているし,甲3の記載内容自体からは,当該発明に係る成形方法を明確に読み取ることができないとしても,特許請求の範囲の記載や本件明細書の記載から,本件発明がブロー成形法ではなく,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形する構成を採用していることが明らかに認められる以上,甲3の記載のみを根拠として特許請求の範囲の記載の明確性が否定されるものではない。 (3) 小括 よって,取消事由3も理由がない。 4 取消事由4(実施可能要件に係る判断の誤り)について (1) 原告は,被告が本件発明による製造物であるとして提出した検乙1及び甲25ないし27は,本件発明によって折畳部が生じることなく樹脂スパイラル管ジョイントを製造することが可能であることの証拠としては不十分であるなどと主張するとともに,本件発明によれば折畳部が生ずることの証拠として,甲11(原告作成の本 20件発明に係る製造方法を示す説明図)を提出している。 しかし,折畳部が発生する機序を示した甲11の記載内容に鑑みれば,本件発明においても,止水材に折畳部が成形される場合があることを理解することはできるものの,甲11で行われている検討において,パリソンの粘度,パリソンの厚さ,止水材の材質,性状及び形状,管の径と内外金型の凹凸部の幅や深さ,外金型の型締めの速度等の設計条件が考慮された形跡はなく,折畳部がいかなる条件下で発生するものであるのか明らかにされてはいない。また,本件発明は,樹脂スパイラル管の製造方法であり,パリソンの断面は,断面を設ける位置によっては,単純な円環状にはならないから,パリソンと止水材とが一体成形される過程を検討するに当たっては,管軸方向での変形も考慮されるべきであるところ,甲11では,パリソン断面が単純な円環状のものとして検討がされているにすぎない。この場合,実際には,止水材とパリソンとを挟む内金型と外金型には,それぞれ凹凸があり,その分,一体成形のために要する止水材とパリソンの長さは長いものとなるから,止水材が外金型の合わせ面からはみ出すことになる可能性も低くなるものと考えられる。 したがって,甲11によれば,本件発明において,一定の条件の下で折畳部が発生する可能性があることは否定できないものの,本件発明に係る製造方法によれば,必ず折畳部が発生し,樹脂スパイラル管ジョイントとしての機能を発揮できないとまではいうことができない。 むしろ,当業者であれば,止水材に折畳部が成形されることにより,十分な止水効果が得られなかったり,破損のおそれが生ずるような事態を避けるため,設計条件を適宜調整するものと考えられ,そのような調整が不可能であるとすべき事情も見出せない。 したがって,本件明細書に折畳部が発生しないような設計条件が詳細に開示されていないとしても,当業者において,本件発明を実施できないということはできない。 なお,原告は,本件発明によれば折畳部が発生する証拠として,樹脂スパイラル管ジョイントに関する実験成績証明書(甲44)や折畳部が発生した樹脂スパイラル管 21ジョイントの写真(甲45〜51)を提出しているが,これらの実験や樹脂スパイラル管ジョイントの製造については,パリソンの粘度,内外金型の凹凸部の幅,外金型の型締めの速度等の重要な設計条件が明らかにされていないから,上記各証拠から直ちに本件発明が実施不能なものであると認めることもできない。 (2) 小括よって,取消事由4も理由がない。 5 取消事由5(未完成発明でないとした判断の誤り)について前記4のとおり,本件発明は,当業者であれば,本件明細書の発明の詳細な説明の記載と出願当時の技術常識に基づき,特許請求の範囲に記載された発明を実施することができるものということができるから,発明として未完成であるということはできない。 よって,取消事由5も理由がない。 6 取消事由6(新規性に係る判断の誤り)について (1) 引用発明は,前記第2の3(2)アのとおりであるところ,引用例1(甲13)には,引用発明について,概略,以下の記載がある。 ア 引用発明は,単層成形機によって2層中空成形品を型成形する方法及びその装置に関するものである。 イ 従来の2層成形は,複数のダイアンドノズルを有する2層中空成形機によって型成形されてきたが,2層成形機は構造,取扱いとも複雑で,しかも高価であるだけでなく,その成形品についても,2層成形の開始と終了の位置を正確にコントロールできないことや,各層のパリソンが溶融点まで加熱されているときにブロー成形が行われるため,不要部分の除去が不可能なほど両層が密着してしまうなどの問題点があった。 ウ 引用発明の目的は,これら問題点を解決し,2層成形機を用いることなく2層中空成形品の型成形を行い,また,各層の開始,終了等の関係を正確に決定することができ,バリ等の除去も容易に行うことができる単層成形機を用いた2層中空成形法 22及びその装置を提供することにある。 エ 引用発明は,合成樹脂製の中空なインサートを単層成形機の型開きした金型間に保持させ,単層成形機のダイより押し出された,インサートとは異なる種類の合成樹脂からなるパリソンをインサートの外側又は内側に配置し,金型を型締めした後ブロー成形を行うことにより,インサートと少なくとも1層のパリソンが一体化した中空成形物を型成形する単層成形機を用いた2層中空成形法及び合成樹脂製の中空なインサートが固定されたホルダー,インサートの中空部とパリソンの方向をほぼ一致させてホルダーを配置する金型と,金型間にインサートと異なる種類の合成樹脂よりなるパリソンを押し出すダイとを備えた単層成形機及び金型の型締状態で内芯部よりブロー成形を行う吹込ノズルを具備した単層成形機を用いた2層中空成形装置である。 オ 実施例 装置:第2図の合成樹脂製の筒状インサートは,あらかじめ他のブロー成形機又は射出成形機等により所定形状に型成形されたものであり,通気ダクトの剛性向上のために設けられる。吹込ノズルは,インサートを上端嵌合保持部に取り付ける上下動可能なインサートホルダーに開口し,下部の取付台に固定されたエアシリンダーからパリソンに吹き込まれる空気を吐出する(第5図参照)。インサートに設けられた凹溝は,パリソンとの係合手段である。単層成形機は,金型(6),(7)と押出ダイとを備え,オリフィスからインサートより大径のパリソンを押し出す。金型(6),(7)の型面(6a),(7a)はインサートの外面との間にパリソンを介在させるために必要な間隙を有するように,インサートより僅か大形に設定される。 方法:まず,インサートがインサートホルダーにセットされる。次に,インサートホルダーは,エアシリンダーの作動により金型間の所定位置に上昇し,ダイからパリソンが押し出されインサートの外側を包むと,金型(6),(7)の型締めが行われ,ノズルより吹き込まれる空気によりブロー成形が実施される。冷却工程の後,金型(6),(7)が開き,インサートホルダーが下降し,製品Aの取出しと次のインサートのセットがなされ,以上の工程が繰り返されるものである。 23 カ 引用発明の2層中空成形法によれば,インサートはパリソンの特定の位置に正確に固定されるから,従来の多層成形機による場合のように性質,材質の異なる部分の境い目の位置が製品ごとにばらついたりすることがない。また,インサートとパリソンとは相溶性がないなど異なる合成樹脂を用い,また,あらかじめ成形されたインサートに対しパリソンを外から又は内から一体に成形する構成であるため,内外2部分が分離不可能な程には密着せず,不要な部分の分離等に適している。 (2) 本件発明の新規性について ア 原告は,本件発明は,製造方法に係る発明であるところ,相違点1に係る本件発明の構成は素材を規定するものであり,相違点4に係る本件発明の構成は製品の形状および用途を規定するものであるから,本件発明が新規性を有するか否かは,相違点2及び3に係る本件構成が新規性を有するか否かに基づいて判断されるべきであるとした上で,相違点2及び3に係る本件発明の構成は全て引用例1に記載されているから,本件発明は,引用発明と同一であると主張する。 イ しかし,相違点1に係る本件発明の構成は,樹脂スパイラル管ジョイントの部材を規定するものであり,また,相違点4に係る本件発明の構成は,本件発明の製造対象物を規定するものであって,いずれも樹脂スパイラル管ジョイントの製造工程そのものを規定するものではないが,本件発明は,前記2(2)のとおり,従来の樹脂管ジョイントにあっては,止水材を管外面に貼る場合は,止水材の破損や止水性能の低下を招来し,止水材を管内に貼る場合にも,目標の場所にきちんと貼ることが困難であるなどの問題点があったため,これらの課題を解決するため,外金型と止水材を全周にわたり巻き付けた内金型との間に,ブロー成形機のダイからパリソンを押し出し,止水材がセットされた内金型を挟んで外金型を閉じることにより止水材を管内面に一体成形することとし,その結果,止水材の剥離や異物の付着を防止するとともに,小口径の樹脂管ジョイントでも止水材を一体化することが可能となるなどの効果を奏するというものであるから,製造に用いる部材やその製造対象物が本件発明の技術的事項と関連性を有しないものであるということはできない。 24 したがって,本件発明の新規性の判断に当たり,相違点1及び4に係る本件発明の構成については考慮をする必要がないとの原告の主張は採用できない。 ウ 次に,相違点2及び3について検討する。 引用例1には,その2層中空成形法について,「インサートがセットされたインサートホルダーが,エアシリンダーの作動により,金型間の所定位置に上昇し,ダイからパリソンが押し出されインサートの外側を包むと,金型(6),(7)の型締めが行われ,ノズルより吹き込まれる空気によりブロー成形が実施される」との記載があるが,この記載からすると,金型(6),(7)を閉じることは理解できるものの,筒状インサートとパリソンはその後に行われるブロー成形により一体成形されるのであり,金型(6),(7)とインサートホルダーとの間で,筒状インサートとパリソンとを押圧することまでを読み取ることはできない。また,第2図からは,インサートホルダーがインサートの内面を支持していることがうかがわれるものの,その支持部分において,インサートの内面がインサートホルダーによって何らかの形に成形されるものであるとの記載はない。そのほか,引用例1には,筒状インサートとパリソンとがインサートホルダーと金型(6),(7)との間で押圧されることを示すような記載は見当たらない。 以上のとおり,インサートホルダーは,金型としての機能を果たすものではないから,インサートホルダーが本件発明の金型に相当するものであるということはできない。 したがって,本件発明と引用発明とが,相違点2及び3において相違することは明らかである。 (3) 小括 よって,取消事由6も理由がない。 7 取消事由7(進歩性に係る判断の誤り)について (1) 引用例2について ア 引用例2(甲15)には,次の記載がある。 (ア) 本考案は,各種管端の接続に使用される水密封止体が付設された管継手に関 25するものである。 (イ) 被接続管と継手との間の水密封止には,パテや二重テープが用いられていたが,施工に長時間を要するとともに,接続部の耐圧性が不十分であるという問題点があった。吸水膨張性の樹脂粉末が全体に一様に分布された状態で保持されている耐水性のシート状繊維組織体を水密封止体として管継手の周囲に接着剤で貼着させる方法もあるが,貼着の手作業を要するとともに,十分な貼着力を有する接着剤を選定する手間が生ずるという問題があった。そこで,本考案の日的は,水密封止体を接着剤を用いて管継手に貼着する手作業を省略するとともに,場合によっては,接着剤の選定操作も不要とする水密封止体付き管継手を提供することにある。 (ウ) 本考案の水密封止用繊維シート付き管継手は,水密封止用繊維シートの片面の表層部に存在する繊維内に短管部の周囲を形成する材料の一部を入り込ませた状態にして,繊維と短管形成材料とを融着一体化させた構造としたものであり,水密封止用繊維シートの片面表層部を短管部へ融着させる手段としては,例えば射出成形法がある。また,短管部の外表面に形成する場合にはブロー成形法を用いることも可能である。 この操作により,短管部素材は,成型用型の形状,例えば螺旋波形に成形されると同時に,その外周面部に,繊維シートの片面表層部の繊維を埋め込んだ状態で融着する。 (エ) 実施例a 管継手は,接続対象管端に螺合されるべき硬質ポリ塩化ビニールからなる2種の短管部のそれぞれ内周面を備えていて,一方の短管部は,断面が台形状の螺旋凹凸条を備えた形状であり,他方の短管部は断面が半円形の螺旋凹凸条を備えた形状である。 b 管継手の重要な構成要件は,この例ではポリエステル長繊維からなる不織布が水密封止用繊維シートとして,両短管部の内周面へ射出成形手段により融着されている点にある。不織布からなる繊維シートは,その繊維の表面及び繊維間に吸水膨張性 26の樹脂素材の粉末を保持していて,長方形のシートを巻いて鎖線のように円筒状にして,成形金型の芯金の周面に仮付けしておく。 c 次に,短管部を成形するための円筒状空洞を形成する半割り金型を用いてその空洞内に成形用樹脂を射出し,短管部の成形と同時に短管部の内周面において繊維と融着接合させる。 d このように水密封止用繊維シートを短管部の外周面に形成する場合には,射出成形手段に限らず,ブロー成形手段によって短管部を成形することも可能である。 e 本例では,短管部間で材質硬度を相異させてあるため,この場合には熱硬化性材料によるモールド成形,一例としては生ゴムテープをマンドレルに巻き両短管部の加硫量を変え加熱加圧下に成型するといった方法をとることができる。 f 本考案の管継手は,短管部を成型するに当たって,短管部の成型と同時に短菅部形成用の村料の一部を繊維シート材の繊維内に入り込ませて両者を一体化するようにしたものであるから,両者を確実に一体化させることが容易にでき,満足できる貼着力を有する接着剤の選択と該接着剤による貼着操作とを要することなく,能率的に製造することができ,しかも繊維シートと短管部との固着をより一層強固確実に一体的に取り付けることができ,製品の信頼性向上に寄与するばかりでなく,製造コストの低減並びに管接続工事費の節減を計ることができるという効果を有する。 イ 以上の記載からすると,引用例2には,水密封止用繊維シートが,繊維の表面及び繊維間に吸水膨張性の樹脂素材の粉末を保持する不織布からなる繊維シートであり,水密封止用繊維シートを短管部の内周面へ融着させた,樹脂からなる螺旋波形管の接続に使用する管継手が記載されているものと認められる。 (2) 本件発明の進歩性についてア 相違点1及び4について (ア) 前記(1)の記載によれば,引用例2の繊維の表面及び繊維間に吸水膨張性の樹脂素材の粉末を保持する不織布は,本件発明の吸水性の繊維不織布に相当し,引用例2の水密防止用繊維シートは本件発明の止水材に相当するものと認められるから, 27引用例2には,相違点1に係る本件発明の構成が記載されているものといえる。 (イ) また,引用例2の樹脂からなる螺旋波形管の接続に使用する管継手は,本件発明の樹脂スパイラル管ジョイントに相当するものと認められるから,引用例2には,相違点4に係る本件発明の構成も記載されているものと認められる。 (ウ) そして,引用例2の樹脂からなる螺旋波形管の接続に使用する管継手は,短管部の内周面に水密防止用繊維シートが設けられた筒状の2層構造を有するものであるところ,引用発明の製造対象物であるダクトなどの中空成形物は,筒状の2層構造であれば,特定の用途に限定されるものではないこと,引用例2の水密封止用繊維シート(止水材)を筒状インサートと置換することが技術的に困難であるとも認められないことからすると,引用発明において,管内面に一体成形される部材である筒状インサートを吸水性繊維不織布である止水材として,相違点1に係る本件発明の構成とすること,また,製造対象物であるダクトなどの中空生形物を樹脂からなる螺旋波形管の接続に使用する管継手として,相違点4に係る本件発明の構成とすることは,当業者が容易に想到することができたものであるということができる。 イ 相違点2及び3について (ア) 本件発明と引用発明とは,いずれもパリソンを用いて樹脂管の成形を行うという点で共通性を有しているが,本件発明は,管内面に止水材を一体成形することによって,止水材の剥離や異物の付着等を防止することを課題とするものであるに対し,引用発明は2層成型機を用いることなく2層中空成型品の型成形を行うことによって,各層の開始,終了等の関係を正確に決定することなどを課題とするものであって,本件発明と引用発明はその課題を異にするものである。また,本件発明は,外金型と,止水材を全周にわたり巻き付けた内金型との間に,ブロー成形機のダイより押し出したパリソンを位置させ,内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることにより止水材を管内面に一体成形するという構成(金型成形)を備えるものであるのに対し,引用発明は,そのように外金型と協働する内金型に相当する部材はなく,ブロー成形により筒状インサートとパリソンが一体化するという構成を有するものであるから,引 28用例1には,相違点2及び3に係る本件発明の構成とすることの動機付けや示唆も見当たらない。 (イ) また,引用例2には,管継手の内周面に水密封止シートを設ける成形手段として,射出成形法やブロー成形法等が示されているが,本件発明のように内金型と外金型とでパリソンを挟んで閉じることに相当する構成を有するものではないから,相違点2及び3に係る本件発明の構成の記載も示唆もない。 (ウ) そして,本件出願当時の技術常識に照らし,相違点2及び3に係る本件発明の構成が技術常識に属するものということもできない。 (エ) したがって,当業者は,引用発明及び引用例2に記載された事項に基づき,相違点2及び3に係る本件発明の構成を容易に想到することができたものということもできない。 (3) 小括よって,取消事由7も理由がない。 8 結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 |
裁判長裁判官 | 滝澤孝臣 |
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裁判官 | 部眞規子 |
裁判官 | 齋藤巌 |