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関連審決 不服2000-15237
関連ワード 技術的思想 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  周知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  優先権 /  優先日 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 14年 (行ケ) 529号 審決取消請求事件
原告 スターサイトテレキャスト インコー ポレイテッド
訴訟代理人弁護士 熊倉禎男
同 田中 伸一郎
同 相良 由里子
同 高石秀樹
訴訟代理人弁理士 今城俊夫
同 西島孝喜
被告 特許庁長官小川洋
指定代理人 原光明
同 小松正
同 高橋泰史
同 涌井幸一
同 宮下正之
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
3 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2000-15237号事件について平成14年5月31日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文1,2と同旨
当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「テレビジョンスケジュールシステムのユーザーインタフェース」とする発明について,1990年(平成2年)9月10日(以下「本件優先日」という。)に米国においてした特許出願に基づく優先権を主張して,平成3年9月10日,特許出願(平成3年特許願第516691号。平成14年3月11日付け手続補正書による補正後の請求項の数は19である。以下,この補正後の明細書及び図面を「本願明細書」という。)したが,平成12年6月16日,拒絶査定を受けたため,同年9月25日,これに対する不服の審判を請求した。特許庁は,これを不服2000-15237号事件として審理し,その結果,平成14年5月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし(出訴期間として90日が付加された。),同年6月17日,その謄本を原告に送達した。
2 特許請求の範囲(請求項7) 「テレビジョン番組リストが表示される複数のセルを有する時間とチャンネルのガイド, 複数のセルの内の一つを他のセルに比して選択的に目立たされた移動可能なカーソル,及び ガイド内でのカーソルの移動に応答して,ガイド機能を活動する手段から成り,前記活動する手段が,テレビジョン番組リストと同時に,目立たされたセル内に表示されたテレビジョン番組リストに対応する番組ノートを表示する手段を含む電子番組ガイド。」(以下「本願発明」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平1-209399号公報(以下「刊行物」という。)に記載された発明(以下「刊行物発明」という。)及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許を受けることができない,としたものである。
審決が上記結論を導くに当たり認定した本願発明と刊行物発明との一致点・相違点は,次のとおりである。
(一致点) テレビジョン番組リストが表示される複数のセルを有する時間とチャンネルのガイド,複数のセルの内の一つを他のセルに比して選択的に目立たされた移動可能なカーソル,及びテレビジョン番組リストと,セル内に表示されたテレビジョン番組リストに対応する番組ノートを表示する手段を含む電子番組ガイドである点。
(相違点) 番組ノートの表示について,本願発明は,「ガイド内でのカーソルの移動に応答して,ガイド機能を活動する手段から成り,前記活動する手段が,同時に,目立たされたセル内に表示されたテレビジョン番組リストに対応する番組ノートを表示する」ものであるのに対し,刊行物発明は,目立たされていないセルにおいても,セル内に表示されたテレビジョン番組リストに対応する番組ノートを表示する点。
原告主張の取消事由の要点
審決は,本願発明と刊行物発明との一致点の認定を誤った結果,相違点を看過し(取消事由1),また,相違点についての判断を誤った(取消事由2)ものであり,これらの誤りがそれぞれ審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,違法として取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過) 審決は,刊行物発明における「番組の概要」が,本願発明の「番組ノート」に相当する,との前提の下に,本願発明と刊行物発明とは,「テレビジョン番組リストと,セル内に表示されたテレビジョン番組リストに対応する番組ノートを表示する手段を含む」点で一致する,と認定した。
しかしながら,刊行物発明の「番組の概要」は,本願発明の「番組ノート」とは情報の内容が全く異なるから,上記の認定は誤りである。
(1) 本願発明の「番組ノート」とは,カーソルにより選択された番組につき,カーソルの動きに応答して,「番組ノートオーバレイ」という表示方法等を使用することによって表示されるものであり,同時に表示される「テレビジョン番組リスト」とは別個の表示情報で,かつ画面上に時間とチャンネルのグリッドで表示されるテレビジョン番組リストのセルの中に,そのリストの一部としては表示しきれないような詳細なものまで含むことのできる番組情報を意味するものである。
(2) これに対し,刊行物発明の「番組の概要」は,番組フィールドに記録されている情報で,時間エリアに対応したそれぞれの番組エリアに表示されるものであり,文字通り,番組の概略,あらまし程度の情報であることが想定されている。審決が認定するとおり,刊行物発明の「時間エリアに対応した番組エリア」は本願発明の「セル」に相当するから,結局,刊行物発明の「番組の概要」は,本願発明におけるセルの中に,常時全ての番組について表示されているもので,セルでの表示が可能な程度に量が制限されている番組情報,すなわち本願発明における「テレビジョン番組リスト」の中に含まれている情報を意味するものである。このことは,刊行物発明が,あらかじめ提供される番組情報を記録媒体内においてどのような論理フォーマットで編集・記憶するかという情報処理方式に関する発明であって,本願発明のように,表示部の制限の範囲内で,可能な限りの情報を表示しようという技術的思想を一切想定していないことからも明らかである。
(3) 以上のとおり,本願発明における「番組ノート」と,刊行物発明における「番組の概要」とは,全く異なるものであり,刊行物発明は,本願発明の「番組ノート」を表示する構成を有していないものである。したがって,審決が,刊行物発明の「番組の概要」が本願発明の「番組ノート」に相当するとして,前記のとおり両者の一致点を認定したことは誤りであり,審決は,この点に関する相違点を看過したものである。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り) 審決は,相違点について,「カーソルの移動に応答して,目立たされたカーソル位置にある項目・内容と同時に,それに対応する情報を表示する手段(活動する手段)を有している点は周知技術(必要ならば,特開昭63-247812号公報(判決注・以下「甲11公報」という。),特開昭62-49528号公報(判決注・以下「甲12公報」という。),特開昭63-276069号公報(判決注・以下「甲13公報」という。),特開平1-99122号公報(判決注・以下「甲14公報」という。),特開平1-142918号公報(判決注・以下「甲15公報」という。)参照)である。そして,刊行物発明と上記周知技術は,情報の表示機能ないし作用の点で共通するものであり,情報表示装置として一般に求められる目的・課題を考えれば,必ずしも異なった技術分野といえないから,上記周知技術を採用することは当業者が容易に推考できたものであるし,また,上記相違点に基づく本願発明の効果に格別顕著なものは認められない。」(審決書5頁25行〜35行)と判断した。しかし,この判断は誤りである。
(1) 刊行物発明は,テレビ放送などの「定められたスケジュールに従って,提供される情報を処理する情報処理システムに関する」(甲第10号証1頁右下欄3行〜5行)ものである。そして,刊行物は,画面上にスケジュールに従って情報を表示し,表示画面上で選択することにより,確実に情報の処理を行うという技術を開示しているにとどまり,更にそれに加えて,本願発明のように,当該情報についての詳細な説明を加えることについては,一切開示しておらず,それを示唆する記載もない。
一方,審決の挙げる周知技術は,いずれも刊行物発明におけるテレビ番組内容の表示とは全く異なる目的,構成の下での情報に関する技術である。したがって,刊行物発明に何らかの示唆がない限り,刊行物発明に,周知技術として引用されたような技術を適用して,番組内容を表示するという発想に結びつくことはないから,両者が技術分野を異にするものではないとしても,刊行物発明に上記周知技術を採用することが当業者にとって容易であるとはいえないのである。
(2) 審決が引用する甲11ないし甲15公報のものは,いずれも操作機能を説明する情報や階層式の操作メニューなど,操作をするに当たり,必要に応じて又は所望の操作に至るまで,その操作自体を補助し,分かりやすく説明するような情報を表示する技術である。それらは,本願発明のように,画面にリストされ,表示された項目の説明をするものではないし,それら公報は,操作の説明等の情報をカーソルの移動に応答して表示するということについて記載していない。
したがって,刊行物発明に上記周知技術を組み合わせたとしても,相違点に係る本願発明の構成は得られない。
(3) 本願発明は,カーソルの移動に応答して,選択番組について「番組ノートオーバレイ」による表示方法等を採用することによって,番組の詳細な情報を含む「番組ノート」をテレビジョン番組リストと同時に表示するものであり,これにより,テレビジョンスケジュールシステムのユーザーインターフェイスにおいて,番組予約,ビデオ録画予約等に極めて有益な「テレビジョン表示部の制限の範囲内において,ユーザーに容易に理解されるやり方で最大の情報を与える」という,従来の技術にはない顕著な作用効果を有するものである。このような顕著な作用効果を否定した審決は誤りである。
被告の反論の要点
審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)に対して (1) 「ノート」とは「注,注釈」の意味(広辞苑第4版)であるから,本願発明における「番組ノート」は,「番組についての注,注釈」という意味と解すべきである。
「番組ノート」自体の技術概念には,常に表示されるものではないとか,カーソルの移動に応答して表示されるものという限定があるわけではない。また,本願発明においては,「番組ノート」の表示がセル内かそうでないかについて限定があるわけではないし,「オーバレイ」なる限定があるわけでもない。
そして,本願明細書では,「番組ノート」には「番組ジャンル,番組紹介,スター及び著名人,封切りの年,エピソード風のサブタイトル,番組の所要時間,番組の経過時間,・・・字幕,ステレオ」のいずれか又は全てを含むことが記載されている(甲第2号証8頁左上欄15〜28行)のであり,番組紹介のみ,あるいは番組の所要時間のみでも「番組ノート」なのであるから,セルの中に表示しきれないような詳細な番組情報のみであるといえないことも明らかである。
(2) 刊行物発明における「番組の概要」は,番組について記したものであるから,「番組についての注,注釈」ということができ,原告のいうように番組の概略,あらましであることは,必ずしも少量の情報のみであることを意味するものではない。また,刊行物発明の「番組の概要」は,必要に応じて記録・表示される選択的なものであるから,必要がなければ結局表示されないが,その場合でも「番組名称」は表示されるのであり,この「番組名称」(の並び)が本願発明の「テレビジョン番組リスト」に相当する。したがって,刊行物発明の「番組の概要」が本願発明の「テレビジョン番組リスト」に含まれるとする原告の主張は失当である。
(3) 以上のとおり,刊行物発明の「番組の概要」は,本願発明の「番組ノート」に相当するものであり,審決の一致点の認定に誤りはない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)に対して 上記のとおり,刊行物発明の「番組の概要」は本願発明の「番組ノート」に相当するから,刊行物には,番組についての説明を表示することが示唆されている。そして,本願発明と刊行物発明との相違点は,実質的には,単に情報の表示形態すなわち情報をどのように表示するかという点に関してのみであり,このような情報の表示形態について,本願発明の構成は,情報表示の分野において周知のものである。また,刊行物には,電子番組ガイドの表示において,表示装置(ディスプレイ装置)には表示の制限があり,その制限の中で種々の表示形態が採用されることが示唆されているのであるから,当業者が上記周知の技術を採用することに何らの困難はない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点認定の誤り・相違点の看過)について (1)ア 本願発明の特許請求の範囲は,前記第2の2記載のとおりである。その特許請求の範囲における「前記活動する手段が,テレビジョン番組リストと同時に,目立たされたセル内に表示されたテレビジョン番組リストに対応する番組ノートを表示する」との文言からは,「番組ノート」は,テレビジョン番組リストとは異なるもので,テレビジョン番組リストと同時に表示されるものであることが分かるが,「番組ノート」の意義についての明確な規定はされていない。
本願明細書の発明の詳細な説明には,次の記載がある。
「図6は,・・・番組ノートオーバレイ52は,次の情報のいずれか又は全てを含む。
○ 番組ジャンル ○ 番組紹介 ○ スター及び著名人 ○ 封切りの年 ○ エピソード風のサブタイトル ○ 番組の所要時間 ○ 番組の経過時間 ○ 批評(スターの評価) ○ 範疇(PG,Gその他) ○ コールサイン,チャンネルマーカー ○ 字幕,ステレオ」(甲第2号証8頁左上欄13行〜28行) 上記記載からすると,本願発明の「番組ノート」は,番組ジャンル,番組紹介など番組に関する様々な情報のいずれか又は全てを含むものであるが,「いずれか又は全て」とあるように,番組ノートは,上記列挙された情報の全てを表示するものとは限らず,それらの情報のうち,例えば番組紹介のみ,あるいは番組の所用時間のみを表示するものも,「番組ノート」に当たるものであることが明らかである。
イ 原告は,本願発明の「番組ノート」とは,「番組ノートオーバレイ」という表示方法等を使用することによって表示されるものであり,セルの中にテレビジョン番組リストとしては表示しきれないような詳細なものまで含むことのできる番組情報を意味すると主張する。
しかし,本願発明の特許請求の範囲には,上記のとおり,番組ノートはテレビジョン番組リストと同時に表示されるものではあるが,それ以上に「番組ノート」の表示方法や表示場所について限定した記載はなく,本願発明が,「番組ノート」をテレビジョン番組リストが表示されるセルとは異なる場所に表示するとか,「番組ノートオーバレイ」という表示方法等によって表示するとかの構成を持つことは何ら規定されていないのである(ちなみに,本願発明(請求項7)とは別の独立した請求項である請求項3には,「前記番組ノートを表示するステップが,表示された番組リストの一部分の上に番組ノートを重ね,表示された番組リストの一部が見えなくなる請求項1記載の方法。」(甲第9号証1頁)として,オーバレイによる表示をする構成が記載されていることと対比しても,本願発明が「番組ノート」の表示場所や表示方法を限定していると解することができないことは明らかである。)。また,上記のとおり,本願発明の「番組ノート」は,本願明細書に列挙された情報のうちのいずれかを含むものでもあるから,「番組ノート」がセルの中にテレビジョン番組リストとしては表示しきれないような詳細なものまでを常に含むものということもできない(例えば,番組の所要時間,番組の経過時間などは,いずれも情報量としては僅かなものである。)。
(2)ア 一方,刊行物には,次の記載がある。
「定められたスケジュールに従って提供される情報を処理する情報処理の形態は,例えば,・・・があるが,本発明の実施例は,本発明をテレビ放送の録画予約の処理に適用したものとして説明する。」(甲第10号証2頁左下欄12〜18行) 「時間フィールド10-1,10-2には,対応する番組フィールド11-1,11-2で示される番組の開始及び終了時刻が記録されており,番組フィールド11-1,11-2には,一般的には番組名称と,必要に応じてその番組の概要が記録されている。」(同3頁右上欄10〜15行) 「第3図には,このようにして表示された画面の一例が示されており,FD内の日付フィールド8,曜日フィールド8'の情報は,日付エリア12に,チャンネルフィールド9-1,9-2の情報は,チャンネルエリア13-1,13-2に夫々表示され,番組フィールド11-1,11-2の情報は,時間フィールド10-1,10-2を表示する時間エリア14に対応した番組エリア15に夫々表示される。」(同3頁左下欄15行〜右下欄2行) 上記記載からすると,刊行物発明においては,チャンネルごとに一定の時間帯に対応した番組エリア内に番組名称が表示されるとともに,必要に応じてその番組の概要が表示されるものであり,刊行物発明の「番組の概要」は,その字義からすれば,番組のあらまし,すなわち番組についての大雑把な説明を意味するものと認められる。
イ 原告は,刊行物発明の「番組の概要」は,番組の「概略,あらまし」程度の情報を想定しており,セル(刊行物発明の番組エリア)の中に常時全ての番組について表示され,セルでの表示が可能な程度に量が制限されている番組情報であるから,本願発明における「テレビジョン番組リスト」に含まれている情報を意味すると主張する。
しかし,刊行物発明の「番組の概要」が番組の「概略,あらまし」を意味するからといって,当然に,その情報の量が少ないということになるとはいえないし,そもそも本願発明における「番組ノート」自体も,番組紹介のみを表示することを含むものであって,セル内に表示しきれない程の多量な情報量のみに限定されるものとは限らないのであるから,情報量の多少をもって,「番組の概要」と「番組ノート」とが異なるとすることはできない。また,本願発明の「テレビジョン番組リスト」は,通常の意味からすれば,テレビジョン番組のタイトルのリストと解されるのであって,刊行物発明の「番組名称」に相当するものであるから,番組名称とは別個に必要に応じて表示される「番組の概要」は,本願発明における「テレビジョン番組リスト」に含まれる情報に相当するということはできない。原告の主張は,本願発明の「番組ノート」がセル内に表示しきれない程の大容量の番組に関する情報を意味することを前提とするものであるが,その前提が理由のないことは,前述したとおりである。
(3) 以上のとおり,刊行物発明における「番組の概要」は,チャンネルごとに一定の時間帯に対応して表示される番組名称とは別に,その番組に関する情報を提供するものとして,必要に応じて当該番組についての説明をするものであって,本願発明の「番組ノート」である番組紹介と類似するものということができるのであり,刊行物発明の「番組の概要」も本願発明の「番組ノート」も共に,番組のタイトル・名称とは別の,番組に関する情報を意味するものであるから,刊行物発明の「番組の概要」が本願発明の「番組ノート」に相当するとした審決の認定に誤りない。したがって,本願発明と刊行物発明の一致点についての審決の認定に誤りはなく,審決に相違点を看過した違法はない。
2 取消事由2(相違点についての判断の誤り)について (1) 刊行物に,「本発明の目的は,・・・・予め定められたスケジュールに従って提供される提供情報の処理における,操作性の改善と処理の信頼性の向上を図った情報処理システムを提供することにある。・・・・前記目的は,提供される情報の内容と,その情報が提供されるスケジュールとが処理装置で処理可能な形態で予め提供されるようにし,この情報の中から処理の対象としたい提供情報の内容を選択することにより,そのスケジュールが処理装置に登録されるようにすることにより達成される。」(甲第10号証2頁左上欄10行〜右上欄2行)と記載されているように,刊行物発明は,情報処理システムにおいて,提供される処理の対象となる情報の中から処理の対象としたい情報の内容を選択するものであるから,選択の対象となる情報の内容を何らかの方法で表示することは必須の事柄であり,前記のとおり,刊行物発明においては,チャンネルエリア及び時間エリアに対応した番組エリア内に番組名称が表示されるとともに,必要に応じて番組の概要が番組エリア内に表示されるものとなっている。
このような情報を表示する装置において,表示の範囲に制限があることはごく一般的な技術常識である。このことは,刊行物に,「カーソルをディスプレイ装置1上の画面の最上端あるいは最下端に移動させると,時間スクロールが行われ,画面上には,異なる時間帯の番組が次々と表示され,また,カーソルを最左端あるいは最右端に移動させると,チャンネルスクロールが行われ,画面上には,他チャンネルの番組が表示される。」(甲第10号証3頁左下欄8〜14行),「前述の実施例は,1画面に2つのチャンネルの番組表を表示できるようにしたが,・・・例えば,1個のチャンネルのみとして,表示できる時間帯を多くしてもよい。」(同4頁左上欄2〜6行)と記載されているように,番組表をスクロールすることにより画面上に表示されてない異なる時間帯あるいは他チャンネルの番組を表示したり,表示チャンネル数を少なくして表示される時間帯を多くしたりするなど,画面の表示部に制限があることを踏まえて,画面上に表示しきれない情報を表示させるための表示形態を採ることが示唆されていることからも明らかである。
(2) カーソルの移動に応答して,目立たされたカーソル位置にある項目・内容と同時に,それに対応する情報を表示することについては,本件優先日前において,次のような技術が開示されている。
ア 甲11公報(甲第11号証)には,画面表示装置において,「従来の装置は,・・・一つの画面にパラメータ入力フィールドとパラメータの説明情報とが入りきらなくなって複数画面にわたることに画面制御や操作が困難になるという欠点があった。」(甲第11号証2頁左上欄3〜14行),「本発明の装置は,画面毎に,パラメータ入力フィールドおよび一つのパラメータに対する説明情報を表示するためのパラメータ説明領域から成るパラメータ入力画面並びに説明情報を格納する画面情報格納手段と,入力待ちの状態にあるパラメータ入力フィールドの相対位置を通知するパラメータ位置通知手段と,指定されたパラメータ入力画面を表示後に通知がされる度に対応する説明情報を画面情報格納手段から読み込み表示済のパラメータ説明領域に表示する画面情報表示手段とを含むことを特徴とする。」(同2頁左上欄16行〜右上欄8行),「第2図は10個のパラメータ入力フィールドF1〜F10とパラメータ説明領域DFとから成るパラメータ入力画面の一例を示し,・・・各パラメータ説明情報は,・・・画面情報格納手段1から読み込まれ,第2図で示したパラメータ説明領域DFに画面情報表示手段2によって出力装置5に表示される。」(同2頁右下欄3〜18行)との技術が開示されている。
イ 甲12公報(甲第12号証)には,ユーザに適切なヘルプガイド情報を与えるようなヘルプガイド方式について,「ユーザが画面中の罫線などのガイド要求部分を指示(ポインティングデバイス,カーソル等で)した時点で,ガイドの画面での位置を検出し,・・・その項目のガイド説明を表示する。表示の方式は,ガイド要求のため指示された部分から画面の上,下,左,右に対して,適当な順位をつけ,一定のスペースがあるかどうか調べ,スペースがある場合,そこに該当項目のガイド説明を表示する。」(甲第12号証2頁左下欄4〜12行),「第1図は,・・・装置内部にデータを入力するための入力部1と,必要な情報を表示するための出力部2と,外部記憶部4及び内部記憶部3と,これら各部を制御する制御部5で構成されている。」(同2頁右下欄17行〜3頁左上欄2行)との技術が開示されている。
ウ 甲13公報(甲第13号証)には,複写機の制御装置に関して,「第2図は制御装置の構成を示す図である。図中,・・・12はキーボードコントローラ,13はCPU,14はプログラムメモリ,・・・16はディスプレイコントローラ・・・」(甲第13号証2頁左上欄13〜20行),「例えば選択キー5cを操作し,カーソルを順次上げて任意倍率を選択すると,第1図(ロ)に示すようにポップアップが開く。」(同2頁右上欄7〜10行)との記載があり,第1図(ロ)には,任意倍率という文字とともに,その倍率等が具体的に表示されることが示され(同4頁),「複写機制御装置の表示部に表示された絵または文字をキーにより選択し,機能の上位概念表示から順次下位概念表示へ階層的に表示して選択し得るようにした」(同1頁左下欄13〜17行)技術が開示されている。
エ 甲14公報(甲第14号証)には,用語解説メッセージ出力方式について,「コンピュータで使用する用語の説明を記憶している記憶手段と,・・・意味不明な用語の説明を要求する手段と,前記意味不明な用語をポインティング装置により指定する手段と,・・・前記記憶手段を検索する手段と,・・・その用語の説明をディスプレイ装置にメッセージ出力する手段とを有する」(甲第14号証2頁左上欄13行〜右上欄3行),「ユーザは,ディスプレイ装置に表示された内容を見て意味の理解できない用語を発見し,その用語の説明を受けたい場合に・・・マウスやカーソル移動キー等のポインティング装置を用いて当該用語を指定する。・・・該当する説明をディスプレイ装置へ出力することにより」(同2頁右上欄10行〜左下欄2行)との技術が開示されている。
オ 甲15公報(甲第15号証)には,ポインティングデバイスを用いてメニューを表示し,機能の選択や処理を行う計算機装置のメニュー制御装置に関して,「以上のように構成された(判決注・CPU,表示制御装置,メニュー表示装置,メニュー表示選択制御装置,ポインティングデバイス制御装置などで構成されている。)従来の計算機装置のメニュー選択動作について,・・・ポインティングデバイス9に付属するスイッチの状態と,ポインティングデバイス9に連動するカーソルの位置を入力し,スイッチ状態から,メニュー選択処理継続中であれば,カーソルの指す項目を求め,選択対象のサブメニューを表示する。ひきつづきカーソル位置を追跡しながら,カーソル位置に応じて指定された見出し項目に対応するサブメニューの表示・消去をおこなう。」(甲第15号証1頁右下欄19行〜2頁左上欄16行)との従来技術が開示されている。
以上によれば,カーソルの移動に応答して,目立たされたカーソル位置にある項目・内容と同時に,それに対応する情報を表示する手段(これは本願発明の「活動する手段」に相当するものと認められる。)を有し,カーソル位置にある項目・内容とこれに対応する情報とを一時に見ることができるよう表示する技術,すなわち相違点に係る本願発明の構成は,本件優先日当時,周知の技術であったことが認められる。
(3) そうすると,前記のとおり,刊行物発明は,チャンネルごとに一定の時間に対応する番組名称を表示するとともに,必要に応じてその番組に関する情報として番組のあらましを説明する「番組の概要」を表示することとされているのであり,表示装置の表示部の範囲に制限があるという状況の下で,その番組に関する情報を限られた表示部にどのように表示するかという課題を見出し,その解決に向けて,刊行物発明に上記の周知技術を適用して本願発明の構成とすることは,当業者であれば容易に想到し得るところであるということができる。
(4) 原告は,刊行物には,本願発明のように,画面上で選択した情報についての詳細な説明を加えることについて開示も示唆もないから,刊行物発明に上記周知技術を採用することは当業者にとって容易ではないと主張する。
しかし,前記のとおり,刊行物には,番組名称とは別に,必要に応じてその番組に関する情報(番組の概要)を表示することが記載され,録画予約選択の対象となるテレビジョン番組について,チャンネル,時間及び番組名称に加えて,さらに必要に応じてその番組について説明する情報も提供されることが示されていることや,表示装置における表示の制限があることを前提に,画面上に表示しきれない情報を表示させるための表示形態を採ることも示唆されていることからすれば,当業者が,番組情報の表示方法について,情報表示に関する技術分野に属する上記の周知技術を採用して,刊行物発明に適用することには,十分な動機付けがあり,また,そのことに格別の困難があるとも認められない。
また,原告は,上記の周知技術は,操作機能を説明する情報や階層式の操作メニューなど,操作自体を補助し,説明する情報を表示する技術であるから,これを刊行物発明に適用しても,本願発明の構成は得られないと主張する。
しかし,上記の周知技術は,前記のとおり,カーソルの移動に応答して,目立たされたカーソル位置にある項目・内容と同時に,それに対応する情報を表示する手段(活動する手段)を有し,カーソル位置にある項目・内容とこれに対応する情報とを一時に見ることができるよう表示する情報の表示手段に関する技術であって,これを適用することにより本願発明の構成を得ることができることは明らかである。
さらに,原告は,本願発明は,テレビジョン表示部の制限の範囲内において,ユーザーに容易に理解されるやり方で最大の情報を伝えるという顕著な作用効果を奏するとも主張するが,そのような作用効果は,カーソル位置にある項目・内容と別にそれについての説明を表示するという構成から当然に予測し得る以上に格別顕著なものとは認められず,これをもって本願発明の進歩性を根拠づけることはできない。
3 結論 以上のとおりであって,原告が主張する取消事由は,いずれも理由がなく,その他,審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。
よって,原告の本訴請求を棄却することとし,訴訟費用の負担,上告及び上告受理の申立てのための付加期間について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条,96条2項を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂隆一
裁判官 若林辰繁