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関連審決 不服2002-14968
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  参酌 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 44号 審決取消請求事件
原告 大王製紙株式会社
同訴訟代理人弁理士 永井義久
同 守屋昭良
被告 特許庁長官小川洋
同指定代理人 山崎豊
同 鈴木公子
同 高木進
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-14968号事件について、平成15年12月10日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、発明の名称を「使い捨て紙おむつ」とする発明について、平成9年4月9日に出願した特許出願(特願平9-90697号)の一部を分割して、平成11年5月21日に特許出願(特願平11-140899号、以下「本願」という。特開平11-347064号)をしたが、平成14年7月9日付けで拒絶査定を受けたので、同年8月8日、これに対する不服の審判の請求をするとともに、同年9月9日に手続補正(以下「本件補正」という。)をした。
特許庁は、上記審判請求を不服2002-14968号事件として審理した上、平成15年12月10日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、平成16年1月9日、原告に送達された。
(2) 本件補正後の本願の請求項1記載の発明(以下「本願補正発明」という。)の要旨は、本件審決に記載された、以下のとおりである。
【請求項1】透液性トップシートと不透液性バックシートとの間に吸収体を有し、さらに製品の両側にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、
(1)前記吸収体の両側縁より外方であって、かつ、少なくとも股間部において長手方向に沿って; 先端付近に弾性伸縮部材を有し、その収縮力により装着時において着用者側に起立する第2バリヤーカフスと、その位置より内方において、先端付近に弾性伸縮部材を有し、その収縮力により装着時において着用者側に起立する第1バリヤーカフスと、前記吸収体の両側縁より外方であって前記第2バリヤーカフスより外方位置にガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて形成したガスケットカフスとを有し、
(2)前記第1バリヤーカフスを構成するバリヤーシートと前記第2バリヤーカフスを構成するバリヤーシートとを共通の1枚のシートで形成し、
(3)前記第2バリヤーカフスの起立線が、前記ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置していることを特徴とする使い捨て紙おむつ。
(3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願補正発明が、実願平2-403992号(実開平4-90322号)のマイクロフィルム(甲8、以下「引用例」という)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとした上、本件補正は、同法17条の2第5項(平成15年法律第90号による改正前のもの)で準用する同法126条4項(同)の規定に違反するものであり、同法159条1項(平成14年法律第24号による改正前のもの)で準用する同法53条1項(同)の規定により却下すべきものとし、本件補正前の本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)が、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定により、特許を受けることができないとした。
2 原告主張の本件審決の取消事由の要点 本件審決は、本願補正発明と引用発明との相違点1及び2についての判断を誤り(取消事由1、2)、本願補正発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由3)ものであるから、違法として取り消されるべきである(原告は、本願補正発明の進歩性の判断を争うものであり、本件補正が却下された場合の、本願発明の進歩性の判断については、独自の取消事由を主張するものではない。)。
(1) 相違点1の判断の誤り(取消事由1) 本願補正発明と引用発明との相違点1が、本件審決認定のとおり、「本願補正発明は、吸収体の両側縁より外方であって、第2バリヤーカフスより外方位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて形成した、ガスケットカフスを有しているのに対し、引用例に記載されたものは、吸収体(吸液性コア13)の両側縁より外方に位置するベースフラップ14の、第2バリヤーカフス(第1分岐フラップ15)より外方の部分に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けていないので、ガスケットカフスを有さない点」(4〜5頁)であることは認める。また、
「吸収体の両側縁外方にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、横漏れ防止のために、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を、ベースフラップのバリヤーカフスの外側位置に設けて、ガスケットカフスを形成したものは、例えば、引用例に従来技術として紹介されている、特開昭62-250201号公報(・・・)を始めとして、特開平6-14960号公報、特開平7-328067号公報及び特表平8-512224号公報等に示すように周知である」(5頁)こと(以下「本件周知技術」といい、特開昭62-250201号公報、特開平6-14960号公報、特開平7-328067号公報及び特表平8-512224号公報をまとめて「本件周知例」といい、各別には「周知例1」ないし「周知例4」という。)も認める。
しかし、本件審決が、本件周知技術を前提として、「引用例記載のものにおいて、横漏れ防止効果を一層高めるために、ベースフラップの第2バリヤーカフス(第1分岐フラップ15)の外側位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成することは、当業者が容易に想到し得たことである」(同頁)と判断したことは、以下のとおり、誤りである。
ア 引用発明は、横漏れ防止のために、二重のバリヤーカフスを有するものであるが、ガスケットカフスを設けることを示唆していないだけでなく、引用例の段落【0017】に、「分岐縁22、25が存在しない場合に比較して弾性部材21、24の弾性収縮力がベースフラップ14の外側部に強く伝達し該外側部に皺を発生することが少ない」と記載されているから、ベースフラップに皺が発生するのを少なくすることを目的としているのであって、皺を発生させるガスケットカフスを設けないことを必須とするものである。
そもそも、引用発明は、ガスケットカフスを設けないで、二重のバリヤーカフスの構造で横漏れ防止機能を完結させたものであり、二重のバリヤーカフスの構造に、更にガスケットカフスを設けることは困難である。
イ また、本件周知技術は、いずれも、単一のバリヤーカフスの外側にガスケットカフスを設けたものであり、バリヤーカフスを二重とする示唆もない。
ウ 以上のとおり、本件審決は、引用発明と本件周知技術とを組み合わせる契機が存在しないにもかかわらず、これをあると判断しており、誤りである。
(2) 相違点2の判断の誤り(取消事由2) 本願補正発明と引用発明との相違点2が、本件審決認定のとおり、「本願補正発明では、第2バリヤーカフスの起立線が、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置しているのに対し、引用例に記載されたものは、そもそも、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けていないので、第2バリヤーカフス(第1分岐フラップ15)の起立線(分岐縁22)は、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置していない点」(5頁)であることは認める。
しかし、本件審決が、「吸収体の両側縁外方にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、バリヤーカフスの起立線を、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置させることも、例えば、上記「相違点1.について」で示した、特開平6-14960号公報(注、「周知例2」)や、特開平7-328067号公報(注、「周知例3」)に示すように周知であるので、相違点2に係る構成のようにすることも、当業者が容易に想到し得たことである」(同頁)と判断したことは、
誤りである。
すなわち、本願補正発明の「近傍」とは、本願に係る明細書(甲3、以下「本願明細書」という。)の【0019】に記載のとおり、10mm以下の離間距離を意味するのである。これに対し、上記周知例2及び3の図面の記載のみに基づいて「近傍」を判断するのは、当然に誤りであり、また、上記の周知例には、「近傍に」ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けることで、「外側の」「第2バリヤーカフス」を更に起立させる思想もない。
(3) 顕著な作用効果の看過(取消事由3) 本願補正発明は、幅方向内側から順に、第1バリヤーカフス、第2バリヤーカフス及びガスケットカフス用弾性伸縮部材を有する基本構成とするとともに、
「前記第2バリヤーカフスの起立線が、前記ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置している」構成等を組み合わせて採用したことにより、横漏れ防止効果が顕著に現れるほか、本願明細書に記載される(甲3【0023】〜【0029】)下記ア〜キの利点がもたらされる。
このような作用効果は、引用例又は引用例と周知技術との組合せから到底予想できるものではない特有のものであり、本件審決は、本願補正発明の顕著な作用効果を看過したものである。
ア 第1バリヤーカフス10のほか、第2バリヤーカフス20があるために、第1バリヤーカフス10によって阻止できなった体液(軟便も含む)を、第2バリヤーカフス20で阻止できる。
イ ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・(6Aも含めて)の収縮力によって、第2バリヤーカフス20の自由部分はより大きく起立するので、例えば図2のh2>h1にあるときには、第1バリヤーカフス10によって阻止できなった体液(軟便も含む)を第2バリヤーカフス20で阻止する機能がより顕著に現れる。
ウ 第2バリヤーカフス20の自由部分はより鉛直(図2基準)方向に起立するので、第1バリヤーカフス10の自由部分と第2バリヤーカフス20の自由部分との間隔又は空間が(展開状態より)大きくなり、第1バリヤーカフス10によって阻止されずにこれを越えた体液をその間において保持できるようになり、第2バリヤーカフス20で阻止する機能が顕著に現れる。
エ 前記イ及びウの結果、第2バリヤーカフス20のバリヤーカフス用弾性伸縮部材22の収縮力を弱めても差し支えなくなるので、着用者に対する過度の圧迫から解放できる。
オ ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・(6Aも含めて)は、第2バリヤーカフス20の起立効果を高めるほか、それ自体で、製品の脚回り部分を着用者にフィットさせ、また、仮に第2バリヤーカフス20を体液が越えたとしても、そこで阻止できるとともに、第2バリヤーカフス20が液分で湿潤したとき、
それ以上の外方への湿潤を阻止し、防湿性を高める。さらに、ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・の収縮力作用領域が着用者の脚回り部分にフィットするので、第1バリヤーカフス10の自由部分と第2バリヤーカフス20の自由部分が、それ以上に外側に折り返されてはみ出ることがなく、かつ、常に内側に向いて起立し、本来のバリヤーカフスの機能を良好に発揮する。
カ ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・を付加することで、上記の機能が十全に発揮されるため、第1バリヤーカフス10の自由部分の幅方向長さより第2バリヤーカフス20の自由部分の幅方向長さは小さくでき、かつ、コストの上昇は殆どなく、しかも、全体の機能とのバランスからして、コスト的には極めて優れたものとなる。具体的には、第1バリヤーカフス10の自由部分の幅方向長さを30〜50mmとしたとき、第1バリヤーカフス10の起立線と第2バリヤーカフス20の起立線との間の易変形領域が、第2バリヤーカフス20の自由部分と連動するので、第2バリヤーカフス20の自由部分の幅方向長さは、第1バリヤーカフス10の自由部分の幅方向長さより20〜40mm小さくできる。
キ 第1バリヤーカフス10の起立線と第2バリヤーカフス20の起立線との間を離すことで、ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・の収縮力によって、第1バリヤーカフス10と第2バリヤーカフス20との間にポケット(各バリヤーカフスの自由部分間の空間)ができ、第1バリヤーカフス10で阻止できなかった体液(軟便も含む)を第2バリヤーカフス20で阻止する機能が顕著に現れる。具体的には、第1バリヤーカフス10の起立線と第2バリヤーカフス20の起立線とは10〜40mm離間させることが望ましい。
3 被告の反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は、いずれも理由がない。
(1) 取消事由1について ア 一般に、紙おむつの横漏れ防止手段として、ガスケットカフスとバリヤーカフスとが周知であるが、ガスケットカフスは、主に紙おむつを脚回りに密着させることにより横漏れを防ぐものであるのに対し、バリヤーカフスは、主にその内側に収容部を形成し、収容部で排泄物を堰き止め、保持することにより横漏れを防ぐものである(周知例1(甲10)参照)。
そこで、両者の機能が異なることから、より良好に横漏れを防止するために、ガスケットカフスとバリヤーカフスの両者を併用しようという契機が存在することは、明らかなことであって、格別併用を妨げる事情も存在しない。
そして、このような契機は、バリヤーカフスを複数備える紙おむつにおいても同様に存在するものであり、バリヤーカフスを複数備えれば、ガスケットカフスが不要であるというものでもない。
イ 引用例の段落【0017】の記載は、第1及び第2分岐フラップ15,16が、それぞれの分岐縁22,25を支点ラインとして起立する場合は、分岐縁22,25が存在しない場合に比べ、ベースフラップ14の外側部に皺を発生することが少ないという事実を、単に述べたにとどまるものであり、皺が発生すると問題があるとか、皺を生じないようにすべきであるといった記載は、引用例には見出せない。
したがって、引用例の当該記載は、引用発明の紙おむつのベースフラップにガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けることの、阻害要因とは到底なり得ないものである。
ウ バリヤーカフスを有する紙おむつにガスケットカフスを形成するに当たり、バリヤーカフスが単一でなければ、ガスケットカフスを形成することが困難であるといったような事情も特に見あたらないのであるから、本件周知技術に基づいて、引用発明の第2バリヤーカフス(第1フラップ151)起立線(分岐縁22)の外側位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成し、相違点1に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかも、周知例4(甲13)には、側方ストリップ23の起立部(部分28)と、カバーシート3とからなる二つの縦フラップによって、「二重バリヤ」を形成しているおむつにおいて、カバーシート3の起立部の外側に弾性股素子10を設けて、ガスケットカフスを形成したものが記載されている。このバリヤーカフスは、本願補正発明のバリヤーカフスのように、「起立線から自由端に至る自由部分が互いに分離して」いるものではないが、二重のバリヤーカフスであることには違いはないから、同周知例には、二重のバリヤーカフスの外側にガスケットカフスを設けたものも例示されている。
なお、二重のバリヤーカフスを備えるおむつにおいても、ガスケットカフスを形成したものは周知である(乙1、2)。
(2) 取消事由2について 本願明細書の段落【0019】には、「近傍」の範囲として、10mm以内の位置が「好適」と記載されているのみであって、本願補正発明では、「近傍」という用語を「10mm以内の位置」の意味に限って用いる旨の定義が記載されているわけではない。
したがって、本願明細書に「近傍」という用語を特定の意味で用いる旨の定義もなく、また、特許請求の範囲の記載の解釈に当たって、明細書の記載を参酌すべき格別の事情もないのであるから、「近傍」が10mm以下の離間距離を意味することを前提とした原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない主張であって、失当である。
(3) 取消事由3について 原告が、本願補正発明に顕著なものとして主張する、上記作用効果ア〜ウ、オ及びキは、いずれも、引用発明又は本件周知技術により、当業者が当然期待し得た程度の作用効果にすぎない。また、上記作用効果エ及びカは、特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから、本願補正発明の顕著な作用効果ということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点1の判断の誤り)について (1) 本願補正発明と引用発明との相違点1が、本件審決認定のとおり、「本願補正発明は、吸収体の両側縁より外方であって、第2バリヤーカフスより外方位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて形成した、ガスケットカフスを有しているのに対し、引用例に記載されたものは、吸収体(吸液性コア13)の両側縁より外方に位置するベースフラップ14の、第2バリヤーカフス(第1分岐フラップ15)より外方の部分に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けていないので、ガスケットカフスを有さない点」(4〜5頁)であることは、当事者間に争いがない。
また、本件周知例(甲10〜13)に、「吸収体の両側縁外方にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、横漏れ防止のために、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を、ベースフラップのバリヤーカフスの外側位置に設けて、ガスケットカフスを形成」(5頁)するという本件周知技術が開示されていることも、当事者間に争いがない。
(2) 原告は、本件審決が、本件周知技術を前提として、「引用例記載のものにおいて、横漏れ防止効果を一層高めるために、ベースフラップの第2バリヤーカフス(第1分岐フラップ15)の外側位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成することは、当業者が容易に想到し得たことである」(5頁)と判断したことが誤りであると主張するので、以下検討する。
ア まず、原告は、引用例の段落【0017】に、「分岐縁22、25が存在しない場合に比較して弾性部材21、24の弾性収縮力がベースフラップ14の外側部に強く伝達し該外側部に皺を発生することが少ない」と記載されているから、引用発明は、ベースフラップに皺が発生するのを少なくすることを目的としているのであって、皺を発生させるガスケットカフスを設けないことを必須とするものであると主張する。
そこで、検討するに、引用例(甲8)の段落【0017】には、「前記構成を有するオムツ10の組み立て状態においては、図1,2,3に示すように、
第1及び第2分岐フラップ15,16は、それぞれの自由縁28,29に位置する弾性部材21,24の弾性収縮力によりそれぞれの分岐縁22,25を支点ラインとして上方向(着用者の身体側)へ起き上がる。このとき、第1及び第2分岐フラップ15,16が、ぞれぞれの分岐縁22,25の部位で倒T字状に、ベースフラップ14に交差又はベースフラップ14に対して屈折していることから、弾性部材21,24の弾性収縮力が、そのままの強い力で、分岐縁22,25からベースフラップ14の外側方向へ伝達することが少ない。従って、分岐縁22,25が存在しない場合に比較して弾性部材21,24の弾性収縮力がベースフラップ14の外側部に強く伝達して該外側部に皺を派生することが少ない。」と記載されている。
上記記載によれば、引用発明において、第1及び第2分岐フラップ15,16が、それぞれの分岐縁22,25を支点ラインとして起立することから、
分岐縁22,25が存在しない場合と比較して、弾性部材21,24の弾性収縮力が、そのままの強い力でベースフラップ14の外側部に伝達されない結果、該外側部に皺を発生することが少ないという客観的事実が開示されているものと認められる。しかし、上記記載によって、引用発明が、ベースフラップに皺が発生するのを少なくすることを目的としていると認定することは困難であり、引用例全体の他の記載をみても、引用発明の目的を上記のように解する根拠は見出せない。かえって、引用発明の実施例を示す図2には、ベースフラップ14の外側部に皺のあるオムツ10が開示されていることからも、引用発明自体が皺の発生を問題にしていないものと推測される。
したがって、原告の上記主張は、到底採用することができない。
また、原告は、引用発明が、二重のバリヤーカフスの構造で横漏れ防止機能を完結させたものであり、二重のバリヤーカフスの構造に、更にガスケットカフスを設けることは困難であると主張する。
しかしながら、使い捨て紙おむつは、排泄物を吸収・収容するものであり、厳重にその漏れを防ぐべきものであることは技術常識といえるから、引用発明の紙おむつが、二重のバリヤーカフスを備えるものであるとしても、排泄物の漏れ防止効果を一層高めるために、二重のバリヤーカフスに加えて、更にその外側にガスケットカフスを設けることは当業者が容易に想到し得る事項である。また、引用例の記載を子細に検討しても、二重のバリヤーカフスによって、横漏れ防止機能をすべて完結させた(すなわち、他の横漏れ防止手段を採用できない。)と認めるべき事項は認められず、更にガスケットを設けることにより格別の不都合が生じるような事項も認められない。
したがって、原告の上記主張は、合理的な根拠を欠く独自の見解であり、これを採用することはできない。
イ さらに、原告は、本件周知技術が、いずれも、単一のバリヤーカフスの外側にガスケットカフスを設けたものであり、バリヤーカフスを二重とする示唆もないと主張する。
しかしながら、本件周知技術は、バリヤーカフスの外側位置にガスケットカフスを設けることに関するものであり、当該バリヤーカフスが単一であるか二重であるかにより、その適用が左右されるものではない。しかも、二重のバリヤーカフスの構造を有する引用発明に、更にガスケットカフスを設けることに困難性がないことは、前示のとおりである。なお、特開平2-174845号公報(乙1)及び特開平9-24063号公報(乙2)によれば、二重のバリヤーカフスの外側位置に更にガスケットカフスを設けることも、本願の出願当時、周知であったものと認められる。
したがって、いずれにしても原告の主張を採用する余地はない。
ウ 結局、上記ア、イの各主張を前提とした上、引用発明と本件周知技術とを組み合わせる契機が存在しないにもかかわらず、これが存在すると判断した本件審決は誤りである旨の原告の主張は、上記前提の主張自体を採用することができないから、理由がない。
むしろ、引用発明において、二重のバリヤーカフスの構造が、横漏れ防止機能のために設けられたことは、原告も認めるところである。また、本件周知技術が、横漏れ防止のために、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を、バリヤーカフスの外側位置に設けて、ガスケットカフスを形成させるものであることは、前示のとおりである。
そうすると、バリヤーカフスを有する紙おむつである引用発明について、軟便を含む体液などの排泄物の横漏れ防止の観点から、本件周知技術を適用し、バリヤーカフスの外側位置にガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成することは、当業者にとって容易に想到できることであり、その適用を困難とする事由がないことは明らかである。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について (1) 本願補正発明と引用発明との相違点2が、本件審決認定のとおり、「本願補正発明では、第2バリヤーカフスの起立線が、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置しているのに対し、引用例に記載されたものは、そもそも、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けていないので、第2バリヤーカフス(第1分岐フラップ15)の起立線(分岐縁22)は、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置していない点」(5頁)であることは、当事者間に争いがない。
(2) 原告は、本件審決が、「吸収体の両側縁外方にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、バリヤーカフスの起立線を、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置させることも、例えば、上記「相違点1.について」で示した、特開平6-14960号公報(注、周知例2)や、特開平7-328067号公報(注、
周知例3)に示すように周知であるので、相違点2に係る構成のようにすることも、当業者が容易に想到し得たことである」(5頁)と判断したことが誤りであると主張する。
しかしながら、周知例2(甲11)の図2及び周知例3(甲12)の図1には、バリヤーカフスの起立線を、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置させることが開示されているから、本件審決における上記周知事項(以下「本件周知事項」という。)の認定に誤りはなく、当業者であれば、第2バリヤーカフスの起立線を設ける位置として、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍を選択できることは、自明なことといわなければならない。
そうすると、引用発明において、本件周知技術を適用し、第2バリヤーカフスの外側位置にガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けるに際して、本件周知事項を考慮し、当該バリヤーカフスの起立線を、ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置させて、本願補正発明の相違点2に係る構成のようにすることも、当業者が適宜選択し得る事項であると認められ、本件審決の前記説示に誤りはない。
したがって、原告の上記主張を採用することはできない。
(3) 原告は、本願補正発明の「近傍」とは、本願明細書の段落【0019】に記載されるように、10mm以下の離間距離を意味するのであり、上記周知例2及び3の図面の記載のみに基づいて「近傍」を判断するのは、当然に誤りでありと主張する。
しかしながら、本願補正発明の特許請求の範囲の請求項1には、「近傍」について、「前記第2バリヤーカフスの起立線が、前記ガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置している」と記載されており、第2バリヤーカフスの起立線とガスケットカフス用弾性伸縮部材が近接した位置関係にあるものと明確に理解されるが、両者の近接の程度の具体的間隔は限定されていない。そして、本願補正発明における第2バリヤーカフスの起立線とガスケットカフス用弾性伸縮部材との位置関係が、数値的に確定していないとしても、上記のように一義的に明確に理解することができ、一見してその記載が誤記であることが発明の詳細な説明に照らして明らかであるなどの特段の事情が見当たらない以上、本願補正発明における「近傍」の意味を解釈するに当たって、明細書の発明の詳細な説明の記載(【0019】等)を参酌する必要がないことは明らかである。
そうすると、「近傍」が10mm以下の離間距離を意味するとする原告の主張は、特許請求の範囲の記載に基づかない独自の見解であって、これを採用する余地はなく、周知例2の図2及び周知例3の図1に、バリヤーカフスの起立線をガスケットカフス用弾性伸縮部材の近接した位置に配置させることが開示されていることは、前示のとおりである。
また、原告は、本件周知事項には、「近傍に」ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けることで、外側の第2バリヤーカフスを更に起立させる思想がないと主張する。
しかしながら、本件審決が相違点2の判断において認定した本件周知事項は、前示のとおり、バリヤーカフスの起立線とガスケットカフス用弾性伸縮部材との位置関係についてのものであり、この認定と外側の第2バリヤーカフスを更に起立させる思想があるか否かは、関わりのないことであるから、原告の上記主張は、
本件審決の論旨を正解せずに論難するものであって、失当といわなければならない。
3 取消事由3(顕著な作用効果の看過)について 原告は、本願補正発明が、相違点1及び2に係る構成を組み合わせて採用したことにより、横漏れ防止効果が顕著に現れるほか、本願明細書に記載される前記ア〜キの利点がもたらされるものであり、このような作用効果は、引用例又は引用例と周知技術との組合せからは予想できない特有のものであると主張する。
しかしながら、第1バリヤーカフス及び第2バリヤーカフスを有する引用発明に、本件周知技術を適用してガスケットカフス用弾性伸縮部材を配置するとともに、本件周知事項を勘案して第2バリヤーカフスの起立線をガスケットカフス用弾性伸縮部材の近傍に位置させれば、原告が本願補正発明に顕著な作用効果として主張する前記ア〜ウ、オ及びキが生じることは、当業者が容易に予測できるものであって、顕著な作用効果とはいえないから、当該作用効果により本願補正発明の進歩性を裏付けることはできない。また、第2バリヤーカフスのバリヤーカフス用弾性伸縮部材の収縮力を弱めること及び第1バリヤーカフスの自由部分の幅方向長さより第2バリヤーカフスの自由部分の幅方向長さを小さくすることは、いずれも本願補正発明の特許請求の範囲に記載のない事項であるから、原告が本願補正発明に顕著な作用効果として主張する前記エ及びカは、本願補正発明が常に有する固有の効果ということはできず、この作用効果により本願補正発明の進歩性を裏付けることもできない。
したがって、原告の上記主張もこれを採用することはできない。
4 結論 そうすると、本願補正発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件補正は却下すべきものであるところ、本件補正前の本願発明が、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは、前記説示と同様であるから、特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件審決には誤りがなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 上田卓哉