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関連審決 不服2001-3881
関連ワード 特許を受ける権利 /  発明者 /  一致点の認定 /  29条の2(拡大された先願の地位) /  出願公開 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  実質的に同一 /  援用権(援用) /  参酌 /  技術的意義 /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶審決 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 16年 (行ケ) 68号 審決取消請求事件
原告 三浦電子株式会社
原告X
原告 興研株式会社
原告ら訴訟代理人弁理士 大滝均
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 西村泰英,増山剛,大野克人,立川功,大橋信彦, 井出英一郎
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/29
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
原告らの求めた裁判
「特許庁が不服2001-3881号事件について平成15年12月22日にした審決を取り消す。」との判決。
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告三浦電子株式会社及び原告Xがした本件特許出願(平成7年特許願第337862号「電解生成酸性水を用いた人工透析装置の洗浄殺菌方法及びその装置」)は,平成7年12月1日の出願(優先権主張日:平成7年1月17日(国内優先))である。原告興研株式会社は,原告三浦電子株式会社及び原告Xから本件特許を受ける権利の一部譲渡を受け,平成8年4月2日その旨特許庁長官に届け出た。
平成13年2月20日に拒絶査定の謄本送達があり,それに対する不服審判請求(不服2001-3881号)において,平成15年12月22日,審判請求は成り立たないとの審決があり,その謄本は平成16年1月21日原告らに送達された。
2 本願発明(平成12年11月10日付け手続補正書による特許請求の範囲第6項記載の発明)の要旨 人工透析装置に設けられている逆浸透膜透過水生成装置の逆浸透膜透過水供給口に接続され,供給される逆浸透膜透過水に無機電離性物質を溶融させて,所定の濃度に調整する前処理調整手段と, この前処理調整手段に接続され,陽極及び陰極を有し,この両極間に所定の電圧,電流を印加して,前記の調整された処理水を電解する電解槽と, 該電解槽の陽極側に生成される酸性水を取り出し,これを蓄えておく酸性水貯水タンクと, 酸性水貯水タンクに蓄えられた酸性水を所定の制御に従って人工透析装置の薬液口に供給する制御手段とからなることを特徴とする電解生成酸性水を用いた人工透析装置の洗浄殺菌装置。
3 審決の理由の要点 (1) 引用例 本願の優先権主張の日前の他の出願であって,その出願後に出願公開された特願平5-256652号(特開平7-108064号)の願書に最初に添付した明細書及び図面(本訴甲5。以下「先願明細書」という。)の記載を総合すると,先願明細書には, 「人工透析器に設けられている逆浸透装置1から得られた純水が導かれ,添加される解離用媒体Sとの混合を行い,所定の濃度に調整する混合機14と,この混合機14に接続され,電極板6,7を有し,この電極板間に電圧を印加して混合機からの供給水を電解する電解水生成器13と,電解水生成器13内の陽極室5に設けられた酸化水の流出口9から吐出した酸化水を適宜の順序で中央供給装置18を経由して透析器24へ送るコントローラとからなる人工透析器24の殺菌洗浄装置。」の発明(引用発明)が記載されていると認められる。 (2) 対比 そこで,本願発明と引用発明とを対比する。
引用発明の「人工透析器24」,「逆浸透装置1」,「混合機14」に「逆浸透装置1から得られた純水が導かれる」点,「解離用媒体S」,「混合機14」,「電極板6,7」,「電解水生成器13」,「酸化水」,「酸化水の流出口9から吐出した酸化水を適宜の順序で中央供給装置18を経由して透析器24へ送る」点,「コントローラ」は,その機能と構造からみて,本願発明の「人工透析装置」,「逆浸透膜透過水生成装置」,「逆浸透膜透過水生成装置の逆浸透膜透過水供給口に接続され」,「無機電離性物質」,「前処理調整手段」,「陽極」及び「陰極」,「電解槽」,「酸性水」,「酸性水を所定の制御に従って人工透析装置の薬液口に供給する」,「制御手段」に,それぞれ相当するものであるから,両者は,「人工透析装置に設けられている逆浸透膜透過水生成装置の逆浸透膜透過水供給口に接続され,供給される逆浸透膜透過水に無機電離性物質を溶融させて,所定の濃度に調整する前処理調整手段と, この前処理調整手段に接続され,陽極及び陰極を有し,この両極間に電圧を印加して,前記の調整された処理水を電解する電解槽と, 該電解槽の陽極側に生成される酸性水を取り出し,所定の制御に従って,人工透析装置の薬液口に供給する制御手段とからなることを特徴とする電解生成酸性水を用いた人工透析装置の洗浄殺菌装置。」である点で一致し,以下の点で一応相違しているものと認められる。
【相違点】 a.両極間に印加する対象に関し,本願発明では「所定の電圧,電流」としているのに対して,引用発明では単に「電圧」とされている点。
b.本願発明においては,「電解槽」と「人工透析装置」の間に「酸性水」を「蓄えておく酸性水貯水タンク」を有する構成であるのに対して,引用発明は,「酸性水貯水タンク」の存在が明確にされていない点。 (3) 相違点aについての検討 本願特許請求の範囲の請求項6の当該部分では「電圧,電流を印加」と表現されているものの,本願当初明細書の発明の詳細な説明部分では【0015】「また,本発明は,陽極と陰極を有し,(中略)該両電極に所定の電圧を有する直流を印加し,」や,【0016】「さらには,本発明は,陽極と陰極を有し,(中略)該両電極に所定の電圧を有する直流を印加し,」,【0053】「この実施例においては,この電解生成酸性水生成装置40として,(中略)単相100V(1A)接続された陽極と陰極を有し(いずれも図示外),これらの陽極及び陰極間には,隔膜(図示外)により仕切られた,いわゆる有隔膜構造を有する電解筒(図示外)からなるものである。したがって,印加する電圧,電流,その処理時間,」と説明されているところを総合的に勘案すると,「印加」されているものは直接的には電圧のみであり,「電流」については電圧を印加した結果として負荷に電流が流れる様を,「電圧」と並べて表現したにすぎないものと理解できる。
してみると,引用発明で印加されるものが「電圧」とされていることと,本願発明で「電圧,電流」とされていることとは,一致していると見るのが相当である。
次にその「電圧,電流」について,本願発明では「所定の」という表現がなされている点について検討する。
一般的には「所定」なる用語を用いる場合,ある技術的に限られた条件を意味するものと解されるが,本願明細書のいずれにも印加される電圧の範囲を示す積極的な記載箇所はない。そのため,本願発明の「電圧,電流」に関して用いている「所定」は,「電気分解が行われるに足る電圧,電流」を漠然と指すものと理解すべきであり,引用発明においても電気分解は当然行われるものという前提で記述されている以上,本願発明の「所定」の点で,両者に実質的な相違があるものとは到底認められない。 (4) 相違点bについての検討 当該「酸性水貯水タンク」に関し,本願明細書及び図面にはその機能・効果・技術的意義について特に記載はなく,「電解生成酸性水生成器40」にて生成される酸性水を単に貯えておく機能・効果しか認められない。
このような単なる貯水機能としてのみ働くタンクは,しばしば技術資料中で省略されるところであり,先願明細書中にも例えば【0021】に「得られた純水は純水タンクなど(不図示)」と,示されるように,実際は流路中に設けられていても図示が省略されている。
すなわち,当該相違点にかかる「酸性水貯水タンク」についても同様のものと認められ,技術常識に基づく単なる記載の省略と認められるので,先願明細書にも,当該貯水タンク付きのものが記載されているに等しいと考えるのが相当である。 (5) まとめ 両相違点に対する検討結果をまとめると,本願発明と引用発明とは実質的に同一の範疇に属するものと認められる。 (6) 審決のむすび 以上のことから本願発明は,先願明細書に記載された発明と同一であり,しかも,本願の発明者が先願明細書に記載された発明の発明者と同一ではなく,また本件出願の時において,その出願人が上記他の特許出願の出願人と同一でもないので,特許法29条の2の規定により特許を受けることができない。
原告ら主張の審決取消事由
1 対比の誤り 審決が本願発明と引用発明を対比するに際して,引用発明の構成「混合機14」を2度引用しているのに対し,本願発明で相当するとされる「前処理調整手段」はただの一つしかない。逆に,「陽極」と「陰極」を別々に引用しているにもかかわらず,本願発明ではまとめて引用して対比するなど,正確ではない。
さらに,審決では,「解離用媒体S」が「無機電離性物質」に相当すると認定しているが,本願発明では,「食塩水」が電解されて,そこに殺菌力のある酸性水が生成されることになるのであり,引用発明でいうところの「酸化水」と同等のものであるかは疑問である。殺菌力というからには,塩素イオンの存在を抜きには論じられないのであり,これを考慮することなく,単なる解離のためだけの引用発明の「解離用媒体S」に本願発明の「無機電離性物質」が相当するとの認定は実情を離れた判断に基づくものである。
2 一致点,相違点認定の誤り (1) 審決は,上記1で指摘した誤りを前提にして,引用発明と本願発明との一致点の認定をしたが,前提が誤りである以上,この認定も誤りである。例えば,「逆浸透膜透過水に無機電離性物質を溶融させる」点が引用発明と本願発明とでは一致するとしているが,先願明細書では,「純水」として「逆浸透水」とは明確に区別するところ(先願明細書の特許公開公報第5欄2〜3行),「純水」も「逆浸透膜透過水」も同じであるとの認定は,先願明細書の記載を考慮しても,あるいは,技術常識からしても誤りである。
(2) また,相違点として掲げられた「所定の電圧・電流」の文言の解釈について,審決は,本願明細書のいずれにも印加される電圧の範囲を示す積極的な記載箇所はないとして,これを理由に,「本願発明と引用発明の該当箇所について両者に実質的な相違があるものとは到底認められない」としているが,本願明細書には,「単相100V(1A)」の記載があるほか(【0053】7行目),図面にも「単相100V(10A)」,「単相100V(12A)」,「DC電源(DC5V)」,「AC100V」等の記載がある。確かに,これらは電解条件を規定する電圧・電流という意味では,少し話が違うかもしれないが,これらの記載が厳然として存在するにもかかわらず,「印加される電圧の範囲を示す積極的な記載箇所はない」との認定は誤りである。
(3) 本願発明の「酸性水貯水タンク」の認定について,審決は,「本願明細書及び図面にはその機能・効果・技術的意義について特に記載はなく,「電解生成酸性水生成器40」にて生成される酸性水を単に蓄えておく機能・効果しか認められない」と認定している。しかし,平成12年11月10日付け手続補正書(甲3)に記載の請求項12には,当該酸性水貯水タンクを規定して,「前記酸性水貯水タンクは,陽極側から得た酸性水に,無機酸又は/及びハロゲン化物質を混合して,混合された結果,ph5.0以下,2.0以上を示し,その酸化還元電位が,少なくとも800mV以上を示すようにして得られた液を貯水することを特徴とする」旨の記載があり,また,これらに伴い本願明細書においても,それによってもたらされる酸性水貯水タンク特有の機能・効果・技術的意義を明確に規定している。
本願発明の認定は,本願各請求項に係る記載を含めて本願明細書全体から把握し認定しなければならないところ,審決は,上記のように,請求項12の「酸性水貯水タンク」の限定構成の記載を無視し,その解釈を誤って,請求項6のみの記載にのみ拘泥し,本願発明と認定したものであって,誤りである。
(4) さらに,審決は,「このような単なる貯水機能としてのみ働くタンクは,しばしば技術資料中で省略される」と認定した。しかし,この認定は証拠に基づかないもので誤りである。
図示が省略され,あるいは,技術要素そのものの記載が省略された先願明細書に,「貯水タンク付きのもの」が記載されているとの認定も誤りである。実際には記載されていない先願明細書の記載事実に基づいて,記載があると推測・推定し,その推定された記載事実に基づいて,本願明細書に記載のものと等しいと認定したものである。
3 審判手続の「公平」,「公正」について 原告らは,審判において,平成12年11月10日付け補正書から更に限定した特許請求の範囲の補正を認めるように,何度か上申したにもかかわらず,聞き入れられずに拒絶審決に至った。原告らは,引用発明が,本願発明に比し近い発明であることを認識し,引用発明との違いを明確にする補正を行い,また,その補正を認めることを求める上申を行っていたにもかかわらず,審決は,それを逆手にとって,同一発明と認定したものであって,公正を欠き,ひいては,実質的に違法である。
当裁判所の判断
1 引用発明と本願発明との対比に際して,審決が引用発明における「混合機14」の構成そのものを2度引用しているとする原告らの主張は,審決の認定を正解しないものにすぎず,理由がない。引用発明における「電極板6,7」が本願発明の「陽極」及び「陰極」に相当するとした審決の認定にも誤りはない。原告らは,「解離用媒体S」が「無機電離性物質」に相当するとした審決の認定を争い,その前提として本願発明では「食塩水」が電解されると主張するが,本願発明にそのような限定はなく,原告らの主張は前提を欠く。なお,原告らは,「逆浸透膜透過水に無機電離性物質を溶融させる」点が引用発明と本願発明とでは一致するとした審決の認定を争い,その前提として,「純水」が「逆浸透膜透過水」と区別されるべきであると主張するが,両発明においてこのように区別すべき根拠は認められない。
2 本願当初明細書(甲2)及び平成12年11月10日手続補正書(甲3)の記載,特に原告らが前記第3の2(2)において主張する記載を参酌してみても,審決が,「本願発明の「電圧,電流」に関して用いている「所定」は,「電気分解が行われるに足る電圧,電流」を漠然と指すものと理解すべきであり」とした認定を誤りとすべき,本願明細書の記載上の根拠があるとは認められない。原告らの主張は理由がない。
3 原告らは,請求項12の記載を援用して,本願発明の「酸性水貯水タンク」についてした審決の認定を争っているが,請求項12には本願発明とは別の発明の構成が記載されているのであり,請求項6の記載に従ってした「酸性水貯水タンク」に関する審決の認定に誤りはない。
4 本件において更に補正の機会が認められるべきであったとの主張については,その正当性を裏付ける具体的な主張立証はないので,前記第3の3における審判手続の公平などに関する原告らの主張も理由がない。その他,前記第3の2の(4)の主張を始め,原告らが本訴において主張するところすべてにかんがみても,本願発明が特許法29条の2に該当するとした審決の認定判断に誤りがあるということはできない。
結論
以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由は理由がないので,原告らの請求は棄却されるべきである。
裁判長裁判官 塚原朋一
裁判官 塩月秀平
裁判官 野輝久