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事件 平成 23年 (行ケ) 10065号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2012/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成24年1月31日判決言渡

平成23年(行ケ)第10065号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成23年11月14日

判 決




原 告 ノーテル・ネットワークス・リミテッド



訴訟代理人弁理士 伊 東 忠 彦

同 大 貫 進 介

同 山 口 昭 則

同 伊 東 忠 重



被 告 特 許 庁 長 官



指 定 代 理 人 藤 井 浩

同 竹 井 文 雄

同 田 部 元 史

同 芦 葉 松 美

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め

る。

事 実 及 び 理 由

第1 請求




特許庁が不服2008−21072号事件について平成22年10月14日にし

た審決を取り消す。

第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成9年4月23日,名称を「電話呼制御および電話呼情報を供給する

方法および装置」とする発明につき国際特許出願(特願平10−518744号,

パリ条約による優先権主張1996年10月17日,米国,甲5,以下「本願」と

いう。)をし,平成16年4月16日付けで手続補正をし(甲6),平成19年6

月25日付けで拒絶理由通知を受け(甲7),平成19年10月30日,意見書を

提出し(甲8),平成20年5月9日付けで拒絶査定を受け(甲9),これに対し,

平成20年8月18日,不服の審判を請求し(甲10),同日手続補正をした(以

下「本件補正」という。甲11)。

特許庁は,平成22年10月14日,本件補正を却下し,「本件審判の請求は,

成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,90日の

附加期間が与えられて平成22年10月26日に原告に送達された。

2 特許請求の範囲

(1) 本件補正前の特許請求の範囲

本件補正前の平成16年4月16日付け手続補正書の特許請求の範囲の請求項1

に記載された発明(以下「本願発明」という。)は,以下のとおりである(甲6)。

「電話接続を行う方法において:

ウェブブラウザを用いて遠隔アクセスできるコンピュータ・ネットワーク装置に

よってアクセスするために,電話加入者に関する電話番号情報を記憶し;

前記電話番号情報の表示のためにウェブブラウザを用いてコンピュータ・ネット

ワーク装置を遠隔アクセスし;

ウェブブラウザを用いてコンピュータ・ネットワーク装置で,加入者の発呼電話

番号および被呼電話番号を識別する情報を含む電話接続メッセージを生成し,




電話接続メッセージをコンピュータ・ネットワーク装置から交換−コンピュータ

インタフェースを介して電話交換機に送り,

電話接続メッセージに応じて,交換機からの発呼電話番号と被呼電話番号間で電

話接続を確立することを特徴とする電話接続方法。」

(2) 本件補正後の特許請求の範囲

平成20年8月18日付けの手続補正書の特許請求の範囲の請求項1に記載され

た発明(以下「本件補正発明」という。)は,以下のとおりである(甲11)。

「電話接続を行う方法において:

ウエブ・ブラウザを用いて遠隔アクセスできるコンピュータ・ネットワーク装置

によってアクセスするために,

加入者の個人電話番号帳と,発呼電話番号への電話通信に関するおよび/または

発呼電話番号からの電話通信に関するログ情報を含む電話加入者に関する電話番号

情報を記憶し;

前記電話番号情報の表示のためにウエブ・ブラウザを用いてコンピュータ・ネッ

トワーク装置を遠隔アクセスし;

ウエブ・ブラウザを用いてコンピュータ・ネットワーク装置で,加入者の発呼電

話番号および被呼電話番号を識別する情報を含む電話接続メッセージを生成し,

電話接続メッセージをコンピュータ・ネットワーク装置から交換−コンピュータ

・インタフェースを介して電話交換機に送り,

電話接続メッセージに応じて,交換機からの発呼電話番号と被呼電話番号間で電

話接続を確立することを特徴とする電話接続方法。」

3 審決の理由

(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件補正発明は,本件優先日

に日本国内において頒布された刊行物である特開平5−49060号公報(甲1。

以下「引用例1」という。)に開示された発明(以下「引用発明1」という。),

本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である菊池隆裕,「コンピュー




タ・テレフォニの新製品 ここにもインターネットの波」,日経コミュニケーショ

ン,日経BP社,1996年4月1日発行,第219巻,第36〜38頁に開示さ

れた発明(以下「引用発明2」という。)及び周知技術に基づいて当業者が容易に

発明をすることができたものであり,特許出願の際独立して特許を受けることがで

きないものであるから,平成18年法律第55号改正前の特許法17条の2第5項

の規定により準用する特許法126条5項の規定に適合しておらず,本件補正は,

特許法159条1項において準用する同法53条1項の規定により却下すべきであ

り,本願発明も,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特

許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであるから,本願は

拒絶すべきであるというものである。

(2) 上記判断に当たり,審決が認定した,@引用発明1及び引用発明2の内容,

A本件補正発明と引用発明1との対比,B本件補正発明と引用発明1との一致点及

び相違点は,以下のとおりである。

ア 引用発明1及び引用発明2の内容

(ア) 引用発明1の内容

「電話接続を行う方法において,

データ端末を用いて遠隔アクセスできるコンピュータによってアクセスするため

に,音声端末の電話番号を指示し,

前記音声端末の電話番号を指示するためにデータ端末を用いてコンピュータを遠

アクセスし,

データ端末を用いてコンピュータで,発呼電話番号および被呼電話番号を識別す

る情報を含む電話接続メッセージを生成し,

電話接続メッセージをコンピュータから通信制御部1aを介してPBXに送り,

電話接続メッセージに応じて,PBXからの発呼電話番号に対応する内部IDお

よび被呼電話番号に対応する内部ID間で電話接続を確立する電話接続方法。」

(イ) 引用発明2の内容




「ウェブ・ブラウザとウェブ・サーバーを用いて,コンピュータと電話および交

換機を連携するためのシステムを構築すること」

イ 本件補正発明と引用発明1との対比と一致点及び相違点

(ア) 審決のした本件補正発明と引用発明1と対比

審決は,本件補正発明と引用発明1との一致点及び相違点を認定する前提として,

次の理由を述べた。

a 引用発明1の「データ端末」と「コンピュータ」,および本件補正発明の「ウ

エブ・ブラウザ」と「コンピュータ・ネットワーク装置」は,共にクライアントサ

ーバ方式のコンピュータシステムである点で一致している。すると,引用発明1の

「データ端末」とは,本件補正発明の「ウエブ・ブラウザ」と,クライアントであ

る点で一致しており,同様に引用発明1の「コンピュータ」とは,本件補正発明の

「コンピュータ・ネットワーク装置」と,サーバである点で一致している。

b 引用発明1の「音声端末の電話番号を指示」することは,電話番号を特定す

る機能を有することであるから,本件補正発明の「加入者の個人電話番号帳と,発

呼電話番号への電話通信に関するおよび/または発呼電話番号からの電話通信に関

するログ情報を含む電話加入者に関する電話番号情報を記憶」することとは,電話

番号に関する機能を有する点で一致している。同様に,引用発明1の「音声端末の

電話番号を指示」とは,本件補正発明の「電話番号情報の表示」と,電話番号に関

する機能という点で一致している。

c 引用発明1の「通信制御部1a」とは,交換機とコンピュータとの間のイン

タフェースであるから,本件補正発明の「交換−コンピュータ・インタフェース」

に相当する。

d 引用発明1の「PBX」は,構内交換機(Private Branch eXchange)のこと

であるから,電話交換機の一種である。

e 引用発明1の「発呼電話番号に対応する内部ID」とは,本件補正発明の「発

呼電話番号」と,発呼側のための識別情報である点で一致する。同様に,引用発明




1の「被呼電話番号に対応する内部ID」とは,本件補正発明の「被呼電話番号」

と,被呼側のための識別情報である点で一致する。

(イ) 一致点

「電話接続を行う方法において,

クライアントを用いて遠隔アクセスできるサーバによってアクセスするために,

電話番号に関する機能を有し,

前記電話番号に関する機能のためにクライアントを用いてサーバを遠隔アクセス

し,

クライアントを用いてサーバで,発呼電話番号および被呼電話番号を識別する情

報を含む電話接続メッセージを生成し,

電話接続メッセージをサーバから交換−コンピュータ・インタフェースを介して

電話交換機に送り,

電話接続メッセージに応じて,交換機からの発呼側のための識別情報と被呼側の

ための識別情報間で電話接続を確立する電話接続方法。」

(ウ) 相違点

a 相違点1

クライアントとサーバのシステム構成に関し,本件補正発明では「ウエブ・ブラ

ウザ」と,ウェブ・サーバ側の装置である「コンピュータ・ネットワーク装置」に

より構成されているのに対し,引用発明1では,「データ端末」と「コンピュータ」

により構成されている点。

b 相違点2

電話番号に関する機能に関し,本件補正発明では「加入者の個人電話番号帳と,

発呼電話番号への電話通信に関するおよび/または発呼電話番号からの電話通信に

関するログ情報を含む電話加入者に関する電話番号情報を記憶」し,「電話番号情

報の表示」を行うものであるのに対し,引用発明1では「音声端末の電話番号を指

示」するものである点。




c 相違点3

発呼電話番号および被呼電話番号に関し,本件補正発明では,「加入者」の電話

番号であるのに対し,引用発明1では「PBX」で用いられる電話番号である点。

d 相違点4

電話接続の確立に関し,本件補正発明では,「交換機からの発呼電話番号と被呼

電話番号間で電話接続を確立する」のに対し,引用発明1では,「PBXからの発

呼電話番号に対応する内部IDおよび被呼電話番号に対応する内部ID間で電話接

続を確立する」点。

第3 当事者の主張

1 取消事由に係る原告の主張

審決には,以下のとおり,本件補正発明と引用発明1との間の一致点認定の誤り,

及び本件補正発明の容易想到性判断の誤りがある。

(1) 一致点の認定の誤り(取消事由1)

審決は,第2,3,(2),イ記載のとおり,本件補正発明と引用発明1との一致点

及び相違点を認定する前提として,「引用発明1の『音声端末の電話番号を指示』

することは,電話番号を特定する機能を有することであるから,本件補正発明の『加

入者の個人電話番号帳と,発呼電話番号への電話通信に関するおよび/または発呼

電話番号からの電話通信に関するログ情報を含む電話加入者に関する電話番号情報

を記憶』することとは,電話番号に関する機能を有する点で一致している。同様に,

引用発明1の『音声端末の電話番号を指示』とは,本件補正発明の『電話番号情報

の表示』と,電話番号に関する機能という点で一致している。」との理由を述べて

いる(以下「一致点b」という。)。

しかし,審決の上記認定は,以下のとおり,誤りである。すなわち,

引用発明1における「指示」は,本件補正発明における「記憶」及び「表示」と

相違する。引用発明1における「指示」とは,PBXが2者間接続処理(【002

2】)を行う際における2者電話機を特定する際,データ端末が,発呼電話機及び




被呼電話機を特定するために,両音声端末の電話番号をPBXに対して指示するこ

とを指す。これに対して,本件補正発明における「表示」は,ウエブ・ブラウザ1

2及び電話機10の所有者である加入者が眼で見ることができるようにするため

に,個人電話番号帳等の電話番号情報をウエブ・ブラウザ12上に加入者に対して

表示することにより,他の動作と連係して本件補正発明の効果を奏するものである。

このように,引用発明1における「音声端末の電話番号を指示」と,本件補正発明

における「『個人電話番号帳の記憶』及び『電話番号情報の表示』」とは,異なる

動作であるにもかかわらず,それぞれを上位概念化することによって,「電話番号

に関する機能という点で一致している」とした審決の一致点の認定に当たっての前

提判断には誤りがある。

また,本件補正発明における「ウエブ・ブラウザを用いてコンピュータ・ネット

ワーク装置で,加入者の発呼電話番号および被呼電話番号を識別する情報を含む電

話接続メッセージを生成」するとの構成,及び「電話接続メッセージをコンピュー

タ・ネットワーク装置から交換−コンピュータ・インタフェースを介して電話交換

機に送(る)」との構成は,引用例1には存在しない。したがって,審決が「クライ

アントを用いてサーバで,発呼電話番号および被呼電話番号を識別する情報を含む

電話接続メッセージを生成し,電話接続メッセージをサーバから交換−コンピュー

タ・インタフェースを介して電話交換機に送(ることを一致する)」とした審決の

一致点の認定に当たっての前提判断には誤りがある。

さらに,本件補正発明においては,審決が引用発明1のデータ端末とコンピュー

タにそれぞれ対応させた「ウエブ・ブラウザ12」と「コンピュータ・ネットワー

ク装置22」とは「遠隔アクセス」する関係にある。「ウエブ」とは,インターネ

ットまたはワールドワイド・ウエブと呼ばれる国際的なネットワークのようなコン

ピュータ・ネットワークを意味している。他方,引用発明1におけるデータ端末は

コンピュータに収容されており,あるいはせいぜいLAN(構内通信網)6を介し

て接続されていることから,引用発明1は,「遠隔アクセス」を想定していない。




本件補正発明の「遠隔アクセス」は,インターネットを介して接続される程度の遠

隔なアクセスを指すものであって,LAN程度の距離内でのアクセスを意味するも

のではない。審決は,本件補正発明が「遠隔アクセス」するのに対し,引用発明は,

「遠隔アクセス」することはないとの相違点を看過した点についても,誤りがある。

(2) 相違点2についての容易想到性判断の誤り(取消事由2)

審決は,本件補正発明における相違点2に係る構成(「『加入者の個人電話番号

帳と,発呼電話番号への電話通信に関するおよび/または発呼電話番号からの電話

通信に関するログ情報を含む電話加入者に関する電話番号情報を記憶』し,これら

の『電話番号情報の表示』をさせること」)は,引用発明1に周知技術を適用する

ことによって容易であったと判断した。

しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,誤りがある。すなわち,

引用発明1において,「音声端末の電話番号を指示」する客体は,音声端末の電

話番号,すなわち発呼電話番号と被呼電話番号の2つであるのに対し,本件補正発

明において,「加入者の個人電話番号帳を記憶し,表示」する際の客体は,加入者

の個人電話番号帳等である点で相違する。

また,引用発明1において,「音声端末の電話番号を指示」する相手はPBXで

あるのに対し,本件補正発明において,「加入者の個人電話番号帳を表示」する動

作において表示する相手は加入者である点で相違する。

さらに,引用発明1において,「音声端末の電話番号を指示」する主体は,審決

が本件補正発明の「ウエブ・ブラウザ」(12)に対応させた「データ端末」(5a)

であるのに対して,本件補正発明において,「加入者の個人電話番号帳を記憶」す

る主体はコンピュータ・ネットワーク装置(22)である点で相違する。引用発明

1においては,審決が本件補正発明の「コンピュータ・ネットワーク装置」(22)

に対応させた引用発明1のコンピュータ(4)は「加入者の個人電話番号帳を記憶」

することはなく,引用例1にはそのような動作についての記載も示唆もない。

このように,引用発明1の「音声端末の電話番号を指示」と,本件補正発明の「加




入者の個人電話番号帳の記憶及び表示」とは,客体も主体も相違することから,「音

声端末の電話番号を指示」を「加入者の個人電話番号帳の記憶及び表示」に置き換

えることが容易であるとはいえない。

審決が周知技術を示すものとして甲3及び甲4を例示するが,甲3,甲4のいず

れにも,本件補正発明の特徴である「加入者の個人電話番号帳を記憶」する主体が

コンピュータ・ネットワーク装置(22)であり,かつ,「加入者の個人電話番号

帳を表示」する主体がウエブ・ブラウザ(12)であることの記載はない。

本件補正発明は,請求項に記載された各動作が連係して一連の流れを構成し,そ

の一連の流れ動作によって,本件補正発明の効果が達成されているのであるから,

容易想到性の有無は,一連の流れを重視して判断すべきであるが,審決は「加入者

の個人電話番号帳の記憶,表示」のみによって,相違点2に係る構成が容易である

と判断した点に誤りがある。

2 被告の反論

(1)一致点の認定の誤り(取消事由1)に対し

原告は,一致点bの認定につき,引用発明1における「音声端末の電話番号を指

示」と,本件補正発明における「個人電話番号帳の記憶及び電話番号情報の表示」

とは相違する点を考慮しなかった点に誤りがある,と主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり失当である。すなわち,

引用発明1の「音声端末の電話番号を指示」は,データ端末が音声端末の電話番

号をコンピュータに指示することができるという「機能」を示したものと理解でき

る。したがって,引用発明1において,「クライアントを用いて遠隔アクセスでき

るサーバによってアクセスするために,電話番号に関する機能を有し, とし,
」 「前

記電話番号に関する機能のためにクライアントを用いてサーバを遠隔アクセスし,」

とした審決の認定に誤りはない。

他方,本件補正発明は,「発呼による電話接続を行うに先立ち,予め行われるべ

き」過程と「各発呼が発生する毎に行われる」一連の過程とに分けることができる。




前者は,コンピュータ・ネットワーク装置に「加入者の個人電話番号帳と,発呼電

話番号への電話通信に関するおよび/または発呼電話番号からの電話通信に関する

ログ情報を含む電話加入者に関する電話番号情報」を「記憶」させる過程であり,

発呼に先立ち,予め行われるものであり,ウエブ・ブラウザを用いてコンピュータ

・ネットワーク装置を遠隔アクセスし,前記電話番号情報を表示するという「機能」

を付与するための過程である。後者は,前者の過程を経た後,コンピュータ・ネッ

トワーク装置に「電話加入者に関する電話番号情報」を記憶させることにより,ウ

エブ・ブラウザにおいてはコンピュータ・ネットワーク装置にアクセスして該「電

話加入者に関する電話番号情報」を表示できるという機能を有することになる。

以上によれば,引用発明1における「音声端末の電話番号を指示」と,本件補正

発明における「個人電話番号帳の記憶」及び「電話番号情報の表示」とは,「電話

番号に関する機能」を有するという点で一致するといえる。審決の前提としての認

定に誤りはなく,原告の主張は失当である。

この点について,原告は,引用発明1における「指示」は,データ端末が,発呼

電話機及び被呼電話機の特定のために両音声端末の電話番号をPBXに対して指示

するものであると主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,甲1の段落【00

21】ないし【0022】には,データ端末5aからの指示に基づく要求をコンピ

ュータ4が受信すると,コンピュータはCSTAで規定されたフォーマットを持つ

2者間接続のためのメッセージをPBXに送出するとある。この記載から,甲1で

は,データ端末からの指示に基づく「要求」を,コンピュータにおいて2者間接続

のための「電話接続メッセージ」に変換して,該コンピュータからPBXに送出す

る構成が記載されているといえ,データ端末からの指示に基づく「要求」と,コン

ピュータから送出される「電話接続メッセージ」は同じ情報ではない。甲1の記載

では,データ端末からの「要求」に電話番号が含まれていても,該「要求」は直接

PBXに送出されるものでなく,「電話接続メッセージ」を生成し送出するのはコ




ンピュータである。

したがって,審決において,「データ端末を用いてコンピュータで,発呼電話番

号および被呼電話番号を識別する情報を含む電話接続メッセージを生成し,」とい

う構成を含めた引用発明1を認定した点に誤りはなく,「クライアントを用いてサ

ーバで,発呼電話番号および被呼電話番号を識別する情報を含む電話接続メッセー

ジを生成し,」を一致するとした認定に誤りはない。

(2)相違点2についての容易想到性判断の誤り(取消事由2)に対し

以下のとおり,本件補正発明における相違点2に係る構成が引用発明1に周知技

術を適用することによって容易であったとした審決の判断に誤りはない。

ア 相違点2は,サーバで発呼電話番号および被呼電話番号を識別する情報を含

む電話接続メッセージを生成するに当たり,該電話接続メッセージを生成するに必

要な「電話番号」の情報をクライアントを用いてサーバに送るためにクライアント

・サーバ系にどのような「電話番号に関する機能」を持たせているのかという点の

相違,すなわち,該電話接続メッセージを生成するに必要な「電話番号」の情報を

クライアントを用いてどのようにサーバに送るかという点の相違に起因するもので

ある。

本件補正発明では,まず,コンピュータ・ネットワーク装置に「加入者の個人電

話番号帳と,発呼電話番号への電話通信に関するおよび/または発呼電話番号から

の電話通信に関するログ情報を含む電話加入者に関する電話番号情報を記憶」し,

ウエブ・ブラウザを用いて該コンピュータ・ネットワーク装置にアクセスして,ウ

エブ・ブラウザに記憶された「前記電話番号情報の表示」をした後,ウエブ・ブラ

ウザ上で表示された電話番号情報を利用して電話番号をコンピュータ・ネットワー

ク装置に送るものである。これに対して,引用発明1では,直接,データ端末から

音声端末の電話番号を指示して,コンピュータに送るものである。

ところで,加入者の電話番号帳を記憶して,必要に応じて表示し,利用すること

や,電話の発信・着信履歴を記憶して,必要に応じて表示し,利用することは,甲




3及び甲4に示されるように,当該システムの分野における周知技術であった。

したがって,上記周知技術を引用発明1の「電話番号」の入力技術として採用し,

直接「電話番号」をデータ端末に指示して入力する動作を,加入者の電話番号帳や

発信・着信履歴を含む電話番号情報を発呼に先立ち,予め記憶しておき,必要に応

じてデータ端末に表示し,利用して「電話番号」を入力する動作に置き替えること

は当業者であれば容易になし得るものであるといえる。

イ また,以下のとおり,引用発明1における「データ端末」と「コンピュータ」

の構成に代えて,「ウエブ・ブラウザ」とウェブ・サーバ側の装置である「コンピ

ュータ・ネットワーク装置」の構成を採用することは,当業者が容易になし得たこ

とである。

すなわち,ウエブ・ブラウザとウエブ・サーバによるコンピュータシステムであ

れば,ウエブ・サーバに情報を記憶しておき,ウエブ・ブラウザからウエブ・サー

バの該情報にアクセスして,ウエブ・ブラウザ上で該情報を表示することは,周知

である。

当業者であれば,引用発明1のデータ端末をウエブ・ブラウザとし,コンピュー

タをウエブ・サーバとした際,ウエブ・サーバに電話番号情報を記憶し,ウエブ・

ブラウザからウエブ・サーバの該電話番号情報にアクセスし,ウエブ・ブラウザ上

で該電話番号情報を表示するようにするから,電話番号情報である「加入者の個人

電話番号帳を記憶」する主体はウエブ・サーバとなり,かつ,「加入者の個人電話

番号帳を表示」する主体はウエブ・ブラウザとなることは当業者に明らかである。

したがって,審決に誤りはない。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違

法はないものと判断する。その理由は以下のとおりである。

一致点の認定の誤り(取消事由1)について

当裁判所は,審決が前提として述べた「引用発明1の『音声端末の電話番号を指




示』することは,電話番号を特定する機能を有することであるから,本件補正発明

の『加入者の個人電話番号帳と,発呼電話番号への電話通信に関するおよび/また

は発呼電話番号からの電話通信に関するログ情報を含む電話加入者に関する電話番

号情報を記憶』することとは,電話番号に関する機能を有する点で一致している。

同様に,引用発明1の『音声端末の電話番号を指示』とは,本件補正発明の『電話

番号情報の表示』と,電話番号に関する機能という点で一致している。」とした認

定部分に誤りはないと判断する。

その理由は,以下のとおりである。

(1) 事実認定

ア 本件補正発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,第2,2,(2)記載の

とおりである。

また,本願明細書(甲5)には,以下の記載がある。

最初に,ウエブ装置22にアクセスするときには,ウエブ・ページ・マネジャ

36は,例えば,フレーム51と52中にログを有するウエブ・ページ,フレーム

53中の広告サーバから得られる広告見出し,加入者に登録またはログインさせる

オプション(例えば,機能ボタンおよび/または編集ウインドウ)を表示するフレ

ーム57を有するウエブ・ページを作成する。ログイン時には,ウエブ・ページ・

マネジャ36は,機能38と44を介して通信し,加入者用のデータを,データベ

ース44から検索し,このデータをアクセスを簡便で速くするためにキャッシュ4

0中に記憶する。このデータは,上述のように,ページ・マネジャ36は,フレー

ム54中に表示する加入者情報を含むことができ,また,以下に説明するように,

以前に加入者用に記憶された好みと,個人の電話帳および呼データとを含むことが

できる。ページ・マネジャ36は,また,例えば図3に示されるようにフレーム5

5と56を表わすことができる。そのとき,フレーム57は,空白でもよく,任意

の所望の情報を含んでいてもよい。

「個人」と表示されているボタン62をクリックすると,ウエブ・ページ・マネ




ジャ36は,機能38を介して加入者の個人の電話帳をアクセスして,これを,フ

レーム57の従来技術のスクローリング・ウインドウ80中に表示する。例えば,

図3に示されるように,個人の電話帳中の各エントリは,ウインドウ80中に表示

される名前,電話番号,EメールIDフィールドを持つことができる。スライダ8

1,矢印82と83およびスクロールバー84は,加入者が,個人の電話帳記録を

スクロールできるようにする。任意の記録をクリックすると,その記録のフィール

ドが,編集ウインドウ68に表示される。記録は,「編集」と付されたボタン74

をクリックすることによって編集され,更新することができる。ウインドウ68で

識別された記録は,「削除」と付されたボタンをクリックすることによって,個人

の電話帳から削除できる。加入者は,所望の記録をウインドウ68中の検索領域に

入力し,「検索」と付されたボタン71をクリックすることによって,場所を突き

止めることができる。新しい記録は,加入者が,「追加」と付されたボタン72を

クリックすることによって,ウインドウ68から,個人電話帳中に作ることができ

る。このように,加入者は,ウエブ・ページ・マネジャ36とCGIスクリプト3

8を介して,個人の電話帳を,キャッシュ40中にセットアップして保存すること

ができる。データベース42は,キャッシュ40から従来の既知の方法によって更

新できる。

ボタン71〜74の上記の機能には,呼制御インタフェース46を介する通信と

は関係がない。対照的に,ボタン75〜77は,典型的には,呼制御インタフェー

ス46を介する電話交換機16との通信を含む通信機能を有する。例えば,「ダイ

ヤル」と付されたボタン75をクリックすると,電話交換機16を始動させ,加入

者の電話機10とウインドウ68中の電話帳番号の加入者との間に電話接続を設定

する。この電話番号は,入力することができ,加入者がネットワーク・ブラウザ1

2でタイピングすることによって編集することもできる。また,上述のように,こ

の電話番号は,ウインドウ80中の記録をクリックすることによって,個人の電話

帳から選択でき,また,以下に示される他の方法でも供給できる。




ダイヤルボタン75をクリックすることによって,ウエブ・ページ・マネジャ3

6は,ダイヤル要求,加入者の発呼電話番号CN(フレーム54中に表示されるよ

うな),およびウインドウ68からの被呼電話番号DNを含むメッセージを,機能

38と44を介して,呼制御インタフェース46に送る。このメッセージは,呼制

御インタフェース46から,パス24とSCI 26を介して電話交換機16に送

られる。交換機16は,電話番号が有効であることと,加入者の電話機10(発呼

電話番号CN)がオンフックになっていることを調べ,(固有の)呼び出し信号を

電話機10に供給する。加入者は,呼び出し音を待って,自分の電話機10をオフ

フックにする。これは,電話交換機16は,被呼電話番号DNへの所望の電話接続

を設定するときには,加入者が電話機10で番号DNをダイヤルしたときと同じく

従来の方法で行う。エラーおよび/または状態メッセージは,電話交換機16から,

SCI 26,パス24,機能46,44および38を介して,ウエブ・ページ・

マネジャ36に通信され,所望の通り,適切にウエブ・ページ上に表示される。

加入者は,電話機10から電話することなく,上記の方法で,ウエブ・ページへ

アクセスを介して,所望の番号に電話発呼できる。(甲5・13頁11行〜15

頁13行)

SCI 26は,電話交換機16を介して電話機10に入力する電話呼に対して,

例えば,被呼番号および発呼番号を含む情報メッセージと,発呼の日時を,ウエブ

装置22に与える。この情報は,呼API 44によって,機能46と44を介し

て,データベース42中の各加入者に関する呼ログに入力される。これは,加入者

のウエブ・ブラウザ12がアクティブであるかどうかにかかわらず行われるため,

呼ログは加入者のいかなるアクティビティにも依存しない。ウエブ・ページへのロ

グインにおいて,この呼ログは,上述のように,キャッシュ40に供給され,加入

者が利用することができる。加入者は,ウエブ・ページ・マネジャ36が,個人の

電話帳の代わりに,フレーム57のスクロール・ウインドウに,呼ログを表示する

とき,「呼ログ」と付されたボタン61をクリックすることができる。呼ログの各




記録は,例えば,電話交換機16からSCI 26を介して供給された発呼電話番

号(例えば,上述の個人電話帳)を含むフィールド,発呼電話番号,データベース

42を介した加入者の(すなわち,被呼番号の)個人の電話帳,または以下に説明

された法人電話帳のような他の電話帳機能を参照することによって電話交換機16

によって同様にオプションとして供給される名称フィールド,または発呼の日時の

ためのフィールドを含むことができる。他のフィールド,例えば,SCI 26に

よって供給される呼の持続時間および状態(例えば,応答されたか否か),上述の

ようなデータベースまたは電話帳ルックアップによって供給される関連するEメー

ル・アドレスに関するフィールドも,所望の通り呼ログに供給される。

個人の電話帳に関する上述と同様の方法で,加入者は呼ログをスクロールし,任

意の記録をクリックして,ウインドウ68中に再生し,「追加」ボタン72をクリ

ックして対応する記録を加入者の個人電話帳に追加し,「ダイヤル」ボタン75を

クリックして,発呼番号などに対し呼の返送を行うことができる。(甲5・16頁

6行〜17頁1行)

一方,ウエブ装置は,加入者によって発呼された番号の被呼番号ログを保存する。

都合の良いことに,これは,上述の呼ログと類似しており,ウエブ装置を用いて加

入者によって確立された呼に関しては,ウエブ・ページ・マネジャ36から供給さ

れた情報および/または加入者宛の着信呼に関して上述されたSCI26を介して

交換機16によって供給された情報を用いることができる。後者の情報は,ウエブ

装置22を用いずに,電話機10から従来の方法で行われた呼の場合でも,この被

呼番号ログを保存するために用いることができる。これによって,加入者のウエブ

・ブラウザ12は,この被呼ログが保存されるためにアクティブである必要ではな

い。呼ログに関して上述されたものと同じ方法で,加入者は「リダイヤル」と付さ

れたボタン63をクリックして,フレーム57中のウインドウに被呼番号ログを表

示することができる。また,フレーム56中のウインドウ68とボタン71から7

8は,加入者が被呼番号ログを保存するために用いられ,「ダイヤル」ボタン75




は,前に発呼された番号をリダイヤルするために用いられる。(甲5・17頁10

行〜23行)

イ 他方,引用例1(甲1)には,以下の記載がある。

「【0016】

【作用】この発明においては,コンピュータに収容されるデータ端末が,PBXに

収容される音声端末の電話番号を指示し,当該の音声端末を対象としたPBXのサ

ービス(例えば,2者間の接続処理)を最初に要求したときに,PBXが当該の音

声端末に関し,内部IDを検索し,これを動的なデバイスIDとしてコネクション

IDに設定しコンピュータに通知する。以後コンピュータは当該の音声端末を制御

する一連のサービス(例えば,2者間接続完了後の保留処理や第3者発信処理)要

求時に,音声端末識別のためにデバイスID(実際にはコネクションID)をPB

Xへのサービス要求のメッセージに設定するが,このデバイスIDがPBX内部I

Dであるために,PBXでは,当該の端末を制御するために必要になる内部IDの

検索処理を省略できる。」

(2) 判断

ア 本件補正発明における「加入者の個人電話番号帳」を記憶及び表示すること

について

上記(1)の認定によれば,本件補正発明では,「ログイン時には,」「加入者の個

人の電話帳」を「データベース44から検索し,このデータをアクセスを簡便で速

くするためにキャッシュ40中に記憶」する。そして,「『個人』と表示されてい

るボタン62をクリックすると」,「加入者の個人の電話帳」をアクセスして,こ

れを,「スクローリング・ウインドウ80中に表示」する。また,「『ダイヤル』

と付されたボタン75をクリックすると,電話交換機16を始動させ,加入者の電

話機10とウインドウ68中の電話帳番号の加入者との間に電話接続を設定」し,

「この電話番号は,ウインドウ80中の記録をクリックすることによって,個人の

電話帳から選択」することを目的とする発明である。




そうすると,本件補正発明においては,「加入者の個人電話番号帳」に記憶され

た電話番号を表示し,上記「加入者の個人電話番号帳」の電話番号の中から,電話

発呼の際に接続を要求する電話番号を特定することができるものであると認められ

る。

イ 本件補正発明における「発呼電話番号への電話通信に関するおよび/または

発呼電話番号からの電話通信に関するログ情報」を記憶及び表示することについて

上記(1)の認定によれば,本件補正発明では,「ログイン時には,」「呼ログ」を

「データベース44から検索し,このデータをアクセスを簡便で速くするためにキ

ャッシュ40中に記憶」し,「加入者は,ウエブ・ページ・マネジャ36が,個人

の電話帳の代わりに,フレーム57のスクロール・ウインドウに,呼ログを表示す

るとき,『呼ログ』と付されたボタン61をクリックする」。そして,上記「呼ロ

グ」の各記録は,「例えば,電話交換機16からSCI26を介して供給された発

呼電話番号(例えば,上述の個人電話帳)を含むフィールド,発呼電話番号,デー

タベース42を介した加入者の(すなわち,被呼番号の)個人の電話帳」を含む。

また,「個人の電話帳」と同様の方法で,「加入者は呼ログをスクロールし,任意

の記録をクリックして,ウインドウ68中に再生し,『追加』ボタン72をクリッ

クして対応する記録を加入者の個人電話帳に追加し,『ダイヤル』ボタン75をク

リックして,発呼番号などに対し呼の返送を行うことができる」。そして,「呼ロ

グ」と類似して「加入者によって発呼された番号の被呼番号ログを保存」し,「呼

ログ」と同じ方法で,「加入者は『リダイヤル』と付されたボタン63をクリック

して,フレーム57中のウインドウに被呼番号ログを表示することができ」,「ま

た,フレーム56中のウインドウ68とボタン71から78は,加入者が被呼番号

ログを保存するために用いられ,『ダイヤル』ボタン75は,前に発呼された番号

をリダイヤルするために用いられる」。

そうすると,本件補正発明においては,「発呼電話番号への電話通信に関するお

よび/または発呼電話番号からの電話通信に関するログ情報」に記憶された電話番




号を表示し,上記「発呼電話番号への電話通信に関するおよび/または発呼電話番

号からの電話通信に関するログ情報」の電話番号の中から,電話発呼の際に接続を

要求する電話番号を特定することができるものであると認められる。

以上によれば,本件補正発明における「発呼電話番号への電話通信に関するおよ

び/または発呼電話番号からの電話通信に関するログ情報」を記憶及び表示するこ

とは,いずれも,電話発呼の際に接続を要求する電話番号を特定するための構成で

あるといえる。

ウ 引用発明1の「音声端末の電話番号を指示」することの意義及び対比

上記(1)の認定によれば,引用発明1は「コンピュータに収容されるデータ端末上

で,音声端末の電話番号を指示して,接続処理を要求する」ことが記載され,同記

載によれば,引用発明1の「音声端末の電話番号」の指示は,電話発呼の際に接続

を要求する電話番号を特定することを目的とするものと認められる。

そうすると,本件補正発明における「加入者の個人電話番号帳と,発呼電話番号

への電話通信に関するおよび/または発呼電話番号からの電話通信に関するログ情

報を含む電話加入者に関する電話番号情報を記憶」することと,引用発明1におけ

る「音声端末の電話番号を指示」することは,いずれも,電話発呼の際に接続を要

求する電話番号を特定するための構成である点で共通する。

以上によれば,審決が,本件補正発明及び引用発明1の一致点を認定する前提と

して述べた,一致点bは,それぞれの発明の各構成を正確に解釈,認定した結果に

基づくものであり,誤りはない。

したがって,審決が,一致点bに基づいてした,本願発明と引用発明1との一致

点及び相違点の認定にも,誤りはない。

エ 原告の主張について

(ア) 原告は,引用例1には,本件補正発明における「ウエブ・ブラウザを用いて

コンピュータ・ネットワーク装置で,加入者の発呼電話番号および被呼電話番号を

識別する情報を含む電話接続メッセージを生成」するとの構成,及び「電話接続メ




ッセージをコンピュータ・ネットワーク装置から交換−コンピュータ・インタフェ

ースを介して電話交換機に送(る)」との構成についての記載はないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり採用できない。すなわち,引用例1に

は,「図1においてデータ端末5aが自分と協調関係にある音声端末3aから発信

を行ない,音声端末2aと接続するようPBXに指示すると,コンピュータ4はL

AN6を介し,データ端末からの要求を受信する。ここでコンピュータはCSTA

で規定されたフォーマットを持つ,2者間接続のためのメッセージをPBXへ送出

する。・・・ 」(【0021】),「PBXではこのメッセージを受信すると,メッ

セージ中のパラメータをチェックし,正しければ,PBX内部のデータベース等を

使用して,音声端末の電話番号をPBXの内部IDに変換する。・・・PBXでは,以

後音声端末の内部IDを使用して,2者間接続処理を継続する。」(【0022】)

との記載があり,この記載と,甲1の図1に示される接続指示から通信中の状態に

至る処理の一連の手順,図2のPBXの2者間接続処理の手順及び図4の「コンピ

ュータ4」,「PBX1」(本件補正発明の「電話交換機」に相当)及び「通信制

御部1a」(本件補正発明の「交換−コンピュータ・インタフェース」に相当)の

構成によれば,甲1には,「データ端末5a」を用いて上記「コンピュータ4」で,

発呼電話番号及び被呼電話番号を識別する情報を含む2者間の電話接続のためのメ

ッセージを生成すること,並びに,この電話接続のためのメッセージを上記「コン

ピュータ4」から上記「通信制御部1a」を介して上記「PBX1」に送ることが

記載されていると認められる。また,「引用発明1の『データ端末』とは,本件補

正発明の『ウエブ・ブラウザ」と,クライアントである点で一致しており,同様に

引用発明1の『コンピュータ』とは,本件補正発明の『コンピュータ・ネットワー

ク装置』と,サーバである点で一致している。」との審決の認定にも誤りはない。

そうすると,本件補正発明と引用発明1が,「クライアントを用いてサーバで,

発呼電話番号および被呼電話番号を識別する情報を含む電話接続メッセージを生成

し,電話接続メッセージをコンピュータ・ネットワーク装置から交換−コンピュー




タ・インタフェースを介して電話交換機に送」る点で一致するとした審決の認定に

誤りはない。

(イ) 原告は,本件補正発明においては,審決が引用発明1のデータ端末とコンピ

ュータにそれぞれ対応させた「ウエブ・ブラウザ12」と「コンピュータ・ネット

ワーク装置22」とは「遠隔アクセス」する関係にある。「ウエブ」とは,インタ

ーネットまたはワールドワイド・ウエブと呼ばれる国際的なネットワークのような

コンピュータ・ネットワークを意味しているのに対し,引用発明1におけるデータ

端末はコンピュータに収容されており,あるいはせいぜいLAN(構内通信網)6

を介して接続されていることから,引用発明1は,「遠隔アクセス」を想定してい

ないと主張する。

しかし,原告のこの点の主張も,以下のとおり採用できない。すなわち,本件補

正後の請求項1には,「遠隔アクセス」について,「ウエブ・ブラウザを用いて遠

アクセスできるコンピュータ・ネットワーク装置によってアクセスするために,」

との記載及び「前記電話番号情報の表示のためにウエブ・ブラウザを用いてコンピ

ュータ・ネットワーク装置を遠隔アクセスし;」との記載はあるが,「遠隔アクセ

ス」の内容は特定されていない。LAN上のサーバに情報を記憶しておき,ウエブ

・ブラウザからサーバの該情報にアクセスして,ウエブ・ブラウザ上で該情報を表

示することは,企業内ネットワークにみられるように,本願の優先日前において,

当該技術分野では常套手段であるから,ウェブ・ブラウザを用いて「遠隔アクセス

することが記載されていても,その「遠隔アクセス」が,インターネットを介して

接続される遠隔なアクセスに限定されるものではない。

また,引用例1の「コンピュータ4は複数のデータ端末(5a,5b)とLAN

6で接続されており,ユーザはこのデータ端末を使用することによりPBXにサー

ビスを要求する。」(【0004】)との記載及び「図1においてデータ端末5a

が自分と協調関係にある音声端末3aから発信を行ない,音声端末2aと接続する

ようPBXに指示すると,コンピュータ4はLAN6を介し,データ端末からの要




求を受信する。」(【0021】)との記載,並びに図1の「データ端末5a」と

「コンピュータ」,「PBX」間の接続手順及び図4の「データ端末5a」,「コ

ンピュータ4」,「PBX1」等の記載に照らすならば,引用例1には,「データ

端末5a」と「コンピュータ4」が,「LAN6」によって遠隔的に接続され,ア

クセスされることが開示されていると認められる。

以上によれば,本件補正発明の「遠隔アクセス」は,原告が主張する「インター

ネットを介して接続される程度のアクセス」に限定されず,引用発明1のように,

データ端末からサーバとなるコンピュータに,LANを介して接続されるアクセス

も含むと解するのが合理的である。

そうすると,引用発明1は「データ端末を用いて遠隔アクセスできるコンピュー

タによってアクセスする」もので,本件補正発明と引用発明1とは「クライアント

を用いて遠隔アクセスできるサーバによってアクセスする」点で一致するとした,

審決の認定に誤りはない。

2 相違点2についての容易想到性判断の誤り(取消事由2)について

当裁判所は,審決が,本件補正発明における相違点2に係る構成が引用発明に周

知技術を適用することによって容易であったとした点に誤りはないと判断する。そ

の理由は,以下のとおりである。

(1) 事実認定

ア 甲3には,以下の記載がある。

「NECでは,このほど電話とパソコンを連携させた新しいタイプのグループウ

エア製品として『APEX OFFICE』を開発,販売を開始した。この製品は,

『コンピュータテレフォニー技術』を利用して,パソコン,電子メールソフト,電

話及び音声メール,在席・話中・行先表示等を連携させることにより,オフィスに

おける生産性向上を実現するもの。」(82頁左欄1〜8行)

「実際の多機能電話機のボタンや表示をそのままPCの画面上に表示するため,

電話の発信や応答などPCから操作できる。また,PCで作成した電話帳・・・等のデ




ータベースの画面をクリックすることにより電話発信が可能であり,最大100件

まで蓄積した過去の発信履歴からの発信もできる。」(82頁右欄6〜13行)

イ 甲4には,以下の記載がある。

「【0001】

【産業上の利用分野】本発明は,電話,ファクシミリ,音声メール等の音声系サー

ビスおよび電子メール等のデータ系サービスによるコミュニケーションの効率を向

上させるための装置,より具体的には,音声系サービスを担う電話網に属する端末

とデータ系サービスを担うデータ系ネットワークに属する端末との連携動作により

両サービスを統合して効率的かつHMI(ヒューマン・マシン インターフェース)

に優れたコミュニケーションを可能にする複合交換制御装置に関する。」

「【0006】

【発明が解決しようとする課題】したがって本発明の目的は,音声サービス系ネッ

トワークに属する端末とデータ系ネットワークに属する端末とを個々の利用者との

関連において互いに連携して動作させることにより,オフィス内及びオフィス間コ

ミュニケーションを効率化しかつHMI(ヒューマン・マシン・インターフェース)

において優れたコミュニケーションを可能にする複合交換制御装置を提供すること

にある。」

「【0007】

【課題を解決するための手段】図1は本発明の原理構成を表わすブロック図である。

図において,本発明の交換制御装置は,複数の電話端末10が収容可能であり,収

容された電話端末間および外部の電話網との間の回線交換を行なう回線交換部12

と,該回線交換部に接続され,さらに複数のデータ端末14との接続が可能なロー

カルエリアネットワーク16と,該ローカルエリアネットワークに接続され,該回

交換部に収容された電話端末の利用者のスケジュールに関する情報および該利用

者と電話端末とデータ端末との対応関係に関する情報を,該ローカルエリアネット

ワークを介して該回線交換部および該データ端末から登録し参照することが可能な




ように格納するデータベース18と,該ローカルエリアネットワークを介する該回

交換部,該データベースおよびデータ端末の間のデータ伝送を制御するローカル

エリアネットワーク制御部20とを具備し,接続されたデータ端末及び収容された

電話端末は該データベースに格納された前記利用者のスケジュールに関する情報お

よび対応関係に関する情報に従って互いに連携して動作するように制御されること

を特徴とするものである。」

「【0009】

実施例】図2は本発明の一実施例に係る複合交換制御装置の構成を表わすブロッ

ク図であり,図1に示された各構成要素をさらに詳細に表わすものである。データ

ベース18は,LAN 16とのインターフェースを司どるLAN通信制御部22,

電話帳データベース24,利用者データベース26,呼制御データベース28,ス

ケジュールデータベース30および着信履歴データベース32からなる各種データ

ベース,およびそれらとバス34で接続されてそれらの制御を担当するCPU 36

を具備している。」

「【0011】回線交換部12はLAN 16とのインターフェースを司どるLA

N通信制御部46,回線交換部12に収容された電話回線の回線交換を司どる回線

通信制御部50,電話端末10上の表示を制御するための信号を生成する電話端末

表示制御部52,およびそれらにバス54を介して接続され,それらの制御を行な

うCPU 56を具備している。

【0012】回線交換部12には,複数の電話端末10の他に,複数のファクシミ

リ端末58が収容される。また,LAN制御部20には複数のデータ端末14が接

続される。各利用者にはそれぞれ1台ずつのデータ端末と電話端末が割り当てられ

る。さらに,各利用者にはファクシミリ端末の電話番号が割り当てられるが,必ず

しも利用者の数だけのファクシミリ端末を設ける必要はない。回線交換部12には,

さらに,不在である旨等の所定のメッセージを発呼者へ自動送出するためのトーキ

回路60が収容される。




【0013】データベース18に具備される電話帳データベース24,利用者デー

タベース26,呼制御データベース28,およびスケジュールデータベース30に

蓄積されるデータの構成の一例がそれぞれ表1〜表4に示されている。着信履歴デ

ータベース32については後述する。」

「【0018】表1に示された電話帳データベースには,電話端末10の利用者

の通話相手となり得る人の氏名,その会社名/所属,その連絡先番号が格納される。

連絡先番号の欄には利用メディアに応じて電話番号,ファクシミリの電話番号及び

電子メールのアドレスが格納される。表2に示される利用者データベースには,電

話端末10の利用者,すなわち,オフィス内のメンバーの氏名,その利用端末アド

レス,および着信通知先が格納される。」

「【0037】着信履歴データベース32に格納される着信履歴の構成の一例を

表5に示す。」

「【0039】この着信履歴は収容される電話端末の利用者毎に,自分宛に電話

がかかってきたとき,及び,自分が他の人の電話の応対をしたときに自動的に時系

列で記録される。・・・ 」

「【0040】データ端末上に自己に関する着信履歴データベース32の内容を

表示することによって,在席中又は不在中の電話の着信をデータ端末を介して知る

場合のフローチャートが図13に示される。図13において,利用者はデータ端末

を操作することによって着信履歴を表示させる(ステップ1128)。表示されて

いる発呼者に電話をかけたい場合には,表示された発呼者の電話番号を指定するこ

とによって(ステップ1130),指定された電話番号へ自動的に発信させること

ができる(ステップ1132)。

【0041】

【発明の効果】以上述べてきたように本発明によれば,データ端末と電話端末との

連携動作により,効率的かつHMIに優れたコミュニケーションが実現される。」

(2) 判断




ア 上記(1)認定事実によれば,PC,データ端末を用いて遠隔アクセスできるコ

ンピュータ・ネットワーク装置によってアクセスするために,加入者の個人電話番

号帳及び加入者の発信履歴と着信履歴等の加入者に関する電話番号情報をデータベ

ースに記憶し,この電話番号情報の表示のためにコンピュータ・ネットワーク装置

を遠隔アクセスすること,また,表示された電話番号を指定することによって,指

定された電話番号へ自動的に発信させること,及びデータ端末と電話端末との連携

動作により,効率的かつ操作性に優れたオフィスワークやコミュニケーションが実

現できることが,記載されている。

そして,引用発明1は,利用者がデータ端末を操作して,このデータ端末とLA

Nで接続され遠隔アクセスできるコンピュータに対し,上記データ端末と協調関係

にある音声端末と他の音声端末とを接続するように要求を出し,上記コンピュータ

から二者間接続のメッセージを受けた交換機が接続を確立するものであるから,引

用発明1において,利用者による上記データ端末操作を操作性に優れ,効率よく行

えるようにすることは,当然に考慮されることである。

そうすると,引用発明1において,データ端末とLANで接続され遠隔アクセス

できるコンピュータに,加入者の個人電話番号帳及び加入者の発信履歴と着信履歴

等の加入者に関する電話番号情報を記憶し,上記電話番号情報の表示のためにデー

タ端末から上記コンピュータに遠隔アクセスすることは,音声端末間の接続要求の

ためのデータ端末操作を操作性に優れ,効率よく行えるようにするために,上記の

技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たものと解するのが相当であ

る。

また,LAN(構内通信網)上のサーバに情報を記憶しておき,ウエブ・ブラウ

ザからサーバの該情報にアクセスして,ウエブ・ブラウザ上で該情報を表示するこ

とは,本願の優先日前において,当該技術分野における常識的な技術であると認め

られるから,引用発明1に上記の技術を適用する際に,コンピュータをウエブ・サ

ーバとし,データ端末からLANで接続されたコンピュータへの遠隔アクセスに,




ウエブ・ブラウザを用いることは,当業者が通常実施する手段といえる。

以上によれば,引用発明1において,相違点2に係る構成とすることは,上記周

知の技術を適用することにより,当業者が容易に想到し得たとした審決の判断に誤

りはない。

イ 原告は,引用発明1における「音声端末の電話番号を指示」と,本件補正発

明における「電話番号情報の記憶及び電話番号情報の表示」とは,相違することを

前提として,前者を後者に置き換えることは容易とはいえないと主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,上記1に

記載したとおり,本件補正発明における「加入者の個人電話番号帳と,発呼電話番

号への電話通信に関するおよび/または発呼電話番号からの電話通信に関するログ

情報を含む電話加入者に関する電話番号情報を記憶し」,「前記電話番号情報の表

示」を行うことと,引用発明1における「音声端末の電話番号を指示」することは,

いずれも,電話発呼の際に接続を要求する電話番号を特定することを目的とした構

成である点で共通する。そして,上記アに記載したとおり,引用発明1において,

加入者の個人電話番号帳及び加入者の発信履歴と着信履歴等の加入者に関する電話

番号情報をコンピュータに記憶し,上記電話番号情報の表示のために,ウエブ・ブ

ラウザを用いて,データ端末からLANで接続された上記コンピュータに遠隔アク

セスすることは,当該技術分野における効率化のための技術常識であり,同技術を

適用することは,当業者にとって容易であったというべきである。また,表示され

た加入者に関する電話番号情報を指定し,指定された電話番号へ自動的に発信させ

ることも同様である。

そうすると,引用発明1において,電話発呼の際に接続を要求する電話番号を特

定するための機能を,「音声端末の電話番号を指示」することに代えて,本件補正

発明のように,「加入者の個人電話番号帳と,発呼電話番号への電話通信に関する

および/または発呼電話番号からの電話通信に関するログ情報を含む電話加入者に

関する電話番号情報を記憶し」,「前記電話番号情報の表示」を行うことにより実




現することは,音声端末間の接続要求のためのデータ端末操作を操作性に優れ,効

率よく行えるようにするために,引用発明1に上記周知の技術を適用することによ

り,当業者が容易に想到し得たものであるとした審決の判断に誤りはない。

3 結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々

主張するが,いずれも採用できない。よって,原告の本訴請求は理由がないから,

これを棄却することとし,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官
飯 村 敏 明




裁判官
池 下 朗




裁判官
武 宮 英 子