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関連審決 無効2010-890010
関連ワード 指定役務 /  公序良俗(4条1項7号) /  警告 /  差止 /  継続 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10342号 審決取消請求事件
原告フリー工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 山口朔生大島信之
被告西日本 エス・ピー ・シー 株式会 社
同訴訟代理人弁理士 佐々木 功川村恭子久保健徳若拓也
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/03/17
権利種別 商標権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2010-890010号事件について平成22年9月30日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,被告の下記1の本件商標に係る商標登録を無効にすることを求める原告の下記2の本件審判請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4のとおりの取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1本件商標(甲1)商標登録番号:第5205234号2商標の構成: 指定役務:第37類「建設工事,建築工事に関する助言」商標登録出願日:平成20年2月26日登録査定日:平成21年1月8日設定登録日:平成21年2月20日2特許庁における手続の経緯審判請求日:平成22年2月15日(無効2010-890010号)審決日:平成22年9月30日審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
原告に対する審決謄本送達日:平成22年10月8日3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件商標は,社会通念に照らして著しく妥当性を欠き,公益を害すると評価し得るものではないから,商標法4条1項7号に該当するものではなく,また,「S.P.C.ウォール工法」が,原告の業務に係る役務等を表示する商標として,同項10号及び19号の規定に違反してされたものではない,というものである。
4取消事由本件商標が商標法4条1項7号に該当しないとした判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕 本件商標は,以下の各事情からすると,その登録出願の経緯において,著しく社会的妥当性を欠くものであり,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認められるものであるから,商標法4条1項7号に掲げる商標に該当するものというべきである。
アS.P.C.工法研究会に係る事実誤認について3 原告と被告は,当初,落石覆工に使用する軽量盛土工法である「S.P.C.工法」(本件記録には,「SPC工法」など,種々の記載が見られるが,以下総称して,「SPC工法」という。特に断らない限り,略称の定義については,以下同じ。)に関する「S.P.C.工法研究会」(以下「SPC研究会」という。)に所属しており, 被告の代表者は,同工法の設計,施工指針の解説書の編集委員長を担当したこともあった。
また,原告と被告は,SPC工法に係る基本特許の共同出願人であり,SPC研究会の中心的存在でもあった。
SPC研究会は,登記された法人ではなく,平成11年3月以前から活動しているため,当時の会員名簿などの資料はなく,組織図などは不明である。
しかしながら,SPC研究会が,平成12年に第1回の研究会を開催したこと,多数の施工業者がSPC工法の施工を許可されたSPC研究会の会員であったこと,平成19年ないし21年において,SPC研究会の島根県支部が定期総会を開催していることなどからすると,SPC研究会が実在することは明らかである。
 被告は,平成18年10月ころ,複数の会社に文書(甲5。枝番は省略。以下,特に断らない限り,同じ。)を送付し,今後,原告やSPC研究会とは別途に,SPC工法とは異なる方法を開発し,当該新工法を実施することを告げ,SPC研究会を自ら離脱し,独立した。
原告及びSPC研究会は,被告のこのような行動については,被告の自由であることから異議を唱えることはなかったが,被告は,新工法におけるビジネスが順調ではなかったことから,被告とは別個に存在するSPC研究会を勝手に廃止したと宣言し,その顧客を収奪しようと企て,本件商標の登録出願をしたものである。
 本件審決は,被告がSPC研究会を離脱した前記経緯について全く検討しておらず,明らかに不当である。
イ本件商標の登録出願の経緯について 本件審決は,SPC工法の改良型である「N-S.P.C.ウォール工法」4(以下「N-SPC工法」という。)について,同工法を管理する「N-S.P.C.工法構造研究会」(以下「N-SPC研究会」という。)の事務局である被告が出願したものであるから,登録出願の経緯に社会的妥当性を欠くところはないとする。
しかしながら,SPC工法は,建設業界において,少なくとも平成11年以来多数の工事実績があり,多数の企業が使用していた名称であり,その名称を付したSPC研究会が組織され,解説書も出版されている。
被告は,SPC工法を中心に営業活動を行っていたにもかかわらず,原告そのほかの研究会会員が所属するSPC研究会から分離するや,前の組織の名称である「S.P.C. ウォール工法」が商標登録されていないことを奇貨として,SPC工法の名称と類似する本件商標について,SPC研究会の会員企業の営業を妨害することを意図して登録出願し,登録を受けたものである。
 以上からすると,本件商標の登録出願の経緯は社会的妥当性を欠くものというべきである。
ウ本件商標に基づく警告について 本件審決は,被告が,本件商標に基づいて,原告そのほかに対して商標権侵害について警告(以下,総称して,「本件警告」という。甲2)したことは,被告が,SPC研究会を廃止したこと,国土交通省九州技術事務所においてN-SPC工法を「NETIS」(新技術登録システム)として登録したこと,倒壊事故に使用されたSPC工法に係るパネルの製作を中止したこと,研究会名・NETIS登録番号・工法名を変更したことなどから,著しく妥当性を欠く行為とまではいうことはできないとする。
 しかしながら,SPC研究会は,現在も活動しており,被告が勝手に廃止したと通知したことをもって,本件警告が正当視されるものではないことは明らかである。
また,NETISは,新技術に係る情報登録システムであって,商標とは無関係である。被告自身が新技術であると認識したN-SPC工法について登録したからとい5って,離脱したSPC研究会の組織名と類似すると自認する本件商標を登録し,同研究会の顧客を奪う目的で本件警告を発することを正当視できないことも,明らかである。
同様に,被告自らがSPC工法に基づくパネルの製作を中止したことを理由に本件警告を正当視することもできない。原告を含め,SPC研究会会員は,SPC工法に係るパネルを現在も製造しており,倒壊事故は,パネル自体が原因ではなく,施工上の問題にすぎないのであって,被告自らの判断で,かかるパネルの製造中止を決定したものにすぎない。
さらに,被告は,自ら別々にビジネス展開すると宣言し,SPC研究会から離脱,独立したのであるから,離脱後の組織の名称を無断で変更することはあり得ない。
実際,SPC研究会島根県支部は,被告がSPC研究会から離脱後も,平成21年までSPC研究会の支部として定期総会等を開催し,活動しているのであるから,本件審決が,被告による名称の変更について,本件警告を正当視する事情として指摘したことは,誤りである。
 以上からすると,本件警告は,著しく妥当性を欠いているものというほかなく,その前提となる本件商標の登録出願自体も,著しく社会的妥当性を欠くものということができるものである。
エSPC工法の開発者について本件審決は,虚偽の内容の書証(乙1)を前提に,被告代表者A(以下「A」という。)がSPC工法の開発者の1人であると誤った事実を認定している。
しかしながら,SPC工法は,昭和60年代より,主として日本道路公団で研究・開発が進められた総合的な技術であり,平成11年2月ころには実際に着工できる程度に完成していたのであって,特定の者が考案し,開発したものではない。
したがって,AがSPC工法の開発者であることをもって,本件商標に係る登録出願や本件警告が正当視されるものではない。
オ公益性を侵害するか否かについて6 被告は,かってSPC工法の推進者の1人であり,SPC研究会に多数の企業を勧誘し,研究会会員による「S.P.C.ウォール工法」なる名称の使用を推奨していたものである。
それにもかかわらず,被告が,SPC研究会から独立するや,長年の工事実績のある名称「S.P.C.ウォール工法」が商標登録されていないことを奇貨として,「N?S.P.C.ウォール工法」なる本件商標を取得し,かって自らが勧誘したSPC研究会会員に対し,本件警告を発し,「S.P.C.ウォール工法」なる名称の使用の差止めや損害賠償の請求をすることは,建設業界における混乱,名称への不信,工事方法の品質への疑問,SPC工法の受注活動に対する不安など,複数の企業の死活問題にまで直結する,著しく社会正義に反する行為ということができる。
 原告は,本件警告によってSPC研究会会員が困惑し,対策会議が開催されたことについて,特許庁に対し,上申書を提出したが,本件審決は,多数の企業の困惑,怒りの声を無視したものである。
したがって,被告による本件商標の登録自体が公益を害すると評価し得ることは明らかである。
 以上からすると,本件商標は,その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであり,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認められるものであるから,本件商標は,商標法4条1項7号に掲げる商標に該当するものというべきである。
〔被告の主張〕 本件商標は,その登録出願の経緯について,著しく社会的妥当性を欠くものではない。
アS.P.C.工法研究会に係る事実誤認について SPC工法は,平成11年3月ころ,Aが構造及び意匠を,B(以下「B」という。)が基本的事項を担当して開発されたものであり,その工法研究会として,7同年10月7日,熊本SPC研究会が発足し,NETIS登録も行った。
平成16年9月3日,九州各県でそれぞれ独自に活動していた研究会について,SPC研究会九州本部が設立されたところ,原告及び被告はともに正会員として参加し,専用実施権設定契約を締結するなど,SPC工法に関し,各地区の工事で協力するなどした。
SPC研究会九州本部は,平成19年10月4日,N-SPC研究会に名称変更し,N-SPC研究会として改めて発足し,新たにNETIS登録も行った。
 研究会の名称を変更した理由は,平成16年1月1日,Aほか1名と原告との間で,SPC工法に係る特許権について,原告に対して専用実施権を設定する旨の契約を締結したところ,実施権の基礎となる特許出願が全て拒絶されたことから,特許関連の整理を早急に行う必要があったこと,平成13年から17年にかけて,施工方法を熟知していないことに起因するSPC工法に係るパネルの倒壊事故等が発生したため,パネルの構造の見直し及び当該変更に伴う載荷実験が必要となったことなどによる。
このような事故は,施工業者である原告が管理する研究会会員の工事によって発生したものであるが,原告が事故処理を怠ったため,被告やそのほかの研究会会員は,管轄する工事事務所に対し,時間と費用を費やして事故処理をすることを余儀なくされ,また,当該事故によって,SPC工法に対する信頼が揺らいだため,信用回復対策を講じることが緊急の課題となった。
そのため,新たにN-SPC研究会が設立され,工法に関する改良を重ね,各種試験を実施した上で新工法を開発し,その名称として,「N-S.P.C.ウォール工法」を採用し,平成16年11月には,同工法による工事が行われていた。
そして,平成19年9月28日開催のN-SPC研究会の平成19年度第3回総会において,SPC研究会を廃止し,「N-S.P.C.工法構造研究会」と名称変更した上で,新しい研究会として再出発する旨が明らかにされ,さらに,国土交通省九州交通整備局九州事務所に対しても,SPC工法に係るNETIS登録を廃止し,8新たに新工法を登録したこと,SPC工法に係る事故の原因を検証し,改善策を講じたこと,SPC研究会をN-SPC研究会に変更したことを報告している。
さらに,N-SPC研究会は,各会員に対し,倒壊事故が発生した際に使用されたSPC工法に係るパネルの製作中止,研究会及び工法の名称変更,NETIS登録番号の変更を通知したが,原告は,N-SPC研究会には加入しなかった。
 被告は,自らSPC研究会から分離,独立したわけではない。被告は,SPC工法の開発,普及に尽力し,多数の工事を行ってきたが,原告の管理に係る工事により事故が発生したため,被告やそのほかの研究会会員は,事故原因の究明と対策に迫られ,改良したパネルの載荷強度試験を行い,改良版を用いて工事を行うとともに,SPC研究会を廃止し,新たにN-SPC研究会として名称変更したものである。
むしろ,原告が,N-SPC研究会には加入せず,SPC研究会を廃止する旨の決定を無視し,SPC研究会として工事を継続するのみならず,自らが本流であるかのように主張するものであり,N-SPC研究会の設立経緯に照らすと,原告の主張は明らかに不当である。
被告としては,かかる事情を踏まえて,これまで協力体制にあった原告との関係について,今後は別個に活動することを関係者に周知したにすぎない。
 以上からすると,SPC研究会及びN-SPC研究会に係る本件審決の事実認定に,誤りはない。
イ本件商標の登録出願の経緯について本件商標は,SPC工法の改良型としてのN-SPC工法につき,N-SPC研究会によって採用されたものであり,その事務局を担当する被告が登録出願したものであるから,その登録出願経緯に社会的妥当性を欠くようなところはない。
本件商標により,むしろ業界における取引が安定するものであって,SPC研究会会員の営業を妨害することを意図したわけではないことは明らかである。
ウ本件商標に基づく警告について9 N-SPC研究会への名称変更は,N-SPC工法による工事が定着したことから,N-SPC研究会の平成19年度第3回総会において,会員の総意により決定されたものである。当時,会員は37社であり,原告も役員であった。
原告は,このような経緯にもかかわらず,むしろ被告がSPC研究会から離脱したものであり,同研究会島根県支部が活動を継続していると主張するが,同支部はわずか7,8社で構成されているにすぎず,N-SPC研究会に参加せず,SPC研究会九州本部を離脱したのは原告にほかならない。
 原告は,被告による新NETIS登録とSPC工法に係るパネルの製造中止に関してるる主張するが,被告が旧NETIS登録を廃止して,新NETIS登録を行った以上,SPC研究会会員に対してその旨通知することはむしろ当然であって,会員ではない原告が無断で新・旧のNETIS登録番号を使用して紛らわしい行為を継続していたことから,本件警告を行ったものである。
また,被告は,SPC工法に係るパネルの強度不足や原告による工事管理の統制不足が原因で倒壊事故が発生したと判断し,パネルの改良に至ったものである。
したがって,被告がSPC工法に係るパネルの製造を中止したことはむしろ当然であって,原告が事故の原因となったパネルの製造を現在も継続していることは,被告には無関係の事情にすぎない。
 したがって,本件審決が,本件警告について,著しく妥当性を欠く行為であるとまではいい得ないとした判断に誤りはない。
エSPC工法の開発者について 原告は,甲3の記載を根拠に,平成11年2月にはSPC工法に係る工事が着工されていたと主張するが,当該工事は,いまだ詳細設計が完了していない状態であり,その時点で着工されることはあり得ない。
また,原告は,SPC工法は,主として日本道路公団で研究・開発が進められていたなどと主張するが,日本道路公団が研究・開発していたのは,SPC工法開発前の軽量盛土工法にすぎない。原告は,平成11年10月7日,熊本エス・ピ-・10シー株式会社の設立後,SPC工法に関与するようになったのであるから,それ以前におけるSPC工法の企画開発について,詳細を把握していないものである。
 SPC研究会の資料(乙18)には,B及びAがSPC工法の「実行・企画責任者」とされており,被告は虚偽の事実を主張するものではない。本件警告を営業妨害であると断じる原告の主張こそ,不当というべきである。
オ公益性を侵害するか否かについて原告は,本件警告により,SPC研究会会員が困惑しているなどと主張するが,むしろ原告の行為により,N-SPC研究会の多くの会員が迷惑を被ったため,本件商標の商標権者であり,N-SPC研究会の事務局を担当する被告としては,厳正に対応せざるを得なかったものである。
N-SPC研究会の会員は,平成20年5月現在,全国会員は9社,地方会員は,九州会員26社,四国会員14社,中国・近畿会員19社であったが,そのうち島根県の会員7社が原告のSPC研究会島根県支部会員となったので,現時点で合計61社である。
したがって,被告による本件警告は,著しく社会正義に反する行為ということはできない。
 以上からすると,本件商標は,その出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものではなく,公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標と認められるものではないから,商標法4条1項7号に掲げる商標に該当するものではないとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1認定事実 SPC工法についてアSPC工法は,工場において製作されたプレキャストコンクリート版(パネル)をPC鋼棒により順次積み上げて,気泡混合軽量材の自立型枠を形成する工法である(甲3の1)。SPC工法は,平成16年2月時点で,SPC研究会の集計11によると,合計60件の施工実績があった(甲3の2)。
イ原告とA及び基礎地盤コンサルタンツ株式会社(Bが在籍していた。以下「基礎地盤コンサルタンツ」という。)は,平成11年10月1日,SPC工法に係る権利及びノウハウに関する専用実施権を原告に対して設定する旨の契約を締結した(乙3)。同契約には,SPC工法について,「SPC工法」という名称を原告が使用する旨の条項がある。また,平成16年1月1日,同様の契約が締結されたが,同契約には,SPC工法について,「SPC工法」「SPCウォール工法(覆工工法)」等の名称を原告が使用する旨の条項がある(乙4)。
 SPC研究会についてSPC研究会は,平成11年11月7日,SPC工法の公共事業採択の拡大,研究会の開催,基礎実験の計画・実行等の事業計画を前提として設立されたようであり,平成12年4月13日,熊本市において平成12年度第1回研究会を開催しており,原告及び被告は,いずれも同研究会に所属していた(甲4の1,乙18)。
同研究会は,熊本SPC工法研究会と称したこともあったようである(甲4の2及び3)。
また,平成16年9月3日,九州各地において,県単位でSPC工法に係る複数の研究会が活動していたことを踏まえ,これを統合してSPC研究会九州本部が設立された。当時,正会員が36社など,会員数は合計52社であり,原告及び被告も正会員であった(乙2)。
 N-SPC工法の開発及びN-SPC研究会についてアSPC研究会九州本部は,平成13年以降,九州で2件,四国で1件,SPC工法に係る工事が施工された現場においてパネルの転倒事故が発生したため,パネルの改良などを行い,N-SPC工法を開発した。N-SPC工法は,平成16年11月ないし17年3月までの間に施工された,熊本県内における国道工事において採用された(乙5,7)。また,N-SPC工法(覆工方式・道路構築方式・気泡混合軽量盛土)は,平成16年7月16日,NETIS登録されているが,その際12の担当窓口は被告であり,N-SPC研究会と同一の名称(代表者A)が使用されていることからすると,SPC研究会九州本部は,そのころから当該名称の使用を開始していたようである(乙9)。被告及びN-SPC研究会は,平成17年2月,N-SPC工法に係るパネルの実物大強度試験を行うなどした(乙8)。
イ被告は,平成18年10月13日付けで,味岡建設株式会社及び丸昭建設株式会社に対し,原告が,SPC工法に関して大きな事故を3件発生させたが,事故対応については,研究会として被告が行っていることなどから,今後,SPC工法に係る専用実施権は放棄し,原告とは別個に活動すること,原告とは別個に道路橋梁工法等を統一した研究会としてN-SPC研究会を発足させ,N-SPC工法について新NETIS登録を行ったことなどを通知した。また,被告は,同年11月22日及び24日,タチバナ工業株式会社に対しても,同様の通知をした(甲5)。
ウ平成19年9月28日開催のN-SPC研究会の平成19年度第3回総会において,「N-S.P.Cウォール工法」及び「N-S.P.C.合成橋工法」を統合して1つの研究会として発足させ,SPC研究会を廃止し,「N-S.P.C.工法構造研究会」と名称変更した上で,新研究会として再出発する旨が定められた。なお,同総会の議題には,平成19年度(第3期)役員改選に関する件(九州N-S.P.C.工法構造研究会会則による)があり,平成18年度(第2期)役員(副会長)として,原告の代表取締役専務(C)の名前が記載されていることからすると,原告は,それまで「九州N-S.P.C.工法構造研究会」に関与していたようである。また,N-SPC研究会の事務局は,被告が担当するものとされた(乙10)。
エN-SPC研究会は,平成19年10月4日,原告に対し,以下の内容の通知をした(乙11)。なお,同通知には,原告がN-SPC研究会への入会を希望する場合の相談先が付記されていた。
 基礎地盤コンサルタンツ及びAは,平成17年度まで,原告と専用実施権設定契約を締結し,SPC工法を拡大することで合意をしてきたが,施工ミスなどが続き,信用が低下し,事故処理対策費用が必要となったことなどから,平成18年13度以降は,同契約を破棄し,別途に事業を行うこととした。
 今般,被告,基礎地盤コンサルタンツ及び黒沢建設株式会社は,工法に係る構造や橋梁関係の工事についても重要視することとしてSPC研究会を廃止し,N-SPC研究会を発足させ,SPC工法に係るNETIS登録を廃止し,N-SPC工法について新たにNETIS登録した。
 被告及び基礎地盤コンサルタンツは,原告がN-SPC研究会に入会することを希望している。
オ平成20年5月現在のN-SPC研究会の会員数は,61社である。会員の中には,平成12年度第1回SPC工法研究会(甲4の1)開催時や,平成16年9月のSPC研究会九州本部設立時において,SPC研究会の会員であり,平成19年9月28日開催のN-SPC研究会の平成19年度第3回総会(乙10)におけるN-SPC研究会会員を経て,継続して会員として参加している会社が複数存在する(乙15)。
 本件警告についてア被告は,平成21年11月2日,原告に対し,本件警告を発し,原告がウェブページの会社概要及び工法一覧において,土木工事の軽量盛土工法として「S.P.C.ウォール工法」の名称を使用しているが,これは,本件商標に類似するものであり,当該名称の使用を直ちに中止するよう求めた。原告は,同月20日付けで,被告に対し,使用停止等を拒否する回答を送付したため,被告は,平成22年1月21日,再度の警告を発した(甲2)。
なお,被告は,原告のほか,SPC研究会島根県支部に所属する2社に対し,同様の警告を行ったようである(甲7)。
イ原告は,現在においても,SPC工法を施工している(甲6)。また,原告は,ウェブページにおいて,「軽量盛土工法 SPCウォール工法表面材をPC鋼棒で緊張して斜面の前面に組み立て,表面材と斜面地山間に軽量盛土を充 して擁壁を構築する工法です」との表示をするとともに,SPC工法及びN-SPC工14法のNETIS登録番号を表示していたことがあった(乙14)。
なお,原告も所属する「S.P.C工法研究会島根県支部」が,平成19年ないし22年において,定期総会又は臨時総会を開催している(甲4の4〜8)。また,原告は,平成22年4月2日,特許庁審判長に対し,上申書を提出し,本件警告は,SPC工法を施工していた複数の企業の死活問題にまで直結する,著しく社会正義に反する行為であるなどと述べた(甲7)。
2検討 原告は,?SPC工法研究会に関する経緯及び本件商標の登録出願の経緯,?被告による本件警告,?SPC工法の開発者がAではないこと,?本件商標が公益を侵害することを前提に,本件商標は,その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであって,「公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標」(商標法4条1項7号,46条1項1号)に該当すると主張するので,まず,各事情について検討する。
 SPC工法研究会に関する経緯及び本件商標の登録出願の経緯について本件において,原告及び被告は,いずれもSPC研究会に参加し,SPC工法を採用して工事を行っていたところ,パネルの倒壊事故などを契機として,被告の積極的関与によってN-SPC工法が開発されるとともに,SPC研究会が廃止され,N-SPC研究会が設立されるに至っているものであり,N-SPC研究会の事務局を担当する被告が,N-SPC工法の名称について,本件商標の登録出願をして,登録を得たものである。
そして,N-SPC研究会が,SPC研究会九州本部を名称変更したものであり,N-SPC工法を採用して活動していることは,N-SPC研究会の第3回総会議事録の各記載や,新研究会の複数の会員が,SPC研究会発足当時からSPC研究会九州本部を経て,継続して会員として参加していることからも明らかである。
以上からすると,原告と被告との間において,原告が関係したSPC工法に係る工事において生じた倒壊事故などを契機として,次第に従前の協力関係が解消され,15被告が本件警告を発するに至ったことを考慮しても,本件商標については,その登録出願の経緯に著しく社会的妥当性を欠くものがあり,登録を認めることが到底容認し得ないような事情があるとは認められない。
この点について,原告は,SPC研究会島根県支部が実在しており,被告は,自らSPC研究会を離脱し,独立し,SPC研究会を勝手に廃止したと宣言し,その顧客を収奪しようと企てたものである,SPC工法は,少なくとも平成11年以来多数の工事実績があり,その名称は,多数の企業が使用していたのであって,被告は,同工法を中心に営業活動を行っていたにもかかわらず,同工法の名称と類似する本件商標について,SPC研究会の会員企業の営業を妨害することを意図して出願し,登録を受けたものであるなどと主張する。
しかしながら,SPC研究会は,県単位の支部を有していたようであり(乙2),N-SPC研究会は,九州地区を中心として活動していたSPC研究会九州本部を中心として設立されたものであるから,N-SPC工法を採用せず,SPC工法を中心に活動するSPC研究会島根県支部が九州地区以外において実在することをもってしても,被告がSPC研究会を無断で廃止したものということはできない。原告の主張は,その前提自体が欠けるものというほかない。
 被告による本件警告について被告は,N-SPC研究会が新たに開発し,採用したN-SPC工法について,同研究会の事務局として商標登録した上で,N-SPC研究会に参加せず,N-SPC工法のNETIS登録番号までウェブページに表示していた原告やそのほかの業者に対し,本件警告を行ったのであるから,本件警告が,著しく不当であるということはできない。しかも,原告は,SPC研究会島根県支部について主張するが,同支部は,N-SPC研究会を脱退した8社を中心として構成されており,同支部の総会にも原告を含め8社程度が参加しているにすぎず(甲4,7,乙15),そのほか,現時点において同支部以外にSPC研究会会員が存在するかは不明である。
したがって,被告が本件警告を行ったことをもって,被告による本件商標の登録16出願が,SPC研究会会員企業の営業を不当に妨害することを意図したものであり,出願経緯が著しく社会的妥当性を欠くものであるということもできない。
 SPC工法の開発者について原告は,SPC工法の解説書(甲3の1)の記載を根拠に,SPC工法は日本道路公団により研究開発が進められたものであり,A及びBが開発したとする乙1の記載は虚偽であるなどと主張するが,原告が指摘する同解説書の記載は,「軽量盛土工法を利用した方法」に関するものであって,SPC工法に係る記載ではない。
また,原告は,SPC工法に係る技術等について,A及び基礎地盤コンサルタンツから専用実施権の設定を受けており,その際,SPC工法については,「SPC工法」「SPCウォール工法」等の名称を用いることが定められていたのであるから,A及びBが,SPC工法の開発について,少なくとも中心的な地位を占めていたものと推認されるものということができる。したがって,被告が,N-SPC研究会の事務局として,本件商標について登録出願したことは,このような開発経緯に照らしても,著しく社会的妥当性を欠くものということはできない。
 本件商標が公益性を侵害するかについて原告は,被告による本件警告によって,SPC工法を採用する多数の企業の死活問題に発展していることなどをもって,本件商標は公益性を害するものであるなどと主張するが,本件警告が,公益性を害するものとは認められないことは,先に述べたとおりである。したがって,原告の主張は,その前提を欠くものである。
3小括以上からすると,本件商標につき,その登録出願の経緯に係る前記各事情から商標法4条1項7号,46条1項1号に該当するという原告の主張は,当該各事情を認めることができないから,本件商標は,その登録出願の経緯が著しく社会的妥当性を欠くものではなく,また,その構成それ自体が公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがあるとはいえないことは明らかであるから,商標法4条1項7号に掲げる商標に該当するものとは認められないとした本件審決の判断に誤りはない。
174結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光