審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成24ネ10035特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成22ワ43749特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24ネ10080特許権侵害行為差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成21ワ17848特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22ワ11353特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 承継 / 協議 / 黙示の合意 / 有用性 / 方法の発明 / 新規性 / 公然知られ(29条1項1号) / 守秘義務 / 秘密保持義務 / 公然実施(29条1項2号) / 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / アクセス / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 公知技術 / 技術的範囲 / 出願公開 / 発明の詳細な説明 / 技術情報 / 補正要件 / 警告 / 抵触 / 対象方法 / 出願経過 / 技術的意義 / 均等 / 均等論 / 均等侵害 / 置き換え / 置換 / 置換可能性 / 同一の作用効果 / 置換容易性 / 容易に想到(容易想到性) / 非公知 / 意識的除外(意識的に除外) / 不存在 / 信義則 / 特許発明 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 差止請求(差止) / 侵害 / 組成した物 / 損害額 / 譲渡数量 / 単位数量 / 実施能力 / 実施料 / 不法行為(民法709条) / 営業秘密 / 疎明 / 実施権 / 専用実施権 / 設定登録 / 拒絶理由通知 / 訂正審判 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 減縮 / 変更 / 訂正要件 / TRIPS協定 / |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
38627号
損害賠償請求事件
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2012/04/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年4月26日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成21年(ワ)第38627号 損害賠償請求事件 平成21年(ワ)第44344号 損害賠償請求事件 平成22年(ワ)第16300号 損害賠償請求反訴事件 口頭弁論終結日 平成24年3月15日 判 決 東京都千代田区<以下略> 原 告 ( 反 訴 被 告 ) 日 本 工 営 株 式 会 社 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 小 泉 淑 子 同 尾 崎 英 男 同 上 野 潤 一 東京都江東区<以下略> 被 告 ( 反 訴 原 告 ) 株 式 会 社 I H I 堺市堺区<以下略> 被 告 ( 反 訴 原 告 ) 株式会社IHIインフラシステム 上記両名訴訟代理人弁護士 古 城 春 実 同 堀 籠 佳 典 同 牧 野 知 彦 同 玉 城 光 博 主 文 1 原告(反訴被告)の請求及び被告(反訴原告)らの反訴請求をいず れも棄却する。 2 訴訟費用は,本訴反訴を通じて,原告(反訴被告)に生じた費用は 原告(反訴被告)の負担とし,被告(反訴原告)らに生じた費用は被 告(反訴原告)らの負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 1 本訴 (1) 被告(反訴原告)株式会社IHIは,原告(反訴被告)に対し,878 4万円及びこれに対する平成21年11月19日から支払済みまで年5分 の割合による金員を支払え。 (2) 被告(反訴原告)株式会社IHIインフラシステムは,原告(反訴被告) に対し,8784万円及びこれに対する平成21年12月15日から支払済 みまで年5分の割合による金員を支払え。 2 反訴 (1) 原告(反訴被告)は,被告(反訴原告)株式会社IHIに対し,200 0万円及びこれに対する平成22年5月13日から支払済みまで年5分の 割合による金員を支払え。 (2) 原告(反訴被告)は,被告(反訴原告)株式会社IHIインフラシステ ムに対し,2000万円及びこれに対する平成22年5月13日から支払済 みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2 事案の概要 1 事案の要旨 本件の本訴は,発明の名称を「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」とす る特許の特許権を有する原告(反訴被告)(以下「原告」という。)が,被告 (反訴原告)株式会社IHI(以下「被告IHI」という。)及び被告(反訴 原告)株式会社IHIインフラシステム(以下「被告インフラシステム」とい う。)による「大河津可動堰改築ゲート設備工事」における水門凍結防止装置 の施工が,上記特許権の侵害に当たる旨主張して,特許権侵害の不法行為に基 づく損害賠償を求め,これと選択的な請求として,上記施工等に際し,被告ら が,原告が保有する営業秘密であるノウハウを使用したことが,営業秘密の不 正使用の不正競争行為(不正競争防止法2条1項7号)に当たる旨主張して, 同法4条に基づく損害賠償を求めた事案である。 本件の反訴は,被告らが,原告に対し,被告らの上記施工行為が原告の上記 特許権を侵害するものではなく,上記特許権が無効であるにもかかわらず,原 告がその客先に被告らの上記施工行為が原告の上記特許権を侵害する旨告げ たことが営業上の信用を害する虚偽の事実の告知の不正競争行為(不正競争防 止法2条1項14号)に当たり,また,原告の本訴の提起及び仮処分命令の申 立て(東京地方裁判所平成22年(ヨ)第22035号不正競争仮処分命令申 立事件。以下,この申立てを「別件仮処分の申立て」という。)が不法行為に 当たる旨主張して,不正競争防止法4条又は民法709条に基づく損害賠償を 求めた事案である。 2 争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全 趣旨により認められる事実である。) (1) 当事者 ア 原告は, 土木,建築,電気,機械,農業,林業,地質,鉱業,都市・ 地域開発,海洋開発,公害防止,電気通信及び交通・運輸に関する計画, 調査,測量,設計並びに工事監理等を目的とする株式会社である。 イ(ア) 被告IHI(旧商号・石川島播磨重工業株式会社)は,船舶,艦艇, 橋梁,水門,鉄骨,貯蔵設備,海洋構造物,その他各種鉄構物及びその 部品並びにこれに関連する総合設備の設計,製造,売買等を目的とする 株式会社である。 (イ) 被告インフラシステム(旧商号・松尾橋梁株式会社)は,橋梁,鉄 骨,鉄塔,水門その他構造物の設計,製作,施工,診断及び補修等を目 的とする株式会社である。 (ウ) 被告IHIと被告インフラシステムは,平成21年8月24日,吸 収分割会社を被告IHI,吸収分割承継会社を被告インフラシステム, 分割の対象事業を被告IHIが営む橋梁,水門その他鋼構造物事業及び これらのメンテナンス事業,分割の効力発生日を同年11月1日とする 吸収分割契約を締結した(乙1)。上記吸収分割契約に基づく吸収分割 により,平成21年11月1日,被告インフラシステムは,上記対象事 業に係る被告IHIの権利義務を承継した。 (2) 特許庁における手続の経緯等 ア 原告は,平成20年4月15日,発明の名称を「誘導発熱鋼管による水 門凍結防止装置」とする発明について特許出願(特願2008−1059 63号。以下「本件出願」という。)をした。 原告は,平成21年7月17日付け及び同年8月10付け各手続補正書 により,本件出願に係る特許請求の範囲の補正をした(甲6,8)。 その後,原告は,同年10月2日,本件出願について,特許第4379 825号として特許権の設定登録(請求項の数10)を受けた(以下,こ の特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)。 イ(ア) 被告インフラシステムは,平成22年1月29日,本件特許につい て無効審判請求(無効2010−800018号事件)をした。 原告は,同年4月19日,本件特許の特許請求の範囲の減縮を目的と する訂正請求(以下,この訂正請求に係る訂正を「第1次訂正」という。) をした(甲21)。 特許庁は,同年10月13日,上記無効審判事件について,第1次訂 正を認めた上で,「特許第4379825号の請求項1乃至10に係る 発明についての特許を無効とする。」との審決(以下「第1次審決」と いう。)をした(乙39)。 (イ) これに対し原告は,平成22年10月29日,第1次審決の取消し を求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ)第10 337号事件)を提起するとともに,同年12月22日付けで本件特許 の特許請求の範囲の訂正等を内容(請求項1ないし5,7,8,10を 訂正し,請求項6及び9を削除するもの)とする訂正審判請求(訂正2 010−390130号事件)をしたところ,知的財産高等裁判所は, 平成23年1月14日,特許法181条2項に基づき,事件を審判官に 差し戻すため,第1次審決を取り消す旨の決定をした(甲35,39)。 特許庁は,上記決定を受けて,無効2010−800018号事件の 審理を再開した。その審理の中で,原告は,同年2月10日付けで,上 記訂正審判請求で求めたのと同内容の訂正請求(以下「第2次訂正」と いう。)をした(甲40)。この結果,特許法134条の3第4項によ り,上記訂正審判請求は取り下げられたものとみなされ,また,同法1 34条の2第4項により,第1次訂正も取り下げられたものとみなされ た。 その後,特許庁は,同年7月20日,第2次訂正のうち,請求項6及 び9を削除する訂正は適法と認めるが,請求項1ないし5,7,8及び 10の訂正は新規事項の追加に該当し,不適法であるとした上で,請求 項1ないし5,7,8,10に係る発明についての特許出願は特許法2 9条2項に規定する要件を満たさないとして,「平成23年2月10日 付けの訂正請求のうち,請求項6及び9についての訂正を認める。特許 第4379825号の請求項1乃至5,7,8,10に係る発明につい ての特許を無効とする。」との審決(以下「第2次審決」という。)を した(乙44)。 (ウ) これに対し原告は,平成23年8月26日,第2次審決の取消しを 求める審決取消訴訟(知的財産高等裁判所平成23年(行ケ)第102 79号事件)を提起し,本件口頭弁論終結日現在,同事件が知的財産高 等裁判所に係属中である。 (3) 発明の内容 ア 設定登録時のもの (ア) 本件特許の設定登録時の特許請求の範囲は,請求項1ないし10か ら成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(甲14。以下,請 求項1に係る発明を「本件発明」という。)。 「【請求項1】 水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に,各々内部に 軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有す る複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,前記誘導発熱 鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線を通す工程と, 前記被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充 填塗布する工程と,前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程と を含む,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」 (イ) 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,各構 成要件を「構成要件A」,「構成要件B」などという。)。 A 水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に,各々内部に軸方向に延在 する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘 導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と, B 前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線 を通す工程と, C 前記被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを 充填塗布する工程と, D 前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含む, E 誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。 イ 第2次訂正後のもの (ア) 第2次訂正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりで ある(甲40。以下,第2次訂正後の請求項1に係る発明を「本件訂正 発明」という。なお,下線部は訂正箇所である。)。 「【請求項1】 水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材である戸当板の コンクリート充填側に,各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み 孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並 べて固定する工程と,前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差 込み孔に,絶縁電線を通す工程と,前記戸当板のコンクリート充填側 と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程 と,前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含み,並列の 前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接されてお り,さらに,該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填側に溶接 されている,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」 (イ) 本件訂正発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下, 各構成要件を「構成要件A’」,「構成要件B’」などという。)。 A’水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材である戸当板のコンクリート 充填側に,各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状 の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する 工程と, B’前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線 を通す工程と, C’前記戸当板のコンクリート充填側と前記誘導発熱鋼管単体との間に 伝熱セメントを充填塗布する工程と, D’前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含み, E’並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接 されており,さらに,該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填 側に溶接されている, F’誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。 (4) 被告らの行為等 ア 被告IHIは,平成20年12月19日,国土交通省北陸地方整備局(以 下「北陸地方整備局」という。)が実施した「大河津可動堰改築ゲート設 備工事」(以下「本件工事」という。)の一般競争入札(公告日・同年8 月11日)を落札し,同年12月22日,北陸地方整備局長との間で,本 件工事の請負契約を締結した。 大河津可動堰改築ゲート設備(以下「本件ゲート設備」という。)は, 下段ゲートのみからなる2門の「制水ゲート」と下段ゲート及び上段ゲー トからなる4門の「調節ゲート」の合計6門の水門で構成されており,本 件工事は,これら6門の水門のすべてに水門凍結防止装置を設置する工事 を含むものである。 イ(ア) 被告IHIは,本件ゲート設備の水門凍結防止装置の施工に当た り,当初,次のような施工方法(以下「旧施工方法」といい,各構成を 「構成a」,「構成b」などという。旧施工方法の概要は,別紙1のと おりである。)を実施することを予定していた。 「a 水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に, @伝熱セメントを塗布し, A内部に軸方向に延在する発熱ケーブル差込み孔をもつ柱状の磁 性体鋼管を取り付け, B伝熱セメントが塗布されていない側において前記磁性体鋼管と 被加熱部材を溶接する作業を この順序で順次繰り返し,固定金具を取り付けて,電気的に接続さ れた複数の磁性体鋼管を配置する工程と, b 前記磁性体鋼管の伝熱セメントが塗布されていない部分に伝熱 セメントを塗布する工程と, c 前記磁性体鋼管に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線を通 す工程と, d 前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含む, e 磁性体鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」 (イ) 被告インフラシステムは,平成21年11月19日,本件工事の総 括監督員である北陸地方整備局信濃川河川事務所(以下「信濃川河川事 務所」という。)の所長に対し,本件工事における旧施工方法を次のよ うな施工方法(以下「新施工方法」といい,各構成を「構成f」,「構 成g」などという。新施工方法の概要は,別紙2のとおりである。)に 変更することを内容とする「詳細設計図書 第4回」を提出し,同年1 2月9日,信濃川河川事務所長から,上記詳細設計図書について「特記 仕様書第2条」に基づき承認する旨の通知を受けた(乙9の1ないし9 の3,43,弁論の全趣旨)。 「f 水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に, @伝熱セメントを塗布し, A内部に軸方向に延在する発熱ケーブル差込み孔をもつ柱状の磁 性体鋼管を取り付け, B伝熱セメントが塗布されていない側において前記磁性体鋼管と 被加熱部材を溶接する作業を この順序で順次繰り返し,固定金具を取り付けて,電気的に接続さ れた複数の磁性体鋼管を配置する工程(構成aの工程)と, g 前記磁性体鋼管の伝熱セメントが塗布されていない部分に伝熱 セメントを塗布する工程(構成bの工程)と, h 前記磁性体鋼管に形成された発熱ケーブル差込み孔に,発熱ケー ブルを通す工程と, i 前記発熱ケーブル中の2本の電線のそれぞれを交流電源に接続 する(発熱ケーブルの一方端にのみ交流電源が設けられ,他端には 設けられない。)工程とを含む, j 磁性体鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」 (ウ) 被告インフラシステムは,本件ゲート設備の水門6門すべてについ て,遅くとも平成23年2月1日までに新施工方法の構成gまでの工程 を,更に同年5月23日までに構成hまでの工程をそれぞれ終了し,そ の後,同年7月28日までに新施工方法のすべての工程を完了した(乙 43,弁論の全趣旨)。 (5) 原告の仮処分の申立て 原告は,本訴係属後の平成22年5月17日,原告が保有する営業秘密で ある別紙3記載の各情報(以下「本件情報」という。)を記載した文書(乙 28の1ないし7,9)を,被告らが,行政機関の保有する情報の公開に関 する法律(以下「情報公開法」という。)に基づく情報公開制度を利用して 取得し,本訴において書証として提出した行為が,営業秘密の不正取得及び 不正開示の不正競争行為(不正競争防止法2条1項4号)に当たる旨主張し, 被告らに対し,同法3条に基づく差止請求権を被保全権利として,情報公開 法に基づいて文書開示請求を行うことなどの差止めを求める別件仮処分の 申立てをした。 3 争点 (1) 本訴の争点は,次のとおりである。 ア 被告らによる本件特許権侵害の成否(争点1) (ア) 新施工方法の本件発明の技術的範囲の属否(争点1−1) (イ) 本件発明に係る本件特許に特許無効審判により無効にされるべき 無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項 に基づいて制限されるかどうか(争点1−2) (ウ) 上記無効理由による権利行使の制限を否定する第2次訂正に係る 対抗主張の成否(争点1−3) イ 被告らによる不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為の成否(争点 2) ウ 被告らが賠償すべき原告の損害額(争点3) (2) 反訴の争点は,次のとおりである。 ア 原告による不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為の成否(争点 4) イ 原告による本訴の提起及び別件仮処分の申立ての不法行為該当性(争点 5) ウ 原告が賠償すべき被告らの損害額(争点6) 第3 争点に関する当事者の主張 1 本訴関係 (1) 争点1−1(新施工方法の本件発明の技術的範囲の属否)について ア 原告の主張 (ア) 構成要件Aの充足 a 本件発明の構成要件AないしCの「誘導発熱鋼管単体」及び構成要 件Eの「誘導発熱鋼管」は,誘導発熱に利用できる性質を有する強磁 性鋼材の鋼管を意味する。 そして,本件発明は,水門凍結防止装置の施工を作業効率よく行う ことを目的とした水門凍結防止装置の施工法の発明(方法の発明)で あり,実際に鋼管が発熱する際の発熱方式を特に限定するものではな いから,実際に強磁性鋼材の鋼管が誘導発熱によって発熱している必 要はない。 また,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)においては,「誘導 発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管」について,鋼管が相互に電気的 に絶縁されていること,あるいは,「短絡片」によって電気的に接続 されていないことは構成要件上の限定となっていない。このことは, 請求項1を引用する形式の請求項2において,「複数個の誘導発熱鋼 管単体を相互に電気的に絶縁する」とする限定を付していることから も明らかである。 さらに,本件出願の出願当初の請求項1には,「複数個の前記柱状 の強磁性鋼材は,相互に電気的に絶縁されている,水門凍結防止装置」 と記載されていたが,平成21年7月17日付け手続補正により,上 記記載部分について,「相互に電気的に絶縁されている」との限定を 削り,「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法」に補正した ものであり,このような出願経緯のため,本件出願の願書に添付され た明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。甲14)には, 出願当初の請求項1の発明に対応した記載が残っているにすぎない。 したがって,「誘導発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管」は,軸方 向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する鋼 管であればよい。 しかるところ,新施工方法に用いる鋼管は,内部に軸方向に延在す る発熱ケーブル差込み孔をもつ柱状の強磁性体鋼管であるから,「誘 導発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管」に該当する。 b 新施工方法は,水門設備の凍結防止を意図する範囲の戸当り金物に 複数本の強磁性体鋼管を並べて固定金具を用いて固定する工程を有 しており(構成f,別紙2の2(1)アないしキ),この戸当り金物は, 構成要件Aの「被加熱部材」に,上記鋼管は,前記aのとおり,「誘 導発熱鋼管単体」にそれぞれ該当するから,新施工方法は,構成要件 Aを充足する。 (イ) 構成要件Bの充足 新施工方法に用いる発熱ケーブルの外装には,別紙2の「(発熱ケー ブルの構成例)」に示すように,シリコンラバーが設けられており,シ リコンは絶縁物質であることからすると,当該発熱ケーブルは,絶縁被 覆加工がされているといえるから,構成要件Bの「絶縁電線」に該当す る。 そして,新施工方法は,当該発熱ケーブルを磁性体鋼管に形成された 発熱ケーブル差込み孔に通す工程を有しているから(構成h,別紙2の 2(5)),構成要件Bを充足する。 (ウ) 構成要件Cの充足 a 新施工方法は,「被加熱部材」である戸当り金物と強磁性体鋼管と の間に伝熱セメントを充填する工程を有しているから(構成f@及び A,g,別紙2の2(1),(2))から,構成要件Cを充足する。 b この点に関し被告らは,後記のとおり,構成要件Cの「伝熱セメン トを充填塗布する」とは,被加熱部材に複数個の誘導発熱鋼管単体を 並べて固定した後に,当該被加熱部材と誘導発熱鋼管単体の隙間を伝 熱セメントで塞ぐことを意味する旨主張する。 しかしながら,構成要件AないしDの各工程は,時間の先後の順序 関係を定めた限定要件ではない。このことは,発熱電線を挿通する工 程が,構成要件Bの工程として,構成要件Cの伝熱セメントを充填塗 布する工程よりも前に記載されていることから明らかである。 また,本件明細書には,@鋼管を並べて固定する工程,絶縁電線を 通す工程,電源を接続する工程を説明する段落【0047】の後に, 段落【0049】として伝熱セメントの充填塗布の説明があり,説明 の順序にも工程の順序が示されていないこと,A段落【0049】で 言及されている図8は,既に絶縁電線2が通線されていることからわ かるように,鋼管の水門の戸当り板への設置状態を示して,鋼管と被 加熱部材が線接触となるので,鋼管から戸当り板への熱伝導を良くす るために伝熱セメントを充填塗布することを勧めていることからす ると,当業者は,本件明細書から,鋼管を被加熱部材に固定するプロ セスの中で,適宜,伝熱セメントの充填塗布を行えばよいことを理解 できるのであり,被告らのように各工程の時間的先後関係を限定的に 解する必要は一切ない。 したがって,被告らの上記主張は理由がない。 (エ) 構成要件Dの充足 a 新施工方法は,発熱ケーブルの各母線を,各電源ケーブルを介して 交流電源に接続する工程を有している。発熱ケーブルは2本の母線 と,母線間を接続する発熱体(発熱エレメント)によって形成されて いる。2本の母線の他端は接続されておらず,エンドキャップが設け られているが,2本の母線とその間の発熱体が一つの回路を形成し, 2本の母線の両端に交流電源が接続される。 したがって,発熱ケーブルの2本の母線に交流電源を接続すること は,構成要件Dの「前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する」に相当 するといえるから,新施工方法は,構成要件Dを充足する。 b この点に関し被告らは,後記のとおり,新施工方法において使用す る発熱ケーブルと交流電源の接続は,「発熱ケーブルの中の2本の電 線のそれぞれを交流電源に接続する(発熱ケーブルの一方端にのみ交 流電源が設けられ,他端には設けられない)」(構成i)ものであり, 「両端に交流電源を接続する」(構成要件D)ものとは異なる旨主張 する。 しかしながら,新施工方法における発熱ケーブルの各母線と発熱体 は,合わせて一本の電導路を構成しており,各電源ケーブルを含めた 「1本の絶縁電線」となっている。すなわち,交流電源に接続される 電流回路は,一方の電源ケーブルから発熱ケーブル内に入り,ケーブ ル内の一方の母線から,発熱体を通じて,他方の母線に接続され,発 熱ケーブルを出て,他方の電源ケーブルを介して,交流電源に戻るの であり,そのような電線回路を素直に観察すれば,2本の母線とその 間の発熱体が全体として「1本の絶縁電線」を構成していることは明 らかであるから,被告らの上記主張は理由がない。 (オ) 構成要件Eの充足 新施工方法では,前記(ア)のとおり,「誘導発熱鋼管」が用いられて おり,新施工方法は,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法で あるといえるから,本件発明の構成要件Eを充足する。 (カ) まとめ 以上のとおり,新施工方法は,本件発明の構成要件をすべて充足し, その技術的範囲に属するものであるから,被告らが,本件工事において, 新施工方法によって水門凍結防止装置を施工した行為は,原告の本件特 許権の侵害行為に当たる。 イ 被告らの主張 (ア) 構成要件AないしC及びEの非充足 a 構成要件Eに「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法」と あるから,本件発明は,「誘導加熱」を利用する「誘導発熱鋼管方式」 の発明である。 また,本件明細書(甲14)では,段落【0002】ないし【00 13】,図1,16ないし18に記載された,「短絡片」が接続され た従来の鋼管を使用した方式ないし構造を「表皮電流発熱管」,これ に用いられる鋼管1本1本を「誘導表皮電流発熱管」と称している。 一方で,「表皮電流発熱管」及び「誘導表皮電流発熱管」とは明確に 区別された概念として,本件明細書では,段落【0033】が示すよ うに,「短絡片」のような鋼管の外周部分に発生する渦電流を打ち消 し合わせるための部材を有さず,かつ,強磁性鋼材の鋼管が相互に電 気的に絶縁されている鋼管を使用した方式ないし構造を「誘導発熱鋼 管」(構成要件E),これに用いられる鋼管1本1本を「誘導発熱鋼 管単体」(構成要件AないしC)と称している。 b 新施工方法は,そもそも,「電気加熱」を利用する「発熱線加熱装 置を用いた方式」であって,「誘導発熱方式」ではないから,新施工 方法において,「誘導発熱鋼管単体」(構成要件AないしC)及び「誘 導発熱鋼管」(構成要件E)が用いられているとはいえない。 また,新施工方法は,「電気的に接続された複数の磁性体鋼管」(構 成fのB。正確には,固定金具(フラットバー)により接続されてい る。)を使用したものであり,この点においても,新施工方法におい て,「誘導発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管」が用いられていると はいえない。 したがって,新施工方法は,本件発明の構成要件AないしC及びE を充足しない。 (イ) 構成要件A及びCの非充足 a @本件発明の構成要件Cが,「水門設備の凍結防止範囲の非加熱部 材に…装置の複数個の誘導発熱鋼管単体を被加熱部材に並べて固定 する工程と」と記載された構成要件Aの後に,これを受けて置かれて いること,A「充填」とは,「あいた所につめてふさぐこと」を意味 するところ(乙2),構成要件Cが,単に伝熱セメントを「塗布」す ると規定するのではなく,「充填塗布」と規定していること,B構成 要件Cが,被加熱部材と誘導発熱鋼管単体とに「間」があることを前 提としていること,C本件明細書(甲14)の段落【0049】等の 記載によれば,構成要件Cの「伝熱セメントを充填塗布する」とは, 被加熱部材に複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定した後に,当該 被加熱部材と誘導発熱鋼管単体の隙間を伝熱セメントで塞ぐことを 意味すると解すべきである。 また,@構成要件Aの「複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定す る」との文言を字義通りに解釈すれば,複数個の誘導発熱鋼管単体を 並べてから固定すると理解することが素直であること,A上記「充填 塗布」の意味,B本件明細書の段落【0043】ないし【0046】 等の記載によれば,構成要件Aの「並べて固定」とは,並べて固定し た結果,被加熱部材と誘導発熱鋼管単体に伝熱セメントを「充填塗布」 し得る隙間が生じる態様を意味すると解すべきである。 b 新施工方法は,被加熱部材に伝熱セメントを塗布し,その伝熱セメ ントに鋼管を配置し,鋼管の伝熱セメントを塗布していない側と被加 熱部材を溶接するという作業を順次繰り返して複数の鋼管を配置す るものであって(構成f),複数個の鋼管を並べてから固定するもの ではなく,また,「充填塗布」し得る隙間が生じておらず,被加熱部 材と鋼管の隙間を伝熱セメントで塞ぐことをしていないので,本件発 明の構成要件A及びCを充足しない。 (ウ) 構成要件A,B及びDの非充足 本件発明は,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置に関するものであ るから,構成要件A,B及びDの「絶縁電線」とは,鋼管を流れる渦電 流により鋼管を発熱させる誘導発熱方式の水門凍結防止装置で用いら れる絶縁処理された電線を意味すると解される。 新施工方法の発熱ケーブルは,このような「絶縁電線」とは異なり, それ自体が発熱し,並列の2本の母線が発熱エレメントで接続されてい るなど「絶縁電線」と構造自体が大きく異なる。 また,構成要件Dの「絶縁電線の両端に交流電源を接続する」とは, 渦電流が発生するような接続態様を指すものであるところ,新施工方法 における交流電源との接続方法は,発熱ケーブルの中の2本の電線のそ れぞれを交流電源に接続するものであり,交流電源は,発熱ケーブルの 一方端にのみ設けられ,他端には設けられておらず(構成i),渦電流 が発生しないので,「絶縁電線の両端に交流電源を接続する」ものとは いえない。 したがって,新施工方法は,本件発明の構成要件A,B及びDを充足 しない。 (エ) まとめ 以上のとおり,新施工方法は,本件発明の構成要件AないしEをいず れも充足せず,その技術的範囲に属さない。 したがって,被告インフラシステムが水門凍結防止装置を設置するに 当たり新施工方法を実施したことは,本件特許権の侵害行為に当たらな い。 (2) 争点1−2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について ア 被告らの主張 本件発明に係る本件特許には,以下のとおりの無効理由があり,特許無 効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1 項の規定により,原告は,被告らに対し,本件特許権を行使することはで きない。 (ア) 無効理由1(新規事項の追加による補正要件違反) 本件出願に係る特許請求の範囲についての平成21年8月10日付 け手続補正書(甲8)による補正は,以下のとおり,本件出願の願書に 添付された特許請求の範囲,明細書又は図面に記載された事項の範囲内 においてされたものではなく,本件特許は,特許法17条の2第3項に 規定する要件を満たしていない補正をした特許出願に対してされたも のであり,本件発明に係る本件特許には,同項に違反する無効理由(同 法123条1項1号)がある。 a 本件出願に係る出願当初の特許請求の範囲(甲5)においては,請 求項1ないし9が誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置(請求項2な いし9は請求項1を引用する従属項)の発明であり,請求項10が誘 導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法の発明とされていた。 原告は,平成21年8月10日付け手続補正書(甲8)により,@ 本件出願の出願当初の特許請求の範囲の請求項1ないし9に係る誘 導発熱鋼管による水門凍結防止装置に関する発明を削除し,A請求項 10に係る誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法の発明に ついて,「複数個の前記柱状の強磁性鋼材は,相互に電気的に絶縁さ れている」の構成を削除し,「(被加熱部材に)複数個の誘導発熱鋼 管単体を並べて固着する工程と」を「(被加熱部材に)複数個の誘導 発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,前記被加熱部材と前記誘導発 熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程と」と置き換え た上で,これを請求項1とし,B請求項1の従属項として,「前記複 数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,前記被加熱部材と 前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを充填塗布する工程と によって,前記複数個の誘導発熱鋼管単体を相互に電気的に絶縁す る」との構成を限定して請求項2とし,C出願当初の特許請求の範囲 の請求項2ないし9において限定した構成をそれぞれ限定した従属 項を請求項3ないし10とする補正(以下「平成21年8月10日付 け補正」という。)をした。 しかしながら,本件出願の出願当初明細書(甲5。以下,図面を含 めて「本件当初明細書」という。)には,誘導発熱鋼管を構成する強 磁性鋼材が相互に電気的に絶縁されているものを構成要素としたも の以外の発明の実施の形態は記載されていない。 また,本件当初明細書の段落【0012】に記載された技術は,従 来技術の一つとして記載されたものであり,平成21年8月10日付 け補正の根拠となるものではない。 b そうすると,本件発明の「誘導発熱鋼管単体」につき,原告が主張 するように,誘導発熱鋼管を構成する強磁性鋼材が相互に電気的に絶 縁されているものに限定されないという解釈を採るとすれば,「複数 個の前記柱状の強磁性鋼材は,相互に電気的に絶縁されている」との 構成を備えない本件発明は,本件当初明細書に記載されていないもの であるから,平成21年8月10日付け補正は,願書に添付された明 細書に記載された事項の範囲内においてされたものではないという べきである。 したがって,上記補正は,新規事項の追加に当たり,特許法17条 の2第3項の規定に違反する。 (イ) 無効理由2(サポート要件違反) 本件発明の特許請求の範囲の記載は,以下のとおり,特許を受けよう とする発明が本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものとはいえ ず,特許法36条6項1号に適合しないから,本件発明に係る本件特許 には,同項に違反する無効理由(同法123条1項4号)がある。 a 平成21年8月10日付け補正は,特許請求の範囲の記載のみの補 正であって,発明の詳細な説明については何らの補正もされていな い。 本件明細書(甲14)の発明の詳細な説明には,本件当初明細書と 同様に,誘導発熱鋼管を構成する強磁性鋼材が相互に電気的に絶縁さ れているものが記載されているのみであり,図1に示されるような両 端にある短絡片で相互に電気的に接続した誘導発熱鋼管に対応する ものは,一切記載されていない。 そうすると, 構 成 要 件 A な い し C の 「誘導発熱鋼管単体」が, 原告が主張するように,誘導発熱鋼管を構成する強磁性鋼材が相互に 電気的に絶縁されているものに限定されないのであれば,「複数個の 前記柱状の強磁性鋼材は,相互に電気的に絶縁されている」との構成 を備えない本件発明は,発明の詳細な説明に記載された実施形態とも 対応せず,「発明が解決しようとする課題」の欄に記載された課題を 解決するための手段を備えておらず,発明の詳細な説明に記載された ものとはいえない。 b したがって,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)は,サポート 要件に適合しない。 (ウ) 無効理由3(甲10に基づく新規性欠如) 本件発明は,以下のとおり,本件出願前に頒布された刊行物である甲 10(特公昭57−40293号公報)に記載された発明と同一である から,本件発明に係る本件特許には,特許法29条1項3号に違反する 無効理由(同法123条1項2号)がある。 a 甲10の記載事項(特許請求の範囲,1頁2欄34行〜2頁3欄2 4行,2頁3欄25行〜28行,2頁3欄29行〜38行,3頁5欄 24行〜33行,3頁5欄34行〜同頁6欄3行,3頁6欄3行〜7 行,第1図,第2図,第8図),及び甲10に記載された水門凍結防 止装置を施工する際には,いずれかの段階で,絶縁電線に電源を接続 しなければならないことからすると,甲10には,「水門の扉体の水 側上部,扉体の左右両側誘導溝板の水側部分及び下縁の戸当板に,強磁 性鋼材からなる誘導表皮電流発熱管を複数本並べて溶接又は伝熱セメン トで固定する工程と,該誘導表皮電流発熱管に絶縁電線を挿通する工程 と,絶縁電線の両端には単相の交流電源を接続する工程と,からなる水 門凍結防止装置の施工方法」の発明が記載されている。 b 甲10記載の発明の「水門の扉体の水側上部,扉体の左右両側誘導 溝板の水側部分及び下縁の戸当板」及び「強磁性鋼材からなる誘導表 皮電流発熱管」は,それぞれ,本件発明の「水門設備の凍結防止範囲 の被加熱部材」及び「内部の軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をも つ柱状の強磁性鋼材を有する誘導発熱鋼管単体」に相当する。 また,誘導発熱鋼管を伝熱セメントで固定するためには,「水門の 扉体の水側上部,扉体の左右両側誘導溝板の水側部分及び下縁の戸当 板」と誘導発熱鋼管との間に伝熱セメントを充填補充する必要があ る。 そうすると,両発明は,本件発明が,複数個の誘導発熱鋼管単体を 並べて固定する工程と,伝熱セメントを充填塗布する工程とを有する のに対し,甲10には,鋼管部材を固定する工程と伝熱セメントを充 填塗布する工程とが別の工程であることについて明記されていない 点でのみ文言上相違するといえる。 しかしながら,本件発明は,鋼管部材を「固定」する手段を何ら特 定していないところ,伝熱セメントは固まるまでは流動性があるから, 伝熱セメントを充填塗布する前及び伝熱セメントが固まるまでの間, 誘導発熱鋼管は何らかの手段(ボルトなどによる仮固定,人が支えて いるものなど)によって固定されていなければならず,甲10記載の 発明も,被加熱部材に誘導発熱鋼管単体を固定する工程を備えている ことは明らかである。 したがって,上記相違点は,実質的な相違点とはいえず,本件発明は, 甲10記載の発明と同一であり,新規性が欠如している。 (エ) 無効理由4(乙3に基づく新規性欠如) 本件発明は,以下のとおり,本件出願前に頒布された刊行物である乙 3(特開昭53−145334号公報)に記載された発明と同一である から,本件発明に係る本件特許には,特許法29条1項3号に違反する 無効理由(同法123条1項2号)がある。 a 乙3の記載事項(特許請求の範囲第2項,1頁右下欄10行〜14 行,1頁右下欄15行〜2頁左上欄1行,2頁左上欄2行〜6行,2 頁左上欄7行〜9行,2頁右上欄14行〜20行,2頁右下欄1行〜 4行,第3図,第5図)及び水門凍結防止装置を施工する際に必要と なる施工手段を考慮すれば,乙3には,「水門の扉体の池側上部,扉 体の両側の誘導溝板の池側部分及び水密用ゴム板の接触面並びに下 縁の水密用ゴム板が接触する戸当板の裏面板に,鉄管を複数本並べて 溶接する工程,該鉄管に絶縁電線を挿通する工程,鉄管と水門を構成 する部材の広い面積に熱良導性セメントを塗布する工程,絶縁電線の 一端を鉄管の一端に接続し絶縁電線の他端と鉄管の他端との間に交 流電源を接続する工程からなる,水門凍結防止装置の施工方法」の発 明が記載されている。 b 乙3記載の発明の「水門の扉体の池側上部,扉体の両側の誘導溝板の 池側部分及び水密用ゴム板の接触面並びに下縁の水密用ゴム板が接触す る戸当板の裏面板」及び「熱良導性セメント」は,それぞれ本件発明の 「水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材」及び「伝熱セメント」に相 当する。 鉄は,強磁性材料であり,乙3記載の発明の「鉄管」も,本件発明 の「誘導発熱鋼管」も,管を流れる表皮電流によって発熱するもので あるから,乙3記載の発明の「鉄管」と,本件発明の「内部に軸方向 に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有する誘導 発熱鋼管単体」とは,「内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔を もつ柱状の強磁性材を有する発熱管単体」の点で共通する。 また,本件発明と乙3記載の発明とは,発熱管,絶縁電線及び交流 電源の接続の態様が異なるが,いずれも発熱管に表皮電流を流すもの であって,絶縁電線には,交流電源が接続される点で共通する。 そうすると,両発明は,本件発明が,鋼管に挿通した絶縁電線の両 端に交流電源を接続しているのに対し,乙3記載の発明は,絶縁電線 の一端を鉄管の一端に接続するとともに絶縁電線の他端と鉄管の他 端とに交流電源を接続している点でのみ一応相違するといえる。 しかるところ,乙4(「電気工学ハンドブック」1978年版)の 記載に照らすと,乙3記載の発明の「絶縁電線の一端を鉄管の一端に 接続するとともに絶縁電線の他端と鉄管の他端との間に交流電源を 接続した鉄管」は,乙4記載の「直列表皮電流発熱管」に相当し,本 件発明の「鋼管に挿通した絶縁電線の両端に交流電源を接続した誘導 発熱鋼管」は,乙4記載の「誘導表皮発熱管」に相当するものである。 そして,「直列表皮電流発熱管」及び「誘導表皮発熱管」は,いず れも表皮電流発熱装置として周知の技術であり,路面の凍結防止又は 床壁面の加温などに使用されているものであることからすると,上記 相違点は,単なる周知技術の転換にすぎないというべきである。 したがって,上記相違点は,実質的な相違点とはいえず,本件発明は, 乙3記載の発明と同一であり,新規性が欠如している。 (オ) 無効理由5(甲10を主引例とする進歩性欠如) 本件発明は,以下のとおり,甲10記載の発明に乙3に記載された技 術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができたも のであるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反 する無効理由(同法123条1項2号)がある。 a 本件発明と甲10記載の発明は,本件発明が,複数個の誘導発熱鋼 管単体を並べて固定する工程と,伝熱セメントを充填塗布する工程と を有するのに対し,甲10記載の発明は,鋼管部材を固定する工程と 伝熱セメントを充填塗布する工程とが別の工程であることが明らか でない点でのみ相違する(前記(ウ)b参照)。 b 乙3の「扉体1を構成する鉄板2の池側上部裏面へ,絶縁電線3を挿 通した鉄管4を多数本溶接し,かつ,鉄管4と鉄板2両者の広い面を, 金属または熱良導性セメントのような熱良導体5を介して相互に接続 する。」(1頁右欄10行〜14行)との記載によれば,乙3には, 甲10に記載されたのと同じ水門凍結防止装置において,鉄管の熱を 良好に被加熱部材に伝えるために,被加熱部材に鉄管(発熱管)を溶 接する工程と熱良導性セメントにより相互に接続する工程とを備える 技術(前記aの相違点に係る本件発明の構成)が開示されている。 しかるところ,発熱管の熱を良好に被加熱部材に伝えることは,水 門凍結防止装置において当然に要求される機能であるから,甲10記 載の発明に,乙3記載の上記技術を適用することに困難はない。 したがって,当業者であれば,甲10記載の発明に乙3記載の上記 技術を採用することを容易に想到することができたものである。 c 以上によれば,本件発明は,当業者が,甲10及び乙3に基づいて 容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如してい る。 (カ) 無効理由6(乙3を主引例とする進歩性欠如) 本件発明は,以下のとおり,乙3記載の発明及び甲10記載の発明に 基づいて,当業者が容易に想到することができたものであるから,本件 発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(同法 123条1項2号)がある。 a 本件発明と乙3記載の発明は,本件発明が,鋼管に挿通した絶縁電 線の両端に交流電源を接続しているのに対し,乙3記載の発明は,絶 縁電線の一端を鉄管の一端に接続するとともに絶縁電線の他端と鉄 管の他端とに交流電源を接続している点でのみ相違する(前記(エ)b 参照)。 b 甲10には,水門の凍結防止装置において,「誘導表皮電流発熱管」 と「直列表皮電流発熱管」が選択的に使用可能であることが記載されて いる(甲10記載の「特許請求の範囲」)。 甲10記載の「誘導表皮電流発熱管」及び「直列表皮電流発熱管」は, それぞれ本件発明の「誘導発熱鋼管」及び乙3記載の発明の発熱する「鉄 管」と同じである(前記(エ)b参照)。 そうすると,乙3記載の発明において,発熱する鉄管(直列表皮電流 発熱管)を甲10記載の「誘導表皮電流発熱管」に置き換え,相違点に 係る本件発明の構成とすることに困難はない。 したがって,本件発明は,当業者が,乙3及び甲10に基づいて 容易に発明をすることができたものであるから,進歩性が欠如して いる。 (キ) 無効理由7(乙28の8及び9に基づく新規性欠如) 本件発明は,以下のとおり,乙28の8(国土交通省北海道開発局(以 下「北海道開発局」という。)が保有する「平成16年度施行 直轄堰 堤維持の内 定山渓ダム副ゲート凍結防止装置改修工事」の「特記仕様 書」)及び乙28の9(北海道開発局が保有する上記工事の発注図面) に記載された発明と同一であるから,本件発明に係る本件特許には,特 許法29条1項1号,3号に違反する無効理由(同法123条1項2号) がある。 a 乙28の1ないし9は,被告IHIの従業員が,北海道開 発 局 に対 して,平成16年度(2004年度。工事期間は平成17年1月21 日から同年3月22日まで)に行われた「平成16年直轄堰堤維持の 内 定山渓ダム副ゲート凍結防止装置改修工事」(以下「定山渓ダム 副ゲート凍結防止装置工事」という。)に関し,株式会社イスミック が北海道開発局に提出した文書(完成図書一式及び特記仕様書,発注 図面等)について,個人名で情報公開法に基づく開示請求をし,その 開示を受けて入手したものである。 これら乙28の1ないし9の書類は,原則として,何人であっても 情報公開法に基づく開示請求をすることにより入手することが可能な 文書であるから,一体のものとして特許法29条1項3号の「頒布さ れた刊行物」に該当するというべきである。 また,少なくとも乙28の1ないし9が施工主である北海道開発局 に示された時点で,乙28の1ないし9に記載された発明は,特許法 29条1項1号の「公然知られた発明」に該当するというべきである。 b 乙28の8の記載事項(表紙,前文,第1条,第10条,第11条) 及び乙28の9の記載事項(図面番号「4/5」 図面番号 , 「5/5」) によれば,乙28の8及び9には,「水門設備の凍結防止範囲の被加 熱部材に,各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状 の強磁性鋼材を有する複数個のSECT鋼管を並べてヒータ固定金 具で固定する工程と,前記SECT鋼管に形成された絶縁電線差込み 孔に,絶縁電線を通す工程と,前記被加熱部材と前記SECT鋼管と の間にサーモセメントを充填塗布する工程と,前記絶縁電線の両端に 交流電源を接続する工程とを含む,SECT鋼管による水門凍結防止 装置の施工法」の発明が記載されている。 そして,乙28の8及び9記載の発明の「SECT鋼管」は,本件 発明の「誘導発熱鋼管単体」あるいは「誘導発熱鋼管」に,乙28の 8及び9記載の発明の「サーモセメント」は本件発明の「伝熱セメン ト」にそれぞれ該当するから,本件発明の構成は,乙28の8及び9 にすべて開示されている。 したがって,本件発明は,乙28の8及び9に記載された発明と同 一であるから,新規性が欠如している。 (ク) 無効理由8(公然実施による新規性欠如) 本件発明は,以下のとおり,昭和63年ころに行われた定山渓ダム副 ゲート凍結防止装置工事において公然実施をされた発明と同一であるか ら,本件発明に係る本件特許には,特許法29条1項2号に違反する無 効理由(同法123条1項2号)があり,新規性が欠如している。 a 乙28の1ないし9には,「水門の扉体の上部水密部,側部水密部 及び底部水密部の戸当り金物の水面付近の部分に,各々内部に軸方向 に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材からなる複数個 の誘導表皮電流発熱管を並べて固定する工程と,前記誘導表皮電流発熱管 に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線を挿通する工程と,前記戸 当り金物と前記誘導表皮電流発熱管との間にサーモセメントを充填塗 布する工程と,前記耐熱絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程から なる,水門凍結防止装置の施工方法」の発明が記載されている。 乙28の1ないし9記載の発明は,本件発明の構成要件をすべて備 えるものであり,本件発明と同一である。 b そして,乙28の1ないし9記載の発明は,昭和63年ころに行わ れた定山渓ダム副ゲート凍結防止装置工事において使用された水門凍 結防止装置の施工方法であるから,本件発明は,本件出願前に公然実施 をされた発明と同一であり,新規性が欠如している。 イ 原告の主張 (ア) 無効理由1に対し 仮に本件出願の出願当初の特許請求の範囲に記載されていた発明が 「強磁性鋼材が相互に電気的に絶縁されている」との限定を含んでいた としても,本件当初明細書(甲5)の発明の詳細な説明や図面には,上 記限定の範囲外の発明が記載されているから(本件発明の構成要件Aに つき段落【0043】ないし【0047】,図8,10,12,構成要 件Bにつき段落【0047】,図7ないし12,構成要件Cにつき段落 【0049】,図8,10,12,構成要件Dにつき,段落【0047】, 図7,9,11),平成21年8月10日付け補正は,本件当初明細書 に記載した事項の範囲内においてされたものであり,特許法17条の2 第3項の規定に違反するものではない。 したがって,被告ら主張の無効理由1は理由がない。 (イ) 無効理由2に対し 本件発明が,本件当初明細書に記載された発明であることは,前記 (ア)のとおりであるから,被告ら主張の無効理由2は理由がない。 (ウ) 無効理由3ないし6に対し 被告らの主張は争う。 仮に被告ら主張の無効理由のいずれかが認められるとしても,後記 (3)アのとおり,第2次訂正によって,当該無効理由は解消している。 (エ) 無効理由7及び8に対し 被告らの主張は争う。 乙28の1ないし9には,原告の営業秘密である本件情報が記載され ており,本件情報は,情報公開法5条2号イの不開示情報に該当する。 したがって,本件情報を含む乙28の1ないし9は,何人も開示を受け ることができないものであるから,本件出願前に頒布された刊行物に当 たらない。 (3) 争点1−3(第2次訂正による対抗主張の成否)について ア 原告の主張 (ア) 第2次訂正が適法にされたものであること a 第2次訂正は,本件発明の特許請求の範囲の請求項1について, 「被 加熱部材」を「被加熱部材である戸当板のコンクリート充填側」(構 成要件A’)に訂正し,「並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が, 同一の押さえ金具に溶接されており,さらに,該押さえ金具が前記戸 当板のコンクリート充填側に溶接されている」という構成(構成要件 E’)を追加するものである。 そして,構成要件A’に関する訂正は,「被加熱部材」を,その実 施形態の一つである「被加熱部材である戸当板」に限定し,更に,「戸 当板」のうち誘導発熱鋼管単体を固定する面を,「戸当板のコンクリ ート充填側」に限定するものであり,本件当初明細書(甲5)の段落 【0012】及び図18の記載に基づくものである。 また,構成要件E’の追加も,本件当初明細書の段落【0012】 及び図18の記載に基づく訂正である。 b 以上のとおり,第2次訂正は,本件当初明細書の範囲内において適 法にされたものであり,特許法134条の2第5項で準用する同法1 26条3項に違反するものではない。 (イ) 第2次訂正による無効理由の解消 本件発明に係る本件特許に被告ら主張の無効理由がないことは,前記 (2)イのとおりであるが,仮に被告ら主張の無効理由3ないし6のいず れかによって本件特許が無効になり得るとしても,以下のとおり,第2 次訂正によって当該無効理由は解消される。 a 本件訂正発明は,構成要件E’の構成を採用することによって,@ 発熱鋼管及び戸当板のひずみ防止,コンクリート打設時の発熱鋼管の 剥離やずれ防止,並列の複数個の発熱鋼管単体の戸当板への固定作業 の効率化という, 「発熱鋼管を戸当板に固定する施工時における課題」 と,A発熱鋼管の振動による戸当板からの剥離防止という「装置の長 期的使用において生じる課題」とを解決した点において,公知技術と 対比した場合の進歩性が認められるものである。 被告ら主張の無効理由の引用例(甲10,乙3等)は,いずれも本 件訂正発明の構成要件E’の構成について,開示も示唆もない。また, 平均的な当業者として想定される一般的な電気的加熱装置を扱う技 術者が,上記引用例に基づいて,水門凍結防止装置の特有の技術課題 等を予想して,本件訂正発明の構成要件E’の構成を想到することは 全く不可能である。 b 以上によれば,第2次訂正によって,被告ら主張の無効理由3ない し6は解消される。 (ウ) 本件訂正発明の技術的範囲に属すること a 文言侵害 前記(1)アで述べたのと同様の理由により,新施工方法は,本件訂 正発明の構成要件A’,B’,C’,D’及びF’を充足する。 新施工方法においては,水門凍結防止装置を長さ方向に3分割した うちの一つの部材につき,戸当り金物のフランジの内側に4本の鋼管 を並行に配置し,4本の鋼管を覆うように一つのL字型の固定金具 (フラットバー)を配し,固定金具を,フランジ,ウェブ,鋼管のそ れぞれに溶接することによって,4本の鋼管を戸当り金物に固定する ところ(別紙2の2(1)アないしキ),新施工方法における「固定金 具」(フラットバー)は,本件訂正発明の「押さえ金具」に相当し, 並列の4本の鋼管が一つのフラットバーに溶接されており,更に,フ ラットバーが戸当り金物のフランジのコンクリート充填側に溶接さ れ,これによって,並列の4本の鋼管は,戸当り金物のフランジのコ ンクリート充填側に固定されていることとなるから,新施工方法は, 本件訂正発明の構成要件E’を充足する。 以上によれば,新施工方法は,本件訂正発明の構成要件をすべて充 足するから,その技術的範囲に属する。 b 均等侵害 仮に本件訂正発明の構成要件A’,B’,C’,E’及びF’の「誘 導発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管」が電磁誘導による誘導発熱方 式を採る鋼管を意味するものであり,新施工方法における発熱方式 が,電磁誘導による誘導発熱方式ではなく,発熱ケーブルによる発熱 方式である点で本件訂正発明と相違し,新施工方法が上記各構成要件 を充足しないとしても,以下のとおり,新施工方法は,最高裁判所平 成10年2月24日第三小法廷判決で示された均等の成立要件(第1 ないし第5要件)をすべて充足するから,本件訂正発明と均等なもの として,その技術的範囲に属するというべきである。 (a) 相違部分が本件訂正発明の本質的部分でないこと(第1要件) 本件訂正発明の課題は,@発熱鋼管及び戸当板のひずみ防止,コ ンクリート打設時の発熱鋼管の剥離やずれ防止,並列の複数個の発 熱鋼管単体の戸当板への固定作業の効率化という,「発熱鋼管を戸 当板に固定する施工時における課題」と,A発熱鋼管の振動による 戸当板からの剥離防止という「装置の長期的使用において生じる課 題」の解決であり,本件訂正発明の中核をなす特徴的部分(本質的 部分)は,これらの課題を解決する手段として,構成要件E’の「並 列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具に溶接さ れており,さらに,該押さえ金具が前記戸当板のコンクリート充填 側に溶接されている」という構成を採用した点にある。 そして,新施工方法は,上記特徴的部分に係る構成を備えている。 一方で,新施工方法における発熱方式が,電磁誘導による誘導発 熱方式ではなく,発熱ケーブルによる発熱方式(発熱線による発熱 方式)であり,発熱ケーブルでは振動しないので,新施工方法にお いては,Aの「装置の長期的使用において生じる課題」とは無関係 であるが,@の「発熱鋼管を戸当板に固定する施工時における課題」 は本件訂正発明と課題を共通にし,この課題を上記特徴的部分に係 る構成によって解決するものである。 したがって,発熱方式が電磁誘導であるか,発熱線による発熱で あるかは,本件訂正発明の本質的部分ではない。 (b) 作用効果の同一性(置換可能性)(第2要件) 本件訂正発明の進歩性は,構成要件E’の構成を採用することに よって,前記(a)@の「発熱鋼管を戸当板に固定する施工時におけ る課題」を解決し,水門凍結防止装置という特殊な装置の施工方法 が顕著に優れたものになったことにある。 そして,新施工方法においても,構成要件E’の構成を採用し, 前記(a)@の「発熱鋼管を戸当板に固定する施工時における課題」 を解決しているから,作用効果は同一であるといえる。 (c) 置換容易性(第3要件) 加熱手段として発熱ケーブルを用いることは極めて一般的であ るし,凍結防止装置として被加熱部材に直接取り付けた電熱線に電 流を流す電熱線式は古くから用いられている(甲1,甲2)。 したがって,被告らが新施工方法を実施する時点において,発熱 ケーブルによる発熱方式を採用することは当業者にとって容易で あり,置換容易性がある。 (d) 出願時の公知技術との関係(第4要件) 本件全証拠によっても,新施工方法が,本件出願時における公知 技術と同一又は当業者が公知技術から容易に推考できたものであ るとは認められない。 (e) 意識的除外の不存在(第5要件) 本件出願の出願経過及び第2次訂正手続の過程において,原告 が,本件訂正発明の「誘導発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管」か ら,発熱線による発熱方式を採った鋼管を意識的に排除し,電磁誘 導による誘導発熱方式を採る鋼管に限定したといった事情は存在 しない。 c 小括 以上によれば,新施工方法は,均等論の成立要件(5要件)をすべ て充足し,本件訂正発明と均等なものとして,その技術的範囲に属す る。 (エ) まとめ 以上のとおり,適法にされた第2次訂正によって,被告らが主張する 無効理由3ないし6はいずれも解消され,かつ,新施工方法は,本件訂 正発明の技術的範囲に属するものであるから,上記無効理由に係る被告 ら主張の本件特許権の権利行使の制限の主張は,いずれも理由がない。 イ 被告らの主張 (ア) 第2次訂正が訂正要件に違反すること a 新規事項の追加に当たること (a) 本件当初明細書(甲5)の段落【0012】及び図18に記載 された取付方法は,従来技術とされる図1に示されるような「誘導 表皮電流発熱管」の取付方法であり,この「誘導表皮電流発熱管」 は,短絡片を設けて,鋼管の外周部分には電流が流れない構造とな っており,鋼管の内周部分に流れる電流のみによって生じるジュー ル熱を利用したものである。これに対し本件訂正発明は,「誘導発 熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法」であって,請求項2で限 定されているように,誘導発熱鋼管単体を電気的に絶縁したものを 含み,あるいはこれに限定されるものであるから,本件当初明細書 の上記記載を根拠として第2次訂正をすることは認められない。 本件訂正発明は,本件当初明細書に格別に記載された「本件従来 技術」による取付工法(構成要件E’のとおり,押さえ金具が誘導 表皮発熱管に溶接されるので,押さえ金具に溶接された複数の誘導 表皮発熱管同士は,押さえ金具を解して電気的に導通されることと なり,その結果,押さえ金具は,短絡片の機能を果たすこととなる。) と「本件最良実施形態」(この実施形態において,並列に並べられ た鋼管単体同士は電気的に接続されないものである。)の二つの独 立した技術思想を適当に組み合わせて,発明の体裁を整えたものに すぎず,このような発明が本件当初明細書に記載された事項である とはいえない。 (b) また,本件当初明細書には,本件訂正発明が規定する「誘導発 熱鋼管単体」について,本件訂正発明が規定する構成要件E’の構 造(「並列の前記複数個の誘導発熱鋼管単体が,同一の押さえ金具 に溶接されており,さらに,該押さえ金具が前記戸当板のコンクリ ート充填側に溶接されている」)は記載も示唆もされていない。 b 小括 以上のとおり,第2次訂正は,第2次審決(乙44)が認定判断す るように,本件当初明細書に記載した事項の範囲内においてされたも のではないから,新規事項の追加に当たり,特許法134条の2第5 項で準用する同法126条3項に適合しない。 (イ) 第2次訂正による無効理由の解消の主張に対し 前記(2)アで述べたのと同様の理由により,第2次訂正によっても, 被告らが主張する無効理由はいずれも解消されない。 なお,第2次訂正によって,本件明細書の発明の詳細な説明は訂正さ れておらず,発明の詳細な説明には,原告が主張する本件訂正発明の目 的・作用効果についての何ら記載がないから,この点においてもサポー ト要件違反(被告ら主張の無効理由2)がある。 (ウ) 新施工方法が本件訂正発明の技術的範囲に属するとの主張に対し a 文言侵害の主張に対し 前記(1)イで述べたのと同様の理由により,新施工方法は,本件訂 正発明の構成要件A’ないしF’をいずれも充足せず,その技術的範 囲に属しないものである。 b 均等侵害の主張に対し 原告主張の均等論は,新施工方法が本件訂正発明の「絶縁電線」 (構 成要件A’,B’及びD’)及び「絶縁電線の両端に交流電源を接続 する」(構成要件D’)との構成等の多数の構成要件を充足しないこ とを無視するものであり,その主張自体失当である。 仮に本件訂正発明と新施工方法との相違部分が原告主張の相違部 分に限定されるという前提に立ったとしても,以下のとおり,新施工 方法は,均等論の第1要件,第2要件及び第5要件を充足せず,本件 訂正発明と均等なものとはいえない。 (a) 第1要件の非充足 本件明細書(甲14)の記載(段落【0015】ないし【002 0】,【0030】,【0031】等)によれば,本件訂正発明は, 「誘導発熱鋼管単体」又は「誘導発熱鋼管」について,「短絡片」 のような部材を有さず,かつ,強磁性鋼材の鋼管が相互に電気的に 絶縁されている鋼管あるいはこれを使用した方式ないし構造を採 用することで,鋼管の外周部分にも電流を生じさせ,従来の表皮電 流発熱管による水門凍結防止装置の課題であった発熱効率及び伝 熱効率を向上させることができることに技術的意義がある。 そうすると,本件訂正発明の本質的部分は,誘導発熱方式におい て,上記の構成を有する「誘導発熱鋼管単体」又は「誘導発熱鋼管」 を用いることにあるというべきであるから,誘導発熱方式とは無関 係な「発熱線加熱装置」を用いた方式を採用する新施工方法と本件 訂正発明との相違部分は,本件訂正発明の本質的部分に関わるもの であるといえる。 (b) 第2要件の非充足 上記のとおり,電磁誘導による誘導発熱方式でなければ,本件訂 正発明の目的を達成することはできず,同一の作用効果も奏しない から,新施工方法と本件訂正発明との間に置換可能性は認められな い。 (c) 第5要件の非充足 原告は,本件出願の審査中に作成した甲34(「大河津可動堰改 築ゲート設備工事のうち凍結防止装置 評価項目」と題する書面) において,「鋼管発熱方式の場合は,日本工営特許「誘導発熱鋼管 による水門凍結防止装置」に抵触の可能性がある。」と記載する一 方で,新施工方法のように,2芯ケーブルを用いる方式であれば, 鋼管発熱方式に該当しないとして,本件特許との関係で抵触が生じ ないことを対外的に認めている。 したがって,原告は,本件出願の出願経緯において,本件訂正発 明の「誘導発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管」から,発熱線によ る発熱方式を採った鋼管を意識的に排除したというべきである。 c 小括 以上のとおり,新施工方法は,本件訂正発明の構成要件をいずれも 充足せず,また,均等侵害も成立しないから,本件訂正発明の技術的 範囲に属さない。 (エ) まとめ 以上のとおり,第2次訂正は訂正要件に違反し,その点を措くとして も,第2次訂正によって本件特許の無効理由は解消されず,また,新施 工方法は本件訂正発明の技術的範囲に属さないものであるから,原告の 第2次訂正による対抗主張は理由がない。 (4) 争点2(被告らによる不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為の成 否)について ア 原告の主張 (ア) 本件情報の概要 本件情報の概要は,次のとおりであり,その具体的な内容は,別紙3 の各【技術情報】欄記載のとおりである(以下,各符号に係る具体的な 情報内容を,「本件情報A.1)」,「本件情報A.2)」,「本件情 報A.3)−1」などということがある。)。 「A.全体設計に関する情報 1) 発熱鋼管の高さ方向の加熱範囲の設定 2) 発熱鋼管による加熱範囲(水平方向)の設定 3) 鋼管による二次閉ループを形成するための構造設計 3)−1 上部の接続構造 3)−2 下部の接続構造 3)−3 専用ジョイントソケットの使用・構造 4) 端末箱の使用及び端末箱内の鋼管の配置 B.発熱鋼管及び電線の選択 C.鋼管の配列本数及び電気容量の決定 1) 配列本数及び電気容量の決定プロセス 2) 凍結防止部表面温度の設定 3) 凍結防止部附近平均風速の設定 4) 所定温度上昇時間の設定 D.水門凍結防止装置の通電運転制御の方法 1) 凍結防止部表面温度 2) 温度検出器の設置位置 3) 凍結防止部表面温度の設定値と加熱停止温度の差の設定 4) ヒーター負荷回路の回路設計 E.凍結防止装置の寿命の向上,保守運用技術 1) 電線の被覆層の材質と耐熱温度 2) 電線の被覆層の被覆方法 3) 伝熱セメントの選択」 (イ) 被告らによる本件情報の使用 a 原告は,被告IHIに対し,被告IHIが原告に発注した昭和53 年の「建設省白川ダムクレスゲート凍結防止装置」設置工事,昭和5 6年の「北海道開発局十勝ダムクレストゲート凍結防止装置」設置工 事,「建設省北陸地方建設局大河津分水洗堰主ゲート凍結防止装置」 設置工事を納入した際に,その関係書類等(甲22の1,2,23の 1ないし5,24ないし27の書面と同様のもの)を示したり,実際 の工事現場の状況を確認させるなどして,本件情報を開示してきた。 b 被告IHIは,平成20年12月19日,本件工事を落札した後, 同22日,北陸地方整備局長との間で,本件工事の請負契約を締結し た。 その後,被告IHIが信濃川河川事務所に提出した甲11(「大河 津可動堰改築ゲート設備工事凍結防止装置関係図」)に,本件情報に 係る記載があることからすると,被告IHIが,甲11の作成(甲1 1記載の凍結防止装置の設計)及び本件工事における水門凍結防止装 置の施工に当たり,本件情報(ノウハウ)を使用していることは明ら かである。 (ウ) 本件情報の営業秘密該当性 原告が保有する本件情報は,以下のとおり,不正競争防止法2条6項 の「営業秘密」に該当する。 a 秘密管理性 (a) 原告は,秘密情報管理規程(甲12の3)等を定めており,原 告の内部では,本件情報について,請負契約に基づく顧客への開示 を除き,第三者にその内容を開示しないように厳重に管理を行って いる。一方で,原告の顧客との関係では,TRIPS協定39条2 項(c)号にいう「状況に応じた合理的な措置」(甲18)の範囲内 での十分な秘密の管理を行っている。 (b) 原告と被告IHIは,平成14年4月1日,原告の注文に基づ き被告IHIが原告の工事を請け負うことに関し,工事請負基本契 約(以下「本件請負基本契約」という。)を締結した(甲13)。 (c) 本件情報は,原告の水門凍結防止装置の設計に関する基本的か つ重要な設計情報そのものであり,原告の意思に反して自由に使用 することのできる類のものではないから,本件請負基本契約の条項 に明示的に秘密保持義務が記載されていなくても,本件請負基本契 約に付随する信義則上の義務として,あるいは公正な商慣習法上の 義務として,被告らは,原告に対し,本件情報に係る秘密保持義務, 目的外使用禁止義務を負うものである。 (d)@ これに対し被告らは,被告らに秘密保持義務を課す条項が本 件請負基本契約には存在しないので,本件情報について,秘密保 持義務を負うものではない旨主張する。 しかしながら,秘密管理性は,秘密の管理について「状況に応 じた合理的な措置」がとられていればよいから,「秘密保持条項 の明文」という形式は,不正競争防止法によって営業秘密を保護 するための要件としては重要でない。 そして,本件情報は,原告の凍結防止装置の設計に関する,基 本的かつ重要な設計情報そのものであるところ,被告IHIは, 長年,原告と水門凍結防止装置の請負契約を行ってきたのであり, 原告の設計情報が原告にとって重要な企業秘密情報であることは 被告IHIが熟知しているはずであることなどからすれば,前記 (c)のとおり,被告らは,本件請負基本契約に付随する信義則上 の義務として,あるいは公正な商慣習法上の義務として,本件情 報に係る秘密保持義務,目的外使用禁止義務を負うものであるか ら,被告らの上記主張は理由がない。 A 被告らは,本件情報について,それが原告の営業秘密であるこ とが被告らに対して客観的に明示されていない旨主張する。 しかしながら,そのように外形的に秘密であることが表示され ていないとしても,別紙3の各【技術情報】欄記載のとおり,本 件情報は,原告の水門凍結防止装置の設計に関する基本的かつ重 要な設計情報そのものであるから,その内容それ自体によって, 原告の営業秘密であ ることを被告らは十 分に認識できること は 明らかである。 したがって,外形的に秘密であることが表示されていないこと をもって,直ちに本件情報の秘密管理性が否定されるものではな く,被告らの上記主張は理由がない。 b 本件情報の有用性 (a) 本件情報には,水門凍結防止装置の加熱範囲の設定,鋼管によ る二次閉回路の構造設計,発熱鋼管と電線の選択,鋼管の配列本数 と電気容量の決定等の水門凍結防止装置の基本設計に必要な情報 が含まれ,これに加えて,通電制御方法や装置の寿命の向上,保守 運用のための技術も含まれている。このように本件情報は,水門凍 結防止装置の設計情報として,相互に有機的な関連をもって「承認 申請図」や「設計計算書」にまとめられている情報群である。 本件情報の個別具体的な有用性は,別紙3の各【考え方】欄記載 のとおりである。 (b) 被告らは,本件情報について,所与の条件によって必然的に決 定される設計条件であるとか,当業者が適宜選択しうる技術事項で あるとして,一見して明らかに有用性が認められないものが多数含 まれており,有用性がない旨主張する。 しかしながら,本件情報は,水門凍結防止装置について原告が長 年の経験によって蓄積してきたノウハウであり,被告らは,本件情 報の設計条件をなぜ採用するのか,その意義を全く理解することな く,原告が採用する設計条件をそのまま採用したにすぎない。被告 らは,過去において水門凍結防止装置の開発経験が皆無であったに もかかわらず,原告のノウハウを不正に利用したからこそ,甲11 の設計書類を非常に短期間で作成し,本件工事を施工することがで きたのである。 したがって,被告らの上記主張は理由がない。 c 本件情報の非公知性 (a) 本件情報は,その保有者である原告の管理下以外では,一般に 入手することができないものであるし,被告IHIを含め,原告が 請負契約に基づいて本件情報を開示した者については,当該契約に 付随する信義則上の義務,あるいは公正な商慣習法上の義務とし て,秘密保持義務を負っているものであるから,そういった観点か ら,非公知性は担保されている。 (b) 被告らは,本件情報が記載された資料が国土交通省に提供され ており,情報公開制度を利用して何人でもその開示請求ができるこ と,また,実際に,開示されたことを理由として,本件情報の非公 知性が否定される旨主張する。 しかしながら,本件情報は,情報公開法5条2号イの不開示情報 に当たるものであるから,行政機関が保有しているだけでは公知で あるとはいえない。被告らの指示を受けた被告IHIの従業員の情 報公開請求によって,行政機関から同人に対して本件情報が開示さ れたという事実はあるが,これは,行政機関が,本件情報が上記不 開示情報に該当することを看過して情報を開示してしまったにす ぎないものであるし,原告の本訴提訴後に,本件情報が誤って開示 されたからといって,被告らが本件情報を使用して甲11の設計書 類を作成した時点における本件情報の非公知性が否定されるもの ではない。 したがって,被告らの上記主張は理由がない。 (エ) 被告らによる本件情報の使用目的 被告らは,従前,本件請負基本契約に基づいて,水門凍結防止装置の 設置工事については,これを原告に行わせていたにもかかわらず,その ような契約関係を通じて入手した原告の営業秘密である本件情報(ノウ ハウ)を使用して,原告が開発してきた水門凍結防止装置の製造ビジネ スについて,原告から同ビジネスを奪うという不正の利益を得る目的又 は原告に損害を加える目的で,同ビジネスに新規参入をしてきた。 (オ) まとめ 以上のとおり,被告らが,不正の利益を得る目的又は原告に損害を加 える目的で,原告から開示された営業秘密である本件情報を使用して, 甲11の作成(甲11記載の凍結防止装置の設計)をし,本件工事にお ける水門凍結防止装置の施工をした行為は,不正競争防止法2条1項7 号に規定する不正競争行為(営業秘密の不正使用行為)に該当する。 イ 被告らの主張 (ア) 被告らによる本件情報の使用及びその使用目的の主張に対し 被告らが図利加害目的で本件情報の不正使用を行った事実はない。 被告IHIは,本件工事について独自に各種の設計条件を採用したの であって,本件情報を使用したことは一度もない。仮に被告IHIが採 用した設計条件に本件情報と一致する部分があったとしても,それは当 業者の通常選択する設計的事項であることから,一致したにすぎない。 また,甲11は,工事の過程における案の一つにすぎないものであり, 客先である信濃川河川事務所は,甲11記載の内容を受け入れておら ず,実際に,本件工事では,甲11と無関係の新施工方法が実施されて おり,甲11は全く使用されていない。 (イ) 本件情報の営業秘密該当性の主張に対し a 秘密管理性について 営業秘密としての秘密管理性が認められるためには,事業者が主観 的に秘密として管理しているだけでは不十分であり,客観的にみて秘 密として管理されていると認識できる状態にあることが必要である と解される(経済産業省「営業秘密管理指針」平成22年4月9日改 訂13頁参照)。 以下のとおり,本件情報は,主観的にも客観的にも秘密として管理 されているものとはいえず,本件情報は,秘密管理性の要件を充たさ ない。 (a) 原告の秘密情報管理規程(甲12の3)の6条によれば,営業 秘密には営業秘密である旨を記録媒体に明示しなければならない とされているが,被告らが原告から開示を受けた水門凍結防止装置 に関する資料にはそのような表示は一切付されてないし,被告ら は,原告から資料の提供を受けるに当たって,秘密情報として取り 扱うように要求されたことは一度もない。 (b) 原告の秘密情報管理規定(甲12の3)の5条によれば,原告 の管理責任者は開示先にも秘密保持の徹底を図る責務を負うとさ れているのであるから,仮に被告らが原告の主張するような秘密保 持義務を負うというのであれば,原告と被告IHIとの間の本件請 負基本契約の契約書(甲13)には,被告IHIに秘密保持義務を 課す旨の条項が記載されて然るべきところ,同契約書には,そのよ うな秘密保持義務は一切記載されていない。そうである以上,私的 自治の原則に鑑みて,被告IHIは,原告が主張するような秘密保 持義務等を負うものではない。 また,明示又は黙示の合意が存在しないにもかかわらず,原告及 び被告IHIが相互に秘密保持義務を負うなどといった原告主張 の「公正な商慣習」は存在しない。 (c) 被告IHIが,原告から提供を受けた設計計算書,取扱説明書 等は,発注者である国土交通省等に提出しており,それらの文書は 情報公開法に基づく情報開示の対象になっているところ,原告が本 件情報を秘密として管理しているのであれば,情報公開法に基づく 開示が行われることを防止するために何らかの措置が講じられて 然るべきであるが,原告は,そのような措置を何ら講じていなかっ たものである。 (d) 原告は,秘密情報管理規程(甲12の3)等に基づいて,本件 情報を秘密として管理していた旨を主張する。 しかしながら,秘密情報管理規程(甲12の3)が制定されたの は平成17年4月1日であり,同日以前の時点において,原告にお いて本件情報について秘密管理がなされていたことを示す証拠は ない。 いずれにせよ,前記(a),(b)のとおり,原告は,被告らとの関 係で,本件情報を秘密として取り扱うことをしていないのであるか ら,原告内部における本件情報の管理体制は,本件における秘密管 理性の有無に何ら影響するものではない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 b 有用性について 不正競争防止法2条6項にいう「有用な」とは,当該情報自体が事 業活動に使用・利用されていたり,又は,使用・利用されることによ って費用の節約,経営効率の改善等に役立つものという意味であり, 当業者であれば通常の創意工夫の範囲内において適宜に選択する設 計的事項にすぎない情報などは有用性が否定されると解されるとこ ろ,本件情報には,所与の条件によって必然的に決定される設計条件 や当業者が適宜選択しうる技術事項のような一見して明らかに有用 性が認められないものが多数含まれている。 したがって,本件情報に有用性は認められない。 c 非公知性について (a) ある情報について非公知性が認められるためには,保有者の管 理下以外では当該情報を一般に入手できない状態にあることが必 要であるところ,被告IHIが本件情報について秘密保持義務を負 っていないこと,本件情報が記された資料は発注者である国土交通 省に提供されているため,その提供がなされた時点で,情報公開法 (平成13年4月1日施行)により,原則として何人であっても行 政機関の長に対し請求することにより開示(閲覧又は写しの交付) を受けることができる状況にあり,実際に,被告IHIの従業員が, 平成22年1月8日付けで北海道開発局宛てに行った行政文書開 示請求に基づき,本件情報が記載された乙28の1ないし9(平成 16年度施工の定山渓ダム副ゲート凍結防止装置改修工事に関す る施工計画書等)が開示されていること,ダムのゲートに関する工 事に関わる多数の行政庁の職員や下請業者の全員が本件情報につ いて守秘義務を負っているとは考え難いことからすると,本件情報 について,非公知性は認められないといわざるを得ない。 (b) これに対し原告は,被告らの指示を受けた被告IHIの従業員 の情報公開請求によって,行政機関から同人に対して本件情報が開 示されたという事実はあるが,これは,行政機関が,本件情報が情 報公開法5条2号イの不開示情報に当たることを看過して情報を 開示したにすぎない旨を主張する。 しかしながら,乙28の1ないし9が情報公開法に基づく開示請 求により現実に公開されていたことは事実であること,北海道開発 局が,乙28の1ないし9に係る情報公開請求について,情報公開 法13条1項の任意的意見聴取を行っていないことからすると,北 海道開発局は,任意的意見聴取をするまでもなく,本件情報が同法 5条2号イの不開示情報に該当しないと判断したものと考えられ る。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (ウ) まとめ 以上によれば,被告らによる甲11の作成行為(甲11記載の凍結防 止装置の設計をした行為)及び本件工事を施工した行為が不正競争防止 法2条1項7号の不正競争行為に該当するとの原告の主張は,理由がな い。 (5) 争点3(原告の損害額)について ア 原告の主張 (ア) 被告IHIが賠償すべき原告の損害額 a 本件特許権侵害の不法行為による損害 (a) 被告IHIが,本件工事において,新施工方法によって水門凍 結防止装置を施工した行為は,原告の本件特許権を侵害する不法行 為に当たるから,被告IHIは,原告に対し,原告が受けた損害を 賠償する義務を負う。 (b) 特許法102条1項は,侵害行為を組成した物の譲渡数量に, 「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当た りの利益の額」を乗じて得た額を,特許権者又は専用実施権者の実 施能力を超えない限度において,特許権者又は専用実施権者が受け た損害額とすることができると規定している。 しかるところ,@被告IHIが施工した水門凍結防止装置(「侵 害の行為を組成した物」)は全部で6門であること,A6門の全部 について原告が本件発明の実施品である水門凍結防止装置を供給 する能力(実施能力)を有していたこと,B原告が,従前の交渉経 過の段階で,被告IHIに対して提示した6門の水門凍結防止装置 の見積金額が2億1960万円であり,原告の本件発明の実施品の 限界利益率が40%を下回らないことからすると,特許法102条 1項によって算定される原告の損害額は,8784万円を下回らな い。 b 不正競争行為(営業秘密の不正使用)による損害額 (a) 被告IHIが,甲11を作成し,本件工事において,新施工方 法によって水門凍結防止装置を施工した際に,別紙3記載の原告の 営業秘密であるノウハウを不正に使用した行為は,不正競争防止法 2条1項7号の不正競争行為に当たるから,被告IHIは,原告に 対し,同法4条に基づき,原告が受けた損害を賠償する義務を負う。 (b) 不正競争防止法5条1項は,侵害行為を組成した物の譲渡数量 に,「侵害の行為がなければ販売することができた物の単位数量当 たりの利益の額」を乗じて得た額を,被侵害者の当該物に係る販売 その他の行為を行う能力に応じた額を超えない限度において,被侵 害者が受けた損害額とすることができると規定している。 しかるところ,@被告IHIが施工した水門凍結防止装置(「侵 害の行為を組成した物」)は全部で6門であること,A6門の全部 について原告が本件発明の実施品である水門凍結防止装置を供給 する能力(実施能力)を有していたこと,B原告が,従前の交渉経 過の段階で,被告IHIに対して提示した6門の水門凍結防止装置 の見積金額が2億1960万円であり,原告の本件発明の実施品の 限界利益率が40%を下回らないことからすると,不正競争防止法 5条1項によって算定される原告の損害額は,特許法102条1項 によって算定される場合(前記a(b))と同様に,8784万円を 下回らない。 c 小括 以上によれば,原告は,被告IHIに対し,本件特許権侵害の不法 行為に基づく損害賠償又は不正競争防止法4条に基づく損害賠償と して,8784万円及びこれに対する平成21年11月19日(本訴 (平成21年(ワ)第38627号事件)の訴状送達の日の翌日)か ら支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を 求めることができる。 (イ) 被告インフラシステムが賠償すべき原告の損害額 前記(ア)において被告IHIについて述べたのと同様の理由によっ て,原告は,被告インフラシステムに対し,本件特許権侵害の不法行為 に基づく損害賠償又は不正競争防止法4条に基づく損害賠償として,8 784万円及びこれに対する平成21年12月15日(本訴(平成21 年(ワ)第44344号事件)の訴状送達の日の翌日)から支払済みま で民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることがで きる。 イ 被告らの主張 原告の主張はいずれも争う。 なお,被告IHIと被告インフラシステム間の平成21年8月24日付 け吸収分割契約に基づく吸収分割により,同年11月1日,本件工事を含 む,被告IHIが営む橋梁,水門その他鋼構造物事業及びこれらのメンテ ナンス事業に係る被告IHIの債権債務は,本訴(平成21年(ワ)第3 8627号事件)に係る法律関係も含めて,すべて被告インフラシステム に承継されているから,原告の被告IHIに対する損害賠償請求は失当で ある。 2 反訴関係 (1) 争点4(原告による不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為の成 否)について ア 被告らの主張 (ア) 告知行為に至る経緯 a 本件工事の受注を目指していた被告IHIは,平成20年8月22 日,本件工事の見積原価を作成するために,過去の受注工事における 水門凍結防止装置の設計を依頼していた原告に対し,本件工事の水門 凍結防止装置の見積依頼をしたところ,同年9月2日,原告から,見 積金額2億1960万円の提示があったが,被告IHIが想定してい たものよりもあまりに高額であるといわざるを得なかった。そこで, 被告IHIは,原告と値引き交渉を行ったが,原告の対応は極めて硬 直的なものであったため,同年12月ころには,本件工事を受注でき た場合の納期の関係もあることから,自社開発を視野に,基礎技術の 開発を始めた。 b 被告IHIは,平成20年12月19日に本件工事を落札し,同月 22日に本件工事を受注した以後,水門凍結防止装置を自社開発する ための研究を継続しつつ,原告との値引き交渉を継続することとし た。 被告IHIは,平成21年4月1日,原告から一切の値引に応じな いとの回答を受けた後,同年5月7日,原告に対し,本件工事におけ る水門凍結防止装置を自社開発で行うことを正式に連絡した。 (イ) 告知行為 a 原告の担当者は,平成21年6月19日,信濃川河川事務所を訪問 し,同事務所の担当者に対し,「大河津可動堰改築ゲート設備工事の うち凍結防止装置 評価項目」と題する書面(甲34)を交付し,被 告IHIの水門凍結防止装置が原告の特許権を侵害する可能性があ る旨を述べた。 甲34には,「承認申請されたヒーターが鋼管発熱方式の場合は, 日本工営特許「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」に抵触の可能 性がある。」との記載がある。 b 原告の担当者は,平成21年7月29日,信濃川河川事務所を再度 訪問し,同事務所の担当者に対し,被告IHIが水門凍結防止装置を 自社開発した場合には,本件出願に係る特許権を侵害する旨を告げ た。 (ウ) 不正競争防止法2条1項14号該当性 a 被告IHIが原告の前記(イ)の行為がされた当時予定していた旧 施工方法及び被告インフラシステムが本件工事において実施した新 施工方法は,いずれも本件発明の技術的範囲に属さず,また,本件発 明に係る本件特許には無効理由があるから,原告の上記行為は,「競 争関係にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」(実際には特 許侵害をしていないのに,特許侵害をするとの虚偽の事実)を告知す る行為(不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為)に該当する。 b(a) これに対し原告は,後記のとおり,平成21年6月19日の時 点(甲34の交付時点)では,原告及び客先である信濃川河川事務 所は被告らの水門凍結防止装置の方式の具体的内容を知るに至っ ていないし,本件出願の手続補正が行われている段階であるから, 原告が,客先に対して行った説明は,被告IHIの水門凍結防止装 置が鋼管発熱方式である場合には,原告が出願している特許との抵 触問題があり得ることを一般的に指摘し,客先はこのような指摘で あることを十分理解していたから,虚偽の事実の告知に当たらない 旨を主張する。 しかしながら,仮に特許権者が自らが保有する特許権の無効理由 や被侵害者の対象物件又は対象方法を十分に調査した上で客先に 警告を行った場合であっても,結果的に非侵害であったり,無効で あれば,原則的には,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行 為に該当すると解されている。本件においては,未だ特許権が成立 していない段階において,原告において,被告IHIの水門凍結防 止装置やその施工方法を何ら調査することなく,漫然と客先に警告 を行ったもので,その悪質性は極めて高い。 また,本件工事の平成20年8月付け特記仕様書(甲15)には, 「凍結防止装置は鋼管発熱方式とする。」と記載されているから, 被告IHIが自社開発を行う装置は,特段の事情がない限り,鋼管 発熱方式の凍結防止装置となるところ,「鋼管発熱方式」といえば, 水門設備においては,「電磁誘導方式」(旧施工方法など)か「発 熱ケーブル方式」(新施工方法など)しかない上,一般的に用いら れている方式は,「電磁誘導方式」であり,しかも,被告IHIが 原告に発注しようとしていた装置は「電磁誘導方式」であった。 そして,被告IHIは,平成21年5月7日,原告に対し,原告 への発注をやめて水門凍結防止装置を自社開発することを伝えてい るのであるから,原告は,甲34の交付時点で,被告IHIの水門 凍結防止装置が「電磁誘導方式」となる蓋然性が高いことを十分に 理解した上で,客先に対し,警告を行ったものであって,原告が出 願している特許との抵触問題があり得ることを一般的に指摘したに すぎないものとはいえない。また,客先において,原告の前記(イ) aの告知内容は,被告IHIの実施する施工方法が原告の出願した 特許を侵害する旨のものであると捉えたことは疑いようがない。 したがって,原告の上記主張は理由がない。 (b) 次に,原告は,後記のとおり,平成21年7月29日に客先の 担当者を訪問した際は,本件出願の手続補正が同月17日に行われ たことから,本件出願の審査状況について説明したにすぎないなど と主張する。 しかしながら,原告の客先の担当者への上記訪問は,被告IHI が平成21年7月1日に水門凍結防止装置に関する設計図書(甲1 1)を客先に提示し,同月2日ころこれを原告に交付した後にされ たものである。 そして,原告が客先を訪問した翌日の7月30日には,客先の担当 者から被告IHIの担当者に対して,「IHIの言い分と日本工営の 言い分に大きな差がある。一度整理したいので,来週早々に事務所で 打合せしたい」との電話連絡があった(乙20)。仮に原告が被告I HIの装置とは無関係に,一般的に本件出願の審査状況を報告しただ けであれば,「日本工営の言い分」なるものはそもそも存在しないか ら,客先から「IHIの言い分と日本工営の言い分に大きな差があ る。」という発言がされるはずがないし,少なくとも,客先が「日本 工営の言い分」としている以上,原告が行った説明について,客先は, 原告が,「被告IHIの装置が原告の特許権(正確には出願中である) を侵害する」との説明をされたものと受け取っていることは明らかで ある。 さらに,客先からの上記電話連絡を受けて,被告IHIは,同年8 月6日に客先と打合せを行った。打合せの目的は,「日本工営が凍結 防止装置に関して「追加特許」申請中で,特許抵触するのではないか という心配を客先がしており,今後の対応について客先と協議するた め」である(乙22)。原告が客先に対して,被告IHIの装置との 関係で原告が本件出願に係る発明の説明をしていなければ,被告IH Iが,客先から急遽このような協議を求められることはなく,客先が 被告IHIの装置に対し原告の特許権に抵触するおそれがあるので はないかとの疑念を抱いたことは明らかである。 したがって,原告の上記主張は,事実に反するものであって,理 由がない。 (エ) 小括 以上のとおり,原告による前記(イ)の告知行為は,不正競争防止法2 条1項14号の不正競争行為に該当する。 イ 原告の主張 (ア) 被告ら主張の前記ア(イ)aの告知行為について 国土交通省は,水門凍結防止装置を含むダム等の工事の入札に当たっ て,水門凍結防止装置の参考見積を原告に依頼していた。結果的には, ダム工事を落札した企業が水門凍結防止装置の部分は原告に発注する ので,水門凍結防止装置を実際に製造するメーカーが国土交通省に入札 のための参考見積を提出するという関係になっていた。本件工事の入札 に当たっても,信濃川河川事務所(客先)は,平成19年9月28日及 び平成20年5月9日に,本件工事のうち水門凍結防止装置の参考見積 を原告に依頼し,原告は,その見積書(甲31の1ないし4)を客先に 提出した。 被告IHIが自社開発したとする水門凍結防止装置が客先によって 正式に採用されるためには,客先において,特記仕様書(甲15)に基 づいて被告IHIの水門凍結防止装置の評価を行い,承認を受ける必要 がある。 そこで,原告の担当者は,平成21年6月19日,客先の便宜を考慮 し,信濃川河川事務所工務課担当者を訪問し,甲34を提示して,一般的 に水門凍結防止装置の承認申請図が受注者から提出された場合に,どのよ うな点に着目して評価すべきかの評価項目を説明し,その中で,水門凍結 防止装置が鋼管発熱方式の場合には,原告が出願している特許との抵触 問題があり得ることを一般的に説明した。すなわち,この時点では,原 告及び客先は被告IHIが自社開発しようとする水門凍結防止装置の 方式の具体的内容を知らない状況にあり,原告の客先に対する説明は, もしそれが鋼管発熱方式であれば,原告が出願している特許に抵触する 可能性があるとの一般論を述べたものであり,また,本件出願の手続補 正が行われていない段階であったから,特許発明の具体的内容を前提と するものではない。 したがって,原告の上記説明は,被告らが主張するような「競争関係 にある他人の営業上の信用を害する事実」の告知に当たらない。 (イ) 被告ら主張の前記ア(イ)bの告知行為について 原告の担当者は,平成21年7月17日に本件出願の手続補正が行わ れたことから,同月29日に客先の担当者を訪問し,本件出願の審査状 況について報告したが,その際に,被告ら主張の前記ア(イ)bの告知行 為を行った事実は存在しない。 被告らが根拠として挙げる乙20及び乙22の電子メールは,被告I HIの従業員が被告IHIの立場で作成したものであるから,そもそも 客先の発言を正確に記載したものとはいえない。 乙20の電子メールは,客先から電話を受けた被告IHIの従業員が 他の従業員にその旨の連絡を行ったものであり,客先からの電話の用件 は,客先が同年7月29日に原告の訪問を受けて,翌週に被告IHIと 打合せがしたいと求めたことである。この電子メールの時点より前に, 原告と被告IHIの双方が客先に「言い分」を具体的に述べた事実はな いのであり,仮に客先が「IHIの言い分と日本工営の言い分に大きな 差がある。」というような表現を用いたとしても,原告が同日に被告I HIの具体的な装置について,同月17日付け補正に係る特許を侵害す ると客先に告知したことを示すものではない。 また,乙22の電子メールは,同年8月6日に行われた客先と被告I HIの打合せの内容を被告IHIの他の従業員に報告するものである。 乙22の電子メールには打合せの目的として,「日本工営が凍結防止装 置に関して「追加特許」申請中で,特許抵触するのではないかという心 配を客先がしており,今後の対応について客先と協議するため」との記 載があるが,この記載は,上記打合せを行った際の被告IHI側の認識 を表現したものにすぎず,同電子メールには,打合せの場で客先が,原 告は被告IHIの装置が原告の特許を侵害すると主張していると述べた などとは一切記載されていない。 したがって,乙20及び乙22の電子メールは,被告ら主張の前記ア (イ)bの告知行為を行った事実を裏付けるものではない。 (ウ) 不正競争防止法2条1項14号該当性について a 前記(ア)及び(イ)のとおり,原告の担当者が平成21年6月19日 及び同年7月29日に客先の担当者に行った説明内容は,水門凍結防止 装置の承認の判断における評価項目として,鋼管発熱方式の場合に問題 となり得る特許出願の存在の指摘及びその審査状況の報告のみであっ て,被告らが主張するような「競争関係にある他人の営業上の信用を害 する事実」ではない。 また,原告の担当者が行った説明内容に,「虚偽の事実」となり得る 事実は存在しない。 b 原告と客先との関係は,一般に特許侵害に関して不正競争防止法2 条1項14号の問題が起こり得る権利者(告知者)と被告知者の関係 とは全く異なるもので,前記(ア)のとおり,原告は,客先から依頼を 受けて,本件工事における水門凍結防止装置の参考見積を提出した り,被告らの水門凍結防止装置について必要な情報の提供を求められ たりする立場にあったもので,原告が客先に提供した甲34に掲載さ れた情報や告知内容は,客先が被告らの施工方法に係る水門凍結防止 装置の評価を適切にするため必要なもので,被告らの営業上の信用を 害するものではない。 c 以上によれば,原告の担当者が平成21年6月19日及び同年7月 29日に客先の担当者に行った説明(告知行為)が,不正競争防止法2 条1項14号の不正競争行為に該当するとの被告らの主張は理由が ない。 (2) 争点5(原告による本訴の提起及び別件仮処分の申立ての不法行為該当 性)について ア 被告らの主張 原告は,平成21年10月28日に,被告IHIに対し,本訴(平成2 1年(ワ)第38627号事件)を,同年12月7日に,被告インフラシ ステムに対し,本訴(平成21年(ワ)第44344号事件)をそれぞれ 提起し,平成22年5月17日に,被告らに対し,別件仮処分の申立てを した。 ところで,訴訟において,提訴者の主張した権利又は法律関係(以下「権 利等」という。)が事実的,法律的根拠を欠くものである上,提訴者が, そのことを知りながら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たと いえるのにあえて訴えを提起したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的 に照らして著しく相当性を欠くと認められるときには,当該訴えの提起 は,訴権の濫用として,不法行為を構成する(最高裁判所昭和63年1月 26日第三小法廷判決・民集42巻1号1頁参照)。この理は,仮処分の 申立てにもあてはまるものであり,仮処分の申立人の主張した権利等が事 実的,法律的根拠を欠くものである上,申立人が,そのことを知りながら 又は仮処分の申立てをするために通常必要とされている事実調査及び法 律的検討をすれば,事実的,法律的根拠を欠くことを容易に知り得たとい えるのにあえて仮処分を申し立てた場合には,当該仮処分の申立ては,不 法行為を構成すると解すべきである。 (ア) 本訴提起の不法行為該当性 a 本訴のうち,本件特許権に基づく請求についてみるに,@新施工方 法は,本件発明のような「電磁誘導方式」を用いたものではなく,発 熱線加熱装置を用いた方式(「発熱ケーブル方式」)であり,本件発 明の技術的範囲に属さないこと,A旧施工方法は,「電磁誘導方式」 であるが,「電気的に接続された磁性体鋼管」(正確にはフラットバ ーにより接続されている。)を用いたものであるから,構成要件Aな いしCの「誘導発熱鋼管単体」及び構成要件Eの「誘導発熱鋼管」の 構成を充足せず,本件発明の技術的範囲に属さないこと,B原告が平 成21年6月に作成した「大河津可動堰改築ゲート設備工事のうち凍 結防止装置 評価項目」と題する文書(甲34)には,「2芯ケーブ ルであれば磁界が発生せず保護(金属)管への誘導電流発生は無いの で鋼管発熱方式には該当しない。」との記載があることからすると, 原告自身が新施工方法が本件発明の技術的範囲に属さないことを認 識していたといえること,C本件発明に係る本件特許は,原告自身が した特許出願の公告公報(甲10,乙3等)によって進歩性が否定さ れ,無効とされるべきものであること,D原告が有している技術的知 見の程度,原告が甲11を保有していたという本件の状況及び無効理 由の内容に鑑みれば,原告は,旧施工方法及び新施行方法が本件発明 の技術的範囲に属さないこと,本件発明に係る本件特許に無効理由が 存在することを知っていたか,そのことを容易に知ることができたも のである。 b 次に,本訴のうち,不正競争防止法に基づく損害賠償請求について みるに,本件情報は,原告において主観的にも客観的にも秘密として 管理されておらず,秘密管理性の要件を欠いており,さらに有用性及 び非公知性の要件を欠くことからすると,不正競争防止法2条6項の 「営業秘密」に該当せず,原告は,そのことを知っていたか,そのこ とを容易に知ることができたものである。 c さらに,@被告IHIが原告へ発注することを考えていた本件工事 の水門凍結防止装置の価格交渉が折り合わなかった中で,被告IHI が装置の自社開発を行うことを知った原告が,本件出願の出願当初 は,鋼管が絶縁であることを特徴点として記載し,明細書においても これ以外の開示がないにもかかわらず,平成21年7月2日に,被告 IHIの水門凍結防止装置に関する設計図書(甲11)の内容を知る やいなや,同月17日付け手続補正書により,本件出願に係る発明の 技術的範囲に甲11の内容を含めることを意図した補正を行ってい ること,A原告が客先である信濃川河川事務所に原告の特許権との抵 触の可能性を告知した同月29日の時点では,本件出願の内容は公開 されていなかったこと,B被告IHIが,同年8月下旬に,原告に対 し,交渉の申入れや原告の特許内容の開示要求をしたにもかかわら ず,原告は,これを拒否し,それどころか,同年9月3日,被告IH Iに対して,内容証明郵便で,秘密保持契約を締結しないと本件特許 の包袋記録は開示できないと回答したり,同年10月1日,同月9日 までという極めて短い期間を指定して水門凍結防止装置の発注を要 求してきたり,同月6日に予定されていた面談のわずか数日前によう やく本件特許の包袋記録を送付し,当該面談においては,原告が主張 するノウハウについて,発熱鋼管の寸法と電線の断面積の組合せを除 き,何も具体的な開示を行わなかったりするなど,被告IHIにおい て検討する時間を与えないままに,本訴を提起したことを総合的に考 慮すれば,原告の一連の行動は,被告らの業務を妨害し,被告らをし て,やむなく原告に対し,水門凍結防止装置の発注をせしめることを 目的としてされた不当なものである。 d 以上によれば,本訴において原告が主張する権利等は,事実的,法 律的根拠を欠いており,原告は,そのことを知っていたか又は容易に 知り得たにもかかわらず,本訴を提起したものであり,本訴の提起は, 裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くといえるから,訴 権の濫用であって,不法行為を構成するというべきである。 (イ) 別件仮処分の申立ての不法行為該当性 a 原告は,被告IHIの従業員が北海道開発局に本件情報が記載され た文書について情報公開請求を行った行為が被告らによる「不正の手 段により営業秘密を取得する行為」(不正競争防止法2条1項4号の 不正競争行為)に該当するとして,被告らに対し,不正競争防止法3 条に基づく差止請求権を被保全債権とする別件仮処分の申立てをし ている。 しかしながら,本件情報は,秘密管理性,有用性及び非公知性のい ずれの要件も欠いているから,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」 に該当しない。 また,被告IHIの従業員は,情報公開法に基づき,同法の定める 通常の手順に則って情報開示を請求したにすぎず,本件情報が開示さ れたのは行政庁の判断によるものである。そして,その行政庁の判断 に関して被告IHIが関与する余地はないのであるから,被告らが 「不正取得行為」を行っていないことは明らかである。 したがって,原告の主張する上記被保全権利が認められないことは 明らかである。 b 以上によれば,原告による別件仮処分の申立ては,事実的,法律的 根拠を欠いており,原告はそのことを知っていたか又は容易に知り得 たにもかかわらず,あえて別件仮処分の申立てを行ったものであるか ら,当該申立ては,不法行為を構成するというべきである。 イ 原告の主張 (ア) 本訴提起の不法行為該当性について 原告は,被告らが本件工事に係る水門凍結防止装置を自社で設計,製 造するに当たり,原告の長年にわたる水門凍結防止装置に関する研究開 発成果であり,また,原告の保有する重要な知的財産である本件特許権 及び本件情報(ノウハウ)を不正競争行為に使用したことから,本訴を 提起したものである。 したがって,原告による本訴の提起は,原告の正当な権利行使であり, 不法行為を構成しないことは明らかである。 (イ) 別件仮処分の申立ての不法行為該当性について 別件仮処分の申立ては,原告が,自らの営業秘密が,被告らによって 違法に開示されようとする具体的な場面に直面して,直ちにそのような 違法な開示行為が繰り返されることを停止させるために採った緊急行 為である。 そして,本件情報が営業秘密に該当することは,前記1(4)ア(ウ)の とおりであるところ,被告らが,被告IHIの従業員に指示をし,情報 公開法に基づく開示請求をし,情を知らない北海道開発局をして,情報 公開法5条2号イの不開示情報に当たる本件情報を開示させてこれを 取得した目的は,本件情報を公知情報とすることによってその営業秘密 性を喪失させることにあり,被告らがこのような開示請求行為を行うこ とは,行政庁から,「不正の手段により営業秘密を取得する行為」(不 正競争防止法2条1項4号)そのものである。 そうすると,原告による別件仮処分の申立ては,原告の正当な権利行 使であって,不法行為を構成しないことは明らかである。 (3) 争点6(被告らの損害額)について ア 被告らの主張 (ア) 被告らの損害の発生 被告らは,原告の不正競争行為(前記(1)ア)及び不法行為(前記(2) ア)により,以下のとおり,信濃川河川事務所から,被告IHIの施工 方法に係る製品が本件特許に抵触していないと確信できない限り,被告 IHIの水門凍結防止装置に関する施工計画書は承認できないと告げ られたことなどを受けて,やむなく旧施工方法から新施工方法に設計変 更し,そのための費用等を追加で支出することを余儀なくされ,被告ら の信用を毀損されるなどの損害を被った。 (イ) 被告らの損害額 a 設計変更に要した追加費用 旧施工方法から新施工方法に設計変更するに当たって,追加で支出 した費用は,以下のとおり,合計1688万0660円を下らない(乙 45ないし55)。 (a) 設計費用に関する外注費用 169万0240円以上 (内訳:ヒーティングケーブルの昇温試験費 92万円,図面等の 差し替え費 15万円以上,通線試験用のヒーティングケーブル費 62万0240円) (b) 信濃川河川事務所との打合せ等に要した出張費 52万64 20円 (c) 設計変更作業に費やした労務費 429万6000円以上 (d) 弁護士又は弁理士との打合せに要した労務費 1036万8 000円以上 b 信用毀損による損害 原告の信濃川河川事務所に対する虚偽の事実の告知により,被告ら はそれぞれ信用を毀損されており,その損害額は,合計で350万円 を下らない。 c 弁護士費用及び弁理士費用 被告らは,本訴,反訴,無効審判,別件仮処分の申立ての対応を弁 護士及び弁理士に依頼せざるを得なかったものであり,被告らが被っ た弁護士費用及び弁理士費用相当額の損害は,2000万円を下らな い。 (ウ) まとめ 以上によれば,原告の前記(ア)の不正競争行為及び不法行為によって 生じた被告らの損害額の合計は4000万円を下回るものではないと ころ,被告らが被った損害を按分すると,各被告当たり2000万円を 下回るものではない。 したがって,被告らは,原告に対し,不正競争防止法4条及び不法行 為に基づく損害賠償の一部請求として,それぞれ2000万円及びこれ に対する平成22年5月13日(反訴状送達の日の翌日)から各支払済 みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めること ができる。 イ 原告の主張 被告らの主張は争う。 第4 当裁判所の判断 1 本訴請求について (1) 争点1−1(新施工方法の本件発明の技術的範囲の属否)について ア 本件明細書等の記載事項等 (ア) 本件特許の特許請求の範囲及び本件明細書(甲14)には,次のよ うな記載がある(各記載中に引用する図1ないし3,13ないし15, 19ないし24については,別紙本件明細書図面参照)。 a 「【請求項1】 水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に,各々内 部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を 有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工程と,前記誘導 発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線を通す工程 と,前記被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメントを 充填塗布する工程と,前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程 とを含む,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法。」,「【請 求項2】 請求項1に記載の誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の 施工法において,前記複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固定する工 程と,前記被加熱部材と前記誘導発熱鋼管単体との間に伝熱セメント を充填塗布する工程とによって,前記複数個の誘導発熱鋼管単体を相 互に電気的に絶縁する,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工 法。」(以上,1頁) b「【技術分野】 本発明は,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置に 関する。」(段落【0001】) c(a) 「【背景技術】 寒冷地のダム等の水門は,しばしば凍結によ り開閉不能になる。具体的には,降雪地域に於ける水門設備は,冬 期の貯水池の水門扉体に接する水面に氷雪が浮遊し,更には扉体の 上面,左右両溝部,側部水密ゴム板,下縁底部戸当板,底部水密ゴ ム板等にも氷雪が発生し,扉体本体が凍結して開閉不能になる。」 (段落【0002】),「そこで,冬季でも水門の開閉に支障がな いようにするため,次のような凍結を防止する熱源が利用されてき た。」(段落【0003】),「(1)温水循環,温風循環,温油・ 不凍液循環等の各方式による加熱 これらの各方式には,加熱機器 の故障,加熱配管の凍結の危険性,通風路の水溜による通風能力低 下,油系路の破損による河川への油流出,公害の発生等諸々の欠点 が挙げられる。」(段落【0004】),「(2)電気加熱 電気加 熱には,抵抗加熱,アーク加熱,誘導加熱,赤外線加熱,ビーム加 熱,その他の方式がある。」(段落【0005】) (b) 「この中で,誘導加熱における表皮電流発熱管を利用した水門 凍結防止装置は,温水,温風や温油,不凍液循環方式による加熱方 式に比較して,種々の利点を有している。図1は,誘導表皮電流発 熱管を示している。」(段落【0006】),「絶縁電線2の両端 と電源3の両端とを接続線で夫々接続し,2本の鋼管1,1′はそ の両端にある短絡片4,5間が溶接等により電気的に夫々接続され ている。電源3及び絶縁電線2の作る1次回路に流れる1次電流i 1 に対応して,発熱鋼管1,1′の内周部分に反対方向の2次電流i 2 が誘導され,発熱鋼管1,1′の外周部分に1次電流と同じ方向の 渦電流が発生する。しかし,発熱鋼管1,1′の外周部分に発生す る渦電流は相互に逆方向のため,短絡片4,5を通って打ち消し合 う。従って,鋼管外周面に金属が接触してアークが発生したりせず, 人体,動物が接触しても危険が無い。」(段落【0007】),「こ のような表皮電流発熱管による水門凍結防止装置は,次の特許文献 1で公知である。【特許文献1】特公昭57−40293「電気的 水門凍結防止付水門」(公告日:昭和57年8月26日)」(段落 【0008】),「図14の扉体断面中央部鋼板9,扉体前部鋼板 29及び底部水門戸当板19の付近に夫々発生する氷雪15,1 6,20,21の凍結により,水門の開閉に支障をきたす。同様に, 図15の溝形成板24及び戸当板26の付近に夫々発生する氷雪 27の凍結により,水門の開閉に支障をきたす。」(段落【000 9】),「これを防止するため,図16に示すように,扉体断面中 央部鋼板9,扉体前部鋼板29及び扉体底部水門戸当板19に,表 皮電流発熱管の各群30,31,32,33,34を取付け,水門 の9,29,19及び底部水密ゴム板18を夫々加熱し,水門の凍 結防止を行っている。同様に,図17の溝形成板24及び戸当板2 6に,表皮電流発熱管の各群35,36を夫々取付け,水門の24, 26及び側部水密ゴム板25を夫々加熱し,水門の凍結防止を行っ ている。」(段落【0010】) (c) 「取付け方法としては,発熱管1,1′を直接溶接付すること, 状況によっては伝熱セメント等で代用すること,時には密着するこ と,が記載されている。以上が,特許文献1の表皮電流発熱管に関 する開示内容である。」(段落【0011】),「なお,取り付け 方法に関しては,実際には,誘導表皮電流発熱管1,1′の各群は, 図18に示すように,水門扉体断面中央部鋼板9,扉体前部鋼板2 9,水門鋼板製戸当板19及び溝形成板24に対して,必要発熱量 に相当する本数の誘導表皮電流発熱管が各群に分けて配置され,こ れら鋼板等への伝熱を良くするために,伝熱セメント10を塗布す ると共に,扉体断面中央部鋼板9及び扉体前部鋼板29に固定締付 ボルト11と発熱鋼管押さえ金具12で固定して取付けられる。一 方,コンクリート側へは誘導表皮電流発熱管1,1′と押さえ金具 12とを溶接37付けし,一緒に鋼板24へも溶接37付して密着 するように取付けられている。」(段落【0012】) d 「【発明が解決しようとする課題】 このような表皮電流発熱管は, 加熱効率が優れていること,耐久性,耐候性に優れていることなどの 利点を有する。」(段落【0014】),「しかし,この誘導表皮電 流発熱管は,鋼管の外周部分には電流が流れない構造となっているた め,鋼管の内周部分に流れる電流のみによって生じるジュール熱を利 用したものである。」(段落【0015】),「更に,この誘導表皮 電流発熱管は,形状が円管であって,その取付け断面は,被加熱部材 (水門扉体前部鋼板,水門扉体断面中央部鋼板等)に対して線接触と なり,発熱管の発熱が有効に伝熱されない。例え,伝熱セメントを充 填して熱伝導を良くしても,伝熱は十分とは言えない。更に,伝熱セ メントの充填塗布のための作業性の問題も残る。」 (段落【0016】 , ) 「更に,誘導表皮電流発熱管の発熱原理に基づく閉回路として,短絡 片間の接続のため,作業性の問題もある。」(段落【0017】) e 「【課題を解決するための手段】 そこで,本発明は,発熱効率を 一層向上させた新規な水門の凍結防止装置を提供することを目的と する。」(段落【0018】),「更に,本発明は,伝熱効率を一層 向上させた新規な水門の凍結防止装置を提供することを目的とす る。」(段落【0019】),「上記目的に鑑みて,本発明に係る水 門凍結防止装置は,水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材に対して固 着する誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置であって,前記誘導発熱 鋼管は,並列に配置された複数個の誘導発熱鋼管単体を備え,各々の 前期誘導発熱鋼管単体は,内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔 をもつ柱状の強磁性鋼材を有し,並列した複数個の前記誘導発熱鋼管 単体の差込み孔に通して,その両端に交流電源が接続された絶縁電線 を有し,複数個の前記柱状の強磁性鋼材は,相互に電気的に絶縁され ている。」(段落【0020】),「更に,本発明に係る誘導発熱鋼 管による水門凍結防止装置の施工法は,水門設備の凍結防止範囲の被 加熱部材に,各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱 状の強磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固着す る工程と,前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に, 絶縁電線を通す工程と,前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工 程とを含む,誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法であっ て,複数個の前記柱状の強磁性鋼材は,相互に電気的に絶縁されてい る。」(段落【0029】) f 「【発明の効果】 本発明によれば,発熱効率を一層向上させた新 規な水門の凍結防止装置を提供することができる。」(段落【003 0】),「更に,本発明によれば,伝熱効率を一層向上させた新規な 水門の凍結防止装置を提供することができる。」(段落【0031】) g(a) 「[誘導発熱鋼管](誘導発熱鋼管単体) 図2及び図3に示 す誘導発熱鋼管の特徴の1つは,鋼管1,1′の両端を電気的に接 続する短絡片4,5(図1参照)は存在しない点にある。このため, 1次電流i 1 に対応して鋼管1,1′に流れる2次電流i 2 は,鋼管 断面の内周部分から外周部分に渦電流として流れる。そのジュール 熱は,図1に示す誘導表皮電流発熱管のジュール熱の約2倍とな り,発熱電力が大幅に増加する。」(段落【0033】),「先に, 図2及び図3に示す誘導発熱鋼管の特徴の1つは,鋼管1,1′の 両端を電気的に接続する短絡片4,5が存在しない点にあると説明 した。即ち,図2及び図3の誘導表皮電流発熱管は,図1の誘導表 皮電流発熱管から短絡片4,5を除去した構成として説明してい る。しかし,本発明のポイントの1つは,短絡片4,5を除去する ことにより,誘導発熱鋼管1,1′の外周部分に流れる渦電流をも 利用する点にある。従って,図2及び図3の誘導発熱鋼管は,図1 の誘導発熱鋼管のように2本(単相交流電源を利用する場合)又は 3本(多層交流電源を利用する場合)に限定されず,任意の本数で よい。更に,絶縁電線2に流す電流の方向も,図1の誘導発熱鋼管 のように,隣接する誘導発熱鋼管に対して反対方向に流す必要もな く,同じ方向でもよい。」(段落【0040】) (b) 「(誘導発熱鋼管単体の配列方法) この誘導発熱鋼管単体は, 短長寸法構造のため,凍結防止が必要な範囲の被加熱部材に対し て,複数個並べて取り付ける必要がある。」(段落【0043】) (c) 「(水門への設置方法) この誘導発熱鋼管を水門の凍結防止 が必要な箇所に設置した図を図19及び図20に,その拡大図を図 21,図22,図23及び図24に,夫々示す。」(段落【005 3】),「図19の扉体断面中央部鋼板9及び扉体前部鋼板29の 裏面には,池水22上面の氷雪15,16(図14参照)による影 響が無いように,誘導発熱鋼管の各群38,39,40が夫々取付 けられる。」(段落【0054】),「図21に示すように,誘導 発熱鋼管の各群38,39,40は,扉体断面中央部鋼板9及び扉 体前部鋼板29の平面又は曲面に沿って配置され,誘導発熱鋼管 7,7′及び8,8′の所要本数を,固定締付ボルト11と発熱鋼 管押さえ金具12等で設置される(図8,10図,12図参照)。」 (段落【0055】),「図22に示すように,扉体断面中央鋼板 9及び扉体前部鋼板29の底部には底部水密ゴム板18があり,こ の水密ゴムの凍結防止のため,水門戸当板19裏面にも誘導発熱鋼 管7,7′及び8,8′が取付けられる。また,底部水密ゴム板1 8の押さえ板と一緒に誘導発熱鋼管41を取付け,誘導発熱鋼管4 1の伝熱で底部水密ゴム板18を加熱して凍結を防止する。」(段 落【0056】),「図23及び図24に示すように,水門の扉体 誘導溝28のローラー23及び側部水密ゴム板24附近の凍結防 止のために,誘導発熱鋼管の各群43,44,45,46が取付け られる。誘導発熱鋼管の各群43,44,45は,溝形成板24の 外面に取付けられ,発熱鋼管から直接の加熱によって氷雪27(図 15参照)を溶融し,誘導発熱鋼管46は側部水密ゴム板25の押 さえ板と一緒に側部水密ゴム板25を加熱する。誘導発熱鋼管4 7,48は,いずれも溝形成板24,26の裏側に取付けられる。」 (段落【0057】) h 「[実施形態の利点・効果] 本実施形態に係る誘導発熱鋼管によ る水門凍結防止装置は,次のような利点・長所を有する。」(段落【0 059】),「(1)この誘導発熱鋼管では,一層大きな渦電流を利用 することが出来,発熱効率を向上することが出来る。」(段落【00 60】),「図2及び図3の強磁性鋼管1,1′に絶縁電線2を通し て交流電源3より1次電流i 1 を通電することにより,鋼管1,1′に 鋼管断面の内周部と外周部に2次電流i 2 が流れ,鋼管1,1′ には 図1の誘導表皮電流発熱管1,1′より約2倍のジュール熱が発生し て加熱される。」(段落【0061】),「発熱電力が大幅に増加す るため,従来の誘導表皮電流発熱管(図1参照)に比較して,一層少 ない本数で済む。発熱管取付けの取り付け作業も軽減される。閉回路 を形成するための短絡片の設置も必要が無く,溶接作業が軽減され る。」(段落【0062】),「(2) 外形の一辺が平面状の誘導発 熱鋼管を採用することで,伝熱効率を向上させることが出来る。 (段 」 落【0063】),「例えば,角型誘導発熱鋼管のような外形の一辺 が平面状の誘導発熱鋼管を採用することで,被加熱部材の平面部に対 して固着して,両者を面接触させることができる。管状誘導発熱鋼管 では,被加熱部材の平面部に対して線接触である。従って,角型誘導 発熱鋼管のような発熱鋼管を採用することで,伝熱効率を向上させる ことが出来る。」(段落【0064】) (イ) 前記(ア)の本件明細書等の記載事項を総合すれば,本件明細書に は,@寒冷地のダム等の水門は,凍結により開閉が不能となることがあ ることから,冬季でも水門の開閉に支障がないようにするため,従来, 「温水循環,温風循環,温油・不凍液循環等の各方式による加熱」,「電 気加熱」(具体的には,「抵抗加熱,アーク加熱,誘導加熱,赤外線加 熱,ビーム加熱,その他の方式」)を熱源とした水門凍結防止装置が利 用されてきたが,このうち,特公昭57−40293号公報(甲10) に開示された誘導加熱における表皮電流発熱管を利用した水門凍結防 止装置は,他の加熱方式に比較して,加熱効率,耐久性,耐候性に優れ ていることなどの利点を有するが,鋼管の外周部分には渦電流が流れな い構造で,鋼管の内周部分に流れる渦電流のみによって生じるジュール 熱を利用したものであったので,発熱効率が十分でない,誘導表皮電流 発熱管の閉回路として短絡片間の接続のための作業性などの問題があ ったこと,A「本発明」は,上記問題を解消し,発熱効率及び伝熱効率 を一層向上させた新規な水門凍結防止装置の施工法を提供することを 目的とするものであり,その目的を達するための手段として,「本発明」 に係る水門凍結防止装置の施工法は,水門設備の凍結防止範囲の被加熱 部材に,各々内部に軸方向に延在する絶縁電線差込み孔をもつ柱状の強 磁性鋼材を有する複数個の誘導発熱鋼管単体を並べて固着する工程と, 前記誘導発熱鋼管単体に形成された絶縁電線差込み孔に,絶縁電線を通 す工程と,前記絶縁電線の両端に交流電源を接続する工程とを含む,誘 導発熱鋼管による水門凍結防止装置の施工法であって,複数個の前記柱 状の強磁性鋼材は,鋼管の両端を電気的に接続する短絡片を設置せず, 相互に電気的に絶縁されている構成を採用し,これにより鋼管断面の内 周部分に流れる渦電流によって生じるジュール熱のみならず,外周部分 に流れる渦電流によって生じるジュール熱を利用して,発熱効率を一層 向上させる効果を奏するようにした点に技術的意義があることが開示 されていることが認められる。 イ 本件発明における「誘導発熱鋼管単体」及び「誘導発熱鋼管による水門 凍結防止装置」の意義 (ア) 本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の文言,本件明細書(甲1 4)の段落【0006】,【0007】,【0015】,【0020】, 【0029】,【0033】,【0040】,【0061】の各記載, 図1ないし3及び前記ア(イ)認定の本件明細書の開示事項を総合すれ ば,本件発明の構成要件Eの「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置の 施工法」にいう「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」とは,電磁誘 導により流れる渦電流により強磁性鋼材からなる鋼管自体を発熱させ, そのジュール熱を熱源とする誘導加熱方式を利用した水門凍結防止装 置を意味し,構成要件AないしCの「誘導発熱鋼管単体」とは,この誘 導加熱方式に用いられる強磁性鋼材からなる鋼管を意味するものと解 される。 (イ) これに対し原告は,本件発明は,水門凍結防止装置の施工を作業効 率よく行うことを目的とした水門凍結防止装置の施工法の発明(方法の 発明)であり,実際に鋼管が発熱する際の発熱方式を特に限定するもの ではないから,実際に強磁性鋼材の鋼管が誘導発熱によって発熱してい る必要はないなどと主張する。 しかしながら,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の文言及び本 件明細書の記載事項(前記ア(ア))に照らすならば,「強磁性鋼材から なる鋼管」であっても,誘導加熱方式により発熱させるのに用いられる のでなければ,本件発明の構成要件Eの「誘導発熱鋼管による水門凍結 防止装置の施工法」にいう「誘導発熱鋼管による」ものとはいえないか ら,原告の上記主張は,採用することはできない。 ウ 新施工方法の本件発明の技術的範囲の属否 新施工方法は,別紙2のとおり,調節ゲート及び制水ゲートのコンクリ ートに埋設される戸当り金物の内側に,複数の磁性体鋼管を伝熱セメント 及び固定金具(フラットバー)により固定した後,上記磁性体鋼管に形成 された差込み孔に,2本の母線と発熱エレメントを有する「発熱ケーブル」 (別紙2の2(5))を通し,上記2本の母線のそれぞれを交流電源に接続 することにより水門凍結防止装置を製作する施工法であり,上記水門凍結 防止装置においては,上記2本の母線に電圧を加えると,発熱ケーブルの 発熱エレメントに電流が流れ発熱し,この熱を上記磁性体鋼管に伝熱し, 更にその鋼管の熱が戸当り金物及び扉体に取り付けられた水密部に伝熱 され,水門の凍結が防止されることとなる。 そうすると,新施工方法で製作された水門凍結防止装置は,発熱ケーブ ルを発熱させる加熱方式を利用するものであって,電磁誘導により流れる 渦電流により鋼管自体を発熱させる誘導加熱方式を利用したものとはい えないから,構成要件Eの「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」に該 当しない。また,新施工方法で製作された水門凍結防止装置を構成する磁 性体鋼管は,誘導加熱方式に用いられるものとはいえないから,構成要件 AないしCの「誘導発熱鋼管単体」に該当しない。 したがって,新施工方法は,構成要件A,B,C及びEを充足するもの と認められないから,本件発明の技術的範囲に属するものと認めることは できない。 エ まとめ 以上のとおり,新施工方法は本件発明の技術的範囲に属するものと認め ることができないから,原告の本訴請求のうち,本件特許権侵害の不法行 為に基づく損害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理 由がない。 (2) 争点2(被告らによる不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為の成 否)について 原告は,被告らが,不正の利益を得る目的又は原告に損害を加える目的で, 原告から開示された営業秘密である本件情報を使用して,甲11の作成(甲 11記載の凍結防止装置の設計)をし,本件工事における水門凍結防止装置 を施工した行為は,不正競争防止法2条1項7号の不正競争行為(営業秘密 の不正使用行為)に該当する旨を主張する。これに対し,被告らは,本件情 報は,そもそも,不正競争防止法2条6項の「営業秘密」に当たらない旨主 張する。 そこで,まず,本件情報の営業秘密該当性につき判断する。 ア 原告の情報管理体制 証拠(甲12の1ないし3)及び弁論の全趣旨によれば,次のような事 実が認められる。 (ア) 原告は,平成13年5月8日,「日本工営行動指針」(甲12の1) を策定した。「日本工営行動指針」の3頁には,「企業行動指針」の「従 業員に対する指針」として「2)情報管理の徹底 職務上知り得た情報 の管理を徹底し,不正利用と漏洩の防止を図ります。」との記載がある。 (イ) 原告は,平成16年12月21日,「情報セキュリティ基本方針」 (甲12の2)を策定した。「情報セキュリティ基本方針」には,以下 のような記載がある。 a 「当社は,…事業遂行に広く活用する情報資産の安全性および信頼 性の確保,すなわち,情報セキュリティの確保に万全を期し,社会・ 顧客・取引先の信頼に応えることを基本方針とします。」 b 「1.当社は,業務において取り扱うすべての情報資産を対象とし て,それぞれに適した情報セキュリティ管理策を講じます。」 c 「2.当社の業務において情報資産を取り扱うすべての者は,情報 セキュリティの重要性を認識し,本情報セキュリティ基本方針を遵守 するとともに,本方針を基に定める管理基準および手順等の規程に準 じて行動します。」 d 「5.当社は,情報資産に対する新たな脅威にも対応できるよう, 情報セキュリティ管理体制を整備し,継続的に改善活動を行います。」 (ウ) 原告は,平成17年4月1日,「秘密情報管理規程」を制定した。 平成18年10月1日改正の「秘密情報管理規程」(甲12の3)には, 次のような記載がある。 a 「(目的) 第1条 本規程は,当社の保有する秘密情報の管理に 関して必要な事項を定め,もって秘密情報の漏洩防止および適正な管 理を行うことを目的とする。」 b 「(適用範囲) 第2条 本規程は,役員,従業員,その他当社業 務に従事する者に適用される。また本規程は,就業規則の一部として 就業規則と一体としての法的効力を有する。」 c 「(定義) 第3条 秘密情報とは,営業,技術,製造などに関す る事項,レポートや図面などの成果品に関する事項,契約,協定また は申合せなどにより守秘義務を負った事項,内部情報管理規程に掲げ る重要事実,個人情報などを,電子・非電子媒体を問わず記録媒体に 記録したもののうち,第5条による指定を受けたものをさす。」 d 「(総括責任者等の責務) 第4条 秘密情報の全社的な管理は, リスク管理委員会委員長が統括責任者としてこれを行う。各部門にお ける管理は各門長等が部門責任者としてこれを行い,各部・室におい ては各部・室長が管理責任者としてこれを行う。…(以下省略)」 e 「(指定・保管) 第5条 秘密情報の指定は管理責任者が行う。 管理責任者は,秘密情報を一般情報と区別し,アクセス権を制限する など適正な方法で保管しなければならない。また,社内または社外を 問わず秘密情報の開示先(以下開示先という)に対しても同様に秘密 保持の徹底を図る責務を負う。」 f 「(作成) 第6条 管理責任者は,秘密情報を作成させるとき, もしくは指定するとき,以下の事項を当該情報の記録媒体に表示する よう指示しなければならない。 (1) 秘密情報である旨 (2) 秘密情報の開示先 (3) 秘密保持期限(秘密保持期限が当該情報内に明示されている 場合を除く)」 g 「(配付) 第8条」,「3.秘密情報の受領者は,当該秘密情報 を一般情報と区別し,アクセス権を制限するなど適正な方法で保管し なければならない。」 h 「(通信ネットワークセキュリティ) 第9条 秘密情報のうち電 子情報の管理については,情報の漏洩を防止するため,以下の事項を 確実に行わなければならない。 (1) コンピュータにより社内通信ネットワークを利用する者はI Dパスワードを利用者個人の責任で管理すること。 (2) コンピュータ内に秘密情報を保存する場合には,パスワード の設定などによりデータへのアクセス権を制限するほか,データ コピーを防止する対策を講ずること。 (3) 通信ネットワークを通じて秘密情報を提供する場合は,セキ ュリティが確保されたネットワークを利用し,社外に提供する場 合には事前に秘密保持契約を締結すること。 (4) 秘密情報の保全のため,コンピュータウイルスの感染予防策 を実施すること。」 i 「(秘密情報の取扱に関する誓約書) 第14条 役員・従業員は, 入社時において,別に定める書式に基づいて秘密情報の保持を誓約す る書面を人事・総務部へ提出しなければならない。」 j 「(関係会社等に対する措置) 第17条 管理責任者は,関係会 社等(協力会社,下請などを含む)に業務の必要上秘密情報を貸与, 閲覧または使用・利用させる場合には,秘密保持の履行を書面で確約 させるとともに,本規程に準じ秘密情報の漏洩を防止するための適切 な措置を講じなければならない。」 イ 本件情報の管理等 証拠(甲3,12,13,22ないし27(枝番のあるものは枝番を含 む。))及び弁論の全趣旨によれば,次のような事実が認められる。 (ア) 被告IHI(旧商号・石川島播磨重工業株式会社)は,昭和53年 5月から平成18年3月までの間,国土交通省(旧建設省を含む。), 農林水産省又は都道府県から合計18件の水門施工工事を受注し,その 水門施工工事のいずれについても,その受注の都度,原告に対し,当該 水門の水門凍結防止装置の設置工事(以下「別件工事」と総称する。) を発注し,これを受けた原告は,別件工事を完成させ,被告IHIに対 し,納入してきた。 (イ)a 原告は,昭和53年8月ころ,被告IHIに対し,別件工事のう ち,「建設省白川ダムクレスゲート凍結防止装置」設置工事に関し, 水門凍結防止装置の完成図(「クレストゲート凍結防止装置 戸当金 物SECT式ヒーター組立全体図」(甲22の1),「クレストゲー ト凍結防止装置 戸当金物SECT式ヒーター施工断面図」(甲22 の2))を交付した。 上記各図には,発熱鋼管の高さ方向の配置位置に関する情報(「本 件情報A.1)」),発熱鋼管の幅方向の配置位置に関する情報(「本 件情報A.2)」),ヒータ端末箱の配置位置に関する情報(「本件 情報A.4)」)に係る記載があった。 b 原告は,昭和55年から昭和58年ころ,被告IHIに対し,別件 工事のうち,「北海道開発局十勝ダムクレストゲート凍結防止装置」 設置工事に関し,水門凍結防止装置の完成図(「クレストゲート凍結 防止装置 戸当金物SECT式ヒーター布設正面」(甲23の1), 「クレストゲート凍結防止装置 戸当金物SECT式ヒーター布設 側面図」(甲23の2),「クレストゲート凍結防止装置 戸当金物 SECT式ヒーター布設平面図」(甲23の3),「クレストゲート 凍結防止装置 戸当金物SECT式ヒーター取付詳細図」(甲23の 4),「クレストゲート凍結防止装置 戸当金物SECT式ヒーター 取付詳細図」(甲23の5))を交付した。 上記各図には,発熱鋼管の高さ方向の配置位置に関する情報(「本 件情報A.1)」),発熱鋼管の幅方向の配置位置に関する情報(「本 件情報A.2)」),ヒータ端末箱の配置位置に関する情報(「本件 情報A.4)」)に係る記載があった。 c 原告は,平成10年から平成12年ころ,被告IHIに対し,別件 工事のうち,「建設省北陸地方建設局大河津分水洗堰主ゲート凍結防 止装置」設置工事に関し,水門凍結防止装置の完成図(「主ゲート設 備工事 凍結防止装置全体配置図」(甲24),「主ゲート設備工事 凍結防止装置制御盤 三線結線図」(甲27)),装置の取扱説明書 (甲25),装置の設計計算書(甲26)を交付した。 上記各図には,水門凍結防止装置における,鋼管と電線の組合せに 関する情報(「本件情報B.」),温度二段階制御に関する情報(「本 件情報D.3) ) 二次回路単相に関する情報 」 , (本件情報A.4) ) 」 , 鋼管の配列本数・電気容量の決定プロセスに関する情報(「本件情報 C.1)」ないし「本件情報C.4)」)に係る記載があった。 (ウ) 原告と被告IHIは,平成14年4月1日,原告の注文に基づき被 告IHIが原告の工事を請け負うことに関し,本件請負基本契約を締結 した。本件請負基本契約の契約書(甲13)には,次のような記載があ る(なお,同契約書中の「甲」は,被告IHI(旧商号・石川島播磨重 工業株式会社),「乙」は,原告である。)。 a 「(基本原則) 第1条 取引は,相互の利益の尊重に基づき,かつ信義誠実の原則に 従って行なうものとする。」 b 「(基本契約と個別契約) 第3条 基本契約は,甲乙間の個々の工事請負契約(以下,「個別契 約」という。)に共通して適用する。ただし,甲および乙は,協議 のうえ,個別契約において基本契約の条項の一部の適用を排除し, または基本契約と異なる事項を定めることができる。 2.甲および乙は,基本契約のほか,工事名称,工事場所,施工条件, 工事完成期限,請負代金等を記載した注文書,図面,仕様書および 工事計画書等(以下,総称して,「工事関係図書」という。)に従 い,個別契約を履行する。」 c 「(個別契約の成立) 第4条 個別契約は,甲が乙に注文書を交付し,乙が甲に注文請書を 交付することによって成立する。」 d 「(届出事項等および提出書類) 第7条 (中略) 2.乙は,甲が要求したときは,次の各号に掲げる書類を直ちに甲に 提出しなければならない。 (中略) (5) 工事関係図書から指定された見本または工事写真等の記録 (6) その他甲から要求された書類」 e 「(監督員) 第10条 甲は,監督員を定めたときは,書面をもってその氏名を乙 に通知する。 2.監督員は,基本契約の他の条項に定めるもの,および基本契約に 基づく甲の権限とされる事項のうち,甲が必要と認めて監督員に委 任したもののほか,工事関係図書で定めるところにより,次に掲げ る権限を有する。 (中略) (2) 工事関係図書に基づく工事の施工のための詳細図等の作成お よび交付または乙が作成したこれらの図書の承認 (3) 工事関 係図書に基づく工程の管理,立会,工事の施工の状況の検査また は工事材料の試験もしくは検査」 f 「(秘密保持義務) 第30条 乙は,基本契約および個別契約の履行に関連し,知り得ま たは甲から提供を受けた工事関係図書,機材器具,ノウハウ,技術 資料,技術情報および取引上の情報等(以下,「資料等」という。) を秘密として慎重に取扱うものとし,予め甲の書面による承諾を得 ない限り,第三者に開示または漏洩してはならない。 2.乙は,予め甲の書面による承諾を得ない限り,資料等を個別契約 以外の目的のために,利用,複写,複製または再生等を行なっては ならない。 3.乙は,資料等を使用した後は,直ちに資料等とともにその複写, 複製または再生等を行なったものを甲に返却しなければならない。 4.乙は,乙の労働者ならびに下請負人およびその労働者に対しても 本条の義務を負わせるものとする。」 (エ)a 被告IHIは,平成20年12月19日,北陸地方整備局が実施 した「大河津可動堰改築ゲート設備工事」(本件工事)の一般競争入 札(公告日・同年8月11日)を落札し,同年12月22日,北陸地 方整備局長との間で,本件工事の請負契約を締結した。 b その後,被告IHIは,平成21年7月1日,信濃川河川事務所に 対し,甲11(「大河津可動堰改築ゲート設備工事凍結防止装置関係 図」)を提示した。 甲11には,次のように,本件情報に係る記載がある。 (a)@ 発熱鋼管の高さ方向の加熱範囲の設定に関する情報(「本件 情報A.1)」)(甲11の5枚目正面図,側面図) A 発熱鋼管による加熱範囲(水平方向)の設定に関する情報 「本 ( 件情報A.2)」)(甲11の4枚目左頁の図4−1,5枚目右 の図) B 鋼管による二次閉ループを形成するための構造設計のうち上 部の接続構造に関する情報(「本件情報C.1)」)(甲11の 5枚目の正面図,側面図で各発熱鋼管の上端がヒーター端末箱に 収容されている。) C 下部の接続構造に関する情報(「本件情報C.2)」)(甲1 1の5枚目右の「“d”部詳細」) D 端末箱の使用及び端末箱内の鋼管の配置に関する情報(「本件 情報C.4)」)(甲11の5枚目の正面図,側面図) (b) 発熱鋼管及び電線の選択に関する情報(「本件情報B.)」) (甲11の1枚目右頁7行目の発熱管の記載,及び5枚目正面図 の鋼管発熱式ヒーター及びヒーターケーブルの記載) (c)@ 鋼管の配列本数及び電気容量の決定プロセスに関する情報 (「本件情報C.1)」)(甲11の1枚目ないし4枚目) A 凍結防止部表面温度の設定に関する情報 「本件情報C. 」 ( 2) ) (甲11の1枚目右の3行目「b.凍結防止部表面温度(t2) 2(℃)」の記載) B 凍結防止部附近平均風速の設定に関する情報(「本件情報C. 3)」)(甲11の1枚目右の4行目「c.凍結防止装置付近の 平均風速(V) 2(m/s)」の記載) C 所定温度上昇時間の設定に関する情報(「本件情報C.4)」) (甲11の3枚目右の2行目) (d)@ 水門凍結防止装置の通電運転制御の方法について,凍結防止 部表面温度に関する情報(「本件情報D.1)」)(甲11の1 枚目右の3行目「b.凍結防止部表面温度(t2) 2(℃)」 の記載) A ヒーター負荷回路の回路設計に関する情報(「本件情報D. 4)」)(甲11の7枚目及び8枚目の単線結線図) (e) 凍結防止装置の寿命の向上,保守運用技術について,電線の被 覆層の材質と耐熱温度に関する情報(「本件情報E.1)」)(甲 11の5枚目の正面図のヒーターケーブルの記載における“PF A”の表記) (オ)a 原告が保有する前記(イ)aないしc等の水門凍結防止装置の完 成図書(設計計算書,完成図,検査成績書,取扱説明書,施工記録写 真)は,原告において,一つの工事につき一つのファイルに綴じられ て保管されている(平成22年5月14日付け原告第6準備書面の 「原告のノウハウの説明」のスライド16頁参照)。 b 原告の電力事業カンパニープラント事業部が,平成18年3月13 日付けで作成した営業秘密の抽出結果表(甲12の4)によれば,少 なくとも,同日時点では,原告において,水門凍結防止装置に関する 「報告書(設計図等を含む)」に記載された情報は,秘密の表示が付 され,アクセス制限がされた上で,原告の電気技術部,機会情報通信 技術部,ES部の各部キャビネットに,ファイルに綴られた状態で保 管されているとの報告がされている。 (カ) 本訴(平成21年(ワ)第38627号事件,第44344号事件) の各訴状記載の営業秘密の不正使用の不正競争行為に関する原告の主 張に対し,被告らが,原告が主張する営業秘密が具体的に特定されてお らず主張自体失当である旨を反論したところ(例えば,平成22年2月 26日付け「準備書面(被告その1)」の59頁等),原告は,同年4 月13日の本件第2回弁論準備手続期日において,「原告のノウハウの 説明」のスライド(同年5月14日付け「原告第6準備書面」添付)を 用いた説明を行った上,同年8月31日付け「原告第9準備書面」の別 紙営業秘密目録及び同年12月24日付け「原告第12準備書面」の別 紙1営業秘密目録修正書をもって,原告が主張する営業秘密の具体的内 容を特定し,その有用性についての考えを明らかにする主張(別紙3) をした。 ウ 本件情報の営業秘密該当性 (ア) 不正競争防止法2条6項の「秘密として管理されている」とは,情 報の種類,性質,管理の方法・態様,情報を保有する事業者と情報にア クセスした者との具体的な関係等の諸般の事情に照らし,客観的にみ て,情報にアクセスした者において当該情報が秘密情報であることを認 識し得る程度に管理されていることを要するものと解される。 これを本件についてみるに,@原告は,平成13年5月8日策定の「日 本工営行動指針」,平成16年12月21日策定の「情報セキュリティ 基本指針」で,情報管理・情報セキュリティの確保を徹底する旨を謳い, 平成17年4月1日制定の「秘密情報管理規程」(平成18年10月1 日改正)において,秘密情報の定義(3条),管理責務の所在(4条), 指定・保管の方法(秘密情報と一般情報の区別,アクセス権の制限。5 条),秘密情報作成の際の留意事項(秘密情報である旨の表示等。6条) 等を具体的に規定し,従業員に示していること(前記ア),A原告の社 内において,本件情報に係る記載を含む水門凍結防止装置の完成図書 (設計計算書,完成図,検査成績書,取扱説明書,施工記録写真)を, 一つの工事につき一つのファイルに綴じて保管し,遅くとも平成18年 3月13日の時点では,それら文書に,秘密の表示を付し,アクセス制 限をした上で,キャビネットに保管されていたこと(前記イ(オ))から すると,少なくとも原告の社内においては,本件情報を含む水門凍結防 止装置の完成図書記載の情報が,「秘密情報管理規程」に定義する秘密 情報に指定され,同規程に則った管理をされていたものと推認される。 (イ)a 次に,本件情報に関する原告と被告IHIとの関係をみるに,@ 被告IHIが,昭和53年5月から平成18年3月まで,国土交通省 等から受注した合計18件の水門施工工事について,その水門凍結防 止装置の設置工事(別件工事)を原告に発注し,原告がこれを施工し て,被告IHIに納入してきたこと,A別件工事のうち,少なくとも 3件において,本件情報の一部に係る記載がある原告作成の図面等 が,原告から被告IHIに交付されていること,B被告IHIの本件 工事の落札後に,被告IHIが作成した甲11に,本件情報の一部に 係る記載があることからすると,従来,水門凍結防止装置の施工は, 原告がほぼ独占的に行ってきた技術分野であったが(少なくとも原告 と被告IHIとの間では,被告IHIがこれをすべて原告に発注して きた。),本件請負基本契約が締結された平成14年4月1日の前後 に実施された別件工事における原告と被告IHIとの間での書面の やり取りや現場での共同作業を通じて,本件情報に係る情報が,原告 から,被告IHIに示されていたものと推認される。 しかしながら,原告の「秘密情報管理規程」の17条には,「管理 責任者は,関係会社等(協力会社,下請などを含む)に業務の必要上 秘密情報を貸与,閲覧または使用・利用させる場合には,秘密保持の 履行を書面で確約させるとともに,本規程に準じ秘密情報の漏洩を防 止するための適切な措置を講じなければならない。」と規定されてい る(前記ア(ウ)j)にもかかわらず,本件全証拠によっても,原告が, 被告らに対し,本件情報又はそれを記載した書面等の媒体を貸与,閲 覧等させるに当たって,本件情報の内容を具体的に特定し,これにつ いて秘密保持の履行を書面で確約させたり,口頭でその旨を伝えたこ とを認めるに足りない。 むしろ,前記イ(カ)認定のとおり,本件情報の内容及びその有用性 についての考えが,原告から被告らに対し,別紙3に相当するような 形式で具体的に特定されたのは,本件の審理の過程においてであり, それまでは,原告から,被告らに対し,原告が営業秘密であると主張 する本件情報の具体的内容は明らかにはされていなかったものであ る。 b これに対し,原告は,本件情報は,原告の水門凍結防止装置の設計 に関する基本的かつ重要な設計情報そのものであり,原告の意思に反 して自由に使用することのできる類のものではないから,本件請負基 本契約の条項に明示的に秘密保持義務が記載されていなくても,本件 請負基本契約に付随する信義則上の義務として,あるいは公正な商慣 習法上の義務として,被告らは,原告に対し,本件情報に係る秘密保 持義務,目的外使用禁止義務を負うものである旨を主張する。 しかしながら,前記イ(ウ)認定のとおり,本件請負基本契約は,被 告IHI又はその監督員において,原告に工事関係図書を提出させた り,原告が作成した工事関係図書に基づく工事の施工のための詳細図 等の承認をしたりする権限を与えるなどし,本件情報が記載されてい る蓋然性の高い書面に被告IHIが接する機会があることを念頭に 置きながら,原告に対して秘密保持義務を課す条項を設けるものの, 被告IHIに対し,そのような義務を課す条項を設けていないことか らすると,本件情報の性質それ自体を踏まえたとしても,被告らは, 原告に対し,本件情報に係る秘密保持義務,目的外使用禁止義務を本 件請負基本契約に基づいて負うものではないと解される。 また,公正な商慣習法上の義務として,原告の主張するような義務 が被告らにおいて発生していることを認めるに足りる証拠は一切な い。 したがって,原告の上記主張を採用することはできない。 (ウ) 以上によれば,本件情報は,少なくとも被告らとの関係において, 客観的にみて,秘密情報であることを認識し得る程度に管理されていた ものと認めることはできない。 エ まとめ 以上のとおり,本件情報は,被告らとの関係で,秘密として管理されて いたものと認められないから,営業秘密(不正競争防止法2条6項)に該 当するものと認めることはできない。 したがって,原告の本訴請求のうち,不正競争防止法4条に基づく損害 賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 2 反訴請求について (1) 争点4(原告による不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為の成 否)について 被告らは,被告IHIが平成21年6月ないし7月当時予定していた旧施 工方法及び被告インフラシステムが本件工事において実施した新施工方法 は,いずれも本件発明の技術的範囲に属さず,また,本件発明に係る本件特 許には無効理由があるから,原告の担当者が,客先である信濃川河川事務所 の担当者に対し,@平成21年6月19日に,甲34を交付し,被告IHI の水門凍結防止装置が原告の特許権を侵害する可能性がある旨を述べた行 為(以下「本件告知行為@」という。),A同年7月29日に,被告IHI が水門凍結防止装置を自社開発した場合には,原告の特許権を侵害する旨を 告げた行為(以下「本件告知行為A」という。)は,原告による「競争関係 にある他人の営業上の信用を害する虚偽の事実」(実際には特許侵害をして いないのに,特許侵害をするとの虚偽の事実)を告知する行為(不正競争防 止法2条1項14号の不正競争行為)に当たる旨主張する。 ア 前提事実 前記争いのない事実等,前記(2)イの認定事実,証拠(甲3,6ないし 9,15,30,31,乙9ないし17,20,22ないし27(いずれ も枝番のあるものは枝番を含む。))及び弁論の全趣旨を総合すれば,本 件の経緯等に関し,次のような事実が認められる。 (ア) 信濃川河川事務所は,平成19年9月28日及び平成20年5月9 日の2回にわたり,原告に対し,本件工事に係る河川用水門設備の凍結 防止装置に関し,品目を「凍結防止装置(制水ゲート用)」,「凍結防 止装置(調節ゲート用)」,形式を「鋼管発熱方式」とする合計6門分 の参考見積を依頼し,原告は,信濃川河川事務所に対し,平成19年1 0月11日付け及び平成20年5月30日付けの各見積書(甲31の 2,4)を提出した。 また,原告は,遅くとも平成20年5月30日付け見積書を提出した ころまでに,信濃川河川事務所から,本件工事の設計業務等の委託を受 けていた。 (イ) 原告は,平成20年4月15日,本件出願をした。 (ウ)a 北陸地方整備局は,平成20年8月11日,本件工事の一般競争 入札の公告をした。 信濃川河川事務所作成に係る本件工事の平成20年8月付け特記 仕様書(甲15)の28頁には,「第6節 付属設備」,「4−6− 5 凍結防止装置」,「1.凍結防止装置は鋼管発熱方式とする。」 との記載がある。 b 被告IHIの担当者は,平成20年8月22日,原告の担当者に対 し,「鋼管発熱式凍結防止装置」6門分の見積依頼書(「凍結防止装 置見積仕様」を含む。)を電子メールに添付して送信し,本件工事に おける水門凍結防止装置の設置工事の見積りを依頼した。 なお,被告IHIは,昭和53年5月から平成18年3月までの間, 国土交通省,農林水産省又は都道府県から受注した合計18件の水門 施工工事における水門凍結防止装置の設置工事(別件工事)をすべて 原告に発注し,原告が別件工事を施工してきた。 c 原告の担当者は,平成20年9月2日,被告IHIの担当者に対し, 見積総金額を2億1960万円とする見積書を電子メールに添付し て送信し,同メールにおいて, 「貴社への仕切り希望は本金額の15% とさせて頂きますので,よろしくお願い申し上げます。」との回答を した。被告IHIは,原告から提示のあった見積額が想定していたよ りも高額であったことから,原告との値引き交渉を行うこととした。 その後,原告の担当者と被告IHIの担当者は,同年11月13日, 水門凍結防止装置の見積額の交渉をしたが,合意に至らなかった。 d 被告IHIは,平成20年12月19日,本件工事の一般競争入札 を落札し,同月22日,本件工事を受注した。 e 被告IHIは,平成21年4月1日,本件工事における水門凍結防 止装置の施工に関する方針決定会議を開催し,被告IHIが自社で施 工する場合の仮スケジュールを決めた。 同日,被告IHIの担当者は,原告の担当者と交渉をした際,原告 の担当者から,原告の見積額が1億8000万円から下げることはな い旨告げられたため,被告IHIが自社で施工する予定があることを 伝えた。 その後,被告IHIの担当者は,同年5月7日,原告の担当者に対 し,本件工事における水門凍結防止装置は被告IHIが自社で施工す ることを決定したことを連絡した。 (エ) 原告の担当者は,平成21年6月19日,信濃川河川事務所を訪問 し,その担当者に対し,甲34(「大河津可動堰改築ゲート設備工事の うち凍結防止装置 評価項目」と題する書面)を交付した。 甲34には,次のような記載がある。 a 「1.特記仕様書 要求事項 客先特記仕様書記載事項は下記である。 第4章 水門設備 第6節 付属設備 4−6−5 凍結防止装置 1.凍結防止装置は鋼管発熱方式とする。」 b 「2.承認申請図評価項目 2−1 特記仕様書に対する評価 (1) 承認申請されたヒーターは鋼管発熱方式か → 承認されたヒーターが鋼管発熱方式の場合は,日本工 営特許「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」に抵触 の可能性がある。」 c 「2−2 性能その他に関する評価 (1) 承認申請されたヒーターの加熱効果は実証試験その他の 方法により客観的妥当性をもって確認されているか → 熱量計算に基づく発熱量を持つヒーターを戸当り金物 に取り付け,水密部で所定の温度上昇が得られるかを実 証試験その他の方法により確認しているか,また,確認 根拠は客観的妥当性を有するか。 (2) 承認申請されたヒーターの効率は鋼管発熱方式と同等あ るいはそれ以上か → 承認申請ヒーターの効率は,鋼管発熱方式の効率と同 等あるいはそれ以上を有しているか,その結果,設備容 量は鋼管発熱方式の場合と同等かあるいは低減されてい るか。 (3) 承認申請されたヒーターは水中での使用が可能か → 水門に取り付けられるヒーターは飛沫,結露等により, 運用後は水中にての使用と同等環境におかれるため,水 中での使用が可能な性能を求められる。承認申請された ヒーターの水中使用性能は,水中使用が可能である鋼管 発熱方式と同等かあるいはそれ以上のものを有している か。その性能について客観的妥当性をもって証明できる か,過去に同等条件での使用実績はあるか。 (4) 承認申請されたヒーターの耐用年数は鋼管発熱方式と同 等かあるいはそれ以上か → 鋼管発熱方式の耐用年数は使用実績から30余年以上 を有する。提案ヒーターは30余年以上の使用に無事故 で耐えられるか,また,耐えられるとした場合,客観的 妥当性をもってそれを証明できるか。」 (オ)a 被告IHIは,平成21年7月1日,信濃川河川事務所に対し, 被告IHIが作成した本件工事における水門凍結防止装置に関する 「凍結防止装置関係図」と題する設計図書(甲11)を提出した。 被告IHIは,同月2日ころ,原告に対しても,甲11を交付した。 b 原告は,平成21年7月6日,本件出願について審査請求をした後, 同月17日付け補正により,本件出願に係る特許請求の範囲を補正し た。 c 原告の担当者は,平成21年7月29日,信濃川河川事務所を訪問 し,その担当者と面談した。 d 被告IHIの担当者は,平成21年7月30日,信濃川河川事務所 の担当者から,被告IHIの言い分と原告の言い分に大きな差がある ので,整理のために打合せをしたい旨の電話連絡を受けた。 その後,被告IHIの担当者は,同年8月6日,信濃川河川事務所 の担当者と打合せをした。 その打合せの際,被告IHIの担当者は,被告IHIが施工予定の 水門凍結防止装置が原告の特許を侵害しないと考えているが,原告が 申請中の特許(本件出願に係る特許)の内容がこの時点では不明であ るため,断言はできない旨述べたところ,信濃川河川事務所の担当者 は,被告IHIの施工する水門凍結防止装置が原告の特許に抵触する かどうか判断できない限り,被告IHIの施工計画書を承認すること はできない旨述べた。 e 原告は,平成21年8月4日付けで拒絶理由通知を受けた後,同年 8月10日付け補正により,本件出願に係る特許請求の範囲を再度補 正した。 (カ)a 被告IHIは,代理人弁護士を通じて,原告に対し,平成21年 8月26日付け申入書(乙23は,その修正書)を送付した。 上記申入書には,@原告は,被告IHIが採用予定の凍結防止装置 (「弊社製品」)が本件出願の技術的範囲に含まれると主張している が,「弊社製品」は本件出願以前に公知となっている技術のみを使用 しているものであり,本件出願を侵害することはないものと思料して いるが,本件出願は未だ出願公開さえされていないため,その内容を 知ることはできず,本件についての適切な判断をすることは不可能な 状況になっている,A本件の解決のために,本件関連特許出願の「特 許願」,「特許請求の範囲」,「明細書」,「図面」,「特許査定」, さらには,審査中であるという本件出願については,出願経過で示さ れた拒絶理由通知書,補正などに関係する各書類について,遅くとも 8月31日までに開示していただきたい,B出願公開さえされていな い未確定な権利に基づいて「弊社製品」が特許権を侵害するなどと口 外されること自体,不正競争防止法2条1項14号(虚偽事実の告知) に該当する疑いが高い上に,後日原告の特許権が成立した場合に,そ の権利範囲に「弊社製品」が含まれなかったとすれば,原告の行為は 不正競争防止法2条1項14号(虚偽事実の告知)に該当すると言わ ざるを得ないことになると思料する旨の記載があった。 b 原告の代理人弁護士は,被告IHIの代理人弁護士に対し,平成2 1年9月3日付け回答書(乙24)を送付した。 上記「回答書」には,@原告が,信濃川河川事務所に対して,被告 IHIの採用予定の凍結防止装置(「貴社製品」)が原告の本件出願 の技術的範囲に含まれるので,「工事の差止請求などの権利行使を行 う」と述べたことはなく,仮に差止請求に言及したことがあったとし ても,一般的な可能性を説明したにすぎない,A原告は,平成21年 8月28日付けで特許査定の通知を受領したが,被告IHIから提供 のあった「大河津可動堰改築ゲート設備工事凍結防止装置関係図」 (甲 11)及び「国交省本件特記仕様書」(甲15)を見ると,「貴社製 品」は,原告が特許査定を受けた請求項のうち,請求項1の技術的範 囲に含まれると推測される,B被告IHIは,これまで凍結防止装置 を独自開発した経験がなく,一方,被告IHIは原告が以前に開発製 造し,施工してきた凍結防止装置の設計事項の詳細を「水門製造者(元 請管理者)」の立場で知ることができたので,被告IHIが原告とは 別の正当なルートで得た情報によって「独自開発」したことを示さな い限り,今回の被告IHIの行為が上記の特許権の問題だけでなく, 原告が保有するノウハウの不正使用の問題をも含んでいる,C今回の 凍結防止装置(6門)の納入については納期の問題があるので,上記 問題の解決案として,「1.平成21年9月末日までに工場製作予定 の貴社製品については,貴社が合理的な実施料を当社に支払うことを 条件として,当社はその実施を許諾する。」,「2.残りの4門につ いては,問題の解決に向けて早急に協議をする。」との提案をする, D特許出願書類は特許庁においても出願公開まで秘密として扱われ ている文書であるので,被告IHIからの秘密保持の覚書と引き換え に,上記包袋書類一式を被告IHIに開示する旨の記載がある。 c その後,原告の代理人弁護士と被告IHIの代理人弁護士との間 で,交渉を継続し,平成21年10月6日には直接話合いをしたが, 合意に至らなかった。 その間の同月2日,原告は,本件特許権の設定登録を受けた。 (キ)a 原告は,平成21年10月28日,被告IHIに対し,本訴(平 成21年(ワ)第38627号事件)を提起した。 b 被告IHIの代理人弁護士は,原告に対し,平成21年11月4日 付けの「申入書の修正書」と題する書面(乙23)を送付した。 上記書面には,「本件に関連して貴社から訴訟が提起されましたこ とに鑑み,当該工事に対する影響を最小限にするために,本件工事に おいては本件特許発明が規定する電磁誘導方式を採用しないよう設 計変更を行いますので,ご連絡いたします。」との記載がある。 c 被告インフラシステムは,平成21年11月19日,信濃川河川事 務所に対し,本件工事の詳細設計概要一覧表(乙9の3)を含む詳細 設計図書を提出した。 当該一覧表には,「元設計」の欄に「1.凍結防止装置は鋼管発熱 方式とする。」,「詳細設計」の欄に「凍結防止装置は,鋼管発熱方 式の内,間接加熱方式の発熱線式を採用するものとします。」との記 載がある。 その後,信濃川河川事務所は,同年12月9日付けで,被告インフ ラシステムに対し,上記詳細設計図書について,「特記仕様書第2条」 に基づき承認する旨の通知をした。 d 原告は,平成21年12月7日,被告インフラシステムに対し,本 訴(平成21年(ワ)第44344号事件)を提起した。 e 被告らは,平成22年3月10日の本件第1回弁論準備手続期日に おいて同年2月26日付け「準備書面(被告その1)」を陳述した。 上記準備書面において,被告らの主張する旧施工方法の構成(別紙 1)及び新施工方法の構成(別紙2)が,初めて具体的に明らかにさ れた。 f 被告らは,平成22年4月30日,原告に対し,反訴を提起した。 g 原告は,平成22年5月17日,被告らに対し,別件仮処分の申立 てをした。 イ 原告の本件告知行為@の有無及び不正競争行為該当性 被告らは,原告が平成21年6月19日に行った本件告知行為@は,競 争関係にある被告IHIの営業上の信用を害する虚偽の事実(実際には特 許侵害をしていないのに,特許侵害をするとの虚偽の事実)を告知する行 為(不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為)に該当する旨主張す る。これに対し原告は,原告の担当者が信濃川河川事務所を訪問し,その 担当者に対し,甲34を交付したことを認めた上で,原告の担当者がした 説明は,被告IHIが自社開発しようとしている水門凍結防止装置が鋼管 発熱方式である場合には,原告が出願している特許との抵触問題があり得 ることを一般的に指摘したものであり,そもそも,被告らが主張するよう な「競争関係にある他人の営業上の信用を害する事実」の告知に当たらな いなどと主張する。 (ア) 原告の担当者が信濃川河川事務所の担当者に交付した甲34は, 「大河津可動堰改築ゲート設備工事のうち凍結防止装置 評価項目」と 題する書面であり,同書面中の「2.承認申請図評価項目」には,「2 −1 特記仕様書に対する評価」として,「(1)承認申請されたヒータ ーは鋼管発熱方式か → 承認されたヒーターが鋼管発熱方式の場合 は,日本工営特許「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」に抵触の可 能性がある。」との記載(以下「甲34の本件記載部分」ということが ある。)がある。 そして,甲34の記載事項全体(前記ア(エ))及び原告の担当者が平 成21年6月19日に信濃川河川事務所を訪問するまでの間の本件の 経緯等(前記ア(ア)ないし(ウ))を総合すると,原告の担当者から甲3 4の交付を受けた信濃川河川事務所の担当者は,甲34の本件記載部分 中の「日本工営特許「誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置」」,「特 記仕様書」及び「承認申請されたヒーター」とは,それぞれ「原告の本 件出願に係る発明」,「信濃川河川事務所が作成した本件工事の平成2 0年8月付け特記仕様書(甲15)」,「本件工事の発注を受けた被告 IHIが,信濃川河川事務所に承認申請する本件工事における水門凍結 防止装置」を意味するものと理解したものと認められる。 そうすると,甲34の本件記載部分は,被告IHIが承認申請する本 件工事における水門凍結防止装置が「鋼管発熱方式」である場合には, 原告の本件出願に係る発明が特許されたときはその特許権に抵触する 可能性があるとの意見ないし見解を示したものであり,原告の担当者 は,信濃川河川事務所の担当者に対し,甲34を交付することにより, 上記の意見ないし見解を述べたものと認められる。 被告ら主張の原告の本件告知行為@は,このような意見ないし見解を 告知したものとして,認めることができる。 (イ) 以上を前提に,原告の本件告知行為@が,被告IHIの営業上の信 用を害する「虚偽の事実の告知」(不正競争防止法2条1項14号)に 該当するかどうかについて検討する。 a 甲34の記載事項(前記ア(エ))によれば,甲34は,「承認申請 されたヒーター」が,本件工事の特記仕様書(甲15)の各要求事項 を満たすものかどうかを評価するための具体的な評価基準を示す体 裁のものといえる。 加えて,原告は,本件工事の一般競争入札が実施される前に,信濃 川河川事務所の依頼を受けて,本件工事に係る凍結防止装置の見積書 を2回にわたり提出したほか,本件工事の設計業務等の委託を受けて いたものであり(前記ア(ア)),このような原告と信濃川河川事務所 との関係に鑑みると,原告は,信濃川河川事務所から,本件工事の設 計業務等に関し,意見や助言等を求められる立場にあったものと認め られる。 そうすると,甲34の本件記載部分は,原告が,信濃川河川事務所 から委託のあった本件工事の設計業務等に関する意見等の表明の一 環として記載されたものと推認することができる。 b そして,@平成21年6月19日の時点では,原告及び信濃川河川 事務所のいずれにおいても,被告IHIが承認申請する本件工事にお ける水門凍結防止装置及びその施工方法の具体的な内容を把握して いなかったこと,A本件工事の特記仕様書(甲15)に,「1.凍結 防止装置は鋼管発熱方式とする。」との記載があることからすると, 被告IHIが承認申請する本件工事における水門凍結防止装置が「鋼 管発熱方式」のものであると予測するのは自然であり,一方,本件当 初明細書(甲5)によれば,平成21年6月19日の時点における特 許請求の範囲の請求項1は,「水門設備の凍結防止範囲の被加熱部材 に対して固着する誘導発熱鋼管による水門凍結防止装置において,前 記誘導発熱鋼管は,並列に配置された複数個の誘導発熱鋼管単体を備 え,各々の前期誘導発熱鋼管単体は,内部に軸方向に延在する絶縁電 線差込み孔をもつ柱状の強磁性鋼材を有し,並列した複数個の前記誘 導発熱鋼管単体の差込み孔に通して,その両端に交流電源が接続され た絶縁電線を有し,複数個の前記柱状の強磁性鋼材は,相互に電気的 に絶縁されている,水門凍結防止装置。」というものであり,「鋼管 発熱方式」の水門凍結防止装置の発明であることからすると,被告I HIが承認申請する本件工事における水門凍結防止装置が,上記請求 項1の記載に係る発明の技術的範囲に入る可能性があると考えるこ とは不合理であるとはいえない。 c 前記a及びbを総合すれば,甲34の本件記載部分は,原告が,信 濃川河川事務所から委託を受けていた本件工事の設計業務等に関す る意見等の表明の一環として,被告IHIが承認申請する本件工事に おける水門凍結防止装置が「鋼管発熱方式」である場合には,原告の 本件出願に係る発明が特許されたときはその特許権に抵触する可能 性があるとの意見ないし見解を示したものであり,そもそも被告IH Iの具体的な水門凍結防止装置を前提として原告の本件出願に係る 特許権を侵害することになることを述べたものではないのみならず, 上記意見ないし見解の前提とする事実関係は事実に合致し,不合理で あるとはいえないこと(前記b)に鑑みれば,原告の本件告知行為@ が,被告IHIの営業上の信用を害する「虚偽の事実の告知」(実際 には特許侵害をしていないのに,特許侵害をするとの虚偽の事実)に 該当するものと認めることはできない。 (ウ) これに対し,被告らは,仮に特許権者が自らが保有する特許権の無 効理由や被侵害者の対象物件又は対象方法を十分に調査した上で客先 に警告を行った場合であっても,結果的に非侵害であったり,無効であ れば,原則的には,不正競争防止法2条1項14号の不正競争行為に該 当すると解されており,本件においては,未だ特許権が成立していない 段階において,原告において,被告IHIの水門凍結防止装置やその施 工方法を何ら調査することなく,漫然と信濃川河川事務所に警告を行っ たもので,極めて悪質性の高い行為である旨を主張する。 しかしながら,前記(イ)で述べた理由により,被告らの上記主張を採 用することはできない。 ウ 原告の本件告知行為Aの有無及び不正競争行為該当性 被告らは,原告の担当者は,平成21年7月29日,信濃川河川事務所 を訪問し,その担当者に対し,本件告知行為Aを行った旨主張する。これ に対し原告は,原告の担当者が信濃川河川事務所を訪問したことを認めた 上で,本件告知行為Aの事実を否認し,原告の担当者は,本件出願の審査 状況を説明したにすぎないなどと主張する。 そこで検討するに,原告の担当者が被告ら主張の本件告知行為Aを行っ たことを客観的に裏付ける書面等の証拠は提出されていない。 もっとも,被告IHIの担当者は,平成21年7月30日,信濃川河川 事務所の担当者から,被告IHIの言い分と,原告の言い分に大きな差が あるので,整理のために打合せをしたいという旨の電話を受け,同年8月 6日に,信濃川河川事務所の担当者と打合せをした際に,信濃川河川事務 所の担当者が,被告IHIの施工する水門凍結防止装置が原告の特許に抵 触するかどうか判断できない限り,被告IHIの施工計画書を承認するこ とはできない旨述べた事実(前記ア(オ)d)が認められるが,信濃川河川 事務所の担当者の上記発言は,原告の担当者が同年7月29日に信濃川河 川事務所の担当者に対し被告IHIの施工する水門凍結防止装置が本件 出願に係る特許権を侵害する旨を具体的に告げたことをうかがわせるも のとはいえない。また,被告ら提出の被告IHIの従業員が作成した乙2 0及び乙22の電子メールには,原告の担当者が本件告知行為Aを行った ことをうかがわせる具体的な事情の記載はない。 結局,本件全証拠によっても,原告の担当者が被告ら主張の本件告知行 為Aを行ったことを認めるに足りない。 エ まとめ 以上のとおり,原告の本件告知行為@は,不正競争防止法2条1項14 号の不正競争行為に該当するものとは認められず,また,原告が本件告知 行為Aを行った事実を認めるに足りる証拠はない。 したがって,被告らの反訴請求のうち,不正競争防止法4条に基づく損 害賠償請求は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 (2) 争点5(原告による本訴の提起及び別件仮処分の申立ての不法行為該当 性)について ア 本訴の提起の不法行為該当性 (ア) 訴訟において,提訴者の主張した権利又は法律関係が事実的,法律 的根拠を欠くものである上,提訴者が,そのことを知りながら又は通常 人であれば容易にそのことを知り得たといえるのにあえて訴えを提起 したなど,訴えの提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を 欠くと認められるときには,当該訴えの提起は,不法行為を構成すると 解される(最高裁判所昭和63年1月26日第三小法廷判決・民集42 巻1号1頁参照)。 そこで,原告の本訴の提起が不法行為を構成するかどうか検討する に,前記1のとおり,当裁判所は,原告の本訴請求のうち,本件特許権 侵害の不法行為に基づく損害賠償請求は,被告インフラシステムが行っ た新施工方法は本件発明の技術的範囲に属するものと認めることがで きないから,理由がなく,また,原告の本訴請求のうち,不正競争防止 法4条に基づく損害賠償請求は,本件情報が,被告らとの関係で,秘密 として管理されていたものと認められず,営業秘密(不正競争防止法2 条6項)に該当するものと認めることはできないから,理由がなく,結 局,原告の本訴請求はいずれも理由がないものと判断するものである。 しかしながら,@前記(1)アの認定事実を総合すると,原告は,被告 IHIが受注した合計18件の水門施工工事における水門凍結防止装 置の設置工事(別件工事)をすべて原告に発注し,原告がこれを施工し きたが,本件工事における水門凍結防止装置の設置工事については,被 告IHIから発注を受けることができなかったものであるところ,被告 IHIがこれまで凍結防止装置を独自開発した経験がなかったことか ら,被告IHIによる本件工事における水門凍結防止装置の施工方法が 本件発明の技術的範囲に属するものと考え,また,被告IHIがその施 工に当たり原告が別件工事において被告IHIに開示した原告の保有 する営業秘密であるノウハウを使用したものと考えて,本訴を提起する に至ったこと,A本訴請求のうち,本件特許権侵害の不法行為に基づく 損害賠償請求との関係では,被告らは,平成22年3月10日の本件第 1回弁論準備手続期日において,原告に対し,被告らの主張する旧施工 方法の構成(別紙1)及び新施工方法の構成(別紙2)を初めて具体的 に明らかにしたものであり,しかも,その主張が,工事現場の写真とい った客観的な証拠で裏付けされたのは,平成23年5月16日であるこ と(乙43「被告技術説明資料」スライド11。被告らの同日付け証拠 説明書(被告その8)参照),B原告の本訴請求のうち,不正競争防止 法4条に基づく損害賠償請求については,少なくとも原告の内部におい ては,本件情報が,「秘密情報管理規程」に定義する秘密情報に指定さ れ,同規程に則った管理をされていたものと推認されること,Cその他 本件における原告の主張及び証拠関係,本訴に至るまでの具体的な経緯 等を総合的に考慮すると,原告において,本訴における原告の主張が事 実的,法律的根拠を欠くことを知りながら又は通常人であれば容易にそ のことを知り得たといえるのに本訴を提起したということはできず,原 告の本訴の提起が裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠く ものとは認められない。 (イ) 以上によれば,原告の本訴の提起が不法行為を構成するとの被告ら の主張は,理由がない。 イ 別件仮処分の申立ての不法行為該当性 (ア) 仮処分命令の申立てをした債権者の主張した被保全権利が事実的, 法律的根拠を欠くものである上,債権者が,そのことを知りながら又は 通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに仮処分命令の 申立てをしたなど,仮処分命令の申立てが裁判制度の趣旨目的に照らし て著しく相当性を欠くと認められるときには,当該仮処分命令の申立て は,不法行為を構成すると解される そこで,原告の別件仮処分の申立てが不法行為を構成するかどうか検 討するに,別件仮処分は,原告が,本件情報を記載した文書(甲28の 1ないし7,9)を,被告らが,情報公開法に基づく情報公開制度を利 用して取得し,本訴において書証として提出した行為が,営業秘密の不 正取得及び開示の不正競争行為(不正競争防止法2条1項4号)に当た る旨主張し,債務者らに対し,同法3条に基づく差止請求権を被保全権 利として,情報公開法に基づいて文書開示請求を行うことなどの差止め を求めた仮処分命令申立事件であるところ,被告IHIの従業員が情報 公開法に基づいて開示請求を行ったこと自体は,情報公開法の定める適 法な行為であること,被告IHIの従業員が上記文書の開示を受けたの は,行政機関の長である北海道開発局長の開示決定に基づくものである ことなどに照らすならば,原告主張の被告らの行為は,特段の事情のな い限り,不正競争防止法2条1項4号の不正競争行為に該当せず,原告 の別件仮処分の申立ては,その主張する被保全権利の疎明を欠くものと いわざるを得ない。 また,本件情報は,被告らとの関係で,秘密として管理されていたも のと認められず,営業秘密(不正競争防止法2条6項)に該当するもの と認めることができないことは,前記1(2)のとおりである。 しかしながら,他方で,@原告が主張するように,情報公開法は,同 法5条2号イで不開示情報を規定しており,行政機関において保管され ている文書であるからといって,すべからく同法に基づく公開の対象と なるものとは一般的にいえないこと,A少なくとも原告の内部において は,本件情報が,「秘密情報管理規程」に定義する秘密情報に指定され, 同規程に則った管理をされていたものと推認されること(前記1(2)ウ (ア)),Bその他本件における原告の主張及び証拠関係,別件仮処分の 申立てに至るまでの具体的な経緯等を総合的に考慮すると,原告におい て,原告の被保全権利の主張が事実的,法律的根拠を欠くことを知りな がら又は通常人であれば容易にそのことを知り得たといえるのに別件 仮処分の申立てをしたものということはできず,別件仮処分の申立てが 裁判制度の趣旨目的に照らして著しく相当性を欠くものとは認められ ない。 (イ) 以上によれば,原告の仮処分の申立てが不法行為を構成するとの被 告らの主張は,理由がない。 ウ まとめ 以上のとおり,原告の本訴の提起及び別件仮処分の申立ては,被告らに 対する不法行為を構成するものと認められない。 したがって,被告らの反訴請求のうち,不法行為に基づく損害賠償請求 は,その余の点について判断するまでもなく,理由がない。 3 結論 以上によれば,原告の本訴請求及び被告らの反訴請求は,いずれも理由がな いからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第46部 裁判長裁判官 大 鷹 一 郎 裁判官 上 田 真 史 裁判官大西勝滋は,転補により署名押印することができない。 裁判長裁判官 大 鷹 一 郎 (別紙1) 旧施工方法説明書 1 凍結防止装置の構成 本件工事では,4門の調節ゲート及び2門の制水ゲートに,それぞれ,埋設戸 当り金物と扉体に取り付けられた水密部(水密ゴム)が接触する部分の凍結を防 止するための凍結防止装置が設けられる。 図1は,コンクリートに埋設される戸当り金物,扉体(ゲート)及び扉体に取 り付けられ戸当り金物と接触する水密部(水密ゴム)を示している。図において 水流と標記された矢印が川の水流方向を示している。図中水密部の下側は,河川 水位以下の高さでは川の水が存在し,水密部の下側で河川水位以上の高さ及び水 密部の上側は大気に曝されている。扉体(ゲート)が開閉される時は,扉体とこ れに取り付けられた水密部(水密ゴム)は図で紙面に垂直な方向に上下動する。 【図1】 コンクリート 水密部(水密ゴム) 戸当り金物 戸当り金物の内側(コンクリート埋設部分の内部側)には,8本の鋼管が図1 の紙面に垂直方向に延在し,固定金具(フラットバー)によって戸当り金物に固 定されている。又,鋼管の周囲には後述する方法で伝熱セメントが塗布されてい て,鋼管の熱を戸当り金物,さらに水密部に伝達するようになっている。図2は 8本の鋼管が4本ずつをひとまとめにして所定の間隔で固定金具(フラットバ ー)によって戸当り金物に固定されている様子を示している。 【図2】 鋼管 固定金具(フラットバー) 2 施工方法 凍結防止装置の組み付け及び取り付けは,次の工程からなる。なお,鋼管は磁 性体のものである。 (1) 一つの水門には左右に二つの凍結防止装置を設けるところ,その半門分の 凍結防止装置を3分割したうちの一つの部材につき,以下の作業を行う。 ア 現場において,戸当り金物のウェブとフランジのコーナー部に伝熱セメン トを塗布する。 戸当り金物 伝熱セメント ウェブ フランジ イ 1本目の鋼管をウェブとフランジのコーナー部に配置する。 1 伝熱セメント ウ 鋼管の伝熱セメントを塗布していない側を,鋼管の長さ方向に所定間隔を おいてフランジに溶接する。 1 溶接 エ 鋼管とフランジの間に伝熱セメントを塗布する。 1 伝熱セメント オ 前記エで塗布した伝熱セメントに2本目の鋼管を配置する。 2 1 カ 前記ウないしオの要領を繰り返し,鋼管を4本配置する。 4 3 2 1 溶接 キ 4本の鋼管を覆うようにL字型の固定金具(フラットバー)を配し,フラ ンジ,ウェブ,鋼管と溶接する。これにより,鋼管同士が電気的に接続され る。 A 溶接 溶接 A 溶接 4 3 2 1 溶接 (フラットバーを設けた箇所の断面模式図) 4 3 2 1 ク 鋼管の周囲で伝熱セメントが塗布されていない部分に伝熱セメントを塗 布する。 4 3 2 1 (フラットバーを設けていない箇所の断面模式図) ケ フランジの反対側にも同様の施工を行い,合計8本の鋼管を配置する。 4 3 2 1 1 2 3 4 (フラットバーを設けた箇所の断面模式図) (2) 3分割した凍結防止装置の残りの二つの部材について,前記アないしケの 作業を行い,これによって製造した三つの部材を揃えて,水門の所定の場所に 取り付けたうえで,これら三つの部材を接続(カップリング)し,接続部に伝 熱セメントを塗布する。 (3) ゲート設備工事の現場において,前記(2)で製造した凍結防止装置をコン クリートで埋設する。 (4) 水門の残りの半門分について,前記(1)ないし(3)の工程を行う。 (5) 鋼管の端部から内部長手方向にテフロン被覆をした発熱電線を挿入する。 (6) 発熱電線の両端に交流電源を接続する。 以上 (別紙2) 新施工方法説明書 1 凍結防止装置の構成 本件工事では,4門の調節ゲート及び2門の制水ゲートに,それぞれ,埋設戸 当り金物と扉体に取り付けられた水密部(水密ゴム)が接触する部分の凍結を防 止するための凍結防止装置が設けられる。 図1は,コンクリートに埋設される戸当り金物,扉体(ゲート)及び扉体に取 り付けられ戸当り金物と接触する水密部(水密ゴム)を示している。図において 水流と標記された矢印が川の水流方向を示している。図中水密部の下側は,河川 水位以下の高さでは川の水が存在し,水密部の下側で河川水位以上の高さ及び水 密部の上側は大気に曝されている。扉体(ゲート)が開閉される時は,扉体とこ れに取り付けられた水密部(水密ゴム)は図で紙面に垂直な方向に上下動する。 【図1】 コンクリート 水密部(水密ゴム) 戸当り金物 戸当り金物の内側(コンクリート埋設部分の内部側)には,8本の鋼管が図1 の紙面に垂直方向に延在し,固定金具(フラットバー)によって戸当り金物に固 定されている。又,鋼管の周囲には後述する方法で伝熱セメントが塗布されてい て,鋼管の熱を戸当り金物,さらに水密部に伝達するようになっている。図2は 8本の鋼管が4本ずつをひとまとめにして所定の間隔で固定金具(フラットバ ー)によって戸当り金物に固定されている様子を示している。 【図2】 鋼管 固定金具(フラットバー) 2 施工方法 凍結防止装置の組み付け及び取り付けは,次の工程からなる。なお,鋼管は磁 性体のものである。 (1) 一つの水門には左右に二つの凍結防止装置を設けるところ,その半門分の 凍結防止装置を3分割したうちの一つの部材につき,以下の作業を行う。 ア 現場において,戸当り金物のウェブとフランジのコーナー部に伝熱セメン トを塗布する。 戸当り金物 伝熱セメント ウェブ フランジ イ 1本目の鋼管をウェブとフランジのコーナー部に配置する。 1 伝熱セメント ウ 鋼管の伝熱セメントを塗布していない側を,鋼管の長さ方向に所定間隔を おいてフランジに溶接する。 1 溶接 エ 鋼管とフランジの間に伝熱セメントを塗布する。 1 伝熱セメント オ 前記エで塗布した伝熱セメントに2本目の鋼管を配置する。 2 1 カ 前記ウないしオの要領を繰り返し,鋼管を4本配置する。 4 3 2 1 溶接 キ 4本の鋼管を覆うようにL字型の固定金具(フラットバー)を配し,フラ ンジ,ウェブ,鋼管と溶接する。これにより,鋼管同士が電気的に接続され る。 A 溶接 溶接 A 溶接 4 3 2 1 溶接 (フラットバーを設けた箇所の断面模式図) 4 3 2 1 ク 鋼管の周囲で伝熱セメントが塗布されていない部分に伝熱セメントを塗 布する。 4 3 2 1 (フラットバーを設けていない箇所の断面模式図) ケ フランジの反対側にも同様の施工を行い,合計8本の鋼管を配置する。 4 3 2 1 1 2 3 4 (フラットバーを設けた箇所の断面模式図) (2) 3分割した凍結防止装置の残りの二つの部材について,前記アないしケの作 業を行い,これによって製造した三つの部材を揃えて,水門の所定の場所に取 り付けたうえで,これら三つの部材を接続(カップリング)し,接続部に伝熱 セメントを塗布する。 (3) ゲート設備工事の現場において,前記(2)で製造した凍結防止装置をコンク リートで埋設する。 (4) 水門の残りの半門分について,前記(1)ないし(3)の工程を行う。 (5) 鋼管の端部から内部長手方向に発熱ケーブルを挿入する。 外 装 :シリコンラバー エンドキャップ 母 線 ・発 熱 エレメント 母 線 (電 源 接 続 口 ) 絶 縁 キャップ グランド 母 線 ・発 熱 エレメント ジョイント部 発 熱 エレメント 母線 ジョイント部 ( 発熱ケーブルの構成例) ( 発熱ケーブルの構造) (6) 発熱ケーブル中の2本の母線のそれぞれを交流電源に接続する。なお,発熱 ケーブルの一方端にのみ交流電源が設けられ,他端には設けられない。 電源ケーブル 発熱ケーブル母線 発熱ケーブル 鋼管 エンドキャップ 交流電源 (発熱ケーブルの電源接続方法) 以上 (別紙3) ●省略● (別紙) 本件明細書図面 【図1】 【図2】 【図3】 【図13】 【図14】 【図15】 【図19】 【図20】 【図21】 【図22】 【図23】 【図24】 |