関連ワード | 発明者 / 技術的思想 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 引用発明の認定 / 発明特定事項 / 相違点の認定 / 慣用技術 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 加工 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10212号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/02/29 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年2月29日判決言渡 平成23年(行ケ)第10212号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成24年2月15日 判 決 原 告 株 式 会 社 鶴 見 製 作 所 訴訟代理人弁理士 本 田 紘 一 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 堀 川 一 郎 大 河 原 裕 倉 橋 紀 夫 黒 瀬 雅 一 田 村 正 明 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 原告が求めた判決 特許庁が不服2009−21659号事件について平成23年5月30日にした 審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件訴訟は,特許出願拒絶査定を不服とする審判請求を成り立たないとした審決 の取消訴訟である。争点は,進歩性の有無である。 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年10月14日,名称を「可搬式水中電動ポンプ用DCブラシ レスモータ」とする発明につき,特許出願をしたが(請求項は1項のみ,特願平1 1−292115号) 平成21年10月13日に拒絶査定を受けたので, , 同年11 月9日,不服審判請求をするとともに(不服2009−21659号),平成23年 3月3日,特許請求の範囲及び発明の詳細な説明の記載の各一部を改める旨の手続 補正をした。 特許庁は,平成23年5月30日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審 決をし,その謄本は同年7月2日,原告に送達された。 2 本願発明の要旨 本願発明は,水中電動ポンプの原動機に用いられるDCブラシレスモータに関す る発明で,平成23年3月3日付け手続補正書に記載の請求項1(本願発明)の特 許請求の範囲は以下のとおりである。 「可搬式水中電動ポンプ用DCブラシレスモータにおけるステータの外周面を囲 うモータフレームの両端方向から,それぞれ中心部に軸受を有するベアリングブラ ケットを対設させ,原動側ベアリングブラケットの軸受にはアルミニウム合金製モ ータ軸の原動側導出部を枢支させ,負荷側ベアリングブラケットの軸受には,ポン プ羽根車が装着されるアルミニウム合金製モータ軸の負荷側導出部を枢支させ,ス テータの内周面と対向する部位におけるアルミニウム合金製モータ軸外周面を原動 側導出部および負荷側導出部よりも大径部として形成して,該大径部の外周面に磁 性筒を嵌着させ,該磁性筒の外周面において,その円周方向に沿って,複数枚の磁 石板を定間隔に並列させた態様で定着することにより小型軽量のロータを構成させ 水中電動ポンプを可搬とさせたことを特徴とする,可搬式水中電動ポンプ用DCブ ラシレスモータ。」 3 審決の理由の要点 本願発明は,本件出願日以前に頒布された下記引用刊行物1に記載された発明に 引用刊行物2に記載された発明及び周知慣用技術を適用することに基づいて,本件 出願当時,当業者において容易に発明することができたものであるから,進歩性を 欠く。 【引用刊行物1】特開平9−137794号公報(甲1) 【引用刊行物2】特開平2−58018号公報(甲2) 【引用刊行物3】特開平4−285446号公報(甲3) 【引用刊行物1に記載された発明(引用発明)】 「水中ポンプ用のDCブラシレスモータ1における固定子鉄心2の外周面を囲う モータフレーム4の両端方向から,それぞれ中心部に玉軸受11a,11bを有す るエンドブラケット8,9を対設させ,エンドブラケット8の玉軸受11aにはモ ータ回転軸5の原動側導出部を枢支させ,エンドブラケット9の玉軸受11bには, ポンプランナー46が固定されるモータ回転軸5の負荷側導出部を枢支させ,固定 子鉄心2の内周面と対向する部位におけるモータ回転軸外周面を原動側導出部およ び負荷側導出部よりも大径部として形成して,該大径部の外周面にロータヨーク6 を圧入して締結させ,該ロータヨーク6の外周面において,メインマグネット7を 接着固定させた,軽量の水中ポンプ用DCブラシレスモータ1。」 【一致点】 「水中電動ポンプ用DCブラシレスモータにおけるステータの外周面を囲うモー タフレームの両端方向から,それぞれ中心部に軸受を有するベアリングブラケット を対設させ,原動側ベアリングブラケットの軸受にはモータ軸の原動側導出部を枢 支させ,負荷側ベアリングブラケットの軸受には,ポンプ羽根車が装着されるモー タ軸の負荷側導出部を枢支させ,ステータの内周面と対向する部位におけるモータ 軸外周面を原動側導出部および負荷側導出部よりも大径部として形成して,該大径 部の外周面に磁性体を嵌着させ,該磁性体の外周面において,磁石板を定着させた, 軽量の水中電動ポンプ用DCブラシレスモータ」である点 【相違点】 ・相違点1 「水中電動ポンプ用DCブラシレスモータ」に関し,本願発明が「可搬式」であ るのに対し,引用発明はそのような特定をしていない点。 ・相違点2 「モータ軸」に関して,本願発明が「アルミニウム合金製」と特定しているのに 対して引用発明では,そのような特定をしていない点。 ・相違点3 「磁性体」に関し,本願発明が「磁性筒」であるのに対し,引用発明では磁性で はあるものの「筒」状であるとは特定されていない点。 ・相違点4 「磁石板を定着させ」た態様に関し,本願発明が「その円周方向に沿って,複数 枚の磁石板を定間隔に並列させた態様で定着する」態様であるのに対し,引用発明 では単に「接着固定させ」るものである点。 ・相違点5 本願発明が,ロータを「小型軽量」に構成させて水中電動ポンプを「可搬とさせ」 ているのに対し,引用発明では,単にモータ自体を軽量化するものである点。 【相違点に係る構成の容易想到性の判断(5〜7頁)】 「[相違点1,2および5]について モータにおいて,軽量化するために回転子をアルミニウム合金で構成することは引用刊行物 2に記載されている。引用発明は軽量化を課題としており,この課題解決のために引用刊行物 2に記載されたように回転子をアルミニウム合金で構成すればさらに軽量になるものと認めら れるので引用発明において,軽量化のために引用刊行物2に記載されたように回転子をアルミ ニウム合金とする構成を採用することで相違点1に係る本願発明の構成とすることは当業者が 容易になし得たことと認められる。 そして,本願発明では軽量化することで可搬式としているものと認められるところ,軽量化 により可搬とすることは一般的な課題(例.原査定の拒絶査定時に引用された実願平3−50 725号(実開平4−134148号)のマイクロフィルムの【0001】 「大型水中ポンプの アルミダイキャスト製モーターフレームに関するものである。」との記載,及び【0005】 「軽 量で運搬にも便利な電動ポンプのモータフレームを提供することにある。」との記載参照。)と いえるので,引用発明においても引用刊行物2に記載の構成を採用することでさらに軽量化す るものであり,その結果として,可搬式とすることで,相違点1,2および5に係る本願発明 の構成とすることは当業者が容易になし得たことと認められる。さらに,水中ポンプの小型化 も一般的な課題に過ぎず,かつ,本願発明において,小型化のために引用発明とは相違する構 成を有するものとも認められないので,この点は当業者が必要に応じて適宜設計し得る事項と 認められる。 [相違点3,4]について 本願発明のDCブラシレスモータに相当する永久磁石電動機において,磁性体として磁性筒 を用いること,及び,磁性筒の外周面の円周方向に沿って,複数枚の磁石板を定間隔に並列さ せた態様で定着させることは,例えば引用刊行物3に記載されているように周知慣用技術であ る。 そうすると,永久磁石電動機である引用発明において,上記周知の課題である軽量化のため に回転子の磁気回路を薄くする構成を採用する場合に,この引用刊行物3に記載されるような 周知慣用技術を採用することで相違点3,4に係る本願発明の構成とすることは当業者が必要 に応じて任意になし得る事項と認められる。」 「また,本願発明の全体構成により奏される効果は,引用発明,引用刊行物2に記載された 発明及び上記周知慣用技術から予測し得る程度のものと認められる。 ・・・ したがって,本願発明は,引用発明,引用刊行物2に記載された発明及び周知慣用技術に基 づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるので,特許法29条2項の規定によ り特許を受けることができない。」 第3 原告主張の審決取消事由(容易想到性の判断の誤り等) 1 ポンプとモータが一体となっている従来の水中電動ポンプは重くブルドーザ 等で運搬せざるを得ず不便であったが,モータの軽量化と出力維持の両立が困難で あり,可搬化が困難であった。 単にモータ軸をアルミ合金製にしただけでは,磁石板で囲まれる部分の内部で磁 路の形成が阻害され,強力な磁界を形成できず,モータの出力を維持できないから, 可搬化を実現できない。本願発明の発明者は,非磁性体のアルミ合金製のモータ軸 に磁性筒を嵌着させた結果,磁石板で囲まれる部分内部に十分な磁束密度のある磁 路を形成できることを発見し,またモータ軸を大径とすることで,従来の水中電動 ポンプ同様の出力を維持できることを発見して,本願発明に至ったものである。 2 前記1のとおり,単にモータ軸をアルミ合金製にしただけでは可搬化を実現 できないのであって,従前どおりの出力を維持しながら可搬化できるほどに水中電 動ポンプの軽量化を実現することは困難であった。 本願発明の水中電動ポンプは,構成部品であるDCブラシレスモータを, 「ステー タの内周面と対向する部位におけるアルミニウム合金製モータ軸外周面を原動側導 出部及び負荷側導出部よりも大径部として形成して,該大径部の外周面に磁性筒を 嵌着させ」るとともに, 「該磁性筒の外周面において,その円周方向に沿って,複数 枚の磁石板を定間隔に並列させた態様で定着することにより,小型軽量のロータを 構成させ」るという本願発明に特有の構成を採用することによって,可搬できるほ どに軽量化したものであって,モータ軸をアルミ合金製にしたことにとどまるもの ではなく,上記構成は一体不可分のものである。 ところで,引用刊行物2(甲2)には,モータ軸をアルミ合金にすることが記載 されているが,引用刊行物2のモータでは,モータ軸30上に磁石を直接取り付け る構成が採用されていない。従来モータ軸の材料にアルミ合金を採用した場合には, モータ軸に磁石を取り付けるために接着等の何らかの取付け手段を必要としたとこ ろ,本願発明の水中電動ポンプのモータでは,モータ軸に接着剤を用いる等せずに 磁性筒を設け,この磁性筒に直接磁石を取り付けたことで,もともと軽量なDCブ ラシレスモータをさらに軽量化して,これを用いる水中電動ポンプを可搬にしたも のである。 そうすると,引用発明に引用刊行物2記載の技術的事項を適用しても,当業者が 相違点1,2,5に係る構成に想到することは容易でないのであって,これに反し て相違点1, 5に係る構成の容易想到性を肯定した審決の判断には誤りがある。 2, 3 前記1のとおり,本願発明は,非磁性体のアルミ合金製のモータ軸に磁性筒 を嵌着させ,またモータ軸を大径とすることで,従来の水中電動ポンプ同様の出力 を維持しながら,可搬できるほど軽量化したものである。 ところで,引用刊行物3のロータコア10は従来のロータの構成のとおりの円盤 を積層したものであって,その形状は「筒」と到底呼べるものではない。したがっ て,上記ロータコア10と本願発明にいう「磁性筒」とは,構成も,作用効果も全 く異なるのであって,引用刊行物3には,本願発明にいう「磁性筒」自体が記載さ れていない。なお,引用刊行物3には,ロータコア10とアルミ(合金)との組合 せを示唆する記載もない。 なお,アルミは加工しにくいが,鉄材は加工しやすく,加工精度も高いので,本 願発明では,磁性筒の構成を用いることにより,磁石を精度よくモータ軸に取り付 けることができ,かつアルミ合金製のモータ軸を補強することができる。他方,か かる効果は引用刊行物1ないし3等のモータ等からは奏されない。 したがって,アルミ合金製のモータ軸に磁性筒を設け,磁石を磁性筒に取り付け ることで,このモータを使用した水中電動ポンプを可搬できるほど軽量化するとい う本願発明の技術的思想は引用刊行物1ないし3等に開示されていないのであって, 審決がした「本願発明のDCブラシレスモータに相当する永久磁石電動機において, 磁性体として磁性筒を用いること,及び,磁性筒の外周面の円周方向に沿って,複 数枚の磁石板を定間隔に並列させた態様で定着させることは,例えば引用刊行物3 に記載されているように周知慣用技術である。そうすると,永久磁石電動機である 引用発明において,上記周知の課題である軽量化のために回転子の磁気回路を薄く する構成を採用する場合に,この引用刊行物3に記載されるような周知慣用技術を 採用することで相違点3,4に係る本願発明の構成とすることは当業者が必要に応 じて任意になし得る事項と認められる。」との判断には誤りがある。 なお,乙第4号証は磁性筒と磁石板の組合せの周知・慣用の例を示すものではな く,公知例の一つにすぎないし,モータ軸が通常径(軸受部分よりも大きな径とな っている部分は単なる段差にすぎない。 で出力が小さいから, ) 上記結論を左右する ものではない。 4 本願発明は特有の構成を採用することにより,30kg以下という驚異的な 軽量化を実現したものであって,当業者の予測し得ない格別の作用効果がある。 第4 取消事由に対する被告の反論 1 本願明細書の段落【0002】ないし【0005】【0011】【0015】 , , によれば,従来のDCブラシレスモータは交流誘導モータよりも小型軽量であるが, モータ軸が鋼製で,積層鉄心も硅素鋼板を積層して形成していたので,相当程度重 く大型であったところ(従来技術における技術的課題),本願発明は,水中電動ポン プ用DCブラシレスモータにおいて,モータ軸を「アルミニウム合金製モータ軸」 として「小型軽量のロータを構成させ水中電動ポンプを可搬とさせた」ことを特徴 とし(審判請求書3頁(乙1),回答書3頁(乙2)中にも同旨の記載がある。,か ) かる構成を採用したことによって「小型軽量で緊急時の持ち運びに至便な可搬式水 中電動ポンプを構成することができ」るという作用効果を奏するものである。 他方,本願発明における,DCブラシレスモータを, 「ステータの内周面と対向す る部位におけるアルミニウム合金製モータ軸外周面を原動側導出部及び負荷側導出 部よりも大径部として形成して,外大径部の外周面に磁性筒を嵌着させ」るととも に, 「該磁性筒の外周面において,その円周方向に沿って,複数枚の磁石板を定間隔 に並列させた態様で定着することにより小型軽量のロータを構成させ」るという発 明特定事項は,本願明細書中にその技術的意義に係る記載も示唆もなく,例えば磁 性筒や磁石板の大きさ,厚さ,材質等や重量についても本願明細書中で特定がされ ていないから,特段の技術的意義はない。 そうすると,本願発明における上記発明特定事項がDCブラシレスモータの軽量 化に資するものであるとはいえない。 2 引用刊行物2の3頁左下欄14ないし17行や乙第3号証の段落【0004】, 【0005】に記載されているとおり,モータを軽量化することにより電動ポンプ を軽量化し,これを可搬化することは一般的な技術的課題にすぎない。また,軽量 のDCブラシレスモータを採用した引用発明において,モータ軸の素材にアルミ合 金を採用すれば,電動ポンプがさらに軽量になり,その結果として可搬化できるこ とは明らかである。 なお,本願明細書の記載上,磁石の吸着力(磁力)のみによって磁石板を固着す る構成に限定しているものではないし,磁石の吸着力のみで磁石板を固着すると, 回転中の遠心力や回転停止時の慣性力で磁石板がずれる可能性が高いから,技術常 識からみても,本願発明において磁石の吸着力のみで磁石板を固着されているとす るのは困難である。 したがって,モータ軸の素材にアルミ合金を採用すれば当業者において水中電動 ポンプの可搬化を図ることに困難はなく,審決がした相違点1,2,5に係る構成 の容易想到性の判断に誤りはない。 3 本願発明の特許請求の範囲でも,本願明細書の発明の詳細な説明の記載でも, 「磁性筒」の具体的な大きさ,厚さ,材質等について特定されておらず,「磁性筒」 の技術的意義は不明である。 引用刊行物3の段落【0005】【0011】【0013】及び図1,2の各記 , , 載のとおり,ロータコア10の外周面において,円周方向に沿って,複数枚の板状 のマグネット22を定間隔に並列させた態様で定着している構成が開示されている ところ,ロータコア10は,シャフト圧入用の穴が中央に設けられた環状の電磁鋼 板を積層して成るものであるから,その全体の形状は円筒であって,本願発明にい う「磁性筒」に相当する。 また,乙第4号証の段落【0001】【0019】【0020】【0023】及 , , , び図1,2には,円筒状の磁性体すなわち磁性筒を用い,かつ磁性筒の外周面に, 円周方向に沿って定間隔で複数の磁石板を並列させた態様で定着させる構成が開示 されている。 そうすると,引用刊行物3の「ロータコア10」が本願発明にいう「磁性筒」に 相当するとした審決の認定に誤りはないし,DCブラシレスモータに相当する永久 磁石電動機において磁性体として「磁性筒」を用い, 「磁性筒」の外周面に,円周方 向に沿って定間隔で複数の磁石板を並列させた態様で定着させることが本件出願当 時の周知慣用技術であるとした審決の認定にも誤りはない。 なお,アルミは加工しにくいが,鉄材は加工しやすく,加工精度も高いので,本 願発明では,磁性筒の構成を用いることにより,磁石を精度よくモータ軸に取り付 けることができ,かつアルミ合金製のモータ軸を補強することができるという原告 主張の作用効果は,本願明細書に記載も示唆もされていないし,仮に「磁性筒」が かかる作用効果を奏し得るとしても,当業者において予測し得る程度のものにすぎ ない。 そうすると,引用発明に引用刊行物3や乙第4号証に記載された周知慣用技術を 適用することで,本件出願当時,当業者において相違点3,4に係る構成に容易に 想到できたものであるから,この旨をいう審決の判断に誤りはない。 第5 当裁判所の判断 1 引用刊行物1(特開平9−137794号公報,甲1)の段落【0010】, 【0011】【0019】【0025】及び図1,2には,前記のとおりの引用発 , , 明の構成が開示されているところ,引用刊行物1の段落【0006】には「本発明 は,外観形状の大型化を抑制しつつ,高効率且つ高起動トルクを発生するDCブラ シレスモータを使用して安定した吐出量が得られる水中ポンプを実現すること(を) 目的とするものである。」との記載があるし,上記段落【0019】には,「水中ポ ンプは,ポンプ性能の改善と共に軽量化・・・も製品構造上の重要事項である。」と の記載があるから,引用発明の水中電動ポンプにおいても,小型化,軽量化ととも に,出力の向上が企図されているということができる。 そうすると,引用発明の水中電動ポンプの構成部分であるDCブラシレスモータ のモータ回転軸(モータ軸)の素材として,例えば引用刊行物2(特開平2−58 018号公報,甲2)3頁左下欄14ないし17行に記載されているようなアルミ 合金を採用し(なお,DCブラシレスモータの回転軸(モータ軸)の素材にアルミ 合金を採用することは,当業者の周知慣用技術であるともいうことができる。,さ ) らにDCブラシレスモータ(水中電動ポンプ)を軽量化できるよう改める動機付け があるところ,本件出願当時,当業者において相違点2に係る構成に想到すること は容易であったということができる。 そして,水中電動ポンプを十分に軽量化すれば重機等で運搬することを要せず, 人力による運搬が可能となること(可搬化)は明らかであって,後記のとおりモー タの出力を犠牲にしなくてもよいことにもかんがみれば, 「その結果として,可搬式 とすることで,相違点1,2および5に係る本願発明の構成とすることは当業者が 容易になし得たことと認められる。(6頁)との審決の判断に誤りはない。 」 この点,原告は,単にモータ軸をアルミ合金製にしただけでは可搬化を実現でき ないのであって,従前どおりの出力を維持しながら可搬化できるほどに水中電動ポ ンプの軽量化を実現することは困難であり,本願発明に特有の構成を採用すること によって,可搬できるほどに軽量化したものであるなどと主張する。 しかしながら,引用刊行物1の水中電動ポンプには,これを運搬するための取っ 手30aが設けられているのであって(段落【0022】,図7,8),十分小型化, 軽量化して可搬式とすることが考慮されているということができる。また,前記の とおり,引用刊行物1の水中電動ポンプにおいても出力の向上が意図されており, 出力を犠牲にしてまでも小型化,軽量化を優先させた等の事情を窺わせるに足りる 記載は引用刊行物1中に存しない。加えて,原告主張によれば,本願発明の水中電 動ポンプ(DCブラシレスモータ)の出力の確保はモータ軸を大径のものとするこ とによって初めて実現されているところ,引用刊行物1のDCブラシレスモータで は,モータ回転軸5は大径のものとされているのであって,原告が主張する観点か らも,引用刊行物1の水中電動ポンプにおいては出力の確保との両立が困難である ということはできない。そうすると,水中電動ポンプの十分な小型化,軽量化と十 分な出力の確保との両立の見地から,モータ軸(回転軸)をアルミ合金製のものに 改めること以外の方策も必要であるとしても,審決がした相違点1,2および5に 係る上記容易想到性判断に誤りはない。 なお,引用刊行物1の図1,2(下記)では,審決が説示するとおり,モータ回 転軸5の上側の玉受軸11aで枢支される部分と下側の玉受軸11bとで枢支され る部分との間の直径がその余の部分よりも大きくなっており(大径部) この大径部 , の外周にロータヨーク6を介してメインマグネット7が取り付けられている(2, 3頁)かかる直径の差を設けた趣旨が工作上の必要性に基づいて段差を設けたにす 。 ぎないことを窺わせるに足りる記載は引用刊行物1中に存しないし,ロータヨーク 6等が取り付けられている回転軸が大径であることを前提とする審決の引用発明の 認定,一致点及び相違点の認定,相違点に係る構成の容易想到性判断に誤りがある ものではない。 【図1】 【図2】 2 引用刊行物3(特開平4−285446号公報,甲3)の段落【0005】, 【0013】及び図1,2には,中央の穴に歯状の凹凸のある環状(ドーナツ状) の電磁鋼板の薄板を多数積層して円筒状のロータコア10を形成し,ロータコア1 0の外側面(外周)には,円周方向に沿って定間隔(ほぼ等間隔)で複数の薄板の マグネット22を取り付けた上で,このロータコア10を電動機のシャフト(回転 軸)に圧入して結合させる構成が記載されている。 そうすると,引用刊行物3に記載された上記技術的事項を引用発明に適用するこ とで,本件出願当時,当業者において相違点3及び4に係る構成に容易に想到する ことができたものである。 原告は,引用刊行物3のロータコア10は従来のモータ軸の構成のとおりの円盤 を積層したものであって,その形状は「筒」と到底呼べるものではなく,引用刊行 物3のロータには,本願発明にいう「磁性筒」自体が記載されていないなどと主張 する。確かに,本願明細書(甲6)の段落【0003】には, 「従来のDCブラシレ スモータにおけるモータ軸105は鋼製であり,環状に打ち抜かれた多数枚の硅素 鋼板を積層してなる積層鉄心110を鋼製モータ軸105に嵌着させ,積層鉄心1 10の外周面においてその円周方向に沿って複数本の棒状磁石111を定間隔に並 列させたロータ構造となっている。従って,直径・重量共に相当程度大となり,D Cブラシレスモータを用いた可搬式水中電動ポンプも可搬式として好適といえる程 には小型軽量化されることにはならない。 との記載があるから, 」 本願発明は多数の 環状の硅素鋼板(電磁鋼板)を積層して成る円筒状の積層鉄心の問題点(過大な直 径及び重量)を踏まえてなされたものであるということができ,また引用刊行物3 のロータコア10はかかる積層鉄心と同等の性格のものである。しかしながら,本 願発明においては,モータ軸に嵌着される筒状の磁性体である「磁性筒」の直径や 重量等について特定がされていないし,明細書の発明の詳細な説明中にもかかる直 径等についての記載も示唆もないものであるから,本願発明にいう「磁性筒」と引 用刊行物3のロータコア10とをその形状に関して対比することはできず,したが って,上記ロータコア10の形状が,本願発明の構成との対比の見地から, 「筒」で はないなどということはできない。また,そもそも,本願明細書の上記記載は,モ ータ軸が鋼製であることを前提にして,従来技術のDCブラシレスモータの問題点 を指摘するものであるから,アルミ合金製のモータ軸に円筒状の磁性体であるロー タコア10を取り付ける場合とでは場面を異にし,単純に上記ロータコア10のよ うな積層鉄心の構成が本願発明において排除されるとするのは適切でない。そうす ると,引用刊行物3に記載された技術的事項を適用して本願発明の「磁性筒」に係 る相違点3,4の容易想到性を肯定した審決の判断に誤りはない。 また,引用刊行物3中にモータ軸の素材としてアルミ合金を用いることを示唆す る記載がないとしても,非磁性体であるアルミ合金をモータ軸の素材として採用す れば,磁路の形成が阻害されてモータの十分な出力が得られないことは当業者には 明らかであって,そうするとかかる場合,モータの十分な出力を得るために引用刊 行物3に記載された技術的事項を採用する動機付けがあるというべきで,引用発明 にかかる技術的事項を適用する上で困難があるものではない。また,そもそも引用 刊行物3に記載されている技術的事項は電動機のシャフト(モータ軸)に内周に歯 状の凹凸があるロータコアを嵌着させるというものであって(特許請求の範囲) ア , ルミ合金製のモータ軸に係るロータコアを嵌着させることができること及びその作 用効果は,当業者において予測し得る程度のものにすぎないから,かかる記載がな くても,相違点3及び4の容易想到性に対して支障は生じない。 また,原告は,引用刊行物1ないし3等のモータからは,加工容易性,高い加工 精度に係る磁性筒の効果が奏されないなどと主張するが,かような作用効果は本願 明細書に記載されていないし,当業者において予測可能な程度の事柄にすぎないか ら,かかる副次的な作用効果があったとしても,審決の前記容易想到性判断を左右 するものではない。なお,本願明細書には磁石板の「定着」の具体的方法について 記載も示唆もないから,特許請求の範囲の記載にいう磁性筒への磁石板の「定着」 が磁石板の磁力(吸着力)のみによるものであると限定することはできず,引用刊 行物3の磁石板の定着方法と相違するとはいうことができない。 3 引用発明と本願発明の相違点に係る構成を採用すれば,DCブラシレスモー タ自体も,これを構成部品とする水中電動ポンプも,十分軽量化し,可搬式のもの となることは当業者において予測可能なものであって,本願発明の作用効果は当業 者の予測し得ない格別のものということはできない。 原告は,本願発明は特有の構成を採用することにより,30kg以下という驚異 的な軽量化を実現したものであるなどと主張するが,本願明細書(甲6)の段落【0 011】に, 「なお,本発明の水中電動ポンプ用DCブラシレスモータにおけるロー タ部分は既述の構成によって小型かつ超軽量に作られているが,モータフレーム1, 原動側ベアリングブラケット3及び負荷側ベアリングブラケット4の材料について も,例えばアルミニウム合金のように軽量で強靭なものを選定すれば,モータ全体 を小型かつ超軽量に構成することができ,可搬式水中電動ポンプ用のモータとして 好適なものとなる。更にはアルミニウム合金等で作られたポンプ部分と組み合わせ ることによってポンプ全体を超軽量化し得ることになる。と記載されているとおり, 」 水中電動ポンプの小型化,軽量化には,DCブラシレスモータのロータ部分以外の 軽量化や,モータ部分以外の部分の軽量化も寄与するのであって,原告が主張する 軽量化の実績を考慮しても,本願発明に当業者の予測を超えた格別に有利な効果が あるとまではいえない。 4 結局,本件出願当時,引用発明に引用刊行物2,3記載の発明ないし技術的 事項を適用することによって,当業者において各相違点に係る構成に容易に想到す ることができ,また,相違点に係る構成を達成したことで当業者の予測できない格 別の作用効果を奏するものではないから,本願発明は進歩性を欠くものである。そ うすると,上記と同旨の審決の判断に誤りはない。 第6 結論 以上によれば,原告が主張する取消事由は理由がないから,主文のとおり判決す る。 知的財産高等裁判所第2部 裁判長裁判官 塩 月 秀 平 裁判官 古 谷 健 二 郎 裁判官 田 邉 実 |