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事件 平成 23年 (行ケ) 10080号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2011/11/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年11月30日判決言渡

平成23年(行ケ)第10080号 審決取消請求事件

口頭弁論終結日 平成23年9月28日

判 決



原 告 シ ャ ー プ 株 式 会 社



訴訟代理人弁理士 原 謙 三

同 小 池 隆 彌

同 福 井 清

同 黒 田 敏 朗

同 今 野 信 二



被 告 特 許 庁 長 官



指 定 代 理 人 竹 井 文 雄

同 田 部 元 史

同 萩 原 義 則

同 芦 葉 松 美

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2010−17603号事件について平成23年1月25日にした

審決を取り消す。




第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成15年3月7日に出願した特許出願(特願2003−61124号)

の一部について,平成16年3月22日に,新たな特許出願(特願2004−83

650号。以下「本願」という。)として出願したが,平成22年4月26日付け

拒絶査定を受け,同年8月5日,これに対する不服の審判(不服2010−17

603号事件)を請求すると同時に手続補正書(甲9)を提出し,同年9月21日,

拒絶理由通知を受け,同年11月29日付けで手続補正書(甲5)を提出した。特

許庁は,平成23年1月25日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決

(以下「審決」という。)をし,その謄本は同年2月8日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲

平成22年11月29日付け補正後の本願の特許請求の範囲における請求項1の

記載は次のとおりである(甲5。以下,この発明を「本願発明」という。)。

「本体部と蓋体部を連結部により折畳み可能に連結して機器本体と成し,本体部

の折畳み内面側に数字等の入力キー部を,本体部の折畳み外面側にカメラを設け,

開いた状態でも折り畳んだ状態でも撮影可能な,開いた状態では縦長に持って使用

するカメラ付き携帯電話機において,

開いた状態で撮影するためのシャッターボタンを前記入力キー部に備え,

折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタンを前記本体部の

右側面に備え,

前記カメラは折畳み外面であって前記連結部に近い位置に配置し,

前記開いた状態で撮影するためのシャッターボタンは前記折畳み内面であって前

記連結部に近い位置に配置し,

前記折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタンは前記右側

面であって前記連結部の反対端に近い位置に配置したことを特徴とする携帯電話

機。」




3 審決の理由

(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,本件優先日前に日

本国内において頒布された刊行物である「A5303H,ケータイベスト,日本,

ソフトバンクパブリッシング株式会社,2003年2月15日,Vol.12,第

74頁」(甲1。以下「引用例1」という。判決注 その一部について,「別紙引

用例1」として添付した。)に記載された発明(以下「引用例1発明」という。),

本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開平10−33649

8号公報(甲2。以下「引用例2」という。判決注 その一部について,「別紙引

用例2」として添付した。),本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物

である特開2002−300237号公報(甲3。以下「引用例3」という。)及

び本件優先日前に日本国内において頒布された刊行物である特開2002−305

566号公報(甲4。以下「引用例4」という。)の開示事項に基づいて当業者が

容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特

許を受けることができないというものである。

(2) 上記判断に当たり,審決が認定した引用例1発明の内容,引用例2ないし4

の開示内容並びに本願発明と引用例1発明との一致点及び相違点は,以下のとおり

である。

ア 引用例1発明の内容及び引用例2ないし4の開示内容

(ア) 引用例1発明の内容

「本体部と蓋体部をヒンジ部により折畳み可能に連結して機器本体と成し,本体

部の折畳み内面側に数字等の入力キー部を,ヒンジ部にカメラを設け,開いた状態

でも折り畳んだ状態でも撮影可能な,開いた状態では縦長に持って使用するカメラ

付き携帯電話機において,

開いた状態で撮影するためのシャッターボタンを前記入力キー部に備え,

折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタンを前記本体部の外面の中央付

近に備え,




開いた状態で撮影するためのシャッターボタンは前記折畳み内面であって前記ヒ

ンジ部に近い位置に配置した携帯電話機。」

(イ) 引用例2の開示内容

「本体部と蓋体部を連結部により折畳み可能に連結して機器本体と成し,機器本

体にカメラを設け,折り畳んだ状態で撮影可能な,カメラ付き携帯電話機において,

折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタンは,本体部の側

面であって,右手の人差し指で操作する位置に配置すること」

(ウ) 引用例3,4の開示内容

「本体部と蓋体部を連結部により折畳み可能に連結して機器本体と成したカメラ

付き携帯電話において,カメラを本体部の折畳み外面であって連結部に近い位置に

配置すること」

イ 本願発明と引用例1発明との対比

(ア) 一致点

「本体部と蓋体部を連結部により折畳み可能に連結して機器本体と成し,本体部

の折畳み内面側に数字等の入力キー部を,機器本体にカメラを設け,開いた状態で

も折り畳んだ状態でも撮影可能な,開いた状態では縦長に持って使用するカメラ付

き携帯電話機において,

開いた状態で撮影するためのシャッターボタンを前記入力キー部に備え,

折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタンを前記本体部に備え,

前記開いた状態で撮影するためのシャッターボタンは前記折畳み内面であって前

記連結部に近い位置に配置した携帯電話機。」

である点。

(イ) 相違点1

「カメラ」について,本願発明では,「本体部の折畳み外面であって連結部に近

い位置に配置」されるのに対して,引用例1発明では,「ヒンジ部に配置」される

ものである点。




(ウ) 相違点2

「折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタン」について,本願発明では,

「横長に持って撮影するための」ものであり,「本体部の右側面であって連結部の

反対端に近い位置に配置」されるのに対して,引用例1発明では,「本体部の外面

の中央付近に配置」されるものである点。

第3 当事者の主張

1 取消事由に係る原告の主張

審決には,(1)引用例1発明の内容,本願発明と引用例1発明との一致点及び相違

点の各認定の誤り(取消事由1) (2)引用例2の開示内容についての認定の誤り
, (取

消事由2),(3)相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3),(4)相違点

2に係る容易想到性判断の誤り(取消事由4,5)があり,審決は取り消されるべ

きである。

(1) 引用例1発明の内容,本願発明と引用例1発明との一致点及び相違点の各認

定の誤り(取消事由1)

ア 引用例1発明の内容についての認定の誤り

(ア) 審決は,引用例1発明について「折り畳んだ状態で撮影するためのシャッタ

ーボタンを前記本体部の外面の中央付近に備え,」と認定する。

しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。すなわち,引用例1には,審

決が認定した事項は,示されていない。折り畳んだ状態で撮影するとき「シャッタ

ー」として使用される「サブソフトキー」は,入力キーを有する部分(本願発明の

本体部分)ではなく,ディスプレイが設けられた蓋部分(本願発明の「蓋体部」に

該当)の背面に設けられている。

(イ) 審決は,「引用例1の図面から明らかなように,本体部の折り畳み内面であ

ってヒンジ部に近い位置にはセンターキーが設けられており,折り畳み可能なカメ

ラ付き携帯電話機において,開いた状態で撮影するためのシャッターボタンとして

入力キー部のセンターキーを用いることは技術常識である」ことを前提として,引




用例1は,「開いた状態で撮影するためのシャッターボタンを前記入力キー部」に

備えていると認定する。

しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。すなわち,@引用例1には2

重円形のボタン様のものが図示されているが,どれがセンターキーであるか,どれ

がシャッターキーであるかは不明であり,A「折り畳み可能なカメラ付き携帯電話

機において,開いた状態で撮影するためのシャッターボタンとして入力キー部のセ

ンターキーを用いること」が技術常識であるとの根拠はない。なお,引用例3,4

の図1には,「OK キー6」が図示されているが,「OK キー6」は,シャッターボタ

ンとして使用されていない。

イ 本願発明と引用例1発明との一致点及び相違点の認定の誤り

本願発明の構成中,「折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタンを前記

本体部・・・に備えた」との構成,「(前記)開いた状態で撮影するためのシャッ

ターボタンは前記折り畳み内面であって前記連結部に近い位置に配置した」との構

成は,引用例1に記載されていない。したがって,審決が,これらの点を相違点と

して認定しなかった点には誤りがある。

審決では,引用例1発明について,「本体部と蓋体部をヒンジ部により折畳み可

能に連結して機器本体と成し,本体部の折り畳み内面側に数字等の入力キー部を,

ヒンジ部にカメラを設け,」とカメラが配置された位置を認定している。しかし,

「機器本体」の語は,「本体部,蓋体部,ヒンジ部」の全体を指す語として用いら

れているにすぎず,引用例1では,シャッターボタンが配置された位置は,特定さ

れていない。

(2) 引用例2の開示内容についての認定の誤り(取消事由2)

ア 審決は,引用例2に,「折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャ

ッターボタンは,本体部の側面であって,右手の人差し指で操作する位置に配置す

る」との記載を根拠として,「本体部」に,シャッター30が設けられていると認

定している。




しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。すなわち,引用例2の図5及

び段落【0028】を参照すると,蓋部33のLCD13aにダイヤルキーや電話

番号,電話帳が表示されている。他方,本願発明では,「本体部」には「折畳み内

面側に数字等の入力キー部」を設けることとしていることから,引用例2のシャッ

ターボタンが設けられた部材は,本願発明における「本体部」には該当しない。

イ 審決は,引用例2の内容について,「シャッター部」と「連結部」との位置

関係を認定していない。

しかし,引用例2の図2,図3,図4等の記載によれば,引用例2では,「折り

畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタン」は,「連結部に近い

位置」に設けられていると認定されるべきである。

(3) 相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3)

審決は,相違点1に係る構成について,「引用例1発明において,カメラを『ヒ

ンジ部』に配置することに代えて,『本体部の折畳み外面であって連結部に近い位

置に配置』することは,引用例3,4の開示事項を適用することにより容易になし

得たことである。」と判断した。

しかし,審決の上記判断は,以下のとおり,誤りがある。すなわち,

引用例1には,「34万画素を誇るVGA対応のカメラは,ヒンジ部分に搭載。

180度回転できるようになっている。回転式を採用することで,開いた状態でも

閉じた状態でも,通常の撮影とセルフショットが可能だ。」(甲1,74頁本文左

欄18行〜同右欄3行)との記載がある。この記載は,カメラをヒンジ部分に搭載

することによって,1つのカメラによって開いた状態でも閉じた状態でも,通常の

撮影とセルフショットが可能なカメラを実現していることを意味しており,この点

が引用例1に記載の携帯電話機が目指した重要な機能ないし特徴点であることが理

解される(判決注 当事者の主張において,「カメラ」の語は,「撮影機」そのも

のを指す場合と「撮影機中のレンズ等が含まれた受光部分」を指す場合の両者に用

いられている。本判決においても,そのような用例に従って表記することとする。)




引用例3,4には,本件審決が認定したとおり「本体部と蓋体部を連結部により

折畳み可能に連結して機器本体と成したカメラ付き携帯電話において,カメラを本

体部の折畳み外面であって連結部に近い位置に配置すること」が開示されている。

仮に,引用例1に開示の発明に対して引用例3,4に開示の事項を適用すること

を想定すると,引用例1に記載された携帯電話機において,カメラは,ヒンジ部に

配置されるのではなく,「本体部の折畳み外面であって連結部に近い位置」に配置

されることになる。ところが,カメラを上記のように「本体部の折畳み外面であっ

て連結部に近い位置」に配置すると,引用例1に開示された携帯電話機が目指した

1つのカメラによって開いた状態でも閉じた状態でも,通常の撮影とセルフショッ

トが可能であるという重要な機能ないし特徴点が実現されにくくなる。

引用例1に開示された携帯電話機において,カメラを本体部の折畳み外面に設け

た場合,携帯電話機を開いた状態で自分を撮影しようとすると,本体部の折畳み外

面に設けたカメラを自分に向ける必要があることから,携帯電話機を裏返す等の持

ち替えが必要となり,また,閉じた状態でファインダーとなる背面液晶は,開いた

状態でファインダーとして使用すると上下逆となることから,そのままの状態では

この背面液晶をファインダーとして使用することが困難になる。即ち,引用例1に

開示の発明に対して引用例3,4に開示の事項を適用した場合,引用例1に記載の

携帯電話機が有していた「開いた状態でも閉じた状態でも,通常の撮影とセルフシ

ョットが可能」という重要な機能が制限される。

以上のとおり,本願発明は,引用例1,引用例2ないし4,その他技術常識ない

周知技術から,当業者が容易に想到し得たものではない。

(4) 相違点2に係る容易想到性判断の誤り−その1(取消事由4)

ア 引用例1に開示された携帯電話機は,ヒンジ部にカメラを設け,開いた状態

でも閉じた状態でも撮影可能な携帯電話機である。そして,引用例1に開示された

携帯電話機において,閉じた状態で撮影するためのシャッターボタンは,本願発明

の蓋体部に相当する部分に設けられていることは,前記のとおりである。




引用例1には,開いた状態で縦方向にした写真16について,「内蔵カメラ」の

説明があり,閉じた状態で縦方向にした写真17について,シャッターキーとして

使用できる「サブソフトキー」に関する説明がある。もし,携帯電話機をカメラと

して使用する際に,横方向に把持して使用することを想定しているのであれば,カ

メラとして非常に重要な部品である「シャッター」について説明する写真は,当然

に携帯電話機を使用状態と同じ横方向にした写真を用いることが自然であると考え

られる。したがって,この引用例1に開示された携帯電話機は,閉じた状態でカメ

ラとして使用する際には,縦方向に把持して使用するカメラを想定していると判断

することができる。

また,引用例1に開示のカメラ付きの携帯電話機では,カメラは,閉じた状態の

携帯電話機の端部に極めて近いヒンジ部に設けられている。この引用例1に開示の

カメラ付きの携帯電話機を,横方向に倒して構えることを想定すると,大多数の人

は横方向に倒した携帯電話機の両端部分を手で把持することになる。しかし,両端

部分を手で把持すると,ヒンジ部に設けたカメラ(レンズ部分)を手で覆ってしま

う危険性があり,カメラとしての機能を害することになる。

以上の点からも,引用例1に開示されたカメラ付きの携帯電話機では,少なくと

も閉じた状態では縦方向に把持して使用するカメラとして設計されていると判断す

ることが妥当である。

イ 一方,引用例2には,図3〜図6と共にファインダー方式の電子スチルカメ

ラとして使用できる通信機能を備えた複合機器であって,ファインダー32とカメ

ラが設けられた部分と蓋部33を連結部により折畳み可能に連結した複合機器が開

示されおり,閉じた状態で使用するシャッターボタンを,前記「ファインダー32

とカメラが設けられた部分」の側面であって前記連結部に近い側に設けたものが示

されている。

そして,引用例2においては,「一般的に,カメラの操作(シャッターキーの押

下)は右手で行なわれ,電話(ハンドセット)の操作は左手で行なわれる。」こと




を考慮した上で,「それぞれの機能の操作がスムーズに行なわれるように,従来の

操作形態を引き継ぎ,その使用用途に対する把持形態を考慮して,各種スイッチの

配置」を決定していることが分かる。

即ち,引用例1に開示された携帯電話機では,ヒンジ部にカメラが設けられてい

ることを前提にして,縦方向に構えて使用するカメラの使い勝手が良くなるように,

シャッターを本願発明の蓋体部に相当する部分に設けているのに対して,引用例2

に開示された複合機器では,ファインダーを備えたカメラを前提にしてカメラの使

い勝手が良くなるようにシャッターの位置を決めているものであり,両者は,設計

思想において相違する。

引用例1に対して,これとは全く設計思想を異にする引用例2に開示の技術を適

用することは,当業者といえども容易に推考し得ることではない。

また,引用例1に開示の携帯電話機に対して,引用例2を適用して,シャッター

を本体部の側面の連結部に近い位置に移したと仮定し,“ヒンジ部にカメラが備え

られた携帯電話機”を横方向に把持してカメラとして使用することを考えると,ヒ

ンジ部に設けられたカメラ部分を手で覆ってしまう危険性が高くなり,しかも,連

結部であるヒンジ部の近くに設けられることになるシャッターを操作する必要があ

る等,カメラとしての使い勝手が悪くなる。よって,引用例1に引用例2を適用す

ることは,容易とはいえない。

(5) 相違点2に係る容易想到性判断の誤り−その2(取消事由5)

ア 引用例1,引用例2のいずれにも,本願発明の構成要件の一部である「折り

畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタン」を「連結部の反対端

に近い位置に配置」することは示されていない。したがって,引用例1に開示の発

明に,引用例2に開示の技術的事項を適用して,相違点2に係る構成に至ることが

容易であるとした審決の判断には,誤りがある。

イ 本願の出願当時,カメラを備えた携帯電話機において,横方向に構えて撮影

することを意図した携帯電話機は一般的ではなかった。したがって,携帯電話機を




横長に持つときに連結部をどちらに向けるようにするかは,当業者が設計に際して

適宜決定すべき事項ではなかった。

また,仮に「携帯電話機を横長に持つときに連結部をどちらに向けるようにする

かは,当業者が設計に際して適宜決定すべき事項である」ことを前提としても,「折

り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタン」を「本体部の右側

面であって連結部の反対端に近い位置に配置」することが当業者において,容易で

いあるとはいえない。

2 被告の反論

(1) 引用例1発明の内容,本願発明と引用例1発明との一致点及び相違点の各認

定の誤り(取消事由1)に対して

審決において,「摘記事項ロ及び図面を参照すれば,折り畳んだ状態で撮影する

ためのシャッターボタンは,『本体部』の外面の中央付近に配置されていることが

把握できる。」との認定した点は,「『蓋体部』の外面の中央付近」と認定される

べきであり,この点の認定には,誤りがあった。したがって,引用例1発明の認定

の「折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタンを前記本体部の外面の中央

付近に備え,」という事項は,「 折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタ

ンを前記蓋体部の外面の中央付近に備え,」とすべきものである。しかし,この点

の誤りは,審決の対比,判断を左右するものではなく,審決の結論に影響しない。

(2) 引用例2の開示内容についての認定の誤り(取消事由2)に対して

引用例2の複合機器は,本体部と蓋体部を連結部により折畳み可能に連結したも

のであり,蓋体部33には,LCD13a設けられており,本体部には,カメラ,

シャッターボタン30,操作キー34,十字キー35等が設けられている。LCD

13aは,ダイヤルキーや電話番号,電話帳を表示するものではあるが,「入力キ

ー」として機能するものではない。引用例2において,「入力キー」として機能す

るのは,本体部の「操作キー34」,「十字キー35」であり,引用例2のシャッ

ターボタンが設けられた部材は,本願発明の「本体部」に該当するものである。引




用例2の図2を参照すれば,蓋体部33には,LCD13aが設けられており,本

体部には,カメラ,シャッターボタンが設けられている。

審決では,本体部と蓋体部を連結部により折畳み可能に連結したものについて,

「機器本体」の名称を用いており,「機器本体」にカメラが設けられているとの認

定に誤りはない。また,「折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッタ

ーボタンは,本体部の側面であって,右手の人差し指で操作する位置に配置するこ

と」との審決の認定についても,誤りはない。

審決では,引用例2の開示内容として,「『シャッター部』と『連結部』との位

置関係」について認定していない。しかし,相違点2に係る容易想到性判断におい

て,引用例2の「『シャッター部』と『連結部』との位置関係」を前提としている

ことから,明示的に認定しなかったことが,審決の違法を来すものとはいえない。

(3) 相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3)に対して

カメラ付き携帯電話機,及び電子スチルカメラの技術分野において,通常の撮影

に加えてセルフショットを可能にすることは,ありふれた技術課題である。

折り畳み可能なカメラ付き携帯電話機は,折畳み外面側にカメラ(アウトカメラ)

を設けて通常の撮影を行うものが一般的であり,セルフショット(自分撮り)用に,

折畳み内面側に別のカメラ(インカメラ)を設けることが行われていた。乙3の3

4頁,40頁によれば,携帯電話機「F504iS」及び「P504iS」は,ア

ウトカメラとインカメラとを備えており,折り畳み可能なカメラ付き携帯電話機に

おいて,アウトカメラとインカメラとを設けるようにすることは周知技術であると

いえる。

引用例1発明では,通常の撮影に加えてセルフショットを可能にするために,通

常の撮影用のカメラとは別のセルフショット用のインカメラを設けることに代え

て,ヒンジ部分に回転可能なカメラを1つ設けるようにしたものであり,1つのカ

メラで通常の撮影とセルフショットが可能となるという優れた効果を有するもので

あるが,そのためにヒンジ部の構成が複雑化し,また,ヒンジ部の小型化が困難と




なるというマイナス面も有する。

したがって,通常の撮影とセルフショットとを可能にするために,周知技術のよ

うにアウトカメラとインカメラの2つのカメラを設けるか,引用例1のように回転

可能な1つのカメラを設けるかは,当業者が容易に選択できた事項であるといえる。

引用例3,4には,カメラの配置として,本体部の折畳み外面であって連結部に

近い位置とすることが開示されており,このカメラはアウトカメラといえるから,

アウトカメラとインカメラとを設ける構成を選択したときに,アウトカメラを本体

部の折畳み外面であって連結部に近い位置とすることに格別の困難はない。

開いた状態では,アウトカメラとインカメラを使用可能であり,通常の撮影とセ

ルフショットが可能であり,閉じた状態では,インカメラは使用できないが,アウ

トカメラにより通常の撮影とセルフショットが可能であるから,引用例1の回転可

能な1つのカメラに代えて,アウトカメラとインカメラとの構成を採用した場合に

も,「開いた状態でも閉じた状態でも,通常の撮影とセルフショットが可能」とい

う引用例1の携帯電話機が有していた機能を有している。

したがって,引用例1の携帯電話機に引用例3,4の開示事項を適用しても,引

用例1の携帯電話機が有していた「開いた状態でも閉じた状態でも,通常の撮影と

セルフショットが可能」という機能を有するものであるといえるので,折り畳み可

能なカメラ付き携帯電話機において,アウトカメラとインカメラとを設けるように

することが前述のとおり周知技術であることを考慮すれば,引用例1発明に引用例

3,4の開示事項を適用することに原告が主張するような阻害要因は存在せず,ヒ

ンジ部の小型化等別の観点から,当業者が容易になし得たことである。

(4) 相違点2に係る容易想到性判断の誤り−その1(取消事由4)に対して

ア 引用例1の携帯電話機は,開いた状態でも閉じた状態でも,撮影できるもの

であり,閉じた状態では背面液晶をファインダーとして使用し,背面のボタンをシ

ャッターとして使用するものである。そして,閉じた状態で撮影する場合に,縦方

向に構える必然性はなく,どのような方向に構えても撮影可能である。




一方,引用例2の複合機器は,本体部と蓋体部が折り畳み可能に連結されており,

開いた状態でも閉じた状態でも撮影できるものであり,閉じた状態ではファインダ

ーを使用して撮影し,本体部側面のシャッターボタンを使用するものである。

引用例2の段落【0026】には,「当該複合機器をファインダー方式の電子ス

チルカメラとして使用する場合には,図3に示すように,LCD13aが設けられ

ている蓋部33を閉じて右手で本体右側を把持する。言い換えると,通常のカメラ

を把持する状態と同じである。」と記載されており,右手で本体右側を把持して撮

影するものであり,通常のカメラのように,横方向だけでなく,どのような方向に

構えても撮影可能である。両者は,シャッターボタンの位置は相違するものの,開

いた状態でも閉じた状態でも撮影でき,閉じた状態でファインダーを使用する点で

共通する。両者は,設計思想において相違するとする原告の主張は,失当である。

イ 通常のカメラは,使用者から見て本体の右側を右手で把持して,右手の人差

し指でシャッターボタンを操作する。引用例2の図3では,ヒンジ部(連結部)を

使用者から見て本体の右側に配置しているが,このような場合には,カメラを手で

覆わないように,ヒンジ部にはカメラを設けないようにすることは,当然の設計と

いえる。引用例2では,カメラの位置は使用者から見て,本体の左寄りに配置され

ている。以上によれば,引用例1に引用例2を適用することにより,シャッターボ

タンを「本体部の右側面であって連結部の反対端に近い位置に配置」することに,

阻害要因はない。

(5) 相違点2に係る容易想到性判断の誤り−その2(取消事由5)に対して

電子スチルカメラの分野においては,カメラを横方向に構えて撮影することや,

カメラにファインダーを設けることは通常のことであり,電子スチルカメラの技術

常識及び周知技術である。引用例1の携帯電話機と引用例2の複合機器は,折り畳

み可能な機器であり,開いた状態でも閉じた状態でも撮影でき,閉じた状態でファ

インダーを使用する点という基本的な構成で共通するものであって,カメラを横方

向に構えて撮影することが,電子スチルカメラの技術常識及び周知技術からすれば




一般であることを考慮すれば,引用例2の「折り畳んだ状態で横長に持って撮影す

るためのシャッターボタンは,本体部の側面であって,右手の人差し指で操作する

位置に配置する」という開示内容を引用例1に適用することは当業者にとって容易

であるといえる。

引用例2の複合機器は,電子スチルカメラとして使用する場合は,通常のカメラ

のような操作をすることを前提としており,カメラ付き携帯電話機の分野の当業者

は,電子スチルカメラの技術常識及び周知技術を備えているから,カメラ付き携帯

電話において,通常のカメラのような操作をすることを前提にした引用例2の「折

り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタンは,本体部の側面で

あって,右手の人差し指で操作する位置に配置すること」という構成を引用例1発

明に採用することに,何ら困難な点はない。

折り畳み可能な携帯電話機を横長に持つ場合には,使用者から見て,連結部を右

側とするか左側とするかの2つの可能性が考えられる(本願発明は,連結部を左側

としたものであり,引用例2は,連結部を右側にしたものといえる。)が,2つの

可能性のうちのどちらを選択するかは当業者が適宜選択し得るものである。

また,引用例2の図3の実施例において,カメラの撮影のためにファインダーを

設けているが,電子スチルカメラの分野において,ファインダーとして,図4の実

施例のような電子ファインダーはありふれたものであり,どちらを採用するかは設

計事項である。

引用例2の実施例のファインダーは,図3等に示された形状からすると,光学フ

ァインダーであると推定されるが,光学ファインダーは,その構造上連結部に近い

位置に配置することは困難であるとしても,ファインダーとして電子ファインダー

を採用した場合は,その配置は自由に行えるものであり,カメラとして使いやすい

位置に配置されることになる。

さらに,電子スチルカメラの分野において,電子ファインダーをカメラ本体に回

動可能に取り付けて,自分撮り等を容易にすることも,乙7ないし9に示されるよ




うに,本願出願当時の周知技術であると認められる。そして,電子ファインダーを

カメラ本体に回動可能に取り付ける場合は,カメラ本体を右手で把持することにな

るから,回動軸は使用者から見て左側とするのが通常の設計(乙7ないし9)であ

り,引用例2において,連結部が右側にあることは,何ら格別の事項ではないとい

える。本願の出願当時の周知技術を考慮すれば,「携帯電話機を横長に持つときに

連結部をどちらに向けるようにするかは,当業者が設計に際して適宜決定すべき事

項」であるといえる。

以上のとおり,本願発明の相違点2に係る構成中の,「折り畳んだ状態で横長に

持って撮影するためのシャッターボタン」を「本体部の右側面であって連結部の反

対端に近い位置に配置」することは,当業者において,容易であるといえる。

第4 当裁判所の判断

当裁判所は,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違

法はないものと判断する。その理由は以下のとおりである。

1 引用例1発明の内容,本願発明と引用例1発明との一致点及び相違点の各認

定の誤り(取消事由1)について

(1) 引用例1発明の認定の誤りについて

ア 審決は,引用例1発明の認定に当たり,「本体部」との語を,ヒンジ部によ

り折畳み可能に連結されて成る機器本体のうち,折畳み内面側に数字等の入力キー

部が設けられた他方より厚い部分を指すものとして用い,「蓋体部」との語を,液

晶画面が設けられた他方より薄い部分を指すものとして用いている。そうすると,

審決における引用例1発明は,「折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタ

ンを前記蓋体部の外面の中央付近に備え,」と認定されるべきであり,また,本願

発明と引用例1発明との相違点2は,「『折り畳んだ状態で撮影するためのシャッ

ターボタン』について,本願発明では,『横長に持って撮影するための』ものであ

り,『本体部の右側面であって連結部の反対端に近い位置に配置』されるのに対し

て,引用例1発明では,『蓋体部の外面の中央付近に配置』されるものである点。」




と認定されるべきであったことになる(この点,当事者間に争いはない。)。

そして,引用例1発明の構成及び相違点2をそれぞれ上記のとおりの認定を前提

とすると,「折り畳んだ状態で撮影するためのシャッターボタン」について,本願

発明では,「横長に持って撮影するための」ものであり,「本体部の右側面であっ

て連結部の反対端に近い位置に配置」されるのに対して,引用例1発明はこのよう

な構成を備えていない点で両者が相違することについて,誤りはない。したがって,

相違点2に係る審決の認定に影響を与えるものではない。

イ 引用例1には,どのキーが「開いた状態で撮影するためのシャッターボタン」

に相当するのかについての記載がない。しかし,乙1(18,19頁)及び乙3(4

0頁「P504iS」紹介記事)によれば,カメラを備えた携帯電話機において,

本体部の入力キー部に,それぞれ唯一認められる2重円形のボタン様のものの中央

に「センターキー」を配置し,これに「開いた状態で撮影するためのシャッターボ

タン」の機能を持たせることは,一般的に行われていることに照らすならば,審決

が,引用例1発明の「センターキー」が「開いた状態で撮影するためのシャッター

ボタン」の機能を有すると認定したことが誤りであるとはいえない。

この点についての原告の主張は,採用の限りでない。

(2) 一致点及び相違点の認定の誤りについて

相違点2に係る審決の認定に誤りのないこと,及び,引用例1発明の「センター

キー」が「開いた状態で撮影するためのシャッターボタン」の機能を有するとした

審決の認定に誤りがないことは,前記のとおりである。

また,審決は,「カメラ」を配置した位置について,相違点1として「『カメラ』

について,本願発明では『本体部の折畳み外面であって連結部に近い位置に配置』

されるのに対して,引用例1発明では『ヒンジ部に配置』されるものである点。」

と認定しており,同認定に誤りはない。

2 引用例2の開示内容に対する認定の誤り(取消事由2)について

原告は,「本体部」に,シャッター30が設けられているとした審決の認定に誤




りがある旨主張する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。

すなわち,甲2では,二つの部材を連結部により折畳み可能に連結して機器本体

と成した携帯電話機において,上記二つの部材のうち,折畳み内面に液晶画面が搭

載された他方よりも薄く作製された部分を「蓋部33」の語を用い,他方の,内面

に「十字キー35」,「通信キー36」,「切断キー37」,「保留キー38」,

「機能キー39」が設けられた,より厚く成形された部分を「本体」との語を用い

ている。そして,「蓋部33」が審決のいう「蓋体部」に一致し,「本体」が審決

のいう「本体部」に一致する。そうすると,審決が,甲2に記載された電子機器の

「シャッターキー30」(本願発明の「折り畳んだ状態で横長に持って撮影するた

めのシャッターボタン」に相当。)について,「折り畳んだ状態で横長に持って撮

影するためのシャッターボタンは,本体部の側面であって,右手の人差し指で操作

する位置に配置すること」が開示されていると認定したことに誤りはない。また,

引用例2の複合機器を折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボ

タンは,本体部の側面であって,右手の人差し指で操作する位置に配置することが

開示されているとの審決の認定にも,誤りはない。

原告は,「折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシャッターボタン」が

「連結部に近い位置」に設けられていることを認定しない点に違法があると主張す

るが,シャッターキーと連結部との位置関係について,認定をしなかったことが,

審決の違法性の有無に影響を与えるものとはいえない。

3 相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3)について

当裁判所は,カメラを「ヒンジ部」に配置する引用例1発明に,引用例3,4の

技術を適用することによって,本願発明の相違点1に係る構成(「本体部の折畳み

外面であって連結部に近い位置に配置」)に,困難な点はないと判断する。

本願発明における,カメラが「本体部の折畳み外面であって連結部に近い位置に

配置」されるとの構成が採用されているが,同構成は,カメラを被写体に対向する




位置に配置させるとの目的,及び携帯電話機を開いた状態でも閉じた状態でも撮影

できるとの目的を達成するためのものである。

そして,甲3の図1及び甲4の図1によれば,本体部と蓋体部を連結部により折

畳み可能に連結して機器本体と成した,折り畳み可能なカメラ付き携帯電話におい

て,カメラを本体部の折畳み外面であって連結部に近い位置に配置することは,原

出願の出願時に周知の技術であるといえる。

確かに,引用例1発明は,蓋体部について180度回転することを可能とし,携

帯電話機を開いた状態でも閉じた状態でも,セルフショットを可能とすることを目

的とするため,カメラはヒンジ部(本願発明の「連結部」に相当)に設けられてい

る。しかし,引用例1発明において,セルフショット機能を省略した場合,カメラ

をヒンジ部に配置する必要はなくなり,この場合に,引用例3,4の技術を適用す

れば,本願発明の相違点1に係る構成(「本体部の折畳み外面であって連結部に近

い位置に配置」)を選択することに,何ら困難な点はない。

そうすると,引用例1発明において,カメラをヒンジ部に設け,180度回転可

能とする構成に代えて,カメラを本体部の折畳み外面に固定配置する構成とし,セ

ルフショットの機能を削減し,通常撮影のみを可能とすることは,当業者が普通に

行い得る設計変更である。そして,その際に,カメラを連結部に近い位置で,被写

体に対向する位置に配置することは,当業者が適宜なし得たものである。

4 相違点2に係る容易想到性判断の誤り−その1(取消事由4)について

原告は,引用例1は,縦方向に構えて使用するカメラの使い勝手が良くなるよう

に,シャッターを本願発明の蓋体部に相当する部分に設けているのに対して,引用

例2に開示された複合機器では,ファインダーを備えたカメラを前提にしてカメラ

の使い勝手が良くなるようにシャッターの位置を決めているもので,両者は設計思

想を異にするから,引用例1に対して引用例2を適用することは困難であると主張

する。

しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用できない。すなわち,引用例1の携




帯電話機は,閉じた状態で撮影する場合に,縦方向に構える必然性はなく,どのよ

うな方向に構えても撮影可能である。他方,引用例2の段落【0026】には,「当

該複合機器をファインダー方式の電子スチルカメラとして使用する場合には,図3

に示すように,LCD13aが設けられている蓋部33を閉じて右手で本体右側を

把持する。言い換えると,通常のカメラを把持する状態と同じである。」と記載さ

れており,右手で本体右側を把持して撮影することが念頭に置かれているが,横方

向のみならず,縦方向に把持して,撮影することもできるといえる。

以上のとおりであり,引用例1に引用例2を適用することにより,シャッターボ

タンを「本体部の右側面であって連結部の反対端に近い位置に配置」することが,

困難であるとはいえない。

5 相違点2に係る容易想到性判断の誤り−その2(取消事由5)について

原告は,本願発明の構成要件(「折り畳んだ状態で横長に持って撮影するためのシ

ャッターボタン」を「連結部の反対端に近い位置に配置する」)は,引用例1,引用

例2の何れにも,示されていないから,容易想到であるとはいえないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。

すなわち,上記のとおり,引用例1発明は,その構成から,光学ファインダーを

用いた一般的なカメラの操作と同様,撮影者の意図に応じて,縦方向と横方向の両

方向に構えての撮影が可能であるといえる。また,甲2によれば,原出願の出願前,

カメラを備えた携帯電話機において,横方向に把持して撮影することを意図したも

のは既に知られていた。引用例1発明において,甲2に記載された電子機器と同様

に,カメラと携帯電話機の「それぞれの機能の操作がスムーズに行われるように,

従来の操作形態を引き継ぎ,その使用用途に対する把持形態を考慮して,各種スイ

ッチの配置を決定」することは,当業者であれば,容易に想到し得たものである。

そして,「カメラの操作(シャッターキーの押下)は右手で行われる」ことを前提

とするならば,引用例1発明において,本体を把持している右手の人差し指で操作

できる位置である「本体部の右側面であって連結部の反対端に近い位置」に配置す




ることは,当業者が容易に想到し得たものである。

したがって,取消事由5についての原告の主張には理由がなく,相違点2に関す

る審決の判断に誤りはない。

6 結論

以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々

主張するが,いずれも採用の限りでない。よって,原告の請求を棄却することとし,

主文のとおり判決する。



知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官

飯 村 敏 明




裁判官

池 下 朗




裁判官

武 宮 英 子





別紙引用例1





別紙引用例2