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関連審決 不服2008-19718
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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10109審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 創作性(創作) /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  発明特定事項 /  周知技術 /  技術的手段 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  技術的特徴 /  パリ条約 /  優先権 /  数値限定 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 /  国際公開 /  国内公表 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10174号 審決取消請求事件

原告 エフホフマン−ラ ロッシュ アクチェンゲゼルシャフト
訴訟代理人弁理士河村洌
同 藤森洋介
同 谷征史
被告特許庁長官
指定代理人 石川太郎
同 岡田孝博
同 唐木以 知良
同 小林和男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/02/28
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1特許庁が不服2008−19718号事件について平成22年1月19日にした審決を取り消す。
2訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求主文と同旨第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯等原告は,発明の名称を「マイクロ電極アレイよりなる電極,方法,装置」とする発明について,平成14年11月18日に特許出願(特願2003-546093。
パリ条約による優先権主張日平成13年11月16日,平成14年10月4日,米国。平成15年5月30日国際公開,WO03/44511,平成17年4月28日国内公表。以下「本願」という。)をし,平成19年9月27日付け手続補正書を提出したが,同年10月19日付けで拒絶理由通知を受け,平成20年4月21日付けで意見書を提出したが,同年5月13日付けで拒絶査定がされた。原告は,同年8月4日,拒絶査定不服審判の請求(不服2008-19718号事件)をし,同年10月27日付けで手続補正書を提出した。特許庁は,平成22年1月19日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,同年2月2日,原告に送達された。
2特許請求の範囲平成19年9月27日付け手続補正書による補正後の本願の明細書(以下「本願明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は次のとおりである(甲3,4。以下,この発明を「本願発明」という。)。
【請求項1】「血液サンプル中の分析物の濃度を定量する方法であって,血液の流れに適した深さを有し,1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室を含んだ使い捨てのバイオセンサーを設ける工程であって,該センサーは,前記キャピラリー室内に設けられた作用電極および参照電極とを含み;該センサーは,さらに酵素とメディエータからなる試薬層を含み;該試薬層は,少なくとも作用電極上で処理され;該酵素とメディエータは,血液サンプル中の分析物の濃度を表現する電気化学的信号を発生するために,分析物と反応するように選択される工程;グルコースを含む血液サンプルを前記キャピラリー室中に入れる工程であって,当該キャピラリー室が,前記血液サンプルの流れを試薬と接触させて当該試薬(判決注:平成19年9月27日付け手続補正書には「当該血液サンプル」と記載されるが,審決はこれを「当該試薬」の誤記と認定した。)を少なくとも部分的に溶解または加水分解させる工程;前記キャピラリー室内で血液サンプルを検出する工程;該検出に引き続き,作用電極および対向電極または参照電極に電圧および電流を印加または制御する工程;前記作用電極で電気的に活性な反応生成物を電気的に酸化または還元させる工程;および該検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程を含むことを特徴とする方法。」3審決の理由(1) 別紙審決書写しのとおりである。要するに,本願発明は,特開平8-320304号公報(甲1。以下「引用例1」という。)記載の発明(以下「引用発明」という。)に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないから,本願は拒絶されるべきものであると判断した。
(2) 上記判断に際し,審決が認定した引用発明の内容,本願発明と引用発明との一致点及び相違点は,以下のとおりである。
ア引用発明の内容「試料液中のグルコース濃度の定量方法であって,基板1と,前記基板1上に形成された作用極5,対極8,および第3の電極7を有する電極系と,前記電極系の作用極5と対極8上に設けられ,酵素としてのGODおよび電子受容体としてのフェリシアン化カリウムを含有する反応層と,試料液供給路となる空間部とを有するグルコースセンサを作製する工程,試料液を前記試料液供給路に供給し前記電極系上の反応層を溶解する工程,前記対極8と第3の電極7間の抵抗値の変化に基づいて前記試料液の供給を検知する工程,前記試料液の供給検知から55秒後に,第3の電極7を基準にして作用極5に所定の電位を印加する工程,および前記電位の印加から5秒後の作用極5と第3の電極7間の電流値を測定する工程,を有するグルコース濃度の定量方法。」イ一致点「サンプル中の分析物の濃度を定量する方法であって,キャピラリー室を含んだ使い捨てのバイオセンサーを設ける工程であって,該センサーは,前記キャピラリー室内に設けられた作用電極および参照電極とを含み;該センサーは,さらに酵素とメディエータからなる試薬層を含み;該試薬層は,少なくとも作用電極上に設けられ;該酵素とメディエータは,サンプル中の分析物の濃度を表現する電気化学的信号を発生するために,分析物と反応するように選択される工程;グルコースを含むサンプルを前記キャピラリー室中に入れる工程であって,当該キャピラリー室が,前記サンプルの流れを試薬と接触させて当該試薬を少なくとも部分的に溶解させる工程;前記キャピラリー室内でサンプルを検出する工程;該検出に引き続き,作用電極および参照電極に電圧および電流を印加する工程;前記作用電極で電気的に活性な反応生成物を電気的に酸化または還元させる工程;および該検出後,サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程を含むことを特徴とする方法。」ウ相違点(ア) 相違点1サンプルが,本願発明では,血液サンプルであるのに対し,引用発明では,血液サンプルであるか不明な点。
(イ) 相違点2キャピラリー室が,本願発明では,血液の流れに適した深さを有し,1.0μL未満の容量をもつのに対し,引用発明ではそのような構成であるか不明な点。
(ウ) 相違点3サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程が,本願発明では,キャピラリー室内でサンプルを検出後10秒以内に行われるのに対し,引用発明では,キャピラリー室内でサンプルを検出後60秒(55秒+5秒)後に行われる点。
第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決は,特許法159条2項で準用する同法50条に違反する手続違背(取消事由1),容易想到性判断の誤り(取消事由2)があり,これらは審決の結論に影響を及ぼすから,違法として取り消されるべきである。
(1) 手続違背(取消事由1)平成19年10月19日付けの拒絶理由通知では,本願発明と引用発明との相違点1として,本願発明が「血液の流れに適した深さを有し,1.0μL未満の容積をもつキャピラリー室」を具備するのに対して,引用発明は容積が不明な点を認定した上,相違点1に記載の本願発明の具備する特定事項は特開2001-311712号公報(甲2。以下「引用例2」という。)に記載されているとされた。
平成20年5月13日付けの拒絶査定では,引用例2に「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」が開示されていると認定し,「容積を小さくすれば,迅速に拡散しても反応も素早く起こることは自明な事項であって,予想できない効果とはいえない。迅速に拡散して反応も素早く起これば,測定時間が短くなることは予測し得ることといえる」と認定した上,引用発明及び引用例2の記載から,「キャピラリー室の容積を1.0μL未満とする点,及び,検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度を読み取りを得る点について,上記拒絶理由通知書に記載の理由により,当業者が容易になし得たものと認められる。」と判断された。
一方,審決は,原告(請求人)に反論,補正の機会を与えず,「引用例1および2における『キャピラリー室の容量』は本願発明のものより大きく,『読み取りを得る時間』は本願発明のものよりも長い」として,拒絶査定とは異なる認定をした上,拒絶査定時に指摘されなかった文献である国際公開第01/73124号パンフレット(甲10),国際公開第00/73778号パンフレット(甲11)及び国際公開第01/33216号パンフレット(甲12)に基づき,「サンプル室の容量を1μl以下としたものも周知である」ことを認定し,引用発明と甲10ないし12の記載から,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたと判断した。
上記審判手続は,拒絶理由通知における引用例2の認定の誤りに対する原告(請求人)の反論の機会を奪っている点,及び,拒絶理由通知に示されていない甲10ないし12を引用例として用いた点において,手続的な瑕疵を有する。
以上のことから,審決は,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する審判手続によりなされたものであり,違法として取り消されるべきである。
(2) 容易想到性判断の誤り(取消事由2)審決は,引用発明に,引用例2(甲2),特開平5-340915号公報(甲7),特開平5-256811号公報(甲8),特開平5-215711号公報(甲9),甲10ないし12を組み合わせることにより,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたと判断したが,引用発明と他の引用文献の記載から,本願発明を容易に想到することは不可能であり,審決の判断は誤りである。すなわち,ア相違点1に係る構成の容易想到性の判断について審決は,引用例2,甲7ないし9を引用して,「グルコースセンサを,血液サンプル中のグルコース濃度を定量するために使用することは,本願優先権主張日前に,当業者の間で広く知られている事項である。」とし,「引用発明のグルコースセンサを,血液サンプル中のグルコース濃度を定量するために使用し,上記相違点1における本願発明のようにすることは,当業者ならば何ら困難性はなく,容易に想到し得る程度のことであるといえる。」と判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。
本願発明の出願時において,血液サンプルを用いた場合,少量の血液サンプルでは,安定状態になるまでに時間がかかり,計測するのに充分な電流応答信号が発生しないと考えられていた。また,血液サンプルを用いた場合,他のグルコース溶液などと比較して,電気分解に長い時間を要すると考えられていた。
本願発明は,そのような常識がある中で,グルコース/緩衝液とは異なり,グルコースが電気分解されるのに要する時間が長い血液サンプルを用いて,血液サンプルの検出から10秒以内にグルコース濃度の読み取りを可能とした発明である。本願発明は,?他のグルコース溶液よりもテスト時間が長時間かかる「血液サンプル」が測定対象であること,?「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」及びキャピラリー室内において血液サンプルの「検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程」を併せ持つことに,その特徴がある。
一方,引用例2,甲7ないし9には,血液サンプルが用いられたバイオセンサが開示されているだけであり,グルコースが電気分解されるのに要する時間が長い血液サンプルを用いて,血液サンプルの検出から10秒以内にグルコース濃度の読み取りを得るという方法及び思想については一切開示されていない。
したがって,「グルコースセンサを,血液サンプル中のグルコース濃度を定量するために使用することは,本願優先権主張日前に,当業者の間で広く知られている事項である。」との審決の認定は誤りであり,これに基づいて,本願発明の相違点1に係る構成を容易想到とした審決の判断は誤りである。
イ相違点2及び3に係る構成の容易想到性の判断について審決は,相違点2について,甲10ないし12を引用して,「グルコースセンサの分野において,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さなものとすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題であって,サンプル室の容量を1μl以下としたものも周知である。」と認定し,「引用発明において,キャピラリー室の容量をより小さなものとすることは,当業者ならば容易に想到し得る事項であるといえる。そして,具体的に,当該容量をどの程度小さくするかは,当業者が適宜決定する設計的事項であって,容量を1μl以下とすることについても,特に臨界的意義はなく,・・・格別な困難性は見あたらない。」と判断し,相違点3について,引用例2,甲10ないし12を引用して,「グルコースセンサの分野において,検査をより迅速に行うためにサンプル検出後,サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くするようにすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題である。」と認定し,「引用発明において,サンプル検出後,サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くすることは,当業者ならば容易に想到し得る事項であるといえる。そして,具体的に,当該時間をどの程度短くするかは,当業者が適宜決定する設計的事項であって,10秒以下とすることについても,特に,臨界的意義はなく,格別な困難性は見あたらない。」と判断した。そして,引用発明と他の引用文献を組み合わせて,キャピラリー室の容量および深さを相違点2における本願発明のようにすることや,サンプル検出後,サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得るまでに時間を相違点3における本願発明のようにすることは,当業者ならば何ら困難性はなく,容易に想到し得ると判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。
引用発明には,引用例2,甲10ないし12の引用文献と組み合わせる動機付けがなく,各引用文献には,本願発明の血液サンプル,キャピラリー室の容量が1.0μL未満,血液サンプルの検出から10秒以内でグルコース濃度を読み取ることを併せ持つことについての開示も示唆もない。すなわち,(ア) 引用発明について引用例1(甲1)の特許請求の範囲の【請求項1】,発明の詳細な説明の段落【0001】,【0006】ないし【0008】,【0010】,【0011】,【0013】ないし【0015】の記載によれば,引用発明は,作用極と対極の二電極式のセンサでは,対極を参照極として併用するため,基準となる対極電位が作用極での酸化還元反応に伴い変動し,測定結果に影響を与える場合があることを技術的課題とし,その課題を解決するために,「第3の電極」を液絡検知用電極として用いたものである。そして,当該「第3の電極」を液絡検知用電極として用いることにより,「液絡検知のための電圧を作用極?対極間に印加する必要はない」,「試料液の供給を確実に検知することができる」,「第3の電極を液絡検知用電極としてだけでなく参照極として併用するために,基準となる電位の変動が殆どない」という効果が得られ,その結果として,「迅速かつ高精度な定量を簡便に実施することができる」という効果が得られるというものである。
すなわち,引用発明は,?作用極,対極とは別に新たに別の電極を設けること,?別の電極を液絡検知用電極として用いることにより,「迅速かつ高精度な定量を簡便に実施することができる」という効果を得るものである。すなわち,引用発明は,従来と異なる電極系の構成に変えることによって,高精度な定量をする目的を実現する技術が開示されている。そして,審決が,本願発明の「キャピラリー室」に対応すると指摘する「試料液供給路となる空間部」について,引用例1には,「スペーサ10には試料液供給路を形成するためのスリット11が設けられ」,「基板1,スペーサ10およびカバー9によってスリット11の部分に試料液供給路となる空間部が形成され,この空間部の終端部は上記空気孔12に連通する。」,「試料液としてグルコース水溶液3μlを試料液供給路にその入口11aより供給した」と記載されるのみである。
また,引用例1には,サンプルを検出後にキャピラリー室でグルコース濃度の読み取り工程に係る説明において,実施例に,合計60秒の時間を要したことが記載されているのみであって,60秒より早い方がよい,さらに早くするためにどのようにすればよいか,60秒にするためにどのような構成を用いたのか等については記載も示唆もされていない。
以上のとおり,引用例1には,試料液供給路の大きさを小さくすることについての記載及び示唆はなく,また,血液サンプルの検出から10秒以内にグルコース濃度の読み取りを得ることや,検出から読み取りまでの時間を短くすることについての記載及び示唆はない。引用発明には,サンプル室の容量を小さくすること,及び濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くすることについての動機付けがない。
(イ) 引用例2について引用例2の段落【0016】,【0090】,【0099】,【0122】,【0123】,【0125】ないし【0128】,【0134】の記載からすると,引用例2の技術は,「微細セルロース粉体」を反応層に含めることにより,迅速に被検成分と酵素との反応を迅速かつ適正に進行させるものであり,実施例において,「微細セルロース粉体」を用いることにより,反応を迅速にし,微細セルロース粉体により反応が早くなった状態で,16秒という遅延時間が記載されており,さらに遅延時間後の測定に要する時間については開示されていないため,合計の時間が不明である。
また,引用例2では,2ないし60μLのキャピラリー室が用いられ,本願発明のキャピラリー室の容量については記載されておらず,その大きさを小さくするという記載や示唆は存在しない。
さらに,引用例2では,微細セルロース粉体により反応を迅速にするものであるから,本願発明とは,方法において相違する。
(ウ) 甲10ないし12について審決が周知例とする甲10ないし12には,本願発明の,?他のグルコース溶液よりもテスト時間が長い「血液サンプル」を測定対象としている,?「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」及びキャピラリー室内において血液サンプルの「検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程」を併せ持った構成についての開示及び示唆はない。
(エ) 以上のことから,当業者において,引用発明と他の引用文献を組み合わせて,キャピラリー室の容量および深さを,本願発明の相違点2に係る構成とすること,及び,サンプル検出後,サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得るまでの時間を本願発明の相違点3に係る構成とすることは,容易とはいえない。
ウ本願発明は,?他のグルコース溶液よりもテストに長時間を要する「血液サンプル」を測定対象とし,?「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」及びキャピラリー室内において血液サンプルの「検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程」を併せ持つことによって,血液サンプルを検出後10秒以内にグルコース濃度を読み取るという,引用例1及び2からは予測できない優れた効果を奏する。
エよって,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に想到し得るとした審決の判断は誤りである。
2被告の反論(1) 取消事由1(手続違背)に対し原告は,審決が,特許法159条2項で準用する同法50条の規定に違反する審判手続によるものであると主張する。
しかし,原告の主張は以下のとおり失当である。
ア審決は,「引用例1および2における『キャピラリー室の容量』は本願発明のものより大きく,『読み取りを得る時間』は本願発明のものよりも長い」としたが,本願発明は数値限定を伴った発明であるところ,本願明細書には,キャピラリー室の容量が1.0μL未満であることや,グルコース濃度の読み取りを得るのが検出後10秒以内であることの臨界的意義が記載されておらず,その格別な技術的手段についても記載されていないことから,引用例2に「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」が記載されているか否かとは関係なく,本願発明の容易想到性を判断した。
したがって,審決が,拒絶査定の理由と異なる理由により判断したとはいえない。
イ審決は,「検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さなものとすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題」であること,及び,「検査をより迅速に行うためにサンプル検出後,サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くするようにすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題」であること示すために,甲10ないし12を提示しているが,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さくする方が好ましいこと,及び,検査をより迅速に行う,すなわち,濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くする方が好ましいことは,当分野の技術者であれば当然に知っている一般的な技術常識である。このことは,乙1の段落【0078】,乙2の1頁5ないし9行,6頁3ないし13行および14頁4ないし10行(訳文の段落【0001】,【0017】,【0042】),乙3の段落【0001】,【0012】,【0042】,乙4の段落【0001】,【0008】,【0030】,甲17の17頁20ないし22行,18頁2ないし4行の各記載からも明らかであり,審決は,極めて常識的で周知性が高く当然又は暗黙の前提となる事項を,容易性の判断の過程で補助的に用いるために,甲10ないし12を提示したものにすぎない。
そうすると,甲10ないし12は,当業者ならば当然知っているはずの事項を提示したものにすぎないから,この周知技術に対して意見を申し立てる機会を与えなかったからといって,手続的に違法であったとはいえない(知財高裁平成19年3月14日(平成18年(行ケ)第10348号)判決,東京高裁平成16年10月18日(平成15年(行ケ)第373号)判決,東京高裁平成16年8月31日(平成15年(行ケ)第177号)判決参照)。
以上のとおり,審決において,周知例である甲10ないし12を用いたことにより,原告(請求人)の反論,補正の機会が不当に奪われたとはいえない。
なお,甲10ないし12に,サンプル室の容量を1μL未満としたものが記載されていたため,審決はその旨述べているが,これは請求人の納得を得るために補足的に記載したのであって,引用例又は周知例に1μL未満のものが記載されているか否かで,審決における判断が変わるものではない。
ウ審決は,本願発明と引用発明とを対比し,相違点については,容易に想到し得る事項と判断している点において,拒絶理由及び拒絶査定における論理付けと一致している。また,原告は,平成20年4月21日付け意見書及び同年10月27日付け手続補正書において,本願発明が引用発明から容易に想到し得ないものである旨の反論を行っている。
したがって,拒絶理由及び拒絶査定で提示された一部の引用文献を,審決においては引用例として用いることなく,本願発明は,引用発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものとした点が,特許法159条2項で準用する同法50条に違反し,手続的に違法であったとはいえない。
(2) 取消事由2(容易想到性判断の誤り)に対し引用発明に,引用例2,甲7ないし9,甲10ないし12を組み合わせることにより,本願発明は当業者が容易に発明をすることができたとした審決の容易想到性に係る判断に誤りはない。その理由は,以下のとおりである。
ア相違点1に係る構成の容易想到性の判断について以下のとおり,本願発明の相違点1に係る構成を想到することに困難な点はない。
すなわち,甲7の実施例1及び2に,試料液としてグルコースとアスコルビン酸の混合水溶液を供給することが記載され(段落【0029】,【0040】),実施例5に試料液として全血を供給することが記載され(段落【0062】),甲17に,センサーを用いて,緩衝液中のグルコース濃度,及び,血清中のグルコース濃度を測定することが記載されている(51頁・表1)ことに照らすならば,引用発明のグルコースセンサを,血液サンプル中のグルコース濃度を定量するために使用するようにすることは,当業者であれば,容易に想到し得る。
イ相違点2及び3に係る構成の容易想到性の判断について以下のとおり,本願発明の相違点2及び3に係る構成を想到することに困難な点はない。
(ア) 引用発明について引用例1の段落【0015】には,「このセンサに,試料液としてグルコース水溶液3μlを試料液供給路にその入口11aより供給した。試料液は毛管現象により試料液供給路を通って空気孔12にまで達し,電極系上の反応層が溶解した。」と記載され,3μLが微量なものであること,及び,毛管現象は,細い管において生じる現象であることを考慮すれば,引用例1記載の試料液供給路が,微小容量であることが推認される。引用例1において,微小容量の試料液供給路を採用していることに照らすならば,引用発明に,試料液供給路を小さくするという課題があることを示唆しているといえる。そして,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さくする方が好ましいことは,当分野の技術者であれば当然に知っている一般的な技術常識であるから,引用例1における明示的な記載の有無にかかわらず,引用発明も,サンプル室の容量をより小さくするという課題を内在しているというべきである。
また,引用例1の段落【0001】には,「【発明の属する技術分野】本発明は,試料中の特定化合物について,迅速かつ高精度な定量を簡便に実施するためのバイオセンサ,同バイオセンサを用いた定量法および定量装置に関するものである。」と記載されており,引用例1は,引用発明に,検査をより迅速に行う,すなわち,濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くするという課題があることを示唆しているといえる。なお,濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くする方が好ましいことは,当分野の技術者であれば当然に知っている一般的な技術常識であるから,引用例1における明示的な記載の有無にかかわらず,引用発明も,濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くするという課題を内在しているというべきである。
したがって,引用例1における明示的な記載の有無にかかわらず,上記の課題に基づき,引用発明も,サンプル室の容量を小さくするという動機付け,及び,濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くするという動機付けがある。
(イ) 引用例2について審決は,引用例2を周知例の1つとして例示しているものの,引用例2の技術について何ら認定していないから,原告の主張は,その前提を欠く。
(ウ) 甲10ないし12について甲10の訳文の段落【0001】,甲11の訳文の段落【0015】,甲12の訳文の【要約】欄,甲17の【要約】欄,乙1ないし5の記載は,いずれも血液サンプルを用いることを想定したものである。
また,どのような試料サンプルを用いる場合であっても,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量を小さくすることが好ましいこと,及び,濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くする方が好ましいことは,一般的な技術常識である(甲10ないし12,17,乙1ないし5)。
(エ) 以上のことに加え,本願発明における「1.0μL未満」,「検出後10秒以内」という数値限定については,本願明細書に,臨界的意義があることが記載されていないから,当該数値限定は,当業者の通常の創作能力の発揮によってなし得る事項であるというべきである。
また,審決は,引用発明と他の引用文献を組み合わせて本願発明は容易想到であると判断したものではない。
以上のとおり,本願発明の相違点2及び3に係る構成を想到することが容易であるとした審決に誤りはない。
ウ原告は,本願発明は,テスト時間が長時間かかる「血液サンプル」を測定対象として,検出後10秒以内にグルコース濃度を読み取るという格別の効果を奏する旨主張するが,原告の同主張は,以下のとおり失当である。
すなわち,本願明細書には,グルコース濃度の読み取りを得るのが検出後10秒以内であることの臨界的意義,すなわち,検出後10秒以内という数値限定の内と外とで顕著な差異があることについて,何ら記載されていない。また,甲10の訳文の【特許請求の範囲】【請求項1】,段落【0001】,【0016】の記載,乙1の段落【0078】の記載からすると,本願発明における「検出後10秒以内」という数値限定については,臨界的意義がなく,本願優先権主張日における技術水準から予測可能なありふれた程度のものにすぎない。
したがって,本願発明が格別な効果を奏するとはいえない。
エよって,本願発明は,引用発明に基づいて,当業者が容易に想到し得るとした審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断当裁判所は,原告主張の取消事由1には理由があり,審決は違法として取り消されるべきものと考える。その理由は以下のとおりである。
1取消事由1(手続違背)について(1) 事実認定ア手続の経緯について,以下の事実が認められる。
(ア) 平成19年10月19日付け拒絶理由通知書(甲15)には次の記載がある。
「(1)第1発明(判決注:本願発明と同じ。)に対して,引用文献1及び2[対比]第1発明と引用文献1(判決注:引用例1と同じ。以下同様。)記載の発明を対比すると,次の点で発明特定事項が相違する。
1)相違点1第1発明が『血液の流れに適した深さを有し,1.0μL未満の容積をもつキャピラリー室』を具備するのに対して,引用文献1記載の発明は容積が不明な点・・・[相違点についての検討]1)相違点1について相違点1に記載の第1発明の具備する特定事項は引用文献2(判決注:引用例2と同じ。以下同様。)に記載されている。」(イ) 平成20年4月21日付け意見書(甲16)には次の記載がある。
「本願の請求項1およびその従属請求項2〜30にかかわる発明は,技術的特徴X『検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程』と,技術的特徴Y『1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室』を要件とすることにより,予測できない効果『分析物が,塗膜中にすばやく拡散して,その後迅速にかつ完全に反応して,電気的活性反応生成物を生産する』を奏するのであります・・・。
一方,引用文献2には,・・・バイオセンサーのキャプラリー室(判決注:キャピラリー室の誤記と認める。以下同様。)の容量は2〜60μlのものが開示されているのであり,本願発明の技術的特徴Y『1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室』を記載も示唆もされておりません。
さらに,引用文献2には,本願発明の技術的特徴X『検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程』は記載されていないのであります。
よって,たとえ当業者が引用文献1と2を組み合わせることができたとしても,・・・本願発明を導き出すことはできないのであります・・・。」(2頁本文31行〜3頁44行)(ウ) 平成20年5月13日付け拒絶査定(甲5)には次の記載がある。
「キャピラリー室の容積を1.0μL未満とする点,及び,検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度を読み取りを得る点について,上記拒絶理由通知書に記載の理由により,当業者が容易になし得たものと認められる。
出願人は,平成20年5月14日(判決注:平成20年4月21日の誤記と認める。)付け意見書において『・・・バイオセンサーのキャプラリー室の容量は2〜60μlのものが開示されているのであり,本願発明の技術的特徴Y『1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室』を記載も示唆もされておりません。』と主張するが,出願人が提示するように,引用文献2【0126に『以上の内容の酵素センサ枠体(保護層が積層される前のもの)は,反応セルの広さが2mm×4mm,深さが65μで容積が約0.5μlであり,この酵素センサ枠体を300個作製した』(引用文献2の段落[0126])と記載されており,1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室は,引用文献2に開示されているのである。
よって,出願人の主張は失当である。」(エ) 平成20年10月27日付け手続補正書(甲6)には次の記載がある。
「本願の請求項1およびその従属請求項2〜30にかかわる発明は,技術的特徴X『検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程』と,技術的特徴Y『1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室』を要件とすることにより,・・・『分析物が,塗膜中にすばやく拡散して,その後迅速にかつ完全に反応して,電気的活性反応生成物を生産する』という優れた効果を奏するのであります。・・・一方,引用文献2には,・・・バイオセンサーのキャプラリー室の容量は2〜60μlのものが開示されているのであり,本願発明の技術的特徴Y『1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室』を記載も示唆もされておりません。
さらに引用文献2には,本願発明の技術的特徴X『検出後10秒以内に,血液サンプル中のグルコース濃度の読み取りを得る工程』は記載されていないのであります。
よって,たとえ当業者が引用文献1と2を組み合わせることができたとしても,・・・本願発明を導き出すことはできないのであります・・・。」(3頁本文24行〜4頁40行)(オ) 審決には次の記載がある。
「(相違点2)キャピラリー室が,本願発明では,血液の流れに適した深さを有し,1.0μL未満の容量をもつのに対し,引用発明ではそのような構成であるか不明な点。・・・(3)相違点2についての検討引用発明では,・・・試料液供給路となる空間部の具体的容量については不明である。
他方,グルコースセンサの分野において,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さなものとすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題であって,サンプル室の容量を1μl以下としたものも周知である。必要であれば,国際公開第01/73124号パンフレット第4頁16〜19行,第4頁31行〜第5頁3行,第5頁9〜13行および第6頁20〜21行,国際公開第00/73778号パンフレット第4頁21行〜第5頁2行,国際公開第01/33216号パンフレット第1頁12行〜第2頁12行を参照。
そうすると,引用発明において,キャピラリー室の容量をより小さなものとすることは,当業者ならば容易に想到し得る事項であるといえる。そして,具体的に,当該容量をどの程度小さくするかは,当業者が適宜決定する設計的事項であって,容量を1μl以下とすることについても,特に,臨界的意義はなく,上記周知例で示したとおり,格別な困難性は見あたらない。・・・したがって,引用発明において,キャピラリー室の容量および深さを,上記相違点2における本願発明のようにすることは,当業者ならば何ら困難性はなく,容易に想到し得る程度のことであるといえる。・・・請求人が主張するとおり,引用例1および2における『キャピラリー室の容量』は本願発明のものより大きく,『読み取りを得る時間』は本願発明のものより長い。」(審決10頁22行〜11頁31行,15頁4〜6行)イ甲10ないし12には次の記載がある。
(ア) 甲10の訳文の段落【0016】「キャビティの容積は,適当には1.5μl未満であり,好ましくは1μl未満,最も好ましくは0.5μl未満である。」(イ) 甲11の訳文の【請求項1】「1マイクロリットル未満の体積の流体サンプルを収容するような大きさの閉鎖経路」(ウ) 甲12の訳文の段落【0007】「好ましい実施形態においては,作用電極が対向電極と対向し,これら2つの電極間でサンプルチャンバ内に測定域を形成しており,この測定域は約1μL以下,好ましくは約0.5μL以下,さらに好ましくは約0.32μL以下,より好ましくは約0.25μL以下,最も好ましくは約0.1μL以下のサンプルを収容できる大きさに設定されている。」(2) 判断ア上記(1) ア認定の事実及び弁論の全趣旨によれば,平成19年10月19日付け拒絶理由通知書及び平成20年5月13日付け拒絶査定においては,引用発明との相違点に関する本願発明の構成である「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」について,引用例2に開示されていると認定し,これを理由として,本願発明は,当業者が容易になし得たものと認められると判断したこと,原告(審判請求人)が,平成20年10月27日付け手続補正書において上記認定を争ったところ,審決においては,一方で,引用例2における「キャピラリー室の容量」は本願発明のものより大きいことを認定し,他方で,甲10ないし12を引用し,これに基づいて,「グルコースセンサの分野において,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量を小さなものとすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題であって,サンプル室の容量を1μl以下としたものも周知である」とし,これを理由として,「引用発明において,キャピラリー室の容量および深さを,上記相違点2における本願発明のようにすることは,・・・容易に想到しうる程度のことである」と判断したこと,甲10ないし12については,審決に至るまでの手続では提示されず,それらに記載された技術が周知であることについて,原告に意見を述べる機会を付与しなかったこと等の事実が認められる。
以上によれば,審決は,相違点2に係る本願発明の構成である「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」とすることが容易想到であると判断するに当たって,引用例2に開示されているとした査定の理由とは異なり,甲10ないし12に基づき,サンプル室の容量を1μl以下としたものが周知であるとの理由によって結論を導いたことが認められる。そうすると,審判手続において,原告に対し,拒絶の理由を通知し,意見書を提出する機会を与えるべきであったにもかかわらず,その機会を付与しなかったから,特許法159条2項で準用する同法50条に違反する手続違背があり,この手続違背は審決の結論に影響を及ぼすというべきである。
したがって,審決は取り消されるべきである。
イ被告の反論について被告は,反論として,次の主張をするが,いずれも採用の限りでない。
(ア) 被告は,本願発明は数値限定を伴った発明であるが,本願明細書には,キャピラリー室の容量が1.0μL未満であることや,グルコース濃度の読み取りを得るのが検出後10秒以内であることの臨界的意義が記載されておらず,その格別な技術的手段についても記載されていないため,審決は,本願発明を容易想到であるとしたものであって,引用例2に「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」が記載されているか否かとは関係なく,本願発明は容易想到であるといえるから,拒絶査定と異なる理由によって判断したことにはならないと主張する。
しかし,被告の主張は失当である。
上記アのとおり,拒絶査定において,本願発明が容易想到であると判断した理由は,「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」が引用例2に開示されていることを前提とするものである。そうすると,被告が,審決において,本願発明が容易想到であると判断した理由は,引用例2に「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」が記載されているか否かとは関係がないと主張することは,審決の理由と拒絶査定の理由とが異なることを前提とするものであって,主張自体失当である。
(イ) 被告は,?検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さくする方が好ましいこと,及び,検査をより迅速に行う,すなわち,濃度の読み取りを得るまでの時間をより短くする方が好ましいことは,当分野の技術者であれば当然に知っている一般的な技術常識であり,審決は,常識的で周知性が高く当然又は暗黙の前提となる事項を,容易性の判断の過程で補助的に用いるために,甲10ないし12を提示したものにすぎない,すなわち,甲10ないし12は,当業者ならば当然知っているはずの事項を提示したものにすぎないから,この周知技術に対して意見を申し立てる機会を与えなかったからといって,手続的に違法であったとはいえない,?また,甲10ないし12に,サンプル室の容量を1μL未満としたものが記載されていたため,審決はその点について言及したが,これは請求人が納得するための補足的な言及であって,引用例又は周知例に1μL未満のものが記載されているか否かで,審決における判断が左右されるものではないから,新たな理由付けではない旨を主張する。
しかし,被告の主張は失当である。
まず,検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さくする方が好ましいことが,当分野の技術者であれば当然に知っている一般的な技術常識であったとしても,そのことから直ちに,「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」とする技術が周知であるということはできないので,被告の主張は,採用の限りでない。
次に,審決の理由は,「検査に用いるサンプル量を少なくするためにサンプル室の容量をより小さなものとすることは,本願優先権主張日前に,当業者の間に広く知られた課題であって,サンプル室の容量を1μl以下としたものも周知である。
必要であれば,国際公開第01/73124号パンフレット第4頁16〜19行,第4頁31行〜第5頁3行,第5頁9〜13行および第6頁20〜21行,国際公開第00/73778号パンフレット第4頁21行〜第5頁2行,国際公開第01/33216号パンフレット第1頁12行〜第2頁12行を参照。」とするものである(上記(1)ア(オ))。審決の上記理由は,引用例2を適用するのではなく,むしろ,甲10ないし12を適用することによって,「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」とする技術が周知であることを認定し,本願発明を引用発明から容易想到であるとの結論を導いたものといえる。
したがって,被告の上記主張は,失当である。
(ウ) 被告は,原告において,平成20年4月21日付け意見書及び同年10月27日付け手続補正書において,本願発明が引用発明から容易に想到し得ないものである旨の反論を述べているから,審判手続に違法はない旨主張する。
しかし,被告の主張は失当である。
上記アのとおり,審決の理由は,査定の理由とは異なるものであり,原告は,平成20年4月21日付け意見書及び同年10月27日付け手続補正書において,「1.0μL未満の容量をもつキャピラリー室」を用いる技術が周知であるか否か,それが甲10ないし12に開示されているかについては反論していない。審判手続中で,原告に,意見を述べる機会が与えられていたとはいえない。したがって,被告の主張は採用できない。
2小括以上のことから,原告主張の取消事由1には理由があり,その余の争点について判断するまでもなく,審決は違法として取り消されるべきである。これに対し,被告は,他にも縷々主張するが,いずれも採用の限りでない。
第5結論よって,原告の請求は理由があるから,審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子
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