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事件 平成 23年 (行ケ) 10227号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年3月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成23年(行ケ)第10227号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年3月7日

判 決

原 告 富 士 レ ビ オ 株 式 会 社

同訴訟代理人弁護士 増 井 和 夫

菊 池 毅

工 藤 敦 子

橋 直 樹

被 告 バ イ オ ・ ラ ッ ド

ラボラトリーズ株式会社

同訴訟代理人弁護士 田 中 浩 之

野 口 明 男

野 口 祐 子

三 好 豊

同 弁理士 前 直 美

主 文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1 請求

特許庁が無効2010−800182号事件について平成23年6月10日にし

た審決を取り消す。

第2 事案の概要

本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の下記2の本件発明に係

る特許に対する被告の特許無効審判の請求について,特許庁が本件特許を無効とし



1
た別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記

4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。

1 特許庁における手続の経緯

(1) 原告は,平成19年9月14日,発明の名称を「病原性プリオン蛋白質の

検出方法」とする特許出願(特願2007−239265号。特願平9−1938

01号を原出願とする分割出願である特願2004−231819号を原出願とす

分割出願原出願日平成9年7月18日)をし,平成21年8月28日,設定の

登録(特許第4362837号)を受けた。以下,この特許を「本件特許」という。

なお,本件特許に係る発明の発明者は,A 及び B である。

(2) 被告は,平成22年10月7日,本件特許の請求項1ないし4に係る発明

(以下,順次,「本件発明1」ないし「本件発明4」といい,総称して,「本件発

明」という。)に係る特許について,特許無効審判を請求し,無効2010−80

0182号事件として係属した。

原告は,平成22年12月24日,訂正請求をした(甲5。以下「本件訂正」と

いい,本件訂正に係る明細書(甲6)を,図面(甲4)を含め,「本件明細書」と

いう。)。

(3) 特許庁は,平成23年6月10日,本件訂正を認めた上,「特許第436

2837号の請求項1ないし4に係る発明についての特許を無効とする。」旨の本

件審決をし,同月20日,その謄本が原告に送達された。

2 本件発明の要旨

本件発明の要旨は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載され

た次のとおりのものである。なお,文中の「/」は,原文の改行箇所である。

【請求項1】動物の中枢神経系組織から病原性プリオン蛋白質を酵素免疫吸着測定

法により検出する方法であって,/t−オクチルフェノキシポリエトキシエタノー

ル(トリトン(商標)X−100)及びサーコシル(商標)を同時に用いて前記中

枢神経系組織中の非特異的物質を可溶化することと,/前記可溶化された非特異的



2
物質をプロテアーゼを用いて分解処理することと,/超遠心分離処理を除く遠心分

離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものから病原性プリオン蛋白

質由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,/前記濃縮物を洗浄することなく溶

解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定法により検出することと/を含

む病原性プリオン蛋白質の検出方法

【請求項2】前記中枢神経系組織を脳組織とする,請求項1に記載の病原性プリオ

ン蛋白質の検出方法

【請求項3】前記分解処理が,さらにコラーゲン分解酵素及びDNA分解酵素によ

る分解処理を含む,請求項1又は2に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法

【請求項4】前記プロテアーゼが,プロテイナーゼKである,請求項1から3のい

ずれか1項に記載の病原性プリオン蛋白質の検出方法

3 本件審決の理由の要旨

(1) 本件審決の理由は,要するに,@下記アの引用例1に記載された発明(以

下「引用発明1」という。)と本件発明とは同一ではないから,新規性喪失の例外

を定める平成11年5月14日法律第41号による改正前の特許法(以下,「改正

前特許法」といい,上記法律第41号による特許法改正を総称して,「平成11年

特許法改正」という。)30条1項を適用することができないところ,引用発明1

に,下記ウの引用例3に記載された発明(以下「引用発明3」という。)を組み合

わせることにより,また,A下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明

2」という。)に引用発明3を組み合わせることにより,更に,B引用発明3に引

用発明1を組み合わせることにより,いずれも当業者が容易に発明をすることがで

きたものであるから,本件発明に係る特許は,特許法29条2項の規定に違反して

されたものであり,同法123条1項2号の規定により無効にすべきものである,

というものである。

ア 引用例1:Journal of Virological Methods, Vol.64(甲1。平成9年3月

発行。なお,引用例1は,本件発明の発明者である A 及び B らによって発表され



3
た。)

イ 引用例2:第44回日本ウイルス学会総会 アブストラクト(甲2。平成8

年発行)

ウ 引用例3:山口獣医学雑誌第23号(甲3。平成8年発行)

(2) なお,本件審決が認定した引用発明1ないし3並びに本件発明1と引用発

明1との一致点及び相違点(1,2),本件発明1と引用発明2との一致点及び相

違点(3,4),本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点(5,6)は,次

のとおりである。

ア 本件発明1と引用発明1との関係

(ア) 引用発明1:脳及び脾臓組織試料を鋏で細切れにした後,均質化緩衝液に

4%トリトンX−100と0.5%サーコシルとを添加して均質化し,コラゲナー

ゼ,DNアーゼT及びプロテイナーゼKで消化し,試料から可溶性の非特異的物質

を遠心分離によって除去するために4万rpm(TLA 100.3ローター及び

オプティマTLX デスクトップ型超遠心機,ベックマン)での遠心分離処理し,

得られたペレットを5%ドデシル硫酸ナトリウム(以下「SDS」という。)中で

煮沸し,10倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿させ遠心分離処理の後,得られ

たペレットをグアニジンチオシアネート(チオシアン酸グアニジン。以下「Gdn

SCN」という。)のリン酸緩衝化生理食塩水(以下「PBS」という。)溶液中

で超音波処理によって溶解させるか,又はSDSのPBS溶液中で溶解させ,それ

ぞれの調製物を,96穴丸底マイクロタイタープレート上に分注し,室温で1晩振

揺下でインキュベートし,プレートを3回洗浄した後,PBS−5%脱脂乳中で1

時間37℃でブロッキングし,その後,プレートを0.05%トゥイーン20を含

有するPBS(PBST)で3回洗浄し,ウサギ抗血清B−103をウエルに分注

し,プレートを室温で1時間振揺下でインキュベートし,プレートをPBSTで3

回洗浄した後,抗原抗体複合体をアビジン−ビオチン−複合体法で調べる酵素免疫

吸着法(酵素免疫吸着測定法。以下「ELISA法」ともいう。)による病原性プ



4
リオン蛋白質(以下「PrPSc」ともいう。)の高感度検出方法

(イ) 一致点:動物の中枢神経系組織からPrP ScをELISA法により検出

する方法であって,トリトンX−100及びサーコシルを同時に用いて前記中枢神

経系組織を均質化することと,前記均質化物をプロテアーゼを用いて分解処理する

ことと,遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものからPr

PSc由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,前記濃縮物を洗浄することなく

溶解液とし,再沈殿させることなくELISA法により検出することとを含むPr

PScの検出方法である点

(ウ) 相違点1:トリトンX−100及びサーコシルによる均質化及びその後の

プロテアーゼ分解処理により分解される中枢神経系組織中の物質が,本件発明1で

は,「非特異的物質」であるのに対して,引用発明1では,非特異的物質であるこ

とを規定していない点

(エ) 相違点2:遠心分離処理が,本件発明1では,「超遠心分離処理を除く遠

心分離処理」であるのに対して,引用発明1では,「試料から可溶性の非特異的物

質を遠心分離によって除去するために4万rpmでの遠心分離処理」である点

イ 本件発明1と引用発明2との関係

(ア) 引用発明2:スクレイピー感染マウスの脳又は脾臓をトリトンX−100

あるいはZwittergent3−12と,0.5%サーコシル存在下でホモゲ

ナイズし,コラゲナーゼ処理及びプロテイナーゼK処理を行った後,6万9000

xgで20min遠心し,生じた沈殿物を5%SDSにより溶解し,10倍量のメ

タノールにより沈殿させ,沈殿物をGdnSCNあるいはSDSで溶解し,マイク

ロプレートへ吸着させ,1次抗体としてB−103抗PrP合成ペプチドウサギ血

清を用い,アビジン−ビオチン−複合体法により抗原抗体複合物を検出する,EL

ISA法によるPrPScの高感度検出方法

(イ) 一致点:動物の中枢神経系組織からPrP ScをELISA法により検出

する方法であって,トリトンX−100及びサーコシルを同時に用いて前記中枢神



5
経系組織を可均質化することと,前記均質化物をプロテアーゼを用いて分解処理す

ることと,遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得られたものからP

rPSc由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,前記濃縮物を洗浄することな

く溶解液とし,再沈殿させることなくELISA法により検出することとを含むP

rPScの検出方法である点

(ウ) 相違点3:非特異的物質について規定していない点につき,相違点1と同

様である。

(エ) 相違点4:遠心分離処理が異なる点について,相違点2と同様である。

ウ 本件発明1と引用発明3との関係

(ア) 引用発明3:脳組織を,Zwittergent3−12とサーコシル,

PBS,コラゲナーゼ及びDNアーゼ中で一様に分散させ,プロテイナーゼKで処

理し,1万5000回転で遠心分離し,沈殿に5%SDSを加え沸騰させ,メタノ

ールで沈殿させ,GdnSCNに溶解し,ELISA法でPrPScを検出する方



(イ) 一致点:動物の中枢神経系組織からPrP ScをELISA法により検出

する方法であって,サーコシル及びその他の界面活性剤を同時に用いて前記中枢神

経系組織を均質化することと,均質化物をプロテアーゼを用いて分解処理すること

と,超遠心分離処理を除く遠心分離処理を行うことにより前記分解処理により得ら

れたものからPrPSc由来蛋白質を含有する濃縮物を得ることと,前記濃縮物を

洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなくELISA法により検出する

こととを含むPrPScの検出方法である点

(ウ) 相違点5:サーコシルと併用するその他の界面活性剤が,本件発明1では

「トリトンX−100」であるのに対して,引用発明3では,「Zwitterg

ent3−12」である点

(エ) 相違点6:非特異的物質について規定していない点につき,相違点1と同

様である。



6
4 取消事由

(1) 引用発明1に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由1)

ア 引用例1を引用例として用いた判断の誤り

イ 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤り

ウ 相違点2に係る判断の誤り

(2) 引用発明2に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)

ア 本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点の認定の誤り

イ 相違点4に係る判断の誤り

(3) 引用発明3に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由3)

ア 引用例1を引用例として用いた判断の誤り

イ 本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点の認定の誤り

ウ 相違点5に係る判断の誤り

第3 当事者の主張

1 取消事由1(引用発明1に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り)につ

いて

〔原告の主張〕

(1) 引用例1を引用例として用いた判断の誤りについて

ア 改正前特許法30条1項適用の可否

(ア) 特許法30条は,特許を受ける権利を有する者が,刊行物等に発表するこ

とによって当該刊行物等が公知文献となることにより,発明の新規性進歩性の判

断において不利益を受けることがないようにすることを目的とする規定である。

本件審決のように,改正前特許法30条1項について,発表した発明と特許出願

をした発明との同一性を要求すると,発表した発明以外の概念を含む上位概念の発

明に関する出願や発表した発明から容易に想到できる発明に関する出願が,発明者

自身が発表した発明を根拠として拒絶され,特許を取得できないという問題が生じ

ることから,このような立法趣旨に反する解釈の可能性を排除するため,平成11



7
年特許法改正が行われたものである。

したがって,発明者が刊行物等に発明を公開した場合,当該発明から容易に想到

できる発明に関する出願をした場合にも,当該発明は公知の発明に該当するに至ら

なかったものとみなすと解釈し,進歩性は否定されないと解すべきである。

(イ) 本件審決は,改正前特許法30条1項の「その者が特許出願をしたときは,

その発明」における「発明」について,補正が行われた場合には,補正された請求

項に記載された発明と同一であることが必要であるとする。しかし,補正が行われ

た場合については,改正前特許法は何ら規定していないところ,同条の趣旨に鑑み

れば,特許を受ける権利を有する者に有利に解釈すべきであるから,補正の有無は

改正前特許法30条の解釈に影響されることはないと解するのが相当である。

これを本件についてみると,分割出願により出願された発明は,「超遠心分離を

含む遠心分離処理」を行うものであるところ,これは引用発明1についての出願が

あったことを意味するのであるから,補正前の出願により,本件出願は改正前特許

30条1項の要件を充足するものというべきである。

(ウ) 被告は,原告の主張は法改正の経緯を無視するものであるなどと主張する

が,特許庁の従前の運用が不合理な帰結をもたらすことが明らかになった現時点に

おいては,必ずしも,法改正前の運用と同様の解釈をする必要はなく,むしろ改正

法の趣旨に合致するように解釈すべきである。

イ 小括

以上からすると,改正前特許法30条により,引用例1を引用例として用いるこ

とは許されないから,引用発明1に引用発明3を組み合わせることに基づく無効事

由に係る本件審決の判断は,その前提自体が誤りであって,取消しを免れない。

なお,仮に,引用例1を引用例として用いることが許される場合であっても,以

下のとおり,本件発明1は,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,

当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2) 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤りについて



8
ア SDS溶解及びメタノール沈殿の有無について

(ア) 本件審決は,本件発明1では,遠心分離処理により得た濃縮物をSDSに

溶解し,メタノール沈殿をする工程は省略されていないから,これらの工程が含ま

れることについて,引用発明1との相違点とは認められないとする。

しかしながら,本件発明1は,遠心分離処理して得た濃縮物につき,ELISA

法にとって無意味な処理を行うことなく,直ちに同法を用いるものであるから,本

件発明1では,SDS溶解及びメタノール沈殿は不要である。

また,本件発明1には,「洗浄することなく」「再沈殿させることなく」と記載

されていることからしても,SDS溶解及びメタノール沈殿は排除されているもの

ということができる。

これに対し,引用発明1は,遠心分離処理により得た固体状(ペレット状)濃縮

物をSDSに溶解し,メタノールで沈殿させ,更に遠心分離処理した後の濃縮物を,

GdnSCN等に溶解してELISA法に用いているところ,引用例1には,SD

S溶解及びメタノール沈殿を除外してもよいことは開示されていないから,本件発

明1と引用発明1とは,SDS溶解及びメタノール沈殿の有無について,相違する

ものである。

(イ) 本件発明1には,「遠心分離処理を行うことにより…濃縮物を得る」「前

記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させることなく酵素免疫吸着測定

法により検出する」と記載されているところ,用語の通常の意味において,上記濃

縮物は,遠心分離処理により得られた試料であり,次に溶解するのであるから,固

体状態(ペレット状)にあることは当然であって,その固体を洗浄することなく溶

解し,当該溶解液につき再沈殿させることなく,ELISA法を行うものである。

すなわち,本件発明1では,濃縮物を溶解液とするのは1回だけで,「再沈殿」及

び更なる溶解は行われない。

したがって,用語の通常の意味からすれば,本件発明1において,その濃縮物を

得た後に,SDSに溶解してメタノール沈殿をすることは観念できない。



9
(ウ) 本件明細書において,ELISA法で使用するマイクロタイタープレート

へのPrPSc由来蛋白質の吸着に対するGdnSCNとSDSとの比較評価が行

われており,GdnSCNを使用した場合に特異的な吸着が達成できることが見出

されている(【0137】〜【0143】)。

この結果によれば,GdnSCNに溶解することにより優れた検出感度が得られ

るから,SDSによる前処理は不要であるということができる。また,上記比較評

価の結果からすると,ELISA法では,SDSによる変性ではなく,GdnSC

Nによる変性の方が適しているということができ,GdnSCNによる変性にSD

Sは必要ないし,GdnSCN処理前にSDSに溶解して変性したか否かは無関係

である。すなわち,ELISA法の前提として行なわれるSDS溶解は,その変性

作用には意味がないところ,ELISA法の前提として行なわれるSDS溶解及び

メタノール沈殿が意味を有するとすれば,これは,PrPScが含まれる濃縮物に

付着等していたメタノールに可溶な不純物が,この操作により除去されることから,

「洗浄」としての意味があるということができる。

したがって,引用発明1でも,濃縮物をSDS溶解及びメタノール沈殿により洗

浄した上で溶解液としており,本件発明1と引用発明1とは,濃縮物を洗浄する点

において異なるものである。

この点について,被告は,SDS溶解及びメタノール沈澱の有無に関する比較実

験がされていないことを問題にするが,当業者であれば,比較実験がなくても,十

分に把握できる事項である。しかも,事後的に行った実験結果(甲16)からも,

SDS溶解は意味がないことが確認されている。

(エ) 本件明細書では,従来の標準的な蛋白質の分析方法であるウエスタンブロ

ット法(以下「WB法」という。)とELISA法による感度の比較が行われてお

り(【0159】〜【0167】),比較を厳密に行うために,試料を全部一旦S

DSで溶解液にして条件を統一していると理解されるところ,SDS溶解液とする

ことはWB法の実施には必須の工程ではあるが,ELISA法ではSDS溶解液と



10
することは不要である。この厳密な比較実験においてELISA法の優秀性が確認

された後には,端的にELISA法に必要な操作のみを行えば足りるのであり,E

LISA法の実施においては,SDSで溶解液とすることは必要ではない。

また,本件発明1において,濃縮(分離)工程は遠心分離処理までであるところ,

本件明細書には,濃縮(分離)工程において,SDS溶解が必要である旨の記載は

ない。ELISA法は,濃縮(分離)工程により得られた固体試料をGdnSCN

−PBS溶解液としてマイクロタイタープレートへ吸着させる方法であるところ,

本件明細書には,ELISA法でSDSに溶解してメタノール沈殿させることが必

要であるとの記載も示唆もない。本件明細書には,SDS溶解及びメタノール沈殿

を不要であるとする示唆はないとする被告の主張は明らかに誤りである。

仮に,SDSによって蛋白質を変性することが本件発明1において必須の操作で

あるならば,発明の技術思想の内容として,その効果とともに,本件明細書に記載

されるのが当然であるが,本件明細書には,その旨の記載は存在しない。本件明細

書【0122】に記載されているSDS処理は,ELISA法では必須の処理であ

るということはできないし,【0145】【0151】に記載されている処理は,

SDS処理を含むものとは解されない。

イ 小括

以上からすると,本件発明1は,引用発明1が有するSDS溶解及びメタノール

沈殿の工程を有するものではないから,本件発明1と引用発明1との一致点として,

上記各工程を含むものとし,相違点として認定しなかった本件審決の認定は誤りで

ある。

(3) 相違点2に係る判断の誤りについて

ア 遠心分離処理の条件について

(ア) 本件審決は,相違点2について,引用発明1における遠心分離処理の条件

である回転数4万rpm(超遠心分離処理)を,引用発明3における回転数を参考

にして,より簡便な回転数1万5000rpm程度の「超遠心分離処理を除く遠心



11
分離処理」とすることは,当業者が容易になし得たものとする。

しかしながら,本件明細書の図7において,界面活性剤の相違及び可溶化と洗浄

工程の相違とによって,検出感度が大きく異なることが図示されているように,界

面活性剤の種類と分析対象組織の種類,適用される遠心分離処理の方法及び洗浄,

再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響するものである。引用発明3の

界面活性剤は,Zwittergent3−12とサーコシルとの組合せによるも

のであり,本件発明1とは界面活性剤の種類が異なる。

本件発明1は,界面活性剤としてトリトンX−100とサーコシルとの組合せを

中枢神経系組織に適用する場合,超遠心分離を適用せず,かつ最初の遠心分離処理

による沈殿物を溶解するだけで,好適な分析結果が得られることを見出した発明で

あり,上記各工程を組み合わせることにより,迅速でありながら,高感度の実用性

に優れたPrPScを検出する方法を提供するものである。

引用例3においても,脾臓などの場合,超遠心分離処理に加え,塩析と再度の超

遠心分離処理とを要する旨が記載されており,超遠心分離処理と低速の遠心分離処

理のいずれでも結果が同じになるものではないことは理解できるから,引用例3で

は,Zwittergent3−12をトリトンX−100に変更した場合に適し

た遠心分離処理の方法は不明である。

(イ) 引用発明1においては,超遠心分離処理の適用が原則であり,脳組織にZ

wittergent3−12を使用する場合,1万5000回転の遠心分離処理

も適用可能であるが,Zwittergent3−12を使用しない場合には,超

遠心分離処理が必要になるものと解される。

(ウ) 通常の遠心分離処理で良好な結果が得られたのであれば,当業者は,超遠

心分離処理を適用することは避けるはずであるから,引用例1が超遠心分離処理を

適用している以上,超遠心分離処理でなければよい結果が得られないと理解するも

のである。

また,超遠心分離処理を使用すると,可溶化されている目的物をより多く沈殿さ



12
せる効果を有する反面,液相中に残った方がよい夾雑物まで沈殿させる傾向がある

から,遠心分離処理の条件と界面活性剤との各種組合せの中から,実験によっての

み判明する好適な特定の組合せは,当業者に容易に想到されるものではない。

イ 小括

以上からすると,引用発明1と引用発明3とを組み合わせる動機付けは存在せず,

また,組み合わせることが可能であったとしても,引用発明3とは界面活性剤が異

なる引用発明1の遠心分離処理の条件に,引用発明3の1万5000回転程度の

「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を適用することは,当業者が容易になし得

たものということはできない。

したがって,相違点2に係る本件審決の判断は誤りである。

(4) 小括

以上からすると,本件発明1は,引用発明1に引用発明3を組み合わせても,当

業者が容易に想到し得るものということはできないから,本件審決の判断は誤りで

ある。

〔被告の主張〕

(1) 引用例1を引用例として用いた判断の誤りについて

ア 改正前特許法30条1項適用の可否

(ア) 改正前特許法30条は,発表した発明と出願された発明とが同一である場

合にのみ適用される規定であり,発表者が一旦発明を公開した場合,その発明以外

の概念を含む上位概念の発明や,発表した発明から容易に発明することができた発

明については,自己の発表した発明により,特許法第29条1項又は2項により拒

絶され,特許を取得することができないものと一般的には理解されていた。原告も

自認するとおり,改正前特許法における特許庁の実務も,特許出願に係る発明と発

表した発明とが同一である場合に限り,新規性喪失の例外を認めるものであった。

特許庁は,上記法改正により,初めて現行法に沿った取扱いを採用するに至った

ものであって,改正前特許法30条によっては,現行法のような取扱いをすること



13
が不可能であったからこそ,法改正が行われたものである。特許庁の審査ハンドブ

ック(乙3)にも,改正前特許法30条が適用される平成11年12月31日以前

の特許出願については,「公開した発明が特許出願に係る発明であること」も適用

要件であることが明記されている。

(イ) 原告の主張は,前記法改正の経緯を無視するものであって,理由がない。

なお,原告は,補正が行われた場合についてもるる主張するが,改正前特許法30

条を適用する余地がない以上,その前提自体が誤りである。

イ 小括

以上からすると,改正前特許法30条による新規性喪失の例外に係る事由を認め

ず,引用例1を引用例として用いた本件審決の判断に誤りはない。

(2) 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤りについて

ア SDS溶解及びメタノール沈殿の有無について

(ア) 本件発明1における「洗浄することなく溶解液とし」「再沈殿させること

なく」とは,時系列に沿って記載されているものと解すべきであるから,本件発明

1は,濃縮物を溶解液とした後,再沈殿させることなくELISA法を行う発明と

解すべきである。ここで,「溶解液とし」とは,濃縮物をGdnSCNのようなE

LISA法の溶剤に溶解することを意味するものである。

(イ) 「洗浄」とは,化学分野における当業者の通常の用語の理解からすると,

不純物を除去する一方で,洗浄される固体(沈澱)をできるだけ溶けないようにし,

その損失を最小限にする操作を意味し,被洗浄成分に質的変化を起こすような操作

を含むものではない。これに対し,SDSでの加熱溶解が蛋白質を変性させること

は周知であるから,プリオン蛋白質もSDSで変性され,その性質が影響を受ける

ことが知られている(乙6)。したがって,化学分野における当業者の通常の用語

の理解からは,蛋白質を変性させる操作であるSDS加熱溶解及びメタノール沈殿

は,「洗浄」に該当するものではない。

本件明細書において,「洗浄」について,通常の用語例とは異なり,蛋白質を変



14
性させる操作であるSDSでの加熱溶解処理及びメタノールで沈殿させる操作を意

味するものとして用いるのであれば,その旨の定義が記載されるべきであるが,そ

のような記載は存在しない。原告の主張は失当である。

(ウ) 本件明細書には,SDS溶解及びメタノール沈殿が省略されることの開示

はなく,省略した方法に関するデータや効果の記載もない。むしろ,全ての実施

において,SDSに加熱溶解する操作が行われており,本件発明1は,SDS溶解

及びメタノール沈殿を省略するものであると解することは不可能である。

本件明細書は,WB法との比較においてELISA法の効果を開示しているので

あるから,SDSでの加熱溶解は,WB法との比較においてELISA法の検出感

度を確認する本件発明1の効果の担保のために必須の工程ということができる。

原告自身,比較実験の前提条件をできる限り同一にするためにSDS溶解を行っ

たことを認めている以上,SDS溶解及びメタノール沈澱の有無が,条件の相違と

して結果の解釈において無視できる程度の微差ではないことを自認するものである。

本件明細書では,ELISA法においてSDS溶解及びメタノール沈澱を行った

場合とこれらを省略した場合との比較実験,あるいはWB法とSDS溶解及びメタ

ノール沈澱を省略したELISA法との比較実験の結果は開示されていないから,

本件明細書の比較実験において,ELISA法についてのみ,SDS溶解及びメタ

ノール沈澱を行わなくてもWB法と同様の効果が奏されることについて,当業者が

理解することができるものではない。

イ 小括

以上からすると,本件発明1は,SDS溶解及びメタノール沈殿の工程を有する

ものというべきである。

したがって,本件審決の一致点及び相違点の認定に誤りはない。

(3) 相違点2に係る判断の誤りについて

ア 遠心分離処理の条件について

(ア) 遠心分離処理において,遠心時間を短縮するために遠心加速度又は回転数



15
を上げ,あるいは逆に遠心加速度又は回転数を下げて遠心時間を長くすることによ

り同等の結果を得ることができることは,当業者は容易に理解できるものである。

当業者が遠心分離処理を行う場合,公知文献に開示された回転速度に固執するとは

考え難く,むしろこれを適宜調整し,目的物の分離という目的ができる限り簡便に

達成されるように適切な回転速度又は遠心加速度の値を選択することが通常である。

したがって,遠心加速度の変更は,数値範囲の最適化の範疇に含まれるものであ

って,当業者が任意に選択し得る設計的事項にすぎないものである。

(イ) 原告は,Zwittergent3−12に代えてトリトンX−100を

使用した場合に適した遠心分離処理の方法は,引用例3からは不明であると主張す

るが,どの界面活性剤を使用するかという問題と,遠心分離処理の条件をどのよう

にするかという問題との間に,通常,技術的な関連性は存在しないから,界面活性

剤の違いを根拠に遠心分離処理条件適用の理由がないとする原告主張は,明らかに

誤りである。

また,原告は,引用発明1は,超遠心分離処理の適用が原則であり,脳組織にZ

wittergent3−12を使用する場合,1万5000回転の遠心分離処理

も適用可能であるなどと主張するが,引用例1には,そのような趣旨の記載は存在

しない。

さらに,原告は,良好な結果が得られた超遠心分離処理の条件について,Zwi

ttergent3−12を用いる引用例3における遠心分離処理の条件に変更

る理由はないとも主張するが,原告自身も,本件特許の審査手続における意見書

(乙7)で,超遠心分離処理を行わない理由として,作業時間の短縮,経済的な負

担回避及び安全性確保の利点が認められると主張している以上,超遠心分離処理を

回避するために,引用発明1の超遠心分離処理に代えて,引用発明3の遠心分離処

理条件(超遠心分離処理を除く遠心分離処理)を適用することの動機付けが存在す

るものというほかない。

イ 小括



16
以上からすると,引用発明1の遠心分離処理の条件に,引用発明3の1万500

0回転程度の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を適用することは,当業者が

容易になし得たものというべきである。

したがって,相違点2に係る本件審決の判断に誤りはない。

(4) 小括

以上からすると,本件発明1は,引用発明1に引用発明3を組み合わせることに

より,当業者が容易に想到し得るものというべきであるから,本件審決の判断に誤

りはない。

2 取消事由2(引用発明2に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り)につ

いて

〔原告の主張〕

(1) 本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点の認定の誤りについて

本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤りと同様の理由により,

本件審決における本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点の認定も,誤りで

あるというべきである。詳細は,前記1〔原告の主張〕(1)で主張したとおりであ

る。

(2) 相違点4に係る判断の誤りについて

相違点2に係る判断の誤りと同様の理由により,本件審決における相違点4に係

る判断も,誤りであるというべきである。詳細は,前記1〔原告の主張〕(3)で主

張したとおりである。

(3) 小括

以上からすると,本件発明1は,引用発明2に引用発明3を組み合わせても,当

業者が容易に想到し得るものということはできないから,本件審決の判断は誤りで

ある。

〔被告の主張〕

(1) 本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点の認定の誤りについて



17
本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがないことと同様の

理由により,本件審決における本件発明1と引用発明2との一致点及び相違点の認

定も,誤りはないというべきである。詳細は,前記1〔被告の主張〕(1)で主張し

たとおりである。

(2) 相違点4に係る判断の誤りについて

相違点2に係る判断に誤りがないことと同様の理由により,本件審決における相

違点4に係る判断も,誤りはないというべきである。詳細は,前記1〔被告の主

張〕(3)で主張したとおりである。

(3) 小括

以上からすると,本件発明1は,引用発明2に引用発明3を組み合わせても,当

業者が容易に想到し得るものというべきであるから,本件審決の判断に誤りはない。

3 取消事由3(引用発明3に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り)につ

いて

〔原告の主張〕

(1) 引用例1を引用例として用いた判断の誤りについて

前記1〔原告の主張〕(1)のとおり,改正前特許法30条により,引用例1を引

用例として用いることは許されないから,引用発明3に引用発明1を組み合わせる

ことに基づく無効事由に係る本件審決の判断は,その前提自体が誤りであって,取

消しを免れない。

なお,仮に,引用例1を引用例として用いることが許される場合であっても,以

下のとおり,本件発明1は,引用発明3に引用発明1を組み合わせることにより,

当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2) 本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点の認定の誤りについて

本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤りと同様の理由により,

本件審決における本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点の認定も,誤りで

あるというべきである。詳細は,前記1〔原告の主張〕(1)で主張したとおりであ



18
る。

(3) 相違点5に係る判断の誤りについて

ア 本件審決は,界面活性剤について,引用発明3のZwittergent3

−12とサーコシルとの組合せに代えて,引用発明1のトリトンX−100とサー

コシルとの組合せを適用することは,当業者が容易になし得たものとする。

しかしながら,引用例3において,超遠心分離処理と低速の遠心分離処理のいず

れでも同じ結果となるものではないことが開示されているし,引用発明1において,

トリトンX−100を使用した場合には,超遠心分離処理を用いているものである。

そうすると,引用例1及び3によると,界面活性剤としてトリトンX−100を

使用する場合,超遠心分離処理の適用が原則であり,Zwittergent3−

12を使用する場合でも,超遠心分離処理の適用が原則であって,脳組織を対象と

する場合にのみ,1万5000回転の遠心分離処理も適用可能であるにすぎないと

解される。

イ したがって,引用発明1を参考にして,引用発明3の界面活性剤をZwit

tergent3−12からトリトンX−100に変更する場合,遠心分離処理の

条件は,トリトンX−100に適合するように変更するものというべきである。相

違点5に係る本件審決の判断は誤りである。

(4) 小括

以上からすると,本件発明1は,引用発明3に引用発明1を組み合わせても,当

業者が容易に想到し得るものということはできないから,本件審決の判断は誤りで

ある

(5) 本件発明1の進歩性に係る判断の適否

よって,本件発明1は,引用発明1に引用発明3を組み合わせても,引用発明2

に引用発明3を組み合わせても,引用発明3に引用発明1を組み合わせても,当業

者が容易に想到し得るものということはできないから,本件発明1の進歩性に係る

本件審決の判断は誤りである。



19
(6) 本件発明2ないし4の進歩性に係る判断の適否

本件審決は,本件発明1が進歩性を有しないことを前提として,同様の理由によ

り,本件発明2ないし4についても進歩性を否定するものであって,その前提自体

が誤りである。

〔被告の主張〕

(1) 引用例1を引用例として用いた判断の誤りについて

前記1〔被告の主張〕(1)のとおり,改正前特許法30条を適用せず,引用例1

を引用例として用いた本件審決の判断に誤りはない。

(2) 本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点の認定の誤りについて

本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定に誤りがないことと同様の

理由により,本件審決における本件発明1と引用発明3との一致点及び相違点の認

定も,誤りはないというべきである。詳細は,前記1〔被告の主張〕(1)で主張し

たとおりである。

(3) 相違点5に係る判断の誤りについて

界面活性剤の変更は,均等物による置換を行うものにすぎず,当業者にとって何

の困難もない。実際,界面活性剤の相違は,本件明細書においても両者を比較検討

している程度のものであって,当業者であれば,通常並行して検討する範囲内のも

のである。相違点5に係る本件審決の判断に誤りはない。

(4) 小括

以上からすると,本件発明1は,引用発明3に引用発明1を組み合わせても,当

業者が容易に想到し得るものというべきであるから,本件審決の判断に誤りはない。

(5) 本件発明1の進歩性に係る判断の適否

よって,本件発明1は,引用発明1に引用発明3を組み合わせても,引用発明2

に引用発明3を組み合わせても,引用発明3に引用発明1を組み合わせても,当業

者が容易に想到し得るものというべきであるから,本件発明1の進歩性に係る本件

審決の判断に誤りはない。



20
(6) 本件発明2ないし4の進歩性に係る判断の適否

本件審決は,本件発明1が進歩性を有しないことを前提として,同様の理由によ

り,本件発明2ないし4についても進歩性を否定するものであって,本件審決の上

記判断に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

1 取消事由1(引用発明1に基づく本件発明の進歩性に係る判断の誤り)につ

いて

(1) 引用例1を引用例として用いた判断の誤りについて

ア 改正前特許法30条の解釈について

(ア) 改正前特許法30条は,「特許を受ける権利を有する者が試験を行い,刊

行物に発表し,又は特許庁長官が指定する学術団体が開催する研究集会において文

書をもつて発表することにより,第29条第1項各号の1に該当するに至つた発明

について,その該当するに至つた日から6月以内にその者が特許出願をしたときは,

その発明は,同項各号の1に該当するに至らなかつたものとみなす。」と規定され

ていたところ,平成11年特許法改正により,「特許を受ける権利を有する者が試

験を行い,刊行物に発表し,電気通信回線を通じて発表し,又は特許庁長官が指定

する学術団体が開催する研究集会において文書をもつて発表することにより,第2

9条第1項各号の1に該当するに至つた発明は,その該当するに至つた日から6月

以内にその者がした特許出願に係る発明についての同条第1項及び第2項の規定の

適用については,同条第1項各号の1に該当するに至らなかつたものとみなす。」

と改正されたものである。

(イ) 平成11年特許法改正による改正前特許法30条の改正は,新規性喪失

例外適用の拡大を目的とするものであり,改正前においては,新規性喪失の例外

適用される範囲は,特許出願に係る発明と発表等がされた発明とが同一である場合

に限られていたが,当該要件を見直し,これを同一のみならず,自己の発表等を行

った発明から出願の発明が容易に発明をすることができた場合(両者に相違点が存



21
在する場合)まで適用可能とし,当該発明の新規性又は進歩性の判断において,発

表等の行為を考慮しないこととする趣旨の改正であるとされる(甲11,乙2)。

このように,改正前特許法30条においては,新規性喪失の例外が適用される範

囲は,進歩性の判断の場合を含まず,新規性の判断の場合のみであると定められて

おり,特許庁における運用についても,同様であったことについては,原告も争う

ものではない。平成11年特許法改正は,上記解釈及び運用を前提として,例外が

適用される範囲を進歩性判断の場合にまで拡大したものである。

(ウ) 平成11年5月14日法律第41号附則2条は,平成11年特許法改正に

伴う経過措置を定めるところ,同条1項は「この法律の施行の際現に特許庁に係属

している特許出願に係る発明の新規性の要件については,その特許出願について査

定又は審決が確定するまでは,なお従前の例による。」と定めている。これは,新

規性喪失の例外の適用が拡大されると,第三者に対して不利益変更となり得るもの

であることから,新規性の要件について経過措置を設けたものと解される。特許庁

における取扱いも,上記経過措置に従い,平成11年12月31日以前の特許出願

については,「公開した発明が特許出願に係る発明であること」を要求しているも

のである(乙3)。

イ 改正前特許法30条適用の適否

原告は,平成11年特許法改正により,進歩性判断の場合にまで例外規定が拡大

された趣旨をふまえ,改正前特許法30条の適用においても同様に解し,本件出願

にもその趣旨を拡大して同条が適用されるべきであって,引用例1を引用例として

用いることはできないと主張する。

しかしながら,前記アの改正前特許法30条の解釈によれば,同条を原告主張の

ように拡大して適用することができないことは明らかである。原告の主張は採用で

きない。

ウ 小括

以上からすると,本件出願に関し,引用例1を引用例として用いた本件審決の判



22
断に誤りはない。

(2) 本件発明1について

ア 本件発明の技術内容

本件発明の特許請求の範囲の記載は,前記第2の2のとおりであるところ,本件

明細書の記載(甲4,6)によると,本件発明は,病原性プリオン蛋白質の検出方

法について,従来技術であるWB法,免疫組織染色,病理所見,ELISA法等に

よる診断方法には,安全性,感度,特異性等に問題があったところ,動物組織由来

物質から,低濃度でも迅速,簡便,更には高感度でPrPScを検出できる方法及

び検出されるべきPrPScを濃縮する方法を提供することを目的とし,トリトン

X−100及びサーコシルを用いて中枢神経系組織中の非特異的物質(本件発明に

おいて検出しようとするPrP Sc 以外の物質であり,正常プリオン蛋白質やその

他の蛋白質等を意味する。以下,「夾雑物」ともいう。)を可溶化すること,可溶

化された非特異的物質をプロテアーゼを用いて分解処理すること,PrP Sc由来

蛋白質を含有する濃縮物を得ることを含む濃縮方法によって中枢神経系組織中のP

rPScを濃縮し,ELISA法によってPrPScを検出することをその技術内容

とするものである。

イ 本件明細書の実施例の記載

本件明細書には,本件発明1の実施例として,脳組織をELISA法で分析する

方法3及び4が挙げられており,その分析結果は図7Aに図示されている。方法3

及び4に関する記載を要約すると,以下のとおりとなる。

(ア) 方法3

組織重量の5ないし8倍容量の4%トリトンX−100(非イオン性界面活性

剤)と,0.5%サーコシルとを加えて,脾臓組織及び脳組織を均一化し,均一化

物を作製した(第1の工程)。

次いで,方法1と同様の分解(消化)処理(第2の工程)及び分離処理(第3の

工程)を行った。



23
分離処理(第3の工程)で得られた沈殿物を6.25%サーコシル及び10mM,

pH=9.2のトリス−塩酸緩衝液を用いて懸濁化し,分解した(分解工程)。

これを超音波破砕してから,回転数1万5000rpmで遠心分離処理し,その

後,遠心分離処理で得られた溶液の上澄みに,最終濃度12%で塩化ナトリウム

(以下「NaCl」という。)を添加し,攪拌した(塩析工程)。この後,回転数

5万5000rpmで超遠心分離処理し,5%SDSを用いて加熱溶解し,PrP
Sc
由来蛋白質含有の濃縮物を得た。

(イ) 方法4

方法3と分離処理(第3の工程)までは同様にして,脾臓組織及び脳組織の分離

を行った後,得られたペレット状の沈殿物を5%SDSを用いて加熱溶解し,Pr

PSc由来蛋白質含有の濃縮物を得た。

(3) 引用発明1について

引用例1(甲1)は,「スクレピー感染マウス由来粗組織抽出物におけるPrP
Sc
の検出のための高感度酵素結合免疫吸着アッセイ」と題する学術論文であると

ころ,引用例1の記載によると,引用発明1は,スクレーピーに感染したマウスの

脳と脾臓組織の粗抽出液に含まれるPrPScとを,感度及び特異性のいずれも高

く検出する方法をその技術内容とするものであり,@脳及び脾臓組織試料を細切れ

にした後,4%トリトンX−100と0.5%サーコシルとを添加して均質化する

こと,Aコラゲナーゼ,DNアーゼT及びプロテイナーゼKで消化すること,B4

万rpmで遠心分離処理すること,C得られたペレットをSDS中で煮沸し,10

倍容量以上の氷冷メタノール中で沈殿,遠心分離処理後,ペレットをGdnSCN

のPBS溶液中で超音波処理によって溶解させるか,又はSDSのPBS溶液中で

溶解させること,D洗浄後,抗原抗体複合体をアビジン−ビオチン−複合体法で調

べるELISA法を用いることによって,PrPScを高感度に検出する方法をそ

の技術内容とするものである。

(4) 本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認定の誤りについて



24
ア SDS溶解及びメタノール沈殿の有無について

(ア) 本件発明1は,「前記濃縮物を洗浄することなく溶解液とし,再沈殿させ

ることなく酵素免疫吸着測定法により検出すること」(以下「本件構成」とい

う。)と規定するものであるところ,本件構成における「前記濃縮物」とは,遠心

分離処理で得られたPrPSc由来蛋白質を含有する濃縮物を意味することは,そ

の文言上,明らかである。

しかし,本件明細書には,「洗浄することなく」について,濃縮物を洗浄しない

ことを具体的に明示する記載はない。同明細書には,濃縮工程における望ましい付

加工程として,遠心分離処理で得られた濃縮物を,Zwittergent3−1

2等の界面活性剤で洗浄する工程が記載されているが,当該工程は「付加的な洗浄

工程」であり,本件発明1における必須の工程としては記載されていない。

そうすると,「前記濃縮物を洗浄することなく」とは,任意に行うことができる

とされている,「遠心分離処理で得られた濃縮物を洗浄する工程を行わないこと」

を意味するものと解される。

(イ) 本件構成における「溶解液」について,本件明細書には,これを定義する

記載はない。

しかし,本件明細書には,濃縮工程に加えて,濃縮物を微生物プロテアーゼを含

む分解酵素を用いて分解し,次いで分離後に塩析処理を施す工程や,界面活性剤で

洗浄する洗浄工程を必要に応じて付加させることが望ましく,また,続いて,Gd

nSCNを用いる溶解工程,PrPScを吸着面に結合させる結合工程を行うとの

記載があり,遠心分離処理により得られた濃縮物は,必要に応じて,任意の処理工

程を経てPrP Sc を含有する濃縮物とした上で,これを溶解物とし,ELISA

法による検出に至ることが可能であるとされているものである。

そうすると,「溶解液」とは,遠心分離処理後の濃縮物に必要に応じて任意の処

理工程を行った濃縮物を溶剤に溶解して得たものを意味すると解される。

(ウ) 本件構成における「再沈殿させることなく」について,本件明細書には,



25
再沈殿を行わないことに関する記載はないが,溶解液を直接マイクロタイタープレ

ート等に吸着させ(【0064】),溶解液を再沈殿させていないことなどからす

ると,これは,前記溶解液,すなわち,遠心分離処理後の濃縮物に必要に応じて任

意の処理工程を行った濃縮物を溶剤に溶解したものは,再度,沈殿させないことを

意味するものと解される。

(エ) したがって,本件構成は,遠心分離処理で得られた濃縮物に洗浄工程を行

うことなく,濃縮物に必要に応じて洗浄工程以外の任意の処理工程を行った後に,

溶剤に溶解して溶解液とし,溶解液を再沈殿させることなくELISA法により検

出することを意味するものと解される。

(オ) 以上からすると,本件発明1において,本件構成に係る記載は,遠心分離

処理によって濃縮物が得られた以降は,SDS溶解及びメタノール沈殿を行わない

ことを意味するものであって,それ以前に上記各工程を経ることを排除するもので

はない。実際,本件明細書に記載された実施例でも,上記各工程を行っているもの

である。上記各工程が不要であることを前提として,上記各工程について相違点と

して認定しなかった本件審決の誤りをいう原告主張は,その前提自体が誤りである。

イ 原告の主張について

(ア) 原告は,SDS溶解及びメタノール沈殿は本件発明1から排除されており,

本件明細書にも,このような工程が必要であることが記載されていないと主張する。

本件明細書に記載された実施例では,SDS溶解及びメタノール沈殿は,Gdn

SCNによる溶解工程の直前に行われる工程であり,溶解液を得る工程より前に行

われるものとして記載されているところ,本件明細書では,特にその意義や操作の

詳細について説明する記載はない。しかし,本件発明1において,溶解液を得る前

にこのような任意の処理工程を経ることを排除しておらず,実際,実施例において

も上記工程を行っていることは,前記ア(オ)のとおりである。

したがって,本件発明1では,溶解液を得る前にSDS溶解及びメタノール沈殿

を行う態様が排除されているということはできない。



26
(イ) 原告は,本件明細書に記載されている,ELISA法で使用するマイクロ

タイタープレートへのPrP Scの吸着に対するGdnSCNとSDSとの比較評

価によると,ELISA法ではSDSによる前処理は不要であって,本件発明1で

は,SDS溶解及びメタノール沈殿は不要であるとも主張する。

しかしながら,原告主張の比較評価では,遠心分離処理によりPrP Scを含有

する濃縮物を得た後,SDS溶解及びメタノール沈殿を共通して行った上で,マイ

クロタイタープレートへの吸着の前に試料をGdnSCNに溶解させる場合とSD

Sに溶解させる場合とを比較するものであって,マイクロタイタープレートへのP

rPScの吸着においてGdnSCNがSDSより優れた溶剤であることが,Gd

nSCNによる溶解工程の前に行われるSDS溶解及びメタノール沈殿がELIS

A法では不要であり,省略できることの証明とはならない。原告の主張はその根拠

を欠くものである。

(ウ) 原告は,SDS溶解及びメタノール沈殿は,PrP Sc の濃縮物に付着し

ていたメタノールに可溶な夾雑物がこれらの操作により除去されることから,洗浄

としての意味を有するところ,本件発明1では,濃縮物を洗浄することを排除して

いるとも主張する。

しかしながら,本件明細書において,SDS溶解及びメタノール沈殿の処理が排

除されているものではないことは,先に指摘したとおりである。原告の主張はその

前提自体,誤りである。

(エ) 原告の主張はいずれも採用できない。

ウ 小括

以上からすると,本件審決の本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点の認

定に誤りはない。

(5) 相違点2に係る判断の誤りについて

ア 引用例3について

引用例3(甲3)は,「動物のプリオン病」と題する学術論文であるところ,同



27
文献には,ELISA法でPrPScを検出する際の試料の調製方法として,脳組

織を分析する場合には,組織を細寸後,界面活性剤としてZwittergent

3−12及びサーコシルを使用して可溶化し,酵素としてコラゲナーゼ,DNアー

ゼ及びプロテイナーゼKを使用して分解し,1万5000回転で遠心分離処理し,

沈殿物にSDSを加えて加熱し,メタノールで沈殿させ,沈殿物をGdnSCNに

溶解する方法が記載されている。

したがって,引用例3が開示する脳組織の分析方法は,組織を可溶化し,酵素で

分解後,遠心分離処理をして,PrP Sc と夾雑物とを分けているが,その際の遠

心分離処理の回転数が,1万5000回転であることから,当業者は,引用例3か

ら,ELISA法でPrPScを検出するための試料を調製する際,脳組織を分析

する場合には,PrP Sc と夾雑物とを分ける工程において,いわゆる超遠心分離

処理(4万回転)を行わなくても,1万5000回転程度の高速遠心分離処理でP

rPScを検出できる可能性があると認識するものであるということができる。

イ 遠心分離処理の条件について

(ア) 原告は,本件特許の審査段階において,意見書(乙7)を提出し,本件発

明で超遠心分離処理を行わないことに関する利点として,超遠心分離処理は,高速

遠心分離処理と比較して,より精密にサンプルのバランスを調整しなければならな

いという操作の煩わしさがあり,また,遠心管の破損やバランス調整不備に起因す

る事故によって,作業者がPrPScに感染する危険性が増すことを指摘している

が,このような事項は,当業者の技術常識であるということができる。

そうすると,当業者であれば,遠心分離処理において,超遠心分離処理を行うこ

となく,高速遠心分離処理で所期の目的が達成される可能性があれば,超遠心分離

処理ではなく,高速遠心分離処理を試みようとすることが自然であるということが

できる。

(イ) したがって,当業者は,中枢神経系組織に属する脳組織に関し,引用発明

1における4万回転という遠心分離処理について,引用例3により開示された1万



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5000回転という,より簡便かつ危険性の少ない回転数を試みるものということ

ができ,その実施に格別の困難性も認められない。

しかも,本件明細書には,本件発明1の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」

に関する定義は存在しないところ,実施例において,回転数1万5000rpmの

遠心分離処理を行った旨の記載があることからすると,遠心分離処理における1万

5000回転という回転数は,本件発明1における「超遠心分離処理を除く遠心分

離処理」に該当するものということができる。

(ウ) 以上からすると,当業者が,引用発明1の遠心分離処理の条件に,引用発

明3の1万5000回転程度の「超遠心分離処理を除く遠心分離処理」を適用する

と,相違点2に係る構成に想到し得るものと認められる。

ウ 原告の主張について

(ア) 原告は,界面活性剤の種類と分析対象組織の種類,適用される遠心分離処

理の方法及び洗浄,再沈殿などの精製工程の有無は,結果に大きく影響するもので

あることは,本件明細書の図7からも明らかであるところ,引用発明3の界面活性

剤は,Zwittergent3−12とサーコシルとの組合せによるものであり,

本件発明1とは種類が異なるなどと主張する。

しかしながら,引用発明1ないし3と同様に脳組織を分析対象とする図7Aにつ

いてみると,同図には,方法4に続いてサーコシルによる溶解及びNaClによる

塩析を行う方法3は,方法4と比較してPrPScを検出できる感度が劣ることが

開示されているが,可溶化工程でZwittergent3−12とサーコシルと

の組合せの界面活性剤を使用し,遠心分離処理を1万5000回転で行う方法1と,

可溶化工程でトリトンX−100とサーコシルとの組合せの界面活性剤を使用し,

遠心分離処理を1万5000回転で行う方法4とを比較すると,両者はいずれも7.

8μgの組織相当量まではPrPScの検出が可能であることも開示されており,

本件明細書【0154】にも,「方法4は方法1よりもやや感度が劣るが,十分に

実用的なものである」と記載されているものであるから,PrPScのELISA



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法による検出では,脳組織の可溶化の際に使用する界面活性剤の相違は,検出感度

に大きな影響を与えないものというべきである(少なくとも,図7Aによると,Z

wittergent3−12とトリトンX−100との間には,格別の相違を認

めることができない。)。原告の主張はその根拠を欠くものである。

(イ) 原告は,引用発明1ないし3においては,超遠心分離処理の適用が原則で

あり,脳組織にZwittergent3−12を使用する場合,1万5000回

転の遠心分離処理も適用可能であるが,Zwittergent3−12を使用し

ない場合には,超遠心分離処理が必要になるものと解されるとも主張する。

しかしながら,超遠心分離処理が高速遠心分離処理と比較して危険性の大きな処

理方法であることが,当業者の技術常識であることは先に指摘したとおりであって,

当業者は,超遠心分離処理を行うことなく,高速遠心分離処理で所期の目的が達成

される可能性があれば,高速遠心分離処理を試みようとするものである。したがっ

て,引用例1ないし3に接した当業者が,引用例3の記載について,脳組織にZw

ittergent3−12とサーコシルとの組合せの界面活性剤を適用した場合

にのみ1万5000回転の遠心分離処理が可能であると理解するとの原告主張は,

感染の危険性や操作の煩雑さを排除しようという当業者の自然な発想を無視するも

のであるというほかない。

(ウ) 原告は,通常の遠心分離処理で良好な結果が得られたのであれば,当業者

は,超遠心分離処理を適用することは避けるはずであるから,引用例1及び2が超

遠心分離処理を適用している以上,超遠心分離処理でなければよい結果が得られな

いと理解するものである,超遠心分離処理を使用すると,可溶化されている目的物

をより多く沈殿させる効果を有する反面,夾雑物まで沈殿させる傾向があるから,

遠心分離処理の条件と界面活性剤との各種組合せの中から,実験によってのみ判明

する好適な特定の組合せは,当業者に容易に想到されるものではないとも主張する。

しかしながら,中枢神経系組織に属する脳組織に由来するPrP Sc の場合,遠

心分離処理の回転数が超遠心分離処理と比較して低速である1万5000回転でも,



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その検出が可能である旨の引用例3の記載に接した当業者は,脳組織を分析対象と

する場合,超遠心分離処理により濃縮物を得ることが必須であって,これよりも低

い回転数ではPrPScの検出が不可能であると理解するものではないというべき

であるから,引用発明1が超遠心分離処理により濃縮物を得る方法しか開示してい

なくとも,引用例3の記載に接した当業者は,引用例3により開示された,超遠心

分離処理よりも危険性の少ない遠心分離処理の条件を採用しようとすることがむし

ろ自然である。そして,回転数を変更して実験することが,格別困難であるという

ことができないことは明らかである。

(エ) 原告の主張はいずれも採用できない。

(6) 本件発明1の進歩性に係る判断の当否

以上からすると,本件発明1は,中枢神経系組織に属する脳組織に由来するPr

PScの場合について,引用発明1に引用発明3を組み合わせることにより,当業

者が容易に想到し得るものというべきであるから,本件発明1の進歩性に係る本件

審決の判断に誤りはない。

(7) 本件発明2ないし4の進歩性に係る判断の適否

ア 本件発明2について

本件発明2は,本件発明1の中枢神経組織を「脳組織」と限定するものであるが,

引用発明1は,脳を試料として用いるものであるから,本件発明2は,本件発明1

と同様の理由により,進歩性が存しないというべきである。

イ 本件発明3について

本件発明3は,本件発明1又は2の分解処理について,更に「コラーゲン分解酵

素及びDNA分解酵素による分解処理を含む」と限定するものであるが,これらの

構成は,引用発明1において,「コラゲナーゼ,DNアーゼT及びプロテイナーゼ

K」で処理することが明示されているから,本件発明3は,本件発明1及び2と同

様の理由により,進歩性が存しないというべきである。

ウ 本件発明4について



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本件発明4は,本件発明1ないし3について,プロテアーゼが「プロテイナーゼ

K」であると限定するものであるが,引用発明1は,プロテイナーゼKを用いるも

のであるから,本件発明4は,本件発明1ないし3と同様の理由により,進歩性

存しないというべきである。

エ 小括

以上からすると,本件発明2ないし4についても進歩性を否定した本件審決の判

断に誤りはない。

2 結論

以上の次第であるから,その余について検討するまでもなく,原告の請求は棄却

されるべきものである。

知的財産高等裁判所第4部




裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣




裁判官 井 上 泰 人




裁判官 荒 井 章 光




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