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関連審決 無効2009-800121
関連ワード 製造方法 /  共同研究 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  技術常識 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10069号 審決取消請求事件
原告新東工業株式会社
同訴訟代理人弁護士 山崎行造杉山直人小 笠原裕
同 弁理士 白銀博内藤忠雄
被告日本鋳鉄管株式会社
同訴訟代理人弁護士 石戸孝則
同 弁理士 石川泰男石橋良規
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/03/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800121号事件について平成22年1月25日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告が有する下記2の本件発明に係る本件特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件訂正を認めた上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取2消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲8,9)発明の名称:ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備出願日:平成14年11月19日登録日:平成17年6月10日特許番号:第3685781号(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成21年6月2日(無効2009-800121号)訂正請求日:平成21年8月24日(甲9。本件訂正。なお,本件訂正に係る明細書を「本件明細書」という。)審決日:平成22年1月25日審決の結論:訂正を認める。本件審判の請求は,成り立たない。
審決謄本送達日:平成22年2月4日(原告に対する送達日)2本件発明の要旨本件審決が判断の対象とした発明は,本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された各発明(以下,その順に従って,「本件発明1」ないし「本件発明5」といい,総称して,「本件発明」という。)であって,その要旨は,次のとおりである。
【請求項1】溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と,取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と,を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって,前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置との間には,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており,前記取鍋は,前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,前記搬3送台車,前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられることを特徴とする,ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備【請求項2】溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋と,取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と,黒鉛球状化処理終了後に取鍋内のスラグを取鍋から排出する排滓処理装置と,を備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備であって,前記保持炉と前記黒鉛球状化処理装置と前記排滓処理装置との間には,取鍋を搭載して自走すると共に搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段と,が設置されており,前記取鍋は,前記搬送台車と前記取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,前記搬送台車,前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置及び排滓処理装置へ移動させられることを特徴とする,ダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備【請求項3】前記取鍋移動手段及び前記取鍋移送手段は,ローラーが回転することによってローラー上に搭載された取鍋を移動させるローラーテーブル方式であることを特徴とする,請求項1又は請求項2に記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備【請求項4】前記搬送台車は1つの直線上を走行し,前記取鍋移送手段は,その取鍋の移動方向が当該搬送台車の走行方向に対して実質的に直行する方向に設けられていることを特徴とする,請求項1ないし請求項3の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備【請求項5】前記搬送台車は,レーザーセンサーによって,その位置が検出されることを特徴とする,請求項1ないし請求項4の何れか1つに記載のダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記ア及びイの引用例1及び42に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)に下記ウないしオの周知例1ないし3に記載された周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,本件発明に係る本件特許を無効にすることができない,というものである。
ア引用例1:特開平9-182958号公報(甲1)イ引用例2:特開平11-207458号公報(甲2)ウ周知例1:鋳造工場の自動化・省力化マニュアル(88〜93頁,312〜314頁。平成7年3月31日発行。甲3,4,7)エ周知例2:特開昭55-115910号公報(甲5)オ周知例3:鋳物便覧(改訂4版。昭和61年1月20日発行。甲6)(2)なお,本件審決が認定した引用発明1並びに本件発明1と引用発明1との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明1:溶融鋳鉄が装入された保持炉と,保持炉に装入されていた溶融鋳鉄を移入される取鍋と,注湯機とを備えた装置であって,保持炉と注湯機との間には,取鍋を載置して自動走行するとともに載置した取鍋をその上で移送するためのローラコンベアを有する台車と,注湯機上で取鍋を移送するためのローラコンベアとが設けられており,取鍋は,台車とローラコンベアとの間を移送され,台車,ローラコンベア及びローラコンベアによって保持炉から注湯機へ移送させられる,溶湯取鍋の自動搬送装置イ一致点:溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉と,保持炉に貯留されていた元湯を受ける取鍋とを備えた溶融鋳鉄の溶製設備であって,取鍋を搭載して自走するとともに搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段とが設置されており,取鍋は,搬送台車と取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から移動させられる,溶融鋳鉄の溶製設備ウ相違点1:本件発明1が,「取鍋内の元湯に黒鉛球状化剤を添加する,ワイ5ヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置とを備えたダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の溶製設備」であるのに対し,引用発明は,当該黒鉛球状化処理装置を備えていない溶湯取鍋の自動搬送装置である点エ相違点2:本件発明1が,「保持炉と黒鉛球状化処理装置との間には,取鍋を搭載して自走するとともに搭載した取鍋をその上で移動させるための取鍋移動手段を有する搬送台車と,取鍋を移動させる取鍋移送手段とが設置されており,取鍋は,搬送台車と取鍋移送手段との間を行き来し,吊り上げられることなく,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させられる」のに対し,引用発明は,保持炉と注湯機との間には,取鍋を載置して自動走行するとともに載置した取鍋をその上で移送するためのローラコンベアを有する台車と,注湯機上で取鍋を移送するためのローラコンベアとが設けられており,取鍋は,台車とローラコンベアとの間を移送され,台車,ローラコンベア及びローラコンベアによって保持炉から注湯機へ移送させられる点4取消事由(1)本件発明1の進歩性に係る判断の誤り(取消事由1)ア相違点1についての判断の誤りイ相違点2についての判断の誤り(2)本件発明2ないし5の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)相違点1についての判断の誤りについてア本件審決は,周知例1ないし3により,ワイヤーフィーダー法による球状化剤投入装置は周知技術といえるものの,同装置は,調整取鍋内の溶湯に球状化剤を添加するものであって,注湯取鍋内の溶湯に球状化剤を添加することが周知技術であるとは認められないとした。
6しかしながら,本件審決には,「注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加すること」が周知技術であることを看過した誤りがある。
イ本件審決における「調整取鍋」とは,引用例2の「調製取鍋装置」の取鍋を意味し,保持炉から溶湯を受湯し,黒鉛球状化剤を受け取り,調製した溶湯を注湯取鍋に投入する取鍋を意味するものである。また,本件審決における「注湯取鍋」とは,同様に,引用例2における「注湯取鍋」であって,「保持炉から溶湯を受けて移動注湯に使用する取鍋」を意味するものである。
そして,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することは,以下の文献から周知技術であることは明らかである。
(ア)特表平9-508176号公報(甲18。以下「甲18文献」という。)a圧縮黒鉛鋳鉄(以下「CV黒鉛鋳鉄」という。)を製造するために黒鉛形状改良剤を添加することは,ダクタイル鋳鉄を製造するために黒鉛球状化剤を添加することと同等であること,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄との差は,溶湯の冷却・固化過程の違いだけであるとされていること,限定された条件下ではあるが,同一の方法でダクタイル鋳鉄とCV黒鉛鋳鉄とを製造する技術が開示されていること(甲19,20)からすると,甲18文献における「Mg(マグネシウム。以下,単に「Mg」ということもある。)のような黒鉛形状改良剤」は,本件発明1の黒鉛球状化剤に相当する。
b甲18文献には,取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法で黒鉛球状化剤を添加する構成が開示されている。また,同文献のコンディショニング炉は,本件発明1における「溶解炉で溶解された元湯を貯留する保持炉」に相当する。
そして,相違点1の判断においては,注湯取鍋に溶湯が装入されていればよく,その溶湯がいかなる処理をする炉から装入されたかについては重要ではない。
したがって,同文献の「取り鍋」は,「保持炉から溶湯を受けて移動注湯に使用する取鍋」であり,本件発明1の「注湯取鍋」に相当する。
さらに,同文献の図4には,「保持炉から溶湯を受けて移動注湯に使用する取7鍋」としての注湯取鍋内の溶湯に,ワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することが図解されているものである。
c以上からすると,甲18文献には,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加する構成が開示されているものというべきである。
この点について,被告は,金属組織の相違及び製造技術上の制約等からすると,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄とは同一視できないと主張する。
しかしながら,本件発明は,ダクタイル鋳鉄の金属組織や製造技術に関する発明ではなく,溶製設備に関する発明であるところ,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄とは同一の製造方法,溶製設備で製造されること(甲29〜34)からすると,当業者にとって,CV黒鉛鋳鉄の溶製設備に関する技術思想の開示は,ダクタイル鋳鉄の溶製設備に関する技術思想の開示と等しいものということができる。被告の主張は誤りである。
(イ)平成5年発行の「Use of Powder-filled Wire in High-Strength Iron Production」と題する論文(甲21。以下「甲21文献」という。)甲21文献には,取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加する構成が開示されている。また,同文献の取鍋は,黒鉛球状化処理後に注湯する注湯取鍋に相当する。
被告が主張するとおり,同文献が取鍋の径と深さ等を決定するための製造試験に係る文献であったとしても,同文献は,取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加し,処理後に取鍋から溶湯を鋳型に注湯するという技術思想を開示していることは明らかであって,当業者が,そこで得た知見について,製品製造における工程を減らすこと,すなわちMg処理をした取鍋をそのまま用いて注湯することを試みることは,当然である。
したがって,同文献には,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加する構成が開示されているものということができる。
(ウ)平成9年4月発行の「Compacted Graphite Iron Production at Cifunsa 8Using a Process Control System」と題する論文(甲22。以下「甲22文献」という。)甲22文献は,甲18文献と同様,CV黒鉛鋳鉄に関する文献であるが,Mgの添加は,黒鉛球状化処理と同等であるから,取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加する構成が開示されているものということができる。また,甲22文献の取鍋は,本件発明1の「注湯取鍋」に相当する。
さらに,甲22文献の図2には,溶解炉から取鍋に溶湯を移し,スラグを除去し,ワイヤーフィーダー法で取鍋内の溶湯を処理し,取鍋から鋳型に注湯することが図示されている。
したがって,同文献には,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加する構成が開示されているものというべきである。
(エ)以上からすると,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することは周知技術であるというべきである。
ウ組合せの容易性についてワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置は,周知技術であるところ,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することも周知技術であるから,相違点1の構成は,当業者が容易になし得たことというべきであって,相違点1についての本件審決の判断は誤りである。
(2)相違点2についての判断の誤りについてア本件審決は,保持炉と黒鉛球状化処理装置との間に,取鍋移動手段を有する搬送台車と取鍋移送手段とを設置し,取鍋を,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動させることは,当業者が容易になし得たことではないとした。
しかしながら,取鍋移動手段を有する搬送台車と取鍋移送手段とを設置し,取鍋を,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から移動させることは,本件発明1と引用発明1との一致点であり,かつ,保持炉から注湯機へ取鍋を9移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動することに用いることは,以下の各文献から周知技術であるから,本件審決の判断は誤りである。
(ア)「工場内搬送ロボットトランカーシステム」カタログ(甲23。以下「甲23文献」という。)甲23文献は,昭和61年5月9日には公知となっているところ(甲35〜37),同文献には,搬送車上に載置された取鍋の写真が掲載されているほか,取鍋を搬送車に載置して,溶解炉から黒鉛球状化処理装置へ,さらに同装置から注湯機へと移動する構成が開示されているといえる。
なお,同文献には,取鍋は,保持炉ではなく溶解炉から溶湯を受湯しているが,取鍋で溶湯を搬送することについては,保持炉から受湯した溶湯であっても溶解炉から受湯した溶湯であっても相違はない。
(イ)特開平6-114542号公報(甲25。以下「甲25文献」という。)甲25文献には,溶解炉又は保持炉から溶湯を取鍋に受湯し,搬送台車で注湯装置,つまり注湯機まで取鍋を移動する構成が開示されている。
そして,同文献により開示されている発明は,取鍋内の底部にMgを入れる位置に取鍋を移動する手段は,溶解炉又は保持炉から注湯機まで取鍋を移動する搬送台車と同じ搬送台車であって,同一の搬送手段といえる。
また,同文献には,ダクタイル鋳鉄を製造する場合,溶解炉又は保持炉と注湯機との間で取鍋に黒鉛球状化剤を添加するようにできることが開示されているところ,これは,溶解炉又は保持炉と注湯機との間で取鍋を移動する装置に黒鉛球状化剤を添加する装置を備え,同一の手段にて取鍋を移動することを意味するものである。
なお,被告が主張するとおり,同文献には,黒鉛球状化処理剤の添加位置についての記載はないが,本件発明においても,黒鉛球状化処理装置の位置を限定しているものではないから,黒鉛球状化処理剤の添加位置は,相違点2の判断において,その結論を左右するものではない。
(ウ)特開平7-251240号公報(甲26。以下「甲26文献」という。)10甲26文献には,保持炉又は溶解炉から溶湯を球状化処理容器に受湯し,同容器内の溶湯に黒鉛球状化剤としてMgを添加して黒鉛球状化処理を行い,同容器を注湯機に移動する構成及び溶解炉又は保持炉から溶湯を受湯した容器を台車にて,Mgを投入する位置,注湯機へと移動する構成が開示されている。
そして,本件発明1の「保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動すること」における黒鉛球状化処理装置は,具体的には黒鉛球状化処理装置から黒鉛球状化剤を取鍋内の元湯に供給して球状化処理を行うための所定位置を意味するものである。
したがって,甲26文献においても,保持炉から注湯機へ取鍋を移動するのと同じ手段で取鍋を黒鉛球状化処理装置へ移動することが開示されているものである。
なお,甲26文献では,溶湯を取鍋ではなく球状化処理容器に入れているが,自走可能な搬送装置を用いて,溶湯を保持炉から黒鉛球状化処理装置及び注湯機に搬送するという技術思想においては,いずれの場合でも格別の相違はないから,容器は本件発明1の「取鍋」に相当するものであって,保持炉から鉛球状化処理装置へ,そして注湯機へと同一の手段で取鍋を移動することが開示されているものといえる。
(エ)以上からすると,保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動することに用いることは周知技術であるということができる。
そもそも,黒鉛球状化処理とは,ダクタイル鋳鉄を製造するために鋳物の溶湯に黒鉛球状化剤を添加する処理である(甲28)。
したがって,黒鉛球状化処理装置の下流側には,黒鉛球状化処理剤を添加した溶湯を鋳型に注湯する設備(注湯機)が備えられることになるから,保持炉から注湯機まで溶湯を取鍋で搬送することと,保持炉から黒鉛球状化処理装置まで溶湯を取鍋で搬送することとの間に技術的な差はなく,同じ移動手段で取鍋を移動できることは技術常識であるとさえいえる。
すなわち,いわゆる置注法により黒鉛球状化処理が行われる設備であっても,取鍋は,黒鉛球状化処理装置,保持炉(又は溶解炉),注湯機,黒鉛球状化処理装置11との間を同じ移動手段で循環するのであるから,位置関係に影響されることはない。
むしろ,保持炉の溶湯に何らかの処理(黒鉛球状化処理等)を加えて,処理後の溶湯を注湯機から注湯することは必然的なことであり,他の文献(甲38〜43)からしても,当業者の技術常識であるということができる。
このように,保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動することに用いることは当業者の通常の設計事項にすぎず,相違点2は技術常識であるともいえる。
イ組合せの容易性について本件発明1及び引用発明1は,いずれも,取鍋移動手段を有する搬送台車と取鍋移送手段を設置し,取鍋を,搬送台車,取鍋移動手段及び取鍋移送手段によって保持炉から移動させる構成を有しており,保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動することに用いることは周知技術であるから,相違点2の構成は,当業者が容易になし得たことというべきである。
また,自動化,省力化及び生産性の向上等に関する本件発明の効果も,引用発明1の自動化,効率化等の効果や周知例1ないし3に開示されるワイヤーフィーダー法の効果と比較して,当業者が予測できない有利な効果を奏するものではない。
したがって,相違点2についての本件審決の判断は誤りである。
(3)小括以上からすると,引用発明1に,周知技術を組み合わせて本件発明1に到ることは,当業者にとって容易であり,本件発明1に係る特許は無効にされるべきである。
〔被告の主張〕(1)相違点1についての判断の誤りについてア原告は,「注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加すること」が周知技術であることから,相違点1の構成は,当業者が容易になし得たものである等と主張するが,本件発明は,そもそも,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備に係る発明であるから,「ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備に12おいて,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加すること」が周知技術であるか否かが,考察の対象となるものである。
イ原告が指摘する甲18文献,甲21文献及び甲22文献は,いずれも本件審決における周知技術の認定を左右するものではない。
(ア)甲18文献は,CV黒鉛鋳鉄に関する文献であり,ダクタイル鋳鉄(球状黒鉛鋳鉄)に関する技術を開示するものではない。
そもそも,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄とは,黒鉛組織が大きく異なるものであるのみならず,CV黒鉛鋳鉄の鋳造では,Mgの含有量を所定の上限値と下限値との範囲内で厳密に制御する必要があるところ,ダクタイル鋳鉄の鋳造では,制御上限値を設定する必要がなく,CV黒鉛鋳鉄のように注湯の直前に黒鉛球状化剤を入れるという技術的発想もない。しかも,現在,鋳鉄の全世界生産高のうち,ねずみ鋳鉄は約70%,ダクタイル鋳鉄は約25%を占めるが,CV黒鉛鋳鉄は約5%程度にすぎず,その製造技術も特殊なものであるから,鋳鉄全体からしても一般的な技術とはいえない。
さらに,原告は,甲20により開示された知見を前提に,甲18文献における「Mgのような黒鉛形状改良剤」は,本件発明1の黒鉛球状化剤に相当する旨主張するが,甲20の記載は,実際には極めて限定された条件下において成立する特殊な事象にすぎず,一般的な事象について説明したものではない。
原告が指摘する他の文献(甲29〜34)も,同様に,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄とが同様の設備で製造されるとの主張の根拠となるものではない。
そのほか,本件発明1における保持炉は,元湯の温度や成分を均質化させる役割・機能を有しているが,甲18文献のコンディショニング炉は,Cu等の合金化剤が添加される役割・機能を有するものであって,両者は役割・機能を大きく異にするのであるから,コンディショニング炉が保持炉に相当するものではない。
以上からすると,ダクタイル鋳鉄とCV黒鉛鋳鉄とは全く異なった技術上の制約下で鋳造されるものであり,CV黒鉛鋳鉄の鋳造工程において周知技術であるとし13ても,当該技術がダクタイル鋳鉄の製造においても周知技術であるということはできない。
したがって,甲18文献における「注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加する」技術は,CV黒鉛鋳鉄においてのみ適用される技術にすぎず,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備に関する周知技術として開示されているわけではない。
(イ)甲22文献も,CV黒鉛鋳鉄を鋳造する方法に関する文献である。
甲18文献について先に指摘したとおり,CV黒鉛鋳鉄に関する甲22文献が,ダクタイル鋳鉄の鋳造に関する周知技術を開示しているものということはできない。
(ウ)甲21文献は,あくまで取鍋の径・深さ等を決定するための製造試験に関する文献であって,ダクタイル鋳鉄の製造・自動化ラインで適用されるべき技術に関する文献ではない。
甲21文献が,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備に関する周知技術を開示しているか否かは,同文献の主旨を把握した上で,原告が抜粋した箇所の有する技術的意義を検討する必要があるところ,原告は,「概論」「調査」「製造試験」「生産と検査」の各章からなる論文(乙3)のうち,「生産と検査」の章を除いた部分を甲21文献として提出した上で,「概論」と「製造試験」のうちから2箇所の記述を抜粋し,当該記載に基づいて,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することが周知技術であること,同文献の取鍋が注湯取鍋に相当すると主張するものであって,明らかに不当である。
また,原告が指摘する同文献の「製造試験」の章には,実際の生産で使用するための各種設定値を決定することを目的として,溶湯重量,温度,取鍋の径と深さ,ワイヤーの送り速度,Mg添加量等の調査試験を行った旨が記載されているが,かかる取鍋の径と深さの試験は,取鍋の底近辺でMgを反応させる際に一番効率の良い取鍋の径と深さとの比率を決定するためのものであって,生産段階において実際に注湯取鍋を用いてMg処理をした旨の記載は存在しない。
14したがって,製品製造ではなく製造試験を目的とする技術を開示する甲21文献(甲21,乙3)では,かかる目的との関係では重要ではない「溶湯を鋳型に移す作業」を試験において簡素化するために,便宜上,Mg処理後に容器を移し替えることなく,溶湯をそのまま鋳型に注入しているにすぎず,かかる手法は,実際の生産ライン等で行われるべき処理ではない。
また,CV黒鉛鋳鉄は,処理効果の持続性が材質管理上の重要な要素となる(甲31)から,黒鉛球状化剤添加後の時間経過に対する試験とデータとを得ることが重要であり,時間経過のデータ取得を容易にするために,甲21文献においては,注湯取鍋に黒鉛球状化剤を直接添加しているものである。
さらに,ワイヤーフィーダー法のメリットは,塩基性酸素吹込み炉やアーク炉で大量の湯を処理できることにある(周知例1)から,その場合,黒鉛球状化処理された大容量の溶湯が,各々の鋳造機の注湯取鍋に必要な量だけ分湯(配湯)されて鋳造されることは,当業者にとって工程上当然のことである。
したがって,ダクタイル鋳鉄の溶製設備の技術分野においては,当業者が必ずしも工程を減らすことを試みるものではない。
以上からすると,甲21文献における原告指摘箇所の記載は,あくまで取鍋の径と深さを決定するためにMgワイヤーの試験を行う方法に関する記載にすぎず,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備に関する周知技術を開示しているものということはできない。
(エ)したがって,甲18文献,甲21文献及び甲22文献はいずれも,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備において,「注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加すること」が周知技術であることを裏付けるものではない。周知例1ないし3も,同様である。
ウ以上からすると,「ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備において,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加すること」が周知技術であるとは認められないから,本件審決における相違点1についての判断に何ら15の誤りは認められない。
(2)相違点2についての判断の誤りについてア原告は,甲23文献,甲25文献及び甲26文献により,「保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動することに用いること」が周知技術であることから,相違点2の構成は,当業者が容易になし得たものということができるとする。
しかしながら,上記各文献によっても,かかる構成が周知技術であるということはできない。
(ア)甲23文献の公知日に関する原告主張は推測にすぎず,甲23文献が公知となった事実及びその日時が不明である以上,同文献は周知技術認定の根拠とすることはできない。
また,同文献の記載内容自体も,取鍋を搬送台車に載置して,?溶解炉から黒鉛球状化処理装置へ,?黒鉛球状化処理装置から注湯機へ,それぞれ移動させることを開示しているにすぎず,保持炉から注湯機へ移動する手段や,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ移動する手段のいずれについても何ら開示されていない。
以上からすると,同文献をもって,保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動する手段として用いることが周知技術であるということはできない。
(イ)甲25文献は,本件発明1のようなワイヤーフィーダー法ではなく,空の取鍋の底にあらかじめMgを投入した後に溶湯を注ぐことによって球状化処理を行う,置注法を用いている。置注法の場合,保持炉から溶湯を受湯する際に容器の底にMgが既に投入されている必要があるから,保持炉から受湯する前の工程でMgの投入が行われるところ,原告指摘箇所は,「取鍋を空にしてMgを投入する必要があること」及び「取鍋内に湯が残っている場合に取鍋を保持炉の位置まで搬送する途中において取鍋内の残湯を排出させる必要があること」を明らかにしているにすぎず,いかなる位置でMgを投入するかについては全く記載されていないから,16投入位置は不明である。
原告は,甲25文献において開示されている,置注法による黒鉛球状化剤投入装置が,相違点2における黒鉛球状化処理装置と同様のものであることをその主張の前提とするが,黒鉛球状化処理装置はMgと溶湯とを反応させる処理を行う装置であるから,単に黒鉛球状化剤を投入するのみで,球状化処理を行わない黒鉛球状化剤投入装置とはその機能が大きく異なるものであって,その前提自体が誤りである。
また,同文献には,「同一の手段」にて取鍋を移動することに関する記載もない。
したがって,同文献をもって,保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動する手段として用いることが周知技術であるということもできない。
(ウ)甲26文献には,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ溶湯を搬送するという技術思想は全く開示されておらず,溶湯を入れた容器を黒鉛球状化処理装置まで移動するという技術思想も存在しない。
同文献が開示する発明は,「球状化処理容器搬送装置」に関するものであり,同発明の「ST5」において球状化処理が行われる容器こそ,黒鉛球状化処理装置に相当するものである。同文献は,この装置である容器が搬送される方法を開示したものにすぎず,本件発明における「黒鉛球状化処理装置」がその所定位置を意味するという原告主張は,明らかに誤りである。
したがって,同文献をもって,保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動する手段として用いることが周知技術であるということもできない。
(エ)以上からすると,甲23文献,甲25文献及び甲26文献からは,保持炉から注湯機へ取鍋を移動する手段を,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動する手段として用いることが周知技術であるということもできない。
イしたがって,相違点2の構成は,引用発明1に周知技術を組み合わせることにより,当業者にとって容易に想到し得るものであるということはできない。
17(3)小括以上からすると,本件発明1について,引用発明1及び2に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,本件審決の判断に誤りはない。
2取消事由2(本件発明2ないし5の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明2について本件発明2は,本件発明1に対し,更に排滓処理装置を備える発明であるが,引用例2には,「次に,注湯台車装置は,ノリ取り位置へ移動し,注湯直前の温度測定およびノリ取りを人的作業によって行い,その後に注湯位置へ移動し,注湯台車装置の移動に伴って掛堰移動装置が注湯位置に待機する」との記載があるところ,「ノリ取り位置」は「ノロ」すなわちスラグを除去する位置を意味するから,搬送台車を排滓処理する位置にも移動することが開示されているというべきである。
甲42にも,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動する手段を用いて,ノロ取装置(排滓処理装置)に取鍋を移動する構成が開示されている。
したがって,保持炉から黒鉛球状化処理装置へ取鍋を移動する手段と排滓処理装置へ取鍋を移動する手段とにおいて,同一の手段を用いることは,技術常識にすぎない。
したがって,本件発明2も,引用発明1に引用発明2及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得るものである。
(2)本件発明3ないし5についてまた,本件発明3ないし5は,本件発明1及び2における発明特定事項の一部を限定したものであるが,本件発明における取鍋移動手段及び取鍋移送手段が,ローラーテーブル方式(本件発明3)であっても,搬送台車が直線方向に走行し,取鍋移送手段が,搬送台車の走行方向に対して実質的に直交する方向に設けられる方式(本件発明4)であっても,搬送台車の位置がレーザーセンサーにより検出される18方式(本件発明5)であっても,これらはいずれも周知技術にすぎない。
したがって,本件発明3ないし5も,引用発明1に引用発明2及び周知技術を組み合わせることにより,当業者が容易に想到し得るものである。
(3)小括以上からすると,引用発明1に,引用発明2及び周知技術を組み合わせて本件発明2ないし5に到ることは,当業者にとって容易であり,本件発明2ないし5に係る特許も,無効とされるべきである。
〔被告の主張〕(1)本件発明2について本件発明2は,本件発明1にさらに排滓処理装置を備える発明であるが,同発明は,取鍋の自動搬送ラインとワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置と排滓処理装置との組合せによって,初めて,受湯,取鍋の移動,黒鉛球状化処理及び排滓処理といったダクタイル鋳物用溶融鋳鉄の一連の溶製工程を,少ない操作員で行うことが可能となるのであるから,本件発明2は,かかる技術思想に関する記載も示唆もない引用発明1及び2並びに周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではないことは明らかである。
(2)本件発明3ないし5についてまた,本件発明3ないし5は,本件発明1又は2に記載の発明に従属する発明であるので,当業者が容易に想到し得たものではないことは明らかである。
(3)小括以上からすると,本件発明2ないし5について,引用発明1及び2に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないから,本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(本件発明1の進歩性に係る判断の誤り)について(1)相違点1についての判断の誤りについて19ア甲18文献について(ア)甲18文献の記載内容甲18文献(甲18)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。なお,CGIというのは,CV黒鉛鋳鉄のことである。
a本発明は,圧縮黒鉛鋳鉄(CGI)として凝固する鋳造品のための予備処理された溶融鋳鉄を供給する方法に関する。
CGIの機械的性質は,ねずみ鋳鉄とダクタイル鉄の最良の性質を結合したものである。CGIの生産高が少ない理由としては,製造中に黒鉛化ポテンシャルと鋳鉄の黒鉛形状改良元素を非常に狭い範囲内で同時に制御しなければならないことから,信頼性の高い製造を行なうことが困難であること,従来,いかなる連続的あるいは半連続的な方法によってもCGIの製造が信頼性をもってコントロールできず,バッチ式方法によってのみ行なわれてきたこと等が挙げられる。
b本発明の目的は,工程管理を行う改良手段により,CGIの連続的製造を行なうことである。
CGIの鋳造の場合,接種剤のみが,鋳造の直前に正確な量だけ添加される必要があるところ,従来技術においては不可能であったため,処理の初期段階で,過剰な量の接種剤が添加されていた。
本発明の場合,接種剤の量を最適化するために,処理工程のできるだけ遅い段階で添加される。最適基本処理工程が完了すると,溶湯からスラグが除去され,コンディショニング炉内へ移送される。例えば,Mgのような黒鉛形状改良剤が,必要に応じて,鋼の鞘で防護されたMgを芯体とするワイヤ又はロッド形により,同炉内の溶湯に添加することができる。溶融鋳鉄が同炉から鋳型に注入される前に,小さな取鍋に移送し,黒鉛形状改良剤の全量を取鍋中に添加する方法でもよい。
(イ)甲18文献の技術内容以上の甲18文献の記載によると,同文献には,CV黒鉛鋳鉄の製造工程において,Mg芯体のワイヤを用いて,鋳型に鋳造する直前の注湯用取鍋内の溶融鉄を黒20鉛球状化処理する技術が開示されているものということができる。
イ甲22文献について(ア)甲22文献の記載内容甲22文献(甲22)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
a甲22文献の図2には,プロセスコントローラーにより鋳造プロセスを制御し,溶解炉から取鍋に溶湯を移し,排滓し,ワイヤーフィーダー法で取鍋内の溶湯を処理(トリミング)し,取鍋から鋳型に注湯する構成が図示されている。
bトリミングが行われる調整ステーションは,2つのワイヤーフィーダーヘッドを有し,Mg及び接種材料の被覆ワイヤーが安全かつ正確に添加される位置に取鍋が移動される。熱分析の結果がワイヤーフィーダーに伝えられると,所定量のMg及び接種材料が次々と溶湯に注入される。取鍋はその後,調整ステーションから取り外され,すぐに注湯するため,鋳造ラインに移動される。
(イ)甲22文献の記載内容以上の甲22文献の記載によると,同文献には,CV黒鉛鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを,鋳造の前段階において,取鍋に注湯された溶湯に投入する構成が開示されているということができる。
ウ甲21文献について(ア)甲21文献の記載内容甲21文献(甲21,乙3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
a本文献は,マグネシウム合金によるノジュラー鋳鉄(ダクタイル鋳鉄)の製造に関する共同研究である。
ダクタイル鋳鉄は,主に圧力容器又は取鍋内の溶湯をワイヤーインジェクション法により処理することにより製造される。ワイヤー法は,ランニングコスト,自動化の可能性,溶湯,取鍋サイズ等の条件の違いによる適用性等の全ての要求に対応可能である。脱硫効果を最大限に発揮するためには,取鍋の深さをできるだけ深く21しなければならない。また,Mgワイヤー法の効果的な使用法は,取鍋の底にワイヤーが届いたときにワイヤーの中のMgが反応を始める方法である。
マグネシウム黒鉛球状化は,主として取鍋に注がれた鉄にMgを含有する試薬を提供する粉体充填ワイヤ(PFW)を注入することにより行われる。
b150Kgの誘導炉で,ワイヤー径と合金の組成,鞘(フープ)の厚さを各種設定し,Mgの拡散に関する調査を約80回行った。ワイヤーの溶解時間として,投入(添加)から反応開始までの時間を測定したところ,ワイヤーの溶解速度は,溶湯温度,鞘の厚さ,ワイヤー径によることが判明した。もっとも,ワイヤー径が大きくなると,溶解までの時間が増加する点については注意が必要である。
製造試験においては, 原料は,銑鉄,戻り材(社内発生スクラップ),少量のスチールスクラップを使用した。溶湯は,45トン保持炉に移され,取鍋処理のために1.5トンに配湯された。鉄は1460ないし1480℃で処理され,その後,クレイボンド砂型に注湯された。Mgとカルシウムカーバイトの混合材で充 されたMgワイヤー(PFW)は,設定された速度と量で,単一線のフィーダーから,耐火物をライニングした蓋の送線管を通して取鍋内に送られた。
(イ)甲21文献の技術内容以上の甲21文献の記載によると,同文献には,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,Mgの拡散に関する調査を行った際,溶湯が配湯された取鍋に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法により,黒鉛球状化処理を行ったことが開示されているということができる。
エ甲18文献,甲22文献及び甲21文献において開示される技術知見(ア)甲18文献及び甲22文献によると,CV黒鉛鋳鉄に関し,鋳型に鋳造する直前の段階において,取鍋内の溶融鉄に対し,Mg芯体のワイヤーを用いて黒鉛球状化処理をすること,すなわち,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを投入する方法が開示されている。
また,甲21文献には,ダクタイル鋳鉄において,ワイヤー径と合金の組成,鞘22の厚さを各種設定し,Mgの拡散について調査した際,取鍋内の溶融鉄に対し,ワイヤーフィーダー法によりMgを投入する方法が採用されたことが開示されている。
(イ)もっとも,鋳鉄の組織は,黒鉛組織と基地組織とに大別され,鋳鉄の物理的・化学的性質は,両組織の組合せによるところ(乙1),CV黒鉛鋳鉄は,黒鉛球状化処理剤の添加量を減らして黒鉛球状化を不完全にする方法により製造されるものであり,適正Mg量の幅は極めて狭く,厳密な添加量の調整と管理が必要である(乙2)とされているものである。
また,球状化処理方法には,世界的にも最も有名な方法である置注法のほか,タンディッシュ法,ポーラスプラグ法,プランジャ法,インモールド法,ストリューム法,圧力添加法,Tノック法,ボルテックス法,Mgワイヤー法,特殊取鍋法,オンザモールド法等,多種多様な方法がある(甲6)。
そして,原告は,本件訴訟において,周知技術を立証するために甲18文献及び甲22文献を提出しているにすぎない。
したがって,上記各文献によって,CV黒鉛鋳鉄に関し,ワイヤーフィーダー法により,黒鉛球状化処理剤であるMgを投入する方法が周知技術であるということができたとしても,鋳鉄の物理的・化学的性質,製造方法がダクタイル鋳鉄とは異なるCV黒鉛鋳鉄に関するかかる技術知見を,上記各文献が引用例として提出された場合はともかく,ダクタイル鋳鉄について,直ちに適用し得るということはできない。
(ウ)甲21文献は,ダクタイル鋳鉄に関する文献ではあるものの,ダクタイル鋳鉄が主に圧力容器又は取鍋内の溶湯をワイヤーフィーダー法によって処理することにより製造される旨の記載は,論文の冒頭において,ダクタイル鋳鉄に関する概略的な説明として記載されたにすぎず,実際の製造工程を前提として,取鍋に注湯された元湯に対し,ワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化処理を行う構成が具体的に開示されているわけではない。
また,製造試験において,取鍋内の溶融鉄に対し,ワイヤーフィーダー法により23Mgを投入する方法が採用された点についても,ダクタイル鋳鉄の製造におけるMgワイヤーの材質等が及ぼす影響を調査するために,ワイヤー径と合金の組成,鞘の厚さを各種設定し,多数回(約80回)にわたる試験を実施したものであって,最適なMgワイヤーを発見するという製造試験の目的に照らし,多数回にわたる実験を効率的に実施する観点から,当該方法が採用された可能性が高いものというべきであるから,具体的な製造工程を前提とした構成が開示されているものということはできない。
そして,甲21文献も,甲18文献及び甲22文献と同様,本件訴訟において,周知技術を立証するために提出されたものであるから,甲21文献により開示される製造試験に係る技術知見を,ダクタイル鋳鉄の溶融設備における製造工程についても,直ちに適用することはできない。
(エ)以上からすると,甲18文献及び甲22文献において開示される技術知見は,CV黒鉛鋳鉄に関する技術知見であり,甲21文献において開示される技術知見は,ダクタイル鋳鉄の製造試験に関する技術知見にすぎないから,上記各技術知見によって,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置を備える構成が周知技術であったということはできない。
この点について,原告は,CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄との差は,溶湯の冷却・固化過程の違いだけであるとされており,限定された条件下ではあるが,同一の方法でダクタイル鋳鉄とCV黒鉛鋳鉄とを製造する技術が開示されていること(甲19,20),CV黒鉛鋳鉄とダクタイル鋳鉄とが同一の製造方法で製造され,溶製設備は同一であること(甲29〜34)からすると,当業者にとって,CV黒鉛鋳鉄に関する技術思想の開示は,ダクタイル鋳鉄に関する技術思想の開示と等しいものということができる,当業者は,製造試験に係る文献から得た知見から,製品製造における工程を減らすこと,すなわちMg処理をした取鍋をそのまま用いて注湯することを試みることは当然であるなどと主張する。
しかしながら,甲20には,CV黒鉛鋳鉄が形成される場合,黒鉛晶出初期は,24ダクタイル鋳鉄の生成機構と全く同じであるが,その黒鉛がγ鉄に遮られて共晶融液に接することができない場合,球状のまま成長する,すなわちダクタイル鋳鉄となるところ,「共晶融液中にAl,Ti及びS等の共晶融液に濃化し易く,しかもその際に融点を下げるような元素が含まれる場合」においては,黒鉛の成長は,球状黒鉛の成長と同じ機構を保ちながら溝部へと伸びることから,黒鉛の球状が黒鉛の成長とともに崩れ,CV黒鉛鋳鉄となると記載されているのであって,かかる限定的な条件下において生じる事象を前提とすれば,CV黒鉛鋳鉄に関する技術をダクタイル鋳鉄に関する技術としても周知であると解するだけの根拠はない。
また,甲29は,傾斜的機能を有する鋳鉄鋳物に関する発明において,遠心鋳造により,多段階(2回以上)に分けて注湯することなく,1回の注湯で必要な部分のみが強度,硬度,耐摩耗性に優れた傾斜材料を製造する技術に関する文献であり,甲30は,ノジュラー又はCV黒鉛鋳鉄鋳物の製造方法及び装置に関する発明において,実施例1では100%のノジュラー(ダクタイル鋳鉄)が製造されたが,同発明によらない実施例2では,一部においてCV黒鉛鋳鉄が見られたこと,すなわち,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,黒鉛球状化が不完全なCV黒鉛鋳鉄が混在して製造されたことを開示しているにすぎず,ダクタイル鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄の各単体が,同一の装置にて製造されることを開示しているわけではない。
そして,甲31は,CV黒鉛鋳鉄の材質判定方法及び装置に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄が,ダクタイル鋳鉄と同様に「溶液処理により製造される鋳鉄」であると記載しているにすぎず,具体的にどのような溶液処理が行われているのかについては全く言及されていないこと,甲32は,CV黒鉛鋳鉄製造用添加合金の処理方法に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄の製造は,Mgの添加量を調整する方法によると,工程管理が困難であることを指摘しているにすぎないこと,甲33は,遠心力鋳造法によるCV黒鉛鋳鉄管の製造方法に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄は,Mgを含有しない普通鋳鉄溶湯の元湯に対する黒鉛球状化剤の添加量を調整したり,元湯に黒鉛球状化阻害元湯を含む処理剤を取鍋添加したり,所定の比率で25ダクタイル鋳鉄湯と普通鋳鉄溶湯とを混合したりすることによって得られたCV黒鉛鋳鉄溶湯を置注鋳造して製造されている旨を記載しているにすぎないこと,甲34は,鋳鉄処理剤に関する発明において,CV黒鉛鋳鉄及びダクタイル鋳鉄のいずれの黒鉛球状化処理においても,同発明に係る鋳鉄処理剤が利用できることを記載しているにすぎない。
したがって,原告が指摘する各文献(甲19,20,29〜34)によっては,ダクタイル鋳鉄及びCV黒鉛鋳鉄を,いずれも同一装置,同一工程で製造できることが技術常識であって,CV黒鉛鋳鉄に関する技術知見が,ダクタイル鋳鉄についても周知技術であるということはできない。
さらに,先に指摘したとおり,甲21文献が開示する方法は,実際の製造工程においてダクタイル鋳鉄に用いることを前提としておらず,ダクタイル鋳鉄用溶融鋳鉄の溶製設備を用いた製造過程において実施されることを示唆する記載も認められないから,少なくとも同文献によっては,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,注湯取鍋内の溶湯にワイヤーフィーダー法により黒鉛球状化剤を添加することが周知技術であるものということもできない。原告の主張は採用できない。
(2)小括以上からすると,ダクタイル鋳鉄の製造工程において,ワイヤーフィーダー法による黒鉛球状化処理装置を備える構成は,周知技術であるということはできず,本件審決の相違点1についての判断に,誤りはない。
したがって,本件審決における相違点2についての判断の是非はともかくとして,本件発明1は,引用発明1及び2に周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に想到し得るものということはできない。
2取消事由2(本件発明2ないし5の進歩性に係る判断の誤り)について本件発明2は,本件発明1の構成に,さらに排滓処理装置を備える発明であるところ,本件発明1が,引用発明1及び周知技術に基づいて,当業者が容易に想到し得たものではない以上,本件発明2も,同様に,当業者が容易に想到し得たもので26あるということはできない。
また,本件発明3ないし5は,本件発明1又は2に従属する発明であるから,同様に,当業者が容易に想到し得たものではないことは明らかである。
したがって,本件発明2ないし5について,引用発明1及び2に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものということはできないとした本件審決の判断に,誤りはない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光
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