関連ワード | 公然知られ(29条1項1号) / 進歩性(29条2項) / 相違点の認定 / 周知技術 / 発明の詳細な説明 / 補正要件 / 分割出願 / 技術的意義 / 置き換え / 置換 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 侵害 / 設定登録 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10272号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/05/09 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年5月9日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成23年(行ケ)第10272号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年4月11日 判 決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2010−800202号事件について平成23年7月15日にし た審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係 る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には, 下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成16年1月26日,発明の名称を「椅子型マッサージ機」とす る特許出願(特願2004−17579号。以下「本件出願」という。なお,本件 出願は,原告が平成9年4月25日にした特許出願(特願平9−109692号(以 下「本件原出願」という。))の分割出願である。)をして,平成16年8月27 日に設定登録(特許第3590629号)を受けた(以下「本件特許」といい,本 件特許に係る明細書(甲10)を「本件明細書」という。)。 なお,原告は,平成16年6月14日付け手続補正書(甲15)により手続補正 (以下「本件補正」という)をしている。以下,本件原出願に係る明細書(甲16) 1 を「原明細書」といい,本件出願の願書に添付した明細書(甲9)を「当初明細書」 という。 (2) 原告は,平成22年11月4日,本件特許の請求項の全てである請求項1な いし4に係る発明(以下,順に「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,併せ て「本件発明」という。)について,特許無効審判を請求し,無効2010−80 0202号事件として係属した。 (3) 特許庁は,平成23年7月15日,「本件審判の請求は,成り立たない。」 旨の本件審決をし,同月25日,その謄本が原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件審決が判断の対象とした発明は,特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載 された次のとおりのものである。文中の「/」は,原文の改行部分を指す。 【請求項1】座面部の前部にフットレストを備えた椅子型マッサージ機であって, /前記フットレストは,/脚の背面が対向する内底面と,/前記内底面の左右両側 にあって脚の左右外側面が対向するよう立設された対向内側面と,/左右両側の対 向内側面の間にあって脚の左右内側面が対向するよう立設された分離丘と,/前記 内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップと,/を 有し,/前記フットレストは,ふくらはぎに対するマッサージ動作を行うふくらは ぎ用マッサージ駆動部を備えているとともに,当該フットレストを垂下させて前記 足裏支持ステップが水平となるように前記座面部の前部に揺動可能に取り付けられ, /前記足裏支持ステップは,前記分離丘によって左右に区切られ,/前記分離丘に よって左右に区切られた前記足裏支持ステップの左右のそれぞれの領域には,内部 に空気が供給されることで伸長して足裏を指圧するマッサージ駆動部としてのエア セルが設けられ,/前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが水平と なっている状態で,前記座面部に座っている使用者が,お尻から太ももの範囲を前 記座面部に接触させたまま,膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せたとき に,当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前記分離 2 丘との間に脚が位置して,前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎ へのマッサージが行えるように構成されていることを特徴とする椅子型マッサージ 機 【請求項2】前記座面部内部には,マッサージ駆動部が設けられていることを特徴 とする請求項1記載の椅子型マッサージ機 【請求項3】左右の対向内側面と,分離丘の左右の側面に設けられ,内部に空気が 供給されることで伸長して左右の脚の両側面を挟持状に指圧するエアセルを備えて いることを特徴とする請求項1又は2記載の椅子型マッサージ機 【請求項4】前記足裏支持ステップは,ステップ裏底側に機械収納部が形成され, /前記機械収納部には,足裏を指圧するためのエアセルの配管機器が収納されてい ることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の椅子型マッサージ機 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,@本件補正は,特許法17条の2第3項の補 正要件に違反するものではない,A本件出願は,平成10年法律第51号による改 正前の特許法(以下「法」という。)44条1項の分割出願の要件に違反するもの ではなく,本件発明は,いずれも下記アの引用例に記載された発明(以下「引用発 明」という。)及び下記イないしケの周知例1ないし8に記載された事項又は周知 技術に基づき,当業者が容易に想到することができたものであるということはでき ない,というものである。 ア 引用例:実公昭35−585号公報(甲1) イ 周知例1:特開平8−112325号公報(甲2) ウ 周知例2:特開平8−89540号公報(甲3) エ 周知例3:特開平9−70419号公報(甲4。平成9年3月18日公開) オ 周知例4:実願平5−67498号(実開平7−37160号)のCD−R OM(甲5) カ 周知例5:特開平8−38562号公報(甲6) 3 キ 周知例6:特開昭60−75059号公報(甲7) ク 周知例7:特開平6−142148号公報(甲8) ケ 周知例8:特開平8−38567号公報(甲20) (2) 本件審決が認定した引用発明並びに本件発明1と引用発明との一致点及び 相違点は,次のとおりである。 ア 引用発明:座褥の前縁に脚当接手段を備えた電磁バイブレーター付安楽椅子 であって,前記脚当接手段は,脚の背面が対向する脛当座と,前記脛当座の足先側 にあって足裏が対向するよう足先方向へ可動に結合された足台と,を有し,前記脚 当接手段は,ふくらはぎに対する振動按摩する電磁バイブレーターを備えていると ともに,当該脚当接手段を垂下させて前記座褥の前縁に起伏可動状に取り付けられ, 前記足台の左右のそれぞれの領域には,振動して足裏を按摩振動する振動子が設け られている電磁バイブレーター付安楽椅子 イ 一致点 座面部の前部にフットレストを備えた椅子型マッサージ機であって, : 前記フットレストは,脚の背面が対向する内底面と,前記内底面の足先側にあって 足裏が対向するよう設けられた足裏支持ステップと,を有し,前記フットレストは, ふくらはぎに対するマッサージ動作を行うふくらはぎ用マッサージ駆動部を備えて いるとともに,当該フットレストを垂下させて前記座面部の前部に揺動可能に取り 付けられ,前記足裏支持ステップの左右のそれぞれの領域には,足裏をマッサージ する手段が設けられている椅子型マッサージ機である点 ウ 相違点1:本件発明1は,フットレストが,内底面の左右両側にあって脚の 左右外側面が対向するよう立設された対向内側面と,左右両側の対向内側面の間に あって脚の左右内側面が対向するよう立設された分離丘と,内底面の足先側にあっ て足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップとを有するとともに,前記足裏 支持ステップが前記分離丘によって左右に区切られるものであるのに対し,引用発 明は,フットレストが,対向内側面と分離丘を有しておらず,また,足裏支持ステ ップを有するものの当該足裏支持ステップは足先方向へ可動に結合されたものであ 4 り,さらに,前記足裏支持ステップが分離丘により左右に区切られるものでない点 エ 相違点2:座面部の前部に取り付けられるフットレストに関し,本件発明1 は,足裏支持ステップが水平となるように取り付けられているのに対し,引用発明 は,水平となるように取り付けられているかどうか不明な点 オ 相違点3:フットレストの足裏支持ステップに設けられ足裏をマッサージす る手段が,本件発明1は内部に空気が供給されることで伸長して足裏を指圧するマ ッサージ駆動部としてのエアセルであるのに対し,引用発明は振動して足裏を按摩 振動する振動子である点 カ 相違点4:本件発明1は,「(前記)フットレストを垂下させて(前記)足 裏支持ステップが水平となっている状態で, (前記)座面部に座っている使用者が, お尻から太ももの範囲を前記座面部に接触させたまま,膝を曲げて前記足裏支持ス テップに足裏を載せたときに,当該フットレストの前記座面部よりの端部において (前記)対向内側面と(前記)分離丘との間に脚が位置して,(前記)ふくらはぎ 用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行える」構成を有してい るのに対し,引用発明は当該構成を有していない点 4 取消事由 (1) 本件補正の補正要件に係る判断の誤り(取消事由1) (2) 本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由2) ア 本件出願の分割要件に係る判断の誤り イ 相違点の認定の誤り ウ 相違点に係る判断の誤り (3) 本件発明2ないし4の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由3) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(本件補正の補正要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,本件補正は特許法17条の2第3項の補正要件に違反するもの 5 ではないと判断した。 しかし,本件発明1の「前記フットレストを垂下させて前記足裏支持ステップが 水平となっている状態で,前記座面部に座っている使用者が,お尻から太ももの範 囲を前記座面部に接触させたまま,膝を曲げて前記足裏支持ステップに足裏を載せ たときに,当該フットレストの前記座面部よりの端部において前記対向内側面と前 記分離丘との間に脚が位置して,前記ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふく らはぎへのマッサージが行えるように構成されている」との構成(以下「本件構成」 という。)は,マッサージ機の座面部,フットレスト及び足裏支持ステップの寸法 を使用者の太ももから足裏の寸法に合うように設計することを意味するものである ところ,仮に,身長190cmを越える者の体形に合わせてこれらの寸法を設計し た場合には,そのようなマッサージ機に身長140cmの者が着座しても,同人の 足裏は足裏支持ステップに届かないから,同人についても本件構成を満たすような 具体的構造が当初明細書に記載されていない限り,本件構成により特定される技術 事項が本件補正時点で開示されていたと評価することはできない。 しかるに,当初明細書には,かかる事項についての記載はないから,本件発明1 は当初明細書にはない新規の事項(本件構成)を追加したものであり,特許法17 条の2第3項の規定に違反する。 (2) したがって,本件補正の補正要件に関する本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕 本件構成は,フットレストや足裏支持ステップの寸法を使用者の太ももから足裏 の寸法に合うように設計することを意味するものではない。 したがって,原告の主張は理由がない。 2 取消事由2(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 本件出願の分割要件に係る判断の誤り ア 本件審決は,本件出願は法44条1項の分割出願の要件に違反するものでは 6 ないと判断した。 しかし,前記1〔原告の主張〕と同様に,原明細書にも,本件構成により特定さ れる事項の記載はないから,本件出願は,法44条1項の規定に違反する。 イ したがって,本件出願の分割要件に関する本件審決の判断は誤りである。 (2) 相違点の認定の誤り ア 相違点1について 本件審決は,引用発明では足台が脛当座の足先側にあって足裏が対向するように 足先方向へ可動に結合されている(以下「足台可動構成」という。)と認定した上 で,このこととの関連で,本件発明1と引用発明とは,「前記内底面の足先側にあ って足裏が対向するように立設された足裏支持ステップ」との構成のうち,「前記 内底面の足先側にあって足裏が対向するよう設けられた足裏支持ステップ」の限り で一致し,足台可動構成である点で相違すると認定している。要するに,本件審決 は,引用発明に足台可動構成が存在することを根拠として,引用発明では,足台が 脛当座に「設けられ」てはいるものの,「立設」されてはいないと判断したものと 解される。 しかし,引用発明の足台可動構成と,本件発明1において足裏支持ステップがフ ットレストから「立設」されることは無関係であり,引用発明において足台が足先 側に可動するからといって,脛当座との関係で「立設」されていないと評価される ことにはならない。 この「立設」の意味について,被告は,本件特許に係る侵害訴訟(大阪地方裁判 所平成21年(ワ)第5668号)において,「足裏支持ステップが内底面の足先 側に配置され,足裏が対向するように設けられていれば足りる」と主張しているが (甲31),引用発明の足台は,脛当座の内底面の足先側に配置され,足裏が対向 するように設けられているから,被告の解釈によっても,引用発明の足台は「立設」 されているものといえる。 以上のとおり,引用発明には,「前記内底面の足先側にあって足裏が対向するよ 7 うに立設された足裏支持ステップ」の全てが開示されているのであり,本件審決の 相違点1の認定は誤りである。 イ 相違点2について 本件審決は,引用例の第1図及び第3図等の記載を挙げて,引用発明には足台が 水平になる旨の開示はないと認定している。 しかし,引用例の第3図には,足台がほぼ水平であることが記載されており,本 件審決の相違点2の認定は誤りである。 ウ 相違点4について 本件審決は,引用発明は相違点4に係る本件発明1の構成を備えていないと認定 している。 しかし,引用発明がふくらはぎを振動按摩する電磁バイブレーターを備えている こと,脛当座と足台から構成される脚当接手段が垂下すること及び足台の左右の領 域には振動して按摩振動する振動子が設けられていることは,本件審決も認定して いる。また,上記イのとおり,引用発明においても,足台が水平状態になることが 開示されている。さらに,引用発明は,按摩椅子であって,使用者が着座して使用 するものであるから,脚当接手段を垂下させた場合,使用者はお尻から太ももの範 囲が座褥に接触し,膝は曲げて足台に足裏を載せることになる。 したがって,相違点4に係る本件発明1の構成のうち,引用発明と相違するのは, 使用者が着座姿勢をとったときに脚が対向内側面と分離丘の間に位置するか否かと いう点に限定されるのであり,本件審決の相違点4の認定は誤りである。 (3) 相違点に係る判断の誤りについて ア 相違点1について (ア) 本件審決は,周知例1ないし3等には,足裏支持ステップが分離丘によっ て区切られる構成の開示がないとして,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に 想到することはできないと判断した。 しかし,引用発明は,足裏支持ステップに相当する足台を備えているから,脛当 8 座の中央に足台におおむね達する長さの分離丘を設ければ,足台は分離丘によって 左右の領域に区切られることになる。したがって,本件発明1の容易想到性を肯定 する上で副引用例に開示を求める構成は,足台におおむね達する長さの分離丘を設 けることの有無で足りる。そして,周知例1では,分離丘に相当する中間壁は,脚 載置台を垂下させた第一の位置Xの状態において,使用者の足に達するように構成 され(甲2【図2】【図4】等),周知例2では,第2実施例において分離丘に相 当する中間壁は,使用者の下肢を収納する程度の長さを有し(甲3【0039】【0 040】等),周知例3では,分離丘に相当する中央壁は,使用者のふくらはぎを マッサージする脚載部を構成する程度の長さを有している(甲4【0003】【図 1】【図2】等)。このように,周知例1ないし3には,本件発明1の分離丘に相 当する部材について,おおむね使用者の足に達する程度の長さを有する構成が開示 されており,当該構成は本件原出願の時点において周知技術であると評価できる。 そして,使用者の足に達する程度の長さがあれば,足を載せる部材である足台にも おおむね達することは明らかであるから,引用発明とこれらの周知技術の組合せに より,足裏支持ステップを分離丘によって左右の領域に区切る構成を想到すること は容易である。 (イ) また,本件審決は,引用発明の内底面に周知例1ないし3記載の事項を適 用しても,引用発明が足台可動構成を備えることにかんがみれば,引用発明の足裏 支持ステップは,内底面を左右に区切る分離丘とは別の分離丘で区切られることと なると判断している。 しかし,前記(2)アのとおり,引用発明における足台可動構成は,本件発明1と引 用発明との一致点及び相違点を分析する場面では無関係であるから,足台可動構成 の存在によって本件発明1と一致しなくなるという論理が成立する余地はない。仮 に,足台可動構成に配慮するとしても,脚の短い使用者は足台を下降させないこと もあり得るから,足台が下降することを必然のものとして検討を加える本件審決の 論理は誤りである。また,足台の下降により,脛当座と足台との間に若干のスペー 9 スが生じるとしても,脛当座を区切る分離丘によって足裏が左右の領域に区切られ ていると評価することは可能であり,足台可動構成の存在によって足裏支持ステッ プが左右に区切られる構成が存在しなくなるという本件審決の論理は成立し得ない。 この点について,被告は,前記侵害訴訟において,フットレストに設けられた分 離丘ではなく,足裏支持ステップに設けられた別の分離丘で足裏支持ステップを左 右に区切る構成も本件発明1に含まれるものと主張しており(甲31),本件審決 の判断は,被告の解釈とも矛盾するものである。 (ウ) よって,相違点1に係る本件審決の判断は誤りである。 イ 相違点3について (ア) 本件審決は,周知例1ないし8に開示されている技術事項はいずれも「フ ットレストの足裏支持ステップに設けられ足裏をマッサージする手段」の一部を満 たさないものであるとして,相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到するこ とはできないと判断した。 しかし,フットレストの足裏支持ステップに足裏をマッサージする手段が設けら れていることは,本件発明1と引用発明とで一致しているから,相違点3に係る本 件発明1の構成の容易想到性を検討する上で副引用例に開示を求めるべき要素では ない。相違点3は,フットレストの足裏支持ステップに設けられ足裏をマッサージ する手段が,本件発明では,内部に空気が供給されることで伸長して指圧するマッ サージ駆動部としてのエアセルであるのに対し,引用発明では,振動して按摩振動 する振動子である点であるから,副引用例での開示の有無が問われるのは,「内部 に空気が供給されることで伸長して指圧するマッサージ駆動部としてのエアセル」 であるところ,このようなエアセルは,周知例1ないし8に開示されており,これ が本件原出願の時点で周知技術であったことは明らかである。 本件審決は,副引用例に開示の有無を問うべき要素を誤った結果,周知技術に属 するはずの相違点3に係る本件発明1の構成が副引用例に開示されていないと誤っ た判断をしたものである。 10 (イ) 次に,本件審決は,引用発明が足台可動構成を有することに基づき,引用 発明の振動子をエアセルとすることには,阻害要因があると判断している。 しかし,引用発明において足台可動構成が採用されているのは,足台を使用者の 脚の長さに合わせて最適の位置に調節するためであり,その後に行われるマッサー ジが振動子によるものであろうが,エアセルによるものであろうが,「適当な圧力 で足裏を押す」という引用発明の目的を達することは可能である。また,足台可動 構成は,脚の長い使用者のために採用されたものであり,脚の短い使用者が足台を 下降させることなくマッサージを行うことも十分に想定される。この場合には,足 台は下降するものであるという本件審決の判断の前提が成立しないから,本件審決 の論理が成立する余地はない。 また,本件審決は,引用発明の足台における振動子をエアセルに置換すると,足 裏を最も適当な圧力と位置で按摩するという引用発明の作用効果を有しないものと なるとも判断している。 しかし,引用発明の振動子をエアセルに置換しても,足台が適当な位置まで下降 し,その位置でエアセルによるマッサージが行われれば,足裏を最も適当な圧力と 位置で按摩できることは明らかであり,本件審決の論理は理解できない。 (ウ) 被告の主張について a 被告は,引用発明の振動子をエアセルに置換すると,エアセルの伸長時に脚 が持ち上がったり,左右にずれたりするから,適切なマッサージを施すことができ ない主張する。 しかし,椅子型マッサージ機における平面状のフットレストの表面にエアセルを 配設することは,当業者が当然に行っていたものであり(甲32,33),被告の 主張は客観的事実に反する。 b 被告は,周知例1ないし8に記載された溝形フットレストの凹部側面のエア セルを振動子に置換すると,適切なマッサージを施すことができないとか,引用発 明に周知例2に記載された脚載置部を適用すると,脚載置部の施療凹部下部が開放 11 されない状態になり,周知例2のフットレストの構成を満足しないものとなるとか, 周知例3では,足裏をマッサージするために膝を折り曲げる必要があるなどと主張 する。 しかし,相違点3では,引用発明にエアセルを適用することの可否が問われてい るのであり,上記各周知例に開示されているエアセルを振動子に置換することの論 理付けが問われているのではないから,被告の主張はいずれも意味がない。 c 被告は,周知例4及び7はブーツ型マッサージ機に関するものであり,引用 発明に適用することができないと主張する。 しかし,周知例4及び7は,エアセルがマッサージ手段として周知であることを 開示するものであり,引用発明にエアセルによるマッサージ手段を適用する根拠と なる公知例としての意義を有するものである。 (エ) よって,相違点3に係る本件審決の判断は誤りである。 ウ 相違点4について (ア) 本件審決は,相違点1に係る本件発明1の構成が容易に想到することがで きるものではないことを根拠として,相違点4に係る本件発明1の構成も容易に想 到することはできないと判断した。 しかし,前記アのとおり,相違点1に係る本件発明1の構成は容易に想到するこ とができるものであるから,本件審決の判断は前提において誤りである。 (イ) また,前記(2)ウのとおり,相違点4は,本来,使用者が足裏支持ステップ に足裏を載せたときに対向内側面と分離丘との間に脚が位置するか否かに求められ るべきものであるところ,相違点1に係る本件発明1の構成を備えるマッサージ機 の足裏支持ステップに使用者が足を載せれば,対向内側面と分離丘との間に脚が位 置することになるから,フットレストに対向内側面と分離丘を設けることが容易に 想到することができるものであれば,相違点4に係る本件発明1の構成の容易想到 性も当然に肯定されるべきものである。本件審決も,足裏支持ステップを分離丘で 区切ることは問題にするものの,フットレストに対向内側面と分離丘を設けること 12 が容易に想到することができないものではないとは判断していないから,本件審決 の論理によっても,相違点4に係る本件発明1の構成は容易に想到することができ るものというべきである。 (ウ) よって,相違点4に係る本件審決の判断は誤りである。 (4) 小括 以上によれば,本件発明1の容易想到性に係る本件審決の判断は誤りである。 〔被告の主張〕 (1) 本件出願の分割要件に係る判断の誤りについて 前記1〔被告の主張〕と同様に,本件出願は新規事項を追加するものではなく, 法44条1項の規定に違反するものではない。 したがって,原告の主張は理由がない。 (2) 相違点の認定の誤りについて ア 相違点1について 原告は,被告が本件特許に係る侵害訴訟で主張した「立設」の解釈によっても, 引用発明の足台は「立設」されていることになると主張する。 しかし,原告が摘示した被告の主張によっても,本件発明1と引用発明との差異 として相違点1が認められることに変わりはない。 イ 相違点2について 原告は,引用例の第3図には,引用発明の足台がほぼ水平であることが記載され ていると主張する。 しかし,引用例には,「第1図は,本考案に係る電磁バイブレーター付安楽椅子 の側面図,第2図はその平面図,第3図は要部の斜視詳細図である。」と記載され ているところ,側面図である第1図には,足台が水平となっていない状態が示され ている。1つの対象物を側面図,平面図,斜視図により別の角度から図示する場合 に,各図面が互いに異なる使用態様であることは製図法の観点から不自然であるか ら,引用例に相違点2に係る本件発明1の構成が開示されていないことは明らかで 13 ある。また,第1図では,脛当座の上端から足台の下端(実線部分)までの距離が 脛当座の上端から地面(脚台の下端)までの鉛直距離と同じである様子が示されて おり,そのような脛当座及び足台を垂下水平状態とするように足台を下方に押し下 げようとしても,地面が干渉して足台が下降できないことは明らかである。 ウ 相違点4について 原告は,相違点4に係る本件発明1の構成のうち,引用発明と相違するのは,使 用者が着座姿勢をとったときに脚が対向内側面と分離丘の間に位置するか否かの点 に限定されると主張する。 しかし,原告の主張は,引用発明の足台が水平であることを前提とするものであ るが,前記イのとおり,足台は水平ではないから,原告の主張は前提において誤り である。 (3) 相違点に係る判断の誤りについて ア 相違点1について (ア) 原告は,引用発明は足裏支持ステップに相当する足台を備えているから, 引用発明の脛当座の中央に足台におおむね達する長さの分離丘を設ければ,足台は 分離丘によって左右の領域に区切られることになると主張する。 しかし,本件発明1は,足裏支持ステップが分離丘によって左右の領域に区切ら れ,左右の足裏が各領域に位置決めして保持されるため,伸長動作を生じるエアセ ルによって足裏をマッサージしても,エアセルの伸長に際して足裏が左右に逃げに くく,確実かつ効果的にマッサージを行うことができるというものである。これに 対し,引用発明の振動子は,エアセルのように能動的に伸長するものではないから, その伸長押圧力により,ふくらはぎや足裏が左右に逃げるという課題は生じない。 したがって,引用例に接した当業者が,ふくらはぎや足裏が左右に逃げないように するための分離丘や対向内側面を脛当座に設けようとすることはない。 また,エアセルの場合には,収縮状態で脚に接していなくても自ら能動的に伸長 して脚を指圧するため,使用者は脚を常にエアセルに押し当てるようにしなくても 14 指圧作用が発揮されるが,振動子の場合には,使用者が振動子に当てるように脚の 位置合わせをする必要がある。そして,ふくらはぎの太さや足裏の大きさは人それ ぞれであって,使用者ごとに脚の位置を適宜調整することが必要となるから,引用 例に接した当業者が,脛当座に脚の移動を規制するための分離丘や対向内側面を設 けようとすることはない。 以上のとおり,引用例には,脛当座や足台を分離丘や対向内側面によって左右に 区切ることの動機付けはないというべきである。 (イ) また,周知例1ないし3には,中間壁や側壁からなる溝形のフットレスト の形態において,その下端側の開口を足裏ステップで閉鎖しようという思想はない から,この観点からも,引用発明の脛当座や足台を分離丘や対向内側面によって左 右に区切ることの動機付けは存在しないというべきである。 イ 相違点3について (ア) 原告は,本件審決は周知例1ないし8に開示されている技術事項はいずれ も「フットレストの足裏支持ステップに設けられ足裏をマッサージする手段」の一 部を満たさないものであるとして,相違点3に係る本件発明1の構成を容易に想到 することはできないと判断したなどと主張する。 しかし,本件審決は,周知例1ないし8には,「フットレストの足裏支持ステッ プに設けられ足裏をマッサージする手段」が記載されていないと認定したのであっ て,「フットレストの足裏支持ステップに設けられ足裏をマッサージする手段の一 部を満たさない」と認定したものではない。 (イ) 原告は,副引用例での開示の有無が問われるのは,「フットレストの足裏 支持ステップに設けられ足裏をマッサージする手段」ではなく,「内部に空気が供 給されることで伸長して指圧するマッサージ駆動部としてのエアセル」であると主 張する。 しかし,原告の主張は,副引用例に「エアセル」さえ開示されていれば,直ちに 引用発明との組合せにより相違点3に係る本件発明1の構成が想到されるというも 15 のであるが,振動子は,椅子に座った使用者が自ら脚をこれに押し当ててマッサー ジするものであるのに対し,エアセルは,空気が供給により伸長して足裏を能動的 に押圧するものであり,その技術的意義は全く異なる。そして,本件発明1の技術 的課題は,エアセルの伸長の際に足裏が左右に逃げずに,確実かつ効果的な足裏マ ッサージを行えるようにすること,使用者がリラックスできる着座姿勢を取っても, 足裏やふくらはぎへのマッサージを確実に行えるようにすること,足裏をマッサー ジするときにも被施療者の足が足裏支持ステップから逃げ出さないようにして,足 裏へのマッサージを確実に行えるようにすることであるが,引用発明には,このよ うな技術的課題はない。したがって,引用発明には,相違点3に係る本件発明1の 構成を想到する動機付けはないというべきである。 また,周知例2のフットレストは,「上面および前後両端を開放して凹状をなし た施療凹部を有する本体」という構成を有するものであるが,そのようなフットレ ストを引用発明に適用すると,フットレスト(脚載置部)の下側に足台が設けられ ることとなり,脚載置部の施療凹部下端が開放されないものとなるから,「椅子前 方および上下両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する」との構成を満足しな いものとなる。また,周知例3には,足裏をマッサージするためには膝を折り曲げ て施療凹部に足裏を配置して行うことが開示されており(【図6】【0004】), このような溝形のフットレストから足裏を足台でマッサージすることは想到されな い。さらに,周知例4ないし7には,フットレストとは無関係に脚を袋ないしブー ツ状のエアーマッサージ装置で包む構成が記載されているにすぎず,引用例に記載 された安楽椅子とは全く異なるものである。したがって,上記各周知例にも,引用 発明の振動子をエアセルに置換することの動機付けは存在しない。 (ウ) 原告は,引用発明において足台可動構成が採用されているのは,使用者の 脚の長さに合わせて足台を最適の位置に調節するためであり,その後に行われるマ ッサージの手段が,振動子であっても,エアセルであっても,適当な圧力で足裏を 押すという引用発明の目的を達することはできると主張する。 16 しかし,本件発明1のように足裏支持ステップにエアセルを設けた場合には,足 裏に作用する圧力はエアセルの空気圧や膨張容積等に依存するものとなるから,引 用発明の足台の振動子をエアセルに置換すると,もはや足台可動構成による伸縮下 降機能によって「適当な圧力で足裏を押す」という作用はなくなり,引用発明の本 来の技術的意義とは全く異なるものとなる。したがって,引用例に接した当業者が, 振動子をエアセルに置換しようとしないことは明らかである。 また,原告は,脚の短い使用者が足台を下降させることなくマッサージを行うこ とも想定され,この場合には,足台が下降するという本件審決の前提自体が成立し ないと主張する。 しかし,引用例には,伸縮下降機能によって足台の振動子を適当な圧力で足裏に 当てることが一貫して記載されており,足台を下降させずに使用することは想定さ れていない。当業者が引用例から把握する技術事項を離れて例外的な事項を議論し ても無意味である。 (エ) 原告は,甲32,33には,椅子型マッサージ機における平面状のフット レストの表面側に空気式マッサージ具を配設させた構成が開示されていると主張す る。 しかし,甲32の第9図には,エアークッションが膨張したときに脚が上方に逃 げてしまわないように,エアークッション上に置いた脚を上からバンドで固定する ことが示されている。つまり,甲32からは,むしろ,平板状のフットレストに膨 縮するエアークッションを設けると,脚を上から押さえつけないと脚が浮き上がっ て適切にマッサージできないことが把握される。また,甲33に記載された指圧装 置は,脹脛が置かれる脚載置部が地面へと連続するように固定的に配され,脚の左 右には肘掛部に連続する側壁が立設し,その側壁に伸縮筒・指圧頭部が設けられた 構成であり,引用発明のような起伏可動状で平坦な脛当座に足台が設けられた構成 とは異なる。したがって,当業者が甲33に接したとしても,引用発明の振動子を 空気式マッサージ具に置換しようとするものではない。 17 ウ 相違点4について 原告は,相違点1に係る本件発明1の構成は,容易に想到し得るものであるから, これが容易に想到し得ないものであることを前提として相違点4に係る本件発明1 の構成も容易に想到し得ないものであるとした本件審決の判断は誤りであると主張 する。 しかし,上記アのとおり,相違点1に係る本件発明1の構成は容易に想到し得る ものではないから,原告の主張は前提において誤りである。 (4) 小括 以上のとおり,本件発明1の容易想到性に係る本件審決の判断に誤りはない。 3 取消事由3(本件発明2ないし4の容易想到性に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 本件審決は,本件発明1の容易想到性が否定されることに基づき,本件発明2な いし4も容易に想到することができるものではないと判断した。 しかし,前記2〔原告の主張〕のとおり,本件発明1は当業者が容易に想到し得 るものであるから,本件審決の判断は前提において誤りである。 〔被告の主張〕 争う。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明1について (1) 本件発明1は,前記第2の2のとおりであるところ,本件明細書(甲10) には,本件発明1について,概略,次の記載がある。 ア 本件発明は,フットレストを有する椅子型マッサージ機に関する(【000 1】)。 イ 従来,椅子型マッサージ機に使用可能なフットレストとして,特開平8−8 9540号公報(甲3。周知例2)記載のものが知られている。このフットレスト は,断面U字状に形成された脚入れ用の凹部が左右に二つ並べられた形の本体部を 18 有し,個々の凹部には,左右で対向する二側内面と凹部内底面の3か所に空気袋が 設けられている。空気袋は,エア給排装置によって空気が給排されて膨らんだりし ぼんだりを繰り返し,これによって脚等をマッサージする(【0002】【000 3】)。 ウ 図8及び図9は,本件発明1に係る椅子型マッサージ機の実施形態を示して いる。フットレストは,脚を載せた状態で足裏を支持することができ,また,マッ サージ駆動部として,足裏に対するマッサージ動作を行う第4指圧部となるエアセ ルが設けられ,フットレストに脚を載せた状態で,足裏に対するマッサージを行う ことができる(【0029】【0030】)。 エ 脚載せ部は,内底面と左右両側の対向内側面と左右両側の対向内側面の間に ある分離丘と内底面の足先側にある足裏支持ステップとを有する。足裏支持ステッ プは,分離丘によって左右に区切られ,分離丘の両側で左右の脚を振り分けて保持 できるようになっている。フットレストに設けられるマッサージ駆動部として,こ の実施形態では,足首辺りを左右両側から指圧する第1指圧部,ふくらはぎあたり を左右両側から指圧する第2指圧部,足裏を指圧する第4指圧部を有している。第 4指圧部は,内部に空気が供給されることで伸長して足裏を指圧するエアセルによ って構成されている。エアセルは,分離丘によって左右に区切られた足裏支持ステ ップの左右のそれぞれの領域に設けられている。この椅子型マッサージ機は,フッ トレストを垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で,座面部に座っ ている使用者が,お尻から太ももの範囲を座面部に接触させたまま,膝を曲げて足 裏支持ステップに足裏を載せたときに,フットレストの座面部よりの端部において 対向内側面と前記分離丘との間に脚が位置して,第2指圧部によってふくらはぎへ のマッサージが行えるように構成されている。第1指圧部は,脚載せ部における一 方の内側面と分離丘の側面とに対して対向的に設けられた一対のエアセルを有し, 第2指圧部は,両揺動片の下部に設けられた左右のエアセルを有している(【00 34】〜【0037】【0041】)。 19 (2) 本件明細書には,本件発明1の課題が明記されていないものの,本件明細書 に記載された従来技術の内容(後記3(3)イ)や本件発明1の実施形態(【図8】) に照らすと,その課題の一つには,使用者が椅子に着座する姿勢を取ったときでも, そのふくらはぎと足裏をエアセルによってマッサージすることができるような構成 とすることにあるといえる。また,上記実施形態において,足裏支持ステップは, 分離丘によって左右に区切られ,分離丘の両側で,左右の脚を振り分けて保持でき るようになっていること(【0034】)からすると,被告が主張するとおり,伸 長動作を生じるエアセルによって足裏をマッサージしても,エアセルの伸長の際に 足裏が左右に逃げずに,確実かつ効果的な足裏マッサージを行えるようにすること, 使用者がリラックスできる着座姿勢を取っても,足裏やふくらはぎへのマッサージ を確実に行えるようにすること,足裏をマッサージするときにも被施療者の足が足 裏支持ステップから逃げ出さないようにして,足裏へのマッサージを確実に行える ようにすることも,その課題であるということができる。 2 取消事由1(本件補正の補正要件に係る判断の誤り)について (1) 原告は,当初明細書には,マッサージ機の座面部,フットレスト及び足裏支 持ステップの寸法を使用者の太ももから足裏の寸法に合うように設計するという本 件構成により特定される技術的事項の記載がないから,本件補正は,新規事項の追 加に該当し,補正要件を満たさないものであるなどと主張する。 しかし,本件構成は,本件発明1に係る椅子型マッサージ機について,「フット レストを垂下させて足裏支持ステップが水平となっている状態で,座面部に座って いる使用者が,お尻から太ももの範囲を座面部に接触させたまま,膝を曲げて足裏 支持ステップに足裏を載せたときに,フットレストの座面部よりの端部において対 向内側面と分離丘との間に脚が位置して,ふくらはぎ用マッサージ駆動部によって ふくらはぎへのマッサージが行える」という機能によってその構成を特定したもの であるところ,本件明細書(甲10)では,このような構成については,「図8及 び図9は,本件発明1に係る椅子型マッサージ機の実施形態を示している。本件発 20 明1の実施形態では,脚載せ部に対して,脚の足裏を支持可能なステップが設けら れている」(【0029】),「マッサージ駆動部として,ステップに,足裏に対 するマッサージ動作を行う第4指圧部となるエアセルが設けられ,フットレストに 脚を載せた状態で,足裏に対するマッサージを行うことができる」(【0030】) などと記載されているほかは,図8において,フットレストを垂下させて足裏支持 ステップが水平となっている状態で,座面部に座っている使用者がお尻から太もも の範囲を座面部に接触させたまま,膝を曲げて足裏支持ステップに足裏を載せたと きに,フットレストの座面部よりの端部において対向内側面と分離丘との間に脚が 位置し,ふくらはぎ用マッサージ駆動部によってふくらはぎへのマッサージが行え るように構成されていることが示されているだけであって,椅子型マッサージ機の 各部分の寸法等の具体的な構成は記載されていない。本件明細書のかかる記載内容 からすると,本件構成は,あらかじめ設定されているフットレスト等の寸法に適合 する体形の使用者に限って上記機能が発揮されるものであって,あらゆる体形の使 用者に対して上記機能が発揮されることがその技術的事項に含まれるということは できない。 したがって,原告の主張は,その前提において誤りであり,これを採用すること はできない。 (2) 小括 よって,取消事由1は理由がない。 3 取消事由2(本件発明1の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 本件出願の分割要件に関する判断の誤りについて 原告は,本件出願は法44条1項の分割出願の要件に違反すると主張するところ, 出願が分割要件に違反する場合には,当該出願に係る発明の進歩性を判断する時点 は,原出願時ではなく,分割出願時であるから,原出願時において進歩性が認めら れる発明であっても,その後分割出願時までに公然知られた発明,刊行物に記載さ れた発明などに基づいて,進歩性が認められなくなる場合もある。 21 しかしながら,原告の主張は,本件発明1が本件原出願の後,本件出願時までに 公然知られた発明,刊行物に記載された発明に基づいて進歩性が認められないとま で主張するものではなく,本件原出願時における引用発明に基づく本件発明1の進 歩性の有無を問題にするにとどまるところ,前記2のとおり,本件発明1は,あら かじめ設定されているフットレスト等の寸法に適合する体形の使用者に限って本件 構成に係る機能が発揮させるものであって,あらゆる体形の使用者に対してその機 能が発揮されることが技術的事項に含まれるものではないから,本件出願が分割要 件に違反するとは認められない。 したがって,原告の主張は,その前提において誤りであり,これを採用すること はできない。 そこで,以下,引用発明に基づく本件発明1の容易想到性の有無について検討す る。 (2) 引用発明について ア 引用発明は,前記第2の3(2)アのとおりであるところ,引用例(甲1)には, 引用発明について,概略,以下の記載がある。 (ア) 登録請求の範囲 安楽椅子の座褥の後背部に背面凭掛を枢着し又その前縁には脛当座を起伏可動状 に備えて之等を脚台上に載置し且つ該脛当座の下端に足台を設けてその表面に電磁 バイブレーターの振動子を露出し又前記脛当座と足台の両側面にはく字形板金を当 てて両者はバネを介して可動的に結合して成る電磁バイブレーター付安楽椅子の構 造 (イ) 実用新案の説明 a 引用発明は,固定座褥を脚台上に備え,電磁バイブレーターを内蔵した背面 凭掛と,脛当座を起伏可動状に設けて凭掛けながら肩部背面やふくらはぎ等を振動 按摩する安楽椅子において,更に足裏に振動を与えてその治療作用を増進するため, 按摩する人の脚の長さに応じて足を乗せる足台の位置が下降できるようにすること 22 と,適当な圧力で足裏を押すことを目的とする。 b 引用発明の安楽椅子は,足台の位置が調節でき,脚長によって伸縮下降機能 があるから,最も適当な圧力と位置で按摩をすることができる効果がある。 イ 以上のとおり,引用発明は,ふくらはぎ等を振動按摩する安楽椅子において, 更に足裏に振動を与えることを目的としたものであり,使用者が着座姿勢を取って も,足裏やふくらはぎへのマッサージを確実に行えるようにするという点で,本件 発明1と共通の課題を有している。 しかし,引用発明は,電磁バイブレーターの振動子によりふくらはぎや足裏を振 動按摩するものであり,引用例には,足裏やふくらはぎへのマッサージを行うため の具体的構成として,脛当座と足台がバネを介して可動的に結合していることや脛 当座及び足台に振動子を設けることは開示されているものの,安楽椅子のその他の 構成については特段の記載,示唆はなく,振動子に代えて,空気式マッサージ具を 採用することができるかについても特段の記載はない。 (3) 周知例について ア 周知例1について (ア) 周知例1(甲2)には,概略,次の記載がある。 a 特許請求の範囲 【請求項1】身体支持台と,この身体支持台の前部に上下方向に回動自在に設けら れ脚載置壁とこの脚載置壁の両側に形成した側壁とからなる溝状の脚載置部を有す る脚載置台と,少なくとも前記脚載置部の側壁に配設された気密性を有するととも に軟質材からなり圧搾空気の給排気に伴って膨縮するエアーバッグと,前記エアー バッグに圧搾空気を供給する圧搾空気供給手段と,前記身体支持台に設けられ前記 脚載置台を回動させて所定の位置に位置決めする位置決手段とを備えたことを特徴 とするエアーマッサージ機 b 発明の詳細な説明 脚載置台の両側には側壁が設けられ,側壁の中間部には各側壁と対向する側壁を構 23 成する中間壁が設けられている。各側壁と中間壁との間には,側壁と底壁により構 成された脚載置部としてのほぼU字状の溝が形成されている。各側壁と中間壁の互 いに対向する側壁には,それぞれ溝の底壁に載せられた脚のふくらはぎ部を押圧し てマッサージするエアーバッグが配設されている( 【0012】【0013】)。 (イ) 以上のとおり,周知例1には,エアーマッサージ機の脚載置台について, 底面の左右両側にあって脚の左右外側面が対向するよう立設された各側壁の内側側 面との間にあって,脚の左右内側面が対向するよう立設された中間壁を設けること が記載されている。 しかし,周知例1には,脚載置台に足裏をマッサージするための足裏支持ステッ プを設けることについて,特段の記載や示唆はない。 イ 周知例2について (ア) 周知例2(甲3)には,概略,次の記載がある。 a 特許請求の範囲 【請求項1】上面および前後両端を開放して凹状をなした施療凹部を有する本体と, 前記凹部の底面から立ち上がって相対向する凹部側面の少なくとも一方に取付けら れた空気袋と,この空気袋に連通して設けられ前記空気袋に対してエアーを給排気 するエアー給排気装置とを具備したエアーマッサージ機 b 発明の詳細な説明 @ 本発明は,空気袋の膨脹・収縮によって人体の脚及び腕に対するマッサージ を行うエアーマッサージ機に関するものである(【0001】)。 A 従前,足をマッサージするエアーマッサージ機としてブーツタイプのものが 知られているが,脚以外に例えば腕をマッサージすることはできず,汎用性に欠け るという問題や,筒状をなす本体に対して脚を出し入れしなければならず,取扱い が面倒であるという問題がある。本発明の目的は,汎用性を高めることができると ともに,容易に取扱うことができるエアーマッサージ機を得ることにある(【00 02】【0005】〜【0007】)。 24 B 第1実施例のマッサージ機本体は,互いに平行な一対の側壁とこれらの間に 設けられた中間壁とを備えているとともに,一対の施療凹部を有している。施療凹 部は上面及び前後両端をそれぞれ開放し,正面から見た形状が略U字形となる凹状 に形成されている。空気袋は,凹部の底面から立ち上がって相対向する凹部側面に それぞれ取付けられている。各施療凹部の底面には上向きの施療突起がそれぞれ一 つ以上突設されている。エアーマッサージ装置の本体には,施療凹部に被施療部を セットする動作に対して邪魔になる部分を備えていないから,本体の上方から足な どの被施療部を施療凹部に収容配置することができ,従来のブーツタイプのように 足などの出し入れが面倒ではなく,取扱いが容易である。第1実施例のエアーマッ サージ機は,施療凹部の底面に施療突起を設けているから,空気袋を膨脹・収縮さ せない場合でも,この施療突起により足裏などを刺激してマッサージをすることが できる(【0016】〜【0018】【0024】〜【0026】)。 C 本発明のエアーマッサージ機は,第2実施例のように椅子の座部前側に配置 して椅子の構成の一部をなして使用してもよい。椅子本体の前端部には脚載置部が 連結されている。脚載置部は,その幅方向両側にそれぞれ側壁を有し,幅方向中央 位置に中間壁を有している。各壁は平行であって,隣接する側壁間にそれぞれほぼ U字状の施療凹部を形成している。施療凹部は,上面及び長手方向両端(前後両端) がそれぞれ開放され,その内部に使用者の下肢を収納支持するのに使用される。両 側壁と中間壁の互いに対向する凹部側面する凹部側面には,それぞれ各施療凹部に 収納載置された下肢をマッサージするための空気袋が配設されている 【0030】 ( 【0037】【0039】【0040】)。 (イ) 以上のとおり,周知例2には,第1実施例として,エアーマッサージ機本 体であって,足裏が対向する足裏支持面を有し,足裏支持面は,中間壁によって左 右に区切られ,中間壁によって左右に区切られた足裏支持面の左右のそれぞれの領 域には,足裏を刺激する施療突起が設けられることが記載され,また,第2実施例 として,エアーマッサージ機の脚載置部について,底面の左右両側にあって下肢の 25 左右外側面が対向するよう立設された両側壁の内側側面の間にあって,下肢の左右 内側面が対向するよう立設された中間壁とを設けることが記載されている。 しかし,周知例2には,脚載置部に足裏をマッサージするための足裏支持ステッ プを設けることや,脚載置部に第1実施例に係るエアーマッサージ機を組み合わせ ることについて,特段の記載や示唆はない。 ウ 周知例3について (ア) 周知例3(甲4)には,概略,次の記載がある。 a 特許請求の範囲 【請求項1】座部とこの座部の後部に設けた背もたれ部とを備えた椅子本体と,略 U字状に形成された一対の脚載部を有するとともに前記座部の前側近傍位置に上下 方向に回動可能に前記椅子本体に設けられた脚載置台と,この脚載置台の一対の脚 載部と前記座部または背もたれ部のいずれかに配設されエアーの給排気によって膨 縮する袋体と,これら袋体にエアーを供給するエアー供給手段とを備え,前記各袋 体に前記エアー供給手段からのエアーを給排気してマッサージを行う椅子式エアー マッサージ機において,前記脚載部の前部に足部を位置決めする位置決め手段を設 けたことを特徴とする椅子式エアーマッサージ機 b 発明の詳細な説明 @ 脚載置台は両側に設けた側壁とその間に設けた中央壁によって形成された一 対のほぼU字状の脚載部が形成されている。脚載部の互いに対向する両側壁とこれ らに対向する中央壁には,それぞれエアーの給排気により膨縮する脚用袋体が配設 されている(【0011】)。 A 布等からなる帯状部材を足先部が挿入できるようにリング部を形成して位置 決め部材を構成し,位置決め部材の一部を中央壁の両側壁に縫製等により取り付け てもよい。足の裏部をマッサージする場合は,足の裏部を中央壁側壁に対向させて 位置決めすることが容易にできることから,足の裏部のマッサージが確実にかつ効 果的にできる(【0024】)。 26 (イ) 以上のとおり,周知例3には,椅子式エアーマッサージ機の脚載置台につ いて,底面の左右両側にあって脚の左右外側面が対向するよう立設された両側壁の 各内側側面と,両側壁の各内側側面の間にあって脚の左右内側面が対向するよう立 設された中央壁とを設けることが記載されている。また,位置決め部材を設けるこ とにより,足の裏部を中央壁側壁に対向させて位置決めし,足の裏部をマッサージ する点も記載されている。 しかし,周知例3にも,脚載置台に足裏をマッサージするための足裏支持ステッ プを設けることについて,特段の記載や示唆はない。 エ 周知例4ないし7について (ア) 周知例4(甲5)には,概略,次の記載がある。 a 特許請求の範囲 【請求項1】送出ポンプを有する加圧部に,使用個所を異にする複数の袋体を,選 択的に変更接続可能とした加圧式マッサージャーにおいて,少なくとも一つの袋体 又は同袋体への圧縮流体供給路に流体一部流出孔を設け,同袋体の内部圧を,他の 袋体の内部圧と異ならせたことを特徴とする加圧式マッサージャー b 発明の詳細な説明 【図13】ないし【図15】に示す実施例は,足用マッサージ部の各足用袋体の足 当接面側に,流体一部流出孔を設けた場合である(【0060】)。 (イ) 周知例5(甲6)には,概略,次の記載がある。 a 特許請求の範囲 【請求項1】人体の一部を挿入可能に形成された鞘体と,/該鞘体の内面に,柔軟 性を有する材料を用いて形成された袋体と,/前記鞘体に設けられ,前記袋体内へ 外部からエアを導入可能な導入口とを有するエアバックを具備したエアマッサージ 器において,/前記袋体は,/前記挿入方向に沿って延びる複数の第1のエア室と, /該第1のエア室の少なくとも一つと連通すると共に第1のエア室を横切るように 設けられた第2のエア室とを有することを特徴とするエアマッサージ器 27 b 発明の詳細な説明 使用者は足にエアバックを装着した後,エア供給手段を作動させる。エアは複数 の第1のエア室全体及び第2のエア室に供給されて第1のエア室,第2のエア室と もに膨張し,足には膨張した各第1のエア室と第2のエア室から圧力が加わる。第 2のエア室は足の土踏まず部分や内側面にかかるように広い面積に形成されている ため,膨張した際の厚みが増し,足の局所的な凹部に相当する土踏まず部分や内側 面と密着するように当接でき,足全体にわたり十分な加圧を行うことが可能となる (【0017】【0018】)。 (ウ) 周知例6(甲7)には,概略,次の記載がある。 【請求項4】少なくとも人間の足の底に係合するような形状にされた膨張可能な袋 の形状の作動装置と,この袋に連結されかつこの袋を迅速に膨張することができる 膨張手段と,この袋を収縮させる手段と,この袋が膨張された時これが足の底にポ ンプ作用の圧力を加えるような人間の足にこの袋を固定する手段とを具備する医療 用器具 (エ) 周知例7(甲8)には,概略,次の記載がある。 【請求項1】空気袋を膨張収縮するエアーポンプに振動板を装着し,この振動板を 人体に接触するように配設して成ることを特徴とするエアーマッサージ器 【請求項2】空気袋を膨張収縮するエアーポンプに振動板を装着し,この振動板を 足裏の土踏まず部に接触するように配設して成ることを特徴とするエアーマッサー ジ器 (オ) 以上のとおり,周知例4ないし7には,空気式のマッサージ具で足裏をマ ッサージすることが記載されているが,各引用例は,加圧式マッサージャー,鞘体 のエアーマッサージ器,袋形状あるいは振動板のマッサージ器に関するものであっ て,いずれも椅子型マッサージ機ではない。 オ 周知例8について (ア) 周知例8(甲20)には,概略,次の記載がある。 28 下肢部マッサージユニットは,ユニット本体にマッサージ子として空気袋を取付 けて形成されている。ユニット本体は上面及び前後両端を開放して凹状をなした一 対の施療凹部を有し,空気袋は施療凹部の相対向する凹部側面にそれぞれ取付けら れている。施療凹部は上方から椅子本体に腰掛けた使用者の下肢が出し入れされる ようになっている。マッサージ子は,空気袋の膨脹・収縮を利用したものに代えて, 打撃又はバイブレーションによるマッサージを行うものとしてもよい 【0014】 ( 【0038】)。 (イ) 以上のとおり,周知例8には,上面及び前後両端を開放して凹状をなした 一対の施療凹部を有する下肢部マッサージユニットにより,下肢をマッサージする 点が記載されている。 しかし,周知例8には,下肢部マッサージユニットに足裏をマッサージするため の足裏支持ステップを設けることについて,特段の記載や示唆はない。 (4) 相違点の認定の誤りについて ア 相違点1について 本件審決は,相違点1の認定の前提として,引用発明の「前記脛当座の足先側に あって足裏が対向するよう足先方向へ可動に結合された足台と,」と本件発明1の 「前記内底面の足先側にあって足裏が対向するよう立設された足裏支持ステップ と,」とは,「前記内底面の足先側にあって足裏が対向するよう設けられた足裏支 持ステップと,」である限りにおいて一致するとの判断をしている。 これに対し,原告は,本件審決は引用発明に足台可動構成が存在することを根拠 として,引用発明では足台が脛当座に「設けられ」てはいるものの,「立設」され てはいないと判断したものであるとした上で,足台可動構成と足裏支持ステップが フットレストから「立設」することは無関係であるから,本件審決の相違点1の認 定は誤りであると主張する。 しかし,本件審決が,原告が主張するように,引用発明に足台可動構成が存在す ることのみに基づいて上記判断をしたと認めるべき根拠は見当たらない。前記1(2) 29 のとおり,本件発明1において,足裏支持ステップは,伸長動作を生じるエアセル によって足裏をマッサージしても,分離丘によって左右に区切られることにより, エアセルの伸長の際に足裏が左右に逃げずに,確実かつ効果的な足裏マッサージを 行うことができるという機能を有しているのであり,引用発明の足台が,このよう な機能を有するものとして「立設」されていないことは明らかであるから,引用発 明の足台と本件発明1の足裏支持ステップとの対比において,「内底面の足先側に あって足裏が対向するよう設けられた足裏支持ステップ」である限りにおいて一致 するとした本件審決の判断に誤りがあるということはできない。 そのほか,本件審決の相違点1の認定が誤りであるとすべき理由は見当たらず, 原告の主張は理由がない。 イ 相違点2について 原告は,引用例の第3図には,足台がほぼ水平であることが記載されているから, 本件審決の相違点2の認定は誤りであると主張する。 確かに,引用例の第3図からは,足台がほぼ水平に設けられていると見て取る余 地もあるものの,同図は電磁バイブレーター付安楽椅子の要部の斜視詳細図であっ て(甲1【図面の略解】),その平面図である第1図においては,足台は水平に設 けられていないことが明らかである。そして,上記第3図のほかに,引用例には, 足台が水平であることをうかがわせる記載はないから,引用発明の足台が水平に設 けられたものであると認めることはできず,原告の主張は採用できない。 ウ 相違点4について 原告は,相違点4に係る本件発明1の構成のうち,引用発明と相違するのは,使 用者が着座姿勢をとったときに脚が対向内側面と分離丘の間に位置するか否かとい う点に限定されるから,本件審決の認定は誤りであると主張する。 しかし,前記イのとおり,引用例には,脚当接手段が垂下状態になった際に足台 が水平状態になることも開示されていないから,原告の主張はその前提において誤 りであり,これを採用することはできない。 30 (5) 相違点に係る判断の誤りについて ア 相違点1について (ア) 前記(1)のとおり,引用発明は,使用者が着座姿勢を取っても,足裏やふく らはぎへのマッサージを確実に行えるようにするという点で,本件発明1と共通の 課題を有している。 しかし,前記1(2)のとおり,本件発明1は,伸長動作を生ずるエアセルによって 足裏をマッサージしても,エアセルの伸長の際に足裏が左右に逃げずに,確実かつ 効果的な足裏マッサージを行えるようにすることを技術的課題とするものであり, フットレストが,内底面の左右両側にあって脚の左右外側面が対向するよう立設さ れた対向内側面と左右両側の対向内側面の間にあって脚の左右内側面が対向するよ う立設された分離丘と,内底面の足先側にあって足裏が対向するように立設された 足裏支持ステップとを有するとともに,足裏支持ステップが分離丘によって左右に 区切られるものであるという相違点1に係る本件発明1の構成も,上記技術的課題 と密接な関係を有するものである。しかるに,引用発明は,電磁バイブレーターの 振動子によりふくらはぎや足裏を振動按摩するものであり,本件発明1のように伸 長動作を生ずるエアセルによって足裏をマッサージするものではないから,引用例 には,足裏やふくらはぎへのマッサージを行うための具体的構成として,脛当座と 足台がバネを解して可動的に結合していることや,脛当座と足台に振動子を設ける ことは記載されているものの,振動子に代えて,空気式マッサージ具を採用するこ とについて特段の記載や示唆はない。 そうすると,引用例には,引用発明において,相違点1に係る本件発明1の構成 を採用することについての積極的な動機付けや示唆があるとはいえない。 (イ) また,前記(2)のとおり,周知例1ないし3及び8に記載されたマッサージ 機は,それぞれ,対向内側面及び分離丘に相当する部材を有しているものの,足裏 支持ステップを有するものではなく,椅子型マッサージ機について,対向内側面, 分離丘及び足裏支持ステップを有するとともに,足裏支持ステップが分離丘によっ 31 て左右に仕切られるという構成を有するフットレストを設けることについての開示 はない。 (ウ) 以上によれば,当業者は,引用発明並びに周知例1ないし3及び8に基づ き,相違点1に係る本件発明1の構成を容易に想到することはできない。 イ 相違点3について (ア) 周知例1,3及び8には,椅子型マッサージ機のフットレストに空気式マ ッサージ具を設けることが記載されている。また,周知例2には,ブーツタイプの マッサージ機に足裏をマッサージするための空気式マッサージ具を配置することや, 第1実施例及び第2実施例に係るエアーマッサージ機が記載され,周知例4ないし 7にも,空気式マッサージ具で足裏をマッサージすることが記載されているから, 空気式マッサージ具自体は,周知の技術であるということができる。 しかし,引用発明は,足台が脛当座の足先側にあって足裏が対向するように足先 方向へ可動に結合されている(足台可動構成)上で,脛当座及び足台に設けられた 振動子により振動按摩をするものであり,この振動子をエアセルに置き換えた場合 には,エアセルの伸長動作と足台可動構成とがあいまって,エアセルの伸長の際に 足裏が左右に逃げてしまうおそれが生ずるから,引用発明において,脛当座及び足 台に設けられた振動子を空気式マッサージ具に替えることの動機付けがあるという ことはできない。 また,周知例1,3及び8並びに周知例2の第2実施例には,椅子型のマッサー ジ機のフットレストに空気式マッサージ具を設ける構成が記載されているが,いず れも空気式マッサージ具でふくらはぎをマッサージするものであって,足台を備え てはいない。また,周知例2の第1実施例に係るエアーマッサージ機は,単独で使 用されるものであり,椅子型マッサージ機の一部を構成するものではなく,空気式 マッサージ具で足裏をマッサージするものでもない。さらに,周知例4ないし7に 記載されているのは,加圧式マッサージャー,鞘体のエアーマッサージ器,袋形状 あるいは振動板のマッサージ器であり,いずれも椅子型マッサージ機ではない。こ 32 のように,上記各周知例には,椅子型マッサージ機のフットレストに足裏をマッサ ージすることができる空気式マッサージ具を配置した足台を設けることの記載はな く,このような構成が周知技術であったということもできない。 (イ) 以上によれば,引用発明において,相違点3に係る本件発明1の構成とす ることは,当業者が容易に想到することができるものであるということはできない。 (ウ) 原告の主張について 原告は,甲32及び33には,椅子型マッサージ機の平面状のフットレストに空 気式マッサージ具を配置することが記載されているとして,引用発明の振動子を空 気式のマッサージ具に置換することは容易に想到し得ることである旨主張する。 しかし,甲32に記載された椅子式マッサージャは,背凭内部に昇降台を設け, この昇降台にローラを回転自在に連結し,ローラの回転及び上下動による複合動作 によって患部をもみほぐしてマッサージ作用を高めるとともに,背当面をエアーク ッションにより形成することにより,指圧力を高めてもソフトな感触を得ることが できるという構成であり,甲33に記載された指圧装置は,椅子,寝台などの休息 具に指圧頭部を有する多数の蛇腹状の伸縮筒を配設するなどした構成であるが,い ずれも,椅子型マッサージ機のフットレストに足裏をマッサージすることができる 空気式マッサージ具を配置した足台を設けることの記載はなく,甲32,33の記 載内容を踏まえても,相違点3に係る本件発明1の構成が容易に想到できるものと はいえない。 ウ 相違点4について 相違点4に係る本件発明1の構成は,相違点1に係る具体的なフットレストの構 造を前提としたものであるところ,前記アのとおり,相違点1に係る本件発明1の 構成は容易に想到し得るものではないから,相違点4に係る本件発明1の構成も容 易に想到し得るものということはできない。 (6) 小括 よって,取消事由3も理由がない。 33 4 取消事由4(本件発明2ないし4の容易想到性に係る判断の誤り)について (1) 本件発明2ないし4は,本件発明1に係る椅子型マッサージ機の構成につい て,さらに限定を加えた発明である。 そして,本件発明1は,引用発明及び周知例1ないし8に記載された事項又は周 知技術に基づき,容易に想到し得ないものである以上,本件発明1に係る椅子型マ ッサージ機の構成にさらに限定を加えた本件発明2ないし4も,同様に容易に想到 し得ないものであることは明らかである。 (2) よって,取消事由4も理由がない。 5 結論 以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣 裁判官 部 眞 規 子 裁判官 齋 藤 巌 34 (別紙) 当事者目録 大阪市中央区農人橋1丁目1番22号 原 告 株 式 会 社 フ ジ 医 療 器 同代表者代表取締役 木 原 定 男 同訴訟代理人弁護士 畑 郁 夫 重 冨 貴 光 田 真 司 黒 田 佑 輝 辻 本 希 世 士 辻 本 良 知 笠 鳥 智 敬 松 田 さ と み 同 弁理士 辻 本 一 義 神 吉 出 大 本 久 美 丸 山 英 之 金 澤 美 奈 子 坂 元 孝 之 大阪市淀川区西宮原2丁目1番3号 被 告 フ ァ ミ リ ー 株 式 会 社 同代表者代表取締役 稲 田 二 千 武 同訴訟代理人弁護士 三 山 峻 司 井 上 周 一 木 村 広 行 松 田 誠 司 35 同 弁理士 角 田 嘉 宏 古 川 安 航 浦 利 之 下 村 裕 昭 山 田 久 就 高 田 聰 36 |