関連ワード | 発明者 / 29条1項3号 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明の詳細な説明 / 参酌 / 容易に想到(容易想到性) / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10270号
審決取消請求事件
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2012/01/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成24年1月31日判決言渡 平成23年(行ケ)第10270号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成23年12月26日 判 決 原 告 有 限 会 社 日 新 電 気 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 一 ノ 瀬 薫 同 鳥 居 稔 同 新 海 岳 同 芦 葉 松 美 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 事 実 及 び 理 由 第1 請求 特許庁が不服2010−29683号事件について平成23年7月20日にした 審決を取り消す。 第2 事案の概要 1 前提事実 原告は,発明の名称を「赤い可視光線と不可視光線の近赤外線を透過する帽子」 とする発明について,平成18年12月8日に特許出願(特願2006−3571 46。以下「本願」という。)をしたが,平成22年1月25日付けで拒絶理由通 知(甲3,乙5)を受け,同年9月15日付けで拒絶査定を受け,同年12月15 日,これに対する不服の審判を請求した(不服2010−29683号事件)。特 許庁は,平成23年4月27日付けで拒絶理由通知(乙7)をし,同年5月23日 付けで原告から意見書(甲9)の提出を受けた後,同年7月20日,「本件審判の 請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は, 同年8月10日に原告に送達された。 2 特許請求の範囲 本願の特許請求の範囲(甲1,乙4。なお,以下,特許請求の範囲,明細書及び 図面を総称して「本願明細書」という場合がある。)の請求項1の記載は以下のと おりである(以下,この発明を「本願発明」という。)。 【請求項1】赤い可視光線と不可視光線の近赤外線を透過する帽子 3 審決の理由 (1) 別紙審決写しのとおりである。要するに,本願発明は,本願の出願前に頒布 された特開2006−37318号公報(乙1。以下「引用例1」という。)記載 の発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすること ができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができ ないというものである。 (2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容並びに本願発明と引用発明 の一致点及び相違点は,以下のとおりである。 ア 引用発明の内容 赤い光が透過する構造とした帽子。 イ 一致点 「赤い可視光線を透過する帽子。」である点。 ウ 相違点 本願発明では,不可視光線の近赤外線が透過するのに対し,引用発明では,「赤 い光」に不可視光線に近赤外線が含まれるとの特定がない点。 第3 当事者の主張 1 原告の主張 審決は,手続的違法(取消事由1),容易想到性に関する判断の誤り(取消事由 2)があり,これらの誤りは結論に影響を及ぼすものであるから,審決は取り消さ れるべきである。 (1) 手続的違法(取消事由1) 平成22年9月15日付け拒絶査定においては,特開2005−145890号 公報(甲7)が引用文献として掲げられ,同文献には「赤い可視光線と不可視光線 の近赤外線を透過する帽子」が記載されており,本願発明は,特許法29条1項3 号に該当し,特許を受けることができないとして,本願を拒絶する査定がされた。 原告は,上記の認定,判断を不服として審判の請求をしたのであるから,審判手 続においては,上記査定の理由に対する当否が審理,判断されるべきであるにもか かわらず,審判合議体は,特開2006−37318号公報(引用例1),特開2 002−129424号公報(乙2。以下「引用例2」という。),実願平5−6 6709号(実開平7−31060号)のCD−ROM(乙3。以下「引用例3」 という。)を引用文献として,平成23年4月27日付け拒絶理由通知をし,これ らの文献に基づいて審決をした。 したがって,審決には,拒絶査定の理由の当否を判断しなかった手続的違法があ る。 (2) 容易想到性に関する判断の誤り(取消事由2) 審決は,「出願時に提出された『新潟大学記録報告書』及び審判請求時に提出さ れた『資料1』でも例示された,赤い可視光線を透過する材料としてよく知られて いる赤色プラスチックフィルム及び赤色布が,不可視光線の近赤外線を透過するこ とも,ごく普通に知られていたことである。」として,「引用発明において,引用 例2〜3に記載された技術的事項を参酌し,また,適宜材料を選択し,『赤い光』 と『近赤外線』が透過するように帽子を構成することは,当業者であれば容易にな し得たものであり,格別の効果を奏するものでもない。」と判断した。 しかし,審決の認定,判断は誤りである。 赤外線を透過する赤い透明の帽子を作る材料は入手困難であったが,原告は,通 常の帽子をはさみで切り取って骨組みだけを残し,その骨組みの上に文房具店で購 入した赤い透明のセロハン紙を接着剤で貼り付けた帽子を開発して,新潟大学にお いて測定を行ってもらったところ,当該帽子が,近赤外線領域の波長について90 0nanom まで透過特性を持つことがわかった。したがって,赤色プラスチックフィ ルム及び赤色布が,不可視光線の近赤外線を透過することも,ごく普通に知られて いたとはいえない。 また,上記のような帽子は,頭部の血液の流れを潤滑にし,脳血管障害や円形脱 毛症の予防,治療に格別の効果を奏するものである。 したがって,審決には,容易想到性に関する判断に誤りがある。 2 被告の反論 原告の主張する取消事由は,以下のとおり,いずれも理由がなく,審決に取り消 されるべき違法はない。 (1) 取消事由1(手続的違法)に対し 原告は,審決には,拒絶査定の理由の当否を判断しなかった手続的違法があると 主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 すなわち,原告の拒絶査定不服審判の請求に対し,審判官の合議体は,審査段階 の拒絶査定(原査定)の理由と異なる拒絶の理由を発見した(原査定での拒絶の理 由の証拠よりも,本願発明の技術的内容に近い発明を開示した証拠を発見した)こ とから,新たに発見した証拠に基づけば,本願発明が進歩性を備えていないことが より理解しやすいと判断し,平成23年4月27日付けで新たに拒絶の理由を通知 し(甲8,乙7),相当の期間(通知書の発送の日から60日)を指定して意見書 を提出する機会を与えたところ,請求人(原告)から,同年5月23日付けで意見 書(甲9)が提出された。審判合議体は,その内容を踏まえ,平成23年4月27 日付けで通知した拒絶の理由を覆すに足りる根拠が見いだせず,本願を拒絶すべき とする査定は支持されるべきであるとの結論に至ったので,「審判の請求は成り立 たない」旨審決した。 平成23年4月27日付け拒絶理由通知は,特許法159条2項で準用する同法 50条の規定に基づくものであり,同拒絶理由に基づいてした審決に,手続的違法 は存しない。 したがって,原告の主張に理由はない。 (2) 取消事由2(容易想到性に関する判断の誤り)に対し 原告は,審決には,容易想到性に関する判断に誤りがあると主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 帽子の材料に用いる大きさの赤い透明の材料を手に入れることが,原告にとって 容易でなかったとしても,出願当時に,赤い可視光線と不可視光線の近赤外線を透 過する赤い透明の材料が存在しており(この点は,原告も争わない。),また,赤 い可視光線と不可視光線の近赤外線を透過する材料の一つである赤い透明のセロハ ン紙は,一般に入手可能であったから,「赤い可視光線を透過する材料としてよく 知られている赤色プラスチックフィルム及び赤色布が,不可視光線の近赤外線を透 過することも,ごく普通に知られていたことである。」とした審決の判断に,誤り はない。 また,本願明細書(甲1,乙4)には,【図面の簡単な説明】に「赤い可視光線 と不可視光線の近赤外線を透過する帽子」をかぶることにより「脳の血流を活性化 させ,脳血管障害を予防並びに毛根細胞を活性化させ増毛を促」す効果が得られる 旨が記載されているのみで,本願明細書の【発明の詳細な説明】には,本願発明に 係る帽子を着用する前後の脳の血流または毛根細胞の活動についてのデータが全く 示されていないから,本願発明である「赤い可視光線と不可視光線の近赤外線を透 過する帽子」が,引用発明である「赤い光が透過する構造とした帽子」に比べて, 当業者が予測できなかったほどの格別の効果を奏するものであるとはいえない。 したがって,本願発明について「格別の効果を奏するものでもない。」とした審 決の判断にも,誤りはない。 第4 当裁判所の判断 当裁判所は,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,請求を棄却すべきも のと判断する。その理由は以下のとおりである。 1 取消事由1(手続的違法)について 原告は,審決には,拒絶査定の理由の当否を判断しなかった手続的違法があると 主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 証拠(甲8,甲9,乙7)及び弁論の全趣旨によれば,原告の拒絶査定不服審判 の請求に対し,審判合議体は,審査段階の拒絶査定(以下「原査定」という。)の 拒絶理由において引用された文献(特開2005−145890号公報)とは異な る新たな引用文献(引用例1ないし3)を示して平成23年4月27日付けで拒絶 の理由を通知し,通知書の発送の日から60日以内に意見書の提出を求めたこと, 原告から,同年5月23日付けによる意見書の提出を受けたこと,審判合議体は, 同年7月20日,審判手続で示した拒絶理由通知書において引用した文献に基づい て,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたとする審決を行ったことが 認められる。平成23年4月27日付け拒絶理由通知は,特許法159条2項で準 用する同法50条の規定に基づくものであり,本件審判手続ないし審決に原告主張 に係る手続上の違法はない。 2 取消事由2(容易想到性に関する判断の誤り)について (1) 原告は,審決が,赤色プラスチックフィルム及び赤色布が,不可視光線の近 赤外線を透過することも,ごく普通に知られていたこと等を前提として,本願発明 を容易に発明することができたと判断した点には誤りがある旨主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 引用例1には,「弱っている毛根を生き返らせる本発明の原理を説明する。・・ ・毛根に赤色光の光線を照射すれば赤色光の光線は頭皮に浸透する性質があるから 頭皮内部の毛根に刺激を与えるので毛根は刺激を受け活性化して頭の毛が生えると 言うことになる。すなわち赤色光の光線のみを頭皮に到達するには,赤い色で光が 透過する帽子にすれば,赤色光のみの光線が頭皮に到達するので・・・頭の毛が生 えることになる。」との記載があり,赤い色で光が透過する帽子は,赤色光のみの 光線を頭皮に到達させ,毛根を刺激し,活性化させる作用効果のあることが開示さ れている。また,引用例2には,「本発明の赤外線のみを透過する帽子を着用して おれば頭肌は常に赤く内部まで浸透されているので,・・・毛根はいつも活達であ るから禿げ頭になる等と云うことはないのである。・・・お天気の良い真夏の暑い 日等はなるべく屋外にでて頭肌に養毛剤あるいはオリーブ油等をタップリとすり込 んで赤外線のみを透過する赤い帽子を着用すれば帽子内の温度は上昇するので毛根 細胞の働きはより活達となる。・・・保安帽子の一部を窓式等にして温度調整をす る換気装置をして通気性をもたせるのも一つの方法でもある。・・・」との記載が あり,赤外線のみを透過する赤い帽子は,毛根細胞の働きを活達にすることが開示 されている。さらに,引用例3には,「【0006】【作用】本考案では,0.6 〜1.6μmの波長の近赤外線がスポット光として脱毛部位に照射され,近赤外線 のスポット光による局所血流増加作用により発毛が促進される。・・・」との記載 があり,近赤外線が発毛を促進することが開示されている。 そうすると,当業者であれば,毛根活性化,発毛促進という課題を解決するため, 引用例1に記載された引用発明に,引用例2,3に開示された技術的事項を参酌し て,「赤い光」と「近赤外線」を透過する本願発明の構成に想到することは困難と はいえない。 原告は,帽子の材料に用いる赤い透明な材料を手に入れることが,原告にとって 容易でなかった点を主張する。しかし,@上記の引用例1(その発明者は,本願発 明の発明者と同一人である。)及び引用例2の各記載の内容,A原告は,帽子の材 料として赤い透明のプラスチックは入手が困難であって,赤い透明のセロハン紙を 文房具店で購入して通常の帽子の骨組みに貼り付けた旨の主張内容に照らすならば, 「赤色プラスチックフィルム及び赤色布」は,一般に利用可能な材料であると合理 的に推認される。 したがって,本願発明の引用発明との相違点に係る構成に至ることが,当業者で あれば容易になし得たとした審決の判断に誤りはない。 (2) また,原告は,本願発明の帽子は,頭部の血液の流れを潤滑にし,脳血管障 害や円形脱毛症の予防,治療に格別の効果を奏するものであると主張する。 しかし,原告の主張は失当である。 本願明細書(甲1,乙4)には,【図面の簡単な説明】に「赤い可視光線と不可 視光線の近赤外線を透過する帽子」をかぶることにより「脳の血流を活性化させ, 脳血管障害を予防並びに毛根細胞を活性化させ増毛を促」す効果が得られる旨が記 載されているのみで,本願発明に係る帽子を着用する前後の脳の血流または毛根細 胞の活動についての作用効果が具体的に示されていないから,本願発明である「赤 い可視光線と不可視光線の近赤外線を透過する帽子」が,引用発明である「赤い光 が透過する構造とした帽子」に比べて,当業者が予測できなかったほどの格別の効 果を奏することを前提として,本願発明が容易想到でなかったと判断することはで きない。 3 小括 以上のとおり,原告主張の取消事由にはいずれも理由がなく,審決に取り消すべ き違法は認められない。原告は,他にも縷々主張するが,いずれも採用できない。 第5 結論 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 飯 村 敏 明 裁判官 池 下 朗 裁判官 武 宮 英 子 |