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関連審決 不服2003-2182
関連ワード 物の発明 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  交換 /  構成要件 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  独立特許要件 / 
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事件 平成 17年 (行ケ) 10401号 審決取消請求事件
原告 旭化成ホームズ株式会社
同訴訟代理人弁理士 中川周吉
同 中川裕幸
同 反町行良
同 大石裕司
被告 特許庁長官中嶋誠
同指定代理人 伊波猛
同 高橋祐介
同 高木彰
同 宮下正之
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2006/01/17
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1 特許庁が不服2003−2182号事件について平成17年2月21日にした審決を取り消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
請求
主文と同旨
争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 原告は,平成11年12月3日,発明の名称を「建物,建物維持管理システムおよび建物維持管理シート」(その後,「建物およびその維持管理システム」と補正された。)とする特許出願(特願平11-345095号,以下「本願」という。請求項の数は10である。)を行ったところ,特許庁は,平成15年1月7日,拒絶査定をした。
そこで,原告は,平成15年2月10日,拒絶査定不服審判の請求をし(不服2003-2182号),同年3月12日,本願に係る明細書(以下「本願明細書」という。)について特許請求の範囲等の補正をした(以下「本件補正」という。)が,特許庁は,平成17年2月21日,本件補正を却下した上で,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)を行い,その謄本は,同年3月4日,原告に送達された。
2 特許請求の範囲 (1) 本件補正前の請求項1 「【請求項1】基本躯体,外装部材および埋設設備部材を使用する建物であって,前記基本躯体を最長耐用年数とし,前記外装部材の耐用年数と前記埋設設備部材の耐用年数とは,いずれも前記基本躯体の耐用年数の整数分の1であり,前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位の耐用年数が上位の耐用年数全てに対して整数分の1とされ,最長耐用年数の整数分の1の間隔で定期的にメンテナンスを行うように設計されたことを特徴とする建物。」 (2) 本件補正後の請求項1(以下,この発明を「補正発明」という。) 「【請求項1】基本躯体,外装部材および埋設設備部材を,定期的なメンテナンスの計画の対象部材として使用する建物であって,前記基本躯体を最長耐用年数とし,該最長耐用年数全体にわたって,前記外装部材の耐用年数と前記埋設設備部材の耐用年数とは,いずれも前記基本躯体の耐用年数の整数分の1であり,前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位の耐用年数が上位の耐用年数全てに対して整数分の1とされ,前記下位の耐用年数の中の最小耐用年数の整数倍の間隔で定期的にメンテナンスを行うように設計されたことを特徴とする建物。」 なお,補正発明は次のとおり分説することができる。
(a)基本躯体,外装部材および埋設設備部材を,定期的なメンテナンスの計画の対象部材として使用する建物であって, (b)前記基本躯体を最長耐用年数とし,該最長耐用年数全体にわたって,前記外装部材の耐用年数と前記埋設設備部材の耐用年数とは,いずれも前記基本躯体の耐用年数の整数分の1であり, (c)前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位の耐用年数が上位の耐用年数全てに対して整数分の1とされ, (d)前記下位の耐用年数の中の最小耐用年数の整数倍の間隔で定期的にメンテナンスを行うように (e)設計されたことを特徴とする建物 3 本件審決の理由 別紙審決書写しのとおりである。要するに,補正発明は,特開平10-46832号公報(甲1,以下「刊行物1」という。)及び特開平8-193423号公報(甲2,以下「刊行物2」という。)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許出願の際独立して特許を受けることができないものであるとして,本件補正を却下した上,本件補正前の請求項1に係る発明についても,同様に,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない,というものである。
本件審決が認定した補正発明と刊行物1記載の発明との一致点及び相違点は,次のとおりである。
(一致点) 基本躯体,外装部材および埋設設備部材を,定期的なメンテナンスの計画の対象部材として使用する建物であって,前記基本躯体を最長耐用年数とし,少なくとも40年間にわたって,前記基本躯体の耐用年数の整数分の1のメンテナンス間隔であり,前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位のメンテナンス間隔が上位のメンテナンス間隔全てに対して整数分の1のメンテナンス間隔とされ,下位のメンテナンス間隔の中の最小のメンテナンス間隔の整数倍のメンテナンス間隔で定期的にメンテナンスを行うように設計された建物。
(相違点1) 定期的に行うメンテナンスの全期間について,補正発明が,「最長耐用年数全体にわたって」行うように設計したものであるのに対して,刊行物1記載の発明では,「少なくとも40年間にわたって」行うように設計したものである点。 (相違点2) 外装部材及び埋設設備部材の耐用年数とメンテナンス間隔との関連について,補正発明が,外装部材及び埋設設備部材の耐用年数をメンテナンス間隔としたものであるのに対して,刊行物1記載の発明では,外装部材及び埋設設備部材(建築部材及び設備機器)の耐用年数とメンテナンス間隔とを関連づけたのか否か定かでない点。
原告主張に係る本件審決の取消事由
本件審決は,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点を誤認して相違点を看過し(取消事由1),また,相違点2についての容易想到性の判断を誤った(取消事由2)結果,本件補正に係る独立特許要件の判断(補正発明の進歩性の判断)を誤って本件補正を却下し,本願に係る発明の認定を誤ったものであり,これらの誤りが審決の結論に影響を及ぼすことは明らかであるから,取り消されるべきである。
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過) 本件審決は,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点を誤認し,相違点を看過したものである。
(1) 「設計された建物」について 補正発明は,メンテナンスの手間,時間及び費用を抑制できる建物を提供できるようにするため,基本的部材の耐用年数を,「(b)前記基本躯体を最長耐用年数とし,該最長耐用年数全体にわたって,前記外装部材の耐用年数と前記埋設設備部材の耐用年数とは,いずれも前記基本躯体の耐用年数の整数分の1であり,(c)前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位の耐用年数が上位の耐用年数全てに対して整数分の1とされ,(d)前記下位の耐用年数の中の最小耐用年数の整数倍の間隔で定期的にメンテナンスを行う」との要件を満たすように予め設定し,それに基づいてメンテナンスを行うように「(e)設計されたことを特徴とする建物」である。
これに対して,刊行物1に記載されたものは,設計が既になされた後の建物について,その構造をそのまま受け入れた上でメンテナンス計画を行うものであり,予め,耐用年数を設定し,それに基づいてメンテナンスを行うように「設計された建物」ではない。
したがって,本件審決は,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点として「設計された建物」である点を誤認し,「補正発明が前記(b)〜(d)の構成を有するように設計された建物であるのに対し,刊行物1に記載されたものは,既に建築された建物についてのメンテナンス計画であり,両者は技術分野が相違する」点を看過したものである。
(2) 「定期的メンテナンス」の対象部材について 補正発明は,定期的なメンテナンス対象部材を耐用年数が設定できる「基本的部材」に限定し,耐用年数が変化してしまう「付帯的部材」は定期的メンテナンスの対象としないことにより,前記(b)〜(d)の構成を成立可能として,メンテナンスの手間,時間及び費用を抑制できる建物を提供できるようにしたものである。すなわち,補正発明において,仮に,「基本的部材」に加えて「付帯的部材」を一緒に「定期的メンテナンス」の対象とするなら,少なくとも「付帯的部材」については「(c)前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位の耐用年数が上位の耐用年数全てに対して整数分の1とされ,(d)前記下位の耐用年数の中の最小耐用年数の整数倍の間隔で定期的にメンテナンスを行う」ことができるような建物を設計できないことが明らかである。したがって,補正発明において,「定期的にメンテナンスを行う」部材として,「付帯的部材」は除外されるべきことは明白であり,かつ,そのことは「メンテナンスの手間,時間及び費用を抑制できる建物を提供する」という補正発明の目的・効果等からも当然である。
これに対して,刊行物1の記載によれば,その図6(A)には,建物の建築部材(前記基本的部材)や設備機器(前記付帯的部材)を一緒にして,更新費用を計算し,集計したメンテナンス計画が示されているというべきである。このように,刊行物1は,基本的部材と付帯的部材とを一緒にしたメンテナンス計画であり,基本的部材の耐用年数,メンテナンス間隔について,前記(b)〜(d)の構成を採用するものではない。
したがって,本件審決は,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点として「基本躯体,外装部材および埋設設備部材を,定期的なメンテナンスの計画の対象部材として使用する建物」であり,「少なくとも40年間にわたって,前記基本躯体の耐用年数の整数分の1のメンテナンス間隔であり,前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位のメンテナンス間隔が上位のメンテナンス間隔全てに対して整数分の1のメンテナンス間隔とされ,下位のメンテナンス間隔の中の最小のメンテナンス間隔の整数倍のメンテナンス間隔で定期的にメンテナンスを行う」点を誤認し,「補正発明は,定期的メンテナンスに適した基本的部材と,使用状況や頻度により耐用年数が変化する付帯的部材とを区分し,基本的部材について前記(b)〜(d)の構成を有するように設計された建物であるのに対し,刊行物1に記載されたものは,基本的部材と付帯的部材を一緒にしてメンテナンス計画を立てている」という両者の相違点を看過したものである。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り) 本件審決は,刊行物2記載の発明を誤認して,相違点2の判断を誤ったものである。
(1) 刊行物2記載の発明の認定の誤り 本件審決は,刊行物2の図14,15に基づき,刊行物2記載の発明を,「複数種類毎に複数の部位から構成される建築物の各部位の修繕仕様に応じた耐用年数を基準として,劣化診断後,予め定める年度までの間(20年間)における,例えば,2年或いは12年の耐用年数毎に実施される修繕数量と修繕単価とから各年度毎に必要な修繕費用を求めることにより,長期にわたって,各年度毎における建築物の修繕日程計画および修繕費用計画を作成すること。」と認定した。
しかしながら,図14,15に示された修繕周期は,劣化診断時期や劣化診断結果,あるいは劣化診断後のグレード選択に左右されるものであるし,かつ基準となる建物の耐用年数も示されていないから,補正発明のような基本躯体の耐用年数と関連付けられた耐用年数であると認定することは不可能である。
(2) 相違点2の判断の誤り 本件審決は,相違点2は刊行物2記載の発明から当業者が容易に想到し得たものにすぎないと判断しているが,上記のとおり,本件審決の刊行物2記載の発明の認定は誤りであるから,それを前提とする本件審決の相違点2についての判断は誤りである。
被告の反論
本件審決の認定判断に誤りはなく,原告の主張する取消事由には理由がない。
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について (1) 「設計された建物」について 刊行物1の記載からみて,当該刊行物に記載された技術は,建物の設計段階において,それに使用される個別部材,機器(建築部材及び設備機器)についての修繕・更新のコストを含む全収支を考慮するようにした建物についてのものを包含し得るメンテナンス計画であることは容易に推測できることであり(乙1〜3),原告が主張するような「設計が既になされた後の建物について,その構造をそのまま受け入れた上でメンテナンス計画を行うもの」に限定されないものである。また,刊行物1の記載によれば,当該刊行物に記載されたメンテナンス計画が,それら個別部材,機器の個々の部材についてそれぞれ予め設定した耐用年数に基づいてメンテナンスを行うように計画されたものであることが認識される。
(2) 「定期的メンテナンス」の対象部材について そもそも,補正発明は,「耐用年数が設定できる基本的部材」と「耐用年数が変化してしまう付帯的部材」とを一緒に「定期的メンテナンス」の対象とすることを除外していない。なぜなら,@建物が構成部材として「基本的部材」の外に「付帯的部材」をも有することは常識である,A本件補正後の本願明細書の請求項3が,「定期的にメンテナンスが必要な部材と,任意に更新すればよい部材とに仕分けられており」と改めて規定している,B「基本的部材」と「付帯的部材」とを一緒に定期的メンテナンスの対象部材とした場合に,補正発明の前記(b)〜(d)の構成を満たすことが原理的に不可能であるとする理由はないからである。
したがって,刊行物1記載の発明が,付帯的部材を基本的部材と一緒にしているからといって,これにより直ちに,刊行物1記載の発明が補正発明に比して格別に異なるものということはできない。
一方,刊行物1の図6(A)の集計グラフには,「10年目,15年目,20年目,30年目,40年目の修繕・更新費用が突出する節目の年度」が発生しているところ,「基本躯体」としての躯体構造の耐用年数が60年である鉄筋コンクリート造の建物における,「外装部材および埋設設備部材」に相当する外壁や給排水管などの修繕周期については,10年や15年,あるいは,10〜20年の間で設定することが一般的であり(乙2,3),しかも,大規模な修繕工事の周期にあわせて修繕工事の周期を集約させることが周知の事項である(乙1)から,刊行物1に記載されたメンテナンス計画において,上記「修繕・更新費用が突出する節目の年度」を,10年毎あるいは15年毎の間隔のものにそれぞれ分けて,これら各年毎に発生する大きな更新費用を,原告が主張する「基本的部材」に関するもの(「付帯的部材」に関するものも含まれる可能性があるが)であると認定することに何ら不都合はない。
2 取消事由2(相違点2の判断の誤り)について (1) 刊行物2記載の発明の認定について 刊行物2の記載によれば,刊行物2のメンテナンス計画は,建築物の劣化診断後に作成されるものであるとしても,少なくとも,建築物の各部位の更新時の設計に応じた耐用年数とそれのメンテナンス間隔とを関連づけたものであり,また,その対象となる既存の建物も,補正発明と同様に,各部材についての耐用年数を予め設定して設計された建物であることは明らかである。また,当該メンテナンス計画は,鉄筋コンクリート構造のマンションなどの集合住宅用の建物に適用されるものであり(段落【0002】,【0004】,【0064】等),その耐用年数が,「60年」であることは明らかであるから(甲5),基準となる建物の耐用年数は示されている。
(2) 相違点2の判断について 上記のとおり,刊行物2記載の発明の認定に誤りはないから,相違点2の判断についての原告の主張は,前提を欠き失当である。そもそも,補正発明は,刊行物2記載の発明について考慮しなくても,刊行物1記載の発明及び周知の事項から,当業者が容易に想到し得たものにすぎない。
当裁判所の判断
1 取消事由1(一致点の誤認,相違点の看過)について (1) 原告は,補正発明が,前記(b)〜(d)の構成を可能とするように「設計された建物」であるのに対し,刊行物1記載の発明は,既に建築された建物についてのメンテナンス計画であるから,本件審決は,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点として「設計された建物」である点を誤認し,両者の技術分野の相違を看過した旨主張する。
ア 刊行物1(甲1)には,次の記載がある。
(ア)「本発明に係るシステムでは,建築の構造部材等は一般的にはその法定耐用年数,計画耐用年数が約60年となっているため,耐用年数に達したときには新しい建物を建築するといった考え方によりそのライフサイクルコストから除いている。建築の対称としては,屋根,外壁,建具,床,内装といった耐用年数以内に修繕,更新を必要とするものに重点を絞ってマスターデータベースを構築している。」(段落【0012】) (イ)「・・・建物の建築部材及び設備機器の各名称に対するマスターデータは,寸法や数量,容量,使用態様,運転時間等を解析データとして入力・指定することにより,修繕・更新のコストを計算し,時期を求めるための所定の演算式とそのパラメータをデータとして有するものである。」(段落【0013】) (ウ)「解析データが入力されると,マスターデータで指定された演算式を使って修繕・更新のコスト,時期を求める(ステップS13)。」(段落【0019】) (エ)「【発明の効果】以上の説明から明らかなように,本発明によれば,既存システムのように個別建築部材の仕上げ内容,使用材料等が異なる場合や,設備機器では型式,容量等が異なる場合にそれぞれを個別のマスターデータとして取り扱うのではなく,マスターデータに演算式を導入して入力データから演算式を用いて修繕・更新のコスト,時期を求めるので,従来よりも広範囲にわたる建物の建築部材及び設備機器に関して修繕・更新のコスト,時期を求めることができる。したがって,ビルの設計から建設,運用に関わる全収支のシミュレーションを簡便に行うことができる。」(段落【0030】) イ これらの記載からすると,刊行物1には,解析データの入力により,建築部材等に対応して作成されているマスターデータに基づき,修繕,更新の時期を演算により求めてメンテナンス計画を立てることが記載されていると認められる。
しかしながら,当該メンテナンス計画の対象とされるのが建物であることは明らかである。また,刊行物1において,建物は,「耐用年数に達したときには新しい建物を建築するといった考え方」で建築されるものであり,耐用年数以内に修繕,更新を必要とする建築部材等に限って,修繕,更新用のマスターデータベースが構築されるものと認められるから(上記(ア)),刊行物1の建物は,当初から,修繕,更新を行う部材と行わない部材とを分けて設計されるものであることが認められる。
また,刊行物1のメンテナンス計画によれば,「ビルの設計から建設,運用に関わる全収支のシミュレーションを簡便に行うことができる」(上記(エ))ところ,そのために用いるマスターデータは,「寸法や数量,容量,使用態様,運転時間等を解析データとして入力・指定することにより,修繕・更新のコストを計算し,時期を求める」(上記(イ))ためのものである。したがって,上記マスターデータは,耐用年数等の基礎データを同時に有するものであって,収支計算を実施できるに止まらず,建築部材等に応じた,修繕,更新時期のシミュレーションも同時に実施可能であることが明らかであるから,設計段階における,建築部材等の選定にも使用され得るものであると解される。
そうであれば,刊行物1記載の発明も,「設計された建物」の発明ということができ,補正発明と刊行物1記載の発明の技術分野が異なるということはできないから,上記原告の主張は採用できない。
(2) 次に,原告は,補正発明が,耐用年数が設定できる基本的部材と耐用年数が変化する付帯的部材とを区分し,定期的メンテナンスの対象を基本的部材に限定することにより,前記(b)〜(d)の構成を達成したものであるのに対し,刊行物1記載の発明は,基本的部材と付帯的部材を一緒にしたメンテナンス計画であるから,本件審決は,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点として,「基本躯体,外装部材および埋設設備部材を,定期的なメンテナンスの計画の対象部材として使用する建物」であり,「少なくとも40年間にわたって,前記基本躯体の耐用年数の整数分の1のメンテナンス間隔であり,前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位のメンテナンス間隔が上位のメンテナンス間隔全てに対して整数分の1のメンテナンス間隔とされ,下位のメンテナンス間隔の中の最小のメンテナンス間隔の整数倍のメンテナンス間隔で定期的にメンテナンスを行う」点を誤認し,上記相違点を看過した旨主張する。
ア 補正発明は,「基本躯体,外装部材および埋設設備部材を,定期的なメンテナンスの計画の対象部材として使用」し,「下位の耐用年数の中の最小耐用年数の整数倍の間隔で定期的にメンテナンスを行うように設計された」建物の発明であり,メンテナンスを行う「方法」の発明ではないから,実際にメンテナンスを行うことは,補正発明の構成要件であるとはいえず,補正発明は,上記の定期的なメンテナンスが実施できるように,「(b)前記基本躯体を最長耐用年数とし,該最長耐用年数全体にわたって,前記外装部材の耐用年数と前記埋設設備部材の耐用年数とは,いずれも前記基本躯体の耐用年数の整数分の1であり,(c)前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位の耐用年数が上位の耐用年数全てに対して整数分の1とされ」ている「基本躯体,外装部材および埋設設備部材」を,建物の構成部材として用いたことに技術的意義を有するものと認められる。
すなわち,上記(b),(c)の構成を備えた建物であれば,必然的に,「(d)下位の耐用年数の中の最小耐用年数の整数倍の間隔で定期的にメンテナンスを行う」ことができるようになると認められるから,補正発明と刊行物1記載の発明を対比するにあたっては,刊行物1記載の発明が上記(b),(c)の構成を備えているか否かの観点から行うことが妥当であるので,以下そのような観点から検討する。
イ 刊行物1(甲1)には,次の記載がある。
(ア)「そのために本発明は,建物の建築部材や設備機器の修繕・更新のコストや時期を求めてライフサイクルコストの管理を行う建物ライフサイクル解析システムであって,建物の建築部材や設備機器のそれぞれの修繕・更新のコストや時期を求めるための演算式と各パラメータの値を有するマスターデータを格納するマスターデータ格納手段と,建物の建築部材や設備機器のそれぞれのデータを入力し,該入力したデータとマスターデータに基づき建物の建築部材や設備機器の修繕・更新のコストや時期を求める解析手段とを備えたことを特徴とするものである。また,マスターデータは,建物の建築部材や設備機器のそれぞれのデータ入力テーブルを有し,さらに複数の演算式を有し,該演算式から建物の建築部材や設備機器のそれぞれに用いる演算式を指定することを特徴とするものである。」(段落【0007】) (イ)「例えば吸収式冷凍機マスターデータは,図4に示すように機器名称,標準的な修繕項目及びそのサイクル,機器詳細分類,用途分類,標準耐用年数,標準偏差,点検,診断項目,修繕・更新コスト等で構成している。このように詳細分類,用途分類の異なる部材,機器も,修繕項目,修繕サイクルがほぼ同一で,修繕コストは基本部材,機器を基にして各種の演算式による計算が可能であるといった特性を持っているため,1つのマスターデータとして取り扱うことができる。これにより,従来システムのように個別部材,機器毎にデータベースを持つ必要がなく,その識別や管理が非常に容易になっている。」(段落【0014】) (ウ)「さらに,マスターデータについて詳述する。機器名称は,建築業界において一般的にその目的,機能が明確に判別できる名称を採用している。機器詳細分類,用途分類は,3種類設けてあり,各分類は,5つの細目を持っているため,1つのマスターコードに対して最大125種類の部材や機器を登録することができる。例えば分類1は,主としてその部材,機器の更新年数に関わる項目を登録するために活用する。例えば吸収式冷凍機は同一機器であってもその使用頻度(運転時間)によって標準耐用年数が変化するため使用頻度に併せたそれぞれの耐用年数,標準偏差を登録する。分類2,分類3は,部材,機器の詳細仕様(種類等)を登録する。これにより,各種詳細仕様によって変化する修繕,更新コストを分類2及び分類3の細分に対応して,後述の基本仕様に対する比率計算を行う。」(段落【0015】) (エ)「標準耐用年数は,それぞれの部材,機器の通常の耐用年数であり,標準偏差は,後述する診断機能によって部材,機器の運転状況,稼働状況によって残存寿命を計算し,リニューアル,リフォーム計画を作成するためのものである。」(段落【0016】) (オ)「・・・建物の建築部材や設備機器の全てについて同様の入力・演算処理を実行し,入力・演算が終了したと判断すると(ステップS14),ライフサイクル計算書や長期保全計画書を編集して出力する(ステップS15)。図6は計算された修繕・更新のコストや時期等からなる解析結果のデータの編集例を示す図であり,(a)はライフサイクル計算書,(b)は長期保全計画書の例を示し,解析対象となる建物の建築部材及び設備機器を入力することにより,それぞれの修繕サイクル,改修サイクルから個別費用を算定して作成したものである。」(段落【0019】) (カ)「【発明の効果】以上の説明から明らかなように,本発明によれば,・・・マスターデータに演算式を導入して入力データから演算式を用いて修繕・更新のコスト,時期を求めるので,従来よりも広範囲にわたる建物の建築部材及び設備機器に関して修繕・更新のコスト,時期を求めることができる。したがって,ビルの設計から建設,運用に関わる全収支のシミュレーションを簡便に行うことができる。」(段落【0030】) これらの記載からすると,刊行物1記載の発明においては,設計時点において,それぞれの部材,機器の通常の耐用年数が既知であることを前提として,マスターデータに基づき,演算によって,建物の建築部材及び設備機器に関して修繕・更新のコスト,時期が求められていることが明らかである。 ウ また,刊行物1(甲1)の図4には,吸収式冷凍機の更新サイクルが20年であることが記載され,図6(A)ライフサイクル計算書には,40年目までの経過年数毎に発生する,管理業務委託費,光熱用水費,修繕費,更新費についての積算費用(単位:億円)がグラフ化して示されている。このグラフによれば,修繕費,更新費の一方または双方が,ほぼ,毎年のように算定されており,中でも,更新費については,10年目,14年目,15年目,20年目,23年目,25年目,27年目,28年目,29年目,30年目,40年目などに,大きな額が算定されていることが認められる。
エ そして,刊行物1(甲1)には,前記段落【0016】の記載に加え,「従来のライフサイクルコスト算出システムでは,建築部材の全てを対象としているが,本発明に係るシステムでは,建築の構造部材等は一般的にはその法定耐用年数,計画耐用年数が約60年となっているため,耐用年数に達したときには新しい建物を建築するといった考え方によりそのライフサイクルコストから除いている。
建築の対称としては,屋根,外壁,建具,床,内装といった耐用年数以内に修繕,更新を必要とするものに重点を絞ってマスターデータベースを構築している。」(段落【0012】)と記載されている。
これらの記載からすると,前記図6(A)のグラフにおける更新費とは,構造部材等の計画耐用年数を約60年と設定し,この計画耐用年数内において,屋根等の部材,機器の耐用年数が経過することにより,新たなものに更新するのに要する費用であると解される。
オ しかしながら,上記の更新費が,いかなる部材,機器の更新により発生するものであるのかは,刊行物1に何ら記載されていない。構造部材等の計画耐用年数が約60年とされ,吸収式冷凍機の更新サイクルが20年であることが記載されているとしても,前記図6(A)のグラフは,診断後の修繕,更新計画であるかもしれないから(前記段落【0016】),当初の設計段階における,各部材,機器の標準耐用年数に基づいて作成されたものであるかどうかは不明というほかない。
カ しかも,刊行物1(甲1)には,「図5は全体の処理の流れを説明するための図である。本発明に係る建物ライフサイクル解析システムでは,図5に示すようにまず,建物の建築部材や設備機器をメニュー画面に従って選択する(ステップS11)。ここでは,建物の建築部材や設備機器を選択するメニュー画面から例えば建築部材を選択すると,屋根,外壁,建具,床,内装の選択画面,さらに下位の分類の選択画面に順次切り換わり,例えば最終的に選択された建物の建築部材や設備機器のデータ入力テーブルを表示する。次に,その建築部材や設備機器に関する寸法や数量,容量,使用態様,運転時間等の解析データを入力する(ステップS12)。このとき,選択された建物の建築部材や設備機器毎に表示されたデータ入力テーブル上で運転時間大/中/小のような項目の選択設定,数値データの入力を行う。解析データが入力されると,マスターデータで指定された演算式を使って修繕・更新のコスト,時期を求める(ステップS13)。建物の建築部材や設備機器の全てについて同様の入力・演算処理を実行し,入力・演算が終了したと判断すると(ステップS14),ライフサイクル計算書や長期保全計画書を編集して出力する(ステップS15)。図6は計算された修繕・更新のコストや時期等からなる解析結果のデータの編集例を示す図であり,(a)はライフサイクル計算書,(b)は長期保全計画書の例を示し,解析対象となる建物の建築部材及び設備機器を入力することにより,それぞれの修繕サイクル,改修サイクルから個別費用を算定して作成したものである。」(段落【0019】)と記載されている。
この記載からすると,刊行物1のシステムでは,建具,床,内装についても,修繕・更新時期を算出しており,これらの建具,床,内装の少なくとも一部は,補正発明でいう「基本躯体,外装部材および埋設設備部材」の範疇に含まれないものと認められるから,刊行物1記載の発明は,補正発明でいう,耐用年数が定められた部材(「基本躯体,外装部材および埋設設備部材」)と,耐用年数が定められていない部材(これらについては,後記コを参照)とを一緒に計画的なメンテナンスの対象とするものであると認められる。
したがって,前記図6(A)のグラフにおける更新費には,上記耐用年数が定められた部材と,耐用年数が定められていない部材の両方についての更新に要する費用が含まれていると解するのが妥当である。
キ また,刊行物1(甲1)には,前記段落【0016】の記載に加え,「標準的な修繕項目及びそのサイクルは,それぞれの部材,機器にタイ図区(ママ)固有の修繕項目及びそのサイクルを管理するものである。修繕内容は,個別部材,機器に対して必要な修繕,更新内容が登録され,次項にそれぞれの実施サイクルが登録される。補正1は,修繕年限補正年数,補正2は補正修繕年限であり,具体的には,事例にあるようにオーバーホールの標準サイクルは6年であるが,設置後14年を経過した場合にはそれ以降のオーバーホールのサイクルを4年間隔に短縮する必要がある,といった修繕管理のあり方を示している。このように部材,機器の経年変化に即した管理を実施することが可能となる。修繕率は,修繕に必要とされる数量を全体に対する比率で表している。特に建築部材の場合には,天井や床の修繕といったように一定のサイクルで全ての修繕を行うのではなく,ある一定の比率での修繕項目が発生する。分散は,分散処理可能の可否を登録する機能であり,具体的には,照明器具や消化器(ママ)のように同一の仕様の機器が多数ある場合,修繕サイクルにしたがって同時に全ての修繕を実施するのではなく,予算の平準化を図るために一定の割合で実施時期をずらして実行可能な修繕項目かどうかを登録する機能である。なお,予算の平準化は,建物規模等により管理方式が変わり,個別オーナーの予算計画に関わる問題でもある。演算式は,各修繕,更新内容によって後述するようにそれぞれのコストがある特性を持っているためこれを演算するタイプを登録するものである。」(段落【0017】)と記載されている。
これらの記載からすると,刊行物1記載の発明において,修繕・更新のコストや時期等を解析する場合,@部材,機器の標準耐用年数に加えて,診断機能の結果である標準偏差が考慮されること,A設置後一定年数を経過した場合にはそれ以降の修繕サイクルが短縮されること,B一定のサイクルで全ての修繕を行うのではなく,ある一定の比率での修繕項目が発生すること,C予算の平準化を図るために一定の割合で実施時期をずらすことなどが考慮されると認められるから,図6に記載された「計算された修繕・更新のコストや時期等からなる解析結果のデータの編集例」も,上記@〜Cのことを考慮した結果のものであると解される。
ク そうであるなら,40年目までの経過年数毎に発生する更新費が,いずれの部材,機器によるものであるかを特定することはできないというべきであるから,刊行物1の図6(A)に,少なくとも,経過年数10年毎(10,20,30,40年目)あるいは15年毎(15,30年目)に,大きな更新費用が発生することが記載され,10年毎あるいは15年毎という間隔が,いずれも,構造部材等の計画耐用年数(約60年)のほぼ整数分の1の間隔であり,また,上記10年毎あるいは15年毎のいずれの間隔においても,下位の間隔が上位の間隔の整数分の1であるとしても,この間隔でのみ,外装部材および埋設設備部材が更新され,これ以外の時期には更新されないと断定することはできない。
ケ したがって,刊行物1記載の発明は,補正発明の前記(b),(c)の構成を備えたものとは認められず,本件審決が,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点として,「基本躯体,外装部材および埋設設備部材」に関して,「前記基本躯体の耐用年数の整数分の1のメンテナンス間隔であり,前記基本躯体の耐用年数を基準に,下位のメンテナンス間隔が上位のメンテナンス間隔全てに対して整数分の1のメンテナンス間隔とされ」ていると認定したのは誤りであり,本件審決がこの点に関する補正発明と刊行物1記載の発明との相違点を看過したことは明らかである。
コ この点に関し,被告は,まず,刊行物1に記載のメンテナンス計画が,耐用年数が変化する付帯的部材と基本的部材とを一緒にしたものであるとしても,補正発明においては,「耐用年数が設定できる基本的部材」と「耐用年数が変化してしまう付帯的部材」とを一緒に「定期的メンテナンス」の対象とすることを除外していないのであるから,直ちに,刊行物1記載の発明が,補正発明に比して格別に異なるものということはできない旨主張する。
しかしながら,前記のとおり,本件補正後の請求項1には,「基本躯体,外装部材および埋設設備部材を,定期的なメンテナンスの計画の対象部材として使用する建物であって」と記載されており,この記載から,補正発明における定期的なメンテナンスの計画の対象部材が,「基本躯体,外装部材および埋設設備部材」であることは,文理上明らかである。
また,本件補正後の本願明細書(甲3,4)には,「図1,図2において本実施形態に係わる建物は,基本躯体101,外装部材102,埋設設備部材103,内装部材・露出設備機器104およびその他から構成される。」(甲3の段落【0019】),「図1,図2において,基本躯体101の部材として,基礎,鉄骨,ALC等があり,全て耐用年数60年の部材である。外装部材102の部材としては,屋根葺材,屋根防水層,外壁(防水塗装),開口部等があり,さらに,埋設設備部材103の部材としては,給水給湯配管,排水配管,電気配線,ガス配管,暖冷房の埋設配管,情報関連配管,ユニットバス等がある。上記外装部材102,埋設設備部材103は,耐用年数15年,30年,60年の部材で構成されている。一方,図1,図2において,内装部材・露出設備機器104の部材としては,間仕切り壁下地,天井下地,壁仕上げ,天井仕上げ,床仕上げ,内部建具,家具,造作等があり,部材に耐用年数は設けられていない。」(甲3の段落【0021】,【0022】),「次に,基本躯体101,外装部材102,埋設設備部材103,内装部材・露出設備機器104の各々が包含する部材に対する,定期的なメンテナンスの計画(以下,メンテナンス・プログラムと呼ぶ)の実施形態を以下に述べる。(1)メンテナンス・プログラム対象部材 図2に示すように,下記の2条件を満たしている「基本躯体,外装,埋設設備」の3つの分野の部材を対象とする。@その耐久性が建物全体の耐久性(基本性能)に直接影響する部材。A建物全体の耐久性(基本性能)維持のためには,原則メンテナンス・フリーまたは予防保全されるべき部材。(2)メンテナンス・プログラム非対象部材 「内装・露出設備」は,上記メンテナンス・プログラム対象部材の条件を満たさないことに加え,下記の3点の特徴により,原則として世間並みの耐用年数とメンテナンス・システムによる対応で十分と考え,図2に示すようにメンテナンス・プログラム非対象とする。@耐用年数が,住み手の使い方や感覚に左右される面が大きいため,維持管理をプログラム化する意味が無い。A補修交換等は,発生の都度で対応しても問題が無い。B補修技術や補修部品の供給等は,世の中で一般的に市販されている部品の活用により,無意味なコスト上昇を抑制できる。」(甲3の段落【0023】)と記載されており,これらの記載からすると,建物は,基本躯体,外装部材,埋設設備部材,内装部材・露出設備機器およびその他から構成され,「基本躯体,外装部材および埋設設備部材」についてのみ,耐用年数が定められていること,内装部材,露出設備機器,および,その他の部材は,建物全体の耐久性(基本性能)に直接影響せず,補修等の時期も予測できず,かつ,必要があれば,市販品等により補修等が可能であるなどの理由から,耐用年数が定められていないことが認められる。
そうすると,補正発明は,建物が,耐用年数が定められている部材(基本躯体,外装部材および埋設設備部材)と,耐用年数が定められていない部材(内装部材・露出設備機器およびその他)から構成されていることを前提に,耐用年数が定められている部材をメンテナンスの計画の対象とするものであり,耐用年数が定められていない部材については,定期的なメンテナンスの計画の対象としていないものと認めるのが妥当である。したがって,被告の上記主張は,その前提を欠き,採用できない(もっとも,補正発明の技術的意義が,前記(b),(c)の構成を備えた部材を建物の構成部材として用いた点にあることは,前記のとおりである。)。
サ また,被告は,大規模修繕は一定の間隔で行われることが一般的であるところ,大規模な修繕工事の周期にあわせて修繕工事の周期を集約させることが周知の事項といえるのであるから,刊行物1記載の「10年目,15年目,20年目,30年目,40年目の修繕・更新費用が突出する節目の年度」を,10年毎あるいは15年毎の間隔のものにそれぞれ分けて,これら各年毎に発生する大きな更新費用を,原告が主張する「基本的部材」に関するものであると認定することに何ら不都合はない旨主張する。
しかしながら,大規模修繕が一定の間隔で行われることが一般的であり,このような大規模修繕に合わせて小修繕を行うようにして修繕工事の周期を集約させることが周知であるとしても,前記のとおり,刊行物1において,更新時期は,@部材,機器の標準耐用年数に加えて,診断機能の結果である標準偏差が考慮されること,A設置後一定年数を経過した場合にはそれ以降の修繕サイクルが短縮されること,B一定のサイクルで全ての修繕を行うのではなく,ある一定の比率での修繕項目が発生すること,C予算の平準化を図るために一定の割合で実施時期をずらすことなどを考慮して設定されるのであって,一定の間隔で行われるとは限らないのであるし,また,刊行物1の図6(A)の集計グラフには,10年周期,15年周期に外れた時期にも,大きな更新費用を発生する時期が存在するのであるから,そうであれば,同グラフの10年周期,15年周期に発生する大きな更新費用が「付帯的部材」を含めた「基本的部材」に関するものであり,それ以外は,「基本的部材」に関するものではないと断定することはできない。
(3) 以上のとおり,本件審決は,補正発明と刊行物1記載の発明との一致点の認定を誤って前記相違点を看過し,この相違点について判断をしないまま,補正発明は刊行物1,2記載の発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとして,本件補正を却下したものであり,このことは本件審決の結論に影響を及ぼす誤りであることが明らかである。
2 結論 以上の次第で,原告主張の取消事由1は理由があるから,その余について判断するまでもなく,本件審決は取消しを免れない。
したがって,原告の本件請求は理由があるから,これを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 佐藤久夫
裁判官 嶋末和秀
裁判官 沖中康人