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関連審決 無効2000-35653
関連ワード 発明者 /  反復(反復可能性) /  29条1項3号 /  引用発明の認定 /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 15年 (行ケ) 397号 審決取消請求事件
原告 株式会社ワイビーエム
訴訟代理人弁理士 富崎元成
同 円城寺 貞夫
同 山田 勉
被告 株式会社利根
訴訟代理人弁理士 石井良和
裁判所 東京高等裁判所
判決言渡日 2004/09/30
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
当事者の求める裁判
1 原告 (1) 特許庁が無効2000-35653号事件について平成15年7月30日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告 主文同旨
当事者間に争いのない事実等
1 特許庁における手続の経緯 原告は,発明の名称を「地盤穿孔装置」とする特許第2527674号の特許(平成4年12月8日出願,平成8年6月14日設定登録。以下「本件特許」という。特許出願の願書に添付された明細書及び図面を,以下「本件明細書」という。請求項の数は3である。)の特許権者である。本件特許のうち請求項1及び請求項2に係る発明についての特許に対して無効審判が申し立てられ,特許庁は,これを無効2000-35653号事件として審理し,その結果,平成15年7月30日,「特許第2527674号の請求項1ないし2に係る発明についての特許を無効とする。」との審決をし,この審決の謄本を,同年8月11日,原告に送達した(なお,原告は,上記無効審判の請求書副本が送達される前の平成12年12月20日,本件明細書の特許請求の範囲の訂正をすることについて訂正審判を請求したところ,平成14年5月1日,不成立審決がされ,これを不服として,当庁に同不成立審決の取消訴訟を提起したが,平成15年7月16日,請求棄却の判決がされ,同判決は確定している。(乙第1,2号証,弁論の全趣旨)。)。
2 特許請求の範囲 【請求項1】フレーム(4,65)と,このフレーム(4,65)に設けられ,先端に穿孔工具(11)が接続される主軸(21,81)を回転自在かつその軸線方向に移動自在に支持する主軸ハウジング(15,73)を有し,前記主軸(21,81)に回転力を付与するための回転駆動装置(2,62)と,前記主軸(21,81)を前記軸線方向に移動させて,地盤に送り及びこの地盤から引抜くための送り装置(10,90)と,前記主軸(21,81)の前記主軸ハウジング(15,73)から突出する部分に設けられ,前記主軸(21,81)に前記軸線方向の起振力を往復振動力として付与するための起振装置(3,63)とを備えてなる地盤穿孔装置。(以下「本件発明1」という。) 【請求項2】請求項1において,前記起振装置(3)が,前記フレーム(4)に前記軸線方向に変位自在に設けられたロータハウジング(33)と,このロータハウジング(33)内に収容され,所定の周波数で回転して前記起振力を発生する複数枚の偏心ロータ(43,44)と,前記主軸ハウジング(15)から突出する前記主軸(21)の後端部を前記ロータハウジング(33)に回転自在に結合するための連結手段(48)とからなる地盤穿孔装置。(以下「本件発明2」という。) 3 審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本件発明1及び本件発明2は,いずれも特公昭55-7514号公報(以下「引用刊行物」という。)に記載された発明(以下「引用発明」という。)と同一であるから,特許法29条1項3号に該当し,無効とすべきものである,とするものである。
4 審決が認定した,引用刊行物の記載内容,本件発明1及び本件発明2と引用発明との一致点 (1) 引用刊行物(本訴甲第3号証)の記載内容 ア「ハンマ部材と,回転テーブルに連結されたスピンドルと,このスピンドル上に装着されたボディ及び上記のハンマ部材に連結されたバイブレータと,上記のボディ及び回転テーブル間に配置された可撓性連結装置とを備え,上記のスピンドルは上記のボディに対して回転自在としたことを特徴とする穴あけ機。」(特許請求の範囲) イ「ジャッキ棒6はアングルプレート7に強固に接続され,一方アングルプレート7は,穴あけ機9を案内し支持するようにしたマスト8に固定されている。」(2頁3欄27〜30行) ウ「マスト8の上部に,プーリ20があり,このプーリ上にケーブルまたはチェイン21がかけられている。このチェイン21は符号24の個所で,穴あけ9に固定され,車両に枢着されたアングルプレート23によって支持されている複数個のプーリ22にかけられている。」(2頁3欄42行〜4欄3行) エ「第2図に示すように,穴あけ機9は,歯車27を内蔵させたケーシング26を有する回転テーブル25備えている。歯車27はこれより小径の歯車28と噛合する。この歯車28は駆動スピンドル29に取り付けられており,・・・スピンドル29は可変容量を有する液圧軸流ピストンエンジン31によって回転される。」(2頁4欄4〜12行) オ「歯車27は,中空スピンドル33を内蔵した駆動軸32に取り付けてある。駆動軸32は,複数個のローラベアリング36によってケーシング26に堅固に支持されている。スピンドル33は,駆動軸32の内側面のスプライン35と協同するスプライン34を備えている。」(2頁4欄20〜25行) カ「バイブレータ50はケーシング52を備え,このケーシングにその2つの平行軸54,55が横置してある。軸54,55は反対方向に回転し,各軸はそれぞれ偏心部材56,57を担持している。」(3頁5欄20〜25行) キ「スピンドル33の下方端には,一連の棒19または穴あけ工具と接続するためねじ70が設けられている。」(3頁6欄34〜36行) ク「かりに,バイブレータ50が棒46に錠止され,ヘッド64とパッド67との間または縁部66と金属部69との間のいずれかで接触が生じないようにバイブレータ50の振動の振幅がなるように凹所65内にヘッド64が位置決めされていれば,バイブレータのすべての振動は,棒46,フランジ38およびベアリング39を介してスピンドル33へ伝達されることになる。」(4頁7欄2〜9行) ケ 第1図には,車両上に設置された本発明による穴あけ機の概略立面図が,第2図には,第1図に示す穴あけ機の断面図が示されている。
(以下,「記載ア」,「記載イ」などという。) (2) 引用発明と本件発明1との一致点 記載イおよび記載ウによれば,マスト8に案内支持される穴あけ機9の部材が,本件発明1における「フレーム」に相当し,記載ウないし記載カによれば,「チェイン21」「回転テーブル25」「液圧軸流ピストンエンジン31」がその機能に照らし本件発明1における「送り装置」「主軸ハウジング」「回転駆動装置」に,それぞれ相当し,記載キによれば,スピンドル33の下方端には,ねじ70により穴あけ工具,すなわち本件発明1でいう「穿孔工具」が接続されるのであるから,「中空スピンドル33」は本件発明1における「主軸」に相当し,記載クによれば,バイブレータ50のすべての振動は,本件発明1における主軸に相当するスピンドル33へ伝達されるのであるから,バイブレータ50が本件発明1における「起振装置」に相当する。 (3) 引用発明と本件発明2との一致点 記載ケの第2図によれば,記載クのようにバイブレータ50が棒46に錠止された場合にも,起振装置33(判決注,「バイブレータ50」の誤記であると認められる。)のケーシング52は,回転テーブル25に対してゴムワッシャ45を介して接続されるのであるから,回転テーブル25に対して軸方向に変位自在に設けられているといえ,本件発明2における「ロータハウジング」に相当し,引用発明の「偏心部材56,57」がその機能に照らし本件発明2における「複数枚の偏心ロータ」に相当する。引用刊行物に記載される穴あけ機において,記載クのようにバイブレータ50が棒46に錠止された場合,スピンドル33の後端部は,ベアリング39,フランジ38,棒46を介して,回転自在にバイブレータ50のケーシングに結合されることとなるのであるから,かかる引用発明の「ベアリング39,フランジ38及び棒46」からなる構成が,本件発明2における「結合手段」(判決注,「連結手段」の誤記であると認められる。)に相当する。
原告主張の取消事由の要点
1 取消事由1(引用発明認定の誤り) 引用刊行物には,記載アのとおり,ハンマ部材により打撃して穴あけを促進するという穴あけ機の発明が記載されている。ところが,審決は,「記載クによれば,バイブレータ50のすべての振動は,本件発明1における主軸に相当するスピンドル33へ伝達されるのであるから,」(審決書4頁32〜34行)と認定している。そうすると,この記載クの部分には,前述した打撃による穴あけ機とは異なる別の発明が記載されていると見るべきものである。なぜならば,打撃して掘削する機能と振動で掘削する機能とは,同時に成立しないからである。
したがって,審決は,同時に二つの引用発明を混在させて認定しているにもかかわらず,そのうちの都合の良い事項のみを本件発明1及び2に沿って,後知恵で記載アから記載ケとしてつまみ食い的に脈絡もなく抽出して,一つの引用発明であるかのように認定し,これと本件発明1及び2と対比しているのであり,このような誤った引用発明の認定を前提にした審決は違法である。
2 取消事由2(引用発明の適格性) 「刊行物に発明が記載されていると言えるためには,当業者がその刊行物を見れば,特別の思考を要することなく実施しうる程度にその内容が開示されている必要がある。」(東京高裁平成3年10月1日判決,判例時報1403号104頁)と解すべきところ,引用刊行物の記載クの部分に明らかにされている引用発明は,理論的にも実験によっても実施しうる程度にその内容が開示されているものとはいえない。
(1) まず,引用刊行物の記載クのようなバイブレ一タ50の振動だけでスピンドル33に連結された穴あけ工具(図示せず)で掘削できるわけではない。従来の穴あけ機の原理と同様に,掘削中にはこの振動と同時にチェイン21の牽引力により穴あけ工具を地盤に強力な力で押圧しておく必要がある。そうすると,チェイン21により下方に強力に引っ張られるため,回転テーブル25も下方に引っ張られ,フランジ38が上のゴムワッシャ45を圧縮し,スラスト部材44の端部44aに金属接触する。この金属接触のために,バイブレータ50,棒46,フランジ38,回転テーブル25,チェイン21,マスト8等は,全て一体の物となる。物理学でいうと,バイブレータ50,棒46,フランジ38,回転テーブル25,チェイン21,マスト8等がすべて同じ質点(物体の形や大きさを無視して,これを幾何学的な点とみなし,これに力学的要素である質量だけを与えたものを考えた点)となる。
バイブレータ50の振動は,穴あけ機9及びマスト8等を全て同時に振動させることになり,穴あけ機9及びマスト8の全体が異常な振動状態(携帯電話のマナーモードのような振動)を呈し,又は穴あけ機9及びマスト8等の特定部分が異常な振動と騒音を発することになる。すなわち,機械力学でいう機械全体を強制振動させた状態となり,バイブレータ50の振動エネルギーは,無駄な振動となり,スピンド33に有効に伝達されず掘削できない。
相対的にバイブレータ50の出力が小さく,穴あけ機9及びマスト8等の重量(質量)が大きいときは,振動のエネルギーは内部エネルギーとして消費され外部から観察できる程の振動は発生しない。いずれにしろ,バイブレータ50の振動エネルギーは,スピンド33の振動に伝達されることはなく掘削できない。
(2) 以上のことは,机上の空論ではなく,本件発明1及び2の発明者がその関連発明の開発過程で,引用刊行物の記載クの引用発明と同様の機構を試作して確認した事実でもある。この試作機は,引用刊行物の記載クの引用発明と全く同様に,チェイン等の送り装置でゴムワッシャを介して穴あけ機を地盤に押圧して掘削するものである。この試作機は,上述したように穴あけ機全体が異常な振動を引き起こし掘削ができなかったので,この商品化を断念した経緯がある。
(3) 原告は,別紙実験説明書及び実験装置図のとおりの実験機を使用し,以下のような実験を行った。
ア 実験機において,「加振機(50)」の全ての振動は,「加振機(50)」の下部に設けたベアリング(カバーがあり外観からは見えない。)を介して,ロッド(19)を回転駆動するスピンドル(回転装置(25)の上部に図示された軸)に伝達される。この機能については,引用刊行物の記載クの穴あけ機と全く同一である。
さらに,引用刊行物の記載クの穴あけ機の構造は,この記載クの部分以外は,他の実施例(打撃による穴あけ機の発明)を前提としている。引用刊行物のボディ37には,これを挟んで配置された2個のゴムワッシャ45を介して,回転テーブル25に連結され,更に回転テーブル25はチェイン21に連結されている。この記載クの穴あけ機で掘削するとき,チェイン21によりテーブル25を下方に強力に引っ張り,フランジ38が上のゴムワッシャ45を圧縮し,スラスト部材44の端部44aに金属接触する(甲第3号証4欄末行〜5欄3行参照)。
これと全く同一構造,機能を実験機で再現するために,実験機には,別紙実験説明書のとおり,加振機(50)と回転装置(25)を,棒(42),スラスト部材(44),上下のゴムワッシャ(45),ボス端(43)等で連結した。
更に,この加振機(50)と回転装置(25)を移動台(16)上に搭載した。この移動台(16)は,マスト(8)に配置されたチェーン(21)に固定した。掘削するときは,チェーン(21)により移動台(16)を下方に強力に引っ張り,ゴムワッシャ(45)を圧縮し,スラスト部材(44)の端部がフランジ(38)に金属接触させる。
以上のように,引用刊行物の記載クの穴あけ機を再現した。
イ 実験結果 上記実験機の構造において,原告は以下に示す3通りの実験を行った。
上記構造,機能において,実験1は,引用刊行物の記載クの穴あけ機の構造,機能で騒音と振動がどの程度発生するか,実験2は,本件発明1及び2の実施例と同一の構造,機能の場合,騒音と振動がどの程度発生するか,実験3は,本件発明1及び2の構造,機能で実際に掘削できるか否か,である。
実験1(記載クの振動と騒音の再現実験) 穴あけ機を作動させないときの振動加速度は,0.1G,騒音は,68.1dB(A)であり,加振機(50)を起動し回転装置(25)によりロッド(19)を回転させて,チェーン(21)を駆動すると,振動加速度は,19.9G,騒音は,94.4dB(A)であった。このときチェーン(21)は,掘削機本体に激しく衝突して振動した。
実験2(本件発明1及び2の振動と騒音の再現実験) 実験1の穴あけ機から,2本の棒(42),2個のスラスト部材(44),4個の上下のゴムワッシャ(45),ボス端(43),ナットを取り外した。
穴あけ機を作動させないときの振動加速度は,0.2G,騒音は,68.1dB(A)であり,回転装置(25)によりロッド(19)を回転させて,チェーン(21)を駆動すると,振動加速度は,1.8G,騒音は,76.2dB(A)であった。チェーン(21)は,掘削機本体のマスト(8)に接触して振動していなかった。
実験3(本件発明1及び2の掘削再現実験) 実験2の状態で,ゴムマットを外して,実際に掘削実験を行った。穴あけ機の回転装置を約1分30秒間作動させて掘削したら,72cmのボーリングができた。
実験結果の解析 以上の事実実験の結果から,実験1の実験機は,振動と騒音により穴あけ機として使用できない(即ち実施できない),又は発明として未完成である。
また,実験2の実験機の振動と騒音は低く,土木機械として問題はない。更に,実験3の実験機は,穴あけ機としての機能を備えたものである。
(4) 以上のとおり,引用刊行物の記載クの引用発明は,機械力学上の観点,更には実験結果からも,振動による掘削はできないものであり,実施できない発明である。したがって,発明として完成していないものを引用発明として認定し,この引用発明と本件発明1及び2が同一であるとした審決の判断は誤りである。
3 取消事由3(引用発明と本件発明1の同一性判断の誤り) (1) 目的の相違 引用発明は,特許請求の範囲に「ハンマ部材と,回転テーブルに連結されたスピンドルと,・・・・」(甲第3号証1欄)と記載されているように,ハンマ部材により打撃して穴あけを促進するというものであり,そのために,打撃して穴あけを促進する「衝撃装置」が必須要件である。引用発明の目的は,あらゆる種類の材料に穴あけをすることであり,衝撃音を小さくすることを目的とする発明ではない。
これに対し,本件発明1は,打撃により穴あけを促進するものではなく,振動により穴あけを行うものであり,騒音の発生を押さえることを目的としているものである。したがって,両者は発明の目的が異なる。
(2) 本件発明1の「起振装置」は引用発明の「バイブレータ」ではない。
審決は,引用発明の「バイブレータ50」が本件発明1における「起振装置」に相当すると認定したが,これは誤りである。
引用発明は,前記(1)のように,ハンマ部材により打撃して穴あけを促進するものであり,打撃して穴あけを促進する「衝撃装置」が必須の構成である。 これに対して,本件発明1の「起振装置(3,63)」は,その請求項1に記載されているとおり,「主軸(21,81)に前記軸線方向の起振力を往復振動力として付与するためのもの」である。したがって,審決が,引用発明における「バイブレータ50」が本件発明1における「起振装置」に相当するとした点は誤りである。
(3) 以上のとおり,本件発明1と引用発明とは,発明の目的,掘削原理が異なり,かつその構成も異なるのであるから,本件発明1は引用発明と同一であるとした審決の判断は誤りである。
4 取消事由4(引用発明と本件発明2の同一性判断の誤り) (1) 引用発明には,本件発明2の「連結手段」に相当するものは存在しない。
審決は,引用発明における「ベアリング39,フランジ38及び棒46」からなる構成が,本件発明2における「連結手段(48)」に相当する旨認定しているが,これは誤りである。以下のとおり,引用発明は,本件発明2の「連結手段」に相当するものを備えていないのである。
ア 機能面での違い 本件発明2の「連結手段(48)」は,「主軸(21)の後端部」と「ロータハウジング(33)」との間に配置されたものであり,「起振装置(3)」から発生する軸線方向の往復振動力を伝達し,かつ主軸(21)の回転を遮断するものである。
これに対して,引用刊行物には,「スピンドル33は,ローラベアリング39,たとえば,ローラ・スラストベアリングによって,中実の環状フランジ38から延長する支持部材すなわちボディ37に接続されている。ベアリング39は,穴あけ機によって生ずる振動力と反復衝撃を緩衝することができる。」(甲第3号証4欄30〜35行)と記載されている。この記述から明らかなように,「ベアリング39」は,「穴あけ機によって生ずる振動力と反復衝撃を緩衝する」ものである。すなわち,この「ベアリング39」は,「ハンマ部材60」の衝撃力,又は往復振動力を伝達するためのものではなく,「振動力と反復衝撃を緩衝するものである」ので,本件発明2の「連結手段(48)」の往復振動力の伝達とは逆の作用をするものである。
イ 配置面での違い また,引用発明の「ベアリング39」は,「ボディ37」と「スピンドル33」との間に配置されている。しかし,本件発明2の「連結手段(48)」は,「主軸(21)の後端部」と「ロータハウジング(33)」との間に迂回することなく直結して配置されたものであり,「起振装置(3)」で発生した往復振動を主軸21に伝達する。したがって,本件発明2の「連結手段(48)」は,引用発明の「ボディ37」に対応する部材を必要としないので,本件発明2は,引用発明の「ボディ37」に相当するものを備えていない。審決は,引用発明の「ケーシング52」が本件発明の「ロータハウジング」に相当し(審決書5頁8〜11行),引用発明2の「中空スピンドル33」が本件発明2の「主軸」に相当すると認定した。
したがって,審決が認定したように(審決書5頁22〜23行),本件発明2の「連結手段(48)」が,引用発明の「ベアリング39,フランジ38及び棒46」に相当すると仮定すると,引用発明の「ベアリング39」は,「中空スピンドル33」と「ケーシング52」との間に配置されていなければならない。
しかしながら,引用刊行物に記載された「ベアリング39」は,「ボディ37」と「スピンドル33」との間に配置されている。したがって,本件発明2の「連結手段(48)」と,引用発明の「ベアリング39」とでは,少なくとも両者の配置された位置が異なる。
ウ ボディの有無の違い さらに,引用発明の「ボディ37」には,これを挟んで配置された2個のゴムワッシャ45を介して,回転テーブル25に連結され,更に回転テーブル25は,チェイン21に連結されている(甲第3号証の4欄42行〜同5欄3行参照)。すなわち,引用発明の「ボディ37」は,穴あけ機9を上下駆動するためのチェイン21の係止部材である。さらに,引用発明の「ボディ37」と一体のフランジ38には,4本の棒46が配置され,この棒46の外周に配置したスプリング47でバイブレータ50を弾性的に支持している(甲第3号証4欄36行〜5欄9行)。
引用発明の「ボディ37」は,穴あけ機を上下に送るための機能と,チェイン21との間にゴムワッシャ45により,弾性的に支える支持機能を備えたものである。これに対して,本件発明2は,「ボディ37」及びこれと一体の「フランジ38」に相当する部材を備えていない。すなわち,少なくとも引用発明の「ボディ37」に相当する機能を奏するものは,本件発明2は備えていない。
(2) 引用発明と本件発明2とは動力伝達経路が異なる。
仮に,審決が認定したように,引用発明において,バイブレータ50の振動が4本の棒46,環状フランジ38及びベアリング39の順序でスピンドル33に伝達されるものであったとしても,引用発明と本件発明2は,次のように穴あけ機の機能が異なる。
引用刊行物の「穴あけ機」は,バイブレータ50の振動は,4本の棒46,環状フランジ38及びベアリング39の順序でスピンドル33へ伝達されることになるものである。このとき,ヘッド64は凹所65内の金属パッド67には「接触が生じないように」との記載から明らかに接していない。したがって,バイブレータ50の振動のエネルギーは,4本の棒46で連結されているために,4本の棒46の横振動,縦振動に変換された後,環状フランジ38に伝達されることになる。このために,エネルギー効率が悪く,かつ4本の棒46の横振動等の穴あけに有害な振動も伝達することになる。また,中心ではなく,スピンドル33の外周に配置した4本の棒46で連結されているために,均一に振動エネルギーをスピンドル33に伝達することができないものである。
これに対して,本件発明2では,起振装置(3)からの振動は,連結手段(48)及び主軸(21)に直接的に軸線方向に伝達されるので,引用刊行物の穴あけ機のような問題がなく,かつ横振れが少なく,振動を効率的に伝えることができるものである。
(3) 以上のとおり,引用発明と本件発明2とはその構成が異なるのであり,これを一致するものと認定した上で,両発明を同一であるとした審決の判断は誤りである。
被告の反論の要点
1 取消事由1(引用発明認定の誤り)に対して 引用発明は,複合機能を有する装置であって,それらの一部を不作動状態にして使用することができるものである。審決は,その構成,機能をそのまま正確に認定したものであって,何ら誤りはない。
2 取消事由2(引用発明の適格性)に対して 特許法でいう発明は,技術思想であり,刊行物に記載されている発明が実用化されていなくても,発明として認定できるものである。
本件明細書には,原告が引用刊行物について述べているような不具合は開示されていないし,その不具合を解消する手段も開示されていないのであり,ただ回転と振動を併用するという技術思想を実現するための周知の手段が開示されているにすぎない。原告は,「実用化の点で多くの困難があり,二度にわたって実用化実験の中断をしました,・・・・」(甲第9号証)と述べているように,本件特許が出願時点では実用化されていないことを自白している。引用発明が実施不能だから発明として成立しないというのであれば,本件特許も発明として成立しないことになる。
3 取消事由3(引用発明と本件発明1の同一性判断の誤り)に対して (1) 目的の相違について 引用発明においては,あらゆる材料に穴をあけるために,回転,振動及び衝撃という方法を選択又は適宜組み合わせて行うことが明らかにされているのである。それにもかかわらず,原告は,ハンマ部材を使用する態様のみに言及し,ハンマ部材を使用しない状態を無視して目的が異なると主張しているものである。そもそも引用発明の出願時において,回転と振動を併用する掘削機は周知のものだったのであり,原告が本件発明1の目的であると主張していることは,当然のことであるため,引用刊行物には殊更明示的に記載されていないだけである。
(2) 本件発明1の「起振装置」と引用発明の「バイブレータ」について 原告の主張は,引用発明がハンマ部材を使用する態様のみに限られることを前提とするものであり,その理由がないことは前記(1)のとおりである。
4 取消事由4(引用発明と本件発明2の同一性判断の誤り)に対して (1) 連結手段に関する審決の認定判断に誤りはない。引用発明は,振動をスピンドルに伝えることを前提としてスラストベアリングを使用するものであり,スラストベアリングの本来的機能からすれば,バイブレータの振動がベアリングを介してスピンドルに伝達されることは自明である。このベアリングは,このような振動の伝達作用もするが,付加的に振動や衝撃の緩衝作用も有していると解すべきである。そして,要は,本件発明の構成が引用発明にも存在するかどうかが問題なのであって,連結手段の配置やボデイの存在などに関する原告の主張は意味がないものである。
(2) 原告は,横振動の発生を指摘するけれども,横方向の振動が存在しようがしまいが,バイブレーターが縦方向の振動を発生させてスピンドルに伝達していることに変わりがない以上,伝達経路について,引用発明と本件発明2とでは本質的に何ら変わるところがないことが明らかである。
当裁判所の判断
1 取消事由1(引用発明認定の誤り)について 引用刊行物には,審決が認定した記載アないし記載クの記載があるほか,次の記載がある。
「ケーシング52は同様にリング51を備えており,このリングの中を棒46が通り,リング51によりバイブレータ50が案内されてナット53によって所定位置に係止されるようになっている。従って,バイブレータ50と環状フランジ38との間の距離を調節することができる。」(甲第3号証3頁5欄13〜19行) 「この穴あけ機の操作を説明すると,ハンマ部材60がパッド67に十分近ずくと,普通のハンマ操作が行われ,このハンマ操作によりスピンドル33を軸方向へ移動させる。この操作によって,一連の棒19および穴あけ工具自身を継続して運動させる。」(同3頁6欄15〜20行) 記載クに続けて「多くの場合,上記の振動によって,穴あけされる材料例えば土層と接触する穴あけ工具を土層に十分に貫挿させることができる。同様に,スピンドルの回転のみでまたは,この回転とハンマ部材60の振動を兼用させて土層に穴あけすることも可能である。」(同4頁7欄9〜15行) 記載アないし記載ク及び上記記載からすると,引用刊行物には,記載アないし記載キの構成を持つ穴あけ機において,衝撃装置であるハンマ部材60のハンマ操作,すなわち打撃による穴あけ方法のほか,それとは別に,記載クの「バイブレータ50が棒46に錠止され,ヘッド64とパッド67との間または縁部66と金属部69との間のいずれかで接触が生じないようにバイブレータ50の振動の振幅がなるように凹所65内にヘッド64が位置決めされ」た場合には,バイブレータから伝達される振動を利用することによる穴あけが可能となる構成も併せ持つことが示されているのである。このように,ヘッド64の位置決めの仕方によって,打撃(及び回転)による場合と振動(及び回転)による場合とを選択することができ,その位置決めは,ナット53によって,バイブレータ50と環状フランジ38との間の距離を調節し,所定位置に係止されるという方法によるとされているのであって,この打撃による穴あけと振動による穴あけが,同一構成の下で同時に実現されるものでないことはいうまでもなく,引用刊行物にはこの二つの発明が開示されているものである。
そして,審決は,引用刊行物の記載として記載アないし記載ケを認定した上で,引用刊行物記載の発明(引用発明)と本件発明1及び2との一致点について検討しているのであり,審決が,引用刊行物の記載内容として,ハンマ部材60のハンマ操作に関する記載を認定していないことからみても,審決は,引用刊行物に記載された前記二つの発明のうち,バイブレータから伝達される振動(及び回転)を利用することによる穴あけ機の構成を特定(つまり記載クのような位置決めをする場合を前提とした発明として特定)して,これを引用発明として認定し,これと本件発明1及び2とを対比しているものであることが明らかである。すなわち,審決は,ハンマ部材60による打撃を利用した穴あけ機としての構成を引用発明としては認定していないのである。
そうすると,かかる審決の認定は,原告の主張するような,矛盾する二つの発明を認定したものでも,都合の良い事項のみを後知恵でつまみ食い的に脈絡もなく抽出して認定したものでもないのであり,この点に関する原告の主張は理由がなく,審決の引用発明の認定に誤りはない。
2 取消事由2(引用発明の適格性)について 原告は,記載クによる引用発明は実施することのできない発明であると主張する。その具体的な理由は,引用発明において,バイブレ一タ50の振動を利用して掘削をする場合には,チェイン21の牽引力により穴あけ工具を地盤に強力な力で押圧しておく必要があり,チェイン21によって下方に強力に引っ張られるため,回転テーブル25も下方に引っ張られ,フランジ38が上のゴムワッシャ45を圧縮し,スラスト部材44の端部44aに金属接触することになり,この金属接触のために,バイブレータ50,棒46,フランジ38,回転テーブル25,チェイン21,マスト8等は,すべて一体の物となる(すべて同じ質点となる)からというものである。
引用発明における「チェイン21」は,本件発明1における「送り装置(10,90)」に相当する(前記第2の4(2))のであり,この「送り装置(10,90)」は,「主軸(21,81)を前記軸線方向に移動させて,地盤に送り及びこの地盤から引抜くため」の装置である(特許請求の範囲請求項1)から,引用発明における「チェイン21」も,スピンドル33(本件発明1の主軸に相当する。)を軸線方向に移動させて地盤に送るという限度においては,チェイン21の牽引力により穴あけ工具を地盤に押圧するものであるといえる。
しかしながら,引用発明において,掘削に利用されるのは振動だけではなく,回転も含まれ得るものであることは引用刊行物の記載エ,オ,キから明らかであり,また,穴あけ機自体が,それなりの重量を持っているものであることに加え,スピンドルに加えられる押圧力は,地盤の硬さ,穴あけ工具(穿孔工具)の種類,形状,大きさなど様々な条件によって異なることからすれば,その押圧力の程度を一義的に把握することは困難であるし,少なくとも,原告が主張するように,フランジ38がゴムワッシャ45を圧縮し,スラスト部材44の端部44aに金属接触するほど強力な力で常に押圧しておく必要があるものとは認められない。
また,押圧の際に,フランジ38がスラスト部材44の端部44aに金属接触するかどうかは,押圧力の程度に加え,振動の大きさやゴムワッシヤ45の弾性特性,更にはフランジ38とスラスト部材の端部44aとの間隔にもよるというべきであるから,単に,チェインの牽引力によりスピンドルを軸線方向に移動させて地盤に送るということから直ちに,原告が主張するような金属接触が生じると速断することもできない。なお,仮に,原告が主張するような金属接触が生じる場合があり得るとしても,それについて,スラスト部材の端部とフランジとの間の距離の調整など,当業者による設計上の工夫によっては対処し得ないものとまでみることもできない。
原告は,別紙実験説明書及び実験装置図のとおり,引用発明と同一構造,機能を有する実験機を用いて実験した結果,振動と騒音により穴あけ機として使用できないことが判明したと主張する。しかし,別紙実験説明書や実験を記録した公正証書(甲第14号証)によっても,その実験機において,フランジとスラスト部材の端部との間隔をどのように設定したのか,どの程度の押圧力を加えたのか,その押圧力の程度に応じて上記間隔がどのように変化したのかなどの点が全く明らかにされていないのであって,上記公正証書等によっては,引用発明による通常の掘削において,チェインの牽引力で穴あけ工具を地盤に押圧することにより,所定の部位に金属接触が生じることになるのかどうかが明らかでなく,かかる実験の結果をもって,引用発明として開示されている技術が実施不能であることの根拠とすることはできない。なお,原告は,自社における開発過程で試作した引用発明と同様の機構を有する試作機も異常な振動を引き起こし掘削できなかったとも主張するが,これを認めるに足りる証拠はない(甲第9号証には,「実用化の点で多くの困難があり,二度に亘って実用化実験の中断をしました。」とあるだけで,その具体的な理由,原因についての記載はない。)。
以上のとおりであるから,引用発明は実施することのできない発明であるとの原告の主張は理由がない。
3 取消事由3(引用発明と本件発明1の同一性判断の誤り)について (1) 目的の相違について 原告は,本件発明1と引用発明とは発明の目的が相違している旨主張する。しかしながら,本件発明1と引用発明との同一性を判断するに当たっては,特許請求の範囲に記載された本件発明1の構成と引用発明の構成とを客観的に対比することによって行うべきものであり,客観的な構成が同一であれば,発明の目的がどうであれ,その発明は同一ということになるのであるから,原告の主張は理由がない。
また,原告の上記主張は,引用発明が,ハンマ部材60により打撃して穴あけを促進するという技術であることを前提とするものであるが,本件において,審決が認定する引用発明は,振動(及び回転)を利用した場合の穴あけ機の構成を内容とするものであることは前記のとおりであるから,原告の主張は,その前提を欠くものであって,失当である。
(2) 原告は,引用発明は,ハンマ部材により打撃して穴あけを促進するものであり,打撃して穴あけを促進する「衝撃装置」が必須の構成であることを理由に,引用発明の「バイブレータ50」が本件発明1における「起振装置」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
しかしながら,審決が認定した引用発明は,前記1のように,ハンマ部材により打撃して穴あけを促進するものではなく,振動を利用する場合のものであるから,原告の主張は前提において失当である。
そして,引用刊行物には,記載クに「バイブレータのすべての振動は,棒46,フランジ38およびベアリング39を介してスピンドル33へ伝達されることになる。」とあることのほか,「こうして,バイブレータ50とスピンドル33を並べると,振動を最大限利用するため,バイブレータ50の振動により生ずる力をスピンドルの軸線と平行させることが可能となる。」(甲第3号証3頁5欄34〜38行)と記載されていることからすれば,引用発明におけるバイブレータ50は,軸線と平行の方向の振動力を起こさせ,その振動力はスピンドル(本件発明1の主軸に相当する。)へ伝達されるのであるから,本件発明1における「前記主軸(21,81)に前記軸線方向の起振力を往復振動力として付与するための起振装置(3,63)」(特許請求の範囲請求項1)に相当するとの審決の判断に誤りはない。
(3) 以上のとおり,原告が引用発明と本件発明1の同一性判断の誤りと主張する点は,いずれも理由がなく,審決が,前記第2の4(2)のとおり,本件発明1と引用発明の一致点について認定したところに基づき,引用発明には,本件発明1の構成である「フレームと,このフレームに設けられ,先端に穿孔工具が接続される主軸を回転自在かつその軸線方向に移動自在に支持する主軸ハウジングを有し,前記主軸に回転力を付与するための回転駆動装置と,前記主軸を前記軸線方向に移動させて,地盤に送り及びこの地盤から引抜くための送り装置と,前記主軸の前記主軸ハウジングから突出する部分に設けられ,前記主軸に前記軸線方向の起振力を往復振動力として付与するための起振装置とを備えてなる地盤穿孔装置」がすべて記載されているとして,その同一性を認めた判断に誤りはない。
4 取消事由4(引用発明と本件発明2の同一性判断の誤り)について (1) 原告は,引用発明には,本件発明2の「連結手段」に相当するものは存在しないとして,引用発明における「ベアリング39,フランジ38及び棒46」からなる構成をもって本件発明2の「連結手段」に相当するとした審決の認定は誤りであると主張する。
ア 本件発明2の「連結手段」は,特許請求の範囲請求項2に「起振装置(3)が,前記フレーム(4)に前記軸線方向に変位自在に設けられたロータハウジング(33)と,・・・・前記主軸ハウジング(15)から突出する前記主軸(21)の後端部を前記ロータハウジング(33)に回転自在に結合するための連結手段(48)」と記載されているように,「起振装置(3)」から発生する軸線方向の往復振動力を主軸に伝達するための手段であることが明らかである。原告は,連結手段(48)は主軸(21)の回転を遮断するものでもあると主張するけれども,本件明細書の「主軸には回転駆動装置により回転力が,起振装置により軸線方向の起振力がそれぞれ加えられ,主軸から穿孔工具にこれらの動力が伝達される。
これによって穿孔工具は回転しながら軸線方向に振動し,・・・・」(甲第2号証2頁4欄最終行〜3頁5欄3行),「回転駆動装置2の作動によりシャンクロッド21を介してボーリングロッド11が回転し,・・・・。同時に,起振装置3によって起振力がシャンクロッド21を介してボーリングロッド11に伝達され,ボーリングロッド11が振動する。」(同4頁7欄46行〜8欄2行)などの記載によれば,本件発明2において,振動力が伝達されている時に回転力は遮断されていないことが明らかである。
イ 原告は,引用刊行物に「ベアリング39は,穴あけ機によって生ずる振動力と反復衝撃を緩衝することができる。」(甲第3号証2頁4欄33〜35行)との記載があることをとらえて,引用発明におけるベアリング39は,振動力と反復衝撃を緩衝するものであり,本件発明2の「連結手段」の振動力の伝達とは逆の作用をするものであると主張する。
そこで検討するに,引用刊行物には次の記載がある。
「スピンドル33は,ローラベアリング39,たとえば,ローラ・スラストベアリングによって,中実の環状フランジ38から延長する支持部材すなわちボディ37に接続されている。」(甲第3号証2頁4欄30〜33行) 「かりに,バイブレータ50が棒46に錠止され,ヘッド64とパッド67との間または縁部66と金属部69との間のいずれかで接触が生じないようにバイブレータ50の振動の振幅がなるように凹所65内にヘッド64が位置決めされていれば,バイブレータのすべての振動は,棒46,フランジ38およびベアリング39を介してスピンドル33へ伝達されることになる。」(同4頁7欄2〜9行) これらの記載によれば,ベアリング39が,バイブレータの振動をスピンドル33へ伝達する機能をもつことは明らかである。
原告が引用する引用刊行物の記載は,「穴あけ機によって生ずる振動力と反復衝撃を緩衝する」というもので,記載クの構成の場合に,バイブレータからの振動をスピンドルに伝達することを否定する意味をもつものと解することはできない。したがって,引用発明におけるベアリング39の作用に関する原告の上記主張は理由がない。
ウ 原告は,本件発明2の「連結手段」は主軸の後端部とロータハウジングとの間に直結して配置されているのに対し,引用発明の「ベアリング」はボディとスピンドルとの間に配置されており,両者の配置された位置が異なると主張する。
しかし,特許請求の範囲請求項2には,「主軸ハウジング(15)から突出する前記主軸(21)の後端部を前記ロータハウジング(33)に回転自在に結合するための連結手段(48)」と記載されているだけで,連結手段が主軸の後端部とロータハウジングの間に直結して配置されているということまでの特定はなされていない。
また,審決は,「甲第1号証(判決注,本訴甲第3号証)に記載される穴あけ機において,記載クのようにバイブレータ50が棒46に錠止された場合,スピンドル33の後端部は,ベアリング39,フランジ38,棒46を介して,回転自在にバイブレータ50のケーシングに結合されることとなるのであるから,かかる「ベアリング39,フランジ38及び棒46」からなる構成が,本件発明2における「結合手段」(前記のとおり「連結手段」の誤記と認める。)に相当する。」(審決書5頁19〜23行)と認定し,引用発明における「ベアリング39,フランジ38及び棒46」が一体のものとして本件発明2の「連結手段」と同一の機能を持つ構成に相当すると判断しているのであり,ベアリング39,フランジ38及び棒46がどのような配置であるかとか,各部分がどのような順序で力を伝達することになるかといったことは,その判断を何ら左右することになるものではない。
したがって,引用発明におけるベアリング39の配置位置に関する原告の上記主張は理由がない。
エ さらに原告は,本件発明2は,引用発明における「ボディ37」に相当する機能を奏するものを備えていないと主張する。
しかしながら,本件発明2と引用発明との同一性の判断に当たっては,引用発明が本件発明2の構成をすべて有しているかどうかが問題なのであって,これが肯定されるならば,引用発明に存在する構成を本件発明2が備えていないからといって,両発明の同一性の判断に影響を及ぼすことはない。
原告は,引用発明の「ボデイ37」は,穴あけ機を上下に送るための機能と,チェイン21との間にゴムワッシャ45により,弾性的に支える支持機能を備えたものであると主張するけれども,仮に「ボデイ37」がそのような機能を備えたものであるとしても,「ベアリング39,フランジ38及び棒46」からなる構成が,バイブレータから発生した振動をスピンドル33に伝達する機能を持ち,スピンドル33を回転自在にバイブレータのケーシングに結合しているという事実を否定することになるものとはいえない。
オ 以上のとおり,記載クの構成において,引用発明の「ベアリング39,フランジ38及び棒46」からなる構成が,本件発明2における「連結手段」に相当するとした審決の認定に原告主張の誤りはなく,引用発明には本件発明2における「連結手段」に相当するものは存在しない旨の原告の主張は理由がない。
(2) 原告は,引用発明と本件発明2とは動力伝達経路が異なり,振動の効率的な伝達の可否の点で両発明は相違する旨主張する。
しかしながら,本件発明2において,連結手段が主軸の後端部とロータハウジングの間に直結されているとの限定がないことは,前記のとおりであるし,また,仮に,原告が主張するように,引用発明と本件発明2とでは振動の効率的な伝達に相違するところがあるとしても,それは本件発明2が引用発明と比較して振動を伝達する効率性において優れているということを意味するだけで,引用発明が,記載クのようにバイブレータ50が棒46に錠止された場合,スピンドル33の後端部がベアリング39,フランジ38及び棒46を介して回転自在にバイブレータ50のケーシングに結合され,バイブレータ50の振動がスピンドル33へ伝達されるという構成を有する点において,本件発明2と同一の構成を備えているものである以上,たとえ振動の伝達効率に優劣があるとしても,そのことは,引用発明と本件発明2との同一性の判断に影響を及ぼすことになるものとはいえない。
(3) 以上のとおり,原告が引用発明と本件発明2の同一性の判断に関する誤りと主張する点はいずれも理由がなく,審決が,前記第2の4(3)のとおり,本件発明2と引用発明の一致点について認定したところに基づき,引用発明には本件発明2の構成である「請求項1において,前記起振装置が,前記フレームに前記軸線方向に変位自在に設けられたロータハウジングと,このロータハウジング内に収容され,所定の周波数で回転して前記起振力を発生する複数枚の偏心ロータと,前記主軸ハウジングから突出する前記主軸の後端部を前記ロータハウジングに回転自在に結合するための連結手段とからなる地盤穿孔装置」がすべて記載されているとして,その同一性を認めた判断に誤りはない。
5 結論 以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,その他,審決にこれを取り消すべき誤りはない。
したがって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,訴訟費用の負担について,行政事件訴訟法7条,民事訴訟法61条を適用して,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 設樂驤
裁判官 若林辰繁