運営:アスタミューゼ株式会社
  • ポートフォリオ機能


追加

関連ワード 自然法則 /  創作性(創作) /  新規性 /  インターネット /  アクセス /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  引用発明の認定 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  相違点の判断 /  周知技術 /  慣用技術 /  公知技術 /  上位概念 /  下位概念 /  出願公開 /  技術常識 /  先行技術 /  発明の詳細な説明 /  共有 /  特許出願日 /  参酌 /  技術的意義 /  置き換え /  置換 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 22年 (行ケ) 10185号 審決取消
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/04/18
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成22年(行ケ)第10185号 審決取消請求事件(特許)

口頭弁論終結日 平成23年4月11日

判 決

原 告 ヤ フ ー 株 式 会 社

訴訟代理人弁理士 伊 東 忠 彦

同 大 貫 進 介

同 山 口 昭 則

同 伊 東 忠 重

同 見 一 由 弘

被 告 特 許 庁 長 官

指 定 代 理 人 清 田 健 一

同 山 本 章 裕

同 田 部 元 史

同 井 上 正

同 田 村 正 明

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2007?27845号事件について平成22年4月19日

にした審決を取り消す。

第2 事案の概要

1 本件は,原告が名称を「オークションによる商品販売方法及び当該方法を実

現するコンピュータ」とする発明につき特許出願をしたところ,拒絶査定を受

けたので,これに対する不服の審判請求をしたが,特許庁から請求不成立の審




決を受けたことから,その取消しを求めた事案である。

2 争点は,原告が平成22年2月15日付けでなした手続補正後の請求項1に

係る発明(以下「本願発明」という。)が,下記引用例1ないし3に記載され

た発明及び周知技術から容易想到であったか,である。



・引用例1:特開2002?74073号公報(発明の名称「中古車販売にお

ける固有データの多次元利用システム」,公開日 平成14年3月

12日,甲1。以下ここに記載された発明を「引用発明」という。)

・引用例2:特開2002?269398号公報(発明の名称「インターネッ

トによるオートオークションシステム」,公開日 平成14年9月

20日,甲2)

・引用例3:特開2003?50925号公報(発明の名称「オンライン取引

支援方法」,公開日 平成15年2月21日,甲3)

第3 当事者の主張

1 請求の原因

(1) 特許庁における手続の経緯

原告は,平成17年12月5日,名称を「オークションによる商品販売方

法及び当該方法を実現するコンピュータ」とする発明につき特許出願(特願

2005?351073号。公開公報は特開2007?156827号)を

したが,平成19年9月5日に拒絶査定を受けたので,これに対する不服の

審判請求をした。

特許庁は同請求を不服2007?27845号事件として審理し,その中

で原告は平成22年2月15日にも特許請求の範囲変更を内容とする補

正(請求項の数6。以下「本件補正」という。甲16。)をしたが,特許庁

は,平成22年4月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審

決をし,その謄本は同年5月11日原告に送達された。




(2) 発明の内容

平成22年2月15日付け本件補正後の請求項1の内容(本願発明)は,

以下のとおりである。

・【請求項1】

「通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより,落札

した場合に少なくとも登録手続及び納品手続のサービスが受けられる処

理を提供する複数の中古車オークションにおいて商品の入札を受け付け

る方法であって,前記コンピュータが,

前記複数のオークションに含まれる第一のオークションの出品者の端

末から,当該出品者を特定する出品者データを受け付けて記憶部に記憶し

た業者向けオークションの出品者認証テーブルの出品者データと比較す

ることにより当該出品者を認証する出品者認証ステップと,

前記出品者の端末から,前記第一のオークションに係る商品に関する情

報,前記第一のオークションにおいて流札した場合に出品する別の一般向

け指定オークションに関する情報,前記商品を直接前記出品者から購入す

るための前記出品者の連絡先,及び,出品情報を閲覧可能とする時期を指

定するデータ,を含んで構成する出品データを受け付けて記憶する出品デ

ータ受付ステップと,

前記第一のオークションへの入札の受け付けを開始する時期より以前

の時期であって前記出品データにおいて指定された時期に,前記出品者の

連絡先を前記一般向け指定オークションの入札者に閲覧可能とし,前記出

品者から出品取消連絡を受け付けるステップと,

前記出品取消連絡を受け付けなかった場合に,前記第一のオークション

の入札者の端末から,当該入札者を特定する入札者データを受け付けて記

憶部に記憶した業者向けオークションの入札者認証テーブルの入札者デ

ータと比較することにより当該入札者を認証する第一の入札者認証ステ




ップと,

前記第一の入札者認証ステップにより認証が完了した当該入札者の端

末からの前記商品に対する入札条件を示す第一の入札データを受け付け

て記憶する第一の入札データ受付ステップと,

前記第一の入札データ受付ステップにて受け付けた前記第一の入札デ

ータに基づいて,前記第一のオークションにおける第一の取引の成否を決

定する第一の取引決定ステップと,

前記第一のオークションにおいて前記第一の取引が成立しなかった場

合に,前記複数のオークションに含まれ,前記第一のオークションに参加

することができない入札者が参加可能なオークションであって,前記出品

データにおいて指定された別の一般向け指定オークションの入札者の端

末から,当該入札者を特定する入札者データを受け付けて記憶部に記憶し

た前記別の一般向け指定オークションの入札者認証テーブルの入札者デ

ータと比較することにより当該入札者を認証する別の入札者認証ステッ

プと,

前記別の一般向け指定オークションの入札者の端末からの前記商品に

対する入札条件を示す別の入札データを受け付けて記憶する別の入札デ

ータ受付ステップと,

入札データ受付ステップにて受け付けた前記別の入札データに基づい

て別の取引の成否を決定する別の取引決定ステップと,

を含む方法。」

(3) 審決の内容

ア 審決の内容は,別添審決写しのとおりである。その要点は,本願発明は,

前記引用例1ないし3に記載された発明及び周知技術に基づいて当業者

容易に発明をすることができたから特許法29条2項により特許を受

けることができない,というものである。




イ なお,審決が認定した引用発明の内容は下記のとおりであり,また,本

願発明と引用発明との一致点及び相違点1?6は前記審決写し記載のと

おりである。



「画像情報と文字情報よりなる車両データを,ウエブサーバー上で流通業

者と一般消費者が共有し,流通業者間の共通在庫を形成する中古車販売

のシステムであって,

販売店は,出品票を作成するとともに,保有する現車を撮影した画像

情報と状態説明書の文字情報を,端末機からの転送及びスキャナーでの

取り込みにより,ウエブの運営管理者が管理するウエブサーバーに入力

することにより出品し,

公衆回線にて加盟販売店及び一般ユーザーのパソコンの画面に表示



公衆回線にて相対取引が行われ,

相対取引は,

ウエブサーバー上で,出品販売店の情報として,ネット訪問者である

一般ユーザーにコンタクト可能な,住所,電話番号,販売店名,メール

アドレス等の文字情報が表示され,一般ユーザーから販売店に商談メー

ルが入り,ダイレクト交渉の結果,成約となった場合には,成約済の文

字情報フラッグを立て,登録,代金精算,納車を済ませ,販売店の管理

ユーザー台帳に記載し,

システムには,2週間乃至1ヶ月程度の,出品車のウエブ掲載期限設

定があり,

ウエブサーバー上に設定された期間経過後,期限到来時に未成約であ

った車両は自動的にオートオークション会場にて競売に懸けることが

できる仕組みになっており,




運営管理者がオートオークション主催者となり,

車両データを運営管理者のホストコンピュータに転送し,ホストコン

ピュータにて流通業者である販売店間の競売に懸けるものであって,

未成約車両のウエブサーバー上の画像情報と状態説明書の文字情報

をオートオークション側ホストコンピュータ及び画像処理機へ転送を

行い,そのオートオークション会場自体の競売システムにより競売に懸

けるものであり,

流札となった出品車両,つまり売れ残り車は,ウエブに再出品を行い

再度小売りと卸売りの場面に登場させるものであり,

新たに画像情報と文字情報を作成することなく,販売店が商談解除の

文字情報フラッグのボタンをクリックしウエブサーバーに送信する,

ことを特徴とする中古車販売のシステム。」

(4) 審決の取消事由

しかしながら,審決には,以下のとおりの誤りがあるから,違法として取

り消されるべきである。

ア 取消事由1(相違点の看過?A)

審決は,引用発明のオークションは会場オークションであるのに対し

て,本願発明の第一オークションはネットオークションであるという相違

点を看過した。この相違点に関連して,引用発明の販売店端末はホストコ

ンピュータ9に接続されていないのに対し,本願発明の業者端末はコンピ

ュータ(10)に接続しており,当該コンピュータ(10)が複数のオークション

を提供するというさらなる相違点(以下「相違点A」という。)があるに

もかかわらず,審決は相違点Aを看過した違法がある。

審決は,引用発明と本願発明とを対比していく過程の中で,両発明の相

違する事項について「対応する」,「相違点はあるものの?対応する」,

「相当する」,「自然である」や「『販売』という概念に包摂される」と




いうあいまいな表現を巧妙に用いることにより,さも両発明の相違する事

項が対応するかのように扱い,結局,本願発明と引用発明との重大な相違

点をも含めて,本願発明と引用発明とを一致していると認定したが,全く

の誤りであって,違法である。

まず,審決は,真に一致点であると認定できるのなら明確に「一致する」

と表現すべきところ,一致点ではないので「一致する」と表現できず,上

記のあいまいな表現を巧妙に用いることにより,最終的に「一致する」と

結論付けているが,このような審決の非論理的な理由付けの手法は,狡猾

であり許されない。また,相違点であるのであれば「相違する」と認定す

べきところ,審決は,「相違点はあるものの,?対応する」と認定し,結

局は「一致する」と逆の結論を導いているが,このような手法も許されず,

違法である。

以下,審決による相違点の看過ないし無視につき,具体的に主張する。

(ア) ネットオークション

審決は,「引用発明の『期限到来時に未成約であった車両』を『オー

トオークション会場にて競売に懸ける』ことは,本願発明の『第一のオ

ークション』に対応する」と認定するが,誤りである。

ネットオークション(第一のオークション)に関する本願発明の進歩

性を判断するに当たり,引用発明における会場競売はネットオークショ

ンとは全く異なるものであって対応せず,会場競売をネットオークショ

ンに対応させること自体,誤りである。

引用発明のオークションは会場オークションであるのに対して,本願

発明の第一オークションはネットオークションであるという相違点に

関連して,引用発明の販売店端末はホストコンピュータ9に接続されて

いないのに対し,本願発明の業者端末はコンピュータ(10)に接続してい

ること,また,引用発明ではオークション会場ごとにホストコンピュー




タを備えるのに対し,本願発明では単一のコンピュータ(10)が複数のオ

ークションを提供するという相違点もある。

なお,本願発明の請求項に「インターネットオークション」との表現

がないことから,本願発明がインターネットオークションのみに限定さ

れないことは認める。しかし,通信ネットワークを介して(請求項1),

遠隔地に所在する中古業者等の参加者が,現地に赴くことなく当該オー

クションに参画する機会を提供する(段落【0004】)オークション

は,事実上,インターネットオークションである。本願発明がインター

ネットオークションのみに限定されないとしても,ネットオークション

であることに変わりはなく,引用発明の会場オークションとは異なる。

また,被告が主張するように,ネットオークションが本願出願前に公

知であったことは認める。しかし,引用例1の段落【0020】に「オ

ートオークション会場にて競売に懸ける」,段落【0021】に「オー

トオークション会場自体の競売システム」,段落【0023】に「開催

当日の競売終了時刻」と記載されているように,引用発明のオークショ

ンは会場オークションであって,ネットオークションではない。引用例

1には,ホストコンピュータ9に接続された入札者の端末の記載も,入

札者の端末から入札するとの記載も存在しない。

したがって,引用発明の売買システムにおける会場競売を,わざわざ

通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより中古

車を競売するネットワークオークションに置換し,コンピュータが入札

者の端末から入札データを受け付けることにより競売するように置換

すると考えることは,容易想到性の議論であって,審決における論理付

けとは異なるものである。

また,引用発明においてホストコンピュータ9は販売店と接続されて

いないにもかかわらず,審決は,引用発明の「『運営管理者のホストコ




ンピュータ』は,流通業者である販売店間を接続し自動車である中古車

を競売をするものである。」と認定しており,引用発明の認定の誤りを

犯しているところ,被告は,審決取消訴訟の場になってから,引用発明

と乙3?7とを組み合わせることにより,本願発明のネットオークショ

ンの容易推考性の論理付けを試みている。

このような,引用発明に乙3ないし7記載事項を組み合わせる容易推

考性の議論は,審決の認定における容易想到性の論理とは異なるもので

あって,審決取消訴訟の場においてもはや許されるものではない。

(イ) 端末接続

a 審決は,「(引用発明の)『運営管理者のホストコンピュータ』は,

流通業者である販売店間を接続し自動車である中古車を競売するも

のである」と認定しているが,誤りである。引用発明の明細書には,

「ホストコンピュータ9が販売店間を接続する」という記載は見当た

らず,引用発明の図1には,販売店Bがdata処理サーバ9(ホス

トコンピュータ9)と代金及び書類のやり取りをする様子が描かれて

いるが,決して販売店端末がホストコンピュータ9に接続されている

わけではない。そもそも,引用発明におけるオークションは会場競売

であることから,販売店の買い手がオークション会場まで出かけて行

きそこで競売をするのであって,会場にあるホストコンピュータ9が

販売店端末間を接続するということはあり得ない。

したがって,上記認定は明らかに誤りであり,「運営管理者のホス

トコンピュータは,流通業者である販売店間に接続されていない。」

と認定すべきである。

b 審決は,上記の誤った認定に基づき,「ここで,流通業者と一般消

費者,及び流通業者である各販売店は,端末を備え,通信ネットワー

クを介してウェブサーバーやホストコンピュータに接続されるもの




と考えることが自然である」と認定しているが,誤りである。

まず,出品業者や一般消費者が,商品データ入力や商品データ取得

のために,ウェブサーバー6に接続されているとしても,ホストコン

ピュータ9には接続されていない。次に,入札者である各販売店(図

1における販売店B)が端末を備えることは引用発明には記載も図示

もされておらず,そもそも,前述のとおり,販売店の買い手がオーク

ション会場まで出かけて行くのであるから,各販売店端末が通信ネッ

トワークを介してホストコンピュータ9にもウェブサーバー6にも

接続されるということはあり得ない。

したがって,「入札者である各販売店が,端末を備え,通信ネット

ワークを介してウェブサーバーやホストコンピュータに接続される

もの」と考えることは,むしろ不自然である。

c 審決は,上記の誤った認定に基づき,「してみると,引用発明と本

願発明とは,後記する相違点があるものの,『通信ネットワークを介

して端末と接続されたコンピュータにより,中古車オークションにお

いて商品の入札を受け付ける方法である点』で共通する」と認定する

が,これは前述のとおり誤りである。「後記する相違点がある」ので

あれば,その相違点を認定すべきであるところ,それを無視して,上

記点で共通するとの審決の認定はあまりにもずさんである。

d 審決は,この誤った認定に基づいて,「(してみると,引用発明と

本願発明は,)『通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピ

ュータより,中古車オークションにおいて商品の入札を受け付ける方

法であって,』である点で一致する」旨認定しているが,この一致点

の認定は誤りであり,相違点を看過している。

(ウ) 接続端末からの入札

a 審決は,「さらにここで引用発明の『オートオークション会場自体




の競売システム』は,オークションの入札者の端末から,入札者を特

定するデータと,入札する商品に対する入札条件に係るデータとを送

信し,入札条件に係るデータに基づいて取引の成否を決定するもので

あると考えることが自然である。」と認定するが,誤りである。

引用発明には,会場オークションの入札者の端末から,入札者を特

定するデータと入札する商品に対する入札条件に係るデータとを送

信するとの記載も図示もない。前述のとおり,そもそも,引用発明に

おけるオークションは会場競売であることから,販売店の買い手(入

札者)がオークション会場まで出かけて行きオークション会場で入札

をするのであって,入札者が入札者端末からホストコンピュータ9に

入札データを送信するものであると考えることが自然であるという

ことはない。そのような記載もないのに,審決が「入札者が入札者端

末からホストコンピュータ9に入札データを送信するものであると

考える」ことは,正に本願発明を知った上での後知恵であり,そのよ

うな後知恵によって本願発明の進歩性を否定することは違法である。

b 上記の誤った認定に基づき,審決は,「(してみると,引用発明と

本願発明は,)『出品取消連絡を受け付けなかった場合に,第一のオ

ークションの入札者の端末から,当該入札者を特定する入札者データ

を受け付けて記憶部に記憶し,入札者の端末からの商品に対する入札

条件を示す第一の入札データを受け付けて記憶する第一の入札デー

タ受付ステップ』と,

『第一の入札データ受付ステップにて受け付けた第一の入札データ

に基づいて,第一のオークションにおける第一の取引の成否を決定す

る第一の取引決定ステップ』と,を有する点で共通する。」と認定す

るが,これは誤りである。前述のとおり,引用発明には,会場オーク

ションの入札者の端末から,入札者を特定するデータと入札する商品




に対する入札条件に係るデータとを送信するとの記載も図示もない

のである。

そもそも,引用発明におけるオークションは会場競売であることか

ら,販売店の買い手(入札者)がオークション会場まで出かけて行き

オークション会場で入札をするのであって,入札者が入札者端末から

ホストコンピュータ9に入札データを送信するものであると考える

ことが自然であるということはない。

c この誤った認定に基づいて,審決は,「(してみると,引用発明と

本願発明は,)前記出品取消連絡を受け付けなかった場合に,前記第

一のオークションの入札者の端末から,当該入札者を特定する入札者

データを受け付けて記憶部に記憶し,当該入札者の端末からの前記商

品に対する入札条件を示す第一の入札データを受け付けて記憶する

第一の入札データ受付ステップと,

前記第一の入札データ受付ステップにて受け付けた前記第一の入

札データに基づいて,前記第一のオークションにおける第一の取引の

成否を決定する第一の取引決定ステップと」である点で一致する旨認

定するが,この一致点の認定は誤りであり,相違点を看過している。

(エ) 単一のコンピュータ

a 本願発明は,請求項1に記載されているように,単一の『前記コン

ピュータ(10)』が,複数のオークションを提供し,複数のオークショ

ンの各ステップを遂行する。したがって,単一のコンピュータ(10)が,

「オークション用出品データ受付→小売→業者向けネットオークシ

ョン→流札→一般向けネットオークション」のすべてを行う。これは,

本願発明が会場オークションではなくインターネットオークション

であることによる特徴の1つであり,この特徴によって,業者向けオ

ークションが流札の場合,商品データ等をそのまま利用して速やかに




一般向けオークションを開始できるという効果が得られる。会場オー

クションの場合には,通常,会場ごとにコンピュータが設けられるの

で,当然ながら,そのような効果は得られない。

実際に,引用発明では,会場競売のために,ウェブサーバー6→会

場ごとのホストコンピュータ9へとデータが転送される。したがっ

て,1個のウェブサーバー6と会場ごとのN個(Nは会場の数)のホ

ストコンピュータ9があり,1+N個のコンピュータが各業務を個別

独立的に遂行する。ホストコンピュータ9は会場ごとに設けられるの

であるから,それらをまとめることはできない。

b したがって,審決の「引用発明の『運営管理者が管理するウェブサ

ーバー』及び『運営管理者のホストコンピュータ』は後記する相違点

はあるものの,本願発明の『コンピュータ』に相当する」との認定は

誤りである。そもそも,「後記する相違点」があるのであれば,相違

点として認定すべきである。

c このように,本願発明の特徴のうち,「(1つの)コンピュータに

より,複数のオークションにおいて商品の入札を受け付ける方法」と

いう点及び「前記コンピュータが各ステップを含む方法。」という点

が引用発明と相違しており,審決はこの相違点を看過している。

(オ) 上記のように,引用発明においてオークションは会場オークションで

あり,販売店端末はホストコンピュータ9に接続されていないのに対し

て,本願発明において第一オークションはネットオークションであっ

て,業者端末がコンピュータに接続されており,当該コンピュータが複

数のオークションを提供するという相違点があるにもかかわらず,審決

はこの重大な相違点(相違点A)を看過した違法がある。

イ 取消事由2(相違点の看過?B)

(ア) 相違点




a 引用発明においては,一般ユーザー向け小売りである第1ステージ

と,業者向け会場オークションである第2ステージとの異なる2段階

の売買ステージしか存在しない。第2ステージで流札になると,再度,

一般ユーザー向け小売りである第1ステージへ差し戻されるだけで

ある。したがって,第3ステージを備える本願発明に比較して,商品

の売買成約の可能性が低い。

b これに対して,本願発明においては,一般向けネットオークション

入札可能者に対する小売りである第1ステージと,業者向けネットオ

ークションである第2ステージと,一般向けネットオークションであ

る第3ステージとの,異なる3段階の売買ステージがある。この異な

る3ステージを備えることにより,商品の売買成約の可能性を高める

という効果が得られる。

審決には,この売買ステージ回数についての相違点(以下「相違点

B」という。)を看過ないし無視した違法がある。

なお,およそ発明は,自然法則を利用した技術思想の創作であるか

ら,特許出願に係る発明と引用発明との比較に際し,引用発明のうち

の一構成要素が他の構成要素と同一であるか否かは,技術思想として

客観的に同一である否かを問題とすべきであって,引用発明に係るシ

ステムを利用する一当事者から見た主観的な観点から同一性を判断

すべきではない。本件についてみると,引用発明に係る中古車販売シ

ステムにおける再度の小売りは,ウェブサーバー6やホストコンピュ

ータ9が管理するオークションではなく,ウェブサーバー6から車両

データ及び販売店Aの情報を得た一般ユーザー7が販売店Aに対し

てダイレクト交渉をするという売買形態であって,最初の小売りと同

一の構成要素である。

また,ここでは,本願発明の第3ステージである一般向け指定オー




クションと,それとは全く異なる引用発明の再度の小売りとの対比を

問題としているのであるから,仮に販売店Aからみて性質が異なると

しても,再度の小売りと一般向け指定オークションとの大きな相違に

比較して,再度の小売りと最初の小売りとの差異は,あまりにも微々

たるものであって,実質的な差異と呼ぶことはできない。

(イ) 小売りとネットオークション

a 売買ステージ回数の相違点に関して,審決は,異なる概念である引

用発明の「再度小売り」と本願発明の「一般向けネットオークション」

とを一致点とすることを目的として,「ここで,引用発明の『ウェブ

に出品しての小売り』と,本願発明の『第1のオークションに参加す

ることができない入札者が参加可能なオークション』とは,『ウェブ

による一般の購買者への販売』という概念に包摂される。」と認定し

ているが,非常に乱暴な上位概念化であり,許されるべきではない。

被告は,引用発明の「相対取引」は,価格形成が交渉当事者にゆだ

ねられる旨主張するが,そのような形態に限定される根拠はなく,典

型的には小売りの形態を採ることに変わりはない。

そして,被告自身が認めるように,相対取引は無競争売買取引であ

り,オークションとは対極的な売買取引であるから,相対取引とオー

クションとを販売という上位概念に包摂することにより本願発明と

引用発明とを同一視することはできない。

再度の小売りからみて,最初の小売りよりも一般向け指定オークシ

ョンの方がはるかに異なる売買形態であることは明らかであるにも

かかわらず,より近い方の売買形態である最初の小売りを性質が異な

るとする被告の主張と,より遠い売買形態である一般向け指定オーク

ションを同一視する被告の主張とは,明らかに矛盾しており,被告の

主張は論理に破綻をきたしている。




b 本願発明はネットオークションの技術分野に係るものであって,小

売りと,それとは異なる売買形態である業者向けネットオークション

及び一般向けネットオークションとを対象としている発明であり,小

売りや各種ネットオークションをどのような順序でどのように組み

合わせていくかということが発明の特徴になっているものである。そ

のような発明の進歩性を判断するに当たり,全く異なる売買形態であ

る「小売り」と「ネットオークション」とを単に「販売」という概念

により包摂して,同一視することは許されない。このような包摂を許

すものとすると,発明の保護を図る特許法の法目的に悖ることにな

る。

c 引用発明では,会場オークションで流札となった出品車両に関し

て,当システム上での売買形態として「再度の小売りと卸売り」しか

開示していないのであるから,それをことさら「販売」という概念に

上位概念化して,本願発明の一致点として認定することは許されな

い。引用発明の「再度小売りと卸売り」をそのまま本願発明の「一般

向けネットオークション」との相違点として認定しなければならな

い。

(ウ) 引用発明では電話等による申込みである

a 引用発明においては,明細書の段落【0024】に記載するように,

会場オークションで流札となった場合には,ウェブに再出品を行い再

度小売りと卸売りの場面に登場させるものであり,審決もそのように

認定している。「再度小売りと卸売りの場面に登場させる」とは,段

落【0016】(小売り)及び【0017】(卸売り)に記載された

小売りと卸売りとを再度行うという意味である。引用発明において

は,購買を希望する一般ユーザー7や販売店Xは,販売店Aに直接に

電子メールを送信したり電話をかけたりすることにより,ウェブサー




バー6の関与なく購買の申込みをするのである(段落【0016】,

【0017】参照)。引用発明における相対取引とは,このような電

話や電子メールによる購買申込みを意味している。

したがって,引用発明における再度の小売りにおいて,購買者が購

買の申込みをするに際し,購買者の端末からの購入要求データをウェ

ブサーバー6が受け付けるということもせず,受け付けた購入要求デ

ータに基づいて取引が行われるということもない。

b 本願発明において,第3ステージである一般向け指定オークション

の各ステップを行う動作主体は,コンピュータ(10)に接続された端末

(21)(図1参照)ではなく,コンピュータ(10)である。

他方で,引用発明における相対取引の取引主体は,販売店Aの人間

であり,販売店Aのパソコンでもなければ,ウェブサーバー6でもホ

ストコンピュータ9でもない。

したがって,引用発明は,上記各ステップを行う主体が,審決が本

願発明の「コンピュータ」に相当すると認定したウェブサーバーやホ

ストコンピュータではない(販売店Aの端末でもない)という点にお

いて,本願発明との明白な主体の相違点(相違点B)がある。

また,引用例1には,審決が認定した「購入要求データ」なるもの

は記載されていない。引用例1における相対取引の第2の例は,電話

による商談(取引)である(段落【0017】)ので,購買者が購入

要求データを送信するということはあり得ない。相対取引の第1の例

において引用例1に記載されているのは,「一般ユーザーから商談メ

ールが入り,ダイレクト交渉の結果,成約となった場合」であり,「購

入要求データ」は引用例1に記載されていない。そして,電話による

商談の場合と同様に,商談メールであっても,電子メールは人間が送

信し,受信した人間が読むものであるから,購買者の端末が「購入要




求データ」を送信することも考えられないし,そのような「購入要求

データ」を受信したパソコンが受け付けて記録するということも考え

られない。

このように,引用発明の商談メールを通じた小売りは,ウェブサー

バー6による運営・管理下の取引ではなく,購買者である一般ユーザ

ー7と販売店Aとの間で「当事者どうしが直接交渉する」ものである。

したがって,引用発明において,「購買者の端末から,購入の要求

に係るデータを(ウェブサーバー6が)受け付けて記憶するデータ受

付ステップ」や,「(ウェブサーバー6が)データ受付ステップで受

け付けた購入の要求に係るデータに基づいて取引が行われる取引決

定ステップ」は存在し得ない。

以上からすれば,「購買者の端末から,購入の要求に係るデータを

受け付けて記憶するデータ受付ステップ…である点で一致」する旨の

審決の認定は明らかに誤りであり,「『一般ユーザー』から『購入要

求データ』である商談メールを受けるのは,引用例1に記載された『販

売店Aのパソコン』である。」旨の被告の主張も誤りである。

審決は,引用発明において購入要求データを受け付ける主体を明ら

かにしていないが,「…前記コンピュータが,…購買者の端末から,

購入の要求に係るデータを受け付けて記憶するデータ受付ステップ

と,データ受付ステップで受け付けた購入の要求に係るデータに基づ

いて取引が行われる取引決定ステップと,を含む」点を,本願発明と

引用発明との一致点であると認定したのであるから,審決10頁の

「コンピュータ」についての認定と併せて理解すると,審決は,引用

発明において「購入要求データ」を受け付ける主体をウェブサーバー

及びホストコンピュータであると認定していることになり,この点で

も誤りを犯している。




また,引用発明には,ウェブサーバーやホストコンピュータにより

受け取られる購入要求データが存在しないという点において,本願発

明との明白な客体の相違(相違点B)がある。

被告は,「引用発明の販売店Aのパソコンは,『ユーザーから購入

要求データを受ける』ものであるから,それが奏する機能にかんがみ

れば,本願の図1における端末(20,21)として示される側のコ

ンピュータではなく,本願の図1における運営管理者側のサーバー

(10)や引用発明のウエブサーバー6の側のコンピュータといえる

ものである」旨主張する。

しかし,販売店Aのパソコンが「購入要求データを受ける」という

ことは,前述のとおり,誤りである。

また,販売店Aのパソコンが,本願発明の一般向け指定オークショ

ンの他のステップを行うということもあり得ないので,「それが奏す

る機能にかんがみれば」の部分も誤りである。

本願発明は,「通信ネットワーク(30)を介して端末(20,21)と接続

されたコンピュータ(10)により,…複数の中古車オークションにおい

て商品の入札を受け付ける方法」であるから,端末(20,21)は通信ネ

ットワーク(30)を介してコンピュータ(10)とは反対側にある(本願発

明の図1参照)。

一方,審決は,引用発明の「ウエブサーバー」及び「ホストコンピ

ュータ」は本願発明の「コンピュータ」に相当する旨,引用発明にお

いて「流通業者である各販売店は,端末を備え,通信ネットワークを

介してウェブサーバーやホストコンピュータに接続されるものと考

えることが自然である。」旨それぞれ認定し,「してみると,引用発

明と本願発明とは,…『通信ネットワークを介して端末と接続された

コンピュータにより,中古車オークションにおいて商品の入札を受け




付ける方法』である点で共通する」と認定している。これらの認定か

ら,引用発明における各販売店が備える端末の1つである「販売店A

のパソコン」は,通信ネットワークを介してウェブサーバーやホスト

コンピュータとは反対側にあると理解すべきであるということが導

かれる。そうすると,「販売店Aのパソコンは,…本願の図1におけ

る端末(20,21)として示される側のコンピュータではなく,本

願の図1における運営管理者側のサーバー(10)や引用発明のウエ

ブサーバー6の側のコンピュータといえるものである。」旨の被告の

主張は誤りである。

このように,被告の「販売店Aのパソコンが『購入要求データ』を

受け取る」という主張は,審決の認定と矛盾するものである。

c 以上からすれば,審決の「ここでさらに引用発明の『ウェブに出品

しての小売り』は,購買者の端末から購入要求データを受け付けて記

録し,購入要求データに基づいて取引が行われるものであると考える

ことが自然である。」との認定は誤りである。前述のとおり,引用発

明における再度の小売りは,最初の小売りと同じように,販売店Aに

ウェブサーバー6の関与なく直接に電子メールを送信したり電話を

かけたりすることにより購買の申込みをするのであるから,購買者の

端末から購入要求データを受け付けると解するのは誤りである。

(エ) 審決の認定の誤り

a 審決は,上記の誤った認定に基づいて,「してみると,引用発明と

本願発明とは,『第一のオークションにおいて第一の取引が成立しな

かった場合に,第一のオークションに参加できない一般の購買者が参

加可能な販売であって,購買者の端末から,購入の要求に係るデータ

を受け付けて記憶するデータ受付ステップと,データ受付ステップで

受け付けた購入の要求に係るデータに基づいて取引が行われる取引




決定ステップ』を有する点で共通する」と認定するが,これは誤りで

ある。

b 審決は,上述の誤った認定に基づき,「(してみると,引用発明と

本願発明は,)『前記第一のオークションにおいて前記第一の取引が

成立しなかった場合に,第一のオークションに参加できない一般の購

買者が参加可能な販売であって,購買者の端末から,購入の要求に係

るデータを受け付けて記憶するデータ受付ステップと,データ受付ス

テップで受け付けた購入の要求に係るデータに基づいて取引が行わ

れる取引決定ステップと,を含む方法。』である点で一致」すると認

定しているが,この一致点の認定は誤りであり,相違点を看過してい

る。

(オ) 前述のとおり,審決は,引用発明が第3ステージを有しないという点

を看過し,引用発明の「再度小売り」と本願発明の「一般向けネットオ

ークション」とを違法に「販売」という上位概念を導入して同一視し,

さらに,引用発明の「再度小売り」においてウェブサーバー6が購買者

端末から購入要求データを受け付けると誤って理解したことにより,前

記(エ)のとおり,有意な相違点を看過した重大な違法がある。

ウ 取消事由3(相違点の看過?C)

(ア) 相違点

a 引用発明においては,段落【0016】及び【0017】に記載さ

れるように,相対取引は出品販売店と一般ユーザー7又は販売店Xと

の間で行われる。一般ユーザー7は,その商品の売買が成約しなかっ

た場合に業者向け会場オークションにかけられることを,相対取引の

時点においては知らない。業者向け会場オークションにかけられた時

点においても,業者ではない一般ユーザー7はそのことを依然として

知らない。




b これに対して,本願発明の小売りは,請求項1において「一般向け

指定オークションの入札者に閲覧可能とし」との限定があるように,

単なる一般ユーザーではなく,一般向け指定オークション(第二のオ

ークション)の入札者が購入可能であるという点において,引用発明

と異なる(以下「相違点C」という。)。本願発明は,このような特

徴を有するために,第1ステージの小売りの段階において,一般向け

指定オークション入札者は,後に自身が参加できる一般向け指定オー

クション(第3ステージ)が提供される可能性を知っているので,購

入の作戦を立てることができるという,引用発明からは得られない効

果が得られる。

(イ) 相違点の看過

a 審決は,本願発明の小売りは,単なる一般ユーザーではなく,一般

向け指定オークション(第二のオークション)の入札者が購入可能で

あるという点において,引用発明と異なる(相違点C)ことを看過し

た。

b 審決は,「引用発明の『相対取引』に係る事項は,本願発明の…『出

品者の連絡先を一般向け指定オークションの入札者に閲覧可能』と

し,…との事項に対応する」と誤って対応付けた。また,これらが相

違するにもかかわらず,審決は,これらの相違について何らの検討を

することなく,強引に,「してみると,引用発明と本願発明とは,『第

一のオークションへの入札の受け付けを開始する時期より以前の時

期に,出品者の連絡先を一般向け指定オークションの入札者に閲覧可

能とし,出品者から出品取消連絡を受け付けるステップと』を有する

点で共通する」と誤って認定した。

さらに,この誤った認定に基づいて,審決は,「(してみると,引

用発明と本願発明とは,)『第一のオークションへの入札の受付けを




開始する時期より以前の時期に,出品者の連絡先を一般向け指定オー

クションの入札者に閲覧可能とし,出品者から出品取消連絡を受け付

けるステップと…を含む方法』である点で一致」すると誤って認定し,

相違点Cを看過しているので,取り消すべきである。

c 審決は,相違点Cを看過ないし無視した上で,本願発明と引用発明

との一致点として,

「前記第一のオークションへの入札の受け付けを開始する時期より

以前の時期に,出品者の連絡先を一般向け指定オークションの入札者

に閲覧可能とし,出品者から出品取消連絡を受け付けるステップ」を

認定している。

当該ステップに関して審決が認定したこの一致点のうち,「一般向

け指定オークションの入札者」の語頭に「前記」が記されていない。

一方,本願発明に係る請求項の当該ステップでは,「一般向け指定オ

ークションの入札者」の語頭に「前記」が記されている。

審決では,この「前記」を無視して,当該ステップの一致の認定を

しているが,この「前記」は相違点の認定中にも現れていない。審決

は,本願発明を理解せずに,まさに相違点Cを看過したのである。

エ 取消事由4(相違点2の判断の誤り)

(ア) 本願発明の「一般向けネットオークション」が引用発明の「再度小売

り」とは異なる売買形態であって,引用発明との相違点を構成するにも

かかわらず,審決が両者を「販売」という上位概念に包摂されるという

非合理的理由付けにより,一致点と認定したのが誤りであることは,取

消事由2で記載したとおりである。

審決は,その上,一旦上位概念化した「販売」を,次に,引用例3記

載事項Aを適用することにより,都合よく「オークション」に下位概念

化して,本願発明の進歩性を否定している。しかし,発明の進歩性を判




断するために公知技術との対比,相違点の判断をするに当たり,都合よ

上位概念化したり下位概念化することは許されない。本件の場合,引

用例1には,「再度の小売り」を「ネットオークション」に置き換え

ことの示唆がなく,本願発明の出願時の技術常識をもってしても,引用

例1の「再度の小売り」という元の売買形態に戻る手順から出発して,

それとは全く異なる新しい売買形態である「一般向けネットオークショ

ン」へ展開していくという本願発明に到達することは困難である。本願

発明では,「一般向けネットオークション」に展開していくことで,取

引が成立する確率を表す成約率を向上させるという課題を達成してい

る(段落【0014】)ところ,このような課題は引用例1には開示さ

れていない。審決は,「小売り」を「オークション」に置換することの

動機付けや論理付けも示しておらず,この点でも違法である。また,引

用例1の段落【0024】には,「商談解除の文字情報フラッグのボタ

ンをクリックしウェブサーバー6に送信するだけでよい」という「再度

小売り」の利点が記載されている。この利点は,以前行っていた小売り

に再度戻すからこそ得られる利点であって,引用発明の「再度小売り」

を引用例3記載事項Aの「オークション」に置換すると,この利点は得

られなくなる。したがって,引用発明の「再度小売り」を引用例3記載

事項Aの「オークション」に置換することの阻害要因が存在する。

なお,被告が主張する引用発明の「業者による出品の負担を軽減する」

という効果は,引用例1の段落【0024】に記載された「商談解除の

文字情報フラッグのボタンをクリックしウエブサーバー6に送信する

だけでよい。」という効果を指すものと思われるが,この効果は,再度

小売りと卸売りの場面に登場させることにより得られる効果である。し

たがって,このような効果を主張することは,むしろ再度の小売りをオ

ークションに置き換えることの困難性を主張するに等しい。




(イ) 次に,仮に引用発明の「再度小売り」を引用例3記載事項Aの「オー

クション」に置き換えることを許したとしても,以下に述べるように,

審決は違法である。

a 引用例1の段落【0024】において「再度」と明記されているよ

うに,引用発明の「再度小売り」は,段落【0016】,【0017】

で記載されている相対取引である。すなわち,オークションではなく,

電話や商談メールによるダイレクト交渉である。

仮に,審決のように,引用発明の「再度小売り」を引用例3記載事

項Aを適用して「オークション」に置き換えるものとすると,「再度

小売り」と同じ「最初の小売り」も引用例3記載事項Aを適用して「オ

ークション」に置き換えなくてはならない。引用発明の「小売り」を

引用例3記載事項Aを適用して,「オークション」に置き換えた発明

は,

一般ユーザ向けオークション



業者向け会場オークション(流札後,再度一般ユーザ向けオー

クションに戻る)

という発明になって「小売り」がなくなり,本願発明とは全く異なる

ものとなる。

b 最初の「小売り」を置き換えずにそのままにしておきながら,都合

よく「再度の小売り」だけを引用例3の「オークション」に置き換え

ることは許されない。引用発明には,最初の「小売り」を置き換え

にそのままにしておきながら,都合よく「再度の小売り」だけを引用

例3の「オークション」に置き換えることの動機付けもなく,本願発

明の第3ステージに到達するためにしたはずであるという示唆も存

在しない。審決は,知財高裁平成20年(行ケ)第10096号事件




判決〔回路用接続部材事件〕の判示に反するものである。

被告は,「再度の小売りだけをオークションに置き換えること」の

示唆も動機付けも具体的に何ら示していない。

なお,引用発明の課題は,販売のチャンスを大きくすることではな

く,流通コストの低減である(段落【0004】)。この課題に沿っ

て,引用発明では再度小売りと卸売りの場面に登場させることにより

処理を簡素に済ませている(段落【0024】)ので,「再度の小売

り」を「ネットオークション」に置き換えることの動機付けが実際に

は存在せず,動機付けがあるとする被告の主張は失当である。

(ウ) したがって,相違点2に関して,本願発明が容易に想到できるとした

審決の認定は誤りである。

オ 小括

以上のとおり,審決は,本願発明と引用発明との重大な相違点を看過し,

また,認定した相違点に関しても本願発明が容易想到であると誤って判断

し,その結果本願発明の進歩性を否定したものであり,違法として取り消

されるべきである。

2 請求原因に対する認否

請求の原因(1)ないし(3)の各事実は認めるが,(4)は争う。

3 被告の反論

審決の認定判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

(1) 取消事由1に対し

ア オークションに関する主張の誤り

原告は,本願発明は「インターネットオークション」であり,引用発明

は「古典的な会場オークション」である旨主張するが,これは,本願発明

及び引用発明を誤って解したものであって,失当である。

すなわち,以下のとおり,本願発明は,明細書(甲6。以下「本願明細




書」という。)の発明の詳細な説明の記載を参酌して特許請求の範囲の請

求項1の記載をみても,「インターネットオークション」である旨特定す

るものではない。

また,引用発明が,「通信ネットワーク」で端末から入札データを送信

する中古車の「オークション」であることは,引用例1の出願当時の技術

常識にかんがみて明らかである。

(ア) 本願発明

a 本願発明につき

本願発明は,以下のとおり分説できる。

「(a) 通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータによ

り,落札した場合に少なくとも登録手続及び納品手続のサービス

が受けられる処理を提供する複数の中古車オークションにおい

て商品の入札を受け付ける方法であって,

(b) 前記コンピュータが,

(c) 前記複数のオークションに含まれる第一のオークションの出品

者の端末から,当該出品者を特定する出品者データを受け付けて

記憶部に記憶した業者向けオークションの出品者認証テーブル

の出品者データと比較することにより当該出品者を認証する出

品者認証ステップと,

(d) 前記出品者の端末から,前記第一のオークションに係る商品に

関する情報,前記第一のオークションにおいて流札した場合に出

品する別の一般向け指定オークションに関する情報,前記商品を

直接前記出品者から購入するための前記出品者の連絡先,及び,

出品情報を閲覧可能とする時期を指定するデータ,を含んで構成

する出品データを受け付けて記憶する出品データ受付ステップ

と,




(e) 前記第一のオークションへの入札の受け付けを開始する時期よ

り以前の時期であって前記出品データにおいて指定された時期

に,前記出品者の連絡先を前記一般向け指定オークションの入札

者に閲覧可能とし,前記出品者から出品取消連絡を受け付けるス

テップと,

(f) 前記出品取消連絡を受け付けなかった場合に,前記第一のオー

クションの入札者の端末から,当該入札者を特定する入札者デー

タを受け付けて記憶部に記憶した業者向けオークションの入札

者認証テーブルの入札者データと比較することにより当該入札

者を認証する第一の入札者認証ステップと,

(g) 前記第一の入札者認証ステップにより認証が完了した当該入札

者の端末からの前記商品に対する入札条件を示す第一の入札デ

ータを受け付けて記憶する第一の入札データ受付ステップと,

(h) 前記第一の入札データ受付ステップにて受け付けた前記第一の

入札データに基づいて,前記第一のオークションにおける第一の

取引の成否を決定する第一の取引決定ステップと,

(i) 前記第一のオークションにおいて前記第一の取引が成立しなか

った場合に,前記複数のオークションに含まれ,前記第一のオー

クションに参加することができない入札者が参加可能なオーク

ションであって,前記出品データにおいて指定された別の一般向

け指定オークションの入札者の端末から,当該入札者を特定する

入札者データを受け付けて記憶部に記憶した前記別の一般向け

指定オークションの入札者認証テーブルの入札者データと比較

することにより当該入札者を認証する別の入札者認証ステップ

と,

(j) 前記別の一般向け指定オークションの入札者の端末からの前記




商品に対する入札条件を示す別の入札データを受け付けて記憶

する別の入札データ受付ステップと,

(k) 入札データ受付ステップにて受け付けた前記別の入札データに

基づいて別の取引の成否を決定する別の取引決定ステップと,

(l) を含む方法。」

b 本願発明の各段階

上記aの摘記事項(a)?(k)の各ステップを,時間順に整理すると,

以下のとおりとなる。

・本願発明は,まず摘記事項(c)の「出品者認証ステップ」と,摘記

事項(d)の「出品データ受付ステップ」とからなる段階を有する 「出


品の段階」)。

・次に本願発明は,摘記事項(e)の「前記第一のオークションへの入

札の受け付けを開始する時期より以前の時期であって前記出品デ

ータにおいて指定された時期に,前記出品者の連絡先を前記一般向

け指定オークションの入札者に閲覧可能とし,前記出品者から出品

取消連絡を受け付けるステップ」からなる段階を有する(「本願発

明の第一の段階」)。

・次に本願発明は,摘記事項(f)の「第一の入札者認証ステップ」と,

摘記事項(g)の「第一の入札データ受付ステップ」と,摘記事項(h)

の「第一の取引の成否を決定する第一の取引決定ステップ」とから

なる段階を有する(「本願発明の第二の段階」)。

・次に本願発明は,摘記事項(i)の「別の入札者認証ステップ」と,

摘記事項(j)の「別の入札データ受付ステップ」と,摘記事項(k)の

「別の取引の成否を決定する別の取引決定ステップ」とからなる段

階を有する(「本願発明の第三の段階」)。

・ここで,本願発明の第二の段階は,「第一の(業者向け)中古車オ




ークション」であり,本願発明の第三の段階は,「別の一般向け指

定オークション」であり,これらの「オークション」で「複数の中

古車オークション」が構成される。

・本願発明は,上記摘記事項(a)のとおり,以上の段階からなるステ

ップを有するものであって,「通信ネットワークを介して端末と接

続されたコンピュータにより,落札した場合に少なくとも登録手続

及び納品手続のサービスが受けられる処理を提供する複数の中古

車オークションにおいて商品の入札を受け付ける方法」の発明であ

る。

・つまり,「通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュー

タ」が,「複数の中古車オークション」において,「商品の入札を

受け付ける」ための各段階のステップを有し,その「複数のオーク

ション」は,「落札した場合に少なくとも登録手続及び納品手続の

サービスが受けられる処理を提供する」ものである。

c 本願発明のオークション

原告は,本願発明は,「インターネットオークション」を特定する

と主張するが,前記aの摘記事項(a)で特定されるように,本願発明

のオークションは「通信ネットワークを介して端末と接続されたコン

ピュータにより,落札した場合に少なくとも登録手続及び納品手続の

サービスが受けられる処理を提供する複数の中古車オークション」と

の事項で特定されるオークションである。

そして,以下のとおり,発明の詳細な説明の記載の全体をみても,

本願発明は,原告が主張する「インターネット」上で開催される「オ

ークション」と特定されるものではなく,「通信ネットワーク」で端

末から入札データを送信する「オークション」を特定するにとどまる。

すなわち,まず本願明細書(甲6)の段落【0003】の記載によ




れば,「通信ネットワーク」が「インターネット」を含むものと確認

される。

また,本願明細書の段落【0007】の従来技術である「特開20

03?30288号公報」(乙1)の図1に係る発明の詳細な説明

記載をみても,「インターネット等の公衆通信網7」を含むネットワ

ーク(5,6,7)が構成され,これを「通信ネットワーク」である

としていることから,やはり「通信ネットワーク」が「インターネッ

ト」を含むものと確認される(なお,以後の発明の詳細な説明の記載

には,「通信ネットワーク」は登場するが,「インターネット」は登

場しない。)。

本願明細書の段落【0002】ないし【0007】を含む,発明の

詳細な説明の記載の全体をみれば,確かに原告が主張するように,本

願発明は,インターネットで実現され得るものではある。

しかし,本願発明の「オークション」は,「通信ネットワークを介

して端末と接続されたコンピュータ」が「商品の入札を受け付ける」

ための各ステップを有することと特定されるにとどまる。

そして,「通信ネットワーク」とは,その技術的理解はさておき,

上記のとおり,本願発明の発明の詳細な説明の記載の全体をみれば,

インターネット」を含むものの,「インターネット」のみを特定す

るものではないことは明らかである。

以上からすれば,本願発明における「オークション」は,請求項1

に記載された「通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュ

ータにより,落札した場合に少なくとも登録手続及び納品手続のサー

ビスが受けられる処理を提供する複数の中古車オークション」で特定

される「オークション」にとどまるものであるところ,それは「イン

ターネットオークション」を包含するとはいえ,「インターネット




ークション」を特定するものではないから,原告が本願発明は「イン

ターネットオークション」を特定すると主張する点は失当である。

なお,原告は,本願発明が「インターネットオークション」である

ことを,コンピュータの数をも根拠として主張するが,当該原告の主

張も失当であることも,後記イのとおりである。

(イ) 引用例1

a 引用例1の図1につき

(a) 引用例1(甲1)の図1には,「ウエブの運営管理者」が管理す

る「ウエブサーバー6」が記載され,「画像」と「状況説明書」の

情報が記録されている。

(b) 引用例1(甲1)の段落【0009】ないし【0012】の記載

によれば,図1において,「販売店A」の「中古車」の「出品」は

「端末機」により行われ,「ウエブサーバー6」に入力することに

より「出品」となることがわかる。

(c) 引用例1(甲1)の,「相対取引」の第1の例としての段落【0

016】の記載からすれば,図1において,「一般ユーザー」は,

「一般ユーザーのパソコン8」で「ウエブサーバー6」を「ネット

訪問」し,「出品車を閲覧」し,「販売店Aのパソコン8」に「商

談メール」を入れて「ダイレクト交渉」し,成約した場合には,「販

売店A」は,(「公衆回線経由」で「商談進捗情報」である)「成

約済の文字情報フラッグ5」を「ウエブサーバー6」に立てること

がわかる。

(d) 引用例1(甲1)の,「相対取引」の後に行われる「オートオー

クション」に関する段落【0020】,【0021】の記載からす

れば,図1において,「相対取引」で「未成約車両」の「車両デー

タ」は,「ウエブの運営管理者4」が「オートオークション主催者」




となった「オートオークション会場」の「オートオークション側ホ

ストコンピュータ9」及び「画像処理機(サーバー)」へ「転送」

され,「オートオークション会場」自体の「競売システム」で,「ホ

ストコンピュータ9にて流通業者である販売店間の競売」にかけら

れることがわかる。

この「オートオークション会場」の「競売システム」による「オ

ートオークション」への参加者は「販売店X」である。

(e) 引用例1の,「オートオークション」の売れ残りの中古車に関す

る段落【0024】の記載からすれば,図1において,「オートオ

ークション」の「売れ残り」の中古車は,「ウエブサーバー6」に

「再出品」されることがわかる。

b 引用発明のオークション

(a) 「刊行物に記載された発明」の認定に関し,「特許庁の審査基準

第 II 部 第2章 新規性進歩性」(乙2)には,以下の各記載

が存在するところ,これらの記載を参酌して,「オートオークショ

ン会場」の「競売システム」による「オートオークション」との事

項がいかなる事項であるのか,以下反論する。

・「1.5.3 第29条第1項各号に掲げる発明として引用する

発明(引用発明)の認定」

「(3) 刊行物に記載された発明

@「刊行物に記載された発明」は,「刊行物に記載されている

事項」から認定する。記載事項の解釈にあたっては,技術常

識を参酌することができ,本願出願時における技術常識を参

酌することにより当業者が当該刊行物に記載されている事

項から導き出せる事項(「刊行物に記載されているに等しい

事項」という。)も,刊行物に記載された発明の認定の基礎




とすることができる。すなわち,「刊行物に記載された発明」

とは,刊行物に記載されている事項及び記載されているに等

しい事項から当業者が把握できる発明をいう。」(乙2の9

頁19行?24行)

・「(注)技術常識とは,当業者に一般的に知られている技術(周

知技術,慣用技術を含む)又は経験則から明らかな事項をいう。」

(乙2の3頁13行?14行)

(b) 引用例1の出願日である平成12年8月30日より前である平

成11年11月30日に出願公開された「特開平11?32827

1号公報」(発明の名称「オークションシステム」,出願人 トヨ

タ中古自動車販売株式会社。乙3)の段落【0001】ないし【0

004】の記載によれば,オークション会場で開催される中古車の

オークションは,従来は,購入者のパソコン等の端末と衛星通信回

線を介して,購入者がオークション会場に赴くことなく入札するこ

とが可能であったこと,乙3の段落【0005】,【0006】及

び【0027】の記載によれば,複数のオークション会場間と,各

オークション会場と購入者のパソコン等の端末を,公衆電話回線網

で結ぶこと,その際,オークション会場には,車両の画像及び車両

状態図とを記憶した合成装置と,自動せり機とを備えることが理解

できる。

(c) 引用例1の出願日である平成12年8月30日より前の2000

年(平成12年)5月25日に頒布された,『テクノ2000?技

術の進展・成果?,C&Cシステム,ビジネスシステム,NEC技

報 第53号 第5号 58ページ,日本電気株式会社』(乙4)

の下欄には,以下の事項が記載されている。

「トヨタ中古車オークション中部会場システム稼働




NECはトヨタ中古自動車販売(株)殿に対し,LCD机上表示

競りシステムを使用した『マルチ会場リアルタイム中古車オークシ

ョンシステム』を開発し,1999年5月に三重県川越町にオープ

ンしたトヨタオートオークション(TAA)新中部会場に導入しま

した。新中部会場は,本会場とTAA関東会場,および本会場とT

AA沖縄会場とをISDNで接続した最新鋭のネットワークオー

クション会場です。

本会場のシステムの特長は次のようになっています。

(1) マルチ会場リアルタイムオークションを実現

中部会場において,中部会場だけではなく,関東会場のオーク

ションにもリアルタイムで参加できるシステムを実現しました。

本システムは拡張性を備えており,将来は4つの会場の競りに同

時に参加できる機能を持っています。

(2) LCD机上表示競りシステムの採用(写真上)

競り情報と車両情報が各席のLCD机上表示競りシステムに

表示されるため,他人を気にせずに,競りに専念できます。

(3) フル画像オークションシステム(写真下)

大型スクリーン上に表示される中古車画像(中古車の前方と後

方)を見ながら競りに参加します。中古車はすべて事前に中古車

検査システムの最終段階のスタジオで撮影され,画像サーバに登

録されています。」

ここで,同欄の右上には,TAAなる表示をしたディスプレイの

写真があり,右下には,大型スクリーンに車両の映像が表示され,

多くの端末に人が着席する写真がある。

(d) 以上,乙3,乙4によれば,「オークション会場」の「競売シス

テム」が,通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュー




タにより中古車を競売すること,コンピュータが端末の入札データ

を受け付けることにより競売することが,公然と知られ,かつ公然

実施されたものであり,当業者に一般的に知られる技術常識であ

ったことが理解される。この技術常識をもって引用例1をみれば,

「オークション会場」の「競売システム」が,通信ネットワークを

介して端末と接続されたコンピュータにより中古車を競売するこ

と,コンピュータが端末の入札データを受け付けることにより競売

することは明らかである。

(e) なお,乙3,乙4は,トヨタというメーカー系企業が主催するオ

ークションであるが,このように,通信ネットワークを介して端末

と接続されたコンピュータにより中古車を競売することが技術常

識であったことは,以下の証拠からも明らかである。

例えば,「特開平11?25158号公報」(乙5)には,以下

のとおり記載されている。

「図において,ステップ1において,図2に示す如き複数のオーク

ション会場のタイプの中から,自分が参加しているオークション会

場のタイプの選択を行う。オークション会場のタイプは,次に示す

如く5種類に分類されている。

@大規模会場

A中規模会場

B小規模会場

Cメーカー系会場

Dテレビオークション

大規模会場は,全国の主要オークション会場で,中規模会場は,

出品台数が1000台程度の会場で,小規模会場は,出品台数が5

00台程度の会場で,メーカー系会場は,メーカー系企業(例えば,




トヨタ,日産等)が主催する会場,テレビオークションは,衛生放

送を利用して参加者がテレビ画像のモニターを見ながら各中古車

の価格入札を行うものである。」(段落【0016】)

また,「特開平7?21280号公報」(乙6)には,従来技術

として,以下のとおり記載されている。

・【従来の技術】「一般の業界,たとえば中古車市場あるいは食肉市

場などの競り会場においては,すでに自動化された入札処理システ

ムが導入されている。」(段落【0002】)

・「この入札処理システムは,競り会場において,ある物件に対して,

各競り人がそれぞれの入札器からキ?入力することにより入札価

格を入力し,入札処理機によりこれら各入札価格の高低を判断して

自動的に落札価格を決定し,落札業者を決めるシステムである。」

(段落【0003】)

このほか,引用例1の出願日の直後である2000年(平成12

年)10月23日に刊行された『川又英紀,強い企業のシステム戦

略 オークネット,独自の中古車販売システムで急成長,日経コン

ピュータ no.507,日経BP社,234?239頁』(乙7)

の235頁左欄11行?13行には,

「現在オークネットが利用している電子オークション・システム

は,1996年に再構築したものだ(図2)。」

と記載され,235頁の図2には,オークネットのオークション専

用のホスト・コンピュータが中古車販売業者のオークネット端末と

公衆網と中継点と専用線網とを介して接続され,中古車のオークシ

ョンを開催することが記載されている。

以上のとおり,「オークション会場」の「競売システム」が,通

信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより中




古車を競売すること,コンピュータが端末の入札データを受け付け

ることにより競売することが,公然と知られ,かつ公然と実施され

たものであり,当業者に一般的に知られる技術常識であったことか

ら,「オートオークション会場」の「競売システム」による「オー

トオークション」とは,通信ネットワークを介して端末と接続され

たコンピュータにより中古車を競売すること,コンピュータが端末

の入札データを受け付けることにより競売することが明らかであ

る。

このように,原告による,引用発明は「古典的な会場オークショ

ン」である旨の主張は失当である。

(ウ) 以上のとおり,本願発明は「インターネットオークション」を特定す

る旨,及び引用発明は「古典的な会場オークション」である旨の原告の

主張は失当である。

イ コンピュータの数に関する主張の誤り

原告は,本願発明は「単一のコンピュータ」であり,引用発明は多数の

コンピュータからなる旨主張するが,これは,本願発明及び引用発明を誤

って解したものであって,失当である。

(ア) 原告は,「本願発明は,請求項1に記載されているように,単一の『前

記コンピュータ(10)』が,複数のオークションを提供し,複数のオーク

ションの各ステップを遂行する」旨主張する。

本願明細書の,図1及び図2に示される実施例についての段落【00

45】,【0046】の記載からすれば,本願発明を実現するコンピュ

ータシステム1の構成について,図1のコンピュータシステム1は,サ

ーバ10,端末群20及び21,通信ネットワーク30から構成して,

複数のオークション(第一のオークションと別のオークション)を管理

し,図2のコンピュータシステム1は,サーバ10,端末群20,サー




バ11及び端末群21を通信ネットワーク30を介して接続して,複数

のオークション(第一のオークションと別のオークション)を管理する

ものといえる。

そこで,本願発明と照らし合わせると,請求項1に記載された「通信

ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより,落札した

場合に少なくとも登録手続及び納品手続のサービスが受けられる処理

を提供する複数の中古車オークションにおいて商品の入札を受け付け

る方法」を達成する同「コンピュータ」に相当するものは,図1及び図

2のサーバ10,又は図2のサーバ10及びサーバ11であるといえる

から,原告が主張する「1つのコンピュータ(単一コンピュータ)」に

特定されるものとはいえない。

そうすると,本願発明は単一コンピュータ(1つのコンピュータ)が

複数のオークションを提供し,複数のオークションの各ステップを遂行

するとの原告の主張は失当である。

(イ) 原告は,「多数の端末に接続された1つのコンピュータが複数のオー

クションを提供するという形態は,通常,インターネットオークション

でしか実現できないので,本願発明で用いるオークションは,ネットオ

ークション,すなわちインターネットオークションである」旨主張する。

まず,複数のオークションを提供するのが1つのコンピュータである

との主張が失当であることは,上記(ア)のとおりである。

仮に,1つのコンピュータが複数のオークションを提供するとして

も,その形態が,通常,インターネットオークションでしか実現できな

いとの点についても,以下のとおり失当である。

例えば,1つのコンピュータが複数のオークションを提供するに当た

り,そのオークションが,リアルオークションとインターネットオーク

ションとを含む複数のオークションを提供する事例が,以下のとおり知




られている。

平成14年10月2日に公開された「特表2002?532789号

公報」(乙8)には,インターネットによるオークションとライブのリ

アルタイム,オンサイト・オークションとを統合すること,段落【00

24】の記載を引用しつつ図5で説明すると,3つの個別の段階を有す

るものであって,オークション前のオンラインの入札段階で最大委任価

格を受け付けること,ライブ・オークション段階で会場のライブ・オー

クションが行われること,最後に最大委任価格と会場とでオークション

を開催することが開示されている。

ここで,インターネットで受け付ける最大委任価格とは,インターネ

ットオークションのよく知られる「自動入札」に当たる。

乙8の図5を簡単に説明すると,第一段階で,価格と会場のコンピュ

ータが入札する最大委任価格とをオンラインで受け付けること,第二段

階で,第一段階の最終価格から現実のライブ・オークションを会場内で

行うこと,第三段階で,第二段階の最終価格と,第一段階で受け付けた

最大委任価格とでオークションを開始することが記載されている。

以上のとおり,1つのコンピュータが複数のオークションを提供する

ことは周知の事項であるから,インターネットオークションでしか実現

できないとの原告の主張は根拠がない。

(ウ) 原告は,引用発明が,ウェブサーバー6と会場ごとのホストコンピュ

ータ9とを用い,会場に設置されたホストコンピュータ9の数はオート

オークション会場の数だけあるから,ウェブサーバー6と多数のホスト

コンピュータ9を1つにまとめることの必要性もなく,また,1つにま

とめることも物理上不可能である旨主張する。

しかし,引用例1(甲1)の段落【0021】の記載からすれば,各

会場ごとに保有されている上記競売システムが,システム的には類似し




ているから(すなわち,各会場ごとのオートオークション側ホストコン

ピュータ9による競売システムが単に会場分だけ並列に存在する。),

その点の言及をしないことが記載されているところ,これを,多数の会

場のホストコンピュータであると解し,ウェブサーバーと多数のホスト

コンピュータとにより構成されるとの原告の主張は,引用発明を誤って

解するものである。

そうすると,本願発明は1つのコンピュータであるのに対し,引用発

明は会場ごとに多数のコンピュータがあり,これをまとめることはでき

ない旨の原告の主張は失当である。

(エ) 以上のとおり,審決が,「引用発明の『運営管理者が管理するウェブ

サーバー』及び『運営管理者のホストコンピュータ』は後記する相違点

はあるものの,本願発明の『コンピュータ』に相当する。」と認定した

点に誤りはない。

なお,原告は,「そもそも,『後記する相違点』があるのであれば,

相違点として認定すべきである」と主張するが,審決は,この「後記す

る相違点」を「相違点1」?「相違点6」と認定している。

(オ) 以上のとおり,複数のオークションを1つのコンピュータで開催する

のは「インターネットオークション」しかあり得ない旨,及び本願発明

は1つのコンピュータであるのに対し,引用発明は会場ごとに多数のコ

ンピュータがあり,これをまとめることはできない旨の原告の主張は,

いずれも失当である。

ウ ネットワークの接続に関する主張の誤り

(ア) 原告は,引用発明の販売店や販売店端末はホストコンピュータに接続

されていない旨主張するが,失当である。

引用発明は,販売店Xが,オークション会場の競売システムが開催す

るオークションに参加するものである。




中古車の「オークション会場」の「競売システム」において,通信ネ

ットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより競売するこ

と,及び同コンピュータが端末からの入札データを受け付けることによ

り中古車を競売することが当該技術分野の「技術常識」であったことは,

前記アのとおりである。

審決は,「ここで,流通業者と一般消費者,及び流通業者である各販

売店は,端末を備え,通信ネットワークを介してウエブサーバーやホス

トコンピュータに接続されるものと考えることが自然である。」と認定

したところ,これは,流通業者(販売店A)と一般消費者(一般ユーザ

ー)がウェブサーバーに接続され,流通業者である各販売店(販売店X)

がホストコンピュータに接続されることを認定したものである。

そして,この各販売店(販売店X)が,通信ネットワークを介して端

末から入札し,ホストコンピュータが入札データを受け付けることは,

前記アで示した「技術常識」からこれまた明らかである。

なお,ある者がIDとパスワードでコンピュータに接続した端末は,

ある者の端末となるから,端末が販売店が管理するものかオークション

開催者が管理するものかを議論する意味はない(なお,原告が主張する

「販売店端末」は,引用例1には見当たらない。)。

(イ) 原告は,「引用発明の図1には,販売店Bがdata処理サーバー9

(ホストコンピュータ9)と代金及び書類のやり取りをする様子が描か

れているが,決して販売店端末がホストコンピュータ9に接続されてい

るわけではない。」と主張するが,代金及び書類のやり取りは成約後の

事項であり,これらの点は,引用発明が「古典的なオークション」であ

ることの根拠にはならない。

(ウ) 以上のとおり,審決が,引用発明と本願発明との対比において,「し

てみると,引用発明と本願発明とは,後記する相違点があるものの,『通




信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより,中古車

オークションにおいて商品の入札を受け付ける方法』である点で共通す

る。」と認定し,その一致点として,「通信ネットワークを介して端末

と接続されたコンピュータより,中古車オークションにおいて商品の入

札を受け付ける方法であって」と認定したことに誤りはない。

エ 入札データに関する主張の誤り

(ア) 原告は,引用発明は入札に必要なデータがホストコンピュータに送信

されるものではない旨主張しており,同主張は,引用発明が古典的な会

場オークションであるとの点に基づいている。

しかし,引用発明は,古典的な会場オークションではないから,原告

の主張は失当である。

(イ) 原告は,「引用発明には『入札者端末から入札データを受け付ける』

との記載もなくそのように考えることは自然ではない」旨,「会場ごと

のホストコンピュータ9が販売店端末からの入札データをインターネ

ットを介して受け付けるということもない」旨,「引用発明には,会場

オークションの入札者の端末から,入札者を特定するデータと入札する

商品に対する入札条件に係るデータとを送信するとの記載も図示もな

い」旨,「審決が『入札者が入札者端末からホストコンピュータ9に入

札データを送信するものであると考える』ことは,正に本願発明を知っ

た上での後知恵であり,そのような後知恵によって本願発明の進歩性

否定することは違法である」旨,それぞれ主張する。

しかし,中古車のオークション会場の競売システムにおいて,通信ネ

ットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより競売するこ

と,及び同コンピュータが端末からの入札データを受け付けることによ

り中古車を競売することは,前記アのとおり,当該技術分野の「技術常

識」であった。




そして,コンピュータが端末の入札データを受け付ける際に,入札者

の端末から,入札者を特定するデータと入札する商品に対する入札条件

に係るデータとを送信することは,端末からの入力データに基づいてコ

ンピュータが所要のデータ処理を行うに当たり入力データの特定は必

須であることから,技術常識といえる事項にすぎない。

その際,本願発明がインターネットを特定するものではないことは,

前記アのとおりであるから,原告の上記主張は失当である。

オ 審決の対応整理に関する主張の誤り

原告は,審決が,引用発明と本願発明との相違する事項を「対応する」,

「相違点はあるものの?対応する」として一致点を認定するのは誤りであ

る旨主張するが,これは,審決を正解しないものであり,失当である。

審決は,その10頁8行?15頁2行において,引用発明と本願発明と

の「対比」による認定事項を説示したが,具体的には,まず10頁9行?

26行において,引用発明と本願発明との構成全体における対応を整理

し,10頁27行?13頁下から5行において,引用発明と本願発明との

構成要素ごとの比較分析を通して両者の一致点を認定し,13頁下から4

行?15頁2行において,両者の相違点([相違点1]?[相違点6])

を認定したものである。

つまり,原告が主張する「対応する」とした部分である10頁9行?2

6行は,一致点や相違点の認定ではなく,一致点や相違点を認定する際,

引用発明のどの部分と本願発明のどの部分とを対応させて一致点や相違

点を認定したのか,その対応を整理して明示したものであるから,審決は,

「対応する」ことや「相違点はあるものの?対応する」ことから,「一致

点」や「相違点」を認定したものではなく,原告の主張は失当である。

なお,発明の進歩性の判断に当たっては,「技術常識」であって引用例

に記載されるも同然である事項や,当然にそのように解釈される事項につ




いては,引用例に開示があるものとして判断されるべきであり,商取引に

係る発明の進歩性の判断にあっても当然にそうあるべきことは,前記アの

とおりである。

以上のとおりであるから,引用例が属する技術分野における「技術常識

をもって引用例に接すれば,引用例に開示があるも同然である事項や,当

然にそのように解釈される事項について「自然である」と判断することは

違法でない。

(2) 取消事由2に対し

ア 販売のステージに関する主張の誤り

原告は,本願発明が3つの販売のステージを有するのに対して,引用発

明は2つの販売のステージしかない旨主張するが,これは,引用発明を誤

って解したものであり,失当である。

(ア) 中古車の販売

中古車については,「販売の価格が一義的に決まらないこと」 「販
及び

売の価格は需要と供給との関係で決まり,人気がある中古車はより早い

時期により高値で売れること」が知られている。

つまり,より早い時期に売れる中古車は,より人気のある中古車であ

る。

一方,なかなか売れない中古車は,人気のない中古車であり,需要が

低く,高値での販売が望めないものである。

このように,中古車の販売は,時間の経過とともに販売の性質が異な

るものであって,以上を前提として引用例1をみれば,販売店Aにとっ

て,一般ユーザーとの相対取引と,販売店Xとの会場オートオークショ

ンによる販売とを経た,売れ残りの中古車は,人気のない中古車であり,

需要が低く,高値での販売が望めないものであるから,そのような中古

車を再度ウェブに登場させ,一般ユーザーへ販売するとしても,販売店




Aにとって,最初の相対取引とは性質が異なる相対取引となる。

つまり,引用発明に係る中古車販売のシステムは,販売店Aからみれ

ば,一般ユーザーとの相対取引と,販売店Xとの会場オートオークショ

ンによる販売と,一般ユーザーとの最初の相対取引とは性質が異なる相

対取引の3段階の販売の段階を有しているといえるものである。

(イ) 引用発明の販売のステージにつき

販売店Aの立場に立ってみれば,引用発明は,相対取引→会場のオー

トオークション→ウェブに再出品に至る3段階の販売の段階を有して

いるといえる。

原告は,引用発明は2つの販売ステージしかないと主張するが,引用

発明の車両データは,ウェブサーバーとホストコンピュータとの間で転

送されるものであり,車両データの所在がウェブサーバーとホストコン

ピュータの二箇所であり,フローチャートで最初の小売りに戻るもので

あるとしても,これにより販売ステージも2ステージであることにはな

らない。

引用発明は,最初に一般ユーザーとの相対取引による販売のステージ

があり,次に販売店Xとの会場オートオークションによる販売のステー

ジがあり,最後に売れ残りを再度ウェブに登場させることによる販売の

ステージがあるから,3段階の販売のステージ(段階)を有していると

いえることは明らかである。

(ウ) このように,本願発明が3つの販売のステージを有するのに対し,引

用発明は2つの販売のステージしかない旨の原告の主張は失当である。

イ 小売りとオークションとの上位概念化に関する主張の誤り

(ア) 原告は,「小売り」と「ネットオークション」とは異なる概念であり,

「販売」の概念に上位概念化して一致点とするのは,裁判例に照らすと

誤りである旨主張するが,失当である。




まず,引用発明の相対取引が,原告が主張する「小売り」でないこと

は後記(3)イのとおりである。「相対取引」も「オークション」も,商

品の価格を形成し成約する販売にほかならない。

次に,原告が掲げた裁判例(平成19年9月26日判決言渡し,知財

高裁平成18年(行ケ)第10174号)は,二の刊行物から引用発明

を認定する誤りを判示する際,「上位概念化等の作業によって看過され

た相違点については,別途相違点として判断の対象として検討されるべ

き」旨を判示するものであるところ,審決は,「相違点2」(14頁1

行?8行)でその相違点を判断の対象としており,上記裁判例に反する

ものではない。

以上のとおり,審決による上位概念化に違法はなく,原告の主張は失

当である。

(イ) なお,原告は,「小売りや各種ネットオークションをどのような順序

でどのように組み合わせていくかということが発明の特徴になってい

る」とも主張するが,本願発明と引用発明は,ともに中古車の販売に係

るものであり,中古車を販売する販売店にとって,本願発明も引用発明

も,ともに中古車を販売する際の価格を形成するための手段が3ステー

ジ設けられるものである。これは,前記アのとおり,「中古車の価格が

一意に決まるものではない」という性質による。

つまり,本願発明も引用発明も,ともに商品の価格を形成し成約する

「販売」という概念に包摂されることは,中古車の性質からみれば当然

であり,ウェブによる相対取引の場を提供し,オークションの場を提供

し,ウェブへの再出品により小売りの場を提供する引用発明と,出品者

連絡先を閲覧可能とする第一の段階と,業者向け中古車オークションの

第二の段階と,一般向け指定オークションの第三の段階を有する本願発

明は,ともに価格が一意に決まらない中古車の価格を形成し成約するこ




とを助けるものである点で共通することは明らかである。

ウ 流札時取引に関する主張の誤り

(ア) 原告は,引用発明では,再度の小売りで購買者の端末から購入要求デ

ータをウェブサーバー6が受け付けることはない旨主張するが,これ

は,引用発明を誤って解したものであり失当である。

引用発明は,ウェブに再出品して再度小売りの場面に登場させるもの

であり,この再度の小売りも最初の相対取引と同様になされるものであ

る(ただし,この相対取引が最初の相対取引と性質が異なることは,後

記(3)イのとおりである。)。

つまり,公衆回線で相対取引するものであり,一般ユーザー7から販

売店Aのパソコンに商談メールが入り,ダイレクト交渉し,成約するも

のである。

ここで,後記(3)イのとおり,この商談メールに購入要求データが含

まれ,この購入要求データに基づいて交渉が行われ,成約することも明

らかである。

原告は,「引用発明における再度の小売りにおいて,購買者が購買の

申込みをするに際し,購買者の端末からの購入要求データをウェブサー

バー6が受け付けるということもしないし,そのような受け付けた購入

要求データに基づいて取引が行われるということもない。」と主張する

が,そもそも引用発明において,最初の相対取引は,ウェブサーバー6

で行われるものではなく,一般ユーザーと販売店とでなされ,ウェブサ

ーバーは販売店から成約済の文字情報フラッグを通信回線を介して受

信するものであることは,後記(3)イのとおりであり,ウェブに再出品

して再度小売りの場面に登場させる際も,同様になされることは明らか

である。

ここで,最初の相対取引の場面と同様に,売れ残りをウェブに再出品




して再度小売りする場面でも,販売店のパソコンは,一般ユーザーのパ

ソコンから購入要求データを受け取るコンピュータとして振る舞うこ

とは明らかである。

(イ) 審決は,引用発明において,最初の「相対取引」及び「流札時取引」

が「ウェブサーバーと販売店と一般ユーザー」とによってなされるもの

であり,「販売店が購入要求データを受ける」ものとして本願発明と対

比している。

一方,本願発明の「流札時取引」は,「オークション」であって「コ

ンピュータが購入要求データを受ける」ものであるから,引用発明とは

相違する。

そこで,審決は,「流札時取引」について,引用発明と本願発明とは,

「一般ユーザーが参加可能な販売」であって「購入者の端末」から「購

入要求データ」を受け付ける点で一致すると認定した。

そして,この「一般ユーザーが参加可能な販売」はウェブを介してな

され,引用発明の「流札時取引」の形態と本願発明の「流札時取引」の

形態を包摂する概念である。

ただし,引用発明の「流札時取引」は,「相対取引」であって「ウエ

ブサーバーと販売店と一般ユーザー」とによってなされるものであり,

「販売店が購入要求データを受ける」ものであるところ,本願発明の「流

札時取引」は,「オークション」であって「コンピュータが販売要求デ

ータを受ける」ものである。

そこで,審決は,引用発明と本願発明との相違点につき,「流札時取

引」である「一般の購買者が参加可能な販売」が,本願発明では「オー

クション」であって,「コンピュータが購入要求データを受ける」点を

「相違点2」であると認定した。

そして,引用例3(甲3)には,サーバ1による中古車オークション




を一般ユーザーにも開放し,一般ユーザーが購買者の端末4からインタ

ーネット等の公衆回線2を介して応札するシステムが示されている(引

用例3の段落【0021】及び【図1】参照)。

審決は,「引用例3記載事項A」を,引用発明の「流札時取引」であ

る「一般の購買者が参加可能な販売」に適用することにより,「相違点

2」に係る構成とすることが当業者想到容易であると判断した。

なお,審決は,引用発明と本願発明とは,流札時の販売店の中古車販

売が,ウェブを介して一般の購買者への販売を行い,ウェブを介して購

入要求データを受け付けることを一致点として認定したのであって,引

用発明の運営管理者が管理するウェブサーバー6や運営管理者のホス

トコンピュータ9に相当するコンピュータが一般の購買者への販売を

行い,購入要求データを受け付けることを一致点として認定したもので

はない。

また,引用例1の販売店Aのパソコンは,「ユーザーから購入要求デ

ータを受ける」ものであるから,それが奏する機能にかんがみれば,本

願発明の図1における端末(20,21)として示される側のコンピュ

ータではなく,図1における運営管理者側のサーバー(10)や引用発

明のウェブサーバー6の側のコンピュータといえるものである。

(ウ) 以上のとおり,流札時取引に関する審決の認定に誤りはない。

(3) 取消事由3に対し

ア 相対取引の閲覧対象者に関する主張の誤り

原告は,審決が「引用発明と本願発明とは,第一のオークションヘの入

札の受付けを開始する時期より以前の時期に,出品者の連絡先を一般向け

指定オークションの入札者に閲覧可能とし,出品者から出品取消連絡を受

け付けるステップと…を含む方法である点で一致」すると認定したことが

誤りである旨主張するが,これは失当である。




(ア) 本願発明は,「業者向けオークション」の前と後とで,その取引の対

象となるのは,特定されない一般ユーザー(一般顧客)であり,変わら

ない。

同様に,引用発明も,「販売店Xが参加するオークション」の前と後

とで,その取引の対象となるのは,特定されない一般ユーザー(一般顧

客)であり,変わらない。

(イ) 原告は,審決が「本願発明の小売りが,単なる一般ユーザーではなく,

一般向け指定オークション(第二のオークション)の入札者が購入可能

であるという点において,引用発明と異なることを看過した」旨主張す

る。

しかし,本願発明の発明の詳細な説明の記載の全体をみても,「一般

向け指定オークション」の対象は「一般ユーザー(一般顧客)」であり,

何ら特定されないユーザーである。

つまり,本願発明における第一の段階である一般への販売も,何ら特

定されないユーザーへの販売であり,何ら特定されないユーザーが閲覧

可能となるものである。

一方,引用発明の,最初の相対取引と,最後のウェブに再出品してか

らの小売りの対象者も,何ら特定されない一般ユーザーであり,この何

ら特定されない一般ユーザーが,ウェブサーバー上の画像情報等を閲覧

することは明らかである。

してみると,本願発明における第一の段階である一般への販売も,引

用発明の相対取引も,その取引の対象となるのは特定されない一般ユー

ザーであり,本願発明の一般向け指定オークションの入札者も,引用発

明のウェブに再出品してからの小売りも,その取引の対象となるのは特

定されない一般ユーザーであることが明らかである。

(ウ) 原告は,「本願発明は,このような特徴を有するために,第1ステー




ジの小売りの段階において,一般向け指定オークション入札者は,後に

自身が参加できる一般向け指定オークション(第3ステージ)が提供さ

れることの可能性を知っている」のに対し,引用発明は,「一般ユーザ

ー7は,その商品の売買が成約しなかった場合に業者向け会場オークシ

ョンにかけられることを,相対取引の時点において知らない。業者向け

会場オークションにかけられた時点においても,業者ではない一般ユー

ザー7はそのことを依然として知らない」と主張し,その根拠は「本願

発明の小売りは,請求項1において『一般向け指定オークションの入札

者に閲覧可能とし』との限定があるように,単なる一般ユーザーではな

く,一般向け指定オークション(第二のオークション)の入札者が購入

可能であるという点において,引用発明と異なる(相違点C)」旨主張

する。

しかし,前記(イ)のとおり,本願発明の発明の詳細な説明の記載の全

体をみても,「一般向け指定オークションの入札者」が特定の者に限定

されることは記載も示唆もされておらず,また,「単なる一般ユーザー

ではなく,一般向け指定オークション(第二のオークション)の入札者

が購入可能である」とする根拠はない。

(エ) 仮に,原告の主張が,明細書の段落【0068】,【0069】,【0

076】,【0077】の「オークション事前情報画面」に基づくもの

であるとしても,「オークション事前情報画面」の仕組みは,一般ユー

ザー(一般顧客)が中古車を閲覧する際の「画面の見せ方の仕組み」で

あって,この仕組みにより特定のユーザー(特定の顧客)が特定の情報

を閲覧することができるようにするものではなく,原告の主張は根拠が

ない。

以上のとおり,原告の主張は,本願発明及び引用発明を誤って解した

ものであり,失当である。




イ 相対取引に関する主張の誤り

(ア) 原告は,引用発明における一般ユーザーと販売店Aとの相対取引が,

一般ユーザーがパソコンの画面で「商品」と「価格」とを見ながら電話

をし,販売店Aのオペレータが電話でこれを受ける「小売り」であると

主張する。

しかし,引用発明の相対取引が,そのような「小売り」であると主張

することは,「商取引上の常識」からみて失当である。

(イ) まず,相対取引(あいたいとりひき)とは,取引市場の内外で広くな

される相対売買であって,価格形成は交渉当事者にゆだねられることが

広く知られている。

例えば,『金融実務大辞典 社団法人金融財政事情研究会,平成12

年9月19日 第1刷発行』(乙9)には,以下の記載がある。

「相対取引 ⇒相対売買

相対売買 negotiated transaction 相対取引ともいい,売方または

買方が自由にその売買の相手方を選び,両者の合意によって売買が成立

する方法.特定の1人と他の1人との売買契約であり,数量,価格,決

済の方法を直接決めて行なう無競争売買取引である.通常,取引所の市

場内では,売方も買方も多数の者が自由に競争しながら売買するので,

この方法は行なわれない.相対売買は一般には店頭市場での取引方法と

なっている.」(11頁左欄10行,21行?29行)

つまり,相対取引は,「一定価格として販売者が提示した販売価格に

対して購買者が購入の申込みをする」ものではない。

(ウ) 次に,引用発明は,公衆回線で相対取引するものであり,一般ユーザ

ー7から販売店Aのパソコンに商談メールが入り,ダイレクト交渉の結

果,成約となった場合には,販売店Aはパソコンから公衆回線でウェブ

サーバーに成約済の文字情報フラッグ5を立てるものである(引用例1




の段落【0015】及び【0016】参照。)。そして,この商談メー

ルに,購入要求データが含まれることは自明の技術事項である(これが

なければ交渉(negotiation)にならない。)。

そうすると,引用発明は,一般ユーザーがパソコンの画面で商品と価

格とを見ながら電話をし,販売店Aのオペレータが電話でこれを受ける

「小売り」の形態を取るものではない(ここで,商談メール後の「ダイ

レクト交渉」とは,「相対取引」が,「オークション」ではなく,当事

者どうしが直接交渉するという意味であり,販売店のオペレータと直接

交渉するという意味でないことは明らかである。)。

以上のとおり,引用発明の相対取引が「小売り」であるとの原告の主

張は失当である。

(エ) なお,原告は「ウェブサーバー6が相対取引をするわけではない」と

も主張するが,引用発明の相対取引は,上記のとおり,販売店Aと一般

ユーザーとが商談・交渉して成約し,結果がウェブサーバーに反映され

るものであるから,ウェブサーバーと流通業者と一般消費者とが有機的

に接続されて,中古車の相対取引が形成されるものである。

したがって,審決が,「引用発明の『運営管理者が管理するウェブサ

ーバー』は,流通業者と一般消費者とに接続されて中古車の相対取引を

し」と認定した点に誤りはない。

(4) 取消事由4に対し

上位概念化に関する主張の誤り

原告は,小売りとオークションとを上位概念化する誤りを主張するが,

前記(2)イのとおり,同主張は失当である。

イ 動機付けの欠如に関する主張の誤り

原告は,上位概念化した「販売」を下位概念化することにより進歩性

否定することは誤りであり,引用例1には「再度の小売り」を「ネットオ




ークション」に置き換えることの示唆がなく,審決は置換することの動機

付けや論理付けも示しておらず違法である旨主張する。

本願発明,引用発明及び引用例3記載の技術は,ともに中古車の販売に

係るものであるところ,引用発明は,売れ残りの中古車を再度ウェブへ出

品するものであり,引用例3記載の技術は,中古車の販売においてインタ

ーネットオークションを採用するものである。

ここで,売れ残りの中古車を販売する際,引用発明のようなウェブへの

再出品と引用例3に記載されるインターネットオークションによる販売

とにおいて,後者の方がより販売のチャンスが大きいことは,当業者間に

おいて自明の事項である。

してみると,売れ残りの中古車を再度ウェブへ出品する際,より販売の

チャンスが大きい,インターネットオークションを採用するように構成す

ることは,当業者間にあって異論のないところであるから,そのように構

成しようとする動機付けがあることは明らかである。

なお,ウェブへの再出品が,原告が主張する「小売り」とは異なること

は,前記(3)イのとおりである。

以上からすれば,「上位概念化した販売を下位概念化することにより進

歩性を否定するのは誤りであり,引用例1には『再度の小売り』を『ネッ

トオークション』に置き換えることの示唆がなく,審決は置換することの

動機付けや論理付けも示しておらず違法である」との原告の主張は失当で

ある。

ウ 阻害要因に関する主張の誤り

原告は,引用発明は,以前行っていた小売りに再度戻すからこそ同じデ

ータを使う利点があるのであり,これを「オークション」に置換すると,

この利点が得られなくなることから,引用発明の「再度小売り」を「オー

クション」に置換する阻害要因があると主張する。




しかし,引用発明は,ウェブサーバーにより販売店間で共通在庫を形成

し,それにより一般ユーザーが販売店と同じ保証が得られるものであるか

ら,保証が得られた中古車をどのような形で販売しようと,共通在庫にあ

って保証が得られることに変わりはなく,原告の上記主張は失当である。

エ 裁判例違背に関する主張の誤り

原告は,最初の「小売り」を置き換えずに「再度の小売り」だけを「オ

ークション」に置き換えることは許されず,「再度の小売り」だけを引用

例3の「オークション」に置き換えることの動機付けもなく,本願発明の

第3ステージに到達するためにしたはずだという示唆もなく,裁判例にも

反する旨主張する。

(ア) 原告が挙げた裁判例(平成21年1月28日判決言渡し,知財高裁平

成20年(行ケ)第10096号)には,以下の判断が示されている。

「2 判断

(1) 特許法29条2項が定める要件の充足性,すなわち,当業者が,

先行技術に基づいて出願に係る発明を容易に想到することがで

きたか否かは,先行技術から出発して,出願に係る発明の先行技

術に対する特徴点(先行技術と相違する構成)に到達することが

容易であったか否かを基準として判断される。ところで,出願に

係る発明の特徴点(先行技術と相違する構成)は,当該発明が目

的とした課題を解決するためのものであるから,容易想到性の有

無を客観的に判断するためには,当該発明の特徴点を的確に把握

すること,すなわち,当該発明が目的とする課題を的確に把握す

ることが必要不可欠である。そして,容易想到性の判断の過程に

おいては,事後分析的かつ非論理的思考は排除されなければなら

ないが,そのためには,当該発明が目的とする「課題」の把握に

当たって,その中に無意識的に「解決手段」ないし「解決結果」




の要素が入り込むことがないよう留意することが必要となる。

さらに,当該発明が容易想到であると判断するためには,先行

技術の内容の検討に当たっても,当該発明の特徴点に到達できる

試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは十分ではな

く,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであるという示

唆等が存在することが必要であるというべきであるのは当然で

ある。」

(イ) 以下,本願発明が目的とする課題を確認するとともに,引用発明の特

徴点を指摘する。

第1に,引用発明は,ウェブによる一般ユーザーへの販売のチャンス

を2回有するもので,その間に販売店によるオートオークションを開催

するものである。

これは,売れ残りへの対策(引用例1の段落【0024】)であると

ころ,本願発明の「主催者にとって成約率を向上したい」という第3の

課題(本願明細書の段落【0014】)と共通する。

第2に,引用発明は,車両データを3回の販売のチャンスにおいて流

用することにより業者による出品の負担を軽減するもの(引用例1の段

落【0024】)であるところ,これは,本願発明の「業者の再度の出

品負担を軽減したい」という第2の課題(本願明細書の段落【0012】)

と共通する。

第3に,引用発明は,ウェブへの出品に際して品質保証があるため,

一般ユーザーが安心して中古車を購入できるもの(引用例1の段落【0

004】)であるところ,これは,本願発明の「商品の品質保証機能を

一般消費者にも提供したい」という第1の課題(本願明細書の段落【0

008】)と共通する。

このように,引用発明と本願発明とは,解決すべき課題が3つとも一




致する。

本願発明が容易想到であると判断するためには,先行技術の内容の検

討に当たって,本願発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうとい

う推測が成り立つのみでは十分ではなく,本願発明の特徴点に到達する

ためにしたはずであるという示唆等が存在することが必要であるとこ

ろ,そのような示唆があることは,上記のとおり明らかである。

つまり,「本願発明の第3ステージに到達するためにしたはずだ」と

いう示唆が引用発明には明確に存在し,売れ残りの中古車の「再度の小

売り」だけを引用例3の「オークション」に置き換えることの動機付け

は明確である。

なお,原告は,「コンピュータが複数のオークションを提供するとい

う(さらなる)相違点がある」旨主張する。

しかし,上記のとおり,審決は,当該相違点を「相違点2」として認

定した上で,引用発明と引用例3とにより当該相違点を含む本願発明が

当業者に想到容易であったことを判断しているから,この原告の主張は

失当である。

オ 「技術常識」や「商取引上の常識」と審決の論理

被告は,前記(1)アにおいて,当業者に一般的に知られる「技術常識

をもって原告の主張に反論し,前記(3)イにおいて,「商取引上の常識」

をもって原告の主張に反論した。

被告が反論で用いた「技術常識」や「商取引上の常識」は,原告の主張

に被告が反論する範囲内で用いるものであって,これにより,審決が判断

した容易想到性の結論に至る論理構成を差し替えるものではなく,新たな

論理構成を追加するものでもないことは明らかである。

カ 小括

以上のとおり,審決が相違点2について判断した事項に誤りはない。




第4 当裁判所の判断

1 請求の原因(1)(特許庁における手続の経緯),(2)(発明の内容),(3)(審

決の内容)の各事実は,当事者間に争いがない。

容易想到性の有無

審決は,本願発明は引用例1ないし3及び周知技術から容易に想到できると

し,一方,原告はこれを争うので,以下検討する。

(1) 本願発明の意義

ア 本願発明に係る明細書(公開公報,甲7の【発明の詳細な説明】)には,

以下の記載がある(本件補正に至るまで変更はない)。

・【技術分野】

「本発明は,オークションによる商品販売方法及び当該方法を実現する

コンピュータに関する。特に,複数のオークションにより商品を販売す

る方法及び当該方法を実現するコンピュータに関する。」(段落【00

01】)

・【背景技術】

「従来,オークションにより商品を販売する方法が知られている。例え

ば,中古車販売業者が参加する中古車オークションが複数の主催者によ

り行なわれている。」(段落【0002】)

・「これらのオークションの方法としては,参加者が特定の会場に赴いて出品

される商品を直接確認した上で入札を行う方法がある。さらに,このような

古典的な方法に加えて,インターネット等の通信ネットワークを介して,出

品される商品の写真やスペック等の情報を遠隔地から確認することを可能と

し,参加者が遠隔地からこの通信回線を介して当該商品の情報を確認し,入

札することを可能とする方法も行なわれている。」(段落【0003】)

・「このようないわゆるネットオークションによる方法は,物理的にオー

クション会場から遠隔地に所在する中古車業者等の参加者が,現地に赴




くことなく当該オークションに参画する機会を提供している。」(段落

【0004】)

・「一方で,上述の通信ネットワークを介してのみ行なわれるオークショ

ンも存在している。例えば,上述の中古車販売業者のような『業者』で

はなく,『一般消費者』が,インターネット上に実現したネットオーク

ション等に直接商品を出品し,入札も一般消費者によって行なわれる形

態がある。」(段落【0005】)

・「このような一般消費者向けネットオークションは,オークションを行

なう物理的な場所を必要としないので比較的安価に実現できる点,通信

環境さえ整えば売りたい商品を所有している出品者が,その商品を買う

意思を持つ可能性のある落札者にある程度効率的に当該商品の情報を

提供できる,という点で優れている。」(段落【0006】)

・「さらに,特許文献1によれば,旅行商品について,旅行商品素材を提

供する『施設提供業者』,これらの旅行素材に基づいて旅行商品を提供

する『旅行会社』,そして,これらの旅行素材や旅行商品を買う『一般

消費者』が,通信ネットワークを介して互いに接続可能とし,当該商品

の売買を可能とする旅行商品取引システムが提案されている。【特許文

献1】特開2003?30288号公報」(段落【0007】)

・【発明が解決しようとする課題】

「しかしながら,上述のようなオークションによる商品販売の方法にお

いては,更に解決すべき課題がいくつか残されている。第一の課題は,

『業者』の参加する業者向けオークションにおいて提供される『商品の

品質保証』機能が,通信ネットワークを介してのみ行なわれ,『一般消

費者』が参加する一般消費者向けネットオークションにおいては十分に

提供されない可能性があることである。」(段落【0008】)

・「限られた数のプロフェッショナルのみが参加する『業者』向けオーク




ションにおいては,例えば中古車オークションにおいて出品する商品の

メーターや事故歴などを偽ったりする不正行為が明らかになると,その

商品を出品した業者は当該オークションに参加する資格を失ってしま

う等のペナルティがある。このため,このような『業者』向けオークシ

ョンにおいては,参加者にとってこのような不正行為を行なわないイン

センティブが働くために,一定の品質保証機能が提供されているといえ

る。」(段落【0009】)

・「一方で,一般消費者向けネットオークションにおいては,そのメリッ

トと表裏一体であるが,参加資格が比較的緩いために参加者の数も比較

的多くなりがちであり,上述のようなペナルティによって当該オークシ

ョンに参加する資格を失ったとしても,その一般消費者にとってその場

限りの出品であれば,そのペナルティは『業者』にとってのペナルティ

に比較して軽く捉えられる可能性もある。」(段落【0010】)

・「このような理由から,一般消費者向けネットオークションにおいては,

出品される商品の本来の価格を大きく下回る入札価格でしか取引が成

立しない可能性がある。このようなケースは,上述の『品質保証機能』

が不足する分だけ,入札価格をディスカウントすることによって取引が

成立したと説明することもできる。」(段落【0011】)

・「第二の課題は,『業者』にとって,業者向けオークションにおいて流

札となった場合には,その商品を販売するには,再度別のオークション

に出品したりする手間と時間がさらにかかることである。」(段落【0

012】)

・「通常,業者がオークションに出品するのは長期在庫となったものなど,

早期に処分したい事由のある商品が多い。それにもかかわらず,流札と

なった場合には,さらに同様の手続を繰り返す必要があり,従来の業者

向けオークションはこれらの課題に十分に応えているとはいえない。」




(段落【0013】)

・「第三の課題は,オークションを運営する主催者にとって,入札によっ

て取引が成立する確率を表す成約率を向上させることは,成約手数料を

増加させるとともに,出品者,入札者をひきつけるための重要な経営課

題となっているが,自らが主催するオークションのみにおいてこれを向

上させるには困難が伴うことである。」(段落【0014】)

・「上述のように,例えば中古車オークションにおいても,入札者が全て

のオークションに参加しているとは限らず,実際には出品された商品の

入札条件に合う入札を行なう可能性のある入札者がいたとしても,たま

たまその入札者が当該オークションに参加していなければ,取引が成立

することはない。」(段落【0015】)

・「このような場合には,当該オークションを運営する主催者にとって,

成約率を向上させる機会を失っていることになる。 (段落
」 【0016】)

・「そこで本発明は,上述のような課題を解決するために,複数のオーク

ションにより商品を効果的かつ効率的に販売する方法及び当該方法を

実現するコンピュータ提供することを目的とする。・・・」(段落【0

017】)

・「図2は,本発明の好適な実施形態の別の一例に係る商品販売方法及び

当該方法を実現するコンピュータシステム1の全体構成を表すブロック

図である。サーバ10,端末群20,サーバ11,および端末群21は

通信ネットワーク30を介して接続されている。このように,本発明を

実現するためのサーバの構成としては,第一のオークションと別のオー

クションそれぞれに専用のサーバ10及びサーバ11を備えていても,

一台のサーバ10が複数のオークションを管理してもよい。また,物理

的にはサーバ10,サーバ11それぞれが複数のサーバコンピュータに

より実現してもよい。・・・」(段落【0046】)




図2




・「図5は,本発明の好適な実施形態の一例に係る取引体系を示す図であ

る。この図に示す様に,出品者,入札者としての業者(図中,Bと記載)

が参加するオートオークション(図中,AAと記載)と入札者としての

一般顧客(図中,Cと記載)が参加するオークションを結び付けること

によって,双方の参加者にメリットをもたらす新たな取引体系(ビジネ

スモデル)が構築可能である。」(段落【0056】)


図5




・「図7は,本発明の好適な実施形態の一例に係る取引フロー(2)を示

す図である。この例では,出品者は,店頭やWeb販売サイトによる販




売と並行してオークションへ出品情報の入力を行う。そして,その出品

情報を,指定された時期に当該オークションの入札者(一般顧客を想定)

に対して開示する。」(段落【0059】)




図7




・「この時点での価格は店頭やWeb販売サイトでの価格と同一である。当

該入札者が,誰よりも早く確実に当該商品を購入したいと考えれば直接

出品者に連絡して購入することもできる。」(段落【0060】)

・「この段階では売買が成立せず,オークションに出品すると決定した場合

には,当該出品者はオークション用の価格(通常は店頭価格より低額)

を指定する。」(段落【0061】)

・「ステップS102の後,当該出品データにおいて指定された時期において,

サーバ制御部110は,一般向けのオークション入札者に対して出品データ

の一部を閲覧可能にする(ステップS105)。具体的には例えば,図17

に示す様なオークション事前情報画面により表示する。 (段落
」 【0076】)




図17





・「図17は,オークション事前情報画面を示す図である。この例では,出

品IDが『0001』,メーカーが『○○○』,車名が『△△△』,年

式が『H15』,この一般向けオークションに出品される場合(業者向

けオークションで流札となった場合)のオークション実施日が『200

5/12/3』であることを示している。この様に,一般向けオークシ

ョンの入札者は,業者向けオークションに出品された商品の情報を業者

向けオークションの実施前に知ることができる。」(段落【0077】)

・「ステップS202の後,当該出品データにおいて指定された時期に,サーバ

制御部110は,オークションの入札者に対して,第一の価格と出品者連絡

先を閲覧可能にする(ステップS204)。このことにより,例えば,出品

者は店頭による販売,販売サイトによる通信ネットワーク販売車と並行して,

オークション出品前に事前情報として出品前の販売価格(第一の価格)と共

に当該オークションの入札者に対して,情報を開示することができる。 (段


落【0086】)

・「図20は,オークション事前情報画面を示す図である。この例では,メ

ーカー『○○○』,車名『△△△』,年式『H15』であることなどが

表示されている。当該情報を閲覧した当該オークションの入札者(会員

等)は,出品者の連絡先に基づいて直接出品者から商品を購入すること

もできる。この場合は,出品者は出品取消の連絡を当該システムに入力

することになる。この場合,サーバ制御部110は,当該入力した出品

取消連絡を受け付ける(ステップS203)。」(段落【0087】)




図20





イ 以上の記載によれば,従来,中古車販売業者が参加する中古車オークシ

ョンとしては,参加者が特定の会場に赴いて商品を直接確認した上で入札

を行う古典的な方法やインターネット等の通信ネットワークを介して遠

隔地から商品の情報の確認や入札を行うネットオークションによる方法

があり,その一方で,中古車販売業者のような「業者」ではなく「一般消

費者」が商品の出品や入札を直接行う一般消費者向けネットオークション

による商品販売方法があったところ,一般消費者向けネットオークション

では業者向けオークションが提供する品質保証機能が十分に提供されず

商品の本来の価格を大きく下回る入札価格でしか取引が成立しない可能

性があり,他方,業者向けオークションでは,流札となった場合に別のオ

ークションに出品する手間と時間がかかり,さらには,オークションを運

営する主催者にとって自らが主催するオークションのみで成約率を向上

させることが困難であるという課題があった。そこで本願発明は,これら

の課題を解決すべく,複数のオークションにより商品を効果的かつ効率的

に販売する方法及びそれを実現するコンピュータを提供しようとするも

のであり,そのために,通信ネットワークを介して端末と接続されたコン

ピュータが,出品者の端末から商品に関する情報や出品者の連絡先を含む

出品データを受け付けた後,これを「一般向け指定オークションの入札者」

に閲覧可能とするとともに出品取消連絡を受け付けるようにし,出品取消

連絡を受け付けなかった場合には,業者向けオークションに係る処理を行

い,業者向けオークションにおいて取引が成立しなかった場合には一般向

けオークションに係る処理を行うように構成したものである。

ウ 「オークション」の技術的意義

本願発明の特許請求の範囲の記載からみて,本願発明の「オークション」

とは,「落札した場合に少なくとも登録手続及び納品手続のサービスが受

けられる処理を提供する」ような「中古車」のオークションであり,「入




札者」を「認証」するステップ,「商品」に対する「入札条件」を示す「入

札データ」を「受け付けて記憶」するステップ,及び「入札データ」に基

づいて「取引の成否を決定」するステップを「通信ネットワークを介して

端末と接続されたコンピュータ」が行うものである。

この点につき本願明細書は,インターネット等の通信ネットワークを介

して参加者が遠隔地から商品の情報の確認や入札を行う方法を「ネットオ

ークション」(段落【0003】,【0004】参照)と称しており,本

願発明はこのような「ネットオークション」であるということができる。

エ 「通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータ」の技術的

意義

本願発明の特許請求の範囲の記載において「通信ネットワークを介して

端末と接続されたコンピュータ」の具体的な構成やコンピュータの台数は

特定されていない。

そして,本願明細書の段落【0046】の記載(前記ア参照)及び図2

からみても,本願発明の「通信ネットワークを介して端末と接続されたコ

ンピュータ」は,1台とは限らず,複数台のコンピュータからなる場合を

含むと解される。

(2) 引用発明の意義

ア 一方,引用例(甲1)には,以下の記載がある。

・【発明の属する技術分野】

「本発明は,中古車販売における固有データの多次元利用システムに関

するものである。」(段落【0001】)

・【従来の技術】

「従来から中古自動車販売に関するインターネット上のURLは多々

存在するが,商品特性である高度なメカニズムを有する高額品と自動車

税の精算や業界に内在するモラルハザード等が,年間国内販売台数60




0万台市場における電子商取引の進捗を妨げる要因をなしてきた。」

(段落【0002】)

・「一方,中古自動車販売業界の趨勢として巨大店舗化と零細店化の2極

化が進んでおり,大多数の中小の中古自動車販売店のサバイバルのため

には,組織立った情報化が急務となっている。」(段落【0003】)

・【発明が解決しようとする課題】

「本発明に係る中古車販売における固有データの多次元利用システム

は,商品が情報取引される基礎条件としての品質が解ること,探すもの

が見つかること,安く買えることの条件を具備する固有データを多次元

で利用可能とすることにより,流通コストの低減と中小の中古自動車販

売店の電子商取引に展望を開くものである。」(段落【0004】)

・「更に,人格の異なる複数が出店する情報在庫車が常時商談できる状態

でなければダブル商談によるキャンセル依頼の発生や消費者を巻き込

んだ混乱を招来することになるので,上記システムでは新しい管理手段

をも提供する。」(段落【0005】)

・【発明の実施の形態】

「以下,図示の実施例と共に発明の実施の形態について説明する。図1

は,本発明に係る中古車販売における固有データの多次元利用システ

ムの一実施例の概略を示すフローチャートである。」(段落【000

9】)




図1





・「中古車販売における固有データの多次元利用システムは,第1に,画

像情報と品質表示文字情報よりなる車両データをウエブサーバー上で

流通業者と一般消費者が共有し,同時に流通業者間の共通在庫を形成す

る。」(段落【0010】)

・「このため,流通業者である販売店Aが保有する現車1を撮影した画像

情報2と有資格者検査員により検査の上作成された状態説明書3の文

字情報を,ウエブの運営管理者4が管理するウエブサーバー6に入力

し,公衆回線にて加盟販売店A,X,B及び一般ユーザー7のパソコン

8の画面に表示する。本発明の品質表示文字情報に上記状態説明書3が

該当する。尚,販売店Aは出品票を作成する。」(段落【0011】)

・「画像情報2及び状態説明書3のウエブサーバー6に入力することが出

品になる。出品は,端末機からの転送及びスキャナーでの取り込みによ

り行う。出品前には,ウエブの運営管理者4の専属検査員が出品予定車

両(現車1)の検査を行う。検査により『重大な欠陥』としてインナー

パネル補修跡大と修正機跡ありにて大掛かりな修復歴があることが判

明した場合等には,出品不能の判定を出し,出品を中止することができ

る。」(段落【0012】)

・「本発明の第2の特色は,公衆回線にて相対取引することである。ウエ

ブサーバー6上には,出品販売店Aの情報としてネット訪問者である一

般ユーザー7にコンタクト可能の文字情報(住所,電話番号,販売店名,

メールアドレス等)が表示されている。そこで,ウエブ出品車に一般ユ

ーザー7から販売店Aに商談メールが入り,ダイレクト交渉の結果,成

約となった場合には,成約済の文字情報フラッグ5を立て,登録,代金

精算,納車を済ませ販売店Aの管理ユーザー台帳に記載する。これが相

対取引の第1の例である。」(段落【0016】)

・「因みに,この後処理として当システムの運営管理者4に対し,販売店




Aは,この車両の車検証一式を送付し,直近競り開催日の翌日に指定銀

行口座へ代金の支払を受け,販売店Bは同じく直近オートオークション

開催日に送られて来たオートオークション計算書に基づき所定期限内

に支払をした。このときオートオークション会場側はオートオークショ

ン開催当日処理業務として,当該車両データをホストコンピュータ9に

入力を行い後日商談処理をする。つまり,この部分が,本システムとオ

ートオークションとの融合する部分となる。」(段落【0019】)

・「本発明の第3の特徴は,ウエブサーバー6上の設定された期間経過後

の車両データを運営管理者4のホストコンピュータ9に転送し,該ホス

トコンピュータ9にて流通業者である販売店間の競売に懸けることで

ある。当システ

ムには出品車

のウエブ掲載

期限設定があ

り,期限到来時
図4
に未成約であ

った車両は自

動的にオートオークション会場にて競売に懸けることができる仕組み

になっている。設定期間は条件により異なるが通常2週間乃至1ヶ月程

度の期間である。尚,運営管理者4がオートオークション主催者とな

る。」(段落【0020】)

・「つまり,上記未成約車両のウエブサーバー6上の画像情報2と状態説

明書3の文字情報を専用回線にてオートオークション側ホストコンピ

ュータ9及び画像処理機へ転送を行い,そのオートオークション会場自

体の競売システムにより競売に懸ける。本発明においてはこの競売の具

体的システムが多くの場合各会場毎に保有されおり,システム的には類




似しているので言及しない。」(段落【0021】)

・「尚,競売において売り手と買い手間の価格調整手段としてセリスター

ト価格と売り希望価格の設定が必要であることから,当システムでは出

品初期の時点で小売り価格,せりスタート価格,並びにせり希望価格の

3本建てとしている。」(段落【0022】)

・「販売店Aが行うべき情報処理はダブル商談防止のため,商談中の文字

情報フラッグ5を公衆回線にてウエブサーバー6上のBOXに立てる

と共に,店頭の当該車にも商談中ないしは競売中の表示を行うことであ

るが,いずれも表示期間は極めて短かく時間的にはオートオークション

開催日の前日と開催当日の競売終了時刻までである。」(段落【002

3】)

・「流札となった出品車両,つまり売れ残り車は2通りの処理が考えられ

る。第1は,当ウエブに再出品を行い再度小売りと卸売りの場面に登場

させることである。この場合は画像撮影及び検査も既に終了し情報化さ

れているので処理は簡素で済む。販売店Aが情報処理することとして商

談解除の文字情報フラッグのボタンをクリックしウエブサーバー6に

送信するだけでよい。」(段落【0024】)

・「第2は,当システムから離別し店頭在庫車として次なる販売機会を待

つことになるが多くの場合中古自動車は時間経過と共に値落ちする訳

で当システムではこのケースを避けるための努力がなされている。」

(段落【0025】)

・「以上,流通業者である販売店と一般ユーザー(一般消費者)とを対象

とするシステムであるが,画像情報と品質表示文字情報よりなる車両デ

ータをウエブサーバー上で一般消費者のみで共有し,同時に一般消費者

の共通在庫を形成し,公衆回線にて相対取引すると共に,ウエブサーバ

ー上の設定された期間経過後の部分車両データを運営管理者のホスト




コンピュータに転送し,該ホストコンピュータにて一般消費者の競売に

懸けることを特徴とする中古車販売における固有データの多次元利用

システムとすることもできる。」(段落【0028】)

・【発明の効果】

「画像情報と品質表示文字情報よりなる車両データをウエブサーバー

上で流通業者と一般消費者が共有し,同時に流通業者間の共通在庫を形

成し,公衆回線にて相対取引するものであるので,十分なる出品台数を

確保できると共に,各販売店頭車両を運送移動するコストもゼロである

ことから,コストパフォーマンスの条件をもクリアできる中古車販売シ

ステムとなった。」(段落【0029】)

・「ウエブサーバー上での相対取引と共に,ウエブサーバー上の設定され

た期間経過後の部分車両データを運営管理者のホストコンピュータに

転送し,該ホストコンピュータにて流通業者間の競売に懸けるものであ

るので,中古車販売における固有データの多次元での利用が可能なシス

テムとなった。」(段落【0030】)

イ 以上の記載によれば,引用発明は,中古車販売における固有データを多

次元利用可能とすることによって,流通コストの低減と中小の中古自動車

販売店の電子商取引に展望を開くことを課題とするものであり,その解決

のため,画像情報と品質表示文字情報からなる車両データをウェブサーバ

ー上で流通業者と一般消費者が共有し,同時に流通業者間の共通在庫を形

成し,公衆回線にて相対取引できるようにし,さらに,ウェブサーバー上

の一定期間経過後の車両データを,運営管理者のホストコンピュータに転

送し,同ホストコンピュータにて流通業者である販売店間の競売にかける

ことができるようにすることで,十分な出品台数を確保させ,各販売店頭

車両を運送移動するコストもゼロであるような中古車販売システムを提

供するものである。




(3) 従来技術

ア 引用例3(甲3)には,以下の記載がある。

・【発明の属する技術分野】

「本発明は,オンライン上でのオークションに関連する取引を支援する

技術に関する。」(段落【0001】)

・「1は本システムを備えたサーバ,2は前記サーバ1に接続された公衆

電話回線等の通信回線,3は本システムに対して出品を申し込む出品者

の端末,4は本システムに対して購買を申し込む購買者の端末,5はリ

アルタイムに競りが行われるオークシ 図1


ョン会場に設置された端末である。

なお,出品者としては,中古車販売

業者,車両整備業者,一般ユーザ等

を想定できる。また,購買者として

も,中古車販売業者,車両整備業者,

一般ユーザ等を想定できる。」(段

落【0021】)

・「なお,出品者端末3と,購買者端

末4も,サーバ1と同様の構成を備

えている。そして,サーバ1と出品

者端末3間は公衆回線2を介してデータの送受信を行えるとともに,サ

ーバ1と購買者端末4間も公衆回線2を介してデータの送受信を行え

るようになっている。」(段落【0031】)

・「さらに,オークション会場に設置されるオークション端末5も,サー

バ1と同様の構成を備えており,サーバ1とオークション端末5は,公

衆回線2を介してデータの送受信が行えるようになっている。」(段落





【0032】)

・「オークション端末5には,サーバ1のオークション選択手段1cから

通知される車両情報に基づいて競りを行うための管理装置(コンピュー

タ)がそれぞれ設けられており,この管理装置は,オークションの開催

日等をサーバ1に対して開示するオークション情報開示手段5aや,車

両情報等の表示手段5b,応札を受け付ける応札受付手段5c,最高価

格をつけた応札に対して商品を落札する落札手段5dを有している。」

(段落【0033】)

・「本システムでは,出品者及び購買者を予め会員登録しておき,会員制
図3
で行うのが望ましいが,住所・

氏名や,クレジットカードの番

号等の入力により,認証を行う

ことができれば,一般参加可能

にしても良い。」(段落【00

35】)

・「〈出品の申込み〉出品者は,

出品者端末3から公衆電話回

線2を介してサーバ1にアク

セスし,会員番号等を入力して

認証を行い,商品売却の申し込

みをサーバ1に対して行う。・

・・」(段落【0037】)

・「〈入札の申込み〉一方,車両の出品情報を公開するため,サーバ1は

購買者に対して検索サービスを提供する。検索サービスは一般のオンラ

イン中古車検索システムと同様に,購買者が,購買者端末4を介してサ

ーバ1にアクセスし,車名やグレード,排気量等をキーワードにして記




憶装置14の車両情報データベースを検索するように構成すればよ

い。」(段落【0041】)

・「前記車両情報データベースの検索により,車両が特定された場合には,

当該車両の車両情報を購買者端末4へ送信する(ステップ103)。図

3はこのとき購買者端末4に送信される情報の一例を表す図であり,H

TMLによって形成された画面フォームを示している。このとき同画面

フォームには,公開期間経過後に当該車輌が出品されるオークションの

データが合わせて示される。」(段落【0042】)

・「購買者が,参照した車両の入札を希望する場合には,この画面上の会

員番号欄と入札価格欄を入力して『入札』ボタンを押す。これにより購

買者端末4は,サーバ1に対して入札を通知し,制御部11(事前入札

受付手段1h)がこれを受け付け,この車両管理番号,入札日,入札価

格,会員番号等の事前入札データを記憶装置14内の事前入札データベ

ースに記憶する(ステップ104,ステップ105)。」(段落【00

43】)

・「そして,サーバ1は,1日毎に車両情報データベースを検査し,公開

終了日となった車両があれば,公開を終了して最高価格(最高応札限度

価格)を提示した事前入札データを特定する(ステップ106,ステッ

プ107)。さらにサーバ1は,当該車両が出品されるオークション会

場のオークション端末5にこの事前入札データを通知する(ステップ1

08)。」(段落【0044】)

・「〈オークション〉オークション会場の管理装置は,サーバ1から通知

された車両情報を会場ディスプレイ等(表示手段5b)に表示し,オー

クション開始価格を初期値としてオークションが実施される。」(段落

【0045】)

・「競りあげが行われるごとに,管理装置の制御部(応札受付手段5c)




で応札を受け付け,最高価格(競り価格)が更新され,会場ディスプレ

イに表示される。この際,オークション端末5には,競り上げの単位価

格(例えば3000円)が記憶されており,オークション端末5の制御

部は,事前入札データの応札限度価格の範囲内において,オークション

会場における競り価格に対して応札を繰り返す。」(段落【0046】)

・「そして,事前入札データをもってする応札が会場における最終応札と

なれば,事前入札者が落札することとなり,競り価格が事前入札データ

の応札限度価格を超えた場合には,事前入札者は落札できなかったこと

となる。このオークションの結果は,オークション端末5からサーバ1

に通知される(ステップ109)。」(段落【0047】)

イ 乙4(平成12年5月25日発行のNEC技報第53巻第5号の記事)

には,「トヨタ中古車オークション中部会場システム稼働」とのタイトル

の下,1999年(平成11年)5月に三重県川越町にオープンしたトヨ

タオートオークション(TAA)新中部会場が「本会場とTAA関東会場

・・とをISDNで接続した最新鋭のネットワークオークション会場」で

ある旨,「中部会場」だけでなく「関東会場」のオークションにもリアル

タイムで参加できるシステムを実現した旨の記載がある。

ウ 乙7(平成12年10月23日発行の「日経コンピュータ」No.507 の記

事)には,「オークネット」の中古車オークション・システムがホスト・

コンピュータと中古車販売業者に設置されたオークネット端末とを衛星

通信と地上の専用線を使って結んだものであり,同システムが1996年

(平成8年)に「再構築」されたものである旨の記載がある。

(4) 原告主張の取消事由に対する判断

ア 取消事由1(相違点の看過?A)について

(ア) 前記第3,1(2)及び前記(1)のとおり,本願発明において,通信ネッ

トワークを介して端末と接続されたコンピュータにより商品の入札を




受け付けることが明示されており,本願発明におけるオークションは

「ネットオークション」である。

(イ) 他方,引用例1(甲1)には,前記(2)アの記載がある(特に,段落

【0009】,【0010】,【0019】ないし【0021】,【0

028】,【0030】の記載参照)。

また,引用例1の図1においては,引用例1にいう「車両」を「自動

的にオートオークション会場にて競売に懸ける」仕組みとなる「競売の

具体的システム」について,画像情報2及び状態説明書3が転送される

ホストコンピュータ9(図中の「data処理サーバー」),「セリ機」

及び画像処理機(図中の「画像処理サーバー」)によって,競売システ

ムが実現されていること,図4においては画像処理機とセリ機とが結合

していることが示されている。

このうち,「・・・多次元利用システムは,・・車両データをウエブ

サーバー上で流通業者と一般消費者が共有し・ (段落
・」 【0010】 ,


「・・このときオートオークション会場側は・・・当該車両データをホ

ストコンピュータ9に入力を行い後日商談処理をする。つまり,この部

分が,本システムとオートオークションとの融合する部分となる。 (段


落【0019】),「ウエブサーバー上の設定された期間経過後の部分

車両データを運営管理者のホストコンピュータに転送し」(段落【00

28】,【0030】)との記載において,引用例1におけるオートオ

ークション会場自体の競売システムがこの「多次元利用システム」なる

電子商取引システムの一部又はこれと接続されたものである旨が示さ

れている。

そもそも,引用例1(甲1)には,中古自動車の商品特性や業界に内

在するモラルハザード等が中古自動車販売における電子商取引の進捗

を妨げる要因となっており,その一方で,中古自動車販売の情報化が急




務であるとの認識に立脚した「固有データの多次元利用システム」なる

電子商取引システムを説明した記載があり(段落【0001】ないし【0

003】),引用発明(引用例1)の特許出願日である平成12年8月

30日において電子商取引としての中古車オークションが存在してい

た(乙4,乙7参照)ことからみても,電子商取引システムを説明する

引用例1の文脈において,電子商取引システムと接続されたシステムを

用いて行われる「競売」には,電子商取引としての中古車オークション

が当然に含まれているものといえる。

してみると,引用例1における「競売」は,原告のいう「古典的な会

場オークション」のみ,つまり,「参加者が特定の会場に赴いて出品さ

れる商品を直接確認した上で入札を行う(本願明細書の段落【000

3】)」ものであって「通信ネットワークを介して端末と接続されたコ

ンピュータ」により商品の入札を受け付けるもの以外に限定されるもの

ではなく,電子商取引としての中古車オークション,つまり「ネットオ

ークション」を含むものである。

よって,「通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータ

により,中古車オークションにおいて商品の入札を受け付ける」点は,

本願発明と引用発明との一致点であり,この旨を説示した審決に誤りは

ない。

(ウ) 原告の主張につき

a 原告は,引用例1の段落【0020】,【0021】,【0023】

の記載内容や図1において販売店Bがdata処理サーバ9に接続

されている旨明示されていないことを根拠として,引用発明の「会場

競売」はネットオークションと全く異なるものであり,対応させるこ

と自体が誤りであると主張する。

しかし,前記(イ)のとおり,引用発明の「競売」は古典的な会場オ




ークションのみならず,原告のいう「ネットオークション」,つまり,

通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュータにより商

品の入札を受け付けるものを含むものであり,引用例1の「会場」と

の文言は,オークションを行うためのシステム全体を比喩的に表現し

たものというべきである。

そして,引用例1の段落【0020】,【0021】に記載された

「競売システム」が「会場毎に保有され」「システム的に類似する」

とは,いずれの「競売システム」もオークションを行うためのシステ

ムである以上,システムに含まれるホストコンピュータや端末が全体

として入札に応じて落札を行うシステムとなる「会場」を構成し,こ

の意味でいずれのシステムも類似したものとなる旨を一般論として

述べたものである。

同様に,引用例1の段落【0023】の「オートオークション開催

日の前日と開催当日の競売終了時刻まで」との記載についても,比喩

的な表現というべきである。

さらに,引用例1の各図はいずれも「フローチャート」であり,シ

ステムの構成ではなく流れを示すものであるから,図1において販売

店Bのみならず各販売店とdata処理サーバ9等運営管理者のホ

ストコンピュータとの接続が明示されていないからといって,これら

が接続されていないとはいえない。

してみると,引用例1の段落【0020】,【0021】,【00

23】の記載及び図1に図示された内容は,いずれも引用発明の「競

売」が古典的な会場オークションであることを示す記載ではない。ま

た,引用例1のこのほかの記載をみても,引用発明の「競売」が古典

的な会場オークションに限定されるべき根拠はない。

また,原告は,平成17年12月5日の本件出願当時ネットオーク




ションが公知であったとしても,引用発明のオークションは会場オー

クションであってネットオークションではないことから,引用例1の

会場競売をネットオークションに置換することは容易想到性の議論

である旨主張する。

しかし,前記(イ)のとおり,電子商取引システムを説明した文献で

ある引用例1記載のオークションに「ネットオークション」が含まれ

ないとはいえず,引用発明の「競売」は古典的な会場オークションの

みならず,原告のいう「ネットオークション」,つまり,通信ネット

ワークを介して端末と接続されたコンピュータにより商品の入札を

受け付けるものを含むものである。

そして,被告提出の乙号各証はいずれも出願当時の技術水準等を例

示的に示すものにすぎず,容易想到性の判断における引用例ではな

い。原告の主張は,引用例1についての理解を誤ったものである。

b 次に原告は,引用発明におけるオークションは会場競売であって買

い手がオークション会場まで出かけて行きそこで入札するから,会場

にある「運営管理者のホストコンピュータ」が流通業者である販売店

間を接続することはない旨,また,出品業者や一般消費者はウェブサ

ーバーには接続されているかもしれないが,ホストコンピュータには

接続されていない旨,引用例1において,会場オークションの入札者

の端末から入札者を特定するデータと入札条件にかかるデータを送

信することはない旨,それぞれ主張する。

しかし,前記(イ)のとおり,引用発明の「競売」は古典的な会場オ

ークションのみならず,通信ネットワークを介して端末と接続された

コンピュータにより商品の入札を受け付けるものを含むものであり,

入札を行う販売店が入札を行うための「端末」とこれにネットワーク

で接続された運営管理者の「ホストコンピュータ」とがネットワーク




で接続されているものを含むものである。

そして,引用例1の段落【0010】 【0019】 【0028】
, , ,

【0030】の記載からみて,引用例1には,ウェブサーバー上で車

両データを共有する出品者を含む販売業者と一般ユーザーとが,車両

データを転送するウェブサーバーを介してホストコンピュータと車

両データの送受信を行うべく接続されている旨が示されており,これ

らが接続されていないとはいえない。

してみると,原告の主張は,いずれも引用例1の記載を正解したも

のでない。

c 次に原告は,本願発明は単一のコンピュータが複数のオークション

を提供するものであると主張する。

しかし,本願発明が単一のコンピュータによって複数のオークショ

ンを提供するものである旨の特定は,特許請求の範囲にも明細書にも

記載がなく,むしろ,図2に関連して,複数のコンピュータを用いて

複数のオークションを実現する例が記載されているのであるから,本

願発明は複数のオークションを提供する「コンピュータ」が複数であ

る態様を含むものである。

してみると,原告の主張は,本願発明の技術内容を正解しないもの

である。

なお,原告は,「多数の端末に接続された1つのコンピュータが複

数のオークションを提供するという形態は,通常,インターネット

ークションでしか実現できない」旨主張するが,仮に本願発明におい

て1つのコンピュータが複数のオークションを提供するとしても,そ

の形態がインターネットオークションでしか実現できないと解すべ

き根拠はなく,採用することができない。

d さらに原告は,審決が非論理的な理由付けの手法を用いて一致点を




導いたことにより,「通信ネットワークを介して端末と接続されたコ

ンピュータにより,中古車オークションにおいて商品の入札を受け付

ける方法であって」を誤って本願発明と引用発明の一致点とした旨主

張する。

しかし,前記(ア),(イ)のとおり,審決が上記の点を一致点と認定し

たことに誤りはなく,認定の手法に誤りがあったとはいえない。

イ 取消事由2(相違点の看過?B)について

(ア) 本願発明において,出品者の端末から商品に関する情報や出品者の連

絡先を含む出品データを受け付けた後,これを「一般向け指定オークシ

ョンの入札者」に閲覧可能とするとともに出品取消連絡を受け付ける処

理は,本願明細書の段落【0059】?【0061】,【0076】,

【0077】,【0086】,【0087】(前記(1)ア参照)記載の

とおり,店頭やWeb販売サイトにおける出品者による販売が行われて

いることを前提として,これを促し,またこの販売による成約に応じて

出品取消しを行うものであるから,店頭やWeb販売サイトによる出品

者における販売を行う販売ステージを特定するものである。そして,こ

こで出品取消しが行われていない,つまり成約していない商品について

業者向けオークションである「第1のオークション」を行い,さらに,

この第1のオークションにおいても成約していない商品について一般

向けオークションである「第2のオークション」を行うものである。

してみると,本願発明は,システムが受け付けて入力された出品デー

タを用いた「店頭やWeb販売サイトにおける出品者による販売」 「第


1のオークション」及び「第2のオークション」の3段階の販売ステー

ジを有するものといえる(この点につき当事者間に争いはない。)。

なお,本願明細書には,「通常,業者がオークションに出品するのは

長期在庫となったものなど,早期に処分したい事由のある商品が多い。




それにもかかわらず,流札となった場合には,さらに同様の手続を繰り

返す必要があり,従来の業者向けオークションはこれらの課題に十分に

応えているとはいえない。」(段落【0013】)との記載があり,上

記の「第2のオークション」が業者向けオークションを経てもなお未成

約の車両を販売するための販売ステージであることが示されていると

いえる。

(イ) 他方,引用発明においては,画像情報及び状態説明書のデータをウェ

ブサーバーに入力した後,ウェブサーバー上で出品販売店の店名,住所,

電話番号,メールアドレス等が表示された状態で一般ユーザーと販売店

との間の相対取引が可能なウェブ掲載期限が設定され,その期限到来時

に未成約であった車両について,自動的にオートオークション会場にて

競売にかけられ,ここで流札となった出品車両については,ウェブ上に

再出品が行われて再度小売りがなされることが望ましいとされている。

してみると,引用発明においては,「ウェブ掲載期限内における一般

ユーザーと販売店との相対取引」,「オートオークション会場における

競売」及び「再度小売り」の3段階の販売ステージを有するものである。

(ウ) このうち,「再度小売り」の販売ステージは,システムに入力された

商品データを用いた一連の販売ステージのうち,業者向けオークション

である「オートオークション会場における競売」と区別されるだけでな

く,業者向けオークションを経てもなお未成約の車両を販売するための

販売ステージであって,業者向けオークションを経ていない「ウェブ掲

載期限内における一般ユーザーと販売店との相対取引」の販売ステージ

とは,中古車販売のための方法を構成する販売ステージとしての性質が

異なることから,これと区別されるべきものである。

(エ) してみると,本願発明と引用発明とは,商品に関する出品データを受

け付けた後に,一般ユーザーに向けた店頭やWeb販売を行い,そこで




販売されなかった商品について,業者向けオークションを行い,さらに,

ここでも成約していない商品について,再度一般ユーザーに販売すると

いう3つの販売ステージを有する点において一致するものといえる。

そして,審決の対比についての説示の冒頭の「引用発明の全体と本願

発明の全体との対応の整理」に関する部分(10頁9行?25行)は,

以上の旨を説示したものであって,この論旨に誤りはない。

(オ) 原告の主張につき

a 原告は,引用発明においては,一般ユーザー向け小売りである第1

ステージと,業者向け会場オークションである第2ステージとの異な

る2段階の売買ステージしか存在しないのに対し,本願発明において

は,一般向けネットオークション入札可能者に対する小売りである第

1ステージと,業者向けネットオークションである第2ステージと,

一般向けネットオークションである第3ステージとの異なる3段階

の売買ステージがある旨,引用発明の一構成要素が他の構成要素と同

一か否かは技術思想として客観的に同一か否かでみるべきでシステ

ム利用者の主観によるべきでなく,引用発明の再度小売りは最初の小

売りと同一の構成要素である旨,それぞれ主張する。

しかし,前記(イ)ないし(エ)のとおり,引用発明における再度小売り

は,第1,2段階である「ウェブ掲載期限内における一般ユーザーと

販売店との相対取引」,「オートオークション会場における競売」と

は区別されるべきであって,本願発明と引用発明とは,いずれも異な

る3段階の売買ステージからなる点において一致するものである。

そして,「中古車の販売は,時間の経過とともに,販売の性質が異

なる」ものであって,売れ残りの中古車についての「再度小売り」は

販売店Aにとって最初の相対取引とは性質が異なる旨の被告の反論

も,システム利用者たる販売店の主観に応じて販売ステージの性質が




決まる旨の主張ではなく,むしろ,客観的に技術思想としてみた場合

に,業者向けオークションにおいて販売できなかった車両を販売する

ための販売ステージが,業者向けオークションにかけられていない車

両を販売するステージとは,中古車販売システムにおける方法を構成

する販売ステージとしての性質が異なることを指摘するものである。

してみると,原告の上記主張は理由がない。

なお,後記cのとおり,審決は,本願発明の第3ステージである「第

2のオークション」と引用発明の第3ステージである「再度小売り」

との相違点については,「相違点2」として実質的に判断しており,

審決に相違点の看過はない。

b 次に原告は,「小売り」と「ネットオークション」とは全く異なる

売買形態であるから,これらを同一視することは許されず,引用発明

の「ウェブに出品しての小売り」と,本願発明の「第1のオークショ

ンに参加することができない入札者が参加可能なオークション」とが

「ウェブによる一般の購買者への販売」という概念に包摂されるとの

審決の上位概念化は許されるべきでない旨主張する。

しかし,審決は,ネットオークションと小売りとを同一視したもの

ではなく,単に,両者が広い意味で「販売」であるとした上で,その

具体的な相違を「相違点」として採り上げて判断しているのであるか

ら,その判断手法に問題はない。

また,ネットオークションへの出品による小売りも広く行われてお

り,これが可能であることは,一般常識というべきである。してみる

と,「ネットオークション」と「小売り」とは,上位概念を観念でき

ないような全く異なる概念ではなく,この点からみても,原告の主張

は理由がない。

c 次に原告は,審決は引用発明のウェブサーバー及びホストコンピュ




ータが本願発明のコンピュータに相当すると認定しているが,他方

で,引用発明の商談メールを通じた小売りは,ウェブサーバー6によ

る運営・管理下の取引ではなく,購買者である一般ユーザー7と販売

店Aとの間で「当事者どうしが直接交渉する」ものであり,引用発明

は本願発明のコンピュータにおいて行われるデータ受付ステップや

取引決定ステップを含んでおらず,本願発明と引用発明との間には主

体の相違点があり,審決はこれを看過していると主張する。

確かに,審決は,対比に当たり,引用発明の「ウェブサーバー」及

び「ホストコンピュータ」は,「後記する相違点はあるものの」本願

発明の「コンピュータ」に相当する旨判断した上で,「通信ネットワ

ークを介して端末と接続されたコンピュータ」が行う「中古車オーク

ションにおいて商品の入札を受け付ける方法」のうちの「前記第一の

オークションにおいて前記第一の取引が成立しなかった場合」である

「一般の購買者が参加可能な販売」の「データ受付ステップ」におけ

る,購買者の端末からの購入の要求に係るデータを受け付けて記憶す

る処理,及びそれに続く「取引決定ステップ」における取引の処理に

ついて,「前記コンピュータ」,つまり商品の入札を受け付ける方法

が行われる「通信ネットワークを介して端末と接続されたコンピュー

タ」が行う旨を一致点としているかのようにもみえる。

しかし,他方で,審決は,「一般の購買者が参加可能な販売」が本

願発明では「オークション」であり,引用発明ではそうではない点を

相違点2として挙げており,その相違点2の判断の具体的な内容とし

て,引用例3を参照して,一般ユーザーを想定した中古車オークショ

ンを行うことのみならず,「中古車オークション」を行う「サーバ」

が「データを受け付け」て「取引の成否を決定する」旨を含む技術を

「引用例3記載事項A」として認定した上で,引用発明における「一




般の購買者が参加可能な販売」に対して上記の「引用例3記載事項A」

を適用することによって,相違点2に係る構成が容易想到である旨を

説示している。つまり,審決は,オークションを行うコンピュータが

データを受け付けて取引の成否を決定する点が相違点に含まれてい

ることを前提とした判断を示している。

これらの審決の記載を総合的にみれば,審決は,「一般の購買者が

参加可能な販売」の「データ受付ステップ」における,購買者の端末

からの購入の要求に係るデータを受け付けて記憶する処理,及びそれ

に続く「取引決定ステップ」において取引の処理を行うことを一致点

とし,これらの処理を,本願発明では「前記コンピュータ」が行うが

引用発明では「前記コンピュータ」が行わない点,つまり原告のいう

「主体の相違」を相違点として整理した上で,その容易想到性を判断

しているといえる。

してみると,審決が上記主体の相違点を看過した旨の原告の主張

は,審決を正解しないものである。

このほか,原告は,引用発明には,ウェブサーバーやホストコンピ

ュータにより受け取られる購入要求データが存在しないという点で

本願発明との客体の相違点がある旨主張するが,この主張は,原告が

いう各ステップを行う「主体の相違」を別の方法で表現したものにす

ぎず,上記同様理由がない。

ウ 取消事由3(相違点の看過?C)について

(ア) 本願発明である【請求項1】の記載における「出品データ受付ステッ

プ」の記載中「別の一般向け指定オークション」とは,後段における第

1のオークションにおける第1の取引が成立しなかった場合の「前記第

1のオークションに参加することができない入札者が参加可能なオー

クション」を指しており,この「別の一般向け指定オークション」の入




札者が「第1のオークションに参加することができない」者であってこ

れが「業者」でなく「一般」の者であることが明示されているものであ

る。そして,本願明細書の段落【0056】,【0059】,【001

0】の記載においても,オークションの参加者が一般消費者ないし一般

顧客であることを前提としていることが示されている。

してみると,一般向け指定オークションの入札者は一般ユーザーであ

って,これを前提とした審決の説示に誤りはない。

(イ) 原告の主張につき

a 原告は,引用発明の相対取引の当事者となる一般ユーザーはその商

品の売買が成約しなかった場合に業者向け会場オークションにかけ

られることを知らないのに対して,本願発明の小売りの当事者は単な

る一般ユーザーではなく一般向け指定オークション(第2のオークシ

ョン)の入札者であり,第1ステージの小売りの段階において後に自

身が参加できる一般向け指定オークションが提供される可能性を知

っており,購入の作戦を立てることができるという引用発明にはない

効果が得られる旨主張する。

しかし,前記(ア)のとおり,一般向け指定オークションの入札者は

一般ユーザーであって,これが単なる一般ユーザーでないことを前提

とした原告の主張は,その前提において失当である。

b 次に原告は,本願発明の「出品取消連絡を受け付けるステップ」中

の「前記一般向け指定オークションの入札者に閲覧可能」との記載に

おける「前記」につき対比がされていないと主張している。

しかし,この「前記」とは,それに続く「一般向け指定オークショ

ン」が,これ以前に記載された「出品データ受付ステップ」における

「前記第一のオークションにおいて流札した場合に出品する別の一

般向け指定オークション」であることを示すにすぎず,一般向け指定




オークションの入札者が一般ユーザーでないことを示すものではな

く,原告の主張は理由がない。

エ 取消事由4(相違点2の判断の誤り)について

(ア) 本願発明と引用発明との相違点2とは,別添審決書記載のとおり,「本

願発明が,『一般の購買者が参加可能な販売』が『オークション』であ

り,購買者が『入札』をすることにより購買するものであり,このため

『別の一般向け指定オークションの入札者の端末からの商品に対する

入札条件を示す別の入札データを受け付けて記憶する別の入札データ

受付ステップ』と,『入札データ受付ステップにて受け付けた別の入札

データに基づいて別の取引の成否を決定する別の取引決定ステップ』と

を有するのに対し,引用発明はそのようになっていない点」であるが,

引用例3には前記(3)アの記載があり,このうち,段落【0021】,

【0031】,【0033】,【0043】,【0047】の記載から

すれば,引用例3には,審決のいう「引用例3記載事項A」である「中

古車オークションの購買者として一般ユーザを想定する」こと,「購買

者が端末で応札する」こと, 「サーバ
及び (オークション端末5を含む。)

は端末から車両の応札価格のデータを受け付け」,「受け付けたデータ

に基づいて取引の成否を決定する」ことが記載されているといえる(引

用例3記載事項Aの認定について争いはない。)。

(イ) そして,引用発明の「再度小売り」として行われる「ウェブに出品し

ての小売り」は一般の購買者への販売手法の一つであり,これは,引用

例1の段落【0016】【0024】の記載に示されているとおりであ

る。

(ウ) してみると,引用発明の一般の購買者への販売手法である「再度小売

り」に換えて,同様に一般の購買者への販売手法である,引用例3記載

事項Aの「中古車オークション」を採用することは,当業者(その発明




の属する技術の分野における通常の知識を有する者)にとって容易にな

し得たことである。

なお,この点について,引用例1及び引用例3のいずれにおいても阻

害要因の記載はない。また,前述のとおり,ネットオークションへの出

品による小売りも広く行われているから,引用発明の「再度小売り」を

「ネットオークション」である引用例3記載事項Aの中古車オークショ

ンによって実現することにつき,阻害要因はない。

審決は,上記の趣旨を述べたものであり,その内容に誤りはない。

(エ) 原告の主張につき

a 原告は,審決が相違点の判断にかかる動機付けを示していない旨主

張する。

しかし,審決は,引用発明の「再度小売り」として行われる「ウェ

ブに出品しての小売」が「ウェブによる一般の購買者への販売」であ

る点において一致するとした上で,この「ウェブによる一般の購買者

への販売」として「引用例3記載事項A」の中古車オークションを適

用することが容易想到である旨を説示しており,動機付けを含めて前

記(ア)ないし(ウ)に示した論旨を実質的に示している。

してみると,これを示していないとの原告の主張は,審決を正解し

ないものである。

b 次に原告は,引用例1の段落【0024】の記載は,引用発明に「引

用例3記載事項A」を適用することの阻害要因である旨主張する。

しかし,引用例1の段落【0024】は,再度小売りのステージへ

の移行に当たって「商談解除の文字情報フラッグのボタンをクリック

しウエブサーバー6に送信するだけで」よく,処理が簡素である旨記

載するものであり,第3ステージへの移行がより簡素に行えることを

示した記載である。




そして,引用発明の「再度小売り」に代えて「引用例3記載事項A」

の中古車オークションを適用しても,中古車オークションのステージ

への移行を同様に簡素な処理により行うことができるものである。

してみると,この記載は,引用発明の「再度小売り」に代えて「引

用例3記載事項A」の中古車オークションを適用することを阻害する

ものではなく,原告の上記主張は失当である。

c さらに原告は,「最初の小売り」をそのままにして「再度の小売り」

だけを中古車オークションに置換することの動機付けがない旨主張

するが,中古車販売において,売れ残り車はその価格が下がり,出品

者からしても早く売りさばきたいことは自明であり,以上からすれ

ば,早く売りさばこうとする動機がまださほど強くないものと解され

る「最初の小売り」はそのままにして「再度の小売り」だけを中古車

オークションに置換することの動機付けはあるというべきであり,原

告の上記主張は理由がない。

3 結論

以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所 第1部



裁判長裁判官 中 野 哲 弘




裁判官 東 海 林 保




裁判官 矢 口 俊 哉