関連審決 | 不服2001-20589 |
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関連ワード | 技術的思想 / 使用方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 一致点の認定 / 相違点の判断 / 周知技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 実質的に同一 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / 国際出願 / |
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事件 |
平成
16年
(行ケ)
31号
審決取消請求事件
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原告 スリーエムカンパニー 訴訟代理人弁護士 片山英二 同 弁理士 小林純子 同 古橋伸茂 被告 特許庁長官小川洋 指定代理人 鹿股俊雄 同 瀬川勝久 同 大野克人 同 立川功 同 伊藤三男 |
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裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/09/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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請求
特許庁が不服2001-20589号事件について平成15年9月1日にした審決を取り消す。 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「再帰反射偏光子」とする発明につき,平成4年5月20日を国際出願日とする特許出願(優先権主張1991年〔平成3年〕6月13日・アメリカ合衆国,以下「本件出願」という。)をしたが,平成13年8月14日に拒絶査定がされたので,同年11月16日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,同請求を不服2001-20589号事件として審理し,平成15年9月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同月25日,原告に送達された。 2 本件出願の願書に添付された明細書(平成11年4月16日付け及び平成13年12月14日付けの各手続補正書による補正後のもの。以下「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1に記載した発明(以下「本願発明」という。)の要旨 バックライトコンピュータ表示装置用反射光源と, 液晶表示パネルと, 前記反射光源と前記液晶表示パネルの間に位置され,第1の偏光状態の光を液晶表示パネルの方に透過し,第2の偏光状態の光を反射光源の方に反射する薄い偏光膜と を含み,前記バックライトコンピュータ表示装置用反射光源,液晶表示パネル及び薄い偏光膜が同じ幅を有するバックライトコンピュータ表示装置。 3 審決の理由 (1) 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開平2-308106号公報(以下「引用例1」という。),特開平3-120503号公報(以下「引用例2」という。)に記載された各発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。 (2) なお,審決は,上記の判断に当たり,本願発明と引用例1に記載された発明(以下「引用発明」という。)とを対比し,両者の一致点及び相違点を次のとおり認定している。 (一致点) 両者は,「バックライト表示装置用反射光源と,液晶表示パネルと,第1の偏光状態の光を透過し,第2の偏光状態の光を反射光源の方に反射する偏光手段とを含むバックライト表示装置」である点で一致する。 (相違点1) 本願発明における偏光手段は,反射光源と液晶表示パネルの間に位置され,第1の偏光状態の光を液晶表示パネルの方に透過しているのに対し,引用発明ではそのような事項について言及していない点。 (相違点2) 偏光手段が,本願発明では薄い偏光膜であるのに対して,引用発明では反射型直線偏光素子であり,その薄さや膜状であるか否かについては言及していない点。 (相違点3) バックライト表示装置が,本願発明ではコンピュータ用に特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定について言及されていない点。 (相違点4) 本願発明では,バックライト表示装置用反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段が同じ幅を有するのに対し,引用発明では,そのような事項について言及していない点。 |
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原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく一致点の認定の誤り) (1) 審決は,「引用発明における『フラットパネルディスプレイ』は光源及び前記光源の背後に設けられたミラーを含むことから,本願発明における『バックライト表示装置』に相当し,従って,引用発明における『光源及び前記光源の背後に設けられたミラー』は本願発明における『バックライト表示装置用反射光源』に相当する」(審決謄本4頁下から第2段落)と認定したが,この引用発明の認定は誤りであるから,これを前提にした一致点の認定も誤りである。 ア 引用発明の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」は,本願発明の「バックライト表示装置用反射光源」に相当するものではない。 本願発明は,バックライトコンピュータ表示装置の発明であるが,バックライトコンピュータ表示装置では,全体として薄く,表示面積が比較的大きい構造が要求される。本件明細書(甲2)には,本願発明の装置のサイズに関して,「そのようなシステム(注,従来技術)は,・・・薄い形状が要求されるポータブルもしくはラップトップのコンピュータの表示に用いるのには,好ましくない大きさである」(2頁左下欄第2段落),「本発明は,・・・特に,・・・比較的小型(特に薄い)な用途に適する」(4頁左下欄第2段落),「このシステムにおける本発明の大きな利点は,全ての成分が領域内で比較的薄くかつ広く,及び実質的に同一の光軸上に存在するため,システムの外形が大幅に減少できることである」(同頁左下欄最終段落〜右下欄第1段落),と記載されており,これらの記載から,本願発明のバックライトコンピュータ表示装置は,例えば,ポータブル又はラップトップコンピュータの表示装置として用いられるものであり,そのために,比較的薄くかつ広い表示を可能にする必要がある装置であることが分かる。そして,このような構造を有すべく,典型的なバックライトコンピュータ表示装置用反射光源は,ライトガイド,当該ライトガイドの端に設けられた光源及び当該ライトガイドの背面に設けられた反射装置を有することが一般的である(例えば,米国特許明細書第4229783号〔甲7〕の図1には,送光部材4により光を透過させ,送光部材4の端に光源6を設け,かつ,送光部材4の背面に光を反射させるトランスルーセント部材7を備えたバックライト1が示されている。)。 これに対し,引用発明における「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」という構造では,光源とミラーが厚さ方向に重ねられるから,装置の厚さを薄くすることができない。したがって,装置の厚さを構造上薄くすることができない引用発明の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」は,本願発明の「バックライトコンピュータ表示装置用反射光源」に相当するものではない。また,引用発明の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」は,ライトガイドやライトガイドの端に光源が設けられている構造も有しない。 イ また,引用例1には,フラットパネルディスプレイは開示されていない。引用例1に開示された直線偏光光源は,導電性の金属線状パターンを有する反射型直線偏光素子を用い,光源として点光源を用いるものであるから,バックライトコンピュータ用のフラットパネルディスプレイとしては使用することができない。 引用例1に示されるものは,上記の直線偏光光源の構造からすると,プロジェクション装置に用いられるものでしかない。引用例1には,引用発明に係る直線偏光光源をバックライトコンピュータ装置に使用するという技術的思想は開示されていない。 (2) 以上のとおり,審決は,引用発明の認定を誤った結果,本願発明と引用発明の一致点の認定を誤ったものである。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り) (1) 上記1のとおり,引用例1にはプロジェクション装置用の直線偏光光源しか開示されておらず,その直線偏光光源をバックライトコンピュータ表示装置に使用することや,「バックライト表示装置用反射光源」は示されていないのであるから,それらが示されているとの前提に立ってされた審決の相違点の判断も,当然,誤りである。 (2) 本願発明と引用発明との各相違点についての審決の判断には,以下の誤りがある。 ア 審決は,本願発明の引用発明との相違点3について,「バックライト表示装置をコンピュータ用に用いることは従来周知(例えば,特開昭62-10621号公報〔甲9,以下「甲9公報」という。〕・・)であるから,相違点3(注,「2」とあるのは誤記と認める。)は,従来周知な使用方法を単に特定したにすぎず,当業者であれば容易に想到できることである」(審決謄本6頁第4段落)と判断したが,引用例1には,プロジェクション装置用の直線偏光光源しか開示されておらず,フラットパネルディスプレイは開示されていないのであるから,上記判断は誤りである。 イ 審決は,本願発明と引用発明との相違点4について,「バックライト表示装置用反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅に構成することは,出願人が必要に応じて適宜設計変更し得る程度の事項である(要すれば,特開昭64-57236号公報〔甲10,以下「甲10公報」という。〕(第1図)参照。)。」(審決謄本6頁第5段落)と判断したが,誤りである。既に述べたとおり,引用例1に開示されたものは,プロジェクション装置用の直線偏光光源である。プロジェクション装置においては,点光源から光が出射されるので,液晶表示パネル,偏光手段,反射光源(点光源及びミラー)は,液晶表示パネルの幅>偏光手段の幅>反射光源の幅,となるように設計される。したがって,引用発明において,これらを同じ幅に構成しようとする動機付けは働かない。また,審決は,「適宜設計変更し得る事項」との判断について,甲10公報の図を引用しているが,甲10公報記載の発明は,フラットパネルディスプレイに関するものであるところ,引用例1の直線偏光光源はプロジェクション装置用であって,フラットパネルディスプレイ用ではないから,甲10公報の構成に基づいて,引用発明の反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅にすることは,容易に想到し得ることではない。 |
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被告の反論
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由は理由がない。 1 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく一致点の認定の誤り)について そもそも,審決は,引用例1に記載の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」が本願発明における「バックライト表示装置用反射光源」に相当するとしているのであって,「バックライトコンピュータ表示装置用反射光源」に相当するとしているのではないから,引用例1のものが「バックライトコンピュータ表示装置用反射光源」でないとする原告の主張は,失当である。また,本件明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には,本願発明のバックライト表示装置用反射光源がライトガイドを有することや当該ライトガイドの端に光源を設けることについては何ら記載されていないから,原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である。原告は,本願発明のバックライトコンピュータ表示装置には薄い構造が要求される旨主張するが,特許請求の範囲の「バックライトコンピュータ表示装置」という記載のみで,当該表示装置が薄型のものに特定されるとは到底いえず,この点も特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって,失当である。引用例1に「フラットパネルディスプレイ」が開示されているという審決の認定にも誤りはない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について 液晶表示素子からなるフラットパネルディスプレイ装置が,通常,携帯型であるとデスクトップ型であるとを問わず,コンピュータの表示装置として用いられ得ることは本件出願時に周知の事項である。そうであるからには,引用例1に記載のフラットパネルディスプレイ(本願発明のバックライト表示装置に相当)をコンピュータに適用する際に,本件出願時の技術常識(審決において周知例として引用した甲9公報に記載されたコンピュータ用バックライト表示装置を参照)を参酌して,バックライト光源部の構成に適宜変更を加えること,例えば,ライトガイドを配備したり,光源を端部に設置したりして当該バックライト光源部を薄型にすること等は,当業者において何ら創意工夫を要するものではなく,コンピュータの種類(携帯型,デスクトップ型等)に合わせて,適宜設計変更し得る事項にすぎない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明の認定の誤りに基づく一致点の認定の誤り)について (1) 原告は,審決が,「引用発明における『フラットパネルディスプレイ』は光源及び前記光源の背後に設けられたミラーを含むことから,本願発明における『バックライト表示装置』に相当し,従って,引用発明における『光源及び前記光源の背後に設けられたミラー』は本願発明における『バックライト表示装置用反射光源』に相当する」(審決謄本4頁下から第2段落)と認定したことに対し,この引用発明の認定は誤りであるから,これを前提とした,審決の「両者は,『バックライト表示装置用反射光源と,・・・を含むバックライト表示装置』である点で一致」(同5頁第1段落)するとの一致点の認定も誤りであると主張する。 (2) そこで,引用発明についてみると,引用例1(甲5)には,@「〔産業上の利用分野〕直線偏光光源は例えば液晶表示素子に用いられている。液晶表示素子は低消費電力のフラットパネルディスプレイやプロジェクション用のライトバルブとして広く応用されている。本発明(注,引用発明)は偏光としてはランダムな光源から1種類の直線偏光を非常に高効率に出射する直線偏光光源に関する」(1頁右下欄),A「第1図は本発明の1実施例を示す説明図である。4は光源の前方に設けられた反射型直線偏光素子である。本発明の特徴は該反射型直線偏光素子4とミラー2の間に位相差板3を配置している事にある。・・・一方の偏光10は反射型直線偏光素子4を通過する。他の一方の偏光11は反射型直線偏光素子4によって12の如く反射され位相差板3を通過し楕円偏光13となる。楕円偏光13はミラー2で反射し逆回りの楕円偏光14となり再び位相差板3を通過し,偏光10と同じ成分を有する偏光15となり非常に高効率に反射型直線偏光素子4を通過する」(2頁左上欄下から第2段落〜右上欄第1段落)と記載され,B第1図に,引用発明に係る直線偏光光源の実施例として,光源の後方にミラーを配置し,光源の前方に位相差板3,更にその前方に反射型直線偏光素子を配置し,光源から出た光を後方のミラーによって反射するようにした構造が示されている。 引用例1の上記記載によれば,引用発明に係る直線偏光光源は,光源及び当該光源の背後にミラーを設け,光源から出た光がミラーで反射されて高効率で直線偏光素子を通過するようにしたバックライト型の構造であると認められる。そして,引用発明に係る直線偏光光源の用途としては,フラットパネルディスプレイなどに応用される液晶表示素子が挙げられているから,引用発明に係る直線偏光光源を用いた液晶表示素子を応用したフラットパネルディスプレイ等の表示装置が「バックライト表示装置」であること,さらに,引用発明の光源及びその背後に設けたミラーが本願発明にいう「バックライト表示装置用反射光源」に相当するものであることは明らかというべきである。したがって,本願発明と引用発明とは,「バックライト表示装置用反射光源」を含む「バックライト表示装置」との点で一致する。 (3) 原告は,本願発明における「バックライトコンピュータ表示装置」には,全体として薄く表示面積が大きい構造が要求され,そのために,バックライトコンピュータ表示装置用反射光源には,一般に,ライトガイド,ライトガイド端に設けられた光源及びライトガイドの背面に設けた反射装置を有する構造が採用されるところ,引用発明はそのような構造でないから,引用発明の「光源及び前記光源の背後に設けられたミラー」は本願発明の「バックライトコンピュータ表示装置用反射光源」に相当するものではないと主張する。しかしながら,審決は,「コンピュータ」用との点まで含めて一致点を認定しているわけではない上,本願発明と引用発明とが,少なくとも「バックライト表示装置用反射光源」を含む「バックライト表示装置」という点で一致することは,上記(2)に判示したとおりであるから,この点に関して,審決の認定に誤りがあるということはできない。原告がバックライトコンピュータ 表示装置に必要であると主張するライトガイド等を備えた構造は,本件明細書の特許請求の範囲に記載されたものではなく,また,コンピュータに用いられるバックライト表示装置がすべからく原告の主張するようなライトガイド等を備え,薄く表示面積が大きい構造でなければならないとする理由はないから,その点からも,原告の上記主張は,採用の限りではない。 (4) 原告は,また,引用例1に開示された直線偏光光源は,導電性の金属線状パターンを有する反射型直線偏光素子を用い,光源として点光源を用いるものであるから,バックライトコンピュータ用のフラットパネルディスプレイとしては使用することができないことを理由に,審決が,引用例1にフラットパネルディスプレイが開示されていると認定したことが誤りであると主張する。しかしながら,審決の「引用発明における『フラットパネルディスプレイ』は・・・本願発明における『バックライト表示装置』に相当し」(審決謄本4頁下から第2段落)との説示は,引用例1の記載事項に関する審決の説示(同3頁(1)の(a)〜(c))と合わせて読めば,引用例1に直線偏光光源を有する液晶表示素子の用途としてフラットパネルディスプレイが示されているという事実を踏まえて,引用発明に係る直線偏光光源を「フラットパネルディスプレイ」(これが表示装置の一種であることは自明のことに属する。)に用いた場合にその表示装置が「バックライト表示装置」に相当することを述べたものであることが明らかである。審決は,引用例1に開示されたものは「バックライト表示装置用反射光源」(光源及びその背後に設けられたミラーからなる。)を有する「バックライト表示装置」であるから,それらの点で本願発明と一致するとしているのであり,引用例1に開示されたものが「フラットパネルディスプレイ」であるか他の表示装置であるかは,それが「表示装置」である以上,上記認定を何ら左右するものではない。原告の上記主張は,主張自体失当というべきである。 (5) 以上のとおり,原告の取消事由1の主張は理由がない。 2 取消事由2(相違点の判断の誤り)について (1) 原告は,引用例1にはプロジェクション装置用の直線偏光光源しか開示されておらず,その直線偏光光源をバックライトコンピュータ表示装置に使用することや,「バックライト表示装置用反射光源」は示されていないから,それらが示されているとの前提に立ってされた審決の相違点の判断も誤りであると主張するが,その主張の理由のないことは,上記1に判示したところから明らかである。 (2) 原告は,また,相違点3(バックライト表示装置が,本願発明ではコンピュータ用に特定されているのに対し,引用発明ではそのような特定について言及されていない点)につき,審決が,「バックライト表示装置をコンピュータに用いることは従来周知(例えば,特開昭62-10621号公報〔注,甲9公報〕・・・)であるから,相違点3は,従来周知な使用方法を単に特定したにすぎず,当業者であれば容易に想到できることである」(審決謄本6頁第4段落)と判断したことは誤りであると主張する。 そこで,検討すると,審決が周知技術を示すものとして引用した甲9公報には,「文字や画像を表示する単純マトリックス型液晶表示装置において,液晶の背面部から照明するため,冷陰極管蛍光灯と導光板とを用いた平面光源を液晶表示パネルと駆動回路搭載基板の間に組み込み一体化したことを特徴とする液晶表示装置」(1頁左下欄の特許請求の範囲),「この発明はコンピュータや事務用機器の表示装置として使用する液晶表示装置に関するものである」(同欄〔産業上の利用分野〕),「冷陰極管蛍光灯と導光板とを組み合せた平面光源をバックライト用光源とした」(2頁右上欄〔問題点を解決するための手段〕)と記載されており,これらの記載によれば,バックライト光源を有する液晶表示装置をコンピュータに用いることは,本件出願時において周知の事項であると認められる(このような「バックライト表示装置」が周知であるとする審決の認定自体は,原告も争っていない。)。 そうすると,バックライト表示装置をコンピュータ装置用とすることが当業者の容易に想到し得る事項であることは明らかであるから,原告の上記主張は理由がない。 (3) 原告は,相違点4(本願発明では,バックライト表示装置用反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段が同じ幅を有するのに対し,引用発明では,そのような事項について言及していない点)につき,審決が,「バックライト表示装置用反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅に構成することは,出願人が必要に応じて適宜設計変更し得る程度の事項である」(審決謄本6頁第5段落)と判断したことは誤りであると主張する。 しかしながら,相違点4に関し,審決が挙げた甲10公報には,第1図として,蛍光灯,反射板及び光散乱板からなる「バック光源」と,「偏光板」と,強誘電性液晶セル(「FLCセル」)とを有するフラットパネルディスプレイにおいて,「バック光源」(バックライト光源),「FLCセル」(液晶表示パネル)及び偏光板(偏光手段)を同じ幅にしたものが示されている。このことからすれば,液晶表示パネルを用いたフラットパネルディスプレイにおいて,バックライト表示装置用反射光源,液晶表示パネル及び偏光手段を同じ幅に構成することは,当業者が必要に応じ適宜採用し得る程度の設計事項にすぎないというべきである。原告の上記主張は採用の限りではない。 (4) なお,原告は,引用例1に開示されたものは,プロジェクション装置用の直線偏光光源であり,この直線偏光光源や当該光源用の偏光子をフラットパネルディスプレイに使用することはできず,動機付けもないと主張し,プロジェクション装置用の構造をフラットパネルディスプレイに適用できない理由をるる述べている。しかし,審決は,引用例1に開示された構造をそのままフラットパネルディスプレイ装置に使用することが当業者にとって容易に想到し得るとしているのではなく,引用例1には「バックライト表示装置用反射光源」を有する表示装置が示されているとの認定(この認定自体に誤りのないことは前示のとおりである。)を前提として,「バックライト表示装置用反射光源」を液晶表示パネル及び偏光手段と同じ幅に形成することの容易性を判断しているものであるから,原告の上記主張は,審決に対する批判として的外れといわざるを得ない。原告が審決の判断に対して主張するところをすべて勘案しても,各相違点に係る構成の容易想到性を肯定した審決の判断に誤りがあるとは認められない。 (5) したがって,原告の取消事由2の主張も理由がない。 3 結論 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り 消すべき瑕疵は見当たらない。 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決 する。 |
裁判長裁判官 | 篠原勝美 |
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裁判官 | 古城春実 |
裁判官 | 岡本岳 |