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審判番号(事件番号) データベース 権利
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関連ワード 製造方法 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  相違点の認定 /  周知技術 /  出願公開 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  パリ条約 /  優先権 /  実質的に同一 /  クレーム /  優先日 /  参酌 /  発明の要旨認定 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  発明の範囲 /  請求の範囲 /  減縮 /  拡張 /  変更 /  合理的な理由 /  国際出願 /  国際公開 / 
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事件 平成 23年 (行ケ) 10191号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年2月28日判決言渡

平成23年(行ケ)第10191号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成24年1月17日

判 決



原 告 セントラル硝子株式会社



訴訟代理人弁護士 本 多 広 和

同 中 村 閑

訴訟代理人弁理士 古 橋 伸 茂

同 岩 田 耕 一



被 告 ゾルファイ フルーオル ゲゼルシャフト

ミット ベシュレンクテル ハフツング




訴訟代理人弁理士 実 広 信 哉

同 堀 江 健 太 郎

主 文

1 特許庁が,無効2010−800040号事件について,平成23年5月6

日にした審決を取り消す。

2 訴訟費用は被告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め
る。
事 実 及 び 理 由

第1 請求




主文と同旨。

第2 当事者間に争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯等

被告は,発明の名称を「ポリウレタンフォームおよび発泡された熱可塑性プラス

チックの製造」とする特許第3949889号(平成11年5月15日国際出願

パリ条約による優先権主張平成10年5月22日,ドイツ連邦共和国。平成19年

4月27日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である。

原告は,平成22年3月8日,本件特許の請求項1ないし12,14ないし16,

19及び20に係る発明についての特許の無効審判請求(無効2010−8000

40号事件)をし,同年4月1日,無効審判請求に係る請求項を,本件特許の請求

項1,2,4ないし12,14ないし16,19及び20とする補正をした。被告

は,同年7月8日付け訂正請求書を提出した(以下「本件訂正」という。)。

特許庁は,平成23年5月6日,「訂正を認める。本件審判の請求は,成り立た

ない。」との審決をし,その謄本は,同月17日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲

本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし20の記載は,次のと

おりである(以下,これらの請求項に係る発明を,それぞれ「本件訂正発明1」な

いし「本件訂正発明20」といい,これらを総称して「本件訂正発明」という。)。

本件訂正は,特許査定時の特許請求の範囲における請求項1ないし10及び17の

発泡剤としての組成物,請求項11ないし16及び18及び19の発泡剤組成物,

請求項20の発泡剤混合物を,HFC−134a(1,1,1,2−テトラフルオ

ルエタン)又はHCFC−141bを含まないものとするものであり,下線部が訂

正部分である(乙3)。なお,本件特許の明細書を「本件明細書」という(甲17,

乙3)。

【請求項1】発泡剤による発泡によってポリウレタン硬質フォームまたは発泡さ

れた熱可塑性プラスチックを製造する方法において,発泡剤として,




a)1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタン50質量%未満(HFC−365

mfc)および

b)ジフルオルメタン(HFC−32);ジフルオルエタン;1,1,2,2−テ

トラフルオルエタン(HFC−134);ペンタフルオルプロパン;ヘキサフルオ

ルプロパン;ヘプタフルオルプロパンを含む群から選ばれた少なくとも1つの他の

発泡剤

を含有するかまたは該a)およびb)から成る組成物(但し,HFC−134a又

はHCFC−141bを含まない)を使用することを特徴とする,ポリウレタン硬

質フォームまたは発泡された熱可塑性プラスチックを製造する方法。

【請求項2】HFC−365mfc 5〜50質量%未満を含有する組成物を使

用する,請求項1記載の方法。

【請求項3】発泡剤として次のもの:

HFC−365mfcおよびHFC−152a;HFC−365mfcおよびHF

C−32;HFC−365mfc,HFC−152aおよびCO2;HFC−36

5mfc,HFC−32およびCO2

を含有するかまたはこれらのものから成る組成物の1つを使用する,請求項1記載

の方法。

【請求項4】HFC−365mfc 10〜50質量%未満および別の成分90

〜50質量%超を含有するかまたはこれらのものから成る組成物を使用する,請求

項3記載の方法。

【請求項5】発泡剤組成物は付加的にCO2 2〜50質量%を含有する,請求

項1記載の方法。

【請求項6】発泡剤組成物はプラスチックの性質を変性する添加剤30質量%ま

でを含有する,請求項1記載の方法。

【請求項7】熱可塑性プラスチックとしてポリスチロール,ポリエチレン,ポリ

プロピレン,ポリ塩化ビニルまたはPET(ポリエチレンテレフタレート)を使用




する,請求項1記載の方法。

【請求項8】熱可塑性プラスチックとしてポリスチロールを使用する,請求項7

記載の方法。

【請求項9】発泡剤組成物を発泡すべき熱可塑性プラスチックと発泡剤組成物と

から成る全混合物に対して1〜30質量%の量で使用する,請求項1記載の方法。

【請求項10】発泡剤組成物をポリウレタンと発泡剤組成物とから成る全混合物

に対して1〜50質量%の量で使用する,請求項1記載の方法。

【請求項11】 a)1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタン50質量%未

満(HFC−365mfc)および

b)ジフルオルメタン(HFC−32);ジフルオルエタン;1,1,2,2−テ

トラフルオルエタン(HFC−134);ペンタフルオルプロパン;ヘキサフルオ

ルプロパン;およびヘプタフルオルプロパンを含む群から選ばれた少なくとも1つ

の他の発泡剤

を含有するかまたは該a)およびb)から成る発泡剤組成物(但し,HFC−13

4a又はHCFC−141bを含まない)。

【請求項12】HFC−365mfc 5〜50質量%未満を含有する,請求項

11記載の発泡剤組成物。

【請求項13】HFC−365mfcおよびHFC−152a;HFC−365

mfcおよびHFC−32;HFC−365mfc,HFC−152aおよびCO

2;HFC−365mfc,HFC−32およびCO2


を含有するかまたはこれらのものから成る,請求項11記載の発泡剤組成物。

【請求項14】1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタン(HFC−365m

fc) 10〜50質量%未満および別の成分90〜50質量%超を含有するかま

たはこれらのものから成る,請求項11記載の発泡剤組成物。

【請求項15】液化されたCO2 2〜50質量%を含有する,請求項11記載

の発泡剤組成物。




【請求項16】a)1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタンおよび

b)1,1,1,3,3−ペンタフルオルプロパン(HFC−245fa);1,

1,1,3,3,3−ヘキサフルオルプロパン(HFC−236fa);または1,

1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオルプロパン(HFC−227ea)がCO

2を全く含有しない場合には,発泡剤組成物は,1,1,1,3,3−ペンタフル


オルブタン50質量%未満および1,1,1,3,3−ペンタフルオルプロパン;

1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオルプロパンまたは1,1,1,2,3,3,

3−ヘプタフルオルプロパン50質量%超を含有するかまたはこれらのものから成

るという条件を有する,請求項11記載の発泡剤組成物。

【請求項17】a)1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタンおよび

b )1,1,1,3,3−ペンタフルオルプロパン(HFC−245fa);1,

1,1,3,3,3−ヘキサフルオルプロパン(HFC−236fa);または1,

1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオルプロパン(HFC−227ea)がCO

2を全く含有しない場合には,発泡剤組成物は,1,1,1,3,3−ペンタフル


オルブタン50質量%未満および1,1,1,3,3−ペンタフルオルプロパン;

1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオルプロパンまたは1,1,1,2,3,3,

3−ヘプタフルオルプロパン50質量%超を含有するかまたはこれらのものから成

るという条件で,ポリスチロールまたはポリエチレンを基礎とするプラスチックを

製造するための請求項1記載の方法。

【請求項18】主に独立気泡の発泡された熱可塑性プラスチックにおいて,請求

項11から16までのいずれか1項に記載の発泡剤組成物が独立気泡中に含有され

ていることを特徴とする,主に独立気泡の発泡された熱可塑性プラスチック。

【請求項19】主に独立気泡の硬質ポリウレタンフォームにおいて,

a)1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタン50質量%未満(HFC−365

mfc)および

b)ジフルオルメタン(HFC−32);ジフルオルエタン;1,1,2,2−テ




トラフルオルエタン(HFC−134);ペンタフルオルプロパン;ヘキサフルオ

ルプロパン;ヘプタフルオルプロパンを含む群から選ばれた少なくとも1つの他の

発泡剤

を含有するかまたは該発泡剤から成る発泡剤組成物(但し,HFC−134a又は

HCFC−141bを含まない)を含有することを特徴とする,主に独立気泡の硬

質ポリウレタンフォーム。

【請求項20】1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタン1〜50質量%未満

および

1,1,1,3,3−ペンタフルオルプロパン,1,1,1,3,3,3−ヘキサ

フルオルプロパンおよび1,1,1,2,3,3,3−ヘプタフルオルプロパンか

らなる群から選択される弗素化炭化水素少なくとも1つ50質量%超〜99質量%

を含有するかまたはこれらのものから成る,低い温度での熱伝導性に関連して改善

された性質を有するPU硬質発泡材料の製造に使用可能な発泡剤混合物(但し,H

FC−134a又はHCFC−141bを含まない)。

3 審決の理由

別紙審決書写しのとおりである。その判断の概要は以下のとおりである。

(1) 本件訂正の可否について

本件訂正は,訂正前の発泡剤としての組成物,発泡剤組成物あるいは発泡剤混合

物を,「1,1,1,2−テトラフルオルエタン」(略称:「HFC−134

a」)又は「HCFC−141b」を含まないものに限定するものであり,特許請

求の範囲の減縮に該当し,特許法134条の2第1項ただし書き1号に掲げる事項

を目的とするものである。また,「HFC−134a」又は「HCFC−141

b」を含まない発泡剤としての組成物,発泡剤組成物あるいは発泡剤混合物を用い

ることは,願書に最初に添付した明細書(甲16。以下「本件当初明細書」とい

う。)に記載されているので,本件訂正は,本件当初明細書に記載した事項の範囲

内においてするものであり,実質上特許請求の範囲拡張し,又は変更するもので




ないから,同法134条の2第5項において準用する同法126条3項及び4項の

規定に適合する。よって,本件訂正を認める。

(2) 無効理由1の成否について

本件訂正発明1,2,4ないし12,14ないし16,19及び20は,甲1

(A. ALBOUY et al., “A Status Report on the Development of HFC Blowing

Agent for Rigid Polyurethane Foams”, POLYURETHANES WORLD CONGRESS 1997,

514ないし523頁)に記載された発明,甲1及び甲12(国際公開第96/1

4354)に記載された発明,又は,甲1及び甲3(特開平8−302055号公

報)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたもので

ある旨の請求人(原告)主張の無効理由1は採用できない。

(3) 無効理由2の成否について

本件訂正発明1,2,4ないし12,14ないし16,19及び20は,甲4

(欧州特許出願公開第0742250号明細書)及び甲5(特開平6−30613

8号公報)に記載された発明,甲4,甲5及び甲1に記載された発明,甲4,甲5

及び甲12に記載された発明,甲4,甲5及び甲3に記載された発明又は甲4,甲

5,甲1及び甲3に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることが

できたものである旨の請求人主張の無効理由2は採用できない。

(4) 本件訂正発明1の作用効果等について

本件訂正発明1は「除くクレーム」の訂正がなされているが,「除くクレーム

とすることにより進歩性が認められるのは,先行技術と技術思想としては顕著に異

なり本来進歩性を有する発明であるが先行技術と重なるような場合に限られるので

あり,本件訂正発明1は,甲1に記載された発明及び甲4に記載された発明と技術

思想としては異ならないので,「除くクレーム」の趣旨からみて,進歩性を有しな

いとの請求人の主張,及び,本件訂正発明が,甲1に記載された発泡剤及び甲4に

記載された発泡剤に対して,顕著な作用効果を奏することは検証されていないとの

請求人の主張も採用できない。




(5) したがって,請求人の主張及び提出した証拠方法によっては,本件訂正発明

の特許を無効とすることはできない。

第3 当事者の主張

1 取消事由に係る原告の主張

審決には,(1) 本件訂正発明の認定の誤り(取消事由1),(2) 本件訂正発明の

容易想到性判断の誤り−その1(取消事由2),(3) 本件訂正発明の容易想到性

断の誤り−その2(取消事由3),(4) 本件訂正発明の作用効果の認定の誤り(取

消事由4),(5) 本件訂正発明1と,甲1記載の発明及び甲4記載の発明の技術思

想が異なるとした判断の誤り(取消事由5)があり,これらは,審決の結論に影響

を及ぼすから,審決は取り消されるべきである。すなわち,

(1) 本件訂正発明の認定の誤り(取消事由1)

審決は,本件訂正発明について,「『HFC−134a又はHCFC−141b

を含まない』との規定は,『『HFC−134a単独』,『HCFC−141b単

独』及び『HFC−134aとHCFC−141bとの併用』を含まない』と解さ

れる」,「被請求人は,いわゆる『除くクレーム』による訂正により,本件訂正発

明と,甲第1号証に記載された『HCFC−141b』を含む発泡剤又は甲第4号

証に記載された『HFC−134a』を含む発泡剤との重複を避けようとしている

ことは明らかであって,このような訂正の趣旨からみても,本件訂正発明が備える

『(但し,HFC−134a又はHCFC−141bを含まない)』との発明特定

事項を,『HFC−134a』及び『HCFC−141b』のどちらか一方(どち

らでもよい)を含む態様を依然として包含していると解釈するのは適当であるとは

いえない。」と判断した。

しかし,審決のした上記認定は,以下のとおり誤りである。すなわち,

「A又はBを含まない」という記載は,当初AやBが発明に含まれていたがこれ

を除外する趣旨であり,「A又はBが除かれている」と同義であって否定論理和で

あるから,「HFC−134aとHCFC−141bとの併用」をも含まないと解




釈することは誤りである。

また,発明の要旨認定は,まず特許請求の範囲の記載に基づくべきであり,特許

請求の範囲の記載文言自体から直ちにその技術的意味を確定するのに十分といえな

い場合に限って,例外的に発明の詳細な説明中の記載が参酌されるべきであるから,

「訂正の趣旨」という,特許請求の範囲の記載とも発明の詳細な説明中の記載とも

無関係な要素を認定の基礎とすることは誤りである。

本件訂正発明における「(但し,HFC−134a又はHCFC−141bを含

まない)」は,HFC−134aを含まない場合か,HCFC−141bを含まな

い場合のいずれかであるとの意味,すなわち,使用する発泡剤(組成物または混合

物)として,HFC−134aとHCFC−141bのどちらか一方(どちらでも

よい)を含む態様を包含していると認定されるべきである。

したがって,審決は,本件訂正発明の認定を誤ったものであり,これが審決の結

論に影響を及ぼすことは明らかである。

なお,本件訂正発明についての審決の認定に誤りがないことを前提としても,審

決には,後記(2)ないし(5)の誤りがある。

(2) 本件訂正発明の容易想到性判断の誤り−その1(取消事由2)

審決は,原告が審判手続において主張した無効理由1は採用できない旨判断した

が,審決の判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

ア 審決は,本件訂正発明と甲1記載の発明とは,甲1記載の発明が「HCFC

−141b」を成分として含有する点で相違することを前提として,「甲第1号証

には,確かに,硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤を,HCFC−141bから,

HFC−245fa,HFC−365mfcなどに代替していく方向性は示されて

いるといえるが,このような方向性を踏まえたものとして,具体的に示されている

発泡剤組成物は,その成分として,代替物である『HFC−245fa』及び『H

FC−365mfc』とともに『HCFC−141b』を依然として含有するもの

であって,この発泡剤組成物から,さらに熱的性能,防火性能に優れる『HCFC




−141b』を完全に除去することは,当業者が予測できるとはいえない。」と判

断した。

しかし,審決の判断は誤りである。

甲1には,@HCFC−141bは高い熱的性能及び防火性能を有するが,AH

CFC−141b等のHCFC類(Hydro Chloro Fluoro Carbon)(水素と塩素と

フッ素と炭素を含む化合物)はオゾン層に悪影響を与えるという深刻な欠点を有し

ているから,B米国やEUではHCFC−141b等のHCFC類の廃止スケジュ

ールが定められるに至っており,CHCFC類に替わる代替物質が必要であること

が開示され,さらに,その代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365

mfcが最も有望であることが開示されている(甲1・514頁左欄2ないし10

行,右欄2ないし20行,522頁右欄6ないし10行,甲6−2・1頁5ないし

9行,24ないし35行,11頁下から4ないし2行)。すなわち,甲1記載の発

明は,HCFC−141bが有する優れた熱的性能及び防火性能を犠牲にしてもオ

ゾン層の破壊を最小限に防ぐことを課題とし,当該課題の解決手段として代替物質

(HFC−245fa及びHFC−365mfc)を提案する発明である。

上記のとおり,審決は,上記の甲1記載の発明の課題に基づきHCFC−141

bを代替する方向性を認めながら,HCFC−141bの熱的性能および防火性能

という利点があることを根拠として,甲1に具体的に示される発泡剤組成物から,

熱的性能,防火性能に優れる「HCFC−141b」の完全除去することは当業者

が予測し得ないと判断した。しかし,審決の判断は,「HCFC−141bが有す

る熱的性能および防火性能を犠牲にしてもオゾン層の破壊を最小限に防ぐ」との甲

1記載の発明の解決課題を誤り,「HCFC−141b」の熱的性能,防火性能に

優れるとの点を過大に評価した結果,甲1に示される発泡剤組成物から「HCFC

−141b」を除去し,本件訂正発明に想到することは容易でないとの結論を導い

たものである。

したがって,審決は,甲1記載の発明の認定を誤り,その認定を基礎として本件




訂正発明の容易想到性を判断した誤りがある。

イ 審決は,「甲第1号証に具体的に示された発泡剤組成物から『HCFC−1

41b』成分を除去するとしても,単純に『HCFC−141b』成分を除去する

手法,『HCFC−141b』成分に代えて代替物質として挙げられている『HF

C−245fa』,『HFC−365mfc』,『HFC−236ea』,『HF

E−236』などで置換する手法などの複数の手法があり,どの手法を採れば,

『HCFC−141b』の代替物として作用する発泡剤組成物が得られるかについ

ては,当業者といえども,予測できるとはいえない。」と判断した。

しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。

「『HFC−245fa』等が『代替物質』として挙げられている」ということ

は,発泡剤組成物中に含まれる「HCFC−141b」を「HFC−245fa」

等で置換でき,かつ,置換された「HFC−245fa」等が「HCFC−141

b」に代わって同等の作用を発揮することを意味するから,甲1は,「HCFC−

141b」を含む発泡剤組成物において,発泡剤組成物中の一部又は全部の「HC

FC−141b」を「HFC−245fa」等に置換しても,発泡剤組成物として

の作用が同等であることを開示するものである。審決が,「HFC−245fa」

等を「HCFC−141b」の「代替物質」であること認定したにもかかわらず,

これらの物質で置換する手法のいずれを採れば「HCFC−141b」の代替物が

得られるかを予測できないとするのは,誤りである。

のみならず,甲1に例示される発泡剤組成物には,HFC−245faとHFC

−365mfcとHCFC−141bとが含まれるが,本件特許の優先日前におい

て,複数の発泡剤化合物を含む発泡剤組成物は周知であり,HCFC−141bを

含まない発泡剤組成物はもちろん,HFC−245faやHFC−365mfcが

単独で用いられることも周知であった(甲5の【請求項1】,【請求項2】,段落

【0028】ないし【0030】,【0037】,甲8の【請求項1】,【請求項

2】,段落【0029】ないし【0031】,【0038】,甲11の【請求項




1】,【請求項4】,【請求項6】,段落【0067】,【0080】,【008

2】,甲19の段落【0012】,【0014】)。すなわち,HFC−245f

a及びHFC−365mfcが,他の化合物と混合物に限らず単独でもポリウレタ

ンフォームの発泡剤として機能することは周知の技術であり,甲1記載のポリウレ

タンフォームの製造に用いられるHFC−245faとHFC−365mfcと第

3成分(例えば,HCFC−141b)とを含む発泡剤組成物から,第3成分を取

り除いた2成分の発泡剤組成物に設計変更することは当業者が容易になし得ること

である。

また,甲1記載の発明が,HCFC−141bが有する熱的性能および防火性能

を犠牲にしてもオゾン層の破壊を最小限に防ぐことを目的とする発明であることに

かんがみれば,なおさら,甲1に例示される,HFC−245faとHFC−36

5mfcとHCFC−141bを含む発泡剤組成物から,HCFC−141bを完

全に除去して使用することは,当業者が容易に想到し得るといえる。

さらに,甲1には,HCFC−141bの代替物質としてHFC−245fa及

びHFC−365mfcが好ましいことが記載され(甲1・522頁右欄6ないし

15行,甲6−2・11頁下から4行ないし12頁2行),上記のとおり,本件特

許の優先日当時の周知技術を示す文献には,ポリウレタンフォームの発泡剤として,

HCFC−141bを使用せずに,HFC−245faやHFC−365mfcを

使用することが記載されるから,甲1に示された発泡剤組成物からHCFC−14

1b成分を除去するに当たり,HCFC−141b成分を除去する手法を採ること

や,HCFC−141b成分に代えてHFC−245fa及びHFC−365mf

cに置換する手法を採ることは,当業者であれば予測できることである。

したがって,「HCFC−141bの代替物として作用する発泡剤組成物」が得

られるかについて当業者は予測できないとした審決の判断は誤りである。

ウ 審決は,「甲第1号証には,・・・HCFC−141bは熱的性能,防火性

能に優れているが,オゾンを破壊するため,HCFC−141bから,HFC−2




45fa,HFC−365mfcなどに代替していく方向性は示されているといえ

るが,このような方向性を踏まえたものとして,具体的に示されている発泡剤組成

物は,その成分として,代替物である『HFC−245fa』及び『HFC−36

5mfc』とともに『HCFC−141b』を依然として含有するものであって,

当業者といえども,この発泡剤組成物において,熱的性能,防火性能に優れる『H

CFC−141b』を,異性体で構造が酷似しているとはいえ,『HCFC−14

1a』に置換することは,容易に想到できるとはいえない。」,「甲第1号証に・

・・具体的に示された発泡剤組成物において,『HCFC−141b』に代えて,

『HCFC−141b』と同様にオゾン層破壊物質として規制の対象となっている

『HCFC−141a』を用いることは,当業者といえども容易に想到できるとは

いえない。」と判断した。

しかし,審決の上記判断も誤りである。

上記イのとおり,甲1記載の発明に具体的に示されている発泡剤組成物が,その

成分として,代替物である「HFC−245fa」及び「HFC−365mfc」

とともに「HCFC−141b」を依然として含有することは,HCFC−141

bを除去することや代替物質に置換することの容易想到性を否定する根拠とならな

い。甲1のみならず周知技術を開示した文献に,代替物質の示唆やHCFC−14

1bを欠く構成の示唆が多々見られることからすれば,他の代替物質に比して構造

が酷似している異性体であるHCFC−141aに置換することは容易である。ま

た,「HCFC−141a」が法的規制の対象となっているとしても,置換が容易

想到ではないとする根拠とはならない。

したがって,甲1記載の発泡剤組成物における「HCFC−141b」を「HC

FC−141a」に置換することは容易想到でないとした審決の判断は誤りである。

(3) 本件訂正発明の容易想到性判断の誤り−その2(取消事由3)

審決は,原告が審判手続において主張した無効理由2について,甲4記載の発泡

剤組成物の「1,1,1,2−テトラフルオロエタン(HFC−134a)」成分




は,ジイソシアネートおよびポリイソシアネートをベースとするフォームを発泡さ

せるのに好適であり,単に,@硬質ポリウレタンフォーム用ポリオール中への溶解

性が限られていること及びGWP(地球温暖化係数)が高いとの理由で除去するこ

とや,A甲5に,ポリウレタンフォーム用の発泡剤として列挙されている化合物に

「HFC−134a」と「HFC−245fa」が入っているとの理由で「HFC

−245fa」と置換することを根拠として,前記フォームを発泡させるのに好適

である発泡剤が得られることを,当業者が予測できるとはいえない旨判断した。

しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

甲5には,ポリウレタンフォーム用の発泡剤としての低沸点有機化合物として,

「HFC−134a(CF3−CFH2)」と「HFC−245fa(CF3−CH

2 −CHF2)」が並列して列挙され(甲5の請求項2,段落【0008】),両

化合物は,ポリウレタンフォーム用の発泡剤としては実質的に同様の性質を有する

ものとして記載されている。

他方,甲1には,硬質ウレタンフォームの製造において,HFC−134aは,

硬質ポリウレタンフォーム用ポリオールへの溶解性の問題があること(甲1・51

6頁右欄15ないし17行,甲6−1・4頁16,17行),GWP(地球温暖化

係数)の値が大きく問題があること(甲1・516頁,Table 1,甲6−1・4頁,

表1)が記載されているから,当業者であれば,硬質ウレタンフォームの製造にお

いて,HFC−134aに代えて,上記のような問題のない又は問題の少ない他の

発泡剤を用いる動機があるといえる。

そうすると,甲5と同様にポリウレタンフォームの製造に用いられる甲4のHF

C−365mfcとHFC−134aとからなる発泡剤組成物において,「HFC

−134a」を「HFC−245fa」に変更することは当業者には容易である。

したがって,本件訂正発明の容易想到性を否定した審決の判断は誤りである。

(4) 本件訂正発明の作用効果の認定の誤り(取消事由4)

ア 審決は,原告が審判手続において主張した無効理由1及び2について,本件




明細書の段落【0027】の記載に基づいて,本件訂正発明1,2,4ないし12,

14ないし16,19及び20は,低温での熱遮断性(約15℃を下廻る温度範囲

内での冷気に対する遮断性)に優れた発泡体を提供するという作用効果があること

を認定した。

しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。すなわち,

甲15記載の実験データ(以下「追加実験データ」という。)において,約15

℃を下廻る温度範囲内での冷気に対する遮断性に優れた発泡体を提供できるほどの

効果は示されていない。例えば,0℃においては,実施例1及び2では改善率が0

%であり比較例との効果の差異が全くみられず,実施例3でもわずか0.4%の改

善率であり,10℃においては,実施例1ないし3のいずれにおいても,比較例に

対する改善率は全く認められず,むしろマイナスの改善率である。

仮に,その効果が一部認められたとしても,甲15記載の追加実験データに基づ

く効果は,進歩性を肯定し得る程度の顕著な効果にはなり得ない。すなわち,作用

効果の顕著性を理由に発明の進歩性を肯定するためには,引用文献に記載された発

明に対する作用効果の顕著性が認められるべきである。本件において,追加実験デ

ータの比較例1及び2の発泡剤混合物の組成はHFC−365mfcが70質量部,

HFC−245faが30質量部であるのに対し,甲1には,HFC−365mf

cとHFC−245faだけでなく,さらにHCFC−141bを含む発泡剤組成

物が記載され(甲1・521頁,Table 6のSample 1,甲6−2・9頁,表6の試

料1)),追加実験データの比較例の発泡剤混合物と,甲1記載の発泡剤組成物と

は全く異なるから,追加実験データは,甲1記載の発明に対する本件訂正発明の作

用効果の顕著性を示すものではない。

したがって,甲15記載の追加実験データに基づいて本件訂正発明の作用効果を

認定した審決の判断は誤りである。

イ また,審決は,本件訂正発明1,2,4ないし12,14ないし16及び1

9は,発泡剤としての組成物または発泡剤組成物が,少なくとも,「a)1,1,




1,3,3−ペンタフルオルブタン50質量%未満(HFC−365mfc)およ

び b)ジフルオルメタン(HFC−32);ジフルオルエタン;1,1,2,2

−テトラフルオルエタン(HFC−134);ペンタフルオルプロパン;ヘキサフ

ルオルプロパン;ヘプタフルオルプロパンを含む群から選ばれた少なくとも1つの

他の発泡剤を含有するかまたは該発泡剤から成る発泡剤組成物(但し,HFC−1

34a又はHCFC−141bを含まない)」との事項(以下「発泡剤成分事項

1」という。)を発明特定事項として備えることにより,本件訂正発明20は,発

泡剤混合物が,少なくとも,「1,1,1,3,3−ペンタフルオルブタン1〜5

0質量%未満および1,1,1,3,3−ペンタフルオルプロパン,1,1,1,

3,3,3−ヘキサフルオルプロパンおよび1,1,1,2,3,3,3−ヘプタ

フルオルプロパンからなる群から選択される弗素化炭化水素少なくとも1つ50質

量%超〜99質量%を含有するかまたはこれらのものから成る発泡剤混合物(但し,

HFC−134a又はHCFC−141bを含まない)」との事項(以下「発泡剤

成分事項2」という。)を発明特定事項として備えることにより,本件当初明細書

の例1のb),c)(段落【0044】,【0045】)等の記載から,実用に供

し得る発泡体が得られることが確認できる旨判断した。

しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

本件当初明細書の例1のb),c)においては,発泡剤組成物中,1,1,1,

3,3−ペンタフルオルブタン(HFC−365mfc)はそれぞれ80質量部及

び70質量部使用されており,本件訂正発明における「HFC−365mfcが5

0質量%未満」との構成を満たしていない。

したがって,本件当初明細書の例1のb),c)の記載を前提として本件訂正発

明の作用効果を認定した審決は誤りである。

(5) 本件訂正発明1と,甲1記載の発明及び甲4記載の発明の技術思想が異なる

とした判断の誤り(取消事由5)

審決は,甲1及び甲4には,本件訂正発明1の「低温で熱遮断性に優れた発泡体




を提供する」との技術思想は示されていないから,本件訂正発明1の技術思想と,

甲1記載の発明及び甲4記載の発明の技術思想とは異なる旨判断した。

しかし,審決の判断は,以下のとおり誤りである。すなわち,

甲1記載の発明は,硬質ポリウレタンフォーム発泡剤の分野において,HCFC

−141bが有する優れた熱的性能及び防火性能を犠牲にしてもオゾン層の破壊を

最小限に防ぐことを目的として,HCFC−141bに代替する物質としてHFC

−245faおよびHFC−365mfcが最も有望であるとする発明である。ま

た,本件訂正発明1も,本件明細書によれば,新規種類の好ましい発泡剤を用いて

ポリウレタン硬質発泡材料を製造するための方法や,当該発泡剤を提供することを

目的とするポリウレタン硬質フォームの製造方法に関する発明であって,発泡剤と

してHFC−365mfcやペンタフルオルプロパン(HFC−245fa)を含

み,かつ発泡剤としての組成物(組成物又は混合物)からHCFC−141bを除

くというものである。

そうすると,本件訂正発明1と甲1記載の発明は,@硬質ポリウレタンフォーム

の発泡剤であり,AHCFC−141bに代えて,BHFC−365mfcやペン

タフルオルプロパン(HFC−245fa)を含むことで共通し,両者の技術思想

実質的に同一であるから,本件訂正発明1は,甲1記載の発明から容易想到であ

るというべきである。

2 被告の反論

以下のとおり,審決には,取り消されるべき判断の誤りはない。

(1) 取消事由1(本件訂正発明の認定の誤り)に対し

原告は,本件訂正発明における「(但し,HFC−134a又はHCFC−14

1bを含まない)」は,使用する発泡剤(組成物または混合物)として,HFC−

134aとHCFC−141bのどちらか一方(どちらでもよい)を含む態様を包

含していると認定されるべきである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。




「但し,HFC−134a又はHCFC−141bを含まない」は否定論理和で

あるから,この文言を有する本件訂正後の本件特許の請求項1,11,19及び2

0は,「HFC−134a単独の場合」,「HCFC−141b単独の場合」,及

び,「HFC−134aとHCFC−141bとの併用の場合」を含まない,すな

わち,HFC−134a及びHCFC−141bのいずれをも含まないとの意味に

解するのが合理的である。審決の本件訂正発明の認定に誤りはない。

(2) 取消事由2(本件訂正発明の容易想到性判断の誤り−その1)に対し

ア 原告は,「HCFC−141bが有する熱的性能および防火性能を犠牲にし

てもオゾン層の破壊を最小限に防ぐ」という甲1記載の発明の解決課題を誤解し,

「HCFC−141b」の熱的性能,防火性能に優れるとの点を過大に評価して,

甲1に示される発泡剤組成物から「HCFC−141b」を除去し,本件訂正発明

に想到することは容易でないと判断した審決は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

甲1には,表6のSample 1の発泡剤組成物が,「HCFC−141bが有する優

れた熱的性能および防火性能を犠牲にしても,オゾン層の破壊を最小限に防ぐこと

を課題とし,当該課題の解決手段として代替物質(HFC−245faおよびHF

C−365mfc)を提案する発明である」ことを示す記載は何ら存在しないから,

原告の上記主張は,甲1の記載に基づかないものである。

また,HCFC−141bは優れた熱的性能及び防火性能を備えた発泡剤である

から,HCFC−141bを完全に使用しないことは本件特許の優先日当時の当業

者にとって現実的な選択肢ではなかった。そのため,甲1には,HCFC−141

bの使用をいずれは廃止しなければならないかのような説明が存在するものの,表

6では依然としてHCFC−141bが使用されている。そうすると,甲1記載の

発明(表6のSample1)はHCFC−141bを含むことを前提としていることは

明らかであり,当業者といえども,HCFC−141bを完全に除去することを容

易に想到することはできない。




したがって,甲1に具体的に示されている発泡剤は依然としてHCFC−141

bを含むものであり,この発泡剤からさらに熱的性能,防火性能に優れるHCFC

−141bを完全に除去することは,当業者の容易になし得ることではないとした

審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。

イ 原告は,「HCFC−141bの代替物として作用する発泡剤組成物」が得

られるかについて当業者は予測できないとした審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

甲1記載の発明(表6のSample1)からHCFC−141bを完全に除去すると

しても,当該除去の方法は様々な選択肢が存在するから,甲1記載の発明である

「HFC−245fa」,「HCFC−141b」及び「HFC−365mfc」

の混合物を「HFC−245fa」と「50質量%未満のHFC−365mfc」

の混合物で置換する必然性は存在しない。

また,仮に,甲1の表6のSample1の発泡剤混合物においてHCFC−141b

の存在していた分を表6記載の他の発泡剤で置き換えるにしても,表6にはHFC

−365mfcとHFC−245faしか記載されていない以上,Sample1におけ

るHCFC−141bの置換物の選択肢は,「HFC−365mfc」と「HFC

−245fa」の2つしか存在しない。

ここで,同表のサンプル1の発泡剤混合物において,HCFC−141bを全て

HFC−365mfcに置き換えると,発泡剤混合物の質量%ベースでの配合割合

(乙1・12頁)によれば,HFC−365mfcの量は51.6(20.1+3

1.5)質量%となり,HFC−365mfcの配合量を50質量%未満に限定し

ている本件訂正発明に至ることはできない。また,HFC−365mfcは,他の

発泡剤(HFC−245fa,HCFC−141b)とは異なり,引火点(−25

℃)を有するという観点から(甲1・518頁,Table 4 ,甲6−1・7頁,表

4),当業者は,安全性のため,発泡剤中の可燃性のHFC−365mfcの含有

量を減らそうと動機づけられる(乙1・13頁)。そうすると,同表のサンプル1




の発泡剤混合物において,HCFC−141bをHFC−365mfcに置換して

本件訂正発明の構成に至ることは,本件特許の優先日当時の当業者にとって動機づ

けがなく,容易とはいえない。

一方,同表のSample1の発泡剤混合物において,HCFC−141bをHFC−

245faに置換すると,HCFC−141bの沸点は32.1℃で室温(25

℃)では液体であるのに対し,HFC−245faの沸点は15.3℃で室温では

気体であるから(甲1・表4),発泡剤混合物の蒸気圧が高くなり保存中に容器が

破裂する可能性が高まる,通常の気温での作業中にHFC−245faが気化して

発泡剤組成の正確な制御が困難となるなど,安全性及び発泡体の製造の観点で不都

合が生じる。また,甲1・522頁右欄の「ZERO ODP“LIQUID”BLOWING AGENTS-

HFC-365mfc CUSTOMERS’ EVALUATIONS」の欄には,HFC−141bの代替品とし

て液状発泡剤が好ましい旨が示唆されている。そうすると,本件特許の優先日当時

の当業者にとって,甲1の表6のサンプル1の発泡剤混合物において,液体のHC

FC−141bを気体のHFC−245faに置換する動機づけがない。

しかも,同表のSample1中のHCFC−141bをHFC−245fa(又はH

FC−365mfc)に置換すると,溶解性の点で同等の発泡剤ができないことは

当業者の予測し得る範囲である(塩素原子は溶解性に大きな影響を与えるが,上記

置換によって塩素原子が完全に無くなってしまう。)。

したがって,本件訂正発明が甲1記載の発明から容易に想到できたとはいえず,

「甲第1号証に具体的に記載された発泡剤組成物から『HCFC−141b』成分

を除去するとしても,・・・複数の手法があり,どの手法を採れば,『HCFC−

141b』の代替物として作用する発泡剤組成物が得られるかについては,当業者

といえども,予測できるとはいえない」とした審決の判断に誤りはない。

ウ 原告は,甲1記載の発泡剤組成物における「HCFC−141b」を,異性

体で構造が酷似する「HCFC−141a」に置換することは,容易に想到できる

とはいえないとした審決の判断は誤りである旨主張する。




しかし,原告の主張は失当である。

HCFC−141aが本件特許の優先日前に発泡剤の分野で周知,慣用であった

ことを示す証拠はない。

また,一般に,化学構造が類似しているからといって,直ちに同一の用途に使用

できるとは限らず,発泡剤の分野においても,発泡剤分子の構造は厳密に区別され

ており,HCFC−141bとHCFC−141aのように構造異性体の関係にあ

る2つの発泡剤分子が直ちに互換的に使用できるとは限らない。そうすると,化学

構造の類似性を根拠に,甲1の表6のSample1においてHCFC−141bをHC

FC−141aに置換することを当業者が容易に想到し得るとはいえない。

さらに,原告の主張によれば,甲1には,HCFC類は将来的に全廃される方向

である旨が記載されているというのであるから,当業者は,HCFC−141bの

代わりに,同じくHCFC類であるHCFC−141aを使用してみようとするは

ずがない。

(3) 取消事由3(本件訂正発明の容易想到性判断の誤り−その2)に対し

原告は,甲5と同様にポリウレタンフォームの製造に用いられる甲4のHFC−

365mfcとHFC−134aとからなる発泡剤組成物において,「HFC−1

34a」を「HFC−245fa」に変更することは当業者にとって容易であり,

困難性は存在しないから,本件訂正発明の容易想到性を否定した審決の判断は誤り

である旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

甲4記載の発明とは,「1,1,1,2−テトラフルオロエタン84〜88部と

1,1−ジフルオロエタン12〜16部からなる発泡剤組成物」であり,1,1,

1,2−テトラフルオロエタンはHFC−134aに相当する。

審決において,甲4記載の発明におけるHFC−134aは,フッ素化クロロ炭

化水素と同様にジイソシアネートおよびポリイソシアネートをベースとするフォー

ムを発泡させるのに好適であるとの知見に基づいて採用されたものであり,甲4の




特許請求の範囲に,「1,1,1,2−テトラフルオロエタンと,・・・さらに別

の1つの発泡成分と」と記載されるとおり,HFC−134aは甲4記載の発明の

必須成分であるから,甲5にHFC−245faが記載されているからといって,

甲4記載の発明におけるHFC−134aをHFC−245faに置換することは

当業者が容易になし得ることではない。

また,甲7(甲4の訳文)において,HFC−245faは,「1,1,1,2

−テトラフルオロエタンと,既知の液体物理発泡剤,具体的には沸点が80℃未満

である易揮発性有機化合物と,を含む2成分系発泡剤組成物」の態様に関する説明

部分に記述があるのみである。具体的には,1,1,1,2−テトラフルオロエタ

ンと組み合わされ得る前記「易揮発性有機化合物」の一例の「ハロゲン化炭化水

素」の一例の「フルオロ炭化水素」の一例として挙げられている(R245fa)

にすぎない(甲7・3頁)。そうすると,HFC−245fa(R245fa)は,

HFC−134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)と組み合わされ得る

他の発泡剤の一例として記載されていることは明らかである。

したがって,甲4記載の発明において,HFC−134aをHFC−245fa

置換することは,甲4に接した当業者が容易に想到できるものではない。

(4) 取消事由4(本件訂正発明の作用効果の認定の誤り)に対し

原告は,本件訂正発明の作用効果を認定した審決の判断は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。

本件訂正発明の技術思想は,(a)50質量%未満のHFC−365mfc,及

び,(b)ジフルオルメタン(HFC−32);ジフルオルエタン;1,1,2,

2−テトラフルオルエタン(HFC−134);ペンタフルオルプロパン;ヘキサ

フルオルプロパン;ヘプタフルオルプロパンを含む群から選ばれた少なくとも1つ

の他の発泡剤の組み合わせを使用することによって,低温での熱伝導性が改善され

た発泡材料を製造することができるとするものである(甲15,本件明細書(甲1

7)の段落【0027】)。




甲15の表1ないし3によれば,「30質量部のHFC−365mfc」と「7

0質量部のHFC−245fa」の組み合わせからなる発泡剤(実施例1ないし3

:本件訂正発明に対応)と,「70質量部のHFC−365mfc」と「30質量

部のHFC−245fa」の組み合わせからなる発泡剤(比較例1ないし3:本件

訂正発明の範囲外)の両者をそれぞれ使用してポリウレタン硬質フォーム及びポリ

スチレン(熱可塑性プラスチック)を製造した場合に,−10℃〜−30℃の低温

において,実施例1ないし3の方が比較例1ないし3よりも熱伝導率が低く,断熱

性に優れていることが実証されている。そうすると,本件訂正発明が,上記の技術

思想に基づく作用効果を発揮することは明らかである。

また,原告は,甲15の追加実験データに基づく効果は,甲1記載の発明に対す

る本件訂正発明の作用効果の顕著性を示すものではなく,したがって,顕著な効果

はないと主張する。

しかし,原告の主張は誤りである。甲1記載の発明と本件訂正発明とは,技術思

想において相違する。本件訂正発明が,上記の技術思想に基づく所望の効果を奏す

るのに対し(甲15),甲1には,発泡剤(組成物又は混合物)の50質量%未満

のHFC−365mfcを特定の他の発泡剤と組み合わせて使用することによって,

特に,低温での熱遮断特性に優れた発泡体を提供することができる点について記載

も示唆もされていない以上,甲1記載の発明と本件訂正発明とを対比した実験結果

がなくとも,甲1の記載に基づいて本件訂正発明の構成に容易に想到することはな

い。

したがって,本件訂正発明の作用効果を認定した審決の判断に誤りはない。

(5) 取消事由5(本件訂正発明1と,甲1記載の発明及び甲4記載の発明の技術

思想が異なるとした判断の誤り)に対し

原告は,本件訂正発明1の技術思想と,甲1記載の発明及び甲4記載の発明の技

術思想とは異なる旨判断した審決は誤りである旨主張する。

しかし,原告の主張は失当である。




本件訂正発明1は,(a)50質量%未満のHFC−365mfc,及び,

(b)ジフルオルメタン(HFC−32);ジフルオルエタン;1,1,2,2−

テトラフルオルエタン(HFC−134);ペンタフルオルプロパン;ヘキサフル

オルプロパン;ヘプタフルオルプロパンを含む群から選ばれた少なくとも1つの他

の発泡剤の組み合わせを使用することによって,低温での熱伝導性が改善された発

泡材料を製造することができるというものであり,本件訂正発明1は甲1記載又は

甲4記載の発明と技術思想において異なる。

本件訂正において加入された「HFC−134a又はHCFC−141bを含ま

ない」の記載は,本件特許に係る発明が有していた甲1又は甲4記載の発明との重

複を排除して,それらの発明と異なるものであることを明りょうとするためのもの

であり,本件訂正後の本件訂正発明1は,甲1又は甲4記載の発明と異なる。原告

の主張は理由がない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由2及び4(本件訂正発明の容易

想到性判断の誤り及び作用効果の認定の誤り)の誤りがあると解する。なお,原告

主張に係る取消事由1(本件訂正発明の認定の誤り)は理由がないが,事案にかん

がみ,この点を先に判断する。

1 取消事由1(本件訂正発明の認定の誤り)について

原告は,本件訂正発明における「(但し,HFC−134a又はHCFC−14

1bを含まない)」との構成は,使用する発泡剤(組成物または混合物)として,

HFC−134aとHCFC−141bのどちらか一方(どちらでもよい)を含む

態様を包含していると認定されるべきである旨主張する。

しかし,原告の主張は,採用の限りでない。すなわち,本件において,「HFC

−134a又はHCFC−141bを含まない」との構成は,「HFC−134a

のみを含む場合」,「HCFC−141bのみを含む場合」及び「HFC−134

a及びHCFC−141bの両者を含む場合」の全てを除外する趣旨と理解するの




が相当である。

なお,被告は,本件訂正において,特許査定時の特許請求の範囲の請求項1,1

1,19及び20各記載の発泡剤(組成物又は混合物)について「(但し,HFC

−134a又はHCFC−141bを含まない)」の記載を加えるとともに,請求

項においてHFC−134aに関する記載を削除していること,本件訂正は,原告

が審判手続において引用した甲1(HCFC−141bを含む発泡剤),甲4(H

FC−134aを含む発泡剤)に記載される先行技術との重複部分を削除したが,

同訂正は,本件訂正発明の新規性を確保する趣旨でされたのが合理的と解されるこ

と(乙3),本件訂正が認められていること(本件訂正の可否については争われて

いない。)に照らすならば,本件訂正発明における「(但し,HFC−134a又

はHCFC−141bを含まない)」は,「HFC−134aのみを含む場合」,

「HCFC−141bのみを含む場合」及び「HFC−134a及びHCFC−1

41bの両者を含む場合」の全てを除外する趣旨と解するのが相当である。

したがって,審決の本件訂正発明の認定に誤りはなく,原告の主張は理由がない。

2 取消事由2(本件訂正発明の容易想到性判断の誤り−その1)について

審決は,本件訂正発明と甲1記載の対比・検討に当たって,甲1発明は「HCF

C−141b」を含有する点が,本件訂正発明との相違点であることを前提とした

上で,その容易想到性の有無について,「甲第1号証には,確かに,硬質ポリウレ

タンフォーム用発泡剤を,HCFC−141bから,HFC−245fa,HFC

−365mfcなどに代替していく方向性は示されているといえるが,このような

方向性を踏まえたものとして,具体的に示されている発泡剤組成物は,その成分と

して,代替物である『HFC−245fa』及び『HFC−365mfc』ととも

に『HCFC−141b』を依然として含有するものであって,この発泡剤組成物

から,さらに熱的性能,防火性能に優れる『HCFC−141b』を完全に除去す

ることは,当業者が予測できるとはいえない。」,「甲第1号証に具体的に示され

た発泡剤組成物から『HCFC−141b』成分を除去するとしても,・・・複数




の手法があり,どの手法を採れば,「HCFC−141b」の代替物として作用す

る発泡剤組成物が得られるかについては,当業者といえども,予測できるとはいえ

ない。」,「甲第1号証に・・・具体的に示されている発泡剤組成物は,・・・

『HCFC−141b』を依然として含有するものであって,当業者といえども,

この発泡剤組成物において,熱的性能,防火性能に優れる『HCFC−141b』

を,異性体で構造が酷似しているとはいえ,『HCFC−141a』に置換するこ

とは,容易に想到できるとはいえない。」として,甲1に記載された混合気体から,

本件訂正発明1,2,4ないし12,14ないし16,19が備える発泡剤成分事

項1又は本件訂正発明20が備える発泡剤成分事項2を,当業者といえども容易に

想到できないと判断した。

これに対し,原告は,@「HCFC−141bが有する熱的性能および防火性能

を犠牲にしてもオゾン層の破壊を最小限に防ぐ」という甲1記載の発明の解決課題

を誤解し,「HCFC−141b」の熱的性能,防火性能に優れるとの点を過大に

評価して,本件訂正発明に想到することは容易でないとした審決の判断,A「HC

FC−141bの代替物として作用する発泡剤組成物」が得られるかについて当業

者は予測できないとした審決の判断,B甲1記載の発泡剤組成物における「HCF

C−141b」を,異性体で構造が酷似する「HCFC−141a」に置換するこ

とは,容易に想到できるとはいえないとした審決の判断は,いずれも誤りである旨

主張する。以下,この点について検討する。

(1) 甲1の記載内容

甲1(甲6−2は訳文)には次の記載がある。

ア 甲6−2 1頁5ないし9行

「近年,硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤の分野に大きな変化が起こっている。

当初,CFC−11が,実使用されている唯一の発泡剤だったが,様々な代替物質

が登場するようになった。その中でも,HCFC−141bは,高い熱的性能およ

び防火性能が求められる場合に選択される製品になっている。しかし,オゾン層に




影響を与えないと考えられる新世代の発泡剤を検討する時期がすでにやって来てい

る。」

イ 甲6−2 1頁24ないし29行

「ポリウレタンフォーム中に発泡剤として使用される製品に関しては,モントリ

オール議定書に基づき,1996年1月1日以降,先進国におけるCFC類の製造

が禁止された。「5条国」に関しては,2010年までに製造を終了しなければな

らない。HCFC類もこれに含まれており,先進国における2020年の廃止スケ

ジュール(2004年から2020年にかけて段階的に削減),5条国における2

040年の廃止スケジュール(2016年から2040年にかけて段階的に削減)

が決まっている。」

ウ 甲6−2 1頁30ないし35行

「この議定書の枠組みの中で,米国や欧州連合(EU)などの幾つかの国は,す

べてのオゾン破壊物質の全廃に向けてさらに前進することを決定した。例えば,米

国は,2003年までにHCFC−141bを段階的に廃止しなければならないこ

とを決定した。・・・EUにおいては,HCFC類は2014年までに廃止される

であろう。」

エ 甲6−2 5頁14行ないし31行

「HCFC−141bのすべての用途において置き換えが可能となる真の意味で

の「液状」HFC代替物質が依然として求められている。その候補は既に幾つか現

れている。・・・その中には,ペンタフルオロプロパンの3種の異性体,HFC−

365mfc,HFC−236ea,およびHFE−236・・・がある。

これらの分子をいずれも発泡剤として用いて同1条件下で試験した。・・・これ

らの結果から,以下の傾向を略述することができる。

・3種のペンタフルオロプロパン異性体,すなわちHFC−245ca,HFC−

245eb,およびHFC−245faは,調査したすべての分野,すなわち熱伝

導率(初期および熟成後の両方),圧縮永久歪み,および連続気泡率において良好




な特性を与える。

・この最適化されていない処方に関しては,HFC−365mfcは,従来の発泡

剤よりわずかに劣っている。より適した界面活性剤・・・を使用すれば,結果は間

違いなく向上するであろう。・・・」

オ 甲6−2 11頁2ないし7行

「上記液状HFC類を用いて発泡させたポリウレタンフォームの長期熱特性を評

価できることは,HCFC−141b代替物質に関する他の大きな関心事である。

この問題に対応する1つの方法は,フォームの熱伝導率の劣化を観察することであ

る。・・・ポリウレタンフォームの気相組成を観測し,これらの発泡剤がポリウレ

タンフォームから放散される速度を分析することもできる(独立気泡硬質ポリウレ

タンフォームの長期熱効率・・・は,発泡剤のフォーム外への放散に非常に依存す

ることが見出された。)。」

カ 甲6−2 11頁18ないし43行

「最も有望な数種の代替物質の放散を比較調査するための最初のステップとして,

HCFC−141b/HFC−245fa/HFC−365mfcの混合物を用い

て2種類のポリウレタンフォームを調製した。上述の手順に従い分析した2種類の

ポリウレタン試料の初期の気泡に含有される気体を表6に示す。

この分析の後,一方の試料を室温で熟成させ,他方を70℃で熟成させた。この

ケースでは,我々は,HCFC−141b/HFC−245faおよびHCFC−

141b/HFC−365mfcの体積分率の比を測定した。実際,HFC−24

5faの体積分率に対するHCFC−141bの体積分率は,単純に,気相中に存

在するHFC−245faの量に対する同じ気相中のHCFC−141bの量の比

率である。空気またはCO2の量に依存する全体の体積は,もはや無関係である。

より詳しくは,気相中の物理的発泡剤(HCFC−141b,HFC−245f

a,またはHFC−365mfc)の量は,幾つかの機構,すなわち発泡剤のフォ

ーム外への放散,ポリマーマトリックス内への溶解,または気泡内部における凝縮




によってのみ減少する。発泡剤の量の増加が観察される唯一の可能性は,マトリッ

クスから気相中への脱着により起こるものであろう。通常の環境下では,このよう

なことが起こるとは考えにくい。

例えば,HCFC−141b/HFC−245faの体積分率の比が増加してい

る場合は,気相中のHFC−245faの量がHCFC−141bよりも速く減少

していることを意味している。一方,この比が低下した場合は,HCFC−141

bの量がHFC−245faよりも速く減少したことを意味している。・・・

室温での最初の放出を分析する。いずれも場合も,HCFC−141b/HFC

−245faおよびHCFC−141b/HFC−365mfcの体積分率の比は

時間とともに低下する。これは,HCFC−141bがフォームの気相からHFC

−245faおよびHFC−365mfcよりも速く消失することを意味している。

したがって,この2種類のHFC類のいずれかを用いて発泡させたポリウレタンフ

ォームは,HCFC−141bを用いたものより熟成が遅い(熟成後の熱伝導率が

より高い)と期待できる。70℃における放出の場合,この比は最初に著しく低下

した後,一定になる。この放散比較調査から,HFC−245faおよびHFC−

365mfcのいずれかで発泡させたフォームの長期熱熟成は,HCFC−141

bで発泡させたフォームと少なくとも同程度に良好なはずであるといえる。」

キ 甲6−2 11頁44ないし46行

「我々の得た結果は,効率の高いゼロODPのHCFC−141b代替物質が確

かに存在することを示している。これらの中でも,硬質ポリウレタンフォーム用の

発泡剤としての性能だけでなく製造の容易さも考慮する場合は,HFC−245f

aおよびHFC−365mfcが最も有望なようである。」

ク 甲6−2 12頁13ないし17行

「・・・HFC−365mfcの硬質ポリウレタンフォーム用発泡剤としての可

能性をはっきりと示す非常に希望的なものである。・・・

その候補を許容可能な発泡剤と認定するには多くの要素(環境への影響,毒性,




燃焼性,およびフォームの性能)が必要である。・・・」

(2) 判断

ア 上記(1) 認定の事実によれば,甲1には,HCFC−141bは高い熱的性

能及び防火性能を有するが(ア),HCFC−141b等のHCFC類(Hydro

Chloro Fluoro Carbon)(水素と塩素とフッ素と炭素を含む化合物)はオゾン層に

悪影響を与えるという深刻な欠点を有しており,米国やEUではHCFC−141

b等のHCFC類の廃止スケジュールが定められており(イ,ウ),HCFC類の

代替物質としては,HFC−245fa及びHFC−365mfcが最も有望であ

ること(エないしキ)が開示されているといえる。

また,上記(1)エ には,HCFC−141bの全ての用途において置き換えが可

能となる分子の候補として,HFC−365mfc,HFC−245fa等があり,

発泡試験の結果,HFC−245faは,調査した熱伝導率,圧縮永久歪み及び連

続気泡率の分野において良好な特性があり,HFC−365mfcは,従来の発泡

剤よりわずかに劣るものの,より適した界面活性剤を使用すれば結果は向上すると

考えられること,同オ,カには,この2種類のHFC類(HFC−365mfc,

HFC−245fa)のいずれかを用いて発泡させたポリウレタンフォームは,H

CFC−141bを用いたものより熟成が遅い(熟成後の熱伝導率がより高い)と

期待でき,放散比較調査から,HFC−245faないしHFC−365mfcで

発泡させたフォームの長期熱熟成は,HCFC−141bで発泡させたフォームと

少なくとも同程度に良好なはずであることが記載されている。

以上の記載によれば,甲1(甲6−2)には,オゾン層に悪影響を与えるHCF

C−141bの代替物質としてHFC−245fa及びHFC−365mfc(特

に,HFC−365mfc)を発泡剤としての使用が提案されていることが認めら

れる。なお,HCFC−141bを,その熱的性能,防火性能を理由として,依然

として含有させるべきであるとの見解が示されているわけではないと解される。そ

うすると,甲1(甲6−2)において,HCFC−141bの代替物質としてHF




C−245fa及びHFC−365mfcが好ましいとの記載から,混合気体から

HCFC−141bを除去し,その代替物としてHFC−245faないしHFC

−365mfcを使用した発泡剤組成物を得ることが,当業者に予測できないとし

た審決の判断は,合理的な理由に基づかないものと解される。

イ したがって,原告の上記@及びAの主張は理由があり,上記Bの主張につい

て検討するまでもなく,甲1に記載された混合気体から,本件訂正発明1,2,4

ないし12,14ないし16,19が備える発泡剤成分事項1又は本件訂正発明2

0が備える発泡剤成分事項2を,当業者といえども容易に想到できないとした審決

の判断は誤りである。

3 取消事由4(本件訂正発明の作用効果の認定の誤り)について

審決は,原告が審判手続において主張した無効理由1及び2に関し,「本件訂正

発明1,2,4〜12,14〜16及び19は,発泡剤としての組成物または発泡

剤組成物が,少なくとも,発泡剤成分事項1を発明特定事項として備えることによ

り,また,本件訂正発明20は,発泡剤混合物が,少なくとも,発泡剤成分事項2

発明特定事項として備えることにより,本件当初明細書の例1のb)〜c)(段

落【0044】〜【0045】),例2,例2のb)及び例2のd)(段落【00

47】,【0050】及び【0054】)並びに例3のa)(段落【0056】)

の記載から,実用に供し得る発泡体が得られることが確認できるものであり,さら

に,本件当初明細書の段落【0027】に『本発明方法により得ることができるポ

リウレタン発泡材料の特殊な利点は,低い温度の場合,多くの場合に約15℃を下

廻る温度で効力を生じることにある。意外なことに,本発明方法により得ることが

できるポリウレタン発泡材料は,純粋な炭化水素から製造された発泡材料よりも有

利な熱伝導率(即ち,熱移行がよりいっそう低い)を有するだけでなく,純粋なペ

ンタフルオルブタン(HFC−365mfc)を有する発泡材料と比較した場合で

あっても熱伝導率は僅かである。ペンタフルオルブタン,有利に1,1,1,3,

3−ペンタフルオルブタンおよび上記に他の発泡剤の少なくとも1つを有する発泡




剤混合物を有する十分に独立気泡のポリウレタン発泡材料において,熱伝導率,即

ち熱遮断能に関連して使用された発泡剤混合物の相乗効果は顕著なものである。従

って,ペンタフルオルブタン,有利にHFC−365mfcおよび上記の発泡剤の

少なくとも1つの他のものを使用しながら得ることができるポリウレタン発泡材料

は,約15℃を下廻る温度範囲内での冷気に対して遮断するのに特に好適であ

る。』と記載されているように,低温で熱遮断性に優れた発泡体を提供することが

できるという効果を奏するものであって,この効果は,・・・平成18年1月20

日付け意見書(判決注 甲15のことである。)に掲載された追加実験データによ

っても確認できるものである。」と判断した。

これに対し,原告は,@甲15記載の追加実験データに基づいて本件訂正発明の

作用効果を認定した審決の判断は誤りである,A本件当初明細書の段落【004

4】,【0045】記載の実施例(例1のb),c))は,本件訂正発明における

「HFC−365mfcが50質量%未満」との構成要件を満たさないから,上記

実施例から本件訂正発明の作用効果を認定した審決は誤りである旨主張する。以下,

この点について検討する。

甲15記載の追加実験データは,本件訂正発明のうち,限定された実施例につい

て,限定された方法により実験された結果にすぎず,このデータのみから本件訂正

発明の作用効果を認定することはできないというべきである。

なお,本件当初明細書の段落【0044】,【0045】には,それぞれ,「本

発明によれば,発泡剤組成物は,HFC−365mfc 80質量部とHFC−3

2 20質量部とから成り立っていた。」,「本発明によれば,発泡剤組成物は,

HFC−365mfc 70質量部とHFC−152a 30質量部とから成り立

っていた。」との記載があり(例1のb),c)),これらの実施例は,本件訂正

発明における「HFC−365mfcが50質量%未満」との構成を充足するもの

ではない。

したがって,甲15記載の追加実験データから,低温で熱遮断性に優れた発泡体




を提供することができるという効果を確認できるとした審決には誤りがある。上記

@の原告の主張には理由がある。

4 小括

以上のとおり,審決には,原告主張に係る取消事由2及び4の誤りがあり,その

余の判断をするまでもなく,審決は取り消されるべきである。被告は,他にも縷々

主張するが,いずれも採用の限りではない。

5 付言

当裁判所は,審決には,上記2ないし4において判断した他,次の点に問題があ

ると解する。すなわち,一般に,審決が,「本件訂正発明が甲1に記載された発明

に基づいて容易に想到することができたか否か」を審理の対象とする場合,@引用

例(甲1)から,引用発明(甲1に記載された発明)の内容の認定をし,A本件訂

正発明と甲1記載の発明との一致点及び相違点の認定をした上で,Bこれらに基づ

いて,本件訂正発明の相違点に係る構成について,他の先行技術等を適用すること

によって,本件訂正発明1に到達することが容易であったか否か等を判断すること

が不可欠である。特に,本件においては,引用例の記載事項のいかなる部分を取捨

・選択して,引用発明(甲1に記載された発明)を認定するかの過程は,引用発明

として認定した結果が,本件訂正発明と引用発明との相違点の有無,技術的内容を

大きく左右するという意味において,極めて重要といえる。

しかし,本件において,審決では,引用発明の内容についての認定をすることな

く(甲1の記載を掲げるのみである。),また本件訂正発明と引用発明との一致点

及び相違点の認定をすることなく(相違点が何であるか,相違点が1個に限るのか

複数あるのか等),甲1の文献の記載のみを掲げて,本件訂正発明1の容易想到性

の有無の判断をしている。

当裁判所は,審決には,原告主張に係る取消事由2及び4の誤りがあるとして,

審決を取り消すべきものと判断したが,差し戻した後に再開される審判過程におい

て,引用例記載の発明の認定及び本件訂正発明と引用例記載の発明との相違点等に




ついて,別途の主張ないし認定がされた場合には,その認定結果を前提として,改

めて,相違点に係る容易想到性の有無の判断をした上で,結論を導く必要が生じる

ことになる旨付言する。

第5 結論

よって,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官
飯 村 敏 明




裁判官
池 下 朗




裁判官
武 宮 英 子