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事件 平成 22年 (行ケ) 10264号 審決取消請求事件
裁判所のデータが存在しません。
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/03/23
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
判例全文
判例全文
平成23年3月23日 判決言渡

平成22年(行ケ)第10264号 審決取消請求事件

平成23年2月14日 口頭弁論終結

判 決




原 告 株式会社スーパー・フェイズ



訴訟代理人弁理士 栗 原 浩 之

同 村 中 克 年

訴訟復代理人弁理士 澤 井 容 子



被 告 特 許 庁 長 官



指 定 代 理 人 松 下 聡

同 長 浜 義 憲

同 岡 本 昌 直

同 紀 本 孝

同 小 林 和 男

主 文

1 原告の請求を棄却する。

2 訴訟費用は原告の負担とする。

事 実 及 び 理 由

第1 請求

特許庁が不服2008?14717号事件について平成22年6月29日にした

審決を取り消す。

1
第2 争いのない事実

1 特許庁における手続の経緯

原告は,平成18年(2006年)6月13日,発明の名称を「使用済み紙おむ

つの再生利用システム及び再生利用方法」とする発明について,国際出願し(以下

「本願」という。優先権主張 平成17年(2005年)6月14日 日本国)
,本

願は,平成18年(2006年)12月21日,国際公開された(国際公開番号 WO

2006/134941 A1,国際公開時の請求項の数は11であった。。


原告は,平成20年4月9日付け手続補正により,特許請求の範囲及び明細書を

変更する補正をした。

本願は,平成20年5月9日付けで拒絶査定を受け,原告は,同年6月12日,

拒絶査定不服審判(不服2008?14717号)を請求するとともに,同日付け

手続補正(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を「本願明細書」という。)

をした。

特許庁は,平成22年6月29日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審

決をし,その謄本は,同年7月14日,原告に送達された。

2 特許請求の範囲

本件補正後の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(以下,この

発明を「本願補正発明」という。。


使用済み紙おむつを破砕すると共に発酵菌と共に攪拌する破砕手段と,当該使用

済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整すると共に

所定時間加熱して殺菌する加熱手段とを少なくとも有し,投入した使用済み紙おむ

つの全てを,所定の水分を含有すると共に所定の容量に減容された全て燃料として

使用できる再生物を生成し,且つ当該再生物を生成する場合のCO2の排出量が当

該使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される再生物を生成す

る処理装置と,前記再生物を燃料として燃焼し且つ熱エネルギーを取り出すことで

使用済み紙おむつを再生利用する再生設備とを具備することを特徴とする使用済み

2
紙おむつの再生利用システム。

3 審決の理由

(1) 別紙審決書写しのとおりであり,その要旨は,次のとおりである。

本願補正発明は,甲1(特開2004?338989号公報,以下「刊行物1」

という。,甲2(特開2001?116228号公報,以下「刊行物2」という。,
) )

甲3(特開2000?220812号公報,以下「刊行物3」という。)に記載され

た発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるから,特許法2

9条2項の規定により,特許出願の際独立して特許を受けることができないもので

あり,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例

とされる同法による改正前の特許法17条の2第5項において準用する同法126

条5項の規定に違反するものであり,同法159条1項において読み替えて準用す

る同法53条1項の規定により却下されるべきものである。

本件補正は却下されたので,本願の請求項1に係る発明は,平成20年4月9日

付け手続補正により補正された特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下

「本願発明」という。)であり,本願発明の構成要件を全て含み,更に他の構成要件

を付加した本願補正発明が刊行物1ないし3記載の発明に基づいて当業者が容易に

発明することができたものであるから,本願発明も,同様の理由により,刊行物1

ないし3記載の発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり,特許法

29条2項の規定により特許を受けることができない。

(2) 審決が,
本願補正発明に進歩性がないとの結論を導く過程において認定した

刊行物1記載の発明(以下「刊行物1発明」という。)の内容,本願補正発明と刊行

物1発明の一致点,相違点は,次のとおりである。

ア 刊行物1発明の内容

使用済み紙おむつを,発酵菌の存在下で発酵槽内壁あるいは攪拌翼の切断刃によ

り発酵槽内で破砕しながら加温を行って発酵処理する手段と,発酵槽に発酵反応の

制御や病原菌の不活性化のための加温手段を付帯するものであって,使用済み紙お

3
むつは,発酵の進行に伴い水分を放出し減容すると共に所定時間加温して病原菌の

不活性化を加熱殺菌により行うものであり,発酵物と非発酵物とに分別し,非発酵

物をペレット状に固形化した後に工場などで,使用済み紙おむつが固形燃料として

燃焼し温水,蒸気などの熱源として使用できる使用済み紙おむつを再利用するシス

テム。

イ 本願補正発明と刊行物1発明の一致点

使用済み紙おむつを破砕すると共に発酵菌と共に攪拌する破砕手段と,当該破砕

物を所定時間加熱して殺菌する加熱手段とを少なくとも有し,投入した使用済み紙

おむつを減容された燃料として使用できる再生物を生成する処理装置と,前記再生

物を燃料として燃焼し且つ熱エネルギーを取り出すことで使用済み紙おむつを再生

利用する再生設備とを具備する使用済み紙おむつの再生利用システム。

ウ 本願補正発明と刊行物1発明の相違点

(ア) 相違点1

本願補正発明においては,
「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として使用

できる再生物を生成するのに対して,刊行物1発明においては,
「投入した使用済み

紙おむつ」を発酵物と非発酵物に分別したもののうち,非発酵物を燃料として使用

できる再生物として使用する点。

(イ) 相違点2

本願補正発明においては,使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所


定の水分含有量に調整する」のに対して,刊行物1発明においては,使用済み紙お

むつの破砕物を加熱して発酵処理を行う過程で水分を放出して減容するものの,水

分含有量を「所定」のものとすることまでは明らかでない点。

(ウ) 相違点3

本願補正発明においては,燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有す

ると共に,所定の容量に減容された」ものであるのに対し,刊行物1発明において

は,再生物がどの程度の水分を含有するものであり,どの程度の容量まで減容され

4
たものか明らかでない点。

(エ) 相違点4

本願補正発明においては,
「再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済

み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される」のに対し,刊行物1発

明において,CO2の排出量に関して言及されていない点。

第3 取消事由に関する原告の主張

審決は,相違点1の認定の誤り(取消事由1),相違点1に関する容易想到性の判

断の誤り(取消事由2) 相違点2に関する容易想到性の判断の誤り
, (取消事由3),

相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4) 相違点4に関する容易想


到性の判断の誤り(取消事由5)があるから,違法として取り消されるべきである。

1 相違点1の認定の誤り(取消事由1)

本願補正発明と刊行物1発明の相違点1について,本願補正発明においては,投
「 『

入した使用済み紙おむつの全て』を燃料として使用できる再生物を生成するのに対

『投入した使用済み紙おむつ』を発酵物と非発酵物
して,刊行物1発明においては,

に分別したもののうち,非発酵物を燃料として使用できる再生物として使用する

点。」とした審決の認定は,不十分であり,誤りである。その理由は,以下のとおり

である。

すなわち,刊行物1発明において,使用済み紙おむつのうち発酵物は,含水率が

高く,燃料に適さず,堆肥として使用されるものである。したがって,相違点1に

ついては,さらに,
「本願補正発明においては,
『投入した使用済み紙おむつの全て』

を燃料として使用できる再生物を生成するのに対し,甲1記載の発明においては,

発酵物を燃料として使用できる再生物として使用するのではなく堆肥として使用す

る点。(以下「相違点5」という。
」 )を相違点として認定すべきである。

2 相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより相違点1に係

る本願補正発明の構成 「投入した使用済み紙おむつの全て」
( を燃料として使用でき

5
る再生物を生成する)を容易に想到することができたとする審決の判断は,以下の

とおり,誤りである。

(1) 使用済み紙おむつの「全て」を燃料として使用することについて

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願補正

発明の構成のうち,使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの構成を容易

に想到することはできない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明において,使用済み紙おむつのうちの発酵物は,堆肥と

しての利用に好適とされているが,燃料として使用することはできず,これを燃料

として使用するためには,発酵物を非発酵物とするか,発酵物を堆肥ではなく燃料

として使用できる再生物とするか,のいずれかを実現しなければならない。しかし,

刊行物2の記載を参照しても,これを実現することはできない。

また,刊行物1には,人糞は発酵物であり堆肥としての利用に適するとされてい

るほか,10%程度含有される高吸水性ポリマーは発酵物とも非発酵物とも言及さ

れておらず,水分含有量などの性状が紙おむつに比べて不安定である生ゴミも併せ

て処理するとされている。しかし,刊行物2の記載を参照しても,投入した材料の

全てを,本願補正発明にいう「所定の水分を含有すると共に所定の容量に減容され

た全て燃料として使用できる生成物」とすることは極めて困難である。

さらに,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵

物を堆肥として利用する一方,非発酵物は固形燃料として利用するものであり,発

酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していない。そのため,投

入した使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの技術思想が刊行物2に記

載されていたとしても,これを刊行物1発明と組み合わせる動機付けはなく,刊行

物1発明を主引用例とする限り,発酵物と非発酵物を分けず全てを燃料として使用

できる再生物とすることに想到することはできない。

(2) 「燃料」として使用できる再生物を生成することについて

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願

6
補正発明の構成のうち,燃料として使用できる再生物を生成するという構成を容易

に想到することはできない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,燃料とは,材料を燃焼させるために加工したものであり,移動・保管

できるものであって,性能・有用性が所定の基準以上であることが望まれており,

ごみの燃焼を熱源とすることとは異なる。刊行物2記載の発明は,被処理物を焼却

し,発生した廃熱を有効利用することを目的としており,刊行物2記載の発明にお

いて,おむつなどの被処理物を乾燥したものは,それらの被処理物を燃焼させる過

程で一時的に存在するものにすぎず,それらを取り出すことはない。また,刊行物

2記載の発明のように使用済み紙おむつを焼却処理すると,一酸化炭素や二酸化炭

素が発生して環境に悪影響を及ぼし,焼却した場所で廃熱を有効利用する必要があ

るのに対し,本願補正発明のように再生利用すれば,再生物を製造する段階では焼

却していないから環境への悪影響が少なく,再生物を他の場所で再利用することが

できる。そのため,刊行物2記載の発明におけるおむつなどの被処理物を乾燥した

ものは,廃熱利用のための燃料ということはできない。刊行物3記載の発明も,刊

行物2記載の発明と同様に,廃棄物の焼却処理システムに係るものであり,廃棄物

を再生利用するものではない。

3 相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点2に係る本

願補正発明の構成(使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分

含有量に調整する)を容易に想到することができたとする審決の判断は誤りである。

その理由は,以下のとおりである。

すなわち,前記2(1)のとおり,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非

発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するもの

であり,発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していない。そ

のため,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,
「使用済み紙おむつ

の破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する」という,相違点2

7
に係る本願補正発明の構成を容易に想到することはできない。

4 相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)

刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより相違点3に係る本

願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,

所定の容量に減容された」ものである)を容易に想到することができたとする審決

の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,前記2(1)のとおり,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非

発酵物に分別し,発酵物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するもの

であり,発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していない。そ

のため,仮に刊行物3から,生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥するこ

とにより最適な燃焼状態を得るという技術事項を読み取れたとしても,燃料として

使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」も

のであるという,相違点3に係る本願補正発明の構成を容易に想到することはでき

ない。

5 相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点4に係る本

願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむ

つをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到することができた

とする審決の判断は誤りである。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,前記1のとおり,審決は,相違点1の認定に誤りがあり,前記2のと

おり,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る本願

補正発明の構成 「投入した使用済み紙おむつの全て」
( を燃料として使用できる再生

物を生成する)を容易に想到し得たとはいえないから,相違点4に係る本願補正発

明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむつをその

まま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到し得たとはいえない。

第4 被告の反論

8
審決の認定,判断に誤りはなく,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。

1 相違点1の認定の誤り(取消事由1)に対し

審決による相違点1の認定に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,本願補正発明は,
「投入した使用済み紙おむつの全て」を燃料として利

用するものであるから,この構成に係る相違点を認定するに当たっては,刊行物1

発明が「発酵物を堆肥として利用する」ことまでを相違点として認定する必要はな

く,刊行物1発明が発酵物と非発酵物とを区別し,そのうち非発酵物を固形燃料と

して利用することとの対比における相違点を認定すれば足りる。したがって,本願

補正発明と刊行物1記載発明の相違点として,原告が主張する相違点5までを認定

する必要はない。

2 相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)に対し

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより相違点1に係

る本願補正発明の構成 「投入した使用済み紙おむつの全て」
( を燃料として使用でき

る再生物を生成する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはな

い。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,本願出願時には,廃棄物の循環的利用について,廃棄物を原材料とし

て再利用する「再生利用」や,廃棄物から熱エネルギーを回収する「熱回収」など

が知られており,技術的,経済的な事情に応じて,再生利用や熱回収を適宜選択し

て行うことが一般的な認識であった(乙1)。刊行物1発明は,使用済み紙おむつを

発酵物と非発酵物に分別し,発酵物を堆肥として再生利用するとともに非発酵物を

燃料として熱回収に利用するものであるのに対し,刊行物2記載の発明は,使用済

み紙おむつの全てを燃料として熱回収に利用するものである。そうすると,刊行物

1発明を前提としつつ,発酵物を分別して再生利用するための手間やコストを削減

するなどの事情により,刊行物2記載の発明に倣って,使用済み紙おむつの全てを

熱回収に利用することは,容易に想到し得た。

発酵物をペレットにして燃料として使用することは周知であったから(乙2, ,
3)

9
刊行物1発明における発酵物を燃料として利用できることは明らかである。刊行物

1には,
「生ゴミも併せて処理することもできる」と記載されているが,生ゴミを併

せて処理することが必須とされているわけではないし,生ゴミを併せて処理する場

合でも,乙2,3に照らせば,全てを燃料とすることができる。

刊行物2記載の発明におけるおむつなどの被処理物を乾燥させたものは,これを

燃焼させて発生した熱を有効に利用するから,再生物でないとしても燃料であるこ

とは明らかである。また,刊行物1発明における非発酵物の再生物が燃料として移

動,保管,燃焼できることは,言うまでもない。刊行物1発明は,使用済み紙おむ

つから分別した非発酵物をいったん固形燃料の形態とし,その後燃焼するものであ

るから,使用済み紙おむつを燃焼させて熱源として利用する点において,刊行物2

記載の発明と共通する。そして,刊行物1発明の発酵物と非発酵物の分別を特段行

わなければ,それらの全てが燃料として使用できる再生物となることは明らかであ

る。

3 相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)に対し

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点2に係る本

願補正発明の構成(使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分

含有量に調整する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。

その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明において,使用済み紙おむつの破砕物を加熱して発酵処

理を行う過程で,どの程度まで減容するか等を考慮して,破砕物が所定の水分含有

量となるよう調整することは,当業者にとって容易になし得たものである。

4 相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対し

刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより相違点3に係る本

願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,

所定の容量に減容された」ものである)を容易に想到することができたとする審決

の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

10
すなわち,刊行物3には,廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥し,最適な燃焼状態

を得るという技術思想が記載されており,水分を蒸発させることにより減容が行わ

れるから,刊行物1発明に刊行物3記載の発明を適用して,再生物を燃料に適した

ものとするために水分,容量を所定のものとすることは,容易に想到することがで

きた。

5 相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)に対し

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点4に係る本

願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむ

つをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到することができた

とする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明は,使用済み紙おむつから生成された非発酵物を,工場

などで固形燃料として燃焼させ,温水・蒸気などの熱源として利用するので,その

分,本来の燃料である重油,LPG等を節約することができる。また,刊行物2に

は,おむつなどの水分含有量の多い被処理物を乾燥することにより,ガスバーナー

の燃料消費量を少なくし得ることが開示されている。したがって,本願補正発明に

おいて,再生物を生成する場合のCO2の排出量が使用済み紙おむつをそのまま燃

焼する場合と比較して削減されることは,当業者が容易に想到し得ることであった。

第5 当裁判所の判断

1 相違点1の認定の誤り(取消事由1)について

本願補正発明と刊行物1発明の相違点1について,本願補正発明においては,投
「 『

入した使用済み紙おむつの全て』を燃料として使用できる再生物を生成するのに対

して,刊行物1発明においては,
『投入した使用済み紙おむつ』を発酵物と非発酵物

に分別したもののうち,非発酵物を燃料として使用できる再生物として使用する

点。」とした審決の認定に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1) 相違点1の認定の当否について

相違点1は,本願補正発明と刊行物1発明について,本願補正発明の「投入した

11
・・・燃料として使用できる再生物を生成する」との構
使用済み紙おむつの全てを,

成部分に係る対比を示したものと解される。そうであるとすれば,刊行物1発明に

おける本願発明の上記構成の対応部分,すなわち,使用済み紙おむつにつき,燃料

として使用できる再生物とするのがその全てか否か,どのような部分が燃料として

使用できる再生物とされるかにつき,
相違点を認定すれば足りるというべきである。

審決は,相違点1として,刊行物1発明において,
「投入した使用済み紙おむつ」を

発酵物と非発酵物に分別したもののうち非発酵物を燃料として使用できる再生物と

することを認定しており,相違点の認定として尽くされており,その認定に誤りは

ない。

(2) 原告の主張に対し

原告は,相違点1については,さらに,「本願補正発明においては,『投入した使

用済み紙おむつの全て』を燃料として使用できる再生物を生成するのに対し,刊行

物1発明においては,発酵物を燃料として使用できる再生物として使用するのでは

なく堆肥として使用する点。(相違点5)を相違点として認定すべきであると主張


する。しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。

すなわち,審決は,相違点1として,刊行物1発明において,
「投入した使用済み

紙おむつ」を発酵物と非発酵物に分別したもののうち,非発酵物については燃料と

して使用すると認定しており,同認定は,発酵物については燃料として使用しない

ことをも示していると合理的に理解できる。したがって,刊行物1発明において発

酵物を堆肥として使用する点を相違点1として明示的に認定しなかったことが,相

違点の認定の誤りということはできない。なお,原告の指摘に係る,刊行物1中の

発酵物を堆肥として使用するとの記載は,容易想到性の判断における考慮要素とす

れば足りるというべきである。

2 相違点1に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由2)について

刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより相違点1に係

る本願補正発明の構成 「投入した使用済み紙おむつの全て」
( を燃料として使用でき

12
る再生物を生成する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはな

い。その理由は,以下のとおりである。

(1) 刊行物2記載の発明

ア 刊行物2には,次のとおりの記載がある。

(ア) 「【0005】

【課題を解決するための手段】上記目的は各請求項記載の発明により達成される。

すなわち,本発明の加熱炉の特徴構成は,被処理物を投入する第1開口部と,前記

被処理物を加熱処理可能な炉本体と連通する第2開口部とを備えると共に前記第1,

第2開口部との間に熱流路を形成し,この熱流路内に前記被処理物を受けると共に

回動することにより前記被処理物を前記炉本体に落下させる受け具を有する加熱筒

を備え,前記炉本体に,この炉本体から発生する熱により動力を取り出す発動機を

接続可能であることにある。

【0006】この構成によれば,加熱筒内の複数の受け具が被処理物の加熱筒内で

の滞留時間を長くすることができ,この間に被処理物は加熱・乾燥され,あるいは

炭化されるので,生ゴミのような水分を多量に含有する被処理物であっても,大量

に,かつ早い速度で効率よく高温での加熱処理をすることができると共に,炉から

発生する廃熱から動力を取り出すことが可能であるため,この動力を,例えば発電

機に利用することにより,排ガスを加熱処理する発熱体などに供給できて,排ガス

中の有害成分の分解処理を効率的に促進でき,有害成分を低毒化あるいは無害化で

きる。・・・」

(イ) 「【0010】更に,本発明の加熱炉の特徴構成として,被処理物を投入す

る第1開口部と,前記被処理物を加熱処理可能な炉本体と連通する第2開口部とを

備えると共に前記第1,第2開口部との間に熱流路を形成し,この熱流路内に前記

被処理物を受けると共に回動することにより前記被処理物を前記炉本体に落下させ

る受け具を有する加熱筒を備え,この加熱筒の下流側に二次加熱炉が接続されてい

て,この二次加熱炉の下流側に二次加熱炉から発生する熱により動力を取り出し可

13
能な発動機を備えるようにしてもよい。」

(ウ) 「【0015】複数の前記受け具が,前記加熱筒を構成するハウジング内で

鉛直方向に沿って交互に異なる位置に配置されていることが好ましい。

【0016】この構成によれば,複数の受け具は,ハウジング内で鉛直方向に沿っ

て交互に異なる位置に配置されているから,ハウジングの内壁面と受け具との間に

空間を確保することができる。その結果,十分な熱流路を確保できて,生ゴミのよ

うな水分を多量に含有する被処理物であっても,一層大量に,かつ早い速度で効率

よく処理できて都合がよい。」

(エ) 「【0022】加熱筒4は,図2にその要部を拡大して示すように,角筒状

あるいは円筒状のハウジング12を有していて,その内部に被処理物Aを受けると

共に回動することにより,被処理物Aを加熱筒内に滞留させつつ炉本体2に落下さ

せる受け具11を複数個有する(図2の場合,4個。尚,図1には煩雑化を避ける

ため3個のみ示す)。これら受け具11は,上方から順次互いに逆回転すると共に,

鉛直方向に幾分ずれて配置されていて,被処理物Aを落下させるのに都合が良いよ

うに空間が形成されている。この空間は,下方の炉本体2から上昇してくる熱流路

14として機能し,被処理物Aは落下するに従い加熱・乾燥されるようになってい

て,下方の炉本体2に落下した際には,加熱が進行して燃焼あるいは炭化された状

態になる。従って,炉本体2での加熱に必要な燃料は少なくて済み,被処理物Aの

燃焼が進行すると,その発熱反応によっては燃料の消費はなくて済む。


(オ) 「【0029】炉本体2の一方の端部にガスバーナ10が設けられていて,

搬送されてきた被処理物Aを燃焼する。被処理物Aは,ロータリーキルン9内を搬

送されている間に乾燥あるいは不完全燃焼による炭化が進行しており,炉本体2で

の燃焼時間は短く,燃料消費量は少ない。従って,被処理物Aがたとえ水分含有量

の多い生ゴミ,家畜排泄物,おむつ,包帯などの医療廃棄物についても,従来技術

による焼却に比べて格段に効率良く処理できる。

【0030】炉本体2での焼却処理により生じた灰分などは,下方に配置されてい

14
る焼却灰回収装置19によって,炉外に自動的にあるいは手動操作によって排出さ

れる。そして,炉本体2から発生する廃熱は,次に説明する発動機6により,動力

源として有効に利用される。」

イ 前記アの刊行物2の記載によれば,刊行物2には,次の発明が記載されてい

るものと認められる。

「炉本体2の一方の端部にガスバーナ10が設けられていて,搬送されてきた被処

理物Aを燃焼するものにおいて,水分含有量の多い生ゴミ,おむつなどの被処理物

をロータリーキルン9内を搬送されている間に乾燥させてから燃焼させることによ

り,ガスバーナ10の燃料消費量が少なくなり,炉本体2から発生する廃熱は,動

力源として有効に利用される加熱炉。


また,刊行物2には,水分含有量の多い生ゴミ,家畜排泄物,おむつ,包帯など

の医療廃棄物といった被処理物も,加熱,乾燥されるため,燃焼させるための加熱

に必要な燃料が少なくて済むなど効率よく燃焼させることができることが示唆され

ている。

(2) 相違点1に関する容易想到性について

刊行物2記載の発明における「おむつなどの被処理物」は,本願補正発明の「使

用済み紙おむつ」に当たる。また,刊行物2記載の発明は,
「おむつなどの被処理物」

をそのまま乾燥し,燃焼することから,
「おむつなどの被処理物」の全てを燃焼する

ものである。さらに,刊行物2記載の発明において,炉本体2から発生する廃熱は,


動力源として有効に利用される」ことから,刊行物2記載の発明における「おむつ

などの被処理物」を乾燥したものは,廃熱利用のための「燃料」といえる。そうす

ると,刊行物2記載の発明は,
「投入した使用済み紙おむつの全てを燃料として使用

する」ものであると認められる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより,相

違点1に係る本願補正発明の構成 「投入した使用済み紙おむつの全て」
( を燃料とし

て使用できる再生物を生成する)を容易に想到することができたと解される。

15
(3) 原告の主張に対し

ア 使用済み紙おむつの「全て」を燃料として使用することについて

原告は,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,相違点1に係る

本願補正発明の構成のうち,使用済み紙おむつの「全て」を燃料として使用すると

の構成を容易に想到することはできないと主張する。

しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。

確かに,刊行物1には,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵物

を堆肥として利用することが記載されており,発酵物を燃料として使用することは

明示的には記載されていない。

しかし,刊行物1にいう発酵物とは,使用済み紙おむつに含まれていた人糞と併

用された生ゴミの発酵物(刊行物1【0027】
)を指し,それらは有機物から成る

ものと解され,そのような発酵物が,加温処理され,水分の少ない乾燥状態に近い

粉末(刊行物1【0028】)の性状をとるというのであるから,刊行物1の記載か

ら,そのような発酵物も含めて燃料として使用することを想到するのは容易である

といえる。

のみならず,乙2(特開平9?142980号)には,発酵・減容化せしめた有

機性廃棄物を圧縮固形化して定型に成型した発酵堆肥化物ペレットを肥料又は固形

燃料として用いるとの技術事項が記載されており(乙2,特許請求の範囲の請求項

1,3等),乙3(特開平8?2986号)には,家庭から排出された生ゴミ,プラ

スチック等のゴミを発酵処理して作成したペレットを燃料や肥料に再利用するとの

技術事項が記載されている(乙3,特許請求の範囲の請求項1,
【0001】【00


20】 。
等)このように,有機物等から成る廃棄物により作成したペレット等を燃料,

肥料のいずれにも使用し得ることは,本願の出願前に周知であったものであり,こ

の点に照らしても,刊行物1記載の発酵物を燃料として使用することは,容易に想

到することができたと解される。

さらに,刊行物1発明においては,発酵物の性状は上記のとおり水分の少ない乾

16
燥状態に近い粉末であり,非発酵物の性状は,粉砕もしくは裁断されたフィルム状

又は布状のものであり,発酵物と非発酵物は機械篩により分別される(刊行物1【0

028】)とされているから,発酵物と非発酵物の分別の煩雑さを避けて,発酵物を

含めた全てを燃料とすることは,発酵物の処理用法として容易に想到することがで

きたものといえる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせ,相違点1に係る

本願補正発明の構成のうち,使用済み紙おむつの全てを燃料として使用するとの構

成を容易に想到することはできたといえるから,この点に関する原告の主張は,採

用できない。

イ 「燃料」として使用できる再生物を生成することについて

原告は,刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせても,相違点1に

係る本願補正発明の構成のうち,燃料として使用できる再生物を生成するとの構成

容易に想到することはできないと主張する。

しかし,原告の主張は,以下の理由により,採用することができない。すなわち,

刊行物1発明は,
「非発酵物をペレット状に固形化した後に工場などで・・・固形燃

料として燃焼し温水,蒸気などの熱源として使用できる使用済み紙おむつを再利用

するシステム」であり,刊行物1発明には,非発酵物について,ペレット状に固形

化して,移動・保管可能な燃料とすることが示されている。そして,刊行物1発明

も,刊行物2,3記載の発明も,紙おむつ等の廃棄物を処理して熱源等に利用する

との共通する技術分野に属するものであることに照らすならば,刊行物1発明に刊

行物2,3記載の発明を組み合わせることについて阻害要因は見出せない。なお,

刊行物2,3に,乾燥された被処理物又は廃棄物を加熱炉又は処理装置から取り出

すこと等の記載はないが,その点が,刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を適

用することの妨げになるとはいえない。そして,使用済み紙おむつのうち,非発酵

物のみならず発酵物も移動・保管可能な燃料(再生物)とする場合には,再生物を

製造する段階で焼却しないことになるから,環境への悪影響が少なく,再生物を他

17
の場所で利用することもできるといえる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2,3記載の発明を組み合わせることにより,

相違点1に係る本願補正発明の構成のうち,燃料として使用できる再生物を生成す

るとの構成を容易に想到することはできたものと認められる。刊行物2,3に,乾

燥された被処理物又は廃棄物を加熱炉又は処理装置から取り出すこと等が記載され

ていないとしても,そのことは,上記構成の容易想到性を否定する理由にならない

と解される。

3 相違点2に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由3)について

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点2に係る本

願補正発明の構成(使用済み紙おむつの破砕物を加熱して当該破砕物を所定の水分

含有量に調整する)を容易に想到することができたとする審決の判断に誤りはない。

その理由は,以下のとおりである。

すなわち,刊行物1発明においては,使用済み紙おむつの破砕物は,加熱して発

酵処理を行う過程で,水分を放出して減容するが,どの程度まで減容するか等を考

慮して,破砕物が所定の水分含有量となるよう調整することは,当業者にとって容

易になし得たものといえる。

この点につき,原告は,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物

に分別し,発酵物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するものであり,

発酵物を燃料として使用できる再生物とする技術思想を有していないから,刊行物

1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせても,使用済み紙おむつの破砕物を加熱


して当該破砕物を所定の水分含有量に調整する」という,相違点2に係る本願補正

発明の構成を容易に想到することはできないと主張する。

しかし,前記2(3)のとおり,刊行物1記載の発酵物を燃料とすることは容易に想

到することができ,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせ,使用済み紙

おむつの全てを燃料として使用するとの構成を容易に想到することはできたものと

認められるから,原告の上記主張は,その前提において採用することができない。

18
4 相違点3に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由4)について

刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより相違点3に係る本

願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含有すると共に,

所定の容量に減容された」ものである)を容易に想到することができたとする審決

の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1) 刊行物3記載の発明

ア 刊行物3には,次のとおりの記載がある。

「【0001】

【発明の属する技術分野】本発明は,主として水分の多い廃棄物,生ゴミ,厨介,

残飯,排水溝内の汚泥,グリースピット廃油,病院,老健施設の感染性廃棄物,使

い捨ておむつ等を焼却処理する際にダイオキシンなどの有害物の生成を抑制するよ

うにした廃棄物の焼却処理システムおよびその処理装置に関する。」

「【0015】本発明の廃棄物の焼却処理システムは,立設した焼却筒の内部を一

部に排出口を備えた複数の底板で縦方向に区画して上下に少なくとも2つ以上の乾

燥室および燃焼室からなる廃棄物収容部屋を形成し,前記焼却筒上部のホッパー内

に貯留される生ゴミなどの廃棄物を前記ホッパー直下の乾燥室内に連続的に所定量

供給し,該乾燥室内に供給された廃棄物を移動する過程で攪拌しつつ余熱によって

乾燥させたのち,前記乾燥室直下の燃焼室内に受け入れられた廃棄物を攪拌しつつ

前記燃焼手段によって燃焼,焼却することを特徴としている。この特徴によれば,

ホッパー内に貯留される廃棄物が立設した焼却筒の乾燥室内に所定量供給され,供

給された廃棄物が移動する過程で攪拌しつつ,余熱によって生ゴミなどの廃棄物中

の水分を蒸発させて自己燃焼する位まで乾燥されるので,むらなく均一な燃焼を行

うことができ,また,乾燥した廃棄物を連続的に所定量供給することにより,高温

領域で燃焼を継続することができ,前記廃棄物が攪拌しつつ燃焼手段によって燃焼,

焼却されるので,炉内温度の低下が防止され,ダイオキシンの生成を安定的に抑制

することができる。

19
【0016】本発明の廃棄物の焼却処理システムは,横設した焼却筒の内部を該焼

却筒の中心に支持される支持軸により回転駆動される複数の隔壁により半径方向に

仕切って複数の廃棄物収容部屋を形成し,前記焼却筒上部のホッパー内に貯留され

た生ゴミなどの廃棄物を前記焼却筒側壁の廃棄物供給口より前記焼却筒内の廃棄物

収容部屋に順次連続的に所定量供給し,廃棄物収容部屋が1回転される過程で廃棄

物を攪拌つつ(判決注 「攪拌しつつ」の誤記と認められる。)焼却手段によって燃

焼,焼却することを特徴としている。この特徴によれば,横設した焼却筒内に連続

的に所定量供給される廃棄物が余熱によって水分が蒸発されて自己燃焼する位まで

乾燥されるので,むらなく均一な燃焼を行うことができ,また,乾燥された廃棄物

を順次廃棄物収容部屋に連続的に所定量供給することにより,高温領域での燃焼を

継続することができ,かつ前記廃棄物収容部屋が1回転される過程で攪拌されつつ

燃焼手段によって燃焼,焼却されるので,炉内温度の低下が防止され,ダイオキシ

ンの生成を安定的に抑制することができる。・・・

【0018】本発明の廃棄物の焼却処理システムは,前記焼却筒内に供給された

廃棄物の含水率ないし焼却される際の発熱量を監視し,これら含水率ないし発熱量

に応じて破砕された廃棄物の供給量を制御すれば好適である。このようにすること

により,生ゴミなどの廃棄物が燃焼可能な条件で炉内に供給されるので,常に炉内

においては最適な燃焼状態を得ることができる。


イ 前記アの刊行物3の記載によれば,刊行物3には,
「ホッパー内に貯留される

廃棄物が立設した焼却筒の乾燥室内に所定量供給され,供給された廃棄物が移動す

る過程で攪拌しつつ,余熱によって生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて自己

燃焼する位まで乾燥することにより炉内において最適な燃焼状態を得る処理装置。


に係る発明が記載されている。

また,刊行物3には,水分の多い廃棄物,生ゴミ,厨介,残飯,排水溝内の汚泥,

グリースピット廃油,病院,老健施設の感染性廃棄物,使い捨ておむつ等を焼却処

理する際に,これらを乾燥させたのちに燃焼,焼却することにより,高温領域で燃

20
焼を継続することができるため,炉内温度の低下を防止し安定的にダイオキシンの

生成を抑制することができることが示唆されている。

(2) 相違点3に関する容易想到性について

刊行物3記載の発明には,生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥するこ

とにより最適な燃焼状態を得るという技術事項が示されており,水分を蒸発させる

ことによる減容も併せて行われるものと認められる。そうすると,刊行物1発明に

おいて,刊行物3記載の発明における上記技術事項を適用して,最適な燃焼状態を

得るという課題のもとに,燃料としての再生物を燃焼に適したものとするために,

「水分」,及び水分を蒸発させることによる減容の過程で得られる「容量」を燃焼に

適した「所定」のものとすることは,当業者にとって容易になし得たものといえる。

したがって,刊行物1発明に刊行物3記載の発明を組み合わせることにより,相違

点3に係る本願補正発明の構成(燃料として使用できる再生物が「所定の水分を含

有すると共に,所定の容量に減容された」ものであること)を容易に想到すること

ができたものと解される。

(3) 原告の主張に対し

原告は,刊行物1発明は,使用済み紙おむつを発酵物と非発酵物に分別し,発酵

物を堆肥として利用し,非発酵物を燃料として利用するものであり,発酵物を燃料

として使用できる再生物とする技術思想を有していないから,仮に刊行物3から,

生ゴミなどの廃棄物中の水分を蒸発させて乾燥することにより最適な燃焼状態を得

るという技術事項を読み取れたとしても,燃料として使用できる再生物が「所定の

水分を含有すると共に,所定の容量に減容された」ものであるという,相違点3に

係る本願補正発明の構成を容易に想到することはできないと主張する。

しかし,原告の上記主張は,以下の理由により,採用することができない。

すなわち,刊行物1発明においても,非発酵物を燃料として利用できる再生物と

する際に,その再生物を燃焼に適したものとするために水分及び容量を所定のもの

とすることは,事柄の性質上,当業者であれば当然に行うと推認されるから,刊行

21
物1発明に刊行物3記載の技術事項を適用することは可能と解される。また,本願

補正発明において発酵物も含めて燃料とされる点を考慮するとしても,その点は,

前記2(3)のとおり,刊行物1記載の発酵物を燃料とすることは容易に想到すること

ができ,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせ,使用済み紙おむつの全

てを燃料として使用するとの構成を容易に想到することができたものと認められる

から,発酵物も含めた使用済み紙おむつの全てを燃料として使用することを前提と

して,刊行物3記載の技術事項を適用することは可能であると解される。

5 相違点4に関する容易想到性の判断の誤り(取消事由5)について

刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違点4に係る本

願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使用済み紙おむ

つをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到することができた

とする審決の判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。

(1) 本願補正発明におけるCO2排出量削減の機序について

ア 本願補正発明の請求項には,
「再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該

使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される」と記載されてい

る。

また,発明の詳細な説明中には,以下の記載がある。

「・・・使用済み紙おむつは,し尿などの水分を含んでいることから燃焼温度を

高くしなければ燃焼しきれず,処理コストの増大及び焼却時に生じるCO2の排出

量の増加が問題となっている。(
」【0002】「背景技術」の欄)


「本発明はこのような事情に鑑み,使用済み紙おむつを再生物として有効に再利

用することができると共に,使用済み紙おむつを再生物にせずに処分する場合に比

べて排出されるCO2の削減に柔軟に寄与することができる使用済み紙おむつの再

生利用システム及び再生利用方法を提供することを課題とする。 【0007】

( ,
「発

明が解決しようとする課題」の欄)

「本発明によれば,
・・・使用済み紙おむつを再生物にせずに処分する場合に比べ

22
て排出されるCO2の削減に柔軟に寄与することができる使用済み紙おむつの再生

利用システム及び再生利用方法を提供することが可能となる。 【0030】

( ,
「発明

の効果」の欄)

「・・・ここでいう再生物101とは,水分を5%含有し,通常の容量から1/

3程度に減容されたものであり,使用済み紙おむつ100を処分する施設2の内外

で再生燃料として利用できる燃材である。 【0035】

( ,
「発明を実施するための最

良の形態」の欄)

「上述のような処理装置20により,使用済み紙おむつ100を投入時の1/3

程度の容量に減容された再生物101とすることができるため,その再生物101

を施設2の内外で再生燃料として利用することで,使用済み紙おむつ100をその

まま燃焼処分する場合と比較してCO2の排出量を削減させることができる再生物

101を生成することができる。【0064】 発明を実施するための最良の形態」

」 「


の欄)

「具体的なCO2の排出量については,次のようになる。ここでは,使用済み紙

おむつ100として,水分を65%含有するものを想定している。一般的には,1

日当たり300kgの使用済み紙おむつ100を 1 ヶ月間そのまま燃焼処分した場

合には,単にCO2が 1 ヶ月(30日)当たり169kg排出されることになる。

一方,本実施形態において,1日当たり300kgの使用済み紙おむつ100を再

生物101として 1 ヶ月(30日間)再生燃料として利用した場合には,使用済み

紙おむつ100を再生物101とした場合の 1 ヶ月当たりのCO2の排出量は22

09kg削減される。したがって,使用済み紙おむつ100を再生物101にせず

処分する場合に比べてCO2の排出量を2378kg/月削減することができ,ま

た,年間では28536kg,すなわち約30tものCO2を削減することができ

る。なお,本実施形態では,処分装置10の 1 ヶ月の電力使用量(消費電力量)を

333kwhとしている。 【0065】
」( ,
「発明を実施するための最良の形態」の欄)

「・・・本実施形態では,使用済み紙おむつ100を原料として処理装置20で

23
生成した再生物101を再生設備70又は90で燃焼して再生利用することで,使

用済み紙おむつ100をそのまま焼却処分する場合に比べて,最終的に排出される

CO2を削減することができる。
・・・」【0071】「発明を実施するための最良
( ,

の形態」の欄)

イ 前記アによれば,本願明細書に記載された,本願補正発明によるCO2排出

量の削減の機序は,次のとおりであると理解される。すなわち,使用済み紙おむつ

は,そのまま焼却処分すると,し尿などの水分を含んでいることから燃焼温度を高

くしなければ燃焼しきれず,燃焼温度を高くするために燃料を多く消費し,焼却処

分する過程で排出されるCO2の排出量は多い。これに対し,本願補正発明により,

使用済み紙おむつの水分を減少させて所定の水分を含有する再生物を生成し,その

再生物を燃料として使用する場合には,再生物に含まれる水分は,使用済み紙おむ

つに含まれる水分よりも少ないから,再生物の生成及び燃料としての燃焼の過程で

排出されるCO2の総排出量は,使用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合のCO2

の排出量に比べて削減されることとなり,本願明細書には,このようなCO2排出

量の削減の機序が記載されているものと解される。

そうすると,本願補正発明の「再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使

用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される」との構成は,使用

済み紙おむつの水分を減少させて所定の水分を含有する再生物を生成し,その再生

物を燃料として使用する場合,再生物の生成及び燃料としての燃焼の過程で排出さ

れるCO2の総排出量が,使用済み紙おむつをそのまま焼却処分する過程で排出さ

れるCO2の排出量と比較して削減されることを記載したものと解される。

(2) 相違点4に関する容易想到性について

前記2(1)イのとおり,刊行物2には,水分含有量の多い生ゴミ,家畜排泄物,お

むつ,包帯などの医療廃棄物といった被処理物も,加熱,乾燥されることにより,

燃焼させるための加熱に必要な燃料が少なくて済むなど効率よく燃焼させることが

できることが示唆されている。そして,燃焼させるために消費する燃料が少なくな

24
ればCO2の排出量も減少することは,当然に認識し得ることである。

刊行物2に基づいて認識される上記の技術事項は,対象物の水分を減少させるこ

とによって対象物を燃焼しやすくして燃料の消費量を少なくし,CO2の総排出量

を少なくするとの点において,本願補正発明によるCO2排出量の削減の機序と共

通する。

そうすると,本願補正発明におけるCO2排出量の削減の構成は,刊行物1発明

に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより,容易に想到することができたも

のといえる。

したがって,刊行物1発明に刊行物2記載の発明を組み合わせることにより相違

点4に係る本願補正発明の構成(再生物を生成する場合のCO2の排出量が当該使

用済み紙おむつをそのまま燃焼する場合と比較して削減される)を容易に想到する

ことができたと解される。

6 結論

以上のとおり,原告主張の取消事由は理由がない。原告は,その他縷々主張する

が,審決にこれを取り消すべきその他の違法もない。

よって,原告の本訴請求を棄却することとし,主文のとおり判決する。




知的財産高等裁判所第3部




裁判長裁判官

飯 村 敏 明




25
裁判官

中 平 健




裁判官

知 野 明




26