関連審決 | 無効2003-35082 |
---|
関連ワード | 29条1項3号 / 頒布された刊行物 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 29条の2(拡大された先願の地位) / 遡及 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 設定登録 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / |
---|
元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
---|
事件 |
平成
16年
(行ケ)
117号
審決取消請求事件
|
---|---|
原告 株式会社住軽日軽エンジニアリング 原告 ジー・オー・ピー株式会社 原告ら訴訟代理人弁護士 小林幸夫,弁理士 久保司 被告 アルインコ株式会社 訴訟代理人弁護士 加藤幸江,中務尚子,弁理士 藤川忠司 |
|
裁判所 | 東京高等裁判所 |
判決言渡日 | 2004/10/06 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告らの請求を棄却する。 訴訟費用は原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
---|---|
原告らの求めた裁判
「特許庁が無効2003-35082号事件について平成16年2月17日にした審決を取り消す。」との判決。 |
|
事案の概要
1 特許庁における手続の経緯 原告らが特許権者である本件特許第2989166号発明「アルミニウム製可搬式作業台」は,平成9年9月26日実用新案出願(実願平9-9069号)されたものが,平成10年2月10日特許出願へ変更(特願平10-44670号)され,平成11年10月8日に設定登録された。 被告は,平成15年3月4日,請求項1,2に関する本件特許の無効審判請求(無効2003-35082号)をし,原告らが,平成15年12月1日,請求項の削除を含む訂正請求をした結果,平成16年2月17日,「訂正を認める。 特許第2989166号の請求項1に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決があり,その謄本は同月27日原告らに送達された。 2 本件発明の要旨 (1) 登録時の請求項1,2の記載【請求項1】 アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において,天板の隅角部又は天板の隅角部から延びる主脚に,手掛け部材を立設位置から主脚に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。 【請求項2】 手掛け部材が天板の4つの隅角部又は4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に,該主脚の縦部材に沿って折り畳み可能に取付けられていることを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。 (2) 訂正請求後の請求項1の記載【請求項1】 アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板の両側端部に,アルミニウム押出形材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において,天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延びる主脚に,中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたことを特徴とするアルミニウム製可搬式作業台。 (この発明を,以下「訂正発明」という。なお,訂正前の請求項2は削除された。) 3 被告(無効審判請求人)主張の無効理由 (ア)本件発明1(訂正前の請求項1記載の発明)は審判甲第1号証の先願の発明と同一であり,特許法29条の2の規定に該当し,無効理由を有する。 (イ)本件発明1は,審判甲第2号証ないし第4号証に記載されたいずれかの発明と,審判甲第5号証ないし審判甲第7号証に記載されたいずれかの発明に基づき当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定に該当し,無効理由を有する。 (ウ)本件発明2(訂正前の請求項2記載の発明)は,審判甲第5号証に記載された発明と同一であり,特許法29条1項3号に該当し,無効理由を有する。 (エ)本件発明2は,審判甲第5号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定に該当し,無効理由を有する。 (オ)本件発明2は,審判甲第5号証に記載された発明及び審判甲第8号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定に該当し,無効理由を有する。 (カ)本件発明2は,審判甲第2号証ないし審判甲第4号証に記載されたいずれかの発明,及び審判甲第5号証に記載された発明,審判甲第8号証に記載された発明から当業者が容易に発明することができたものであり,特許法29条2項の規定に該当し,無効理由を有する。 ・審判甲第1号証:特開平11-107519号公報 ・審判甲第2号証:実願平5-504号(実開平6-56321号)のCD-ROM ・審判甲第3号証:特開平7-102758号公報 ・審判甲第4号証:特開平9-32271号公報 ・審判甲第5号証:実願昭58-107263号(実開昭60-15600号)のマイクロフィルム ・審判甲第6号証:実願平5-10880号(実開平6-59600号)のCD-ROM ・審判甲第7号証:特開平6-336888号公報 ・審判甲第8号証:実願昭50-11487号(実開昭51-95541号)のマイクロフィルム 4 審決の理由の要点 (1) 訂正の可否 上記請求項に関する訂正事項は,いずれも,願書に添付した明細書又は図面に記載した事項の範囲内であり,実質上特許請求の範囲を拡張し,変更するものでもなく,適法なものといえる。 (2) 通知した無効理由の要旨 平成15年10月24日付けで通知した無効理由の要旨は,訂正前の請求項1及び請求項2に係る発明(本件発明1及び本件発明2)について, 刊行物1:「仮設機材マンスリー第152号」2〜4頁,平成9年5月1日,社団法人仮設工業会発行(本訴甲第3号証) 刊行物2:実願平5-10880号(実開平6-59600号)のCD-ROM(本訴甲第4号証)を示して,本件発明1及び本件発明2は,刊行物1,2記載の発明から当業者が容易に発明できたものであり,いずれの発明も特許法29条2項に該当し,特許法123条1項2号の規定に該当する,というものであった。 上記のように平成15年12月1日付け訂正は適法であるから,訂正発明についてなお無効理由があるかどうか以下検討する。 (3) 本件特許出願前に頒布された刊行物及びそこに記載された事項 本件特許は,平成9年9月26日に出願された実用新案登録出願(実願平9-9069号)から適法に特許出願に変更されたものであるから,本件特許の出願日は平成9年9月26日まで遡及し,その出願前に頒布された次の刊行物には,以下の記載が認められる。 (3)-1 刊行物1:「仮設機材マンスリー第152号」2〜4頁,平成9年5月1日,社団法人仮設工業会発行 (ア)「アルミニウム合金製可搬式作業台の認定基準の制定について」(2頁表題) (イ)「(2)構造等について イ)最大高さを,2m未満としたこと。また,仕様高さが1.5mを超えるものについては,安全に昇降できる「手がかり棒」等の備え付けを必要としたこと。(根拠:労働安全衛生規則第526条の規定により高さが1.5mを超える箇所での作業に,安全に昇降するための設備が必要とされている。)」(2頁右欄7〜13行) (ウ)「4 材料等 4-1 可搬式作業台の主要部分に使用するアルミニウム合金は,次に掲げるもの,又はこれと同等以上の機械的性質を有するものでなければならない。(1)押出形材を使用する場合は,日本工業規格H4100(アルミニウム及びアルミニウム合金押出形材)に規定する記号A6063S(中略)の規格 (2)板及び条を使用する場合は,日本工業規格H4000(アルミニウム及びアルミニウム合金の板及び条)に規定する記号A5052P(中略)の規格」(3頁左欄1〜12行) (エ)「5 構造等 可搬式作業台は,支柱・・,天板,踏さん,折りたたみ金具及び支柱端具を有し,かつ,次の各号に定めるところに適合するものでなければならない。 5-1 開脚状態における垂直高さ・・は,2m未満であること。ただし,1.5mを超えるものにあっては,安全に昇降するため天板面から上に60cm以上の突出した手がかり棒等を設けたものであること。」(3頁左欄25〜33行) 上記記載及び3頁左上の図によれば,刊行物1には,次の発明(刊行物1記載の発明)が記載されていると認められる。 「アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において,天板面から上に突出した手掛け部材を設けたアルミニウム製可搬式作業台。」 (3)-2 刊行物2:実願平5-10880号(実開平6-59600号)のCD-ROM(請求人提出の審判甲第6号証) (ア)実用新案登録請求の範囲 「【請求項1】(イ)パイプ2を持つ金具1を脚立4の足の上部に取りつけ固定する。(ロ)パイプ2に手すり3を通し,手すり3の下部とパイプ2をボルト5で結ぶ。(ハ)手すり3を下降して手すり3の上部とパイプ2を,ボルト5で結ぶこともできる。以上のように構成された手すり付き脚立。 【請求項2】金具1の中央部に手すり3の下部を軸に,手すり3が回転できる回転軸6を設け,且つ金具1の上部と下部に手すり3をボルト5で固定できる固定部7,8,をもつ,請求項1の手すり付き脚立。」 (イ)考案の詳細な説明 「この考案は脚立の台上に手すりをつけて,脚立への上がり下り等の安定を図る支えの器具に関するものである。従来の脚立はその上部に人体を支える器具がないために,脚立への上がり下り又は上部での作業ではバランスが取りがたく,その使用には不安を感ずる人が少なくない。又一部には椅子の形式で背もたれの付いているものもあるが,型が大きく移動や保管に不便であり且つ椅子で代用もできる。本考案はこれらの点に留意し脚立の上部に手すりをつけて,これを活用することにより上がり下りや,脚立上での作業の安定化が図られるよう配慮した。又手すりは上下できるよう工夫して使用済み後は,手すりを脚立の足に沿って下げ,場所をとらないよう保管の便を図った。これを図面について説明すれば,パイプ2を持つ金具1を脚立の足の上部に取りつけ固定し,パイプ2に手すり3を通して手すり3の下部とパイプをボルト5で締めて固定する。このことにより手すり3は脚立の台上に立って,これを支えにして利用者は安定して上がり下りができ,且つ上部での諸作業にも安定度が得られる。又保管の場合は手すり3を下降して手すりの上部とパイプを,ボルト5で締めて場所をとらないようにした。請求項2の金具1については,金具1の中央部に設けた回転軸6と金具1の上部と下部に,ボルト5で手すり3を固定できる固定部7,8,を設けて,手すり3を上部又は下部に固定できるようにして,使用時と保管時の利便を図った。」 (4) 対比 訂正発明と刊行物1記載の発明とを対比すると,両者の一致点及び相違点は次のとおりであると認められる。 【一致点】 「アルミニウム部材から構成された天板の両側端部にアルミニウム部材からなる梯子状の主脚を天板の裏側に沿って折り畳み可能に設けた可搬式作業台において,天板面から上に突出した手掛け部材を設けたアルミニウム製可搬式作業台。」 【相違点1】 訂正発明の天板がアルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせた天板であるのに対し,刊行物1記載の発明の天板はアルミニウム部材であるものの,アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせたものかどうか不明な点, 【相違点2】 訂正発明の梯子状の主脚は,アルミニウム押出形材からなるのに対し,刊行物1記載の発明の主脚はアルミニウム部材であるものの,アルミニウム押出形材からなるのかどうか不明な点, 【相違点3】 訂正発明の手掛け部材は,天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延びる主脚に,中空のアルミニウム押出形材で構成する手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたのに対し,刊行物1記載の発明においては,手掛け部材の取付けや材料について記載されていない点。 (5) 相違点に対する判断 (ア)相違点1,2について 刊行物1記載の発明において,天板はアルミニウム部材であるものの,アルミニウム押出形材とアルミニウム板を組合わせたものかどうか,また,刊行物1記載の発明の主脚はアルミニウム部材であるものの,アルミニウム押出形材からなるのかどうか不明であるが,刊行物1には,材料等として,主要部に使用するアルミニウム合金として,押出形材を使用する場合や,板及び条を使用する場合が記載されており((3)-1の(ウ)参照),刊行物1発行当時において,アルミニウム合金製可搬式作業台の主要部材がアルミニウム合金の押出形成や板及び条で製造されることが一般的であったことが認められる。そうすると,訂正発明の相違点1,2に係る構成は当業者が適宜できた設計的事項にすぎない。 (イ)相違点3について 刊行物2の特に図8ないし図10には,脚立に関し,脚立の脚の1本の上部に回動軸6を中心に回動自在に「手すり3」を設け,この手すり3は図10に示すように脚に沿って収納されることが記載されており,この手すり3は,脚の上部に,立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けたものであると認められる。 そして,この手すり3は,「脚立の上部に手すりをつけて,これを活用することにより上がり下りや,脚立上での作業の安定化が図られるよう配慮した」(公報4頁9〜10行)ものであるから,訂正発明の手かけ部材と基本的な機能や作用効果において変わるところがない。 訂正発明においては,手掛け部材が天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられているが,手がけ部材を作業台天板の4つの偶角部に設ければ,作業台への昇降や,作業台上での作業の安全性がより向上することは当然であるから,当業者が適宜できる設計的事項にすぎない。 さらに,手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材で構成した点については,中空のアルミニウム押出形材で製造した可搬式作業台自体が公知である以上,その付属品ともいうべき手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材とすることは当業者が適宜採用し得る設計的事項にすぎないし,当該構成とした目的や作用効果について明細書には何ら記載されていないが,訂正発明の課題の一つである「軽量化」にあるとしても,当然に奏する作用効果にすぎない。 そして,両者の技術分野は共通しており,適用を除外すべき理由もないから,刊行物1記載の発明の手かけ部材に,刊行物2記載の構成の上記手すりを適用し,設計変更をすることによって,訂正発明の各相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項にすぎない。また,訂正発明が奏する作用効果は,「本発明によれば,従来の可搬式作業台の構造,軽量性をほとんど変えることなく,作業の安全性が大幅に向上し,その結果として,作業性の向上も期待できるアルミニウム製可搬式作業台が提供される。」(段落番号0020参照)というものであり,刊行物1記載の発明に刊行物2に記載された事項を適用すれば当然に奏する作用効果であって格別なものではない。 したがって,訂正発明は,刊行物1,2記載の発明から当業者が容易に発明できたものであり,特許法29条2項に該当するものである。 (6) 被請求人(原告)の主張について 被請求人は,意見書において,刊行物2記載の手すり3に関し,実際は脚立の昇降用の手掛け部材ではなく,本来,脚立は天板上の作業を予定しておらず,万が一作業する場合においても,脚立上に上がったときに身体のバランスを取るものであるから,刊行物2には訂正発明の「手掛け部材を立設位置から主脚の側面に沿って折り畳み可能に取付けた」構成は開示されておらず,さらに刊行物2に記載された脚立と訂正発明の可搬式作業台とでは技術分野を異にするものである旨主張する。 しかしながら,刊行物2に記載の手すりは,上記(3)-2の(イ)に記載されているように「脚立への上がり下り等の安定を図る」ことも,脚立上での作業の安定を図ることもできるのであって,この手すりは脚立上に上がったときに身体のバランスを取るためにだけ用いられるものではない。 また,脚立と可搬式作業台とは,ともに折り畳み可能で,可搬式であって,高所での作業を容易に行うために使用されるものである点で技術分野が共通しているから,被請求人の主張は採用できない。 (7) 審決のまとめ 以上のように,訂正発明の特許は,特許法29条2項の規定に違反してなされたものであって,特許法123条1項2号の規定に該当し,無効にすべきものである。 |
|
原告ら主張の審決取消事由(相違点3に関する判断の誤り)
1 手掛け部材が天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられている点の容易想到性について (1) 訂正発明は,刊行物1記載の発明の手掛け部材として,刊行物2記載の構成の手すりを適用した場合に得られる1本の手掛け部材を,単に数を増やして4本としたものではない。 すなわち,訂正発明においては,手掛け部材の天板に対する位置が極めて重要であり,手掛け部材が,天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられているものである。 手掛け部材が4本の場合には,昇降時に梯子路の左右に手掛け部材があり,片手では,左利き,右利きのいずれの場合も,また,両手でも,簡単に手掛け部材を掴むことができるから,昇降時の安全性が格段に向上する。また,この効果は,4本の手掛け部材が,天板の4つの隅角部よりも少し内側であってもよく,その位置に,手掛け部材が4本あれば,昇降時に手掛け部材を捕まえるのに,支障になることはない。 また,天板の4つの隅を立設する手掛け部材の存在が天板の広さ(作業時の作業エリア)を明示することになるから,天板上での作業時の安全性が向上する。4本の手掛け部材を設けても,天板上で作業員が作業中に姿勢を崩した場合,捕まることができる手掛け部材は,天板の左端又は右端のいずれか一方に設けたものに限られ,他方に設けた手掛け部材を捕まえることはできないから,端面によっては,手掛け部材に触れることなく墜落してしまう可能性がある。したがって,天板の広さ(作業時の作業エリア)を明示できることは格別の効果といえる。 (2) 刊行物2の手すり3は,「脚立の上部に手すりをつけて,これを活用することにより上がり下りや,脚立上での作業の安定化が図られるよう配慮した」(4頁9〜10行)ものであるとしても,この安定化は手すりに捕まること,若しくは触れることを前提として得られるものであり,天板の広さ(作業時の作業エリア)を明示する機能はない。端面によっては手掛け部材に触れることなく墜落してしまう可能性のある訂正発明における可搬式作業台の場合と,刊行物2の場合とでは,手掛け部材の基本的な機能や作用効果が明白に相違する。 (3) 審決の判断は,訂正発明において,手掛け部材を設ける位置,本数を特定した意義を正解することなく,訂正発明の手掛け部材と刊行物2の手すり3とが,機能,作用効果において,変わるところがないとの前提に立つものであって,誤りである。 2 手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材で構成した点の容易想到性について (1) 審決は,手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材で構成した点について,中空のアルミニウム押出形材で製造した可搬式作業台自体が公知である以上,その付属品ともいうべき手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材とすることは当業者が適宜採用し得る設計的事項にすぎないと説示する。 しかし,刊行物1には,可搬式作業台がアルミニウム合金製であること,及び,アルミニウム押出形材を使用することの記載はあるが,中空のアルミニウム押出形材を使用することの記載はなく,審決の説示は,中空のアルミニウム押出形材で製造した可搬式作業台自体が公知であるとの誤った前提に基づくものであり,誤りである。 刊行物2にも,「手すり3」が,中空のものであることの記載はない。 (2) 回動させる手掛け部材は,軽量でかつ,錆びないものにすることで,折り畳みの容易性を確保する必要がある。訂正発明においては,手掛け部材をアルミニウム押出形材で構成すること,さらに,中空なものとすることの2つの点をもって軽量化を実現できるのであり,手掛け部材を「軽量化」することは,当然に奏する作用効果にすぎないものではない。 (3) 審決は,訂正発明において,手掛け部材の材質を特定することの意義を正解することなく,訂正発明の格別の作用効果を看過するものであって,誤りである。 |
|
当裁判所の判断
1 手掛け部材が天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けられている点の容易想到性について (1) 刊行物1(甲第3号証)には,「安全に昇降するため天板面から上に60cm以上の突出した手がかり棒等を設け」(3頁「5 構造等」の5-1)と記載されており,また,刊行物2(甲第4号証)には,「脚立の上部に手すりをつけて,これを活用することにより上がり下りや,脚立上での作業の安定化が図られる」(4頁9〜10行)と記載されている。 これらの記載からすると,手掛け部材(手がかり棒,手すり等)を設けることの技術的意義は,昇降時及び作業時に,これを掴むことなどにより,安全かつ安定して作業をできるようにすることにあることは明らかである。 また,刊行物1には,アルミニウム合金製可搬式作業台認定基準として,「天板に到達するための踏さん・・・からなり」(2頁右欄「2 定義」の項)と記載されており,この記載,及び,刊行物1記載の発明が,主脚が天板の両側端部に設けられるという構成を有していることからすると,刊行物1記載の発明は,いずれの主脚からも昇降可能としたものであることは明らかである。また,刊行物1には,「主として建築物等の天井又は内壁面等の仕上げ作業等に用いる」(2頁右欄「1 適用」の項),「天板の大きさは,幅40cm以上とし,長さが60cm以上である」(3頁左欄「5 構造等」の5-2),と記載されており,これらの記載からすると,刊行物1記載の発明において,天板は,比較的大きい面積を有し,作業者が,天井等の仕上げ作業中に,天板上で向きを変え得ることを前提として形成されるものであることも明らかである。 (2) 作業台が安全対策を必要とするものであることは,いうまでもない。刊行物1記載の発明において,作業台が,いずれの主脚側からも昇降可能とされ,また,作業者が天井等の仕上げ作業中に天板上で向きを変えることを前提として,天板の大きさ等が定められるのであれば,これに対応して安全対策を施すことは当業者ならば当然に配慮することである。 前記のとおり,手掛け部材は,昇降時及び作業時にこれを掴んで,安全かつ安定して作業をするために設けられるものと認められるから,刊行物1記載の発明における作業台の上記使用態様からすれば,昇降の便宜,安全を考え,また,作業中の安全を考えて,手掛け部材を,天板の1カ所だけとはせず,4隅部に4カ所設けることは,当業者ならば容易に想到できることと認められる。なお,手掛け部材は,昇降時に掴むことを目的の一つとしている以上,天板の4つの隅角部に設ける必要はあるが,必ずしも,刊行物2のように,天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設ける必然性のないことも明らかである。 (3) そして,手掛け部材を4隅部に設ければ,これを両手で掴むことも,左右いずれの手を利き手とする作業者にも対応可能であることも自明のことである。また,平面に目印となるものがあれば,平面の幅,長さ等を,感覚的に認識し易いことは,当業者でなくとも,日常,経験することであるから,天板の4隅に立設される手掛け部材により天板の広さ(作業時の作業エリア)を認識し易いことも自明のことである。これに反して作用効果に関し原告らが主張する点は理由がない。 (4) したがって,手掛け部材を,天板の4つの隅角部又は天板の4つの隅角部から延びる主脚の縦部材に設けることは当業者の設計的事項であるとした審決の判断に,誤りはない。 2 手掛け部材を中空のアルミニウム押出形材で構成した点の容易想到性について (1) 原告らは,刊行物1には,可搬式作業台がアルミニウム合金製であることと,アルミニウム押出形材を使用することの記載はあるが,中空のアルミニウム押出形材を使用することの記載はないから,審決は,中空のアルミニウム押出形材で製造した可搬式作業台自体が公知であると誤認している旨主張する。 しかし,審決は,「刊行物1発行当時において,アルミニウム合金製可搬式作業台の主要部材がアルミニウム合金の押出形成や板及び条で製造されることが一般的であったことが認められる。」(相違点1,2についての判断。なお,原告らは,この判断を争わない。)とした上で,「中空のアルミニウム押出形材で製造した可搬式作業台自体が公知である」と認定したものであり,刊行物1に,可搬式作業台を「中空のアルミニウム押出形材」で作成することが明記されていると認定したわけではない。原告らの主張は,審決の認定に基づかないものであって,理由がない。 しかも,刊行物1(甲第3号証)には,「支柱の基本は□パイプ構造。軽量と剛性の両立を図られ」(アルインコ株式会社の「多機能作業台」紹介頁)と記載されているし,これと,「可搬式作業台の主要部分に使用するアルミニウム合金」(3頁左欄「4 材料等」の4-1)との記載や,「押出形材を使用する場合」(同4-1(1))との記載からすると,刊行物1において,可搬式作業台の主要部品が,中空のアルミニウム合金の押出形材を用いて形成されることは明らかである。 (2) 刊行物1において,可搬式作業台の主要部品(特に,主脚における支柱)が,中空のアルミニウム合金の押出形材を用いて形成されることは,上記認定のとおりである。手掛け部材も,可搬式作業台の主要部品であることに変わりはなく,しかも,手掛け部材は,主脚(支柱)の側面に沿って折り畳み可能に設けられるものであり,主脚(支柱)に連続して設けられるものであるから,刊行物1記載の可搬式作業台の手掛け部材として,刊行物2の手掛け部材を適用する場合,手掛け部材を,主脚(支柱)同様,「中空のアルミニウム押出形材」で形成することは,当業者ならば容易に想到し得ることというべきである。 刊行物1記載の発明の可搬式作業台において,手掛け部材を「中空のアルミニウム押出形材」で形成することが容易に想到できる以上,「中空のアルミニウム押出形材」で形成すれば,軽量化が実現できることは明らかである(刊行物1にも,軽量と剛性の両立が図られることが記載されている。)。原告ら主張の訂正発明の作用効果が格別のものであるということはできない。 (3) したがって,手掛け部材を,「中空のアルミニウム押出形材」で形成することは,当業者の設計的事項であるとした,審決の判断に誤りはない。 3 まとめ 以上のとおりであるから,相違点3について,刊行物1記載の発明の手掛け部材に,刊行物2記載の構成の手すりを適用し,設計変更をすることによって,訂正発明の各相違点に係る構成とすることは,当業者が容易に想到できた事項にすぎないとした審決の判断には誤りはない。 |
|
結論
以上のとおり,原告ら主張の審決取消事由は理由がないので,原告らの請求は棄却されるべきである。 |
裁判長裁判官 | 塚原朋一 |
---|---|
裁判官 | 塩月秀平 |
裁判官 | 野輝久 |