関連審決 | 不服2003-19964 |
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関連ワード | 特許を受ける権利 / 承継 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 周知技術 / 慣用技術 / 課題の共通性 / 技術常識 / 発明の詳細な説明 / 優先権 / 名義変更 / 共有 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 交換 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / 拡張 / 変更 / |
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事件 |
平成
17年
(行ケ)
10408号
審決取消請求事件
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原告 エルジー・エレクトロニクス・インコーポレーテッド 訴訟代理人弁護士 深井俊至 同 横井康真 訴訟代理人弁理士 中西基晴 被告 特許庁長官中嶋誠 指定代理人 内田正和 同 大野克人 同 右田勝則 同 立川功 同 宮下正之 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2006/01/17 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
1 原告の請求を棄却する。 2 訴訟費用は原告の負担とする。 3 この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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当事者の求めた裁判
1 原告 (1) 特許庁が不服2003-19964号事件について平成16年11月30日にした審決を取り消す。 (2) 訴訟費用は被告の負担とする。 2 被告 主文1項及び2項と同旨 |
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当事者間に争いのない事実
1 特許庁における手続の経緯 訴外インタランド・コーポレーションは,昭和62年10月3日(優先権主張1986年10月3日,米国)に出願した特願昭62-250562号の一部を分割して,平成11年6月18日に新たな特許出願とした特願平11-173202号の一部を更に分割して,同年7月19日に新たな特許出願とした特願平11-204569号の一部をまた更に分割して,平成13年10月15日に,発明の名称を「一体化したマルチ・ディスプレイ型のオーバーレイ制御式通信ワークステーション」とする新たな特許出願(特願2001-317249号,以下「本件出願」という。)をした。 原告は,上記訴外会社から,複数の会社を経由して本件出願に関し特許を受ける権利の譲渡を受け,平成15年2月20日に出願人名義変更届を特許庁長官に提出して出願人の地位を承継し,本件出願に関して同年2月28日付けで手続補正をしたが,同年7月9日付け(同年7月15日発送)で拒絶査定を受けたので,同年10月10日に審判を請求し,同事件は,不服2003-19964号事件として審理された。その後,原告は,平成15年11月7日付けで手続補正(以下「本件補正」といい,この補正後の本件出願に係る明細書及び図面を「本願明細書」という。)をしたが,特許庁は,平成16年11月30日,「本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「本件審決」という。)をし,その謄本は,同年12月10日,原告に送達された。 2 特許請求の範囲(本件補正後の請求項1。以下「本願請求項1」といい,この発明を「本願発明」という。) 「装置であって, イメージを表示するための第1のディスプレイと, 該第1ディスプレイに表示されるイメージを制御する中央処理ユニットと, 該中央処理ユニットに結合されており,データをネットワークとの間で通信する通信ユニットであって,前記ネットワークと通信するデータが,前記第1ディスプレイにイメージを表示するためのデータを含む,前記の通信ユニットと, 該通信ユニットに結合したオーディオ・ユニットであって,前記装置のユーザに音声通信を提供し,該音声通信が,前記データの通信に使用する前記ネットワークを介して生じる,前記のオーディオ・ユニットと, 前記第1ディスプレイを覆う透明な面と, スタイラスであって,前記装置は前記第1ディスプレイに表示されたイメージの方に前記スタイラスを向けることによって制御される,前記のスタイラスと, 前記透明面に固定された少なくとも1つのアイコンと, を含み, 前記装置は,前記第1ディスプレイに表示されたイメージの方に前記スタイラスを向けることによって制御され,また前記装置は,前記少なくとも1つのアイコンの方に前記スタイラスを向けることによって更に制御されること,を特徴とする装置。」 3 本件審決の理由 別紙審決書の写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開昭61-7914号公報(甲5,昭和61年1月14日公開。以下「引用例1」という。)に記載された発明(以下「引用発明1」という。),「月刊アスキー,10巻3号34〜35頁」(株式会社アスキー,1986年3月1日発行)(甲6,以下「引用例2」という。)に記載された発明(以下「引用発明2」という。)及び周知慣用技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとしたものである。本件審決が周知慣用技術を示す文献として例示するものは,特開昭60-246468号公報(甲7,以下「甲7文献」という。),特開昭59-182687号公報(甲8,以下「甲8文献」という。),実願昭59-176889号(実開昭61-93067号)のマイクロフィルム(甲9,以下「甲9文献」という。)である。 本件審決が,上記判断をするに当たり,本願発明と引用発明1とを対比して認定した一致点及び相違点はそれぞれ次のとおりである。 (一致点) 「装置であって, イメージを表示するための第1のディスプレイと, 該第1ディスプレイに表示されるイメージを制御する中央処理ユニットと, 前記第1ディスプレイを覆う透明な面と, スタイラスであって,前記装置は前記第1ディスプレイに表示されたイメージの方に前記スタイラスを向けることによって制御される,前記のスタイラスと, 前記透明面に固定された少なくとも1つのアイコンと, を含み, 前記装置は,前記第1ディスプレイに表示されたイメージの方に前記スタイラスを向けることによって制御され,また前記装置は,前記少なくとも1つのアイコンの方に前記スタイラスを向けることによって更に制御される装置。」 である点。 (相違点) 本願発明では,「中央処理ユニットに結合されており,データをネットワークとの間で通信する通信ユニットであって,前記ネットワークと通信するデータが,第1ディスプレイにイメージを表示するためのデータを含む,前記の通信ユニットと,該通信ユニットに結合したオーディオ・ユニットであって,装置のユーザに音声通信を提供し,該音声通信が,前記データの通信に使用する前記ネットワークを介して生じる,前記のオーディオ・ユニット」を構成要素として持つのに対し,引用発明1は,そのような構成要素を持たない点。 |
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原告主張の取消事由の要点
本件審決は,引用発明1との相違点に係る本願発明の構成(以下「相違点構成」という。)の解釈を誤り,相違点構成が周知慣用技術であると誤って認定し,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたと誤って判断したものであるから,取り消されるべきである。 1 取消事由1(相違点構成を周知慣用技術であるとした誤り) (1) 相違点構成の意味内容について 本願請求項1の記載中(甲3),相違点構成においては,「データをネットワークとの間で通信する通信ユニット」が存在し,「ネットワークと通信するデータ」は「イメージを表示するためのデータを含む」とされているから,「ネットワークと通信するデータ」の中には「イメージを表示するためのデータ」以外のデータも存在するということである。そして,「音声通信が,前記データ通信に使用する前記ネットワークを介して生じる」とされていることからすると,「ネットワークと通信するデータ」に含まれる「イメージを表示するためのデータ」以外のデータとは,この音声通信のための音声データであると理解される。 さらに,本願明細書の「発明の詳細な説明」欄には,次の記載があり,従来はイメージ(画像)等のデータと音声の通信が一体化されていなかったが,本願発明は画像等のデータと音声通信を一体化したものであることが説明されている。 「もし,スピーカホンが使用され,しかもワークステーション情報がモデムを介して伝送されている場合,その2つのタイプの情報は通常同期されていない。このワークステーションが音声通信及びデータ通信の能力の一体化を欠くことにより,諸ワークステーション間の同期したデータ及び通信の伝送を妨げている。」(甲1の3欄48行〜4欄3行) 「本発明は,一体化能力を提供し,これは,ユーザが広い範囲のアプリケーションでシステムを使用できるようにする。ファクシミリ伝送能力,多数の記憶媒体を使用する能力,各種の通信チャンネルを使用する能力,及びリアルタイムの音声,データ及びビデオの通信,の如き機能は,ユーザに広範なシステム融通性を与える。」(甲1の9欄38行〜44行) 「音声通信を一体化することに加えて,本発明は,ハンドフリーの音声サブシステムを使用する。このハンドフリー音声サブシステムは,ユーザに,話しを続けながら作業面上で中断なく作業を続行する自由を与える。ハンドフリー音声サブシステムは,伝送の他の部分と完全に同期するようにされている。この同期化及び一体化されたサブシステムは,リアルタイムの同期化されたワークステーション通信活動を可能にする。」(甲1の10欄5行〜12行) したがって,本願発明の相違点構成における「データをネットワークとの間で通信する通信ユニットであって,前記ネットワークと通信するデータ」中の「データ」には,少なくともイメージを表示するためのデータ及び音声データが含まれ,これらのデータがひとまとめにされて,「データ」として同時にネットワークとの間で通信されているものと理解すべきである。 (2) 周知技術の認定の誤り 引用例2にも,本件審決が周知慣用技術として例示した甲7文献ないし甲9文献にも,本願発明の相違点構成とは異なる技術が記載されており,相違点構成が周知慣用技術とはいえない。 ア 引用例2には,ワープロ機能等の各機能を統合したソフトウェアに関する技術が記載されているのみであり,通信機能で送受信できると記載されているのはワープロ機能で作成した文章とグラフィックス機能で描いたグラフィックスのみであって,サウンド(音声)を通信できる記載はなく,サウンド(音声)とグラフィック(画像)を同時に通信することも記載されていないし,コンピュータでの通信を通信ユニットで行うことの記載もない。 イ 甲7文献には,ディジタル回線を通じて画像,音声情報を伝送することは記載されているが,画像と音声情報がディジタル回線を通じて同時に伝送されることは記載されていないし,かかるディジタル回線が情報入出力装置にどのように接続され,音声及び画像がどのような経路をたどってディジタル回線に伝送されるのかについても記載されていない。つまり,甲7文献には,本願発明の相違点構成における中央処理ユニット,通信ユニットに対応する記載はなく,それら相互の接続関係についても明らかではない。 ウ 甲8文献に記載された技術は,画像情報と音声データを通信してはいるものの,画像情報と音声データを同時には通信していない。すなわち,画像情報は音声データと交互に送られており,これらのデータは同期して伝送されていない。 被告は,「発言者の位置を示す制御情報」が音声データと多重化されて伝送されていることをもって「イメージを表示するための情報」と「音声データ」が同時に送信されているというが,本願発明における「イメージを表示するための情報」と甲8文献における発信者の位置を示すための制御情報とは異なるものである。したがって,甲8文献においては,本願発明のように,「イメージを表示するための情報」と「音声データ」を同時に伝送していない。 エ 甲9文献には,画像情報と音声データを多重化して送信していると記載されており,「受信信号が多重分離回路124にて音声信号と描画像信号とに分離され,前者を電話機11へ与える一方,後者をモデム123に与えて復調し,更にマイクロプロセッサ122にて符号化し,これをメモリ125に蓄積してモニター装置14に表示させる」と記載されているが,特に描画像信号と音声信号を同期して伝送することは記載されていない。一般に画像信号と音声信号とではその情報量が異なり,画像情報のほうが情報量が膨大であるから,たとえ,それらの情報が多重化されて伝送されたとしても,それらが同期的に受け手に伝わるということはできない。したがって,受信された音声信号と描画像信号とは同期して受け手に伝わらず,描画像信号が遅れて伝送されているといえる。よって,甲9文献には,本件発明のように,「イメージを送るためのデータ」と「音声データ」を「同時」に送ることは記載されていない。 オ なお,本訴において被告が提出した特開昭51-12717号公報(乙1,以下「乙1文献」という。),実願昭58-201784号(実開昭60-111180号)のマイクロフィルム(乙2,以下「乙2文献」という。)にも,「イメージを送るためのデータ」と「音声データ」を「同時」に送ることは記載されていない。 乙1文献には,周波数帯域の一部を音声伝送路として用いることが記載されてはいるが,第2図ないし第5図から明らかなように,画像信号を伝送するためには非常に多くの時間を要し,他方,音声信号は通常その情報量が少なく伝送に時間がかからないことから,たとえ,両者が多重化されて伝送されているとしても,それらは同期して伝送されてはいない。すなわち,画像のほうが音声に比べて遅れて受け手側に伝わるのである。 乙2文献には,映像信号と音声信号を多重化して伝送することは記載されているが,映像信号と音声信号が単に多重化されて伝送されていることが記載されているにすぎず,特に映像信号と音声信号を同期して伝送することは記載されていない。上述したように,映像信号と音声信号が多重化されて伝送されたとしても,それらが同期的に受け手に伝わるということは言えない。したがって,乙2文献についても,単に映像信号と音声信号が多重化されて送信されているにすぎず,それらが同時に伝送されているとはいえない。 (3) 以上のとおり,本願発明の相違点構成のうち,イメージを表示するためのデータ及び音声データを同時にネットワークとの間で通信するとの点は,引用例2にも,甲7文献ないし甲9文献にも,乙1文献ないし乙2文献にも,記載されておらず,この点が周知慣用技術であったとはいえない。したがって,引用発明1に,引用発明2及び周知慣用技術を適用しても,本願発明の構成とすることはできないから,引用発明1に引用発明2及び周知慣用技術を適用して本願発明とすることができたとする,本件審決の判断は誤りである。 2 取消事由2(引用発明1に引用発明2及び甲7文献ないし甲9文献記載の発明を適用できるとした認定・判断の誤り) (1) 引用発明1に引用発明2を適用することの困難性 引用発明1は,画面にアイコンを有したコンピュータ等に関するものであり,アイコンの配置を工夫することによってコンピュータの画面をより有効に活用することを課題とするものである。 これに対し,引用発明2は,ワープロ,カルク,グラフィック及び通信の4つの機能のソフトウェアを統合することによって,ユーザーがそれぞれのソフトウェアの各機能を組み合わせて使用できるようにし,パソコンの機能を拡張することを課題としているものであり,引用発明1とは解決しようとする課題が全く異なる。 また,引用発明1のコンピュータは遠隔地との通信を予定しておらず,そのためにモデム等の通信機器を備えていない。 そして,引用発明1に引用発明2を適用する動機付けもない。 したがって,当業者が引用発明2を引用発明1に容易に適用できたとはいえない。 (2) 引用発明1に甲7文献ないし甲9文献記載の発明を適用することの困難性 甲7文献記載の発明は,「音声,文字,画像等を媒体として,情報の入出力を行い,人間と機械(計算機)とが対話を行う情報入出力装置」に関するものであり,遠隔地間における情報のやりとりにおいて,スムーズに情報の入出力を行うことをその課題としている。 甲8文献記載の発明は,遠隔地の端末間で静止画像及び音声を通信することによって会議を行うシステムに関するものであり,遠隔地にいる会議の相手方に発言者を知らせることを課題としている。 甲9文献記載の発明は,通信回線を介して描画像を送信できる描画像通信装置に関するものであって,いわゆるスケッチホン(平面上に手書きした描画像を電話回線を介して音声信号と共に送信し,受信側にて再現描画させる描画像通信装置)において,手書きした描画像の全体を一括通信できるようにすることを課題としている。 したがって,引用発明1は,甲7文献ないし甲9文献記載の発明と課題を異にし,通信を予定しておらず,甲7文献ないし甲9文献記載発明を引用発明1に適用する動機付けがないというべきであり,当業者が甲7文献ないし甲9文献記載の発明を引用発明1に容易に適用できたとはいえない。 (3) 以上のとおり,引用発明1と,引用発明2あるいは甲7文献ないし甲9文献記載の発明は,課題の共通性がないのであるから,これらを組み合わせることは困難といわざるを得ず,引用発明1に引用発明2及び周知慣用技術を適用することが容易であるとした,本件審決の判断は誤りである。 |
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被告の反論の要点
本件審決の事実認定及び判断には誤りはなく,原告主張の審決取消事由に理由はない。 1 取消事由1(相違点構成を周知慣用技術であるとした誤り)について (1) 相違点構成の意味内容について 原告の主張は,特許請求の範囲の記載に基づかないものである。本願請求項1には,「データ」が「イメージを表示するためのデータ」を含むことは明記されているが,「データ」にそれ以外のどのようなデータが含まれるかについては何ら規定されていない。仮に,「データ」に「音声データ」が含まれるとしても,イメージを表示するためのデータと音声データとがどのような形で「データ」に含まれるのか不明である。また,「イメージデータと音声データがひとまとめにされる」ことが何を意味するのか不明であり,本願明細書の「発明の詳細な説明」欄にも何ら記載がない。 更に,「同時と」の点についても,本願請求項1に記載がなく,本願明細書の「発明の詳細な説明」欄にも記載がない。 したがって,本願請求項1に記載された事項である「前記ネットワークと通信するデータが,前記第1ディスプレイにイメージを表示するためのデータを含む」について,当該記載の「データ」には「音声データ」が含まれ,イメージを表示するためのデータと音声データがひとまとめにされて「データ」として同時にネットワークとの間で通信されているものと理解すべきであるとの原告の主張は,失当である。 (2) 周知技術の認定の誤りについて 原告は,本願発明の相違点構成のうちイメージを表示するためのデータ及び音声データを同時にネットワークとの間で通信するとの点は,引用例2にも,甲7文献ないし甲9文献にも示されていないと主張するが,原告の同主張は,相違点構成の意味内容についての原告の誤った理解を前提とし,また本件審決を正解しないものであって失当である。しかし,念のため,本件審決を敷衍し,引用例2及び甲7文献ないし甲9文献の開示事項から本件審決の認定が正当であることを説明する。 ア 本件審決は,本願発明の相違点構成すべてが一つの周知慣用技術であるとしたものではなく,相違点構成に係る個々の技術のうち,「コンピュータでワープロ・カルク・グラフィック・通信・ビジュアル・サウンドなどの各種データを処理し,文章及びグラフィックスをドッキングして通信機能で送受信するもの」は引用例2に記載されており,「コンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること」,「通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること」,及び「ディスプレイに表示するためのデータに使用するネットワーク,を介する音声通信」は,甲7文献ないし甲9文献に記載されているように,周知慣用技術であるとしたものである。 イ 引用例2には,コンピュータにおいて,ワープロ・カルク・グラフィック・通信・ビジュアル・サウンドなどの各種データの処理ができ,文章及びグラフィックスをドッキングして通信機能で送受信できるようにしたものが記載されており,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。 ウ 甲7文献には,文字,画像,音声情報のディジタル信号を伝送するディジタル回線が記載されており,ディスプレイに表示するためのデータに使用するネットワークを介する音声通信が開示されている。 甲8文献には,コンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること,通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること,及びディスプレイに表示するためのデータに使用するネットワークを介する音声通信が開示されている。 甲9文献における電話回線(10,20)は「ネットワーク」に相当し,電話回線と接続された構成である多重分離回路及びモデムは「通信ユニット」に相当し,マイクロプロセッサ(122,222)は「中央処理ユニット」に相当し,電話機(11,21)は,通信機能も有するとしても,ユーザに音声通信を提供するから「オーディオ・ユニット」に相当するので,甲9文献には,コンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること,通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること,及びディスプレイに表示するためのデータに使用するネットワークを介する音声通信が開示されている。 したがって,甲7文献ないし甲9文献に記載されているように,「コンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること」,「通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること」,及び「ディスプレイに表示するためのデータに使用するネットワークを介する音声通信」が,周知慣用技術であるとした本件審決の認定に誤りはない。 エ そうすると,引用発明1に引用発明2及び周知慣用技術を適用して本願発明の構成とすることができるとした本件審決の判断に誤りはない。 (3) 原告主張に対する予備的反論 ア 原告は,本願発明の相違点構成について,特許請求の範囲の記載に基づかない,自らの主張を前提として,相違点構成のうち,「イメージを送るためのデータ」と「音声データ」を「同時」に送ることは,引用例2及び甲6文献ないし甲8文献のいずれにも記載されていないと主張するが,仮に本願発明の相違点構成に関する原告の主張を前提としたとしても,「イメージを表示するためのデータと音声データを同時に伝送すること」は,本件審決が例示した甲8文献,甲9文献のほか,乙1文献,乙2文献にも記載されているように,周知であって,何ら新規な事項ではない。 イ 甲8文献においては,音声データと,イメージを表示するための情報である「会議室風景の画情報25」,「文書画情報26,20」,あるいは「発言者の位置を示す制御情報27」が,同一の回線(ネットワーク)で送られている。そして,音声データとイメージを表示するための情報である「発言者の位置を示す制御情報27」は同時に送られている。さらに,「短時間で画像を更新する」とされていること,音声が会議のために送信されることからすれば,音声情報はユーザーから見れば連続し,大きな遅延のない信号として送受信されていると考えられるから,一連の信号である「会議室風景の画情報25,文書画情報26,音声情報,文書画情報20」の送信は,音声情報がとぎれない程度に短時間の間に繰り返しなされているものと考えられる。そうすると,甲8文献には,音声データとイメージを表示するための情報(会議室風景の画情報25,文書画情報26,あるいは発言者の位置を示す制御情報27)が同時に同じネットワークを介して送受信されることが記載されているといえる。 また,甲9文献において,音声データとイメージを表示するための情報(描画像信号)は同一の回線(ネットワーク)で送られており,多重化して送受信しているから,電話で音声通信を行いながら描画像を送受信していることは明らかであり,イメージと音声が一体となったデータが同時に伝送されている。 ウ なお,複数の信号を多重化し,同一のネットワークを介して伝送することは,上記の甲8文献,甲9文献以外にも,乙1文献(6頁左上欄8行〜右上欄2行),乙2文献(実用新案登録請求の範囲及び第1図)に記載されており,このことからも,当該技術が周知であることは明らかである。 エ したがって,仮に本願発明の相違点構成に関する原告の主張を前提としたとしても,引用発明1に,引用発明2及び周知慣用技術を適用して,本願発明の構成とすることができるとした本件審決の判断に誤りはないというべきである。 2 取消事由2(引用発明1に引用発明2及び甲7文献ないし甲9文献記載の発明を適用できるとした認定・判断の誤り)について 一般にコンピュータは複数の機能を備えるものであり,すでにコンピュータにある機能,あるいは新たな機能を適宜組み合わせて機能を追加(機能拡張)をすることが普通に行われているから,各引用例に記載された発明の課題が相違するからといって,そのことで阻害要因があるということはできない。コンピュータが様々な機能を拡張できることは引用例2にも記載されているように周知であって当然のことである。引用発明1も,引用発明2も,共にコンピュータに関するものであって,引用発明2のコンピュータの機能拡張の構成は引用発明1のコンピュータに適用可能であることは明らかであり,また,複数の機能を持つコンピュータである以上,機能拡張は常に存在する課題であるから,これらを組み合わせることに何ら困難性はないし,阻害要因もない。 また,「コンピュータにおいて通信を行う通信ユニットを設けること」,「通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること」,「ディスプレイに表示するためのデータに使用するネットワークに音声通信も利用すること」の周知慣用技術を引用発明1のコンピュータに拡張機能として採用することに阻害要因はない。 したがって,引用発明1に引用発明2及び周知慣用技術を適用することが容易であるとした,本件審決の判断に誤りはない。 |
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当裁判所の判断
1 取消事由1(相違点構成を周知慣用技術であるとした誤り)について (1) 相違点構成の意味内容について 原告は,本願発明の相違点構成における「データをネットワークとの間で通信する通信ユニットであって,前記ネットワークと通信するデータ」中の「データ」には,少なくともイメージを表示するためのデータ及び音声データが含まれ,これらのデータがひとまとめにされて「データ」として同時にネットワークとの間で通信されているものと理解すべきであると主張するので,検討する。 本願請求項1の記載中,「データ」に関する部分は次のとおりである。 「該中央処理ユニットに結合されており,データをネットワークとの間で通信する通信ユニットであって,前記ネットワークと通信するデータが,前記第1ディスプレイにイメージを表示するためのデータを含む,前記の通信ユニットと, 該通信ユニットに結合したオーディオ・ユニットであって,前記装置のユーザに音声通信を提供し,該音声通信が,前記データの通信に使用する前記ネットワークを介して生じる,前記のオーディオ・ユニットと,」 上記記載によれば,「データ」は「通信ユニット」を介して「中央処理ユニット」と「ネットワーク」との間でやりとりされ,この「データ」は「第1ディスプレイにイメージを表示するためのデータ」を含み,また,「通信ユニット」には「オーディオ・ユニット」が結合され,「データ」の通信に使用する「ネットワーク」を「介して」,「音声通信」が生じるものと解される。 しかしながら,本願請求項1は,上記の「データ」が,「第1ディスプレイにイメージを表示するためのデータ」を含むこと,音声通信が「ネットワークを介して生じる」ことを規定しているにすぎず,上記「データ」に音声データが含まれるとは規定しておらず,イメージを表示するためのデータと音声データがひとまとめにされた「データ」として同時にネットワークとの間で通信されるとの記載もない。そうすると,本願請求項1の記載から,当然には,上記「データ」に音声データが含まれるということはできず,また,イメージを表示するためのデータと音声データがひとまとめにされた「データ」として同時にネットワークとの間で通信されると解することもできない。 なお,原告の指摘に係る本願明細書の「発明の詳細な説明」欄の記載をみても,ネットワークと通信する「データ」の内容やその送受信の方式についての具体的な記載を認めることはできないから,原告の主張は「発明の詳細な説明」欄の記載に基づくものともいえない。 さらに付言すると,中央処理ユニットとネットワークとの間で通信される「データ」に含まれる「イメージを表示するためのデータ」以外の情報としては,テキストデータ,制御データなども想定され得るから,ネットワークとの間で通信される「イメージを表示するためのデータ」以外の情報が必然的に音声データであるということもできない。また,本願請求項1において,「第1ディスプレイ」以外のディスプレイを備えることは排除されていないから,「第1ディスプレイにイメージを表示するためのデータ」以外のデータとして,「(第1ディスプレイ以外のディスプレイに)イメージを表示するためのデータ」が存在することが排除されているともいえない。 以上のとおりであるから,本願発明の相違点構成における「データをネットワークとの間で通信する通信ユニットであって,前記ネットワークと通信するデータ」中の「データ」には,少なくともイメージを表示するためのデータ及び音声データが含まれ,これらのデータがひとまとめにされて,同時にネットワークとの間で通信されているものと理解すべきであるとの原告主張は,本願明細書の記載に基づかないものであって,採用することができない。 (2) 周知技術の認定の誤りについて 本願発明の相違点構成のうち,イメージを表示するためのデータ及び音声データを同時にネットワークとの間で通信するとの点が,引用例2にも,甲7文献ないし甲9文献にも,示されていないとの原告主張は,相違点構成の意味内容についての原告の理解を前提とするものであるところ,この点に理由がないことは上述したとおりである。 なお,原告は,引用例2にも,甲7文献ないし甲9文献にも,本願発明の相違点構成とは異なる技術が記載されている旨主張するので,念のため,これらの刊行物の記載事項に関する本件審決の認定の当否について,検討する。 ア 甲6によれば,引用例2には,本件審決が認定したとおり,次の記載があることが認められる。 「4つの機能を1つにした三菱統合ソフト「メルブレーンズ・ノート」付属。ワープロ,カルク,グラフィック,通信の4つの機能を自由に組合わせて使用できるMSX2用三菱統合ソフト「メルブレーンズ・ノート」。ワープロ機能で作成した文章にグラフィック機能で描いたグラフィックスをドッキングし,通信機能で送受信するなど,まったく新しい使い方が可能です。しかもMSX-DOS上で動作しますので,今後登場するMSX-DOS上の他のソフトとデータを共有することもできます。」(34頁左欄2行〜16行) 「デジタイズ,スーパーインポーズ,テロップ,サウンドミキシングの4つの機能を持つAVボードを装着すれば,ビジュアル/サウンド操作が自由自在。しかも,デジタイズなど3つの機能はメルブレーンズ・ノートのグラフィック機能でコントロール可能。ビデオ編集やオリジナルビデオ作成などが実現できます。」(34頁左欄下から8行〜3行) 上記記載によれば,引用例2には,コンピュータにおいて,ワープロ・カルク・グラフィック・通信・ビジュアル・サウンドなどの各種データの処理ができ,文章及びグラフィックスをドッキングして通信機能で送受信できるようにしたものが記載されているということができ,これと同旨の本件審決の認定に誤りはない。 原告は,引用例2には,ワープロ機能等の各機能を統合したソフトウェアに関する技術が記載されているのみであり,通信機能で送受信できると記載されているのはワープロ機能で作成した文章とグラフィックス機能で描いたグラフィックスのみであって,サウンド(音声)を通信できる記載はなく,サウンド(音声)とグラフィック(画像)を同時に通信することも記載されておらず,コンピュータでの通信を通信ユニットで行うことの記載もない旨主張するが,本件審決は,引用例2について,サウンド(音声)を通信するものであるとか,サウンド(音声)とグラフィック(画像)を同時に通信するものであるとか,コンピュータでの通信を通信ユニットで行うものであるなどという認定をしたものではないから,原告の主張は,本件審決を正解しないものというべきである。 イ 甲7文献には,次の記載がある。 「音声,文字,画像等を媒体として,情報の入出力を行い,人間と機械(計算機)とが対話を行う情報入出力装置」(1頁右下欄2行〜4行) 「回線2 文字,画像,音声情報のディジタル信号を伝送するディジタル回線」(2頁右下欄14行〜15行) 甲7文献の上記記載及び第1図によれば,甲7文献には,音声,文字,画像等を媒体として情報の入出力を行い,人間と機械(計算機)とが対話を行う情報入出力装置に関する発明であって,文字,画像,音声情報のディジタル信号を伝送するディジタル回線を有するものが記載されており,「ディスプレイに表示するためのデータの通信に使用するネットワークを介する音声通信」が開示されているということができる。 ウ 甲8文献には,次の記載がある。 「通信端末双方で互いに相手会議室の風景を表示し,相手端末に発言者の位置を示す制御情報をその発言者の音声データと多重化して送り,相手端末ではその制御情報に基づき表示されている相手会議室の風景上に発言者を明示するマークを書き加える静止画像通信会議方式」(1頁左下欄19行〜右下欄5行) 「第1図は本発明の一実施例の構成を示すブロック図で,1A,1Bは静止画像通信会議端末(以下,端末という。),2A,2Bは表示部,3A,3Bは表示制御部,4A,4Bはマイク,5A,5Bは発言者判定部,6A,6Bは音声信号変換部,7A,7Bはカメラ,8A,8Bはカメラ制御部,9A,9Bはメモリ,10A,10Bは図形発生部,11A,11Bはシステム処理部,12A,12Bは通信制御部,13A,13Bはスピーカ,14A,14Bは信号変換部,15A,15Bはバス,16は通信回線,17は交換機であり,ここでAを付した符合は端末1Aの構成部,Bを付した符合は端末1Bの構成部である。 次にその動作を説明するが,ここでは予め端末1Aと端末1Bとが通信を行っているものとする。 端末1Aのシステム処理部11Aはカメラ7Aにより会議室の風景を撮影し,その画情報をカメラ制御部8A,バス15Aを介してメモリ9Aに一旦書き込み,その後通信制御部12A経由で端末1Bに送出するか,あるいは,通信回線16の伝送速度に応じてサンプリングすることによりメモリ9Aを使用せず直接バス15A経由で通信制御部12Aから端末1Bに送り出す。 端末1Bは通信回線16,交換機17を介して送られてきたその画情報を通信制御部12Bで受信し,メモリ9Bに書き込む。システム処理部11Bはメモリ9Bから画情報を読み出し,バス15Bを介して表示制御部3Bに送り表示部2Bに表示すると同時に,カメラ7Bにより会議室の風景を撮影しその画情報を端末1Aに送る。端末1Aではその画情報をメモリ9Aに書き込み表示部2Aに表示する。 会議が始まり端末1A側の参加者が発言を行なうと,発言者判定部5Aは各個人に設けられたマイク4Aから周オンされた音声のレベルを比較して発言者を知り,システム処理部11Aはその発言者の位置を示す制御情報と音声信号変換部6Aを介して入力された音声データとを通信制御部12Aで多重化して端末1Bに送る。 端末1Bはその多重化信号を通信制御部12Bで受信する。システム処理部11Bはその通信多重化信号を通信制御部12Bで音声データと制御情報に分離し,その制御情報によって示される発言者の位置に基づき図形発生部10Bによって発生させた発言者明示用マークを9Bに書き込むと同時に,音声データを信号変換部14Bを介してスピーカー13Bに出力する。表示制御部3Bはメモリ9Bから画情報を読み出し表示部2Bに表示するので,表示部2Bには発言者の声がスピーカー13Bから出力されると共に発言者を示すマークの付加された相手会議室の風景が表示される。」(2頁左上欄3行〜左下欄11行)。 甲8文献の上記記載及び第1図によれば,甲8文献には,通信制御部(12A,12B)が使用され,通信制御部(12A,12B)とシステム処理部(11A,11B)がバス(15A,15B)により接続され,通信制御部(12A,12B)にはスピーカ(13A,13B)と接続される信号変換部(14A,14B)及びマイクと接続される音声信号変換部(6A,6B)にそれぞれ接続され,画情報に使用する通信回線(16)を介して音声通信を行うことが記載されている。なお,明示されていないが,バスにCPU(中央処理ユニット)が接続されていることは,技術常識に照らし,明らかであるから,甲8文献には「コンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること」,「通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること」,及び「ディスプレイに表示するためのデータの通信に使用するネットワークを介して音声通信をすること」が開示されているということができる。 エ 甲9文献には次の記載がある。 「平面上に手書きした描画像を電話回線を介して音声信号と共に送信し,受信側にて再現描画させる描画像通信装置,所謂スケッチホン」(1頁14行〜16行) 「描画パッド23にペン23aによって書かれた描画(文字,図形)の信号は‥‥‥(中略)‥‥‥符号化信号をモデム223にて変調して,更に変調信号と電話機21からの音声信号とを多重分離回路224にて多重化して電話回線20へ送出する。」(2頁8行〜16行) 「電話回線20を介して他の装置から送信されてきた信号は多重分離回路224にて音声信号と描画信号とに分離され,音声信号は電話機21に送られ,描画像信号はモデム223にて復調され‥‥‥(中略)‥‥‥モニター装置24に表示されることになる。」(2頁20行〜3頁6行) 「電話機11と電話回線10との間にはマイクロプロセッサ122にて制御される制御部12が介装されており,これに描画パッド13及びモニタ装置14が接続されている。描画パッド13の感圧パッド上にペン13aによって描画すると,ペン13aを接触した信号のX,Y座標信号及びペン13aの上下を表すペンタッチ信号がインターフェース121を介してマイクロプロセッサ122に入力され,ここで符合化される。符合化信号はモデム123にて変調され,変調信号は多重分離回路124にて電話機11からの音声信号と多重化されて電話回線10へ送出されていく。 またマイクロプロセッサ122にて符号化された描画像信号はビデオRAMを用いてなるメモリ125に蓄積され,蓄積内容が読出されてモニタ装置14に表示される。 また受信時には第6図によって説明したのと同様に受信信号が多重分離回路124にて音声信号と描画像信号とに分離され,前者を電話機11へ与える一方,後者をモデム123に与えて復調し,更にマイクロプロセッサ122にて符号化し,これをメモリ125に蓄積してモニター装置14に表示させる。」(4頁13行〜5頁11行) 甲9文献の上記記載及び第1図及び第6図によれば,甲9文献には,多重分離回路(124,224)及びモデム(123,223)が使用され,モデム(123,223)はマイクロプロセッサ(122,222)に接続され,音声通信を行う際には,多重分離回路(124,224)に結合された電話機(11,21)が使用され,モニター装置(14,24)に表示するためのデータと電話による音声通信を共用する電話回線(10,20)が記載されているところ,電話回線(10,20)は「ネットワーク」に相当し,電話回線と接続された構成である多重分離回路及びモデムはネットワークへの通信を行うから「通信ユニット」に相当し,マイクロプロセッサ(122,222)は「中央処理ユニット」に相当し,電話機(11,21)はユーザに音声通信を提供するから「オーディオ・ユニット」に相当する。そうすると,甲9文献には,「コンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること」,「通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること」,及び「ディスプレイに表示するためのデータの通信に使用するネットワークを介して音声通信をすること」が開示されているということができる。 オ 以上のとおりであるから,本件審決が,甲7文献ないし甲9文献を例示して,コンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること,通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること,及びディスプレイに表示するためのデータに使用するネットワークを介する音声通信は,周知技術である旨の認定をしたことに,何ら誤りはない。 (3) 以上のとおり,本願発明の相違点構成は,引用例2及び甲7文献ないし甲9文献に開示されているような周知技術というべきであるから,この点に関する本件審決の認定に誤りはない。 2 取消事由2(引用発明1に引用発明2及び甲7文献ないし甲9文献記載の発明を適用できるとした認定・判断の誤り)について 原告は,引用発明1と引用発明2とは課題を異にする,引用発明1のコンピュータは遠隔地との通信を予定しておらず,モデム等の通信機器を備えていない,引用発明2を引用発明1に適用する動機付けがない,などと主張する。しかしながら,一般に,コンピュータに新たな機能を追加して機能の拡張をすることは,ごく普通に知られていることであるから,引用発明1がコンピュータの機能を拡張することを直接の課題としておらず,また遠隔地と通信するための手段を備えていないとしても,パソコンの機能を拡張することを課題としている引用発明2を引用発明1に適用することに阻害要因が存在するということはできない。 原告は,また,引用発明1は,甲7文献ないし甲9文献記載の発明とは課題を異にし,通信を予定しておらず,甲7文献ないし甲9文献記載発明を引用発明1に適用する動機付けがない,などとも主張する。しかしながら,コンピュータに新たな機能を追加して機能の拡張をすることが通常行われていることは上述したとおりであり,またコンピュータで通信を行う際には通信ユニットが使用されること,通信ユニットが中央処理ユニットに結合され音声通信を行う際には通信ユニットに結合されたオーディオユニットが使用されること,及びディスプレイに表示するためのデータの通信に使用するネットワークを介して音声通信をすることが,いずれも周知技術であるとする本件審決の認定に誤りがないこともすでに述べたとおりであるから,「中央処理ユニットに結合されており,データをネットワークとの間で通信する通信ユニットであって,前記ネットワークと通信するデータが,ディスプレイにイメージを表示するためのデータを含む,前記の通信ユニットと,該通信ユニットに結合したオーディオ・ユニットであって,装置のユーザに音声通信を提供し,該音声通信が,前記データの通信に使用する前記ネットワークを介して生じる,前記のオーディオ・ユニット」をコンピュータの構成要素とさせることは,当業者が実施に当たり適宜選択し得る設計事項というべきである。 そうすると,引用発明1について,引用発明2が備えているような通信の機能を拡張し,その際,上記の周知技術を適用することは,当業者ならば容易になし得ることというべきである。 したがって,引用発明1に引用発明2及び上記の周知技術を適用して,本願発明の構成とすることは,当業者が容易に想到できたものであるというべきであり,この点に関する審決の認定・判断に誤りはなく,原告主張の取消事由2は理由がない。 3 結論 以上によれば,原告主張の取消事由は理由がなく,その他,本件審決に,これを取り消すべき誤りがあるとは認められない。 よって,原告の本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 三村量一 |
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裁判官 | 嶋末和秀 |
裁判官 | 沖中康人 |