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審判番号(事件番号) データベース 権利
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事件 平成 21年 (行ケ) 10420号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所 
判決言渡日 2011/10/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年10月11日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官

平成21年(行ケ)第10420号 審決取消請求事件
口頭弁論終結日 平成23年9月29日
判 決

原 告 栄 研 化 学 株 式 会 社
訴訟代理人弁護士 永 島 孝 明

安 國 忠 彦
明 石 幸 二 郎
浅 村 昌 弘

弁理士 磯 田 志 郎
白 洲 一 新

桂 田 健 志
被 告 株 式 会 社 ダ ナ フ ォ ー ム

訴訟代理人弁護士 山 上 和 則
弁理士 辻 丸 光 一 郎

中 山 ゆ み

吉 田 玲 子

伊 佐 治 創

被 告 独 立 行 政 法 人 理 化 学 研 究 所

訴訟代理人弁護士 熊 倉 禎 男
渡 辺 光

小 和 田 敦 子

弁理士 滝 澤 敏 雄

新 谷 雅 史



主 文




原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。


事 実 及 び 理 由

第1 原告の求めた判決
特許庁が無効2008−800293号事件について平成21年11月25日に

した審決を取り消す。


第2 事案の概要

本件は,被告らが特許権者である特許の無効審判請求について,特許庁がした請
求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,本件発明の進歩性の有無並びに特許法

36条6項1号(サポート要件)違反及び同条4項1号(実施可能要件)違反の有
無である。以下において「被告」というときは,被告らを総称するものとする。

1 特許庁における手続の経緯
被告は,発明の名称を「核酸の増幅法およびこれを利用した変異核酸の検出法」

とする本件特許第3897805号(平成16年12月24日出願,平成15年1

2月25日優先権主張(日本),平成16年10月28日優先権主張(日本),平成

19年1月5日設定登録)の特許権者であるが,原告は,平成20年12月26日,

本件特許の請求項1〜13及び請求項16〜27に記載された発明について,無効

審判の請求をした(無効2008−800293号)。
特許庁は,上記請求につき,平成21年11月25日,「本件審判の請求は,成

り立たない。」との審決をし,その謄本は,同年12月7日,原告に送達された。

2 本件発明の要旨

本件特許の特許請求の範囲の請求項1及び3に係る本件発明1及び3の要旨は,

以下のとおりである(取消事由と関連しないため,請求項2,4〜13及び16〜

27についての記載は,省略しておく。。





【請求項1】

「標的核酸配列を増幅しうる少なくとも二種のプライマーを含んでなるプライマー
セットであって,前記プライマーセットに含まれる第一のプライマーが,標的核酸
配列の3′末端部分の配列(A)にハイブリダイズする配列(Ac′)を3′末端

部分に含んでなり,かつ前記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5′側に
存在する配列(B)の相補配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B′)を前記

配列(Ac′)の5′側に含んでなるものであり,前記プライマーセットに含まれ
る第二のプライマーが,前記標的核酸配列の相補配列の3′末端部分の配列(C)
にハイブリダイズする配列(Cc′)を3′末端部分に含んでなり,かつ相互にハ

イブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D−Dc′)を前
記配列(Cc′)の5′側に含んでなるものである,プライマーセット。」

【請求項3】
「前記第一のプライマーにおいて,前記配列(Ac′)と前記配列(B′)との間

に介在配列が存在しない場合には,前記配列(Ac′)の塩基数をXとし,標的核
酸配列中における前記配列(A)と前記配列(B)に挟まれた領域の塩基数をYと

したときに,
(X−Y)/Xが−1.00〜1.00の範囲にあり,プライマー中に

おいて前記配列(Ac′)と前記配列(B′)との間に介在配列が存在する場合に

は,XおよびYを前記の通りとし,該介在配列の塩基数をY′としたときに,
{X−

(Y−Y′)}/Xが−1.00〜1.00の範囲にある,請求項1または2に記載

のプライマーセット。」
3 審判で原告が主張した無効理由及びそれらに対する審決の判断

(1) 無効理由1

本件特許の請求項1〜13及び請求項16〜27に記載された発明は,以下の引

用例1に記載された引用発明1に,引用例2〜引用例10に記載された各引用発明

を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特

許法29条2項の規定により特許を受けることができないものであり,その特許は




同法123条1項2号に該当し,無効にすべきものである。
引用例1:特許第3313358号公報(甲1)

引用例2:特開2000−37194号公報(甲2)

引用例3:国際公開第96/01327号(甲3)

引用例4:国際公開第02/24902号 (甲4)

引用例5:EMBL/GenBank/DDBJ データベースにある Accession No. Z72478 の Hepatitis

B virus のDNA配列(1996 年 5 月 15 日公表)(甲5)

引用例6:国際公開第01/34838号(甲6)

引用例7:Loop-mediated isothermal amplification of DNA (Tsugunori Notomi etc. Nucleic

Acids Research 2000, vol.28, No. 12, e63) (甲7)

引用例8:Nucleic Acids Research Vol. 17, No.7, 2503-2516(1989) (甲8)

引用例9:PCR 最前線(蛋白質・核酸・酵素 Vol. 41, No.5, p428)(甲9)

引用例10:特開2002−345499号公報(甲10)

(2) 無効理由2
本件特許の請求項3〜13及び請求項16〜27に記載された発明が,明細書の
サポート要件に適合するということはできず,発明の詳細な説明の記載は,当業者

が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものでなく,特許法36条6項

1号及び同条4項の規定を満たすとはいえないから,請求項3〜13及び16〜2

7に係る特許は,特許法123条1項4号に該当し,無効とすべきものである。

(3) 審決の判断
(無効理由1について)

本件発明1と引用発明1とを対比すると,両者は,「標的核酸配列を増幅しうる
少なくとも二種のプライマーを含んでなるプライマーセットであって,前記プライ

マーセットに含まれる第一のプライマーが,標的核酸配列の3′末端部分の配列
(A)にハイブリダイズする配列(Ac′)を3′末端部分に含んでなり,かつ前

記標的核酸配列において前記配列(A)よりも5′側に存在する配列(B)の相補




配列(Bc)にハイブリダイズする配列(B′)を前記配列(Ac′)の5′側に

含んでなるものであり,前記プライマーセットに含まれる第二のプライマーが,前
記標的核酸配列の相補配列の3′末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列
(Cc′)を3′末端部分に含んでなるものである,プライマーセット」である点

で一致する。
引用例1には,標的核酸配列の相補配列の3′末端部分の配列(C)にハイブリ

ダイズする配列(Cc′)を3′末端部分に含んでなり,かつ相互にハイブリダイ
ズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D−Dc′)を前記配列(C
c′)の5′側に含んでなるものである,本件発明1の「第二のプライマー」に相

当する「リバースプライマー」については記載も示唆もない点で,引用発明1は本
件発明1と相違する。

引用発明3の「P1及びP2プライマー」は,「標的核酸配列の相補配列の3′
末端部分の配列(C)にハイブリダイズする配列(Cc′)を3′末端部分に含ん

でなり,かつ相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配
列(D−Dc′)を前記配列(Cc′)の5′側に含んでなるもの」であるから,

本件発明1における「第二プライマー」に相当する。

しかし,引用例1には引用例3に記載されたプライマーについて重大な問題点が

あるとの記載が存在するために,引用発明3のプライマーを引用発明1に適用する

ことは容易になし得たこととはいえない。また,引用例2及び引用例4〜10には,

本件発明1の発明特定事項である,「標的核酸配列の相補配列の3′末端部分の配
列(C)にハイブリダイズする配列(Cc′)を3′末端部分に含んでなり,かつ

相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D−D

c′)を前記配列(Cc′)の5′側に含んでなる」プライマーについては記載も

示唆もないから,本件発明1が,引用発明1〜10に基づいて当業者が容易に発明

をすることができたものとはいえない。

本件発明2〜13及び16〜27についても,本件発明1と同様の発明特定事項




を有するものであるから,これらの発明が,引用発明1〜10に基づいて当業者が

容易に発明をすることができたとはいえない。
(無効理由2について)
本件特許の請求項3〜13及び16〜27の記載が,明細書のサポート要件に適

合せず,特許法36条6項1号の規定を満たさないとも,当業者が本件明細書の開
示から請求項3〜13及び16〜27に係る発明を容易に実施できず,同条4項1

号の規定を満たさないともいうことはできないから,本件特許は同法123条1項
4号に該当し無効にすべきものであるとはいえない。



第3 原告主張の審決取消事由
1 取消事由1(本件発明の誤認に基づく容易想到性判断の誤り)

審決は,引用発明1に本件発明1における「第一のプライマー」に相当するター
ンバックプライマー(TP)が開示されているとしながら,引用発明1のループプ

ライマー(LP)が,本件発明1の折返しプライマーを含む「第二のプライマー」
に該当しないとして,相違点と認定し,本件発明1が,引用発明1に基づいて当業

者が容易に発明をすることができたということはできないと判断した。

しかし,以下に述べるとおり,本件発明1の折返しプライマーは,引用発明1の

ループプライマーを含むものであるから,審決は,本件発明1の折返しプライマー

の解釈を誤り,本件発明1と引用発明1の相違点を誤認したものである。したがっ

て,本件発明1が,引用発明1に基づいて当業者が容易に発明をすることができた
ことは明らかである。

(1) 審決は,本件発明の折返しプライマーと引用発明1のループプライマーと

を対比し,
「引用例1に記載された[プライマー内に位置する領域X1cにアニール

する領域X1]−[塩基対結合が可能な状態にあるループ形成配列]−[領域X1

c]なる部分は相互にハイブリダイズする2つの核酸配列の間に[塩基対結合が可

能な状態にあるループ形成配列]が介在しているものであって,当該[塩基対結合




が可能な状態にあるループ形成配列]は単にループが形成されるだけではなく,核

酸の増幅起点とするために塩基対結合が可能な状態にあることを目的として特別に
設計されている配列からなるものであるから,請求項1の発明特定事項である「D」
と「Dc′」とが折返すために,
「D」と「Dc′」の両者の構造が結ばれているよ

うに表記される「折返し配列」の構成の一部をなす「−」
(ハイフン)に該当すると
はいえず,相互にハイブリダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列

(D−Dc′)とは,折返すために必要となる以上の何らかの機能を生じさせる配
列特異性を有する介在配列を含むようなものは該当しない。(17頁36行〜18

頁9行)と判断した。

しかし,本件発明1は,
「折返すために必要となる以上の何らかの機能を生じさせ
る配列特異性を有する介在配列を含むようなもの」を明示的に除外しておらず,審

決の限定的な解釈は,請求項の記載に基づかないばかりか,明細書の記載内容を曲
解するものである。すなわち,本件発明1は,
「相互にハイブリダイズする2つの核

酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D−Dc′) と規定しており,
」 折返し配列(D
−Dc′)が「相互にハイブリダイズする2つの核酸配列「D」及び「Dc′」を

同一鎖上に含む」ものであることは請求項に明記されており,この要件を具備すれ

ば本件発明1の折返し配列に該当するのである。また,甲17(本件特許公報)の

図2から明らかなように,折返し配列(D−Dc′)の配列(D)と配列(Dc′)

との間にはハイブリダイズしていない領域(以下「連結領域」という。)が存在して

いる。さらに,本件明細書(甲17)では,折返し配列(D−Dc′)について,
「折返し配列(D−Dc′)のヌクレオチド配列はいかなる配列であってもよく,

特に限定されるものではない」(段落【0036】)と明記されているのである。な

お,折返し配列(D−Dc′)における「−」
(ハイフン)については,明細書に何

ら定義されていない。したがって,本件発明1の折返し配列は,
「標的核酸配列にハ

イブリダイズする機能を有するもの」も排除しておらず,何らかの機能を生じさせ

る配列特異性を有する配列も包含されることが容易に把握できるのである。




(2) 一方,引用例1には,核酸増幅方法に使用されるプライマーの組合せと

して,鋳型となる核酸の領域F2cにアニールし相補鎖合成の起点となる領域F2
及び鋳型となる核酸の領域F2cよりも5′側に位置する領域F1cと実質的に同
一の領域F1cを備えた「ターンバックプライマー」
(TP)と,当該ターンバック

プライマーから合成された第1の相補鎖(図5の(A))を鋳型として核酸合成を行
うことが可能な「リバースプライマー」
(第1の相補鎖の領域R1cに相補的な領域

R1を備えたプライマー)とを使用することによって,リバースプライマーから合
成された第2の相補鎖(図5の(B))の3′末端に,領域F1−領域F2c−領域
F1cという構成を設けることが開示されている。この第2の相補鎖(図5の(B))

の領域F1−領域F2c−領域F1cという構成は,領域F1が同一鎖上の領域F
1cにアニールすることによってループ構造が形成され,3′末端の領域F1から

自己を鋳型とした伸長反応をさせるとともに,別のターンバックプライマーの領域
F2がループ構造内の領域F2cにアニールすることで更なる相補鎖を合成させる

ことを可能とするものである。
(3) 引用発明1と本件発明1とを対比すると,前記のとおり,引用発明1のタ

ーンバックプライマーは,本件発明1の「第一のプライマー」と一致し,引用発明

1のリバースプライマーは,「領域R1」が本件発明の「配列(Cc′)」に相当す

るから,
「前記標的核酸配列の相補配列の3′末端部分の配列(C)にハイブリダイ

ズする配列(Cc′)を3′末端部分に含んでなる」点において,本件発明 1 の「第

二のプライマー」に相当する。
また,引用発明1には,他の実施形態として,予めプライマー内でループを構成

する「プライマー内に位置する領域X1cにアニールする領域X1」及び「領域X

1c」を備えた「ループプライマー」が開示されており,このループプライマーは,

「鋳型に相補的な配列」も有しており,
「相互にハイブリダイズする2つの核酸配列

を同一鎖上に含む折返し配列(D−Dc′)を前記配列(Cc′)の5′側に含ん

でなる」ものであるから,本件発明 1 の「第二のプライマー」に相当する。




(4) 引用例1においては,本件発明 1 の「第一のプライマー」と「第二のプラ

イマー」とをプライマーセットとすることを明記していないが,引用例1には,リ
バースプライマーとして,引用発明1のターンバックプライマーから合成された第
1の相補鎖(図5の(A))を鋳型として核酸合成を行うことが可能な任意のリバー

スプライマーを使用できること,及び,引用発明1の第1プライマーとは異なる構
造のプライマー(非対称なプライマー)を使用できることが開示されている。そし

て,引用発明1のターンバックプライマーとループプライマーとは,ターンバック
プライマーがその3′末端から伸長した伸長配列に領域F1cがアニールしてルー
プ構造を形成するのに対し,ループプライマーが予めプライマー内で領域X1と領

域X1cとがアニールしてループ構造を形成している点で異なるが,いずれのプラ
イマーも,合成される標的核酸の3′末端にループ構造を形成させ,ループ構造の

3′末端から自己を鋳型とした自己伸長反応及びループ構造内に領域F2cを設
け,別のプライマーのアニール及び伸長反応を可能とし,核酸を増幅させる点にお

いて同一の機能を有するものである。
そうすると,引用発明1において,ターンバックプライマーとセットとされる任

意のリバースプライマーとして,対称な構造のターンバックプライマーではなく,

引用発明1のループプライマーを採用し,引用発明1のターンバックプライマーと

引用発明1のループプライマーとをプライマーセットとして使用することは,当業

者にとって容易に想到し得る事項である。

したがって,本件発明1は,引用発明1に基づいて当業者が容易に想到できたも
のである。

2 取消事由2(引用発明1と引用発明3に基づく容易想到性判断の誤り)

(1) 審決は,引用発明3に記載されたプライマーは本件発明1における「第二

プライマー」に相当すると認定した上で,引用発明3のプライマーを引用発明1に

適用することの容易想到性について,
「引用例1には,引用例1及び引用例3に記載

された発明に接した当業者といえども,それら発明同士を組み合わせることが想定




され得ない程度に引用例3に記載されたプライマーにかかる欠点を列挙した記載が

存在するため,引用例3に記載されたプライマーを,引用例1に記載された発明に
直ちに適用できるとはいえない。(24頁25行〜29行)と判断したが,以下に

述べるとおり,この判断は,引用発明1と引用発明3との容易想到性の判断の前提

において,引用発明1の記載の評価を誤るものである。
(2) まず,審決は,引用例1には,「引用例3で用いられるプライマー自身がル

ープ構造を作っていることについては,プライマーダイマー形成にともなう非特異
的な合成反応の可能性を指摘して,これは重大な問題点といえると結論づけている」
(24頁21行〜24行)と判断しているが,既に述べたように,引用発明1には,

予めプライマー内でループを構成するループプライマーも開示されている。引用発
明1のループプライマーと引用発明3のプライマーとは,いずれも合成された標的

核酸の3′末端にループ構造を形成させ,ループ構造の3′末端から自己を鋳型と
した自己伸長反応させる機能を有する点で共通するのである。また,引用発明1に

おいて採用されたループプライマーにおいても,引用発明3のプライマーと同様に
プライマーダイマー形成に伴う非特異的な合成反応が生じる可能性はあり,この点

についても同じである。

また,引用発明1では,SDA法において利用されるプライマーやNASBA法

において利用されるプライマーをリバースプライマーとして使用することも記載さ

れており,リバースプライマーとして,引用発明1のプライマーとは異なる非対称

な構造の公知の核酸増幅方法で使用されていたプライマーを使用できることが開示
されている。この点,引用発明3のプライマーは,相補鎖合成を生じるものである

から,引用発明1のリバースプライマーとして引用発明3のプライマーを採用する

動機付けが存在する。

さらに,引用発明3の「少なくとも1つの逆方向反復配列を含む部分(5′) は,


その後,相補的な合成鎖を合成することによって,3′末端に逆方向反復配列のヘ

アピン構造を設けることができ,このヘアピン構造から自己を鋳型とした相補鎖を




伸長させてDNA分子のサイズを増大させることができる機能を持つ。この機能は,

引用発明1のターンバックプライマー又はループプライマーによって合成された標
的核酸の3′末端にループ構造を形成させ,ループ構造の3′末端から自己を鋳型
とした自己伸長反応させる機能と共通するから,この機能の共通性は,引用発明1

のリバースプライマーとして引用発明3のプライマーを採用する強い動機付けとな
る。

なお,引用発明1のターンバックプライマー又はループプライマーは,ループ構
造内に領域F2cを設け,別のプライマーのアニール及び伸長反応できるのに対し,
引用発明3のプライマーでは,この機能を有していないが,このような機能の不一

致は引用発明3のプライマーを引用発明1に適用する阻害事由となるものではない。
なぜなら,引用発明1においては,第1プライマーのリバースプライマーとして,

図5(A)においてR1で示されるようなループを形成しない従来のプライマーを
使用することも開示されており,この従来のプライマーを使用した場合には,上記

各反応を示さないからである。つまり,引用発明1においては,少なくとも合成さ
れた標的核酸の3′末端にループ構造を形成させることができれば足りるのであり,

標的核酸の5′末端にループ構造を形成させることは必須ではないのである。

このように,引用発明1において,任意のリバースプライマーとして,引用発明

3に開示された標的配列と特異的にハイブリダイズできる部分(3′) 及び少なく


とも1つの逆方向反復配列を含む部分(5′)からなるプライマーを使用すること

は,当業者にとって容易に想到し得る事項にすぎない。
加えて,引用発明2にも,第1の初期プライマーとは異なる非対称な構造の標準

的なプライマーを第2の初期プライマーとして使用することについて開示されてお

り(段落【0129】〜【0131】及び図2),一対のプライマーを非対称な構造

として,相違点1に係る構成とすることは当業者にとって格別困難性のないもので

あった。

3 取消事由3(サポート要件違反及び実施可能要件違反に関する判断の誤り)




審決は,本件発明3に記載されている「−1.00≦(X−Y)/X≦1.00」

との条件について,
「本件発明3ないし13,及び,本件発明16ないし27におい
て塩基数Xと塩基数Yとを選択し,効率的に標的核酸を増幅できるプライマーを製
造し,使用することができないとの特段の根拠も見いだせない」
(41頁8行〜11

行)との認定を前提として,
「請求項3ないし13,及び,16ないし27の記載が,
明細書のサポート要件に適合せず,特許法36条6項1号の規定を満たさないとも,

当業者が本件明細書の開示から請求項3ないし13,及び,16ないし27に係る
発明を容易に実施できず,特許法36条4項1号の規定を満たさないともいうこと
はできない。(44頁19行〜23行)と結論付けている。


しかし,上記条件は,少なくとも一部において,プライマーを製造し,使用する
ことができないことから,明細書のサポート要件に適合せず,また,特許法36条

4項1号の規定を満たさないことは明らかである。
なぜなら,被告は,本訴と同一の当事者間における審決取消訴訟(平成21年(行

ケ)第10107号事件,以下「別件訴訟」という。)において,第一のプライマー
のX及びYの条件として「−1≦(X−Y)/X≦0.75,30≦X+Y≦50」

という条件を満たさない場合には「反応が進行しない」と主張しており,本件条件

は,被告の主張する上記条件の範囲外のものを含むものであるから,被告自身が,

本件発明3の中に反応が進行しない条件が含まれることを認めている。



第4 被告の反論
1 取消事由1に対し

引用例1の記載(25欄25行〜28行)からみて,引用発明1のループプライ

マーの「塩基対結合が可能な状態にあるループ形成配列」(以下「ループ形成配列」

という。 は,
) 他のプライマーのアニーリングサイトになるという機能を持つのに対

し,本件発明1のFPの「折返し配列」は,以下のとおり,他のプライマーのアニ

ーリングサイトになるという機能を持たないから,両者が相違すると認定した審決




は正当である。

すなわち,審決がいう「折り返すために必要となる以上の何らかの機能」とは,
「他のプライマーのアニーリングサイトになるという機能」を意味することは明
らかであるところ,請求項1及び本件明細書では,
「他のプライマーのアニーリン

グサイトになるという機能」を明示的に除外して記載している。例えば,請求項
1及び明細書(段落【0037】 ,
)【図3a】及び【図3b】では,ターンバック

プライマーの伸長鎖の端部においてループが形成される場合は「ステムループ構
造」と,
「ステムループ構造」から伸長鎖が形成された場合は「ヘアピン」とそれ
ぞれ表現し,この「ステムループ構造」及び「ヘアピン」のループ部分は,他の

プライマーのアニーリングサイトとなる機能を持つ。一方,本件発明のFPの折
り返し配列(D−Dc′)は,他のプライマーのアニールサイトになるという機

能を持たないことから,このことを明確にするために,
「折り返し配列」という語
句を用い,「ステムループ構造」及び「ヘアピン」と区別している。

また,FPの折り返し配列(D−Dc′)に対し,仮に他のプライマーがアニ
ール可能とすると,バックグラウンドの指数関数的な上昇が生じ,特異的核酸増

幅という本件発明の効果を奏することができなくなるから,この点においても,

「折返し配列」は,
「ステムループ構造」及び「ヘアピン」とは明確に区別されて

いる。

なお,原告は,引用例1には,リバースプライマーとして,TP以外に,PC

R法のプライマー,ループプライマー,SDA法のプライマー及びNASBA法
のプライマーの記載がある旨を主張するが,TP以外のプライマーの記載は,す

べて技術的に問題があり,本件発明の進歩性の否定のための当業者に対する示唆

になり得ない。

2 取消事由2に対し

(1) 原告は,引用発明1では,合成された標的核酸の3′末端側にループ構造

を形成すればよいから,プライマーセットの他方にTPを使用すれば,リバースプ




ライマーとして引用発明3のプライマーを使用することは,引用発明1の技術的思

想を阻害するものではない旨を主張するが,引用発明1の特許権者である原告は,
引用発明3を引用例 1 の「背景技術」であげて,その欠点を指摘し,かつ,引用発
明3の欠点(ループを持つプライマーのプライマーダイマーの生成)を解決するこ

とを前提として,引用発明1をなしたのである。
したがって,原告が特許権者である引用発明1では,引用発明3を含む公知の核

酸合成反応原理では達成することが困難な高い特異性を実現するために,非特異的
反応であるプライマーダイマーを生じるループ構造を持った引用発明3のプライマ
ーの適用は除外されている。

(2) 引用発明1のループプライマーは,前述のように,ループに他のプライマ
ーがアニール可能であるのに対し,引用発明3のプライマーは,この機能を有して

いない点で明確に異なる。しかも,引用発明1には,本件発明の特徴であるTP(第
1のプライマー)及びFP(第2のプライマー)を組み合わせることや,本件発明

の特徴により奏される有利な効果について,記載も示唆もない。
なお,原告が指摘する引用発明2の標準的なプライマーとは,いわゆるPCR法

で使用するプライマーである(図2)ところ,TPとPCR法で使用するプライマ

ーを組み合わせて使用した場合,伸長鎖が次の増幅ステップの鋳型になるという指

数関数的な増幅を実現するためには,引用発明1においてPCRのリバースプライ

マーを用いたときと同様に熱変性が必要となり,この点で等温増幅法を前提とする

本件発明の先行技術となり得ない。
3 取消事由3に対し

別件訴訟においては,本件とは別の特許(特許第3867926号)が対象とな

っており,当該特許は,アウタープライマーを用いることなくTPのみを用いた場

合に,中間体形成反応を起こすための技術に関するものであるから,特別な数式に

よりTPの構成を規定している。一方,本件発明は,TP及びFPを組み合わせて

使用することにより,等温増幅,プライマー設計の容易性,特異的な核酸増幅(バ




ックグラウンドの上昇防止)及び効率的な核酸増幅(短時間での核酸増幅)という

効果を奏するものであって,TPのみで中間体形成反応を起こすことを目的として
いない。例えば,中間体形成反応が起こるための手段として,TPのみを用いる方
法のほかに,アウタープライマーを使用する方法を例として挙げている(段落【0

072】。

そうすると,本件条件のうち,上記特許において示された条件よりも広い部分で

あっても,当業者であれば,必要に応じて,例えば,アウタープライマーを使用す
ることにより,本件発明の効果が得られることは十分に理解可能である。
したがって,本件発明に,サポート要件違反及び実施可能要件違反はない。



第5 当裁判所の判断

1 取消事由1(本件発明の誤認に基づく容易想到性判断の誤り)について
(1) 原告は,審決が,引用発明1に本件発明1における「第一のプライマー」

に相当するターンバックプライマー(TP)が開示されているとしながら,引用発
明1の「[プライマー内に位置する領域X1cにアニールする領域X1]−[塩基対

結合が可能な状態にあるループ形成配列]−[領域X1c]なる部分は相互にハイ

ブリダイズする2つの核酸配列の間に[塩基対結合が可能な状態にあるループ形成

配列]が介在しているものであって,当該[塩基対結合が可能な状態にあるループ

形成配列]は単にループが形成されるだけではなく,核酸の増幅起点とするために

塩基対結合が可能な状態にあることを目的として特別に設計されている配列からな
るものであるから,請求項1の発明特定事項である「D」と「Dc′」とが折返す

ために,
「D」と「Dc′」の両者の構造が結ばれているように表記される「折返し

配列」の構成の一部をなす「−」
(ハイフン)に該当するとはいえず,相互にハイブ

リダイズする2つの核酸配列を同一鎖上に含む折返し配列(D−Dc′)とは,折

返すために必要となる以上の何らかの機能を生じさせる配列特異性を有する介在配

列を含むようなものは該当しない。」と判断したことについて,本件発明1は,「折




返すために必要となる以上の何らかの機能を生じさせる配列特異性を有する介在配

列を含むようなもの」を明示的に除外していないから誤りであると主張する。
そこで,検討するに,本件発明の第2プライマー(FP)に含まれる折返し配列
(D−Dc′)に関して,本件明細書には,「また,前記折返し配列(D−Dc′)

の長さは,好ましくは2〜1000ヌクレオチド,より好ましくは2〜100ヌク
レオチド,さらに好ましくは4〜60ヌクレオチド,さらに好ましくは6〜40ヌ

クレオチドであり,折返し配列の内部におけるハイブリダイゼーションによって形
成される塩基対のヌクレオチド数は,好ましくは2〜500bp,より好ましくは
2〜50bp,さらに好ましくは2〜30bp,さらに好ましくは3〜20bpで

ある。折返し配列(D−Dc′)のヌクレオチド配列はいかなる配列であってもよ
く,特に限定されるものではないが,好ましくは標的核酸配列にハイブリダイズし

ない配列とされる。(段落【0036】
」 )と記載されている。
この記載によれば,まず,折返し配列(D−Dc′)の長さが「好ましくは」「よ


り好ましくは」とされる場合のヌクレオチド数は,「2〜1000ヌクレオチド」,
「2〜100ヌクレオチド」とされるところ,これに対する折返し配列の内部にお

けるハイブリダイゼーションによって形成される塩基対数のヌクレオチド数は,2


〜500bp」「2〜50bp」とされており,塩基対数のヌクレオチド数の下限


値は,ハイブリダイゼーションが形成される前のヌクレオチド数の下限値2の2分

の1ではないが,上限値は,いずれも2分の1となっている。

また,
「さらに好ましい」とされる場合のヌクレオチド数「4〜60」,
「6〜40」
に対して,ハイブリダイゼーションによって形成される塩基対数は,2〜30bp」
「 ,

「3〜20bp」とされており,塩基対数のヌクレオチド数の下限値及び上限値と

もに,ハイブリダイゼーションが形成される前のヌクレオチド数の2分の1となっ

ている

核酸配列における塩基対数は,相対する2つのヌクレオチドから形成されるもの

であるから,塩基対数がヌクレオチド数の2分の1である上記記載によれば,本件




発明1において,折返し配列(D−Dc′)の配列のすべてが塩基対となっている

ことが開示されており,折返し配列(D−Dc′) 「−
の (ハイフン) の部分には,

ハイブリダイゼーションによる塩基対を形成せずループ状態を維持するような配列
は存在しないものと認められる。

(2) 原告は,甲17(本件特許公報)の図2を根拠に,折返し配列(D−D
c′)の配列(D)と配列(Dc′)との間にはハイブリダイズしていない連結領

域が存在していると主張する。

しかし,折返し配列(D−Dc′)の長さとして本件明細書に記載されたヌクレ
オチド数及びハイブリダイゼーションにより形成される塩基対数のヌクレオチド数

からみて,ハイブリダイゼーションにより塩基対を形成せずループ状態を維持する
ような配列が存在しないことは前記のとおりであり,図2に示された配列も,折返

し部分の対向する塩基の組合せがいずれもA−Tであり,すべてが塩基対となる配
列であるから,ハイブリダイズ可能な配列を示している。図2では,折返しの部分

(D−Dc′)にハイブリダイズしていないいくつかの塩基の形状が見られるが,こ
れは,ポリヌクレオチドであるプライマー分子が折り返す際に,折れ曲がる部分で

は分子の立体構造が原因となり完全にはハイブリダイズできないことを表現してい

ると推測され,ループの形成を表現したものではない(図2に示される16塩基配

列程度の短い折返し配列だけに着目すると,折り返し部分の円弧形状が強調され,

あたかもループを形成しているかのような印象を与える。)から,原告の主張は採

用することができない。
また,原告は,本件明細書では,折返し配列(D−Dc′)について,
「折返し配

列(D−Dc′)のヌクレオチド配列はいかなる配列であってもよく,特に限定さ

れるものではない」と明記されていると主張するところ,当該記載は,折返し配列

における塩基の長さやその組合せが特に限定されていない旨を示したものと解し得

るのであって,ハイブリダイズしない連結領域が存在することを開示するものと認

めることはできないから,原告の上記主張も採用することができない。




(3) 原告は,引用発明1に開示された「塩基対結合が可能な状態にあるルー

プ形成配列」,すなわち,配列内で塩基対を形成しないループ状の配列が,本件発
明1の第2プライマーに相当することを前提として,引用発明1に基づいて本件発
明 1 の進歩性を否定するところ,本件発明1の第2プライマーには,前記のとおり

配列内で塩基対を形成しないループ状の配列が存在せず,本件発明1とは相違す
るものであるから,その余の点について検討するまでもなく,原告の主張は採用

できない。
2 取消事由2(引用発明1と引用発明3に基づく容易想到性判断の誤り)につ
いて

(1) 審決は,引用発明1には,本件発明1の「第二のプライマー」に相当する
「リバースプライマー」については記載も示唆もないとする一方,引用発明3に記

載された「P1及びP2プライマー」は,本件発明1における「第二プライマー」
に相当すると認定した。そして,審決は,引用発明3の当該プライマーを引用発明

1に適用することの容易想到性について,
「引用例1には,引用例1及び引用例3に
記載された発明に接した当業者といえども,それら発明同士を組み合わせることが

想定され得ない程度に引用例3に記載されたプライマーにかかる欠点を列挙した記

載が存在するため,引用例3に記載されたプライマーを,引用例1に記載された発

明に直ちに適用できるとはいえない。」と判断した。

原告は,審決の上記判断が,引用発明1の記載の評価を誤るものであると主張す

る。
しかし,引用例1には,引用発明3に記載されたプライマーに関して,3′-OH の


供給という課題に対しては,3′末端に同一鎖上の塩基配列に相補的な配列を持たせ,

末端でヘアピンループを形成させる方法が公知である(Gene71,29-40,1988)。このよ

うなヘアピンループからは,自身を鋳型とした相補鎖合成が行われ,相補的な塩基

配列で構成された1本鎖の核酸を生成する。たとえば PCT/FR95/00891(甲3)で

は,相補的な塩基配列を連結した末端部分で同一鎖上にアニールする構造を実現し




ている。しかしこの方法では,末端が相補鎖との塩基対結合(base pairing)を解消し

て改めて同一鎖上で塩基対結合を構成するステップが必須である。このステップは
塩基対結合を伴う相補的な塩基配列同士の末端における微妙な平衡状態に依存して
進むとされている。すなわち,相補鎖との塩基対結合と,同一鎖上での塩基対結合

との間で維持される平衡状態を利用し,同一鎖上の塩基配列とアニールしたものの
みが相補鎖合成の起点となる。したがって,高度な反応効率を達成するためには,

厳密な反応条件の設定が求められるものと考えられる。更にこの先行技術において
は,プライマー自身がループ構造を作っている。そのためプライマーダイマーがい
ったん生成すると,標的塩基配列の有無にかかわらず自動的に増幅反応が開始され

非特異的な合成産物を形成してしまう。これは重大な問題点といえる。(6欄9行

〜26行)と記載されており,引用発明1には,引用発明3のプライマーを使用す

る方法では,高度な反応効率を達成するために厳密な反応条件の設定が求められる
ことと,非特異的な合成産物を形成してしまうという問題点が指摘されているので

あるから,当業者は,そのようなプライマーを引用発明1に採用することは断念す
るものといわなければならない。

(2) この点について,原告は,引用例1における「本発明によるオリゴヌクレ

オチドを1種類,そしてこのオリゴヌクレオチドをプライマーとして合成された相

補鎖を鋳型として核酸合成を行うことが可能な任意のリバースプライマーを用いた

基本的な構成によって,図6に示すような複数の核酸合成生成物を得ることができ

る。 との記載
」 (16欄41行〜46行)と図5及び図6を根拠に,引用発明1では,
フォワードプライマーとしてターンバックプライマーを使用すれば,リバースプラ

イマーとしては任意のプライマーが採用でき,引用発明3のプライマーを引用発明

1に採用できると主張する。

そこで,検討するに,引用発明1において中心となる核酸の増幅方法は,フォワ

ードプライマーとリバースプライマーの両者にターンバックプライマーを使用する

方法であって,このプライマーを使用することにより等温反応条件の下でも核酸の




合成と増幅を達成することができることが,発明の作用効果の一つであると認めら

れる(7欄6行〜15行,32行〜9欄32行,図1〜図3)。
そして,引用例1では,上記の任意のリバースプライマーを用いた旨の記載(1
6欄41行〜46行)に続いて,
「図6からわかるとおり,(D)が本発明において合

成の目的となっている1本鎖上に相補的な塩基配列が交互に連結された核酸である。
他方の生成物(E)は,加熱変性などの処理によって1本鎖とすれば再び(D)を生成す

るための鋳型となる。また2本鎖状態にある核酸である生成物(D)は,もしも加熱
変性などによって1本鎖にされた場合,もとの2本鎖とはならずに高い確率で同一
鎖内部でのアニールが起きる。」と記載されており,この増幅方法は,加熱変性など

の処理を行うから等温増幅反応ではない。そうすると,図6に示される反応は,引
用発明1において中心的となるフォワードプライマーとリバースプライマーの両者

にターンバックプライマーを使用し,等温反応条件の下でも核酸の合成と増幅を達
成するという方法とは異なり,一方にターンバックプライマーを使用し,他方に別

の機能を有するプライマーを使用して加熱条件を加えるような,応用的な増幅方法
の提供を開示するものと考えられる。また,例えば,引用例1の25欄36行〜2

6欄8行には,等温増幅反応ではない図6に基づき,リバースプライマーに制限酵

素認識領域やRNAポリメラーゼのプロモーターの配列を含有させる場合の方法が

記載されており,これらの方法も,等温増幅反応ではないが,高い特異性を実現で

きる合成方法の応用的な方法と考えられる。

以上のとおり,引用発明1において中心となる核酸の増幅方法は,フォワードプ
ライマーとリバースプライマーの両者にターンバックプライマーを使用し,等温反

応条件の下でも核酸の合成と増幅を達成するものであるのに対し,図6に基づいて

説明される方法は,一方にターンバックプライマーを使用し,他方に別の機能を有

するプライマーを使用して,加熱条件等の下にその両者の機能を利用するような,

応用的な増幅方法であるから,両者は技術的な解決課題を異にするものといわなけ

ればならない。




そうすると,引用例1においてリバースプライマーとしてターンバックプライマ

ー以外の「任意のリバースプライマー」を使用できることが開示されているからと
いって,広範囲なプライマーの使用が可能となるわけではなく,ターンバックプラ
イマーの使用に代えて,加熱条件等を用いたり,制限酵素認識領域やRNAポリメ

ラーゼのプロモーターの配列を含有させたプライマーを用いることなどの特定の条
件が前提となる。特に,原告が主張するように,引用発明3のプライマーが引用発

明1のターンバックプライマーと共通する機能を有するとするならば,引用発明1
のフォワードプライマーであるターンバックプライマーと機能が共通するプライマ
ーをリバースプライマーとしても使用することとなるから,このような方法は,引

用発明1における応用的な増幅方法として採用し得るものではない。
(3) 原告は,引用発明1では,リバースプライマーとして,引用発明1のプラ

イマーとは異なる非対称な構造の公知の核酸増幅方法で使用されていたことや,引
用発明2に,第1の初期プライマーとは異なる非対称な構造の標準的なプライマー

を第2の初期プライマーとして使用することが開示されていたことを理由に,一対
のプライマーを非対称な構造として,相違点1に係る構成とすることは当業者にと

って格別困難性のないものであったと主張する。

しかし,第1のプライマーとは異なる非対称な構造の第2のプライマーを開示す

る公知例があるからといって,そのようなプライマーの組合せ全般が容易となるも

のでないことは明らかである上,原告の指摘する公知例において等温増幅反応が行

われていたことは示されていない。
したがって,これらを根拠として,引用発明1において中心となる等温増幅を前

提とする核酸の増幅方法において引用発明3のプライマーを採用し得るものではな

いから,原告の主張は採用できない。

(4) 以上のとおり,当業者が,引用例1における「任意のリバースプライマー」

等の記載を根拠として引用発明3のプライマーを引用発明1に採用するものではな

く,前記(1)の引用発明3に対する否定的評価も考慮すれば,引用発明3のプライマ




ーを引用発明1に採用することは困難といわなければならない。

3 取消事由3(サポート要件違反及び実施可能要件違反に関する判断の誤り)
について
原告は,本件発明3が明細書のサポート要件(特許法36条6項1号)及び実施

可能要件(同条4項1号)に違反すると主張し,その理由として,被告が,別件訴
訟において,第一のプライマーのX及びYの条件として「−1≦(X−Y)/X≦

0.75,30≦X+Y≦50」という条件を満たさない場合には「反応が進行し
ない」と主張したことを根拠に,本件発明3の規定する本件条件は,被告の主張す
る上記条件の範囲外のものを含むから,本件発明3の中に反応が進行しない条件が

含まれていると述べる。
しかし,別件訴訟において対象とされる被告が特許権者である特許は,アウター

プライマーを用いることなくターンバックプライマーのみを用いた場合であっても
核酸増幅反応が生じるよう,数式等を組み合わせてターンバックプライマーの構成

を規定するものである。一方,本件発明3は,ターンバックプライマー及びフォー
ルディングプライマーを組み合わせて使用するものであるが,等温で効率的な核酸

増幅反応を起こすために,アウタープライマーを使用することを排除するものでは

ない。

そうすると,本件発明3に規定されるターンバックプライマーに関する本件条件

のうち,別件特許において示された条件を満たさない範囲の部分であっても,アウ

タープライマーを使用することにより,核酸増幅反応が生じるものと推認されるか
ら,原告の主張を採用することはできない。



第6 結論

以上のとおり,原告の主張する取消事由には,いずれも理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。





知的財産高等裁判所第2部




裁判長裁判官
塩 月 秀 平




裁判官
清 水 節




裁判官
古 谷 健 二 郎






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