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関連審決 不服2002-14967
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  相違点の判断 /  周知技術 /  技術常識 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 58号 審決取消請求事件
原告 大王製紙株式会社
同訴訟代理人弁理士 永井義久
同 守屋昭良
被告 特許庁長官小川洋
同指定代理人 山崎豊
同 鈴木公子
同 高木進
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
請求
特許庁が不服2002-14967号事件について、平成16年1月5日にした審決を取り消す。
事案の概要
1 争いのない事実 (1) 原告は、発明の名称を「使い捨て紙おむつ」とする発明について、平成9年4月9日に出願した特許出願(特願平9-90697号)の一部を分割して、平成11年5月21日に特許出願(特願平11-140898号、以下「本願」という。特開平11-347063号)をしたが、平成14年7月9日付けで拒絶査定を受けたので、同年8月8日、これに対する不服の審判の請求をするとともに、同年9月9日に手続補正(以下「本件補正」という。)をした。
特許庁は、上記審判請求を不服2002-14967号事件として審理した上、平成16年1月5日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし、その謄本は、同月16日、原告に送達された。
(2) 本件補正後の本願の請求項1記載の発明(以下「本願補正発明」という。)の要旨は、本件審決に記載された、以下のとおりである。
【請求項1】透液性トップシートとバックシートとの間に吸収体を有し、さらに製品の幅方向両側にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、 (1)前記吸収体の両側縁より外方であって、かつ、少なくとも股間部において長手方向に沿って; 第1バリヤーカフスと、この第1バリヤーカフスの幅方向外側に位置する第2バリヤーカフスと、この第2バリヤーカフスの幅方向外側に位置するガスケットカフス用弾性伸縮部材とを有し、
(2)第1バリヤーカフスおよび第2バリヤーカフスは、各々の先端付近に製品の長手方向に沿って設けられた弾性伸縮部材により、起立線から自由端に至る自由部分が互いに分離しておりかつ着用者側にそれぞれ独立して起立するように構成され、
(3)第2バリヤーカフスの起立線から自由端に至る幅方向長さが第1バリヤーカフスの起立線から自由端に至る幅方向長さより短く、
(4)第2バリヤーカフスの起立線より外方位置にガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けた、
ことを特徴とする使い捨て紙おむつ。
(3) 本件審決は、別紙審決書写し記載のとおり、本願補正発明が、特開平4-218159号公報(甲8、以下「引用例」という)に記載された発明(以下「引用発明」という。)及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により、特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとした上、本件補正は、同法17条の2第5項(平成15年法律第90号による改正前のもの)で準用する同法126条4項(同)の規定に違反するものであり、同法159条1項(平成14年法律第24号による改正前のもの)で準用する同法53条1項(同)の規定により却下すべきものとし、本件補正前の本願の請求項1に係る発明(以下「本願発明」という。)が、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、同法29条2項の規定により、特許を受けることができないとした。
2 原告主張の本件審決の取消事由の要点 本件審決は、本願補正発明と引用発明との相違点についての判断を誤り(取消事由1)、本願補正発明の顕著な作用効果を看過した(取消事由2)ものであるから、違法として取り消されるべきである(原告は、本願補正発明の進歩性の判断を争うものであり、本件補正が却下された場合の、本願発明の進歩性の判断については、独自の取消事由を主張するものではない。)。
(1) 相違点の判断の誤り(取消事由1) 本願補正発明と引用発明との相違点が、本件審決認定のとおり、「本願補正発明は、第2バリヤーカフスの幅方向外側であって、その起立線より外方位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けているのに対し、引用例1(注、引用例)に記載されたものは、第2バリヤーカフス(第1フラップ15)の幅方向外側であって、その起立線より外方に位置するベースフラップ部分に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けていない点」(5頁)であることは認める。また、「吸収体の両側縁外方にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、横漏れ防止機能を良好にするために、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を、ベースフラップの、バリヤーカフス起立線より外側位置に設けて、ガスケットカフスを形成したものは、例えば、引用例の【従来の技術】に紹介されている特開昭62-250201号公報を初めとして(記載事項1参照)、特開平6-14960号公報、特開平7-328067号公報、特表平8-512224号公報及び特開平5-293134号公報等に示すように周知である」(5頁)こと(以下「本件周知技術」といい、特開昭62-250201号公報、特開平6-14960号公報、特開平7-328067号公報、特表平8-512224号公報及び特開平5-293134号公報をまとめて「本件周知例」といい、各別には「周知例1」ないし「周知例5」という。)も認める。
しかし、本件審決が、本件周知技術を前提として、「引用例記載のものにおいて、横漏れ防止機能を、より良好にするために、ベースフラップ14の、第2バリヤーカフス(第1フラップ15)起立線(分岐縁22)の外側位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成し、相違点に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである」(6頁)と判断したことは、以下のとおり、誤りである。
ア 引用発明は、横漏れ防止のため、二重のバリヤーカフスを有するものであるが、ガスケットカフスを設けることを示唆していないだけでなく、引用例の段落【0023】に、「分岐縁22、25が存在しない場合に比較して弾性部材21、24の弾性収縮力がベースフラップ14の外側部に強く伝達し該外側部に皺を発生することが少ない」と記載されているから、ベースフラップに皺が発生するのを少なくすることを目的としているのであって、皺を発生させるガスケットカフスを設けないことを必須とするものである。
そもそも、引用発明は、ガスケットカフスを設けないで、二重のバリヤーカフスの構造で横漏れ防止機能を完結させたものであり、二重のバリヤーカフスの構造に、更にガスケットカフスを設けることは困難である。
イ また、本件周知技術は、いずれも、単一のバリヤーカフスの外側にガスケットカフスを設けたものであり、バリヤーカフスを二重とする示唆もない。
ウ 以上のとおり、本件審決は、引用発明と本件周知技術とを組み合わせる契機が存在しないにもかかわらず、これをあると判断しており、誤りである。
(2) 顕著な作用効果の看過(取消事由2) 本願補正発明は、幅方向内側から順に、第1バリヤーカフス、第2バリヤーカフス及びガスケットカフス用弾性伸縮部材を有する基本構成のもとで、前示本願補正発明の要旨(2)〜(4)の構成を組み合わせて採用したことにより、横漏れ防止効果が顕著に現れるほか、本願に係る明細書(甲3、以下「本願明細書」という。)に記載される(甲3【0024】〜【0030】)下記ア〜キの利点がもたらされる。
このような作用効果は、引用例又は引用例と周知技術との組合せから到底予想できるものではない特有のものであり、本件審決は、本願補正発明の顕著な作用効果を看過したものである。
ア 第1バリヤーカフス10のほか、第2バリヤーカフス20があるために、第1バリヤーカフス10によって阻止できなった体液(軟便も含む)を、第2バリヤーカフス20で阻止できる。
イ ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・(6Aも含めて)の収縮力によって、第2バリヤーカフス20の自由部分はより大きく起立するので、例えば図2のh2>h1にあるときには、第1バリヤーカフス10によって阻止できなった体液(軟便も含む)を第2バリヤーカフス20で阻止する機能がより顕著に現れる。
ウ 第2バリヤーカフス20の自由部分はより鉛直(図2基準)方向に起立するので、第1バリヤーカフス10の自由部分と第2バリヤーカフス20の自由部分との間隔又は空間が(展開状態より)大きくなり、第1バリヤーカフス10によって阻止されずにこれを越えた体液をその間において保持できるようになり、第2バリヤーカフス20で阻止する機能が顕著に現れる。
エ 前記イ及びウの結果、第2バリヤーカフス20のバリヤーカフス用弾性伸縮部材22の収縮力を弱めても差し支えなくなるので、着用者に対する過度の圧迫から解放できる。
オ ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・(6Aも含めて)は、第2バリヤーカフス20の起立効果を高めるほか、それ自体で、製品の脚回り部分を着用者にフィットさせ、また、仮に第2バリヤーカフス20を体液が越えたとしても、そこで阻止できるとともに、第2バリヤーカフス20が液分で湿潤したとき、
それ以上の外方への湿潤を阻止し、防湿性を高める。さらに、ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・の収縮力作用領域が着用者の脚回り部分にフィットするので、第1バリヤーカフス10の自由部分と第2バリヤーカフス20の自由部分が、それ以上に外側に折り返されてはみ出ることがなく、かつ、常に内側に向いて起立し、本来のバリヤーカフスの機能を良好に発揮する。
カ ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・を付加することで、上記の機能が十全に発揮されるため、第1バリヤーカフス10の自由部分の幅方向長さより第2バリヤーカフス20の自由部分の幅方向長さは小さくでき、かつ、コストの上昇は殆どなく、しかも、全体の機能とのバランスからして、コスト的には極めて優れたものとなる。具体的には、第1バリヤーカフス10の自由部分の幅方向長さを30〜50mmとしたとき、第1バリヤーカフス10の起立線と第2バリヤーカフス20の起立線との間の易変形領域が、第2バリヤーカフス20の自由部分と連動するので、第2バリヤーカフス20の自由部分の幅方向長さは、第1バリヤーカフス10の自由部分の幅方向長さより20〜40mm小さくできる。
キ 第1バリヤーカフス10の起立線と第2バリヤーカフス20の起立線との間を離すことで、ガスケットカフス用弾性伸縮部材6,6・・・の収縮力によって、第1バリヤーカフス10と第2バリヤーカフス20との間にポケット(各バリヤーカフスの自由部分間の空間)ができ、第1バリヤーカフス10で阻止できなかった体液(軟便も含む)を第2バリヤーカフス20で阻止する機能が顕著に現れる。具体的には、第1バリヤーカフス10の起立線と第2バリヤーカフス20の起立線とは10〜40mm離間させることが望ましい。
3 被告の反論の要点 本件審決の認定・判断は正当であり、原告主張の取消事由は、いずれも理由がない。
(1) 取消事由1について ア 一般に、紙おむつの横漏れ防止手段として、ガスケットカフスとバリヤーカフスとが周知であるが、ガスケットカフスは、主に紙おむつを脚回りに密着させることにより横漏れを防ぐものであるのに対し、バリヤーカフスは、主にその内側に収容部を形成し、収容部で排泄物を堰き止め、保持することにより横漏れを防ぐものである(周知例1(甲9)参照)。
そこで、両者の機能が異なることから、より良好に横漏れを防止するために、ガスケットカフスとバリヤーカフスの両者を併用しようという契機が存在することは、明らかなことであって、格別併用を妨げる事情も存在しない。
そして、このような契機は、バリヤーカフスを複数備える紙おむつにおいても同様に存在するものであり、バリヤーカフスを複数備えれば、ガスケットカフスが不要であるというものでもない。
イ 引用例の段落【0023】の記載は、第1及び第2分岐フラップ15,16が、それぞれの分岐縁22,25を支点ラインとして起立する場合は、分岐縁22,25が存在しない場合に比べ、ベースフラップ14の外側部に皺を発生することが少ないという事実を、単に述べたにとどまるものであり、皺が発生すると問題があるとか、皺を生じないようにすべきであるといった記載は、引用例には見出せない。
したがって、引用例の当該記載は、引用発明の紙おむつのベースフラップにガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けることの、阻害要因とは到底なり得ないものである。
ウ バリヤーカフスを有する紙おむつにガスケットカフスを形成するに当たり、バリヤーカフスが単一でなければ、ガスケットカフスを形成することが困難であるといったような事情も特に見あたらないのであるから、本件周知技術に基づいて、引用発明の第2バリヤーカフス(第1フラップ15)起立線(分岐縁22)の外側位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成し、相違点に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである。
しかも、周知例4(甲12)には、側方ストリップ23の起立部(部分28)と、カバーシート3とからなる二つの縦フラップによって、「二重バリヤ」を形成しているおむつにおいて、カバーシート3の起立部の外側に弾性股素子10を設けて、ガスケットカフスを形成したものが記載されている。また、周知例5(甲13)には、第1フラップ部17と第2フラップ部18とからなる二重のバリヤーカフスを有するオムツにおいて、「着用者の脚回りを締め付ける弾性糸からなる複数本の弾性部材24」(段落【0013】)を設け、ガスケットカフスを形成したものが記載されている。これらのバリヤーカフスは、本願補正発明のバリヤーカフスのように、「起立線から自由端に至る自由部分が互いに分離して」いるものではないが、二重のバリヤーカフスであることには違いはないから、周知例4及び5には、二重のバリヤーカフスの外側にガスケットカフスを設けたものも例示されている。
なお、二重のバリヤーカフスを備えるおむつにおいても、ガスケットカフスを形成したものは周知である(乙1、2)。
(2) 取消事由2について 原告が、本願補正発明に顕著なものとして主張する、上記作用効果ア〜ウ及びオ〜キは、いずれも、引用発明又は本件周知技術により、当業者が当然期待し得た程度の作用効果にすぎない。また、上記作用効果エは、特許請求の範囲の記載に基づかないものであるから、本願補正発明の顕著な作用効果ということはできない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点の判断の誤り)について (1) 本願補正発明と引用発明との相違点が、本件審決認定のとおり、「本願補正発明は、第2バリヤーカフスの幅方向外側であって、その起立線より外方位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けているのに対し、引用例1(注、引用例)に記載されたものは、第2バリヤーカフス(第1フラップ15)の幅方向外側であって、その起立線より外方に位置するベースフラップ部分に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けていない点」(5頁)であることは、当事者間に争いがない。
また、本件周知例(甲9〜13)に、「吸収体の両側縁外方にバリヤーカフスを有する紙おむつにおいて、横漏れ防止機能を良好にするために、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を、ベースフラップの、バリヤーカフス起立線より外側位置に設けて、ガスケットカフスを形成」(5頁)するという本件周知技術が開示されていることも、当事者間に争いがない。
(2) 原告は、本件審決が、本件周知技術を前提として、「引用例記載のものにおいて、横漏れ防止機能を、より良好にするために、ベースフラップ14の、第2バリヤーカフス(第1フラップ15)起立線(分岐縁22)の外側位置に、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成し、相違点に係る構成のようにすることは、当業者が容易に想到し得たことである」(6頁)と判断したことが誤りであると主張するので、以下検討する。
ア まず、原告は、引用例の段落【0023】に、「分岐縁22、25が存在しない場合に比較して弾性部材21、24の弾性収縮力がベースフラップ14の外側部に強く伝達し該外側部に皺を発生することが少ない」と記載されているから、引用発明は、ベースフラップに皺が発生するのを少なくすることを目的としているのであって、皺を発生させるガスケットカフスを設けないことを必須とするものであると主張する。
そこで、検討するに、引用例(甲8)の段落【0023】には、「前記構成を有するオムツ10の組み立て状態においては、図1,2,3に示すように、
第1及び第2フラップ15,16は、それぞれの自由縁28,29に位置する弾性部材21,24の弾性収縮力によりそれぞれの分岐縁22,25を支点ラインとして上方向(着用者の身体側)へ起き上がる。このとき、第1及び第2フラップ15,16が、ぞれぞれの分岐縁22,25の部位で倒T字状に、ベースフラップ14に交差又はベースフラップ14に対して屈折していることから、弾性部材21,24の弾性収縮力が、そのままの強い力で、分岐縁22,25からベースフラップ14の外側方向へ伝達することが少ない。従って、分岐縁22,25が存在しない場合に比較して弾性部材21,24の弾性収縮力がベースフラップ14の外側部に強く伝達して該外側部に皺を派生することが少ない。」と記載されている。
上記記載によれば、引用発明において、第1及び第2フラップ15,16が、それぞれの分岐縁22,25を支点ラインとして起立することから、分岐縁22,25が存在しない場合と比較して、弾性部材21,24の弾性収縮力が、そのままの強い力でベースフラップ14の外側部に伝達されない結果、該外側部に皺を生じることが少ないという客観的事実が開示されているものと認められる。しかし、上記記載によって、引用発明が、ベースフラップに皺が発生するのを少なくすることを目的としていると認定することは困難であり、引用例全体の他の記載をみても、引用発明の目的を上記のように解する根拠は見出せない。かえって、引用発明の実施例を示す図2には、ベースフラップ14の外側部に皺のあるオムツ10が開示されていることからも、引用発明自体が皺の発生を問題にしていないものと推測される。
したがって、原告の上記主張は、到底採用することができない。
また、原告は、引用発明が、二重のバリヤーカフスの構造で横漏れ防止機能を完結させたものであり、二重のバリヤーカフスの構造に、更にガスケットカフスを設けることは困難であると主張する。
しかしながら、使い捨て紙おむつは、排泄物を吸収・収容するものであり、厳重にその漏れを防ぐべきものであることは技術常識といえるから、引用発明の紙おむつが、二重のバリヤーカフスを備えるものであるとしても、排泄物の漏れ防止効果を一層高めるために、二重のバリヤーカフスに加えて、更にその外側にガスケットカフスを設けることは当業者が容易に想到し得る事項である。また、引用例の記載を子細に検討しても、二重のバリヤーカフスによって、横漏れ防止機能をすべて完結させた(すなわち、他の横漏れ防止手段を採用できない。)と認めるべき事項は認められず、更にガスケットを設けることにより格別の不都合が生じるような事項も認められない。
したがって、原告の上記主張は、合理的な根拠を欠く独自の見解であり、これを採用することはできない。
イ さらに、原告は、本件周知技術が、いずれも、単一のバリヤーカフスの外側にガスケットカフスを設けたものであり、バリヤーカフスを二重とする示唆もないと主張する。
しかしながら、本件周知技術は、バリヤーカフスの外側位置にガスケットカフスを設けることに関するものであり、当該バリヤーカフスが単一であるか二重であるかにより、その適用が左右されるものではない。しかも、二重のバリヤーカフスの構造を有する引用発明に、更にガスケットカフスを設けることに困難性がないことは、前示のとおりである。なお、特開平2-174845号公報(乙1)及び特開平9-24063号公報(乙2)によれば、二重のバリヤーカフスの外側位置に更にガスケットカフスを設けることも、本願の出願当時、周知であったものと認められる。
したがって、いずれにしても原告の主張を採用する余地はない。
ウ 結局、上記ア、イの各主張を前提とした上、引用発明と本件周知技術とを組み合わせる契機が存在しないにもかかわらず、これが存在すると判断した本件審決は誤りである旨の原告の主張は、上記前提の主張自体を採用することができないから、理由がない。
むしろ、引用発明において、二重のバリヤーカフスの構造が、横漏れ防止機能のために設けられたことは、原告も認めるところである。また、本件周知技術が、横漏れ防止のために、ガスケットカフス用弾性伸縮部材を、バリヤーカフスの外側位置に設けて、ガスケットカフスを形成させるものであることは、前示のとおりである。
そうすると、バリヤーカフスを有する紙おむつである引用発明について、軟便を含む体液などの排泄物の横漏れ防止の観点から、本件周知技術を適用し、バリヤーカフスの外側位置にガスケットカフス用弾性伸縮部材を設けて、ガスケットカフスを形成することは、当業者にとって容易に想到できることであり、その適用を困難とする事由がないことは明らかである。
2 取消事由2(顕著な作用効果の看過)について 原告は、本願補正発明が、前示発明の要旨に記載の構成を組み合わせて採用したことにより、横漏れ防止効果が顕著に現れるほか、本願明細書に記載される前記ア〜キの利点がもたらされるものであり、このような作用効果は、引用例又は引用例と周知技術との組合せからは予想できない特有のものであると主張する。
しかしながら、第1バリヤーカフス及び第2バリヤーカフスを有し、第2バリヤーカフスの自由部分の幅方向長さが第1バリヤーカフスの自由部分の幅方向長さより短い引用発明(以上の構成は、当事者間に争いのない、本願補正発明との一致点である。)に、本件周知技術を適用してガスケットカフス用弾性伸縮部材を配置すれば、原告が本願補正発明に顕著な作用効果として主張する前記ア〜ウ及びオ〜キが生じることは、当業者が容易に予測できるものであって、顕著な作用効果とはいえないから、当該作用効果により本願補正発明の進歩性を裏付けることはできない。また、第2バリヤーカフスのバリヤーカフス用弾性伸縮部材の収縮力を弱めることは、本願補正発明の特許請求の範囲に記載のない事項であるから、原告が本願補正発明に顕著な作用効果として主張する前記エは、本願補正発明が常に有する固有の効果ということはできず、この作用効果により本願補正発明の進歩性を裏付けることもできない。
したがって、原告の上記主張もこれを採用することはできない。
3 結論 そうすると、本願補正発明は、特許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり、本件補正は却下すべきものであるところ、本件補正前の本願発明が、引用発明及び周知技術に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであることは、前記説示と同様であるから、特許を受けることができないものであり、これと同旨の本件審決には誤りがなく、その他本件審決にこれを取り消すべき瑕疵は見当たらない。
よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 北山元章
裁判官 清水節
裁判官 上田卓哉