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事件 平成 22年 (ワ) 5655号 不当利得返還請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 大阪地方裁判所 
判決言渡日 2012/01/19
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成24年1月19日判決言渡 同日原本交付 裁判所書記官

平成22年(ワ)第5655号 不当利得返還請求事件(以下「A事件」という。)

平成23年(ワ)第1443号 損害賠償等請求事件(以下「B事件」という。)

口頭弁論終結日 平成23年10月17日

判 決



A事件原告,B事件本訴原告兼同事件反訴被告

有 限 会 社 テ ク ノ 東 郷

(以下「原告テクノ東郷」という。)

A事件原告 P1

(以下「原告P1」という。)

上記両名訴訟代理人弁護士 松 本 篤 周

同 野 口 新

同 尾 ア 夏 樹

同 加 藤 孝 規

同 加 藤 美 代

同 兼 松 洋 子

同 柴 田 幸 正

同 樽 井 直 樹

同 坪 井 陽 典

同 村 上 満 宏

同 吉 川 哲 治

A事件被告,B事件本訴被告兼同事件反訴原告

株式会社マコメ研究所

(以下「被告」という。)


1
同訴訟代理人弁護士 伊 藤 真

主 文

1 原告テクノ東郷は,被告に対し,20万9265円及びこれに対する平成

19年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2 原告らのA事件請求,原告テクノ東郷のB事件本訴請求及び被告のその余

のB事件反訴請求をいずれも棄却する。

3 訴訟費用は,A事件及びB事件を通じ,これを50分し,その1を被告の

負担とし,その28を原告テクノ東郷の負担とし,その余を原告P1の負担

とする。

4 この判決は,1項に限り,仮に執行することができる。

事 実 及 び 理 由

第1 当事者の求めた裁判

1 A事件

(1) 原告ら

ア 被告は,原告テクノ東郷に対し,1370万円及びこれに対する平成2

1年12月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

イ 被告は,原告P1に対し,1370万円及びこれに対する平成21年3

月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

ウ 訴訟費用は被告の負担とする。

エ 仮執行宣言

(2) 被告

ア 原告らの請求をいずれも棄却する。

イ 訴訟費用は原告らの負担とする。

2 B事件

(1) 本訴請求事件

2
ア 原告テクノ東郷

(ア) 被告は,原告テクノ東郷に対し,113万4000円及び内25万2

000円に対する平成20年5月1日から,25万2000円に対する

平成21年5月1日から,63万円に対する平成22年5月1日から,

それぞれ支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

(イ) 訴訟費用は被告の負担とする。

(ウ) (ア)につき仮執行宣言

イ 被告

(ア) 原告テクノ東郷の請求を棄却する。

(イ) 訴訟費用は原告テクノ東郷の負担とする。

(2) 反訴請求事件

ア 被告

(ア) 原告テクノ東郷は,被告に対し,79万5795円及びこれに対する

平成19年8月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(イ) 訴訟費用は原告テクノ東郷の負担とする。

(ウ) (ア)につき仮執行宣言

イ 原告テクノ東郷

(ア) 被告の請求を棄却する。

(イ) 訴訟費用は被告の負担とする。

第2 事案の概要

1 前提事実(当事者間に争いがない又は後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認

定できる。)

(1) 当事者

原告テクノ東郷は,地盤変形計測器の製造販売・輸出入販売等を目的とす

る会社であり,代表取締役であるP2は原告P1の実兄である。

原告P1は,平成20年3月31日に退職するまで,名古屋大学地震火山・

3
防災研究センター(以下「地震火山・防災研究センター」という。)准教授で

あったものであり,現在は,原告テクノ東郷の顧問である。

被告は,産業用又は学術研究用装置・機器の制御及び測定のシステム並び

にこれらに用いる要素の開発・製造・販売を目的とする会社である。

(2) A事件請求に係る事実

ア A事件請求に係る原告らの有する特許権

原告らは,以下の特許(以下「本件特許A」といい,本件特許Aに係る

発明を「本件特許A発明」という。)に係る特許権(以下「本件特許権A」

という。)について,それぞれ持分2分の1を有する。なお,発明者は,原

告P1である(A事件甲5)。

特許番号 3069602号

発明の名称 岩盤変動測定装置及び方法

出願年月日 平成9年10月13日

登録年月日 平成12年5月26日

特許請求の範囲

【請求項1】

「岩盤のボーリング孔に埋設され,コアリング時の岩盤の変位量を検出す

ることにより岩盤に作用している初期応力を測定する岩盤変動測定装置で

あって,変位センサと,該変位センサのアナログ出力信号からコアリング

時の変位データを作成するアナログ/デジタル変換器と,該アナログ/デ

ジタル変換器の変位データを記憶するメモリと,コアリング後に地上に回

収した時点で該メモリに記憶された変位データを外部機器に読み込ませる

ためのデータ伝送手段と,電源用電池とを,一体に組み込んで構成される

ことを特徴とする岩盤変動測定装置。」

【請求項2】

「スケジューラーが一体に組み込まれ,該スケジューラーにより,変位デー

4
タを前記メモリに記憶するスケジュールが予め設定されていることを特徴

とする請求項1に記載の岩盤変動測定装置。」

【請求項3】

「マイクロプロセッサが一体に組み込まれ,該マイクロプロセッサの制御

信号により前記各機器の動作内容が制御されることを特徴とする請求項1

又は請求項2に記載の岩盤変動測定装置。」

【請求項4】

「方位測定手段が一体に組み込まれ,該方位測定手段により測定された方

位データが前記メモリに記憶され,該メモリから前記変位データと共に該

方位データが前記外部機器に読み込まれることを特徴とする請求項1,請

求項2又は請求項3のいずれかに記載の岩盤変動測定装置。」

イ A事件請求に係る被告の行為(以下の被告製品を併せて「本件各歪計」

という。)

(ア) 地震火山・防災研究センターは,同センター所属の三河地殻変動観測

所において,岩盤の傾斜やひずみを観測していたところ,水資源開発公

団(現水資源機構)の実施した「三多工区トンネル工事」
(工期:平成1

4年4月から平成16年4月まで,工事場所:同観測所敷地内)により

観測機能に障害が生じた。

そこで,水資源開発公団が,同観測所に対する補償として観測装置設

営工事等を実施することになった。被告は,原告P1から指導,監督を

受けながら,同観測所に新たに設置される「8成分回収型歪計」
(型式:

FS-3971)3台及び「メモリー式歪計」
(型式:FS-4000)3台を製造し,

水資源開発公団に販売した。

(イ) 被告は,原告P1から依頼され,平成15年5月ころ,南アフリカ共

和国の金鉱山内の応力測定をするため,「インテリジェント型歪計」(型

式:FS-4022)2台を製造し,名古屋大学に販売した。

5
(ウ) 同様に,被告は,原告P1から依頼され,平成17年ころ,
「インテリ

ジェント型小口径歪計」
(型式:FS-4116)2台を製造し,名古屋大学に

販売した(A事件甲9)。

(エ) 地震火山・防災研究センターと日本原子力研究開発機構の瑞浪超深地

層研究所は,共同研究協定を締結していた。

そこで,被告は,原告P1から指導,監督を受けながら,
「メモリー式

歪計」(型式:FS-4211)2台を製造し,平成19年10月及び11月,

同研究所に販売した。

(3) B事件請求に係る事実

ア 原告テクノ東郷と被告との間における水晶温度計に係る特許権通常実施

許諾契約

原告テクノ東郷は,被告との間で,平成13年1月31日,大要,以下

の約定により,水晶温度計の技術について,通常実施権の許諾を内容とす

る契約(以下「本件許諾契約」という。)を締結した(B事件甲1)。

1条 原告テクノ東郷は,所有する下記の特許権・特許出願中の技術に係

わる通常実施権を被告に許諾する。

a United States Patent: Patent Number 5,836,691

b 日本国特許:第 2742642 号

c 特願平 8-359843 号

d 特願 2001-40921(契約締結時は,出願番号未定のため,平成13

年1月13日出願の特許願として特定)

2条 通常実施権の範囲は,次のとおりとする。

a 期間 平成33年1月12日

b 内容 全範囲

ただし,被告が実施する用途は被告の製品に組み込み,温

度を測定する場合に限定し,温度を測定する機能のみを備

6
えた製品を除く。

c 地域 国内及び国外

5条 被告は,原告テクノ東郷に対し,実施料として,本件許諾契約に係

わる技術を用いた温度測定点,1点につき2万円を支払うものとする。

ただし,被告の製品の販売価格が45万円未満の場合は,実施料を1

点につき1万円とする。

被告の製品に複数の温度測定点を設ける場合は,その総数に相当す

実施料を支払うものとする。

6条 前条の実施料は,経済事情その他に著しい変動が生じたときは,原

告テクノ東郷,被告協議の上でこれを変更することができる。協議

整わないときは,この契約を破棄できる。

すでに支払われた実施料は,理由のいかんを問わず,原告テクノ東

郷は被告に返却しない。

イ 本件許諾契約1条 a 及びbの各特許発明(以下「本件特許B1発明」及

び「本件特許B2発明」という。)並びに同c及びdの各特許出願発明(以

下「本件出願B3発明」及び「本件出願B4発明」といい,これらの特許

及び特許出願に係る発明を併せて「本件各B発明」という。)について

(ア) 本件特許B2発明について

上記発明の発明者は原告P1であり,特許権者は原告P1の妻である

が(B事件乙1),同特許権は,平成19年10月10日,特許料の不納

付(同年2月6日)により登録を抹消された(B事件乙2)。

(イ) 本件出願B3発明について

上記発明に係る特許出願は拒絶査定をされた。平成12年4月12日,

拒絶査定不服審判が請求されたが,平成13年9月26日,請求不成立

の審決がされ,その後,確定した(B事件乙3,4)。

(ウ) 本件出願B4発明について

7
上記発明に係る特許出願は,未だ登録されていない(B事件乙5, 。
6)

ウ 被告から原告テクノ東郷に対する支払

以下のとおり,被告は,原告テクノ東郷に対し,水晶温度計を組み込ん

で販売した被告製品について,本件許諾契約5条の規定する金額を支払っ

た(以下順に「本件支払1」ないし「本件支払3」といい,併せて「本件

各支払」という。。


(ア) 平成16年6月30日 20万9265円

(イ) 平成18年7月31日 37万7265円

(ウ) 平成19年7月31日 20万9265円

2 請求

(1) A事件

原告らは,被告に対し,本件各歪計の製造,販売行為により本件特許A発

明を実施され,合計2740万円の実施料相当額の損失を被ったとして,不

当利得に基づき,それぞれ持分2分の1に相当する1370万円の各利得返

還及びこれらに対する催告をした日から相当の期間を経過した日(原告P1

は平成21年3月1日,原告テクノ東郷は同年12月21日)から支払済み

まで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求めている。

(2) B事件

ア 本訴請求

原告テクノ東郷は,被告に対し,技術供与契約に基づき,合計113万

4000円の技術実施料及びこれらに対する約定の弁済期から支払済みま

で商事法定利率である年6分の割合による遅延損害金の支払を求めている。

イ 反訴請求

被告は,本件各B発明に係る技術を実際には実施しなかったにもかかわ

らず,本件各支払をしたことにより,原告テクノ東郷が,法律上の原因な

く,利益を受け,そのために被告は損失を被り,かつ,原告テクノ東郷は

8
これについて悪意であったとして,原告テクノ東郷に対し,不当利得に基

づき,合計79万5795円の利得返還及びこれに対する最終の支払日の

翌日である平成19年8月1日から支払済みまで民法704条前段所定の

法定利息の支払を求めている。

3 争点

(1) A事件について

ア 本件各歪計が本件特許A発明の技術的範囲に属するか及び本件特許権A

に係る実施料相当額(争点1)

イ 原告らは,被告が本件各歪計を製造,販売するに当たり,本件特許A発

明について無償で実施することを許諾したか等(争点2)

(2) B事件について

ア 原告テクノ東郷と被告との間で締結された水晶温度計に係る契約の内容

(争点3)

イ 未払技術供与料の発生の有無(争点4)

ウ 本件各支払分の返還義務の有無(争点5)

第3 争点に係る当事者の主張

1 争点1(本件各歪計が本件特許A発明の技術的範囲に属するか及び本件特許

権Aに係る実施料相当額)について

【原告らの主張】

(1) 本件各歪計は,いずれも本件特許A発明の技術的範囲に属するものである。

(2) 以下の事実からすると,本件特許権Aに係る実施料率は20%を下らない。

実施料率の平均値

本件各歪計に係る精密機械器具の実施料率の過去の平均値からすると,

平成13年度以降における実施料率の平均値は,7.0%程度であると推定

される。

イ 本件特許A発明の特質

9
岩盤中の初期応力測定は,従来,50m程度の掘削深度でしか実施でき

なかったところ,本件特許A発明は,これを掘削深度1500mまで可能

にした世界最初の技術である。したがって,本件各歪計には,輸入品を含

め,対抗できる他社製品が他に存在しないから,利益率は通常の精密機械

よりはるかに高い。

ウ 本件特許A発明の販売への寄与度

被告は,本件各歪計を製造するまで,この種の装置を全く取り扱ったこ

とがなかった。

また,原告P1は,本件各歪計の製造当時,地震火山・防災研究センター

のセンター長代理であり,被告に全面的な指導,助言を行い,本件各歪計

を製造させ,販売後の検査と設置工事も指揮した。

このような経緯からしても,本件特許A発明の実施は,本件各歪計の開

発,製造にとって不可欠の前提であり,その寄与度は100%である。

(3) 被告は,本件各歪計を合計1億3700万円で販売したから,これに実施

料率20%を乗じた2740万円のうち,各2分の1である1370万円に

ついて,原告らは被告に対する不当利得返還請求権を有する。

【被告の主張】

いずれも否認し,争う。

被告は,これまで原告P1の研究に全面的に協力し,本件各歪計の製造,販

売も低廉な額で引き受けており,少なくとも原告らの主張する利益を受けては

いない。

2 争点2(原告らは,被告が本件各歪計を製造,販売するに当たり,本件特許

A発明について無償で実施することを許諾したか等)について

【被告の主張】

本件各歪計は,いずれも原告P1の研究に用いられたものであり,原告P1

からの依頼・指示に基づき製造販売されたものである。原告P1は,これらの

10
製造を被告に依頼するに当たり,あらかじめ販売価格の見積りを得て,本件特

許権Aの実施料が製造価格に含まれていないことについても十分に認識してい

た。

これらのことからすれば,原告らは,被告が本件各歪計の製造,販売をする

に当たり,本件特許A発明について無償で実施することを許諾していた。

【原告らの主張】

(1) 被告が本件各歪計を製造,販売するに当たり,原告P1が本件各歪計に本

件特許A発明が実施されることを認識していたことは認め,原告らが本件特

許A発明について無償で実施することを許諾したことは否認する。

原告P1は,本件各歪計が販売される段階で本件特許A発明の実施料が販

売価格に計上され,納入先である名古屋大学等に負担が転嫁されることは好

ましくないと考えていた。また,当時の被告の代表取締役社長であったP3

から,被告の技術顧問に就任するように要請されていたため,顧問契約を締

結することにより顧問料名目で本件特許A発明の実施料の支払を受けてもよ

いと考えていたにすぎない。

(2) 仮に,原告P1が,被告に対し,本件特許A発明について無償で実施する

ことを許諾したとしても,以下の理由により無効であるか,効果が発生して

いない。

ア 錯誤無効

原告P1は,上記許諾当時,将来,名古屋大学を退職した後に,被告と

の間で顧問契約を締結し,顧問料として本件特許A発明の実施料相当の支

払を受けられると信じていたが,実際には,顧問契約の締結も顧問料の支

払もなかった。

P3は,上記許諾に際し,原告P1が,将来,被告との間で上記顧問契

約を締結するので,本件特許A発明を無償で実施することを許諾したこと

について認識していた。

11
イ 停止条件の不成就

原告P1とP3は,上記許諾において,原告P1と被告との間で顧問契

約が締結されること及び同契約に基づく顧問料の支払がされることを停止

条件とする黙示の合意をしたが,その後,顧問契約及び顧問料の支払はさ

れないことが明らかとなった。

【原告テクノ東郷の主張】

仮に,原告P1が,被告による本件各歪計の製造,販売に際し,本件特許A

発明について無償で実施することを許諾していたとしても,原告テクノ東郷に

よる本件特許権Aに係る持分の行使は制限されない。

【原告らの主張に対する被告の反論】

(1) 錯誤無効について

原告P1が,被告に対し,本件特許A発明を無償で実施することを許諾し

た理由は,本件各歪計の製造,販売が原告P1の研究と強く関係するもので

あったからであり,被告との間で顧問契約が締結されることが理由ではな

かった。

また,本件各歪計が製造,販売された当時,原告P1は,名古屋大学の研

究者であって,顧問契約を締結して顧問料を受領することはできなかったし,

退職後に被告との間で顧問契約を締結するというのは,単なる将来の期待に

すぎなかった。

(2) 停止条件について

原告らが主張する黙示の合意は否認する。

【原告テクノ東郷の主張に対する被告の反論】

原告P1は,本件特許A発明の発明者であり,原告テクノ東郷の代表者は,

原告P1の実兄であることからすれば,原告P1は,原告らを代表して被告に

本件特許A発明の実施許諾をしたということができる。

3 争点3(原告テクノ東郷と被告との間で締結された水晶温度計に係る契約の

12
内容)について

【原告テクノ東郷の主張】

(1) 本件技術供与契約の成否

ア 原告テクノ東郷は,当時の被告代表者であるP3との間で,平成13年

ころ,本件許諾契約を締結するに先立ち,以下の約定により水晶温度計に

係る技術供与契約(以下「本件技術供与契約」という。)を締結した。

(ア) 原告テクノ東郷が保有する水晶温度計の製作に係る技術とノウハウを,

原告P1を介して被告に供与する。

(イ) 被告は,原告テクノ東郷から供与された技術によって製作した水晶温

度計ユニットを製品に組み込んで販売したときには,ユニット1点につ

き2万円(ただし,被告製品の販売価格が45万円以下の場合は,1点

につき1万円)を支払う。

(ウ) 契約期間は,契約締結日から平成33年1月12日までとする。

イ 仮に,上記アの時点で,原告テクノ東郷と被告との間で,水晶温度計に

係る技術供与契約が成立しなかったとしても,以下の事実からすれば,遅

くとも平成18年12月時点又は平成19年7月31日時点で成立したと

いえる。

(ア) 被告は,原告P1に対し,平成18年8月9日,被告の製造する水晶

温度計について本件各B発明の技術的範囲には属しない旨の通知をした。

(イ) そこで,原告P1が,被告に対し,上記アの経緯について説明したと

ころ,被告は,同年12月,原告P1に対し,技術供与契約に基づく実

施料の支払を継続する意向を示し,平成19年7月31日に本件支払3

をした。

(2) 本件許諾契約の成否

以下のとおり,本件許諾契約は,不成立又は無効である。

ア 本件許諾契約締結の事情

13
原告テクノ東郷が,本件技術供与契約を締結したにもかかわらず,被告

との間で本件許諾契約を締結した理由は,以下のとおりである。

一般に,特許発明実施許諾契約は,特許実施者が特許技術を実施する

だけの能力を有していることが前提であるのに対し,技術供与契約は,そ

の利用者が自前で技術を実施するだけの能力を有しないことが前提である

から,企業が技術供与契約を締結すると,その企業の能力不足を白日の下

にさらすことになる。

そして,被告は,本件許諾契約当時,水晶温度計の技術を全く有してい

なかったから,その名誉,信用,企業価値を維持するためには,形式上,

被告自身の技術で水晶温度計を製作する必要があった。

イ 契約不成立等

前提事実(3)アのとおり,本件許諾契約で許諾の対象とされたのは,ア

メリカ特許及び原告らが特許権者ではない特許に係る発明,拒絶査定をさ

れた出願及びいまだ特許登録もされていない出願に係る発明であった。

したがって,本件許諾契約は,原告テクノ東郷が,日本国内において有

効に許諾することのできない特許発明を内容とするものであったから,不

成立であるか,実現可能性のない契約として無効である。

ウ 心裡留保

原告テクノ東郷は,本件許諾契約を締結する際,同契約の内容による合

意をする意思がなかった。

当時の被告代表者であるP3は,原告テクノ東郷に上記意思がないこと

を知っていた。

エ 虚偽表示

原告テクノ東郷と当時の被告代表者であるP3は,本件許諾契約を締結

する際,いずれも同契約の内容による合意をする意思がないのに,その意

思があるもののように仮装することを合意した。

14
【被告の主張】

(1) 本件技術供与契約の成否

本件技術供与契約の合意は否認する。

技術供与契約は,その利用者が自前で技術を実施するだけの能力がないこ

とを前提としているなどというのは事実に反する。提供を受ける対象が特許

発明の実施であるか又は技術指導であるかによって,それに対応する契約が

締結されるにすぎず,契約の種類は実施者の能力を示すものではない。

そもそも,本件許諾契約は,公開されることを予定しておらず,内容を第

三者に知られることもなかった。

また,被告が,原告P1に対し,平成18年12月,上記合意に基づく支

払を約した事実もない。

被告は,本件各B発明を実施していないことについて認識していたものの,

原告らとの従前からの経緯に鑑み,一方的に支払を拒絶することは適切では

ないと考えて,本件支払3をしたにすぎない。

(2) 本件許諾契約の成否

以下のとおり,本件許諾契約は,有効なものである。

ア 契約不成立等

前提事実(3)イのとおり,本件特許B2発明の発明者は原告P1であり,

特許権者は原告P1の妻であったから,事実上,原告テクノ東郷が実施

諾をすることはできた。また,本件出願B3発明及びB4発明に係る特許

権の成否は未定であったものの,これらに関する通常実施許諾契約を締結

したことについて何ら問題はない。

イ 心裡留保及び虚偽表示

いずれも否認する。

4 争点4(未払技術供与料の発生の有無)について

【原告テクノ東郷の主張】

15
前記3【原告テクノ東郷の主張】(1)のとおり,本件技術供与契約が有効に

成立しており,これによると,被告の原告テクノ東郷に対する未払技術供与料

は,50万4000円となる。

すなわち,被告は,平成19年度及び同20年度において,50万円以上の

水晶温度計ユニットを年間12個以上販売したと推定される。

そうすると,本件技術供与契約に基づく実施料(技術供与料)は,前記3【原

告テクノ東郷の主張】(1)ア(イ)により計算すれば,各年度において,いずれも

25万2000円(合計50万4000円)である。

【被告の主張】

争う。

前記3【被告の主張】(1)のとおり,本件技術供与契約締結の事実はない。

5 争点5(本件各支払分の返還義務の有無)について

【原告テクノ東郷の主張】

(1) 不当利得の不発生

前記3【原告テクノ東郷の主張】のとおり,本件技術供与契約は有効に成

立しているので,本件各支払は,法律上の原因があり,不当利得は発生しな

い。

(2) 本件許諾契約の特約

仮に,本件技術供与契約の成立を認めることができないとしても,本件許

諾契約6条後段によれば,原告テクノ東郷は,被告から本件許諾契約に基づ

き支払われた実施料の返還義務を負わない。

(3) 非債弁済

被告が平成16年6月30日当時に製造していた水晶温度計には,本件各

B発明の技術的範囲に属するものと属しないものとがあり,被告はこれを認

識していた。

また,被告は,本件支払2及び3をした時点では,本件各B発明の技術的

16
範囲に属する水晶温度計を製造していないことを認識していた。

したがって,被告は本件許諾契約に基づく債務が存在しないことを知りな

がら,本件許諾契約に基づく債務の弁済として本件各支払をしたから,これ

らの返還を請求することはできない。

【被告の主張】

(1) 不当利得の発生

前記3【被告の主張】のとおり,原告テクノ東郷と被告との間で締結され

た水晶温度計に係る契約は,本件各B発明の実施に係る本件許諾契約であり,

かつ,本件許諾契約に基づく本件各B発明の実施がなかったので,本件各支

払による原告テクノ東郷の利得は,いずれも法律上の原因がなく,被告の損

失に基づくものである。

(2) 本件許諾契約の特約

本件許諾契約6条後段は,実施許諾の対象とされていた特許が無効となっ

たとか,特許権として成立しなかった場合であっても,既払分について返還

義務がないことを約したものである。

被告は,これまで本件各B発明の技術的範囲に属する水晶温度計を製造し

たことはなかったものの,原告P1から指示されるままに本件許諾契約を締

結し,その請求に応じてきた。これに対し,原告P1は,本件許諾契約締結

当時から被告が本件各B発明について実施していないことを知っていた。

このような経緯からすると,本件許諾契約6条後段は,被告のB事件反訴

請求に適用されるべきではないし,原告テクノ東郷がその適用を主張するこ

とは権利濫用に当たり許されない。

(3) 非債弁済

被告は,平成18年7月ころには被告製品が本件各B発明の技術的範囲

属しない可能性があることを認識していたものの,本件支払3の時点でも確

定的には認識していなかった。

17
したがって,被告は本件許諾契約に基づく債務が存在しないことを知りな

がら,本件各支払をしたのではない。

第4 当裁判所の判断

1 争点1(本件各歪計が本件特許A発明の技術的範囲に属するか及び本件特許

権Aに係る実施料相当額)について

原告らは,本件各歪計が本件特許A発明の技術的範囲に属すると主張すると

ころ,被告は,これを争うというのみで,それ以上の反論をしない。

これに加え,本件各歪計が,いずれも特許権者である原告P1の依頼により

製造,販売されていることを考えると,これらが本件特許A発明の技術的範囲

に属する可能性は高いといわざるを得ないが,事案に鑑み,争点2を先に判断

することとする。

2 争点2(原告らは,被告が本件各歪計を製造,販売するに当たり,本件特許

A発明について無償で実施することを許諾したか等)について

(1) 上記実施許諾の有無について

ア 本件では,原告らが被告に対し明示的に上記実施許諾をしたとする主張

立証はないから,黙示的に許諾していたといえるかが問題となる。

そこで検討すると,まず,前提事実(2)イのとおり,被告は,原告P1

から依頼され,その指導,監督の下,本件各歪計を製造し,原告P1が当

時勤務していた名古屋大学及び同大学が共同研究協定を締結していた日本

原子力研究開発機構瑞浪超深地層研究所に販売したことが認められる。ま

た,争点1に係る【原告らの主張】によれば,これらの機関が本件各歪計

を購入するに至ったことについても,原告P1の寄与が大きかったという

のであり,原告P1は本件各歪計の検査と設置工事まで指導したというの

である。さらに,原告P1本人の陳述によれば,名古屋大学在職中に本件

特許権Aに係る実施料を受け取ることは可能であったし,本件各歪計の販

売価格等についても当時から認識していたというのである。

18
これらのことからすれば,原告P1が被告との間で,本件各歪計の製造,

販売に際し,本件特許A発明の実施料の支払等について協議する機会は

あったことが明らかである。それにもかかわらず,原告P1は,当時,被

告に対し,本件特許A発明の実施料の支払等を請求したことはなかったの

であるから,このような原告P1の対応をみれば,少なくとも黙示的には,

被告が本件各歪計を製造,販売するに当たり,本件特許A発明について無

償で実施することを許諾していたものというべきである。

原告らの主張によれば,原告P1は被告に本件特許A発明を自らの依頼

により実施させておきながら,その時点では,実施料の請求をせず(その

結果,販売先である自らの勤務する大学等に対する販売価格に転嫁される

ことはない。,
)その後になって 実施料の請求をしているということになる

が,このような請求は,被告にとっては全くの予想外というべきである。

イ 原告テクノ東郷は,原告P1が被告に本件特許A発明の実施を無償で許

諾したとしても,原告テクノ東郷の本件特許権Aに係る持分の行使は制限

されない旨の主張をしている。

しかしながら,前提事実(2)アのとおり,本件特許A発明の発明者は原

告P1であり,原告テクノ東郷の代表取締役は原告P1の実兄であり,原

告P1はその顧問である。このような原告ら相互の人的関係等を考慮する

と,原告P1が本件特許A発明について無償で実施することを許諾してい

たのであれば,原告テクノ東郷も当然にこれを無償で許諾していたものと

認めるのが相当である。

したがって,A事件請求に係る被告の行為は,原告テクノ東郷との関係

でも実施料の不当利得行為に当たることはないというべきである。

(2) 錯誤無効及び停止条件について

ア 原告らは,本件特許A発明について無償の実施許諾をするに当たり,原

告P1には,被告との間の顧問契約が締結されると信じたことについて錯

19
誤があったことを理由に,上記実施許諾が錯誤により無効であり,又は,

原告P1と被告との間の顧問契約締結が停止条件であったと主張する。

そして,A事件甲21及び22によれば,被告代表者であったP3が,

平成13年10月ころ,原告P1に技術顧問への就任を依頼したことが認

められる。

(ア) この点について,原告P1本人は,P3から本件特許A発明実施の対

価として技術顧問に就任することを依頼されたところ,在職中は兼職が

できなかったため,退職後に就任する合意をした旨述べる。

(イ) また,証人P3は,大要,以下のとおり証言する。

被告が本件各歪計を製造,販売したことにより利益を得たことから,

原告P1に対し,本件特許A発明の実施に係る対価を支払わなければな

らないと考えていた。

そこで,原告P1に被告の顧問になることを依頼したところ,名古屋

大学の公務員であるため兼職はできないと言われたため,原告P1が名

古屋大学を退職した後に顧問契約を締結することにした。もっとも,原

告P1が顧問契約を締結することについて明確に承諾したことはなかっ

た。

被告代表者から平成22年秋ころに事情を聴かれた際には,原告P1

から在職中に顧問には就任できないとして断られたため,その話は完結

したと思っており,退職後に顧問に就任することを依頼したことはない

と述べた。

イ 証人P3の上記証言は,原告P1が名古屋大学を退職した後に被告との

間で顧問契約を締結することが前記(1)の実施許諾の動機や停止条件と

なっていたという内容のものではない。また,証人P3は,被告代表者か

ら事情を聴かれた際に上記証言内容と異なる説明をした理由について首肯

できる説明をしていない。

20
そもそも,原告P1の供述をみても,名古屋大学在職中に本件特許権A

に係る実施料を受け取ることについては何ら制約がなかったにもかかわら

ず,将来の顧問契約の締結などという不確実な方法により支払を受けなけ

ればならなかった理由について何ら説明していない。

かえって,前記(1)のとおり,本件各歪計は,原告P1自身が研究に使

うなどしたものであるから,被告が本件各歪計を製造,販売するに当たり,

本件特許A発明について無償で実施することを許諾する動機が十分にあっ

たことが認められる。

以上によれば,被告から原告P1に対し,顧問契約を締結することが申

し入れられた事実があるからといって,同契約の締結が前記(1)の実施

諾の重要な動機であったとか,停止条件であったとは認められず,せいぜ

い原告P1において,顧問契約の締結を期待していたことが認められるに

過ぎない。

(3) 以上のとおり,本件各歪計は,いずれも,原告P1の依頼により被告が製

造,販売したものであるが,特許権者の許諾があったことは明らかであると

ころ,これを有償にしたり,条件を付したりする事情は窺えない。

よって,その余の点について検討するまでもなく, A事件請求にはいずれ

も理由がない。

3 争点3(原告テクノ東郷と被告との間で締結された水晶温度計に係る契約の

内容)について

(1) 本件許諾契約が本件各B発明を許諾の対象としていることについて

原告テクノ東郷は,本件各B発明が,アメリカ特許,原告らが特許権者で

はない特許に係る発明,拒絶査定をされた特許出願及びいまだ特許登録がさ

れていない出願に係る発明であり,本件許諾契約当時,日本国内において有

効に許諾することができない特許を許諾の対象としたものであるから,契約

として不成立であるか又は実現可能性がない契約として無効である旨主張す

21
る。

しかし,前提事実(3)アのとおり,本件許諾契約の対象となる地理的範囲

には国外も含まれるから,アメリカ特許である本件特許B1発明を許諾の対

象としたことには何ら問題がないし,本件特許B2発明の発明者は原告P1

であり,特許権者は原告P1の妻であったから,これを許諾することが不可

能であったなどとも認められない。また,本件出願B3発明及び同4発明は,

本件許諾契約当時,いまだ特許登録をされていなかったものであるとはいえ,

特許法34条の2等によれば登録前の特許権についても実施許諾契約を締結

することは許される。

よって,この点に関する原告テクノ東郷の上記主張には理由がない。

(2) 本件許諾契約及び本件技術供与契約の成否について

本件許諾契約に係る契約書の成立の真正は,当事者間で争いがなく,同契

約書により,本件許諾契約が締結された事実は明らかである。

そこで,本件許諾契約について,心裡留保又は虚偽表示が成立するかにつ

いて検討すると,以下の理由から心裡留保又は虚偽表示が成立するとは認め

られず,これが有効に成立している以上,本件技術供与契約の成立を認める

こともできない。

ア 原告テクノ東郷は,本件許諾契約について心裡留保又は虚偽表示が成立

することの理由として,本件技術供与契約を締結したことを隠すために本

件許諾契約を締結したと主張する(第3の3【原告テクノ東郷の主張】(2)

ア)。

しかし,企業が第三者から技術供与を受けたからといって,その企業が

技術力を有しないと評価されて信用を失うなどということには結びつかな

いし,本件許諾契約を第三者に開示することが予定されていたという事情

についても全く主張立証がない。したがって,本件技術供与契約を締結し

たことを隠すために,本件許諾契約を締結しなければならないというよう

22
な事情は全くないから,原告テクノ東郷の上記主張は,いずれも前提を欠

いているというほかない。

イ ところで,証人P3及び原告P1は,本件技術供与契約の締結に沿う内

容の証言や供述をする。

また,B事件甲3及び16によれば,被告従業員が,原告P1に対し,

被告製品に組み込まれた水晶温度計について,平成16年2月20日,仕

様を変更するに当たり意見を求めたこと,平成17年6月23日,インター

フェースの設計について意見を求めたことが認められる。

しかし,被告従業員が,原告P1に対し,水晶温度計に係る技術につい

て質問をしたことは,本件許諾契約の内容とも矛盾しない事実であるから,

これをもって本件技術供与契約が存在したことを裏付けるものとはいえな

い。

むしろ,その一方において,併合後乙15によれば,証人P3は,平成

22年1月28日ころ被告従業員から本件許諾契約の目的等について説明

を求められた際に,原告P1から水晶温度計に係る特許使用料に関する契

約として本件許諾契約の締結を求められて応じた,原告P1から契約書に

記載された内容の他に説明はなかった旨述べたことが認められる。上記説

明は,原告P1との間で本件技術供与契約を締結したとする上記証言内容

と異なるが,その理由について,証人P3は,首肯できる説明をしていな

い。

原告P1も,上記供述において具体的な技術供与の内容を質問された際

には,水晶温度計を作るにはいろいろな技術が必要であり,言葉に表せな

いなどと述べて説明を拒んでいる。

これらのことからすると,上記証言や供述を理由に本件技術供与契約の

締結を認めることはできない。

ウ 本件各支払との関係について

23
原告P1は,平成18年8月9日,被告の担当者から,被告製品は本件

各B発明の技術的範囲に属しないと言われたため,本件許諾契約が技術供

与契約であることを説明したところ,同年12月には,被告の副社長と営

業部長から技術供与契約として支払を続けることを約された旨供述する。

しかし,被告から上記のような申出がされたことを裏付ける客観的な証

拠は全くない。かえって,原告P1が,被告に対し,平成21年6月17

日及び同年8月18日に水晶温度計に係る実施料の支払を催促するために

送付した2通の書面(B事件乙10及び11)には,そのような申出があっ

たことについて全く触れられていないことからしても,にわかに認めがた

いというべきである。

また,前提事実(3)ウのとおり,被告は,平成18年8月9日以降に本

件支払3をしたことが認められ,B事件甲8及び18によれば,被告従業

員が,原告P1に対し,平成20年6月11日,当該年度(平成19年6

月1日から平成20年5月31日まで)には水晶温度計特許使用料につい

て実績がなく,「次年度お支払させていただく予定ですのでご了承くださ

い。 という内容の電子メールを送信したことが認められるものの,
」 この点

についても原告P1との従前の関係から本件各支払を続けたにすぎないと

する被告の主張を排斥することは困難である。

エ まとめ

よって,本件許諾契約が心裡留保又は虚偽表示により無効であると認め

ることができない。

また,平成18年12月時点又は平成19年7月31日時点で,本件技

術供与契約が成立したとする原告テクノ東郷の主張も採用することはでき

ない。

4 争点4(未払技術供与料の発生の有無)について

前記3のとおり,本件技術供与契約の締結の事実を認めることはできないか

24
ら,同契約を原因とする未払技術供与料は発生しない。

5 争点5(本件各支払分の返還義務の有無)について

(1) 不当利得の成立(本件各B発明の不実施

前記3のとおり,本件許諾契約が有効に締結されたことが認められる。

一方,原告テクノ東郷は被告が本件各B発明を実施したことがなかったこ

とについて争っておらず(だからこそ,本件許諾契約でなく,本件技術供与

契約の成立を主張してきたものと考えられる。,被告はこれまで本件各B発


明を実施していなかったものと認めるのが相当である。

証人P3は,被告が本件各B発明の技術的範囲に属する製品も製造してい

た旨の証言をするが,客観的な裏付けを欠いており,採用することはできな

い。

そうすると,本件各支払は,本件許諾契約5条に基づく支払義務がないの

に支払われたものであるから,原告テクノ東郷には本件各支払に係る不当利

得が成立し,同利得と被告の損失との間には因果関係が存する。

(2) 本件許諾契約6条による返還請求権の消長

前提事実(3)アのとおり,本件許諾契約6条は,

「前条の実施料は,経済事情その他に著しい変動が生じたときは,原告テク

ノ東郷,被告協議の上でこれを変更することができる。協議が整わないとき

は,この契約を破棄できる。

すでに支払われた実施料は,理由のいかんを問わず,原告テクノ東郷は被

告に返却しない。」

と規定している。

このように同条後段では,何ら留保を付さないで,原告テクノ東郷は支払

われた実施料を返還しないとされているものの,これは経済事情その他に著

しい変動が生じたときは,この契約を破棄できるとする前段を受けたもので

あり,前段の条件を満たす限り,理由のいかんを問わず返還しないとしたも

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のと解することができる。

また,上記(1)のとおり,被告が,これまで本件各B発明を実施したこと

がないことについては争いがない。そして,併合後乙15によると,被告は,

原告らと十分な協議をすることもなく,原告P1から指示されるまま本件許

諾契約を締結し,その後,本件各支払を続けてきたことが認められる。これ

に対し,原告P1は,本件各B発明の内容を十分に知悉していた上,被告製

品の内容についても認識していたことが窺えることなども考慮すると,本件

各支払に係る不当利得返還請求権の行使は,本件許諾契約6条により制限さ

れないと解するのが相当である。

(3) 非債弁済の成否

被告代表者の供述(被告代表者本人22頁)によれば,被告は,本件支払

2の時点で,すでに本件各B発明を実施していないことを認識していたこと

が認められるから,本件支払2及び3について,被告は,本件許諾契約に基

づく債務が存在しないことを知りながら,本件許諾契約に基づく債務の弁済

として支払をしたことが認められる。

よって,これらの支払については,民法705条により返還を請求するこ

とはできないというべきである。

(4) 法定利息の要件

被告が,原告P1に対し,平成18年8月9日ころ,本件各B発明の実施

をしていない旨の通知をしたことは当事者間で争いがない。

そうすると,被告が原告テクノ東郷に対する利息の起算日とする本件支払

3の支払日の翌日である平成19年8月1日の時点では,遅くとも原告テク

ノ東郷は悪意の受益者であったものと認めることができるから,本件支払1

に対する法定利息の請求には理由がある。

第5 結論

よって,主文のとおり判決する。

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大阪地方裁判所第26民事部



裁 判 長 裁 判 官 山 田 陽 三




裁 判 官 達 野 ゆ き




裁 判 官 西 田 昌 吾




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