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事件 平成 23年 (行ケ) 10132号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2011/12/13
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年12月13日判決言渡

平成23年(行ケ)第10132号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成23年12月6日

判 決




原 告 X1




原 告 X2

両名訴訟代理人弁理士 長 谷 部 善 太 郎
山 田 泰 之



被 告 特 許 庁 長 官



指 定 代 理 人 横 林 秀 治 郎

関 谷 一 夫
新 海 岳

田 村 正 明



主 文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。
この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日

と定める。





事 実 及 び 理 由

第1 原告らの求めた判決

特許庁が不服2007−14433号事件について平成22年12月7日にした

審決を取り消す。



第2 事案の概要

本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がし

た請求不成立の審決の取消訴訟である。主たる争点は,容易推考性の存否である。

なお,以下において「原告」というときは,原告両名を指す。

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成14年(2002年)12月3日の優先権(大韓民国)を主張して,

平成15年9月29日,名称を「一側の毛先だけテーパー状に先鋭化された針状毛

が植毛された歯ブラシ及びその製造方法」とする発明について特許出願(特願20

03−337005号,請求項の数16)をしたが,平成19年2月8日付けで拒

絶査定を受けたので,平成19年5月18日,拒絶査定に対する不服審判請求をし

た(不服2007−14433号)。原告は,その手続中の平成22年4月19日

付けで補正(甲2,請求項の数9)をしたが,特許庁は,平成22年12月7日,
「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は平成22年12

月21日,原告に送達された。

2 本願発明の要旨

平成22年4月19日付けの補正(甲2)による特許請求の範囲の請求項1に係

る本願発明は,次のとおりである。

【請求項1】
一側の毛先だけテーパー状に先鋭化されたポリエステル樹脂からなる針状毛にお

いて,非針状毛を強酸又は強アルカリ溶液に浸漬させて一側の毛先だけテーパー状

に先鋭化させ,テーパーが形成されなかった部分をヘッドインサートに形成された




通孔に押し入れた後に通孔を通過してヘッドインサートの底面へ突出された針状毛

の非針状部分を熱溶着させることにより針状毛をヘッドインサートに固定させた

後,ヘッドインサートの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着させることを特徴と

する歯ブラシの製造方法

3 審決の理由の要点
(1) 特表2002−512107号公報(引用刊行物,甲4)には次のとおり

の引用発明が記載されていると認められる。

【引用発明】

プラスチック製の剛毛において,保持側端部を保持プレートの複数の孔内に挿入

し,保持側端部は複数の孔からやや突き出る程度に差し込まれ,保持プレートで使

用側端部とは反対側にある剛毛の保持側端部を互いに溶融結合し,及び,保持プレ

ートと溶融結合し,次いで,保持プレートを歯ブラシ本体の切欠内に固定させるプ

ラスチック製の歯ブラシ特に交換式歯ブラシを製造するための方法。

(2) 本願発明と引用発明との間には,次のとおりの一致点,相違点がある。

【一致点】

樹脂からなる歯ブラシ用の毛において,歯ブラシ用の毛の使用側とは反対側の端

部をヘッドインサートに形成された通孔に押し入れた後に通孔を通過してヘッドイ
ンサートの底面へ突出された歯ブラシ用の毛の端部を熱溶着させることにより歯ブ

ラシ用の毛をヘッドインサートに固定させた後,ヘッドインサートを歯ブラシ本体

のヘッド部に固定させる歯ブラシの製造方法

【相違点1】

本願発明は,「一側の毛先だけテーパー状に先鋭化されたポリエステル樹脂から

なる針状毛」を歯ブラシ用の毛としており,当該「毛」を,「非針状毛を強酸又は
強アルカリ溶液に浸漬させて一側の毛先だけテーパー状に先鋭化させ」て形成し,

「テーパーが形成されなかった部分をヘッドインサートに形成された通孔に押し入

れ」るのに対して,引用発明は,プラスチック製の歯ブラシ用の毛の使用側端部と




は反対側にある剛毛の保持側端部をヘッドインサートに形成された通孔に押し入れ

るものの,歯ブラシ用の毛の樹脂材質,構造及びその形成過程について特定されて

いない点。

【相違点2】

本願発明では,ヘッドインサートの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着してい
るのに対して,引用発明は,ヘッドインサートの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に

交換可能に固定している点。

(3) 相違点に関する審決の判断

ア 相違点1について

使用側端部を針状とした毛(針状毛)を備える歯ブラシは,本願明細書の【背景

技術】として記載されているように,また,実願平4−91801号(実開平6−

50532号)のCD−ROM(甲5)や特開2001−211935号公報(甲

6)に記載されているように,周知である。

よって,引用刊行物に,使用側端部を針状とした毛を備える歯ブラシを引用発明

の方法により製造することやその動機付けが記載されていなくても,使用側端部を

針状とした毛を備える歯ブラシが周知であるから,引用発明の方法により,針状と

した毛を備える歯ブラシを製造することに困難性は認められない。
なお,引用発明は,当該発明と同様の歯ブラシの製造方法が,欧州特許出願公開

第972464号(甲7の1(甲7文献))にも記載されているように,歯ブラシ

製造方法として,特別なものではない。

そして,使用側端部を針状とした毛を備える歯ブラシを,一側の毛先だけテーパ

ー状に先鋭化された針状毛から製造することも,甲5のCD−ROM又は甲6公報

に記載されているように,周知の技術(以下「周知技術1」という。)であるから,
引用発明に周知技術1を適用して,一側の毛先だけテーパー状に先鋭化された針状

毛を歯ブラシ用の毛として,テーパーが形成されなかった部分をヘッドインサート

に形成された通孔に押し入れた後に熱溶着させ,周知の針状毛を備える歯ブラシの




製造方法とすることは,当業者が容易に想到し得るものである。

また,歯ブラシ用の毛をポリエステル樹脂で形成することも,甲5のCD−RO

M(段落【0010】)又は甲6公報(段落【0006】)に記載されているよう

に,周知の技術(以下「周知技術3」という。)であり,ポリエステル樹脂で形成

された毛を強酸又は強アルカリ溶液に浸漬させて毛先をテーパー状に先鋭化させる
ことも,特開平11−290134号公報(甲8,段落【0021】)又は本願明

細書の背景技術において示されている実公昭61−10495号公報(甲9,3欄

26行〜4欄3行)に記載されているように周知の技術(以下「周知技術4」とい

う。)である。

よって,引用発明に周知技術1を適用するに際して,周知技術3及び周知技術

も適用して,非針状毛を強酸又は強アルカリ溶液に浸漬させて一側の毛先だけテー

パー状に先鋭化させて形成されたポリエステル樹脂からなる毛を用いることも,当

業者が容易に想到し得るものである。

イ 相違点2について

ヘッドインサートの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着することは,甲6公報

(段落【0009】)又は甲7文献(段落【0042】,Fig.27)に記載さ

れているように周知の技術(以下「周知技術2」という。)であること,歯ブラシ
については全体を使い捨てるという使用形態も慣用であること,引用刊行物(段落

【0030】)には,非交換式とすることも示唆されていることから,引用発明が

ヘッドインサート交換式であっても,周知技術2を適用して,ヘッドインサートの

底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着することは,当業者が容易に想到し得るもの

である。

(4) 作用効果
本願発明による効果,特に,熱溶着によって毛の長さのバラツキを調節する効果

は,引用発明と同様の歯ブラシの製造工程を含む甲7文献のFig.13,Fig.

23及びFig.24で示されている,通孔から突出された長さの異なる端部を熱




溶着している図示内容からみても,毛の構造にかかわらず,引用発明から当業者が

予測し得る程度のものであり,その他の効果も,引用発明及び周知技術1〜4から

当業者が予測し得る程度のものであって,格別なものとはいえない。

(5) 結論

以上のとおり,本願発明は,引用発明及び周知技術1〜4に基づいて当業者が容
易に発明することができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を

受けることができない。



第3 原告主張の審決取消事由

1 取消事由1(手続違背)

審決は,平成22年4月19日付けの補正による請求項1〜9のうち,請求項1

のみを本願発明としており,その他の請求項2〜9については審理・判断の対象と

していない。

このため,審決は十分な審理及び適切な手続きを経てなされたものとはいえず,

適法になされたものではない。

2 取消事由2(一致点認定の誤り・相違点の看過)

(1) 審決は,引用発明で用いる歯ブラシ用の毛がプラスチック製の剛毛である
と認定した上で,「樹脂からなる毛」である点を本願発明と引用発明との一致点と

して認定した。

しかし,引用刊行物には,剛毛(3)の保持側端部(6)の少なくとも一部に微

量作用を有する材料(9)を塗布する工程を含み,この工程により,歯ブラシが使

用時に水に触れると,浸透力又は毛細管力によって微量作用を有するイオンが使用

側端部における剛毛先端まで搬送され,その作用は剛毛が親水性を示すポリアミド
からなることによって強められる旨の記載がある。この記載からして,引用発明に

おいて,剛毛の材質としてプラスチック製のもの全般を使用することができるので

はなく,親水性を備えたポリアミドを使用するものであることは明らかである。そ




して,ポリアミドはナイロンを含む概念である。

これに対し,本願発明は,毛の一端をテーパー状に加工する場合に,ナイロン等

の他の樹脂を使用することができないことから,敢えてポリエステルを選択した発

明である。

このように,本願発明はポリエステルからなる毛を使用し,引用発明はポリアミ
ドからなる毛を採用する点において相違し,樹脂一般についてまで拡張して使用す

ることができるものではないから,毛の材質が樹脂である点を一致点することは誤

りである。

(2) 審決は,引用発明の「保持側端部」が,歯ブラシ用の毛の使用側端部とは

反対側の端部である点で,本願発明の「テーパーが形成されなかった部分」と共通

すると認定した上で,「歯ブラシ用の毛の使用側とは反対側の端部をヘッドインサ

ートに形成された通孔に押し入れた」点が本願発明と引用発明との一致点であると

認定した。

本願発明は一側の毛先だけテーパー状に先鋭化されたポリエステル樹脂からなる

針状毛において,テーパーが形成されなかった部分をヘッドインサートに形成され

た通孔に押し入れる工程を備えた発明であり,単に毛のどちらでも良い一側をヘッ

ドインサートの通孔に押し入れる発明ではない。
これに対し,引用発明は,テーパー状に先鋭化する工程を有しておらず,いずれ

の端もテーパー状ではない剛毛を使用するのであるから,剛毛を保持プレートの孔

に挿入することによって初めて,剛毛の両端のうちいずれの側が使用側かが決定さ

れるのであり,保持プレートの孔に毛を挿入する前に,毛のいずれの側を使用端と

するかを決定した上で,使用端ではない方の毛の端を選択して保持プレートに挿入

する工程を有するものではない。
歯ブラシ自体の発明であれば,製造工程はともかく,毛の一端がヘッドインサー

トの通孔に押し入れられていれば,使用側ではない端が保持される側である点にお

いて物として区別は付かないのかも知れないが,本願発明は方法の発明であり,審




決においてはその点を考慮してない。

また,引用発明は,いずれの端もテーパー状ではない剛毛を使用するのであるか

ら,両端の区別はつかず,剛毛を保持プレートに固定させる工程を開始する前の段

階においては,いずれの端を保持側端部として決定するかは任意である。これに対

し,本願発明は,一端がテーパー状であるので,毛をヘッドインサートに固定する
工程を開始する前の段階で,使用側端部と保持側端部が決まっている。

したがって,審決が上記の点を一致点と認定したことは誤りである。

(3) 審決は,引用発明の「保持プレートを歯ブラシ本体の切欠内に固定させる」

は,本願発明の「ヘッドインサートの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着させる」

と,「固定させる」という上位概念において共通すると認定した上で,「ヘッドイ

ンサートを歯ブラシ本体のヘッド部に固定させる」点を本願発明と引用発明との一

致点として認定した。

しかしながら,引用刊行物に「剛毛を備えた保持プレートを交換ヘッドとして歯

ブラシ本体の切欠内に挿入する」などの記載があるように,引用発明は,保持プレ

ートを交換可能としたことを前提としており,そのための保持プレートを歯ブラシ

本体に固定する手段として,歯ブラシ本体の切欠内に挿入する手段を採用するので

ある。
一方,本願発明では,ヘッドインサートの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着

させるのであり,その接着手段によってヘッドインサートが歯ブラシヘッドに対し

て取り外し不可能な状態とされることは明らかである。

したがって,審決の上記一致点認定は誤りである。

3 取消事由3(相違点1の認定誤り)

審決は,相違点1について,引用発明の歯ブラシ用の毛の樹脂材質,構造,その
形成過程が特定されていないとしている。

しかしながら,引用刊行物には,歯ブラシ用の毛としてポリアミドが優れる旨が

記載され,具体的に記載された樹脂はそのポリアミドのみであるから,引用発明の




樹脂はポリアミドと特定されている。また,引用発明の毛は,繊維状物を切断する

のみによって歯ブラシ用の毛とするのが自然であり,毛のいずれの端部も少なくと

も針状ではないのであって,毛の形状について特定されていないとはいえない。さ

らに,その形成過程に関しても,引用刊行物には少なくとも針状毛とするような工

程は記載されていないから,針状毛とする過程を有しない点は明らかであり,この
点において特定されていないとまではいえない。

以上の点で,審決の相違点1の認定は誤りである。

4 取消事由4(相違点1に関する判断の誤り)

(1) 審決は,使用側端部を針状とした毛を備える歯ブラシを,一側の毛先だけ

テーパー状に先鋭化された針状毛から製造することは,甲5のCD−ROM(実願

平4−91801号(実開平6−50532号))又は甲6公報(特開2001−

211935号)に記載されているように,周知である(周知技術1)とする。

甲5のCD−ROMには,確かに毛の一端にテーパー部を設けてなる刷毛を使用

して歯ブラシを製造する旨の記載はあるが,他端についてテーパー状でないとは記

載されていない。甲6公報についても,一側の毛先だけテーパー状に先鋭化した毛

から製造したことについては何ら記載されておらず,両側をテーパー状とした毛を

使用することによっても使用端がテーパー状の毛を備えた歯ブラシとすることは可
能である。したがって,上記周知技術1が周知であるとはいえない。また,わずか

に2件の特許等に係る文献から周知であるとはいえない。

(2) 審決は,ポリエステル樹脂の針状毛も甲5のCD−ROM又は甲6公報に

記載されているように,周知である(周知技術3)とする。

本願発明は単に歯ブラシ用の毛をポリエステルにしたことを発明したものではな

く,非針状毛を強酸又は強アルカリ溶液に浸漬させて,一側の毛先だけテーパー状
に先鋭化させるために,多数の公知の歯ブラシ毛の材料の中からポリエステルを選

択したのである。これに対し,甲5のCD−ROMや甲6公報における毛は,合成

樹脂であればよく,ポリエステルは単に例示されたにすぎないのであって,一側の




毛先をテーパー状とするためにポリエステルを選択することまでが記載されている

ものではない。

甲5のCD−ROMや甲6公報は,特許出願,実用新案登録出願に係る文献であ

るところ,これらは,それぞれの出願人,つまり当業者が,周知ではないばかりか

新規性かつ進歩性を備えるものとして出願するのであり,そのような認識の下で出
願され,結果として公知になった2件しかない文献記載の事項が周知であるとはい

えない。

また,周知技術3が周知であるとしても,甲5のCD−ROMや甲6公報には,

溶着・固着する部分に鍔部を設けた技術が開示されているのであって,鍔部を形成

しない引用発明と組み合わせるのに必要な動機付けは見当たらない。

(3) 審決は,ポリエステル樹脂で形成された毛を強酸又は強アルカリ溶液に浸
漬させて毛先をテーパー状に先鋭化させることについて,甲8公報(特開平11−

290134号)及び甲9公報(実公昭61−10495号)により周知である(周

知技術4)とする。

しかしながら,甲8公報及び甲9公報に記載された発明は,一端を針状とした毛

をどのようにして植毛するのかが不明であって,またU字状に折り曲げて植毛する

ことにより先端が針状の毛と針状ではない毛が混在してなる歯ブラシを得ることを
前提にした発明であり,元々本願発明の従来技術に当たる発明である。そして,こ

のような発明は,本願発明のような一端を針状とした毛をヘッドインサートの通孔

に押し込むことを必須とした発明ではなく,上記のようにU字状に折り曲げて植毛

することを前提とした発明であるから,このような文献の記載から,先端を針状と

する工程のみを取り出すことにより本願発明の進歩性を否定することは,いわゆる

後知恵といわざるを得ない。また,2件の文献から周知であるとはいえない。
(4) 引用発明は,毛の材料としてポリアミドを採用する発明であり,ポリアミ

ドとその他の樹脂とは同じ効果を奏する同等な樹脂とはいえないから,たとえポリ

エステルからなる毛が周知であったとしても,積極的にポリアミドの採用を止めて




ポリエステル毛を採用することまでを当業者が発明できるものではない。

5 取消事由5(相違点2に関する判断の誤り)

審決は,甲6公報及び甲7文献(欧州特許出願公開第972464号)から,ヘ

ッドインサートを歯ブラシ本体のヘッド部に接着することは周知である(周知技術

2)とし,さらに引用刊行物(段落【0030】)には非交換式とすることが示唆
されているとして,引用発明において周知技術2を採用してヘッドインサートの底

面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着することは当業者が容易に想到し得ると判断し

た。

しかしながら,周知技術2についても,2件の文献のみから周知であるとはいえ

ない。

また,引用刊行物には,歯ブラシ本体に剛毛を直接取り付けることは記載されて

いるが(段落【0030】),歯ブラシ本体に対して保持プレートを非交換式とす

ることまでは記載されておらず,保持プレートをブラシ本体と接着することまでは

示唆されていないのであるから,引用刊行物の上記記載によって,ヘッドインサー

トの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着するとすることまで当業者が容易に発明

することができたとはいえない。

6 取消事由6(作用効果に関する判断の誤り)
本願発明の効果は,製造工程が簡単で,不良率が低下して製造コストを低減でき,

さらに,ヘッドインサートに溶着して使用するので,植毛される毛のパターンと数

量を調節可能であり,毛をより強固に固定でき,また長さ調節に失敗した不良針状

毛も相当な部分正常に使用できるというものである。

両側をテーパー状とした毛を使用して歯ブラシを製造する方法は,使用する毛の

量及び不良率からみて,係るコストは本願発明の2倍以上に達する。また,両側を
テーパー状にした毛を使用して植毛する方法は,同一の植毛孔に同じ長さの毛を植

毛する必要があるが,本願発明においては多様な形状や大きさの植毛孔毎に,適切

な長さ分布を有する毛を選択して植毛することができるので,刷掃性を高めて複雑




な歯牙構造の隅々を掃除できる。

審決は,引用刊行物及び甲7文献には,本願発明の効果,特に熱溶着によって毛

の長さのバラツキを調節する効果が示されており,その他の効果は引用発明及び周

知技術1〜4から当業者が予測できると判断する。

しかしながら,本願発明は一連の製造工程を形成することによって,初めて効果
を発揮する発明であり,審決にて記載されたように,個々の工程による効果を単に

合わせた効果ではない。



第4 被告の反論

1 取消事由1に対し

特許法49条51条は,一つの特許出願について拒絶査定か特許査定のいずれ

かの行政処分をなすべきことを規定しているものであり(最高裁平成20年7月1

0日第一小法廷判決・民集62巻7号1905号参照),同法49条の規定によれ

ば,一つの特許出願に複数の請求項に係る発明が含まれている場合,そのうちのい

ずれか一つでも同法29条等の規定に基づき特許をすることができないものである

ときは,その特許出願全体を拒絶すべきである。

したがって,審決が,本願発明について特許法29条2項の規定により特許を受
けることができないことを根拠に,その他の請求項2〜9に係る発明について判断

を示さずに,拒絶査定不服審判請求を成り立たないとしたことに誤りはない。

2 取消事由2に対し

(1) 引用刊行物には,「…プラスチック製の剛毛…」(段落【0001】)と

記載されている。また,引用発明の「プラスチック製の剛毛」の材質が「樹脂」で

あることは明らかであり,本願発明の「ポリエステル樹脂」が「樹脂」であること
も明らかである。したがって,審決が,引用発明で用いる毛について「プラスチッ

ク製の剛毛」と認定し,「樹脂からなる毛」であることを本願発明との一致点と認

定したことに誤りはない。




原告は,引用発明の剛毛は親水性を備えたポリアミドに限定される旨主張する。

しかしながら,引用刊行物には,発明の詳細な説明の冒頭に,プラスチック製の剛

毛を用いた歯ブラシの製造方法が記載され(段落【0001】),その後に,「…

本発明の課題は,…冒頭に述べた製造方法の利点を維持しながら,…歯ブラシが簡

単な形式で抗菌性の作用を有するようにすることである。」(段落【0011】)
と記載されているところ,剛毛の材質として親水性を備えたポリアミドを使用する

点は,歯ブラシの抗菌性作用をより強めるための事項である。審決は,冒頭の製造

方法の限度において引用発明を認定したのであり,その限度で引用発明を考えれば,

剛毛の材質が親水性を備えたポリアミドに限定されないことは明らかである。

(2) 引用刊行物の「…まず保持側端部と使用側端部とを有する剛毛を特に剛毛

束にまとめ,保持側端部を保持プレート又は歯ブラシ本体の複数の孔内に挿入し…」
(段落【0001】)との記載からして,引用刊行物には,剛毛の保持側端部と使

用側端部のうち保持側端部を選択して孔内に挿入する工程が明示されているのであ

って,引用発明について,剛毛を保持プレートの孔に挿入することによって初めて,

剛毛の両端のうちいずれの側が使用側か決定されるものであると解すべき根拠は見

出せない。

したがって,審決が,引用発明の「保持側端部」は,歯ブラシ用の毛の使用側端
部とは反対側の端部である点で,本願発明の「テーパーが形成されなかった部分」

と共通すると認定した上,一致点として「歯ブラシ用の毛の使用側とは反対側の端

部をヘッドインサートに形成された通孔に押し入れた」点を認定したことに誤りは

ない。

(3) 「接着」は「固定」の一態様であり,引用発明の「固定させる」と本願発

明の「接着させる」が「固定させる」点で共通するとした審決の認定に誤りはない。
また,引用発明の保持プレートが交換可能であり,本願発明のヘッドインサート

交換可能でないことは,相違点2として認定されているのであって,審決に一致

点認定の誤り・相違点の看過はない。




3 取消事由3に対し

引用発明の剛毛の材質がポリアミドに限定されないことは,上記2(1)で主張した

とおりである。

引用刊行物には,プラスチック製歯ブラシの剛毛の形状を殊更に説明した部分は

なく,引用刊行物に記載された歯ブラシ用の毛について,毛のいずれの端部も針状
ではないと解すべき根拠があるものではない。

同様に,引用刊行物には,剛毛の形成過程についての記載も見出せないから,引

用発明として,剛毛の形成過程は特定されていない発明を認定したことに誤りはな

い。

4 取消事由4に対し

(1) 本願優先日(平成14年12月3日)の約8年5ヶ月前(平成6年7月1

2日)に頒布された刊行物である甲5のCD−ROM(実願平4−91801号(実

開平6−50532号))に,「…この考案に係る歯ブラシは,一端にのみテーパ

ー部を有する刷毛を毛束に束ねて植毛する…」(段落【0007】)などと記載さ

れ,【図3】に一端にのみテーパー部12aを有する刷毛12が図示されているこ

とや,本願優先日の約1年4ヶ月前(平成13年8月7日)に頒布された刊行物

ある甲6公報(特開2001−211935号)に,「…参照符号1は,合成樹脂
製繊維の一端をテーパー状に加工した多数のフィラメントを束ね,他端を熱溶着や

接着などの方法で固着すると共に,鍔部1aを形成した毛束である。…」(段落【0

006】)と記載され,その【図2】に使用側端部をテーパー部1cとしたフィラ

メントを備える歯ブラシが図示されていることからして,審決がこれらの文献から

周知技術1を認定したことに誤りはない。

なお,甲5のCD−ROMの【図3】に,一端にのみ先鋭化形状のテーパー部1
2aを有する刷毛12が示されていることは明らかだから,一端がテーパー状の刷

毛の他端がテーパー状でないとはいえないとする原告の主張に理由はない。また,

甲6公報の上記記載からして,甲6公報には,使用側端部を針状とした毛を備える




歯ブラシを一側の毛先だけテーパー状に先鋭化された針状毛から製造することが記

載されているといえるから,甲6公報に関する原告の主張も理由がない。

(2) 甲5のCD−ROMに,「刷毛12は,図3に示すように,一端に先鋭化

形状のテーパー部12aを有し,前述した先願と同様にポリエステル等の合成樹脂

の合成樹脂製モノフィラメントから構成されている。…」(段落【0010】)と
記載され,甲6公報に,「…フィラメントに使用する合成樹脂製繊維の材質として

は,…ポリエステル(ポリエチレンテレフタレート,ポリブチレンテレフタレート

など)…を用いることができる。」(段落【0006】)と記載されていることか

らして,審決が,これらの文献から周知技術3を認定したことに誤りはない。

なお,甲5のCD−ROM,甲6公報に,本願発明にて使用しない鍔部を形成す

る歯ブラシが記載されているとしても,これらの文献の記載に接した当業者であれ

ば,鍔部を形成するか否かにかかわらず,歯ブラシ用の毛をポリエステル樹脂で形

成することを理解できるものであるから,鍔部の有無に関する原告の主張は,上記

周知技術の認定を左右しない。

(3) 本願優先日の約3年1ヶ月前(平成11年10月26日)に頒布された刊

行物である甲8公報(特開平11−290134号)に,「請求項3に係る本発明

の歯ブラシ用毛の製造方法は,…PBTまたはPET製の毛を所望の長さに切断し,
切断された毛をその先端から10mm以下の長さだけ強いアルカリ性あるいは酸性

の溶液に鉛直に浸漬して,毛の先端の直径が0.10mmから0.15mmのテー

パーを形成されるように溶かされ毛の長さが変化しないままあるいはわずかに伸び

る状態にし,テーパーが形成された毛を水で洗浄し,洗浄された毛を乾燥し,テー

パーが形成された毛の先端に丸みを形成する…」(段落【0021】)と記載され,

本願優先日の約16年8ヶ月前(昭和61年4月4日)に頒布された刊行物である
甲9公報(実公昭61−10495号)にも同様の記載があることからして,審決

が,これらの文献から周知技術4を認定したことに誤りはない。

なお,甲8公報及び甲9公報に,毛をU字状に折り曲げて植毛する技術が開示さ




れているとしても,上記記載に接した当業者であれば,U字状に折り曲げて植毛す

るか否かにかかわらず,毛の先端を針状とすることを理解できるものであるから,

先端を針状とする工程のみを取り出すことは後知恵であるという原告の主張は理由

がない。

(4) 引用発明の剛毛の材質が親水性を備えたポリアミドに限定されないこと
は,上記2(1)のとおりであるから,ポリアミドに限定されることを前提としてポリ

エステルの毛を採用することの困難性をいう原告の主張は前提を欠く。

5 取消事由5に対し

甲6公報に,「…毛束固定部材2は,前記毛束抜止部材3の凸部3aに被覆する

ように配置しており,毛束固定部材2の側壁端面2eと,毛束固定部材3の段部3

bとが固着されている。その際,前毛束1の鍔部1aは,毛束固定部材2の下面2

eと毛束抜け止め部材3の凸部3aとに挟着固定される。なお,毛束固定部材2と

毛束抜止部材3との固着は接着や熱溶着,超音波溶着,圧入固定等の従来公知の方

法を選択できる。」(段落【0009】)との記載があることや,本願優先日の約

2年11ヶ月前(平成12年1月19日)に頒布された刊行物である甲7文献(欧

州特許出願公開第972464号)に,「…Fig.26およびFig.27にお

いて示されるように,ホルダ10が,ブラシ本体5の一部を形成してもよく,この
場合には,膠剤または合成材料などのある特定の物質がカバー要素34とホルダ1

0との間に,換言すればこの繊維束端末端部の周囲に追加的に塗布された後である

か否かに関わらず,カバー要素34が,繊維束4の共に溶合された末端部の上方に

設けられ,または,共に溶合された繊維束末端部が膠剤または合成材料などによっ

て相互連結された後であるか否かに関わらず,繊維束4が,ブラシ本体5内に固定

される緩いホルダ10内に設けられる。」(甲7文献の段落【0042】の訳文(甲
7の2))との記載が存在し,そのFig27に繊維束4が挿通されたホルダ10

をブラシ本体5に組み合わせた態様が図示されていることからすれば,審決が,こ

れらの文献から周知技術2を認定したことに誤りはない。




また,そもそも歯ブラシには全体を使い捨てるという使用形態も慣用であり,引

用刊行物(段落【0030】)に,交換式歯ブラシの他に,歯ブラシ本体に孔を設

け,その孔に剛毛の保持側端部を挿入固定することによって,歯ブラシ本体に剛毛

を直接取付けた歯ブラシ,つまり非交換式の歯ブラシも製造することができること

も記載されていることからして,引用発明に周知技術2を適用して,ヘッドインサ
ートの底面を歯ブラシ本体のヘッド部に接着することに格別の困難性はないとした

審決の判断に誤りはない。

6 取消事由6に対し

本願発明の効果は,引用刊行物及び甲7文献の記載と周知技術から当業者が予測

し得る範囲内のものであって,審決の判断に誤りはない。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(手続違背の有無)について

原告は,審決が,平成22年4月19日付けの補正による請求項1〜9のうち,

請求項1のみを本願発明として容易推考性の存否を判断し,請求項2〜9について

審理・判断せずに審判請求を不成立としたことは違法である旨主張する。

しかしながら,特許法は,1つの特許出願に対し,1つの行政処分としての特許
査定又は特許審決がされ,これに基づいて1つの特許が付与され,1つの特許権が

発生するという基本構造を前提としており,請求項ごとに個別に特許が付与される

ものではない。このような構造に基づき,複数の請求項に係る特許出願であっても,

特許出願の分割をしない限り,当該特許出願の全体を一体不可分のものとして特許

査定又は拒絶査定をするほかなく,一部の請求項に係る特許出願について特許査定

をし,他の請求項に係る特許出願について拒絶査定をするというような可分的な取
扱いは予定されていない。そして,このことは,特許法49条51条の文言のほ

か,特許出願の分割という制度の存在自体に照らしても明らかである(最高裁平成

19年(行ヒ)第318号同20年7月10日第一小法廷判決・民集62巻7号1




905頁参照)。

したがって,複数の請求項に係る特許出願について,その一部の請求項に出願を

拒絶すべき事由がある場合には,当該特許出願の全体を拒絶すべきであって,審決

が,本願発明について特許法29条2項の該当性を判断した上で,本件出願全体に

ついて請求不成立としたことに違法はない。
2 本願発明について

本願明細書(甲1,2)によれば,本願発明について次のとおり認められる。

本願発明は,一側の毛先にはテーパーが形成され,他側の毛先にはテーパーが形

成されていない針状毛が植毛された歯ブラシの製造方法に関するものである(段落

【0001】)。先端にテーパーが形成された毛を植毛した歯ブラシに関する従来

技術では,一端又は両端がテーパー状に形成された長い毛を折り曲げ,折り曲げた

部分を歯ブラシのヘッド部に形成された固定ホールにワイヤで固定させていたが

(段落【0002】),ポリエステル系の一般毛を薬品で溶かして針状に加工する

過程で毛の全体の長さ等を正確に調節することが難しく,不良品が大量に発生し,

長さ調節に失敗した不良品を適切に活用できず,また,ワイヤを利用して固定する

際に,堅固に固定されず,毛が歯ブラシから離脱するという問題があった(【00

04】)。そこで,本願発明は,請求項1に記載された方法を採用することによっ
て,製造工程が簡単で,長さ調節に失敗した不良針状毛の相当部分を正常に使用す

ることができ,不良品率が大幅に減少し,製造原価を低下させることができるとい

う効果や,毛の固定にワイヤを使用せずに熱溶着することで一層強く固定できるな

どの効果を奏するものである(段落【0005】,【0007】)。

3 引用発明について

引用刊行物(特表2002−512107号公報)によれば,引用発明について
次のとおり認められる。

引用刊行物には,従来公知のプラスチック製歯ブラシの製造方法として,まず保

持側端部と使用側端部とを有するプラスチック製の剛毛を剛毛束にまとめ,その保




持側端部を保持プレート(交換式歯ブラシにおいて交換が予定される部品)又は歯

ブラシ本体の複数の孔内に挿入し,剛毛の保持側端部を相互に,かつ,保持プレー

ト又は歯ブラシ本体と溶融結合する方法があることを前提として(段落【0001】,

【0002】),そのような製造方法の利点を維持しながら,製造された歯ブラシ

に簡易な方法で抗菌作用を持たせるために(段落【0011】),上記の製造方法
に加えて,剛毛の保持側端部の少なくとも一部に微量作用(微量の金属イオンが存

在することで微生物の増殖が阻止される作用)を有する材料を塗布し,その保持側

端部を溶融結合等することで,微量作用を有する材料をプラスチック内に分布させ

るようにした発明(特許請求の範囲【請求項1】,発明の詳細な説明段落【001

2】,【0017】)が開示されているところ,審決が引用発明として認定したの

は,基本的に,上記の従来公知とされる歯ブラシの製造方法であって,保持側端部

と使用側端部とを有するプラスチック製の剛毛を剛毛束にまとめ,その保持側端部

を保持プレートの複数の孔内に挿入するが,その際に,保持側端部が孔の反対側に

やや突き出る程度に差し込み(段落【0035】),剛毛の保持側端部を相互に,

かつ,保持プレート又は歯ブラシ本体と溶融結合させ,次いで,保持プレートを歯

ブラシ本体の切欠に挿入する(段落【0034】)という歯ブラシの製造方法であ

る。
4 取消事由2(一致点認定の当否・相違点看過の有無)について

(1) 原告は,引用発明の方法で用いる毛はポリアミドに限定されるのに対し,

本願発明の方法で用いる毛はポリエステルであって,樹脂一般に拡張されるもので

はないから,審決が,引用発明の方法で用いる毛をプラスチック製の剛毛であると

認定したことや,樹脂からなる毛であることを一致点であると認定したことに誤り

があり,上記ポリアミドとポリエステルの相違が看過された旨主張する。
しかしながら,引用刊行物において,剛毛はプラスチック製と特定されており,

ポリアミドが明示された【請求項6】及び段落【0020】においても「プラスチ

ック例えばポリアミド」と例示されるにとどまるのであって,引用発明の方法で用




いる毛はポリアミドに限定されるという原告の主張は,前提において誤りである。

技術的観点からみても,引用刊行物によれば,ポリアミドは,抗菌作用を「より強

め」る(段落【0024】)とされているのに対し,引用発明は,引用刊行物の記

載に照らし,抗菌作用を必須としない従来技術の歯ブラシの製造方法を基礎として,

これに抗菌作用と関係のない製造過程を若干付加したものと認められるから,引用
発明に用いる毛をポリアミドに限定すべき理由はない。したがって,審決が,引用

発明の方法で用いる毛をプラスチック製の剛毛であると認定したことに誤りはな

い。

そして,ポリアミドやポリエステルのようなプラスチックが樹脂であることは明

らかであるから,審決が,樹脂からなる毛であることを一致点と認定したことに誤

りはなく,本願発明で用いる毛がポリエステルであり,引用発明で用いる毛がプラ

スチック製であるという相違については,相違点1として認定されているので,相

違点の看過もない。

(2) 原告は,引用発明について,剛毛を保持プレートに挿入することによって

初めて剛毛の両端のうちいずれが使用側かが決定される,あるいは,保持プレート

に固定する工程を開始する前の段階では,剛毛の両端のうちいずれを使用側端部・

保持側端部とするかは任意であるから,保持側・使用側の区別が明確な本願発明と
は異なり,審決が,「歯ブラシ用の毛の使用側とは反対側の端部をヘッドインサー

トに形成された通孔に押し入れた」点を一致点と認定したことは誤りである旨主張

する。

しかしながら,引用刊行物の「…まず保持側端部と使用側端部とを有する剛毛を

特に剛毛束にまとめ,保持側端部を保持プレート…の複数の孔内に挿入…」(段落

【0001】)との記載によれば,引用発明については,工程の当初から「保持側
端部と使用側端部とを有する剛毛」を用いるのであって,剛毛の両端の形状それ自

体は特定されていないとしても,両端が区別され得ることは前提となっていると認

められる。したがって,原告の上記主張は,その前提を欠くものであって,この点




に関する審決の認定に誤りはない。

(3) 原告は,引用発明は,保持プレートが交換可能に固定されるのに対し,本

願発明の接着は取り外し不可能であるから,審決が「ヘッドインサートを歯ブラシ

本体のヘッド部に固定させる」点を一致点として認定したことは誤りであると主張

する。
しかしながら,引用発明は,保持プレートを歯ブラシ本体の切欠に挿入する,す

なわち,交換可能に固定するものであって,「固定」の範囲では本願発明と共通す

るのであるから,この点に関する審決の認定に誤りはない。なお,原告の主張に係

る,引用発明は交換可能に固定されるのに対し,本願発明は接着されるという相違

については,相違点2として認定されており,審決に相違点の看過はない。

5 取消事由3(相違点1の認定の当否)について

原告は,審決が,相違点1について,引用発明の歯ブラシ用の毛の樹脂材質,構

造,その形成過程が特定されていないと認定したことについて,引用発明の樹脂は,

取消事由2(1)で主張したように,ポリアミドに限定されるし,形状は,繊維状物を

切断するのみの毛とするのが自然であって,特定されていないとはいえず,形成過

程も,針状毛とする工程が記載されていないから,針状毛とする過程を有していな

いのであって,審決の上記認定は誤りであると主張する。
しかしながら,引用刊行物をみても,剛毛の樹脂材質,構造,形成過程を特定す

る記載は認められないのであって(引用発明の樹脂がポリアミドに限定されないこ

とは,上記4(1)で説示したとおりである。),上記の点に関する審決の認定に誤り

はない。

6 取消事由4(相違点1に関する判断の当否)について

(1) 原告は,甲5のCD−ROM(実願平4−91801号(実開平6−50
532号))又は甲6公報(特開2001−211935号)に開示された毛は,

他端の形状が特定されておらず,一端の毛先だけがテーパー状であるとはいえない

ので,審決が,甲5のCD−ROM又は甲6公報から,「使用側端部を針状とした




毛を備える歯ブラシを,一側の毛先だけテーパー状に先鋭化された針状毛から製造

する」技術を周知である(周知技術1)と認定したことは誤りである旨主張する。

しかしながら,甲5のCD−ROMには,「…一端にのみテーパー部を有する…」

(段落【0007】)と明示されており,当該文献に係る原告の主張は誤りである。

また,甲6公報についても,「…一端をテーパー状に加工した多数のフィラメント
を束ね,他端を熱溶着や接着などの方法で固着する…」(段落【0006】)と記

載され,【図2】にも使用側端部のみがテーパー状になったフィラメントが図示さ

れているところ,他端の形状が特定されていないとしても,技術常識に照らし,熱

溶着等が予定される他端にまでテーパーを形成することは不要であり,むしろコス

トアップにもつながるような余計な工程であって,当業者は全く想定しないという

べきであるから,上記の記載や図に基づいて一側の毛先だけテーパー状とする技術

を周知であると認定したことが誤りであるとはいえない。

また,原告は,審決は2件の文献を掲げるだけであり,上記の技術を周知である

と認定することは誤りである旨主張するが,使用側端部がテーパー加工された歯ブ

ラシ自体は甲5のCD−ROM,甲6公報,甲8公報(特開平11−290134

号)に記載されるように周知であり,その際に,テーパーは剛毛の使用側となる一

方の端部にのみ設ければよく,熱溶着する他端に設ける必要がないことは,上記説
示のとおり,当業者が当然に理解することであるから,審決が上記技術を周知であ

ると認定したことに誤りはない。

(2) 周知技術3について,甲5のCD−ROMには,テーパー部を有する刷毛

がポリエステル等の合成樹脂から構成されることが開示され(段落【0010】),

甲6公報にも,テーパー状に加工したフィラメントの材質として,ポリエステルを

用いることが可能であることが開示されている(段落【0006】)上,本願明細
書にも,ポリエステル系の一般毛を針状に加工する方法が従来技術として記載され

ている(段落【0004】)のであるから,審決が甲5のCD−ROM及び甲6公

報を例示して,歯ブラシ用の毛をポリエステル樹脂で形成することは周知であると




認定したことに誤りはない。

原告は,本願発明について,一側の毛先をテーパー状に加工するために,多数の

材料の中からポリエステルを選択したことが特徴である旨主張するが,上記のとお

り,本願明細書には,従来技術としてポリエステル系の毛を針状に加工する方法が

記載されているのであって,原告の上記主張は採用することはできない。
また,原告は,甲5のCD−ROMや甲6公報には,溶着部分に鍔部を設けた技

術が開示されているので,引用発明と組み合わせることは容易でない旨主張するが,

溶着部分に鍔部を設けるかどうかと,毛の材料としてポリエステルを採用するかど

うかの間に技術的な関連性はない。そして,当業者が,引用発明の方法で歯ブラシ

を製造しようとする際に,毛の材料として周知のポリエステルを採用し得ることは

当然に理解することであるから,引用発明の方法に周知技術3を適用して,歯ブラ

シの毛をポリエステル樹脂から形成するようにすることは,容易になし得ることで

ある。

(3) 原告は,審決が,甲8公報及び甲9公報(実公昭61−10495号)か

ら,ポリエステル樹脂で形成された毛を強酸又は強アルカリ溶液に浸漬させて毛先

をテーパー状に先鋭化させることが周知である(周知技術4)と認定したことにつ

いて,上記文献に開示された発明は,毛を折り曲げて植毛することを前提とした発
明であり,そこから「毛の先端を針状にする工程」のみを取り出すことは後知恵で

あると主張する。

甲8公報や甲9公報に記載されるような歯ブラシの製造方法は複数の工程を組み

合わせたものであるが,このうち個々の工程を個別に取り出すことができるか否か

は,当業者が技術常識に基づいて判断することができるものである。そして,審決

が周知とした「先端を針状とする工程」は,テーパー加工された毛を製造するとい
う独立した工程であって,製造された毛を植毛する工程とは技術的に別個の工程で

あるから,当業者は,これを独立の工程として把握することが可能である。したが

って,そのような独立した工程を周知技術として認定したとしても,これをもって




後知恵であるということはできず,原告の上記主張は採用することができない。

なお,原告は,審決が掲げた文献は2件のみであって,上記の技術が周知である

とはいえない旨主張するが,甲9公報の頒布日が本願優先日の16年以上前である

ことや,本願明細書にも,従来技術として,ポリエステル系の一般毛を針状にする

ために毛の先端を苛性ソーダや硫酸により処理する方法が記載されている(段落【0
004】)ことに照らし,審決の認定に誤りがあるとはいえない。

(4) 原告は,引用発明の剛毛がポリアミドからなることを前提として,これを

ポリエステルとすることは当業者にとって容易ではない旨主張するが,上記4(1)

で説示したとおり,原告の主張は前提を欠く。

以上のとおり,取消事由4は理由がない。

7 取消事由5(相違点2に関する判断の当否)について

引用刊行物には,従来技術として,保持プレートを用いるなどした交換式の歯ブ

ラシの製造方法が複数あり,いずれも実用化されていることが開示されており(段

落【0001】〜【0003】),また,甲6公報及び甲7文献(欧州特許出願公

開第972464号)にも,歯ブラシの毛を本体とは別部材に挿入するなどし,こ

の別部材を歯ブラシ本体と溶着等の方法で固定する製造方法が開示されている(甲

6公報の段落【0009】,【図2】,甲7文献の段落【0042】,Fig27)
ことに照らすと,交換式であるかどうかにかかわらず,一般的に,歯ブラシの製造

方法として,保持プレート等の歯ブラシ本体とは別部材に毛を挿入するなどし,そ

の別部材を歯ブラシ本体に固定する方法は周知であったと認められる。他方で,毛

が磨り減った場合に歯ブラシ全体を使い捨てることは一般常識であって,歯ブラシ

全体の使い捨てを前提として歯ブラシを製造することも当業者に周知であったとい

うべきであるところ,引用刊行物にも,剛毛を保持プレートに設けた孔内に溶着す
製造方法のほか,歯ブラシ本体に設けた孔内に溶着する製造方法が開示されてお

り(段落【0001】,【0030】),歯ブラシを交換式とはせずに,全体を使

い捨てることについての示唆があったと認められる。




そうであれば,当業者が,歯ブラシ本体とは別部材を用いる引用発明の歯ブラシ

製造方法について,これを交換式に限定することなく,「保持プレートを歯ブラ

シ本体の切欠内に交換可能に固定する」ことに替えて,接着等の方法により使い捨

て歯ブラシの形態とすることは,適宜なし得る事項であったというべきである。

なお,甲7文献には,繊維束(歯ブラシの毛)を膠剤等によりホルダに溶合し,
そのホルダをブラシ本体に溶合する技術が開示されており(段落【0042】,F

ig.27),歯ブラシの毛が挿入された部材を歯ブラシ本体に溶着する技術は公

知であったと認められる。そして,甲7文献は,拒絶理由通知(甲3)に,相違点

2に係る本願発明の構成が容易であることを示す文献として記載されているのであ

るから,仮に,甲7文献に記載された方法が周知であるとまではいえないとしても,

これを引用発明に適用して,相違点2に係る本願発明の構成とすることは,当業者

が容易になし得ることであって,審決の結論に誤りはない。

以上のとおり,取消事由5は理由がない。

8 取消事由6(作用効果に関する判断の当否)について

原告は,本願発明の構成を採用することにより,製造工程が簡単である,不良率

が低下する,製造コストを低減できる,植毛される毛のパターンと数量を調節可能

である,毛をより強固に固定できる,長さ調節に失敗した不良針状毛も相当な部分
正常に使用できるなどの効果を奏する旨主張する。

しかしながら,これらの効果は,毛の両端をテーパー状に形成し,その毛を折り

曲げて植毛する従来技術の製造方法に対し,毛を折り曲げずに,テーパー状に形成

されていない一端を溶着させる製造方法を採用することによって奏される効果であ

ると認められるのであって,引用発明も,毛を折り曲げずに,その一端を溶着させ

製造方法であるから,引用発明との関係で格別の効果を奏するものとは認められ
ない。

したがって,取消事由6は理由がない。





第6 結論

以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官

塩 月 秀 平




裁判官

古 谷 健 二 郎




裁判官

田 邉 実






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