関連ワード | 29条1項3号 / 先行技術 / 発明の詳細な説明 / パリ条約 / 優先日 / 技術的意義 / 実施 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 変更 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10309号
審決取消請求事件
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裁判所のデータが存在しません。 | |
裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2011/07/27 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
判例全文 | |
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判例全文
平成23年7月27日 判決言渡 平成22年(行ケ)第10309号 審決取消請求事件 平成23年6月13日 口頭弁論終結 判 決 原 告 ビーコン・パワー・コーポレーション 訴訟代理人弁理士 志 賀 正 武 同 渡 邊 隆 同 村 山 靖 彦 同 実 広 信 哉 同 木 内 敬 二 同 野 村 進 被 告 特 許 庁 長 官 指 定 代 理 人 倉 橋 紀 夫 同 仁 木 浩 同 田 部 元 史 同 小 林 和 男 主 文 1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定め る。 1 事 実 及 び 理 由 第1 請求 特許庁が不服2008−27388号事件について平成22年5月17日にした 審決を取り消す。 第2 争いのない事実 1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成16年8月16日,発明の名称を「可変負荷および/または電力生 成を有するフライホイールエネルギー格納システムを使用する生成された電力の周 波数を調整するための方法,システム,および装置」とする発明について,特許出 願(特願2006−523449。パリ条約による優先日平成15年8月15日, アメリカ合衆国。以下「本願」という。)をし,平成20年6月4日付けで手続補 正書を提出したが,同年7月18日付けで拒絶査定を受けたため,同年10月27 日に拒絶査定に対する不服審判請求(不服2008−27388号事件)をした。 特許庁は,平成22年5月17日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との 審決をし,その謄本は,同年6月1日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲 平成20年6月4日付け補正後の本願の特許請求の範囲(甲2,3。以下,本願 の特許請求の範囲,発明の詳細な説明及び図面を含めて「本願明細書」ということ がある。)の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この発明を「本願発明」 という。)。 「【請求項1】 1つ以上の電気的負荷および1つ以上の電源に接続される電力分配ネットワーク に分配される電力の交流周波数を制御するための方法であって,前記周波数制御方 法が, 1つ以上のフライホイールエネルギー格納システムを含むエネルギー格納サブシ ステムを,前記電気分配ネットワーク(判決注:「電気分配ネットワーク」とある 2 のは,「電力分配ネットワーク」と同義であると認める。以下同じ。)に電気的に 結合するステップと, 前記エネルギー格納サブシステムから前記電力分配ネットワークへ追加されるか, 又は前記エネルギー格納サブシステムによって前記電力分配ネットワークから吸収 される電力量を決定するステップであって,前記決定量は,所望の周波数であるか 又はほぼ所望の周波数であるように,前記電力分配ネットワーク上の前記電力の交 流周波数を調整するよう設定された量である,ステップと, 前記エネルギー格納サブシステムが,電力が前記電力分配ネットワークへ追加さ れる時に電気エネルギーの前記決定量を追加し,電力が前記電力分配ネットワーク から吸収される時に電気エネルギーの前記決定量を吸収するように,一つ以上のフ ライホイールエネルギー格納システムを制御するステップと を含む周波数を制御するための方法。」 3 審決の理由 (1) 別紙審決書写しのとおりであり,要するに,本願発明は,特開2000−1 4013号公報(甲1。以下「引用刊行物」という。)に記載された発明(以下 「引用発明」という。)であるので,特許法29条1項3号に該当し,特許を受け ることができないというものである。 (2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容は,以下のとおりである。 「変動負荷2および発電設備に接続される電力系統1に分配される電力の周波数変 動を抑制するための方法であって,前記周波数変動抑制方法が, フライホイール発電電動機を,前記電力系統1に接続し, 前記フライホイール発電電動機のフライホイールに蓄えられた回転エネルギーを 電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力するか,又は電力系統1の電力をフラ イホイールの回転エネルギーとして蓄える蓄積放出電力量の目標値Prを算出し, 前記目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との差によって発生する周波 数変動が抑制されるように算出し, 3 前記フライホイール発電電動機が,フライホイールに蓄えられた回転エネルギー を電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力する時に発電機状態となり,電力系 統1の電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄える時に電動機状態となる ように前記フライホイール発電電動機を動作させること を含む周波数変動を抑制するための方法。」 第3 当事者の主張 1 審決の取消事由に係る原告の主張 本願発明と引用発明とに相違点がないとした審決の判断には,以下のとおり誤り がある。 (1) 審決は,引用発明の「変動負荷2」は,本願発明の「1つ以上の電気的負 荷」に相当する旨認定する(審決5頁30,31行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)では,「1つ以上の電気的負荷」が「電力分配ネットワー ク」に接続されるものであり,本願発明の電力分配ネットワークには1つ以上の電 気的負荷及び1つ以上の電源が接続される。また,引用刊行物の図1(別紙の2の 図1)の記載によれば,引用発明の「変動負荷2」が「電力系統1」に接続される。 しかし,後記(3) のとおり,本願発明の「電力分配ネットワーク」と引用発明の 「電力系統1」とは異なるのであって,本願発明の「1つ以上の電気的負荷」と引 用発明の「変動負荷2」とは,接続対象及び相互作用の形態において相違する。 (2) 審決は,引用発明の「発電設備」は,本願発明の「1つ以上の電源」に相当 する旨認定する(審決5頁31,32行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)では,「1つ以上の電源」が「電力分配ネットワーク」に 接続される。他方,引用刊行物の図1によれば,引用発明の「発電設備」が「電力 系統1」に接続される。しかし,後記(3) のとおり,本願発明の「電力分配ネット ワーク」と引用発明の「電力系統1」とは異なり,本願発明の「1つ以上の電源」 4 と引用発明の「発電設備」とは,接続対象及び相互作用する形態において相違する。 (3) 審決は,引用発明の「電力系統1」は,本願発明の「電力分配ネットワー ク」に相当する旨認定する(審決5頁32行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)では,「電力分配ネットワーク」は,本願明細書の段落 【0033】及び図4(別紙の1の図4)の「電力分配グリッド」に対応するもの であり,本願発明は,電力分配グリッドを介して分配された電力の交流周波数を調 整することを特徴とするものである。本願明細書の段落【0003】に記載されて いるように,本願明細書の図1A(別紙の1の図1A)には,電気的負荷の時間の 関数として変動を示す典型的な毎日の負荷曲線が示され,電気的負荷は,ユーザに よって作られ,かつ電力生成設備と様々な電気的負荷源とを相互接続する,電気グ リッド又は電気生成および分配システムに課される。電気的負荷源は,家庭,ビジ ネス,製造設備,コンピュータ設備,および輸送サービス(例えば,電気によって 給電される大量運送システム)を含む。また,本願明細書の段落【0003】及び 図1A,図1B,図2,図3A,図3B(別紙の1の各図)は,本願明細書の「電 力分配ネットワーク」が,負荷として,家庭用,製造設備,大量輸送システム用ま で広く含むことを明確に示しており,本願発明の実施形態の少なくとも一部を示す 図4は,火力発電所及び水力発電所等で構成される複数の電力生成設備(PWR生 成設備)12が電力分配グリッド(PWR分配グリッド)14に接続され,多数の 負荷18が電力分配グリッド14に接続されていることを示している。そうすると, 図4の記載から,「電力分配ネットワーク」に対応する「電力分配グリッド」は, 最も上流の発電所から最も下流の負荷までを含むものということができる。 一方,引用発明の「電力系統1」は,電力系統安定化システム内の局所的な電力 系統を示している。引用刊行物の段落【0014】の【課題を解決するための手 段】の(1)に記載されているように,負荷電機が電力系統安定化システム内の電 力系統に接続されていることを前提とし,また,引用刊行物の図1において,負荷 5 として,変動負荷2と一般負荷1bとが記載されるのみであり,一般負荷1bおよ び変動負荷2がプラント設備内のものに特定される。さらに,引用刊行物の図1な いし図3(別紙の2の各図)には,変動負荷2による,負荷変動に起因する急激な 周波数変動を和らげる技術が記載されている。これらの記載から,引用発明では, 一般負荷1bの変動は考慮しておらず,電力系統安定化システムの外の電力系統の 電力変動は考慮していない。そうすると,引用発明の「電力系統1」は,電力系統 安定化システム内の局所的な電力系統を示しており,本願明細書の段落【003 3】及び図4などに記載の「電力分配グリッド」に対応せず,本願明細書の図1か ら図3に示すような電力変動を生じる「電力分配グリッド」には相当しないという べきである。 したがって,引用発明の「電力系統1」は,本願発明の「電力分配ネットワー ク」と相違する。 (4) 審決は,引用発明の「周波数変動を抑制するための方法」は,本願発明の 「交流周波数を制御するための方法」及び「周波数を制御するための方法」に相当 する旨認定する(審決5頁32行ないし6頁1行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)の「交流周波数を制御するための方法」及び「周波数を制 御するための方法」は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように, 電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を制御するための方法であるといえる。 一方,引用発明の「周波数変動を抑制するための方法」は,電力系統1における 急峻な電力変動を和らげる方法である。後記(7) のとおり,引用刊行物には,所望 の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力の交流周波数を制御す るための方法の開示はない。 したがって,引用発明の「周波数変動を抑制するための方法」は,本願発明の 「交流周波数を制御するための方法」及び「周波数を制御するための方法」とは相 違する。 6 (5) 審決は,引用発明の「フライホイール発電電動機」は,本願発明の「1つ以 上のフライホイールエネルギー格納システムを含むエネルギー格納サブシステム」 に相当すると認定する(審決6頁1ないし3行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)では,「1つ以上のフライホイールエネルギー格納システ ムを含むエネルギー格納サブシステム」は「電力分配ネットワーク」に接続される。 一方,引用刊行物の図1によれば,引用発明の「フライホイール発電電動機」が 「電力系統1」に接続されるものである。また,上記(3) のとおり,本願発明の 「電力分配ネットワーク」と引用発明の「電力系統1」とは,相違する。 したがって,本願発明の「1つ以上のフライホイールエネルギー格納システムを 含むエネルギー格納サブシステム」と引用発明の「フライホイール発電電動機」と は,接続対象及び相互作用する形態において相違する。 (6) 審決は,「フライホイール発電電動機のフライホイールに蓄えられた回転エ ネルギーを電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力するか,又は電力系統1の 電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄える蓄積放出電力量の目標値Pr を算出し」は「エネルギー格納サブシステムから電力分配ネットワークへ追加され るか,又は前記エネルギー格納サブシステムによって前記電力分配ネットワークか ら吸収される電力量を決定するステップであって」に相当すると認定する(審決6 頁3ないし9行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 ア 本願発明の「エネルギー格納サブシステムから電力分配ネットワークへ追加 されるか,又は前記エネルギー格納サブシステムによって前記電力分配ネットワー クから吸収される電力量を決定するステップであって」は,電力分配ネットワーク に対して追加又は吸収される電力量に関する処理である。 一方,引用発明の「フライホイール発電電動機のフライホイールに蓄えられた回 転エネルギーを電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力するか,又は電力系統 7 1の電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄える蓄積放出電力量の目標値 Prを算出し」は,電力系統1に対して出力するか又は蓄える蓄積放出電力量に関 する処理であり,上記(3) のとおり,本願発明の「電力分配ネットワーク」と引用 発明の「電力系統1」は,相違する。 イ また,本願発明の「・・・電力量を決定するステップ」では,所望の周波数 であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力量を決定する。 一方,引用発明の「・・・目標値Prを算出し」は,電力変動を和らげることを 目的としている。 ウ したがって,引用発明の「フライホイール発電電動機のフライホイールに蓄 えられた回転エネルギーを電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力するか,又 は電力系統1の電力をフライホイールの回転エネルギーとして蓄える蓄積放出電力 量の目標値Prを算出し」と,本願発明の「エネルギー格納サブシステムから電力 分配ネットワークへ追加されるか,又は前記エネルギー格納サブシステムによって 前記電力分配ネットワークから吸収される電力量を決定するステップであって」と は相違する。 (7) 審決は,引用発明の「目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との 差によって発生する周波数変動が抑制されるように算出し」は,本願発明の「決定 量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネット ワーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップと」に 相当する旨認定する(審決6頁9ないし13行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)では,「決定量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の 周波数であるように,電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を調整するよう 設定された量である,ステップと」が所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数 であるように,電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を調整する。 一方,引用発明の「目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との差によ 8 って発生する周波数変動が抑制されるように算出し」は,電力変動を和らげること を目的としている。引用発明は,大きな負荷が電力分配グリッドに一気に接続又は 解放された場合に生じる周波数の大きな変動を抑えることを目的とし,負荷が電力 分配グリッドに接続されるときに,周波数の変動を引き起こさないように,局所的 な負荷に対して決定された電力を供給するものであり,そのような方法は,電力分 配グリッドに電力を導入することにはならず,むしろ管理された方法で負荷に電力 を提供することになる。引用刊行物には,本願発明のような,「目標値又はほぼ目 標値に維持されるようにグリッド周波数を調整する方法」つまり,「所望の周波数 であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力の交流周波数を制御するための 方法」の開示はない。 また,引用発明では,引用刊行物の図3に示されるように,矩形波で示される負 荷電力P2の急激な変動を,電力系統の電力P1の波形に抑制することができるが, 図3と図5(別紙の2の図5)では,負荷電力P2の波形の最大値と電力系統の電 力P1の波形の最大値は同一となっている。引用発明では,急激な電力周波数の変 動を抑制して緩やかな周波数変動にすることを示しており,「所望の周波数である か又はほぼ所望の周波数であるように」,すなわち,「本願明細書の図2に記載さ れた最大60.063Hzから最小59.944Hzの範囲よりも更に狭い範囲の 周波数となるように」,電力の周波数を調整することは示唆していない。 さらに,引用刊行物には,具体的な電力の周波数の値が記載されておらず,図2 に「入出力電力目標値」の記載があり,図3に「電力目標値」の記載があることか ら,引用発明において,電力制御が第1の目的及び目標であり,周波数変動の抑制 は付随的,2次的な作用であると考えられる。 そうすると,引用発明の安定化システムは,電力分配グリッド上の交流周波数が 所望の周波数又はほぼ所望の周波数になるように周波数変動を調整するとはいえず, 本願発明の周波数変動制御と同一とはいえない。 なお,引用刊行物の図3に示される負荷電力P2は,少なくとも,時間t2−t 9 3の間でおおよそ一定であるように記載されており,所定の,及び,予測できるパ ターンに従って変動するように見えるが,実際上,負荷が一定となる期間は,現実 の電力分配ネットワークにおいては存在しない。引用発明は,負荷電力P2が一定 になっている期間があると大雑把に仮定し,現実の電力分配ネットワークの負荷変 動を考慮せずに,仮想的な負荷変動のみを考慮するものであって,現実の電力分配 ネットワークの負荷変動を対象とし,「所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波 数であるように,電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を調整する」という 精密さを追求する本願発明の技術思想とは相反する。 したがって,引用発明の「目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との 差によって発生する周波数変動が抑制されるように算出し」は,本願発明の「決定 量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネット ワーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップと」と は顕著に相違する。 (8) 審決は,引用発明の「フライホイール発電電動機が,フライホイールに蓄え られた回転エネルギーを電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力する時に発電 機状態となり」は,本願発明の「エネルギー格納サブシステムが,電力が電力分配 ネットワークへ追加される時に電気エネルギーの決定量を追加し」に相当すると認 定する(審決6頁13ないし17行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)は,「エネルギー格納サブシステムが,電力が電力分配ネ ットワークへ追加される時に電気エネルギーの決定量を追加し」は,電力分配ネッ トワークについて所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように決定量 を追加するものである。 一方,引用発明の「フライホイール発電電動機が,フライホイールに蓄えられた 回転エネルギーを電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力する時に発電機状態 となり」は,電力変動を和らげることを目的とするものである。 10 したがって,引用発明の「フライホイール発電電動機が,フライホイールに蓄え られた回転エネルギーを電気に変換して電力系統1へ電力P3を出力する時に発電 機状態となり」は,本願発明の「エネルギー格納サブシステムが,電力が電力分配 ネットワークへ追加される時に電気エネルギーの決定量を追加し」と相違する。 (9) 審決は,引用発明の「電力系統1の電力をフライホイールの回転エネルギー として蓄える時に電動機状態となる」は,本願発明の「電力が電力分配ネットワー クから吸収される時に電気エネルギーの決定量を吸収する」に相当すると認定する (審決6頁17ないし19行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)の「電力が電力分配ネットワークから吸収される時に電気 エネルギーの決定量を吸収する」は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数 であるように,電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を調整するためのもの である。 一方,引用発明の「電力系統1の電力をフライホイールの回転エネルギーとして 蓄える時に電動機状態となる」は,電力変動を和らげることを目的とするものであ る。 したがって,引用発明の「電力系統1の電力をフライホイールの回転エネルギー として蓄える時に電動機状態となる」は,本願発明の「電力が電力分配ネットワー クから吸収される時に電気エネルギーの決定量を吸収する」と相違する。 (10) 審決は,引用発明の「フライホイール発電電動機を動作させること」は, 本願発明の「一つ以上のフライホイールエネルギー格納システムを制御するステッ プと」に相当すると認定する(審決6頁19ないし21行)。 しかし,審決の認定は,以下のとおり誤りである。 本願発明(請求項1)の「一つ以上のフライホイールエネルギー格納システムを 制御するステップと」は,電力分配ネットワークについて所望の周波数であるか又 はほぼ所望の周波数であるように制御するステップである。 11 一方,引用発明の「フライホイール発電電動機を動作させること」は,電力変動 を和らげることを目的とするものである。 したがって,引用発明の「フライホイール発電電動機を動作させること」は,本 願発明の「一つ以上のフライホイールエネルギー格納システムを制御するステッ プ」とは相違する。 (11) 審決は,「本願発明では,『1つ以上の電気的負荷および1つ以上の電源 に接続される電力分配ネットワークに分配される電力の交流周波数を制御するため の方法』と特定しているのであって,1つの電気的負荷と1つの電源に接続される 電力分配ネットワークに分配される電力の交流周波数を制御するための方法,即ち 分散型ではない電力系統の構成を含むものである」として,原告の主張を排斥した。 しかし,審決には,以下のとおりの誤りがある。 すなわち,本願発明は,分散型の電力系統に相互作用するように構成されている 点,本願発明が分散型の電力系統上の周波数を所望の周波数であるか又はほぼ所望 の周波数となるように調整するように構成されている点およびその他の点で引用発 明とは相違する。また,上記(3) のとおり,本願発明の「電力分配ネットワーク」 は,引用発明の「電力系統1」と相違する。さらに,仮に,本願発明が分散型では ない電力系統の構成を含むものであるとしても,引用発明では,電力系統上の周波 数を所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数となるように調整するように構成 されていない。引用発明では,電力系統1での負荷の急激な増減を抑えることは記 載されているが,電力系統1上の周波数を所望の周波数であるか又はほぼ所望の周 波数となるように調整することはできない。 2 被告の反論 取消事由に係る原告の主張は,以下のとおりいずれも理由がない。 (1) 上記1の(1)ないし(3),(5) の原告の主張に対し 原告は,「引用発明の『電力系統1』は,本願発明の『電力分配ネットワーク』 に相当するとした審決の認定は誤りである」旨主張し(上記1(3) ),及びこれを 12 前提とした主張をする(上記1(1),(2),(5) )。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 すなわち,「電力分配ネットワーク」の意義は,本願明細書に明りょうに記載さ れていないものの,本願優先日前に周知の技術(乙1ないし4)を参照すれば,本 願明細書の段落【0003】記載のような多様な負荷がかかる大規模な電力分配グ リッドであると限定的に解するのは相当でなく,広く電力を分配するネットワーク を意味すると解すべきである。 なお,本願発明の「1つ以上の電気的負荷および1つ以上の電源に接続される電 力分配ネットワーク」が,その規模や負荷の多様性を特定しないものであっても, その技術的意義は理解できる。すなわち,本願発明が解決しようとする課題は, 「生成される電力の交流周波数を調整するための新規な方法,システム,および装 置を提供すること」,「負荷変化が著しく変化しうるかまたは周期的である環境に おいて,従来/先行技術の方法,システム,および装置に比べてより速い応答で交 流周波数を調整できるそのような方法,システム,および装置を提供すること」 (本願明細書の段落【0016】)であり,周波数を調整する必要がある理由は, 「電気生成および分配システムに課される電気的負荷に生じるそのような短期間の 変動のため,およびそのような負荷変更に追従する発電機の能力は,一般的に負荷 変動の時間期間よりはるかに遅いため,電気生成および分配システムは,負荷と生 成される電力との間のミスマッチが常に課題となっている。従来技術において知ら れているように,電気的負荷が生成される全電力を超えるとき,システムの交流周 波数が低下する。代わりに,生成される全電力が電気的負荷要件を超えるとき,周 波数は増大する。」(段落【0004】)からである。つまり,本願発明において 周波数を調整する必要がある理由は,単に負荷変動と電源の応答性の差に起因して 周波数の変動が生じるからである。当該負荷変動と電源の応答性の差は,多様な負 荷がかかる大規模な電力分配グリッド(段落【0003】)のみに生じるものでは なく,「負荷変化が著しく変化しうるかまたは周期的である環境」(段落【001 13 6】)であれば,広く一般の電力分配ネットワークにおいて生じる。 一方,引用発明の「電力系統1」も,変動負荷2等に電力を分配するネットワー クであり,引用刊行物の段落【0019】,【0035】及び図3の記載によれば, 変動負荷2の電力P2が,t1時点,t3時点,t5時点及びt7時点において著 しく変化していることが示されており,上記「電力系統1」が「負荷変化が著しく 変化しうるかまたは周期的である環境」におかれたものといえるから,本願発明の 「電力分配ネットワーク」に相当するということができる。 したがって,引用発明の「電力系統1」は,本願発明の「電力分配ネットワー ク」に相当するとした審決の認定に誤りはなく,両者が相違するとの原告の主張, 及びこれを前提とする原告の主張は失当である。 (2) 上記1の(4),(7)ないし(10)の原告の主張に対し 原告は,「引用発明の『目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との差 によって発生する周波数変動が抑制されるように算出し』は,本願発明の『決定量 は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネットワ ーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップと』に相 当するとする審決の認定は誤りである」旨主張し(上記1(7) ),及びこれを前提 とした主張をする(上記(4),(8)ないし(10) )。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 すなわち,引用発明の「周波数変動が抑制される」とは,発電設備の出力制御が, 急峻な消費電力変化に追従することができない場合において,発電電力と消費電力 の差によって発生する周波数変動を,負荷変化方向が立下り(高負荷から低負荷) であるときは,フライホイール発電電動機によって電力系統1の電力を蓄えるよう に蓄積放出電力量の目標値Prを算出し,負荷変化方向が立上り(低負荷から高負 荷)であるときは,フライホイール発電電動機によって電力系統1の電力を出力す るように蓄積放出電力量の目標値Prを算出することにより,発電電力と消費電力 の差を補償し,電力系統の周波数を所望のものに維持するように調整することであ 14 るといえる(引用刊行物の段落【0002】,【0009】,【0010】,【0 026】ないし【0028】)。 一方,本願発明(請求項1)も「エネルギー格納サブシステムから前記電力分配 ネットワークへ追加されるか,又は前記エネルギー格納サブシステムによって前記 電力分配ネットワークから吸収される電力量を決定するステップであって,前記決 定量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,前記電力分配 ネットワーク上の前記電力の交流周波数を調整するよう設定された量」と記載され るとおり,「所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように」周波数を 調整するために決定する量は,「エネルギー格納サブシステムから前記電力分配ネ ットワークへ追加されるか,又は前記エネルギー格納サブシステムによって前記電 力分配ネットワークから吸収される電力量」であり,周波数を直接調整するもので はなく,当該電力量を決定することにより,間接的に所望の周波数であるか又はほ ぼ所望の周波数を維持するように調整するものである。 そして,引用発明の「フライホイール発電電動機」,「出力する」,「蓄える」, 「蓄積放出電力量の目標値Pr」,「算出する」は,それぞれ本願発明の「エネル ギー格納サブシステム」,「追加される」,「吸収される」,「電力量」,「決定 する」に相当する。また,上記(1) のとおり,引用発明の「電力系統1」は,本願 発明の「電力分配ネットワーク」に相当する。 したがって,引用発明の「目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との 差によって発生する周波数変動が抑制されるように算出し」が,本願発明の「決定 量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネット ワーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップと」に 相当するとした審決の認定に誤りはない。 (3) 上記1の(6),(11) の原告の主張に対し 上記1の(6),(11) の原告の主張は,「引用発明の『電力系統1』は,本願発明 の『電力分配ネットワーク』に相当するとした審決の認定は誤りである」旨の主張 15 (上記1(3) ),及び,「引用発明の『目標値Prは,電力系統の総発電電力と負 荷電力との差によって発生する周波数変動が抑制されるように算出し』は,本願発 明の『決定量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力 分配ネットワーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステ ップと』に相当するとする審決の認定は誤りである」旨の主張(上記1(7) )を前 提とするものである。 しかし,上記(1),(2)のとおり,上記1(3),(7)の原告の主張はいずれも失当で あるから,これらを前提とする上記1(6),(11) の原告の主張も失当である。 第4 当裁判所の判断 当裁判所は,以下のとおり,取消事由に係る原告の主張は理由がないと判断する。 原告の主張は,@「引用発明の『電力系統1』は,本願発明の『電力分配ネット ワーク』に相当するとした審決の認定は誤りである」旨の主張(上記第3の1 (3) ),及び,これを前提とする主張(上記第3の1(1),(2),(5),(6),(11)), A「引用発明の『目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との差によって 発生する周波数変動が抑制されるように算出し』は,本願発明の『決定量は,所望 の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネットワーク上の 電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップと』に相当すると する審決の認定は誤りである」旨の主張(上記第3の1(7) ),及び,これを前提 とした主張(上記第3の1(4),(6),(8)ないし(11) )からなる。以下,これらの 主張を一括して判断する。 1 上記@について 原告は,引用発明の「電力系統1」は,本願発明の「電力分配ネットワーク」に 相当するとした審決の認定は誤りである旨主張する。 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 (1) 認定事実 ア 平成20年6月4日付け補正後の本願の特許請求の範囲(請求項1)の記載 16 は,上記第2の2のとおりである(甲3)。「電力分配ネットワーク」の意義は, 必ずしも明確ではない。そこで,本願明細書(甲2)の記載を参照する。 イ 本願明細書(甲2)には,次の記載がある。 【背景技術】・・・ 【0003】図1Aに,電気的負荷の時間の関数としての変化を示す例示的な毎日 の負荷曲線が示され,電気的負荷は,ユーザによって作られ,かつ電力生成設備と 様々な電気的負荷源とを相互接続する,電気グリッドまたは電気生成および分配シ ステムに課される。そのような電気的負荷源は,家庭,ビジネス,製造設備,コン ピュータ設備,および輸送サービス(例えば,電気によって給電される大量運送シ ステム)を含む。・・・ 【発明が解決しようとする課題】【0016】・・・生成される電力の交流周波数 を調整するための新規な方法,システム,および装置を提供することが望ましい。 負荷変化が著しく変化しうるかまたは周期的である環境において,従来/先行技術 の方法,システム,および装置に比べてより速い応答で交流周波数を調整できるそ のような方法,システム,および装置を提供することが特に望ましい。交流周波数 を調整するための機構として,1つ以上のフライホイールエネルギー格納システム を実現するそのような方法,システム,および装置を提供することも特に望ましい。 交流周波数を調整するための機構として,切り替え可能な負荷と共に1つ以上のフ ライホイールエネルギー格納システムを実現するそのような方法,システム,およ び装置を提供することも特に望ましい。電力生成と負荷との間の差異を決定かつ/ または訂正するために,既存の方法論,システム,および装置と共に使用するよう に構成された,そのような方法,システム,および装置も特に望ましい。既存の電 力分配システムと共に使用するために,容易に統合または構成される,そのような システム,および装置も特に望ましい。 【0018】本発明の一態様によれば,1つ以上の負荷および1つ以上の電源に接 続される電力分配ネットワークに分配される電力の交流周波数を制御するための方 17 法が特徴付けられる。そのような方法は,エネルギー格納サブシステムを電気分配 ネットワークに電気的に結合することを含む。その場合,エネルギー格納サブシス テムは1つ以上のフライホイールエネルギー格納システムと,1つ以上の電源によ って出力される全電力,および送電および分配ネットワークに関連付けられる1つ 以上の負荷およびライン損失によって課される全負荷に応答して,各フライホイー ルエネルギー格納システムの動作を制御することとを含み,電気格納サブシステム が,所望の交流周波数であるかまたはほぼ所望の交流周波数であるように,電気分 配ネットワークに分配される電力の交流周波数を調整するように,電気分配ネット ワークにある量の電気エネルギーを出力する。電気格納サブシステムは,伝送およ び分配ネットワーク中で1つ以上のロケーションに,負荷サイトに,および交流周 波数を調整するように生成設備に配置されることができる。 【発明を実施するための最良の形態】【0033】・・・多数のシステム負荷18, 18’(例えば,顧客またはユーザによって課される負荷)の任意の1つに結合さ れる例示的な電力生成および分配システム10のブロック図が図4a(判決注: 「図4」の誤記と認める。)に示され,そのようなシステム内の本発明のFESS アレイ100の様々な配置が示される。例示的な電力生成および分配システム10 は,1個以上の電力生成設備12,12’を含み,電力生成設備12,12’は, 当業者に知られている任意の数の技術を使用して電力分配グリッド14に選択的に かつ電気的に結合される。そのような電力生成設備12,12’は,固定化石燃料 または原子力電力生成設備,水力発電生成設備,バッテリファーム,ポンプ供送さ れる流体電力生成設備,ディーゼル発電機,またはグリーン(例えば,風力かまた はソーラーパワー)電力生成設備などの固定サイトを含む。電力生成設備12,1 2’は,分配システムにおける任意の1つのノードまたは点に再配置可能でありか つ電気的に結合されるように,一般的に可動に構成できる。 ウ 引用刊行物(甲1)には次の記載がある。 【0014】【課題を解決するための手段】(1)本発明は,電力系統の負荷変動 18 に伴う系統周波数の変動を抑制するフライホイール発電電動機を用いた電力系統安 定化システムにおいて,電力系統に接続した複数の,フライホイール発電電動機を 用いた電力系統安定化装置,電力系統の負荷電力を検出する負荷検出器,および, 該負荷検出器が検出した負荷電力の時系列の変動量を算出し,該変動量に対応して 系統周波数の変動を抑制するための電力系統安定化装置を選択し電力蓄積放出に宛 てる制御手段,を備えることを特徴とする。・・・ (4)電力系統の負荷変動に伴う系統周波数の変動を抑制するフライホイール発電 電動機を用いた電力系統安定化システムにおいて,電力系統の負荷電力を検出する 電力検出器;それぞれが,フライホイール発電電動機,および,その電力蓄積放出 を与えられた目標値に制御する電力制御装置,を含む,電力系統に接続した複数の, 電力系統安定化装置;前記電力検出器の検出値に基づき,負荷電力の時系列の変動 量を算出し,算出した変動量と,各電力系統安定化装置の蓄積放出電力容量に基づ いて,変動量を吸収するための電力系統安定化装置およびその目標値を決定する演 算手段,および,決定した電力系統安定化装置に目標値を与える出力手段,を含む 統括制御装置;を備える電力系統安定化システム。 【0019】【実施例】・・・図1に,本発明の一実施例を示す電力系統安定化方 法の構成図を示す。本実施例では,電力系統1に電力系統安定化装置(装置A,装 置B,装置C)を3台接続した。図1において,電力系統1には,変動負荷2が接 続されており,この負荷変動を補償するため,本発明に基づく電力系統安定化装置 が下記構成により接続されている。・・・ 【0020】電力系統1には,計器用変流器CT1と計器用変圧器PT1を設置し, これらを介して電力検出器8によって検出された電力を統括制御装置15に出力す る。これらは,電力系統1における負荷変動PL を検出するためのものである。 【0021】また,それぞれの電力系統安定化装置A,B,Cは,電力系統1より 変動負荷2と並列に分岐したフィーダに計器用変流器CT2と計器用変圧器PT2 を設置しており,これらを介して電力検出器8A,8B,8Cによって検出された 19 電力値P3A,P3B,P3C(電力系統安定化装置の入出力電力値)を統括制御 装置15に出力する。 【0022】統括制御装置15では,上記電力系統1における負荷変動量PLに応 じて,複数の電力系統安定化装置A,B,Cの内,動作対象を決定するための判定 および動作指令を出力する。 【0030】・・・統括制御装置15の判定結果に基づき,動作対象に選択された 電力系統安定化装置では,目標値制御装置7にて各フライホイール発電電動機の入 出力電力P3の制御量Prに対応する目標値Prefを電力制御装置4に出力する。 電力制御装置4はこの目標値Prefに基づき,フライホイール発電電動機の回転 子3bの二次電流を制御する。 【0031】さらに,それぞれの電力系統安定化装置の基本動作について説明する。 電力制御装置4にて,電力系統1に接続された巻線型誘導機3の固定子3a回転磁 界と,レゾルバ5で検出された回転し3bの回転数との差に相当するすべり周波数 で二次電流を供給し,回転子3bの回転速度を制御する。この場合,目標値制御装 置7からの目標値信号Prefに追従するように上記二次電流の大きさと位相を制 御する。そして,巻線型誘導機3の二次電流の位相を目標値Prefに基づいて変 化させることにより図示矢印方向の発電状態(P3正)または図示矢印の逆方向の 電動機状態(P3負)に制御される。ここで,発電機状態(P3正)では,フライ ホイールに蓄えられた回転エネルギーが電気に変換され回転速度は低下する。逆に, 電動機状態(P3負)では電力系統1から電力が供給され,フライホイールの回転 エネルギーとして蓄えられる。 【0032】このようにして,各電力系統安定化装置は,目標値制御装置7からの 目標値信号Prefに基づいて巻線型誘導機3が電力を入出力する。 【0033】統括制御装置15は,上記方法によって入出力される各電力系統安定 化装置A,B,Cの電力を統括的に制御することによって,電力系統1の全体の電 力の供給と負荷のバランスを保つ。よって,電力系統の総発電電力と負荷電力との 20 差によって発生する周波数変動が抑制される。 (2) 判断 上記(1)ア,イ によれば,本願明細書には,「電力分配ネットワーク」は,1つ 以上の電気的負荷及び1つ以上の電源に接続され,1つ以上のフライホイールエネ ルギー格納システムを含むエネルギー格納サブシステムと電気的に結合するステッ プがあること,負荷変化が著しく変化し得るか又は周期的である環境にあり,エネ ルギー格納サブシステムから「電力分配ネットワーク」への電力量の追加又は「電 力分配ネットワーク」からエネルギー格納サブシステムへの電力量の吸収を決定す るステップがあり,このステップにより,「電力分配ネットワーク」上の電力の交 流周波数が調整されることが示されており,また,段落【0033】及び図4には, 「電力分配グリッド14」が,システム負荷18,18’及び電力生成設備12, 12’と選択的にかつ電気的に結合され,電力生成設備12,12’は,固定化石 燃料又は原子力電力生成設備,水力発電生成設備,バッテリファーム,ポンプ供送 される流体電力生成設備,ディーゼル発電機,又はグリーン(例えば,風力か又は ソーラーパワー)電力生成設備などの固定サイトを含むことが示されている。しか し,本願明細書の記載を参照しても,なお,「電力分配ネットワーク」は,電源及 び負荷を相互に接続するためのものであることが示されているのみで,ネットワー クとしての規模ないし範囲等についての限定はない。 一方,引用発明について,上記(1)ウ によれば,「電力系統1」は,フライホイ ール発電電動機を用いた複数の電力系統安定化装置,及び,変動負荷が接続されて おり,負荷電力の変動に伴う周波数変動が発生するものであること,複数の電力系 統安定化装置は,負荷変動を補償するために接続されていること,「電力系統1」 には,負荷変動を検出するため,計器用変流器と計器用変圧器が設置され,これら を介して電力検出器によって検出された電力が統括制御装置15に出力されること, 統括制御装置15は,入出力される電力系統安定化装置A,B,Cの電力を統括的 に制御することによって,電力系統1の全体の電力の供給と負荷のバランスを保ち, 21 よって,電力系統の総発電電力と負荷電力との差によって発生する周波数変動が抑 制されることが示されており,これらの構成を備えることにより,総体として「電 力系統安定化システム」を構成しているものと認められる。また,引用刊行物の記 載及び図面のいずれの記載によっても,引用発明の「電力系統1」が,電力系統安 定化システム内の局所的な電力系統に限定されるとは認められない。 以上の認定からすると,本願発明の「電力分配ネットワーク」と引用発明の「電 力系統1」は,電気的負荷に接続され,負荷変動が発生する環境にあり,電力量の 追加又は吸収によって周波数変動を調整するシステム又は装置に電気的に結合され, これにより周波数変動が調整されるものである点において共通し,相違はないと解 される。 したがって,「引用発明の『電力系統1』は,本願発明の『電力分配ネットワー ク』に相当するとした審決の認定は誤りである」旨の原告の主張(上記第3の1 (3) )は理由がなく,これを前提とした原告の主張(上記第3の1(1),(2),(5), (6),(11) )も理由がない。 2 上記Aについて 原告は,引用発明は,急激な電力周波数の変動を抑制し,緩やかな周波数変動に して電力変動を和らげることを目的とするものであって,電力制御が第1の目的で あり,周波数変動の抑制は付随的,2次的な作用であること,引用刊行物には,本 願発明のように,目標値又はほぼ目標値に維持されるようにグリッド周波数を調整 すること,つまり,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電 力の交流周波数を制御するための方法は開示されていないことを理由として,「引 用発明の『目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との差によって発生す る周波数変動が抑制されるように算出し』は,本願発明の『決定量は,所望の周波 数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネットワーク上の電力の 交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップと』に相当するとする審 決の認定は誤りである」旨主張する。 22 しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。 (1) 認定事実 ア 本願発明の「決定量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数である ように,電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量 である,ステップと」の意義は,必ずしも明確ではない。そこで,本願明細書(甲 2)の記載を参照する。 イ 上記1(1) イ認定のほか,本願明細書(甲2)には次の記載がある。 【課題を解決するための手段】【0017】本発明は,電気分配システムまたはグ リッドに供給される電力の交流周波数の調整,より詳細には微調整のための方法を 特徴とする。また,そのような方法論を実現する,または本発明のそのような方法 論の実現における使用のためのデバイス,システムおよび装置が特徴付けられる。 【0020】より特定の実施形態において,そのような周波数制御方法は,1つ以 上の電源によって出力される全電力が,送電および分配ネットワークに関連付けら れた1つ以上の負荷およびライン損失によって課される全負荷を超えるとき,エネ ルギー格納サブシステムによって電気分配ネットワークに出力される電力量を,所 定の量だけ低減するように各フライホイールエネルギー格納システムの動作を制御 することを含む。さらに,フライホイールエネルギー格納システムは,生成される 余分な電力が存在するとき,分配ネットワークから電力を引き出すように動作する ことができる。このように,エネルギー格納サブシステムは,生成される余分な電 気エネルギーの少なくとも一部を吸収することができる。 【0021】そのような周波数制御方法は,出力される全電力が全負荷より小さい とき,他の所定の量だけエネルギー格納サブシステムによって電気分配ネットワー クに出力される電力量を増大することも含む。いいかえると,フライホイールエネ ルギー格納システムは,生成される電力が,ネットワークに接続されるすべての負 荷に給電しかつライン損失の考慮に必要なものより少ないとき,分配ネットワーク に電力を供給するように動作することができる。そのような場合,他の所定の量は, 23 全電力と全負荷との間の差異を評価することによって決定される。フライホイール エネルギー格納システムの制御性のために,エネルギー格納サブシステムは,ネッ トワークに分配されまたはネットワークから引き出されるエネルギーの量を制御す るように制御できる。 ウ 上記1(1) ウ認定のほか,引用刊行物(甲1)には次の記載がある。 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は,圧延設備,電気炉等の負荷変動 の大きい電力系統において,フライホイール発電電動機を用いて負荷変動に伴う系 統周波数の変動を抑制する電力系統安定化システムに関する。 【0002】【従来の技術】一般に,電力系統においては,周波数の変動が極力少 ないことが望ましい。電力系統に,例えば圧延設備や電気炉等,瞬時に変動する大 きな負荷が存在する場合,これらの負荷は,通常,時間とともに矩形波状に変化す る非定常電力が消費される。この時,発電設備の出力制御が,急峻な消費電力変化 に追従することができなければ,発電電力と消費電力の差によって,周波数変動が 発生する。 【0003】従来,電力系統(特に小規模電力系統)では,上記周波数変動を小さ くするために,発電設備の制御性改善を図る一方で,大きな瞬時変動負荷設備の設 置を避けている。また,電力系統の規模にかかわらず,大きな変動負荷は,電力系 統に好ましくない影響があることから,負荷変動を補償し,周波数変動を抑制する 設備も考案されている。その一つにフライホイール発電電動機を用いた電力系統安 定化装置がある。 【0012】【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の電力系統安定 化方法は,該電力系統毎に負荷変動量を吸収できる蓄積放出電力量を持ったフライ ホイール発電電動機を単独(単機)接続した構成によるものであったため,系統へ の負荷増設等により負荷変動量が,フライホイール発電電動機の蓄積放出電力量 (変動抑制可能容量)より大きくなると,単機では補償が不十分となる。 【0013】また,系統の負荷変動量を吸収するための蓄積および放出電力量がフ 24 ライホイール発電電動機の製作限界に制約を受けるため,単機のみの補償では変動 抑制可能容量に制限があるとともに,大容量となるにしたがって,単機では大規模 設備となり設備費やランニングコストが割高となるので不経済であった。また,単 機のみの構成では,万一装置に故障が生じた場合はバックアップ手段がなく,系統 の負荷変動量を補償することが不可能となる問題があった。 【0026】このように負荷の検出値P1をパターンメモリに書込みつつ,パター ンメモリの検出値の変化点の周期と,変動量PL (最新検出値−波形の中の最高 値−負荷変動前のベース負荷量に相当する値)を算出し,次の変化点のタイミング (時刻)および変化方向を予測して,変化方向が立下り(高負荷から低負荷)であ ると,変動量PL (予測値)に対し,前記蓄積放出電力量PA ,PB ,PC の組 合せによる入出力電力量が負荷変動量PL を満たす最小容量となる動作対象の組 合せ(装置A,B,C個別動作,A+B動作,B+C動作,A+C動作およびA+ B+C動作)を判定する。 【0027】次に,負荷変動量PL (予測値)を吸収するように,各蓄積放出電 力量の目標値Pr(装置A宛てはPrA,装置B宛てはPrB,装置C宛てはPr C)を装置毎に算出する。そして予測したタイミングの前後で検出値P1が降下を 始めると,判定した装置(A,B,C)に算出した目標値Pr(PrA,PrB, PrC)および電力蓄積指示を与える。 【0028】前記の通りパターンメモリの検出値P1の変化点の周期と,変動量P L を算出し,次の変化点のタイミング(時刻)および変化方向を予測したとき, 次の変化方向が立上り(低負荷から高負荷)であると,予測したタイミングの前後 で検出値P1が上昇を始めると,先に目標値Pr(PrA,PrB,PrC)を与 えた装置(A,B,C)に,電力放出指示を与える。 (2) 判断 ア 上記(1)ウ及び上記1(1)ウによれば,引用発明は,負荷変動の大きい電力系 統において,フライホイール発電電動機を用いて負荷変動に伴う系統周波数の変動 25 を抑制する電力系統安定化システムに関するものであること,電力系統毎にフライ ホイール発電電動機を単独(単機)接続した構成では,負荷変動量がフライホイー ル発電電動機の蓄積放出電力量(変動抑制可能容量)より大きくなると負荷変動の 補償が不十分となる,大容量となるに従い不経済であるなどの課題があり,これを 解決するものであること,課題解決手段として,電力系統に接続した複数のフライ ホイール発電電動機を用いた電力系統安定化装置,電力系統の負荷電力を検出する 負荷検出器及び該負荷検出器が検出した負荷電力の時系列の変動量を算出し,該変 動量と各電力系統安定化装置の蓄積放出容量に基づいて,変動量を吸収するための 電力系統安定化装置及びその目標値を決定し,電力放出指示を与える統括制御装置 を備えた構成を採用していること,この結果,電力系統全体の電力の供給と負荷の バランスが保たれ,電力系統の総発電電力と負荷電力の差によって発生する周波数 変動が抑制されることが認められる。 一方,上記(1) イ及び上記1(1)イ (本願明細書の段落【0016】,【002 1】,【0022】)によれば,本願発明は,電力の交流周波数を調整するための 新規な方法,システム,および装置を提供することを課題とし,課題解決手段とし て,特許請求の範囲の請求項1記載の構成を採用したものであり,電源から出力さ れる全電力と全負荷との差異を評価し,全電力が全負荷より小さいとき,エネルギ ー格納サブシステムから電力分配ネットワークに電力を追加し,出力される全電力 が全負荷を超えるとき,エネルギー格納サブシステムによって電力分配ネットワー クから電力を吸収するように,フライホイールエネルギー格納システムを制御する ものであることが認められる。 そうすると,引用発明の「目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電力との 差によって発生する周波数変動が抑制されるように算出し」との構成は,負荷変動 に伴う電力の周波数変動を抑制することを目的とするものであり,本願発明の「決 定量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネッ トワーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップ」と 26 の構成は,電力の交流周波数を調整するための新規な方法,システム,および装置 を提供することを目的とするものであって,両者は,目的において共通し,相違は ない。 以上のとおり,原告の上記主張は採用できない。 イ また,上記(1) ウによれば,引用発明の「周波数変動を抑制する」とは,発 電設備の出力制御が,急峻な消費電力変化に追従することができない場合において, 発電電力と消費電力の差によって発生する周波数変動を,負荷の変化方向が立下り (高負荷から低負荷)であるときは,フライホイール発電電動機によって電力系統 1の電力を蓄えるように蓄積放出電力量の目標値Prを算出し,負荷の変化方向が 立上り(低負荷から高負荷)であるときは,フライホイール発電電動機によって電 力系統1へ電力を出力するように蓄積放出電力量の目標値Prを算出することによ り,発電電力と消費電力の差を補償し,電力系統の電力の周波数を所望のものにす るように調整することと認められる。 一方,上記1(1) アのとおり,本願発明は,本願明細書の請求項1に「エネルギ ー格納サブシステムから前記電力分配ネットワークへ追加されるか,又は前記エネ ルギー格納サブシステムによって前記電力分配ネットワークから吸収される電力量 を決定するステップであって,前記決定量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望 の周波数であるように,前記電力分配ネットワーク上の前記電力の交流周波数を調 整するよう設定された量である」と記載されることから,エネルギー格納サブシス テムから電力分配ネットワークへ追加される電力量,又は,エネルギー格納サブシ ステムにより電力分配ネットワークから吸収される電力量を決定することにより, 電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を,所望の周波数又はほぼ所望の周波 数であるように調整するものであることが認められる。 そうすると,引用刊行物には,本願発明と同様,電力系統の電力の周波数を,所 望の周波数又はほぼ所望の周波数であるように調整するための方法が記載されてい ると認定できる。 27 以上のとおりであり,原告の上記主張は採用できない。 ウ この点,原告は,本願発明は,本願明細書の図2に記載された最大60.0 63Hzから最小59.944Hzの範囲よりも更に狭い範囲の周波数となるよう に,電力の周波数を調整するのに対し,引用刊行物にはそのような示唆がない旨主 張する。 しかし,原告の主張は失当である。本願明細書の請求項1において,「所望の周 波数」又は「ほぼ所望の周波数」に関する数値の限定はないこと(上記1(1) ア), また,段落【0005】には,「24時間の時間期間にわたる時間の関数として交 流周波数における変動を示す例示的な曲線が,図2に示される。示されるように, 平均交流周波数は,60.002Hzであり,最大交流周波数は,60.063H zであり,および最小交流周波数は,59.944Hzである。多数の用途におい て,交流周波数におけるそのような変化は,許容できず,それで,電力製造者また は消費者は,電力出力生成および分配システムからの入力に相互接続され,かつ所 望の範囲内または所望の値であるように,局所的に交流周波数を調整するシステム を実装しなければならない。」と記載されていることから,本願発明の「所望の周 波数」又は「ほぼ所望の周波数」とは,多数の用途において許容できる周波数又は その範囲内の周波数をいうものと理解される。一方,引用刊行物においても,上記 (1) ウのとおり,周波数変動の抑制が,電力系統に好ましく影響を与えない範囲で, 極力周波数の変動を小さくするように行われるものであることが示されている(段 落【0002】,【0003】)。そうすると,本願発明と引用発明において,調 整される電力の周波数の範囲に実質的な相違はないと解すべきである。 また,原告は,引用発明は,引用刊行物の図3の負荷電力P2が一定になってい る期間があると大雑把に仮定し,仮想的な負荷変動のみを考慮するものであって, 現実の電力分配ネットワークの負荷変動を対象とし,「所望の周波数であるか又は ほぼ所望の周波数であるように,電力分配ネットワーク上の電力の交流周波数を調 整する」という精密さを追求する本願発明の技術思想とは相反する旨主張する。 28 しかし,原告の主張は失当である。引用刊行物の段落【0041】に「変動負荷 2の電力P2=4/6の変動があると,まず,装置Aおよび装置Cの電力制御装置 4は,目標値制御装置7より図3の如く,それぞれ1/2および1/6とするよう に目標値Prefを出力する。これにより・・・装置Aと装置Cの出力の和・・・ に相当する電力が電力系統1へ出力される。それぞれの目標値制御装置7は図3の 如く,電力P3とするように緩やかに低下してt2時点で目標値Prefがほとん ど零となる。・・・次に,t3時点で変動負荷2の電力P2が零となると,図3に 示す如く,装置Aおよび装置Cの目標値制御装置7の目標値Prefは,逆方向に 急激な出力をする。このため,装置Aおよび装置Cの巻線型誘導機3は電動機状態 (P3負)となり,電力系統1の電力をそれぞれフライホイールの回転エネルギー として蓄え,電力P3はt4時点で零となる。」,段落【0044】に「各装置は, 図示動作の通り変動負荷2による負荷変動分を動作対象となるフライホイールの回 転エネルギーとして蓄えたり放出したりして,動作対象の装置の入出力和によって, 電力系統1における電力P1の変化を平滑化する。この結果,負荷変動量(電力P 2)と負荷変動抑制容量(電力P3)の差となる電力系統1の電力P1は,電力P 2のみの場合に比較して図3に示す如く,急激な変化が抑制されたものとなり,t 1時点からt3時点まで電力系統1の電力P1は緩慢に上昇し,その後緩やかに下 降し,これを繰り返す。」と記載されるように,図3(図1に示す装置A,B,C の入出力を示すタイムチャート)は,図1の実施例において,変動負荷2の電力P 2の変動によって電力制御装置4の各装置が動作し,電力系統1の電力P1の急激 な変化が抑制されることを簡易に図示したものに過ぎず,t2時点とt3時点の間 に負荷電力P2が一定になっている期間があると仮定した上で電力の変化の抑制を 説明したものではないから,原告の主張は前提を誤ったものである。 以上のとおり,原告の主張はいずれも採用できない。 エ したがって,「引用発明の『目標値Prは,電力系統の総発電電力と負荷電 力との差によって発生する周波数変動が抑制されるように算出し』は,本願発明の 29 『決定量は,所望の周波数であるか又はほぼ所望の周波数であるように,電力分配 ネットワーク上の電力の交流周波数を調整するよう設定された量である,ステップ と』に相当するとする審決の認定は誤りである」旨の原告の主張(上記第3の1 (7) )は理由がなく,これを前提とした原告の主張(上記(4),(6),(8)ないし (11) )も理由がない。 3 小括 以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がなく,審決に取り消すべき違法は認 められない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。 第5 結論 よって,原告の請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。 知的財産高等裁判所第3部 裁判長裁判官 飯 村 敏 明 裁判官 池 下 朗 裁判官 武 宮 英 子 30 別紙 1 本願明細書 図1A(電気的負荷の時間の関数として変動を示す例示的な毎日の負荷曲線であ る。) 図1B(深夜の時間と午前3時との間の図1Aに示される毎日の負荷における短期 間の変動を示す例示的な曲線である。) 31 図2(24時間の時間期間にわたる時間の関数として交流周波数における変動を示 す例示的な曲線である。) 図3A(可変負荷を有する化石燃料発電機に関する生成および負荷曲線を含むグラ フである。) 32 図3B(可変負荷を有するポンプ給送される推力発電機に関する生成および負荷曲 線を含むグラフである。) 図4(本願発明のFESSアレイの様々な配置を示す,例示的な電力生成および分 配システムを示すブロック図である。) 33 2 引用刊行物 図1(引用発明の一態様を示すシステム構成図である。) 図2(引用発明の統括制御装置の機能概要を示すブロック図である。) 34 図3(図1に示す装置A,B,Cの入出力を示すタイムチャートである。) 図5(従来の電力安定化装置の入出力を示すタイムチャートである。) 35 |