関連ワード | 創作性(創作) / 容易に発明 / 周知技術 / 先行技術 / 優先権 / 国内優先権 / 容易に想到(容易想到性) / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10398号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2011/12/08 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成23年12月8日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 平成22年(行ケ)第10398号 審決取消請求事件 口頭弁論終結日 平成23年11月17日 判 決 当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり 主 文 原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 事実及び理由 第1 請求 特許庁が無効2010−800075号事件について平成22年12月1日にし た審決を取り消す。 第2 事案の概要 本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の下記2の本件発明に係 る特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たな いとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には, 下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。 1 特許庁における手続の経緯 (1) 被告は,平成17年6月17日,発明の名称を「マッサージ機」とする特許 出願(特願2005−177177号,国内優先権主張日:平成10年11月2日 (特願平10−312446号))をし,平成20年9月19日,設定の登録(特 許第4188946号)を受けた。以下,この特許を「本件特許」といい,本件特 許に係る明細書(甲12)を「本件明細書」という。 (2) 原告は,平成22年4月21日,本件特許の請求項1に係る発明(以下「本 件発明」という。)について,特許無効審判を請求し,無効2010−80007 5号事件として係属した。 1 (3) 特許庁は,平成22年12月1日,「本件審判の請求は,成り立たない。」 旨の本件審決をし,同月9日,その謄本が原告に送達された。 2 本件発明の要旨 本件審決が判断の対象とした発明は,特許請求の範囲の請求項1に記載された次 のとおりのものである。文中の「/」は,原文の改行部分を指す。 座部及び背凭れ部と,前記座部の前部に上下揺動自在として設けられたフットレ ストと,を有し,前記フットレストは,上方へ揺動して前記座部から前方へ突出し ている状態となることができ,前記フットレストは,使用者の脚にマッサージする ことが可能な空気式のマッサージ具を有している椅子型マッサージ機において,/ 前記フットレストが,脚の上側をマッサージする第一フットレスト部と脚の下側を マッサージする第二フットレスト部とに分割され,/前記座部の前端下部に上下揺 動自在として連結されている固定フレームと,前記固定フレームに対して前後に移 動調整自在である第一スライドフレームと,前記第一スライドフレームに対して前 後に移動調整自在である第二スライドフレームとを有し,/前記第一フットレスト 部は,前記第一スライドフレームに固着され,前記第二フットレスト部は,前記第 二スライドフレームに固着されており,/前記フットレストが前方へ突出している 状態で,前記第一フットレスト部及び前記第二フットレスト部が全体として前記座 部に対して前後に接離調整可能で,かつ,この第二フットレスト部が前記第一フッ トレスト部に対して前後方向に接離調整可能に構成されていることを特徴とする椅 子型マッサージ機 3 本件審決の理由の要旨 (1) 本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記アの引用例1に記載された 発明(以下「引用発明」という。)に下記イないしオの引用例2ないし5及び下記 カないしコの周知例1ないし5に記載された事項又は周知技術に基づいて,当業者 が容易に発明をすることができたものであるということはできない,というもので ある。 2 ア 引用例1:特開平10−196817号公報(甲1) イ 引用例2:特開平2−206406号公報(甲11) ウ 引用例3:米国特許3096118号明細書(昭和38年(1963年)7 月2日発行。甲5) エ 引用例4:特開昭64−43210号公報(甲6) オ 引用例5:特開平9−154667号公報(甲7) カ 周知例1:米国特許426601号明細書(明治23年(1890年)4月 29日発行。甲3) キ 周知例2:特開平10−157501号公報(甲4) ク 周知例3:特開昭50−136994号公報(甲8) ケ 周知例4:実公昭60−7047号公報(甲9) コ 周知例5:実開平10−57437号公報(甲10) (2) 本件審決が認定した引用発明並びに本件発明と引用発明との一致点及び相違 点は,次のとおりである。 ア 引用発明:座部及び背凭部と,前記座部の前端部に回動可能に設けられたオ ットマンと,を有し,前記オットマンは,上方へ揺動して前記座部から前方へ突出 している状態となることができ,前記オットマンは,使用者の脚にマッサージする ことが可能な空気袋を有している椅子型のエアマッサージ装置において,前記オッ トマンが足受部を有し,前記座部の前端部に回動可能に設けられているフレームと, 前記フレームのアーム部に沿って前後方向に移動可能に装着したガイドレールとを 有し,前記足受部は,前記ガイドレールに固定されており,前記オットマンが前方 へ突出している状態で,前記足受部が前記座部に対して前後方向に位置を調整でき る椅子型のエアマッサージ装置 イ 一致点:座部及び背凭れ部と,前記座部の前部に上下揺動自在として設けら れたフットレストと,を有し,前記フットレストは,上方へ揺動して前記座部から 前方へ突出している状態となることができ,前記フットレストは,使用者の脚にマ 3 ッサージすることが可能な空気式のマッサージ具を有している椅子型マッサージ機 において,前記座部の前端下部に上下揺動自在として連結されている固定フレーム と,前記固定フレームに対して前後に移動調整自在であるフレーム部材を有し,前 記フットレストは,前記フレーム部材に固着されており,前記フットレストが前方 へ突出している状態で,前記フットレストが前記座部に対して前後に接離調整可能 に構成されている椅子型マッサージ機 ウ 相違点:本件発明は,フットレストが脚の上側をマッサージする第一フット レスト部と脚の下側をマッサージする第二フットレスト部とに分割され,固定フレ ームに対して前後に移動調整自在である第一スライドフレームと,前記第一スライ ドフレームに対して前後に移動調整自在である第二スライドフレームとを有し,前 記第一フットレスト部は,前記第一スライドフレームに固着され,前記第二フット レスト部は,前記第二スライドフレームに固着されており,前記フットレストが前 方へ突出している状態で,前記第一フットレスト部及び前記第二フットレスト部が 全体として前記座部に対して前後に接離調整可能で,かつ,この第二フットレスト 部が前記第一フットレスト部に対して前後方向に接離調整可能に構成されているの に対して,引用発明は,フットレストが分割されておらず,分割された第一フット レスト及び第二フットレストをそれぞれ固着する第一スライドフレーム及び第二ス ライドフレームを有しておらず,前記第二フットレスト部が前記第一フットレスト 部に対して前後方向に接離調整可能に構成されていない点 4 取消事由 容易想到性に係る判断の誤り 第3 当事者の主張 〔原告の主張〕 (1) 本件審決は,本件発明と引用発明との相違点として,@引用発明のフットレ ストは,本件発明の第一フットレスト部及び第二フットレスト部に分割されていな いこと(以下「相違部分@」という。),A引用発明は,分割された第一フットレ 4 スト部及び第二フットレスト部をそれぞれ固着する第一スライドフレーム及び第二 スライドフレームを有していないこと(以下「相違部分A」という。),B第二フ ットレスト部が第一フットレスト部に対して前後方向に接離調整可能に構成されて いないこと(以下「相違部分B」という。)を摘示している。 (2) 容易想到性について ア 動機付けないし示唆の存在 本件発明と引用発明とは,いずれも使用者の脚の長さ等に合わせて脚の希望する 部分をマッサージするという共通の課題を有し,引用例1に記載された課題に接し た当業者は,その解決のため,引用発明に使用者の脚の長さ等に合わせて脚の希望 する部分をマッサージすることを可能にする先行技術(周知技術を含む)の構成を 適用しようとの動機を持つから,引用例1は,相違部分@ないしBに係る本件発明 の構成を想到する動機付けないし示唆を内包している。 イ 引用例2ないし5並びに周知例1及び2に記載された周知技術の適用による 容易想到性について (ア) 引用例2ないし5並びに周知例1及び2は,次のaないしfのとおり,フ ットレストを分割する構成や分割した各フットレスト部を前後方向に移動させるた めのスライドフレームを備えた構成がいずれも周知技術に属することを開示してい る。 a 引用例2 引用例2では,本件発明の第一フットレスト部に相当する第1の足受け体,第二 フットレスト部に相当する第2の足受け体,固定フレームに相当する大支持板,第 一スライドフレームに相当する第3の水平杆,第二スライドフレームに相当する第 4の水平杆がそれぞれ開示されている。 b 引用例3 引用例3では,本件発明の第一フットレスト部に相当する脚支持台, 第二フット レスト部に相当する脚支持用の延長部,固定フレームに相当する細長いブラケット, 5 支持アーム,作動アーム,レバー,連結部,第2のレバー及び作動レバー,第一ス ライドフレームに相当する溝付き角ブラケット,第二スライドフレームに相当する 延長部材がそれぞれ開示されている。 c 引用例4 引用例4では,本件発明の第一フットレスト部に相当する基部側部材,第二フッ トレスト部に相当する可動側部材,第一スライドフレームに相当するガイドレール, 第二スライドフレームに相当する摺動レールがそれぞれ開示されている。 d 引用例5 引用例5では,本件発明の第一フットレスト部に相当するレッグクッション,第 二フットレスト部に相当するフットレスト本体,固定フレームに相当する連結ブラ ケット,第一スライドフレームに相当する両側枠,第二スライドフレームに相当す るフットフレームがそれぞれ開示されている。 e 周知例1 周知例1では,本件発明の固定フレームに相当する座部枠,第一スライドフレー ムに相当する脚掛け,第二スライドフレームに相当するバーが開示されている。 f 周知例2 周知例2では,本件発明の第一フットレスト部に相当するメインレスト体,第二 フットレスト部に相当するサブレスト体,固定フレームに相当する支持アーム,第 一スライドフレームに相当するガイドレール,第二スライドフレームに相当するス ライドがそれぞれ開示されている。 (イ) 以上のとおり,フットレストを分割する構成は周知技術であるから,相違 部分@に係る本件発明の構成は,容易に想到し得るものである。 また,分割した各フットレスト部を前後方向に移動させるためのスライドフレー ムを設けることも周知技術であるから,引用発明に周知技術であるフットレストを 分割する構成を適用した場合,それに伴って,分割された各フットレスト部を前後 方向に移動させるためのスライドフレームが具体的な構成として自ずと採用される 6 のであり,相違部分A及びBに係る本件発明の構成も容易に想到し得るものである。 (ウ) この点に関し,本件審決は,脚載置部を分割する構成が周知技術であり, 当該構成を適用することが容易であるとしても,引用発明のマッサージ機能を有す る空気式マッサージ具が各別に分割される脚載置部ごとに自然と分割されることに なるとはいえないと判断している。 しかし,フットレストの内部に配されている空気式マッサージ具を分割して配置 することなく,空気式マッサージ具を内包しているフットレストのみを分割するこ とは物理的に不可能であるし,極めて不自然である。また,周知例3ないし5等で は,空気式マッサージ具を使用者の脚の上側及び下側に分割して適切な箇所に配置 する構成が開示されており,フットレストを分割する場合に,フットレストの内部 に配されている空気式マッサージ具も分割することは,容易に想到し得るものであ る。 (エ) したがって,引用発明に引用例2ないし5並びに周知例1及び2に記載さ れた周知技術を適用することにより,当業者は本件発明を容易に想到することがで きたものである。 ウ 引用例2記載の発明の適用による容易想到性について (ア) 引用例2には,脚の上側と下側に分割された2つの足受け体に係る構成が 前方へ突出している状態で,各足受け体が座体に対して伸縮動可能に設けられ,か つ,第1の足受け体に対し,第2の足受け体が伸縮動可能となる構成が記載され, 相違部分@ないしBに係る本件発明の構成が全て開示されている。 (イ) また,前記イ(ウ)のとおり,分割した各フットレス部に空気式マッサージ 具をそれぞれ配置することは,周知例3ないし5等に記載された周知技術である。 このことは,甲30(特開平8−80230)にフットレストの脚支持部と脚裏支 持部の各部にマッサージ機を配する構成が開示され(【0022】【0042】), また,甲31(特公昭44−13638)の図1ないし4及び8に使用者の脚の上 側と下側で空気式マッサージ具である蛇腹状伸縮筒が複数配された構成が開示され 7 ていることからも裏付けられる。 (ウ) したがって,引用発明に引用例2記載の発明を適用することにより,当業 者は本件発明を容易に想到することができたものである。 エ 引用例3ないし5記載の各発明の適用による容易想到性について (ア) 引用例3には,脚支持用の延長部を固着している延長部材が脚支持台を固 着している溝付き角ブラケットに摺動可能に取り付けられ,延長部材が溝付き角ブ ラケットに対して軸方向に移動することにより,脚支持用の延長部が脚支持台に対 して前後方向に接離調整可能となる具体的構造が記載されている。 また,引用例4には,可動側部材を固着している摺動レールが,基部側部材を固 着しているガイドレールに対して前後方向に摺動自在に嵌合されていることにより, 可動側部材が基部側部材に対して前後方向に接離調整可能となる具体的構造が記載 されている。 さらに,引用例5には,フットレスト本体を固着しているフットフレームが,レ ッグクッションを固着している両側枠に前後移動可能に嵌合されることにより,フ ットレスト本体がレッグクッションに対して前後方向に接離調整可能となる具体的 構造が記載されている。 (イ) 以上のとおり,上記各引用例には,いずれも相違部分@ないしBに係る本 件発明の構成が全て開示されている。 また,前記イ(ウ)のとおり,分割した各フットレス部に空気式マッサージ具を各々 配置し得ることは,周知例3ないし5等に記載された周知技術であり,これは,前 記ウ(イ)のとおり,甲30及び31の記載からも裏付けられる。 (ウ) したがって,引用発明に引用例3ないし5記載の各発明を適用することに より,当業者は本件発明を容易に想到することができたものである。 〔被告の主張〕 (1) 動機付けないし示唆の存在について 原告は,引用発明と本件発明の課題が共通するため,引用例1には相違部分@な 8 いしBに係る本件発明の構成を想到する動機付けや示唆があると主張する。 しかし,本件発明の課題は,フットレスト部を個別に位置調整することにより, 脚の上側と下側をマッサージする空気式マッサージ具を個別に位置調整できるよう にすることにある。他方,引用例1には,フットレスト全体を丁度よい位置に移動 させることが示されているだけであり,本件発明の課題とは共通していない。 また,引用例1と同様の構成が開示されている甲2(特開平8−3222895 号公報)の記載(【0004】)からすると,引用発明は,フットレスト全体を移 動できるようにすることにより,座り直して体の位置をずらしたり脚を曲げたりし なくても位置決めができるようにするとの課題を解決するものである。これに対し, 分割したフットレスト部を個別に位置調整することにより,脚の上側と下側をマッ サージする空気式マッサージ具を個別に位置調整できるようにした本件発明の課題 は,引用発明の上記課題と同等のものではない。 そもそも,引用発明では,オットマンに移動機能が既に設けられており,引用例 1に接した当業者は,オットマン全体を丁度よい位置に移動させるとの課題は既に 解決されていると認識するのであり,相違部分@ないしBに係る本件発明の構成を 更に設けることの動機付けや示唆は存在しないというべきである。 (2) 引用例2ないし5並びに周知例1及び2に記載された周知技術の適用によ る容易想到性について ア 原告は,引用例2ないし5並びに周知例1及び2を引用し,フットレストを 分割する構成は周知技術であるから,相違部分@に係る本件発明の構成は容易に想 到し得るものであり,また,分割した各フットレスト部を前後方向に移動させるた めのスライドフレームを設けることも周知技術であるから,フットレストが分割さ れる構成を適用する場合には,それに伴って分割された各フットレスト部を前後方 向に移動させるためのスライドフレームが具体的な構成として自ずと採用され,相 違部分A及びBに係る本件発明の構成も容易に想到し得るものであると主張する。 しかし,仮に,脚載置部を分割する構成が周知技術であったとしても,相違部分 9 @ないしBは,脚載置部を分割するということのみを要件としたものではないため, そのことからは相違部分@ないしBに係る本件発明の構成はいずれも想到されない。 また,相違部分@に係る本件発明の構成を具備した場合であっても,次の(ア)ない し(カ)のとおり,本件発明のフレーム構造は,引用例2ないし5並びに周知例1及 び2に記載されたフレーム構造とは異なるものであり,周知技術とはいえないし, 第一フットレスト部と第二フットレスト部をどのような構成のフレームに取り付け るか,それぞれをどのように動作するように構成するか等は,その目的等に応じて 多種多様であるから,相違部分A及びBに係る本件発明の構成を自ずと具備するこ とになるという原告の主張は成り立たない。 (ア) 引用例2について 原告は,引用例2の大支持板が本件発明の固定フレームに,第3の水平杆が第一 スライドフレームに,第4の水平杆が第二スライドフレームにそれぞれ相当すると 主張する。 しかし,大支持板は,座部の前端下部に上下揺動自在として連結されているもの ではなく,第3の水平杆も,大支持板に対して前後に移動調整自在なものではない ため,大支持板,第3の水平杆,第4の水平杆は,それぞれ本件発明の固定フレー ム,第一スライドフレーム,第二スライドフレームに相当するものではない。 (イ) 引用例3について 原告は,引用例3の細長いブラケット,支持アーム,作動アーム,レバー,連結 部,第2のレバー及び作動レバーが本件発明の固定フレームに,溝付き角ブラケッ トが第一スライドフレームに,延長部材が第二スライドフレームにそれぞれ相当す ると主張する。 しかし,細長いブラケット,支持アーム,作動アーム,レバー,連結部,第2の レバー及び作動レバーは,リンク機構を構成する各部材であり,座部の前端下部に 上下揺動自在として連結されている本件発明の固定フレームには相当しない。また, 溝付き角ブラケットや延長部材も,リンク機構の動作に伴って特定の動作を行うも 10 のであり,第一スライドフレームや第二スライドフレームに相当するものではない。 (ウ) 引用例4について 原告は,引用例4のガイドレールが本件発明の第一スライドフレームに,摺動レ ールが第二スライドフレームにそれぞれ相当すると主張する。 しかし,引用例4のガイドレールや摺動レールは,リンク機構の動作に伴って特 定の動作を行うものにすぎず,本件発明の第一スライドフレームや第二スライドフ レームに相当するものではない。 (エ) 引用例5について 原告は,引用例5の連結ブラケットが本件発明の固定フレームに,両側枠が第一 スライドフレームに,フットフレームが第二スライドフレームにそれぞれ相当する と主張する。 しかし,両側枠は,連結ブラケットに対して前後に移動調整自在なものではなく, レッグクッションが固着されるものでもないため,本件発明の第一スライドフレー ムに相当しない。また,フットフレームは,第一スライドフレームではない両側枠 に接続され,かつ,フットレスト本体が固着されるものでもないため,第二スライ ドフレームに相当しない。 (オ) 周知例1について 原告は,周知例1の座部枠が本件発明の固定フレームに相当すると主張する。 しかし,座部枠は,座部の前端下部に上下揺動自在として連結されたものではな いから,本件発明の固定フレームに相当するものではない。 (カ) 周知例2について 原告は,周知例2のスライドが本件発明の第二スライドフレームに相当すると主 張する。 しかし,スライドが嵌合するガイドレールは固定フレームに対して前後に移動調 整自在なものではないから,スライドは本件発明の第二スライドフレームに相当す るものではない。 11 イ また,原告は,引用発明のフットレストを分割した場合には,その内部に配 されている空気式マッサージ具もそれに伴って当然に分割されると主張する。 しかし,引用発明のフットレストを見た当業者が,第一フットレスト部と第二フ ットレスト部を個別に位置調整することで脚の上側と下側をそれぞれマッサージす る上下の空気式マッサージ具を個別に位置調整できるように相違部分@ないしBに 係る本件発明の構成に想到する動機付けは存在しない。本件発明のマッサージ機は, 第一フットレスト部と第二フットレスト部を個別に位置調整することで脚の上側と 下側をそれぞれマッサージする上下の空気式マッサージ具が個別に位置調整される ようにするという目的を意識して初めて創作されるのである。 ウ さらに,原告は,周知例3ないし5等では,空気式マッサージ具を使用者の 脚の上側と下側に分割して適切な箇所に配置する構成が開示されていると主張して いる。 しかし,上記各周知例に記載されたものには,マッサージ機能を有するフットレ ストを脚の上側と下側のフットレストに分割することの記載も示唆もない。 エ したがって,原告の主張は理由がない。 (3) 引用例2記載の発明の適用による容易想到性について ア 原告は,引用発明に引用例2記載の発明を適用することにより,本件発明を 容易に想到することができると主張する。 イ しかし,引用例2の大支持板は,座部の前端下部に上下揺動自在なものとし て連結された本件発明の固定フレームに相当するものではない。また,第3の水平 杆は,座体の前端下部に上下揺動自在なものとして連結されている固定フレームに 対して前後に移動調整自在なものではなく,第4の水平杆は,固定フレームに対し て前後に移動調整自在なスライドフレームに対して前後に移動調整自在なものでは ない。さらに,第1の足受体,第2の足受体は,それぞれ第3,第4の水平杆に対 して回転可能に設けられたものであり,これらの水平杆に固着されたものでない。 したがって,引用例2の第3の水平杆,第4の水平杆,第1の足受体,第2の足 12 受体は,それぞれ本件発明の第一スライドフレーム,第二スライドフレーム,第一 フットレスト部,第二フットレスト部に相当するものではなく,引用例2には,相 違部分@ないしBに係る構成は開示されていない。 ウ また,原告は,分割された各フットレス部に空気式マッサージ具を各々配置 することは周知技術であるとして,周知例3ないし5のほか,甲30及び31を引 用している。 しかし,前記(2)ウのとおり,周知例3ないし5には,マッサージ機能を有するフ ットレストを脚の上側と下側のフットレストに分割することの記載や示唆はない。 また,甲30には,単に「マッサージ機等を内蔵してもよい」旨が付言されている だけである(【0042】)。さらに,甲31に記載された指圧装置は,蛇腹状伸 縮筒が複数設けられているだけであり,第一フットレスト部と第二フットレスト部 とを個別に位置調整して脚の上側と下側をそれぞれマッサージする上下の空気式マ ッサージ具を個別に位置調整するような思想は全く開示されていない。 エ したがって,原告の主張は理由がない。 (4) 引用例3ないし5記載の各発明の適用による容易想到性について ア 原告は,引用発明に引用例3ないし5記載の各発明を適用することにより, 本件発明を容易に想到することができると主張する。 イ しかし,引用例3ないし5に相違部分@ないしBに係る本件発明の構成が開 示されていないことは,前記(2)ア(イ)ないし(エ)のとおりである。 また,前記(2)ウ及び(3)ウのとおり,周知例3ないし5には,マッサージ機能を 有するフットレストを脚の上側と下側のフットレストに分割することの記載や示唆 はないし,甲30及び31の各記載もこれを裏付けるものではない。 ウ したがって,原告の主張は理由がない。 第4 当裁判所の判断 1 本件発明について 本件明細書(甲12)には,本件発明について,概略,次の記載がある。 13 (1) 本件発明は,使用者の足の長さ等に合わせて使用者の脚の希望する部分をマ ッサージすることのできる椅子型マッサージ機を提供することを目的とするもので ある(【0005】)。 (2) 座部の前部に上下揺動自在として設けられたフットレストは,上方へ揺動し て座部から前方へ突出した状態となることができる。また,フットレストは,脚の 上側をマッサージする第一フットレスト部と脚の下側をマッサージする第二フット レスト部とに分割され,座部の前端下部に上下揺動自在として連結されている固定 フレームと,固定フレームに対して前後に移動調整自在である第一スライドフレー ムと,第一スライドフレームに対して前後に移動調整自在である第二スライドフレ ームとを有する。第一フットレスト部は,第一スライドフレームに固着され,第二 フットレスト部は,第二スライドフレームに固着されており,フットレストが前方 へ突出している状態で,第一フットレスト部及び第二フットレスト部が全体として 座部に対して前後に接離調整可能で,かつ,この第二フットレスト部が第一フット レスト部に対して前後方向に接離調整可能に構成されていることを特徴とする。フ ットレストについて,このように接離調整可能に構成されているようにしたので, 使用者の脚の長さ等に合わせて使用者の脚の希望する部分をフットレストのマッサ ージ具で良好にマッサージすることが可能になる(【0006】【0016】)。 2 引用発明における動機付けないし示唆の存在ついて (1) 引用例1(甲1)には,引用発明に関し,概略,次の記載がある。 ア オットマンは,座部の前端部に回動可能に設けたフレーム,アーム部,アー ム部に進退可能に装着したガイドレール,ガイドレールに固定された足受部,足受 部の狭持溝に設けられた空気袋を備え,足受部は,ガイドレールとともにフレーム のアーム部に沿って左右方向に移動可能となっている(【0020】図2)。 イ 足受部の底面にはスプリング受板が取り付けられ,スプリング受板と係止板 との間にスプリングが介在され,足受部がスプリングによって右方向へ移動するよ うに付勢されている。スプリング受板とフレームに設けた支持板部との間に空気袋 14 が配設され,空気袋の膨張によってスプリングの付勢力に抗して足受部を左方向へ 移動させていくものであり,その移動量は空気袋の膨張の度合いによって調整でき るようになっている(【0021】)。 ウ スイッチS1を操作して電磁弁を作動させると,エアコンプレッサと空気袋 とが連通し,空気袋が膨出することにより,足受部がスプリングの付勢力に抗して 左方向へ移動するので,足受部が丁度よい位置へきたらスイッチS1をオフにする。 足受部が左方向へ行きすぎた場合には,スイッチS2を操作して,空気袋を収縮さ せると,足受部がスプリングの付勢力により右方向へ移動するので,足受部の位置 を調整することができる(【0034】)。 (2) 以上の記載からすると,引用発明は,空気袋の膨張の度合いを調整すること によって,足受部の移動量を調整し,足受部の位置を丁度よい位置に調整するもの であるから,使用者の脚の長さ等に合わせて脚の希望する部分をマッサージするも のである本件発明とは,共通の課題を有しているといえる。 しかしながら,引用例1には,足受部の位置の調整に関しては,単体の足受部を フレームのアーム部に沿って所望の位置に移動させる構成が示されているのみであ り,足受部を分割し,これを個別に調整可能なものとすることについて,特段の記 載や示唆はないから,相違部分@ないしBに係る本件発明の構成に至る積極的な動 機付けや示唆があるということはできない。 3 引用例及び周知例等の記載事項について (1) 引用例2について ア 引用例2(甲11)には,概略,次の記載がある。 (ア) 本発明は,ベッド式椅子に関するものであり,使用者の各人の身体に適合 するように腰受け体等の各部を自由に伸縮かつ回動することができるものである。 (イ) ベッド式椅子は,座体と,座体に軸支され,かつ,腰受け体角度調整部材 により回動する腰受け体と,腰受け体に第1の水平杆を介し伸縮動可能に取り付け られ,かつ,背もたれ体角度調整部材により回動する背もたれ体と,背もたれ体に 15 第2の水平杆を介して伸縮動可能に取り付けられ,かつ,頭受け体角度調整部材に より回動する第1の頭受け体と,座体に第3の水平杆を介して伸縮動可能に取り付 けられ,かつ,第1の足受け体角度調整部材により回動する第1の足受け体と,第 1の足受け体に第4の水平杆を介して伸縮動可能に取り付けられ,かつ,第2の足 受け体角度調整部材により回動する第2の足受け体とからなる。 (ウ) 第1の足受け体伸縮動手段は,座体に横方向(第5図を基準)に固設され た駆動モータと,この駆動モータの突出する出力軸に設けられた駆動歯車と,この 駆動歯車とかみ合うように座体に並設された歯車と,この歯車と螺合し取付端部が 第3の水平杆の中央部に取り付けられた螺杆の左右に平行に取り付けられた2本の 案内杆からなり,同様に,第2の足受け体伸縮手段は,第1の足受け体に横方向(第 5図を基準)に固設された駆動モータと,この駆動モータの突出する出力軸に設け られた駆動歯車と,この駆動歯車とかみ合うように第1の足受け体に並設された歯 車と,この歯車と螺合し取付端部が第4の水平杆の中央部に取り付けられた螺杆の 左右に平行に取り付けられた2本の案内杆からなる。 イ 以上の記載からすると,引用例2記載のベッド式椅子は,第1の足受け体と 第2の足受け体を設けた構成であって,使用者の身体に適合するように,第1の足 受け体を座体に対して伸縮動させることができ,また,第2の足受け体も第1の足 受け体に対して伸縮動させることができるものであるが,椅子の状態では,第1の 足受け体は脚を支持し,第2の足受け体は足を支持するように構成されているから (第1図,第2図),第1の足受け体と第2の足受け体は,使用者の脚の長さに合 わせるために分割された構成であるとはいい難い。また,水平状態(第5図)以外 の角度では,第1の足受け体は前後方向(脚の長さ方向)に移動するものではない。 したがって,引用例2記載のベッド式椅子については,本件発明の固定フレーム, 第一スライドフレーム,第二スライドフレームに相当する部材を見いだすことはで きない。 この点に関し,原告は,第1の足受け体角度調整部材を構成している大支持板が 16 本件発明の固定フレームに,第3の水平杆が第一スライドフレームに,第4の水平 杆が第二スライドフレームにそれぞれ相当すると主張しているが,大支持板は座体 の前端下部に上下揺動自在に連結されたものではなく,また,第3の水平杆は大支 持板に対し前後に移動調整自在なものではないから,原告の主張を採用することは できない。 (2) 引用例3について ア 引用例3(甲5)には,概略,次の記載がある。 (ア) 本発明は,安楽椅子の脚支持台及び移動可能なその延長部を含む機構に関 するものである。脚支持台を作動させる周知の発明では,脚支持台の通常の位置が, 椅子を使用する可能性がある背の高い人に適応するほど十分に延ばされず,脚支持 台を延長可能な部分とともに形成し,延長可能な部分を椅子及び脚支持台に対して 移動させる手段を提供することが望ましい。 (イ) 脚支持台は,その下に固定された1対の溝付き角ブラケットを有し,これ に2対の作動アームがそれぞれ枢着される。各作動アームは,レバー又は第2のレ バーを介し,それぞれ座部に固定された一対の細長いブラケットに枢着される。ま た,溝付きブラケットには,延長部材が摺動可能に取り付けられ,脚支持用の延長 部が延長部材の外側端部に固定される。機構が引っ込められた位置にあるとき,脚 支持台は,座部の前縁の下で垂直位置になり,脚支持用の延長部は,脚支持台のす ぐ下及びそのすぐ隣で垂直位置になるが,座部を傾けると,機構は脚支持台を上方 外側に延ばすと同時に,脚支持用の延長部を脚支持台に対して前方に移動させる。 複数の作動レバー,連結部及びアームは,椅子の背もたれを倒す動きや,脚支持台 及び脚支持用の延長部の応答的な動作によって,それぞれの枢軸に対して移動する とき,互いの邪魔にならないように相互に位置決めされている。 イ 以上の記載からすると,引用例3記載の安楽椅子は,脚台を背の高い人に適 応するほど十分に延ばすために脚支持台と脚支持用の延長部とに分割した構成であ って,使用者の脚の長さに合わせて適宜の長さに調整するものではない。 17 また,その構造からすると,脚支持台は本件発明の第一フットレスト部に,脚支 持用の延長部は第二フットレスト部に相当するものであり,また,その機能に照ら すと,細長いブラケットとこれに枢着した作動アームは本件発明の固定フレームに, 溝付き角ブラケットは第一スライドフレームに,延長部材は第二スライドフレーム にそれぞれ対応するものであるが,細長いブラケット,作動アーム及び溝付き角ブ ラケットを介して座部と脚支持台を接続した構造は,リンク機構を利用したもので あり,溝付き角ブラケットがスライドして前後に移動する構造ではなく,また,脚 支持台と脚支持用の延長部は連動するものであるから,溝付き角ブラケットが本件 発明の第一スライドフレームに相当するということはできない。 (3) 引用例4について ア 引用例4(甲6)には,概略,次の記載がある。 (ア) 本発明は,座席用自動足乗せ装置に関するものである。 (イ) ラックの噛み合い位置の変更によって足乗せの位置を調節する従来の構造 では,ラックのピッチ毎の調節しかできなかったが,本発明は,位置調節を任意の 位置で行うことができるものである。 (ウ) 本発明の座席用自動足乗せ装置は,着座者の足を載置するフットレストを, 基部側部材と可動側部材とに分割あるいは積層構造によって前後方向に伸縮可能な 構造とし,少なくとも座席のシートボトムと床面間に収納可能な載置面縮小手段を 構成するとともに,フットレストの基部側部材の後端部及び先端部を,それぞれシ ートボトム下部の脚間から電動駆動機構によってシートボトムの前方に出退するよ うに構成した支持ロッドの先端部に枢着し,支持ロッドの出退量の相違によってフ ットレストの載置面を突出時にはほぼ水平に担持し,後退時には座席の脚部前面に 沿ってほぼ鉛直に担持する担持方向変更支持手段を構成するとともに,担持方向変 更支持手段とフットレストの載置面縮小手段をリンク機構等によって協働せしめる ことを要旨とするものである。 (エ) 本発明のフットレストは,乗客用座席のシートボトムを支承したシートフ 18 レームに担持する構造であり,シートフレームに対して軸受部材を介して揺動自在 に軸設した揺動プレートには,ガイドローラに対して摺動自在に上部支持ロッド及 び下部支持ロッドを枢設し,上部支持ロッド及び下部支持ロッドの先端は,フット レストの基部側部材の底面に固設したガイドブラケットの各端部と揺動自在に枢着 する。また,フットレストの基部側部材の下面において,前後方向に架設したガイ ドレールには,可動側部材の下面に架設した摺動レールを摺動自在に嵌合する。 イ 以上の記載からすると,引用例4記載の座席用自動足乗せ装置は,フットレ ストの使用面を拡大するために基部側部材と可動側部材とに分割したものというこ とができ,使用者の脚の長さに合わせて適宜の長さに調整できる構造ではあるが, 基部側部材の底面に固設したガイドブラケットと可動側部材の下面に架設した摺動 レールが摺動自在に嵌合されたガイドレールは,上部支持ロッド等に対し,スライ ドして前後に移動する構造ではなく,また,基部側部材と可動側部材はフットレス ト全体の揺動に連動して移動するものであり,それぞれ個別にその位置を調整する ことはできないから,引用例4には,本件発明の第一スライドフレーム及び第二ス ライドフレームに相当する部材は見当たらない。 (4) 引用例5について ア 引用例5(甲7)には,概略,次の記載がある。 (ア) 本発明は,座席の前端部にレッグレスト本体を垂れ下がった状態の格納姿 勢と斜め前方へ引き上げた状態の展開姿勢とに揺動可能に支持して成る座席用のレ ッグレスト装置において,レッグレスト本体に,フットレスト本体をレッグレスト 本体側に収納された状態の収納位置と,レッグレスト本体側から突出した状態の使 用位置とに移動可能に支持したことを特徴とする座席用のレッグレスト装置であり, 具体的には,レッグフレームとレッグクッションとからなるレッグレスト本体をボ トムフレームに揺動可能に支持し,レッグフレームに設けられたスライドレールに レッグクッションに設けられたガイド部材を嵌着し,フットフレームをレッグフレ ームに設けられたガイド部材に前後移動可能に嵌合するとともに,フットレスト本 19 体をフットフレームに揺動可能に枢着するものである(【0001】【0004】 【0012】〜【0017】)。 (イ) フットレスト本体を前方に押し出すようにすると,フットレスト本体が, 当初に突出した状態の使用位置から更に前方に移動し,その使用位置を調整するこ とができる(【0021】)。 イ 以上の記載からすると,引用例5記載の座席用のレッグレスト装置は,レッ グレスト本体とフットレスト本体を設ける構成であり,その機能に照らし,レッグ フレームが本件発明の固定フレームに,ガイド部材が第一スライドフレームに,フ ットフレームが第二スライドフレームにそれぞれ対応するものであるが,フットフ レームは,レッグフレームに対し前後方向に移動可能な構造であって,ガイド部材 に対して前後方向に移動可能な構造とはなっていないから,フットフレームは,本 件発明の第二スライドフレームに相当するということはできない。 なお,原告は,レッグフレームの基端部の両端に固着された連結ブラケットが本 件発明の固定フレームに,レッグフレームの両側枠が第一スライドフレームにそれ ぞれ相当すると主張しているが,レッグフレームがボトムフレームの前端に回動可 能に連結されスライドレールを介してレッグクッションを支持し,レッグクッショ ンにガイド部材が固着されている構造からすると,レッグフレームが本件発明の固 定フレームに対応するものであり,ガイド部材が第一スライドフレームに対応する ものであると認めるのが相当であるから,原告の主張は採用できない。 (5) 周知例1について ア 周知例1(甲3)には,概略,次の記載がある。 (ア) 本発明は,肘掛けと背もたれを有する椅子又は寝椅子からなる。 (イ) 脚掛けは,広げられ又は長さを調節することができ,使用されないときは 座部枠の中に折り畳むことができるように,伸縮自在ないくつかの摺動部で形成さ れている。摺動部には,横方向の強化ボルトの端部を受け入れるように長手方向に 溝が付けられ,この端部が摺動部を案内する役目を果たしている。また,内側の摺 20 動部は座部枠に接続され,外側の摺動部は,その前方端部に,脚掛けが座部枠の中 に折り畳まれたときに脚掛けが占有する開口部の前部を閉じる働きをするバーを有 している。 イ 以上の記載からすると,周知例1記載の椅子又は寝椅子は,本件発明のフッ トレストに相当する脚掛けを分割した構成を有し,また,その座部枠は,本件発明 の座部を構成し,内側の摺動部は第一スライドフレーム又は第一フットレスト部に, 外側の摺動部は第二スライドフレーム又は第二フットレスト部にそれぞれ相当する ものであるが,本件発明の固定フレームに相当する部材は見当たらない。 (6) 周知例2について ア 周知例2(甲4)には,概略,次の記載がある。 (ア) 本発明は,乗物用の座席装置に関するものである(【0001】)。 (イ) 座部の前端部には,支持アームによりレッグレスト本体が垂下状態と水平 状態とに回動可能に支持されている。レッグレスト本体は,メインレスト体にサブ レスト体が伸縮可能に支持されてなり,メインレスト体のガイドレールにサブレス ト体のスライドが伸縮方向へ移動可能に嵌合している。レッグレスト本体が水平状 態に回動すると,レッグレスト駆動機構の駆動アームが中継リンクの一端部を後方 へ引くようになり,それにより,中継リンクの他端部が前方へ変位して,サブレス ト体がメインレスト体に対して前方へ伸びるようになる【0029】0036】。 ( 【 ) イ 以上の記載からすると,周知例2記載の乗物用の座席装置のレッグレスト本 体は,メインレスト体,サブレスト体に分割されたものであるが,使用者の脚の長 さに合わせて長さを調節する構成とはされていない。また,座席装置の構造からす ると,メインレスト体は本件発明の第一フットレスト部に,サブレスト体は第二フ ットレスト部に相当するものであり,その機能に照らすと,支持アームは固定フレ ームに,ガイドレールは第一スライドフレームに,スライドは第二スライドフレー ムにそれぞれ対応するものであるが,ガイドレールは支持アームに対して前後移動 自在なものではなく,第一スライドフレームに相当するということはできない。 21 (7) 周知例3について 周知例3(甲8)には,流体圧の給排により伸縮作動を繰り返す一対の指圧筒を 有する指圧装置A,B,Cを,利用者の脚の大腿部,ふくらはぎ部,頸部及び足部 を指圧するように指圧台に配置したものが記載されている。 (8) 周知例4について 周知例4(甲9)には,患部を緩く包囲する堅固な殻体の内部に複数のエアーバ ッグを取り付けたエアーバッグ式圧迫治療器が記載されている。 (9) 周知例5について 周知例5(甲10)には,マット部に肩用袋体,背中用袋体,尻用袋体,左脚用 膝部袋体,右脚用膝部袋体,左脚用脛部袋体及び右脚用脛部袋体を配置したエアー マッサージ機が記載されている。 (10) 甲30(特開平8−80230)について 甲30は,脚支持部と足裏支持部からなるフットレストを有する鉄道車両用回転 式腰掛けに関する公開特許公報であり,フットレストにマッサージ機を内蔵させる ことができる旨の記載がある(【0042】)。 (11) 甲31(特公昭44−13638)について 甲31は,椅子に指圧頭部を有する多数の蛇腹状の伸縮筒を配設した指圧装置に 関する特許公報であり,当該装置を大腿部から脚にかけて24点配置する旨の記載 がある。 4 引用例及び周知例に記載された事項又は周知技術の適用について (1) 前記3(1)ないし(6)のとおり,引用例2には,第1の足受け体と第2の足受 け体を設ける構成,引用例3には,脚台を脚支持台と脚支持用の延長部とに分割し た構成,引用例4にはフットレストを基部側部材と可動側部材とに分割した構成, 引用例5にはレッグレスト本体とフットレスト本体を設ける構成,周知例1には脚 掛けを分割した構成,周知例2には,レッグレスト本体をメインレスト体とサブレ スト体とに分割した構成がそれぞれ記載されており,本件特許出願当時,脚又は足 22 を支持する手段を分割する構成は,周知の技術であったということができる。 また,前記3(7)ないし(11)のとおり,周知例3ないし5並びに甲30及び31の 各記載からすると,本件特許出願当時,脚に複数のマッサージ具を分割して配置す る構成も周知の技術であったということができる。 しかるに,引用例2ないし5並びに周知例1及び2自体は,椅子,乗物用座席あ るいはベッド式椅子等に関するものであり,その脚又は足を支持する手段を分割す る構成は,使用者の脚の長さ等に合わせて脚の希望する部分をマッサージするとい う本件発明と共通の課題に基づくものではないから,引用発明に上記各周知技術を 適用することにより,引用発明の足受部を分割し,分割された足受部にそれぞれマ ッサージ機能を備えた構成とすることが,当業者にとって,容易に想到し得るもの であるとまではいい難い。 (2) さらに,分割したフットレストについて,相違部分A及びBに係る本件発明 の構成,すなわち,固定フレームに対して前後に移動調整自在である第一スライド フレームと,第一スライドフレームに対して前後に移動調整自在である第二スライ ドフレームを設け,第一フットレスト部は第一スライドフレームに,第二フットレ スト部は第二スライドフレームにそれぞれ固着し,フットレストが前方へ突出して いる状態で,各フットレスト部が全体として座部に対して前後に接離調整可能であ り,かつ,第二フットレスト部が第一フットレスト部に対して前後方向に接離調整 することも可能とする構成を設けることについては,引用例2ないし5並びに周知 例1及び2のいずれにおいても開示されておらず,これらの引用例及び周知例から, 本件発明の上記構成が周知技術に属するものと認めることはできないし,この構成 が公知であったと認めることもできない。 (3) また,本件発明は,上記構成を採用することにより,座部に対して上下揺動 自在なものとして連結されている固定フレームを所望の角度にした状態で,第一フ ットレスト部及び第二フットレスト部について,それぞれ個別にその位置を調整す ることが可能となり,その結果,使用者の脚の長さ等に合わせて使用者の脚の希望 23 する部分をフットレストのマッサージ具で良好にマッサージすることが可能になる という格別の効果を奏するものであり,相違部分A及びBに係る本件発明の構成が 設計事項であるとも認められない。 (4) 原告の主張について 原告は,引用発明に引用例2ないし5並びに周知例1及び2に記載された周知技 術,引用例2記載の発明又は引用例3ないし5記載の発明を適用することにより, 当業者は本件発明を容易に想到することができると主張しているが,以上の検討に よれば,引用発明において,足受部を分割し,分割したそれぞれの部材にマッサー ジ機能を備えた上,さらに,足受部を所望の角度にした状態で,分割した各足受部 の位置を個別に調整することができるような構成とすることは,当業者が容易に想 到することができたものであるということはできず,原告の主張はいずれも理由が ない。 5 結論 以上の次第であるから,原告主張の取消事由は理由がなく,原告の請求は棄却さ れるべきものである。 知的財産高等裁判所第4部 裁判長裁判官 滝 澤 孝 臣 裁判官 部 眞 規 子 裁判官 齋 藤 巌 24 (別紙) 当事者目録 原 告 株 式 会 社 フ ジ 医 療 器 同訴訟代理人弁護士 畑 郁 夫 重 冨 貴 光 田 真 司 黒 田 佑 輝 辻 本 希 世 士 辻 本 良 知 笠 鳥 智 敬 松 田 さ と み 同 弁理士 辻 本 一 義 森 田 拓 生 神 吉 出 大 本 久 美 丸 山 英 之 坂 元 孝 之 被 告 フ ァ ミ リ ー 株 式 会 社 同訴訟代理人弁護士 三 山 峻 司 井 上 周 一 木 村 広 行 松 田 誠 司 同 弁理士 角 田 嘉 宏 古 川 安 航 浦 利 之 下 村 裕 昭 25 山 田 久 就 高 田 聰 26 |