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事件 |
平成
21年
(ワ)
47445号
専用実施権設定登録抹消登録等請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2012/03/30 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年3月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成21年(ワ)第47445号 専用実施権設定登録抹消登録等請求事件 口頭弁論終結日 平成23年12月22日 判 決 東京都台東区<以下略> 原 告 株 式 会 社 コ ネ ッ ト 同訴訟代理人弁護士 加 藤 悟 同 平 石 喬 識 同 一 杉 昭 寛 同 大 岡 雅 文 (登録原簿上の住所) シンガポール共和国<以下略> (シンガポール共和国登記上の住所) シンガポール共和国<以下略> 被 告 エム.エフ.アイ.ネット(エス)ピーティーイー.リミテッド (M.F.I.NET(S)PTE.LTD.) 長崎市<以下略> 被 告 株 式 会 社 イ レ ブ ン 長崎市<以下略> 被 告 株 式 会 社 ア ッ プ 長崎市<以下略> 被 告 株 式 会 社 E M S 長崎市<以下略> 被 告 株式会社Infini Style 宮崎県都城市<以下略> 被 告 株 式 会 社 l e a 被告ら訴訟代理人弁護士 山 下 俊 夫 同 川 添 志 同 西 村 広 平 主 文 1 被告 エム.エフ.アイ.ネット(エス)ピーティーイー.リミテッド (M.F.I.NET(S)PTE.LTD.)は,原告に対し,別紙 特許権目録記載2の特許権について,平成20年8月1日特許庁受付第 005287号をもってした特定承継による専用実施権の移転登録(乙 区順位第4番)の抹消登録手続をせよ。 2 被告株式会社イレブンは,原告に対し,前項の抹消登録手続の承諾を せよ。 3 被告株式会社アップは,原告に対し,第1項の抹消登録手続の承諾を せよ。 4 被告株式会社EMSは,原告に対し,第1項の抹消登録手続の承諾を せよ。 5 被告株式会社Infini Styleは,原告に対し,第1項の抹 消登録手続の承諾をせよ。 6 被告株式会社leaは,原告に対し,第1項の抹消登録手続の承諾を せよ。 7 被告株式会社アップは,原告に対し,別紙特許権目録記載2の特許権 について,平成19年10月12日特許庁受付第009259号をもっ てした専用実施権の設定登録(乙区順位第3番)の抹消登録手続をせよ。 8 訴訟費用は被告らの負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は,別紙特許権目録記載2の特許権の特許権者である原告が,原告から 専用実施権の許諾を受けて専用実施権の設定登録をしている被告株式会社アッ プ(以下「被告アップ社」という。),原告から専用実施権の許諾を受けて被 告アップ社から上記専用実施権の移転登録を受けている被告エム.エフ.アイ. ネット(エス)ピーティーイー.リミテッド(以下「被告MFI社」という。), 及び被告MFI社から通常実施権の許諾を受けて通常実施権の設定登録をして いる被告MFI社以外の被告らに対し,@原告と被告MFI社との間の専用実 施権許諾契約は,解約により終了したこと,A被告MFI社とその他の被告ら との間の通常実施権許諾契約は,架空(虚偽表示ないし不存在)であること, B原告と被告アップ社との間の専用実施権許諾契約は,原告と被告MFI社と の間の専用実施権許諾契約が締結されたことによって合意解除されたこと,を 理由に,上記専用実施権の設定登録及び移転登録の抹消登録手続並びに同移転 登録の抹消登録手続に対する承諾を求める事案である。 1 争いのない事実等(末尾に証拠の掲記がない事実は,当事者間に争いがな い事実である。) (1) 当事者 ア 原告等 (ア) 原告は,平成6年11月28日付けで設立された,情報処理サービ ス業及び情報提供サービス業等を業とする株式会社である。Aは,平成 11年ころから平成21年10月13日まで,原告の全株式を保有し, 原告の代表取締役を務めていた(乙4の1,乙8)。 (イ) 株式会社ペンジュラム(以下「ペンジュラム社」という。)は,B 及び原告代表者C(以下「原告代表者」という。)により,平成21年 1月30日付けで設立された,投資業等を営む株式会社である(甲50, 乙4の2)。 ペンジュラム社は,平成21年10月13日,Aから,Aの保有する 原告の株式200株のうち180株を譲り受けた。Aは,同日,原告の 代表取締役を退任し,Bが原告の代表取締役に就任し,原告代表者が原 告の取締役に就任した。Bは,平成22年12月29日,原告の代表取 締役を退任し,原告代表者が原告の代表取締役に就任した。 イ 被告ら等 (ア) 被告MFI社は,平成20年3月6日付けで,シンガポール共和国 の法律に従い成立した法人である。 (イ) 被告株式会社イレブン(以下「被告イレブン社」という。)は,平 成3年4月30日付けで設立された,出版物の企画,製作,販売等を業 とする株式会社である(甲6)。 (ウ) 被告アップ社は,平成19年3月26日付けで設立された,冠婚葬 祭に関する情報の提供及び式典の代行,仲介,斡旋等を業とする株式会 社である(甲11)。 (エ) 被告株式会社EMS(以下「被告EMS社」という。)は,平成1 9年3月27日付けで設立された,コンピューターソフトウェア及びハ ードウェアの開発,設計,保守並びに販売等を業とする株式会社である (甲14)。 (オ) 被告株式会社Infini Style(以下「被告Infini 社」という。)は,平成19年3月23日付けで設立された,冠婚葬祭 に関する情報の提供及び式典の代行,仲介,斡旋等を業とする株式会社 である(甲15)。 (カ) 被告株式会社lea(以下「被告lea社」という。)は,平成1 9年3月26日付けで設立された,広告宣伝に関するコンサルタント業 等を業とする株式会社である(甲16)。 (キ) Dは,被告MFI社の代表者及び被告イレブン社の代表取締役であ る。また,Dは,被告アップ社の株主であり,同社の全株式を保有して いる(甲46)。 (2) 本件特許権の設定登録 ア 原告は,別紙特許権目録記載1の特許権(以下「本件特許権1」という。) について,平成11年8月13日に設定登録を受けて特許権者となり,同 目録記載2の特許権(以下「本件特許権2」といい,本件特許権1と併せ て「本件特許権」という。)について,平成15年2月21日に設定登録 を受けて特許権者となった。 イ 本件特許権に係る発明は,商品やサービスの代金を支払うごとに顧客が ポイントを得ることのできるポイントシステムに関するものであり,発明 者は,Aほか1名である(乙4の5)。 ウ 本件特許権1については,平成21年5月22日,特許無効の審判が請 求され(無効2009−800106号),無効審決及びこれに対する審 決取消訴訟における請求棄却判決(知的財産高等裁判所平成22年(行ケ) 第10217号)を経て,平成23年4月21日,無効であることが確定 し,特許権が消滅した(裁判所に顕著な事実)。 (3) 本件特許権に対する専用実施権の設定登録 ア 被告アップ社に対する専用実施権の設定登録 (ア) 原告と被告アップ社は,平成19年10月1日,「特許権の専用実 施権設定に係わる基本契約書」(甲12。以下「原告・被告アップ社間 の専用実施権設定契約書」といい,同契約書に基づく契約を「原告・被 告アップ社間の専用実施権設定契約」という。)を締結し,原告が本件 特許権について被告アップ社に対して専用実施権を設定する旨を約し た。 原告・被告アップ社間の専用実施権設定契約書では,専用実施権の適 用範囲及び適用期間について,次のとおり定められた。 第3条(専用実施権の適用期間) 1. 当該特許における専用実施権の適用範囲は,乙(判決注:被告 アップ社)の事業範囲内とする。 2. 省略 第4条(専用実施権の適用範囲期間) 1. 専用実施権の適用期間は,平成19年10月1日から平成20 年9月30日までの1年間とする。ただし,契約締結日の30 日前までに甲(判決注:原告)乙より他方当事者に対し,書面 による契約終了の通知がされなかった場合は,本契約の内容及 び有効期間は更に1年間延長されるものとし,以後の延長につ いても同様とする。 2. 第1項にかかわらず,各当事者は他方当事者に対し,2か月前 までに書面による契約終了の意思表示を行い,本契約を終了さ せることができる。 第5条(ロイヤルティ料) 乙の甲に対するロイヤルティ料は,別紙(省略)に定めるもの とする。(以下省略) (イ) 原告及び被告アップ社は,平成19年10月12日,上記専用実施 権の範囲について,地域を「日本国内全域」,期間を「本特許権の存続 期間」,内容を「全部」とする,専用実施権の設定登録手続を行い,同 月25日,同設定登録がされた(甲1,2)。 イ 被告MFI社に対する専用実施権の移転登録 (ア) 原告と被告MFI社は,平成20年7月10日,「特許権の専用実 施権設定に係わる基本契約書」(甲3。以下「本件専用実施権設定契約 書」といい,同契約書に基づく契約を「本件専用実施権設定契約」とい う。)を締結し,原告が本件特許権につき被告MFI社に対して専用実 施権を設定する旨を約した。 本件専用実施権設定契約書では,専用実施権の適用範囲及び適用期間 について,次のとおり定められた。 第3条(専用実施権の適用期間) 1. 当該特許における専用実施権の適用範囲は,乙(判決注:被告 MFI社)の事業範囲内とする。 2. 省略 第4条(専用実施権の適用範囲期間) 1. 専用実施権の適用期間は,平成20年9月1日から平成21年 8月末日までの1年間とする。ただし,契約締結日の30日前 までに甲(判決注:原告)乙より他方当事者に対し,書面によ る契約終了の通知がされなかった場合は,本契約の内容及び有 効期間は更に1年間延長されるものとし,以後の延長について も同様とする。 2. 第1項にかかわらず,各当事者は他方当事者に対し,2か月前 までに書面による契約終了の意思表示を行い,本契約を終了さ せることができる。 第5条(専用実施権使用料) 1. 乙は,甲に対し,本特許侵害企業より特許使用料の入金があっ た月末締めの翌月末に,専用実施権使用料を支払うものとする。 2. 乙の甲に対する専用実施権使用料は,乙の獲得した特許使用料 の20%とする。ただし,上限を年間2000万円とする。(以 下省略) (イ) 原告と被告アップ社は,原告と被告MFI社の間で本件専用実施権 設定契約が締結されたことにより,原告・被告アップ社間の専用実施権 設定契約を合意解除した(弁論の全趣旨)。 (ウ) 原告,被告アップ社及び被告MFI社は,平成20年8月1日,上 記アのとおり設定登録された被告アップ社の専用実施権を被告MFI社 に移転登録する手続を行い,同月14日,同移転登録がされた。 なお,原告,被告アップ社及び被告MFI社が,上記契約実体に合わ せて,被告アップ社への専用実施権設定登録を抹消し,新たに被告MF I社への専用実施権設定登録を行うという登録手続を採らずに,被告ア ップ社から被告MFI社への専用実施権の移転登録手続という方法を採 ったのは,後者の方が登録手続に要する手数料が安かったことから,手 数料を節減することとしたためである。 (4) 本件特許権に対する通常実施権の設定登録 ア ●(省略)● イ 被告MFI社は,平成21年6月ころから同年7月ころまでの間に,被 告イレブン社,被告アップ社,被告EMS社,被告Infini社及び被 告lea社(これら5社を併せて,以下「被告イレブン社ら」という。) に対し,本件特許の専用実施権に基づいて通常実施権を許諾し,原告は, これを承諾した(これら5件の許諾契約を総称して,以下「本件通常実施 権設定契約」という。)。原告,被告MFI社及び被告イレブン社らは, 別紙通常実施権目録記載2ないし6のとおり,同年6月22日から同年7 月9日までの間に,上記通常実施権の設定登録手続を行った(ただし,通 常実施権者名等は,特許法等の規定により非開示)。 (5) Aからペンジュラム社に対する原告の株式の譲渡 Aとペンジュラム社は,平成21年9月30日,Aの保有する原告の株式 180株(原告の発行済み株式の90%)について,同年10月13日をも ってペンジュラム社に譲渡する旨を合意し,同日付けの株式譲渡契約書(乙 4の13。以下「9月30日付け株式譲渡契約書」といい,同契約書に基づ く契約を「9月30日付け株式譲渡契約」という。)を作成した。 Aとペンジュラム社は,9月30日付け株式譲渡契約の詳細を定めるため, 平成21年10月13日,同日付けの株式譲渡契約書(乙4の14。以下「1 0月13日付け株式譲渡契約書」といい,同契約書に基づく契約を「10月 13日付け株式譲渡契約」という。また,同契約と9月30日付け株式譲渡 契約とを併せて,「本件株式譲渡契約」ということがある。)を締結し,同 日(平成21年10月13日)をもって,Aの保有する原告の株式180株 (原告の発行済み株式の90%)をペンジュラム社に譲渡した。Aは,同日, 原告の代表取締役を退任し,Bが原告の代表取締役に就任した。 (6) 原告から被告MFI社に対する本件専用実施権設定契約の解約通知 ア 原告は,平成20年10月13日付け内容証明郵便により,被告MFI 社に対し,本件専用実施権設定契約の第4条第2項の規定に基づき,同年 12月13日をもって同契約を終了することを通知し,同通知は,同月1 5日に被告MFI社に到達した(甲4, 以下 5。 「本件解約通知」という。 。 ) イ 被告MFI社は,平成21年10月22日ころ,原告に対し,原告及び 被告MFI社が作成した平成20年8月20日付けの覚書(以下「本件覚 書」という。)を送付し,本件基本契約の第3条及び第4条は本件覚書に より削除されており,上記解約は無効である旨を回答した(乙15の1, 2,乙16)。 本件覚書には,原告と被告MFI社との間で,本件専用実施権設定契約 における第3条(専用実施権の適用期間)及び第4条(専用実施権の適用 範囲期間)を削除し,平成20年8月1日に特許庁で受け付けられその後 登録された適用範囲と適用期間(前記(3)参照)とすることを合意する旨の 記載が存在し,覚書の末尾に,原告(代表者はA)及び被告MFI社(代 表はD)の記名押印がされている。 2 争点 (1) 本件専用実施権設定契約は,本件解約通知から2か月が経過したことによ り終了したか(争点1) (2) 本件通常実施権設定契約は架空のもの(虚偽表示ないし不存在)か(争点 2) 3 争点に関する当事者の主張 (1) 争点1(本件専用実施権設定契約は,本件解約通知から2か月が経過した ことにより終了したか)について [原告の主張] 本件専用実施権設定契約では,契約期間は1年間とされ,2か月前の解約 予告により契約期間中でも契約を解約することが可能である(同契約第4 条)。原告は,平成21年10月15日に被告MFI社に対して本件解約通 知をしており,同日から2か月間が経過したことにより,本件専用実施権設 定契約は終了した。 なお,被告MFI社の専用実施権の登録は,期間を「本特許権の存続期間」 として登録されており,本件専用実施権設定契約の内容と異なっているが, このような登録方法は,実際の専用実施権設定契約のとおり専用実施権の期 間を区切って登録すると,期間を更新する都度別途の登録が必要となる事務 的な煩雑さを避けるため,実務上広く行われているものである。 [被告らの主張] 原告及び被告MFI社は,平成20年8月20日付けで本件覚書を作成し, 本件専用実施権設定契約の第4条の規定を削除して,専用実施権の存続期間 を,特許登録原簿に登録されているとおり本件特許権の存続期間とした。し たがって,本件覚書の締結後に,原告が本件専用実施権設定契約の第4条に 基づき同契約を解約することはできない。 なお,原告及び被告MFI社が本件覚書を作成したのは,原告らが,本件 専用実施権の登録手続を依頼したE弁理士に対して本件専用実施権設定契約 書を送付したところ,同弁理士から,本件専用実施権設定契約では存続期間 に制限を設けているのに対し,専用実施権の登録では存続期間が本件特許権 の存続期間となっているとの指摘を受けたためである。 当時,原告の代表取締役であったAと,被告MFI社の代表者であったD は,本件専用実施権設定契約書は,原告が以前(平成15年)に株式会社サ イモンズ(以下「サイモンズ社」という。)との間で締結した専用実施権設 定契約書(甲9。以下「原告・サイモンズ社間の専用実施権設定契約書」と いい,同契約書に基づく契約を「原告・サイモンズ社間の専用実施権設定契 約」という。)の内容をそのまま踏襲したものであり,存続期間の定め(第 4条)も,原告・サイモンズ社間の専用実施権設定契約書の記載に倣ったも のにすぎず,原告と被告MFI社との間では,上記専用実施権に特段期間制 限を設ける必要はなかったことから,両者で合意の上,本件専用実施権設定 契約における期間制限の規定を削除することとし,本件覚書を作成したもの である。また,本件覚書は2通作成されたが,2通とも被告MFI社におい て保管されており,原告(A)の手元にはなかった。 [被告らの主張に対する原告の反論] ア Aは,ペンジュラム社との間で本件株式譲渡契約を締結する以前に,ペ ンジュラム社に対して本件覚書を示したことはなく,その説明をしたこと もない。むしろ,Aは,本件株式譲渡契約の締結に先立ち,ペンジュラム 社に対し,本件専用実施権設定契約の契約書を示した上,同契約は当事者 が2か月前に予告することにより解除することができ,原告・サイモンズ 社間の専用実施権設定契約もそのようにして解除したと説明していた。ま た,Aは,ペンジュラム社に対し,DやE弁理士との関係を穏便に終わら せたいので,その説得期間として2週間及び予算1億円(2か月を待たず に専用実施権を解除するためのDやE弁理士らへの和解金)が欲しい旨の 申し出をしていた。 イ ペンジュラム社が原告を買収する目的は,原告の有している本件特許権 を取得し,同特許を活用してビジネスを行うことであったが,ペンジュラ ム社は,Aの上記説明を聞き,同社が原告を買収すれば,本件専用実施権 設定契約の第4条に基づき同契約を解約することができると認識した。仮 に,後記[原告の反論に対する被告らの反論]のとおり,ペンジュラム社 が,本件専用実施権設定契約書の存在を知らず,被告MFI社の専用実施 権の存続期間が特許登録原簿記載のとおり本件特許権の存続期間であると 認識していたのであれば,ペンジュラム社は,Aから原告の株式を買い取 ることはなかった。 他方,ペンジュラム社は,被告MFI社に専用実施権が設定された状態 では本件特許を活用することができないので,Aとの間で9月30日付け 株式譲渡契約を締結するに当たり,決済日を同年10月13日とし,仮に, Aが,上記決済日までに本件専用実施権設定契約を解約して,被告MFI 社の専用実施権の登録を抹消した場合は,Aに対する報酬として,200 0万円及び平成21年9月30日以後に原告がパチンコ関連企業から取得 する本件特許の使用料の20%を支払うことを約束した(甲25。 「本 以下 件合意書」という。)。また,ペンジュラム社は,本件合意書において, Aに対し,1年間に1300万円を本件特許権が失効するまでの間支払う ことを約束した(なお,本件合意書の有効期間は,平成21年10月13 日までと定められた。)。 ウ ところが,Aは,被告MFI社(D)の了解を得ずに9月30日付け株 式譲渡契約を締結していたため,専用実施権の抹消依頼に関する被告MF I社との交渉は難航した。このような被告MFI社の反対を受けたAは, ペンジュラム社に対し,9月30日付け株式譲渡契約を白紙に戻したいと の申し出をするなどしたが,最終的には,平成21年10月13日,ペン ジュラム社との間で10月13日付け株式譲渡契約を締結し,原告の代表 取締役を退任した。また,Aは,上記契約の締結に当たり,ペンジュラム 社に対し,本件専用実施権設定契約は同契約第4条第2項に基づき解約す ることができることを保証した。 Aは,上記のとおり原告の代表取締役を退任すると,同日,原告との間 で顧問契約を締結した(乙4の15。以下「本件顧問契約」という。)。 本件顧問契約では,Aが原告の顧問に就任し,顧問報酬を年800万円と すること,同契約の有効期間は契約締結の日から1年以内とし,有効期間 満了の1か月前までに原告又はAが契約終了の通知をしない限り,契約は 更に1年間有効となり,以後も同様とすることなどが定められた。 エ Aに代わって原告の代表取締役に就任したBは,就任後直ちに,被告M FI社に対して本件解約通知を行った。これに対し,被告MFI社は,本 件覚書を原告に送付し,上記解約は無効であると主張した。 これに驚いたB及び原告代表者(以下,両名を併せて「Bら」というこ とがある。)らは,平成21年11月22日,原告代理人らとともにAの 事務所を訪れ,本件覚書の作成経緯等について尋ねた。これに対し,Aは, 本件覚書を作成したことは覚えていない,本件覚書により本件専用実施権 設定契約第4条第2項の規定が無効になるのであれば本意ではない旨を述 べ,原告代理人らの求めに応じ,上記回答を記載した書面(甲28の1) を作成した。 オ 以上のとおり,本件覚書は,本件株式譲渡契約の締結後に,突然登場し たものである。また,本件専用実施権設定契約の締結日(平成20年7月 10日)と本件覚書の日付(同年8月20日)は極めて近接しているが, 仮に,原告と被告MFI社とが本件覚書の内容を合意したのであれば,本 件専用実施権設定契約書の該当条項を削除すれば足りるものであり,本件 覚書が同覚書の日付の日に作成されたことには疑問がある。 これらの事情を考えると,本件覚書は,ペンジュラム社による原告の買 収に対して難色を示していたDが,Aと共謀して,ペンジュラム社が原告 を買収しても本件専用実施権設定契約を解除できないように画策するため に作成した,内容虚偽の文書であるといえる。Aは,本件株式譲渡契約を 締結し,Aが原告の代表取締役を退任した後に,原告との間で,Aを原告 の顧問とする顧問契約を締結することを予定しており,ペンジュラム社の Bらも,Aに対し,上記顧問契約は本件特許の存続期間中継続されると約 束していたが,ペンジュラム社から示された顧問契約書の案では,顧問契 約の期間が1年間とされ,1年ごとに更新する形となっていることに不安 を感じていた。また,Dも,Aに対し,Aはペンジュラム社に騙されてお り,顧問契約は数年で打ち切られる可能性があると指摘し,Aの不安を煽 っていた。そのため,Aは,買収後の原告がAに対する顧問料の支払を止 めることがないよう,ペンジュラム社に揺さぶりをかけるための安全弁と して,Dの求めに応じて本件覚書を作成したものである。 このように,本件覚書は,ペンジュラム社による原告の買収を妨害する ためだけに作成されたものであって,本件覚書のとおり本件専用実施権設 定契約の内容を変更する意思の下に作成されたものではない。したがって, 本件覚書は,内容虚偽の文書であり,又は心裡留保により無効である。 [原告の反論に対する被告らの反論] Bらは,ペンジュラム社とAとの間で本件株式譲渡契約を締結する以前か ら,特許登録原簿の記載や,A,D及びE弁理士など関係者からの説明によ り,本件特許権につき被告MFI社による期間制限のない専用実施権が設定 されていることを知っていた。 Bらは,このような事情を把握していたものの,Aの,被告MFI社(D) を説得して本件専用実施権設定契約を解約するとの言を信じて手続を進め, Aとの間で9月30日付け本件株式譲渡契約を締結した。 Bらは,上記契約を締結後,平成21年9月30日から同年10月13日 にかけて原告事務所から持ち出した本件特許に関する資料の中から,たまた ま本件専用実施権設定契約書を入手し(なお,Aは本件覚書を保管していな かったため,Bらは,本件覚書は入手しなかった。),同契約書の第4条に, 専用実施権の契約期間が1年間であり,2か月前の解約予告により解約可能 と記載されていたことから,同条項に基づき本件専用実施権設定契約を解約 することができるものと早合点したにすぎない。 (2) 争点2(本件通常実施権設定契約は架空のもの(虚偽表示ないし不存在) か)について [原告の主張] 本件通常実施権設定契約は,被告MFI社が,本件特許権について通常実 施権の設定登録を受けた●(省略)●を信用させるため,多数の通常実施権 者がいるようにみせるよう,架空の登録を行ったものである。 本件通常実施権設定契約の締結に当たって,原告と被告イレブン社らとの 間では,●(省略)●作成されておらず,原告に対して契約料も支払われて いない。また,被告イレブン社らのうち,被告イレブン社はDの会社である が,既に破綻しているようであり,他の4社についても,いずれも,本件通 常実施権の設定当時,その本店所在地が被告イレブン社と同一の住所であり, 極めて近接した日時に設立され,資本金も極小であることから,Dの支配す る会社であったと考えられる。 Aも,平成21年11月22日に,Bら及び原告代理人らがAの事務所を 訪れた際,この点について,「丙区順位2番以下の登録はDさんの依頼によ り多数の通常実施権者がいるようにみせかけるため協力したものです。丙区 順位2番以下の各社に実体上通常実施権を付与することを承諾したものでは ありません」と述べ,その旨を記載した書面(甲28の2,3)を作成して いる。 [被告らの主張] ●(省略)●ことから,今後,他の企業も本件特許を使ってのビジネス展 開が有益にされることが想定され,通常実施権設定の契約金も高騰していく ことが予想されたことから,本件特許に関心を示した被告イレブン社らと被 告MFI社は,本件通常実施権設定契約を締結したものである。 しかしながら,その後,被告MFI社が本件訴訟に巻き込まれたことから, 被告イレブン社らは,具体的に通常実施権の実施に至ることができず,また, 被告MFI社としても,このような事態を踏まえ,本件訴訟の解決が図られ るまでは,各社に対して通常実施権の実施料の支払を猶予せざるを得ず,今 日に至っている。なお,被告イレブン社らは,本件通常実施権設定契約の締 結当時,同一所在地である長崎市<以下略>を住所地としていたが,当地は, 第三者の所有する地上10階建てのマンション及び総合テナントビルであ る。被告イレブン社らは,このビルの各テナントであるが故に,住所地が同 一であるにすぎない。 第3 当裁判所の判断 1 争点1(本件専用実施権設定契約は,本件解約通知から2か月が経過したこ とにより終了したか)について (1) 認定事実 ア 前記争いのない事実等に加え,証拠(甲1〜3,6〜13,17,19, 甲24の1〜4,甲25,26,甲28の1〜3,甲29,30,甲32 の1〜5,甲33の1〜3,甲34の1,2,甲35〜39,47〜49, 52,53,55,乙4の10〜16,乙6〜9,乙15の1,2,乙1 6,証人A,原告代表者,被告MFI社代表者(D))及び弁論の全趣旨 によれば,以下の事実が認められる。 (ア) Aは,日本信販株式会社に在職中,友人とともに原告を設立し,原 告が日本信販株式会社を退職後の平成11年ころ,友人が保有していた 原告の株式を譲り受けることによって,原告の全株式を取得し,原告の 代表取締役に就任した。 Aは,平成11年8月に原告を特許権者として特許登録された本件特 許権1を活用して特許料収入を得たいと考え,タイヘイコンピュータ株 式会社と交渉し,平成14年10月10日ころ,同社との間で,本件特 許権1について通常実施権許諾契約を締結した。 (イ) Aは,平成15年ころ,Dと知り合った。Aは,Dから,本件特許 権を利用する企業から特許の使用料を取得するというビジネスモデルを 提案され,これに応じることとした。 Dが代表取締役を務める被告イレブン社と原告は,平成14年11月 25日,「特許権の専用実施権設定に係わる基本契約書」(甲7。以下 「原告・被告イレブン社間の専用実施権設定契約書」といい,同契約書 に基づく契約を「原告・被告イレブン社間の専用実施権設定契約」とい う。)を締結し,原告が本件特許権について被告イレブン社に対して専 用実施権を設定する旨を約した。 原告・被告イレブン社間の専用実施権設定契約書では,専用実施権の 適用範囲及び適用期間について,次のとおり定められた。 第3条(専用実施権の適用範囲) 1. 当該特許における専用実施権の適用地域は,九州各県,沖縄県 及び山口県並びに各県下の離島に限定する。 2. 省略 第4条(専用実施権の適用範囲期間) 1. 専用実施権の適用期間は,平成15年1月1日から当該特許権 の有効期間内とする。ただし,実施料については,1年ごとに 見直すこともできる。 2. 第1項にかかわらず,各当事者は他方当事者に対し,2か月前 までに書面による契約終了の意思表示を行い,他方当事者の書 面による合意のもと,本契約を終了させることができる。 原告及び被告イレブン社は,平成15年2月14日,上記専用実施権 の範囲について,地域を「九州各県,沖縄県,山口県及びこれらの離島」, 期間を「全部」,内容を「全部」とする,専用実施権の設定登録手続を 行い,同月26日,同設定登録がされた(甲1,2)。 被告イレブン社は,平成15年7月に,株式会社中村ストアーとの間 で,本件特許権1について通常実施権許諾契約を締結し,原告は,これ を承諾した。 (ウ) サイモンズ社は,Aの知人であるFが平成14年12月25日に設 立した,共通ポイント利用システムの構築と運営に関する業務等を目的 とする株式会社である。 原告とサイモンズ社は,平成15年11月25日,「特許権の専用実 施権設定に係わる基本契約書」(原告・サイモンズ社間の専用実施権設 定契約書」)を締結し,原告が本件特許権についてサイモンズ社に対し て専用実施権を設定する旨を約した。 原告・サイモンズ社間の専用実施権設定契約書では,専用実施権の適 用範囲及び適用期間について,次のとおり定められた。 第3条(専用実施権の適用範囲) 1. 当該特許における専用実施権の適用範囲は,乙(判決注:サイ モンズ社)の事業範囲内とする。 2. 省略 第4条(専用実施権の適用範囲期間) 1. 専用実施権の適用期間は,平成15年12月1日から平成17 年11月30日までの2年間とする。ただし,契約締結日の3 0日前までに甲(判決注:原告)乙より他方当事者に対し,書 面による契約終了の通知がされなかった場合は,本契約の内容 及び有効期間は更に1年間延長されるものとし,以後の延長に ついても同様とする。 2. 第1項にかかわらず,各当事者は他方当事者に対し,2か月前 までに書面による契約終了の意思表示を行い,本契約を終了さ せることができる。 第5条(ロイヤルティ料) 乙は甲に対し,次のロイヤルティ料を支払う。 1. 平成16年3月31日までに,初回契約料として200万円(消 費税別)を支払う。また,契約更新時に,契約料として100 万円(消費税別)を支払う。 2. 省略 原告及びサイモンズ社は,平成16年3月30日,上記専用実施権の 範囲について,地域を「日本国内全域」(ただし,本件特許権1につい ては,「九州各県,沖縄県,山口県及びこれらの離島を除く日本全国」 , ) 期間を「本特許権の存続期間中」,内容を「全部」とする,専用実施権 の設定登録手続を行い,同年4月12日,同設定登録がされた。 (エ) 原告は,平成19年ころ,Dの要望を受けて,Dが全株式を保有し ている被告アップ社に対し,本件特許権につき,対象地域を全国とする 専用実施権を付与することとした。そこで,原告は,平成19年7月2 5日付け通知書(甲10)により,サイモンズ社に対し,原告・サイモ ンズ社間の専用実施権設定契約の第4条第2項に基づき,同書面到達日 より2か月経過をもって同契約を解約することを通知した。原告とサイ モンズ社は,同年9月1日,両者の合意により原告・サイモンズ社間の 専用実施権設定契約を解約した(甲56)。 原告と被告アップ社は,平成19年10月1日,原告・被告アップ社 間の専用実施権設定契約を締結し,専用実施権の設定登録を行った。ま た,その際,被告イレブン社及びサイモンズ社の専用実施権の設定登録 は,いずれも抹消された。 (オ) その後,Aは,Dと相談の上,税金対策として,法人税率の低いシ ンガポール共和国に被告MFI社を設立し,本件特許の専用実施権を被 告アップ社から被告MFI社に移すことにした。被告MFI社と原告は, 平成20年7月10日,本件専用実施権設定契約を締結し,被告アップ 社から専用実施権の移転登録を受けた。 被告MFI社は,●(省略)●円を受領した。 また,原告は,平成19年ころから,本件特許権について使用料を取 得する交渉を,G弁護士及びE弁理士に依頼した。 (カ) Aは,平成21年5月ころ,日本総合企画株式会社(以下「日本総 合企画社」という。)に対し,それまで被告MFI社,G弁護士及びE 税理士が手をつけていなかった,中小企業に対する本件特許権の通常実 施権設定契約締結交渉を委託し,日本総合企画社から契約金として10 00万円を受領した。 ペンジュラム社は,そのころ,日本総合企画社から上記契約に関する 相談を受け,本件特許権の存在を知った。ペンジュラム社は,本件特許 について調査したところ,同特許が非常に有用なものであると考えたこ とから,日本総合企画社に対し,上記契約金について資金援助を行った。 (キ) ペンジュラム社は,原告がそれまでに行ってきた本件特許権の実施 許諾交渉について調査したところ,原告から特許権侵害請求を受けた大 手企業40社の間では,本件特許は「いわくつきの特許」と噂されてお り,被告MFI社は「反社会勢力」と色眼鏡で見られていることから, このままでは,新たに実施許諾交渉を進めることは難しいと考えた。 そこで,ペンジュラム社は,Aに対し,同社の作成した平成21年9 月18日付け提案書(乙4の10,11)を示し,@ペンジュラム社が, Aから,原告の株式の90%を買い取る,A被告MFI社の専用実施権 を原告が買い取る,B第三者割当増資等により,大手上場企業(複数社) に各1%ないし3%ずつ資本参加させる,という提案をした。なお,ペ ンジュラム社は,この時点では,Aから本件専用実施権設定契約の具体 的な内容を聞いていなかった。 (ク) Aは,ペンジュラム社の上記提案に理解を示し,平成21年9月2 8日ころ,ペンジュラム社に対し,本件専用実施権設定契約書を示した 上,同契約は当事者が2か月前に予告することにより一方的に解除する ことができ,原告・サイモンズ社間の専用実施権設定契約もそのように して解除したと説明した。また,Aは,ペンジュラム社に対し,DやE 弁理士との関係を穏便に終わらせたいので,その説得期間として2週間 及び予算1億円(2か月を待たずに専用実施権を解除するためのDやE 弁理士らへの和解金)が欲しい旨の申し出をした。 ペンジュラム社は,Aの上記説明を聞き,同社が原告を買収すれば, 本件専用実施権設定契約の第4条に基づき本件専用実施権設定契約を 解約することができると認識し,平成21年9月30日,Aとの間で, Aの保有する原告の株式200株のうち180株をペンジュラム社に 譲渡する旨の9月30日付け本件株式譲渡契約を締結した。 他方,ペンジュラム社は,被告MFI社に専用実施権が設定された状 態では本件特許を活用することができないので,Aとの間で9月30日 付け株式譲渡契約を締結するに当たり,決済日を同年10月13日と し,仮に,Aが,上記決済日までに本件専用実施権設定契約を解約して, 被告MFI社の専用実施権の登録を抹消した場合は,Aに対する報酬と して,2000万円及び平成21年9月30日以後に原告がパチンコ関 連企業から取得する本件特許の使用料の20%を支払うことを約束し た(本件合意書)。また,ペンジュラム社は,本件合意書において,A に対し,1年間に1300万円を本件特許権が失効するまでの間支払う ことを約束した(なお,本件合意書の有効期間は,平成21年10月1 3日までと定められた。) ペンジュラム社は,AとDとの話し合いが決裂した場合,被告MFI 社に対し本件基本契約の解約を申し入れる方針であり,Aに対してもそ の旨を説明した。Aは,平成21年10月2日,ペンジュラム社に対し, 本件専用実施権設定契約書の写しをFAX(甲39)で送付した。 (ケ) しかしながら,Aは,被告MFI社(D)の了解を得ずに9月30 日付け株式譲渡契約を締結したため,被告MFI社は,専用実施権の抹 消依頼に応じない意向を示した。 そのような状況の中で,Aは,Bらに対し,E弁理士と面談して欲し い旨を要請し,同年10月7日,Bらは,E弁理士と面談したが,その 際,E弁理士からは,本件覚書に関する話は出なかった。 また,Bは,同月8日,Aの要請を受けてDに電話し,被告MFI社 の専用実施権の抹消に応じて欲しいこと,任意の抹消に応じない場合は 本件専用実施権設定契約に基づき同契約を解約する意向である旨を伝 えたが,Dは,これに応じない旨を回答した。なお,上記電話の際,D は,Bに対し,本件覚書が存在することを伝えなかった。 (コ) 被告MFI社の反対を受けたAは,ペンジュラム社に対し,9月3 0日付け株式譲渡契約を白紙に戻したいとの申し出をするなどした。こ れに対し,Bは,平成21年10月12日,Aと面談し,ペンジュラム 社としては,後記(サ)のとおりパチンコ業界との間で本件特許権の使用 許諾契約に関する交渉を進めており,その話がまとまることが確実視さ れており,この段階で9月30日付け本件株式譲渡契約が撤回されると 莫大な損害を被ることになるなどと説明し,Aを説得した。 Aは,平成21年10月13日,ペンジュラム社との間で10月13 日付け株式譲渡契約を締結した。また,Aは,上記契約の締結に当たり, ペンジュラム社に対し,本件専用実施権設定契約は同契約第4条第2項 に基づき解約することができることを保証する書面(甲26)を差し入 れた。 Aは,10月13日付け株式譲渡契約を締結後,原告の代表取締役を 退任し,同日,原告との間で本件顧問契約を締結した。同契約では,A が原告の顧問に就任し,顧問報酬を年800万円とすること,同契約の 有効期間は契約締結の日から1年以内とし,有効期間満了の1か月前ま でに原告又はAが契約終了の通知をしない限り,契約は更に1年間有効 となり,以後も同様とすることなどが定められた。 (サ) ペンジュラム社は,9月30日付け本件株式譲渡契約を締結した後, 同日,森吉株式会社(以下「森吉」という。)との間で,パチンコメーカ ーに本件特許の専用実施権又は通常実施権を付与する交渉を委託する 業務委託契約を締結し(甲35),同年10月27日,森吉に対し,上記 業務委託契約の着手金として1億円を支払った(甲36)。なお,ペンジ ュラム社は,その後,本件覚書の存在が判明したため,パチンコメーカ ーに本件特許の専用実施権を付与することができず,森吉に支払った着 手金1億円については,7000万円の返還を受けることで,本件業務 委託契約を解消した(甲37,38)。 (シ) 原告の代表取締役に就任したBは,就任後直ちに,被告MFI社に 対して本件解約通知を行ったところ,被告MFI社は,本件覚書を原告 に送付し,上記解約は無効であると主張した。 これに驚いたBらは,平成21年11月22日,原告代理人らととも にAの事務所を訪れ,本件覚書の作成経緯等について追及した。これに 対し,Aは,本件覚書を作成したことは覚えていない,本件覚書により 本件専用実施権設定契約第4条第2項の規定が無効になるのであれば 本意ではない旨を述べ,原告代理人らの求めに応じ,上記回答を記載し た書面(甲28の1)を作成した(甲28の2,3)。 イ 被告らは,本件覚書は原告と被告MFI社がE弁理士の指摘を受けて平 成20年8月ころに作成したものであり,また,ペンジュラム社のBらは, 本件株式譲渡契約を締結する以前から,本件特許権につき被告MFI社に よる期間制限のない専用実施権が設定されていることを知っていたと主張 し,Aの供述(乙8の陳述書を含む。以下同じ。)及びDの供述(乙9, 16の陳述書を含む。以下同じ。)中には,これに沿う部分がある。 しかしながら,Aが,9月30日付け本件株式譲渡契約の締結に先立っ て,ペンジュラム社に対し本件専用実施権設定契約書を示していたこと, Aは,上記契約締結後の平成21年10月2日に,本件専用実施権設定契 約書の写しをペンジュラム社にFAXで送付し,同月13日には,本件専 用実施権設定契約の第4条第2項に基づき同契約を解除することができる 旨の保証書を差し入れていることについては,上記認定のとおりである。 また,ペンジュラム社は,被告MFI社の専用実施権の適用期間について, Aから上記のような説明を受け,本件専用実施権設定契約書の内容を確認 した結果,仮に,被告MFI社が専用実施権を任意で抹消登録することに 応じなかったとしても,本件専用実施権設定契約の第4条第2項により同 契約を解約することができると認識し,専用実施権の付いていない本件特 許権を取得することができると考えていたからこそ,Aとの間で本件株式 譲渡契約を締結し,Aと顧問契約を締結して顧問料の支払を約束したり, 森吉との間で業務提携契約を締結し,着手金として1億円もの金員を支払 ったものと認められる。 以上のような事情に加えて,@ A及びDは,本件株式譲渡契約を締結 する以前には,ペンジュラム社に対して本件覚書が存在することを告げな かったこと,A ペンジュラム社は,本件株式譲渡契約締結後,Aから原 告の保管している契約書等の資料の交付を受けたが,その中に本件覚書は 含まれておらず,本件解約通知に対するDの回答によって,初めて本件覚 書の存在を知ったこと,B 専用実施権設定契約において専用実施権の存 続期間を一定期間に限定する場合,期間を更新する都度別途の登録が必要 となる事務的な煩雑さを避けるために,専用実施権の期間を当該特許権の 存続期間中として登録することは,実務上広く行われていることがうかが えること(本件でも,被告イレブン社,サイモンズ社及び被告アップ社の 専用実施権の設定登録の際,同様の方法が採られている)からすると,E 弁理士が本件専用実施権設定契約と専用実施権の設定登録とで存続期間が 異なることを指摘することは,不自然であること,C 本件専用実施権設 定契約の内容を本件覚書のとおり変更することにより,被告MFI社は変 更前よりも相当有利な立場に立つこととなるが,本件専用実施権の設定登 録の時点で,原告と被告MFI社との間に上記のように契約内容を変更し なければならない特段の事情があったことはうかがえないこと,などの事 実関係を考慮すると,本件覚書が平成20年8月ころまでに作成されたも のであると認めることはできず,ペンジュラム社が本件株式譲渡契約を締 結する以前から本件特許権につき被告MFI社による期間制限のない専用 実施権が設定されていることを知っていたものでもないというべきであ る。 A及びDの上記供述は,前掲各証拠に照らし採用することができない。 (2) 上記認定事実に鑑みると,本件覚書は,平成21年9月30日に本件株式 譲渡契約(の準備契約)が締結された後,Aとペンジュラム社との間での顧 問契約の内容等について不安を抱いたAが,Dと共謀して,ペンジュラム社 がAの所有する株式を買収することを妨げる目的で作成したものと認めら れ,本件覚書を作成した当時,原告と被告MFI社との間において,本件覚 書記載のとおり本件専用実施権設定契約の内容を変更する合意があったと認 めることはできない。 したがって,本件覚書は,通謀虚偽表示(民法94条)により無効である から,原告と被告MFI社との間の本件専用実施権設定契約は,同契約の第 4条第2項に基づく解約により終了したものと認められる。 2 争点2(本件通常実施権は架空のもの(虚偽表示ないし不存在)か)につい て (1) 原告は,本件通常実施権設定契約は,被告MFI社が,本件特許権につい て●(省略)●多数の通常実施権者がいるようにみせるよう架空の登録を行 ったものであると主張する。 (2) そこで検討するに,証拠(甲6,11,14〜16,甲28の2,3,甲 34の1,2,甲40〜44の各1〜3,甲45の1,2,甲46,証人A, 原告代表者,被告MFI社代表者(D))及び弁論の全趣旨によれば,@ 被 告イレブン社らは,上記通常実施権の設定登録当時,その本店所在地が同じ であり,同住所地はDの現在の住所地と同じであること,A 被告イレブン 社は,Dが代表取締役を務める会社であり,被告アップ社は,Dが全株式を 保有する会社であること,B 被告イレブン社らは,被告イレブン社以外, いずれも,平成19年3月から同年4月までの間に設立されたものであり, 資本金も3万円にすぎないこと,C 被告らは,被告MFI社と被告イレブ ン社らとの間で通常実施権設定契約を締結し,通常実施権設定契約書(乙1 0〜14)を作成したと主張するものの,被告イレブン社らは,同契約で定 められた特許使用料を被告MFI社に支払っておらず,本件特許の実施もし ていないこと,D 被告イレブン社らが具体的にどのような業務を行ってい るのかについて,本件証拠上,明らかでないこと,E Aは,平成21年1 1月22日にBら及び原告代理人らがAの事務所を訪れた際,被告イレブン 社らに対する通常実施権設定登録について,「丙区順位2番以下の登録はD さんの依頼により多数の通常実施権者がいるようにみせかけるため協力した ものです。丙区順位2番以下の各社に実体上通常実施権を付与することを承 諾したものではありません」と述べ,その旨を記載した書面(甲28の2, 3)を作成していること,などが認められる。 したがって,本件通常実施権設定契約は,通謀虚偽表示(民法94条)に より無効である。 (3) 上記事実関係に照らすと,被告イレブン社らは,いずれもDの支配する会 社であることがうかがえるものであり,本件通常実施権設定契約は, (当 原告 時の代表取締役はA)及び被告らが通謀して,本件特許権について多数の通 常実施権者がいるようにみせかけることにより,本件特許権の価値が高いも のように装い,●(省略)●に対して本件特許権の価値が高いものと信用さ せたり,被告MFI社らによる今後の通常実施権設定契約締結交渉を有利に 進めることができるよう仮装したものと認められ,いずれも実体のないもの といえる。 3 以上のとおり,本件では,@原告と被告MFI社との間の専用実施権許諾契 約は,同契約書第4条第2項に基づく解約により終了したこと,A被告MFI 社とその他の被告らとの間の通常実施権許諾契約は,通謀虚偽表示により無効 であること,B原告と被告アップ社との間の専用実施権許諾契約は,原告と被 告MFI社との間の専用実施権許諾契約が締結されたことによって合意解除さ れたこと,が認められる。したがって,原告は,被告アップ社に対して上記専 用実施権の設定登録の抹消登録手続を,被告MFI社に対して上記専用実施権 の移転登録の抹消登録手続を,被告イレブン社らに対して上記移転登録の抹消 登録手続に対する承諾を,それぞれ請求することができるといえる。 4 よって,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,主 文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第47部 裁判長裁判官 阿 部 正 幸 裁判官 山 門 優 裁判官 小 川 卓 逸 別紙 特 許 権 目 録 1 登 録 番 号 特許第2965518号 発明の名称 ポイント集計システム 出願年月日 平成8年10月17日 登録年月日 平成11年8月13日 2 登 録 番 号 特許第3401228号 発明の名称 ポイント総合管理システム 出願年月日 平成12年3月6日 登録年月日 平成15年2月21日 以 上 別紙 通 常 実 施 権 目 録 1 ●(省略)● 2 通常実施権者 株式会社イレブン 受付年月日 平成21年6月22日 受 付 番 号 003961(本件特許権1) 003962(本件特許権2) 3 通常実施権者 株式会社アップ 受付年月日 平成21年6月25日 受 付 番 号 004062(本件特許権1) 004063(本件特許権2) 4 通常実施権者 株式会社EMS 受付年月日 平成21年7月1日 受 付 番 号 004228(本件特許権1) 004229(本件特許権2) 5 通常実施権者 株式会社Infini Style 受付年月日 平成21年7月6日 受 付 番 号 004312(本件特許権1) 004313(本件特許権2) 6 通常実施権者 株式会社lea 受付年月日 平成21年7月9日 受 付 番 号 004405(本件特許権1) 004406(本件特許権2) 以 上 |