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事件 平成 22年 (ワ) 32858号 損害賠償
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 東京地方裁判所 
判決言渡日 2011/12/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
判例全文
判例全文
平成23年12月28日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成22年(ワ)第32858号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成23年10月12日

判 決

富山県射水市<以下略>

原 告 株式会社エムケイテック

同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 石 下 雅 樹

木 村 秀 子

同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 工 藤 一 郎

恒 田 勇

富山県高岡市<以下略>

被 告 酒 井 容 器 株 式 会 社

札幌市<以下略>

被 告 マ ル イ 包 装 株 式 会 社

上記2名訴訟代理人弁護士 稲 元 富 保

上記2名訴訟代理人弁理士 宮 田 信 道

富山市<以下略>

被 告 明 太 化 成 株 式 会 社

同 訴 訟 代 理 人 弁 護 士 熊 倉 禎 男

渡 辺 光

小 林 正 和

同 訴 訟 代 理 人 弁 理 士 村 杜 厚 夫

渡 邊 徹

主 文

1 原告の請求をいずれも棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。



1
事 実 及 び 理 由

第1 請求

1 被告酒井容器株式会社(以下「被告酒井容器」という。)は,原告に対し,

2500万円及びこれに対する平成22年9月11日から支払済みまで年5分

の割合による金員を支払え。

2 被告明太化成株式会社(以下「被告明太化成」という。)は,原告に対し,

5000万円及びこれに対する平成22年9月11日から支払済みまで年5分

の割合による金員を支払え。

3 被告マルイ包装株式会社(以下「被告マルイ包装」という。)は,原告に対

し,2500万円及びこれに対する平成22年9月11日から支払済みまで年

5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

1 本件は,開蓋防止機能付き密閉容器に係る後記2(2)の特許権(以下「本件特

許権」といい,その特許請求の範囲【請求項1】記載の発明を「本件発明」と

いう。また,本件発明に係る特許を「本件特許」という。)及び包装用容器に

係る後記2(3)の意匠権(以下「本件意匠権」といい,その登録意匠を「本件意

匠」という。)を有する原告が,

(1) 被告酒井容器及び被告明太化成が製造販売し,被告マルイ包装が販売して

いる別紙イ号製品目録記載の各プラスチック製包装用容器(以下「イ号製品」

といい,個別に特定するときは目録の番号を付して特定する。また,その意

匠を「イ号意匠」という。)は本件特許権又は本件意匠権侵害する,

(2) 被告酒井容器及び被告明太化成が製造販売し,被告マルイ包装が販売して

いる別紙ロ号製品目録記載の各プラスチック製包装用容器(以下「ロ号製品」

といい,個別に特定するときは目録の番号を付して特定する。また,イ号製

品とロ号製品を併せて「被告製品」と総称する。)は本件特許権を侵害する

と主張して,@被告酒井容器に対し,不法行為(イ号製品につき特許権侵



2
害又は意匠権侵害,ロ号製品につき特許権侵害)に基づく逸失利益等の損

害賠償として7040万円のうち2500万円及びこれに対する平成22

年9月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の

割合による遅延損害金,A被告明太化成に対し,不法行為(イ号製品につ

き特許権侵害又は意匠権侵害,ロ号製品につき特許権侵害)に基づく逸失

利益等の損害賠償として1億3200万円のうち5000万円及びこれに

対する平成22年9月11日(訴状送達日の翌日)から支払済みまで民法

所定の年5分の割合による遅延損害金,B被告マルイ包装に対し,不法行

為(イ号製品につき特許権侵害又は意匠権侵害,ロ号製品につき特許権侵

害)に基づく逸失利益等の損害賠償として6600万円のうち2500万

円及びこれに対する平成22年9月11日(訴状送達日の翌日)から支払

済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の各支払を求める事案

である。

イ号製品に係る特許権侵害に基づく損害賠償請求と意匠権侵害に基づく

損害賠償請求とは,選択的併合の関係にある。

2 前提事実(証拠等を掲げたもののほかは当事者間に争いがない。)

(1) 当事者

ア 原告は,合成樹脂の製造加工等を業とする会社である。

イ 被告酒井容器は,合成樹脂製品の製造及び販売等を業とする会社,被告

明太化成は,プラスチック製品の製造販売等を業とする会社,被告マルイ

包装は,プラスチック容器の製造販売を業とする会社である。

(2) 本件特許権

ア 原告は,下記特許(本件特許)の特許権者である。



(ア) 特許番号 特許第3155677号

(イ) 出願日 平成7年4月13日



3
(ウ) 登録日 平成13年2月2日

(エ) 発明の名称 開蓋防止機能付き密閉容器

(オ) 特許請求の範囲

「【請求項1】容器本体としての身と,周縁部に身の上端の起立口縁部

に反転して密嵌する被着縁部片を有する蓋とを,それぞれ軟質または

半硬質のプラスチックにより形成し,身の起立口縁部の下端部に,環

状突片を突設することにより,その上に蓋の被着縁部片の反転先とし

ての最端周縁が落ち込む縁落し溝を形成し,環状突片の突出基端にそ

れを欠除するための切取溝を形成し,外側の一部にはその切取りのた

めの摘みを垂設し,且つ,摘みの一側において切取溝に至る切口を設

けたことを特徴とする開蓋防止機能付き密閉容器。」

(以下,本件特許に係る明細書及び図面〔別紙特許公報参照〕を併せて

「本件明細書」という。)

(甲13,14)

イ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した

構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。)

A 容器本体としての身と,

B 周縁部に身の上端の起立口縁部に反転して密嵌する被着縁部片を有す

る蓋とを,

C それぞれ軟質または半硬質のプラスチックにより形成し,

D 身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突設することにより,その上

に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁落し溝を形成

し,

E 環状突片の突出基端にそれを欠除するための切取溝を形成し,

F 外側の一部にはその切取りのための摘みを垂設し,

G 且つ,摘みの一側において切取溝に至る切口を設けたことを特徴とす



4


H 開蓋防止機能付き密閉容器。

(3) 本件意匠権

原告は,下記登録意匠(本件意匠)の意匠権者である。



ア 登録番号 意匠登録第984276号

イ 出願日 平成7年1月20日

ウ 登録日 平成9年4月18日

エ 意匠に係る物品 包装用容器

オ 本件意匠 別紙意匠公報記載のとおり

(以下,上記意匠登録出願を「本件意匠登録出願」という。)(甲1,2)

(4) 被告らの行為

被告らは,それぞれ次のとおり被告製品(プラスチック製包装用容器)を

製造販売し,又は販売している。

ア 被告酒井容器は,イ号製品1〜9,11,12及びロ号製品1,11を

製造販売し,イ号製品13〜20及びロ号製品2,3,12を販売してい

る。

イ 被告明太化成は,イ号製品13〜20及びロ号製品2,3,12を製造

販売し,イ号製品1〜9,11,12及びロ号製品1,11を販売してい

る。

ウ 被告マルイ包装は,被告製品全てを,被告酒井容器から仕入れて販売し

ている。

(弁論の全趣旨)

(5) 被告製品の概要

ア 被告製品はいずれも本体としての身と蓋とから成るプラスチック製包装

用容器であり,材質は本体(身)がPP(ポリプロピレン),蓋がPS(ポ



5
リスチロール。ポリスチレンともいう。)で形成されている。

(甲3の1,乙イ19,弁論の全趣旨)

イ 被告製品の本体(身)と蓋とのはめ合い部分は,それぞれ次の図面のと

おり形成されている。

イ号製品1〜5及びロ号製品1 別紙部分断面図【図1】

イ号製品6 同【図2】

イ号製品7 同【図3】

イ号製品8 同【図4】

イ号製品9 同【図5】

イ号製品11 同【図6】

イ号製品12 同【図7】

ロ号製品11 同【図8】

イ号 製 品 13 〜 2 0 及び ロ 号 製 品 同【図9】

2,3,12

(弁論の全趣旨)

(6) 被告製品の分類

以下,被告製品を次のとおり分類して表示する。

ア 特許権侵害の関係

KVシリーズ:イ号製品1〜5,ロ号製品1(KV−100,KV−1

60,KV−200,KV−230,KV−300,K

VL−300)

KSシリーズ:イ号製品6〜9,11,12(KS−100,KS−2

00,KS−230,KS−300,KS−550,K

S−1100)

KS−500:ロ号製品11




6
PHシリーズ:イ号製品13〜20,ロ号製品2,3,12(PH−8

0,PH−100,PH−120,PH−200,PH

−220,PH−300,PH−330,PH−500,

PH−600,PH−7S,PH−500K)

意匠権侵害の関係

KVシリーズ1:イ号製品1,3〜5(KV−100,KV−200,

KV−230,KV−300)

KVシリーズ2:イ号製品2(KV−160)

(KVシリーズ1,2を総称して「KVシリーズ」という。)

KSシリーズ1:イ号製品6,7(KS−100,KS−200)

KSシリーズ2:イ号製品8,9(KS−230,KS−300)

KSシリーズ3:イ号製品11,12(KS−550,KS−1100)

(KSシリーズ1〜3を総称して「KSシリーズ」という。)

PHシリーズ1:イ号製品13(PH−80)

PHシリーズ2:イ号製品14,16,17,19,20(PH−10

0,PH−200,PH−220,PH−330,P

H−500)

PHシリーズ3:イ号製品15(PH−120)

PHシリーズ4:イ号製品18−1(PH−300)

PHシリーズ5;イ号製品18−2(PH−300)

(PHシリーズ1〜5を総称して「PHシリーズ」という。)

(7) 本件発明に係る構成要件の充足

被告製品は,いずれも本件発明の構成要件A,G及びHを充足する。

3 争点

(1) 特許権侵害の成否

技術的範囲の属否(争点1)



7
イ 特許法104条の3第 1 項の権利行使の制限(争点2)

(2) 意匠権侵害の成否

ア 意匠の類否(争点3)

イ 意匠法41条,特許法104条の3第 1 項の権利行使の制限(争点4)

(3) 損害額(争点5)

4 争点に関する当事者の主張

(1) 争点1(技術的範囲の属否)について

〔原告の主張〕

ア 被告製品の構成

被告製品は,いずれも次の構成から成る。

a 容器本体としての身と,

b 周縁部に身の上端の起立口縁部に反転して密嵌する被着縁部片を有す

る蓋とを,

c それぞれ軟質または半硬質のプラスチックにより形成し,

d 身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突設することにより,その上

に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁落し溝を形成

し,

e 環状突片の突出基端にそれを欠除するための切取溝を形成し,

f 外側の一部にはその切取りのための摘みを垂設し,

g 且つ,摘みの一側において切取溝に至る切口を設けたことを特徴とす



h 開蓋防止機能付き密閉容器。

構成要件Bの充足

本件発明に係る密閉容器は,周縁部に身の上端の起立口縁部に反転して

密嵌する被着縁部片を有する蓋を有することを構成要件とする。

他方,被告製品は,構成bのとおり,いずれも蓋を有する。また,被告



8
製品の各蓋は,いずれも周縁部に身の上端の起立口縁部に反転して密嵌す

る被着縁部片を有する。

したがって,被告製品はいずれも本件発明の構成要件Bを充足する。

構成要件Cの充足

(ア) 本件発明に係る密閉容器は,身と蓋とをそれぞれ「軟質または半硬質

のプラスチック」により形成したことを構成要件とする。

被告製品は,構成cのとおり,いずれも,身と蓋とを,「軟質プラス

チックまたは半硬質のプラスチック」により形成している。

したがって,被告製品はいずれも本件発明の構成要件Cを充足する。

(イ) 被告らは,蓋0102を形成するプラスチックであるPS(ポリスチ

ロール)は,材質としては,「硬質」のプラスチックであると主張する

が,物の性質は同じ材質であっても厚み等の形状その他の要素により影

響を受けるものであるから,壊れたりひび割れしたりするおそれがなく,

密閉が確実となる程度の弾性を有していれば,材質の如何にかかわらず,

「軟質または半硬質のプラスチック」に含まれると解すべきである。

構成要件Dの充足

(ア) 本件発明に係る密閉容器は,身の起立口縁部の下端部に,環状突片を

突設することにより,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周

縁が落ち込む縁落し溝を形成したことを構成要件とする。

被告製品は,いずれも環状突片を備える。また,この環状突片は,身

の起立口縁部の下端部に突設されている。

そして,被告製品においては,いずれも環状突片を突設することによ

り,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁落

し溝を形成している。

したがって,被告製品はいずれも本件発明の構成要件Dを充足する。

(イ) 本件発明の実施において,縁落し溝は身の起立口縁部の下端部に来る



9
必要性があるのに対し,縁落し溝が環状突片の上に来る必然性はないの

であるから,「身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突設することに

より,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁

落し溝を形成し」の「その上に」とは,「環状突片」ではなく,「身の

起立口縁部の下端部」を指すと解すべきである。

構成要件Eの充足

本件発明に係る密閉容器は,環状突片の突出基端にそれ(すなわち環状

突片)を欠除するための切取溝を形成したことを構成要件とする。

他方,被告製品は,前記のとおり環状突片を備える。そして,前記のと

おり環状突片は身の起立口縁部の下端部に突設されており,構成eのとお

り,その突出基端に環状突片を欠除するための切取溝が形成されている。

したがって,被告製品はいずれも本件発明の構成要件Eを充足する。

構成要件Fの充足

本件発明に係る密閉容器は,外側の一部には(環状突片の)切取りのた

めの摘みを垂設したことを構成要件とする。

被告製品は,いずれも構成fのとおり環状突片の外側の一部に,摘みを

設けており,摘みを引くことでこの環状突片を切り取ることができるので,

この摘みが本件発明における摘みに該当する。

また,被告製品における摘みは,いずれも容器側面に対して略垂直方向

に設けられており,垂設に当たる。

したがって,被告製品はいずれも本件発明の構成要件Fを充足する。

〔被告らの主張〕

ア KVシリーズ(イ号製品1〜5,ロ号製品1)について

(ア) 構成要件Bの非充足

a 本件発明の構成要件Bは「周縁部に身の上端の起立口縁部に反転し

て密嵌する被着縁部片を有する蓋」である。この構成要件Bにおいて



10
は,

(a) 「起立口縁部」とは,その文言からして,身の上端から起立する

(立ち上る)部分,つまり,「身の上端からそのまま立ち上がった

部分」を意味する。このことは,本件明細書にも,身の上端からそ

のまま立ち上がった部分を「起立口縁部9」(【0013】)とし

ていることからも明らかである。

(b) また,被着縁部片は「起立口縁部に反転して密嵌する」のである

から,少なくとも起立口縁部の内周面,先端面及び外周面に密に嵌

り込むものであることを要する。

b これに対し,KVシリーズにおいては,

(a) 上記の「身の上端からそのまま立ち上がった部分」は,「第1立

ち上り部0104a」であるから,この第1立ち上り部0104a

が,本件発明の構成要件Bでいう「起立口縁部」に相当する。

(b) しかしながら,蓋0102の被着縁部片0103が密に接してい

るのは「第1立ち上り部0104aの内周面」と「立ち下がり部0

104bの外周面」であって,「第1立ち上り部0104a」の先

端面及び外周面には接していないか,隙間をもって接しているだけ

である。

つまり,蓋0102の被着縁部片0103は「起立口縁部」であ

る「第1立ち上り部0104a」の外周面に密嵌することができな

い。

c よって,KVシリーズは本件発明の構成要件Bを充足しない。

(イ) 構成要件Cの非充足

a 本件発明の構成要件Cは「(身と,蓋とを,)それぞれ軟質または

半硬質のプラスチックにより形成し」である。この構成要件Cにおい

ては,



11
(a) 身と,蓋とを,「それぞれ」軟質「または」半硬質のプラスチッ

クにより形成したのであるから,身と蓋とは,それぞれ「軟質のプ

ラスチック」,又は,それぞれ「半硬質のプラスチック」で形成さ

れたものでなければならない。つまり,身と蓋は「同じ材質」のプ

ラスチックであることを要する。

このことは,本件明細書にも「【0012】図1ないし図6は,

実施例を示したもので,その開蓋防止機能付き密閉容器は,それ

ぞれ軟質の安価なポリプロピレンから成る身1と蓋3とから成る小

物容器であって」と記載され,身と蓋が「同じ材質」のプラスチッ

クから形成されていることが記載されていることにも合致する。本

件明細書には,身及び蓋のいずれか一方を軟質のプラスチックで,

他方を半硬質のプラスチックで形成することについては何ら記載さ

れていない。

(b) 次に,「軟質または半硬質」のプラスチックにより形成したので

あるから,プラスチックの材質それ自体が「軟質または半硬質」で

なければならない。

b これに対し,KVシリーズにおいては,

(a) 身0101はPP(ポリプロピレン)により形成し,蓋0102

はPS(ポリスチロール)により形成したものであるから,身と蓋

とは異なる材質のプラスチックにより形成されていることは明らか

である。

したがって,身と蓋とは「同じ材質」のプラスチックで形成され

ているものではない。

(b) 蓋0102を形成するプラスチックであるPS(ポリスチロール)

は,材質としては,「硬質」のプラスチックである。

このことは,技術常識である(乙イ19)とともに,原告も,P



12
S(ポリスチロール)が「硬質」のプラスチックであることを認め

ている(本件明細書【0004】,【0006】)。

したがって,KVシリーズの「蓋」は,「軟質または半硬質のプ

ラスチック」により形成されたものではない。

c よって,KVシリーズは本件発明の構成要件Cを充足しない。

(ウ) 構成要件Dの非充足

a 本件発明の構成要件Dは,「身の起立口縁部の下端部に,環状突片

を突設することにより,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最

端周縁が落ち込む縁落し溝を形成し」である。この構成要件Dにおい

ては,

(a) 身の「起立口縁部」の「下端部」に,環状突片が突設されている

ことを要する。

(b) 「身の起立口縁部」は,構成要件Aの「身の上端の起立口縁部」

という構成からすれば,身の上端より上の部分を意味するから,身

の起立口縁部の「下端部」は「身の上端」より上方に位置する部分

であることを要する。

b これに対し,KVシリーズにおいては,

(a) 前述したとおり,本件発明の「起立口縁部」に相当するものは「第

1立ち上り部0104a」であり,この「第1立ち上り部0104

a」の下端部から環状突片0106は突設されていない。

したがって,身の「起立口縁部」の「下端部」に,環状突片が突

設されていない。

(b) 仮に「第1立ち上り部0104aと立ち下がり部0104b」と

を併せて「起立口縁部」としたとしても,立ち下がり部0104b

の下端部0105は身0101の上端よりも下側に延ばし設けられ,

身の上端より下側に位置する下端部0105を基端として環状突片



13
0106が設けられている。

したがって,環状突片は,身の起立口縁部の「下端部」から突設

されたものではない。

(c) 仮に「第1立ち上がり部0104a,立ち下がり部0104b及

び突片0106の第2立ち上がり部0106aの切取溝0108よ

り下側の部分」を「起立口縁部」とし,第2立ち上がり部0106

aの切取溝0108より上側の部分である上側部分0106bを

「環状突片」であるとしても,第2立ち上がり部0106aの上側

部分0106bは,第2立ち上がり部0106aの途中から形成さ

れているのであるから,「起立口縁部の下端部」に形成されたもの

ではない。そうすると,KVシリーズは,起立口縁部の下端部に突

設された「環状突片」を有していないことになる。

また,上側部分0106bを「環状突片」であると認定した場合,

「蓋の被着縁部片の…最端周縁が落ち込む」縁落とし溝0107を

形成しているのは,第2立ち上がり部0106aの切取溝0108

よりも下側の部分であり,環状突片という上側部分0106bは「蓋

の被着縁部片の…最端周縁が落ち込む縁落とし溝」を形成していな

い。そうすると,KVシリーズは,「環状突片を突設することによ

り,蓋の被着縁部片の…最端周縁が落ち込む縁落とし溝を形成し」

という要件を充足していないことになる。

c よって,KVシリーズは本件発明の構成要件Dを充足しない。

(エ) 構成要件Eの非充足

a 本件発明の構成要件Eは,「環状突片の突出基端にそれを欠除する

ための切取溝を形成し」である。この構成要件Eにおいて,「突出基

端」とは,構成要件Dの「身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突

設することにより」との構成及び本件明細書には切取溝13が起立口



14
縁部9と環状突片11との接続部分に設けられていること(本件明細

書【図1】,【図4】〜【図6】)からして,「環状突片と起立口縁

部との接続部分」を意味することは明らかである。

b これに対し,KVシリーズにおいては,そもそも前述したとおり,

「起立口縁部」に相当する「第1立ち上り部0104a」には環状突

片0106が突設されていない。

仮に,「第1立ち上り部0104aと立ち下がり部0104b」と

を併せて「起立口縁部」としたとしても,環状突片0106は立ち下

がり部0104bの下端部0105から突設されていることからして,

環状突片0106と立ち下がり部0104bの下端部0105との接

続部分が「突出基端」となる。しかしながら,切取溝0108は,環

状突片0106の第2立ち上り部0106aの中間部に設けられてお

り,立ち下がり部0104bの下端部0105との接続部分である「突

出基端」には設けられていない。

したがって,いずれにしても,「環状突片の突出基端にそれを欠除

するための切取溝を形成し」たものではない。

c よって,KVシリーズは本件発明の構成要件Eを充足しない。

(オ) 構成要件Fの非充足

a 本件発明の構成要件Fは,環状突片の「外側の一部にはその切取り

のための摘みを垂設し」である。「垂設」という用語については,広

辞苑等の辞典には見当たらないが,構成される各漢字,すなわち,「垂」

(たれる)及び「設」(もうける)の意味から明らかなように,「垂

れるように設けること」である。なお,特許技術用語集の第81頁(乙

ロ29)には,「垂設〔すいせつ〕垂直に設けること。垂直に下げる

ように設けること。」と記載されている。このことは,本件明細書に

摘み15が環状突片11の外側に垂れ下げて設けられている 【図1】
( )



15
ことにも合致している。

b これに対し,KVシリーズにおいては,摘み0109は,身010

1の底面と平行な方向に突出して設けられているから,「垂設」され

ているものではない。

c よって,KVシリーズは本件発明の構成要件Fを充足しない。

イ KSシリーズ(イ号製品6〜9,11,12)について

KSシリーズは,KVシリーズと異なり,身の上端部とこの上端部から

分岐した分岐部(環状突片)との間で形成される環状溝内に,蓋の被着縁

部の立ち下がり部を密嵌させることで,身と蓋との間の密閉性を確保して

いる。すなわち,本件発明のように,身の上端に形成された起立口縁部の

内外周面に蓋の反転する被着縁部片を密嵌させることで密閉性を確保する

ものではなく,身と蓋との間の密閉性を確保する基本的な構成が相違して

いるのである。

したがって,KSシリーズが,身の上端に形成された起立口縁部と蓋の

被着縁部片との密嵌を構成要件とする本件発明の技術的範囲に属すること

はあり得ない。

以下,構成要件ごとに詳論する。

(ア) 構成要件Bの非充足

a 本件発明の構成要件Bにおける「起立口縁部」とは,前述したとお

り,「身の上端からそのまま立ち上がった部分」を意味する。ここで,

身とは,構成要件Aの「容器本体」,すなわち,蓋との間で内容物を

収容する空間を形成するものの意味である。そうすると,「身の上端」

とは内容物を収容する空間を形成する最も上の端から起立した部分と

なる。

また,構成要件Bによれば,蓋の被着縁部片は反転して起立口縁部

に「密嵌」している。ここで,「密嵌」とは,文言からして,「密に」



16
「嵌り合う」ことであるから,本件明細書に記載されている(【図4】

など)ように,少なくとも,蓋の被着縁部片が起立口縁部の内周面,

先端面及び外周面に密接に嵌っていることを要する。

b これに対し,KSシリーズにおいては,

(a) 身0201の上端部0204aは蓋0202との間で内容物を収

容する空間を形成している部分であって,身そのものである。した

がって,「起立口縁部」を有していないことになる。

(b) 仮に,別紙部分断面図【図2】(KS−100),【図4】(K

S−230),【図5】(KS−300),【図6】(KS−55

0),【図7】(KS−1100)に示すように,上端部0204

aの先端部分0204a1(仮想線より図で上側の部分)を「起立

口縁部」と認定したとしても,上端部0204aの先端部分020

4a1には蓋0202の被着縁部片0203が反転して密嵌してい

ない(密に嵌り合っていない)ことは明らかである。

また,【図3】に示すKS−200では,身0201の上端部0

204aに,蓋0202の被着縁部片0203が反転して密嵌して

いないことは明らかである。

(c) また,仮に身0201の上端部0204a全体を「起立口縁部」

と認定したとしても,蓋0202の被着縁部片0203は単に起立

口縁部の外周面に接しているだけであって,反転して密嵌している

ものではない。

(d) つまり,前述したように,KSシリーズは,身0201の上端部

0204aと環状突片0206との間に形成される溝0207の周

面に被着縁部片0203の立ち下がり部0203aをはめ込み,更

に被着縁部片0203の立ち下がり部0203aの外周面に形成さ

れた突部0211を切取溝0208に係合させることにより,身0



17
201と蓋0202との間の密閉性を確保しているのである。

本件発明のように,起立口縁部の周面に倣って(反転して)被着

縁部片を密嵌することで,身0201と蓋0202との間の密閉性

を確保するものではなく,そもそも技術的思想を異にしているので

ある。

c よって,KSシリーズは本件発明の構成要件Bを充足しない。

(イ) 構成要件Cの非充足

既にKVシリーズで述べたとおり,KSシリーズにおいても,身02

01はPP(ポリプロピレン)により形成し,蓋0202はPS(ポリ

スチロール)により形成したものであるから,身と蓋とは異なる材質の

プラスチックにより形成されていることは明らかである。したがって,

身と蓋とは「同じ材質」のプラスチックで形成されているものではない。

また,蓋0202を形成するプラスチックのPS(ポリスチロール)

は,材質としては「硬質」のプラスチックであり,蓋0202は「軟質

または半硬質のプラスチック」により形成されたものではない。

よって,KSシリーズは本件発明の構成要件Cを充足しない。

(ウ) 構成要件Dの非充足

KSシリーズにおいては,構成要件Bで主張したとおり,身の上端に

設けられる「起立口縁部」を有しておらず,単に身0201の外周面に

上端部0204aと共に溝0207を形成する環状突片0206の立ち

上り部0206aを形成したにすぎない。

また,仮に0206bを環状突片とした場合,起立口縁部の下端部に

突設された環状突片を有していないことになるし,「環状突片を突設す

ることにより,蓋の被着縁部片の…最端周縁が落ち込む縁落とし溝を形

成し」という要件を充足しない。

したがって,KSシリーズは本件発明の構成要件Dを充足しない。



18
(エ) 構成要件Eの非充足

KSシリーズの環状突片0206の「突出基端」は,身0201と接

続された部分(基部0205)である。しかしながら,切取溝0208

は,環状突片0206の立ち上り部0206aの中間部に設けられてお

り,身0201に接続された部分である「突出基端」には設けられてい

ない。

よって,KSシリーズは本件発明の構成要件Eを充足しない。

(オ) 構成要件Fの非充足

KSシリーズの摘み0209は,身0201の底面と平行な方向に突

出して設けられているから,「垂設」されているものではない。

したがって,KS−100は,本件発明の構成要件Fを充足していな

いことは明かである。

ウ KS−500(ロ号製品11)について

KS−500は,KSシリーズと同様,被着縁部片0303の立ち下が

り部0303aを溝0307内にはめ込むだけでなく,蓋0302の被着

縁部片0303の立ち下がり部0303aの外周面に,環状突片0306

の立ち上り部0306aの内周面の切取溝0308に係合する突起部03

11を設け,さらに,環状突片0306の内底面と被着縁部片0303の

立ち下がり部0303aの下端面とに凹凸係合部0212を設け,立ち上

り部0306aの上部部分0306bの内周面と蓋0302の被着縁部片

0303の立ち下がり部0303aの外周面とに凹凸係合部0213を設

けて,身0301と蓋0302との密閉性を確保している。

すなわち,KS−500も,本件発明のように,起立口縁部の周面に倣

って(反転して)被着縁部片を密嵌することで,身0301と蓋0302

との間の密閉性を確保するものではなく,そもそも技術的思想を異にして

いる。



19
KS−500の構成は,KSシリーズと同様であるから,前記のKSシ

リーズ(特に,身の上端部が蓋よりも下側に位置するKS−200)で主

張した構成要件BないしFの非充足性の主張を援用する。

エ PHシリーズ(イ号製品13〜20,ロ号製品2,3,12)について

(ア) 構成要件Bの非充足

構成要件Bは,「周縁部に身の上端の起立口縁部に反転して密嵌す

る被着縁部片を有する蓋とを,」と規定する。

すなわち,本件発明における蓋は,その周縁部において,身の上端

の起立口縁部に反転して密嵌する被着縁部片を有するものである。

しかしながら,PHシリーズにおける蓋の被着縁部片に相当する部

分は,@その向きが「反転」するものではなく,さらに,A起立口縁

部に対して「密嵌」するものでもないから,構成要件Bを充足しない。

b 「反転」及び「密嵌」の意義

(a) まず,「反転」とは,「反対の方向に向きかわること。また,向

けかえること。」であり(広辞苑第6版),さらに,「反対」とは,

「物事が,対立・逆の関係にあること。」である(同)。

よって,本件発明に即して「反転」の意義を具体的に解釈すると,

(蓋の断面で見たときに,)蓋の内側(反転前)から外側(反転後)

にかけて,その向きが,ほぼ180°逆向きに変化していることを

意味する。

この点,本件発明の実施例においても,蓋の内側(反転前)から

外側(反転後)にかけて,その向きがほ

ぼ180°逆向きに変化しており,まさ

に「反転」したものが開示されている 【図


A】)。

(b) 次に,「密嵌」とは,広辞苑等の辞典



20
には掲載されていないものの,構成される各漢字の意味からすれば,

密接にはめること,を意味する(「嵌」とは,新選漢和辞典の36

3頁(乙ロ28)には,「はめる。はめこむ。 と記載されている。 。
」 )

なお,特許技術用語集の159頁(乙ロ29)には,「密嵌〔みっ

かん〕 隙間なく嵌めること。」と記載されている。

(c) したがって,本件発明に即して「反転して密嵌する」の意義を解

釈すると,向きがほぼ180°逆向きに変化した結果,蓋の「被着

縁部片」が,身の「起立口縁部」に対して「密嵌」したもの,すな

わち,「被着縁部片」 反転前の部位と反転後の部位とによって,
が,

「起立口縁部」を隙間なく挟み込む構成を意味する。

この点,本件発明の実施例においても,身の「起立口縁部」を隙

間なく挟み込むように,蓋の「被着縁部片」の反転前の部位と反転

後の部位とが,向きがほぼ180°逆向きに変化した結果, 「起
身の

立口縁部」に対して「密嵌」している(【図A】)。

c PHシリーズについて

(a) これに対し,PHシリーズをみると,いずれも,蓋の内側から外

側にかけて,その向きが(約135°)変化しているものの,ほぼ

180°逆向きに変化するものではないから,そもそも「反転」に

はあたらない(【図B】)。

(b) しかも,PHシリーズにおいては,蓋の向きがほぼ180°逆向

きに変化していないため,被着縁部片が,起立口縁部を隙間なく挟

み込む構成となっておらず,蓋の被着縁部片が,身の起立口縁部に

対して,「密嵌」してもいない(【図B】)。すなわち,蓋の被着

縁部片(0403)は,その外側部分(同図の右側の反転後の部分)

【図B】
は身の起立した縁部に接触しているものの,その内側部分(同図の

左側の反転前の部分)は,接触さえしていない。したがって,蓋の



21
被着縁部片が,身の起立した

縁部に対して,挟み込む構成

となっておらず,「密嵌」し

ているとはいえない。

なお,PHシリーズでは,蓋の内側に別途「突起部分」を設け 【図


B】の青字部分),当該「突起部分」と蓋の外側部分(【図B】の

右側反転後の部分)とで身の起立した縁部を挟み込んでおり,別途

「突起部分」を設けているという意味において,本件発明とはその

構造が全く異なるものである。

d よって,PHシリーズの蓋は「反転して密嵌する」ものではないか

ら,構成要件Bを充足しない。

(イ) 構成要件Cの非充足

構成要件Cは,(身と,蓋とを)「それぞれ軟質または半硬質のプ

ラスチックにより形成し,」と規定する。

すなわち,本件発明の身及び蓋は,それぞれ軟質または半硬質のプ

ラスチックにより形成される,というものである。

これに対し,PHシリーズの蓋は,PS(ポリスチロール)という

「硬質」プラスチックにより形成されており,「軟質または半硬質」

ではないから,明らかに構成要件Cを充足しない。

b 「軟質または半硬質プラスチック」の意義

「軟質または半硬質プラスチック」の通常の用語の意味は,軟らか

い性質,または,中間的な硬さを有するプラスチックである。

そして,発明の詳細な説明においては,軟質または半硬質プラスチ

ックについての明確な意義は記載されていないものの,これと対立す

る概念として「硬質プラスチック」が挙げられている(本件明細書【0

003】,【0004】等)。



22
したがって,本件発明にいう「軟質または半硬質のプラスチック」

とは,硬さによるプラスチックの3分類(@軟質,A半硬質及びB硬

質)のうち,前二者,すなわち,@軟らかい性質またはA中間的な硬

さを有するプラスチックを意味するといえる。

c PHシリーズについて

「器 UTSUWA COLLECTION」(甲3の1)におい

て,PHシリーズの材質等について記載されているように,PHシリ

ーズの「蓋」の材質は全てPS(ポリスチロール)である。

そして,PS(ポリスチロール)が@軟質,A半硬質,B硬質のう

ち,どのプラスチックに分類されるかについて,「プラスチック大辞

典」(乙ロ30,713頁)の「硬質プラスチック」の用語説明を参

照すると,「表面硬度や剛性(弾性率など)の大きいプラスチックで,

汎用では硬質ポリ塩化ビニル,ポリスチレン,アクリル樹脂などがあ

る。」(下線は被告らにおいて付加。)と記載されており,PHシリ

ーズの蓋に用いられている材質であるPS(ポリスチロール) 「硬
は,

質プラスチック」(硬い性質を有するプラスチック)に分類されるプ

ラスチックである。

d よって,PHシリーズの蓋は硬質プラスチックであって「軟質また

は半硬質のプラスチック」ではないから,構成要件Cを充足しない。

(ウ) 構成要件D及びEの非充足

構成要件Dは,「身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突設する

ことにより,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落

ち込む縁落し溝を形成し,」と規定し,構成要件Eは,「環状突片の

突出基端にそれを欠除するための切取溝を形成し,」と規定する。

当該構成要件D及びEの規定によれば,本件発明における身の環状

突片は,@起立口縁部の下端部に対して「突設」ないし「突出」して



23
形成され,その結果,A「環状突片」の上に,蓋の最端周縁が落ち込

む「縁落し溝」を形成する,というものである。

しかしながら,PHシリーズにおける身の環状突片に相当する部分

は,@上部先端に付設され,「起立口縁部の下端部」には設けられて

いないし,起立口縁部と平行な方向に伸び,突き出さないように設け

られ,「突設」ないし「突出」していない。そのため,A「その上に」

(「環状突片」の上に)「縁落し溝」を形成してもいないから,構成

要件D及びEを充足しない。

b 「突設」ないし「突出」及び「縁落し溝」の意義

(a) 「突設」とは,広辞苑等の辞典には掲載されていないものの,構

成される各漢字の意味から明らかなように,「突き出して設けるこ

と」である。なお,特許技術用語集の128頁(乙ロ29)にも,

「突設〔とっせつ〕突き出して設けること。」と記載されている。

また,「突出」とは,通常の用語の意味として,「突き破って出

ること」を意味する(広辞苑第6版)。

よって,本件発明に即してその意義を具体的に解釈すると,「環

状突片」が「起立口縁部の下端部」に対して,突き出して設けられ

ていることを意味する。

(b) また,上記構成要件Dの規定から明らかなように,「環状突片」

が「起立口縁部の下端縁」に対して突き出して設けられた結果,「そ

の上に」(環状突片の上に)「最端周縁が落ち込む縁落し溝」を形

成しているのである(【図C】)。【図C】

c PHシリーズについて




24
(a) PHシリーズにおいて,起立口縁部と解釈され得る部位は3箇所

もあり(【図D】0404),いずれが「起立口縁部」に相当する

のか不明である。したがって,PHシリーズのどの部分が,「起立

口縁部」の「下端部」に相当するのかも不明である。

(b) また,PHシリーズにおいて環状突片に相当する部分0406

(【図D】の赤色部分)は,単に上部先端に付設されているにすぎ

ず,「起立口縁部の下端部」には設けられていない。

さらに,0406は起立口縁部と解釈され得る部位に対して,身

の先端に平行な方向に伸び,突き出さないように設けられ,「突設」

ないし「突出」していない(【図D】)。

そのため,起立口縁部の環状突片(0406)に相当する部分は,



【図D】




「縁落し溝」(0407)の上部先端に付設されているにすぎず,

「縁落し溝」(0407)は,「その上に」,すなわち,環状突片(0

406)の上に,形成されていない。

d 以上述べたように,PHシリーズの身の「環状突片」に相当する部

分は,@起立口縁部(の下端部)に対して平行な方向に設けられてお

り,「突設」ないし「突出」してはおらず,しかも,A「縁落し溝」

の上部先端に付設されているにすぎず,「その上に…縁落し溝」を形

成(構成)してもいないから,構成要件D及びEを充足しない。

(エ) 構成要件Fの非充足



25
構成要件Fは,「外側の一部にはその切取りのための摘みを垂設

し,」と規定する。

すなわち,本件発明は,蓋の外側の一部に,切取りのための摘みを

垂設する,というものである。

これに対し,PHシリーズの蓋は,摘みを有しているものの(【図

9】0409等) 当該摘みは,
, 容器に対して水平に設けられており,

「垂設」されたものではないから,明らかに構成要件Fを充足しない。

b 「垂設」の意義について

「垂設」という用語は,前述したように「垂れるように設けること」

である。

発明の詳細な説明には,摘みを垂設することの技術的意義について

は明記されていないが,摘みを垂直方向(容器の上下方向)に伸ばす

ことによって,隣接して並べられる他の容器等と干渉して不用意に開

いてしまわないようにするという技術的意義(メリット)を有するも

のと推察される。

c PHシリーズについて

PHシリーズにおける「垂直」方向は,容器に対して上下方向を意

味する。

しかしながら,被告製品(PHシリーズ)説明図の平面図における

摘みの構成(0409)から明らかなように,PHシリーズにおける

摘みは,いずれも,容器に対して上下方向ではなく,水平方向,すな

わち,平面図に対して紙面に平行に設けられており,「垂設」された

ものではない。

そして,PHシリーズは,上述の本件発明の技術的思想とは異なり,

摘みを水平方向に設けたことにより,摘みが蓋の外周縁から多少突出

してしまうものの,摘みの位置が上面から一見して把握できるという



26
別の技術的意義(メリット)を重視して設計されているのである(こ

れに対して,本件明細書【図3】は,摘みを「垂設」しているが故に,

上面から見た場合には摘みの位置は一見して発見し難いものとなって

いる。)。

d したがって,PHシリーズの「摘み」は容器に水平方向に設けられ

ており,「垂設」されたものではないないから,構成要件Fを充足し

ない。

(2) 争点2(特許法104条の3第 1 項の権利行使の制限)について

〔被告らの主張〕

新規性欠如

(ア) 本件特許の出願日である平成7年4月13日より前に頒布された刊行

物である米国特許第4024976号明細書(乙ロ32。以下「乙ロ3

2刊行物」という。)には,以下の発明が記載されている。

a 「容器2」と,

b 周縁部に,「容器2」の上端の「縁部6」に対して,反転して挟ん

で締め付ける「リブ10」及び「スカート8」を有する「閉塞キャッ

プ3」とを,

c それぞれ「可撓性プラスチック」により形成し,

d 「容器2」の「縁部6」の下端部に,「不法開蓋防止バンド14」

を突設することにより,その上に「閉塞キャップ3」の「スカート8」

の反転先としての「外側下端部17」が落ち込む「不法開蓋防止バン

ド14と縁部6とにより囲まれた溝」を形成し,

e 「縁部6」の突出基端にそれを欠除するための「切溝領域」を形成

し,

f 外側の一部にはその切取りのための「タブ19」を垂設し,

g かつ,「タブ19」の一側において「切溝領域」に至る「刻線20」



27
を設けた

h 不法開蓋防止機能付き密閉容器。

(以下「引用発明」という。)

(イ) 本件発明における「本体容器としての身」は引用発明の構成における

「容器2」に相当し,以下同様に,「起立口縁部」は「縁部6」に,「被

着縁部片」は「リブ10及びスカート8」に,「蓋」は「閉塞キャップ

3」に,「軟質または半硬質のプラスチック」は「可撓性プラスチック」

に,「環状突片」は「不法開蓋防止バンド14」に,「最端周縁」は「外

側下端部17」に,「縁落し溝」は「不法開蓋防止バンド14と縁部6

とにより囲まれた溝」に,「切取溝」は「切溝領域」に,「摘み」は「タ

ブ19」に,「切口」は「刻線20」に,それぞれ相当する。

なお,構成要件Bの「起立口縁部に反転して密嵌する被着縁部片」に

ついて,「反転して」という文言の意義が必ずしも明確ではなく,解釈

の余地がある。

しかしながら,原告は,PHシリーズにつき,「反転して密嵌する」

ものとして充足性を主張している以上,少なくともこれと同様の構成を

有する引用発明についても,同様の「反転して密嵌する」構成を有する

ものといえる。

(ウ) よって,本件発明と引用発明とは,全ての構成要件において一致し,

相違点はない。

そして,本件発明と引用発明との間に相違点がない以上,引用発明に

ついても,本件発明の作用効果,すなわち,@蓋のこじ開け防止,A摘

みの一側の切口による切取りが容易であること,及びB開封済か否かの

判断が容易であること,と同じ作用効果を奏するものである。

進歩性欠如

仮に,引用発明が「周縁部に身の上端の起立口縁部に反転して密嵌する



28
被着縁部片を有する蓋」の構成を有していなかったとしても,かかる構成

は,例えば,いずれも本件特許の出願日である平成7年4月13日より前

頒布された刊行物である特開平3−162252号公報(乙ロ33),

米国特許第4296871号明細書(乙ロ34)及び米国特許第4027

775号明細書(乙ロ35)に開示されているように,周知ないし慣用技

術である。

そして,引用発明と上記周知慣用技術とは,@同じ密閉容器の技術分野

に属し,A周縁部における容器本体と蓋の具体的な構成,すなわち,身の

起立口縁部と蓋の被着縁部片を有する点(かつ,プラスチック材料で構成

されている点)においても共通し,B容器本体と蓋との間の密閉という機

能も同じであるから,引用発明に対して上記周知慣用技術を採用すること

についてC具体的な動機付け・示唆があるといえる。しかも,@〜Bの点

については,本件発明とも共通する。さらに,D引用発明において,上記

周知技術を採用することにつき,何らの阻害要因も見当たらない。

してみると,引用発明において,蓋と容器とを密封する具体的な構成と

して,上記周知慣用技術を採用することは,当業者が容易に想到し得たも

のである。

したがって,本件発明は少なくとも進歩性を有しない。

ウ 以上述べたように,本件発明は,新規性欠如ないし進歩性欠如の無効理

由を有し(特許法123条1項2号29条1項3号,同条2項),本件

特許は特許無効審判において無効にされるべきものであるから,同法10

4条の3により,本件特許権に基づく権利行使は許されない。

〔原告の主張〕

新規性欠如に対し

本件発明と引用発明との間には,少なくとも以下のような明らかな相違

点がある。



29
(ア) 相違点1

本件発明に係る密閉容器は,周縁部に身の上端の起立口縁部に反転し

て密嵌する被着縁部片を有する蓋を有することを構成要件とする。しか

しながら,引用発明では,このような構成について開示も示唆もない。

(イ) 相違点2

本件発明は,起立口縁部を備えている。すなわち,単なる口縁ではな

く,起立している口縁とベースとの両者により構成される部分から成る

構成を有する。これに対し,引用発明では,このような構成について開

示も示唆もない。

よって,本件発明は引用発明と対比して新規性を有するので,本件特許

は無効とされるべきものとはいえない。

進歩性欠如に対し

引用発明と上記周知慣用技術とが,@同じ密閉容器の技術分野に属する

こと,Aのうち,プラスチック材料で構成されている点において共通し,

B容器本体と蓋との密閉という機能が同じであることは認める。

しかし,A周縁部における容器本体と蓋との具体的な構成,すなわち,

身の起立口縁部と蓋の被着縁部片を有する点については,上記周知慣用技

術は,身の起立口縁部(すなわちベースとベースから起立した口縁部とか

ら成る構成)を有していないので,否認する。また,本件発明では起立口

縁部と,起立口縁部に蓋の被着縁部片が反転して密嵌していることとがあ

いまって,「密嵌」状態が実現するのである。すなわち,起立口縁部は,

ベースと,ベースから起立した口縁部とから成るところ,ベースの部分に

応力が集中することで,ベースから起立した口縁部はベースの部分で折れ

曲がりやすく,柔軟性を帯びる。容器については,機械的強度と密閉性を

兼ね備える必要があるが,身の起立口縁部に対して,蓋の被着縁部片が反

転してかぶさることで,機械的強度を保ちつつ,双方の面同士がならい,



30
身の起立口縁部と蓋の被着縁部片との間で密嵌状態が実現される。したが

って,このような起立口縁部を有しない(単に被着縁部片が反転している

にすぎない)上記周知慣用技術を引用発明に適用しても,本件発明に容易

に想到可能とはいえない。

よって,本件発明は引用発明と対比して進歩性を有するので,本件特許

は無効とされるべきものとはいえない。

(3) 争点3(意匠の類否)について

〔原告の主張〕

ア 本件意匠

(ア) 本件意匠の構成

a 基本的構成態様

横幅及び奥行きが略同じ長さで,これよりも短い高さをもつ比較的

浅めの箱状の身と,身の開口部を覆う蓋とから成る。

b 具体的構成態様

(a) 平面の構成

外部輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する

部分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)

を成しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当

する部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を

成している。

そして,これらの角に相当する部分のうち,1つには,摘みが突

設されている。

(b) 側面の構成

全体的には略四角形状であるが,身の口縁部の少し下の高さから

身の底部にかけて,横幅が左右とも漸減し,やや内側に傾斜してい

る。また,身の口縁部の略四角形状の角に当たる部分のうちの一つ



31
の角には,摘みが,身の側面壁に対して略垂直に突設されている。

この摘みは,2枚の平板状の小片が身の口縁部に僅かな間隔をあけ

て平行に突設されている。

(イ) 本件意匠の要部

a 需要者

本件意匠の実施品である包装用容器は,食品等を内部に収容して,

輸送,販売等に利用される包装用容器である。したがって,その需要

者は,食品製造業者,包装用容器の卸売業者等である(もっとも,原

告は,需要者に一般消費者が含まれるとの被告らの主張について特に

争うものではない。)。

b 需要者の着目部分

(a) 上部形状が特に見やすく,需要者に着目されること

需要者である食品製造業者等は,包装用容器を購入する際,まず,

その容量に着目するとともに,全体的な大きさ,形状(円筒状,箱

状など),色彩(透明を含む)等を考慮すると考えられる。

その際,この包装用容器の使用態様として,食品店,贈答品店,

土産物店等の店頭の陳列棚に平積みされる場合が多いことから,こ

のような陳列状態において露出している上部から見た形状を重視す

ると考えられる(甲4の3,5の3)。実際,この包装用容器の上

面(蓋の部分)に,目立つようにラベルが貼付されることが多い(甲

4の3,5の3)。

また,食品製造業者等が,包装用容器を購入する際,例えばカタ

ログを検討することが考えられるが,これらのカタログでは一般に

製品を俯瞰的に捉えた写真が掲載されている(甲3の1)。

また,食品購入者である一般消費者が,包装用容器に触れる際は,

カタログに示された使用例についての写真でも明らかなとおり,上



32
部に商品名等が表示されている場合が多く,上部から見られる場合

が多いことが推測される。

したがって,本件意匠において,需要者の注意をひきつける部分

である要部は,主に上部から見た形状にあると考えられる。

これに対し,被告らは,本件意匠登録出願(平成7年1月20日)

より前の公知意匠を参酌すると,上部から見た形状は既に公知ない

し周知の形状であり,ありふれた形態であって本件意匠の要部とは

ならないなどと主張する。しかし,本件意匠に係る物品は,具体的

には開蓋防止機能付き密閉容器であるのに対し,被告らが主張する

公知意匠は,いずれもシールを解除するような構成を採るものでは

なく,物品の使用態様や外部輪郭以外の形状が明らかに異なってい

るから,これらの公知意匠が有する構成態様との比較において本件

意匠の要部を決することは相当でない。

(b) 上部形状において,特に需要者の注意を引く具体的構成

上記のとおり,需要者の注意をひきつける部分である要部は,主

に上部から見た形状にあると考えられる。

そこで,需要者が特に関心をもって観察すると考えられる本件意

匠の上部から見た形状を検討すると,外部輪郭は,全般的に略正方

形の形をしながら,各辺に相当する部分については膨らみを帯びた

弧状(大きな円の円弧に近い曲線)を成しており,かつ,略正方形

の角に相当する部分は,各辺に相当する部分よりも曲率の大きな弧

状(小さい円の円弧に近い曲線)を成している。このため,本件意

匠は,全体として膨らみを帯びることとなる。

この点,例えば,本件意匠の出願時の公知意匠の一例である,意

匠登録第947544号の意匠公報(甲21)には,略四角形の各

角部分のみが,丸みを帯びた弧状であり,かつ,この円弧と各辺の



33
接続部分は鈍角に折れ曲がるように形成された食品用容器が示され

ている。このように一部について丸みを帯びた弧状としたものは存

在したが,本件意匠は,略正方形の各辺に相当する部分が大きな円

の円弧に近い曲線で形成されており,これと,小さな円の円弧に近

い曲線とにより,全体として膨らみを帯びた形状となっている点に

特徴があるといえる。

原告の従来製品の一例(甲10,11)を見ても,各辺が直線で

構成されているものについては,直線部分からはっきりした,強い

印象を与えるのに対し,本件意匠は,膨らみを帯びた柔らかな印象

を与えるので,前記公知意匠及び原告の従来製品と比較し,看者に

異なる美感を生じさせるものといえる。

(c) 上部形状における摘みの形状の要部該当性

一方,後記のとおり,イ号意匠と本件意匠との間には摘みの形状

に差異が見られるが,摘みの形状は要部とならない。その理由は以

下のとおりである。

包装用容器の需要者である食品製造業者等が,包装用容器を購入

する際,例えばカタログを検討することが考えられるが,例えば実

際の使用例を示すカタログ写真(甲3の1@)においても,摘みの

形状は判別できないか,ほとんど目立たない形で掲載されている。

また,摘みは,容器の蓋又は身と同色(透明が多い)でもって形成

されるので,その形状は,一層目立たないものである。

また,包装用容器に収納された食品購入者である一般消費者は,

購入して消費するに当たり,包装用容器を開封する際に摘みを切除

することとなる。加えて,これらのカタログに示されているような

水産加工品,佃煮,漬物等の食品を一般消費者が消費する際には,

通常1回の食事で全量が消費されることは少なく,残った食品の保



34
存のために,摘みの切除された包装用容器が利用される場合が多い

と考えられる。さらに,食品の全量が消費された後も,一般消費者

の一部は,包装用容器を,他の食品や食品以外の物を収容するため

の家庭用容器として利用する場合もあると推測される。これらの事

情により,食品購入者である一般消費者が摘みの形状に関心を有す

ることはないのが通常であり,このような一般消費者の関心を考慮

する食品製造業者等が,摘みの形状について特に意識する余地はほ

とんどない。前記カタログにおいて摘みの形状が判別できないか,

ほとんど目立たない形で掲載されていることは,この事実の表れで

ある。

したがって,本件意匠において,需要者の注意をひきつける部分

である要部は,主に上部から見た形状にあるが,摘みの形状は要部

とならないというべきである。

イ KVシリーズ(イ号製品1〜5)の意匠

(ア) 意匠の構成

a 基本的構成態様

横幅及び奥行きが略同じ長さで,これよりも短い高さを持つ比較的

浅めの箱状の身と,身の開口部を覆う蓋とから成る。

b 具体的構成態様

(a) 平面の構成

外部輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する

部分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)

を成しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当

する部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を

成している。

そして,角に相当する部分の内,一つには,摘みが突設されてい



35
る。摘みについては,要部とならないと考えるが,念のため,その

具体的な態様を述べると次のとおりである。すなわち,摘みは2枚

の平板状の小片から成り,身の口縁部に僅かな間隔を開けて平行に

突設されている。一片は長方形に近い形状であり,もう一片はU字

形状である。摘みは,全体として大きな円の円弧の接線から外側に

はみ出さない程度の大きさとなっている。

(b) 側面の構成

全体的には略四角形状であるが,身の口縁部の少し下の高さから

底部にかけて,身の横幅が漸減し,左右とも内側に傾斜している。

また,身の口縁部の略四角形状の角に当たる部分のうちの一つの角

には,摘みが,身の側面壁に対して略垂直に突設されている。

(イ) イ号意匠(KVシリーズ)と本件意匠の類否

a 基本的構成態様

イ号意匠(KVシリーズ)と本件意匠は,基本的構成態様において

一致する。

b 具体的構成態様

(a) 要部における共通点

イ号意匠(KVシリーズ)と本件意匠の平面形状における外部輪

郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する部分につ

いては膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)を成して

おり,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当する部分

よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を成してい

る点で共通する。

(b) 要部以外の共通点

また,イ号意匠(KVシリーズ)については,要部以外にも,本

件意匠との間に以下の共通点がある。



36
@ 身の口縁部の一方の角には摘みが,身の側面壁に対して略垂直

に突設されている。

A 2枚の平板状の小片が身の口縁部に僅かな間隔を開けて平行に

突設されている。

(c) 相違点

一方,イ号意匠(KVシリーズ)と本件意匠との間の相違点とし

ては,以下の点があるが,いずれも微差にすぎない。

摘みの形状が,イ号意匠中KVシリーズにおいては,全体として

三角形状に近い形となっており,かつ,摘みが左右に分離して形成

されているのに対し,本件意匠では,全体として四角形状に近い。

しかしながら,摘み自体の大きさが小さく,看者に強い印象を与え

るとはいえないこと,かつ,摘みが左右に分離して形成されている

といっても,開封時までは密接しているので,微差にすぎないと考

えられる。

ウ KSシリーズ1(イ号製品6,7)の意匠

(ア) 意匠の構成

a 基本的構成態様

横幅及び奥行きが略同じ長さで,これよりも短い高さを持つ比較的

浅めの箱状の身と,身の開口部を覆う蓋とから成る。

b 具体的構成態様

(a) 平面の構成

外部輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する

部分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)

を成しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当

する部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を

成している。そして,円弧と円弧のつながり部分がやや「くの字型」



37
に折れ曲がっている。

そして,角に相当する部分のうち,1つには,摘みが突設されて

いる。摘みについては,要部とならないと考えるが,念のため,そ

の具体的な態様を述べると次のとおりである。すなわち,摘みは平

板状の小片であり,長方形に近い形状である。そして,小さい円の

円弧に平行となる位置に長方形の長い方の辺が位置している。

(b) 側面の構成

全体的には略四角形状であるが,身の口縁部の少し下の高さから

底部にかけて,身の横幅が漸減し,左右とも内側に傾斜している。

また,身の口縁部の略四角形状の角に当たる部分のうちの1つの角

には,摘みが,身の側面壁に対して略垂直に突設されている。

(イ) イ号意匠(KSシリーズ1)と本件意匠の類否

a 基本的構成態様

イ号意匠(KSシリーズ1)と本件意匠は,基本的構成態様におい

て一致する。

b 具体的構成態様

(a) 要部における共通点

イ号意匠(KSシリーズ1)と本件意匠の平面形状における外部

輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する部分に

ついては膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)を成し

ており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当する部

分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を成して

いる点で共通する。

(b) 要部以外の共通点

また,イ号意匠(KSシリーズ1)については,要部以外にも,

本件意匠との間に以下の共通点がある。



38
@ 身の口縁部の一方の角には摘みが,身の側面壁に対して略垂直

に突設されている。

A 2枚の平板状の小片が身の口縁部に僅かな間隔を開けて平行に

突設されている。

(c) 相違点

平面形状における外部輪郭について,本件意匠は,大きい円の円

弧と小さい円の円弧とが,滑らかにつながっているのに対し,イ号

意匠中,KSシリーズ1においては,円弧と円弧のつながり部分が

やや「くの字型」に折れ曲がっている。しかしながら,この屈折部

分を含めながらも全体としては膨らみを帯びた円弧により形成され

ているという,イ号意匠と本件意匠との間の共通性を覆すものでは

なく,看者にとって与える美感という観点からは微差にすぎないと

考えられる。

エ KSシリーズ2,3(イ号製品8,9,11,12)の意匠

(ア) 意匠の構成

a 基本的構成態様

横幅及び奥行きが略同じ長さで,これよりも短い高さを持つ比較的

浅めの箱状の身と,身の開口部を覆う蓋とから成る。

b 具体的構成態様

(a) 平面の構成

外部輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する

部分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)

を成しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当

する部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を

成している。そして,円弧と円弧のつながり部分がやや「くの字型」

に折れ曲がっている。



39
そして,角に相当する部分のうち,1つには,摘みが突設されて

いる。摘みについては,要部とならないと考えるが,念のため,そ

の具体的な態様を述べると次のとおりである。すなわち,摘みは2

枚の長方形に近い形状をした平板状の小片から成り,身の口縁部に

僅かな間隔を開けて平行に突設されている。

(b) 側面の構成

全体的には略四角形状であるが,身の口縁部の少し下の高さから

底部にかけて,身の横幅が漸減し,左右とも内側に傾斜している。

また,身の口縁部の略四角形状の角に当たる部分のうちの1つの角

には,摘みが,身の側面壁に対して略垂直に突設されている。

(イ) イ号意匠(KSシリーズ2,3)と本件意匠の類否

a 基本的構成態様

イ号意匠(KSシリーズ2,3)と本件意匠は,基本的構成態様に

おいて一致する。

b 具体的構成態様

(a) 要部における共通点

イ号意匠(KSシリーズ2,3)と本件意匠の平面形状における

外部輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する部

分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)を

成しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当す

る部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を成

している点で共通する。

(b) 要部以外の共通点

また,イ号意匠(KSシリーズ2,3)については,要部以外に

も,本件意匠との間に「身の口縁部の一方の角には摘みが,身の側

面壁に対して略垂直に突設されている。」という共通点がある。



40
(c) 相違点

平面形状における外部輪郭について,本件意匠は,大きい円の円

弧と小さい円の円弧とが,滑らかにつながっているのに対し,イ号

意匠中,KSシリーズ2,3においては,円弧と円弧のつながり部

分がやや「くの字型」に折れ曲がっている。しかしながら,この屈

折部分を含めながらも全体としては膨らみを帯びた円弧により形成

されているという,イ号意匠8,9,11,12と本件意匠との間

の共通性を覆すものではなく,看者にとって与える美感という観点

からは微差にすぎないと考えられる。

オ PHシリーズ(イ号製品13〜20)の意匠

(ア) 意匠の構成

a 基本的構成態様

横幅及び奥行きが略同じ長さで,これよりも短い高さを持つ比較的

浅めの箱状の身と,身の開口部を覆う蓋とから成る。

b 具体的構成態様

(a) 平面の構成

外部輪郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する

部分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)

を成しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当

する部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を

成している。

そして,角に相当する部分のうち,1つには,摘みが突設されて

いる。摘みについては,要部とならないと考えるが,念のためその

具体的な形状を述べると次のとおりである。すなわち,摘みはU字

型をした2枚の平板状の小片から成り,身の口縁部に僅かな間隔を

開けて平行に突設されている。摘みは,全体として大きな円の円弧



41
の接線から外側にはみ出さない程度の大きさとなっている。

(b) 側面の構成

全体的には略四角形状であるが,身の口縁部の少し下の高さから

底部にかけて,身の横幅が漸減し,左右とも内側に傾斜している。

また,身の口縁部の略四角形状の角に当たる部分のうちの1つの角

には,摘みが,身の側面壁に対して略垂直に突設されている。

(イ) イ号意匠(PHシリーズ)と本件意匠の類否

a 基本的構成態様

イ号意匠(PHシリーズ)と本件意匠は,基本的構成態様において

一致する。

b 具体的構成態様

(a) 要部における共通点

イ号意匠(PHシリーズ)と本件意匠の平面形状における外部輪

郭は,全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当する部分につ

いては膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)を成して

おり,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当する部分

よりも曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を成してい

る点で共通する。

(b) 要部以外の共通点

また,イ号意匠(PHシリーズ)については,要部以外にも,本

件意匠との間に以下の共通点がある。

@ 身の口縁部の一方の角には摘みが,身の側面壁に対して略垂直

に突設されている。

A 2枚の平板状の小片が身の口縁部に僅かな間隔を開けて平行に

突設されている。

(c) 相違点



42
摘みの形状が,イ号意匠中PHシリーズにおいては,摘みはU字

型をした2枚の平板状の小片から成り,身の口縁部に僅かな間隔を

あけて平行に突設されている。摘みは,全体として大きな円の円弧

の接線から外側にはみ出さない程度の大きさとなっている。

これに対し,本件意匠では,全体として四角形状に近い。しかし

ながら,摘み自体の大きさが小さく,看者に強い印象を与えるとは

いえないこと,かつ,摘みが左右に分離して形成されているといっ

ても,開封時までは密接しているので,微差にすぎないと考えられ

る。

カ まとめ

以上のとおり,本件意匠とイ号意匠とは,本件意匠の要部及び要部を含

む基本的形態においてほぼ一致し,非要部において僅かに相違するもので

ある。

よって,両者は全体観察においては,需要者に同一の印象,美感を与え

る類似の意匠である。

〔被告酒井容器及び被告マルイ包装の主張〕

ア 原告の主張は争う。

イ 本件意匠の類否を判断するに当たっての需要者は,食品製造業者,包装

用容器の卸売業者及び一般消費者であり,食品製造業者や包装用容器の卸

売業者にあっては,当該包装用容器で包装する食品の保存性,安全性の確

保や開封機構の使い勝手が重要な関心事であること,一般消費者としても,

容器で食品が包装された商品を購入するとき,摘みの部分を見て開封され

ていないかを確認して,安全性を判断することになると考えられることか

らすると,需要者において,視覚を通じて最も注意をひかれる部分(要部)

は,平面視や斜め上方から見た形状のみならず,容器を開封するための摘

みの部分も含まれ,摘みの部分も容器の意匠の要部を構成すると認めるべ



43
きである。そして,本件意匠登録出願(平成7年1月20日)より前の公

知意匠(乙イ1〜6記載の意匠,乙イ7,8記載の商品名K−15の容器

に係る意匠,乙イ9記載の商品名K−15の容器に係る意匠,乙イ7〜9

記載の商品名K−25の容器に係る意匠)を参酌すると,原告が要部であ

ると主張する上部から見た形状(平面視形状)は既に公知ないし周知の形

状であって本件意匠の要部とはならず,本件意匠の要部は摘みの部分にあ

るというべきである。

本件意匠とイ号意匠(KVシリーズ,KSシリーズ)は,本件意匠にお

ける要部において明らかに相違しているばかりでなく,要部以外の基本的

構成態様及び具体的構成態様においても相違しており,看者に対し本件意

匠と異なる美感を与えることが明らかである。

よって,イ号意匠(KVシリーズ,KSシリーズ)は本件意匠と類似し

ない。

ウ イ号意匠(PHシリーズ)については,被告明太化成の主張を援用する。

〔被告明太化成の主張〕

ア 原告の主張は争う。

イ 本件意匠登録出願(平成7年1月20日)より前の公知意匠(乙ロ2〜

9記載の意匠,乙ロ10,11記載の包装用容器K−15及びK−25の

意匠,被告酒井容器によって製造され被告酒井容器及び被告明太化成によ

って販売された包装用容器K−15及びK−25の意匠)を参酌すると,

原告が要部であると主張する上部から見た形状はありふれた形態であり,

本件意匠の要部とはならない。本件意匠の類否を判断するに当たっての需

要者は,食品製造業者,包装用容器の卸売業者及び一般消費者であり,一

般消費者の観察形態や本件意匠に係る包装用容器の使用態様等に鑑みると,

本件意匠において需要者の注意をひきつける部分(要部)は摘みの部分で

ある。



44
本件意匠とイ号意匠(PHシリーズ)は,要部である摘み及び上周縁部

において相違する構成を有しており,両意匠の共通点は公知意匠にも表れ

ているようにありふれた形態である。したがって,両意匠を全体的に観察

すると,相違点がもたらす美観は共通点がもたらす美観を凌駕し,意匠全

体から感得される美観も,本件意匠とイ号意匠(PHシリーズ)とでは異

なっている。

よって,イ号意匠(PHシリーズ)は本件意匠と類似しない。

ウ イ号意匠(KVシリーズ,KSシリーズ)については被告酒井容器及び

被告マルイ包装の主張を援用する。

(4) 争点4(意匠法41条,特許法104条の3第 1 項の権利行使の制限)に

ついて

〔被告酒井容器及び被告マルイ包装の主張〕

仮に,本件意匠の要部が原告主張の上部から見た形状(平面視形状)にあ

るとするならば,本件意匠は本件意匠の出願前に公知であった乙イ7,8記

載の商品名K−15の容器に係る意匠,乙イ9記載の商品名K−15の容器

に係る意匠並びに乙イ7〜9記載の商品名K−25の容器に係る意匠と同一

であるか,公然知られた意匠に基づいて,あるいは,乙イ1記載の意匠に基

づいて当業者が容易に創作し得たものである。

よって,本件意匠に係る意匠登録は,意匠法3条1項1号,同条2項に違

反してなされたものであるから,意匠登録無効審判により無効にされるべき

であり(意匠法48条1項1号),原告は本件意匠権を行使することができ

ない(意匠法41条,特許法104条の3)。

〔被告明太化成の主張〕

本件意匠は,本件意匠の出願前に頒布された刊行物に記載され,また,本

件意匠の出願前に公然と実施されることにより公知となった,乙ロ10,1

1記載の包装用容器K−15及びK−25の意匠並びに被告酒井容器によっ



45
て製造され被告酒井容器及び被告明太化成によって販売された包装用容器K

−15及びK−25の意匠に類似するので,意匠法3条1項3号に該当し,

本件意匠権は無効とされるべきであるから,本件意匠権に基づく権利行使は

許されない(意匠法41条,特許法104条の3)。

〔原告の主張〕

いずれも争う。

(5) 争点5(損害額)について

〔原告の主張〕

ア 被告酒井容器

(ア) 被告酒井容器の被告製品の売上げ

a 被告酒井容器は,遅くとも平成11年6月頃から,イ号製品を含

む被告製品を製造及び販売している。また,本件特許権の成立は平

成13年2月2日である。したがって,本件意匠権侵害による損

害又は本件特許権の侵害による損害については,少なくとも平成1

9年7月から3年分の逸失利益を算出すべきである。

b 被告酒井容器の平成21年2月期の売上げ(被告製品に限られな

い。)は3億6000万円であり(甲22),このうち少なくとも

約3分の1に相当する1億2000万円が被告製品の売上げである

と推定される。なぜならば,原告の調査によれば,被告酒井容器に

おいては,甲3の1のカタログ中に記載された取扱商品のうち被告

製品以外の製品については,近年需要が減少しており,これらは主

力商品ではなく,被告製品が被告酒井容器における最も主要な売上

げを上げる商品となっていると考えられるからである。同様の推定

により,平成20年2月期の被告製品の売上げは1億円,平成19

年2月期の売上げは1億円程度と推定される。被告製品についての

この3年間の売上げは,大きな変動がないので,被告製品の年間売



46
上額は少なくとも1億円を下回ることはないと考えられるからであ

る。

c 被告製品中,イ号製品とロ号製品との売上げの比率については明

確ではないが,対象となる製品の数の比率(19:5)の割合であ

ると推定する。

(イ) 被告製品の利益率

被告酒井容器の被告製品の製造,販売に係る利益率は,20%程度

と推定される。

(ウ) 損害額

逸失利益

(a) 以上のとおりであるから,イ号製品に関する原告意匠権侵害

よる損害として,意匠法39条1項により推定される原告の逸失

利益は,以下の計算式のとおり,5066万6666円である。

(1 億 2000 万円×〔19/24〕×20%)+(1 億円×〔19/24〕×20%)×2

年分

=1900 万円+3166 万 6666 円

=5066 万 6666 円

(b) また,特許法102条2項により推定される原告の逸失利益は,

以下の計算式のとおり,6400万円である。

(1 億 2000 万円×20%)+(1 億円×20%)×2 年分

=2400 万円+4000 万円

=6400 万円

(c) 意匠権侵害に基づく損害賠償請求と特許権侵害に基づく損害賠

償請求は,イ号製品については,選択的である。

b 弁護士費用

被告酒井容器による特許権又は意匠権侵害行為と相当因果関係



47
ある原告の弁護士費用は,前記原告の逸失利益のうち多いほうの6

400万円に対する10%相当額の640万円が相当である。

c 損害の合計

よって,被告酒井容器による本件意匠権及び本件特許権侵害行為

による原告の損害の合計は,7040万円である。

(エ) 一部請求

原告は,上記の損害のうち,被告酒井容器に対し,一部請求として,

2500万円を請求する。

イ 被告明太化成

(ア) 被告明太化成の被告製品の売上げ

a 被告明太化成は,遅くとも平成11年6月ころから,被告製品を

製造,販売している。また,本件特許権の成立は平成13年2月2

日である。したがって,本件意匠権侵害による損害又は本件特許

権の侵害による損害については,少なくとも平成19年7月から3

年分の逸失利益を算出すべきである。

b 被告明太化成の平成21年2月期の総売上げは約7億円であると

みられるところ,被告明太化成における被告製品の売上げは2億円,

平成20年2月期の売上げは2億円,平成19年2月期の売上げは

2億円程度と推定される(甲22)。この3年間の売上げは,大き

な変動がないので,被告製品の年間売上額は,少なくとも2億円を

下回ることはない。

c 被告製品中,イ号製品とロ号製品との売上げの比率については明

確ではないが,対象となる製品の数の比率(19:5)の割合であ

ると推定した。

(イ) 被告製品の利益率

被告明太化成の被告製品の製造,販売に係る利益率は,20%程度



48
と推定される。

(ウ) 損害額

逸失利益

(a) 以上のとおりであるから,意匠法39条1項により推定される

原告の損害額は,以下の計算式のとおり,9499万9999円

である。

(2 億円×〔19/24〕×20%)×3 年分=9499 万 9999 円

(b) また,特許法102条2項により推定される原告の損害額は,

以下の計算式のとおり,1億2000万円である。

(2 億円×20%)×3 年分=1 億 2000 万円

(c) 意匠権侵害に基づく損害賠償請求と特許権侵害に基づく損害賠

償請求は,イ号製品については,選択的である。

b 弁護士費用

被告明太化成による特許権又は意匠権侵害行為と相当因果関係

ある原告の弁護士費用は,前記原告の逸失利益のうち多いほうの1

億2000万円に対する10%相当額の1200万円が相当である。

c 損害の合計

よって,被告明太化成による本件意匠権及び本件特許権侵害行為

による原告の損害の合計は,1億3200万円である。

(エ) 一部請求

原告は,上記の損害のうち,被告明太化成に対し,一部請求として,

5000万円を請求する。

ウ 被告マルイ包装

(ア) 被告マルイ包装の被告製品の売上げ

a 被告マルイ包装は,遅くとも平成11年6月ころから,被告製品

を販売している。また,本件特許権の成立は平成13年2月2日で



49
ある。したがって,本件意匠権侵害による損害又は本件特許権の

侵害による損害については,少なくとも平成19年7月から3年分

逸失利益を算出すべきである。

b 被告マルイ包装の平成21年7月期の総売上げは12億7600

万円であり,同期末における被告製品の売上げは1億円,平成20

年7月期の売上げは1億円,平成19年7月期の売上げは1億円程

度と推定される(甲22)。この3年間の売上げは,大きな変動が

ないので,被告製品の年間売上額は,少なくとも1億円を下回るこ

とはない。

c 被告製品中,イ号製品とロ号製品との売上げの比率については明

確ではないが,対象となる製品の数の比率(19:5)の割合であ

ると推定した。

(イ) 被告製品の利益率

被告マルイ包装の被告製品の売上げに関する利益率は,20%程度

と推定される。

(ウ) 損害額

逸失利益

(a) 以上のとおりであるから,意匠法39条1項により推定される

原告の損害額は,以下の計算式のとおり,4749万9999円

である。

(1 億円×〔19/24〕×20%)×3 年分=4749 万 9999 円

(b) また,特許法102条2項により推定される原告の損害額は,

以下の計算式のとおり,6000万円である。

(1 億円×20%)×3 年分= 6000 万円

(c) 意匠権侵害に基づく損害賠償請求と特許権侵害に基づく損害賠

償請求は,イ号製品については,選択的である。



50
b 弁護士費用

被告マルイ包装による特許権又は意匠権侵害行為と相当因果関係

にある原告の弁護士費用は,前記原告の逸失利益のうち多いほうの

6000万円に対する10%相当額の600万円が相当である。

c 損害の合計

よって,被告マルイ包装による本件意匠権及び本件特許権侵害

為による原告の損害の合計は,6600万円である。

(エ) 一部請求

原告は,上記の損害のうち,被告マルイ包装に対し,一部請求とし

て,2500万円を請求する。

〔被告らの主張〕

否認ないし争う。

第3 当裁判所の判断

1 争点1(技術的範囲の属否)について

(1) 構成要件Cの充足性

構成要件Cは,開蓋防止機能付き密閉容器において,容器本体としての

身と蓋とを「それぞれ軟質または半硬質のプラスチックにより形成し,」

というものである。

ここで,「軟質または半硬質のプラスチック」の意義は必ずしも明確で

はないが,少なくとも硬質のプラスチックを除外していることは文言上明

らかといえる。

そして,@本件明細書においては,「【0004】【発明が解決しよう

とする課題】上記のような従来の開蓋防止機能付き密閉容器によれば,身

が硬質の例えばポリスチロール等のプラスチックであるために,開蓋の要

領として,蓋の縁部片を硬質面に沿って切り取りやすいが,身がその材質

から衝撃により壊れたりひび割れが生じたりするトラブルが発生するおそ



51
れがあった。…」,「【0012】図1ないし図6は,一実施例を示した

もので,その開蓋防止機能付き密閉容器は,それぞれ軟質の安価なポリプ

ロピレンからなる身1と蓋3とからなる小物容器であって,…」と記載さ

れ,ポリスチロールは硬質のプラスチックとされ,実施例に使用された軟

質のポリプロピレンとは異なる材質のものとして記載されていること,A

1994年(平成6年)10月20日株式会社工業調査会発行の「プラス

チック大辞典」713頁(乙ロ30)において,「rigid plastic 硬質プ

ラスチック」 「表面硬度や剛性
が (弾性率など)の大きいプラスチックで,

汎用では硬質ポリ塩化ビニル,ポリスチレン,アクリル樹脂などがある。

…」と説明されているように,PS(ポリスチロール)が硬質プラスチッ

クであることは当業者に周知の技術的事項であると認められることからす

れば,本件発明の「軟質または半硬質のプラスチック」は,硬質のプラス

チックであるPS(ポリスチロール)を明示的に除外しているものと解す

るのが相当である。

これを被告製品についてみるに,被告製品は,前記第2の2(5)アのとお

り,いずれも,本体(身)はPP(ポリプロピレン),蓋はPS(ポリス

チロール)から成るものであるから,蓋が硬質のプラスチックであるPS

(ポリスチロール)により形成されている点において,いずれも本件発明

構成要件Cを充足しないことが明らかである。

イ 原告は,物の性質は同じ材質であっても厚み等の形状その他の要素によ

り影響を受けるものであるから,壊れたりひび割れしたりするおそれがな

く,密閉が確実となる程度の弾性を有していれば,材質の如何にかかわら

ず,「軟質または半硬質のプラスチック」に含まれると解すべきであると

主張する。

しかしながら,一般に,軟質は「質がやわらかいこと。」,硬質は「質

のかたいこと。」を意味するものであり,質は「生まれつき。天性。」を



52
意味するものであるところ(いずれも広辞苑第4版),本件明細書もその

記載(【0004】,【0012】)からして,「軟質」及び「硬質」と

いう用語を,材質,すなわち材料それ自体が有する硬さ(硬度)によって

使い分けていることが明らかである(プラスチックである以上,たとえ硬

質のものであっても,ある程度の可撓性を有するから,シート状であれば

柔軟性を有しているのに対して,厚くなれば大きな力を加えないと撓まな

くなる,すなわち剛性が大きくなることは当然である。本件明細書におい

て,一般的な用法と異なり,あえて硬度ではなく弾性によって「硬質」と

「軟質」という用語を使い分けているとは認められない。)から,当業者

は,「軟質または半硬質のプラスチック」とは,材質を特定したものであ

ると理解するというべきである。原告の主張は,硬度と弾性(材質それ自

体が有する硬さと形状や厚みによって変化する剛性)を混同するものであ

って,採用することができない。

(2) 構成要件Dの充足性

構成要件Dは,「身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突設すること

により,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁

落し溝を形成し,」というものである。

そして,上記「環状突片を突設することにより」という文言や,本件明

細書の「【0009】【作用】蓋を被せて周縁の被着縁部片を身の起立口

縁部に押し込むと,その間が密着することはもちろん,身の縁落し溝に被

着縁部片の最端周縁が落ち込むので,この状態においては,蓋の縁に指や

爪を掛けてこじ開けることができない。しかし,縁落し溝を形成している

環状突片を切取溝で切り取ると,〔判決注:下線は判決において付加。〕

蓋の最端周縁が露出するので,そこに指を掛けて蓋を開けることができ

る。」,「【0013】…そして,環状突片11の形状によりその上に蓋

3の捲りを防止する縁落し溝12が形成されている。 との記載,
」 【図1】,



53
【図4】,【図7】の図示(いずれも身の起立口縁部9の外周面の下端部

に断面L字形〔上向きの鍵形〕をした環状突片11が外に向かって突き出

すように設けられており,環状突片11の断面L字形の下部を底面とし,

該L字形の上部を一方の側面,起立口縁部9の外周面の下端部を他方の側

面とする縁落し溝12が形成されている。また,環状突片11の,起立口

縁部9の外周面の下端部との接続部である突出基端には,下側に開口する

切取溝13が設けられている。)並びに構成要件E,Fの記載(環状突片

の突出基端にはそれを欠除するための切取溝を,外側の一部にはその切取

りのための摘みを設けることを定めている。)によれば,本件発明に係る

密閉容器は,身の縁落し溝に被着縁部片の最端周縁を落ち込ませることで

流通過程における容器の密閉性を確実にするとともに,縁落し溝を形成す

る環状突片を切取溝に沿って切り取ることで,蓋の最端周縁を露出させ,

開封を可能にする点に特徴があり,構成要件Dはそのために身の起立口縁

部の下端部に環状突片を設け,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての

最端周縁が落ち込む縁落し溝を形成することを定めていると認められるか

ら,「その上に」とは,「環状突片の上に」を意味し,「環状突片」とは,

その上に「縁落し溝」を形成し,かつ,開封時に切取溝により欠除される

ものを意味すると解するのが相当である。

これを被告製品についてみるに,被告製品において環状突片に相当する

と認められる部分(KVシリーズにつき別紙部分断面図【図1】の010

6b,KSシリーズにつき【図2】〜【図7】の0206b,KS−50

0につき【図8】の0306b,PHシリーズにつき【図9】の0406)

は,いずれもその上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込

む「縁落し溝」を形成しておらず,「環状突片の上に」縁落し溝が形成さ

れていないことが明らかである。

したがって,被告製品は,いずれも構成要件Dを充足すると認めること



54
はできない。

イ 原告は,本件発明の実施において,縁落し溝は身の起立口縁部の下端部

に来る必要性があるのに対し,縁落し溝が環状突片の上に来る必然性はな

いのであるから,「身の起立口縁部の下端部に,環状突片を突設すること

により,その上に蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁

落し溝を形成し」の「その上に」とは,「環状突片」ではなく,「身の起

立口縁部の下端部」を指すと解すべきと主張する。

しかしながら,本件発明に係る密閉容器は,身の縁落し溝に被着縁部片

の最端周縁を落ち込ませることで流通過程における容器の密閉性を確実に

するとともに,縁落し溝を形成する環状突片を切取溝に沿って切り取るこ

とで,蓋の最端周縁を露出させ,開封を可能にする点に特徴があり,構成

要件Dはそのために身の起立口縁部の下端部に環状突片を設け,その上に

蓋の被着縁部片の反転先としての最端周縁が落ち込む縁落し溝を形成する

ことを定めていると認められることは前記のとおりであるから,縁落し溝

は正に環状突片によって形成されるものであり,縁落し溝が環状突片の上

に形成されることは構成要件Dから当然理解される自明の構成というべき

である。これと前提を異にする原告の主張は採用することができない。

(3) 構成要件Fの充足性

構成要件Fは,「外側の一部にはその切取りのための摘みを垂設し,」

というものであり, (環状突片)
身 の外側の一部にその切取りのための「摘

みを垂設」することを定めている。この「摘みを垂設」について,本件明

細書には, 【0014】
「 開蓋装置5については,環状突片11の基端に,

下面開放形の切取溝13を設け,その切取溝13に沿って環状突片11を

切り取り得るように,一端において環状突片11に摘み15を突設し,摘

み15が下向きの舌片状に形成される。」と記載され,【図1】,【図2】

及び【図5】には,摘み15が下向きの舌片状に形成された形状で図示さ



55
れている。また,「垂設」という用語は一般的用語ではないが,「垂」に

ついては,「たれること。ぶら下がること。」という意味があり,「垂れ

る」については,「重みで下にだらりとさがる。先端がさがった状態にな

る。」という意味があるものと認められる(いずれも広辞苑第4版)。

そうすると,構成要件Fにおける「摘みを垂設」とは,垂れ下がるよう

に,下向きに摘み15が形成されていることを意味するものと解するのが

相当である。

これを被告製品についてみるに,被告製品における摘みはいずれも水平

方向(容器面に対して平行)に設けられており,垂れ下がるように下向き

に形成されたものはない(弁論の全趣旨)。

したがって,被告製品は,いずれも構成要件Fを充足すると認めること

はできない。

イ 原告は,「摘みを垂設」とは,摘みが容器側面に対して略垂直方向(水

平方向)に設けられていることを意味し,そのような構成を備える被告製

品はいずれも本件発明の構成要件Fを充足すると主張する。

しかしながら,かかる用語の使い方は前記した「垂」の字の一般的な意

味,用法に明らかに反しており,本件明細書に「垂」ないし「垂設」をそ

のような特別な意味,用法で使用することについての記載がない以上,上

記解釈は採り得ない。したがって,原告の主張は採用できない。

(4) 以上検討したところによれば,被告製品は,いずれも構成要件D,E,F

を充足すると認めることができないから,その余の構成要件について検討す

るまでもなく,いずれも本件発明の技術的範囲に属しない。

よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の特許権侵害の不

法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。

2 争点3(意匠の類否)について

(1) 本 件 意 匠 の 構 成



56
証拠(甲1)及び弁論の全趣旨によれば,本件意匠の構成は,別紙本

件意匠説明書記載のとおりであると認められる。

(2) 公 知 意 匠

ア 本件意匠登録出願(平成7年1月20日)前において,公知であっ

た包装用容器の意匠として,次の意匠を認めることができる。

(ア) 意 匠 登 録 第 4 9 6 5 4 7 号 ( 乙 イ 1 , 乙 ロ 4 ) の 意 匠

(イ) 意 匠 登 録 第 4 9 6 5 4 8 号 ( 乙 イ 2 , 乙 ロ 5 ) の 意 匠

(ウ) 意 匠 登 録 第 5 2 4 2 2 3 号 ( 乙 イ 3 ) の 意 匠

(エ) 意 匠 登 録 第 5 7 7 5 1 3 号 ( 乙 イ 4 , 乙 ロ 8 ) の 意 匠

(オ) 意 匠 登 録 第 5 9 3 8 5 3 号 ( 乙 イ 5 , 乙 ロ 7 ) の 意 匠

(カ) 意 匠 登 録 第 8 4 4 9 8 6 号 ( 乙 イ 6 ) の 意 匠

(キ) 意 匠 登 録 第 7 8 6 4 0 3 号 ( 乙 ロ 6 ) の 意 匠

(ク) リ ス パ ッ ク 株 式 会 社 発 行 の 商 品 カ タ ロ グ 「 R I S U P A C K T

O T A L C A T A L O G '9 2 /'9 3 」( 乙 ロ 9 )5 5 頁 記 載 の商

品 C V K 1 1 8 − 1 5 0 B( 容 器 本 体 )と C V K 1 1 8 − T C( 蓋 )

とを組み合わせた意匠

イ 本件意匠登録出願前において公知であった@プラスチック製気密容

器として実開平2−59156(乙ロ2)が,A包装用容器として実

開昭59−13465(乙ロ3)が認められる。

ウ 証拠(乙イ7〜11,12の1及び2,13の1及び2,14〜1

6,21〜25,31〜37,47,乙ロ10,14〜25,検乙イ

1,検乙イ2)及び弁論の全趣旨によれば,本件意匠登録出願前に,

公然と実施されていた容器K−15(検乙イ1)及びK−25(検乙

イ2)が認められる。

エ 前記アの意匠は,いずれも蓋と本体(身)から成る容器であり,平

面視における外部輪郭は全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相



57
当する部分は程度の差はあるもののいずれも膨らみを帯びた弧状(大

きな円の円弧に近い曲線)を成しており,かつ,略正方形の角に相当

する部分は,各辺に相当する部分よりも曲率の大きな弧状(小さい円

の円弧に近い曲線)を成している。また,前記イの@及びAにもその

ような意匠が記載され,前記ウの各容器もそのような意匠を有してい

るものと認められるから,かかる意匠は,包装用容器の意匠として,

本件意匠登録出願前に公知のごくありふれた態様であったと認めるら

れる。

(3) 本 件 意 匠 の 要 部

本件意匠は, の意匠に係る物品が包装用容器であり, に食品の輸送,
そ 特

販売等に利用される包装用容器であること,本件意匠の類否を判断する

に当たっての需要者は,包装用容器の卸売業者や食品製造業者のみなら

ず一般消費者も含まれると解すべきことについては,当事者間に争いが

ない。

容 器 包 装 は ,内 容 物 の 保 護 ,取 扱 い の 便 利 さ( 輸 送 効 率 の 高 さ や 商 品 陳

列の容易性といった流通上,販売上の利便性のみならず,例えば高齢者

や子供でも扱いやすいなど消費者にとっての利便性も含む。),商品情

報の提供(内容物の情報を適切に表示する,他の商品との区別を容易に

する,異物の混入を防ぐ等)といった様々な機能が求められるものであ

り,用途との関係でどの機能が重視されるかは需要者によって千差万別

であるから,求める機能を適切に果たし得るものであるかどうかを見極

めるために,包装用容器に接する需要者としての包装用容器の卸売業者

や食品製造業者が容器全体の形状(特に上部から側面にかけての形状)

に着目することは明らかである。また,本件意匠に係る包装用容器のよ

うに平たい容器で包装された食品(水産加工物や漬物等)は,店頭で平

積みに陳列されるのが通常であるから(甲4の3,公知の事実),一般



58
消費者は容器を斜め上方から眺めることになり,容器全体の形状(特に

上部から側面にかけての形状)に着目するものと認められる。

物 品 の 包 装 用 容 器 ,特 に 食 品 の 輸 送 ,販 売 等 に 利 用 さ れ る 包 装 用 容 器 に

おける摘みは,単に開封時に使用されるだけでなく,開封前は容器が未

開封であること(食品の安全性)を表示するものでもあるから,それら

の 役 割 を 果 た す に 足 り る 形 状 ,大 き さ を 備 え て い る 必 要 が あ り ,他 方 で ,

摘みがいびつな形状をしていたり,大きすぎたりすれば,容器それ自体

の美観を損なうとともに,輸送効率や商品陳列にも影響を与えることに

なるから,摘み部分がいかなる形状,大きさを備えているかは需要者に

とって重要であるといえ,需要者が着目する容器全体の形状には,摘み

部分の形状も含まれるものと認められる。そして,平面視における外部

輪 郭 の 形 状 に つ い て は 前 記 (2)の と お り 多 数 の 公 知 意 匠 が 存 在 す る こ と

参酌すれば,本件意匠の要部,すなわち,本件意匠に係る物品である

包装用容器において,摘みの部分が需要者の注意をひく部分であると認

めるのが相当である。

こ れ に 対 し ,原 告 は ,@ 容 器 の 選 定 や 流 通 過 程 に お い て は ,摘 み よ り も

上 部 か ら 見 た 形 状 が 重 視 さ れ る な ど と し て , 本件意匠の要部は,主に上部

から見た形状にある,A本件意匠に係る物品は,具体的には開蓋防止機能付

き密閉容器であるのに対し,被告らが主張する公知意匠は,いずれもシール

を解除するような構成を採るものではなく,物品の使用態様や外部輪郭以外

の形状が明らかに異なっているから,これらの公知意匠が有する構成態様と

の比較において本件意匠の要部を決することは相当でない,などと主張する。

し か し な が ら ,以 下 の と お り 原 告 の 主 張 は 採 用 す る こ と が で き な い 。す

なわち,@仮に容器の選定や流通過程において需要者がまず上部から見

た 形 状 に 着 目 す る と し て も ,原 告 が 主 張 す る 本 件 意 匠 の 要 部( 外 部 輪 郭 )

に 関 す る 具 体 的 形 状 は , 「 全般的に略正方形の形をしながら,各辺に相当



59
する部分については膨らみを帯びた弧状(大きな円の円弧に近い曲線)を成

しており,かつ,略正方形の角に相当する部分は,各辺に相当する部分より

も曲率の大きな弧状(小さい円の円弧に近い曲線)を成している…ため,本

件意匠は,全体として膨らみを帯びる」というものであるが,当該外部輪郭

の形状がいずれも本件意匠登録出願前に,包装用容器の意匠としてごくあり

ふれた態様であったと認められることは上記(2)に認定したとおりであり,そ

のような態様は,需要者がしばしば目にするところであるから,その注意を

ひく部分ということはできず,これを意匠の要部と認めることはできない。

また,A本件意匠に係る物品も前記(2)の公知意匠も,共に物品の包装に用い

られる容器であることに変わりはなく,本件意匠の要部を判断するに当たっ

て,これらの公知意匠を参酌することは当然というべきである。

(4) 本 件 意 匠 と 対 比 す べ き イ 号 意 匠 の 構 成

証拠(甲3の1及び2,4の1,5の1,6の1,7の1,8,9の

1)及び弁論の全趣旨によれば,本件意匠と対比すべきイ号意匠の構成

は,それぞれ次のとおりであると認められる。

ア KVシリーズ1:イ号製品1,3〜5(KV−100,KV−200,

KV−230,KV−300)

別紙イ号意匠(KVシリーズ1)説明書記載のとおり。

イ KVシリーズ2:イ号製品2(KV−160)

別紙イ号意匠(KVシリーズ2)説明書記載のとおり。

ウ KSシリーズ1:イ号製品6,7(KS−100,KS−200)

別紙イ号意匠(KSシリーズ1)説明書記載のとおり。

エ KSシリーズ2:イ号製品8,9(KS−230,KS−300)

別紙イ号意匠(KSシリーズ2)説明書記載のとおり。

オ KSシリーズ3:イ号製品11,12(KS−550,KS−1100)

別紙イ号意匠(KSシリーズ3)説明書記載のとおり。



60
カ PHシリーズ1:イ号製品13(PH−80)

別紙イ号PH意匠1説明書(イ号13)記載のとおり。

キ PHシリーズ2:イ号製品14,16,17,19,20(PH−10

0,PH−200,PH−220,PH−330,PH−500)

別紙イ号PH意匠2説明書(イ号14,16,17,19,20)記載

のとおり。

ク PHシリーズ3:イ号製品15(PH−120)

別紙イ号PH意匠3説明書(イ号15)記載のとおり。

ケ PHシリーズ4:イ号製品18−1(PH−300)

別紙イ号PH意匠4説明書(イ号18−1)記載のとおり。

コ PHシリーズ5;イ号製品18−2(PH−300)

別紙イ号PH意匠5説明書(イ号18−2)記載のとおり。

(なお,上記カ〜コ及び各掲記の別紙において,「イ号PH意匠○」とある

のは,「イ号意匠(PHシリーズ○)」を意味する。)

(5) 本件意匠とイ号意匠との対比

ア 本件意匠の要部とイ号意匠の構成とを対比すると,それぞれ次の差異が

認められる。

(ア) KVシリーズ1:イ号製品1,3〜5(KV−100,KV−200,

KV−230,KV−300)について

a 本件意匠は,1つの角部に相当する部分に2つの摘みが形成されて

いるのに対し,イ号意匠(KVシリーズ1)では,3つの摘みが形成

されている点

b 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しているのに対し,

イ号意匠(KVシリーズ1)では,2つの摘みが辺に相当する部分と



61
平行に突出する方向に細長い長方形状を成し,他の1つの摘みは,ほ

ぼ半月形状を成している点

c 本件意匠では,上側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成す

ように形成され,角部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを

有しているのに対し,イ号意匠(KVシリーズ1)では,いずれも蓋

の上面周縁部から離間して形成され,平面視で,いずれも角部に相当

する部分の周方向長さに比して十分に短い周方向長さであり,また,

1つの摘みは,突出方向と直交する方向の幅が狭く,他の摘みよりも

細い長方形状であって,かつ,1つの摘みよりも外方に突出している



d 本件意匠では,2つの摘みは,上側の摘みが下側の摘みよりも周方

向の長さが長く形成され,平面視で,下側の摘みは全て隠れて見えな

くなる位置関係で配置されているのに対し,イ号意匠(KVシリーズ

1)では,3つの摘みが周方向に位置がずれてそれぞれ個別に見える

位置関係で配置されている点

(イ) KVシリーズ2:イ号製品2(KV−160)について

a 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しているのに対し,

イ号意匠(KVシリーズ2)では2つの摘みが長方形状を成している



b 本件意匠では,上側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成す

ように形成され,角部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを

有しているのに対し,イ号意匠(KVシリーズ2)では,いずれも蓋

の上面周縁部から離間して形成され,平面視で,いずれも短い辺部分

の周方向長さに比して十分に短い周方向長さである点



62
c 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,下側の摘みは全て隠れて

見えなくなる位置関係で配置されているのに対し,イ号意匠(KVシ

リーズ2)では,2つの摘みが周方向に位置がずれてそれぞれ個別に

見える位置関係で配置されている点

(ウ) KSシリーズ1:イ号製品6,7(KS−100,KS−200)に

ついて

a 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成し,滑らかで,容器

(蓋)の一部を形成している印象を与えるのに対し,イ号意匠(KS

シリーズ1)では2つの摘みが角張った長方形状を成していることで,

摘みは容器とは別のような印象を与える点

b 本件意匠では,上側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成す

ように形成され,角部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを

有していることで,容器の丸みのある輪郭形状の一部を形成している

印象を与えるのに対し,イ号意匠(KSシリーズ1)では,蓋の上面

周縁部から離間して形成され,平面視で,いずれも短い辺部分の周方

向長さに比して十分に短い周方向長さであることで,容器とは別物の

ような印象を与えるとともに,容器の輪郭に凹凸感を与えている点

c 本件意匠では,下側の摘みが上側の摘みに全て隠れて見えなくなる

位置関係で配置されていることで,摘みが目立たなくなるのに対し,

イ号意匠(KSシリーズ1)では,2つの摘みが個別に見えることで

摘みが目立っている点

(エ) KSシリーズ2:イ号製品8,9(KS−230,KS−300)に

ついて

a 本件意匠は,1つの角部に相当する部分に2つの摘みが形成されて



63
いるのに対し,イ号意匠(KSシリーズ2)では,3つの摘みが形成

されている点

b 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しているのに対し,

イ号意匠(KSシリーズ2)では上側の2つの摘みのうち1つの摘み

は角張った長方形状を,他の1つの摘みは角張った正方形状を,下側

の摘みは角張った長方形状を成している点

c 本件意匠では,上側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成す

ように形成され,角部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを

有しているのに対し,イ号意匠(KSシリーズ2)では,いずれも蓋

の上面周縁部から離間して形成され,平面視で,いずれも短い辺部分

の周方向長さに比して十分に短い周方向長さである点

d 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,下側の摘みは全て隠れて

見えなくなる位置関係で配置されているのに対し,イ号意匠(KSシ

リーズ2)では,3つの摘みが周方向に位置がずれてそれぞれ個別に

見える位置関係で配置されている点

(オ) KSシリーズ3:イ号製品11,12(KS−550,KS−110

0)について

a 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しているのに対し,

イ号意匠(KSシリーズ3)では2つの摘みが角張った矩形状を成し

ている点

b 本件意匠では,上側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成す

ように形成され,角部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを



64
有しているのに対し,イ号意匠(KSシリーズ3)では,いずれも蓋

の上面周縁部から離間して形成され,平面視で,いずれも短い辺部分

の周方向長さに比して十分に短い周方向長さである点

c 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,下側の摘みは全て隠れて

見えなくなる位置関係で配置されているのに対し,イ号意匠(KSシ

リーズ3)では,2つの摘みが周方向に位置がずれてそれぞれ個別に

見える位置関係で配置されている点

(カ) PHシリーズ1:イ号製品13(PH−80)について

a 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しており,かつ,上

側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成すように形成され,角

部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを有しているのに対し,

イ号意匠(PHシリーズ1)では,摘みは,上周面から下がった位置

において1つの辺の延長方向に延び,かつ,互いに並んで配置された

比較的長い帯状の小片と比較的短い帯状の小片とから成り,両小片の

先端は,半丸形状である点

b 本件意匠では,2つの摘みは,上側の摘みが下側の摘みよりも周方

向の長さが長く形成され,平面視で,下側の摘みは全て隠れて見えな

くなる位置関係で配置されており,下側の摘みは帯状部分の下端付近

から突出しているのに対し,イ号意匠(PHシリーズ1)では,摘み

よりも下方において,かつ,平面視において摘みからずれた位置にお

いて,上周縁部(本件意匠の帯状部分に相当)の上下端の中央部付近

からから突出する板状の小片(本件意匠の下側の摘みに相当)が形成

されている点

(キ) PHシリーズ2:イ号製品14,16,17,19,20(PH−1



65
00,PH−200,PH−220,PH−330,PH−500)に

ついて

a 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しており,かつ,上

側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成すように形成され,角

部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを有しているのに対し,

イ号意匠(PHシリーズ2)では,摘みは,上周面から下がった位置

において1つの辺の延長方向に延び,かつ,互いに並んで配置された

比較的長い帯状の小片と比較的短い帯状の小片とから成り,両小片の

先端は,半丸形状であり,両小片は,平面視L字形の連結体によって

連結されている点

b 本件意匠では,2つの摘みは,上側の摘みが下側の摘みよりも周方

向の長さが長く形成され,平面視で,下側の摘みは全て隠れて見えな

くなる位置関係で配置されており,下側の摘みは帯状部分の下端付近

から突出しているのに対し,イ号意匠(PHシリーズ2)では,摘み

よりも下方において,かつ,平面視において摘みからずれた位置にお

いて,上周縁部(本件意匠の帯状部分に相当)の上下端の中央部付近

からから突出する板状の小片(本件意匠の下側の摘みに相当)が形成

されている点

(ク) PHシリーズ3:イ号製品15(PH−120)について

a 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しており,かつ,上

側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成すように形成され,角

部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを有しているのに対し,



66
イ号意匠(PHシリーズ3)では,摘みは,1つの辺の延長方向に上

周面と面一に突出する帯状の小片から成り,その先端は,半丸形状で

ある点

b 本件意匠では,2つの摘みは,上側の摘みが下側の摘みよりも周方

向の長さが長く形成され,平面視で,下側の摘みは全て隠れて見えな

くなる位置関係で配置されており,下側の摘みは帯状部分の下端付近

から突出しているのに対し,イ号意匠(PHシリーズ3)では,摘み

よりも下方において,かつ,平面視において摘みからずれた位置にお

いて,上周縁部(本件意匠の帯状部分に相当)から突出する板状の小

片(本件意匠の下側の摘みに相当)が形成されている点

(ケ) PHシリーズ4:イ号製品18−1(PH−300)について

a 本件意匠では,2つの摘みは,平面視で,蓋の角部に相当する部分

の輪郭形状に沿った円弧状の外周と丸みを帯びた両端部を有し,角部

に相当する部分の輪郭形状に沿う細長い形状を成しており,かつ,上

側の1つの摘みは蓋の上面周縁部と平坦面を成すように形成され,角

部に相当する部分の周方向長さとほぼ同じ長さを有しているのに対

し,イ号意匠(PHシリーズ4)では,摘みは,1つの辺の延長方向

に延び,かつ,互いに並んで配置された比較的長い帯状の小片と比較

的短い帯状の小片とから成り,両小片の先端は,半丸形状であり,両

小片は,平面視L字形の連結体によって連結されている点

b 本件意匠では,2つの摘みは,上側の摘みが下側の摘みよりも周方

向の長さが長く形成され,平面視で,下側の摘みは全て隠れて見えな

くなる位置関係で配置されており,下側の摘みは帯状部分の下端付近

から突出しているのに対し,イ号意匠(PHシリーズ4)では,摘み

の真下に,上周縁部(本件意匠の帯状部分に相当)から突出する板状

の小片(本件意匠の下側の摘みに相当)が形成されているものの,平



67
面視では小片の一部のみが摘みに隠れている点

(コ) PHシリーズ5;イ号製品18−2(PH−300)について

a 本件意匠では,1つの角部に相当する部分に容器の上面と平行に外

方に突出する2つの摘みが形成されており,2つの摘みは,上側の摘

みが下側の摘みよりも周方向の長さが長く形成され,平面視で,下側

の摘みは全て隠れて見えなくなる位置関係で配置されており,下側の

摘みは帯状部分の下端付近から突出しているのに対し,イ号意匠(P

Hシリーズ5)では,そのような摘みがない点

b イ号意匠(PHシリーズ5)では,上周縁部の辺の部分のうちの1

つにおいて,摘みが上周縁部の下端から斜め下方に,かつ,身本体部

から離れる方向に突出し,摘みは,帯状の小片から成るのに対し,本

件意匠では,そのような摘みがない点

c 本件意匠では,2つの摘みは,上側の摘みが下側の摘みよりも周方

向の長さが長く形成され,平面視で,下側の摘みは全て隠れて見えな

くなる位置関係で配置されており,下側の摘みは帯状部分の下端付近

から突出しているのに対し,PH意匠5では,そのような小片がない



イ 以上のとおり,イ号意匠は,いずれも本件意匠の要部である摘み部分の

形状が本件意匠とは明らかに異なっており(PHシリーズ5では摘み部分

の形状のみならず摘みが設けられた部位も異なっている。),この点にお

いて看者に対し本件意匠とは異なる美感を与えることが明らかである。

また,要部以外の点においても,本件意匠とイ号意匠(KVシリーズ1

及びPHシリーズ1〜5)とでは,平面視において,外向きに僅かに膨ら

みを帯びた4つの辺の部分と丸みを帯びた4つの角の部分とから成る略正

方形状の輪郭を成している点で共通するものの,かかる形状は,包装用容

器の意匠として,本件意匠登録出願前において公知のごくありふれた態様



68
であったことは前記(2)のとおりであるから,これをもって要部における上

記各差異を凌駕するほど共通の美感を看者に与えると認めることはできな

い。また,イ号意匠(KVシリーズ2及びKSシリーズ1〜3)は,原告

が共通点であると主張する平面視においても略八角形状の輪郭を成してお

り,本件意匠のように略正方形状の輪郭を成しているとはいえないことが

外観上明らかである。ほかに,イ号意匠を全体的に観察しても本件意匠と

の間に要部における差異を凌駕するほどの共通点を見いだすことはできな

い。

したがって,イ号意匠は,いずれも本件意匠に類似しているものとは認

められない。

よって,その余の点について判断するまでもなく,原告の意匠権侵害

不法行為に基づく損害賠償請求は,いずれも理由がない。

3 結論

以上によれば,原告の被告らに対する請求は,いずれも理由がないから

棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第40部



裁判長裁判官



岡 本 岳



裁判官



坂 本 康 博



裁判官



69
寺 田 利 彦




70
(別紙)イ号製品目録
番号 品番 幅 奥行き 高さ

1 KV-100 112 112 24.5

2 KV-160 120 120 25

3 KV-200 112 112 34.5

4 KV-230 143 143 28

5 KV-300 143 143 35

6 KS-100 110 110 26

7 KS-200 110 110 35

8 KS-230 142 142 27

9 KS-300 142 142 32

10 (欠番)

11 KS-550 151 151 48

12 KS-1100 174 174 64

13 PH-80 87 87 31

14 PH-100 113 113 26

15 PH-120 110 110 23

16 PH-200 113 113 36

17 PH-220 143 143 28

18-1 PH-300 143 143 36

18-2 PH-300 143 143 36

19 PH-330 151 151 34

20 PH-500 151 151 43

※単位はいずれもo(ミリメートル)。

※18−1及び2は,同一の品番だが摘みの形状が異なる。




71
(別紙)ロ号製品目録

番号 品番 幅 奥行き 高さ

1 KVL-300 165 125 28

2 PH-600 166 125 54

3 PH-7S 156 113 26

4〜10 (欠番)

11 KS-500 148 148 45

12 PH-500K 163 163 41

※単位はいずれもo(ミリメートル)。




72
(別紙) 部分断面図



【図1】(KVシリーズ)




【図2】(KS−100)




73
【図3】(KS−200)




【図4】(KS−230)




74
【図5】(KS−300)




【図6】(KS−550)




75
【図7】(KS−1100)




【図8】(KS−500)




76
【図9】(PHシリーズ)




以上




77