審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成22ワ18041特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成24ネ10035特許権侵害差止等請求控訴事件 | 判例 | 特許 |
平成20ワ10819特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22ワ10064特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成21ワ38627損害賠償請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 冒認出願(冒認) / 特許を受ける権利 / 承継 / 発明者 / 自然法則 / 技術的思想 / 創作性(創作) / 方法の発明 / 使用方法 / 秘密保持義務 / 共同開発 / 共同発明 / 公然実施(29条1項2号) / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 慣用技術 / 公知技術 / 技術的範囲 / 試行錯誤 / 技術常識 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / 技術情報 / 技術的特徴 / 共同出願 / 対抗要件 / 悪意 / クレーム / ライセンス / 特許出願日 / 参酌 / 文言解釈 / 技術的意義 / 均等 / 均等論 / 均等侵害 / 置き換え / 同一の作用効果 / 容易に想到(容易想到性) / 意識的除外(意識的に除外) / 特許発明 / 実施 / 間接侵害 / 構成要件 / 方法の使用 / 課題解決に不可欠(課題の解決に不可欠) / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 損害額 / 譲渡数量 / 不法行為(民法709条) / 共同発明者 / 実施権 / 専用実施権 / 設定登録 / 請求の範囲 / 変更 / 合理的な理由 / 相当期間 / |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
17848号
特許権侵害差止等請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2012/03/26 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年3月26日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官 平成21年(ワ)第17848号 特許権侵害差止等請求事件 口頭弁論終結日 平成23年12月21日 判 決 東京都千代田区<以下略> 原 告 株 式 会 社 A Z E 同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 永 島 賢 也 同 尾 関 孝 彰 同 鰺 坂 和 浩 同 補 佐 人 弁 理 士 池 田 正 人 同 城 戸 博 兒 同 大 森 鉄 平 東京都港区<以下略> 被 告 富 士 フ イ ル ム 株 式 会 社 東京都港区<以下略> 被 告 富士フイルムメディカル株式会社 上記2名訴訟代理人弁護士 吉 田 和 彦 同 奥 村 直 樹 同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 越 柴 絵 里 同 復 代 理 人 弁 護 士 小 林 正 和 主 文 1 原告の請求をいずれも棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 1 被告らは,別紙被告方法目録記載の方法を使用してはならない。 1 2 被告らは,別紙被告製品目録記載の物件を生産してはならない。 3 被告らは,別紙被告製品目録記載の物件を譲渡し,又は,貸し渡してはなら ない。 4 被告らは,別紙被告製品目録記載の物件の譲渡の申出をし,又は貸渡しの申 出をしてはならない。 5 被告らは,別紙被告製品目録記載の物件の譲渡の申出のための展示をし,ま たは貸渡しの申出のための展示をしてはならない。 6 被告らは,別紙被告製品目録記載の物件を廃棄せよ。 7 被告らは,原告に対し,連帯して4000万円及びこれに対する平成21年 7月7日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 8 訴訟費用は被告らの負担とする。 9 仮執行宣言 第2 事案の概要 本件は,「医療用可視画像の生成方法」との名称の特許権の専用実施権者で ある原告が,被告らが製造又は製造販売する別紙被告製品目録記載の製品(以 下「被告製品」という。)は上記特許発明に係る方法の使用に用いられるもの であるところ,@被告らは,被告製品を用いて,上記特許発明に係る方法を実 施していると主張し,特許法100条1項に基づき,上記特許発明に係る方法 の使用の差止めを求めるとともに,A被告製品は,上記特許発明による課題の 解決に不可欠なものであり,被告らは,いずれも,被告製品が本件発明の実施 に用いられることを知りながら,業として,上記製造,販売等の行為に及んで いるから,上記特許権を侵害するものとみなされる(特許法101条5号)と 主張して,同法100条1項,2項に基づき,被告製品の製造,販売等の差止 め及び廃棄を求め,かつ,B原告は,上記特許権の特許権者から,被告らに対 する平成21年4月28日までの特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求 権(民法709条,特許法102条1項)を譲り受けたと主張して,被告らに 2 対し,連帯して,上記損害合計4000万円及びこれに対する訴状送達日の翌 日である平成21年7月7日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による 遅延損害金の支払を求める事案である。 1 前提事実(争いのない事実以外は,証拠等を末尾に記載する。) (1) 当事者等 ア 原告は,医療用画像解析ソフトウェアの開発業務等を目的とする株 式会社である。 イ 被告富士フイルム株式会社は,写真用感光材料並びに写真諸原料の 製造及び販売等を目的とする株式会社であり,被告富士フイルムメデ ィカル株式会社は,医療用,工業用レントゲンフィルム及びその処理 薬品ならびに周辺機材の輸入及び販売等を目的とする株式会社である。 (2) 本件特許権 ア 原告は,下記特許(以下「本件特許」という。)に係る特許権(以下 「本件特許権」という。)の特許権者として登録されているX(以下 「原告代表者」という。)から専用実施権の設定を受け,平成21年4 月28日,上記専用実施権の設定登録を受けた(甲2)。 (ア) 特許番号 第4122463号 (イ) 発明の名称 医療用可視画像の生成方法 (ウ) 出願日 平成14年7月26日 (エ) 登録日 平成20年5月16日 (オ) 発明者 Y,原告代表者 イ 本件特許に係る明細書(以下「本件明細書」といい,本判決末尾に添付 する。)の「特許請求の範囲」請求項1の記載は下記(ア)のとおりであり, 請求項2の記載は下記(イ)のとおりである(以下,請求項1記載の発明を 「本件発明1」,請求項2記載の発明を「本件発明2」といい,上記各発 明を併せて「本件各発明」という。)。 3 (ア) 本件発明1 「複数種の生体組織が含まれた被観察領域を放射線医療診断システム により断層撮影して得られた,3次元空間上の各空間座標点に対応した 画像データ値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に 分割し,該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値に基づき,対 応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定し,この設定され た前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度に基づき,前記被観 察領域が2次元平面上に投影されてなる可視画像を生成する医療用可視 画像の生成方法において, 前記2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する 全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視線毎に互 いに積算し,該積算値を該各視線上の前記平面座標点に反映させると共 に, 前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間において設定される前記 色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の大 きさに応じて連続的に変化させることを特徴とする医療用可視画像の生 成方法。」 (イ) 本件発明2 「前記補間区間における前記不透明度の変化状態を調整するための調 整感度を,該不透明度が小さい範囲の方が大きい範囲よりも大としたこ とを特徴とする請求項1記載の医療用可視画像の生成方法。」 ウ 本件各発明の構成要件の分説 本件各発明を構成要件に分説すると,下記のとおりである(以下,各構 成要件を「構成要件1−A」などという。)。 (ア) 本件発明1 1−A 複数種の生体組織が含まれた被観察領域を放射線医療診断シス 4 テムにより断層撮影して得られた,3次元空間上の各空間座標点に対 応した画像データ値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複数の 小区間に分割し,該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値に 基づき,対応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定し, この設定された前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度に基 づき,前記被観察領域が2次元平面上に投影されてなる可視画像を生 成する医療用可視画像の生成方法において, 1−B 前記2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位 置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視 線毎に互いに積算し,該積算値を該各視線上の前記平面座標点に反映 させると共に, 1−C 前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間において設定され る前記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像デー タ値の大きさに応じて連続的に変化させることを特徴とする医療用可 視画像の生成方法。 (イ) 本件発明2 2−Aないし2−C 構成要件1−Aないし1−Cと同じ 2−D 前記補間区間における前記不透明度の変化状態を調整するため の調整感度を,該不透明度が小さい範囲の方が大きい範囲よりも大と したことを特徴とする請求項1記載の医療用可視画像の生成方法。 (3) 被告らの行為等 ア 被告製品の内容等 被告製品は,ディスプレイ,コンピュータ,マウス,キーボード等によ って構成されるワークステーションであり,上記ワークステーション中に 含まれるコンピュータには,「SYNAPSE VINCENT」(以下 5 「被告ソフトウェア」という。)との名称のソフトウェアがインストール されている。 被告ソフトウェアは,CT装置等により撮影された二次元画像から医療 用疑似三次元画像を生成する動作をコンピュータに実行させ,上記画像を ディスプレイに表示させることができるものである(以下,被告製品を用 いた上記医療用疑似三次元画像生成方法を「被告方法」という。)。 イ 被告富士フイルムは,業として,被告製品を製造販売し,被告富士フイ ルムメディカル株式会社は,被告製品を販売している。 ウ 被告製品の譲渡を受けた医療機関等は,被告製品を用いて,医療用疑 似三次元画像を生成し,利用している。 2 争点 (1) 被告製品による本件特許権の間接侵害(特許法101条5号)の成否 ア 被告方法は,本件発明1の技術的範囲に属するか。 (ア) 被告方法は構成要件1−Aを文言充足するか。 (イ) 被告方法は構成要件1−Bを文言充足するか。 (ウ) 被告方法は構成要件1−Cを文言充足するか。 イ 被告方法は均等論により本件特許発明1の技術的範囲に属するか。 ウ 被告方法は,本件発明2の技術的範囲に属するか。 エ 被告製品は,本件各発明による課題の解決に不可欠なもの(特許法10 1条5号)に該当するか。 オ 被告らの主観的要件の充足性 (2) 本件各発明の直接侵害の成否 (3) 本件各発明は特許無効審判により無効とされるべきものか。 ア 無効理由@(本件特許が冒認出願に当たり,かつ,共同出願要件に違反 するものか。) イ 無効理由A(本件各特許発明は公然実施されたものに当たるか。) 6 ウ 無効理由B(本件特許が進歩性欠如の無効理由を有するか。) (4) 原告による損害賠償請求の可否及び損害額 第3 争点に対する当事者の主張 1 争 点 (1)ア (ア )( 被 告 方 法 は 構 成 要 件 1 − A を 文 言 充 足 す る か 。 ) (原告の主張) (1) 構成要件1−Aの解釈 ア 「画像データ値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複数の小 区間に分割し」について 「画像データ値の分布」とはCT等のモダリティから人体を断層撮 影することによって得られた画像データ値の頻度分布をグラフ化した もの(ヒストグラム)を指す(本件明細書【0004】)から,「画 像データ値の分布に基づき…分割し」とは,ヒストグラムに基づき, 該画像データ値の値域を複数の小区間に分割することをいう。本件明 細書には,上記分割の方法を,機械的・自動的に行われるものと手動 により行われるものに分け,後者を排除していると解すべきような記 載はない上,「基づき」という語句が通常有する意味として,手動に よるものを除外しているとみるのは相当ではないから,「画像データ 値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し」 には,ヒストグラムを参照しながら手動により分割する場合も含むと 解するのが相当である。 イ 「該小区間毎に,該小区間内の前記画像データ値に基づき,対応す る前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定し」について 大辞泉(甲32)において,「および」とは,「漢文訓読で接続詞 に使う『及』の字を『および』と読んだところから,複数の事物・事 柄を並列して挙げたり,別の物・事柄を付け加えて言ったりするのに 用いられる語」とされているのみであるから,「および」の語の意義 7 は,本件明細書の記載を考慮して解釈されるべきであるところ,本件 明細書には,「まず,小区間A1,A2の基準色度C1,C2と基準不透 明度D1,D2とをそれぞれ設定する。」(【0013】)として,色 度と不透明度が,それぞれ別作業で設定される例が説明されている上, 実施形態として,色度関数や不透明度関数を表す曲線又は直線を,C T値に対する色度及び不透明度の数値とともに表示して,医師等のユ ーザー側が表示された関数曲線をペンタッチ等で変化させ,これらの 調整を行うことができる形態が開示されており,色度と不透明度が医 師等のユーザーにより別々に設定されることについても触れられてい る。 したがって,本件明細書の上記記載を考慮すると,「色度および不 透明度を設定し」とは,色度と不透明度を別々に設定する場合も含む 記載であると解するのが相当である。 (2) 被告方法の構成要件1−A充足性 ア (ア ) 被告製品は,別紙「被告製品等説明書(被告)」の【図3】 (6頁)のテンプレート詳細設定画面(以下「本件設定画面」とい う。)において,画像データの信号値を横軸とし,上記信号値の出 現頻度及び不透明度を縦軸としたグラフ(以下「グラフ」とい う。)を表示し,同グラフ上にマウスで縦線を引くことによって 「色境界線」を設定し,上記色境界線で挟まれた区間(「色境界領 域」)の色を指定することができ,また,グラフの色境界線上に 「オパシティライン」の制御点を置き,これを移動させることによ り,オパシティラインの形状を決定することができるものであり, 上記グラフ上には,被観察領域をCT等の放射線医療診断システム により撮影して得られたヒストグラムが白色線で表示されている。 (イ ) 被告製品において,グラフに色境界線を設定することは,本件 8 特許発明1の「該画像データ値の値域を複数の小区間に分割」する ことに相当し,色境界線によって挟まれた色境界領域は,本件特許 発明1の「小区間」に相当する。また,上記「色境界領域」におけ る色の指定は,本件特許発明1の「色度」の「設定」に相当し,色 境界線上に「オパシティライン」の制御点を設定してオパシティラ インの形状を決定することは,本件特許発明1の「不透明度」の 「設定」に相当する。 上記色境界線の設定は,ヒストグラムが表示されたグラフ上で行 われるものである上,ヒストグラムのパターンと無関係に色境界線 を設定しても有意義な画像は得られないから,被告製品において, 色境界線の設定は,当然にヒストグラムに基づいて行われるものと 考えられ,被告製品において,「小区間への分割」は,「画像デー タ値の分布に基づき」されているものである。 (ウ ) 被告製品において,色境界線の設定は,デフォルト設定(想定 されるヒストグラムのパターンに対応してプリセットされた設定) によりなされるほか,医師等のユーザーが手動で設定することもで きるものであるが,構成要件1−Aが手動による設定を除外するも の と は 解 さ れ な い こ と は 前 記 (1)ア で 主 張 し た と お り で あ る 。 ま た , 医師等のユーザーがマニュアルにより色境界領域を設定する場合, グラフ上に表示されたヒストグラムを参照して上記設定を行うと考 え ら れ る こ と は 上 記 (2)ア (イ )で 主 張 し た と お り で あ る 。 (エ ) 被 告 ソ フ ト ウ ェ ア は , 上 記 (2)ア (ア )及 び (イ )の と お り 設 定 さ れた色度及び不透明度に基づき,複数の生体組織が含まれた被観察 領域を2次元平面上に投影されてなる可視画像を生成する医療用可 視画像の生成を行うものである。 (オ ) したがって,被告方法は構成要件1−Aを文言充足する。 9 イ 被告の主張について (ア ) 被告は,被告製品において,ユーザーは実際の疑似三次元画像 を見ながら色境界線を調整するのが通常であり,この場合,本件設 定画面におけるグラフ上のヒストグラムを参照しないから,色境界 線の設定は「画像データ値の分布に基づき」行われるものではない と主張するが,否認する。被告製品において,色境界線は,グラフ 上をマウスでダブルクリックすることにより設定されるものであり, グラフが表示されない状態で,どのように色境界線を設定すること ができるのか全く不明であり,被告の主張は合理性を欠く。 また,CT値の場合と異なり,MRIの信号値は,撮影方法,被 写体によって数値の変化する相対値であるから,初期状態でプリセ ットされているテンプレートを使用しても臨床レベルに耐えられる 可視画像を生成することはできず,ヒストグラムを参照してテンプ レートを編集する必要があるから,ユーザーがヒストグラムを参照 して色境界線を設定するのが例外的な場合であるとの被告の主張も 正確性を欠くものである。 なお,被告は,グラフを表示しない状態における色及び不透明度 の変更の実例として,動画(乙47)を提出するが,上記動画はウ ィンドウレベルの調整(色境界領域の平行移動)を行っている様子 を撮影したものにすぎず,色境界領域の設定の状況を撮影したもの ではない。 (イ ) また,グラフを表示せずに色境界線を設定することが可能であ るとしても,被告製品において色境界線を設定する(すなわち,信 号値について,ある値からある値までを区切り,色境界領域を設定 する)ことができるのは,人体を断層撮影することによって得られ たデータを,各データ値が現れる頻度に従ってヒストグラム化して 10 いるからであり,被告ソフトウェアが,色境界線の設定に当たり, ヒストグラムに基づき計算を行っていることは明らかであるから, グラフ画面の表示の有無に関わりなく,被告製品において,色境界 領域の設定(小区間への分割)は,「画像データ値の分布に基づ き」されているものである。 (被告らの主張) (1) 原告の主張は争う。 (2) 構成要件1−Aの解釈について ア 「3次元空間上の各空間座標点に対応した画像データ値の分布に基 づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し」について (ア ) 「3次元空間上の各空間座標点に対応した画像データ値の分布 に基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し」とは, 対象となる複数種の生体組織の画像データ値の値域について,画像 データ値の分布に基づき,CT装置等の機械によって,生体組織毎 に小区間へと自動的に分割されることを意味し,少なくとも「画像 データ値の分布」と「小区間に分割」とが何らかの形で連動又は関 連づけられていることを要し,かつ,ユーザー(人間)が手動で小 区間を任意に設定する場合を含まないものと解される。 (イ ) このことは,上記要件が画像データ値の分布と関連なくユーザ ーが任意に小区間に分割することができる構成も含むものであると すれば,「画像データ値の分布に基づき」との文言は不要であるは ずにもかかわらず,特許請求の範囲の記載に上記文言が含まれてい ることや,補間区間の設定に関しては,「画像データ値の分布に基 づき」という要件が付されていないこととの均衡を考慮しても明ら かである。 (ウ ) また,本件明細書には,「画像データ値が,生体組織毎に特有 11 の分布状態を有することを利用して,…画像データ値の値域を複数 の小区間に分割し,各小区間内の画像データ値を有する各空間座標 点に対して小区間毎に,各小区間内で一定の値をとる一定値の色度 および不透明度を設定」(【0004】)との記載があり,同記載 は,従来技術では,画像データ値が臓器や血管および腫瘍等(【0 001】参照)の生体組織毎に特有の分布状況を有することを利用 して,画像データ値の値域を生体組織毎に複数の小区間に分割して いたために本件発明の課題が生じたことを示すものであるから,本 件発明においても,当然,「複数の小区間に分割」(構成要件1− A)とは,CT値等の分布に応じ,生体組織毎に小区間へ分割され ることを意味すると解するべきである。これは,本件明細書に, 「…画像データ値の分布に基づき,…複数の小区間に分割」するこ とに関し,「骨と軟組織のように,画像データ値(CT値)の差が 互いに大きい生体組織間の場合は,CT値の違いによって両者を完 全に分断することができる」(【0005】),「軟組織と血管の ように,CT値の差が互いに小さい生体組織間の場合は,CT値の 違いによって両者を完全に分別することができない。このため,… 両者の分布が互いに重なる位置において両者を分別するような小区 間を設定し…」(【0005】)との記載があり,CT値の差に連 動又は関連づけて,生体組織毎に小区間への分割が行われることが 当然の前提とされていることからも裏付けられる。 そうすると,CT値等の画像データ値の値域を,人間の目で完全 に正確に生体組織毎に分割することは技術的に不可能であるから, 上記分割は,当然に機械的自動的分割を想定しているものと解する の が 合 理 的 で あ り , 上 記 (2)ア (ア )の 解 釈 の 合 理 性 が 裏 付 け ら れ る 。 (エ ) また,コンピュータ・ソフトウェア関連発明に関する特許庁審 12 査基準には,「ソフトウエア関連発明が『自然法則を利用した技術 的 思 想 の 創 作 』 に な る 基 本 的 考 え 方 は 以 下 の と お り 。 (1)『 ソ フ ト ウエアによる情報処理が,ハードウエア資源を用いて具体的に実現 されている』場合,当該ソフトウエアは『自然法則を利用した技術 的思想の創作』である。」と記載されているから,ソフトウエア関 連発明である本件特許発明において,「画像データ値の分布に基づ き…小区間に分割し」との要件が人間の手動(マニュアル)による 分割も含むとすれば,本来,上記動作が人間の手動によるものであ る旨が明示されるべきであり,本件特許請求の範囲に上記記載がな い以上,上記要件が人間の手動によるものを含むと解する余地はな い。もし,上記要件が人間の手動によるものを含むと解するとすれ ば,本件発明において,各動作を行う主体の記載がない以上,本件 発明の要件全てが人間の動作によって実現されるものと解する余地 も出てくることになるが,このように解すると,本件発明はハード ウエア資源を用いて具体的に実現されているものに当たらなくなり, 上記審査基準に照らし,特許性を欠くことになるのであって,この ような解釈が失当であることは明らかである。 イ 「該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値に基づき,対応 する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定し」について (ア ) 「色度および不透明度を設定し」について 本件明細書の【発明が解決しようとする課題】欄には,従来の医 療用可視画像生成方法について,「従来の医療用可視画像の生成方 法では,…画像データ値の値域を複数の小区間に分割し,各小区間 内の画像データ値を有する各空間座標点に対して小区間毎に,各小 区間内で一定の値をとる一定値の色度および不透明度を設定してい た。」(【0004】),「両者の分布が互いに重なる位置におい 13 て両者を分別するような小区間を設定した上で,各小区間にそれぞ れ一定値の色度および不透明度を設定していたが…」(【000 5】)との記載があり,従来方法における「小区間」は,各区間内 において一定値の色度および不透明度の両者を設定するものである ことが示されているところ,本件明細書には,小区間内に補間区間 を設けて課題を解決することが記載されているものの,その前提と なる各小区間における色度および不透明度の設定が,従来方法にお けるものと異なることを示唆する記載は何ら存在しない。 また,本件明細書の【発明の実施の形態】欄には,「…小区間毎 に,各小区間内のCT値に対応する色度(R,G,Bそれぞれ0〜 255の範囲内の値をとる)および不透明度(0〜1の範囲内の値 をとる)を設定する。このとき従来方法では,小区間毎に各区間内 で一定の値をとる一定値の色度および不透明度を設定するが,本実 施形態方法では,以下の手順により色度および不透明度を設定す る。」(【0012】),「図2に示すようにCT値の値域内に, 境 界 線 L に よ っ て 互 い に 隔 て ら れ た 小 区 間 A 1 と 小 区 間 A 2 が 設 定さ れ た 場 合 を 例 に と っ て 説 明 す る 。 ま ず , 小 区 間 A 1 , A 2 の 基 準 色度 C1,C2と基準不透明度D1,D2とをそれぞれ設定する。図2に 示す例では,小区間A1の基準不透明度D1を0に,小区間A2の基 準不透明度D2を1に設定した場合を示している。」(【001 3】)との記載があり,実施例においても,小区間毎に一定値の色 度及び不透明度が設定されることが示されている。 これらの本件明細書の記載内容を考慮すると,「該小区間毎に… 色度および不透明度を設定し」とは,小区間毎に,色度及び不透明 度の両者をいずれも一定値をとるように設定することを意味するも のと解するべきである。 14 (イ ) 「前記画像データ値に基づき…色度および不透明度を設定し」 について 「前記画像データ値に基づき…色度および不透明度を設定し」と は , 前 記 被 告 ら の 主 張 (2)ア (ア )で み た 「 画 像 デ ー タ 値 の 分 布 に 基 づき…分割し」の解釈と同様に,色度および不透明度が画像データ 値と連動又は関連づけられていることを要すると解すべきであり, 色度および不透明度が画像データ値と関係なく任意に設定できる場 合を含まないと解するべきである。 ウ 「複数種の生体組織が含まれた被観察領域…が2次元平面上に投影 されてなる可視画像を生成する」について 「複数種の生体組織が含まれた被観察領域…が2次元平面上に投影 されてなる可視画像を生成する」とは,CT装置等で撮影された被観 察領域(例えば頭部)に含まれる複数の生体組織領域(例えば頭蓋骨, 脳,目玉,舌)の全てを可視化した「可視画像」を生成することを意 味すると解すべきである。また,「3次元空間」とは,被観察領域及 びその外の空気領域を含むものである。 (3) 被告方法の充足性について ア 被告方法の内容 被告方法の内容は別紙「被告製品等説明書(被告)」のとおりであ るが,構成要件1−Aとの関係で,特に,以下の点を指摘することが できる。 (ア ) 色境界線の設定及び配色編集 被告製品において,ユーザーがディスプレイ上に表示された「カ ラー編集」タブをクリックすると,画面上に本件設定画面が表示さ れ,同画面上には,白色でヒストグラム(信号値及び信号値に対す る出現頻度をプロットしたもの。)を表示したグラフが表示される 15 ところ,ユーザーは,上記グラフ上にポインタを置いた状態でマウ ス操作を行う(ダブルクリックするか,又は右クリックでメニュー を表示し「境界線 新規」等を選択する)ことによって,上記グラ フ上に「色境界線」を設定(新規追加),移動,削除することがで きる。また,上記色境界線で区切られた区間(「色境界領域」)を クリックすることにより,「色変更ダイアログ」を表示し,これに より,各色境界領域に割り当てる色を決定することができる。 (イ ) オパシティラインの設定 被告製品において,本件設定画面を表示すると,グラフ表示右側 に「オパシティライン」の形状を表した6つのボタンが表示され, ユーザーは,いずれかのボタンを選択することで,グラフ上に設定 するオパシティラインの形状を選択することができる。 なお,オパシティラインとは,当該信号値の不透明度(オパシテ ィ値)を示すラインを指し,各ボタンにより選択されるオパシティ ラインの形状は,各ボタンを一番上から順に@〜Eとすれば,それ ぞれ次のとおりである。 @ ユーザーがマニュアルで任意の形状のオパシティラインを作成 する。 A 色境界線上にオパシティの制御点が配置され,ユーザーが制御 点を操作することによってオパシティラインを作成する。 B 右肩上がりの形状のオパシティラインを作成する。 C 右肩下がりの形状のオパシティラインを作成する。 D 凸型の形状のオパシティラインを作成する。 E 凹型の形状のオパシティラインを作成する。 (ウ ) なお,被告製品において,ユーザーは,疑似三次元画像上で直 接マウスをドラッグすることにより,疑似三次元画像の色及びオパ 16 シ テ ィ 値 を 調 整 す る の が 通 常 で あ り ( 乙 4 7 ) , 上 記 (ア )及 び (イ ) のように,カラーテンプレートを表示して色境界線等の設定を行う のは例外的な場合である。 ま た , 上 記 (ア )及 び (イ )の よ う に , カ ラ ー テ ン プ レ ー ト 設 定 画 面 を表示して色境界線等の設定を行う場合でも,ユーザーである医師 らは,表示しようとする臓器等のCT値等を熟知しているから,ヒ ストグラムを参照して色境界線等の設定を行うことはなく,ただ, 同一画面上にヒストグラムが表示されているため,同ヒストグラム が目に見えてしまうにすぎない。被告製品において,本件設定画面 にヒストグラムが表示されているのは,製品の見栄えを良くするこ とが主たる理由であり,ユーザーがこれを参照して色境界線等の設 定を行うためではない。 イ 被告方法の充足性 (ア ) 「3次元空間上の各空間座標点に対応した画像データ値の分布 に基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し」につい て a 前 記 (3)ア (ア )の と お り , 被 告 製 品 に お け る 色 境 界 領 域 の 設 定 は,ユーザーが手動で行うものであって,機械的自動的に行われ るものではないから,被告方法は,「複数の小区間に分割」する ものに当たらない。 b 前 記 (3)ア (ウ )の と お り , ユ ー ザ ー が 本 件 設 定 画 面 を 表 示 せ ず , 疑似三次元画像を見ながら色及びオパシティ値の調整を行う場合, ユーザーは,ヒストグラムとは無関係に色及びオパシティ値の設 定を行うのであって,「画像データ値の分布に基づき」小区間の 分 割 を 行 う も の で は な い 。 ま た , ユ ー ザ ー が 上 記 (3)ア (ア )及 び (イ )の と お り 本 件 設 定 画 面 を 表 示 し て 色 境 界 線 の 設 定 を 行 う と い 17 う例外的な場合においても,ユーザーは,ヒストグラムに注目す ることなく,かつ,これに制約されることもなく,任意に色境界 領域を設定するものであって,ヒストグラムに基づき,生体組織 毎に信号値を小区間へ分割するものではないから,やはり,「画 像データ値の分布に基づき」小区間への分割を行うものではない。 c したがって,被告方法は,「3次元空間上の各空間座標点に対 応した画像データ値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複 数の小区間に分割」するものに当たらない。 (イ ) 「該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値に基づき, 対応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定し」につい て a 前 記 (3)ア (ア )及 び (イ )の と お り , 被 告 製 品 に お け る 色 境 界 領 域の設定及び同領域における色の設定は,オパシティラインの設 定とは無関係にされるものであり,かつ,オパシティラインは, 色境界領域毎に一定値に設定されるものではないから,被告方法 は,色境界領域毎に,色度及び不透明度の両者をいずれも一定値 をとるように設定するものではない。 b また,被告製品における色及びオパシティラインの設定は,前 記 (3)ア (ア )及 び (イ )の と お り , C T 値 と は 関 係 な く , ユ ー ザ ー が任意に設定するものであるから,色度及び不透明度は「画像デ ータ値に基づき」設定されるものではない。 c したがって,被告方法は,「該小区間毎に,該各小区間内の前 記画像データ値に基づき,対応する前記空間座標点毎の色度およ び不透明度を設定」するものに当たらない。 (ウ ) 「複数種の生体組織が含まれた被観察領域…が2次元平面上に 投影されてなる可視画像を生成する」について 18 被告製品は,CT装置等によって撮影された生体組織領域の全て を 可 視 化 す る も の で は な く , 争 点 (1)ア (イ )に 関 す る 被 告 ら の 主 張 で詳述するアダプティブブロック処理により,ユーザーが観察した いと考える特定又は単一の生体組織領域のみを疑似三次元画像とす るものであるから,「複数種の生体組織が含まれた被観察領域…が 2次元平面上に投影されてなる可視画像を生成する」ものに当たら ない。 (4) したがって,被告方法は構成要件1−Aを文言充足しない。 2 争 点 (1)ア (イ )( 被 告 方 法 は 構 成 要 件 1 − B を 文 言 充 足 す る か 。 ) (原告の主張) (1) 「各視線上に位置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前 記不透明度を該視線毎に互いに積算し」(構成要件1−B)の解釈 ア 本件明細書には,「従来方法では,各視線上に位置するボクセル毎 の色度および不透明度を互いに積算する演算過程の高速化を図るため, 一部のボクセルに関するデータを間引いて演算を行なっていた。この ため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透明感 を表現することができなかった。」(【0006】)との記載がある。 なお,従来技術としては,放射線画像形成装置(甲37)や再構成 面設定方法…X線CT装置(甲38)に関する技術が挙げられるとこ ろ,前者については当該明細書の【0012】,【0027】に,後 者については【0010】に,いずれも間引きの技術として説明され ている。 イ 本件明細書における上記アの記載内容を参酌すると,本件発明1に おける「全ての」との文言は,「間引くことなく」との意味であると 解 釈 す べ き こ と に な る と こ ろ , 上 記 (ア )で み た 本 件 明 細 書 の 【 0 0 0 6】の記載は,可視化画像を生成する際に生体組織間の微妙な色感や 19 不透明感の表現を犠牲にすることをもって「間引く」と表現している ものであるから,「全て」とは,結局,「生体組織間の微妙な色感や 不透明感の表現を犠牲にすることなく」を意味し,本件発明1が医療 用可視画像を生成する方法に関するものであることにもかんがみ,医 師又は技師の目に可視化された画像において,色感や不透明感の表現 に影響しないボクセルの計算を省略することがあっても,なお,「全 ての…互いに積算し」に当たると解するべきである。 (2) 被告方法の構成要件1−B充足性 ア 被告製品において,被告ソフトウェアは@視線上のすべてのボクセ ル(3次元空間の各空間座標点を構成する単位。本件明細書の【00 03】参照)について色度及び不透明度の積算を行うものではなく, 画像として飽和している状態(変化のない状態)となった時点で計算 打ち切り処理を行うものであり,かつ,Aある特定の視線については 完全に計算を省略するというアダプティブブロック処理を行っている ものであるが,@については,画素に対して影響を与えない部分につ いて計算を行わないというものであって,生体組織間の微妙な色感や 不透明感の表現に影響のない部分について計算していないというもの にすぎない。また,Aについては,可視化の対象とならない領域につ いて計算を省略するというものにすぎないのであって,上記処理が, 可視化部分の画像表現に影響しないものであることは明らかである。 したがって,被告製品における上記@及びAの処理は,いずれも,上 記 (1)イ で み た 「 間 引 き 」 に 当 た る も の で は な く , 被 告 製 品 が , 当 該 可視画像の生成に必要な空間座標点の全てについて積算計算を行って いる以上,被告の用いる技術は,本件特許発明1と課題解決原理を共 通にしており,全く同一の技術思想に属するものであって,「全て の」空間座標点毎の色度及び不透明度を積算しているものというべき 20 である。 したがって,被告方法は構成要件1−Bを充足する。 イ 被告らの主張について (ア ) 被告らは,被告製品において,ユーザーは,カラーテンプレー トを選択することにより,観察したいと考える対象以外のボクセル を計算の対象から除外することができ,この場合,可視化対象領域 についても計算が省略されることになるから,被告方法は,「全て の…積算し」を充足しないと主張する。しかし,本件特許発明1に おいて,データの積算処理は,「被観察領域」(構成要件1−A) についてされるものであり,被観察領域外の空間座標点について積 算処理を行わないことは,構成要件1−Bの充足性に影響しないも のと解される上,被告らの主張によっても,ユーザーが上記のよう な選択をしなければ上記の計算省略処理はされず,この場合,被告 方法は構成要件1−Bを充足することになるから,被告らの主張は 当たらない。 (イ ) 公知技術除外の主張について 被告らは,構成要件1−Bは本件明細書の「従来の方法」(【0 006】)を含まないものとして解釈すべきであり,被告方法は上 記従来方法(公知技術)と同一のものであるから,被告方法は構成 要件1−Bを充足しないと主張するが,争う。本件明細書の「従来 の方法」に,被告方法における計算打ち切り処理やアダプティブブ ロック処理は含まれない。 すなわち,本件明細書の「従来の方法」とは,コンピュータの演 算能力が乏しい時代に,たとえ描出される画像の精度が低下するこ とになっても,演算過程の高速化を図るため,データの一部を間引 いてデータ量を削っていたことがあり,そのような技術を指して, 21 「従来の方法」と記載したものであって,上記従来技術としては, 平成12年5月23日公開の特開2000−139901号公報 (甲37)や,平成10年2月17日公開の特開平10−4317 8号公報(甲38)に各記載されている技術が挙げられる。 これに対し,被告方法は,計算しなくとも問題のない部分を判断 した上で,その部分について計算をしないという処理をするもの (計算打ち切り処理)や,表示されない領域を定義・探索した上, その領域を通過する視線についての計算を省略するというもの(ア ダプティブブロック処理)であり,計算対象を少なくしてコンピュ ータの処理時間の短縮化を図るという従来技術が発展して,間引き せずに全てのボクセルに対応した色度及び不透明度を計算するとい う本件特許発明に係る方法に至り,さらに,被告方法のように,可 視化に影響しない部分を抽出して計算から除外し,計算の高速化を 図るという方法に至ったというものであるから,被告方法が従来技 術に含まれないことは明らかである。 なお,本件特許出願の代理人弁理士は,本件特許発明の発明者で あるY(以下「Y」という。)から,「従来の方法」(【000 6】)に,アーリーレイターミネーションやスペースリーピングの 技術が含まれる旨の説明を受けたことはなく,この点に関するYの 陳述書(乙39)の内容は虚偽である。 (被告らの主張) (1) 原告の主張は争う。 (2) 「各視線上に位置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前 記不透明度を該視線毎に互いに積算し」(構成要件1−B)の解釈 ア 上記要件中,「全ての」との文言は,一般的に,「ことごとく。み な。全部」(乙8),「あらゆる(たくさん有る)ものが一つの例外 22 も無く,それに当てはまる(ようにする)ことを表わす。」(乙9, 「新明解国語辞典第5版」)との意義を有するものであるところ,本 件明細書において,「【発明が解決しようとする課題】」として,従 来方法が一部のボクセルに関するデータを省略した上で演算を行って いたため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透 明感を表現することができなかったことが挙げられており(【000 6】),このような課題を解決するために,本件特許発明1が「…各 視線上に位置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透 明度を該視線毎に互いに積算」する構成を採用したことが明らかにさ れているのであって(【0008】),これにより,本件発明1が, 「…本発明の医療用可視画像の生成方法によれば,…可視画像を生成 する2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する 全ての空間座標点毎の色度および不透明度を視線毎に互いに積算し, この積算値を各視線上の平面座標点に反映させるようにしている。こ のような構成をとることにより,被観察領域内の生体組織間の微妙な 色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別し得る 可視画像を生成することが可能となる。」(【0025】)との作用 効果を奏するものであることが記載されているのであるから,このよ うな明細書の記載を参酌すれば,「全ての」とは,視線上に位置する ボクセル全てについて一つの例外もなく演算を行うことを意味すると 解するべきであり,一部のボクセルに関するデータ演算を省略する場 合には,上記要件を充足しないと解するのが相当である。 イ ま た , 上 記 (2)ア で み た 本 件 明 細 書 の 【 0 0 2 5 】 欄 の 記 載 か ら 明 らかなとおり,視線のうち一部についてのみ積算処理を行う場合,生 体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することはできず,本件発明 1の解決しようとする上記課題は解決できないこととなるから,上記 23 要件中,「各視線」「該視線毎に」とは,全ての視線について積算処 理を行うことを意味するものと解するべきである。 ウ 本 件 明 細 書 の 【 発 明 の 実 施 の 形 態 】 欄 の 記 載 も , 上 記 (2)ア 及 び イ の解釈を裏付けている。 すなわち,本件明細書の【発明の実施の形態】欄においては,「… 肝臓等の臓器や血管,骨等の複数種の生体組織を含んだ腹部を,CT 装置により断層撮影して得られたCT値に基づいて,その可視画像を 生成する場合を例にとって説明する。」(【0010】)として, 「被観察領域」として「腹部」を例として選択することを明らかにし た後,「本実施形態方法では,まず,断層撮影領域に対応した3次元 空 間 K 3 の各空間座標点を構成するボクセルを用いて,CT装置により得 られた腹部のCT値(画像データ値)の空間分布を表す。」(【001 1】)として,「3次元空間K 3 」のボクセルを用いてヒストグラムを表 すことを明らかにし,次に,3次元空間K 3 中の各ボクセルについて,色 度及び不透明度を決定することを開示している(【0012】〜【00 15】)。その上で,本件明細書は,「 各 ボ ク セ ル の 色 度 お よ び 不 透 明 度を決定した後,図1に示すように,投影用の2次元平面(可視化 面)K2(例えば,CCD等の撮像平面やディスプレイ等の画像平 面)の各平面座標点を表す画素(ピクセル)と視点(投影中心)10 とを結ぶ視線12を想定する。そして,各視線12上に位置する全ボ クセルの各々の色度および不透明度を,アルファブレンディングルー ルと称される下式(1)の計算式に基づき視線12毎に互いに積算し, ボリュームレンダリング法により,この積算値を各視線12上に位置 する2次元平面K2の各画素に反映させて,被観察領域としての腹部 の2次元可視画像を生成する」(【0016】)として,全ボクセル について積算を行うことを明らかにし,さらに,上記「アルファブレ 24 ンディングルール」として,次の数式を開示している(【001 7】)。 上記数式におけるnが視線12上に位置する全ボクセルの数を意味する ことは当業者の技術常識から当然のことであり,同数式においては,Σi =1からnまでとして,視線上の全てのボクセルについて上記計算を行う ことが示されている。 以上によれば,本件明細書には,複数の生体組織領域からなる「被 観察領域」を撮影し,「被観察領域」及びその外の空気領域を含む 「3次元空間」上に存在する全ボクセルについて,その色度及び不透 明度をアルファブレンディングルールに基づき積算し,被観察領域と しての腹部の2次元可視画像を生成する例のみが実施例として開示さ れているものであり,上記積算は,全ての視線について行われている ものである。これに対し,一部ボクセルのデータを間引いて残りのデ ータについてのみ積算を行うことを許容する開示や,全視線のうち一 部の視線についてのみ積算が行われればよいとする開示は本件明細書 中に存在しない。 このような本件明細書の記載からも,構成要件1−Bに関し,前記 (2)ア 及 び イ の 解 釈 が 相 当 で あ る こ と が 裏 付 け ら れ る と い う べ き で あ る。 (3) 被告方法の充足性について 25 ア 被告ソフトウェアは,別紙「被告製品等説明書(被告)」2頁ない し4頁記載のとおり,被写体である生体組織を撮像して得られたボク セ ル デ ー タ を 使 用 し , 下 記 (ア )( 【 数 式 1 】 ) 及 び (イ )( 【 数 式 2】)で示されるボリュームレンダリング処理の計算を実行すること により,疑似三次元画像を被告製品のディスプレイに表示させるもの である。 (ア ) 【数式1】 T ? ? i ?1 ? ? P = α (V0 ) × c(V0 ) + ? ? C (1 ? α (V j ))? × α (Vi ) × C (Vi )? ?? i =1 ? ? j = 0 ? ? ? ? (イ) 【数式2】 T ?1 C (1 ? α (V )) ? eps j =0 j なお,【数式1】は,アルファブレンディングルールと呼ばれる ボリュームレンダリング処理の計算の一般的数式であり,【数式 1】中の「T」は,視線上に位置する全ボクセル数(N)のうち, 【数式2】の条件を満たすN以下の最大の整数であり,【数式2】 中 の 「 eps」 は 計 算 打 ち 切 り 用 の 閾 値 で あ る 。 イ 計算打ち切り処理について 被告ソフトウェアでは,ボリュームレンダリング処理に当たり,上 記【数式2】のとおり閾値による条件が設定されていることから,上 記閾値による条件を満たすデータのみがボリュームレンダリング処理 の計算に用いられる。すなわち,被告方法において,ボクセルの色度 及び不透明度の積算は,全ボクセル(視線上の1からNまで)につい 26 て行われるものではなく,【数式2】を満たすN以下の最大の整数T までで計算が打ち切られるものである(以下,上記処理を「計算打ち 切り処理」という。)。 ウ アダプティブブロック処理について 被告ソフトウェアでは,ボリュームレンダリング処理を実行するに 当たり,三次元画像のうち非表示領域として定義・探索された領域を 通過する視線については,同領域内のボクセルに関し完全に計算を省 略するアダプティブブロック処理が実行されている。 すなわち,被告ソフトウェアは,CT装置等によって撮影された生 体の三次元画像を各ブロックに分割化し,分割化された各ブロック内 に可視化対象(生体組織領域のうち,ユーザーが観察したいと考え観 察対象として選択した特定又は単一の生体組織領域)が含まれている か否かを判定し,これにより,可視化対象が含まれていないブロック (非表示対象ブロック)であると判定されたブロック同士を結合化処 理して,視線が同ブロック内を通るときは,当該ブロックにおける計 算を省略する処理を行っている(以下,上記処理を「アダプティブブ ロック処理」という。)。 エ 以上のとおり,被告方法は,計算打ち切り処理を行うことにより, 計算打ち切り後のボクセルについて積算を行わないものである上,ア ダプティブブロック処理を行うことにより,計算を全く行わない視線 や,計算を開始された視線であっても,非表示対象ブロック内に入る と計算をやめる視線が生じるものであるから,「各視線…を該視線毎 に互いに積算」するものではなく,かつ,「全ての」空間座標点毎に 積算を行うものでもない。 したがって,被告方法は,構成要件1−Bを充足しない。 (4) 公知技術の除外について 27 ア 本件明細書には,「従来方法では,各視線上に位置するボクセル毎 の色度および不透明度を互いに積算する演算過程の高速化を図るため, 一部のボクセルに関するデータを間引いて演算を行なっていた。」 (【0006】)との記載があるところ,被告方法における計算打ち 切り処理及びアダプティブブロック処理は,本件特許の出願日以前に おいて,本件明細書の上記記載に係る「演算過程の高速化を図る」た めの「従来方法」として公知であった下記イの技術と同一のものであ る。 特許請求の範囲の文言解釈に当たっては,特許出願当時に客観的に 存在する公知技術を勘案すべきであるから,本件特許発明の構成要件 1−Bの文言を解釈するに当たっては,上記公知技術について勘案し, これを含まないような解釈を採るべきであるところ,被告方法が上記 のとおり公知技術と同一のものである以上,被告方法は当該文言の技 術的範囲に属しないと解するべきであって,被告方法は,この点でも, 構成要件1−Bを充足しない。 イ 従来技術 (ア ) アーリーレイターミネーション 「アーリーレイターミネーション」とは,レイに沿ったサンプル における不透明度の蓄積が,所定の値を超えたときに,計算を行わ ない最適化手法である。 (イ ) スペースリーピング 「スペースリーピング」とは,分割した領域において「空」と判 定される領域内でサンプルについて計算を行わない最適化手法であ り,「空」と判定される条件は,領域内の不透明度が一定の閾値以 下をとることである。 (ウ ) 平 成 1 0 年 発 行 の 「 Introduction To Volume rendering」 ( 乙 28 30)及び平成14年6月28日公開の特開2002−18374 6号公報(乙31)には,上記「アーリーレイターミネーション」 及び「スペースリーピング」の各技術内容について詳細な開示がさ れている。また,平成7年10月27日公開の特開平7−2822 93号公報(乙32)には,「一般的に,3次元画像の生成には, そのデータ量の多さ等より,多くの処理時間を要する。そこで,従 来,3次元画像の生成処理を高速化する様々な技術が提案されてい る 。 」 ( 【 0 0 0 7 】 ) , 「 た と え ば , M.Levoy, “Efficient Ray Tracing of Volume Data”, ACM Trans. on Graphics”, Vol.9, No.3, pp245-261(1990)記 載 の 技 術 で は , 2 次 元 画 像 の 生 成 に 影 響 を 与 え な い,不透明度が0,すなわち透明なボクセルを階層的に構造化して おき,これらのボクセルについては処理を省略することにより3次 元画像の生成処理を高速化している。」(【0008】)との記載 があるところ,上記記載中で従来技術として紹介されている論文 ( 乙 3 3 , M.Levoy, “Efficient Ray Tracing of Volume Data”, ACM Trans. on Graphics”, Vol.9, No.3) に は , 上 記 「 ア ー リ ー レ イターミネーション」及び「スペースリーピング」の技術が紹介さ れている。 ウ 被告方法が公知技術と同一のものであること 被告方法における計算打ち切り処理は,上記「アーリーレイターミ ネーション」と同一のものであり,被告方法におけるアダプティブブ ロック処理は,上記「スペースリーピング」と同一のものである。な お,アダプティブブロック処理が本件特許発明出願当時の公知技術に 当 た る こ と は , 「 Fast Volume Rendering using Adaptive Block Subdivision , Fifth Pacific Conference on Computer Graphics and Applications, 1997」 ( 乙 4 1 ) に お い て ア ダ プ テ ィ ブ ブ ロ ッ ク 処 理 29 の技術が説明されていることからも明らかである。 エ したがって,被告方法は,構成要件1−Bを充足しない。 3 争 点 (1)ア (ウ )( 被 告 方 法 は 構 成 要 件 1 − C を 文 言 充 足 す る か 。 ) (原告の主張) (1) 構成要件1−Cの解釈について ア 「前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間において設定される 前記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ 値の大きさに応じて連続的に変化させる」について (ア ) 上記要件は,色度と不透明度の両者に共通する単一の補間区間 を設定することを必ずしも意味せず,小区間内に色度に関する補間 区間を設定し,色度を該補間区間において連続的に変化させる一方, 小区間内に不透明度に関する補間区間を設定し,不透明度を該補間 区間において連続的に変化させるなど,色度と不透明度につき別々 に補間区間を設定し,各補間区間において色度又は不透明度を連続 的に変化させることも含むものと解するのが相当である。 (イ ) また,本件明細書には,従来方法として,小区間毎に色度及び 不透明度を段階的(非連続的)に変化させる方法が開示されている ところ(【0018】参照),本件発明1は,データ値の大きさに 応じて色度又は不透明度を連続的に変化させることに特徴があるも のであるから,「画像データ値の大きさに応じて連続的に変化させ る」とは,本件明細書の【図2】に示されているように,色度がC 1からC2に向かって連続的に変化し,オパシティラインがD1のレ ベルからD2のレベルに向かって連続的に変化(上昇)することを 意味するものと解するのが相当である。 イ 被告らの主張について 被告らは,色度と不透明度が補間区間の設定によって自動的に変化 30 することを要すると主張するが,本件特許請求の範囲に「補間区間の 設定に基づき」色度及び不透明度が変化する旨の記載はないのであっ て,補間区間の設定に基づき,色度と不透明度の両方が連続的に変化 することを意味すると限定解釈すべき合理的な理由はなく,被告らの 主張は,特許請求の範囲に記載のないものをあるものとして特許請求 の範囲を限定解釈しようとするものであり,認められない。 (2) 被告方法の充足性 ア 被告製品においては,0.00から1.00の値をとる「色混合 率」を設定することができ,0.00を超える値の色混合率を設定し た場合,本件設定画面上,隣接する色境界領域の色同士が混合した領 域(「色混合領域」)を設定することができる。 また,被告製品においては,上記色境界線上にオパシティラインの 制御点を配置し,上記制御点を上下にドラッグすることによりオパシ ティラインの形状を変更することができる。 したがって,被告製品において,色混合率を,0.00を超える値 に設定し,かつ,色境界線上に制御点を置いてオパシティラインの形 状を変化させることとした場合,色混合率を画している小区間毎に (したがって,これに対応する当該補間区間毎に),不透明度が連続 的に変化することになり,このような使用方法は,構成要件1−Cを 充足するものである。 なお,この場合,被告製品において,色度の補間区間と不透明度の 補間区間が同一ではないことになるが,本件発明1において,色度と 不透明度の補間区間が同一でなければならないと限定解釈される理由 は な い こ と は 前 記 (1)ア (ア )で 主 張 し た と お り で あ る 。 イ 被告らは,被告製品における色混合率の設定はオパシティラインの 形状に影響を及ぼさず,オパシティラインと色混合率は互いに影響す 31 ることなく別々に設定されるものであって,「連続的に変化する」も のではないと主張する。 確かに,本件明細書の【発明の実施の形態】欄には,補間区間の設 定に当たり,まず,補間の対象となる区間(対象区間)を設定し (【0014】),上記対象区間内の補間範囲を算出するために対象 区間の幅に乗ずる数値(0〜1の値をとるもの。)を鮮明度と称し (【0015】),上記鮮明度を対象区間の幅に乗じて,対象区間の 補間範囲を算出し,同範囲において色度と不透明度の線形補間を行う ことが開示されているのに対し(【0015】,【図2】),被告方 法は,「色混合率」の設定により,色境界線付近の補間率の設定(鮮 明度の設定に相当する。)と色度の設定を同時に行った上で,オパシ ティラインの形状変更により,色混合率とは別に不透明度を設定でき るようになっているものということができる。 しかし,そもそも,鮮明度により補間区間の範囲を設定し,その中 で色度及び不透明度を連続的に変化させることと,鮮明度(補間率) と色度を合体させた色混合率を設定し,次に不透明度を設定すること は,結果として全く同じ効果を発生させるものであり,色度,不透明 度,鮮明度という処理の仕方につき,まず色度と鮮明度を結合させ, これに不透明度を加えるという操作によって,「前記色度および前記 不透明度を」(構成要件1−C)の「および」の要件を迂回すること などできず,結果として色度と不透明度を連続的に変化させている以 上,被告方法は構成要件1−Cを充足するものというべきである。 (被告らの主張) (1) 原告の主張は争う。 (2) 構成要件1−Cの解釈 ア 「補間区間」について 32 (ア ) 構 成 要 件 1 − A に 関 す る 被 告 ら の 主 張 (2)イ (ア )の と お り , 本 件発明における「小区間」とは,色度及び不透明度の両者がいずれ も一定値をとるように設定される区間であると解すべきであるとこ ろ,構成要件1−Cには,「補間区間を設定し,…前記色度および 前記不透明度を…変化させる」と記載されているのであるから, 「補間区間」とは,色度及び不透明度の両者が,小区間における一 定値から異なる値を取るようになる(すなわち「変化」する)区間 を意味し,かつ,両者について共通する単一の区間でなければなら ないと解すべきである。 (イ ) 「補間区間」に関し上記解釈が相当であることは,本件特許請 求の範囲において,「および」が一貫して「or」ではなく「an d」の意味で使われているから,「前記色度および前記不透明度」 (構成要件1−C)の「および」も同様に「and」の意味である と解すべきことや,構成要件1−Cが,「該」補間区間において色 度及び不透明度を変化させるものと記載していることから,一義的 に明確であるというべきである。 (ウ ) 補間区間が色度及び不透明度について共通する単一のものであ ると解すべきことは,本件明細書の実施例において,「境界線Lと 重なる位置に補間区間Bを設定し,この補間区間B内における色度 および不透明度を決定する…」(【0013】),「補間区間Bの 設定に際しては,まず,境界線Lから左右方向に,それぞれどの程 度離れた位置まで補間の対象区間とするかを決める。図2に示す例 では,小区間A1の区間幅の約半分に相当する距離d1と,小区間 A2の区間幅の約半分に相当する距離d2との分,それぞれの側に 離れた区間を補間の対象区間とした場合を示している。次に,この 対象区間のうちのどの範囲で補間するのかを決定する。なお,補間 33 の対象区間および対象区間内の補間範囲の決定は,小区間A1,A 2 内 の C T 値 の 分 布E 1 , E 2 等 を 参 考に し て 行 な う 。 」 ( 【 0 0 1 4】)として,補間区間が色度及び不透明度について共通する単一 のものである例のみが開示され,色度及び不透明度のそれぞれにつ いて補間区間が存在することの記載も示唆も存在しないことからも 明らかである。 イ 「前記小区間内に補間区間を設定し…前記色度および前記不透明度 を,…連続的に変化させる」について (ア ) 「前記小区間内に補間区間を設定し…前記色度および前記不透 明度を,…連続的に変化させる」とは,小区間毎に一定値であった 色度及び不透明度が,「補間区間」を「設定」されることにより, 経時的に,かつ,連続して,色度については,一定値(小区間毎に 明確に異なる色)からグラデーション状態に,不透明度については, 一定値(鉤型の線で表現されていたもの)が斜線で表現される状態 に,それぞれ変化することをいうものと解すべきである。 (イ ) これは,「補間区間を設定し…前記色度および前記不透明度を …連続的に変化させる」という文言について,色度及び不透明度に ついて共通の特定の「補間区間」が設定され,このような「補間区 間」内で,色度及び不透明度が,補間区間設定前の時点から変化す ることを意味するものと読むのが文言上自然であることに加え,本 件各発明が,一定目的に向けられた系列的に関連ある数個の行為又 は現象によって成立する方法の発明である(東京高判昭和32年5 月21日行集8巻8号1463頁参照)ことや,構成要件1−Cが, 「変化させる」という使役(他人に動作を行わせたり自体を引き起 こさせたりする意を表す形式)を意味する助動詞を使用しており, それまで変化していなかったものが変化する状態になることを示唆 34 していることにかんがみても,自然な解釈であるというべきである。 (ウ ) 上記解釈が相当であることは,本件明細書に下記の記載がある ことからも明らかである。 すなわち,本件明細書において,従来方法における「小区間」に 関し,各区間内において一定値の色度および不透明度を設定するも の で あ る こ と が 開 示 さ れ て い る こ と は 争 点 (1)ア (ア )に 関 す る 被 告 ら の 主 張 (2) イ ( ア ) の と お り で あ る と こ ろ , 本 件 発 明 の 実 施 例 (【0013】)も,小区間A1及びA2が設定された場合,まず, 一定値の基準色度(C1及びC2)及び基準不透明度(D1及びD 2 ) を 設 定 す る こ とを 開 示 し て い る 。 本件明細書は,上記記載に続けて,「次に,境界線Lと重なる位 置に補間区間Bを設定し,この補間区間B内における色度および不 透明度を決定するための,CT値と色度との関係を定める色度関数 およびCT値と不透明度との関係を定める不透明度関数とを設定す る。図2に示す例では,色度関数に関しては基準色度C1とC2と の間を線形的に補間する比例関数が設定され,不透明度関数に関し ては基準不透明度D1とD2との間を線形的に補間する比例関数が 設定された場合を示している。」(【0013】)と記載しており, 「補間区間B」の設定は,小区間A1及び小区間A2の設定がされ た後(時間的に後)に起きる出来事であることを示している。 (エ ) したがって,上記要件は,前述のとおり,補間区間の設定に基 づき色度及び不透明度が経時的に連続して変化することを意味する ものと解するのが相当であり,@「補間区間」の設定に基づくこと なく,色度及び不透明度が変化する場合や,A色度の変化する区間 と不透明度の変化する区間が一致せず,両者について共通する「補 間区間」が存在しない場合には,「前記小区間内に補間区間を設定 35 し…前記色度および前記不透明度を…連続的に変化させる」に相当 しないと解するべきである。 ウ 「画像データ値の大きさに応じて」について 構成要件1−Cは,連続的変化が「画像データ値の大きさに応じ て」なされることもその要件とするものであるところ,「応じる」と は,通常,「外からの働きかけを受け入れる。従う。適合する。かな う。あてはまる。」との意義を有するとされているから(乙49,広 辞苑),本件発明1において,色度及び不透明度の連続的変化は, 「画像データ値の大きさ」という外からの働きかけを受け入れ,それ に適合するような変化であることを要するものと解するべきである。 エ 原告の主張について (ア ) 原告は,本件明細書において,色度関数と不透明度関数とを 別々に設定することが許容されていると主張するが,色度関数と不 透明度関数が別々に設定されることと,上記各変化関数が適用され る区間が同一であることとは無関係であり,被告らは,各変化関数 が別異に設定されるものであっても,その適用区間(補間区間)は 両者にとって単一かつ共通のものでなければならないと主張するも のであるから,原告の主張は反論として当を得ないものである。 (イ ) また,原告は,本件発明1を,補間区間の設定により,自動的 に色度及び不透明度が連続的変化する内容に限定解釈する理由はな いと主張するが,補間区間の設定と色度及び不透明度の連続的変化 が無関係でもよいということであれば,本件発明1がわざわざ「補 間区間を設定」することを要件としているにもかかわらず,単に色 度と不透明度を好きな区間でそれぞれ変化させればよいということ になってしまい,補間区間の設定はおよそ無意味となってしまうの であって,このような解釈は採り得ないことが明らかである。 36 (3) 被告方法の充足性について ア そもそも,被告製品において,色境界領域の設定及び同領域におけ る色の設定は,オパシティラインの設定とは無関係になされるもので あり,色境界領域において,色度及び不透明度が一定値に設定される ものではない(すなわち,色境界領域は「小区間」に当たらず,被告 方 法 に お い て 小 区 間 の 設 定 が な い ) こ と は , 前 記 争 点 (1)ア (ア )に 関 す る 被 告 ら の 主 張 (3)イ (イ )で 主 張 し た と お り で あ る か ら , 被 告 方 法 が,小区間の設定を前提に,小区間内に補間区間を設定することを規 定する構成要件1−Cを充足することはない。 イ この点を措くとしても,被告製品において,ユーザーが「補間区 間」に相当する区間を設定することはなく,かつ,色度及び不透明度 は,「補間区間」の「設定」に基づき,「画像データ値の大きさに応 じて」「連続的に変化する」ものでもないから,被告方法は,構成要 件1−Cを充足しない。 ウ すなわち,別紙「被告製品等説明書(被告)」のとおり,被告製品 において,ユーザーは,カラー属性タブの「カラー属性」ボタンをク リックすることにより,カラー属性ダイアログを表示し,同ダイアロ グ中の「色混合」を0.00から1.00までの範囲で設定すること ができるところ,本件設定画面上,色混合率を0.00に設定した場 合,各色境界領域に各設定色が画然と区別されて表示されることにな り,色混合率を0.00より大きい値に設定した場合,隣接する色境 界領域の設定色相互が色境界線を挟んで混合し,色合いが徐々に変化 する状態となる(以下,上記のとおり色合いが徐々に変化し,滑らか な色表現となる部分を「色混合領域」という。)。 また,被告製品において,オパシティラインの形状の設定に関し, 6 種 類 の モ ー ド を 選 択 す る こ と が で き る こ と は , 争 点 (1)ア (ア )に 関 37 す る 被 告 ら の 主 張 (3)ア (イ )の と お り で あ り , 上 記 6 種 類 の モ ー ド の う ち , 上 か ら 二 番 目 に 表 示 さ れ て い る モ ー ド ( 争 点 (1)ア (ア )に 関 す る 被 告 の 主 張 (3)ア (イ )に お い て , A と し て 表 示 し た も の 。 以 下 「 制 御点モード」という。)を採用した場合,色境界線上にオパシティラ インの制御点(小さな正四角形のポインタ)が設定され,ユーザーは, 上記制御点を上下にドラッグすることにより,オパシティラインの形 状を変更することができる。 しかし,被告製品において,制御点モードを採り,かつ,色混合率 を0.00より大きい値に設定した場合に,色混合領域は色境界領域 と一致せず,したがって,色混合領域とオパシティラインの変化する 区間は一致しないから,被告方法において,色度と不透明度が変化す る単一かつ共通の区間は存在せず,「補間区間」に当たる区間は設定 されない。 また,原告が,色混合率の設定をもって「補間区間の設定」に相当 すると主張するものであるとしても,被告製品において,色混合率を 0.00より大きい値に設定した場合,これにより,色度の変化(色 混合領域の設定)が生じるのみで,オパシティラインの形状は何ら変 化しないから,被告方法は,「補間区間を設定」することにより,色 度及び不透明度を「連続的に変化」させるものに当たらない。 加えて,被告製品における色混合領域の幅は,色混合率及び色境界 領域の幅に基づき,所定のアルゴリズムで決定されるものであり,上 記アルゴリズム中にCT値は含まれていないから,被告製品における 色度の変化は,「画像データ値の大きさに応じて」なされるものでも ない。なお,被告製品において,ユーザーは,CT値とは関係なく色 混合率を手動で任意に決定するものであるから,この点においても, 色度の変化は「画像データ値の大きさに応じて」なされるものではな 38 いというべきである。 エ したがって,被告方法は構成要件1−Cを充足しない。 4 争 点 (1) イ ( 被 告 方 法 は 均 等 論 に よ り 本 件 発 明 1 の 技 術 的 範 囲 に 属 す る か。) (原告の主張) (1) 仮に,被告方法につき,構成要件1−B又は構成要件1−Cの文言 充足性が認められないとしても,被告方法は,均等論の適用により,本 件発明1の技術的範囲に属する。 (2) 構成要件1−Bに係る相違点について ア 被告方法は,可視画像の生成に必ずしも必要ではない空間座標点に 関し,計算打ち切り処理を行ったり,アダプティブブロック処理によ り計算を省略したりすることによって,演算処理の数を縮減して,演 算時間を短縮するものであるところ,被告方法が,この点で,本件発 明1の構成要件1−Bにおける「各視線上に位置する全ての前記空間 座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視線毎に互いに積算し」 と相違するとしても,被告方法は,本件発明1に係る方法と均等なも のとして,その技術的範囲に属する。 イ すなわち,@本件発明1は,相異なる生体組織の微妙な色感や不透 明感を表現し,各生体組織を明確に区別することが可能な医療用可視 画像の生成を目的とするものであるから,人間の目の識別能力を超え る部分や非表示領域部分など,可視画像の生成のために必ずしも必要 ではない空間座標点について計算を行うか否かという点は,本件発明 1の課題解決のための重要部分ではなく,この点は本件発明の本質的 部分とはいえない(均等論の第1要件)。また,A全ての空間座標点 について例外なく計算を行う方法を,被告方法におけるもの(可視画 像の生成に必ずしも必要ではない空間座標点について,計算打ち切り 39 処理やアダプティブブロック処理を行う方法)に置き換えても,各生 体組織を明確に区別することが可能な医療用可視画像を生成するとい う本件発明1の目的を達成することができ,同一の作用効果を得るこ とができる(均等論の第2要件)。そして,B可視画像の生成に必ず しも必要ではない空間座標点に関する計算を打ち切ったり,アダプテ ィブブロック処理により計算を省略したりすることによって,演算処 理の数を縮減して,演算時間を短縮することは,被告製品の開発製造 時点において,当業者であれば容易に想到可能なものである(均等論 の第3要件)。さらに,C被告方法を含む請求項(可視画像の生成に 不必要な空間座標点に関する計算を打ち切ったり,計算を省略したり する処理を含む請求項)を仮想するとしても,上記請求項は本件特許 出願時点において特許権を取得することができたと考えられるのであ って,被告方法は,本件特許出願時における公知技術と同一または当 業者が公知技術から容易に推考できたものに当たらない(均等論の第 4要件)。加えて,D本件特許に係る早期審査に関する事情説明書 (乙13)には,「全ての空間座標点毎の色度および不透明度を該視 線毎に互いに積算し…ております。このような構成をとることにより, 被観察領域内の生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相 異なる生体組織を明確に区別し得る可視画像を生成することが可能と なります。」との記載があるが,上記説明書の記載は,「被観察領 域」に関して全ての空間座標点の計算を行う旨を説明したものにすぎ ず,撮影対象のない視線上の空間座標点や,投影面における画像に影 響を与えない視線上の空間座標点について必ず積算すべきものとし, そのような空間座標点についての計算の省略又は打ち切りを,本件特 許発明の技術思想から除外しているものではなく,被告方法は,本件 特許出願手続において特許請求の範囲から意識的に除外されたものに 40 当たらない(均等論の第5要件)。 ウ 被告らの主張について 被告らは,被告方法(計算打ち切り処理やアダプティブブロック処 理を含む積算方法)は本件明細書に記載された「従来の方法」(【0 006】)に当たるものであり,公知技術と同一のものであると主張 するが,被告方法が上記「従来の方法」には含まれないものであるこ と は , 争 点 (1)ア (イ )に 関 す る 原 告 の 主 張 の と お り で あ る 。 エ したがって,被告方法は,構成要件1−Bに係る相違点について均 等侵害の要件を満たし,かつ,構成要件1−A及び1−Cについて充 足し又は均等なものであるから,本件発明1の技術的範囲に属する。 (3) 構成要件1−Cに関する相違点について ア 被告方法は,色境界線で区切られた隣接色の補間率の設定によって, 小区間毎に色度を連続的に変化させつつ,これとは別個に,小区間を 超えて,不透明度を連続的に変化させることができるものであり,ま ず,不透明度を設定し,補間率と色度を一体化させたものをこれに加 えることによって,色度と不透明度を連続的に変化させるものである 点で,本件発明1の構成(鮮明度により補間区間を設定し,補間区間 内で色度と不透明度を連続的に変化させる構成)と相違する。しかし, @鮮明度により補間区間を設定し,色度と不透明度とを連続的に変化 させるか,設定された不透明度に補間率(鮮明度)と色度を一体化さ せた色混合率を付加するかのいずれの処理方法によっても,結果とし て補間区間において色度と不透明度を連続的に変化させることに変わ りなく,上記相違点は本件発明1の本質的部分ではない(均等の第1 要件)。また,A本件発明1に係る方法を被告方法に置き換えても, 生体組織間の微妙な色感や不透明度を表現しつつ,相異なる生体組織 を明確に区別することが可能な可視画像を生成するという本件発明1 41 の目的を達成することは可能であり(均等の第2要件),B当業者で あれば,被告製品の製造時において,上記置き換えに容易に想到する ことが可能であった(均等の第3要件)ものであるから,被告方法は, 本件発明1に係る方法と均等なものとして,その技術的範囲に属する。 イ したがって,被告方法は,構成要件1−Cに係る相違点について均 等侵害の要件を満たし,かつ,構成要件1−A及び1−Bについて充 足し又は均等なものであるから,本件発明1の技術的範囲に属する。 (被告らの主張) (1) 原告の主張は争う。被告方法について均等侵害は成立しない。 (2) 構成要件1−Bに関する相違点について ア 被告方法は,計算打ち切り処理やアダプティブブロック処理を採用 している点で,構成要件1−Bと相違するものであるところ,被告方 法は,本件発明1に係る方法と均等なものに当たらない。 イ すなわち,本件明細書は,構成要件1−Bに対応する課題が,演算 過程の高速化のためデータを間引いて演算することで,可視化した画 像において,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現することがで きなかった点にあることを明記しており(【0006】),本件発明 1は,上記課題を解決するため,「各視線上に位置する」「全ての」 空間座標点毎の色度及び不透明度を積算する構成を採用し,「生体組 織間の微妙な色感や不透明感を表現」したものであるから,「各視線 上に位置する」「全ての」データを積算するという要件に係る被告方 法の相違点は,本件発明1の本質的部分に関するものである(均等の 第1要件)。 また,本件明細書は,「各視線上に位置する」「全ての」データを 積算することが,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現するとい う効果を奏するための必須の要件としており,被告方法が上記要件を 42 満たさない以上,被告方法により,本件発明1と同一の作用効果を奏 することはできない(均等の第2要件)。 さ ら に , 争 点 (1)ア (イ )に 関 す る 被 告 の 主 張 で 主 張 し た と お り , 被 告方法は本件特許出願当時における公知技術と同一のものである(均 等の第4要件)。 加えて,構成要件1−Bの「全て」の要件については,特許出願当 時の明細書(乙12)の段階から,従来技術の課題を克服し,本件発 明の特徴を基礎付ける構成として明確に示されているものであり,本 件特許の審査経過において出願人が提出した「早期審査に関する事情 説明書」(乙13)においても,先行技術との対比において,「…ま た,可視画像を生成する2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ 各視線上に位置する全ての空間座標点毎の色度および不透明度を視線 毎に互いに積算し,この積算値を各視線上の平面座標点に反映させる ようにしております。このような構成をとることにより,被観察領域 内の生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体 組織を明確に区別し得る可視画像を生成することが可能となりま す。」と記載されており,本件発明1は,この点を強調することによ り,特許査定(乙14)に至ったものであるから,被告方法のように, 「全ての」データについて積算を行わない構成は,本件特許出願手続 において特許請求の範囲から意識的に除外されたものであり,均等に よる侵害を成立させるべきでない特段の事情があるというべきである (均等の第5要件)。 米国の均等論では,「オールエレメントルール」又は「オールリミ テーションルール」があり,もし,均等論の主張が,特許請求の範囲 のある要件を完全に無視してしまうものであれば,均等論は適用され ず,法律問題として,非侵害の判決をしなければならないとされてい 43 る。本件でも,「全て」は「全て」を意味するのであり,原告のよう に,恣意的に均等を主張することは許されない。また,米国では,従 来技術との区別のために,ある用語を選択した場合には,均等の範囲 を非常に狭く解さなければならないとされているところ,本件で,原 告が,従来技術との区別のために「全て」との用語を選択した以上, その均等の範囲は極めて狭く解されるべきである。 ウ 以上のとおり,被告方法は構成要件1−Bに関する相違点につき均 等侵害の要件を充足しない。 (3) 構成要件1−Cに関する相違点について ア 争 点 (1)ア (ウ )に 関 す る 被 告 ら の 主 張 で 主 張 し た と お り , 本 件 発 明 1 と 被 告 方 法 の 相 違 点 は , 前 記 原 告 の 主 張 (3)ア の 点 に と ど ま る も の ではなく,@本件特許発明1が「該小区間毎に」「色度および不透明 度を設定」するものであるのに対し,被告方法において,「色境界領 域」では「色」を設定するのみで,オパシティ値は設定しないこと, A本件発明1が「小区間内に補間区間を設定し,…前記色度および不 透明度を,該補間区間において…連続的に変化させる」ものであるの に対し,被告方法は,色混合率の設定により,滑らかな色表現になる 部分(色混合領域)が生じるものの,オパシティラインは上記色混合 率の設定による影響を受けず,色度及び不透明度を連続的に変化させ るものではないことも相違点に当たるものであり,原告の均等侵害の 主張はその前提を欠く。 イ また,原告の主張する相違点について検討しても,被告方法は,本 件発明1に係る方法と均等なものに当たらない。 すなわち,本件発明1は,従来技術(各小区間毎に,各小区間内で 一定の値をとる一定値の色度および不透明度を設定する。)における 課題を解決するための手段として,構成要件1−Cに係る方法を採用 44 したものであり,小区間毎に色度および不透明度を設定すること及び 補間区間を設定し,該補間区間において色度及び不透明度を連続的に 変化させることは,いずれも,本件発明1の本質的部分に当たる。原 告の主張する被告方法は,本件発明1の本質的部分において相違する から,均等の第1要件を充足しない。 また,本件発明1は,構成要件1−Cに係る方法を採用することに よって,「相異なる生体組織を明確に区別することが可能な可視画像 を生成し得る」(【0007】)ものであるところ,被告方法によっ た場合,相異なる生体組織を明確に区別することが可能な可視画像を 生成することはできず,本件発明1と同一の作用効果を達成すること はできないから,構成要件1−Cの方法を,被告方法に置き換えるこ とはできず,均等の第2要件を充足しない。 加 え て , 本 件 明 細 書 中 に , 上 記 (3)ア で み た 相 違 点 @ 及 び A に 係 る 被告方法についての開示や示唆は存在せず,当業者が被告製品の製造 時において被告方法に想到することが容易であったとはいえないから, 均等の第3要件を充足しない。 ウ 以上のとおり,被告方法は構成要件1−Cに関する相違点につき均 等侵害の要件を充足しない。 (4) したがって,本件発明1と被告方法は均等ではなく,被告方法が均 等論の適用により本件発明1の技術的範囲に属することはない。 5 争 点 (1)ウ ( 被 告 方 法 は , 本 件 発 明 2 の 技 術 的 範 囲 に 属 す る か 。 ) (原告の主張) (1) 被告方法が構成要件2−AないしCを充足し,またはこれと均等な も の で あ る こ と は , 争 点 (1)ア (ア )な い し (ウ )に 関 す る 原 告 の 主 張 の と おりである。 (2) 別紙「被告製品等説明書(被告)」中の【図7】及び【図8】には, 45 被告製品のディスプレイ画面において,オパシティ(不透明度)が縦軸 (Y軸)にとられ,その軸に沿って0.1から1.0まで等間隔で目盛 りが刻まれているように見えるが,上記軸の左側に,上下に動くスライ ダーが設置されており,これにより,目盛りの幅を変更できる可能性が ある。また,スクリーンに表示される目盛りの間隔とは別途にコンピュ ータによる内部的計算処理がされている可能性も排除できない。また, 当該構成については,被告ソフトウェアのコード変更によって,極めて 容易に実現可能な技術思想であるから,被告らがこれを実施する可能性 が高い。 したがって,被告方法は,本件発明2の技術的範囲に属する。 (被告らの主張) (1) 原告の主張は否認する。 (2) 被 告 方 法 が 構 成 要 件 2 − A な い し C を 充 足 し な い こ と は , 争 点 (1)ア (ア )な い し (ウ )に 関 す る 被 告 ら の 主 張 の と お り で あ る 。 被告製品においては,そもそも構成要件2−Dに相当する構成が存在 しないから,被告方法が構成要件2−Dを充足しないことは明らかであ る。なお,原告は,被告らが構成要件2−Dに係る方法を実施する可能 性が高いと主張するが,これは,被告製品が現状において構成要件2− Dを充足していないことを自認するものである。 したがって,被告方法は,本件発明2の技術的範囲に属しない。 6 争 点 (1)エ ( 被告製品は,本件各発明による課題の解決に不可欠なもの(特 許法101条5号)に該当するか。) (原告の主張) 被告製品は,本件各発明に係る方法である被告方法の使用に用いるため の被告プログラムをインストールしたワークステーションであり,そのよ うな方法による使用以外に用途を有するものであっても,「その方法の使 46 用に用いる物であって,その発明による課題の解決に不可欠なもの」(特 許法101条5号)に該当する。 (被告らの主張) 原告の主張は争う。 7 争 点 (1)オ ( 被 告 ら の 主 観 的 要 件 の 充 足 性 ) (原告の主張) 原告は,被告らに対し,平成20年9月26日付け内容証明郵便により, 本件各発明を登録番号で,被告製品を薬事商品名,型番及び薬事承認番号 で各特定した通知書(甲15,16)を送付しており,上記通知書は同月 29日に被告らに到達しているのであるから,被告らは,同日時点で,本 件各発明が特許発明であること及び被告製品が本件各特許発明の実施に用 いられることについて悪意となったというべきであり,被告らは特許法1 01条5号の主観的要件を充足する。 (被告らの主張) 原告の主張は争う。 8 争 点 (2)( 本 件 各 発 明 の 直 接 侵 害 の 成 否 ) (原告の主張) (1) 被告らは,被告製品及び被告ソフトウェアを開発し,これを製造販 売しているところ,上記開発に当たり,被告らが,被告方法によって医 療用可視画像を生成してみることなく被告製品の販売に至ったとは考え 難い。被告らが被告方法を実施していることは,被告製品のパンフレッ ト(甲3)に,被告製品を使用して実際に生成した医療用可視画像が表 示されていることや,被告らが,被告製品を使用して生成したサンプル 画像を用いてプレゼンテーションを行っていることからも明らかである。 (2) 被告らは,被告製品の出荷時点では被告製品の色混合率の設定を0. 00にしておき,ユーザーが上記設定を変更した時点で本件特許侵害に 47 当たる方法の使用がされる仕様としている可能性があり,被告らは,こ の点をもって,本件特許侵害に当たる行為はユーザーの下で行われてい るものであり,被告らに本件特許侵害に当たる行為はないと主張してい るものと解されるが,被告製品に色混合率及び不透明度を変化させられ る機能が設けられており,上記機能を用いなければ,ユーザーは,被告 製品を購入した目的を達することができないのであるから,ユーザーが 上記機能を利用しないことなどあり得ないのであり,ユーザーが当該製 品の通常の用法に従った使用をすることによって本件特許侵害に当たる 行為が必然的に行われる以上,被告らの行為は,ユーザーを道具として 利用した間接正犯又は共犯的行為というべきであり,このような製品を 販売している被告らの行為は,本件特許の直接侵害に当たるというべき である。 (3) したがって,被告らの行為は本件各特許発明の直接侵害に当たる。 (被告らの主張) (1) 原告の主張は否認する。 (2) 被告製品を使用して実際に医療用可視画像の生成を行っている主体 は技師や医師らであり,被告ら自身が主体となって画像形成を行ってい るものではないから,被告らに本件各特許発明の直接侵害に当たる行為 はない。 9 争 点 (3)ア ( 無 効 理 由 @ 〔 本件特許が冒認出願に当たり,かつ,共同出願 要件に違反するものか。〕) (被告らの主張) (1) 本件各発明に至る経緯 Z(以下「Z」という。)及びY(以下「Y」という。)は,平成1 3年6月当時,株式会社医用画像研究所に所属し,医用画像解析ソフト ウェア「Mview」をインストールしたワークステーションにおける 48 ユーザーインターフェイスの改良を行っていたところ,上記改良に当た り,当時日本国内で販売されていたVoxar社製ソフトウェア「Pl ug’n View 3D」における色度及び不透明度の設定方法等を 取り入れ,本件各発明を完成させた。本件各発明が上記経過で完成され たことは,上記「Plug’n View 3D」において用いられて いる「鮮明度」が,本件明細書の実施例において用いられている「鮮明 度」と,その機能及び名称において同一であることによっても裏付けら れる。 Z及びYは,本件各発明に係る技術はVoxar社の既存技術におけ るインターフェイスとほぼ同一であり,目新しい技術ではないと考えて いたが,平成14年5月ころ,原告代表者からYに対し,ボリュームレ ンダリングに関する技術を何でもいいから特許出願したいという強い要 望が出されたため,原告代表者の関与の下,本件各発明につき特許出願 を行うこととなった。 (2) 以上の経緯からすれば,本件各発明の発明者がZ及びYであり,原 告代表者が本件各発明の発明者ではないことは明らかである。 なお,原告代表者は,上記出願時に,Yが所属する組織(医用画像研 究所)の代表者として関与したにすぎず,本件各発明の創作に当たり何 らかの関与をしたことはない。原告が,原告代表者が本件各発明の発明 者であることの根拠として主張する点(原告代表者が放射線技師として の資格を有することから,三次元画像生成技術により,医療現場で発生 している画像読影における課題を解決できる可能性に思い至り,本件各 発明に想到したとする点など)は,本件各発明の解決課題及び内容とは 関連がなく,原告代表者が本件各発明の発明者であることを裏付けるも のではない。 (3) したがって,本件特許は,Z及びYを共同発明者とするものである 49 にもかかわらず,同人らの共同で特許出願されたものではないから,特 許法38条,123条1項2号に該当し,特許無効審判により無効とさ れるべきものに当たる。 (4) また,Zは,本件特許出願から相当期間が経過し,原告を退職した 後まで,本件特許の発明者として誰が記載されているのかを知らなかっ たのであり,本件各発明につき特許を受ける権利を原告代表者に譲渡し たことはないから,本件特許は,発明者でない者であってその発明につ いて特許を受ける権利を承継しないものの特許出願に対してされたもの (同法123条1項6号)に当たり,この点でも,特許無効審判により 無効とされるべきものに当たる。 (原告の主張) (1) 被告らの主張は否認する。 (2) 原告代表者は,放射線技師としての経験を有する医用コンピュータ 技術の専門家であり,現在も,医療の現場とコンピュータという二つの 専門領域におけるスペシャリストとして先駆的活動を続けている。 原告代表者は,人間の目がグレースケールのゼロの位置付近(黒から 白へ次第に移り変わっていく場合のグレーの中間部分)の微妙な識別は 得意であるが,周辺領域(黒に近い領域での黒さの微妙な差異や,白に 近い領域での白さの微妙な差異)の識別は苦手であるという特徴から, 放射線技師をやっていたころの苦労や工夫を背景に,わずかな濃度差を うまく画像化することができればデータ値の近い生体組織間の差異につ いて人間の目で識別できるようになり,画像の読影という医療現場で発 生している課題を解決できるのではないかと考え,Yと共に,上記課題 の具体的解決手段である本件各発明に想到した。本件各発明は,医療用 可視画像の生成方法に係るものであり,医療従事者の「目」に耐え得る ものであり,かつ,診断に役立つものでなければならないところ,この 50 ような発明に関し,放射線技師としての教養,訓練,医療現場での経験 を有する原告代表者の存在が必要不可欠であったことは明らかというべ きである。 したがって,原告代表者は,本件各発明の発明者に当たる。 (3) Zは,本件各発明が完成した平成13年6月ころ,肝臓領域の抽出 ソフトウェアの開発に集中しており,本件各発明を含む三次元画像生成 技術に係るソフトウェア開発に全くといっていいほど興味を示していな かったから,Zは本件各発明の発明者ではない。Zが,原告を退社する に当たり,技術上の一切の権利が原告に帰属することを確認し,自己に 帰属する旨の主張をしないことを誓約する書面(甲28)を提出してい ることや,本件各発明につき米国で特許出願する際に,Yが,発明者欄 にZの氏名の記載のない譲渡証書(甲25)に署名していること,Zが Yから本件特許出願について聞いたと考えられるにもかかわらず,現在 までZがクレームを付けたことがないことも,Zが本件各発明の発明者 ではないことを裏付けるものというべきである。 (4) したがって,本件特許は,本件発明の共同発明者である原告代表者 とYにより共同出願されたものであり,かつ,冒認出願されたものにも 当たらない。 10 争 点 (3)イ ( 無 効 理 由 A 〔 本 件 各 特 許 発 明 は 公然実施されたものに当た るか。〕) (被告らの主張) (1) 原告は,ワークステーションである「Virtual Plac e」において本件各発明が実施されていることを認めているところ,平 成13年6月時点で,上記製品は,有限会社オフィス・アゼモト(以下 「アゼモト」という。)により,既に様々な医療施設に納入され,同医 療施設において利用可能であったものであり,上記製品の納入に当たり, 51 アゼモトと医療施設との間で秘密保持契約等が締結された事実はないか ら,本件各発明は,本件特許出願前に公然実施されたものに当たる。 (2) また,アゼモトは,平成14年4月に開催された「国際医用画像総 合展」において,上記「Virtual Place」を出展しており, 上記展示会において,「瞬間的な処理を可能にするためのノウハウ」を 含む「透過度グラフ」がデモンストレーションされているのであって, 上記「透過度グラフ」の写真は,同展示会参加者のホームページ上で一 般公衆に対し公開されていたものであるから,この点においても,本件 各発明は,本件特許出願前に公然実施されたものに当たる。 (3) この点に関し,原告は,平成13年6月時点で種々の医療施設に納 入され,また,上記展示会で展示された「Virtual Plac e」は「Virtual Place−M」であるところ,同製品には 本件各発明に係る技術は利用されていないと主張するが,上記主張は, 「Virtual Place」に本件各発明が利用されている旨の原 告の主張と矛盾するものであり,信用できない。 (4) したがって,本件特許は,その出願前に国内において公然と実施さ れた発明として,特許法29条1項2号及び123条1項2号に該当し, 特許無効審判により無効とされるべきものに当たる。 (原告の主張) (1) 被告らの主張のうち,事実に関する点は否認し,法的主張は争う。 (2) 被告らが公然実施を主張する製品は「Virtual Place −M」であるが,上記製品には本件各発明に係る技術は利用されておら ず,かつ,上記製品の納入を受けた医療機関においては,医用画像処理 ソフトウェア又はシステムの技術情報を第三者に開示しない取扱慣習が 確立していた。また,平成14年4月に開催された「国際医用画像総合 展」におけるデモンストレーション等は,本件各発明に係る技術内容を 52 明らかにする情報その他重要な技術情報を一切開示しない態様で行われ たから,上記展示会への出展をもって,本件各発明が公然実施された発 明に当たることはない。 11 争 点 (3)ウ ( 無 効 理 由 B 〔 本 件 特 許 が 進 歩 性 欠 如 の 無 効 理 由 を 有 す る か。〕) (被告らの主張) (1) 特 開 平 1 0 − 2 4 4 0 1 3 号 公 報 ( 乙 5 ) 及 び 「 Voxar Plug n View3D TM Ver.3.0 ユーザーガイド」(乙6,40)による本件発明1 の進歩性欠如の主張について ア 本件特許出願日(平成14年7月26日)より前に頒布された刊行 物である特開平10−244013号公報(乙5。以下「乙5文献」 という。)には,以下の発明(以下「乙5発明」という。)が記載さ れている。 A 複数種の人体組織が含まれた被観察領域をX線CT装置により断 層撮影して得られた,3次元空間上の各空間座標点に対応した画像 濃度値を生成し,前記画像濃度値に基づき,対応する前記空間座標 点毎の色度および不透明度を設定し,この設定された前記空間座標 点毎の前記色度および前記不透明度に基づき,前記被観察領域が2 次元平面上に投影されてなる可視画像を生成する放射線治療システ ムにおける三次元画像処理の方法において, B 前記2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置 する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視 線毎に互いに積算し,該積算値を該各視線上の前記平面座標点に反 映させると共に, C 前記不透明度を,前記画像データ値の大きさに応じて連続的に変 化させることを特徴とする放射線治療システムにおける三次元画像 53 処理方法。 イ (ア ) 乙5発明の「人体組織」,「X線CT装置」,「画像濃度値」 及び「放射線治療システムにおける三次元画像」は,本件発明1に おける「生体組織」,「放射線医療診断システム」,「画像データ 値」及び「医療用可視画像」に各相当する。また,乙5発明の「不 透明度と画像濃度値とを直線で関係付ける関数を与え,画像濃度値 から不透明度を設定し,かつ,色度につき,RBG三原色の各色の 濃度値を指定することで,任意の色を設定可能とする」ことは,本 件発明1の「前記色度および前記不透明度を,…画像データ値の大 きさに応じて連続的に変化させる」ことに相当する。 (イ ) したがって,乙5発明と本件発明1は, A 複数種の生体組織が含まれた被観察領域を放射線医療診断シス テムにより断層撮影して得られた,3次元空間上の各空間座標点 に対応した画像データ値を生成し,前記画像データ値に基づき, 対応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定し,この 設定された前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度に基 づき,前記被観察領域が2次元平面上に投影されてなる可視画像 を生成する医療用可視画像の生成方法において, B 前記2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位 置する全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を 該視線毎に互いに積算し,該積算値を該各視線上の前記平面座標 点に反映させると共に, C 前記色度および前記不透明度を,前記画像データ値の大きさに 応じて連続的に変化させることを特徴とする医療用可視画像の生 成方法。 である点で一致し,以下の点で相違する。 54 〔相違点1〕 本件発明1は,「画像データ値の分布に基づき,該画像データ値 の値域を複数の小区間に分割し,該小区間毎に,該各小区間内の前 記画像データ値に基づき」色度及び不透明度を設定するのに対し, 乙5文献には,色度及び不透明度の設定が小区間毎に行われること についての記載がない点。 〔相違点2〕 本件発明1は,「前記小区間内に補間区間を設定」した上で,色 度及び不透明度を,「該補間区間において」連続的に変化させるも のであるのに対し,乙5文献には,補間区間の設定並びに色度及び 不透明度の連続的変化が上記補間区間において行われることについ ての記載がない点。 ウ 相違点の検討 「 Voxar Plug n View3D TM Ver.3.0 ユーザーガイド」(乙6,40。 以下「乙6文献」という。)は,医療関係機関における放射線画像検 査 を 支 援 す る 医 療 画 像 ソ フ ト ウ ェ ア ( 「 Voxar Plug n View3D」 。 以 下 「乙6ソフトウェア」という。)のためのユーザーガイドであり,下 記エのとおり,本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物に当た るところ,乙6文献には,上記相違点1及び2に係る構成が全て開示 されているから,乙5発明に対し,乙6文献記載の技術を適用するこ とで,当業者であれば,本件特許出願時において,本件発明1を容易 に想到することができた。 エ 乙6文献が本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物に当たる こと (ア ) 乙 6 文 献 は , 「Voxar Plug n View3D TM Ver.3.0」のユーザーガイ ド で あ る と こ ろ , 「 Plug n View3D ユ ー ザ ー ガ イ ド 」 ( 乙 7 。 以 下 55 「乙7文献」という。)は,「このガイドについて」と題する項目に 「このガイドでは Plug n View3D バージョン3.0とバージョン3.2の間 で 向 上 し た 点 に つ い て 記 載 さ れ て い ま す 。 そ し て , Plug n View3D Ver.3.0 ユーザーガイドでどのような変更があったか概説されていま す。」(7頁1〜5行)と記載されているとおり,乙6文献の更新版 に 当 た る も の で あ る 。 乙 7 文 献 の 2 頁 に は , 「 バ ー ジ ョ ン 3.2 更 新 D113/VL REV01 2002年2月」と記載されているから,乙7文献は,平成 14年2月に発行されたものであるところ,乙6文献は,乙7文献が 乙6文献の更新版である以上,乙7文献よりも前に発行されたものと 解されるから,乙6文献が,本件特許出願日(平成14年7月)より 前に頒布されていたことは容易に推認されるところである。乙6文献 が本件特許出願日前に確実にリリースされていたことは,英国Vox ar社の過去のニュースリリース記事(平成13年4月14日付けの 乙6ソフトウェア発表に関する記事〔乙24〕,同年11月24日付 けの乙6ソフトウェア更新版(Plug n View 3D TM のversion3.2)発表に 関する記事〔乙25〕),医用画像専門家向けウェブサイト 「AuntMinnie.com」の記事(平成13年4月17日付けの乙6ソフト ウェア発表に関する記事〔乙28〕,平成14年5月3日付けの乙6 ソフトウェア更新版(Plug n View 3DTM のversion3.2)展示に関する記 事〔乙29〕)からも裏付けられる。 (イ ) 乙6文献が本件特許出願前に日本国内で頒布された刊行物であ ることは,原告提出証拠(甲34)及び証拠説明書の記載からも裏 付けられる。 すなわち,原告は,ソフトウェア使用許諾契約書(甲34)の証 拠説明において,同契約書の作成年月日を「平成12年6月頃」と し , か つ , そ の 立 証 趣 旨 に つ き , 乙 6 ソ フ ト ウ ェ ア ( Plug n View 56 3D ) 及 び そ の 付 属 書 類 ( 乙 6 文 献 及 び 乙 7 文 献 を 含 む 。 ) を 使 用 (ソフトウェアのハードキーを用いた起動・操作,付属書類の閲 覧)できる者が乙6ソフトウェアのライセンシー(購入者)本人に 限られており,かつ当該ソフトウェア及び付属書類の第三者への譲 渡及び貸与が禁じられていた事実である旨記載しているところ,こ れは,平成12年6月ころ,乙6文献が既に日本国内で頒布されて いたことを原告自身が認めていることにほかならない。 (ウ ) 加 え て , 「 INNER VISION」 平 成 1 3 年 1 0 月 号 ( 乙 4 2 ) に は , 大 阪 大 学 医 学 部 附 属 病 院 放 射 線 部 で 「 Plug’n View ZEUS Ver.3.0」 が使用されていることが記載されているところ,上記ソフトウェア は,「ソフトウェア使用許諾契約書」(甲34)及び「共同開発及 び販売契約書」(甲35)から明らかなとおり,乙6ソフトウェア と同一のものであるから,遅くとも,乙6ソフトウェアは,上記雑 誌発行時点である平成13年10月の時点で公然と実施されていた ものであり,乙6ソフトウェアのマニュアルである乙6文献も,上 記時点で頒布されていたものである。 (エ ) なお,原告は,医療機関における取扱慣習等を根拠に,乙6ソ フトウェアの使用許諾を受けた医療機関は,同ソフトウェアの使用 に当たり,乙6文献の秘密保持義務を負っていたと主張するが,本 件特許出願当時に医療機関においてそのような慣習が存在したこと を示す証拠はなく,乙6ソフトウェアの使用許諾契約(甲34)上 も,乙6文献の開示等を禁止する条項は存在しない。なお,被告ら は,実際に,乙6ソフトウェアの納入を受けた医療機関から乙6文 献及び乙6ソフトウェアの開示を受けている。また,原告は, 「 Plug n View 3D の エ ン ド ユ ー ザ ー ラ イ セ ン ス 」 と の 書 面 を 準 備 書 面に添付して,乙6ソフトウェアの購入者には乙6文献の秘密保持 57 義務が課されていた旨も主張するが,上記書面は乙6文献の開示を 禁止する内容のものではない上,乙6ソフトウェアは,エンドユー ザーのみならず,販売代理店にも頒布されていたものであり,販売 代理店らが秘密保持義務を課されていたことを示す証拠はない。 (オ ) したがって,乙6文献は,本件特許出願前に日本国内で頒布さ れた刊行物に該当する。 オ (ア ) 乙6文献に相違点1に係る構成が開示されていること 乙6文献は,医療関係機関における放射線画像検査を支援するソ フ ト ウ ェ ア ( Plug n View3D) の た め の ユ ー ザ ー ガ イ ド で あ り , 乙 6文献の88頁以下には,上記ソフトウェアが,別紙「乙6文献抜 粋」に表示されているカラー/不透明度設定ボックスを表示するこ とにより, 表示装置上に描画される生体組織の3D画像の色度及 び不透明度を下記aないしcのとおりコントロールする機能を有す ることが開示されている。 a 上記「カラー/不透明度設定ボックス」には,点線によって表 示されたインターフェースによって区切られた,「データ範囲の サブセットをそれぞれカバーする5つのバンド」(88頁10〜 11行目)が表示されているところ,乙6文献には「バンドのサ イズとそのデータの範囲を横切る位置は点線のインターフェース の位置によって決まります。」(89頁8〜9行目)と記載され ており,上記「カラー/不透明度設定ボックス」の「位置」入力 欄(上記ボックスの右側の各表示のうち,「位置」の記載の右 側・「G」の記載の左側に表示された4つの数値入力フィール ド)に位置パラメータとして4つの値を入力することにより,上 記点線インターフェイスの位置が決定される。 b 上記「カラー/不透明度設定ボックス」の「不透明度値」入力 58 欄(上記ボックスの右側の各表示のうち,「不透明度」の記載の 右側・「E」の左側に表示された5つの数値入力フィールド)に 数値を入力することにより,バンド内の不透明度を設定すること ができる。 c 乙6文献に,「組織の色を変えるには,要求されるバンドに相 当するカラーバー区分をクリックしてください。カラー・ボック スから色を選択するか,または自分で色を定めてください。」 (89頁5〜7行目)と記載されているとおり,上記「カラー/ 不透明度設定ボックス」の「カラーバー」(上記ボックスの右側 の各表示のうち,「F」の記載の左側に表示されたバー)はバン ドの長さで区分されており,上記カラーバー区分をクリックする ことで,上記カラーバー区分毎にそのデータ範囲にある生体組織 を着色する色を表示し,任意の色に変更できる。 以上のとおり,乙6文献には,データ範囲のサブセットをそれ ぞれカバーする5つのバンドを設定し(上記a),各バンド区間 について色度及び不透明度を設定する構成(上記b及びc)が開 示されているところ,乙6文献の「バンド」を設定することは本 件特許発明1の「画像データ値の値域を複数の小区間に分割」す ることに相当し,バンド区間について色度及び不透明度を設定す ることは,本件特許発明1の「該小区間毎に,該各小区間内の前 記画像データ値に基づき,前記色度および前記不透明度を設定」 することに各相当する。 したがって,乙6文献には,相違点1に係る構成が開示されて いる。 (イ ) 乙6文献に相違点2に係る構成が開示されていること a 乙6文献の89頁には,「インターフェースの彩度を決めるこ 59 とでバンド間の変化を修正することができます。インターフェー スに対応する『彩度』ボックスに数値を入力してください。彩度 値が低い場合は重要なレンジに渡って2つの色が混合され,バン ド間の推移がゆるやかになります。彩度値が高いときにはカラー の混合はほとんど見られず,推移が急になります。」(89頁1 3〜17行目)と記載されており,前記「カラー/不透明度設定 ボックス」の「鮮明度」入力欄(上記ボックスの右側の各表示の うち,「鮮明度」の記載の右側・「H」の左側に表示された4つ の数値入力フィールド)に数値を入力することにより,上記数値 に応じて,隣接するバンド区間で色度の変化が「重要なレンジ」 に渡って制御されること及び上記「重要なレンジ」がバンド区間 内に設定されることが開示されている(乙6は,「彩度値」と 「鮮明度」という異なる用語を用いているが,「鮮明度」フィー ルドの右横に符号Hが付され,かつ,Hの説明として「バンドイ ンターフェイスの彩度値」とされていることから,「彩度値」と 「鮮明度」は同一の意義を有するものである。)。 上記のとおり,バンド区間内に「重要なレンジ」を設定するこ とは,本件発明1における「前記小区間内に補間区間を設定」す ることに相当する。また,「重要なレンジに渡って2つの色が混 合され,バンド間の推移がゆるやかに」なる状態とするための画 像処理は,本件発明1の「該補間区間において」色度を連続的に 変化させることに相当する。 b また,乙6文献には,「彩度値はまたそれぞれのインターフェ ースで不透明度の傾斜を限定します。」(89頁右側「注」)と 記載されており,彩度は各インターフェース(各バンド間の境界 線部分)で不透明度にも変化を与えることが理解されるところ, 60 上記「カラー/不透明度設定ボックス」上,色度及び不透明度に ついて別個の鮮明度を設定できるようになっていないことにかん がみれば,当業者であれば,上記「彩度値」は,色度と不透明度 のために共通に設定される値であり,彩度値の大小により,「重 要なレンジ」に渡って色度のみならず不透明度の推移が制御され るものであることを当然に理解可能であるというべきである。 c したがって,乙6文献には,彩度値(鮮明度)を設定すること により,色度及び不透明度を「重要なレンジ」に渡って連続的に 変化させる構成が実質的に開示されているものであり,これは, 本件発明1の「前記色度及び前記不透明度を,該補間区間におい て前記画像データ値の大きさに応じて連続的に変化させる」こと に相当し,乙6文献には,相違点2に係る構成が開示されている。 カ 以上のとおり,本件発明1と乙5発明との相違点に係る構成は,乙 6文献に全て開示されている。 乙5発明及び乙6文献に開示された技術は,いずれも,医療用画像 診断において,ボリュームレンダリング手法を用いて人体等の生体組 織を三次元表示する画像処理に関するものであって,共通の技術分野 に属し,かつ,課題を共通にするものであり,また,いずれも色及び 不透明度の設定処理に係る機能である点で,機能及び作用を共通にす るものである。 なお,乙6文献には「カラーボリューム・スクリーンはとくに異な る組織によって構成される人体構造の特徴を識別するために使用され ます」(88頁)との記載があるところ,原告は,上記記載に関し, 人体を構成する組織のうち異なる組織であっても,そのデータ値が互 いに小さい組織間の分別可視化という課題には触れられていないと主 張するが,当業者であれば,データ値の差が互いに小さい組織間の違 61 いを可視化することは,上記記載から自明な課題というべきであり, データ値の差が互いに小さい組織間の分別可視化という課題について も,乙6文献に実質的に記載又は示唆されているものである。 したがって,本件発明1と乙5発明及び乙6文献に開示された技術 は,解決課題も共通にするものである。なお,特開2000−287 964号公報(乙19。以下「乙19文献」という。)及び特開20 01−95795号公報(乙20。以下「乙20文献」という。)の 記載内容にかんがみれば,本件特許出願時点で,画像データ値の差が 互いに小さい生体組織間で色度及び不透明度を一定値に設定してしま うと3次元画像を正確に作成できなくなってしまうという課題があり, 画像データ値の差が小さい組織間の違いを可視化させる必要があった ことは当事者に既知の事項であって,当該課題設定が新規なものに当 たることもない。 以上によれば,乙5文献に記載された三次元画像処理方法に乙6文 献に開示された色度及び不透明度の設定又は変更のための機能を適用 することは,本件特許出願当時における当業者であれば容易になし得 たものである。 また,本件発明1の効果も,乙5発明及び乙6文献から予測できる 効果以上のものはない。 したがって,本件発明1は,乙5発明及び乙6文献に記載された技 術に基づいて,本件特許出願時に当業者が容易に発明することができ たものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることがで きないものであって,無効審判により無効とされるべきものに当たる。 (2) 乙6文献及び周知技術に基づく本件発明1の進歩性欠如の無効主張 について ア 本件発明1は,乙6文献に記載された発明(以下「乙6発明」とい 62 う。)に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明するこ とができたものである。 イ すなわち,乙6文献に,データ範囲のサブセットをそれぞれカバー する5つのバンドを設定し,各バンド区間について色度及び不透明度 を設定すること及びバンド区間内に「重要なレンジ」を設定し,彩度 値(鮮明度)を設定することにより,色度及び不透明度を「重要なレ ンジ」に渡って連続的に変化させることが開示されていることは前記 (1)オ で 主 張 し た と お り で あ る 。 ウ (ア ) 本件発明1の構成要件1−Aに係る構成は,放射線医療診断シ ステムにより生体組織を撮影して得られた画像データから可視画像 を生成する際に,小区間毎に色度や不透明度を設定して被観察領域 を見やすく可視化する従来の医療用可視画像の生成を規定している にすぎないものである。本件明細書に,「【発明が解決しようとす る課題】」として,「従来の医療用可視画像の生成方法では,…画 像データ値の値域を複数の小区間に分割し,各小区間内の画像デー タ値を有する各空間座標点に対して小区間毎に,各小区間内で一定 の値をとる一定値の色度および不透明度を設定していた」(【00 04】欄)と記載されていることからも,構成要件1−Aに係る構 成が,本件特許出願当時の公知技術に当たることは明らかである。 また,乙6発明には,データ範囲のサブセットをそれぞれカバーす る5つのバンドを設定し,各バンド区間について色度及び不透明度 を設定することが開示されているのであって,構成要件1−Aに係 る構成が開示されている。 (イ ) 乙6文献では,ボリュームレンダリングで医療用画像を生成し ていることが認識できるが,設定した色度及び不透明度をどのよう に用いてボクセルを通過する光を画面上に投影させるかに関する具 63 体的な処理内容については明示的に記載していない。 しかし,本件明細書の【0003】には,従来技術として,「各 視線上に位置する各ボクセルに対して決められた色度および不透明 度を視線毎に互いに積算し,この積算値を各視線上に位置する2次 元平面の画素に反映させて,被観察領域の2次元可視画像に反映さ せて,被観察領域の2次元可視画像を生成する」との記載があり, かつ,本件発明1の「各視線12上に位置する全ボクセルの各々の 色度および不透明度を,アルファブレンディングルールと称される 下 記 (1)の 計 算 式 に 基 づ き 視 線 1 2 毎 に 互 い に 積 算 し 」 ( 本 件 明 細 書【0016】)の記載からみても,アルファブレンディングルー ルは,少なくとも本件特許出願当時において知られていたものであ る。このように,本件発明1の構成要件1−Bに係る構成(設定し た色度及び不透明度を用いてボクセルを通過する光を画面上に投影 する具体的処理内容)は,本件特許出願当時の当業者の周知・慣用 技術である。 (ウ ) 乙6発明の,データ範囲のサブセットをそれぞれカバーする5 つのバンド区間内に「重要なレンジ」を設定し,彩度値(鮮明度) を設定することにより,色度及び不透明度を「重要なレンジ」に渡 って連続的に変化させる構成が,本件発明1の構成要件1−Cに係 る 構 成 に 相 当 す る こ と は , 前 記 (1)オ で 主 張 し た と お り で あ る 。 エ したがって,本件発明1は,乙6発明に周知技術を適用することに より,本件特許出願前に当業者が容易に発明することができたもので あり,特許法29条2項の規定により,特許を受けることができない ものであって,無効審判により無効とされるべきものに当たる。 (3) 「 Voxar Calscreen TM ユーザーガイド」(乙37)に基づく本件発 明1の進歩性欠如の無効主張について 64 ア 本 件 特 許 出 願 日 前 で あ る 平 成 1 4 年 4 月 発 行 の 「 Voxar Calscreen TM ユーザーガイド」(乙37。以下「乙37文献」という。)には,以 下の発明(以下「乙37発明」という。)が開示されている。 A 心臓や冠動脈等の複数種の生体組織が含まれた被観察領域を放射 線医療診断システムにより断層撮影して得られた,3次元空間上の 各ボクセルに対応した信号値の分布に基づき,該信号値の値域を5 つのバンドに分割し,該バンド毎に,該バンド内の前記信号値に基 づき,対応する前記ボクセル毎の色度および不透明度を設定し,こ の設定された前記ボクセル毎の前記色度および前記不透明度に基づ き,前記被観察領域が2次元平面上に投影されてなる可視画像を生 成する医療用可視画像の生成方法において, C バンドの両側に色度および不透明度が遷移する区間を設定し,該 バンドにおいて設定される前記色度および前記不透明度を,該遷移 区間においてシャープネスボックス内のパーセンテージの値に応じ て遷移させることを特徴とする医療用可視画像の生成方法。 イ 乙37発明と本件発明1の対比 (ア ) 乙37発明の「ボクセル」,「信号値」,「5つのバンド」, 「色度および不透明度が遷移する区間」,「前記色度および不透明 度を,該遷移区間においてシャープネスボックス内のパーセンテー ジの値に応じて遷移させる」は,本件発明1の「空間座標点」, 「画像データ値」,「複数の小区間」,「補間区間」,「前記色度 および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の大 きさに応じて連続的に変化させる」に各相当する。 (イ ) そうすると,乙37発明と本件発明1は,本件発明の構成要件 1−A及び1−Cに係る構成において同一であり,乙37発明が, 本件発明の構成要件1−Bに係る構成(「2次元平面上の各平面座 65 標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する全ての前記空間座標点毎の 前記色度および前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,該積算値 を該各視線上の前記平面座標点に反映させる」)を有するものかど うか明らかではない点において相違する。 ウ 相違点の検討 (ア ) 本件特許出願当時,ボリュームレンダリングにおけるスペース リーピング及びアーリーレイターミネーションの技術が存在したこ と は 争 点 (1)ア (イ )に 関 す る 被 告 ら の 主 張 (4)の と お り で あ る と こ ろ , 上記技術は,全ての空間座標点毎の色度及び不透明度を積算する構 成が周知技術として存在することを前提とするものであるから,上 記相違点に係る構成は本件特許出願当時の周知技術であった。 (イ ) 乙5文献には,「垂線上の全ボクセルに対してこの処理を行い, 全ボクセルの反射光量の総和を求める」(明細書【0005】)と の記載があり,全ての空間座標点毎の色度及び不透明度を積算する 構成が開示されており,このことからも,同技術が本件特許出願当 時の周知技術であったことが裏付けられる。 (ウ ) 当業者が乙37発明に対し上記周知技術を適用することについ て阻害事由は何ら存在しないから,本件発明1は,乙37発明及び 周知技術によって,当業者が容易に想到することができたものであ り,特許法29条2項に違反するものとして,特許無効審判により 無効とされるべきものに当たる。 (4) 本件発明2の無効理由について ア 本件発明2は本件発明1の従属請求項であり,本件発明1の構成 (構成要件2−Aないし2−C)に構成要件2−Dに係る構成を追加 したものであるところ,構成要件2−Aないし2−Cについては,前 記 (1)な い し (3)の 主 張 が そ の ま ま 妥 当 す る 。 66 イ 構成要件2−Dについて (ア ) 特定の生体組織にとって最適な不透明度値(オパシティライ ン)の設定は,医療従事者等のユーザの経験や勘に依存するところ が大きく,特に複数の生体組織が重なり合う部分では,不透明度の 設定を複数の生体組織の色度との関係も考慮しながら微妙に調整す ることが要求されるものである。 したがって,複数の生体組織が重なり合う部分に相当する補間区 間の不透明度の設定が試行錯誤を重ねながら調整されることは,当 業者であれば容易に想像し得るものであり,このことは,本件特許 出願前であっても何ら変わりはない。この場合,不透明度を調整す るための調整感度を補間区間で一定にせず,不透明度の大きさに応 じて変化可能に構成することは当業者の設計事項又は容易に考え出 せる事項である。 (イ ) 構成要件2−Dは,不透明度が小さい範囲の調整感度を大きい 範囲の調整感度より大きくするものであるが,不透明度が大きいと いうことは,生体組織を通過する光線が生体組織の奥部に到達する 前に減衰してしまうことを意味するので,視点から見た生体組織の 表面部分が強調されて出力画面に描画されることとなり,調整感度 を変えても,出力画面上は大きな変化として現れない。これに対し, 不透明度が小さいということは,生体組織の奥部まで光線が通過し, いわゆる透き通った生体組織として描画されることを意味すること から,不透明度のわずかな調整がこの透き通った生体内部の見え方 に大きく影響を及ぼすことは当業者であれば容易に理解できる事項 である。 (ウ ) したがって,生体組織の三次元画像の見え方に大きく影響を及 ぼしやすい不透明度の小さな範囲の調整感度を比較的大きくするこ 67 とによって調整を行いやすくし,微妙な色の変化を表現した見やす い画像を生成できるよう構成することは,当業者にとって設計事項 にすぎず,かつ,容易に想到できるものである。 また,構成要件2−Dに係る構成により奏される効果は,従来技 術から予測不能な固有のものではない。 ウ したがって,本件発明2は,当業者が容易に想到することができた ものであり,特許法29条2項に違反するものとして,特許無効審判 により無効とされるべきものに当たる。 (原告の主張) (1) 被告らの主張のうち,事実に関する点は否認し,法的主張は争う。 (2) 乙6文献,乙7文献及び乙37文献が本件特許出願前に頒布された 刊行物に当たらないこと ア 被告らは,乙7文献に「2002年2月」との記載があることをも って,乙7文献の更新前のユーザーガイドである乙6文献が同月以前 に頒布されたことが裏付けられると主張するが,「2002年2月」 との記載から,直ちに,乙7文献が同月に発行された事実は導かれず, 同文献の頒布時期は不明である。 イ また,原告は,日本国内における乙6ソフトウェアの共同開発・販 売者であり,乙6ソフトウェアを医療機関に販売するに当たって,乙 6ソフトウェア及びその付属資料(ユーザーガイドである乙6文献も 含む。)に含まれる技術情報を第三者に開示しないことを要請してい たところ,本件特許出願当時,医用画像処理ソフトウェア又はシステ ムを取り扱う医療機関の間では,ライセンスを受けた医用画像処理ソ フトウェア又はシステムを第三者に開示しない取扱慣習が確立してお り,原告が信頼できる医療機関を厳選して乙6ソフトウェアを販売し ていたこともあって,乙6ソフトウェアの販売を受けた医療機関は, 68 少なくとも暗黙に,当該技術情報を開示してはならないことを認識し ていた。また,乙6ソフトウェアをインストールしたワークステーシ ョンはスタンドアロン型のもののみで,乙6文献もワークステーショ ンとともに常にCT操作室・読影室に置かれていたことや,原告が, ライセンス契約を締結した医療機関のみに乙6ソフトウェアを販売し ており,ライセンス契約上,他の者に付属書類の閲覧等をさせること が禁じられていたこと,乙6文献に複製を禁ずる旨の記載があるとこ ろ,医療機関が,あえて乙6文献を第三者に開示したり貸与したりす るメリットはないことからも,本件特許出願当時,乙6文献の秘密性 が保たれていたことが裏付けられる。 ウ 乙 3 7 文 献 は , 「 Voxar Calscreen TM 」 と の 名 称 の ソ フ ト ウ ェ ア ( 以 下「乙37ソフトウェア」という。)のユーザーガイドであり,乙3 7 4 頁 目 の 記 述 は , 乙 6 3 頁 目 の 記 述 の 「 Plug n View 3D 」 を Calscreen」 に 置 き 換 え た も の に す ぎ な い か ら , 乙 6 の ユ ー ザ ー ガ イ ド と同様に,本件特許の出願前に頒布されたとはいえない。また,仮に そうでないとしても,乙37ソフトウェアは,乙6ソフトウェアと同 一の環境・形態で使用され,同一内容のライセンス契約を締結するこ とを条件に購入者による使用が許諾されるものであったから,乙6文 献と同様に,本件特許出願当時,秘密性が保たれた状態にあった。 エ したがって,乙6文献,乙7文献及び乙37文献は,いずれも,本 件特許出願前に頒布された刊行物に当たらない。 (3) 進歩性欠如の主張について ア 乙5文献を主引例とする本件発明1の無効主張について (ア ) 特許法29条2項が定める要件(当業者が先行技術に基づいて 当該出願に係る発明を容易に想到することができたか否か)は,先 行技術から出発して,出願に係る発明の先行技術に対する特徴点 69 (先行技術と相違する構成)に到達することが容易であったか否か を基準として判断されるものであるところ,出願に係る発明の特徴 点(先行技術と相違する構成)は当該発明が目的とした課題を解決 するためのものであるから,容易想到性の客観的判断のためには, 当該発明が目的とする課題を的確に把握することが必要不可欠であ り,上記把握に当たって,その中に解決手段又は解決結果の要素が 入り込むことがないよう留意することが必須である。また,先行技 術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる試み をしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではなく,当該 発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示唆が存在す る必用がある(知財高判平成21年1月28日参照)。 (イ ) 本件明細書によれば,軟組織と血管のように,CT値の差が互 いに小さい生体組織間の場合,CT値の違いによって両者を完全に 分別することができず,両組織の違いを明確に認識できるような可 視化が困難という問題があったところ(【0005】),本件発明 1が分割された小区間内に補間区間を設け,色度及び不透明度を画 像データ値に応じて連続的に変化させるという構成を採用したのは, 上記課題を解決し,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつ つ相異なる生体組織を明確に区別可能にするという結果を達成する ためのものである。 (ウ ) 乙5文献には,そもそも画像濃度値を小区間に分割するという 記載がなく,補間区間の記載もないのであって,この点について示 唆等がされているとは認められない。また,乙5文献には,人体, 注目組織及び線量分布を重ね合わせて三次元表示する技術文献にお ける画像濃度値と不透明度の一次線形関係を示す図6が掲載されて いるのみであり,本件発明1の技術課題が示されているものではな 70 い。 また,乙6文献には,「カラーボリューム・スクリーンはとくに 異なる組織によって構成される人体構造の特徴を識別するために使 用されます。」(88頁)と記載されているが,これは,異なる組 織によって構成される人体構造の特徴を識別することを述べるにと どまり,人体を構成する組織であっても,そのデータ値の差が互い に小さい組織間の分別可視化という課題に触れるものではない。ま た,乙6文献には,「適切な色を選択し,それぞれのバンドの不透 明度を変えることによって目に見える組織のバランスをとることが できます。」(90頁)との記載があるが,これも,単に,目に見 える組織のバランスをとることに触れているだけで,データ値の差 が互いに小さい生体組織間の違いを明確に認識できるように可視化 させるという本件発明1の課題に触れるものではない。加えて,乙 6文献に「3Dでの映像化セッティングは,ほかの部分を完全に透 明にする事があり,その場合目に見えなくなります。ユーザーは目 的に応じて必要な部分が表示されるよう,その都度セッティングを 確認して下さい。」,「…人体の必要な部分を露出させるためにデ ータのその他の部分を隠す機能があります。この作業を行った場合 には,表示された画像を読みとる際に必ずそれを考慮して下さ い。」(いずれも4頁)との記載があることからすれば,乙6ソフ トウェアが,本件発明1の課題とは異なる目的の製品であることが 推認される。 なお,被告らは,乙19文献及び乙20文献を挙げて,色度及び 不透明度を一定に設定した場合に,CT値がオーバーラップする対 象物間の識別が困難であったことは既知の事項であったと主張する が,乙19文献には上記問題点を小区間への分割及び補間区間の設 71 定により解決することについての示唆がなく,乙20文献には従来 技術では透明率・色調等の値が画一的であることが記述されている のみであって,いずれも,本件発明に至る動機付けを示していない。 したがって,乙6文献は,本件発明1の課題に触れるものでなく, 乙6文献から,当業者が小区間への分割,補間区間の設定,色度及 び不透明度の連続的変化という本件発明の特徴点に到達できる試み をしたであろうことは推測できず,かつ,当該特徴点に到達するた めにしたはずであるという示唆等も認められないから,乙5発明に 乙6文献に開示された技術を組み合わせて本件発明1に容易に想到 できたものとは考えられない。 イ 乙6文献を主引例とする本件発明1の無効主張について 乙6文献に本件発明1の課題が触れられておらず,乙6文献から, 当業者が本件発明1の特徴点に到達できる試みをしたであろうことが 推測できず,かつ,当該特徴点に到達するためにしたはずであるとい う示唆等も認められないことは前記アのとおりであるから,乙6発明 に周知技術を組み合わせて本件発明1に容易に想到できたものとは考 えられない。 ウ 本件発明2の無効主張について 構成要件2−Aないし2−Cについては上記ア及びイと同様の点が 指摘できるところ,構成要件2−Aないし2−Cに示される技術を前 提に事後分析的な思考を排除すれば,本件発明2が容易想到であった ものとは認められない。 12 争 点 (4)( 原 告 に よ る 損 害 賠 償 請 求 の 可 否 及 び 損 害 額 ) (原告の主張) (1) 原告代表者による損害賠償請求権の譲渡 原告代表者は,平成21年6月3日,原告に対し,原告代表者の被告 72 らに対する本件特許権侵害に基づく損害賠償請求権(平成21年4月2 8日までのもの)を譲渡した。 (2) 損害額(特許法102条1項) ア 被告製品の譲渡数量 被告製品は平成20年7月に販売が開始されたものであるが,被告 らは,平成21年3月時点で,医療用画像データを相互にやり取りす ることを可能とする「SYNAPSE」との名称のシステムを全国1 080施設に導入したとのことであり(甲4),上記時点までに,上 記システムの一部として,被告製品を相当数販売したものと考えられ る。また,被告らの営業担当従業員は,医療機関に対し,平成21年 4月までに被告製品を50台以上販売した旨話している上,大阪医科 大学附属病院は,被告製品を4台(ワークステーションタイプ2台, サーバタイプ2台)導入しており(甲5),被告は,平成21年2月 までに,上記大阪医科大学附属病院を含めた計19施設に被告製品を 導 入 し た と の こ と で あ り (甲 2 7 ), 大 阪 医 科 大 学 附 属 病 院 以 外 の 各 施 設における被告製品導入台数が各1台にとどまるとしても,被告製品 の販売台数は合計23台となる。これらの事情を考慮すると,被告ら は,平成21年4月28日までに,被告製品を少なくとも20台販売 したものと考えられる。 イ 原告は,「アゼ バーチャルプレイス」との名称で,医療用画像解 析システムに用いるワークステーションを製造販売しており,上記製 品は,被告らによる本件特許権侵害がなければ販売することができた 物に当たるところ,上記製品の1台当たりの利益は200万円である。 ウ したがって,平成21年4月28日までの本件特許権侵害による損 害額は4000万円となる(特許法102条1項)。 (被告らの主張) 73 (1) 原告の主張のうち,事実に関するものは否認し,法的主張は争う。 (2) 原告代表者から原告に対する損害賠償請求権の債権譲渡について, 被告らに通知はされていないから,原告は,債権譲渡の対抗要件を備え ていない。 第4 当裁判所の判断 1 争 点 (1)ア (ア )( 被 告 方 法 は 構 成 要 件 1 − A を 文 言 充 足 す る か 。 ) に つ いて (1) 構成要件1−Aの解釈 ア 本件発明1のうち,構成要件1−Aに関する本件明細書の記載は次 のとおりである。 (ア ) 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,CT(co mputed tomography),MRI(magnet ic resonance imaging),核医学,CR (computed radiography),DSA(di gital subtraction angiograph y),DR(real−time radiography)等 の放射線診断システムを用いて断層撮影された医療用画像から得 られたCT値等の画像データ値に基づき,肝臓,膵臓などの臓器 や血管および腫瘍等の複数種の生体組織を含む腹部や頭部等の被 観察領域の可視画像を,CG(computer graphi cs)処理等を用いて生成する医療用可視画像の生成方法に関す るものである。 (イ )【 0 0 0 2 】 【 従 来 の 技 術 】 近 年 , 腹 部 等 の 被 観 察 領 域 を C T 等 の放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた医療用画像 から,被観察領域を見やすく可視化した可視画像を生成して,この 可視画像を対患者や学術用としての説明に使用したり,手術計画を 74 立てたりするなどの様々な目的で使用したいという需要が高まって いる。 (ウ ) 【0003】従来,CG処理により,このような可視画像を生 成 す る た め の 手 法 と し て , ボリュームレンダリング(volume rendering)法と称される手法が知られている。このボリュ ームレンダリング法を用いた医療用可視画像の生成方法では,まず, 断層撮影領域に対応した3次元空間の各空間座標点を構成するボクセ ルを用いて,被観察領域を断層撮影して得られたCT値等の画像デー タ値の空間分布を表す。次に,投影用の2次元平面の各平面座標点を 構成する画素(ピクセル)と視点(投影中心)とを結ぶ視線を想定し, 各視線上に位置する各ボクセルの画像データ値に基づき,ボクセル毎 にその色度(どのような色を持たせるかの度合)および不透明度(ど の程度透けて見えるかの度合)を決める。そして,各視線上に位置す る各ボクセルに対して決められた色度および不透明度を視線毎に互い に積算し,この積算値を各視線上に位置する2次元平面の画素に反映 させて,被観察領域の2次元可視画像を生成する。 (エ ) 【0004】【発明が解決しようとする課題】ところで,上述 した従来の医療用可視画像の生成方法では,断層撮影により得られ た画像データ値が,生体組織毎に特有の分布状態を有することを利 用して,得られた全画像データ値の分布(ヒストグラム)に基づき, 画像データ値の値域を複数の小区間に分割し,各小区間内の画像デ ータ値を有する各空間座標点に対して小区間毎に,各小区間内で一 定の値をとる一定値の色度および不透明度を設定していた。 (オ ) 【0005】しかし,このような色度および不透明度の設定方 法には,次のような問題がある。すなわち,図5(A)に示す骨と 軟組織のように,画像データ値(CT値)の差が互いに大きい生体 75 組織間の場合には,CT値の違いによって両者を完全に分割するこ とができるので,同図(B)に示すように,各小区間毎に一定値の 色度および不透明度を設定しても,両組織の違いを認識できるよう な可視化が可能であるが,図6(A)に示す軟組織と血管のように, CT値の差が互いに小さい生体組織間の場合は,CT値の違いによ って両者を完全に分別することができない。このため,例えば同図 (B)に示すように,両者の分布が互いに重なる位置において両者 を分別するような小区間を設定した上で,各小区間にそれぞれ一定 値の色度および不透明度を設定していたが,このような方法では両 組織の違いを明確に認識できるような可視化が困難であった。 (カ ) 【0007】本発明は,このような事情に鑑みてなされたもの であり,放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた画像 データ値に基づき,…相異なる生体組織を明確に区別することが可 能な可視画像を生成し得る医療用可視画像の生成方法を提供するこ とを目的とする。 (キ )【 0 0 0 9 】 上 記 生 体 組 織 と は , 肝 臓 , 肺 等 の 内 容 や , 心 臓 , 血 管等の循環器,脳等の神経系などの動物の器官,骨組織および腫瘍 等の病変部等を指す。… (ク ) 【0010】【発明の実施の形態】以下,本発明の実施形態に ついて,図面を参照しながら説明する。図1は本発明の一実施形態 に係る医療用可視画像の生成方法における画像データ値の処理手順 の概要を示す図,図2は画像データ値の値域内に設定された小区間 における色度と不透明度の設定手順の概要を示す図である。なお, 以下の説明では,肝臓等の臓器や血管,骨等の複数種の生体組織を 含んだ腹部を,CT装置により断層撮影して得られたCT値に基づ いて,その可視画像を生成する場合を例にとって説明する。 76 (ケ ) 【0011】図1に示すように本実施形態方法では,まず,断 層撮影領域に対応した3次元空間K3の各空間座標点を構成するボ クセルを用いて,CT装置により得られた腹部のCT値(画像デー タ値)の空間分布を表す。 (コ )【 0 0 1 2 】 次 に , 得 ら れ た C T 値 の 値 域 を , C T 値 の 頻 度 分 布 (2次元ヒストグラム)を参考にして複数の小区間に分割し,この 小区間毎に,各小区間内のCT値に対応する色度(R,G,Bそれ ぞれ0〜255の範囲内の値をとる)および不透明度(0〜1の範 囲内の値をとる)を設定する。このとき従来方法では,小区間毎に 各区間内で一定の値をとる一定値の色度および不透明度を設定する が,本実施形態方法では,以下の手順により色度および不透明度を 設定する。 (サ ) 【0013】図2に示すようにCT値の値域内に,境界線Lに よって互いに隔てられた小区間A1と小区間A2が設定された場合を 例にとって説明する。まず,小区間A1,A2の基準色度C1,C2と 基準不透明度D1,D2とをそれぞれ設定する。図2に示す例では, 小区間A1の基準不透明度D1を0に,小区間A2の基準不透明度D2 を1に設定した場合を示している。次に,境界線Lと重なる位置に 補間区間Bを設定し,この補間区間B内における色度および不透明 度を決定するための,CT値と色度との関係を定める色度関数およ びCT値と不透明度との関係を定める不透明度関数とを設定する。 図2に示す例では,色度関数に関しては基準色度C1,C2との間を 線形的に補間する比例関数が設定され,不透明度関数に関しては基 準不透明度D1,D2との間を線形的に補間する比例関数が設定され た場合を示している。 (シ ) 【0018】図3に本実施形態方法により生成された腹部の可 77 視画像の一例を比較例と共に示す。同図(A)に示されているのが, 本実施形態方法により生成された可視画像であり,同図(B)に示 されているのが,従来方法と同様に,各小区間の境界において段階 的に色度および不透明度を変化させ,各小区間内においては色度お よび不透明度を一定の値に設定するようにして生成された可視画像 である。 (ス ) 【0019】図3に示すように,本実施形態方法により生成さ れた可視画像においては,肝臓領域を薄く可視化しながら,内部の 血管も描写しつつ両者を明確に分別して認識することが可能であり, また比較例と比べて微妙な色変化を表現できているなど,高品質な 画像が得られることが確かめられた。 (セ ) 【図2】(本件明細書6頁の【図2】のとおり。) イ (ア ) 本件明細書の上記記載によれば,従来技術として,次の記載が ある。CT,MRI等の放射線診断システムによる生体組織の断層 撮影結果を3次元画像処理し,医療用可視画像を生成するための方 法として,ボリュームレンダリング法と呼ばれる方法が知られてお り,これは,画像データ値によって示されるCT,MRI等の断層 撮影結果(断層撮影方法により,CT値,MRI信号値等をそれぞ れ指すことになる。)の空間分布を空間座標点(「ボクセル」とも いう。)を用いて表した上で,上記ボクセル毎に色度及び不透明度 を設定し,上記色度及び不透明度につき積算処理を行い,その結果 を2次元平面の画素に反映させて行われるものである(上記ア (ウ )) 。 そ し て , 従 来 は , ボ リ ュ ー ム レ ン ダ リ ン グ 処 理 の た め の 各 ボクセルへの色度及び不透明度の設定につき,画像データ値が生体 組織毎に特有の分布状態を有することを利用し,得られた全画像デ ータ値の分布(ヒストグラム)に基づき,画像データ値の値域を複 78 数の小区間に分割し,該小区間毎に,各小区間内で一定値をとる色 度及び不透明度を設定する方法によってなされていた(上記ア (エ )) 。 当 該 方 法 で は , 画 像 デ ー タ 値 の 差 が 互 い に 小 さ い 生 体 組 織 間の場合に,両組織の違いを明確に認識できるような可視化が困難 で あ る と い う 問 題 点 が あ っ た ( 上 記 ア (オ )) 。 (イ ) 上記従来技術に関する本件明細書の記載に照らせば,構成要件 1−Aは,上記従来技術の内容を構成要件化したものと認められる。 以下,構成要件1−Aを「複数種の生体組織が含まれた被観察領 域を放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた,」の部 分(以下「構成要件1−A前段」という。),「3次元空間上の各 空間座標点に対応した画像データ値の分布に基づき,該画像データ 値の値域を複数の小区間に分割し,該小区間毎に,該各小区間内の 前記画像データ値に基づき,対応する前記空間座標点毎の色度およ び不透明度を設定し」の部分(以下「構成要件1−A中段」とい う。),「この設定された前記空間座標点毎の前記色度および前記 不透明度に基づき,前記被観察領域が2次元平面上に投影されてな る可視画像を生成する医療用可視画像の生成方法において」の部分 (以下「構成要件1−A後段」という。)に分けて検討する。 ウ 構成要件1−A前段の意義 (ア) 構成要件1−A前段は,「複数種の生体組織が含まれた被観察領 域を放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた,」である。 (イ ) 上記本件明細書(特に【0001】,【0002】,【000 7】,【0009】)の記載に照らせば,構成要件1−A前段の 「複数種の生体組織が含まれた被観察領域を放射線医療診断システ ムにより断層撮影して得られた,」とは,「複数の相異なる生体組 織が含まれた放射線診断の対象となる領域を,CT等の放射線医療 79 診断システムにより断層撮影して得られた,診断対象領域の」を意 味するものと解するべきである。 (ウ) 被告らは,構成要件1−Aの「被観察領域」とは,例えば頭部に ついていえば,複数の生体組織領域(頭蓋骨,脳,目玉,舌)の全て を意味するものであると主張する。 しかし,本件明細書の【発明の詳細な説明】によれば,本件発明 1は,「複数種の生体組織を含む腹部や頭部等の被観察領域」 ( 【 0 0 0 1 】 ) に つ い て , 従 来 技 術 と 同 様 , 「被観察領域を見やす く可視化した可視画像を生成して,この可視画像を対患者や学術用とし ての説明として使用したり,手術計画を立てたりするなどの様々な目的 に使用したいという需要」(【0002】)に応える技術であると解さ れる。そして,本件発明1は「 C T 等 の 放 射 線 医 療 診 断 シ ス テ ム に よ り断層撮影して得られた医療用画像から,被観察領域を見やすく可 視化した可視画像を生成」(【0002】)するに当たり,「生体 組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相異なる生体組織を 明確に区別することが可能な可視画像を生成し得る医療用可視画像 の生成方法を提供することを目的とする」(【0007】)もので あり,可視画像を生成すべき「生体組織」として「肝臓,肺等の内 臓や,心臓,血管等の循環器,脳等の神経系などの動物の器官,骨 組織および腫瘍等の病変部等」(【0009】)の様々な生体組織 が 挙 げ ら れ て い る 。 そ う す る と , このような様々な需要及び目的に照 らせば,生体組織領域全体を「被観察領域」として観察する場合もあれ ば,生体組織の一部を「被観察領域」として観察する場合もあると解す るのが相当である。 したがって,構 成 要 件 1 − A 前 段 の 上 記 文 言 が , 被 観 察 領 域 に 含 まれる種々の生体組織の全てを可視化することを意味するものとは 80 解することができず,被告らの主張を採用することはできない。 なお,被告らは,上記と同様の理由から,「3次元空間」につい ても,上記被告らが主張する意味での「被観察領域」を含み,さら には,「被観察領域」及びその外の空気領域を含むと主張するが, 上記「被観察領域」についての判断と同様の理由により,被告らの 主張を採用することはできない。 エ 構成要件1−A中段の意義 (ア ) 構 成 要 件 1 − A 中 段 は , 「 3 次 元 空 間 上 の 各 空 間 座 標 点 に 対応 した画像データ値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複数の 小区間に分割し,該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値 に基づき,対応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定 し」である。 (イ ) 前記本件明細書の記載(特に【0004】,【0007】)に 照らせば,構成要件1−A中段の「3次元空間上の各空間座標点に 対応した画像データ値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複 数の小区間に分割し,該小区間毎に,該小区間内の前記画像データ 値に基づき,対応する前記空間座標点毎の前記色度および前記不透 明度を設定し」とは,ボリュームレンダリング処理を行うための各 ボクセルへの色度及び不透明度の設定方法のうち,従来技術におけ る方法,すなわち,3次元空間上の各空間座標点に対応した画像デ ータ値が生体組織毎に特有の分布状態を有することを利用し,得ら れた全画像データ値の分布(ヒストグラム)に基づき,画像データ 値の値域を複数の小区間に分割し,該小区間毎に,各小区間内で一 定値をとる色度及び不透明度を設定することを示したものであり, 「小区間」とは,画像データ値の値域を分割した区間であって,当 該区間毎に一定値の色度及び不透明度の設定を行うことができる区 81 間を意味するものと解するのが相当である。 (ウ ) 上記のうち,「3次元空間上の各空間座標点に対応した画像デ ータ値の分布に基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分 割 し 」 の 部 分 に つ い て ふ え ん す る と , 本 件 明 細 書 に は , 前記ア(エ) 及び(オ)のとおり,従来技術において,断 層 撮 影 に よ っ て 得 ら れ た 画 像データ値が生体組織毎に特有の分布状態を有することを利用し, 得られた全画像データ値の分布に基づき小区間への分割を行い,小 区間毎に一定値の色度及び不透明度を設定することで,CT値の差が 互いに大きい生体組織については,両者の違いを認識できるような可 視化が可能であったことが示されている。したがって,上記文 言 の 技 術的意義は,小区間への分割を当該生体組織特有の画像データ値の 分布に関連付けて行うことで,少なくとも画像データ値の差が互い に大きい生体組織間においては,その違いを認識できるような可視 化を可能とすることにあるものと解されるのであって,上記文言は, 小区間への分割が,当該生体組織の断層撮影結果に係る画像データ 値の分布(「ヒストグラム」)を利用し,これと関連付けて行われ ることを意味するものと解するのが相当である。また,本件明細書 に,本件発明の実施例として,「得られたCT値の値域を,CT値 の頻度分布(2次元ヒストグラム)を参考にして複数の小区間に分 割 し 」 と の 記 載 ( 上 記 ア (コ )) が あ る こ と に か ん が み れ ば , 上 記 関 連付け及び分割は,機械的自動的に行われるものに限定されるもの ではなく,人がヒストグラムを参考にして分割を行うことも含むも のと解される。 以上の点に関し,被告らは,本件発明1の特許請求の範囲の記載 において,上記関連付け及び小区間への分割を行う主体を特定する 記載がないことなどを挙げ,「画像データ値の分布に基づき,該画 82 像データ値の値域を複数の小区間に分割し」との文言は,機械的自 動的に行われるものに限定して解釈されるべきであると主張し,上 記のように解さない限り,本件発明は,ハードウエア資源を用いて 具体的に実現されるものに当たらず,特許性を欠くものとなると主 張する。 しかし,本件明細書の記載上,構成要件1−Aが,画像データ値 の分布との関連付け及び分割が人間の動作によって行われる場合を 除 外 す る も の と は 解 さ れ な い こ と は 前 記 エ (ウ )の と お り で あ る 。 ま た , 前 記 エ (イ )で み た と お り , 構 成 要 件 1 − A は , 画 像 デ ー タ 値 が 生体組織毎に特有の分布状況を有することを機械的に把握し,それ に基づいて小区間の分割を行い,その結果,ボリュームレンダリン グ処理の前提となる色度及び不透明度の設定に当たり,この機械的 に把握された画像データ値を利用することになることを記載したも のであり,これは,生体組織の物理的性質を情報処理に当たり利用 するものに当たるから,「複数の小区間に分割し」自体が機械的自 動的に行われない場合を含むと解したとしても,本件発明が特許性 を欠くものとなるとは解されない。 (エ ) 上記のうち「該小区間毎に,該小区間内の前記画像データ値に 基づき,対応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を設定 し 」 の 意 義 に つ い て ふ え ん す る 。 本 件 明 細 書 に は , 前 記 ア (エ )の と おり,該小区間毎に,各小区間内で一定値をとる色度及び不透明度 を設定することが開示されており,また,本件発明の実施例として, CT値の値域を複数の区間に分割し,各区間内で一定の値をとる基 準 色 度 及 び 基 準 不 透 明 度 を 設 定 す る 方 法 ( 上 記 ア (コ ), (サ )) が 開 示されているから,「該小区間毎に,該各小区間内の前記画像デー タ値に基づき,対応する前記空間座標点毎の色度および不透明度を 83 設定し」とは,上記のとおり小区間毎に一定値の色度及び不透明度 を設定することで,当該小区間によって区切られた値域内の画像デ ータ値を有するボクセルにつき,当該色度及び不透明度を設定する ことを意味すると解することができる。この点について,原告は, 「色度および不透明度を設定し」に関し,色度及び不透明度を別々 に設定する場合も含むと主張しているところ,上記主張の趣旨が, 「小区間」とは色度のみ若しくは不透明度のみが各別に設定される 区間であってもよく,色度若しくは不透明度について共通の区間で ある必要はないと主張し,又は,小区間内で設定される色度及び不 透明度が一定値のものでなくともよいと主張するものであれば,上 記 エ (イ )で み た , 構 成 要 件 1 − A の 文 言 , 同 文 言 と 構 成 要 件 1 − C の文言との対比並びに従来技術及び実施例に関する本件明細書の上 記記載から理解される構成要件1−Aの意義と整合しないものであ り,採用することができない。 オ 構成要件1−A後段の意義 (ア ) 構成要件1−A後段は「この設定された前記空間座標点毎の前 記色度および前記不透明度に基づき,前記被観察領域が2次元平面 上に投影されてなる可視画像を生成する医療用可視画像の生成方法 において」である。 (イ ) 本件明細書の記載(特に【0001】ないし【0004】)に よれば,構成要件1−A後段の「この設定された前記空間座標点毎 の前記色度および前記不透明度に基づき,前記被観察領域が2次元 平面上に投影されてなる可視画像を生成する医療用可視画像の生成 方法において」とは,構成要件1−A中段のとおりの従来技術と同 様の方法,すなわち画像データ値の分布(ヒストグラム)に基づき, 画像データ値の値域を複数の小区間に分割し,該小区間で一定値を 84 とる色度及び不透明度を設定して,ボリュームレンダリング処理を 行うための各ボクセルへの色度及び不透明度を設定する方法に基づ き設定された各ボクセルの空間座標点毎の色度及び不透明度に基づ いて,これを,ボリュームレンダリング法により積算処理を行い, その結果を2次元平面の画素に反映させて可視画像を生成する方法 を意味すると解するのが相当である。 (2) 被告方法の構成要件1−A充足性 ア 被告方法の内容等 証 拠 ( 乙 3 ) 及 び 弁 論 の 全 趣 旨 に よ れ ば , 被告方法は以下のとおり であると認められる。 (ア) 被告方法は,被写体である生体( 内 臓 , 骨 , 神 経 等 の 複 数 の 相 互 に 異 な る 生 体 組 織 ) をCT装置等により撮像した二次元画像を積層す ることにより構成される三次元空間の各座標点のデータ(ボクセルデー タ)を使用し,このボクセルデータに対し,ボリュームレンダリング処 理を実行することにより,医療用の疑似三次元画像(物体を立体的に見 えるよう表現した二次元画像)をディスプレイ上に表示させるものであ る。 (イ) 被告製品においては,下記の方法により,色及びオパシティの設 定を行うことができる。 a 被告製品のディスプレイ画面に表示される「カラー編集」タブ をクリックすると,テンプレートフレームに別紙「被告製品等説 明書(被告)」記載の【図3】の画面(「本件設定画面」)が表 示される。 本件設定画面に表示されたグラフ中には,被写体である生体の 撮影結果に係る信号値(ボクセルデータ)とその信号値に対する 出現頻度をプロットしたヒストグラムが白色線で表示されている。 85 なお,グラフの横軸は信号値の大きさを表し,グラフの縦軸は, ヒストグラムに関しては出現頻度,後述のオパシティラインに関 してはオパシティ値の大きさを表している。 b 色の設定 本件設定画面のグラフの下には,棒状の領域(「色指定領 域」)が表示されている。上記色指定領域は,グラフの横軸に記 載された信号値に対応し,当該信号値がボリュームレンダリング において何色で描画されるかを決定するものである。 ユーザーは,グラフ上でマウスをダブルクリックするか,右ク リックによりメニューを表示し,メニュー中から「境界線の新規 追加」を選択することで,グラフ上の任意の位置に,グラフ縦軸 と平行な色境界線を作成することができる。上記色境界線は,色 指定領域にも反映され,色境界線を設定することで,色指定領域 には,色境界線で区切られた領域(「色境界領域」)が生じるこ とになる。ユーザーは,上記色境界領域をマウスでクリックする ことで,「色変更ダイアログ」(別紙「被告製品等説明書(被 告)」の【図6】)を表示し,当該色境界領域に割り当てる色を 設定・変更することができる。 c オパシティ値(オパシティライン)の設定 本件設定画面のグラフ上には,信号値と,その信号値に対する オパシティを示したオパシティラインを黄色の線で表示すること ができる。なお,オパシティとは,その信号値がどれくらい不透 明であるかを意味するものであり,例えば,オパシティが低いほ ど,当該信号値を持つボクセルはボリュームレンダリングにおい て透明に近くなり,0とすると完全に透明となり(すなわち,ボ リュームレンダリング結果において表示されなくなり),1とす 86 ると完全に不透明となり,1から0の間に設定すると半透明とな る。 本件設定画面の右側には,上下に合計6個のボタンが表示され ており,ユーザーは,ボタンをクリックすることで,オパシティ ラインの設定モードを選択することができる。上記設定モードの 内容は,ボタンの並びの上から順に,@ユーザーがグラフ上でマ ウスをドラッグすることにより,任意の形状のラインを設定でき るもの,Aグラフの色境界線上にオパシティの制御点を配置し, ユーザーが制御点を上下にマウスでドラッグすることにより,オ パシティラインの形状を変更できるもの,Bグラフ横軸の「0」 及び「1」のラインに各1個の制御点を配置し,右肩上がりのオ パシティラインを作成できるもの,Cグラフ横軸の「0」及び 「1」のラインに各1個の制御点を配置し,右肩下がりのオパシ ティラインを作成できるもの,Dグラフ横軸の「0」及び「1」 のラインに各2個の制御点を配置し,凸型のオパシティラインを 作成できるもの,Eグラフ横軸の「0」及び「1」のラインに各 2個の制御点を配置し,凹型のオパシティラインを作成できるも のである。 イ 被告方法の構成要件1−A前段充足性 前記ア(ア)のとおり,被 告 方 法 は , 被 写 体 で あ る 生 体 ( 内 臓 , 骨 , 神経等の複数の相互に異なる生体組織)をCT装置等により撮像し て得られた2次元画像を積層することにより構成されるデータを使 用し,医療用の疑似三次元画像を表示する方法であり,CT装置等 により撮像して得られた,放射線医療診断の対象となる領域につい て の も の で あ る 。 こ の こ と は , 前 記 ア (イ )a の と お り , 被告方法に おいて,本件設定画面上のグラフには,ヒストグラムが白色線で表示さ 87 れるものであり,上記ヒストグラムは,被写体である生体をCT装置等 により撮影した結果に基づき,各ボクセルの信号値及びその出現頻度を プロットしたものであることから明らかである。 そして,前 記 構 成 要 件 1 − A の 意 義 で あ る 「 複 数 の 相 異 な る 生 体 組織が含まれた放射線診断の対象となる領域をCT等の放射線医療 診断システムにより断層撮影して得られた,診断対象領域の」に照 らせば,被告方法は,構成要件1−A前段の「複数種の生体組織が 含まれた被観察領域を放射線医療診断システムにより断層撮影して 得られた,」を充足する。 ウ 被告方法の構成要件1−A中段充足性 (ア ) 被告方法が,構成要件1−A中段「3次元空間上の各空間座 標点に対応した画像データ値の分布に基づき,該画像データ値の 値域を複数の小区間に分割し,該小区間毎に,該各小区間内の前 記画像データ値に基づき,対応する前記空間座標点毎の色度およ び不透明度を設定し」を充足するかについて検討する。 (イ ) 前記のとおり,構成要件1−A中段の意義は,ボリュームレ ンダリング処理を行うための各ボクセルへの色度及び不透明度の 設定方法のうち,従来技術における方法,すなわち,画像データ 値が生体組織毎に特有の分布状態を示すことを利用し,得られた 全画像データの分布(ヒストグラム)に基づき,画像データ値の 値域を複数の小区間に分割し,該小区間毎に,各小区間で一定値 をとる色度及び不透明度を設定することであり,小区間とは,画 像データ値の値域を分割した区間であって,一定値の色度及び不 透明度の設定を行うことができる区間である。 (ウ )a 上 記 ア (イ )b の と お り , 被 告 製 品 に お い て , ユ ー ザ ー は , 本件設定画面のグラフ上に,グラフ横軸に対し垂直に色境界線 88 を設定することで,グラフ及び色指定領域内に色境界領域を設 定することができるものであるところ,グラフの横軸は信号値 データの分布(ヒストグラム)を示すものであるから,被告方 法において,色境界線の設定により,信号値の値域が色境界領 域毎に分割されることになる。 そして,被告方法における「信号値」は本件発明の「各空間 座標点に対応した画像データ値」に相当するものと解されるか ら,被告方法は,全画像データの分布(ヒストグラム)に基づ き,色境界線の設定により,信号値(画像データ値)を色境界 領域毎に分割するものである。 したがって,被告方法は「各空間座標点に対応した画像デー タ値に基づき」「画像データ値の値域」を「分割」することに 相当する。 被告製品において設定される色及びオパシティ値は,本件発 明1における「色度」及び「不透明度」に各相当するものと認 められるところ,ユーザーが,上記のとおり色境界線の設定に より分割された色境界領域毎に一定値の色を設定することがで き る も の で あ る こ と は 上 記 ア (イ )b で み た と お り で あ る 。 ま た , ユ ー ザ ー は , 上 記 ア (イ )c の と お り , 6 通 り の オ パ シ テ ィ ラ イ ン設定モードの中から所望のモードを選択し,上記のとおり選 択した設定モードにより,グラフ上にオパシティラインを設定 す る こ と が で き る も の で あ る と こ ろ , 上 記 ア (イ )c で み た 各 設 定モードのうち,Aのボタンによるモード(「制御点モー ド」)を選択した場合,オパシティラインの制御点は,色境界 線上に設定されるものであり,また,その他のモードを選択し た場合であっても,ユーザーが任意の数の色境界線を任意の位 89 置に設定できるものである以上,色境界領域とオパシティライ ンの設定される領域を一致させることは可能であると解される から,このような場合,オパシティ値は,色境界領域毎に設定 されるものであるということができる。 なお,被告らが,制御点モードにおいて色境界線が新規に設 定された場合について,「隣の色境界線上の制御点と同一のオ パシティ値を持つ新たな制御点が新たな色境界線上に便宜上暫 定的に与えられる。」(平成22年5月26日付け被告ら準備 書 面 (5)の 2 6 頁 ) と 主 張 し て い る こ と に か ん が み れ ば , 制 御 点モードを選択した場合,制御点は,当初,隣接する色境界線 上の制御点と同一のオパシティ値に設定されるものであり,そ の結果,色境界領域内でオパシティ値は一定値をとることにな ることがうかがわれる。また,その他の場合においても,ユー ザーは,制御点を動かし,またはマニュアルで任意の形状のラ インを引くことにより,色境界領域内でオパシティ値を一定値 のものとすることが可能であると解されるところである。 そうすると,被告方法における「色境界領域」は,画像デー タ値の値域を分割した区間であって,当該区間毎に一定値の色 度及び不透明度を設定することが可能な区間であると認められ るから,本件発明の「小区間」に相当するものであり,グラフ 上に色境界線を設定して色境界領域へと分割することは,「画 像データ値の値域を複数の小区間に分割」することに相当する。 b 前 記 (2)ア (イ )の と お り , 被 告 製 品 に お い て , 色 境 界 線 の 設 定を行うグラフ上にヒストグラムが表示されており,色境界線 の設定に当たり,ヒストグラムを参照することが動作として自 然であると解されることも考慮すれば,被告製品を利用して医 90 療用可視画像を生成しようとするユーザーは,所望の可視画像 を生成するため,通常の場合,ヒストグラムを参照して色境界 線の設定を行うものと認められる。 @ この点に関し,被告らは,ヒストグラムは本件設定画面の 見栄えを良くするために表示されているものにすぎず,ユー ザーがヒストグラムを参照して色境界線の設定を行うことは ないと主張し,ヒストグラムが本件設定画面に表示されてい る理由に関し,被告らの主張に沿う証拠(乙60)を提出す るが,被告製品が医療機関において診療等に用いるための医 療用可視画像を生成するためのものであって,画面の見栄え が問題となる性質のものではないことなどに照らし,合理性 を欠き信用することができない。 A また,被告らは,そもそも被告製品においてユーザーは本 件設定画面を表示せず,ディスプレイ画面上に表示される疑 似三次元画像を見ながらマウス操作を行うことにより色及び オパシティ値の調整を行うものであり,本件設定画面上のグ ラフを表示して色境界線の設定を行うのは例外的な場合であ るとも主張する。 しかし,被告らの主張する,マウス操作による色及びオパ シティ値の調整とは,色境界線が既に設定されている場合に, これをマウス操作によって移動させて調整する動作であると 解されるところ,証拠(乙3,47,60)によっても,被 告製品において,本件設定画面を表示することなく色境界線 を設定することが可能であるとは認められず,むしろ,本件 各証拠によれば,被告製品において,色境界線を新規に設定 する場合,本件設定画面を表示するほかないことがうかがわ 91 れるのであって,この場合に,通常の場合ユーザーがヒスト グラムを参照して色境界線の設定を行うものと解されること は前述のとおりである。 なお,被告らは,被告製品において,ユーザーの便宜のた め,被告製品出荷前に,個別の患者のデータとは関係なく, 人体の部位の通常のCT値を踏まえて色境界領域,色及びオ パシティをテンプレートとしてプリセットしており,ユーザ ーは,プリセットされた設定を微調整する際にヒストグラム を参照することはないとも主張しており(平成22年5月2 0 日 付 け 被 告 準 備 書 面 (2)の 3 頁 ) , 「 ユ ー ザ ー は 本 件 設 定 画面を表示せず,ディスプレイ画面上に表示される疑似三次 元画像を見ながらマウス操作を行うことにより色及びオパシ ティ値の調整を行うものである」との被告らの前記主張の趣 旨が,プリセットされた色境界線,色及びオパシティをユー ザーが調整する場合を想定したものであるとも解される。 確かに,この場合,色境界線の設定は,被告製品の出荷前 に行われるものであり,被観察領域である被写体を撮影する ことにより得られたヒストグラムを参照して行われるもので はないと認められるから,ユーザーが上記のとおりプリセッ トされた色境界線等の設定を利用し,調整を行って疑似三次 元画像を生成する場合は,「…画像データ値の分布に基づき, 該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し」を充足しな い。 しかし,被告製品において本件設定画面が設けられ,ユー ザーが色境界線を新規に設定することができる構成となって いる以上,被告方法において,ユーザーが色境界線を設定す 92 るという方法が行われないものとは考えることができず,被 告方法において,上記文言を充足する使用態様はあり得るも のと解されるところである。 そうすると,上記使用態様以外の使用態様(プリセットさ れた色境界線等の設定を利用して疑似三次元画像を生成する もの)が存在することは,ユーザーが新規に色境界線を設定 する方法に関する本件発明1の充足性を左右するものではな いというべきである。 B さらに,被告らは,仮に,被告方法において,色及びオパ シティ値は信号値と関係なく任意に設定されるものであるか ら,「画像データ値に基づき」設定されるものに当たらない と主張する。 し か し , 前 記 (2)ア (イ )で み た と お り , 被 告 方 法 に お い て , 色及びオパシティ値は,本件設定画面のグラフ上で設定され るものであり,上記グラフの横軸は信号値の大きさを表した ものであるから,被告方法における色及びオパシティ値の設 定は,信号値の存在する領域において,信号値に対し行われ る も の で あ る と 認 め ら れ る 。 ま た , 被告方法における色及び オパシティ値の設定は,ボリュームレンダリング処理に当たり, ボクセルデータに対し色及びオパシティ値を割り当てるために 行われるものであるところ,ボクセルデータとは,被写体であ る生体をCT装置等により撮像された二次元画像を積層するこ とにより構成される三次元空間の各座標点のデータすなわち信 号値を指すものであるから,被告方法における色及びオパシ ティ値の設定が「画像データ値に基づき」行われるものであ ることは,この点からも明らかというべきである。 93 したがって,この点に関する被告らの主張を採用すること はできない。 c ま た , 前 記 (2)ア (ア )の と お り , 被告方法は,ボクセルデータ に対し,ボリュームレンダリング処理を実行することにより,疑 似三次元画像をディスプレイ上に表示させるものであるから,被 告方法において本件設定画面上で色及びオパシティ値を設定する ことは,上記ボ リ ュ ー ム レ ン ダ リ ン グ 処 理 の た め , 各 ボ ク セ ル データに対し色及びオパシティ値を割り当てる作業に当たるも のと認められ,色境界領域毎に一定値の色及びオパシティ値を 設定することは,本件発明1の「該小区間毎に,該各小区間内 の前記画像データ値に基づき,対応する前記空間座標点毎の色 度及び不透明度を設定」に相当する。 d 以上によれば,被告方法において,本件設定画面上で色境界 線を設定し,これにより分割された色境界領域内において,一 定値の色及びオパシティ値を設定することは,構成要件1−A 中段の「3次元空間上の各空間座標点に対応した画像データの 分布に基づき,該画像データ値の値域を複数の小区間に分割し, 該小区間毎に,該各小区間内の前記画像データ値に基づき,対 応する前記空間座標点毎の色度及び不透明度を設定し」を充足 する。 エ 被告製品の構成要件1−A後段充足性 (ア ) 構成要件1−A後段は「この設定された前記空間座標点毎 の前記色度および前記不透明度に基づき,前記被観察領域が2 次元平面上に投影されてなる可視画像を生成する医療用可視画 像の生成方法において」である。 (イ ) 前記のとおり,構成要件1−A後段の意義は,構成要件1 94 −A中段のとおりの従来技術と同様の方法,すなわち画像デー タ値の分布(ヒストグラム)に基づき,画像データ値の値域を 複数の小区間に分割し,該小区間で一定値をとる色度及び不透 明度を設定して,ボリュームレンダリング処理を行うための各 ボクセルへの色度及び不透明度を設定する方法に基づき設定さ れた各ボクセルの空間座標点毎の色度及び不透明度に基づいて, これを,ボリュームレンダリング法により積算処理を行い,そ の結果を2次元平面の画素に反映させて可視画像を生成する方 法を意味すると解するのが相当である。 (ウ) 前記ア(ア)のとおり,被告方法は,被写体である生体をCT 装置等により撮像された二次元画像を積層することにより構成さ れる三次元空間の各座標点の画像データ(ボクセルデータ)を使 用し,このボクセルデータに対し,ボリュームレンダリング処理 を実行することにより,医療用の疑似三次元画像(物体を立体的 に見えるよう表現した二次元画像)をディスプレイ上に表示させ るものであるところ,被告方法は,上記ウのとおり,ユーザーが 色境界線を設定し,色及びオパシティの設定を行う場合であり, かつ,色境界領域内において一定値のオパシティ値を設定する場 合において,各ボクセルへの色度及び不透明度を設定するにつき, 画像データ値の分布(ヒストグラム)に基づき,画像データ値 の値域を複数の小区間に分割し,該小区間で一定値をとる色度 及び不透明度を設定して,ボリュームレンダリング処理を行う ための各ボクセルへの色度及び不透明度を設定する方法を採用 し て い る も の と 認 め ら れ る か ら , 被告方法は上記文言を充足す る。 (エ) したがって,被告方法は,ユーザーが色境界線を設定し,色及び 95 オパシティの設定を行う場合であり,かつ,色境界領域内において一 定値のオパシティ値を設定する場合において,構成要件1−A後段を 文言充足する。 2 争 点 (1)ア (イ )( 被 告 方 法 は 構 成 要 件 1 − B を 文 言 充 足 す る か 。 ) に ついて (1) 構成要件1−Bの解釈 「全ての前記空間座標点毎の前記色度および前記不透明度を該視線 毎に互いに積算し」の意義 ア 「全ての」とは,一般に,「ことごとく。みな。全部」(広辞苑 第5版,乙8)との意味を有するところ,本件発明1の技術的特徴 に照らし,技術的見地から上記文言の有する技術的意味につき検討 するに,本件明細書には次のとおりの記載がある。 イ (ア ) 「【0006】…従来方法では,各視線上に位置するボクセル 毎の色度および不透明度を互いに積算する演算過程の高速化を図るた め,一部のボクセルに関するデータを間引いて演算を行なっていた。 このため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や不透 明感を表現することができなかった。 (イ) 【0007】本発明は,このような事情に鑑みてなされたもので あり,放射線医療診断システムにより断層撮影して得られた画像デー タ値に基づき,生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現しつつ,相 異なる生体組織を明確に区別することが可能な可視画像を生成し得る 医療用可視画像の生成方法を提供することを目的とする。 (ウ) 【0008】【課題を解決するための手段】上記課題を解決する ため,本発明の医療用可視画像の生成方法は,…前記2次元平面上の 各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する全ての前記平面座標 点毎の前記色度および前記不透明度を該視線毎に互いに積算し,該積 96 算値を該各視線上の前記平面座標点に反映させる…ことを特徴とする ものである。 (エ) 【本発明の実施の形態】【0016】各ボクセルの色度および不 透明度を決定した後,図1に示すように,投影用の2次元平面(可視 化面)K 2 (例えば,CCD等の撮像平面やディスプレイ等の画像平 面)の各平面座標点を表す画素(ピクセル)と視点(投影中心)10 とを結ぶ視線12を想定する。そして,各視線12上に位置する全ボ クセルの各々の色度および不透明度を,アルファブレンディングルー ルと称される下式(1)の計算式に基づき視線12毎に互いに積算し, ボリュームレンダリング法により,この積算値を各視線12毎に互い に積算し,ボリュームレンダリング法により,この積算値を各視線1 2に位置する2次元平面K 2 の各画素に反映させて,被観察領域とし ての腹部の2次元可視画像を生成する。 (オ) 【0017】【数1】 (カ) 【0025】【発明の効果】…可視画像を生成する2次元平面 上の各平面座標点と視点とを結ぶ各視線上に位置する全ての空間座標 点毎の色度および不透明度を視線毎に互いに積算し,この積算値を各 視線上の平面座標点に反映させるようにしている。このような構成を とることにより,被観察領域内の生体組織間の微妙な色感や不透明感 を表現しつつ,相異なる生体組織を明確に区別し得る可視画像を生成 することが可能となる。 97 (キ) 【図1】(本件明細書の【図1】のとおり)」 ウ 本件明細書の上記各記載によれば,従来技術においては,各視線上に 位置するボクセル毎の色度および不透明度を互いに積算する演算過程の 高速化を図るため,一部のボクセルに関するデータを間引いて演算を行 なっていたため,可視化した画像において,生体組織間の微妙な色感や 不透明感を表現することができなかったという問題があったところ(上 記イ(ア)),本件発明は,2次元平面上の各平面座標点と視点とを結ぶ 各視線上に位置する全ての空間座標点毎の色度および不透明度を互いに 積算するという方法を採用することで(上記イ(ウ)),被観察領域内の 生体組織間の微妙な色感や不透明感を表現した可視画像を生成すること を可能としたもの(上記イ(イ)及び(キ))であるから,本件発明の技術 的特徴は,積算処理において視線上のボクセルに関するデータの一部を 積算対象から除くことなく,全てのボクセルデータにつき積算処理を行 うことにあるというべきである。そうすると,本件発明の技術的意義を 技術的見地から検討しても,「全ての」の意義は「ことごとく。みな。 全部」を指すものと解すべきであるということとなるから,「全ての… 積算し」とは,視線上のボクセルデータのうち,積算処理から除くもの が存在しないことを意味するものと解するのが相当である。上記解釈は, 本件発明の実施例において開示された数式(上記イ(オ))が,視線上の 全ボクセルの色度及び不透明度を積算の対象とするものであることとも 整合するものということができる。 エ この点に関し,原告は,「全ての…積算し」とは,生体組織間の微妙 な色感や不透明感の表現を犠牲にすることなく」を意味し,可視化され た画像において色感や不透明感の表現に影響しないボクセルの計算を省 略することがあっても,なお,「全ての…積算し」に当たると解すべき であると主張するが,上記ウでみた本件発明の技術的意義に沿わず,採 98 用することができない。 (2) 被告方法の構成要件1−B充足性 ア 被告方法の内容等 証拠(乙3,弁論の全趣旨)によれば,被告方法において,被告ソフ トウェアは,ボクセルデータに対しボリュームレンダリング処理を実行 することにより,被告製品のディスプレイ画面上に画像を表示させるも のであるところ,上記ボリュームレンダリング処理は,下記(ア)及び (イ)の数式により行われるものと認められる。 (ア) 数式1 T ? ? i ?1 ? ? P = α (V0 ) × c(V0 ) + ? ? C (1 ? α (V j ))? × α (Vi ) × C (Vi )? ? ? ? i =1 ? ? j = 0 ? ? ? (イ) 数式2 T ?1 C (1 ? α (V )) ? eps j =0 j (ウ) 上記(ア)の数式1の「T」は,上記(イ)の数式2の条件を満た すN(視線上に位置する全ボクセルの数)以下の最大の整数を指し, 「eps」は計算打ち切り用の閾値を指す。 イ 被告方法の構成要件1−B充足性 (ア) 前記(2)ア(ア)ないし(ウ)のとおり,被告方法において,被告ソ フトウェアは上記数式1及び2によりボリュームレンダリング処理を 実行するものであるところ,上記ア(ア)の数式1の「V」は視線上の 各ボクセルのCT値を,αは不透明度関数を,cは色関数を表すもの であり,数式1は,視線上のボクセルにつき設定された色及びオパシ 99 ティ値につき積算処理を行うものと認められるから,上記ア(ア)の数 式1を用いて行う処理は,本件発明1の「空間座標点毎の前記色度お よび前記不透明度を該視線毎に互いに積算」するものに相当する。 (イ) しかし,前記ア(イ)のとおり,被告方法においては,数式1の積 算処理に関し,数式2による閾値の設定がされており,数式1の積算 処理は,数式2で設定された閾値に達した時点で打ち切られるものと 認められるところ,被告方法においては,上記計算打ち切り処理によ り,視線上のボクセルデータ中に,積算処理の対象とされないものが 存在することが認められる。 そうすると,被告方法は,「全ての」空間座標点毎の前記色度およ び前記不透明度を該視線毎に互いに積算するものに当たらないことと なる。 (ウ) したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告方法 は,構成要件1−Bを文言充足しない。これに反する原告の主張は採 用しない。 3 争点(1)ア(ウ)(被告方法は構成要件1−Cを文言充足するか。)につい て (1) 構成要件1−Cの解釈 ア 「前記小区間内に補間区間を設定し,該小区間において設定される前 記色度および前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の 大きさに応じて連続的に変化させる」の解釈 構成要件1−Cの上記文言によれば,「補間区間」とは,小区間内に 設定される区間であり,かつ,同区間内において色度及び不透明度を画 像データ値の大きさに応じて連続的に変化させる区間であると解される ので,まず,「色度および不透明度を,…画像データ値の大きさに応じ て連続的に変化させる」の意義について検討すると,本件明細書には, 100 前記第4の1(1)アでみた各記載に加え,構成要件1−Cに関し,以下 の記載がある。 (ア) 「【発明の実施の形態】【0013】図2に示すようにCT値の 値域内に,境界線Lによって互いに隔てられた小区間A 1 と小区間A 2 が設定された場合を例にとって説明する。まず,小区間A 1 ,A 2 の 基準色度C 1 ,C 2 と基準透明度D 1 ,D 2 とをそれぞれ設定する。図 2に示す例では,小区間A 1 の基準不透明度D 1 を0に,小区間A 2 の 基準不透明度D 2 を1に設定した場合を示している。次に,境界線L と重なる位置に補間区間Bを設定し,この補間区間B内における色度 および不透明度を決定するための,CT値と色度との関係を定める色 度関数およびCT値と不透明度との関係を定める不透明度関数とを設 定する。図2に示す例では,色度関数に関しては基準色度C 1 ,C 2 との間を線形的に補間する比例関数が設定され,不透明度関数に関し ては不透明度D 1 とD 2 との間を線形的に補間する比例関数が設定さ れた場合を示している。 (イ) 【0014】この補間区間Bの設定に際しては,まず,境界線L から左右方向に,それぞれどの程度離れた位置まで補間の対象区間と するかを決める。図2に示す例では,小区間A 1 の区間幅の約半分に 相当する距離d 1 と,小区間A 2 の区間幅の約半分に相当する距離d 2 との分,それぞれの側に離れた区間を補間の対象区間とした場合を示 している。次に,この対象区間のうちのどの範囲で補間するのかを決 定する。なお,補間の対象区間および対象区間内の補間区間の範囲の 決定は,小区間A 1 ,A 2 内のCT値の分布E 1 ,E 2 等を参考にして 行なう。 (ウ) 【0015】この対象区間内の補間区間を算出するために,対象 区間の幅に乗ずる数値のことを鮮明度(0〜1の値をとる)と称する 101 ことにすると,この鮮明度を0にした場合は,小区間内で色度と不透 明度が変化しない従来方法と同様の設定となる。一方,この鮮明度を 1に設定した場合には,上記対象区間の全区間において線形補間を行 なうことになり,さらに上記対象区間を小区間A 1 と小区間A 2 の全 区間に設定した場合には,小区間A 1 と小区間A 2 の全区間において 補間が行われることになる。なお,図2では,鮮明度を0.8に設定 した例を示している。このような色度および不透明度の設定手順を, 得られたCT値の値域全体において実施して,小区間毎に,CT値に 対応するボクセルの色度および不透明度を決定する。 (エ) 【0018】図3に本実施形態方法により生成された腹部の可視 画像の一例を比較例と共に示す。同図(A)に示されているのが,本 実施形態方法により生成された可視画像であり,同図(B)に示され ているのが,従来方法と同様に,各小区間の境界において段階的に色 度および不透明度を変化させ,各小区間内においては色度および不透 明度を一定の値に設定するようにして生成された可視画像である。 (オ) 【0019】図3に示すように,本実施形態方法により生成され た可視画像においては,肝臓領域を薄く可視化しながら,内部の血管 も描出しつつ両者を明確に分別して認識することが可能であり,また 比較例と比べて微妙な色変化を表現できているなど,高品質な画像が 得られることが確かめられた。 (カ) 【0023】なお,本発明の医療用可視画像の生成方法は,上記 実施形態のものに限られるものではなく,種々の態様の変更が可能で ある。例えば,上記実施形態では,補間区間における色度関数および 不透明度関数を直線的なものとして説明しているが,これらの関数に は対数関数等の種々の関数を適宜用いることが可能である。 (キ) 【図2】(本件明細書の【図2】のとおり) 102 (ク) 【図3】(本件明細書の【図3】のとおり) イ 上記ア(ア)ないし(ウ)のとおり,本件明細書には,【発明の実施の形 態】として,@小区間内で一定値をとる基準色度及び基準不透明度を設 定し,A色度関数(CT値と色度との関係を定めたものであり,かつ, 基準色度相互を線形的に補間するもの)及び不透明度関数(CT値と不 透明度との関係を定めたものであり,かつ,基準不透明度相互を線形的 に補間するもの)をそれぞれ設定し,B小区間内において補間の対象と なる区間(対象区間)を決め,さらに,対象区間の幅に乗ずる0〜1の 値をとる数値(鮮明度)を設定することで,対象区間内において補間を 行う区間(補間区間)を決め,同区間内で上記色度関数及び不透明度関 数を適用することで線形補間を行うことが各記載されているものであっ て,上記Bのとおり設定された補間区間において色度関数及び不透明度 関数を適用し,基準色度相互及び基準不透明度相互をそれぞれ線形的に 補間することが,「色度および不透明度を,…画像データ値の大きさに 応じて連続的に変化させる」ことの具体例として示されているものとい うことができる。 また,本件明細書の【図2】(上記ア(キ))は,基準色度相互又は基 準不透明度相互をそれぞれ線形的に補間する比例関数が設定された場合 を示したもの(上記ア(ア))であるところ,上記【図2】を見ると,上 記線形補間の結果,従前,色度に関しては,境界線Lを境に基準色度 (C1,C2)相互が截然と分かれていた(本件明細書の【図5】の (B)及び【図6】の(B)参照)ものが,CT値を横軸とするグラフ 上で,C 1 からC 2 へ徐々に色合いが変化する状態となり,また,不透 明度に関しては,従前,境界線Lを境にして基準不透明度がD 1 (0) とD 2 (1)に分かれる階段状の形状をとっていた(本件明細書の【図 5】の(B)及び【図6】の(B)参照)ものが,CT値を横軸とする 103 グラフ上で,D1(0)からD2(1)へ数値が徐々に変化する状態 (グラフ上は斜線状の状態)となっていることを看取することができる。 これに加え,前記第4の1(1)イ(ア)でみたとおり,本件発明1は, 従来,ボリュームレンダリング処理のための各ボクセルへの色度及び不 透明度の設定を,各 小 区 間 内 で 一 定 値 を と る 色 度 及 び 不 透 明 度 を 設 定する方法によっていたことによる問題点を,構成要件1−Cに係 る 方 法 に よ る こ と に よ り 解 決 し た も の で あ る と こ ろ , 本件明細書の 【0018】欄には,従来技術は「 各 小 区 間 の 境 界 に お い て 段 階 的 に 色度および不透明度を変化させ」るものである旨の記載があるので ( 上 記 ア (エ )) , 構 成 要 件 1 − C の 「 連 続 的 に 変 化 さ せ る 」 と の 文 言は,上記の「段階的」変化と対置して解釈されるべきものと解さ れるところ,本件明細書には,上記「段階的に色度および不透明度 を変化」させる場合の具体例として,【図3】,【図5】及び【図 6 】 の と お り , 色 度 に 関 し て は 境界線Lを境に基準色度(C 1 ,C 2 ) 相互が截然と分かれた状態,不透明度に関しては境界線Lを境にして基 準不透明度がD 1 (0)とD 2 (1)に階段状に分かれた状態が各示さ れている(上 記 ア (エ ), (キ )及 び (ク )) こ と を 指 摘 す る こ と が で き る。 以上によれば,「色度および不透明度を,…画像データ値の大き さに応じて連続的に変化させる」とは,小区間内に設定された補間 区間内で,小区間相互で相異なる値をとる色度及び不透明度につき, 相互を線形的に補間する色度関数・不透明度関数を適用することによ り,色度及び不透明度がそれぞれ一定値をとることなく,画像データ 値の大きさに応じてその数値が徐々に変化する状態となることを意味 するものと解するのが相当である。 なお,前記ア(カ)のとおり,本件明細書には,小区間相互で相異な 104 る値をとる色度及び不透明度相互を線形的に補間する色度関数・不透 明度関数としては,直線的なもののほか,対数関数等の種々の関数を 適宜用いることが可能であると記載されているのであるから,線形補 間を行うために適用される関数としては,それが色度及び不透明度が それぞれ一定値をとる結果をもたらすものでない限り,種々のものを 用いることが許容されていると解されるのであって,「連続的に変 化」の態様も,上記関数に応じ,種々のものがあり得るものと解され る。 ウ そうすると,「前記小区間内に補間区間を設定し」とは,小区間内に おいて,色度及び不透明度がいずれも一定値をとることなく,画像デー タ値の大きさに応じてその数値が徐々に変化する状態となる区間を設け ることを意味するものと解するべきこととなる。そして,「小区間」と は,色度及び不透明度が一定値をとる区間を意味するものであることは 構成要件1−Aに関する当裁判所の判断(前記第4の1(1)エ(エ))で みたとおりである上,「補間区間」においては,「色度及び不透明度」 が上記のとおり一定値をとることなく連続的に変化するものと解される のであるから,色度及び不透明度が一定値をとらず,その数値が徐々に 変化する状態となる区間(補間区間)は,色度及び不透明度につき共通 のものであると解するのが相当であり,「補間区間」外では色度及び不 透明度はいずれも一定値をとるべきものであって,色度又は不透明度の いずれか一方のみが徐々に変化する区間が存在する場合には,「前記小 区間内に補間区間を設定し,該小区間内において設定される前記色度お よび前記不透明度を,該補間区間において前記画像データ値の大きさに 応じて連続的に変化させる」を充足しないものと解するのが相当である。 エ この点に関し,原告は,補間区間が色度及び不透明度に共通のもので ある必要はなく,色度に関する補間区間と不透明度に関する補間区間が 105 別異に存在する場合も上記文言を充足すると解すべきであると主張する が,上記イ及びウでみた本件明細書の記載内容等に照らし,採用するこ とはできない。 オ また,この点に関し,被告らは,「前記色度および前記不透明度を… 連続的に変化させる」とは,補間区間の設定に基づき,小区間内で一定 値をとっていた色度及び不透明度が,経時的に連続して変化することを 意味すると解すべきであると主張する。 しかし,被告らの主張のうち,補間区間の設定に基づき色度及び不透 明度の連続的変化が生じるものと解すべきとする点については,本件明 細書上,小区間内に補間の対象とする区間を設定し,当該対象区間の幅 に鮮明度を乗ずることで補間範囲を算出し,同補間範囲で色度及び不透 明度の線形補間を行う方法が開示されているものの(【0014】, 【0015】),上記鮮明度と色度関数及び不透明度関数が関連付けて 設定されるものである旨の開示はないことにかんがみ,採用することが できない。なお,前記イでみたとおり,本件明細書の各記載に加え, 「連続的に変化させる」との文言が,従来方法における「段階的変化」 と対置して解釈されるべきものと解されることによれば,上記「前記色 度および前記不透明度を,画像データ値の大きさに応じて連続的に変化 させる」との文言は,色度及び不透明度の数値の大きさが,CT値の大 きさに応じて線形的に変化すること,すなわち数値が一定値をとらず 徐々に変化することを意味するものと解すべきものであり,色度及び不 透明度が一定値から線形的補間が行われた状態へと経時的に変化するこ とを意味するものではないことは明らかである。 したがって,この点に関する被告らの主張を採用することはできない。 (2) 被告方法の構成要件1−C充足性 ア 証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば,被告製品において,ユーザ 106 ーは,「カラー属性」タブの「カラー属性」ボタンをクリックすること により,「カラー属性」ダイアログ(別紙「被告製品等説明書(被 告)」の【図9】)を表示し,同ダイアログ中の「色混合」のスライダ ーを0.00から1.00までの間で動かすことで,本件設定画面上の 色境界線で区切られた隣接する色相互の補間率(色混合率)を設定する ことができ,上記色混合率の設定により,色混合率が1.00に近付く につれて,隣接色相互が,境界線付近において補間されて滑らかな色表 現となることが認められる。 また,被告製品におけるオパシティラインの設定方法は前記第4の1 (2)ア(イ)cのとおりであり,ユーザーは,オパシティラインの設定モ ードのうち,制御点モードを選択した場合,色境界線上に設定される制 御点をマウスで上下にドラッグすることにより,オパシティラインを斜 線状に変更できることが認められる。 イ 被告製品において,色混合率を設定し,色混合を生じさせた状態及び 制御点を利用してオパシティラインが斜線を描くよう設定した状態は, 構成要件1−Cのうちの「前記色度および前記不透明度を」「画像デー タ値の大きさに応じて連続的に変化させる」ことに相当する。 ウ しかしながら,以下の理由により,被告方法は,構成要件1−Cのう ちの,前記色度および不透明度を「該補間区間において」「連続的に変 化させる」とする部分を充足しない。 (ア) 原告は,ユーザーが色混合率につき0.00を超える値に設定し, かつ,オパシティラインの設定につき制御点モードを選択した場合, 被告方法は構成要件1−Cを文言充足すると主張する。 被告製品において色混合率を設定した場合に色混合が生ずる範囲に ついては,被告らが「被告製品では,色混合率及び色境界領域の幅に 基づき,所定のアルゴリズムで色混合領域の幅が決定されている。」 107 (平成23年4月8日付け被告ら準備書面(11)の4頁)と主張するの みであり,それ以上明らかでない。 しかし,被告製品のマニュアル(乙3の添付資料)9頁に,「色境 界線で区切られた隣接する色の補間率を設定します。数値は0.00 〜1.00の範囲で設定でき,数値が“1.00”に近づくにつれて 境界線付近が補間され,滑らかな色表現になります。」と記載されて いることや,別紙「被告製品説明書(被告)」において,「色混合率 を1.00に設定した場合」として表示されている図(同説明書の 【図11】)において,緑と赤が混合している領域等については,色 境界領域の全体において色が混合しているように見えることからすれ ば,色混合率を1.00に設定した場合,少なくとも両端部分以外の 色境界領域においては,その全域において色混合が生じる一方,色混 合率を1.00に満たない数字に設定した場合には,色境界領域内に, 色混合が生じない領域が残るものと推認することができる。そうする と,色混合率を1.00に満たない数字に設定した場合で,かつ,制 御点モードを選択した場合には,オパシティラインの制御点が色境界 線上に設定されるものである以上,色混合が生じている区間とオパシ ティ値が徐々に変化している(オパシティラインが斜線状となってい る)区間は一致せず,色又はオパシティ値のいずれか一方のみが変化 する区間が生ずるものと認められ,被告方法は,「前記小区間内に補 間区間を設定し,」前記色度および前記不透明度を,「該補間区間に おいて」「連続的に変化させる」ものに当たらず,構成要件1−Cを 文言充足しない。 (イ) また,被告製品において,ユーザーが色混合率を1.00に設定 し,かつ,オパシティラインの設定につき制御点モードを選択した場 合について検討すると,前記のとおり,被告製品において色混合率を 108 設定した場合に色混合の生ずる範囲は必ずしも明らかでない。すなわ ち,別紙「被告製品説明書(被告)」の【図11】を見ると,色境界 線で挟まれた各色境界領域のうち,右端のもの及び左端のものについ ては,色混合率を1.00に設定した場合であっても,同領域内に色 混合が生じない区間が残るように見られるから,本件各証拠上,色混 合率を1.00に設定し,かつ,制御点モードを選択した場合におい ても,色混合が生じている区間とオパシティ値が徐々に変化する(オ パシティラインが斜線状となる)区間が一致すると認めるに足りない というべきである。したがって,この場合においても,被告方法が構 成要件1−Cを文言充足するとは認められない。 エ 原告は,上記ウでみた方法以外の被告方法につき,構成要件1−Cを 充足する旨の主張をしていないものであるところ,被告製品において, オパシティラインの設定に関し,制御点モード以外のモードを選択した 場合について検討しても,色混合の生ずる区間とオパシティ値が徐々に 変化する区間が一致する場合を直ちに見出すことはできない。加えて, 前記アのとおり,色混合率を設定した場合に色混合が生ずる範囲が明ら かではないこと,オパシティラインの設定モードのうち,制御点モード 以外のモードを選択した場合に,グラフ上のどの範囲でオパシティライ ンを設定することができ,ユーザーがその形状をどのように変更するこ とができるものかが明らかではないことなども考慮すると,被告方法に おいて,構成要件1−Cを文言充足するような使用方法があるものと認 めるに足りる立証はないものというべきである。 オ したがって,被告方法は,構成要件1−Cを文言充足しない。 (3) 小括 以上によれば,被告方法は構成要件1−B及び1−Cを文言充足しない ものであるところ,原告は,被告方法につき,構成要件1−B及び構成要 109 件1−Cの文言充足性が認められないとしても,均等論の適用により,被 告方法は本件発明1の技術的範囲に属すると主張する。 しかし,原告は,構成要件1−Cの文言解釈に関し,色度及び不透明度 の変化する区間が一致しない場合でも「補間区間を設定し,…前記色度お よび前記不透明度を,該補間区間において…連続的に変化させる」に当た ると解した上で,本件発明1が鮮 明 度 に よ り 補 間 区 間 を 設 定 し , 補 間区 間内で色度と不透明度を連続的に変化させる構成であるのに対し,被 告方法は,まず,不透明度を設定し,補間率と色度を一体化させたも の(色混合率)をこれに加えることによって,色度と不透明度を連続 的に変化させるものである点で相違するものとして,この相違する点 に関する均等侵害の成立を主張するものである。しかし,前記のとお り,当裁判所の判断が構成要件1−Cの解釈において,補間区間は色 度及び不透明度において共通の区間であるとするものであるのに対し, 原告の主張は,補間区間は色度及び不透明度に共通のものでなくても よいとするものであって,前提となる構成要件1−Cの解釈において 異なっており,原告の構成要件1−Cに関する均等論の主張は,構成 要件1−Cに関する原告の主張を前提とするものであって,当裁判所 の見解に立った場合には,構成要件1−Cに関し,原告の主張する均 等論の適用により被告方法が本件発明1の技術的範囲に属する余地は ないものというべきである。 したがって,その余の点について検討するまでもなく,被告方法は, 本件発明1の技術的範囲に属しない。 4 争 点 (1)ウ ( 被 告 方 法 は 本 件 発 明 2 の 技 術 的 範 囲 に 属 す る か 。 ) (1) 被告方法が構成要件1−B及び1−Cを文言充足せず,この点に つ い て 均 等 侵 害 が 成 立 す る 余 地 も な い も の で あ る こ と は 前 記 3 (3)の とおりであるところ,本件発明2は,構成要件2−B及び2−Cを構 110 成要件1−B及び1−Cと共通にするものであるから,被告方法は, 本件発明1と同様の理由により,本件発明2の技術的範囲に属しない。 (2) 加えて,原告は,被告方法の構成要件2−D充足性に関し,@本 件設定画面上,オパシティ値の目盛りの幅は等間隔に見えるが,スラ イダーを動かすことにより上記目盛り幅を変更できる可能性があるこ と,Aスクリーンに表示される目盛りの間隔とは別途にコンピュータ による内部的計算処理がされている可能性も排除できないこと,B被 告ソフトウェアのコード変更によって,極めて容易に構成要件2−D に係る技術思想を実現することができることを主張するのみで,構成 要件2−Dに相当するような被告方法の具体的構成を何ら主張立証す るものではないから,この点でも,被告方法が本件発明2の技術的範 囲に属するものとは認められない。 5 以上のとおり,被告方法は本件発明1及び2の技術的範囲に属するも のと認められないから,その余の点について検討するまでもなく,原告 の請求はいずれも理由がないことに帰着する。 も っ と も , 被 告 製 品 に お い て , 色 混 合 の 生 ず る 区間とオパシティ値が 徐々に変化する区間が一致する場合には,構成要件1−Cを文言充足する ものと解されるところ,被告製品において,色 混 合 率 を 設 定 し た 場 合 に お ける色混合の生ずる領域やオパシティラインの設定方法には種々のもの があり得ること,構成要件1−Bに係る相違点については均等侵害の主 張があることを考慮し,なお念のため,本件発明1に関する直接侵害及 び間接侵害の成否について検討する。 6 本件発明1の直接侵害の成否について (1) 前 記 第 2 の 1 (3)ア の と お り , 被 告 製 品 は 医 療 用 疑 似 三 次 元 画 像 の 生成のために用いられるものであるところ,被告らは,前記第2の1 (3)イのとおり,業として,被告製品を医療機関等に生産,譲渡等し,ま 111 たはその譲渡等の申し出(譲渡等のための展示を含む。)を行っている ものであり,被告製品を医療用疑似三次元画像の生成のために用いて いるものではないから,被告らが被告方法を実施しているものとは認 められない。 (2)ア なお,この点につき,原告は,被告らが被告製品の開発段階に おいて被告方法を実施したことがあるものと考えられることや,被 告製品のパンフレット(甲3)に,被告製品を使用して実際に生成 した医療用可視画像が表示されていること,被告らが,被告製品を 使用して生成したサンプル画像を用いてプレゼンテーションを行っ ていることなどを挙げて,被告らが被告方法を実施しているものと 主張する。 イ この点,被告製品において,制御点モードを選択した場合に構成 要件1−Cを充足する使用方法がされるものとは認め難く,また, その他のモードを選択した場合にも,構成要件1−Cを充足するよ う な 使 用 方 法 を 直 ち に 見 出 し 難 い こ と は 前 記 3 (2)エ の と お り で あ るから,被告製品の通常の使用方法は本件発明1の技術的範囲に属 しないものであり,仮に本件発明1の技術的範囲に属するような使 用方法があり得るとしても,当該使用方法は極めて例外的なもので あるとみることができる。 また,原告が,被告らによる直接使用の機会として主張するもの は上記アのとおりであるところ,被告らの直接使用の機会は,あり 得るとしてもごく少数回にとどまるものと解される。 ウ そうすると,被告らによる当該少数回の使用の際に,本件発明1 の技術的範囲に属するような極めて例外的な使用態様が実施される ということにつき,立証があるとはいうことができない。 また,原告は,被告らによる被告製品の製造販売等がユーザーを 112 道具として利用した間接正犯又は共犯的行為であるとも主張してい るが,前記のとおり,本件発明1の技術的範囲に属するような使用 態様が極めて例外的なものと解される以上,被告らによる被告製品 の製造販売等を直接侵害と同視することが相当であるとも認めるこ とができない。 (3) したがって,仮に,被告製品において,本件発明1を充足するよ うな使用態様があり得るとしても,被告らに本件発明1の直接侵害が 成立する余地はない。 7 本件発明1の間接侵害の成否について (1) 原告は,被告製品につき,特許法101条5号の間接侵害が成立 すると主張しているところ,同号にいう「その発明による課題の解決 に不可欠なもの」とは,それを用いることにより初めて当該発明の解 決しようとする課題が解決されるような部品,道具,原料等をいうも のであり,従来技術の問題点を解決するための方法として,当該発明 が新たに開示する,従来技術に見られない特徴的技術手段について, 当該手段を特徴付けている特有の構成ないし成分を直接もたらす,特 徴的な部材,原料,道具等がこれに該当するものと解するのが相当で ある。 そこで,本件発明における特徴的技術手段についてみると,前記第 4 の 1 (1)ア で み た 本 件 明 細 書 の 記 載 内 容 に か ん が み , 本 件 発 明 は , 従来技術において,小区間内で色度及び不透明度を一定値に設定した 場合,画像データ値(CT値)の差が互いに小さい生体組織間の違い を明確に認識できるような可視化が困難であるという問題点があった ことにつき,これを解決するための方法として,小区間内に補間区間 を設定し,該補間区間内で色度及び不透明度を画像データ値の大きさ に応じて連続的に変化させるという方法を採用したものであり,この 113 点に本件発明における技術的特徴があるものというべきである。 これに対し被告製品は,本件各証拠上,上記技術的特徴に係る方法 (補間区間を設定し,該補間区間内で色度及び不透明度を画像データ 値の大きさに応じて連続的に変化させる方法)を実現するような使用 方法があるものと認めるに足りず,仮にそのような使用方法があり得 るとしても,極めて例外的な使用方法であるというべきものであるか ら,本件発明1の技術的特徴を基礎付ける方法をもたらすことを予定 しているものではないというべきであり,これが,上記技術的特徴を 基礎付ける構成を直接もたらす道具に当たると評価することは相当で はないものというべきである。 (2) したがって,仮に,被告製品において,本件発明1の技術的範囲 に属するような使用態様があり得るとしても,被告製品は,本件発明 による課題の解決に不可欠なもの(特許法101条5号)に該当せず, 被告製品につき,同号所定の間接侵害が成立する余地はない。 第5 結論 したがって,原告の請求をいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。 東京地方裁判所民事第29部 裁判長裁判官 大 須 賀 滋 裁判官 菊 池 絵 理 114 裁判官 森 川 さ つ き 115 (別紙) 被告方法目録 別紙被告製品目録記載の製品を使用する医療用可視画像の生成方法 116 (別紙) 被告製品目録 ソフトウェア「SYNAPSE VINCENT」がインストールされたワークス テーション 薬事商品名:富士画像診断ワークステーション 薬事承認番号:22000BZX00238000 以上 117 |