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関連審決 審判1999-12771
関連ワード 使用方法 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  優先日 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  請求の範囲 /  国際出願 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 525号 審決取消請求事件
原告 トムソンコンシューマ エレクトロニク ス インコーポレイテッド
訴訟代理人弁理士 谷義一
同 阿部和夫
同 市原政喜
同復代理人弁理士 佐藤久容
同 濱中淳宏
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 小林秀美
同 藤内光武
同 小曳満昭
同 宮川久成
同 伊藤三男
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/27
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
請求
特許庁が平成11年審判第12771号事件について平成14年5月28日にした審決を取り消す。
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,名称を「テレビジョン用垂直ズーム及びパン」(後に「表示システム」と補正)とする発明につき,平成3年5月30日を国際出願日とする国際特許出願による特許出願(特願平3-511739号,優先権主張1990年〔平成2年〕6月1日〔以下「本件優先日」という。〕・英国)をしたが,平成11年4月9日に拒絶の査定を受けたので,同年8月9日,これに対する不服の審判の請求をした。
特許庁は,同請求を平成11年審判第12771号事件として審理した結果,平成14年5月28日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年6月17日,原告に送達された。
2 本件特許出願の願書に添付した明細書(平成8年8月16日付け及び平成11年9月8日付け各手続補正書による補正後のもの。以下,「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の【請求項1】記載の発明(以下「本願発明」という。)の要旨 ビデオ表示手段と同期成分を有するビデオ信号において表されている調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリアを,上記ビデオ表示手段上にマッピングする手段と;上記ピクチャ・ディスプレイ・エリアを少なくとも1つのディメンションにおいて上記ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段と;上記同期成分に対するブランキング期間を位相に関して制御することにより,上記引き伸ばされたピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段と;を含む表示システム。
3 審決の理由 審決は,別添審決謄本写し記載のとおり,本願発明は,特開昭64-29178号公報(甲5,以下「引用例」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとした。
原告主張の審決取消事由
審決は,本願発明と引用発明との一致点の認定を誤り(取消事由1),相違点に関する認定判断を誤った(取消事由2,3)結果,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとの誤った結論に至ったものであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明とを対比するに当たり,引用例に「垂直方向の画像位置の調整手段」が記載されていることを根拠に,「引用例に記載された発明(注,引用発明)は,実質的に『同期成分を有するビデオ信号において表されている調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリアを,ビデオ表示手段上にマッピングする』手段を備え」ている(審決謄本4頁第3段落)と認定し,その結果,両発明は,「ビデオ表示手段と,同期成分を有するビデオ信号において表されている調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリアを,ビデオ表示手段上にマッピングする手段と,ピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段とを含む表示システム」(同頁第4段落)である点で一致すると認定した。
しかしながら,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,領域の大きさ及びビデオ表示手段上の表示位置を調整可能な領域であって,表示画面上に自由にマッピングされ引き伸ばされる結果,表示画面上に表示されなかった部分が表示画面の周囲に配置され,垂直方向に調整すると表示されない部分が表示されることとなる。これに対し,引用例には,単に黒い帯を刈り込むことしか示唆されておらず,これにより欠落した部分の処理が記載されていないから,引用発明では,表示されなかった部分がどこにあるのか不明なため,垂直方向に画像を移動しても欠落した部分を表示することはできないものである。このように,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」と引用発明の「垂直方向の画像位置の調整手段」とは,文言上も概念上も全く異なるものであり,本来,相違点として認定されるべきであるのに,審決は,これを一致点として認定したものであって,誤りである。
(2) 通常のアスペクト比(3:4)を有する画像をワイドスクリーン(9:16)で表示する場合,水平信号処理を行わずに垂直高を4/3にする方法がある。
この方法は,画像をゆがめることなく表示部を満たす点で有利であるが,画像の上部と底部の1/6の部分が刈り込まれるという問題がある。本願発明は,この問題を解決するため,引き伸ばされた画像をパン(位相に関して制御)することを可能にしたものである。
これに対して,引用発明は,郵便受けフォーマット(映画等の横長アスペクト比の画像の上下に黒い帯を入れて,通常の3:4のアスペクト比を持つ画像にするもの)の画像を,上下の黒い帯を削除して横長ディスプレイに表示するものであるが,引用例には,単に垂直同期信号を入力させるタイミングを調整することが記載されているだけであり,これにより画像がどのように上下に移動するか,また,欠落した映像部分がどこに存在するかは何ら示されていないから,そこには,郵便受けフォーマットについての課題が記載されているばかりで,その解決手段は示唆すらされていないということができる。すなわち,引用発明を実施し,垂直同期信号の入力タイミング調整をそのまま通常の表示装置に適用して表示されている映像を上向きに移動させると,全体として映像は上方に移動するが,上部にあった映像が画面の下部に現れるだけであって,欠落した別の画面が現れるようなことはない。つまり,引用発明は,その前提とする映像が,画面の上部又は下部に欠落した映像を有するものでなければ,引用発明自体の課題ですら解決することはできず,例えば,本願発明のように映像をマッピングして伸張し,表示画面の周囲に欠落部分を配置しておく技術が構成要件として必須であるが,そのような技術は引用例には全く記載されていない。
したがって,引用例を参照しても,当業者は,本願発明を想到することはおろか,引用発明の課題を解決することもできない。
2 取消事由2(相違点1に関する認定判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明の相違点1として認定した,「本願発明は,『上記ピクチャ・ディスプレイ・エリアを少なくとも1つのディメンションにおいて上記ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段』を含むものであるのに対し,引用例に記載された発明では,特に明記されていない点」(審決謄本4頁下から第3段落)について,「引用例には,表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばすことが示されている」(同5頁第1段落)し,「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段は,周知の事項である」(同)から,「引用例に記載された発明(注,引用発明)において,そのピクチャ・ディスプレイ・エリアを,垂直方向等においてビデオ表示手段よりも大きくなるよう選択的に引きのばす手段を備えるようにすることは,当業者が適宜採用しうることである」(同頁第2段落)と判断した。
審決の上記相違点1の認定は認めるが,相違点1に関する審決の上記認定判断は誤りである。
(2) 審決は,引用例(甲5)には,「この時,同じ映像を表示するのに,第7図で示した画面の方がより大きく,迫力のある画面が表示できると記載されている」(審決謄本5頁第1段落)とし,これを根拠に,「引用例には,表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばすことが示されている」(同)と認定しているが,引用例の記載を恣意的に省略したものであって,該当箇所の記載はそのような意味を有していないから,失当である。
審決が引用する引用例の記載は,「この時,同じ映像を表示するのに,第6図で示した表示画面の方が上下を削除した分だけ小さくなり,画面サイズ(通常表示面の対角線の長さで示す)が小さくなる。反対に,同じ画面サイズであれば,第7図で示した画面の方がより大きく,迫力のある画面が表示できる」(2頁左上欄第3段落)との記載を省略したものであるが,当該記載は,従来のアスペクト比(3:4)の表示装置に上下にブランキングを入れた画像を表示した場合(第6図)とワイドなアスペクト比(9:16)の表示装置に同じ映像の上下のブランキングを取り除いて表示した場合(第7図)とを比較して,画面の大きさ(対角線の長さ)が同じときには,後者の方が「より大きく,迫力のある画面が表示できる」という自明の事項を述べているにすぎず,引用発明が本願発明に類似した機能を有していると推測させるような意味を有するものではない。
(3) また,審決は,単に,映像を引き伸ばすという概念が示されているにすぎない文献を根拠に,「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段は,周知の事項である」と認定したが,誤りである。
本願発明の「ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段」とは,画像を表示手段よりも大きくする,すなわち,表示手段を超えて引き伸ばすことを指す。このことは,本件明細書(甲2〜4)の「垂直過走査によって切り詰められる」(甲2の13頁左上欄第2段落)との記載から明らかなとおり,表示手段上に表示されない部分を過走査するという意味である。しかしながら,表示されない部分を走査(過走査)するということは,不可避的に行われることはあっても,通常,意図的に行われることではないから,本件優先日当時,本願発明における上記画像伸張手段が,当業者にとって周知であったということはできない。
実際,審決が根拠として挙げる特開昭63-193779号公報(甲7,以下「甲7公報」という。),特開昭63-263882号公報(甲8,以下「甲8公報」という。),特開昭63-26174号公報(甲9,以下「甲9公報」という。),特開昭63-185173号公報(甲10,以下「甲10公報」という。)及び特開昭63-198487号公報(甲11,以下「甲11公報」という。)には,本願発明の画像伸張手段又はこれに類似する手段は示されておらず,また,これらの公報に示された画像伸張技術からは,本件優先日当時の技術水準をもってしても,本願発明の画像伸張手段を容易に想到することはできない。
すなわち,甲7公報には,「垂直方向は同期分離回路14での垂直振幅回路15をワイドディスプレイの垂直方向いっぱいに振る」(2頁右下欄5行目〜7行目)との記載があり,甲11公報には,「垂直方向は同期分離回路14での垂直振幅回路15によってワイドディスプレイの垂直方向いっぱいに振る」(3頁左上欄5行目〜7行目)との記載があるが,「ディスプレイ(本願発明における「表示手段」に相当)いっぱいに振る」と記載されている以上,表示手段よりも画像を大きくすることは想定されておらず,本願発明の伸張手段とは全く異なる構成であるといわざるを得ない。また,甲10公報には,「垂直振幅を伸長する」(3頁左上欄3行目)との記載があるのみで,そもそも表示上どこまで伸長するかは一切示されていない。さらに,甲8公報及び甲9公報については,画像伸張についての記載さえ確認することができない。
したがって,本件優先日当時,本願発明の画像伸張手段は知られていなかったというべきである。
(4) さらに,相違点1に関する審決の判断は,引用発明における「垂直方向の画像位置の調整手段」が映像の刈り込みを示唆するだけであるという事実を無視したものであって失当である。
引用発明の「垂直方向の画像位置の調整手段」においては,画像のどの部分が欠落し,欠落した部分がどのように処理されているかが示されていないから,これと画像伸張技術とを組み合わせることは,当業者であっても不可能である。すなわち,引用発明と,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを引き伸ばすこととは,完全に矛盾しており,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを引き伸ばす手段は引用発明とは相容れないことから,このような構造を引用発明に適用することは容易に想到できるものではない。
したがって,仮に,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを引き伸ばす手段が周知であったとしても,引用発明にこれを適用することはできないというべきである。
(5) 以上によれば,引用例には,「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばすこと」は示されておらず,かつ,本件優先日当時,本願発明の画像伸張手段は知られていなかったというべきであり,また,仮に,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを引き伸ばす手段が周知であったとしても,引用発明にこれを適用することはできないというべきあるから,相違点1に関する審決の上記認定判断は誤りである。
3 取消事由3(相違点2に関する認定判断の誤り) (1) 審決は,本願発明と引用発明との相違点2として認定した,「上記『ピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段』が,本願発明では,『上記同期成分に対するブランキング期間を位相に関して制御することにより,上記引き伸ばされたピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する』ものであるのに対し,引用例に記載された発明では,ブランキング期間について特に記載されていない点」(審決謄本4頁下から第2段落)について,「拡大した映像の部分を表示するとき,表示手段の表示画面に対応しない映像期間をブランキングするためにブランキング期間を設定することも,周知の事項である」(同5頁下から第4段落)とした上,「引用例に記載された発明(注,引用発明)において,ブランキング期間を表示手段に入力される垂直同期信号に応じて設定することは,当業者が適宜なしうることである」(同頁下から第3段落)と判断した。
審決の上記相違点2の認定は認めるが,相違点2に関する審決の上記認定判断は誤りである。
(2) ブランキング期間とは,一般に帰線期間のことであり,本願発明のように,「拡大した映像の部分を表示するとき,表示手段の表示画面に対応しない映像期間」をブランキングするために「ブランキング期間」を設定することは,本件優先日当時における周知事項ではない。審決は,「拡大した映像の部分を表示するとき,表示手段の表示画面に対応しない映像期間をブランキングするためにブランキング期間を設定することも,周知の事項である」ことの根拠として,特開昭49-84322号公報(甲6,以下「甲6公報」という。)を引用するが,甲6公報に記載の発明は,画面の4分の1の副放送番組の表示を拡大するため,主放送番組の走査を帰線期間で行っており,帰線により主放送番組が表示されるのを防ぐためブランキング期間を設定していることから,まさに帰線期間としてブランキング期間を使用しているものである。これに対し,本願発明では,帰線期間とは全く別の部分にブランキング期間を設定することにより,どの部分を表示してどの部分を表示しないかを制御しており,このようなブランキング期間の使用方法は周知事項ではないから,「引用例に記載された発明(注,引用発明)において,ブランキング期間を表示手段に入力される垂直同期信号に応じて設定することは,当業者が適宜なしうることである」とした審決の判断には誤りがある。
被告の反論
審決の認定判断は正当であり,原告の取消事由の主張はいずれも理由がない。
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について 原告は,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,「領域の大きさ及びビデオ表示手段上の表示位置を調整可能な領域」であると主張するが,本件明細書の特許請求の範囲には,何について調整可能であるかは記載されていないから,特許請求の範囲の記載に基づかない主張として失当である。
また,原告は,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,「表示画面上に表示されなかった部分が表示画面の周囲に配置され」るものである旨主張するが,同じく,特許請求の範囲の記載に基づかない主張として失当である。
さらに,原告は,引用例(甲5)には,欠落した部分の処理が記載されていないから,引用発明では,表示されなかった部分がどこにあるのか不明なため,垂直方向に画像を移動しても欠落した部分を表示することはできない旨主張するが,引用例は,「垂直方向の画像位置を調整し,画像や字幕スーパーの欠落をなくす」(2頁左下欄第1段落)技術に関するものであるから,原告の主張は失当である。
2 取消事由2(相違点1に関する認定判断の誤り)について (1) 引用例(甲5)には,ワイドなアスペクト比を持つ映画等とその上下にブランキング(黒い帯)を入れたものからなる従来のアスペクト比を持った画像を,横長のアスペクト比を持つ表示部に表示することが記載され,その際,表示面の一部(上下のブランキングの部分)を削除して第7図のように表示することが記載されている(2頁左上欄第2段落〜第3段落)。
従来の3:4のアスペクト比を持ったテレビジョン画像を,横長のアスペクト比を持つ表示部に表示するとき,画像のゆがみがないように表示するには,(ア)3:4のアスペクト比を持つテレビジョン画像の縦の長さを表示部の縦の長さに合わせて両横の余白がブランキング(黒い帯)となるように表示する場合と,(イ)3:4のアスペクト比を持つテレビジョン画像の横の長さを表示部の横の長さに合わせるように引き伸ばしテレビジョン画像の上下部分が表示画面外となるように表示する場合とがあり,第7図は(イ)の場合である。そして,上記(イ)の場合を「引き伸ばす」と表現することは,甲7公報(1頁右下欄下から6行目〜4行目)及び甲11公報(1頁右下欄下から3行目〜2頁左上欄初行)に「この画面をよりワイドに迫力あるものにするために水平方向と垂直方向に共に同じ比率だけ引き伸ばすと第5図bの様にブランキング領域1,2は見えなくなる」と記載され,甲10公報に「第6図bのように垂直の振幅が伸長され」(2頁左上欄下から4行目〜3行目)と記載されているように,通常用いられる表現である。
したがって,審決が,「引用例には,表示手段に表示する際,ビデオ信号において表される画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばすことが示されている」と認定したことに誤りはない。
(2) 原告は,本願発明の「ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段」とは,「表示手段上に表示されない部分を過走査する」ものである旨主張するが,特許請求の範囲の記載に基づかない主張である上,本件明細書(甲2〜4)には,そのように限定的に解すべき根拠となる記載は見当たらないから,原告の主張は失当である。
また,原告主張の「過走査する」技術についても,実願昭52-164172号(実開昭54-88223号)のマイクロフィルム(乙4,以下「乙4マイクロフィルム」という。)には,従来技術に関する記載の中に,「ズームテレビと称されるようなテレビジョン受像機において偏向振幅を大きくしてラスタを部分的に拡大した場合には,時にその垂直走査の始端側でのオーバースキャン期間を消去できないことになる。即ち,第1図はこの状態を説明するもので,同図(a)は垂直偏向電流の通常時(実線)と拡大時(破線)の波形を表わしており・・・同図(c)はラスタの拡大時に実際に必要とする垂直帰線消去信号を表わしている」(明細書2頁第2段落)と記載されている。オーバースキャンとは過走査のことであるので,画像伸張の手段として偏向振幅を大きくして過走査させることが昭和54年には従来技術であったことが示されている。さらに,実願昭51-72380号(実開昭52-162814号)のマイクロフィルム(乙5,以下「乙5マイクロフィルム」という。)には,従来技術に関する記載の中に,「カラー・テレビ受像機等の偏向系において偏向電流の振幅や走査期間を変えることにより画像拡大(以下,ズームと称す)を行う方式の受像機では」(明細書1頁最終段落)と記載され,画像拡大のために偏向電流の振幅を変えることが記載されているので,画像伸張の手段として偏向振幅を大きくして過走査させることが昭和52年には従来技術であったことが示されている。したがって,画像伸張の手段として偏向振幅を大きくして過走査させることは,本件優先日当時において周知の技術というべきである。
以上によれば,審決が,「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段は,周知の事項である」と認定したことに誤りはない。
3 取消事由3(相違点2に関する認定判断の誤り)について (1) ブランキング期間は,一般に帰線消去期間ということが多いが,帰線期間そのもののことではない。ブランキングとは,消し去る,空白にするという意味の語であり,そもそも,電子ビームを遮断するなどして表示手段に表示されることがないようにすることを意味している。テレビジョン技術分野においては,ブランキングという語は,帰線消去期間という狭義だけでなく,電子ビームを遮断するなどして表示手段に表示されることがないようにする意味で広義に用いられている。
上記ブランキングの本来の広義の意味からして,テレビジョン技術の分野では,表示手段の表示画面に対応しない映像期間をブランキングするため,表示手段にブランキング期間を設定することは,技術常識である。 (2) 審決が,周知事項の参照として例示した甲6公報(1頁右下欄第2段落〜2頁第1段落)は,放送波自体が主映像と副映像を含むテレビジョン放送波を受信して受像管の画面に再現された映像のうち,任意の1/4の映像を4倍に拡大して画面一杯に拡げ,かつ,1/4の映像以外の映像を消去するようにしたテレビジョン受像機を目的としているから,表示手段の表示画面に対応しない映像期間,すなわち,主放送番組の映像期間をブランキングするためにブランキング期間を設定しているものにほかならない。
さらに,実願昭62-81738号(実開昭63-191767号)のマイクロフィルム(乙2,以下「乙2マイクロフィルム」という。)及び乙4マイクロフィルムにも,「拡大した映像の部分を表示するとき,表示手段の表示画面に対応しない映像期間をブランキングするためにブランキング期間を設定すること」が示されている。
以上によれば,審決が,「拡大した映像の部分を表示するとき,表示手段の表示画面に対応しない映像期間をブランキングするためにブランキング期間を設定することも,周知の事項である」と認定したことに誤りはない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の認定の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明とを対比するに当たり,引用例に「垂直方向の画像位置の調整手段」が記載されていることを摘示した上,「引用例に記載された発明(注,引用発明)は,実質的に『同期成分を有するビデオ信号において表されている調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリアを,ビデオ表示手段上にマッピングする』手段を備え,『ピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する』手段を備えている」(審決謄本4頁第3段落)と認定し,両発明は,「ビデオ表示手段と,同期成分を有するビデオ信号において表されている調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリアを,ビデオ表示手段上にマッピングする手段と,ピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段とを含む表示システム」(同頁第4段落)である点で一致すると認定した。
これに対し,原告は,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,領域の大きさ及びビデオ表示手段上の表示位置を調整可能な領域であって,表示画面上に自由にマッピングされ引き伸ばされる結果,表示画面上に表示されなかった部分が表示画面の周囲に配置され,垂直方向に調整すると表示されない部分が表示されることとなるとした上,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」と引用発明の「垂直方向の画像位置の調整手段」とは異なるものであり,本来,相違点として認定されるべきであるのに,審決は,これを一致点として認定したものであって,誤りである旨主張する。
(2) 本願発明の要旨は,上記第2の2のとおりであり,これを分説すると, A ビデオ表示手段と B 同期成分を有するビデオ信号において表されている調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリアを,上記ビデオ表示手段上にマッピングする手段と; C 上記ピクチャ・ディスプレイ・エリアを少なくとも1つのディメンションにおいて上記ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段と; D 上記同期成分に対するブランキング期間を位相に関して制御することにより,上記引き伸ばされたピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段と; E を含む表示システム となる(以下,上記各要件を「構成要件A」〜「構成要件E」という。)。
上記のとおり,原告は,引用発明には,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」に相当する構成がない旨主張するので,本願発明における「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」の技術的意味について検討する。
まず,「調整可能な」については,上記のとおり,本件明細書(甲2〜4)の特許請求の範囲の記載(甲4)においては,何について「調整」が「可能」であるのかが格別規定されていないから,本願発明がビデオ表示装置についての発明であることを考慮して,ビデオ表示装置において通常予想される調整事項の少なくとも一つについて調整可能なものであれば足りると解するのが自然である。
また,「ピクチャ・ディスプレイ・エリア」については,学術用語(特許法施行規則様式第29,備考7)ではなく,いわゆる技術用語として格別成熟した意味を有するものとは認めるに足りないから,その有する普通の意味(同,備考8)において理解すべきであるところ,「ピクチャ・ディスプレイ・エリア」が英文の「picture display area」を片仮名表記したものであることは明らかであるから,これを通常の意味において日本語訳すれば,「画像表示領域」となる。したがって,「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,「ビデオ表示装置において通常予想される調整事項の少なくとも一つについて調整可能な画像表示領域」を意味すると解され,さらに,構成要件Bによれば,当該領域は「同期成分を有するビデオ信号」で表されていることが規定されている。
以上をまとめれば,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,「ビデオ表示装置において通常予想される調整事項の少なくとも一つについて調整可能な画像表示領域であって,同期成分を有するビデオ信号で表されるもの」を指すと解するのが相当であり,このように解して,特許請求の範囲の記載を矛盾なく理解することができるから,その意味では一義的に明白であって,本件明細書の発明の詳細な説明(甲2,3)を参酌するまでもないというべきである。
これに対し,原告は,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,「領域の大きさ及びビデオ表示手段上の表示位置を調整可能な領域」である旨主張する。しかしながら,上記のとおり,特許請求の範囲の記載の文言上,何について「調整」が可能であるのかは格別規定されていないから,ビデオ表示装置において通常予想される調整事項の少なくとも一つについて「調整」が可能であれば足りると解するのが相当であり,原告の上記主張は,特許請求の範囲の記載に基づかずに,これを「領域の大きさ」や「ビデオ表示手段上の表示位置」についての「調整」のみに限定するものであって,採用し難いというほかはない。
なお,原告の上記主張は,「調整可能な」における「調整」の意味を,構成要件B中の「ビデオ表示手段上にマッピングする手段」との要件並びに構成要件C及び構成要件Dとの関係で限定付けようとするものであると理解されるが,日本語の通常の読み方として,「調整可能な」という語よりも後に出てくる上記各要件をもって,「調整可能な」との語を限定する要件であると理解することは困難である。そもそも,構成要件B〜Dを素直に読めば,いずれも,直接的には「ピクチャ・ディスプレイ・エリア」について規定するものではなく,「手段」を規定する構成要件であって,本願発明は,ビデオ表示手段を有すること(構成要件A)と,構成要件B〜Dによって規定される三つの「手段」を有することとを要件とする「表示システム」(構成要件E)の発明であると理解されるから,本願発明においては,上記各「手段」の技術的内容こそがその核心であると考えられ,それら手段について進歩性を認めることができなければ,本願発明が特許性を有しないことは当然というべきである。そして,審決は,上記各「手段」のうち,引用発明には一応認められないもの(構成要件C及びDに係るもの)を相違点1及び2として抽出して,その進歩性を検討することとしているものと解されるから,その検討手法は相当であり,「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」に格別の技術的意味を持たせた上,これをも相違点として認定すべきであるとする,原告の上記主張はその点からも失当である。
(3) 進んで,本件発明と引用発明との一致点について検討する。
審決は,本願発明と引用発明とを対比して,「引用例の『表示部』『テレビジョン映像信号』『画像表示装置』は,それぞれ本願発明の『ビデオ表示手段』『ビデオ信号』『表示システム』に相当している。引用例によれば,画像信号は,映像部分がソフトによりまちまちであり,さらに,映像の下に字幕スーパーを挿入しているソフト等があり,単に表示面の上下を削除しただけの横長ディスプレイでは,映像や,字幕スーパーの一部が欠落するという問題点を有していたが,これを解決するために,引用例に記載された発明は,垂直方向の位置が異なった画像信号を受信した時でも,垂直方向の画像位置を調整し,画像や字幕スーパーの欠落をなくす画像表示装置を提供するものであり,『垂直方向の画像位置の調整手段』を備えている。引用例における『垂直方向の画像位置の調整手段』は,出力垂直同期信号(垂直同期信号13)とテレビジョン映像信号(垂直同期成分を有する)の相対的な位置を任意に変化させて,画像の垂直方向の位置を調整するもので,表示手段側の垂直偏向回路に入力される出力垂直同期信号(垂直同期信号13)を,同期成分を含む映像信号に対して,位相に関して制御すると,画像の位置が上下に調整され,その結果,隠れて見えなかった部分例えば字幕部分が見え,反対側の部分が隠れることを意味している」(審決謄本3頁最終段落〜4頁第2段落)と認定しているところ,この認定について,当事者間に争いはない。
上記審決の認定によれば,引用発明は,「同期成分を有するビデオ信号において表されている画像表示領域」を「垂直方向の画像位置の調整手段」によって「調整可能」なものであると理解することができ,他方,上記(2)のとおり,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,「ビデオ表示装置において通常予想される調整事項の少なくとも一つについて調整可能な画像表示領域であって,同期成分を有するビデオ信号で表されるもの」であると解されるから,引用発明は,本件発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」との構成を備えるものであると認めるのが相当である。
(4) さらに,引用発明が,本願発明の構成要件Bのうち,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを「ビデオ表示手段上にマッピングする手段」を備えるものであるかについて検討する。ここでいう「マッピング」とは,学術用語(特許法施行規則様式第29,備考7)ではなく,いわゆる技術用語として格別成熟した意味を有するものとは認めるに足りないから,その有する普通の意味(同,備考8)において理解すべきであるところ,「マッピング」が英文の「mapping」を片仮名表記したものであることは明らかであるから,それを通常の意味において日本語訳すると,ここでは,「配置する(こと)」を意味するものと解するのが相当である。
そうすると,審決の上記(3)の認定によれば,引用発明が,画像表示領域を「ビデオ表示手段上に配置する手段」を備えていることは明らかであるから,引用発明は,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを「ビデオ表示手段上にマッピングする手段」を備えているものと認めることができる。
これに対し,原告は,本願発明の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」とは,領域の大きさ及びビデオ表示手段上の表示位置を調整可能な領域であって,表示画面上に自由にマッピングされ引き伸ばされる結果,表示画面上に表示されなかった部分が表示画面の周囲に配置され,垂直方向に調整すると表示されない部分が表示されることとなるから,引用発明の「垂直方向の画像位置の調整手段」とは異なるものである旨主張する。この原告の主張は,本願発明の「ビデオ表示手段上にマッピングする手段」とは,「表示位置を調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」を「表示画面上に自由にマッピングする」手段であるとし,かつ,「マッピング」とは,単に「配置する」の意味ではなく,「表示画面上の自由な位置に配置する」の意味に限定して理解すべきである旨主張しているものと理解することができる。しかしながら,原告の「調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリア」の解釈に関する主張が失当であることは,上記(2)のとおりである上,「マッピング」についても,特許請求の範囲の記載においては,原告主張のような限定は付されていないことが明らかである。
(5) 以上によれば,本願発明と引用発明とは,「ビデオ表示手段と,同期成分を有するビデオ信号において表されている調整可能なピクチャ・ディスプレイ・エリアを,ビデオ表示手段上にマッピングする手段と,ピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段とを含む表示システム」(審決謄本4頁第4段落)である点で一致するとした審決の一致点の認定に誤りはない。
(6) なお,原告は,引用例には,単に垂直同期信号を入力させるタイミングを調整することが記載されているだけであり,これにより画像がどのように上下に移動するか,また,欠落した映像部分がどこに存在するかは何ら示されておらず,郵便受けフォーマットについての課題が記載されているだけで,その解決手段は示唆すらされていないとして,引用例を参照しても,当業者は,本願発明を想到することはできない旨主張するので,念のため,この点についても検討する。
引用例(甲5)において,引用発明は,「垂直方向の画像位置を調整し,画像や字幕スーパーの欠落をなくす」(2頁左下欄第1段落)ことを目的として,「垂直同期信号を水平同期期間の整数倍遅らせることができる。これは画像の位置を上方向に移動させることとなる」(3頁右上欄第1段落)とするものである。また,第2図には,このように遅らせた出力垂直同期信号とテレビジョン信号との位相関係が図示されており,以上によれば,垂直同期信号の位相を調整して画像の位置を上下に移動すれば,表示画面から外れた部分が再表示されることは明らかである。さらに,引用発明は,郵便受けフォーマットの画像に関するものであるとしても,郵便受けフォーマットされたビデオ信号の黒い帯の部分には,ソフトによっては,画像信号や字幕が含まれることがあるものであり,当業者は,黒い帯を含まない通常のビデオ信号(3:4のアスペクト比を有する画像に係るもの)も,上記と同様に表示されると認識し得るというべきである。
したがって,原告の上記主張は採用の限りではない。
(7) 以上のとおりであるから,原告の取消事由1の主張は理由がない。
2 取消事由2(相違点1に関する認定判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明の相違点1として認定した,「本願発明は,『上記ピクチャ・ディスプレイ・エリアを少なくとも1つのディメンションにおいて上記ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段』を含むものであるのに対し,引用例に記載された発明では,特に明記されていない点」(審決謄本4頁下から第3段落)について,「引用例には,表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばすことが示されている」(同5頁第1段落)し,「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段は,周知の事項である」(同)から,「引用例に記載された発明(注,引用発明)において,そのピクチャ・ディスプレイ・エリアを,垂直方向等においてビデオ表示手段よりも大きくなるよう選択的に引きのばす手段を備えるようにすることは,当業者が適宜採用しうることである」(同頁第2段落)と判断した。
(2) 原告は,審決が,相違点1について判断するに当たり,「引用例には,表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばすことが示されている」と認定したのは誤りであると主張する。
そこで検討すると,引用例(甲5)には,「第6図は従来のアスペクト比(3:4)を持った表示面に,9:16のアスペクト比を持った画像(映画等)を表示した様子を示した図であり,第7図は,第6図における表示面の一部(上下のブランキングの部分)20,21を削除し,9:16のアスペクト比を持つ表示面にし,同じ映像を表示した様子を示したものである」(2頁左上欄第2段落)と記載されているところ,当該記載は,従来の技術についての説明に係る部分であるが,引用発明がそうした従来の技術を基礎としていることは明らかである。
引用例の第7図の表示画面は,上記のとおり,上下のブランキングの部分20,21を「削除」したものであるが,ブランキング部分20,21の映像信号の処理については直接的には記載されていない。しかし,第7図の表示画面を従来技術とする引用発明は,「垂直方向の位置が異なった画像信号を受信した時でも,垂直方向の画像位置を調整し,画像や字幕スーパーの欠落をなくす画像表示装置を提供するもの」(2頁左下欄第1段落)であり,「垂直同期信号の位置をレジスターに設定する値によって任意に移動することができ,垂直同期信号と映像信号の相対的な位置を任意に変化させることができる。このことにより画像の垂直方向の位置の調整が可能となる」(同最終段落〜同頁右下欄第1段落)ものであり,また,上記1(6)のとおり,引用発明においては,垂直同期信号の位相を調整して画像の位置を上下に移動すれば,表示画面から外れた部分が再表示されるものと認められる。
そうすると,第7図の表示画面上,「削除」されたブランキングの部分20,21は,単に画面に表示されなくなったにすぎず,引用発明では,この部分に存在する欠落した画像や字幕スーパーは,同期信号と映像信号の相対的な位置を変化させて画像の垂直方向の位置を調整することにより,表示され得るものと理解される。したがって,引用例で表示画面から削除された部分は,表示画面の周囲に配置されていると解することができ,さらに,後記(3)のとおり,画像を引き伸ばしてその一部を表示する際に過走査(オーバースキャン)することは,本件優先日当時における当業者の技術常識であったと認められることをも考え併せれば,当該削除の前提として,ビデオ信号において表されている画像は,表示手段よりも垂直方向に大きく引き伸ばされているものと認めるのが相当である。
したがって,審決が,「引用例には,表示手段に表示する際,ビデオ信号において表されている画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばすことが示されている」と認定した点に誤りはないというべきである。
これに対し,原告は,審決が引用する引用例の,「この時,同じ映像を表示するのに,第6図で示した表示画面の方が上下を削除した分だけ小さくなり,画面サイズ(通常表示面の対角線の長さで示す)が小さくなる。反対に,同じ画面サイズであれば,第7図で示した画面の方がより大きく,迫力のある画面が表示できる」との記載(2頁左上欄第3段落)は,第7図のように表示する方が「より大きく,迫力のある画面が表示できる」という自明の事項を述べているにすぎず,引用発明が本願発明に類似した機能を有すると推測させるような意味を有するものではないとも主張するが,原告指摘に係る箇所の記載の意味いかんにかかわらず,上記のとおり,引用例の記載全体及び本件優先日当時の技術常識から,引用発明においても,第7図のように表示して画像の垂直位置を調整する前提として,画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばしているものと認定することができるから,原告の上記主張は採用の限りではない。
(3) また,原告は,審決が「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段は,周知の事項である」(審決謄本5頁第1段落)と認定したのは誤りであると主張し,その理由として,本願発明の「ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段」とは,表示手段上に表示されない部分を過走査するという意味であるが,審決が周知例として引用する甲7〜11公報には,当該技術は示唆されていないことを挙げる。
そこで検討すると,乙4マイクロフィルムには,「ズームテレビと称されるようなテレビジョン受像機において偏向振幅を大きくしてラスタを部分的に拡大した場合には,時にその垂直走査の始端側でのオーバースキャン期間を消去できないことになる。即ち,第1図はこの状態を説明するもので,同図(a)は垂直偏向電流の通常時(実線)と拡大時(破線)の波形を表わしており,同図(b)は垂直帰線消去信号(垂直出力パルス)を直接印加する場合(実線)と前述した積分回路等を通して印加する場合(破線)を表わし,また,同図(c)はラスタの拡大時に実際に必要とする垂直帰線消去信号を表わしている。この第1図に依れば,ラスタの拡大時に垂直帰線期間(Tr)及び垂直走査の始終端側の各オーバスキャン期間(To’)(To”)に亘って受像管をカットオフするには,垂直出力パルス(同図(b)の実線)よりも前後方向に充分幅広とした垂直帰線消去信号(同図(c))を使用しなければならないことが分る。そして,ラスタ拡大時にオーバスキャン期間で受像管を確実にカットオフする必要があるのは,垂直走査始終端での電子ビームが受像管の蛍光面以外のところを衝撃したり,或いは走査線1本当りの電子数がその蛍光面以外に当る分だけ相対的に少なくなってラスタが暗くなると云う弊害を防止する上から是非必要なことである」(明細書2頁第2段落〜3頁第1段落),「可変抵抗(8)を前述のズームテレビにおける偏向振幅調整用の可変抵抗と連動させておけば,この可変抵抗の調整によりその時のラスタの垂直振幅に応じて前後方向に広がった垂直帰線消去信号が得られることになる」(同4頁最終段落〜5頁第1段落),「垂直走査の前後方向に広がった任意パルス幅の垂直帰線消去信号を得ることができ,従って,前述したズームテレビ等に於いて受像管の不要なオーバースキャン期間を確実にカットオフすることができ,有効なものである」(同5頁第3段落)と記載されている。
また,乙5マイクロフィルムには,「カラー・テレビ受像機等の偏向系において偏向電流の振幅や走査期間を変えることにより画像拡大(以下,ズームと称す)を行う方式の受像機では,通常の受像状態(以下,ノーマルと称す)からズーム,またはズームからノーマルに切換えの際,偏向系回路の保護のために一時電源が切れる方式をとる場合がある」(明細書1頁最終段落〜2頁第1段落)と記載されている。
以上の記載によれば,画像を引き伸ばしてその一部を表示する際に過走査(オーバースキャン)することは,本件優先日当時における当業者の技術常識であったと認められる。なお,原告は,審決が周知例として引用する甲7〜11公報には,本願発明の「ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段」に係る技術は示唆されていないとも主張するが,上記のとおり,当該技術は,乙4及び乙5マイクロフィルムの記載によって,本件優先日当時における当業者の技術常識であったと認定できるから,甲7〜11公報の記載内容を検討するまでもなく,原告の上記主張は採用することができない。
(4) さらに,原告は,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを引き伸ばす手段は,引用発明とは相容れないものであり,仮に,ピクチャ・ディスプレイ・エリアを引き伸ばす手段が周知であったとしても,引用発明にこれを適用することはできない旨主張する。
しかしながら,まず,原告が上記主張の前提とする引用発明に対する理解が相当でないことは,上記1(6)のとおりである上,相違点1に係る,本願発明の「上記ピクチャ・ディスプレイ・エリアを少なくとも1つのディメンションにおいて上記ビデオ表示手段よりも大きくなるように選択的に引き伸ばす手段」との構成(構成要件C)に関し,引用例にも,「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表わされる画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばす」ことが示されていることは上記(2)のとおりである。
そうとすれば,上記(3)のとおり,本件優先日当時において当業者の技術常識であった,画像を引き伸ばしてその一部を表示する際に過走査(オーバースキャン)することに係る技術を引用発明に適用して,当業者は,相違点1に係る本願発明の構成を容易に想到することができたものというべきであり,原告の上記主張は採用の限りではない。
(5) 以上によれば,相違点1に関する審決の上記判断に誤りはなく,原告の取消事由2の主張は理由がない。
3 取消事由3(相違点2に関する認定判断の誤り)について (1) 審決は,本願発明と引用発明の相違点2として認定した,「上記『ピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段』が,本願発明では,『上記同期成分に対するブランキング期間を位相に関して制御することにより,上記引き伸ばされたピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する』ものであるのに対し,引用例に記載された発明では,ブランキング期間について特に記載されていない点」(審決謄本4頁下から第2段落)について,「拡大した映像の部分を表示するとき,表示手段の表示画面に対応しない映像期間をブランキングするためにブランキング期間を設定することも,周知の事項である」(同5頁下から第4段落)とした上,「引用例に記載された発明(注,引用発明)において,ブランキング期間を表示手段に入力される垂直同期信号に応じて設定することは,当業者が適宜なしうることである」(同頁下から第3段落)と判断した。
これに対し,原告は,審決が周知例として引用した甲6公報は,帰線期間としてブランキング期間を使用しているにすぎないものであるのに対し,本願発明では,帰線期間とは全く別の部分にブランキング期間を設定することにより,どの部分を表示してどの部分を表示しないかを制御しており,このようなブランキング期間の使用方法は周知事項ではないから,相違点2に関する審決の上記認定判断は誤りである旨主張する。
(2) 甲6公報に,「テレビジョン放送波を受信して受像管の画面に再現された映像のうち任意の1/4の映像を4倍に拡大して前記画面一杯に拡げ,且つ前記1/4の映像以外の映像を消去するようにしたことを特徴とするテレビジョン受像機」(1頁左下欄「特許請求の範囲」),「先ず1/4映像である副放送番組2を画面1一杯に拡大するには,第2図に示すような水平偏向電流4と垂直偏向電流5を作ってそれぞれテレビジョン受像機の水平及び垂直偏向コイルに流してやればよい。そして1/4映像を4倍に拡大する場合,テレビジョン放送波との関係を考えてみると,第3図に示すようになり(a)はテレビジョン放送波のビデオ信号,(b)はフライバックパルスである。そして(c)が1/4映像の副放送番組2を拡大して走査する場合のドライブ電圧波形であり,このときの水平偏向電流が(d)で上記第2図の水平偏向電流4である」(1頁右下欄最終段落〜2頁左上欄第1段落)と記載されるように,甲6公報記載のものは,選択された1/4の映像を引き伸ばし,選択されなかった映像を消去するためにブランキング期間を設定するものであって,第2図,第3図の偏向電流波形から明らかなとおり,画像ないし映像をビデオ表示手段より大きくなるように引き伸ばすものではなく,その一部のみを引き伸ばして表示するものである。
しかしながら,ブランキングの対象となる映像信号が,ビデオ信号で表される画像を表示画面よりも大きくなるように引き伸ばしてその一部を表示するものであっても,あるいは,ビデオ信号の画像の一部を引き伸ばして表示画面に表示するものであっても,表示画面に対応しない映像部分をブランキングする必要があることは当然であり,このことは,甲6公報のみならず,乙4マイクロフィルムにおいて,映像信号を過走査し,画面領域からはみ出た部分をブランキングしていることからも明らかなとおり,本件優先日当時における周知事項であったと認めることができる。
これに対し,原告は,本願発明のようなブランキング期間の使用方法は周知事項ではないと主張する。しかしながら,引用発明は,上記2(2)のとおり,「表示手段に表示する際,ビデオ信号において表されている画像を表示手段よりも大きくなるように引き伸ばす」ものであり,かつ,上記1(5)のとおり,「ピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する手段」を備えているものであると認められ,画像を引き伸ばしてその一部を表示する際に過走査することが,本件優先日当時における当業者の技術常識であったことは,上記2(3)のとおりである。そうすると,引用発明において,表示される画像の上下に存在する表示されない部分は,過走査された映像信号が表示画面からはみ出したものであるとも解されるから,上記周知事項を適用して,この部分をブランキングすれば,「同期成分に対するブランキング期間を位相に関して制御することにより,上記引き伸ばされたピクチャ・ディスプレイ・エリアのどの部分を表示して,どの部分を表示しないかを制御する」という相違点2に係る構成が得られることは明らかであり,原告の上記主張は採用の限りではない。
したがって,審決が,「拡大した映像の部分を表示するとき,表示手段の表示画面に対応しない映像期間をブランキングするためにブランキング期間を設定することも,周知の事項である」と認定した上,これを引用発明に適用して相違点2の容易想到性を肯定した判断に誤りはない。
(3) 以上によれば,原告の取消事由3の主張は理由がない。
4 以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,他に審決を取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 篠原勝美
裁判官 古城春実
裁判官 早田尚貴
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