審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成23行ケ10140審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10282審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10021審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成22行ケ10405審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
平成23行ケ10047審決取消請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 発明特定事項 / 技術常識 / 優先権 / 着想 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 拒絶査定不服審判 / 拒絶査定 / 拒絶理由通知 / 新規事項追加(新規事項の追加) / 請求の範囲 / 変更 / 独立特許要件 / |
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事件 |
平成
23年
(行ケ)
10139号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2011/12/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成23年12月8日判決言渡 同日原本受領 裁判所書記官 平成23年(行ケ)第10139号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成23年11月24日 判 決 原 告 テトラ ラバル ホールディングス アンド ファイナンス エス エイ 同訴訟代理人弁理士 清 水 正 三 被 告 特 許 庁 長 官 同 指 定 代 理 人 鈴 木 由 紀 夫 一 ノ 瀬 薫 須 藤 康 洋 板 谷 玲 子 主 文 1 特許庁が不服2009−8434号事件について 平成22年12月14日にした審決を取り消す。 2 訴訟費用は被告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 主文同旨 第2 事案の概要 本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,特許請求の範囲の記載を下記 2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本件補正 を却下した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その 理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取 消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 1 (1) 原告は,平成12年1月25日,発明の名称を「紙容器用積層包材」とす る特許を出願したが(特願平2000−595898。優先権主張日:平成11年 1月27日,同月28日及び同月29日(日本国)。甲1),平成21年1月16日 付けで拒絶査定を受けた(甲4)ので,これに対する不服の審判を請求し,同年5 月16日,手続補正をした(以下「本件補正」という。甲5)。 (2) 特許庁は,前記請求を不服2009−8434号事件として審理し,平成 22年12月14日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たな い。」との本件審決をし,その謄本は,同月27日,原告に送達された。 2 本件補正前後の特許請求の範囲の記載 (1) 本件審決が対象とした本件補正前の特許請求の範囲の記載(ただし,平成 20年10月1日付け手続補正書(甲3)による補正後のものである。)は,次の とおりである。以下,本件補正前の特許請求の範囲に属する発明を「本願発明1」 ないし「本願発明6」といい,これらを併せて「本願発明」というほか,本件の出 願当初の明細書(甲1)を「当初明細書」,本願発明に係る明細書(甲3)を「本 願明細書」という。なお,以下,「/」は,原文における改行箇所を示す。 【請求項1】最外熱可塑性材料層,紙基材層,バリア層,最内熱可塑性材料層の各 構成層を少なくとも含み,これらの各層が上記の順序で積層されてからなる紙容器 用包材であって,/該最内熱可塑性材料層が,押出しラミネーション法により積層 され,狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを少なくとも含有し,0. 905〜0.915の平均密度,88〜103℃のピーク融点,15〜17のメル トフローインデックス,1.4〜1.6のスウェリング率(SR)及び20〜50 μmの層厚の特性パラメータを有することを特徴とする紙容器用包材 【請求項2】最外熱可塑性材料層が,押出しラミネーション法により積層され,狭 い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを少なくとも含有し,0.905〜 0.915の平均密度,88〜103℃のピーク融点,15〜17のメルトフロー インデックス,1.4〜1.6のスウェリング率(SR)及び10〜25μmの層 2 厚の特性パラメータを有する,請求の範囲第1項記載の紙容器用包材 【請求項3】該バリア層と最内熱可塑性材料層との間の接着剤層が,押出しラミネ ーション法により積層され,狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを少 なくとも含有し,0.905〜0.915の平均密度,88〜103℃のピーク融 点,15〜17のメルトフローインデックス,1.4〜1.6のスウェリング率 (SR)及び2〜15μmの層厚の特性パラメータを有する,請求の範囲第1項記 載の紙容器用包材 【請求項4】該紙基材層とバリア層との間の接着性熱可塑性材料層が,押出しラミ ネーション法により積層され,狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを 少なくとも含有し,0.905〜0.915の平均密度,88〜103℃のピーク 融点,15〜17のメルトフローインデックス,1.4〜1.6のスウェリング率 (SR)及び10〜25μmの層厚の特性パラメータを有する,請求の範囲第1項 記載の紙容器用包材 【請求項5】最外熱可塑性材料層,紙基材層,バリア層,最内熱可塑性材料層の各 構成層を少なくとも含み,これらの各層が上記の順序で積層されてからなる包材よ り形成された紙包装容器であって,/該最内熱可塑性材料層が,押出しラミネーシ ョン法により積層され,狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを少なく とも含有し,0.905〜0.915の平均密度,88〜103℃のピーク融点, 15〜17のメルトフローインデックス,1.4〜1.6のスウェリング率(S R)及び20〜50μmの層厚の特性パラメータを有し,/該包材の2の端面間に ある該最内熱可塑性材料層の不連続区間を液密用にカバーするストリップテープの 少なくともシール面層が,狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを少な くとも含有し,0.900〜0.915の平均密度,88〜103℃のピーク融点, 5〜20のメルトフローインデックス,1.4〜1.6のスウェリング率(SR) 及び20〜100μmの層厚の特性パラメータを有することを特徴とする紙包装容 器 3 【請求項6】外側熱可塑性材料層,紙基材層,内側熱可塑性材料層の各構成層を少 なくとも含む包材により形成された紙包装容器であって,/該内側熱可塑性材料層 が,押出しラミネーション法により積層され,線形低密度ポリエチレンを少なくと も含有し,0.910〜0.930の平均密度,示差走査熱量測定法による11 5℃以上のピーク融点,10〜11のメルトフローインデックス,1.4〜1.6 のスウェリング率の特性パラメータを有することを特徴とする紙包装容器 (2) 本件補正後の特許請求の範囲の記載は,次のとおりであるが,下線部分は, 当裁判所が便宜上付した本件補正による補正箇所である。以下,本件補正後の特許 請求の範囲に属する発明を「本件補正発明1」ないし「本件補正発明6」といい, これらを併せて「本件補正発明」というほか,本件補正発明に係る明細書(甲5) を,「本件補正明細書」という。 【請求項1】最外熱可塑性材料層,紙基材層,バリア層,最内熱可塑性材料層の各 構成層を少なくとも含み,これらの各層が上記の順序で積層されてからなる液体食 品用紙容器用包材であって,/該最内熱可塑性材料層が,押出しラミネーション法 により積層され,メタロセン触媒で重合して得られた狭い分子量分布を有する線形 低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト触媒で重合して得られた低密 度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマーからなり,0.905〜0. 915の平均密度,88〜103℃のピーク融点,15〜17のメルトフローイン デックス,1.4〜1.6のスウェリング率(SR)及び20〜30μmの層厚の 特性パラメータを有することを特徴とする液体食品用紙容器用包材 【請求項2】最外熱可塑性材料層が,押出しラミネーション法により積層され,該 ブレンドポリマーからなり,0.905〜0.915の平均密度,88〜103℃ のピーク融点,15〜17のメルトフローインデックス,1.4〜1.6のスウェ リング率(SR)及び10〜25μmの層厚の特性パラメータを有する,請求の範 囲第1項記載の紙容器用包材 【請求項3】該バリア層と最内熱可塑性材料層との間の接着剤層が,押出しラミネ 4 ーション法により積層され,該ブレンドポリマーからなり,0.905〜0.91 5の平均密度,88〜103℃のピーク融点,15〜17のメルトフローインデッ クス,1.4〜1.6のスウェリング率(SR)及び2〜15μmの層厚の特性パ ラメータを有する,請求の範囲第1項記載の紙容器用包材 【請求項4】該紙基材層とバリア層との間の接着性熱可塑性材料層が,押出しラミ ネーション法により積層され,該ブレンドポリマーからなり,0.905〜0.9 15の平均密度,88〜103℃のピーク融点,15〜17のメルトフローインデ ックス,1.4〜1.6のスウェリング率(SR)及び10〜25μmの層厚の特 性パラメータを有する,請求の範囲第1項記載の紙容器用包材 【請求項5】最外熱可塑性材料層,紙基材層,バリア層,最内熱可塑性材料層の各 構成層を少なくとも含み,これらの各層が上記の順序で積層されてからなる包材よ り形成された紙包装容器であって,/該最内熱可塑性材料層が,押出しラミネーシ ョン法により積層され,メタロセン触媒で重合して得られた狭い分子量分布を有す る線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト触媒で重合して得られ た低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマーからなり,0.90 5〜0.915の平均密度,88〜103℃のピーク融点,15〜17のメルトフ ローインデックス,1.4〜1.6のスウェリング率(SR)及び20〜30μm の層厚の特性パラメータを有し,/該包材の2の端面間にある該最内熱可塑性材料 層の不連続区間を液密用にカバーするストリップテープの少なくともシール面層が, メタロセン触媒で重合して得られた狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレ ン55〜75重量%とマルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレン4 5〜25重量%とのブレンドポリマーからなり,0.900〜0.915の平均密 度,88〜103℃のピーク融点,5〜20のメルトフローインデックス,1.4 〜1.6のスウェリング率(SR)及び20〜100μmの層厚の特性パラメータ を有することを特徴とする液体食品用紙包装容器 【請求項6】外側熱可塑性材料層,紙基材層,内側熱可塑性材料層の各構成層を少 5 なくとも含む包材により形成された紙包装容器であって,/該内側熱可塑性材料層 が,押出しラミネーション法により積層され,メタロセン触媒で重合して得られた 狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト 触媒で重合して得られた低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマ ーからなり,0.910〜0.930の平均密度,示差走査熱量測定法による11 5℃以上のピーク融点,10〜11のメルトフローインデックス,1.4〜1.6 のスウェリング率及び35μmの層厚の特性パラメータを有することを特徴とする 液体食品用紙包装容器 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,本件補正のうち本件補正発明1ないし4に 係る部分が,当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものとはいえないか ら特許法17条の2第3項に違反し,また,本件補正発明6は下記アの引用例1に 記載された発明(以下「引用発明1」という。)から容易に想到し得たから特許法 29条2項,平成18年法律第55号による改正前の特許法17条の2第5項にお いて準用する同法126条5項に違反して独立して特許を受けることができないも のであるから,本件補正は却下すべきものであり,さらに,本願発明6は下記イの 引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)に基づいて容易に発明 をすることができたものであるから,本願発明は特許法29条2項の規定により特 許を受けることができない,というものである。 ア 引用例1:特開平9−193323号公報(甲13) イ 引用例2:特開平7−148895号公報(甲8) (2) なお,本件審決が認定した引用発明1並びに本件補正発明6と引用発明1 との一致点及び相違点1は,以下のとおりである。 ア 引用発明1:内容物に接する側から順に,ブレンド樹脂層,ウレタン系接着 剤層,二軸延伸PET層,ウレタン系接着剤層,アルミニウム箔層,エチレンーメ タクリル酸共重合体層,紙層,そして,最外層である低密度ポリエチレン層が,こ 6 の順で積層された液体食品用容器であって,該ブレンド樹脂層が,押出しラミネー ション法により積層され,メタロセン触媒で重合して得られたエチレン−αオレフ ィン共重合体を70〜99重量%とマルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポ リエチレンを1〜30重量%とのブレンドポリマーからなり,20μm〜80μm 程度の積層の特性パラメータを有する,液体食品用容器 イ 一致点:外側熱可塑性材料層,紙基材層,内側熱可塑性材料層の各構成層を 少なくとも含む包材より形成された紙包装容器であって,該内側熱可塑性材料層が, 押出しラミネーション法により積層され,メタロセン触媒で重合して得られた狭い 分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンとマルチサイト触媒で重合して得られ た低密度ポリエチレンとのブレンドポリマーからなる,液体食品用紙包装容器 ウ 相違点1:本件補正発明6は,「内側熱可塑性材料層が,メタロセン触媒で 重合して得られた線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト触媒で 重合して得られた低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマーから なり,0.910〜0.930の平均密度,示差走査熱量測定法による115℃以 上のピーク融点,10〜11のメルトフローインデックス,1.4〜1.6のスウ ェリング率及び35μmの層厚の特性パラメータを有する」点 (3) また,本件審決が認定した引用発明2並びに本願発明6と引用発明2との 一致点及び相違点2は,以下のとおりである。 ア 引用発明2:最外層のポリエチレン層,紙基材,シングルサイト触媒を用い て得られる最内層の線形低密度ポリエチレンであってエチレン−αオレフィン共重 合体層からなる積層体により形成された紙容器であって,該最内層が,押出しラミ ネーション法により積層され,上記エチレン−αオレフィン共重合体が0.89〜 0.95の密度,0.1〜50のメルトフローインデックスを有する,紙包装容器 イ 一致点:外側熱可塑性材料層,紙基材層,内側熱可塑性材料層の各構成層を 少なくとも含む包材より形成された紙包装容器であって,該内側熱可塑性材料層が, 押出しラミネーション法により積層され,線形低密度ポリエチレンを少なくとも含 7 有する,紙包装容器 ウ 相違点2:本件補正発明6は,「内側熱可塑性材料層が,0.910〜0. 930の平均密度,示差走査熱量測定法による115℃以上のピーク融点,10〜 11のメルトフローインデックス,1.4〜1.6のスウェリング率の特性パラメ ータを有する」点 4 取消事由 (1) 新規事項の追加禁止要件に係る判断の誤り(取消事由1) (2) 引用発明1に基づく本件補正発明6の容易想到性に係る判断の誤り(取消 事由2) (3) 引用発明2に基づく本願発明6の容易想到性に係る判断の誤り(取消事由 3) 第3 当事者の主張 1 取消事由1(新規事項の追加禁止要件に係る判断の誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,本件補正について,前記本件補正発明1に関する特許請求の 範囲の記載にあるようなスウェリング率等の特性パラメータを持つ上に,さらに, 15ないし17のメルトフローインデックスの特性パラメータを持つ「最内熱可塑 性材料層」を有する液体食品用紙容器用包材に係る本件補正発明1が,当初明細書 に記載されていたとする理由は見当たらず,本件補正が,特許法17条の2第3項 の規定に違反する旨を説示する。 (2) しかしながら,メルトフローインデックスは,熱可塑性プラスチックの種 類,重合度,ブレンド,純度又は配合物の種類等にかかわりなく,熱可塑性プラス チックの流動性を示す尺度であって,補正の前後で最内熱可塑性材料層の流動性と いう技術的事項には何ら変更はなく,新たな技術的事項を導入するものでもないと ころ,「15〜17のメルトフローインデックス」は,本件補正の前後で変更され ていない(なお,「15〜17のメルトフローインデックス」は,拒絶査定前の平 8 成20年10月1日付け手続補正書(甲3)により補正された内容であるが,平成 21年1月16日付け拒絶査定(甲4)では,拒絶理由として指摘されていない。。 ) (3) 「15〜17のメルトフローインデックス」のパラメータは,開発の経緯 並びに発明の効果及び機能から,シール層が持つべきパラメータであって,当該シ ール層は,特許請求の範囲の記載においては,「最内熱可塑性材料層」として特定 される。 他方,本件出願当時の技術常識によれば,最外熱可塑性材料層,紙基材層,バリ ア層及び最内熱可塑性材料層を少なくとも含む包材から液体食品用紙容器を成形す る方法には,封筒重ね(甲15【0018】)と,合掌重ね(甲15【0016】) とがあるが,封筒重ねは,包材の両端でその包材の外側面と内側面とが重ね合わさ れるから,外側層も,内側層と同様にシール性を評価するためのシール層と広く認 識され,合掌重ねは,チューブ状包材の内側面同士が重ね合わされるもので,単に 加熱するのみならず,強く加圧して熱可塑性材料内側層同士を溶融させて押し,ま た,押し流して横線シールするものであると認識されていた(甲16【0010】, 甲17【0022】【0025】,甲18【0024】。そして,当初明細書の実施 ) 例1−2及び2−2には,17のメルトフローインデックスの最外熱可塑性材料層 が用いられた結果,縦線シール(外側層)のシール性が向上した旨の記載があるか ら,封筒重ねに関する上記技術常識によれば,当初明細書の当該記載は,内側層の シール性向上を示していることになる。また,当初明細書の実施例1−1には,1 5のメルトフローインデックスの接着剤層が内側層として用いられることによる横 線シールの性能向上について記載があるから,合掌重ねに関する上記技術常識によ れば,当初明細書の当該記載は,内側層のシール性向上を示していることになる。 以上のとおり,当初明細書にはメルトフローインデックスについて記載がある。 (4) よって,本件審決は,新規事項に関する本件補正についての判断を誤るも のである。 〔被告の主張〕 9 (1) 本件補正が当初明細書に記載した事項の範囲内においてしたものか否か (特許法17条の2第3項)は,本件補正発明が当初明細書に記載されているか否 かにより判断されるべきであるから,本件補正の前後において最内熱可塑性材料層 が「15〜17のメルトフローインデックス」を有する点で変更がないからといっ て,本件補正が特許法17条の2第3項に違反しないということはできない。 むしろ,「15〜17のメルトフローインデックス」との発明特定事項は,本件 補正前には,最内熱可塑性材料層が「狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチ レンを少なくとも含有し」ているものを対象としていたのに対し,本件補正後には, 最内熱可塑性材料層が「メタロセン触媒で重合して得られた狭い分子量分布を有す る線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト触媒で重合して得られ た低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマーからな」るものを対 象としているから,本件補正前後で実質的に変更されており,かつ,原告は,後者 が当初明細書に記載されていることを指摘していない(なお,審査官は,拒絶査定 時に拒絶理由通知後に発見された新たな拒絶理由について指摘しなければならない ものではない。。 ) (2) ある物質のメルトフローインデックスは,熱可塑性材料物質の流動性に係 る指標であるから,その物質を構成する熱可塑性材料と密接不可分の関係にあると ころ(乙1),本件補正発明1の最内熱可塑性材料層は,「メタロセン触媒で重合し て得られた狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマ ルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレ ンドポリマーからな」っており,かつ,それが「15〜17のメルトフローインデ ックス」である。 しかるに,当初明細書中で「15」又は「17」のメルトフローインデックスに ついて触れる箇所は,実施例1−1,同1−2,同2−1及び同2−2に関する部 分だけであって,しかも,これらは,本件補正発明1に関するものではないし, 「メタロセン触媒で重合して得られた狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチ 10 レン55〜75重量%とマルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレン 45〜25重量%とのブレンドポリマーからな」るものに関するものでもない。 (3) よって,原告の主張は,失当である。 2 取消事由2(引用発明1に基づく本件補正発明6の容易想到性に係る判断の 誤り)について 〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,当業者が相違点1を容易に設計し得るものであり,格別の効 果も見ることができない旨を説示する。 (2) しかしながら,本件補正発明においては,平均密度,ピーク融点,メルト フローインデックス,スウェリング率及び層厚の特性パラメータが有機的に連動・ 結合してそれらの最適化を図ることによって開発され,これらのパラメータのうち, スウェリング率とメルトフローインデックスとに,特にスウェリング率により注視 することに特徴がある(本件補正明細書【0068】〜【0073】,甲14)。 しかるところ,本件審決においては,本願発明において特徴的なパラメータであ るスウェリング率に対する引用文献が示されておらず,また,スウェリング率とメ ルトフローインデックスとの組合せも示されていないばかりか,押出しラミネーシ ョンで,高速でかつネックインなく,良好に製造できる押出積層特性とコンバーテ ィング特性についても記載がない。 なお「コンバーティング」とは,紙や板紙などの連続した材料(ウェブ基材)に コーティングやラミネーション(積層)などの加工を施して,その材料に新たな価 値(機能)を付与することをいい,「コンバーティング特性」等の用語は,液体食 品用紙容器の分野では,本件出願当時の技術常識として用いられていた(甲19 【0032】。押出積層特性も,包材を製造する現場において,紙基材層面上に溶 ) 融した熱可塑性材料を押し出して新たな価値(機能)を付与することを意味するも のとして,本件出願当時の技術常識であった。 (3) よって,本件審決の前記判断は,誤りである。 11 〔被告の主張〕 (1) 本件補正明細書の記載(【0046】)によれば,そこに記載の「スウェリ ング率」は,熱可塑性材料の溶融物の粘弾性的性質に係る特性に関するものであっ て,当該物質の押出試験をした際の粘弾性的性質の程度を数値化したものであるが, 引用発明1のブレンド樹脂層のように,押出しにより形成(積層)された樹脂層は, 何らかのスウェリング率を有するものであるから(乙1〜3),全く新たに発見さ れ又は作り出された性質に関する指標というものではない(乙4〜9)。 そして,ある物質のスウェリング率は,これを構成する樹脂やそれ以外の添加物 等に影響されることが明らかであって,特に樹脂の種類や製造過程等を工夫するこ とや,あるいは樹脂成分を含む構成成分の種類や成分比を工夫することで適宜のス ウェリング率とすることは,本件優先権主張日前における常套手段であった(乙4 〜9)。しかも,本件補正発明6が,内側熱可塑性材料層が「1.4〜1.6のス ウェリング率(SR)」であると特定することについては,課題との関係で技術的 意義が見出せない(本件補正明細書【0046】。 ) したがって,引用発明1のブレンド樹脂層のスウェリング率を1.4ないし1. 6とすることは,引用例1にその旨の記載がなくても当業者が容易に設計し得るこ とであり,これと同旨の本件審決の判断に誤りはない。 (2) しかも,本件補正発明の効果は,押出積層特性及びそれによるコンバーテ ィング特性における良好な性能であるとされているが(本件補正明細書【010 4】,本件補正明細書及び甲14を参照しても,これらの特性がいかなる意味内容 ) であるのかが理解できない。したがって,本件補正発明6が内側熱可塑性材料層が 「1.4〜1.6のスウェリング率(SR)」であると特定することによる効果も, 裏付けがない。 3 取消事由3(引用発明2に基づく本願発明6の容易想到性に係る判断の誤 り)について 〔原告の主張〕 12 「本件補正発明」及び「本件補正明細書」をそれぞれ「本願発明」及び「本願明 細書」と読み替えるほか,前記取消事由2〔原告の主張〕と同じである。 〔被告の主張〕 「本件補正明細書」を「本願明細書」と読み替えるほか,前記取消事由2〔被告 の主張〕と同じである。 第4 当裁判所の判断 1 取消事由1(新規事項の追加禁止要件に係る判断の誤り)について (1) 本件補正について 特許法17条の2第3項は,「第1項の規定により明細書,特許請求の範囲又は 図面について補正するときは,誤訳訂正書を提出してする場合を除き,願書に最初 に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面…に記載した事項の範囲内においてし なければならない。」と規定しているところ,ここでいう「明細書又は図面に記載 した事項」とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することに より導かれる技術的事項であり,補正が,このようにして導かれる技術的事項との 関係において,新たな技術的事項を導入しないものであるときは,当該補正は, 「明細書又は図面に記載した事項の範囲内において」するものということができる。 そして,本願発明1に対する本件補正は,その特許請求の範囲の記載について, @本願発明1ないし4の紙容器包材及び本願発明5及び6の紙包装容器がいずれも 「液体食品用」である点を特定し,A本願発明の最内熱可塑性材料層等の樹脂層を 構成する狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンが「メタロセン触媒で重 合して得られた」ものである点を特定し,B本願発明の最内熱可塑性材料層等の樹 脂層の構成について「線形低密度ポリエチレンを少なくとも含有」するとの点を, 「線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト触媒で重合して得られ た低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマー」であると特定し, C本願発明1及び5の最内熱可塑性材料層の層厚が「20〜50μm」であるとの 点を,「20〜30μm」であると特定し,D本願発明6の内側熱可塑性材料層の 13 層厚を35μmと特定したものである。 本件審決は,スウェリング率等の特性パラメータを持つ上に,更に,15ないし 17のメルトフローインデックスの特性パラメータを持つ樹脂層を有する液体食品 用紙容器用包材に係る本件補正発明1ないし4が,当初明細書に記載されていたと する理由が見当たらない旨を説示して,本件補正が当初明細書に記載した事項の範 囲内においてしたものとはいえないと判断している。したがって,本件補正の適否 は,上記の特定のうちA及びBが,当初明細書の全ての記載を総合することにより 導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものである か否かにより判断されることになる。 (2) 当初明細書の記載について そこで,当初明細書をみると,そこにはおおむね次のとおりの記載がある。 ア 「この発明は,液体食品の充填包装に適した紙容器用包材に関する。(1頁 」 5行) イ 飲料等の包装容器は,包材を多角柱状等に折りたたみ,飲料等を充填して上 部の最内層(熱可塑性材料層)を,他方の最内層又は最外層とヒートシールされる。 従来の紙包装容器製品に用いられる包装積層体は,高圧法低密度ポリエチレン (LDPE)を最内層及び最外層に配置した上で,その間に印刷インキ層や紙基材 等を層状に重ね合わせて形成されてきたが,最内層のLDPEに含まれる低分子成 分が紙容器内の内容物に移行し,長期に保存する場合に味覚が変化するおそれがあ る上,チーグラー触媒を用いて得られるエチレン−αオレフィン共重合体では,シ ール温度が高く加工性に劣り,それを改善するために滑剤を添加するとそれが内容 物に移行してその味覚を低下させるという問題があった。最内層に線形低密度ポリ エチレン(LLDPE)を使用する紙容器は,衝撃強度等に非常に優れているが, ヒートシール開始温度が多少高いためコンバーティング特性に劣るといわれており, 最内層にメタロセン触媒を用いて重合したエチレン−αオレフィン共重合体(mL LDPE)は,低温シール性,フィルムの加工性及び分子量分布が狭いことから衛 14 生的に良好であるが,必ずしも全てのmLLPDEがヒートシールして得られた紙 容器からの内容物の漏れをより少なくすることができず,また,包材製造の際に必 要な押出積層特性及びそれによるコンバーティング特性において良好な性能を示し ていない。そして,飲料等を充填・包装(ヒートシール)する際に,押出ラミネー トにおける押出熱溶融樹脂の表面が酸化物や残留液体食品により汚染されて良好な シールを得ることが難しいばかりか,従来の包材における熱接着性樹脂は,必ずし も広い範囲のシール特性を有していないので,充填内容物の温度に影響を受けて良 好なシールが得られていない。さらに,上記の汎用の熱可塑性材料は,ヒートシー ルの際に溶融して一部層内にピンホール等が生じてシール強度が著しく減少したり, 液体内容物が漏れるおそれがあるが,熱可塑性材料の層を厚くしてこれを防ごうと すると,容器のコストが上昇する不都合がある。 ウ この発明は,包材製造の際に必要な押出積層特性及びそれによるコンバーテ ィング特性において良好な性能を有し,包材の製造が容易であり,迅速にヒートシ ールすることができ,より強靱なシール強度を可能にし,かつ,充填内容物の温度 に影響を受けず良好なシールが得られ,保香性又は品質保持性を有する紙容器を提 供することができる,液体食品の充填包装のための紙容器用包材を提供することを 目的とする。また,この発明は,シールする際に熱可塑性材料層にピンホール等が 生じず,液体内容物の漏れがなく,低コストの紙容器とすることができる紙容器用 包材を提供することも目的とする。 エ 本願発明の好ましい態様として,それぞれに平均密度,ピーク要点,メルト フローインデックス,スウェリング率及び層厚の特性パラメータがあるが,本願発 明1ないし4の狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを少なくとも含有 する層のメルトフローインデックスは,いずれも5ないし20であり,本願発明1 及び5の最内熱可塑性材料層は,20ないし50μm,好ましくは20ないし30 μmであり,本願発明6の層厚は,実施例3−1ないし3−3では35μmである。 オ (本願発明6の構成についての記載に引き続き,段落を改めた上で)「この 15 ような最内熱可塑性材料層としては,例えば,メタロセン触媒を用いて重合した狭 い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレン(mLLPDE)を少なくとも含有 するブレンドポリマーがある。このmLLPDEとしては,…メタロセン触媒を使 用して重合してなるエチレン−α・オレフィン共重合体を使用することができる。 メタロセン触媒は,現行の触媒が,活性点が不均一でマルチサイト触媒と呼ばれて いるのに対し,活性点が均一であることからシングルサイト触媒とも呼ばれている ものである。(14頁9行〜16行) 」 カ 「この発明において上記特性パラメータを示す限り,mLLPDE樹脂以外 の樹脂を使用することができる。また,mLLPDE単独では上記特性パラメータ を得ることが難しいので,他のポリマー成分をブレンドすることができる。/ここ で「他のポリマー」とは,例えばポリエチレン…などの熱可塑性樹脂であり,従来 から用いられていた低密度ポリエチレン(LDPE)の他に,内容物に対する耐性 (耐油性,耐酸性,耐浸透性など)に優れた線状低密度ポリエチレン(LLDP E)…を含む共押出し樹脂などである。(14頁23行〜15頁6行) 」 キ 「このような最内熱可塑性材料層としては,上述のように,メタロセン触媒 を用いて重合したエチレン−α・オレフィン共重合体がある。この発明に好ましい 態様においては,メタロセン触媒を用いて重合したエチレン−αオレフィン共重合 体と,マルチサイト触媒を用いて重合した低密度ポリエチレンとから成るものを用 いることができる。また,紙容器の最内層以外の層については特に制限されるもの ではない。/メタロセン触媒で重合して得られたエチレン−αオレフィン共重合体 がシール性等の封緘性,耐衝撃性を維持するために必要な成分の配分割合は,50 重量%以上,好ましくは,55〜75重量%,より好ましくは55〜65重量%で ある。前記の範囲以外,特に50重量%未満では良好な封緘性や耐衝撃性が得られ ず,また,65重量%では,加工性,積層性が低下し好ましくない。/次にマルチ サイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレンがフィルム成形性等の溶融張力 を高めるのに必要な配合割合は,50重量%以上が好ましく,より好ましくは,4 16 5〜25重量%,更に好ましくは,45〜35重量%であり,上記範囲を越えると 良好な封緘性や耐衝撃性が得られないので望ましくはない。(16頁21行〜17 」 頁10行) ク 包材の製造法において,押し出しラミネートする際の接着性樹脂層を構成す る押出し樹脂としては,この発明に係る包材を構成する最外熱可塑性材料層,接着 剤層,接着性熱可塑性材料層及び最内熱可塑性材料層において使用される材料のほ か,例えば,ポリエチレン等を使用することができる。 (3) 本件補正と当初明細書の記載との関係について ア まず,本件補正が,本願発明の最内熱可塑性材料層等の樹脂層を構成する狭 い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを「メタロセン触媒で重合して得ら れた」ものと特定した点(前記(1)A)についてみると,当初明細書には,前記(2) オに認定のとおり,「最内熱可塑性材料層」として「メタロセン触媒を用いて重合 した狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレン(mLLPDE)を少なくと も含有するブレンドポリマーがある。このmLLPDEとしては,…メタロセン触 媒を使用して重合してなるエチレン−α・オレフィン共重合体を使用することがで きる。」旨の記載があるほか,前記(2)キに認定のとおり,「最内熱可塑性材料層」 として「上述のように,メタロセン触媒を用いて重合したエチレン−α・オレフィ ン共重合体がある。この発明に好ましい態様においては,メタロセン触媒を用いて 重合したエチレン−αオレフィン共重合体と,マルチサイト触媒を用いて重合した 低密度ポリエチレンとから成るものを用いることができる。」旨の記載がある。そ して,本願発明1は,狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンで最内熱可 塑性材料層を構成しているから,上記記載は,本願発明1の最内熱可塑性材料層を 構成する狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを,「メタロセン触媒で 重合して得られた」ものとすることができることを明らかにしているといえる。 イ 次に,本件補正が,本願発明の最内熱可塑性材料層等の樹脂層の構成を前記 線形低密度ポリエチレン及びマルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチ 17 レンとの特定の配合割合によるブレンドポリマーである(前記(1)B)と特定した 点についてみると,当初明細書には,「最内熱可塑性材料層」について,前記(2)オ に認定のとおり,上記線形低密度ポリエチレンを少なくとも含有するブレンドポリ マーである旨の記載があり,前記(2)カに認定のとおり,上記線形低密度ポリエチ レン及び上記低密度ポリエチレンによるブレンドポリマーについての記載があるほ か,前記(2)キに認定のとおり,「最内熱可塑性材料層」における両者の配合割合に ついての記載がある。そして,本願発明1は,狭い分子量分布を有する線形低密度 ポリエチレンで最内熱可塑性材料層を構成しているから,上記記載は,本願発明1 の最内熱可塑性材料層を,狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレン及びマ ルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレンとの特定の配合割合による ブレンドポリマーで構成することができることを明らかにしているといえる。 ウ さらに,本願発明2ないし4も,ある樹脂層が「狭い分子量分布を有する線 形密度ポリエチレンを少なくとも含有する」との構成を備えている点で本願発明1 と共通しており,これらの樹脂層が,本願発明1の「最内熱可塑性材料層」とは異 なる製造方法によるべき理由は見当たらないばかりか,当初明細書は,前記(2)カ に認定のとおり,メタロセン触媒を用いて重合した狭い分子量分布を有する線形低 密度ポリエチレン(mLLPDE)と低密度ポリエチレン(LDPE)等とからな るブレンドポリマーについて記載しているが,その対象を,当初明細書で特性パラ メータを示した発明(本願発明1ないし6を含む。前記(2)エ参照)であると記載 しており,かつ,前記(2)クに認定のとおり,押し出しラミネートする際の接着性 樹脂層を構成する押出し樹脂の材料として,本願発明1ないし6において「狭い分 子量分布を有する線形密度ポリエチレンを少なくとも含有する」とされる各樹脂層 を構成する材料を単純に列記しているから,これらの樹脂層の構成には相違がない ことが窺える。 以上によれば,当初明細書の前記(2)オ及びキに認定の部分に記載された,本願 発明1の最内熱可塑性材料層に狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンを 18 メタロセン触媒を用いて重合するとの技術的事項(前記(1)A)及び当初明細書の 前記(2)オないしキに認定の部分に記載された,本願発明1及び5の最内熱可塑性 材料層を前記線形低密度ポリエチレン及びマルチサイト触媒で重合して得られた低 密度ポリエチレンとの特定の配合割合によるブレンドポリマーであるとする技術的 事項(前記(1)B)は,いずれも,同じく狭い分子量分布を有する線形低密度ポリ エチレンからなる樹脂層を有する本願発明2ないし4についても妥当するものと解 するのが相当である。このように,当初明細書の上記記載部分は,本願発明1の最 内熱可塑性材料層を例示しているものの,当初明細書の全ての記載を総合するとき, 本願発明2ないし4において狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンから なる各樹脂層についても,「メタロセン触媒で重合して得られた」ものであるとの 技術的事項(前記(1)A)及び上記線形低密度ポリエチレン及びマルチサイト触媒 で重合して得られた低密度ポリエチレンとの特定の配合割合によるブレンドポリマ ーであるとする技術的事項(前記(1)B)を,いずれも容易に導くことができるも のというべきである。 エ したがって,本願発明1ないし4の最内熱可塑性材料層等の樹脂層を構成す る狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレンをその製造方法により特定し (前記(1)A),かつ,本願発明1ないし4の最内熱可塑性材料層等の樹脂層の構成 を上記線形低密度ポリエチレン及びマルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポ リエチレンとの特定の配合割合によるブレンドポリマーであると特定した(前記 (1)B)本件補正は,いずれの点においても,当初明細書の全ての記載を総合する ことにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するも のとはいえない。 (4) 被告の主張について ア 以上に対して,被告は,「15〜17のメルトフローインデックス」との発 明特定事項が,本件補正前には,最内熱可塑性材料層が「狭い分子量分布を有する 線形低密度ポリエチレンを少なくとも含有し」ているものを対象としていたのに対 19 し,本件補正後には,最内熱可塑性材料層が「メタロセン触媒で重合して得られた 狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト 触媒で重合して得られた低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマ ーからな」るものを対象としているから,本件補正前後で実質的に変更されている 旨を主張する。 しかしながら,メルトフローインデックスとは,樹脂材料の熱溶融時の流動性に 関する指標である(乙1)が,「15〜17のメルトフローインデックス」を有す る樹脂材料は,例えば本願発明1においては,「狭い分子量分布を有する線形低密 度ポリエチレンを少なくとも含有」する「最内熱可塑性材料層」であったところ, 本件補正は,上記「最内熱可塑性材料層」について,特定の配合割合からなる「メ タロセン触媒で重合して得られた」線形低密度ポリエチレン及び「マルチサイト触 媒で重合して得られた低密度ポリエチレン」とのブレンドポリマーである旨を特定 したものであって,かつ,本件補正は,前記(3)ウ及びエに認定のとおり,当初明 細書の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新 たな技術的事項を導入しないものである。したがって,「15〜17のメルトフロ ーインデックス」を有するとされる樹脂材料は,本件補正によって,より詳細に特 定されたということはできるものの,本件補正の前後で実質的に変更されているも のではない。 なお,被告の上記主張は,本件補正により特定された「15〜17のメルトフロ ーインデックス」を有する樹脂材料に関する当初明細書の記載部分(前記(2)オな いしキ)が,当初明細書の本願発明6に関する記載部分の後に引き続いて記載され ていることから,当該樹脂材料に関する記載部分が本願発明6のみに関する記載で あるとの解釈に立脚するものであると推察されなくもない。しかしながら,当初明 細書の前記(2)オに認定の記載部分は,本願発明6の特許請求の範囲の記載で用い られている「内側熱可塑性材料層」ではなく,本願発明1及び5の発明特定事項で ある「最内熱可塑性材料層」について記載しているから,本願発明6のみに関する 20 記載ではないことが明らかである。 よって,被告の上記主張は,採用できない。 イ また,被告は,当初明細書には本件補正発明1が「15〜17のメルトフロ ーインデックス」を有する旨が記載されていない旨を主張する。 しかしながら,当初明細書には,前記(2)エに認定のとおり,本願発明1ないし 4及び本件補正発明1ないし4の最内熱可塑性材料層等の樹脂層が「5〜20のメ ルトフローインデックス」を有する旨の記載がある。そして,メルトフローインデ ックスとは,前記のとおり,樹脂材料の熱溶融時の流動性に関する指標であるとこ ろ,本願発明1及び本件補正発明1の特許請求の範囲の記載にある「15〜17の メルトフローインデックス」は,当初明細書の上記記載をより限定するものであり, 当初明細書の記載を総合しても,この限定によって何らかの新たな技術的事項を導 入するものとは認められないから,メルトフローインデックスを上記のように限定 する補正は,明細書の範囲内においてされたものであって,当初明細書には,本件 補正発明1ないし4の有するメルトフローインデックスについての記載があるとみ て差し支えない。 よって,被告の上記主張は,採用できない。 (5) 小括 以上のとおり,本願発明に対する本件補正は,当初明細書の全ての記載を総合す ることにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しな いものであるといえるから,特許法17条の2第3項所定の「明細書又は図面に記 載した事項の範囲内において」するものということができる。 よって,本件審決は,この点の判断を誤るものというほかない。 2 取消事由2(引用発明1に基づく本件補正発明6の容易想到性に係る判断の 誤り)について (1) 本件補正明細書の記載について 本件補正発明は,前記第2の2(2)に記載のとおりであるが,本件補正明細書に 21 は,前記1(2)に認定の当初明細書に記載の事項に加えて,前記スウェリング率に 関連して次の記載がある。 ア 「この発明の好ましい態様において,シール性最内層の,メタロセン触媒で 重合して得られた狭い分子量分布を有する線形低密度ポリエチレン55〜75重 量%とマルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレン45〜25重量% とのブレンドポリマーが,1.4〜1.6のスウェリング率(SwellingR atio,SR)を有する。より具体的に上記パラメータを説明すると,この「膨 潤・スエル」とは,押出し物がダイ・オリフィスを出た直後に横断面積が増し,押 出し物の全体として体積が増大する現象と指し,この発明におけるスウェリング率 とは,メルトフローレイト(MFR)測定のためのJIS試験方法における測定条 件と同じ条件で,ダイから出た押出し物の横断寸法,すなわち,直径の膨張率を指 す。( 」【0046】) イ 通常の包装材料をラミネートする方法には種々の方法があるが,本件補正発 明による積層包材においては,押出しラミネーション法を利用すると,本件補正発 明のメリットをより多く得ることができる(【0068】【0069】。 ) 「それは,この発明による好ましい態様においては,押し出しラミネートする樹 脂が,平均密度,ピーク融点,メルトフローインデックス,スウェリング率及び層 厚において最適に調整された特性パラメータを有するからであり,そのために,包 材製造における押出積層特性並びにそれによる良好なコンバーティング特性[を]示 すからである。( 」【0070】) (2) 引用例1の記載について 引用発明1は,前記第2の3(2)アに記載のとおりであるところ,引用例1は, 「紙を含む積層材料から成る容器」という名称の発明に関する公開特許公報であり, そこには,引用発明1について,おおむね次の記載がある。 ア この発明は,紙を含む積層材料からなる容器に関し,特に最内層としてシン グルサイト触媒で重合して得られたエチレン−αオレフィン共重合体を70ないし 22 99重量%,マルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレンを1ないし 30重量%含有する樹脂組成物を用いたものである(【要約】【請求項1】【000 1】【0013】【0024】【0025】。 ) イ エチレン−αオレフィン共重合体の密度は,0.90ないし0.94g/c m 3 が望ましい。これより小さい場合では,フィルム成形時での離ロール性やフィ ルムの滑り性が悪くなり,これより高い密度では,フィルムの柔軟性や低温ヒート シール性が劣り,封緘性が低下するからである。分子量は,1×10 3 ないし1× 10 5 ,メルトフローレイト(MFR)は,0.1ないし20g/10min である (【0022】 。また,低密度ポリエチレンの密度は,0.91ないし0.93g ) /cm 3 であり,分子量は,1×10 2 ないし1×10 8 ,メルトフローレイト(M FR)は,0.1ないし20g/10min である(【0023】。 ) ウ この発明の紙容器の基本的な層構成は,表面側から,表面樹脂層/紙/各種 バリアー性材料層/耐衝撃性材料層/内面樹脂層(シーラント層)であり,少なく とも,内面樹脂層の最内層にシングルサイト触媒を用いて重合したエチレン−αオ レフィン共重合体とマルチサイト触媒を用いて重合した低密度ポリエチレンとから なるものを用いるのである。最内層の厚さとしては,5ないし100μm程度が適 当であるが,好ましくは,20ないし80μm程度である。 エ 実施例1及び2並びに比較例1ないし4において,ヒートシール温度は,9 0℃ないし160℃として設定されている。 オ 引用例1には,そこに記載の発明の樹脂層が有するスウェリング率について は,何ら記載がない。 (3) 引用発明1に基づく容易想到性について ア 前記1(2)及び2(1)に認定のとおり,本件補正発明6の相違点1に係る構成 に示された各種の特性パラメータは,いずれも,本件補正発明の有する効果である 押出積層特性及び良好なコンバーティング特性を実現するために特定されたもので あると認められる。したがって,本件補正発明6の相違点1に係る構成の容易想到 23 性の判断に当たっては,引用例1の記載及び本件優先権主張日当時の技術常識に照 らして,引用例1に接した当業者が,上記特性パラメータを特定することを容易に 想到することができたか否かを検討する必要がある。 イ そこでまず,本件補正発明6の相違点1に係る構成と前記(2)に認定の引用 例1の記載とを対比する。 相違点1のうち,本件補正発明6の「内側熱可塑性材料層がメタロセン触媒で重 合して得られた線形低密度ポリエチレン55〜75重量%とマルチサイト触媒で重 合して得られた低密度ポリエチレン45〜25重量%とのブレンドポリマーからな り」との構成についてみると,引用例1には,前記(2)アに認定のとおり,「シング ルサイト触媒で重合して得られたエチレン−αオレフィン共重合体を70ないし9 9重量%,マルチサイト触媒で重合して得られた低密度ポリエチレンを1ないし3 0重量%含有する」旨の記載がある。そして,本件補正発明6の線形低密度ポリエ チレンは,引用発明1のエチレン−αオレフィン共重合体に,本件補正発明6の低 密度ポリエチレンは,引用発明1の低密度ポリエチレンに,それぞれ相当するから, 引用例1には,両者の配合割合についての記載があり,本件補正発明6及び引用発 明1において,それぞれの配合割合には重複する部分がある。 次に,本件補正発明6の「0.910〜0.930の平均密度」との構成につい てみると,引用例1には,前記(2)イに認定のとおり,エチレン−αオレフィン共 重合体(0.90〜0.94g/cm 3 )及び低密度ポリエチレン(0.91〜0. 93g/cm 3 )の各密度について記載があり,その数値には,いずれも本件補正 発明6の平均密度と重複する部分がある。 また,本件補正発明6の「示差走査熱量測定法による115℃以上のピーク融 点」との構成についてみると,引用例1では,前記(2)エに認定のとおり,ヒート シール温度が90℃ないし160℃として設定されており,ヒートシールのための 温度についての数値には,本件補正発明6のピーク融点と重複する部分がある。 そして,本件補正発明6の「10〜11のメルトフローインデックス」との構成 24 についてみると,引用例1には,前記(2)イに認定のとおり,エチレン−αオレフ ィン共重合体及び低密度ポリエチレンの各メルトフローレイト(0.1〜20g/ 10min)について記載があり,その数値は,いずれも本件補正発明6のメルトフ ローインデックスを包含するものである。 さらに,本件補正発明6の「35μmの層厚」との構成についてみると,引用例 1には,前記(2)ウに認定のとおり,好ましくは20ないし80μm程度である旨 の記載があり,その数値は,本件補正発明6の層厚を包含するものである。 ウ しかしながら,本件補正発明6は,「1.4〜1.6のスウェリング率」と の構成を有するところ,引用例1には,スウェリング率について何ら記載がないか ら,引用発明1は,スウェリング率を要素としていない発明であるというほかなく, 引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング率という特性パラメータに よって特定するという構成について着想を得る前提ないし動機付けがない。 エ 次に,引用発明1及び本件補正発明6が属する,紙を含む製造材料からなる 容器の技術分野において,スウェリング率を特定することが技術常識又は常套手段 であるか否かについてみると,被告は,ある物質のスウェリング率がそれを構成す る樹脂やそれ以外の添加物等により影響されるもので,樹脂の製造に当たって適宜 のスウェリング率とすることが本件優先権主張日前の常套手段であった(乙4〜 9)旨を主張する。 そこで検討すると,スウェリング率とは,樹脂の押出成形によって成形品の断面 積や径が大きくなる比率を指すものと解され,樹脂の種類,成形品の形状や構造, 押出速度及び押出温度などにより異なるものであって(乙1),このような現象の 存在及び原因は,樹脂の押出成形に関する技術分野においては周知の事項であると 認められる(乙1〜3)。 そして,乙4は,「射出成形用樹脂組成物および該組成物からなるバンパー」と いう名称の発明に関する公開特許公報(特開平7−196864)であり,そこに は,全体で1.2以上のダイスウェル比(スウェリング率)を特性パラメータの1 25 つとするプロピレンホモポリマーを含有する射出成形用プロピレン系樹脂組成物や, これを用いてなる自動車のバンパーについての記載がある。次に,乙5は,「ポリ プロピレン系樹脂組成物,その発泡体および製造法」という名称の発明に関する公 開特許公報(特開平8−231816)であり,そこには,1.7以上のダイスウ ェル比(スウェリング率)を特性パラメータの1つとする,ガス保持性に優れてお り,微細かつ均一な気泡を有し耐衝撃性等も兼ね備えた発泡体を工業的に安定して 製造するのに適したポリプロピレン系樹脂組成物等に関する発明についての記載が ある。また,乙6は,「エチレン系重合体組成物」という名称の発明に関する公開 特許公報(特開平9−95572)であり,そこには,メルトテンション及び径ス ウェル比(1.35を超える。)が高く,機械強度及び剛性などに優れたエチレン 系重合体組成物についての記載がある。そして,乙7は,「ブロー成形用ポリエチ レン」という名称の発明に関する公開特許公報(特開平9−216915)であり, そこには,1.35以下のスウェル比を特性パラメータの1つとするブロー成形用 ポリエチレンについての記載がある。さらに,乙8は,「ポリエチレンの製造方 法」という名称の発明に関する公開特許公報(特開平9−235312)であり, そこには,径スウェル比が1.35を超えることを特性パラメータの1つとするポ リエチレンの製造方法についての記載がある。加えて,乙9は,「カレンダー成型 用ポリプロピレン系樹脂」という名称の発明に関する公開特許公報(特開平10− 306119)であり,そこには,1.9以下のスウェル比を特性パラメータの1 つとするカレンダー成型用ポリプロピレン系樹脂についての記載がある。 しかしながら,乙4ないし9に記載の各発明は,いずれも引用発明1及び本件補 正発明6とは技術分野を異にしているから,引用発明1に接した当業者が,これら の文献の記載を参照することで,本件補正発明6の相違点1に係る構成に含まれる スウェリング率を採用することを何ら示唆するものではないばかりか,これらの文 献の記載を総合しても,当該技術分野において,スウェリング率を特定することが 本件優先権主張日当時の技術常識又は常套手段であると認めるに足りない。 26 オ 以上のとおり,引用例1には,スウェリング率について何ら記載がないから, 引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング率という特性パラメータに よって特定するという構成について着想を得る前提ないし動機付けがなく,また, 引用発明1及び本件補正発明6が属する,紙を含む製造材料からなる容器の技術分 野において,本件優先権主張日当時,スウェリング率を特定することが技術常識又 は常套手段であったということもできない。 よって,引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング率という特性パ ラメータによって特定し,もって本件補正発明6のスウェリング率に関する特性パ ラメータの構成を容易に想到することができたとはいえず,これに反する本件審決 の判断は,誤りであるというべきである。 (4) 被告の主張について 以上に対して,被告は,本件補正発明6の相違点1に係る構成のうち,スウェリ ング率を特定することによる効果に裏付けがない旨を主張する。 しかしながら,前記(3)ウに認定のとおり,引用例1には,スウェリング率につ いて何ら記載がないから,引用例1に接した当業者は,引用発明1をスウェリング 率という特性パラメータによって特定するという構成について着想を得る前提ない し動機付けがなく,また,前記(3)エに認定のとおり,紙を含む製造材料からなる 容器の技術分野において,スウェリング率を特定することが技術常識又は常套手段 であるとする根拠も見当たらない以上,その効果について検討するまでもなく,当 業者は,当該構成を容易に想到することができなかったものというほかない。 よって,被告の上記主張は,採用できない。 (5) 小括 以上のとおり,本件補正は,新規事項の追加禁止要件(特許法17条の2第3 項)を充足し,また,本件補正発明6は,引用発明1に基づいて容易に想到するこ とができないものであって,独立特許要件(平成18年法律第55号による改正前 の特許法17条の2第5項,同法126条5項)も充足しているから,本件補正を 27 却下した本件審決は,取消しを免れない。 3 結論 以上の次第であるから,本願発明の進歩性の有無について判断するまでもなく, 本件審決は取り消されるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣 裁判官 井 上 泰 人 裁判官 荒 井 章 光 28 |