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関連審決 無効2009-800154
関連ワード 有用性 /  製造方法 /  容易に実施 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  一致点の認定 /  相違点の認定 /  周知技術 /  発明の詳細な説明 /  出願経過 /  参酌 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  拒絶査定 /  拒絶理由通知 /  請求の範囲 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10135号 審決取消請求事件
原告 株式会社染谷
同訴訟代理人弁理士 奈良武
被告Y
同訴訟代理人弁理士 亀川義示
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/02/24
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800154号事件について平成22年3月19日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,被告の本件特許に対する原告の特許無効審判の請求について,特許庁が,本件発明の要旨を下記2のとおり認定した上で,同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件特許(甲1,2)発明の名称:植栽用土壌の活性化方法出願日:平成5年12月21日登録日:平成9年8月22日2特許番号:第2686591号(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成21年7月14日(無効2009-800154号)審決日:平成22年3月19日審決の結論:本件審判の請求は,成り立たない。
審決謄本送達日:平成22年3月30日(原告に対する送達日)2本件発明の要旨本件審決が判断の対象とした本件発明は,特許請求の範囲(請求項1)に記載された発明(以下「本件発明」という。)であって,その要旨は,次のとおりである。
濃度500ないし700ppmの二酸化塩素水溶液を1反当たり2000ないし2500□ の割合で土壌に撒布することにより土壌中の微生物を選択的に除菌し,該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本件発明は,下記ア及びイの引用例1及び2に記載された発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)並びに下記ウの周知例1に記載された周知技術(以下「周知技術1」という。)及びエないしソの周知例2-1ないし2-12(以下,総称して,「周知例2」という。)に記載された周知技術(以下,その順に従って,「周知技術2-1」ないし「周知技術2-12」といい,総称して,「周知技術2」という。)に基づいて,容易に発明をすることができたものということはできないから,本件発明に係る本件特許を無効にすることができない,というものである。
ア引用例1:特開昭63-146723号公報(甲3)イ引用例2:特開平1-171425号公報(甲4)ウ周知例1:特開昭60-184002号公報(甲5)エ周知例2-1:特開昭57-22102号公報(甲6の1)オ周知例2-2:特開昭59-223201号公報(甲6の2)3カ周知例2-3:特開昭60-180902号公報(甲6の3)キ周知例2-4:特公昭48-32079号公報(甲6の4)ク周知例2-5:特開昭58-161904号公報(甲6の5)ケ周知例2-6:特開平1-319408号公報(甲6の6)コ周知例2-7:特開昭61-48404号公報(甲6の7)サ周知例2-8:特開昭64-34904号公報(甲6の8)シ周知例2-9:特開平2-55201号公報(甲6の9)ス周知例2-10:特開平2-164702号公報(甲6の10)セ周知例2-11:特開昭57-59634号公報(甲6の11)ソ周知例2-12:特開昭57-168977号公報(甲6の12)(2)原告は,本件審決の前記判断のうち,引用発明2を主たる引用発明として本件発明を容易に想到することができないとした判断についてのみ,その取消しを求めるものであるが,この点について,本件審決が認定した引用発明2並びに本件発明と引用発明2との一致点及び相違点は,次のとおりである。
ア引用発明2:土壌表面を非通気性シートで覆い,シートと土壌との間に二酸化塩素ガス濃度が10ppbないし100ppmの二酸化塩素ガス含有空気を,吹込量が?当たり20ないし300□ で吹き込むことにより殺菌し,当該土壌を作付けに使用する作付け用の土壌殺菌法イ一致点:二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布することにより土壌中の微生物を除菌し,当該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法ウ相違点1:二酸化塩素を含有する剤が,本件発明においては,「二酸化塩素水溶液」であるのに対し,引用発明2においては,「二酸化塩素ガス含有空気」である点エ相違点2:引用発明2が,「土壌表面を非通気性シートで覆う」のに対し,本件発明はそのような特定はない点オ相違点3:濃度及び撒布量について,本件発明においては,「濃度500な4いし700ppmの二酸化塩素水溶液を1反当り2000ないし2500□ の割合とする」ことにより,土壌中の微生物を「選択的に除菌」するのに対し,引用発明2においては,「シートと土壌との間に二酸化塩素ガス濃度が10ppbないし100ppmの二酸化塩素ガス含有空気を,吹込量が?当たり20ないし300□ 」とし,選択的に除菌することについては特定がない点4取消事由(1)一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由1)(2)本件発明の進歩性に係る判断の誤り(取消事由2)第3当事者の主張1取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について〔原告の主張〕(1)本件発明の認定について本件審決は,本件発明の特許請求の範囲における濃度500ないし700ppmの二酸化塩素水溶液を1反当たり2000ないし2500□ の割合にするという濃度及び撒布割合とは,本件明細書の記載を参酌すると,細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させることであるといえるとする。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には,細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させる旨の記載はないから,本件発明の「選択的に除菌」との記載について,本件明細書全体の記載を参酌して判断し,本件審決のように限定的に認定することは許されない。
確かに,本件明細書【0005】には,「二酸化塩素水溶液を適当な濃度で土壌中に撒布することにより,細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させることができる」との記載があるが,これは,本件発明の作用に関する記載にすぎず,特許請求の範囲において具体的に明記されていない以上,本件明細書の記載を根拠に一致点及び相違点を認定することは許されない。
5本件発明における「選択的に除菌」の技術的意義について,本件審決が認定したように限定的に特定するのであれば,当然,特許請求の範囲においてそのように特定された意味で「選択的に除菌」する旨が明記されるべきであるし,少なくとも,本件明細書の発明の詳細な説明において,「選択的に除菌」について定義されるべきである。本件明細書においては,かかる記載自体,一切存在しない。
以上からすると,本件発明における「選択的に除菌」とは,本件審決のように限定的に解釈することはできず,むしろ,菌を死滅させる場合を含む広い意味で理解すべきであって,当業者の一般的理解である「土壌中の微生物を選択的に除菌する」全ての場合を広く意味するものであるというべきである。
(2)一致点及び相違点の認定についてア引用例2の認定について引用例2にも,実施例1における「菌コロニーの生成は認められなかった。」「107個/g(±)の菌が認められた。」との記載や,参考実験例における「菌糸は依然10?で成長が認められなかった。」「菌糸は43?まで成長した。」との記載からすると,土壌の活性化方法の技術分野における「選択的に除菌」に該当する技術思想が開示されているものということができる。
一致点の認定について以上からすると,「選択的に除菌」についても,本件発明と引用発明2との一致点として認定しなかった本件審決の判断は,誤りである。
相違点の認定について本件審決は,相違点3において,引用発明2には,「選択的に除菌」することについては特定がないとするが,当該構成は,引用例2においても開示されている以上,本件審決の相違点3の認定は誤りである。
したがって,相違点3については,「選択的に除菌することについては特定がない」という点を除くべきである(以下,当該部分を除いた相違点3について,「原告主張相違点3」という。)。
6(3)小括以上からすると,本件審決は,本件発明の認定を誤った上,引用発明2との対比において,一致点及び相違点3についての認定を誤ったのであるから,本件審決はそれ自体で取消しを免れない。
〔被告の主張〕(1)本件発明の認定について本件審決は,本件発明の特許請求の範囲における「土壌中の微生物を選択的に除菌」の技術的意義を明らかにするに当たり,本件明細書の記載を参酌したものにすぎない。
また,本件審決は,本件発明の「選択的に除菌」とは,「土壌中の微生物を選択的に除菌する」ことを広く意味するものであると判断しているものであるから,本件審決の本件発明の認定については,何らの誤りはない。
(2)一致点及び相違点の認定についてア引用例2の認定について引用発明2は,土壌殺菌法に関する発明であるところ,引用例2の実施例1は,二酸化塩素ガス含有空気により処理した場合,土壌中の菌が全て死滅し,処理をしない場合,菌が死滅していないという相違が見られるものであって,選択的に除菌を行っているものではない。本件審決も,同様の認定をしているものである。
また,原告が指摘する引用例2の参考実験例については,本件審決は直接言及していないが,同実験例も,二酸化塩素ガス含有空気を導入した場合,菌糸の全てが死滅しているが,通気処理をしない場合,菌糸が死滅していないという相違が見られるものであって,何ら選択的に除菌が行われているものではない。
以上のとおり,引用例2には,二酸化塩素ガスによる処理を行ったか否かにより,菌糸が死滅したか,残存したかについて開示するものであって,選択的な菌糸の除菌(殺菌)について開示しているものではなく,また,これを示唆する記載もない。
したがって,引用例2においても,「選択的に除菌」に該当する技術思想が開示7されているものということができるという原告の主張は誤りである。
イ一致点及び相違点の認定について以上からすると,本件発明と引用発明2との一致点において,「選択的に除菌」することを一致点として認定しなかった本件審決には,何らの誤りはない。
本件審決の相違点3の認定も,同様に何らの誤りはない。
(3)小括以上からすると,本件審決における本件発明の認定,一致点及び相違点3についての認定は,いずれも相当であって,原告主張の取消事由1は誤りである。
2取消事由2(本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について〔原告の主張〕(1)相違点1についてア二酸化塩素を含有する剤について,引用発明2の「二酸化塩素ガス」に代えて,「二酸化塩素水溶液」を用いることは,二酸化塩素が水溶液として安定しており,殺菌剤等として種々の用途に用いられることが周知(周知例2)であることから,当業者が容易に想到することである。しかも,気体状態で用いるか,水溶液の状態で用いるかは,当業者が適宜選択する事項にすぎない。
周知例1には,微生物の除菌について,二酸化塩素を有効成分とする赤腐れ菌又は青海苔の防除剤が開示されているのみならず,「本発明の防除剤の有効成分である二酸化塩素は,水溶液として安定で,値段も安く,アメリカでは食品添加物として認可され,安全性が認められている。」「二酸化塩素が赤腐れ菌だけでなく海苔葉体表面に付着する糸状菌などを防除し」との記載は,「土壌中の微生物の除菌」について,引用発明2の「二酸化塩素ガス」に代えて,「二酸化塩素水溶液」が有効である点を示唆するものというべきである。
引用例2にも,二酸化塩素が水溶液の状態等において収穫農作物やハウス内作物の除去,殺菌に用いられているが,土壌を処理することについてはいまだ報告されていないこと,二酸化塩素ガスを用いた場合,非常に速効性があり,殺菌後,ガス8は分解して無害の塩化ナトリウムに変化する等の記載があることからすると,二酸化塩素水溶液の適用について示唆的な記載があるものと認められる。
イ本件明細書によると,本件発明の効果は,従来のように,人体に悪影響を及ぼすガスの放散を防ぐために土壌の表面を覆うような手数が不要となり,手軽に撒布するだけで土壌中に容易に浸透して除菌することができる上,水溶液であるために有害なガスの発生もなく安全に作業することができ,更に,選択的除菌のため,容易かつ正確にその濃度を調整できることなどとされているが,これらはいずれも引用発明2の「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えたことによる作用・効果にすぎない。
ウ以上からすると,相違点1の構成は,引用発明2に周知技術1及び2を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができるものというべきである。
(2)相違点2について前記のとおり,引用例2並びに周知例1及び2により,二酸化塩素水溶液を土壌における除菌に用いる技術思想が開示されていたものということができる以上,相違点2についても,当事者が容易に想到することができるものというべきである。
(3)相違点3についてア「選択的に除菌」については,引用例2においても開示されており,本件発明と引用発明2との一致点に含まれることは,取消事由1において先に主張したとおりである。
また,引用例1には,殺菌剤(アルカリ化剤)を撒布することにより,土壌中の糸状菌の繁殖を抑制し,放線菌の繁殖を助長すること,すなわち,糸状菌の一部は死減し,一部は活動が抑制され,それまで活発な糸状菌の繁殖によって押さえられていた放線菌の繁殖が活発化される旨が記載されているから,引用例1においては,土壌中の微生物の一種である糸状菌が選択的に除菌されることが開示されている。
したがって,仮に,「選択的に除菌」について,本件審決と同様に限定的に理解するとしても,いずれにせよ,かかる技術思想は引用例1において開示されている9ものということができる。
イ「土壌中の微生物を選択的に除菌」することは,当業者にとって,常識的な目的にすぎないところ,本件発明における二酸化水素水溶液の濃度と撒布割合は,土壌中の微生物を選択的に除菌するための必須の要件ということができる。
また,本件明細書における「土壌中の微生物を選択的に除菌」とは,糸状菌の残存率を意味するものである。
そして,当業者が,引用発明2における「二酸化塩素ガス」の使用による欠点を,「二酸化水溶液による糸状菌の防除」に関する周知例1や2によって周知の「二酸化塩素水溶液」を用いることにより得られる作用・効果の有用性に関する知見に接し,これを適用するに当たり,二酸化塩素濃度の最適範囲を設定することは,当業者が適宜決定する事項にすぎない。
また,二酸化塩素の水溶液の撒布割合は,その濃度と相関関係を有することは明らかであり,撒布割合の最適範囲を設定することもまた,当業者が適宜決定する事項にすぎない。
ウ以上からすると,原告主張相違点3の構成は,引用発明2に周知技術1及び2を組み合わせることにより,当事者が容易に想到することができるものというべきである。
(4)小括以上からすると,引用発明2に,引用例1,周知例1及び2において開示された知見を組み合わせて本件発明に到ることは,当業者にとって容易であり,本件発明は,無効とされるべきである。
なお,本件特許の出願経過において,二酸化塩素の水溶液を用いること及び二酸化塩素の最適濃度が設計事項にすぎないことについては,拒絶理由通知(甲16の2)及び拒絶査定(甲7)にて,それぞれ同様の指摘がされていた。
したがって,本件審決においても,上記の出願経過を斟酌し,同様の判断をすべきであったというべきである。
10〔被告の主張〕(1)相違点1についてア二酸化塩素は,二酸化塩素ガスとして用いられたり,二酸化塩素水溶液として用いられたりすることがあるが,仮に,引用発明2の「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えて用いたとしても,引用例2には「土壌中の微生物を選択的に除菌する」という技術思想が,何ら開示も示唆もされていない。
イ本件明細書には,原告が主張するとおり,本件発明においては,土壌の表面を覆うような手数が不要で,手軽に撒布するだけで有害なガスの発生もなく安全に作業することができ,選択的除菌のため,容易かつ正確にその濃度を調整できる等の優れた利点を有する等の記載がある。
これに対し,引用発明2は,ガス状の二酸化塩素を使用するものであるから,二酸化塩素ガス処理を行う前に,土壌表面を非通気性シートで覆い,このシートと土壌との間に二酸化塩素ガス含有空気を吹き込み,ガスが漏れないようにして土壌を殺菌するものであり,かかる方法による場合,引用発明2の実施例のように,1.5?程度の狭い畑地では容易に実施可能かもしれないが,本件発明が想定する何反歩もの畑地などの広い土壌において実施することは,極めて煩雑で,膨大な作業量を要し,吹込み量が全体として多くなることから,人体に対する危険性の増大をも伴うものである。
以上のとおり,本件発明と引用発明2とにおいては,除菌に使用する二酸化塩素について,単に,概念上,ガス状であるか,水溶液状であるかとの相違があるだけではなく,植栽土壌の殺菌,活性化方法の分野において,格段の作用効果の相違が存在するものというべきである。
したがって,相違点1の構成は,引用発明2に周知技術1及び2を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができるということはできない。
(2)相違点3についてア二酸化塩素ガス又は二酸化塩素水溶液によって土壌中の微生物を選択的に除11菌するという技術思想は,引用例1,周知例1及び2にも何ら開示されていない。
二酸化塩素により,土壌中の微生物を選択的に除菌するという概念が開示されていない技術水準において,「選択的に除菌」することを前提とした上で,「二酸化塩素水溶液による土壌中の微生物を選択的に除菌」することを可能とする「二酸化塩素水溶液の濃度」及び「撒布割合」について,当業者が容易に想到することができるものということはできないし,まして,二酸化塩素水溶液の500ないし700ppmという具体的濃度及び1反当り2000ないし2500□ の割合で土壌に撒布するという具体的撒布割合について,当業者が容易に想到することができるものということはできないことも明らかである。
イ引用例1には,土壌中の微生物である糸状菌が選択的に除菌される点が記載されているが,引用発明1は,「水酸化カルシウム」「酸化カルシウム」などのアルカリ化剤を撒布する方法を用いるものであり,本件発明とは除菌の手段が全く異なるものである。
そして,アルカリ化剤についての撒布濃度,撒布量などは,撒布直後の土壌のpHを規制することによって行うものであるところ,引用発明1は,当該規制により選択的に除菌を行うものであるから,二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合を特定範囲とすることにより選択的に除菌を行う本件発明とは,その課題解決手段が全く異なるものである。
以上からすると,引用例1が,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定を何ら示唆するものではないことも明らかである。
(3)小括したがって,本件発明について,引用発明及び周知技術に基づいて容易に発明をすることができたものということはできないとした本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1取消事由1(一致点及び相違点の認定の誤り)について(1)本件発明の認定について12ア本件明細書(甲1)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
(ア)本発明は,土壌中の微生物を選択的に除菌してその活性化を図るようにした植栽用土壌の活性化方法に関するものである。
土壌中には,植物病原性微生物である糸状菌や,糸状菌を抑制して植物の病気感染を防ぐ放線菌及び窒素を固定して肥料とする細菌等の微生物が生息しているが,土壌処理に用いる除菌剤の殺菌力が弱いと,有害な菌を十分に除くことができず,また,強力な除菌剤では植栽に有効な菌までも除去してしまう欠点があった。
その上,従来の各種除菌剤は刺激臭が強く,人畜にも有害なものがあり,ビニールシートで土壌を覆ってその間に使用しなければならない等,農作業上の面からも問題があった。
(イ)本発明の目的は,植栽上有効な菌を十分に土壌中に残存せしめ,有害な菌を選択的に除去して土壌を活性化するとともに,臭気が少なく,人畜に無害な植栽用土壌の活性化方法を提供することである。これらの目的は,特定濃度範囲の二酸化塩素水溶液を有効成分とする土壌活性化除菌剤を撒布することにより達成できる。
(ウ)二酸化塩素は,非常に水に溶けやすく,強力な酸化作用があるが,低濃度で使用すれば安全であるから,二酸化塩素水溶液を適当な濃度で土壌中に撒布することにより,細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させることができる。
(エ)本発明の実施例として,濃度6万ppmの二酸化塩素水溶液20□ を約2000□ の水により希釈し,作成した濃度約600ppmの二酸化塩素水溶液を土壌1反当り約2000ないし2500□ の割合で撒布した。撒布後,二酸化塩素がほぼ消失するまで約2週間放置し,土壌を乾燥させた後,施肥し,植物を栽培した。
その結果,植栽に有効な細菌は,処理前が土壌1g当り,2200万個であったものが3万9000個に減少し,放線菌は430万個から2万4000個に減少しているが,この程度の残存数では植栽上有効であって大きな悪影響はないのに対し,有害な菌である糸状菌は処理前の10万個から60個に著しく減少し,十分に土壌13の活性化が行われた。残存率は,細菌が約17.7%,放線菌が約55.8%,糸状菌が約6%であった。この土壌を1例として苗床に使用して野菜の栽培を行ったところ,極めて良好な結果が得られた。
これに対し,約500ppmの二酸化塩素水溶液で除菌処理した場合,土壌中の糸状菌の残存率が上記600ppmの場合の約2倍となり,十分な除菌効果が得られなかった。また,約700ppmの二酸化塩素水溶液の場合,植栽に有効な上記細菌や放線菌まで除菌されてしまい,活性化の目的を達成することができなかった。
(オ)本発明は,濃度500ないし700ppmの二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することにより,植栽に有効な細菌及び放線菌を比較的多量に土壌中に残存せしめるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少せしめて土壌の活性化を行い,作物の成育に極めて良好な結果を得ることができ,また二酸化塩素は水に非常に溶けやすく,本発明においてはその水溶液を使用したので,従来,土壌の殺菌に使用されているクロルピクリンのように,人体に悪影響を及ぼすガスの放散を防ぐために土壌の表面を覆うような手数が不要となり,手軽に撒布するだけで土壌中に容易に浸透して除菌することができる上,有害なガスの発生もなく安全に作業することができ,更に,選択的除菌のため,容易かつ正確にその濃度を調整できる等の優れた利点を有している。
イ本件発明の技術内容以上の本件明細書の記載によると,本件発明は,人体に悪影響を及ぼすガスに代わり,人畜無害な特定濃度の二酸化塩素水溶液を一定範囲の土壌に撒布するという簡易な方法によって,植栽に有効な細菌及び放線菌については,有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させて,土壌を活性化することをその技術内容とするものである。
ウ「選択的に除菌」の意義について上記イの本件発明の技術内容によると,特許請求の範囲における「土壌中の微生物を選択的に除菌」の技術的意義は,植栽に有効な細菌及び放線菌を有効量,土壌14中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させることを意味するものと理解することができる。
この点について,原告は,本件発明の特許請求の範囲には,「細菌,放線菌等の菌は有効量残存させ,糸状菌等の植栽に有害な菌は著しく減少させる」旨の記載がない以上,特許請求の範囲に記載されている「選択的に除菌」について,本件明細書全体の記載を参酌して,本件審決のように限定的に解釈することはできず,むしろ,菌を死滅させる場合を含む広い意味において理解すべきであるなどと主張する。
しかしながら,本件発明の特許請求の範囲には「選択的に除菌」と記載されているところ,本件審決は,本件発明について,その記載のとおり認定しているにすぎないのであって,本件発明と引用発明との対比の際,特許請求の範囲の文言の技術的意義を明らかにするために,本件明細書の発明の詳細な説明に記載された技術的事項を参照してそのように認定することに問題はない。とりわけ,本件発明が植栽用土壌の活性化方法であることに照らせば,「選択的に除菌」という構成の技術的意義を検討するに当たり,「選択」という用語自体から,植栽用の土壌を活性化させるため,有益な菌は残存させ,有害な菌については,これを選んで除菌する技術思想が示唆されているということができるから,本件審決は,その意義を明らかにするため,本件明細書の記載を参照しているにすぎないことが明らかである。
原告の主張は,本件発明の特許請求の範囲に記載されている「選択的に除菌」について,これを「菌を死滅させる場合を含む広い意味で」理解し得ることが一義的に明確であることを前提とするが,「選択的に除菌」の意味を全ての菌を死滅させる場合を含む概念と理解することは相当ではなく,原告の主張は,その前提において誤りがあるから,これを採用することができない。
(2)一致点及び相違点の認定についてア引用例2の認定について引用例2(甲4)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用発明2の特許請求の範囲は,以下のとおりである。
15【請求項1】土壌表面を非通気性シートで覆い,シートと土壌との間に二酸化塩素ガス含有空気を吹き込むことを特徴とする土壌殺菌法【請求項2】二酸化塩素ガス含有空気の二酸化塩素ガス濃度が10ppbないし100ppmであり,吹込量が?当たり20ないし300□ であることを特徴とする特許請求1項記載の土壌殺菌法(イ)本発明は,細菌に汚染された土壌,特に,ハウス内で使用した土壌の殺菌消毒法に関するものである。
ハウス内土壌は細菌が繁殖しやすく,減収の予防と作業者の健康対策のため,次の作付けに先立ち,土壌の殺菌を行う必要がある。
臭化メチルやクロルピクリン等の殺菌性薬剤による殺菌方法は,強い毒性を有する薬剤を用いるため,作業時における作業者及び付近住民並びに河川や地下水に対する薬害を防止する必要があるのみならず,残留薬品のガスを消散させる必要性や,繰り返し使用による耐性菌の出現などの課題がある。
(ウ)本発明は,二酸化塩素ガスで土壌を処理することにより,短時間の作業で確実に殺菌を行うことができるものである。
二酸化塩素は,水溶液やこれを担持させた粉体を用いて,収穫農作物やハウス内作物の殺菌を行うことが知られているが,土壌を処理することについてはいまだ報告されていない。
二酸化塩素ガスを用いた場合,非常に速効性があり,殺菌後,分解して無害の塩化ナトリウムに変化するという特徴がある。
(エ)土壌表面を覆うための非通気性シートは,通常,農業に使用するマルチングシートの孔のないものがよく,例えば,ポリエチレンシート,ポリ塩化ビニルシートなどを使用することができる。
二酸化塩素ガス含有空気の二酸化塩素ガス濃度は,10ppbないし100ppmが適当であるが,10ppbより低濃度では効果が低く,100ppmより濃いと無駄に消費される率が高くなり,不経済である。全吹込量としては,?当たり2160ないし300□ 程度が適当である。
(オ)本発明の土壌処理法は,処理に要する薬剤費用が低廉であるとともに,処理時間が短く,処理後のガス抜き作業が不要で,薬剤の悪影響もなく,極めて合理的である。また,同時に土壌中の有害虫類等も駆除できる。
(カ)本発明の実施例として,二酸化塩素ガス含有空気において土壌殺菌した培地において4日間静地培養したが,菌コロニーの生成は認められなかった。同じ土質の畑地で,二酸化塩素ガス含有空気による土壌殺菌をしない培地において,同様の検定を行ったところ,4日間で107個/g(±)の菌が認められた。
参考実験例においても,二酸化塩素ガス含有空気を導入通過させたデシケーターにおいては,4日後,菌糸は実験前の10?から成長が認められなかったが,導入通過させなかったデシケーターにおいては,4日後,菌糸は43?まで成長した。
イ引用発明2の技術内容以上の引用例2の記載によると,引用発明2は,細菌に汚染された土壌の殺菌について,臭化メチルやクロルピクリン等の強い毒性を有する薬剤を用いることによる薬害,残留薬品のガスを消散させる必要性,繰り返し使用による耐性菌の出現などの課題を解決するために,速効性があり,人畜無害な二酸化塩素ガス含有空気を,土壌を覆った非通気性シートと土壌との間に吹き込むことにより,土壌中の菌を殺菌することをその技術内容とするものである。
一致点の認定について前記イのとおり,引用発明2も,植栽用の土壌中の細菌を除菌して活性化するという本件発明と同一の技術分野に属し,本件発明が二酸化塩素水溶液を用いるのに対し,引用発明2は,気体の状態の二酸化塩素を用いる点で異なるものの,二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布する点については共通するものである。
以上からすると,本件発明と引用発明2との一致点について,「二酸化塩素を含有する剤を土壌に撒布することにより土壌中の微生物を除菌し,当該土壌を植栽に使用することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法」とした本件審決の判断には,17何らの誤りはない。
この点について,原告は,本件発明の「選択的に除菌」の技術的意義は,菌の死滅をも含んだ広い概念であり,引用例2においても開示されていることを前提に,「選択的に除菌」についても,一致点として認定しなかった本件審決の判断は誤りであるなどと主張するが,その前提自体が誤りであることは,先に指摘したとおりである。
また,引用発明2は,土壌中の菌を殺菌することを技術内容とするものの,植栽に有効な細菌及び放線菌を有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させることを実現する発明ではないから,引用例2において,「選択的に除菌」についての技術思想が開示されているものではない。
いずれにしても,原告の主張は採用することができない。
相違点の認定について原告は,本件審決が,「選択的に除菌」を一致点として認定しなかったことが誤りであることを前提に,相違点3において,「選択的に除菌」についても相違点として認定したことを,誤りであると主張する。
しかしながら,その前提自体が誤りであることは,一致点の認定について先に指摘したとおりであって,本件審決には,相違点を看過した誤りはない。
したがって,原告の主張を採用することはできない。
(3)小括以上からすると,本件審決における本件発明の認定,本件発明と引用発明2との一致点及び相違点の認定については,何らの誤りは認められない。
2取消事由2(本件発明の進歩性に係る判断の誤り)について(1)相違点1についてア引用例における二酸化塩素に関する記載は,以下のとおりである。
(ア)周知例1(甲5)は,赤腐れ菌又は青海苔の防除剤に関する発明についての文献であるところ,同文献には,海苔養殖において,赤腐れ菌又は青海苔を防除18するために,二酸化塩素水溶液に海苔網を浸漬したり,液を網に撒布することが有効であること,同発明の防除剤を海苔葉体に使用すると,二酸化塩素が赤腐れ菌だけではなく,海苔葉体表面に付着する糸状菌などを防除することが開示されている。
(イ)周知例2-1(甲6の1)は,二酸化塩素発生組成物及びその包装体に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,消毒剤,殺菌剤等として広く使用されているが,取扱困難で不安定かつ危険物であることから,二酸化塩素含有組成物を製造する方法の研究がされていたこと,同組成物は,輸送又は貯蔵中の農産物,水産物及び畜産物の保護剤として有効で,効果的にバクテリアを殺滅し,かつ,菌類の成長を抑制することができること,現在使用されている二酸化塩素水溶液の濃度は5万ppmであるが,使用目的に応じて濃度を変化させる必要があることなどが開示されている。
(ウ)周知例2-2(甲6の2)は,二酸化塩素のゲル化物及びその製造方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は常温において気体で,水に溶解しやすい性質を有しており,一般に漂白剤あるいは殺菌剤として広い用途を有していること,二酸化塩素を水溶液にして,安定化物質を混合したものはよく知られていることが開示されている。
(エ)周知例2-3(甲6の3)は,安定化二酸化塩素の製造法及びこれによる消臭,殺菌剤に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,パルプ等の漂白,殺菌剤,脱臭脱味剤としての用途があることが開示されている。
(オ)周知例2-4(甲6の4)は,粉末状態の二酸化塩素組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化剤であり,消毒剤,殺藻剤,殺菌剤などとして使用されていることは周知であること,二酸化塩素は取扱困難で不安定かつ危険物であることから,必要に応じて容易かつ安全に使用できる二酸化塩素含有組成物として,二酸化塩素を含む安定な水溶液が開発されたが,植物又はその一部を菌類の侵食から保護する目的においては使用困難であり,19高濃度の二酸化塩素が植物等に付着する危険性があることから,不適当であること,二酸化塩素ガスは,果実又は野菜に残留することなく効果的にバクテリアを殺滅し,かつ菌類の成長を抑制すること,実質的に乾燥状態の粉末個体組成物は,安定な二酸化塩素溶液等に塩基性吸着剤を十分に混合することにより製造できるところ,この混合操作は,溶解状態の二酸化塩素が例えば約100ないし6万ppm,好ましくは約5000ないし5万ppm吸着されるように実施されるべきであることが開示されている。
(カ)周知例2-5(甲6の5)は,二酸化塩素ガスを緩慢に発生する組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,微量の二酸化塩素が脱臭剤,防腐剤,殺菌剤等として有効であることは周知であること,二酸化塩素ガスを使用する場合,目的に応じて適切な濃度に保つことが重要であること,二酸化塩素を含む水溶液がアルカリ領域で安定であること,酸性領域において活性化して二酸化塩素ガスを発生することが開示されている。
(キ)周知例2-6(甲6の6)は,安定化二酸化塩素水溶液の製造法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化能力により,殺菌作用,消臭作用,漂白作用などを有すること,発生させた二酸化塩素をアルカリ水溶液に吸収させて安定化することが行われており,かかる安定化二酸化塩素水溶液は,殺菌剤等として有用であること,実施例において,亜塩素酸ナトリウムを,その濃度が約2万ppmになるよう水溶液を調製し,次亜塩素酸ナトリウムを加える等して作成した製剤について,一般細菌及び大腸菌に対する殺菌効果を試験したところ,いずれも99.99%の除菌率であったことなどが開示されている。
(ク)周知例2-7(甲6の7)は,二酸化塩素ガスの緩慢な発生方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化力を有しており,殺菌剤等として使用されていること,これらの用途のために,安定化二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガスを発生する粉末状若しくは粒状の組成物が業務用又は一般家庭用として市販されていることなどが開示されている。
20(ケ)周知例2-8(甲6の8)は,二酸化塩素ガス発生組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化力を有しており,殺菌剤等として使用され,工業用には大規模装置が種々開発されていることが開示されている。
(コ)周知例2-9(甲6の9)は,二酸化塩素ガス発生器及びそのガス発生速度調節方法に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は強い酸化剤であり,優れた漂白力と殺菌力とを備え,パルプの漂白剤,工業用排水中のフェノール分の除去や排煙脱硝等の環境保全,公害防止の分野にも広く使用されるほか,上水道の殺菌剤としても使用されていること,水溶液である安定化二酸化塩素は,二酸化塩素ガスと同様の利点を有するものの,危険性を有さないので,消毒剤,殺菌剤等として広く利用されていることなどが開示されている。
(サ)周知例2-10(甲6の10)は,二酸化塩素ガスの発生方法及びその装置に関する発明についての文献であるところ,同文献には,二酸化塩素は,その有する非常に強い酸化力を利用して,家庭用及び工業用の殺菌剤等として利用されていること,近年,家庭用の脱臭・消臭剤としての用途が着目され,二酸化塩素を安定して少量ずつ継続的に発生させるために,安定化二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガスを発生する粉末状や粒状の組成物が一般家庭用として開発されていることが開示されている。
(シ)周知例2-11(甲6の11)は,消臭組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,近年,安定化二酸化塩素液等が消臭剤として使用され始めたこと,消臭効果の持続性の観点からは,1000ないし5万ppmの範囲内で用いることが好ましいことなどが開示されている。
(ス)周知例2-12(甲6の12)は,二酸化塩素揮散性組成物に関する発明についての文献であるところ,同文献には,近年,安定化二酸化塩素液が二酸化塩素の発生剤として,各種用途に用いられていることなどが開示されている。
(セ)以上からすると,本件特許の出願当時,海苔養殖における赤腐れ菌又は青21海苔の防除剤,消毒剤,殺菌剤,農産物・水産物・畜産物の保護剤,漂白剤として,二酸化塩素水溶液や二酸化塩素ガス含有空気を用いることができることは,周知技術であったということができる。
イ本件発明は,二酸化塩素水溶液を土壌に用いることにより,植栽に有効な細菌及び放線菌については,有効量,土壌中に残存させるとともに,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に著しく減少させて,土壌を活性化することをその技術内容とするところ,上記周知例1及び2においては,二酸化塩素水溶液が防除剤,殺菌剤等として利用できることが開示されているものの,これを土壌の活性化という技術分野において利用することについて開示するものではない。
しかも,いずれも本件発明のように,植栽に有効な細菌等については有効量残存させ,植栽に有害な糸状菌だけを選択的に減少させるという「選択的に除菌」するという技術思想を前提とするものではない。
したがって,当業者が,植栽用土壌の活性化のために「選択的に除菌」するという技術思想を前提としない引用発明2における「二酸化塩素ガス含有空気」を,同じく「選択的に除菌」という技術思想を前提としない周知技術1及び2に基づき,「二酸化塩素水溶液」に代えることは,容易に行い得ることであると認めることはできない。
この点について,原告は,引用例2及び周知例1には,「土壌中の微生物の除菌」について「二酸化塩素水溶液」が有効であることを示唆する記載がある,本件明細書記載の本件発明の効果は,いずれも引用発明2の「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えたことによる作用効果にすぎないことなどから,「二酸化塩素ガス」を「二酸化塩素水溶液」に代えることは,設計事項にすぎないなどと主張する。
しかしながら,引用例2は,二酸化塩素水溶液による土壌処理はいまだに報告されていないと指摘した上で,二酸化塩素ガス含有空気による土壌処理に関する発明を開示しているものであるから,むしろ二酸化塩素水溶液を土壌処理に利用するこ22とについては否定的であって,そのような利用は示唆されていないというべきである。
また,周知例1は,海苔養殖における赤腐れ菌又は青海苔の防除剤として,二酸化塩素水溶液に海苔網を浸漬したり,液を網に撒布したり,あるいは海苔葉体に使用することを前提としており,土壌の活性化という本件発明とは技術分野が大きく異なるものであるのみならず,有害な菌を防除することのみをその目的としているものであって,有益な菌を有効量残存させるという「選択的に除菌」という概念を前提としているものではない。
さらに,原告は,本件発明の効果が,二酸化塩素ガス含有空気を二酸化塩素水溶液に代えた作用効果にすぎないという理由については,拒絶査定(甲7)にその旨の記載がある点を指摘するほか,具体的に主張立証しないところ,本件明細書によると,本件発明の「選択的に除菌」という効果は,二酸化塩素水溶液を使用したことのみならず,本件発明で特定された濃度及び撒布割合に従って撒布することによって奏するものということができる。
原告の主張は,いずれも,これを採用することができない。
(2)相違点3についてア引用例1について引用例1(甲3)の記載を要約すると,以下のとおりとなる。
(ア)引用発明1の特許請求の範囲は,以下のとおりである。
土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようアルカリ化剤を撒布して放置期間を設けることを特徴とする土壌改良方法(イ)本発明は,土壌改良方法に関するもので,土壌中の生態系を整えることによって,土壌改良を行う方法に関するものである。
従来,農地の土壌は,一般に中性から弱酸性であることが好ましいとされており,かかる観点から土壌の状態を適正に保つことが行われている。
また,土壌の良否は,土壌中の生態系によって大きな影響を受けると言われてお23り,特に土壌中に生存する放線菌と糸状菌との割合が,ほぼ7:3であることがよい状態であるとされている。
しかしながら,土壌のpH値は適正であるにもかかわらず,生育不良や収穫量の減少を招くこともあり,また,土壌中の放線菌と糸状菌の生存割合は,具体的な調製手段がないため,ほとんど行われていないのが現状である。
土壌のpH値は適正であるにもかかわらず,よい結果とはならない原因は,放線菌と比較して糸状菌が異常に多くなっていることにあるようである(ウ)本発明は,土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようアルカリ化剤を撒布して放置期間を設けることにより,放線菌と糸状菌との割合を適切に調整し,土壌を改良するものである。
アルカリ化剤(水酸化カルシウム,酸化カルシウム等)は,粉粒状のものでも,水溶液状のものでもよい。アルカリ化剤による土壌のアルカリ化は,糸状菌の繁殖抑制により放線菌の繁殖を助長するもので,この撒布直後の土壌のpH値が低すぎると,糸状菌の繁殖が十分抑制できず,放線菌の繁殖を効果的に促すことができない。逆に高くしすぎると,放線菌の繁殖をも抑制してしまいやすくなる。
アルカリ化剤を撒布後の放置期間は,5ないし10日,好ましくは7ないし10日である。この放置期間中に,土壌中で放線菌が繁殖して増大し,放線菌と糸状菌のバランスが適正に調整されるほか,高いpH値も,土中の二酸化炭素によって自然と中和されて徐々に低下し,作物の作付けに支障がない値になる。
(エ)土壌を一時的に高いpH値とすることにより,放線菌と糸状菌とのバランスが回復される理由は必ずしも明らかではないが,放線菌は比較的アルカリに強い菌が多いのに対し,糸状菌は比較的アルカリに弱い菌が多いためであると推測される。
したがって,土壌がある程度高いpH値になると,糸状菌の一部は死滅し,一部は活動が抑制されることになり,それまで活発な糸状菌の繁殖により押さえられていた放線菌の繁殖が活発化され,両者のバランスが回復されるものと考えられる。
24(オ)したがって,本発明によると,土壌中の放線菌と糸状菌との割合を適正なバランスに調整することができ,生態系の乱れによる作物への悪影響を防止できるので,作物の収穫量の増大を図ることができるものである。
イ引用発明1の技術内容以上の引用例1の記載によると,引用発明1は,土壌中に生存する放線菌と糸状菌との割合を,作物の生育に適切な状態にするために,土壌に,撒布直後のpHが9ないし13となるようにアルカリ化剤を撒布して放置期間を設け,糸状菌の繁殖を押さえることにより,放線菌の繁殖が活発化され,放線菌と糸状菌との割合を適正なバランスに調整することを,その技術内容とするものである。
したがって,引用例1には,土壌を特定範囲のpH値となるようにアルカリ化剤を撒布することにより,植栽に有益な放線菌については土壌中に有効量残存させ,有害な糸状菌については除菌するという「選択的に除菌」する技術思想が開示されているものということができる。
ウ組合せの容易性について本件発明は,二酸化塩素水溶液を,特定の範囲の濃度で,特定の撒布割合において土壌に撒布することにより,「選択的に除菌」することを技術思想とするところ,引用例2には,二酸化塩素ガス含有空気がいかなる機序において殺菌作用を奏するかについて具体的な記載がないが,周知例2によると,二酸化塩素水溶液がアルカリ領域で安定であること,酸性領域において活性化して二酸化塩素ガスを発生すること,二酸化塩素は,強い酸化力を有することから,殺菌剤として利用されていることが周知であることからすると,引用発明2は,二酸化塩素の酸化力を利用して,土壌中の全ての菌を対象として殺菌を行うことをその技術思想とするものといえる。 本件明細書にも,二酸化塩素が「強力な酸化力」を有する旨の記載があることからすると,本件発明も,二酸化塩素の酸化力により,除菌を行うものということができる。
これに対し,引用発明1は,通常であれば中性から弱酸性であることが好ましい25とされる植栽用の土壌に対し,撒布後に特定範囲のpH値(アルカリ性)となるようにアルカリ化剤を撒布することにより,糸状菌を選択的に除菌することを技術思想とするものであって,本件発明及び引用発明2とは,植栽用の土壌の改良という技術分野は同一であるものの,その手法が異質であるのみならず,各発明が規定する要件も相当程度異なるものであって,その作用機序は著しく相違するといわなければならない。
したがって,当業者が,引用例1により,アルカリ化剤を用いて実現する「選択的に除菌」という技術思想に関する知見を得たとしても,これを二酸化塩素を含有する剤(二酸化塩素ガス含有空気,二酸化塩素水溶液)を用いる場合,いかなる具体的手段において「選択的に除菌」という技術思想を実現するかについては,不明であるというほかない。
以上からすると,二酸化塩素ガス含有空気の有する酸化力を用いて植栽用の土壌を殺菌する引用発明2において,引用例1により開示されたアルカリ化剤を用いることによる「選択的に除菌」という技術思想を組み合わせることにより,相違点3の構成に到ることは,当業者が容易に行い得ることであるものと認めることはできない。
この点について,原告は,「選択的に除菌」については,引用例1において開示されている,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定は,当業者が適宜決定する事項にすぎないなどと主張する。
しかしながら,引用例1及び2並びに本件発明の有する技術思想の相違を前提とすると,引用例1において,土壌のアルカリ化による「選択的に除菌」なる技術思想が開示されていたとしても,引用例2に当該技術思想を組み合わせる動機付けが認め難いことは,先に指摘したとおりである。
また,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定については,その前提として,相違点1の判断において先に指摘したとおり,引用発明2における二酸化塩素ガス含有空気に代えて,二酸化塩素水溶液を用いること自体,26当業者が容易に行い得ることであるものとは認められず,また,選択的に除菌するという技術思想を組み合わせることも,当業者が容易に行い得ることであるものともいえない以上,二酸化塩素水溶液を用いて選択的に除菌を行うために,二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する本件発明で特定された濃度及び撒布割合を設定することが,単なる設計事項であるとはいえないことも明らかである。実際,二酸化塩素水溶液又は二酸化塩素ガス含有空気等に関する発明である周知技術2においては,消臭効果の持続性の観点などから,一定の濃度などについて開示(周知例2-11等)がされているものの,「選択的に除菌」の観点から,一定の濃度範囲などについて開示されているものではない。引用例1において開示されている数値も,アルカリ化剤撒布直後の土壌のpH値にすぎず,本件発明における二酸化塩素水溶液の濃度及び撒布割合に関する特定については,何らの示唆を与えるものではない。
したがって,原告の主張は採用できない。
(3)小括以上からすると,その余の点について判断するまでもなく,引用発明2を主たる引用発明として引用発明1,周知技術1及び2を組み合わせても,本件発明は,当業者が容易に想到することができるものではなく,本件審決の判断は相当といわなければならない。
なお,原告は,本件特許の出願経過において,二酸化塩素水溶液を用いること及び二酸化塩素の最適濃度が設計事項にすぎないことについては,拒絶理由通知(甲16の2)及び拒絶査定(甲7)にて,それぞれ同様の指摘がされており,本件審決においても,同様の判断をすべきであったとも主張する。
しかしながら,審査段階における拒絶理由通知拒絶査定における認定に,本件審決の判断が拘束される理由はなく,原告の主張は失当である。
しかも,原告が指摘する平成8年4月16日付け拒絶理由通知(甲16の2)は,本件発明の出願当初の特許請求の範囲(【請求項1】二酸化塩素水溶液を有効成分27とする土壌活性化除菌剤,【請求項2】上記二酸化塩素水溶液の濃度は約500ないし700ppmである請求項1に記載の土壌活性化除菌剤)を前提として,二酸化塩素の濃度の最適範囲は,設計事項にすぎないと指摘したものであり,同年8月26日付け拒絶査定(甲7)は,同年6月17日付け補正(甲16の4)後の特許請求の範囲(【請求項1】二酸化塩素の濃度を500ないし700ppmとした二酸化塩素水溶液を土壌に撒布することを特徴とする植栽用土壌の活性化方法)を前提として,二酸化塩素の最適濃度の範囲は,その適用の方法などにより,当事者が適宜決定する事項にすぎないとするものであって,上記拒絶理由通知及び拒絶査定は,いずれも,「選択的に除菌」という技術思想を含む本件発明とは異なる特許請求の範囲を前提とするものである。
したがって,異なる特許請求の範囲を対象としてされた拒絶理由通知拒絶査定を前提とする原告の主張は,この点において,失当というほかない。
3結論以上の次第であるから,原告主張の取消事由はいずれも理由がなく,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光