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関連審決 無効2009-800227
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事件 平成 21年 (ワ) 19013号 特許権に基づく製造販売禁止等請求事件
当事者の表示 別紙当事者目録記載のとおり
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2011/03/23
主文 1 原告らの請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は,原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1 被告株式会社カーボテックは,別紙物件目録記載1及び2の各物件を製造,販売してはならない。 2 被告株式会社カーボテックは,その占有する別紙物件目録記載1及び2の各物件をそれぞれ廃棄せよ。 3 被告協同組合カーボテック飛騨は,別紙物件目録記載3の物件を販売してはならない。 4 被告協同組合カーボテック飛騨は,その占有する別紙物件目録記載3の物件を廃棄せよ。 5 被告有限会社山下木材は,別紙物件目録記載3の物件を販売してはならない。 6 被告有限会社山下木材は,その占有する別紙物件目録記載3の物件を廃棄せよ。 7 被告株式会社成基は,別紙物件目録記載4の物件を製造し,マンション等の建造物に使用してはならない。 8 被告株式会社成基は,その占有する別紙物件目録記載4の物件を廃棄せよ。 9 被告らは,原告株式会社ナカタに対し,連帯して1億1677万3400円2 及びこれに対する平成21年7月9日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 10 被告らは,原告株式会社安田製作所に対し,連帯して1億1677万3 400円及びこれに対する平成21年7月9日から支払済みまで年5分の割合 による金員を支払え。 11 仮執行宣言
事案の概要
本件は,炭化方法についての特許権を共有する原告らが,?被告株式会社カーボテックが製造・販売する炭化装置(別紙物件目録記載1の物件)は,原告の特許に係る方法の使用のみ用いる物であって,原告らの特許権の間接侵害に該当し,?同被告が製造・販売する粉末活性炭(別紙物件目録記載2の物件)は,原告らの特許に係る方法により生産された物であるから,その販売は特許権の実施に該当し(特許法2条3項3号),?被告協同組合カーボテック飛騨は,被告株式会社カーボテックが販売する炭製品が原告らの特許権の侵害品であることを認識しながら,これを利用した炭製品(別紙物件目録記載3の物件)を販売して,原告らの特許権を侵害し,?被告有限会社山下木材は,前記炭製品(別紙物件目録記載3の物件)が原告らの特許権の侵害品であることを認識しながら,これを被告株式会社成基等に販売して,原告らの特許権を侵害し,?被告株式会社成基は,被告有限会社山下木材が販売する炭製品が原告らの特許権の侵害品であることを認識しながら,これを購入してセラミック炭ボード(別紙物件目録記載4の物件)を開発し,これを第三者に製造させ,自社開発のマンションに使用して,原告らの特許権を侵害しているとして,各被告に対し,それぞれ,特許法100条1項及び2項に基づき,前記第1の請求の1ないし8記載の各商品の製造又は販売の差止め及び廃棄を求めるとともに,?被告らによる原告らの特許権の侵害行為は共同不法行為に該当するとして,不法行為(民法719条,709条,特許法102条2項)に基づき,前記第3 1の請求の9及び10記載の損害賠償の支払(民法所定の年5分の割合による遅延損害金の起算日は訴状送達の日の翌日)を求める事案である。 1 争いのない事実等(争いのない事実以外は証拠等を末尾に記載する。) ? 当事者 ア 原告ら ? 原告株式会社ナカタ(以下「原告ナカタ」という。)は,機械,金属等の技術開発及び販売業務を目的とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 ? 原告株式会社安田製作所(以下「原告安田製作所」という。)は,精密板金加工販売及びプレス加工・レーザー加工等を業とする株式会社である(弁論の全趣旨)。 イ 被告ら ? 被告株式会社カーボテック(以下「被告カーボテック」という。)は,活性炭の開発・製造及び輸入・販売を業とする株式会社である。 ? 被告協同組合カーボテック飛騨(以下「被告飛騨」という。)は,組合員のためにするセラミック活性炭の共同加工事業及び共同施設等の運営並びに維持管理等を目的とする協同組合である。 ? 被告有限会社山下木材(以下「被告山下木材」といい,被告飛騨と併せて「被告飛騨ら」という。)は,セラミック炭の販売等を目的とする有限会社である。 ? 被告株式会社成基(以下「被告成基」という。)は,建築及び土木工事請負業等を目的とする株式会社であったイー・スペース株式会社(以下「イー・スペース」という。)を吸収合併した株式会社である(弁論の全趣旨)。 ? 原告らの特許権 ア 原告らは,次の特許権(以下「本件特許権」という。)を共有している4 (甲1,23。以下,本件特許権に係る特許を本件特許と,下記の請求項1に係る特許発明を「本件特許発明」と,本件特許に係る明細書を「本件明細書」といい,本件特許の特許公報を末尾に添付する。)。なお,本件特許権のうち,原告ナカタの持分については,特許登録時には株式会社ナカタ技研が保有していたが,平成16年5月20日にPに譲渡され,更に同20年3月4日に同人から原告ナカタに譲渡された(甲23)。 特 許 番 号 特許第3364065号 発明の名称 炭化方法 出 願 日 平成7年9月29日 出 願 番 号 特願平7-252462号 登 録 日 平成14年10月25日 特許請求の範囲 「【請求項1】可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし,該出発原料に水を添加し,もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し,該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して,該原料を,大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を,該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ,前記投入口側で乾燥させ,前記排出口側で,前記無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」 イ 本件特許発明構成要件に分説すれば,以下のとおりである(以下,各構成要件を,それぞれ「構成要件A」等という。) A 可燃物あるいは可燃物を含む材料を出発原料とし, B 該出発原料に水を添加し,もしくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し,該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混5 練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して, C 該原料を,大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を,該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ,前記投入口側で乾燥させ, D 前記排出口側で,前記無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させること E を特徴とする炭化方法。 ウ 本件特許の特許請求の範囲等の訂正 被告カーボテックは,本件特許の請求項1及び3につき特許無効審判を請求した(無効2009-800227。乙11。)ところ,原告は,本件明細書の訂正の請求(以下「本件訂正」という。)をした(甲66)。 これについて,特許庁は,平成22年10月27日付けで,本件明細書の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項5についての訂正を除いて訂正を認めるとともに,本件特許発明に係る特許を無効とする等の審決をした(乙16)。これに対し,原告は,審決取消訴訟を提起した(弁論の全趣旨)。 本件訂正のうち,本件特許の請求項1に係る部分は,次のとおりである。 ? 「反対方向から着火させ,」を「反対方向から,原料のガス成分に着火および燃焼させ,」と訂正する。 ? 「投入口側で乾燥させ」を「投入口側で原料を乾燥させ」と訂正する。 ? 「酸化を抑制しつつ」を「可燃物の酸化を抑制しつつ」と訂正する。 ? 被告らの行為 ア 被告カーボテックの行為 被告カーボテックは,別紙物件目録記載1?及び?の炭化装置を製造・販売し,同記載1?の炭化装置につき,自己が販売する炭化装置としてホームページや炭化装置の概要資料等に記載して,販売の申出をしている6 (同記載1?の炭化装置につき,甲7,54。ただし,その製造・販売実績の有無については,争いがある。以下,別紙物件目録記載1?ないし?の炭化装置を「被告カーボテック装置」という。)。また,被告カーボテックは,別紙物件目録記載2?の商品(以下「セラミック炭」という。)を基にして,別紙物件目録記載2?の商品(以下「ハイモックス」という。)を製造・販売している(ハイモックスにつき,セラミック炭のほかに副剤が添加されているか否かについては,争いがある。)。 イ 被告飛騨らの行為 被告飛騨は,別紙物件目録記載3?ないし?(以下「被告飛騨ら商品」という。)を製造し,被告山下木材は,その製造・発売元として,被告飛騨ら商品を販売している(甲13)。 ウ 被告成基の行為 被告成基は,吉野石膏株式会社にセラミック炭(ただし,被告カーボテックが製造したものか否かは争いがある。)を使用した別紙物件目録記載4の商品(以下「セラミック炭ボード」という。)を製造させて,OEMの形で供給させている。 そして,被告成基は,同被告がデベロッパーとして関与したマンション「グランエスパス御所東」(平成19年10月竣工),「アバンエスパス烏丸御池」(同月竣工)及び「アバンエスパス鴨川」(同年12月竣工)において,1棟あたり約4000枚のセラミック炭ボードを使用した。 2 争点 ? 被告カーボテックによるセラミック炭の製造方法(以下「被告製造方法」という。)が本件特許発明技術的範囲に含まれるか。 被告製造方法においては,可燃物である原料の表面が無機質粘結材で被覆され,そのことによって酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させているか(構成要件B及びDの充足性)。 7 ? 被告カーボテックの本件特許権の侵害について ア 被告カーボテック装置の製造・販売による本件特許権の間接侵害の成否 イ ハイモックス及びセラミック炭の販売による本件特許権の侵害の成否 ? 被告飛騨ら及び同成基の本件特許権の侵害について ア 被告飛騨らは,被告カーボテックから購入したハイモックスを使用して被告飛騨ら商品を製造し,これを販売しているか。 イ 被告成基は,被告カーボテックが製造したセラミック炭を使用してセラミック炭ボードを製造しているか。 ? 本件特許権の消尽 ア 被告カーボテックが使用する炭化装置は原告らが製造・販売したものであって,本件特許権はこれにより消尽しているか。 イ 被告飛騨が使用する炭化装置は原告らが製造・販売したものであって,本件特許権はこれにより消尽しているか。 ? 本件特許は特許無効審判により無効にされるべきものか。 ア 本件特許は,特許法29条1項柱書,36条4項1号及び同条6項2号に違反するものか。 イ 本件特許発明は,特許第3272182号に係る発明と同一の発明であって,特許法39条1項に違反するものか。 ウ 特開昭51-148701号公報(以下「701号公開公報」という。)等に基づく本件特許発明進歩性の欠如の有無 エ 本件訂正により本件特許の無効理由が解消するか。 ? 共同不法行為の成否及び原告の損害 ? 被告らによる販売行為等の差止めの要否
争点についての当事者の主張
1 争点?(被告製造方法が本件特許発明技術的範囲に含まれるか)について (原告らの主張) 8 ? 被告製造方法 被告製造方法の構成を分説すれば,次のとおりである(以下,各構成を「被告製造方法a」等という。)。 a 木質チップを原料とし, b 原料にベントナイトを混合し,原料表面の水分状況を確認して,原料表面が手で触ってヌルヌルする程度となるよう水を噴霧し, c 原料を,大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉に投入し,原料の送り方向とは反対方向から着火バーナーを点火させ,原料に着火及び燃焼させ, d 前記炭化炉内の排出口側で原料を炭化させることを特徴とする炭化方法。 ? 被告製造方法構成要件充足性構成要件Aについて 被告製造方法aは,原料として木質チップを用いているところ,これは構成要件Aの「可燃物」に該当するから,構成要件Aを充足する。 イ 構成要件Bについて 被告製造方法bにおいて,原料表面が手で触ってヌルヌルする程度になるということは,原料表面がベントナイトに被覆されていることにほかならない。そして,ベントナイトによる被覆が不完全であれば,原料が表面燃焼してしまい,原料は炭化しないから,表面全体がベントナイトで被覆されるようにしたものであって,被告製造方法bは,構成要件Bを充足する。 ウ 構成要件Cについて 投入口に投入されたばかりの原料は,水分を含むものであるから,当該原料には着火されず,炭化炉中を排出口側に向けて搬送される途中で高温となっている原料に着火するものであることは自明である。また,炭化炉中の高温は,投入口側まで次第に及ぶものであるから,原料が投入口側で9 次第に乾燥され,搬送される途中で着火状態に至ることも明白である。 そして,原料を炭化するためには,原料への酸素の供給が遮断され,又は不完全な状態で加熱する必要があるところ,被告製造方法における炭化炉は大気に開放されているのであるから,原料への酸素の供給の遮断は,原料を覆っているベントナイトの層が担っている。 また,原料が直接燃焼すれば,炭化されず,灰になってしまうことから,被告製造方法における原料への着火及び燃焼は,原料から発生する分解生成ガスに着火し,これが燃焼する分解燃焼である。 このように,炭化した原料の表面がベントナイトで覆われているから,焼成物そのものは難燃性の物となる。 したがって,被告製造方法cは,構成要件Cを充足する。 エ 構成要件Dについて 被告製造方法dは,前記イ及びウのとおり,原料の周囲にベントナイトが被覆されていることにより焼成して炭化させている以上,構成要件Dと同一であって,構成要件Dを充足している。 オ 小括 以上のとおりであるから,被告製造方法は,本件特許発明技術的範囲に含まれる。 ? 被告らの主張について ア 被告らが主張する被告製造方法について 被告らは,被告製造方法につき,後記(被告らの主張)?アの混合原料を「燃焼」させ,完全に「燃焼」しきらなかった部分が炭化するとして,混合原料の「燃焼」が炭化の前提条件であると主張しているところ,これは,表面燃焼によって炭化させる旨の主張と解される。 しかしながら,表面燃焼すると,炭素が,二酸化炭素となってしまい,固体として残存せず,炭化することはないから,被告らの前記主張は,燃10 焼と炭化に関する化学的な関係を無視するものであり,自然法則に反した主張である。 イ 原料がベントナイトによって被覆されていないとの被告らの主張について ? 被告カーボテックは,セラミック炭が「超難燃性(燃えない)」を有していると説明している(甲32)ところ,セラミック炭が超難燃性を有するのは,生成物がセラミック層でコーティングされているからである。そして,被告カーボテックが被告カーボテック装置を納入した自治体が作成した資料(甲33ないし35)や,被告カーボテックが被告カーボテック装置を製造させていた会社が作成したパンフレット(甲36)においても,セラミックの膜で被覆することや,セラミックでコーティングするという言葉が使用されている。 仮に,被告らが主張するとおり,原料がベントナイト等の粘土鉱物で「被覆」されておらず,「付着」の状態にすぎないのであれば,セラミック層でコーティングされることはあり得ず,また,原料を炭化させるに際し,可燃物の大部分は灰になってしまって,歩留まりが悪く,極めて効率の悪い炭の製造方法となってしまう。そして,一部炭化するものがあったとしても,炭の表面はセラミック層にコーティングされず,炭化物表面が露出しているため,それを再度加熱すれば,再び表面燃焼を生じるものと考えられ,「超難燃性」を有することとは相容れない。 したがって,被告カーボテックが,被告らが主張するような炭化方法を実際に実施しているというのは,不自然かつ不合理である。 ? 被告カーボテックの代表者であるQほか1名が取得した特許(特許第3037688号)の特許公報(甲3)においては,可燃物をベントナイト等で「被覆」させることを強調し(請求項1),また,炭素表面にセラミックス層が形成された焼成体を製造する工程として,可燃性有機11 物とベントナイト等の粘土鉱物を混練機により混練する旨の記載がある(段落【0015】)。 したがって,原料がベントナイトに被覆されていないとの被告らの主張は,当該特許公報において示された被告カーボテックの代表者らの認識と矛盾している。 ? 仮に,被告カーボテックが,可燃物に無機質粘結材を「被覆」させるのではなく「付着」させ,可燃物を表面燃焼させつつ炭を作っているのであれば,ベントナイトのように,膨潤性が高く,水になじみやすい性質を有し,「被覆」させるのに適している物質を使用するのは,不自然かつ不合理である。 そして,ベントナイト粒子の大きさは,0.005〜0.2μm程度にすぎないところ(甲37),通常の光学顕微鏡で見分けることができるのは0.24μmが限界であるとされている(甲38)。したがって,光学顕微鏡でベントナイト粒子を判別することは不可能であるから,写真撮影報告書(乙10)の添附写真をもって,ベントナイトが「被覆」ではなく「付着」している状態にあるということはできない。 また,被告らが主張する木質チップ等1?当たり50?というベントナイトの混合量は,木質チップの重量の約10%に当たるところ,これは,原告らがセラミック炭を生成する場合のベントナイトの添加割合と同量であって,ベントナイトを木質チップの表面に被覆させるのに十分な量である(乙12の1参照)。 (被告らの主張) ? 被告製造方法について 被告製造方法は,以下のとおりである(乙1,2)。 ア 原料混合工程 ? 攪拌羽根の回転によって混合させる混合機に,廃木材,籾殻及び食品12 残滓等の有機性廃棄物であって,個体の大きさを1?程度以下に破砕したもの(以下「木質チップ等」という。)を投入し,これにベントナイト(粉末状態のもの。木質チップ等1?当たりベントナイト50?。)を加えて,約5分間,攪拌混合する。 ? 前記?の攪拌混合工程において,原料の表面が触手でヌルヌルした感触になる状態まで,適宜,水を噴霧して木質チップ等の粒子の表面にベントナイトの粒子が付着した状態にする(以下,木質チップ等にベントナイトを攪拌混合されたものを,「混合原料」という。)。 イ 開放型回転式キルンへの投入 混合原料は,順次,混合機から送り出されて搬送コンベヤに移送され,当該コンベヤにより,開放型回転式キルン(炉)の投入ホッパーに投下される。 投入ホッパーに投入された混合原料は,ホッパー下部に設けられたスクリューコンベヤにより,回転式キルンに順次送り出される。キルンは,それ自体回転し,かつ,キルン内面に螺旋状に送り羽根が設けられているので,キルンの回転による羽根の押出力により,キルン内部では,キルンの投入口から排出口へ向けて,混合原料が移動する(キルンの投入口から排出口までの混合原料の移動時間は,約10分から15分程度である。)。 ウ 炉の温度上昇及び混合原料の燃焼 炭化炉の排出口側に設けられたバーナーを炭化炉の供給口側に向けて点火して,混合原料が自己燃焼することが可能となる温度まで炉内を高温化し(予熱。予熱時間は,夏場であれば約30分間,冬場であれば約1時間である。),送り出されてくる混合原料の先頭が,キルン中央部付近で着火して燃焼し始めるとバーナーを消火し,その後は順次送り出されてくる混合原料への自然延焼に委ねる。 エ 炭化 13 キルンは,長尺の筒状のため(被告カーボテック装置中,NS-300型はキルン内径70cm×長さ4.5m,NS-500型はキルン内径70cm×長さ8mである(甲7)。また,後記の被告カーボテック京都工場に設置した炭化炉は,キルン内径71cm×長さ9.7m(乙5)である。),キルンの排出口付近には空気(酸素)が十分に存在するものの,キルンの中央部においては,混合原料が完全に燃焼しきるだけの酸素が得られないので,混合原料はキルンの中央部付近で燃焼するものの完全に燃焼(酸化)せずに炭化し,その状態で,混合原料がキルン下流に移動すると,混合原料にベントナイトが付着していること,あるいはキルン下流付近では外気に触れること等から温度が下がり,自然鎮火してキルンの排出口から排出される。 ? 被告製造方法構成要件B及びDの充足性 ア 被告製造方法では,木質チップ等とベントナイトとを「混合」するが「混練」しないし,木質チップ等の粒子の表面にベントナイト粒子が「付着」した状態にはなるが,「被覆」された状態とはならない。 ? 「混合」とは,異なった種類の粉粒体を乾いた状態又はごく少量の液体成分が入った状態で混ぜ合わせ,組成について,一様均質な状態を得ることとされる(乙3)。他方で,「混練」とは,本件においては,粉体と液体バインダとを練り合わせ,粉体表面に液体バインダがコーティングされる状態を指すものである(乙3)。 ? また,「被覆」,すなわちコーティングとは,芯になる粉粒体の表面に被膜ができる状態を指す(乙3)。 そして,不定形で凹凸が著しい木質チップのような物体に,ベントナイト粉体を混合し,水を噴霧したとしても,木質チップの表面を完全にベントナイトで被覆することは不可能である。また,混合するベントナイトの分量も,木質チップの表面をすべて覆い尽くせる分量ではない。
14 さらに,投入口側での乾燥工程を経た木質チップの表面が,ベントナイトで完全に被覆した状態となっていることは,技術常識的にあり得ない。 実際に,被告製造方法における出発原料へのベントナイトの付着状況は,完全に被覆されたといえるものではない(乙10)。 イ そして,木質チップへの原料の付着状態は前記アのとおりであるから,被告製造方法において,「ベントナイトが被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成」されるということもない。 ウ 原告らの主張について ? 原告らは,被告カーボテックの代表者の他の特許や,被告らのホームページの記載等を問題とするが,特許権侵害といえるためには,現実にどのような方法が用いられているかが問題なのであって,木質チップに対するベントナイトの存在状態に基づいて主張すべきである。 ? 原告らのベントナイトの粒子の大きさに関する主張は,一次粒子の状態におけるベントナイトの粒径に基づくものであるところ,常温常湿の大気中では,微粒子は凝集して二次粒子の状態で存在しているから,原告らの主張は失当である。 ? その他の構成要件の充足性 木質チップが可燃物に該当することは認める。 2 争点?(被告カーボテックの本件特許権の侵害)について (原告らの主張) ? 被告カーボテック装置の製造・販売による本件特許権の間接侵害 ア 本件特許発明は,物を生産する方法についての発明であるところ,被告カーボテック装置は,本件特許発明の炭化方法の使用のみ用いる物である。 したがって,被告カーボテックが,これを業として製造・販売することは,本件特許権の間接侵害(特許法101条4号)に該当する。 15 イ なお,被告カーボテックは,別紙物件目録記載1?の炭化炉につき,製造・販売の実績はないと主張するが,同炭化炉が具体的に製造・設置されたことを前提とする図面(甲69)が存在している。 ? ハイモックス及びセラミック炭の販売による本件特許権の侵害 セラミック炭は,本件特許発明に係る炭化方法によって生産された物であり,また,ハイモックスは,セラミック炭を微粉砕したものにすぎないから,その販売行為は,本件特許権を侵害する(特許法2条3項3号)。 (被告らの主張) ? 被告カーボテック装置の製造・販売による本件特許権の間接侵害について ア 被告カーボテックは,別紙物件目録記載1?の炭化炉につき,製造・販売の実績はない。原告らは,図面(甲69)の存在をもって販売実績があると主張するが,商品としてラインアップしている以上,図面があるのは当然であって,当該図面の存在をもって販売実績があることの根拠とはならない。 イ ロータリーキルン式の炭化装置は,汎用性のある公知物件であるから,本件特許発明の炭化方法の使用のみ用いる物ではない。 ? ハイモックス及びセラミック炭の販売による本件特許権の侵害について 被告カーボテックによる炭化方法は本件特許権を侵害しないから,これによって得られたセラミック炭及びこれに副剤を添加する等したハイモックスを販売することも,本件特許権を侵害しない。 そもそも,セラミック炭については,客観的に特定されていない。 3 争点(被告飛騨ら及び同成基による本件特許権の侵害)について (原告らの主張) ? 被告カーボテックは,ハイモックス及びセラミック炭を被告飛騨に販売しており,被告飛騨は,ハイモックス及びセラミック炭が本件特許権を侵害していることを認識しながらハイモックス及びセラミック炭を購入し,これを16 被告飛騨ら商品として被告山下木材に委託して販売しているところ(甲13),その販売行為は本件特許権を侵害するものである。 ? 被告山下木材は,ハイモックス及びセラミック炭が本件特許権を侵害していることを認識しながら,被告飛騨ら商品を被告成基等に対して販売しているところ,その販売行為は本件特許権を侵害するものである。 ? 被告成基は,セラミック炭が本件特許権を侵害していることを認識しながら,被告山下木材からセラミック炭を仕入れた上で,セラミック炭ボードを製造して,自社開発のマンションに使用しており,当該行為は,本件特許権を侵害するものである。 被告成基が,セラミック炭の製造が本件特許権を侵害することを認識していたことは,平成18年7月ころ,イー・スペースの当時の代表者が,本件特許発明発明者であり,本件特許権の当時の共有権者であるPを訪れ,セラミック炭ボードの製造に関して本件特許権に係る発明の実施の許諾を得たいとの申入れを行ったことから,明らかである。 ? 被告飛騨が被告カーボテックからハイモックス及びセラミック炭を購入しているとする理由 ア 原告安田製作所が被告飛騨に納入した炭化炉は,既に耐用年数を経過しており,実際に,原告ナカタの関係者が平成20年1月及び同21年4月に現地を調査した際には,炭化装置のうちの1台は停止している状態であった(甲24)から,被告飛騨は,販売するセラミック炭に関する各種製品を生産する能力は有していないと考えられる。 また,ハイモックスのチラシ(甲9)によれば,被告飛騨がハイモックスの「東日本エリア担当メーカー」とされている(被告らの主張によれば,東日本向けのハイモックスの主剤を製造している)ところ,被告飛騨が,それに対応した大量のハイモックスを生産しているとは考え難い。 これに対し,被告カーボテックは,被告飛騨に供給するだけの生産能力17 を有している。 したがって,被告飛騨は,被告飛騨ら商品及びハイモックスの製造に見合うだけのセラミック炭の生産能力があるとは考えられず,被告カーボテックが生産したセラミック炭を購入していると合理的に考えられる。 イ 被告山下木材は,岐阜県郡上市に対し,被告カーボテックのハイモックスを納入しており(甲59の2),被告山下木材は被告飛騨の販売部門であることからすれば,被告飛騨が被告カーボテックからハイモックスを購入しているということができる。 (被告らの主張) 被告カーボテックは,被告飛騨に対して,セラミック炭やハイモックスを販売したことはない。 なお,ハイモックスのチラシ(甲9)に「東日本エリア担当メーカー」として被告飛騨が記載されているのは,東日本エリア向けのハイモックスの主剤製造者が被告飛騨であることを指すものである。 (被告飛騨らの主張) 被告飛騨は,被告カーボテックから,セラミック炭やハイモックスを購入したことはなく,したがって,これを被告飛騨ら商品として被告山下木材に委託販売し,同被告がこれを被告成基等に販売したこともない。なお,被告飛騨は,同山下木材を通じて,セラミック炭を被告カーボテックに販売している。 (被告成基の主張) ? 被告成基による本件特許権の侵害については,否認する。被告飛騨は,被告カーボテックが製造した製品を購入したことはなく,したがって,被告成基がマンション建設に使用したセラミック炭ボードには,被告カーボテックが製造したセラミック炭は用いられていない。 被告カーボテックが製造する活性炭は,廃木材,籾殻,食品残滓,農業系廃棄物,有機汚泥等の有機性廃棄物をリサイクルするところにその意義があ18 る(甲7,8)ところ,被告成基が製造するセラミック炭ボードは,高級マンションに用いる建材として健康や住環境改善等に配慮するところにその商品価値があるから,被告カーボテックが製造する活性炭は,被告成基がその原料として求めるものとはかけ離れている。 ? 仮に,被告カーボテックが被告飛騨に対しセラミック炭を販売しているとしても,そのことと,同じセラミック炭を被告山下木材が同成基に販売していることとは,別の問題である。 ? 原告の主張について イー・スペースの当時の代表者が,Pを訪れ,セラミック炭ボードの製造に関して本件特許権に係る発明の実施の許諾を得たいとの申入れを行ったことはあるが,これは,生産量を増やすために新たに炭化炉を製造する計画があったからである。しかしながら,結局,当該計画は実現せず,炭化炉の製造は行っていない。 4 争点?(本件特許権の消尽)について (被告らの主張) ? 被告カーボテックが使用する炭化装置が原告らが製造・販売したものであることに基づく本件特許権の消尽 ア 被告カーボテックがセラミック炭を製造している装置は,被告カーボテックの京都工場(京都市伏見区<以下略>所在)に設置し,稼働させている炭化炉である。そして,この炭化炉は,原告らが,平成10年3月ころに,原告らが他社と共同で設立した株式会社ジェイ・シー・シーと商社であるニチメン株式会社を通じて,株式会社かみむらに対して販売した装置が,西日本セラテック株式会社(以下「西日本セラテック」という。)に譲渡され,更に同社から被告カーボテックに平成15年10月18日に譲渡されたものであって(乙4ないし6),原告ら(少なくとも原告安田製作所)が製造・販売した装置である。 19 そして,原告らは,株式会社ジェイ・シー・シーをして,本件特許発明の方法が通常想定される当該炭化炉の使用方法であるにもかかわらず,何らの使用上の制限も付さずに,当該炭化炉を販売している。 なお,被告カーボテックは,当該炭化炉以外に,被告カーボテック装置を使用して,ハイモックスの原末(主剤)を製造しているものではない。 イ そして,被告カーボテックが製造するセラミック炭又はハイモックスは,原告らが販売した前記の炭化炉を通常の使用方法で使用して製造しているものであるから,本件特許権は既に消尽している(又は,本件特許発明の黙示の実施許諾があったということができ,更には,このような原告らの特許権の行使は,特許権の濫用に該当する。)。 ? 原告らの主張について ア 原告らは,被告カーボテックが西日本セラテックから購入した装置の名称を問題にする。しかしながら,西日本セラテックが原告ら製の「JCC-H型」に「NS-500型」という自社の型番を付して被告カーボテックに販売したのは,炭化装置自体は原告ら製の「JCC-H型」であるが(乙14),その周辺装置に自社製造の装置を配したからであり,それも含んだ全体の名称として,固有の型番を付したものである。 また,原告らは,被告カーボテックが,被告カーボテック装置を自ら製造・販売しながら,原告らの製品の中古製品を購入するとは考えられないと主張する。 しかしながら,資金が潤沢ではないベンチャー企業においては,中古機で賄い得るものはそれで賄うというのが常道であり,より高額の資金を投入して新品の装置を調達する必要はないから,何ら不自然な点はなく,むしろ,経済合理性にかなった自然な商取引(設備投資)である。 イ 原告らは,原告らが販売した炭化炉の耐用年数は5,6年であって,これをメンテナンスした装置は,別の装置になると主張する。 20 しかしながら,当該炭化炉のような高額の装置の耐用年数がそのように短期なわけがなく,また,炭化炉の基本的構成は比較的単純なものであるから,これをメンテナンスして継続使用したところで,別の装置になるということはあり得ない。 (被告飛騨らの主張) ? 被告飛騨は,平成9年8月7日,株式会社日比野染工場(以下「日比野染工場」という。)からセラミック炭化炉プラント一式を購入した。 ? 被告飛騨は,当該セラミック炭化炉につき,自身又は岐阜県高山市内の業者において補修やメンテナンスを行っており,2台の炭化装置が稼働中である。 (被告成基の主張) 被告成基が購入しているセラミック炭は,被告飛騨が,平成8年ころ,日比野染工場に発注し,原告安田製作所が製造して日比野染工場に納品し,更に日比野染工場が被告飛騨にこれを納品した本件特許に係る炭化炉を用いて生産した物である。 したがって,原告らの本件特許権は,被告飛騨に当該炭化炉を売却したことで消尽している。 (原告らの主張) ? 方法の特許の消尽について ア 物の特許につき消尽を認めた最高裁平成7年?第1988号同9年7月1日第三小法廷判決・民集51巻6号2299頁は,消尽の根拠として,?譲受人は譲渡によって目的物について有するすべての権利を移転し,譲受人は譲渡人が有していたすべての権利を取得すること,?特許権者が二重の利得を得ることを認める必要性はないことを挙げるが,このうち,?の理由は,方法の特許については,当てはまらない。また,?の理由も,原告らは,炭化炉を販売するだけで,当然に方法の特許についての対価を21 含めた譲渡代金を取得しているわけではない。 したがって,方法の特許である本件特許権については,炭化炉の譲渡による消尽は認められないと解すべきである。 イ 仮に,原告らが,炭化炉の販売に当たって,販売先に対し,本件特許発明実施を許諾していたとしても,当該炭化炉の転売先である被告カーボテックに対しては何らの許諾も与えていないから,被告カーボテックが本件特許発明に係る炭化方法を使用してハイモックス及びセラミック炭を製造することは,本件特許権を侵害するものである。そして,原告らが知らない転得者に対して本件特許権を行使することは,権利濫用とはならない。 また,被告飛騨の有する炭化炉のうち少なくとも1台については,原告らが本件特許発明実施を許諾したと考える余地はある。しかしながら,当該炭化炉の耐用年数は最大で5年であり,現時点でも被告飛騨が当該炭化炉を使用しているとすれば,被告飛騨は炭化炉を再生産して使用しているということになり,本件特許発明実施許諾の効力は既に失われているというべきである。 ウ 仮に,方法の特許につき消尽が認められるとしても,被告カーボテック及び同飛騨が使用すると主張する原告安田製作所が製造した炭化炉の耐用年数は,3ないし5年であるから,被告カーボテック及び同飛騨が現在もこれを使用しているとすれば,炭化炉の本体部分である筒状炉を交換する等していることは明らかである。そして,それによって特許製品と同一性を欠く特許製品が新たに製造されたもの(最高裁平成18年?第826号同19年11月8日第一小法廷判決・民集61巻8号2989頁参照)と認められるから,本件特許権の消尽は認められない。 ? 被告カーボテックが使用する炭化装置について ア 原告らがニチメン株式会社等を通じて炭化装置を製造・販売し,これを西日本セラテックが保有していたことは認める。 22 しかしながら,被告カーボテックの京都工場にある炭化装置は,その外観等(甲39,乙9)からみて,原告らが製造した炭化装置ではなく,被告カーボテック装置中のNS-500型であると考えられる。 イ 被告らは,被告カーボテックが西日本セラテックから購入した装置の名称は「NS-500型《JCC-H型》」であるとするが,NS-500型は被告カーボテック装置の型番であり(甲7,40,丙2),他方,JCC-H型は原告安田製作所が製造した炭化炉の型番であって(甲41),両方の型番を同時に称することは考えられない。 そして,自社の製品として被告カーボテック装置を自ら製造・販売する被告カーボテックが,わざわざ原告らの製品であり,かつ,製造から5年半以上も経過した中古製品を購入するとは考えられない。また,被告カーボテックが支払っている固定資産税等の額や京都工場への投資額に照らしても,被告カーボテックの炭化装置の購入額が1880万円(乙4の1)というのは信用することができない。 ウ さらに,被告カーボテックのハイモックスの納入実績等に照らして,被告カーボテックが,京都工場のみで,そのすべてを生産しているということはできない。 ? 被告飛騨が使用する炭化装置について 原告安田製作所は,平成7年11月に日比野染工場に対し,平成9年から平成10年にかけて被告飛騨に対し,炭化炉を販売し納入している。しかしながら,これらの炭化炉は,既に納品してから11ないし14年もの長期間が経過し,当該炭化炉を製造した原告安田製作所による適切な補修がなされていないことから,既にその耐用年数を超えていると考えられる。 5 争点?ア(無効理由?:特許法29条1項柱書,36条4項1号及び同条6項2号違反)について (被告らの主張) 23 ?ア 本件特許発明では,可燃物を無機質粘結材で「被覆」した状態にしなければならない。そして,「被覆」とは,被膜等を形成して覆い被せることをいうところ,ベントナイト等の無機質粘結材は鉱物であって,それ自体不燃物であるから,可燃物が不燃物によって被覆されていれば,必然的に可燃物と酸素との接触の可能性が失われ,燃焼し得ない状態となる。 したがって,ベントナイト等の無機質粘結材で「被覆」された状態では,可燃物といえども「着火」しないことは,当然の事理である。 それにもかかわらず,本件特許発明は,炭化炉の中途部分で原料に着火,すなわち,原料を燃焼させることで炉内を高温にして,原料を炭化させようとするものであって,クレーム自体が自然法則に反し,化学的に矛盾した内容を内在し,かつ,これを解決する構成・手法が一切記載されていないから,技術思想としては,意味不明であり,実施不可能である。 また,鉱物であるベントナイト等の無機質粘結材が可燃物に「被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成」するということも,それ自体矛盾をはらみ,自然法則からしてあり得ないことである。 イ これに対し,原告らは,本件特許発明においては,熱分解によるガスの生成による分解燃焼が生じていると主張する。 ? しかしながら,熱分解により生じたガスが無機質粘結材粒子間の間隙から外部に噴出したり,無機質粘結材粒子同士の焼結による被膜に亀裂が生じて内部のガスが外側へ噴出したりすると,コーティングや被膜が崩壊する。 また,本件特許発明においては,可燃物が高温になって熱分解(熱分解工程)を始める前の段階には,温度上昇に伴って可燃物が乾燥する段階(乾燥工程)があり,その段階において,木質チップ等の可燃物内部の水分が水蒸気となって外部に噴出されるから,被膜は,既にその段階において崩壊しており,被膜されたままの状態で乾燥工程を経て熱分解24 工程に達して,炭化されるに至ることはあり得ない。 そうすると,いずれにせよ原料中の可燃物表面への酸素の拡散・接触が抑制されることはなくなり,本件特許発明中の「無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成」することは,自然科学的には起こりえないことである。 ? また,本件特許のクレームにはガスが燃焼される工程は全く記載されておらず,本件明細書の記載を参酌しても,クレームの語義を当業者が把握することができないものである。 ? よって,本件特許は,特許法29条1項柱書違反,36条4項1号違反及び同条6項2号違反の無効理由(特許法123条1項2号,4号)があり,特許無効審判により無効にされるべきものであるから,被告らに対し,本件特許権を行使することはできない。 なお,これらの無効理由が存在しないこと(特許要件を具備していること)の立証責任は,特許権者である原告らが負担すべきものである。 (原告らの主張) ? 被告らは,可燃物を無機質粘結材で被覆(コーティング)して加熱した場合には,可燃物と酸素との接触の可能性が失われ,燃焼し得ない状態となるから,本件特許発明自然法則に反するなどと主張している。 しかしながら,本件特許発明は,出発原料である可燃物から発生する可燃性のガスが,表面に被覆されている無機質粘結材粒子間の間隙又は可燃性ガスの生成によって生ずる被膜の亀裂部分から外部に噴出して,外部の酸素と反応して燃焼することによって生じる「分解燃焼」を発生させると,その後,原料から生ずる可燃性のガスによって「分解燃焼」が継続する状態となり,それにより発生する熱を利用しつつ,逆に,可燃物を無機質粘結材により被覆して炭素部分の「表面燃焼」を防ぐことによって可燃物を「炭化」させ,その炭化物の収率を高めることができるという炭化方法であって,自然法則25 に反したり,化学的に矛盾するものではない(甲30)。 そして,原料のガス成分に着火させることは,本件明細書(段落【0018】及び【0021】)に記載されており,本件特許発明にいう「着火」が分解燃焼の範疇に入ることは,特許請求の範囲の記載や本件明細書の記載を参酌すれば理解することができるから,特許法36条4項1号及び同条6項2号に反するものでもない。 ? また,被告らは,内部のガス等が噴出すれば,被膜が崩壊すると主張するが,たとえ内部のガスが噴出する亀裂や隙間があっても,酸化を抑制しつつ原料を炭化する程度に被覆されていればよいから,被覆には相違ない。 ? したがって,本件特許には,特許法29条1項柱書違反,36条4項1号違反及び同条6項2号違反の無効理由は存在しない。 6 争点?イ(無効理由?:特許法39条1項違反)について (被告らの主張) ? 本件先願発明の内容 本件特許の出願日(平成7年9月29日)よりも前に出願された特許第3272182号(平成7年2月2日出願)の請求項1に係る発明(以下「本件先願発明」という。)は,以下のとおりである(乙12の1。以下,下記のaないしdの構成を,それぞれ「本件先願発明a」等という。)。 a 粉末状若しくは粒状をなす,可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし, b 該出発原料に水分を添加し,若しくは添加しないで出発原料の水分量を所要量に調整し,該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して, d 該原料を成形することなく, c ロータリーキルン中にて酸素雰囲気中で炭化物に焼成する ことを特徴とする炭化物の製造方法。 26 ? 本件先願発明と本件特許発明との対比 ア 構成要件Aについて 本件明細書には,出発原料に含まれる可燃物の例として,粉末状,粒状の固体が挙げられているから(段落【0024】),本件特許発明の出発原料には粉末状又は粒状をなすものが含まれる。 そうすると,本件特許発明の出発原料は,下位概念である本件先願発明aの出発原料を上位概念で表現したにすぎないから,構成要件Aの出発原料と本件先願発明aの出発原料は,実質的に同一である。 イ 構成要件Bについて 本件特許発明構成要件Bと本件先願発明bは,全く同一である。 ウ 構成要件C及びDについて 本件先願発明cにつき,ロータリーキルンが密閉されていれば,その内部が酸化雰囲気にはなり得ないことから,当該ロータリーキルンは,「大気に開放されている」はずである。 そして,本件特許発明の「炭化炉」につき,原告ら自身が,回転式のロータリーキルンであると主張しているから,構成要件C及びDと本件先願発明cとは,その構成において実質的に同一であるといえる。 エ 本件特許の特許請求の範囲の請求項1には,出発原料を焼成する際に「該原料を成形する」と記載されていないから,本件特許発明も本件先願発明dを備える。 オ したがって,本件特許発明は,本件先願発明の構成要件のすべてを充足し,両者は互いに同一であるから,本件特許は,特許法39条1項に違反してされたものであって,特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告らの主張) 構成要件Cでは原料に着火させており,この「原料に着火させる」とは,原27 料のガス成分に着火させることを意味するところ,このような構成は,本件先願発明cには何ら記載されていない。また,構成要件C中の,原料を「炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ,前記投入口側で乾燥させ」ることは,本件先願発明には記載されていない構成である。さらに,ロータリーキルンといっても,様々な種類がある。 したがって,本件特許発明構成要件Cと本件先願発明cとは,全く相違しているから,本件特許発明と本件先願発明とが同一の発明であるということはできない。 7 争点?ウ(無効理由?:701号公開公報等に基づく進歩性欠如)について (被告らの主張) ? 先行文献の記載 701号公開公報(昭和51年12月21日発行。乙12の3。),特開昭57-111380号公報(昭和57年7月10日発行。乙12の4。以下「380号公開公報」という。),特開昭51-26627号公報(昭和51年3月5日発行。乙12の6。以下「627号公開公報」という。)及び特開平6-42876号公報(平成6年2月18日発行。乙12の7。以下「876号公開公報」という。)は,いずれも本件特許の出願日(平成7年9月29日)の前に頒布された刊行物であるところ,これらの刊行物には,以下の記載がある。 ア 701号公開公報は,ロータリーキルンにて炭化処理して粒状化したパルプ廃滓をコークス代用成分として配合使用した固形燃料に関するものであり,パルプ廃滓に,ベントナイトをあらかじめ添加し,ロータリーキルンで炭化処理する方法が記載されている(2頁左上欄16行〜右上欄1行)。また,パルプ廃滓は,あらかじめ圧搾プレス処理してケーキ状に脱水したものをロータリーキルンに装入し,挿入口から20m部位までは乾28 燥域と想定し,キルン内壁にかき上げ羽根を取り付けるのが好ましいと記載されている(1頁右欄16行〜20行)。さらに,炉に装入されたパルプ廃滓の脱水ケーキは,高温多湿雰囲気下で乾燥-炭化反応が進むことが記載されている(2頁左上欄1行〜3行)。 イ 380号公開公報は,有機質原料と転化触媒を混合し,空気を遮断して加熱することにより固体状炭含有残渣を得る方法に関するものであり,有機質出発原料(植物塊,排水浄化設備の活性汚泥,沈積汚泥,腐敗汚泥,家庭廃棄物又は工業廃棄物等)を,Al2O3(ベントナイトの組成成分),モンモリロナイト(ベントナイトの主成分)等の転化触媒と混合し,空気遮断下で加熱することにより固体状炭等を得る方法が記載されている。 ウ 627号公開公報は,パルプ廃滓を炭化処理する方法に関する技術思想が記載されているものであり,「このロータリーキルンは通常広くセメント工業,アルミ製錬などや海綿鉄の製造,鉱石の焼結に使用されている形式のものとほとんど同様」である等と記載されている(2頁右上欄12行〜左下欄5行)。 エ 876号公開公報は,「大気に開放された炉部」及び原料を「炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口へ送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ」る構成が当業者によく知られたものであることを示している。 ? 本件特許発明と先行発明との対比 ア 本件特許発明と701号公開公報に記載された発明(以下「701号発明」という。)とを対比すると,両者は,出発原料が可燃物又は可燃物を含む材料である点及び出発原料の水分量を所要量に調整する点で一致している。しかしながら,?701号発明では,出発原料にあらかじめベントナイトを「添加」しているのに対し,本件特許発明では,出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を被覆している点,29 及び,?701号発明では,出発原料をロータリーキルンで炭化処理しているのに対し,本件特許発明では,大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉で炭化処理する点において,相違する。 イ しかしながら,可燃物がベントナイト等の無機質粘結材で被覆されると,可燃物の外周の全体を不燃物が覆い被さることとなり,このような状態では,可燃物と酸素との接触の可能性が失われ,燃焼することができない。
したがって,出発原料の表面を被覆する無機質粘結材には空気通路がなくてはならず,このような状態は,もはや「付着」である。 そうすると,701号発明における出発原料にあらかじめベントナイトを付着する処理は,構成要件Bにおける「原料の表面を該無機質粘結材で被覆」する処理と同じ処理を意味する。 ウ また,701号公開公報には,「パルプ廃滓の(略)炭化処理する技術的思想は,既に特願昭49-98426号明細書(627号公開公報に係る出願明細書)で明らかにされている。」と記載されている(1頁右欄1行ないし4行)ことからすると,701号発明のロータリーキルンは,627号公開公報に記載されたロータリーキルンと同じ構造を有するものと考えられる。 そして,627号公開公報に記載されているセメント工業の分野で広く使用されているロータリーキルンが,本件特許発明構成要件Cにおける「大気に開放された炉部」,原料を「炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ」る構成を有することは当業者によく知られたことである(876号公開公報)。 エ したがって,本件特許発明は,701号公開公報,380号公開公報,627号公開公報及び876号公開公報に記載された各発明等に基づいて当業者が容易に想到することができたものであって進歩性を欠くから,本30 件特許は,特許法29条2項に違反するものであって,特許無効審判により無効にされるべきものである。 (原告らの主張) ? 本件特許発明と先行発明との対比について ア 701号公開公報及び627公開公報に記載された発明は,パルプ廃滓にあらかじめバインダとしてのベントナイトを添加し,これをロータリーキルンへ装入する前に圧搾プレス処理してケーキ状に脱水するものである。これは,パルプ廃滓は,ドロドロとした流動体であるからバインダがないと成形することができないため,ベントナイトをケーキ状に圧搾プレスされたパルプ廃滓内に混入させているのであって,本件特許発明の出発原料の表面をベントナイトを含む無機質粘結材で被覆することとは相違している。 そして,本件特許発明における出発原料の表面をベントナイトを含む無機質粘結材で被覆することは,380号公開公報や876号公開公報には,何らの記載も示唆もない。 イ また,本件特許発明構成要件C中の「該原料の送り方向とは反対側から着火させ」ること及び構成要件D中の「前記排出口側で,前記無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させる」ことについても,701号公開公報,380号公開公報,627号公開公報及び876号公開公報には,何らの記載も示唆もない。 ウ さらに,701号公開公報に係る発明は固形燃料に関するものであるのに対して,本件特許発明により得られた炭化物は無機質粘結材で被覆されて焼成されることにより不燃物となるのであって,両者は,全く異なる発明である。 エ 加えて,本件特許発明は,「無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができる」とい31 う,先行発明と比較して有利な作用効果を奏する。 ? 以上のことから,本件特許発明進歩性を有しており,本件特許は,特許法29条2項に違反するものではない。 8 争点?エ(本件訂正により本件特許の無効理由が解消するか)について (原告らの主張) ? 訂正要件を満たすこと。 本件訂正は,特許請求の範囲減縮及び明瞭でない記載釈明を目的としており,新規事項を追加するものでも,実質上,特許請求の範囲拡張又は変更するものでもないから,訂正の要件を満たす。 ? 本件訂正により被告らが主張する無効理由を解消することができること。 ア 特許法29条1項柱書,36条4項1号及び同条6項2号違反について 本件訂正によって,無機質粘結材で被覆された原料から発生するガス成分に着火及び燃焼させることが明確になるから,特許法29条1項柱書に反するものではない。また,原料のガス成分に着火させることは,本件明細書(段落【0018】及び【0021】)に記載されているから,特許法36条4項1号及び同条6項2号に反するものでもない。 イ 特許法39条1項違反について 本件訂正後の本件特許発明の「該原料の送り方向とは反対方向から,原料のガス成分に着火および燃焼させ,前記投入口側で原料を乾燥させ,前記排出口側で,前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させる」との構成は,本件先願発明には全く開示されていない。 したがって,本件特許発明と本件先願発明とは同一ではないから,本件特許は,特許法39条1項に違反してされたものではない。 ウ 進歩性の欠如について 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲における「出発原料とベントナ32 イトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆」する工程及び「原料の送り方向とは反対方向から,原料のガス成分に着火および燃焼させ…前記排出口側で,前記無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させる」工程については,被告らが挙げるいずれの先行文献にも記載も示唆もなく,このような工程に想到する動機付けとなり得るものは存在しない。 そして,本件特許発明は,無機質粘結材が被覆されていることにより可燃物の酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができるという,被告らが挙げる各先行文献と比較して有利な作用効果を奏することから,当業者が容易に発明をすることができたものではない。 したがって,本件訂正後の本件特許は,特許法29条2項に違反するものではない。 ? 被告製造方法が本件訂正後の本件特許発明技術的範囲に属すること。 本件訂正によって,本件特許発明技術的範囲の実質的な変更はないから,被告製造方法は,本件訂正前と同様に,本件訂正後の本件特許発明技術的範囲に含まれる。 (被告らの主張) 争う。 9 争点?(共同不法行為の成否及び原告の損害)について (原告らの主張) ? 共同不法行為の成立 被告らの行為は,いずれも客観的に関連し,共同して違法に原告らに損害を与えるものであり,各自の行為がそれぞれ独立に不法行為の要件を備えているから,共同不法行為が成立する(民法719条1項)。 ? 原告らの損害 ア 被告カーボテックの本件特許権侵害による原告らの損害 33 ? 被告カーボテックは,本件特許発明の特許公報の発行日以後である平成15年1月8日以降,被告カーボテック装置を製造・販売するとともに,被告カーボテック装置によって炭化して得られたハイモックスを,全国の公共焼却施設(京都市,京都府舞鶴市,滋賀県,奈良県,岐阜県及び和歌山県)及び民間焼却施設(京都市の光アスコン株式会社,亀岡市の有限会社キンキ,広島県の株式会社備後総業,福岡県の有限会社大山産業及び石川県の株式会社金沢資源再開発)に販売しており(甲11),これらの販売額が,被告カーボテックの営業収益のほとんどを占めている。 ? 被告カーボテックの平成16年9月期から平成18年9月期までの営業収益の合計額は,5億8444万8000円である。 そして,特許法102条2項の「利益」とは限界利益をいい,限界利益は,売上額から販売に直接要する費用である変動費を控除した利益ではなく,その利益の額から,更に固定費の中でも対象となっている製品に直接関連する経費(直接固定費)を控除して算出したものと解すべきである。 これを被告カーボテックについてみれば,「当期商品製品仕入高」,「販売促進費」,「広告宣伝費」,「荷造運送費」及び「車両費用」が直接固定費に該当すると考えられることから,被告カーボテックの前記営業収益額から各期別にこれらの各費用を計算した総合計4億0472万円を控除すると,限界利益の額は,1億7972万8000円となり,同額が,被告カーボテックが本件特許権の侵害行為により得た利益額として,原告らの損害額と推定される(特許法102条2項)。 イ 被告飛騨の本件特許権侵害による原告らの損害 被告飛騨における平成17年5月期から平成18年5月期までの営業収益の合計額は6241万円であるが,このうち,少なくともその3分の134 である2080万円が,被告飛騨ら商品の販売による利益であると考えられる。 そして,被告山下木材に委託した委託費が対象となっている製品に直接関連する経費(直接固定費)と考えられるところ,その5%が委託費とすると,その固定費である104万円を控除した1976万円が,被告飛騨が本件特許権の侵害行為により得た利益額と考えられるから,同額が原告らの損害額と推定される(特許法102条2項)。 ウ 被告山下木材の本件特許権侵害による原告らの損害 前記イの委託費が,被告山下木材の被告飛騨ら商品による営業収益であると考えられる。そして,前記イのとおり,被告飛騨における平成17年5月期から平成18年5月期までの営業収益に対応する被告山下木材が得た利益額は104万円であると考えられ,同額が,被告山下木材が本件特許権の侵害行為により得た利益と考えられるから,同額が原告らの損害額と推定される(特許法102条2項)。 エ 被告成基の本件特許権侵害による原告らの損害 被告成基がセラミック炭ボードを使用して竣工・販売した前記第2,1(争いのない事実等)?ウの3棟のマンションの総売上高は,43億3962万円である。 このうち,被告成基の利益率が10%であるとすると,その利益額は4億3396万円となり,セラミック炭ボードによる付加価値の貢献率を3%とすると,1301万8800円となり,同額が,被告成基が本件特許権の侵害行為によって得た利益額と考えられるから,同額が原告らの損害額と推定される(特許権法102条2項)。 オ 被告らが負担すべき損害額 前記?のとおり,被告らには共同不法行為が成立するから,被告らは,連帯して,前記アないしエの合計額である2億1354万6800円の損35 害賠償義務を負う。そして,原告ナカタと原告安田製作所は,各自が同額の2分の1ずつを請求することができる。 カ 弁護士費用 本件と相当因果関係がある弁護士費用としては,2000万円が相当であり,原告ナカタ及び原告安田製作所は,各自,その2分の1ずつの損害を受けた。 キ 小括 したがって,原告ナカタ及び原告安田製作所は,それぞれ,被告ら各自に対し,1億1677万3400円を請求することができる。 (被告カーボテック) 否認又は争う。 (被告飛騨ら) 否認又は争う。 (被告成基) 否認又は争う。なお,原告らが挙げるマンション3棟の総売上高は,40億8470万円である。 10 争点?(被告らによる販売行為等の差止めの要否)について (原告らの主張) ? 被告カーボテックについて 被告カーボテックによる被告カーボテック装置の製造・販売は,本件特許権を侵害する行為であるから,被告カーボテック装置の製造・販売の差止め及び被告カーボテック装置の廃棄が認められるべきである(特許法100条1項,2項)。 また,被告カーボテックは,ハイモックス及びセラミック炭を製造・販売しているが,これは本件特許権を侵害する行為であるから,ハイモックス及びセラミック炭の製造・販売の差止め並びにハイモックス及びセラミック炭36 の廃棄が認められるべきである(特許法100条1項,2項)。 ? 被告飛騨らについて 被告飛騨は被告山下木材に委託して被告飛騨ら商品を販売し,被告山下木材は被告飛騨から委託を受けて被告飛騨ら商品を販売しているが,これらの行為は本件特許権を侵害する行為であるから,被告飛騨ら商品の販売の差止め及び被告飛騨ら商品の廃棄が認められるべきである(特許法100条1項,2項)。 ? 被告成基について 被告成基は,被告飛騨ら商品を購入した上で,被告飛騨ら商品を混練したセラミック炭ボードを製造して,自社開発の高級マンションに使用しているが,これは本件特許権を侵害する行為であるから,セラミック炭ボードの製造及び使用の差止め並びにセラミック炭ボードの廃棄が認められるべきである(特許法100条1項,2項)。 (被告らの主張) 否認又は争う。
争点に対する判断
1 争点?(被告製造方法が本件特許発明技術的範囲に含まれるか)について ? 構成要件Aについて 被告製造方法における出発原料が木質チップであり,これが可燃物に該当することは,当事者間に争いがない。また,被告らが主張するように,出発原料に籾殻,食品残滓等の有機性廃棄物が含まれているとしても,これらも可燃物に該当する。 したがって,被告製造方法は,「可燃物…を出発原料とし」ているから,構成要件Aを充足すると認められる。 ? 構成要件Cについて 37 被告製造方法においては,炭化炉として開放型ロータリーキルンを用いており,これが大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉に該当すること,原料がキルン(炭化炉)の投入口から排出口に向けて移動されること,キルン(炭化炉)の排出口側に設けられたバーナーを供給口側に向けて点火していること,キルン(炭化炉)内部で原料に着火させていることは,当事者間に争いがない。 また,被告製造方法において,キルン(炭化炉)に投入される原料は,木質チップとベントナイトに水を噴霧して混合したものであることは当事者間に争いがないところ,技術常識に照らして,炭化炉内は,その投入口側においても相当程度高温になってこと(甲78の116頁図3参照),当該原料にキルン(炭化炉)内で着火させて炭化させるのであるから,その前提として,当該原料が一定程度乾燥している必要があること,当該原料が着火されるのは,被告らの主張によっても,キルン(炭化炉)中央部であることからすれば,キルン(炭化炉)に投入された原料は,キルン(炭化炉)の投入口側で乾燥させられているものと認められる。 したがって,被告製造方法は,「原料を,大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉内の該炉部内を,該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側に送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ,前記投入口側で乾燥させ」ており,構成要件Cの「該原料」が可燃物である出発原料の表面を無機質粘結材で被覆したものであるか否かという点を除き,構成要件Cを充足すると認められる。 ? 構成要件B及びDについて ア 構成要件B及びDの技術的意義について ? 本件明細書の記載 構成要件B及びDの「該出発原料とベントナイトを含む無機質粘38 結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して」,「前記無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させること」に関する本件明細書の記載は,以下のとおりである。 a 従来の技術及び発明が解決しようとする課題 「【0002】 【従来の技術】従来,炭焼きのように可燃物を炭化するには,閉塞性のある燃焼空間内に可燃物をプールし,ガス成分を燃焼させている。この方法は,いわば閉塞式の炭化炉であり,炭化炉内への酸素の供給量を抑制することで,炭化した可燃物がさらに酸化して灰にならないようにすると共に,閉塞式のため,炭化炉内の温度を高温に維持でき,ガス成分を木材の芯等の可燃物にかかる内部からも抜き出すことができ,可燃物を効率良く炭化させることができるのである。ところで,本願出願人は,背景技術として,「可燃物あるいは可燃物を含む物を出発原料とし,該原料の表面をベントナイト等の無機質粘結材で被覆して焼成すると,可燃物を酸化雰囲気で焼成しても灰になるまで燃焼せずに炭化させることができる」という炭化物の製造方法を提案している。この方法によれば,可燃成分が無機質粘結材の微粒子で被覆されることによって酸化が抑制されるためと推察される。この効果は,無機質粘結材と水溶性糖類を同時に被覆するときに,さらに向上する。 【0003】 【発明が解決しようとする課題】しかしながら,従来の閉塞式の炭化炉では,木材等の大型の可燃物から炭を作る際には有効であるが,可燃物を炭化炉内に一旦プールするため,時間的な効率が悪かった。従って,大量の炭化物を工業的に生産するには適さな39 いという課題があった。また,可燃物をプールしてガスを燃焼させるため,炭化炉内が高温になり,炉の内壁をセラミック等の耐熱材で形成する必要があり,工業的に利用できる炭化炉を製作するコストおよび保守するコストが高くなってしまうという課題があった。 【0004】そこで,本発明の目的は,可燃物から炭化物を工業的に効率良く生産することが可能である炭化炉を提供することにある。さらに,炭化炉自体の製作コストおよび保守コストを低減することにもある。」 b 発明の実施の形態 「【0012】(略)炉部10の一端側にある投入口12側で原料が乾燥され,中途部で着火され,他端側にある排出口14までの間でガスが燃焼されて,最終的に炭化物が排出口14から排出されるのである。(略)」 「【0013】(略)このバーナー16で炎を炉部10内へ放射して,原料の主にガス成分を燃焼させる。(略)」 「【0018】(略)また,原料のガス成分が盛んに燃焼される部分では,かき上げ羽根35により原料をかき上げてかき混ぜることで,原料に空気を十分に当てて均一に燃焼させることができる。
(略)」 「【0021】(略)前記原料の可燃物は,ベントナイト等の無機質粘結材で被覆されており,酸化が抑制されているため,ガス化した燃焼物は燃えるが,炭素の酸化は抑制される。(略)」 「【0022】(略)その炭化物は酸化が抑制されているため,排出されると急激に温度が奪われ,排出された直後に火が消え,効率良く粒状の粒炭というべき炭化物を生産することができる。
40 (略)」 「【0024】(略)無機質粘結材としては,耐火粘土,ベントナイト,特殊粘土等のいわゆる粘土質粘結材が好ましく,とりわけベントナイトの酸化抑制効果が大きい。(略)なお,原料に無機質粘結材を被覆するには,コーヒー粕のように原料に水分が含まれている場合は新たに水分を添加することなく,もみ殻のように水分を含んでいない場合は新たに水分を添加し,単に混練すればよい。被膜は薄くても十分な酸化抑制効果がある。(略)」 c 発明の効果 「【0026】 【発明の効果】本発明にかかる炭化方法によれば,可燃物あるいは可燃物を含む材料の表面を無機質粘結材で被覆したものを原料とし,該原料を,大気に開放された筒状の炉部を有する炭化炉の該炉部内を,該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排出口側へ送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ,前記投入口側で乾燥させ,前記排出口側で焼成するようにしているので,前記無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して可燃物を好適に炭化させることができる。」 ? 本件特許の出願過程における出願人らの説明内容(甲2) 出願人である株式会社ナカタ技研及び原告安田製作所は,本件特許の出願当初においては,炭化炉に係る発明を特許出願していたところ,平成12年3月27日付けで,炭化方法及び炭化炉に係る発明にこれを補正した(当該補正後の特許請求の範囲の請求項1は,「可燃物或いは可燃物を含む粒状材の表面をベントナイト等の無機質粘結材で被覆した材料を原料とし,該原料を,両端が開放された筒状の炉部内を該炉部の一端側にある投入口側から他端側にある排41 出口側に送り,該原料の送り方向とは反対方向から着火させ,前記投入口側で乾燥し,前記排出口側で焼成して,前記可燃物を炭化させることを特徴とする炭化方法。」とされていた。)。 これに対して,特許庁は,前記補正後の請求項1に係る発明等につき,ベントナイト等の無機質粘結材で被覆した材料を原料としてロータリーキルン等の装置により炭化させる方法は,刊行物に記載されていること等により進歩性を欠くこと等を理由として,拒絶理由通知をした。 これに対し,出願人である株式会社ナカタ技研及び原告安田製作所は,特許庁に対し,平成14年1月25日付けで,特許請求の範囲の請求項1につき本件特許発明のとおりに補正する等の補正を行うとともに,意見書を提出した。当該意見書には,補正後の請求項1に係る発明(本件特許発明と同一のもの)につき,「出発原料の水分調整をし,これにベントナイトを含む無機質粘結材を添加して混練することにより,ベントナイトは水分を吸収して膨潤し,これにより原料表面が良好に無機質粘結材で被覆され」,「この状態で,大気に開放された炉部内で,酸化雰囲気中で焼成しても,原料の内側は酸欠状態となり,酸化が抑制されて可燃物が好適に炭化される」旨が記載されている。 ? 本件訂正の訂正拒絶理由通知に対する原告らの意見書の記載(甲83,84) 特許庁は,本件訂正に対し,訂正拒絶理由通知を行ったところ,訂正拒絶理由通知書においては,本件特許の特許請求の範囲の請求項1ないし4を引用する請求項5につき,701号発明において,「ケーキ状に脱水したパルプ廃滓にベントナイトを添加し,混練したものは,ベントナイトはバインダとして作用するとともに,脱水42 したパルプ廃滓の表面を一部被覆していて,また,無機質粘結材が被覆されていることにより,前記可燃物を炭化させているとするのが自然である」として,701号発明と,本件特許の請求項5に係る発明の「原料の表面を該無機質粘結材で被覆して」という点及び「前記無機質粘結材が被覆されていることにより,前記可燃物を炭化させる」点については,実質的な相違点ではない旨の指摘(11頁以下)がされた(甲83)。 これに対し,原告らは,平成22年8月19日付けで,訂正拒絶理由通知に対する意見書を提出し,その中で,「本件訂正発明5においては,可燃物の酸化抑制は可燃物の表面を無機質粘結材が被覆して酸素の供給を遮断しているからこそ行われる」こと(3頁),「「一部被覆」では,原料であるパルプ廃滓に充分な酸素が供給されるので,内部の原料の酸化を抑制しつつ焼成ということは達成することはできない」こと(16頁)等を主張した(甲84)。 ? 「該出発原料とベントナイトを含む無機質粘結材とを混練して原料の表面を該無機質粘結材で被覆して」,「前記無機質粘結材が被覆されていることにより酸化を抑制しつつ焼成して,前記可燃物を炭化させること」の技術的意義について a 証拠(甲30,乙12の5)及び弁論の全趣旨によれば,「炭化」とは,炭化水素その他の有機化合物が高温度で分解し,水素や低分子量の気体分解生成物を発生しながら,炭素質の固体状生成物を与える変化をいい,酸素の供給を遮断した状態又は酸素の供給が少ない状態で原料を加熱することによって炭化されるものと認められる。 b このように,炭化させるためには,酸素の供給を遮断し,又は酸素の供給を少なくする必要があるところ,前記第2の1(争い43 のない事実等)?アの本件特許発明に係る特許請求の範囲の記載及び前記?の本件明細書の記載からすれば,本件特許発明における炭化は,炭化炉内への酸素の供給を抑制することによって酸化を抑制して炭化する従来の炭化方法とは異なり,炭化炉内には酸素は供給されるものの,原料をベントナイトを含む無機質粘結材で被覆することによって酸化を抑制しつつ,他方で,原料をベントナイトを含む無機質粘結材で被覆した状態であっても,主として原料のガス成分を燃焼させることによって原料の可燃物を炭化させるものであると認められる。 そして,このような本件特許発明における炭化方法の特徴並びに前記?及び?の本件特許の出願過程や特許無効審判において提出された意見書の記載からすれば,本件特許発明における,原料の表面をベントナイトを含む無機質粘結材で被覆するとは,単に原料の表面の一部分のみが被覆される程度では足りず,被覆されることによって,炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料の表面を覆っていることが必要である反面,原料に着火させ,原料のガス成分を燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在することを意味するものと解される。 なお,被告らは,「混練して…被覆」するとは,原料の表面全体にベントナイトを含む無機質粘結材がコーティングされ,原料の表面全体が完全に被覆されていることを意味すると主張する。
しかしながら,原料のガス成分を燃焼させるためには,原料の表面にベントナイトを含む無機質粘結材で覆われていない部分が存在することが必要であるから,被告らの主張は,理由がない。 イ 被告製造方法について 44 ? 被告製造方法において,原料である木質チップに対するベントナイトの実際の付着又は被覆の状態を示す証拠は,被告カーボテックの写真撮影報告書(乙10)のみであるところ,当該写真撮影報告書に添付された写真のみでは,前記アの本件特許発明にいう「被覆」された状態,すなわち,炭化炉内に酸素が供給された状態であっても酸化を抑制して炭化させることができる程度に原料表面を覆っている反面,原料に着火させ,原料のガス成分を燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在する状態であるか否かを判別することはできない。なお,原告は,ベントナイトの粒子の大きさが0.005〜0.2μmである(甲37)のに対し,光学顕微鏡の分解能の限界は0.24μmであること(甲38)から,当該写真撮影報告書の写真をもって,被告らが主張する「付着」された状態であるということはできないと主張し,上記甲号証によれば原告の主張はその限りで理由があると認められる。しかし,他方,原告らが主張するのと同様の理由により,当該写真をもって,ベントナイトが「被覆」されていると認めることもできない。 そして,他に,被告製造方法において,実際に,原料である木質チップ等の表面がベントナイトによって「被覆」されていることすなわち,被覆されることによって酸化が抑制されて,原料が炭化されていること及び原料に着火させ,原料のガス成分を燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在することを認めるに足りる証拠はない。 他方で,被告カーボテックは,そのホームページ中の被告カーボテック装置の動作イメージの説明図面において,被告カーボテック装置のロータリーキルンの原料投入口側は「レトルト(低酸素)」である旨記載しており(甲7),また,被告カーボテックの代表者45 は,その著書で,「空気を外から引き込んでいるため,原料投入側の酸素が希薄な状態になることで熱分解が行われ,燃焼して炭として排出され」ることが,被告製造方法がロータリーキルンを用いて炭化する従来の方法と異なる特徴であると説明している(甲78の115頁以下)。そして,実際に,炭の収量の問題はあるが,炉内を酸素雰囲気としたロータリーキルンで,粘結材により被覆しなくとも炭化することは可能であると認められる(乙12の1の段落【0015】参照)。 以上のことからすれば,被告製造方法が,木質チップの表面がベントナイトによって前記ア?に述べた本件特許発明の「被覆」の意義どおりに「被覆」されていることによる炭化方法であること,すなわち,炭化炉内への酸素の供給を抑制することではなく,木質チップの表面をベントナイトで被覆することによって酸化を抑制することで炭化する炭化方法であること及び原料に着火させ,原料のガス成分を燃焼させることができる程度には原料の表面を覆わない部分が存在することを認めることはできない。 ? 原告らの主張について a 原告らは,被告製造方法において,原料表面が手で触ってヌルヌルする程度になっているということは,原料表面にベントナイトが被覆されていることにほかならず,また,被告製造方法におけるベントナイトの混合量は,ベントナイトを木質チップの表面に被覆させるのに十分な量であると主張する。 しかしながら,本件各証拠に照らしても,原料の表面が手で触ってヌルヌルする程度であることが,原料の表面がベントナイトによって被覆されており,それによって酸化が抑制されていることを裏付ける根拠となると認めることはできない。 46 そして,ベントナイトの混合量についても,本件明細書には,ベントナイトを含む無機質粘結材の混合量についての記載はない。
また,本件特許発明発明者であるPの発明に係る先願特許(特許第3272182号)の明細書には,無機質粘結材の添加量は「最高10〜15%程度で十分である」と記載されている(乙12の1の段落【0009】)。しかし,乙12の1の発明の課題が「成形工程を省略して廃棄物として出てきたそのままの状態で炭化できる新しい炭化物の製造方法を提供せんとするもの」(乙12の1の段落【0003】)であるのに対し,本件特許発明の目的は,「可燃物から炭化物を工業的に効率良く生産することが可能である炭化炉を提供することにある。さらに,炭化炉自体の製作コスト及び保守コストを低減することにある」(甲1の段落【0004】)ことにかんがみれば,両発明は課題ないし目的を異にしており,乙12の1の発明と本件特許発明において無機質粘結剤の添加量が同程度であると認めることはできない。加えて,上記のとおり,本件特許発明が「炭化炉自体の製作コスト及び保守コストを低減することを目的としていることからみれば,乙12の1に記載された炭化方法と本件特許発明の方法とが,原料の酸化の抑制に影響を与える可能性がある他の条件(ロータリーキルンの構造等)において同一であるか否かは明らかではない。したがって,上記乙12の1の明細書の無機質粘結剤の添加量の記載が本件特許発明にも当てはまることを前提として,被告製造方法においても,原料表面にベントナイトが被覆され,それによって酸化が抑制されていると認めることはできない。さらに,原告らは,原告らがセラミック炭を生成する場合のベントナイトの添加割合も10%であると主張するが,これを認めるに足る客観的47 な証拠はなく,そのことから,被告製造方法においても,原料の表面にベントナイトが被覆され,それによって酸化が抑制されていると認めることはできない。 したがって,原告らの前記主張は,いずれも理由がない。 b 原告らは,被告らが,セラミック炭につき超難燃性を有していると説明していることや,被告カーボテック装置を納入した自治体等がセラミック炭につきセラミックでコーティングしていると説明していることをもって,被告らが製造又は使用するセラミック炭は,セラミック層でコーティングされていると主張する。 確かに,被告らは,そのパンフレットやホームページにおいて,自己が製造・販売又は使用するセラミック炭につき,セラミックでコーティングされており,超難燃性を有する旨説明している(甲12ないし14,32,50)。また,被告カーボテックが炭化装置を納入した自治体のパンフレットにおいても,これらと同様の記載や,原料の「表面にセラミックの膜を作り,木がこお(注:「この」の誤記と認められる。)膜によって密閉され,蒸し焼き状態になって新しい炭」ができること,「燃焼物は,パウダーに被覆されているため,灰にならず良質な「セラミック炭」として残」る旨の記載がある(甲33,34)。 しかしながら,被告製造方法が本件特許発明技術的範囲に属するといえるためには,実際に,被告製造方法が本件特許発明の方法を使用していると認められることが必要であることはいうまでもない。したがって,被告らが自己の商品についてセラミックでコーティングされており,超難燃性を有する旨の説明を行っていることのみをもって,実際に,被告カーボテックが製造・販売するセラミック炭が,難燃性を有し,また,それがセラミックで48 コーティングされていることによるものと認めることはできない。
また,同様に,実際の被告製造方法において,原料である木質チップの表面をベントナイトによって被覆し,それによって酸化を抑制しつつ焼成して,木質チップを炭化していると認めることもできない。そして,他に,被告製造方法が本件特許発明の炭化方法を使用したと認めるに足る証拠はないことは,前記?のとおりである。 なお,原告らは,被告らが主張するように木質チップにベントナイトを「付着」させたにすぎないのであれば,可燃物の大部分は灰になってしまい,歩留まりが低く,効率が悪い製造方法であると主張する。しかしながら,実際に,炭の収量の問題はあるが,炉内を酸素雰囲気としたロータリーキルンでも炭化することは可能であると認められることは,前記?のとおりである。そして,本件明細書には,本件特許発明が歩留まりが高く効率がよい炭化方法である旨の記載はなく,被告製造方法における歩留まりも明らかではない。また,歩留まりは,他の焼成の条件等によっても影響されると認められるから,仮に,被告製造方法における歩留まりが高かったとしても,それが,木質チップをベントナイトで被覆し,そのことによって酸化が抑制されたことによるものと直ちに認めることはできない。 c さらに,原告らは,被告カーボテックの代表者らを特許権者及び発明者とする先願特許(特許第3037688号)に係る特許公報において,可燃性有機物をベントナイト等で被覆させ,可燃性有機物とベントナイト等の粘土鉱物とを混練する旨の記載があり,被告らの主張は,これに示された被告カーボテックの代表者らの認識と矛盾すると主張する。 49 確かに,当該先願特許に係る特許公報(甲3)には,「a)可燃性有機物と,b)粘結剤としての粘土鉱物と,c)ゼオライト,炭酸カルシウム,及び,ゼオライト又は炭酸カルシウム含有無機系廃棄物から成る群より選ばれた粉末状添加物とを,予め含水率が70%になるように調整された上記可燃性有機物100重量部に対して上記粘土鉱物2〜20重量部及び粉末状添加物0.3〜8重量部の比率にて混合を行い,上記可燃性有機物の表面に,上記粘土鉱物及び粉末状添加物を均一に被覆した後,ロータリキルンを用いて600〜700℃まで加熱して自己燃焼を生じさせ,その後,自己燃焼により焼成を行い,上記可燃性有機物の炭化により生じた炭素の表面にセラミックス層がコーティングされた焼成物を得」ること(特許請求の範囲の請求項1)や,「混練機により混練を行い,可燃性有機物の表面を,粘土鉱物及び粉末状添加物で均一に被覆する」こと(段落【0015】)が記載されている。 しかしながら,被告製造方法が,当該特許公報に記載された炭化方法と同一であると認めるに足る証拠はない。また,当該特許公報に記載された発明は,可燃性有機物と粘土鉱物のほかに「ゼオライト,炭酸カルシウム,及び,ゼオライト又は炭酸カルシウム含有無機系廃棄物から成る群より選ばれた粉末状添加物」を用いる点で,木質チップとベントナイトを使用する被告製造方法とは異なるものである。 したがって,原告らの前記主張も,理由がない。 d このほか,原告らは,被告製造方法においてベントナイトを原料の表面に付着させているにすぎないのであれば,ベントナイトのように被覆させるのに適した物質を使用するのは不自然である等と主張する。 50 しかしながら,原料にベントナイトを混合して炭化することは,公知の事項であると認められる(乙12の3)から,ベントナイトを使用しているからといって,原料の表面がそれによって被覆されていると認めることはできない。 e 以上のとおり,原告らが指摘する事項は,いずれも,それらの事項をもって,被告製造方法が,木質チップの表面をベントナイトで被覆し,そのことによって酸化を抑制して可燃物である木質チップを炭化させるものであると認めることはできないものであり,原告の主張によって,被告製造方法構成要件B及びDを充足すると認めることはできない。 ? 小括 以上のとおり,被告製造方法が本件特許発明技術的範囲に属するものと認めることはできない。 したがって,被告カーボテックが被告カーボテック装置並びにハイモックス及びセラミック炭を製造・販売することが,それぞれ本件特許権の間接侵害又は侵害に当たるものと認めることはできない。 2 争点?(被告飛騨ら及び同成基による本件特許権の侵害)について 原告らの被告飛騨ら及び同成基に対する請求は,いずれも被告製造方法が本件特許発明技術的範囲に含まれることを前提とするものであるところ,前記1のとおり,被告製造方法が本件特許発明技術的範囲に含まれると認めることはできないから,その余の点を判断するまでもなく,いずれも理由がないものと認められる。 もっとも,以下では,事案の性質にかんがみ,原告らが被告飛騨ら及び同成基による特許権侵害行為であるとして主張する点について,検討する。 ? 原告らが被告飛騨ら及び同成基による特許権侵害の理由として主張する点について 51 ア 原告らは,ハイモックスのチラシに,東日本エリア担当メーカーとして被告飛騨が記載されていると主張する。 確かに,ハイモックスのチラシ(甲9)には,東日本エリア担当メーカーとして被告飛騨が,西日本エリア担当メーカーとして被告カーボテックが記載されている。しかしながら,このチラシの記載のほかには,被告飛騨がハイモックスを販売していることを示す証拠はない。
また,この記載自体,被告飛騨が自ら製造したハイモックスを販売しているのか,被告カーボテックが製造したハイモックスを販売しているのか,明らかではない。 したがって,当該チラシの記載のみをもって,被告飛騨が被告カーボテックから購入したハイモックスを販売していると認めることはできないのみならず,そもそも,ハイモックスを販売していること自体も認めることはできない。 イ そして,原告らは,被告飛騨が被告飛騨ら商品及びハイモックスの製造に見合うだけのセラミック炭の生産能力を有しておらず,被告カーボテックからセラミック炭を購入していると主張する。 しかしながら,被告飛騨のセラミック炭の生産能力については,原告らが被告飛騨を訪問した際の状況や被告飛騨が使用する炭化炉の耐用年数からの推測(甲24,67,80)のほかに,これを裏付けるに足る証拠はなく,また,被告飛騨のハイモックス及び被告飛騨ら商品の販売量についても,これを認めるに足る証拠はない(そもそも,被告飛騨がハイモックスを販売していると認めることができないことは,前記アのとおりである。)。したがって,被告飛騨が被告飛騨ら商品の製造に見合うだけのセラミック炭の生産能力を有していないと認めることはできない。 また,被告飛騨が被告カーボテックからセラミック炭を購入してい52 ることを裏付けるに足る客観的な証拠はない。 したがって,原告らの前記主張は,理由がない。 ウ また,原告らは,被告山下木材が,岐阜県郡上市に対し,ハイモックスを納入していることをもって,被告飛騨が被告カーボテックからハイモックスを購入していると主張する。 確かに,岐阜県郡上市のダイオキシン除去用活性炭につき,被告山下木材が落札して,被告カーボテックのハイモックスを納入したことが認められる(甲59の2)。このことからすれば,被告山下木材が,被告カーボテックから,直接又は第三者を介して,ハイモックスを購入し,これを岐阜県郡上市に納入したと推認することができる。 しかしながら,被告山下木材と被告カーボテックとの間に被告飛騨が介在したと認めるに足る証拠はないから,このことをもって,被告飛騨が被告カーボテックからハイモックス又はセラミック炭を購入したということはできない。そして,被告山下木材が,被告カーボテックからハイモックスを購入してそれを納入していたとしても,そのことから,直ちに,被告飛騨ら商品に被告カーボテックが製造したハイモックス又はセラミック炭が使用されていると認めることはできない。
また,同様に,被告成基が,その製造・販売するセラミック炭ボードに,被告カーボテックが製造したハイモックス又はセラミック炭を使用しているということもできない。 エ また,イー・スペースの当時の代表者が,本件特許発明発明者であるPに対し,本件特許権に係る発明の実施の許諾を求めたことは,原告ら及び被告成基との間で争いはないが,そのことをもって,実際に,被告成基が本件特許発明の方法を使用して製造されたセラミック炭を使用しているということはできないことは明らかである。 ? 以上のとおり,原告らが,被告飛騨ら及び同成基が本件特許権を侵害53 している理由として挙げる点は,いずれも理由がない。そして,他に,被告飛騨が被告カーボテックからハイモックス又はセラミック炭を購入し,これを使用して被告飛騨ら商品を製造し,自ら又は被告山下木材を介してこれを販売し,また,被告成基が,被告カーボテックが製造したハイモックス又はセラミック炭を使用してセラミック炭ボードを製造していると認めるに足る証拠はない。 ? したがって,被告製造方法が本件特許発明技術的範囲に含まれると否とにかかわらず,被告飛騨らによる被告飛騨ら商品の販売及び被告成基によるセラミック炭ボードの製造・使用が,本件特許権を侵害するものと認めることはできない。 3 結論 よって,原告らの請求は,いずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
追加
岩?54裁判官坂本三郎は,転官のため署名押印できない。
裁判長裁判官大須賀滋55(別紙)当事者目録長野市<以下略>原告株式会社ナカタ長野市<以下略>原告株式会社安田製作所原告両名訴訟代理人弁護士松村光晃同築地伸之同山下幸夫同中村秀一同田中秀浩同屋宮昇太同芳賀こず江同訴訟代理人弁理士堀米和春同補佐人弁理士傳田正彦京都市<以下略>被告株式会社カーボテック同訴訟代理人弁護士伊原友己同加古尊温同訴訟代理人弁理士小林良平岐阜県高山市<以下略>被告協同組合カーボテック飛騨岐阜県高山市<以下略>被告有限会社山下木材被告協同組合カーボテック飛騨,同有限会社山下木材訴訟代理人弁護士田辺一男56京都市<以下略>被告株式会社成基同訴訟代理人弁護士置田文夫同荒鹿高行同村田純江同服部達夫同中野勝之同?政忠57(別紙)物件目録1被告株式会社カーボテックの回転キルン式連続炭化装置で,以下の型番のもの?NS-300型?NS-500型?NS-800型2被告株式会社カーボテックの粉末活性炭商品?ハイモックス(型番DC-P1)?セラミック炭3セラミック炭製品?飛騨炭Vマット?飛騨炭?セラミック炭シート?炭塗料4セラミック炭ボード
裁判長裁判官 大須賀滋
裁判官 岩?慎