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事件 平成 23年 (行ケ) 10269号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/03/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年3月28日判決言渡

平成23年(行ケ)第10269号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年3月14日

判 決



原 告 サイエンスパーク株式会社



訴訟代理人弁理士 富 崎 元 成

富 崎 曜



被 告 特 許 庁 長 官
指 定 代 理 人 稲 葉 和 生

安 久 司 郎

水 野 恵 雄

樋 口 信 宏

田 村 正 明



主 文

特許庁が不服2010−4625号事件について平成23年7月12日

にした審決を取り消す。

訴訟費用は被告の負担とする。



事 実 及 び 理 由
第1 原告の求めた判決

主文同旨





第2 事案の概要

本件は,特許出願拒絶査定不服審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。

争点は,容易推考性の存否である。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成13年5月7日,名称を「電子計算機のインターフェースドライバ
プログラム及びその記録媒体」とする発明について特許出願(特願2001−13

6135号,請求項の数14)をし,平成21年9月14日付けの補正(甲5の3,

請求項の数12)をしたが,平成21年11月30日付けで拒絶査定を受けた。そ

こで,原告は,平成22年3月2日,拒絶査定に対する不服審判請求(不服201

0−4625号)をするとともに,同日付けの本件補正(甲5の4,請求項の数1

2)をしたが,特許庁は,平成23年7月12日,「本件審判の請求は,成り立た

ない。」との審決をし,その謄本は平成23年7月22日,原告に送達された。

2 本願発明の要旨

本件補正(甲5の4)による特許請求の範囲の請求項1に係る本願発明は,次の

とおりである。

【請求項1】

複数のデバイスが接続され,OSによって制御されている電子計算機の前記複数
のデバイスの間にデータを送受信するとき,前記送受信を制御する手段として前記

電子計算機を機能させる電子計算機用インターフェースドライバプログラムにおい

て,

前記デバイスには前記デバイスを制御するためのデバイスドライバが存在し,

前記デバイスは,第1デバイスと第2デバイスからなり,

前記第1デバイスを制御する第1デバイスドライバが存在し,
前記第2デバイスを制御する第2デバイスドライバが存在し,

前記OSには,前記OSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及

び前記全命令の一部しか実行できないユーザモードの動作モードがあり,




前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記電子計算機で動

作するアプリケーションプログラムから出される命令によって前記デバイス間にデ

ータの送受信を行うとき,前記アプリケーションプログラムから前記デバイスドラ

イバへのデータ又は命令の送受信を行うための共通のインターフェース手段として

前記電子計算機を機能させるプログラムであり,
更に,前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記カーネル

モードで動作し,かつ,

前記アプリケーションプログラムからの命令を受信し命令実行結果を前記アプリ

ケーションプログラムに通知するためのアプリケーションインターフェース手段,

前記第1デバイスドライバから受信データを取り込むための第1インターフェー

ス手段,

前記第2デバイスドライバへ送信データの送信を行うための第2インターフェー

ス手段,及び,

前記受信データを処理して前記送信データを作成し,前記送信データを前記第2

インターフェース手段に渡すためのデータ処理手段

として前記電子計算機を機能させるプログラムである

ことを特徴とする電子計算機のインターフェースドライバプログラム。
3 審決の理由の要点

(1) 特開平10−283195号公報(引用例,甲1,出願人・マイクロソフ

ト コーポレイション)には次のとおりの引用発明が記載されていると認められる。

【引用発明】

オペレーティングシステムは,ユーザモード及びユーザモードの動作モードより

も制約が非常に少ないカーネルモードをもち,
制御エージェントは,ユーザモードで動作し,

ディスク・ドライバ,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドライバ,効果フィ

ルタ及びサウンド・レンダリング・ドライバは,カーネルモードで動作し,




制御エージェントは,ディスク・ドライバ,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ

・ドライバ,効果フィルタ及びサウンド・レンダリング・ドライバの相互接続を行

い,ストリーム読取りと書込みを出し,レンダリングを完全にカーネルモードで行

うようにし,

制御エージェントは,処理の終了,データ・スターベーション事態などを含む重
要なイベントの通知を受けるので,必要に応じて制御を行うことができ,

サウンド・データは,ディスク・ドライバによってディスク・ドライブから読み

取られ,

リーダ・ドライバは,ディスク・ドライバを制御し,

リーダ・ドライバは,デコンプレッサ・ドライバと相互接続され,制御エージェ

ントによって管理され,

デコンプレッサは,伸張をカーネルモードで行ってから,データとコントロール

を効果フィルタに引き渡し,

効果フィルタは,効果プロセッサを利用して特殊効果を適用してからデータとコ

ントロールをサウンド・レンダリング・ドライバに引き渡し,

サウンド・レンダリング・ドライバは,サウンド・カードを制御し,データをス

ピーカからのサウンドとしてレンダリングする
コンピュータ・プログラム・プロダクト。

(2) 本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点,相違点がある。

【一致点】

OSによって制御されている電子計算機の複数のデバイスの間にデータを送受信

するものにおいて,

前記デバイスには前記デバイスを制御するためのデバイスドライバが存在し,
前記デバイスは,第1デバイスと第2デバイスからなり,

前記第1デバイスを制御する第1デバイスドライバが存在し

前記第2デバイスを制御する第2デバイスドライバが存在し,




OSには,カーネルモード及びユーザモードの動作モードがあるもの。

【相違点1】

本願発明では,複数のデバイスが接続され,OSによって制御されている電子計

算機の前記複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,前記送受信を制御する

手段として前記電子計算機を機能させる電子計算機用インターフェースドライバプ
ログラムにおいて,前記電子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前

記電子計算機で動作するアプリケーションプログラムから出される命令によって前

記デバイス間にデータの送受信を行うとき,前記アプリケーションプログラムから

前記デバイスドライバへのデータ又は命令の送受信を行うための共通のインターフ

ェース手段として前記電子計算機を機能させるプログラムであり,さらに,前記電

子計算機用インターフェースドライバプログラムは,前記カーネルモードで動作し,
かつ,前記アプリケーションプログラムからの命令を受信し命令実行結果を前記ア

プリケーションプログラムに通知するためのアプリケーションインターフェース手

段,前記第1デバイスドライバから受信データを取り込むための第1インターフェ

ース手段,前記第2デバイスドライバへ送信データの送信を行うための第2インタ

ーフェース手段,及び,前記受信データを処理して前記送信データを作成し,前記

送信データを前記第2インターフェース手段に渡すためのデータ処理手段として前
記電子計算機を機能させるプログラムであることを特徴とする電子計算機のインタ

ーフェースドライバプログラムであるのに対し,引用発明では,OSによって制御

されている電子計算機の複数のデバイスの間にデータを送受信するとき,制御エー

ジェントは,第1のデバイスドライバ,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドラ

イバ,効果フィルタ及び第2のデバイスドライバの相互接続を行い,ストリーム読

取りと書込みを出し,第1のデバイスドライバからのデータの送信から第2のデバ
イスドライバでのデータの受信までをカーネルモードで実行し,処理の終了の通知

を受けることについては記載があるが,上記本願発明の構成について明確な記載が

ない点。




【相違点2】

本願発明では,OSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前

記全命令の一部しか実行できないユーザモードであるのに対し,引用発明では,ユ

ーザモード及びユーザモードの動作モードよりも制約が非常に少ないカーネルモー

ドについては記載があるが,カーネルモードがOSを操作するための全命令が実行
できること及びユーザモードが全命令の一部しか実行できないことについて明確な

記載がない点。

(3) 相違点等に関する審決の判断

ア 相違点1について

オペレーティングシステムにおいて,アプリケーションプログラムなどのクライ

アントプロセスとのインターフェース手段(本願発明の「アプリケーションインタ

ーフェース手段」に相当。),第1のドライバとのインターフェース手段(本願発

明の「第1インターフェース手段」に相当。)及び第2のドライバとのインターフ

ェース手段(本願発明の「第2インターフェース手段」に相当。)を有し,クライ

アントプロセスからの入出力要求を受け取ると,ドライバにその入出力要求を渡し,

ドライバが処理した結果を受け取り,その結果をクライアントプロセスへ戻すとい

う制御を行い,また,ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで動作するI
/Oマネージャは,例えば,国際公開98/47074号(甲2,出願人 マイク

ロソフト コーポレイション。我が国への出願に係る翻訳文は,特表2001−5

20774号公報(甲3)のとおり。)の7頁28行〜10頁4行及び Fig.1,滝

口政光「超初心者のための Windows NT デバイスドライバ入門」Interface1999

年6月号(甲4)の95頁〜102頁に記載されているように周知である。そして,

上記周知技術の「I/Oマネージャ」は,本願発明の「電子計算機用インターフェ
ースドライバプログラム」に相当する。

なお,引用発明においては,第1のデバイスドライバ及び第2のデバイスドライ

バの間に,リーダ・ドライバ,デコンプレッサ・ドライバ及び効果フィルタなどの




他のデバイスドライバが接続されている。しかし,第1のデバイスドライバ及び第

2のデバイスドライバの間に他のデバイスドライバを接続するか否かは,処理され

るデータの性質により決定される設計的事項にすぎない。よって,第1のデバイス

ドライバ及び第2のデバイスドライバの間に他のデバイスドライバを接続しないよ

うに構成することは,当業者が適宜なし得ることにすぎない。
したがって,第1のデバイスドライバからのデータの送信から第2のデバイスド

ライバでのデータの受信までをカーネルモードで実行する引用発明において,上記

周知技術を適用し,第1のデバイスドライバ及び第2のデバイスドライバを相互接

続する構成に代えて,電子計算機用インターフェースドライバプログラムを介して

接続する構成とすることにより,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,当

業者が容易に想到し得ることである。

イ 相違点2について

OSを操作するための全命令が実行できるカーネルモード及び前記全命令の一部

しか実行できないユーザモードは,文献を示すまでもなく周知である。したがって,

引用発明において,上記周知技術を適用し,OSを操作するための全命令が実行で

きるカーネルモード及び前記全命令の一部しか実行できないユーザモードのように

構成することは,当業者が適宜なし得ることである。
ウ 作用効果について

そして,本願発明の効果も引用発明及び周知技術から当業者が容易に予測できる

範囲のものである。

エ まとめ

したがって,本願発明は,引用発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明

をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受ける
ことができない。



第3 原告主張の審決取消事由




1 取消事由1(一致点認定の誤り)

審決は,本願発明と引用発明の一致点として,複数のデバイスの間にデータを「送

受信」する点を認定した。

本願発明は,本願明細書に,「…アプリケーションプログラム4からの命令によ

って,デバイス6間のデータの送受信も制御することができる。…」(段落【00
36】),「…アプリケーションプログラム4は,画像データの送受信の命令を出

力し,データ転送が始まる(S100)。」(段落【0050】),「…アプリケ

ーションプログラム4は,送受信の命令を出力する(S150)。」(段落【00

67】),「【発明の効果】本発明によると,次の効果が奏される。OSに含まれ

ている各種のデバイスドライバを一つの共通のデバイスドライバで制御できる共通

インターフェースドライバをデバイスドライバの中間に設けることで,デバイス間

のデータの送受信を高速,安全に転送できるようになった。」(段落【0075】)

と記載されるように,デバイス間でデータを「送受信」できるものである。

これに対し,引用例には,データを一方的に送信する記載はあるが,送受信する

機能の記載や示唆はない。引用発明のシステムは,ディスク・ドライブからサウン

ド・データを読み取り,これをサウンド・カードに送信するものであり,一方向に

データが流れるだけで,サウンド・カードからデータを送信することはできない。
したがって,審決が「送受信」する点を一致点と認定したのは誤りである。

2 取消事由2(相違点1に関する判断の誤り)

本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」,すなわち,

本願明細書の実施例における共通インターフェースドライバ7は,【図1】に記載

されるように,デバイスA(6)とデバイスB(6)間でデータ又は命令を受信し

たり,送信したりする機能,いわゆる双方向で送受信機能を有し,また,カーネル
モードで動作する。単純化していえば,本願発明は,Windows のカーネルモードに,

第2のOSともいえるデバイスドライバレベルの新規なプラットフォームを設けた

ものであり,このプラットフォームがカーネルモードで動作する本願発明の「電子




計算機のインターフェースドライバプログラム」である。

これに対し,引用発明の制御エージェントは,ユーザモードで動作するものであ

って,本願発明の「電子計算機のインターフェースドライバプログラム」に相当し

ない。

この点に関連して,審決は,「ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで
動作するI/Oマネージャは…周知である。そして,上記周知技術の「I/Oマネ

ージャ」は,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」に

相当する。」(16頁20行〜33行)と認定した。しかしながら,Windows NT の

カーネルモードにおいては,ファイルシステムドライバ,中間ドライバ,デバイス

ドライバなどのドライバが縦方向の階層を形成しているところ,上記の「I/Oマ

ネージャ」は,複数のドライバ間を縦方向にアクセスすることはあっても,本願発

明のように横方向にデータを送受信する機能はなく,本願明細書に従来技術として

記載されたものにすぎない。Windows NT を開発したマイクロソフト コーポレイシ

ョンは,引用発明に係る特許出願人でもあるが,上記のとおり「I/Oマネージャ」

では横方向のデータの送受信ができないので,引用発明を提案したのである。

したがって,審決が周知技術であると認定した「I/Oマネージャ」は,本願発

明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」とは全く別のものであ
るから,これを引用発明に適用し,相違点1に係る本願発明の構成とすることは,

当業者にとって容易に想到し得る旨の審決の判断は誤りである。



第4 被告の反論

1 取消事由1に対し

(1) 請求項1には,「送受信」という記載はあるが,これに続く後半部分には,
第1デバイスドライバからデータを「受信」して,第2デバイスドライバへデータ

を「送信」するという,「一方向」のデータの「送受信」のみが記載され,「第2

デバイスから第1デバイスへ」データを伝送することについて具体的な記載はない。




本願明細書の記載も同様である。そうすると,請求項1の記載を全体として解釈す

れば,本願発明におけるデータの「送受信」は,少なくとも,一方のデバイスから

データを「受信」して,他方のデバイスへデータを「送信」する,「一方向」の「送

受信」を含むといえる。

したがって,引用発明が一方向の送受信を行うものであるとしても,本願発明も
同じであるから,審決の一致点認定に誤りはない。

(2) 引用発明は,制御エージェントの制御により,「ディスク・ドライバ」や

「サウンド・レンダリング・ドライバ」等のドライバ間で,「相互接続を行い,ス

トリーム読取りと書込みを出し,レンダリングを完全にカーネルモードで行う」も

のである。

引用例の【図2】には,ディスクから「ストリーム読取り」を行うことが具体的

に図示されているが,引用発明において,「ディスク・ドライバ」や「サウンド・

レンダリング・ドライバ」等のドライバ間を相互接続して,ディスクからの「スト

リーム読取り」と,ディスクへの「ストリーム書込み」の両方を行う場合,結果と

して,「OSによって制御されている電子計算機の複数のデバイスの間にデータを

送受信する」ものといえる。

したがって,審決が「送受信」を一致点として認定したことに誤りはない。
2 取消事由2に対し

引用発明は,ドライバ間で,「相互接続を行い,ストリーム読取りと書込みを出

し,レンダリングを完全にカーネルモードで行う」ものであるところ,引用例には,

ピン接続されたドライバ間におけるデータの伝送の具体例として,IRP(I/O

Request Packet)をI/Oマネージャ等で伝送することが記載されているから,引

用発明におけるドライバ間の「データ」の伝送についても,具体的な伝送の方法と
して,I/Oマネージャを用いる周知技術を適用する起因の記載があるといえる。

国際公開98/47074号(甲2,翻訳文は甲3)の記載によれば,この文献

には,オペレーティングシステムにおいて,アプリケーションプログラムなどのク




ライアントプロセスとのインターフェース手段,第1のドライバとのインターフェ

ース手段及び第2のドライバとのインターフェース手段を有し,クライアントプロ

セスからの入出力要求を受け取ると,ドライバにその入出力要求を渡し,ドライバ

が処理した結果を受け取り,その結果をクライアントプロセスへ戻すという制御を

行い,また,ドライバ間の通信制御を行う,カーネルモードで動作するI/Oマネ
ージャが開示されている。また,この文献に,「Microsoft Windows NT(登録商標)

では,入出力マネージャはドライバ間でIRPを転送することを担当している。他

のシステムでは,他のメカニズムが使用可能になっている。これらをどのように実

装するかの詳細は設計上の問題であり,本発明にとっては重要でない選択事項であ

る。」(甲2の10頁14行〜17行(甲3の23頁7行〜11行))と記載され

るように,「I/Oマネージャ」を経由してドライバ間でIRPをやりとりする手

段が,ドライバ間で情報を伝送するための手段のうちの一つであることも開示され

ている。

一般に,「ドライバ」は,「コンピュータに接続されている周辺装置を管理する

プログラム」のような意味であるから,電子計算機の「プログラム」の一つである

といえる。そして,電子計算機の複数のプログラム間で各種のデータをやりとりす

る方法として,本願発明のように,既存のプログラム間を接続する別個のプログラ
ムを外部に設けることも,引用発明のように,既存のプログラム自体に接続機能を

備えることも,プログラムの実装における「設計上の問題」といえる。

また,滝口政光「超初心者のための Windows NT デバイスドライバ入門」Interface

1999年6月号(甲4)にも同様の開示がある。

したがって,審決における「I/Oマネージャ」に関する周知技術の認定に誤り

はない。そして,相違点1に係る本願発明の構成は,引用発明に上記周知技術を適
用することによって容易に想到し得るのであって,相違点1に関する審決の判断に

誤りはない。

なお,引用発明の「制御エージェント」は,引用発明において,各ドライバを相




互に接続するための手段であるから,引用発明のドライバ間の接続手段に,周知技

術を採用すれば,不要となる構成である。したがって,引用発明の「制御エージェ

ント」を,本願発明のいずれかの要素に対応付ける必要はない。



第5 当裁判所の判断
1 本願発明について

本願明細書(甲5の2〜4)によれば,本願発明について次のとおり認められる。

本願発明は,電子計算機のデバイスドライバ間を制御するための電子計算機のイ

ンターフェースドライバプログラムに関するものである(段落【0001】。
)Windows

NT/2000 のようなOS(オペレーティングシステム)を用いた電子計算機の動作に

は,カーネルモードとユーザモードの2種類があり,デバイス(ハードウェア)を

管理するためのソフトウェアであるデバイスドライバはカーネルモードで動作し,

アプリケーションプログラムはユーザモードで動作することから,アプリケーショ

ンプログラムがデバイスドライバを経由してデバイスにアクセスするためには,ユ

ーザモードからカーネルモードへの切替えや,逆にカーネルモードからユーザモー

ドへの切替えが必要となり,切替え処理に時間を要した(段落【0003】,【0

007】,【0008】,【0010】〜【0015】)。このため,従来技術で
は,アプリケーションプログラムの命令に基づきデバイスAからデバイスBへとデ

ータを転送する場合,アプリケーションプログラムから命令が出されると,ユーザ

モードからカーネルモードへの切替えが行われ,デバイスドライバAを経由して命

令が伝達されてデバイスAからデータが送信され,次に,ユーザモードへの切替え

が行われて,アプリケーションプログラムがそのデータを受信して処理し,再度カ

ーネルモードへの切替えが行われ,デバイスドライバBを経由してデバイスBへデ
ータが送信されると,デバイスBからデータ受取済みの情報が送られ,再度ユーザ

モードへの切替えが行われて,アプリケーションプログラムがこれを受け取り,デ

ータ転送が終了するという一連の処理が行われることから,動作モードの切替え処




理の数が増え,処理が遅くなるという問題があった(段落【0018】〜【002

3】)。そこで,本願発明は,複数のデバイスの間でデータを送受信するに当たり,

送受信を制御する手段として,カーネルモードで動作する電子計算機用インターフ

ェースドライバプログラム(下記【図1】の共通インターフェースドライバ7)を

設け,このプログラムが,アプリケーションプログラムとの間における命令の受信
と結果の送信を行い,かつ,その間の処理として,第1デバイスを管理する第1デ

バイスドライバからデータを取り込み,これを処理して,第2デバイスを管理する

第2デバイスドライバに処理したデータを送信する機能を有することにより(段落

【0027】〜【0029】,【図1】),デバイス間でデータを転送する際の動

作モードの切替えが少なくなり,データ転送が高速になるなどの効果が奏される(段

落【0075】,【0076】)というものである。


【図1】実施の形態を示す概念図




2 引用発明について

引用例(特開平10−283195号公報,甲1)によれば,引用発明について

次のとおり認められる。




引用発明は,コンピュータ・ソフトウェア・ドライバの開発に属するものである

(段落【0001】)。従来技術においては,下記【図1】のように,制御エージ

ェント26の管理の下で,ディスク・ドライブ20からサウンド・データを読み取

り,スピーカ42に送るまでの間に,ユーザモードで動作するリーダ・プログラム

・コンポーネント24やサウンド・レンダリング・コンポーネント36等を経由す
ることなどから,ユーザモードとカーネルモードとの切替えが繰り返し行われ,シ

ステム・パフォーマンスが低下するなどの問題があった(段落【0009】,【0

040】〜【0044】,【図1】)。そこで,引用発明では,一般にハードウェ

アを制御するソフトウェア・ドライバをカーネルモードで相互接続するために,各

ソフトウェア・ドライバに,ドライバを接続するための「接続ピン・インスタンス」

を形成し,これによりソフトウェア・ドライバを相互接続することで,動作モード

を切り替えることなく,カーネルモードでデータの受渡し等が行われるので,シス

テム・パフォーマンスが向上するなどの効果を奏するものであり(特許請求の範囲

【請求項1】,発明の詳細な説明段落【0002】,【0012】,【0017】,

【0032】),実施の形態としては,下記【図2】のように,ディスク・ドライ

ブ46からサウンド・データを読み取り,スピーカ62に送るまでの間に存在する

リーダ・ドライバ50,デコンプレッサ52,効果フィルタ54,サウンド・レン
ダリング・ドライバ58を制御エージェント44が相互接続し,管理することによ

って,動作モードの遷移(切替え)がなくなるというものである(段落【0046】

〜【0048】,【図2】)。





【図1】従来技術のデータ・フロー図 【図2】引用発明のシステムを示す図




3 取消事由1(一致点認定の当否)について

原告は,本願発明は複数のデバイスが双方向で送受信するものであり,一方向に

データを流す引用発明とは異なるので,審決が本願発明と引用発明の一致点として
「送受信」する点を認定したのは誤りである旨主張する。

しかしながら,本願発明の特許請求の範囲には,「複数のデバイスの間にデータ

を送受信する」,「デバイス間にデータの送受信を行う」という記載があるところ,

これに加えて,「第1デバイスドライバから受信データを取り込む」,「第2デバ

イスドライバへ送信データの送信を行う」という記載がある一方で,これとは逆に,

第2デバイスドライバから受信データを取り込み,これを第1デバイスドライバへ
送信する旨の記載は認められず,その他に双方向の送受信に限定することを示す記

載も認められない。また,本願明細書にも,一方向のデータの送受信がされる実施

例(段落【0043】〜【0057】,【図3】〜【図5】)が記載されており,

双方向の送受信のみに限定する旨の記載は認められない。このような記載に照らす

と,本願発明の上記「送受信」との記載は,第1デバイスドライバからの「受」信

と第2デバイスドライバへの「送」信を併せて「送受」信としたもの,すなわち,
少なくとも複数のデバイス間で一方向のデータ送受信が行われる場合を対象とする

ものと解される。

そして,引用発明も,少なくとも複数のデバイス間で一方向のデータ送受信が行




われるものである(この点については,原告も争っていない。)。

したがって,審決が,本願発明と引用発明の双方において,複数のデバイス(ド

ライバ)間における一方向のデータ送受信が行われることを捉えて,「送受信」す

る点を一致点として認定したことに誤りはない。

4 取消事由2(相違点1に関する判断の当否)について
本願発明は,複数のデバイスの間におけるデータの送受信を制御する手段として

「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」の構成を採用したものであ

り,第1デバイスと第2デバイス,これらに対応する第1デバイスドライバと第2

デバイスドライバを構成に含むものである。

これに対し,国際公開98/47074号(甲2,翻訳文は甲3)及び滝口政光

「超初心者のための Windows NT デバイスドライバ入門」Interface1999年6月

号(甲4)によれば,これらの文献には,カーネルモードで動作するファイルシス

テムドライバ,中間ドライバ,デバイスドライバが階層を形成し,I/Oマネージ

ャが,それら階層化されたドライバ間のデータの受渡しを仲介する技術が開示され

ているものの,そこで示されるドライバは,電子計算機に接続された同じデバイス

に対する入出力要求を処理するために階層化されているものであり,このような階

層化されたドライバが一体となって対応する各別のデバイス相互の関係に相当する
ものではないし,さらにその複数のデバイスを制御するそれぞれのデバイスドライ

バ相互の関係を示すものではない。これらの文献には,複数のデバイスの間におけ

るデータの送受信を制御するに際し,I/Oマネージャにアプリケーションプログ

ラムからデバイスドライバへのデータの送受信を行うための共通のインターフェー

ス手段として電子計算機を機能させる技術は開示されていない。

そうすると,甲2文献及び甲4文献に開示されたI/Oマネージャは,複数のデ
バイスの間におけるデータの受渡し(送受信)を仲介(制御)するものではないか

ら,本願発明の「電子計算機用インターフェースドライバプログラム」には相当せ

ず,このようなI/Oマネージャを引用発明に適用したとしても,相違点1に係る




本願発明の構成には至らない。

また,引用発明は,上記2で認定したとおり,ユーザモードで動作する制御エー

ジェントが複数のソフトウェア・ドライバ(デバイスドライバに相当する。)を相

互接続するものであり,かつ,各ソフトウェア・ドライバ自体に,ドライバを接続

するための「接続ピン・インスタンス」を形成し,これによりソフトウェア・ドラ
イバを相互接続するという方式を採用するものである。被告は,引用例において,

ソフトウェア・ドライバを相互接続する際にI/OマネージャやIRPを用いてデ

ータを伝送する具体例が記載されている旨主張するが,その具体例においても,ユ

ーザモードで動作する制御エージェントにより相互接続が行われるのであって,I

/Oマネージャが制御エージェントに代替し得る関係にはない。そうすると,この

ようなユーザモードで動作する制御エージェントや「接続ピン・インスタンス」の

形成による相互接続に代えて,カーネルモードで動作する本願発明の「電子計算機

用インターフェースドライバプログラム」に相当する構成を採用することが,当業

者にとって容易に想到し得るとはいい難い。

したがって,当業者にとって,相違点1に係る本願発明の構成が容易に想到し得

るものということはできず,これを容易とした審決の判断は誤りであって,取消事

由2は理由がある。



第6 結論

以上のとおりで,引用発明と甲2文献及び甲4文献に開示された周知技術から本

願発明の容易推考性を肯定した審決は誤りであって,取り消されるべきものである。

よって,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部





裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

真 辺 朋 子




裁判官
古 谷 健 二 郎