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関連審決 不服2008-18061
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  パリ条約 /  優先権 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶審決 /  前置審査 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10308号 審決取消請求事件
原告ケイデンス デザイン システムズ ,インコーポレイテッド
同訴訟代理人弁理士 齋藤和則
被告特 許庁長官
同 指定代理人千葉輝久板橋通孝田部元史豊田純一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/03/03
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
3この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2008-18061号事件について平成22年6月1日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が,本件補正を却下し,発明の要旨を下記2の特許請求の範囲の記載のとおり認定した上,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)出願手続(甲1)及び拒絶査定発明の名称:ルーティングのための方法および装置出願番号:特願2002-548628号出願日:平成13年12月6日パリ条約による優先権主張日:平成12年(2000年)12月7日(アメリカ合衆国)拒絶査定:平成20年4月9日付け(甲5)(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成20年7月15日(不服2008-18061号)手続補正日:平成20年8月14日付け(甲6。以下,同日付け手続補正書による補正を「本件補正」という。)審決日:平成22年6月1日審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
審決謄本送達日:平成22年6月16日2特許請求の範囲の記載本件補正前の特許請求の範囲の請求項1の記載(ただし,平成20年2月22日付け手続補正書(甲4)による補正後のものである。以下「本願発明」という。)は,次のとおりである。文中の「/」は,原文における改行を示す。
集積回路(「IC」)レイアウトの特定の領域内の,一組のルート可能要素を有するネットをルーティングするために,コンピューターの少なくとも1つのプロセッサーによって実行される方法であって,/(a)前記特定のIC領域を,同じ形の複数のサブ領域に分割するステップと,但し,前記サブ領域の各々は,n個の辺を備えた同形状の領域であり,前記n個は,数字の3を超える数であり;/(b)前記ネットのルート可能要素を含む一組のサブ領域を接続している,少なくともその一部が対角線である経路縁部を有する経路を識別するステップとを含む方法3本件審決の理由の要旨本件審決の理由は,要するに,本件補正は,平成14年法律第24号による改正前の特許法17条の2(以下「法17条の2」という。)第4項各号のいずれの目的にも該当しないとして,本件補正を却下し,本件出願の請求項1に係る発明の要旨を本願発明のとおり認定した上,本願発明は,下記の引用例記載の発明(以下「本件引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものである,としたものである。
引用例:陳少勤ほか2名「斜め配線を許した多層配線モデルにおける概略配線の一手法」電子情報通信学会技術研究報告(社団法人電子情報通信学会,平成4年2月7日,vol.91,no.466,pp.15-22(VLD91-117)4取消事由審判における手続の違法第3当事者の主張〔原告の主張〕(1)原告は,本件に係る審判請求書提出後の平成20年8月14日に手続補正書(甲6)及び同年9月24日に手続補正書(方式)(甲7)を提出したところ,審判長は,原告に対し,同21年10月28日付けの審尋書(甲8。以下「本件審尋書」という。)を送付した。
そこで,原告は,平成22年4月1日,回答書(甲9)を提出したところ,本件審決がされた。
(2)ところで,本件審尋書において,審判長は,「この審尋は,拒絶理由の通知(同法第159条において準用する同法第50条)ではありません。したがって,この審尋の回答に際し,同法第17条の2に規定する補正をすることはできません。」,「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありませんが,合議体が審判の手続継続の意思について確認する場合があります。」と述べた。
(3)そして,拒絶査定不服審判において,「審理において不利に扱うこと」とは,拒絶審決を行うことである。また,「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」ということは,回答書を提出しても,当然に審理において不利に扱うことがないものと解釈される。
また,原告は,上記回答書において,補正可能性のある特許請求の範囲の案を示しているところ,本件審尋書における「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との上記記載は,回答書の提出後に直ちに不意打ち的な拒絶査定がされることはないことを前提とし,回答書の提出後に,少なくとも1回は,意見書及び手続補正書を提出する機会を得ることができることをいうものと解される。
(4)審尋に対する回答書においては,特許請求の範囲の補正はできないとしても,原告は,補正可能性のある特許請求の範囲を示しているところ,原告としては,できるだけ広い特許請求の範囲で特許されるようにと考えているからである。
そして,この特許請求の範囲は,そもそも審査官・審判官とのせめぎ合いを経て最終的に出願人が決定するものである。
原告としては,審尋に対する回答書における補正可能性のある特許請求の範囲と,これに対する拒絶理由通知に対応する補正された特許請求の範囲とは,根本的にその補正方針が異なるものであった。すなわち,原告は,審尋に対する回答書における補正可能性のある特許請求の範囲について,審判官とのせめぎ合いの中で,できるだけ補正可能性のある広い特許請求の範囲を模索しているものであるが,更に拒絶理由通知を受けた場合には,この拒絶理由通知に対応した最終的補正方針に基づく,より限定された特許請求の範囲に補正し,これに対応した意見書も提出する方針であった。
(5)しかるところ,本件においては,審尋に対する回答書における補正可能性のある特許請求の範囲に対して,直ちに不意打ち的な審決がされ,この結果,原告は,原告の最終的補正方針に基づく,より限定された特許請求の範囲に補正する機会が与えられず,また,この最終的補正方針に基づくより限定された特許請求の範囲に対応する意見書を提出する機会を与えられずに,不意打ち的に拒絶審決がされるに至ったものである。
(6)したがって,本件審決は,特許法153条2項の手続を経ずに審理されたものというべきであって,同項の規定に違反する違法なものとして取り消されるべきである。
〔被告の主張〕(1)本件審尋書における,備考欄の「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載は,前置報告の内容に対する意見があればその回答を求めるとともに,仮に回答がない場合であっても,回答がある場合と比べて審理において不利には扱わないことを意味するのであって,拒絶の審決を行わないことを意味するのではない。
(2) そして,回答書の提出後において,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があり,合議体が改めて拒絶理由を通知することが必要であると判断し,その拒絶理由が通知された場合を除いて,少なくとも一度は,意見書及び手続補正書を提出する機会を得ることができると解する余地はない。
このことは,本件審尋書の備考欄にも「この審尋は,拒絶理由の通知(同法第159条において準用する同法第50条)ではありません。したがって,この審尋の回答に際し,同法第17条の2に規定する補正をすることはできません。なお,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があり,合議体が必要と判断した場合には,改めて拒絶理由が通知され,同法第17条の2に規定する補正の機会が与えられます。」と記載されているとおり,補正の機会が与えられるのは,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があり,合議体が必要と判断し,改めて拒絶理由が通知された場合に限られるものである。
(3) しかるところ,本件審決は,拒絶査定の理由と同じ理由によって拒絶審決に至ったものであるから,補正する機会が与えられなかったことが不当であるとはいえず,本件審決が不意打ち的なものということもできない。
(4) したがって,本件審決には,原告が主張する手続の違法はない。
第4当裁判所の判断1本件審査・審判手続の経緯(1)本件出願に係る審査手続において,審査官は,平成19年8月20日付け拒絶理由通知書(甲2)において,特許請求の範囲の請求項1に係る発明につき,本件引用発明等に基づいて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないことなどを記載するとともに,意見書の提出期限を発送日(同月22日)から3か月以内と指定した。
(2)原告は,平成20年2月22日付け意見書(甲3)及び手続補正書(甲4)を提出し,上記拒絶理由通知書記載の拒絶理由が解消されたと主張したが,審査官は,同年4月9日付けで,上記拒絶理由通知書に記載した理由によって,本件出願を拒絶する旨の拒絶査定をした(甲5)。
なお,同拒絶査定の備考欄において,上記拒絶理由通知に記載した特許請求の範囲の請求項1の記載に係る拒絶理由が依然解消していない旨が付記された。
(3)原告は,平成20年7月15日,審判請求をし,また,同年8月14日付けで本件補正をして,上記拒絶理由は解消されたと主張したが,審判長は,原告に対し,同21年10月27日付けで,いわゆる「前置報告」の内容を記載するとともに,審判事件の審理を開始するに当たって,この前置報告の内容について原告の意見を事前に求めるとの記載のある本件審尋書(甲8)を送付した。
なお,本件審尋書には,備考欄において,「この審尋は,拒絶理由の通知(同法(判決注:特許法をいう。以下同じ。)第159条において準用する同法第50条)ではありません。したがって,この審尋の回答に際し,同法第17条の2に規定する補正をすることができません。なお,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があり,合議体が必要と判断した場合には,あらためて拒絶理由が通知され,同法第17条の2に規定する補正の機会が与えられます。」,「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載がされていた。
(4)これに対し,原告は,審判長に対し,平成22年4月1日付けで,審尋に対する回答書において特許請求の範囲の補正をすることができないことを知った上で,次の機会に手続補正書を提出し,特許請求の範囲を補正し,明細書の該当する部分につき,整合性を有するように補正する予定であるなどとする回答書を提出した(甲9,弁論の全趣旨)。
(5)平成22年6月1日にされた本件審決は,本願発明について,本件引用発明及び周知技術に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとして,本件に係る審判の請求は成り立たないとした。
2検討(1)本件出願に適用される法17条の2第1項は,特許出願人が同法50条による拒絶理由通知を受けた後は,最初の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内,最後の拒絶理由通知を受けた場合の指定期間内及び拒絶査定を受けた場合の査定不服審判請求の日から30日以内にするときに限り,願書に添付した明細書(特許請求の範囲を含む)及び図面の補正をすることができると規定している。これは,無制限に補正を認めたのでは,手続を複雑にし,特許庁の負担もいたずらに増すことになり,ひいては迅速な権利付与手続の妨げにもなること,出願人同士の公平性の確保という見地などから,願書に添付した明細書及び図面の補正につき,補正のできる時期について一定の制限を加えたものである。
これを本件についてみると,本件出願については,原告が本件審尋書を受領した時点において,上記1のとおり,平成19年8月20日付けで拒絶理由通知がされて補正をすることができる指定された期間が経過し,また,平成20年7月15日の審判請求の日から30日の期間も経過していたのであるから,拒絶査定の理由と異なる拒絶理由があるとして改めて拒絶理由が通知される場合は格別,審判官において,法律上,特許出願人である原告に対して補正の機会を与える義務はない。
しかるところ,本件審決は,平成19年8月20日付け拒絶理由通知書,原告からの同20年2月22日付け意見書及び手続補正書,同年4月9日付け拒絶査定で一貫して対象とされていた事項について,同拒絶査定と同じ理由で本願発明を査定することができないと判断したものであるが,原告として,査定不服審判請求の日から30日以内にする補正において,この点について適切に補正する機会が与えられていたものである。それにもかかわらず,原告は,この時点に至っても,なお,審判官とのせめぎ合いの中でできるだけ補正可能性のある広い特許請求の範囲を模索するとして,拒絶理由通知に対応した最終的な補正方針に基づく,より限定された特許請求の範囲の補正をせずにいたというのであって,このような対応をした原告が,改めて拒絶理由が通知された場合でないのに,その場合同様に補正の機会を与えられなかったことを不当であるなどと主張することは失当というほかない。
(2)この点について,原告は,本件審尋書において,「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載がされたことをもって,回答書の提出後に,少なくとも1回は,意見書及び手続補正書を提出する機会が与えられるべきであるなどと主張する。
しかしながら,本件審尋書は,「前置報告を利用した審尋」を行うために原告に対して送付されたものであるところ(乙1),これは,審判請求人に対して,前置審査の結果である前置報告の内容を審尋により送付し,審査官の見解に対する反論の機会を与えることにより,審判における審理・判断を充実させるために行われているものであって,「前置報告を利用した審尋」が行われたことをもって,審判請求人に更なる補正の機会が与えられるものではない。
そして,このことは,本件審尋書においても,備考欄において「この審尋は,拒絶理由の通知(同法第159条において準用する同法第50条)ではありません。」と記載されて明らかにされているものである。また,同備考欄における「回答がない場合であっても,審理において不利に扱うことはありません」との記載は,仮に回答がない場合であっても,回答がある場合と比べて審理において不利には扱わないという意味以上のものとは解されないものであって,同記載をもって,審判請求人に必ず補正の機会が与えられるべきものであるとの原告の主張は,同記載を正解しないというにすぎず,これを採用する余地はない。
(3)なお,原告は,以上るる主張するところをもって,本件審判手続には,特許法153条2項の違反があると結論付けているが,その適条はともかく,原告の主張を採用し得ないことは以上説示したとおりである。
3結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光