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関連審決 不服2008-12077
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成21行ケ10068審決取消請求事件 判例 特許
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平成21行ケ10370審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10140審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10228審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 反復(反復可能性) /  慣用技術 /  技術的範囲 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10320号 審決取消請求事件

原告X
被告特許庁長官
指定代理人 関谷一夫
同 高木彰
同 紀本孝
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2008-12077号事件について平成22年8月5日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯等原告は,発明の名称を「映像色聴装置」とする発明について,平成17年11月29日に出願した特願2005-343913号の一部を,平成18年3月30日に新たな特許出願(特願2006-92913号。以下「本願」という。)とした。
原告は,平成19年11月9日付け,及び,平成20年1月4日付けで,それぞれ手続補正書を提出したが,同月22日付けで拒絶理由通知がされた。原告は,同年3月14日付けで手続補正書を提出したが,同年4月3日付けで拒絶査定がされ,同年5月12日,拒絶査定不服審判の請求(不服2008-12077号事件)をするとともに,同日付けで手続補正書を提出した(以下「本件補正」という。)。
特許庁は,平成22年8月5日,本件補正を却下した上,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年9月11日,原告に送達された(乙1)。
2特許請求の範囲(1) 本願の明細書の特許請求の範囲について,本件補正前(平成20年3月14日付けの手続補正書による補正後)の請求項1の記載は次のとおりである(乙8。
以下,この発明を「本願発明」という。)。
【請求項1】変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形と,当該波形の出力間隔を映像画面の水平方向の位置と対応して中域周波数で逐次変調し,且つ,反復することを特徴とした映像色聴方法。
(2) 本件補正後の請求項1の記載は次のとおりであり,下線部が補正した部分である(乙10。以下,この発明を「本願補正発明」という。)。
【請求項1】映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形 変換した高域周波数の波形と,前記波形の出力間隔を映像画面の変換箇所数Nと対応したN階調の 中域周波数を用いて音波出力し,且つ,映像の更新周期と対応して反復して更新することを特徴とした映像色聴方法。
3審決の理由別紙審決書写しのとおりであり,判断の概要は,次の(1),(2)のとおりである。
(1) 本件補正後の明細書の発明の詳細な説明は,「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」について明確かつ十分に記載されているとはいえず,本願補正発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。したがって,本件補正後の明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法36条4項1号に規定する要件を満たさず,本願補正発明は,特許出願の際独立して特許を受けることができないから,本件補正は,平成18年法律第55号改正附則3条1項によりなお従前の例によるとされる同法による改正前特許法17条の2第5項において準用する同法126条5項の規定に違反するので,特許法159条1項において読み替えて準用する同法53条1項の規定により却下すべきものである。
(2) 本願発明は,「変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」を発明を特定するために必要と認められる事項として含むが,(本件補正前の)明細書の段落【0014】,図3,図4(以下,本願の願書に最初に添付した図面(乙5)の図3及び図4を,それぞれ,単に「図3」,「図4」という。なお,図4については,平成20年1月4日付け手続補正書(乙6)により補正されている。図3については別紙【図3】参照。図4については,本願の願書の最初に添付したものは別紙【図4】(当初),上記補正後のものは別紙【図4】(補正後)参照。)等の記載,並びに,技術常識を併せみても,上記事項が明確かつ十分に記載されているとはいえないから,明細書の発明の詳細な説明の記載は,本願発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。したがって,本願は,特許法36条4項1号に規定する要件を満たさない。
第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,図4に関する認定の誤りによる,本願発明ないし本願補正発明の構成の認定の誤り(取消事由1),図3に関する符号の意義の認定の誤り(取消事由2),本願発明ないし本願補正発明に関し,特許法36条4項1号の要件を満たさないとした判断の誤り(取消事由3)及び手続上の瑕疵(取消事由4,5)があり,これらは審決の結論に影響を及ぼすものであるから,審決は違法として取り消されるべきである。
(1) 図4に関する認定の誤りによる,本願発明ないし本願補正発明の構成の認定の誤り(取消事由1)審決は,図4について,横軸を0〜0.1mSとする「ミリ秒」及び「色調(明度,彩度)」として,あたかも波形の長さが0.1ミリ秒(1/10000秒)であるかのように認定する。
しかし,審決の認定は以下のとおり誤りである。
図4の横軸の「0.1mS」との記載は「1mS」の誤記であり,図4の横軸を0.1ミリ秒(1/10000秒)とすると,理論的に波形に含まれる周波数が10kHz以上の可聴域外となるため,本願発明ないし本願補正発明の構成について意味が不明となるところ,この点は,平成20年1月4日付け手続補正書により,図4の横軸は正しく「1mS」と補正された。
それにもかかわらず,審決は原告のした上記補正を看過し,「横軸を0〜0.1mSとする」と認定した。したがって,審決には,図4に関する認定の誤り,及び,本願発明ないし本願補正発明の認定の誤りがある。
(2) 図3に関する符号の意義の認定の誤り(取消事由2)審決は,「図3は・・・,符号10が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって符号11が付された直線,当該直線上に符号12が付された略正方形の図形,符号12が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって,『CBAabc』との記載と直線上に並んだ複数の略正方形の図形が窺える。」と認定する。
しかし,審決の認定は誤りである。
図3は,映像画面における変換範囲の状態を示した図であり,図面に示された符号は,本願の明細書の【符号の説明】【0025】の記載と同義であって,「10映像画面」,「11波形変換範囲」,「12波形変換範囲の中央」,「A-C左側に並ぶ色情報」,「a-c右側に並ぶ色情報」という,それぞれの技術的意味がある。
したがって,図3の符号について上記と異なる認定をした審決は,図3に関する符号の意義の認定に誤りがある。
(3) 本願発明ないし本願補正発明に関し,特許法36条4項1号の要件を満たさないとした判断の誤り(取消事由3)審決は,本願補正発明について特許法36条4項1号の要件を満たさないとして本件補正を却下し,本願発明についても同号の要件を満たさないと判断した。
しかし,以下のとおり,審決の判断は誤りである。
ア図3は,「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として」示されている点,図4は,「波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」である点が,それぞれ本願発明ないし本願補正発明と技術的に対応しており,このように対応して組み合わせることにより本願発明ないし本願補正発明の構成を把握することができるにもかかわらず,審決は,図3と図4を適切に区別せず,又は,仮に区別したとしても,図3,図4と本願発明ないし本願補正発明との技術的対応関係を考慮せず,特許法36条4項1号を満たさないと判断した誤りがある。
イ審決は,本願の明細書の発明の詳細な説明における段落【0014】,図3及び図4の各記載をどのように組み合わせると「変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」ないし「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」が得られるのかが具体的に記載されておらず,技術常識を併せてみても上記事項が明らかとはいえないとして,「明細書の発明の詳細な説明の記載は,『変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形』を発明を特定するために必要と認められる事項として含む本願発明,ないし,『映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形』を発明を特定するために必要と認められる事項として含む本願補正発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」と判断した。
しかし,以下のとおり,審決の判断は誤りである。
音波の波形変換方法は,シンセサイザーの技術分野等に属しており,音の大きさを変化させて所定の音色の波形に変換するシンセサイザー等は慣用技術である(甲3)。図4は,色相,明度,彩度に応じた波形変換方法であり,「色情報を高周波帯域の波形に変換する」という技術的意義を有し,波形変換方法を扱う点で,上記慣用技術と一致するため,シンセサイザーの技術分野における波形変換方法から図4の内容を把握して,本願発明ないし本願補正発明の具体的構成を特定することができる。また,図4の波形は,色相,明度,彩度のそれぞれの色情報に応じて波形(振幅,長さ,傾き)も変わることを意味しており,色情報に応じた波形に変換するという技術的意義を有する。
そうすると,図4の内容から,波形のもととなる要素として,色情報の色相,明度,彩度を用いるという技術的意義を把握すれば,波形変換方法については具体的に記載するまでもなく当業者にとって技術的設計事項であるから,本願発明ないし本願補正発明は当業者にとって理解可能である。
したがって,図4,技術常識を併せみても,本願発明ないし本願補正発明が特許法36条4項1号の要件を満たさないとした審決の判断は誤りである。
(4) 手続上の瑕疵-その1(取消事由4)図4の横軸の「0.1mS」との誤った記載は,本願の願書に最初に添付した図面に存在し,拒絶査定の理由として述べられなかったものであるから,審判体は,新たな拒絶理由を発見したものとして,原告(請求人)に通知し,反論の機会を与えるべきであるのにこれを怠った。
したがって,審決には,特許法159条2項で準用する同法50条に違背する手続上の違法がある。
(5) 手続上の瑕疵-その2(取消事由5)本願補正発明の構成の「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として」との点について,「映像画面」は本願明細書の【符号の説明】【0025】の符号10に,「変換範囲」は符号11に,「各色情報」は符号AないしCに,それぞれ対応し,技術的に合致しているにもかかわらず,審決は,本願明細書の理解を誤り,判断を誤った点で,特許法70条2項に違背する手続上の違法がある。
2被告の反論以下のとおり,審決には,原告主張に係る認定及び判断の誤りはない。
(1) 取消事由1(図4に関する認定の誤りによる,本願発明ないし本願補正発明の構成の認定の誤り)に対し原告は,「図4の横軸の『0.1mS』との記載は『1mS』の誤記であり,平成20年1月4日付け手続補正書により,図4の横軸は正しく『1mS』と補正されたにもかかわらず,審決はこれを看過し,『横軸を0〜0.1mSとする』と認定した。したがって,審決は,図4に関する認定を誤り,その結果,本願発明ないし本願補正発明の構成を誤って認定したものである。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
審決に「図4は『色情報を高域周波数を用いた波形要素に変換した波形図』・・・とされるものであって,横軸を0〜0.1mSとする『ミリ秒』及び『色調(明度,彩度)』とし」と記載されていることは認めるが,平成20年1月4日付け手続補正書により補正された図4を参照すれば,上記「横軸を0〜0.1mSとする」は,「横軸を0〜1mSとする」の誤記であることは明らかである。
審決は,本願発明については,平成20年1月4日付け手続補正書及び同年3月14日付け手続補正書で補正された本願の明細書及び図面に記載された事項を基礎として,また,本願補正発明については,上記各手続補正書及び本件補正で補正された本願の明細書及び図面に記載された事項を基礎として,発明の詳細な説明の記載が,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないとしたものであって,審決の判断過程に誤りはない。
(2) 取消事由2(図3に関する符号の意義の認定の誤り)に対し原告は,「図3は,映像画面における変換範囲の状態を示した図であり,図面に示された符号は,本願の明細書の【符号の説明】【0025】の記載と同義であって,『10映像画面』,『11波形変換範囲』,『12波形変換範囲の中央』,『A-C左側に並ぶ色情報』,『a-c右側に並ぶ色情報』という,それぞれの技術的意味がある。審決には,図3に関する符号の意義の認定に誤りがある。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
審決は,図3に関し,「当該図面の記載から,符号10が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって符号11が付された直線,当該直線上に符号12が付された略正方形の図形,符号12が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって,『CBAabc』との記載と直線状に並んだ複数の略正方形の図形が窺える。」と記載したが,同記載は,図3から認定した事項を客観的に記述したものであり,その記述に誤りはない。
審決の上記の記述は,符号の説明や明細書の記載を離れて図面の技術内容について判断したものではないから,「審決は,図3に関する符号の意義の認定に誤りがある。」との原告の主張は,理由がない。
(3) 取消事由3(本願発明ないし本願補正発明に関し,特許法36条4項1号の要件を満たさないとした判断の誤り)に対しア原告は,「審決は,図3と図4を適切に区別せず,又は,仮に区別したとしても,図3,図4と本願発明ないし本願補正発明との技術的対応関係を考慮せず,特許法36条4項1号の要件を満たさないと判断した誤りがある。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
審決は,「映像画面における変換範囲の各色情報の位置を示した図である」図3と「色情報を高域周波数を用いた波形要素に変換した波形図である」図4との関係や区別も含め,本願の明細書及び図面の記載全体を総合し,本願発明ないし本願補正発明と図面との技術的な関係についても,本願発明ないし本願補正発明の「色情報」,「各色情報」と図3との関係,「高域周波数の波形」と図4の対応関係を考慮した上,具体的にどのように「色波形変換」すると「高域周波数の波形」が得られるのか,本願の明細書及び図面において明確かつ十分に記載されているとはいえないと判断したものであり,その判断過程及び判断内容に誤りはない。
したがって,原告の主張は失当である。
イ原告は,「音の大きさを変化させて所定の音色の波形に変換するシンセサイザー等は慣用技術であり,シンセサイザーの技術分野における波形変換方法から図4の内容を把握して,本願発明ないし本願補正発明の具体的構成を特定することができる。一方,図4の波形は,色相,明度,彩度のそれぞれの色情報に応じて波形(振幅,長さ,傾き)も変わることを意味しており,色情報に応じた波形に変換するという技術的意義を有する。すなわち,図4の内容から,波形のもととなる要素として,色情報の色相,明度,彩度を用いるという技術的意義を把握すれば,波形変換方法について具体的に記載するまでもなく当業者にとって技術的設計事項であるから,本願発明ないし本願補正発明は当業者にとって理解可能である。したがって,図4,技術常識を併せみても,本願発明ないし本願補正発明が特許法36条4項1号の要件を満たさないとした審決の判断は誤りである。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
本願発明の「変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」,及び本願補正発明の「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」を得るとの技術は,「色情報の音波への変換に関する技術」であって「音波の変換に関する技術」ではないから,両者は,技術内容において相違する。したがって,仮に音波の波形変換方法が慣用技術であるとしても,本願発明及び本願発明の技術内容が当業者にとって理解可能であることにはならない。
また,本願発明における「変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」,本願補正発明における「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」とは,人が聴覚することにより,対応する色情報を特定・認識することができるような「色波形変換した高域周波数の波形」であると解される(明細書の【請求項1】,段落【0003】,【0004】及び【0014】の各記載)が,人が聴覚することにより,対応する色情報を特定・認識することができるような「色波形変換した高域周波数の波形」が,具体的にどのような「波形」であるのか,そのような「波形」を得るための「色波形変換」とは,具体的にどのような手順や条件に基づいて行われる「変換」であるのかが,本願出願当時において技術常識であったとはいえない。そうすると,当業者が本願発明又は本願補正発明である「映像色聴方法」を実施するに当たり,「色情報」と「波形」との具体的な対応関係,例えば,種々の色相と振幅の大きさとの具体的な対応関係,種々の彩度と具体的周波数の対応関係など,「高域周波数の波形」の具体的条件や「変換」のための具体的手法が,本願の明細書の発明の詳細な説明において明確かつ十分に記載されている必要があるが,本件補正の前後にかかわらず,図4を含め,明細書及び図面には,色情報を高速に認識・特定するための「波形」の具体的条件や「変換」のための具体的手法についての開示はない。
したがって,「審決は,図4,技術常識を併せみても,本願発明又は本願補正発明が特許法36条4項1号の要件を満たさないと判断した誤りがある。」との原告の主張は失当である。
(4) 取消事由4(手続上の瑕疵-その1)に対し原告は,「図4の横軸の『0.1mS』との誤った記載は,本願の願書に最初に添付した図面に存在し,原査定では拒絶の理由として述べられなかったものであるから,審判体は,新たな拒絶理由を発見したものとして,原告に通知し,反論の機会を与えるべきであるのにこれを怠ったものであり,審決には,特許法159条2項で準用する同法50条に違背する手続上の違法がある。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
平成20年1月22日付けの拒絶理由通知には,本願発明の請求項中の「色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」を得ること,「中域周波数で逐次変調」すること,及び「低域の周波数で一連の処理を更新する」ことに関して,色情報を具体的にどのように波形に変換するのか,低域の周波数による処理が具体的にどのようなものなのか,発明の詳細な説明に,具体的に記載がなく,この出願の発明の詳細な説明は,本願発明の「映像色聴方法」を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない旨記載されている。これに対し,原告は,同年3月14日付けで手続補正書及び意見書を提出し,各色情報の波形は音階の各周波数と対応しており,出力間隔の合計時間は図5に示すように,0.1秒以下となっていること,波形の出力間隔は次の時間軸上の式を満たすことを述べた。
(式1)波形の出力間隔?音程周波数帯域の1周期(式2)波形の長さ(分解能)<波形の出力間隔(式3)色情報の個数とその波形の出力間隔の総和?映像に対する反復更新周期(式4)波形の長さに用いられる周波数(高域)>波形の出力間隔(中域周波数)>映像に対する反復更新周期(低域周波数)また,同年4月3日付けの拒絶査定では,同年3月14日付け手続補正書及び意見書を検討しても,色情報をどのように音と具体的に対応付けて変換するのか,また,変換された音を視覚情報として認識するための原理が依然として不明であり,この出願は,拒絶理由通知書に示した理由により拒絶すべきものとしている。
そして,審決は,「明細書の発明の詳細な説明には,『変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形』について明確かつ十分に記載されているとはいえない。よって,明細書の発明の詳細な説明の記載は,『変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形』を発明を特定するために必要と認められる事項として含む本願発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない。」と判断した。
そうすると,拒絶の理由と審決の理由とは,「明細書の発明の詳細な説明の記載は,『変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形』を発明を特定するために必要と認められる事項として含む本願発明について,当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるとはいえない」との点において共通であるから,審判体が,新たな拒絶理由を発見したものとして,原告に反論の機会を与える必要はなく,「審決には,特許法159条2項で準用する同法50条に違背する手続上の違法がある。」との原告の主張は理由がない。
(5) 取消事由5(手続上の瑕疵-その2)に対し原告は,「本願補正発明の構成の『映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として』との点について,『映像画面』は本願の明細書の【符号の説明】【0025】の符号10,『変換範囲』は符号11,『各色情報』は符号AないしCとそれぞれ対応して,技術的に合致することは明らかであるが,審決は,本願の明細書の内容の理解を誤り,判断を誤るという重大な結果を招いたものであるから,特許法70条2項に違背する手続上の違法がある。」と主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
審決は,図3に記載された各符号と本願の明細書の段落【0017】に記載された符号の説明との関係も含め,明細書及び図面の記載全体を総合して判断し,「映像画面」は符号10,「変換範囲」は符号11,「各色情報」は符号AないしC,並びに,符号aないしcとそれぞれ対応していることを考慮しても,「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として」具体的にどのように「色波形変換」すると「高域周波数の波形」が得られるのかは明らかでないから,本件補正後の明細書の発明の詳細な説明には,本願補正発明の「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」について明確かつ十分に記載されているとはいえないと判断したが,上記(3) のとおり,その判断に誤りはない。
以上のとおりであり,「審決は,特許法70条2項に違背する違法がある。」との原告の主張は失当である。
第4当裁判所の判断当裁判所は,原告の主張する取消事由にはいずれも理由がないものと判断する。
その理由は以下のとおりである。
1取消事由1(図4に関する認定の誤りによる,本願発明ないし本願補正発明の構成の認定の誤り)について原告は,「図4の横軸の『0.1mS』との記載は1mSの誤記であり,平成20年1月4日付け手続補正書により,図4の横軸は正しく『1mS』と補正されたにもかかわらず,審決はこれを看過し,『横軸を0〜0.1mSとする』と認定した。したがって,審決は,図4に関する認定を誤り,その結果,本願発明ないし本願補正発明の構成を誤って認定したものである。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
審決には,「図4は『色情報を高域周波数を用いた波形要素に変換した波形図』・・・とされるものであって,横軸を0〜0.1mSとする『ミリ秒』及び『色調(明度,彩度)』とし,縦軸を『色相』とする棒グラフが記載されており」との記載があるが(審決3頁6〜9行,5頁16〜19行),他方で,審決は,平成20年1月4日付けの手続補正(乙6)を前提として,「本件補正後の明細書の発明の詳細な説明には『【0014】・・・図4は,単一の色情報を,波形要素からなる1ミリ秒以下の色波形に変換する色波形変換を示したものである。そして,この色波形では,1ミリ秒(0.001秒)以内で彩度を波の回数,色相を波の高低(強弱)として変換し,この波形両端には明度に応じた偏差が成されている。』と記載されている。」(審決2頁27〜34行),「明細書の発明の詳細な説明には『【0014】・・・図4の色波形では,1ミリ秒(0.001秒)以内で彩度を波の回数,色相を波の高低(強弱)として変換し,この波形両端には明度に応じた偏差が成されている。』と記載されている。」(審決5頁4〜9行)と認定した上,図4の横軸を0〜1mSとするものとして判断している点に照らすならば,図4に関する「横軸を0〜0.1mSとする」との審決の記載は,「横軸を0〜1mSとする」の誤記であることは明白である。
のみならず,審決は,図4の横軸が0〜0.1mSであることを前提として,本願発明ないし本願補正発明の構成を認定したともいえない。
したがって,「審決は,図4に関する認定を誤り,その結果,本願発明ないし本願補正発明の構成を誤って認定した」との原告の主張は採用することができない。
2取消事由2(図3に関する符号の意義の認定の誤り)について原告は,「図3は,映像画面における変換範囲の状態を示した図であり,図面に示された符号は,本願の明細書の【符号の説明】【0025】の記載と同義であって,『10映像画面』,『11波形変換範囲』,『12波形変換範囲の中央』,『A-C左側に並ぶ色情報』,『a-c右側に並ぶ色情報』という,それぞれの技術的意味がある。審決は,図3に関する符号の意義の認定に誤りがある。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
本願の明細書の段落【0016】によれば,図3は,「映像画面における変換範囲の各色情報の位置を示した図」であると認められる(乙5,6)が,同図に示された符号を原告主張の意味に解したとしても,各位置における色情報をどのように変換するかは不明であるから,図3に関する符号の意義をどのように認定するかは,審決の結論に影響を及ぼさないというべきである。
したがって,原告の上記主張は主張自体失当である。
3取消事由3(本願発明ないし本願補正発明に関し,特許法36条4項1号の要件を満たさないとした判断の誤り)について本願発明及び本願補正発明について特許法36条4項1号の要件を満たさないと判断する。その理由は,以下のとおりである。
アまず,原告は,「審決は,図3と図4を適切に区別せず,又は,仮に区別したとしても,図3,図4と本願発明ないし本願補正発明との技術的対応関係を考慮せず,特許法36条4項1号の要件を満たさないと判断した誤りがある。」と主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,審決は,本願発明ないし本願補正発明の技術事項が本願の明細書の発明の詳細な説明に明確かつ十分に記載されているかを判断するに当たり,「図3は『映像画面における変換範囲の各色情報の位置を示した図』(【図面の簡単な説明】の記載を参照。)とされるものであって,当該図面の記載から,符号10が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって符号11が付された直線,当該直線上に符号12が付された略正方形の図形,符号12が付された略正方形の図形,当該図形の内側であって,『CBAabc』との記載と直線状に並んだ複数の略正方形の図形が窺える。さらに,図4は『色情報を高域周波数を用いた波形要素に変換した波形図』(【図面の簡単な説明】の記載を参照。)とされるものであって,横軸を0〜0.1mS(判決注:前記1のとおり,『0〜1mS』の誤記と認める。)とする『ミリ秒』及び『色調(明度,彩度)』とし,縦軸を『色相』とする棒グラフが記載されており,当該グラフの記載から,棒の高さは左から右に向かって,はじめの5本は次第に長くなり,5本目以降は同一の長さであることが窺える。」(審決2頁35行〜3頁11行,5頁10〜21行)と認定した。その上で,審決は,これらの記載をどのように組み合わせると「映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として色波形変換した高域周波数の波形」(本願補正発明)ないし「変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」(本願発明)が得られるのか具体的に記載されておらず,技術常識を併せみても上記事項が明らかであるとはいえないと判断した。
そうすると,審決は,図3と図4を区別し,図3,図4と本願発明ないし本願補正発明との技術的対応関係を考慮しているというべきであり,その判断過程及び判断内容に誤りはない。また,本願の明細書(乙6)の【図面の簡単な説明】【0016】の記載を勘案して図3と図4を組み合わせたとしても,「色情報」を「高域周波数の波形」に「変換」することの具体的内容を特定する記載がないことに変わりはなく,本願発明ないし本願補正発明に関する明細書が特許法36条4項1号の要件を満たすとはいえない。
したがって,原告の上記主張は理由がない。
イ次に,原告は,「音の大きさを変化させて所定の音色の波形に変換するシンセサイザー等は慣用技術であり,シンセサイザーの技術分野における波形変換方法から図4の内容を把握して,本願発明ないし本願補正発明の具体的構成を特定することができる。一方,図4の波形は,色相,明度,彩度のそれぞれの色情報に応じて波形(振幅,長さ,傾き)も変わることを意味しており,色情報に応じた波形に変換するという技術的意義を有する。すなわち,図4の内容から,波形のもととなる要素として,色情報の色相,明度,彩度を用いるという技術的意義を把握すれば,波形変換方法について具体的に記載するまでもなく当業者にとって技術的設計事項であるから,本願発明ないし本願補正発明は当業者にとって理解可能である。したがって,図4,技術常識を併せみても,本願発明ないし本願補正発明が特許法36条4項1号の要件を満たさないとした審決の判断は誤りである。」と主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,シンセサイザーのような音の大きさを変化させて所定の音色の波形に変換する波形変換方法が慣用技術であるとしても,それは所定の音色の波形を合成するものであり,色情報を音波に変換する技術とは異なるから,シンセサイザーにおける波形変換方法から,図4の内容を把握して,本願発明ないし本願補正発明の具体的構成を理解することはできないというべきである。
また,本願の明細書(乙6)には,「映像色聴方法」について,「画像空間を効率的に色聴し,高速に認識することができる画像認識方法」(段落【0003】),「聴覚から映像画面を色聴できる映像色聴方法」(段落【0004】)との記載があるが,図4の内容から,波形のもととなる要素として,色情報の色相,明度,彩度を用いるという技術的意義を把握できたとしても,そのことによって,当業者において,聴覚から映像画面を認識(色聴)できる「映像色聴方法」を得られるとはいえない。その他,明細書の記載及び図面(乙5,6,8,10)を総合しても,聴覚から映像画面を認識(色聴)できるような色情報の音波への変換方法の具体的内容が特定されているとは認められない。
したがって,図4,技術常識を併せみても,本願発明ないし本願補正発明が特許法36条4項1号の要件を満たさないとした審決の判断に誤りはなく,原告の主張は理由がない。
4取消事由4(手続上の瑕疵-その1)について原告は,「図4の横軸の『0.1mS』との誤った記載は,本願の願書に最初に添付した図面に存在し,拒絶査定の理由として述べられなかったものであるから,審判体は,新たな拒絶理由を発見したものとして,原告に通知し,反論の機会を与えるべきであるのにこれを怠ったものであり,審決には,特許法159条2項で準用する同法50条に違背する手続上の違法がある。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
図4の横軸の「0.1mS」との誤記は,平成20年1月4日付けの手続補正書(乙6)により補正されており,審決は,その補正を踏まえて判断しているから(前記1),この点について原告に「反論の機会」を与えるべき理由はない。
また,審決の理由は,本願の明細書の発明の詳細な説明には,その記載をどのように組み合わせると「変換元の色情報を波形要素に変換した高域周波数の波形」が得られるのか具体的に記載されておらず,また,技術常識を併せみても上記事項が明らかであるとはいえないから,本願は,特許法36条4項1号の要件を満たさないというものであって,拒絶査定の理由と同じである(乙7,9)。
したがって,特許法159条2項で準用する同法50条が適用される余地はなく,原告の主張は失当である。
5取消事由5(手続上の瑕疵-その2)について原告は,「本願補正発明の構成の『映像画面の変換範囲から各色情報を波形要素として』との点について,『映像画面』は本願の明細書の【符号の説明】【0025】の符号10,『変換範囲』は符号11,『各色情報』は符号AないしCとそれぞれ対応して,技術的に合致することは明らかであるが,審決は,本願の明細書の内容の理解を誤り,判断を誤るという重大な結果を招いたものであるから,特許法70条2項に違背する手続上の違法がある。」と主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
特許法70条2項は,特許発明技術的範囲の認定に関する規定であるから,本願補正発明の構成に関してした審決の認定が特許法70条2項に違反するとの原告の主張は,その主張自体失当である。
6小括以上のとおりであるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,審決に取り消すべき違法は認められない。原告は,その他縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
第5結論よって,原告の請求は理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子
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