関連審決 | 無効2009-800205 |
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関連ワード | 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 相違点の認定 / 特許の有効性 / 技術常識 / 技術的意義 / 容易に想到(容易想到性) / 実施 / 加工 / 交換 / 差止請求(差止) / 請求の理由 / 特許無効審決 / 申し立てない理由 / 職権探知 / 職権調査 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10189号
審決取消請求事件
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原告 株式会社エレニックス 訴訟代理人弁理士 三好秀和岩崎幸邦 工藤理恵 被告 株式会社アステック 訴訟代理人弁護士 八幡義博 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2011/02/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた判決特許庁が無効2009-800205号事件について平成22年5月6日にした審決を取り消す。 第2事案の概要特許権者である原告は,被告からの無効審判請求に基づき,特許庁から特許無効審決を受けた。本件はその取消訴訟であり,争点は,特許法153条1項の解釈適用の適否及び容易推考性の存否である。 1特許庁における手続の経緯原告は,平成7年4月18日に,名称を「細穴放電加工機に対する電極,電極ガイド交換方法及び同方法に使用する交換装置,電極ホルダ,細穴放電加工機」とする発明について特許出願をし,平成12年3月31日に,本件特許第3050773号として特許登録を受けた(請求項の数14)。 被告は,平成21年9月25日に,本件特許の請求項13及び14について無効審判請求をしたところ,この請求は,無効2009-800205号事件として特許庁に係属した。原告は,その手続中の平成21年12月10日付けで,上記請求項13を訂正し,請求項14を削除すること等を内容とする本件訂正請求をしたところ,特許庁は,平成22年1月18日付けで職権による無効理由を通知した上,平成22年5月6日に,「訂正を認める。特許第3050773号の請求項13に記載された発明についての特許を無効とする。」との審決をし,その謄本は平成22年5月14日に原告に送達された。 2本件発明(本件訂正による請求項13の発明)の要旨【請求項13】電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして,細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け,電極を挾持固定可能の,体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間に前記コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うシール用弾性部材を介在して設け,かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して,当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにしたことを特徴とする電極ホルダ(イ)シール用弾性部材によるシール(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定3審判において審理された無効理由(1)被告主張の無効理由本件発明は,本件の出願前に頒布された実公平6-34920号公報(甲1)に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (2)職権により通知された無効理由本件発明は,特開平1-246021号公報(引用刊行物1,甲2)に記載された発明(引用発明1)及び特開昭63-120037号公報(引用刊行物2,甲3)に記載された発明(引用発明2)に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 4審決の理由の要点(1)被告主張の無効理由について本件発明は,甲1記載の発明から当業者が容易になし得たものとすることはできず,被告の主張する無効理由は,理由がない。 (2)職権により通知された無効理由について本件発明と引用発明1との間には,次のとおりの一致点と相違点がある。 【一致点】「電極の上端部に装着して使用する電極ホルダにして,細穴放電加工機における主軸に備えたチャックに着脱可能な筒状の外筒にコレット嵌入孔を設け,電極を挾持固定可能の,体部にスリットを形成したコレットを上記コレット嵌入孔に嵌入して設けると共に上記コレット上面とコレット嵌入孔との間にシール用弾性部材を設け,かつ上記コレット下部に形成したテーパ部を締付け可能の螺子部材を前記外筒に調節可能に螺合して,当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにした電極ホルダ,(イ)シール用弾性部材によるシール,(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定」【相違点】「シール用弾性部材に関して,本件発明では,「コレット上面とコレット嵌入孔との間に介在して」と特定し,また,「コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行う」と特定しているのに対して,引用発明1では,コレット10の上面に直接パッキン15を介在させずに,コレット10の上面と嵌入孔との間にパッキン15及びパッキンサポータ9を介在して設け,また,コレット10の外周と嵌入孔内周との間にOリング57を設け,これらパッキン15,Oリング57により嵌入孔とコレット10との間及びコレット10とパイプ電極16の間のシールを行っている点。」引用発明1では,コレット10とパッキン15との間にパッキンサポータ9を介在させているが,一般に別部材を介して押圧するところを別部材を介在させずに直接押圧することは例示するまでもなく従来周知の事項であることからすれば,引用発明1において,パッキンサポータ9を介在させずにコレット10の上面で直接パッキン15を押圧することは当業者が容易になし得たものである。 また,引用発明2は,「細穴加工する放電加工装置におけるコレットシャンク3に嵌入孔を設け,体部にスリットを形成したコレット7を上記嵌入孔に嵌入して設けるとともに,コレット7上面と嵌入孔との間にパッキン10と座金9とスプリング8とによりシール構造を設け,このシール構造により,パイプ電極1の外部へ加工液15が流出することを防止し,かつコレット7の下部に形成したテーパ部を締付け可能のナット2を前記コレットシャンク2に調節可能に螺合して,当該ナット2の締付けによって(イ)パッキン10が押圧されてシールすること,および(ロ)コレット7の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット7とパイプ電極1との間の挟持固定の作用を同時に行うようにしたコレットシャンク。」である。ここで,シール構造におけるシール部材は「パッキン10」であって,パッキン10がコレット7上面に接して設けられていることは明らかであるから,コレット7の上昇によりパッキン10が押圧され,このパッキン10により,コレットシャンク3の嵌入孔とコレット7の間,及びコレット7とパイプ電極1との間のシールを同時に行うものであることは明らかである。そして,引用発明1も引用発明2も,共に細穴加工を行う放電加工における電極保持部に関する技術であるという技術の共通性に鑑みると,コレットの上面に設けられ,コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うパッキン10の構造を,引用発明1に適用し,そのコレット10の上面に設けられたパッキン15により,コレット嵌入孔とコレットの間及びコレットと電極との間のシールを同時に行うものとすることは,当業者が容易になし得たものである。 本件発明によってもたらされる効果は,引用刊行物1及び2の記載から当業者が予測し得る程度のものである。 したがって,本件発明は,引用発明1に基づいて,あるいは,引用発明1及び2に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 第3原告主張の審決取消事由1取消事由1(特許法153条1項の解釈適用の誤り)(1)特許法153条1項は,「審判においては,当事者又は参加人が申し立てない理由についても,審理することができる。」と規定しており,審判における職権探知主義を規定したものと言われている。 しかし,特許無効審判は,当事者対立構造の審理構造をとっているから,基本的には請求人の主張立証に基づいて審理を進めることが適切であり,審判官による無効理由の職権審理はあくまで補完的かつ例外的な場合にとどまるべきものである。 ちなみに,特許庁の「平成15年改正法における無効審判等の運用指針」にも,職権審理の発動を行うのは,補完的かつ例外的な場合にとどめるとされている。 ここにいう補完的な場合とは,例えば当該無効審判事件において申し立てられた複数の証拠の組合せを修正する場合,又は周知事実を補完することなどによって無効理由が構成できる場合である。しかるに,本件においては,被告が実公平6-34920号公報(甲1)に記載された発明のみを根拠としているのに,審判官は上記公報に記載された発明とは全く関係のない引用刊行物1及び2に記載された発明を根拠として,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないと判断しており,補完的な場合には当たらない。 また,本件は,職権探知を行わないことが公益代表としての審判官の観点から容認し難いような事案ではない。すなわち,例外的な事案にも当たらない。 したがって,審決が,職権により通知した無効理由について判断したことは,この条項で規定する審理権の範囲を逸脱するものであって違法である。加えて,他の無効審判事件の審理との関係においても著しく不公平であって失当である。 (2)特許法131条2項は,「特許無効審判を請求する場合における前項第3号に掲げる請求の理由は,特許を無効にする根拠となる事実を具体的に特定し,かつ,立証を要する事実ごとに証拠との関係を記載したものでなければならない。」と規定しており,審判請求書に,請求理由が全く記載されていない場合又は実質的に請求理由が記載されていないに等しい場合には,その審判請求は,不適法な審判請求であって,その補正をすることができないものとしてただちに却下される(同法135条)。被告は,審判請求書に実公平6-34920号公報(甲1)のみを証拠として記載しており,引用刊行物1及び2は記載していない。しかるに,審決が,審判請求書に記載されていない引用刊行物1及び2について判断したことは,請求理由が記載されていないものとして却下すべき請求に基づいて判断したに等しく,ひいては,無効審判請求がないのに職権で本件発明を無効にすべきものと判断したことに相当する。このことは,私人からの請求を待って無効判断をすべきとする私的自治の原則に反し,特許法153条1項の解釈適用を誤ったものであって,違法である。 2取消事由2(容易想到性の存否)(1)引用発明1の認定誤り,これに伴う一致点・相違点認定の誤り審決は,引用刊行物1には,「…また,袋ナット11の締付けにより,(イ)パッキン15によるシール,(ロ)コレット10の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット10とパイプ電極16との間の挟持固定を同時に行うようにした…」発明が記載されていると認定した(17頁27行〜30行)。 しかし,引用刊行物1には,袋ナット11の締付けによりパッキン15を押圧支持することが記載されているだけで,シールについては記載されていない。シールは,袋ナット11の締付けによる上方向の押圧力によるのではなく,加工液の水圧がパッキン15にかかることによる下方向の押圧力によってなされるものである。 また,引用刊行物1には,パイプ電極16はコレット10に把握されていると記載されているだけで,コレット10とパイプ電極16との間の挟持固定をどのようにして行うかについては記載がない。 したがって,審決が引用発明1について上記のとおり認定したことは誤りである。 これに伴い,審決が,本件発明と引用発明1との一致点として,「当該螺子部材の締付けによって下記(イ)および(ロ)の作用を同時に行うようにした電極ホルダ,(イ)シール用弾性部材によるシール,(ロ)コレットの体部に形成したスリットの圧縮によるコレットと電極との間の挟持固定」と認定したことも誤りである。 さらに,上記の点を相違点として認定しなかったことも誤りである。 (2)相違点に関する判断の誤りア審決は,「引用発明1では,コレット10とパッキン15との間にパッキンサポータ9を介在させているが,一般に別部材を介して押圧するところを別部材を介在させずに直接押圧することは例示するまでもなく従来周知の事項であることからすれば,引用発明1において,パッキンサポータ9を介在させずにコレット10の上面で直接パッキン15を押圧することは当業者が容易になし得たものである。」と判断する。この判断は,本件発明と引用発明1とで「袋ナットの締付けによる上方向の押圧」の技術的意義が同一であることを前提とするものである。 しかし,引用発明1においては,上方向の押圧は,パッキン15を取り付けるためだけの押圧であって,シール作用を生じさせるものではない。これに対し,本件発明においては,上方向の押圧は,上方向に押圧することによって弾性部材31を圧縮させ,この圧縮によってコレット27とコレット装着孔25C,貫通孔25Hとの間およびコレット27と電極11との間のシールを同時に行うものである。このように,上方向の押圧の技術的意義が異なる以上,審決の上記判断は誤りである。 イ審決は,引用発明2について,「…当該ナット2の締付けによって(イ)パッキン10が押圧されてシールすること,および(ロ)コレット7の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット7とパイプ電極1との間の挟持固定の作用を同時に行うようにしたコレットシャンク。」であると認定する。 しかし,引用刊行物2には,ナット2に関して,「コレット7をナット2によりコレットシャンク3に取り付ける。」と記載されているだけである。つまり,ナット2による上方向の押圧力はコレット7をコレットシャンク3に取り付けるためにのみ作用するものである。引用刊行物2の第1図のとおり,引用発明2のシール作用は,スプリング8による下方向の押圧力が座金9を介してパッキン10に作用することにより生ずるものである。 また,引用発明2においては,電極ホルダ5とコレットシャンク3との間のシールは,Oリング4により行っている。本件発明には,このようなOリング4に相当するものはない。 したがって,審決の上記認定も誤りである。 第4被告の反論1取消事由1に対し特許法153条1項の規定は,特許を付与するか否かの審査・審理において職権探知が認められている特許庁が行う審判として当然のことである。特許権を付与するということは,その者に実施の独占権を与え,他人の実施に対し差止請求権や損害賠償請求権を認めるという強大な権利を付与することになるものである。したがって,特許されるべきでなかった発明に特許権が付与され存続し続けていることは,同じ技術を実施している者等に不利益をもたらすものであり,特許されるべきでなかったという瑕疵のある特許の存在は極力阻止しなければならない。 いったん特許権を付与したものを,特許庁が無効理由(瑕疵)を発見したからといって,一方的に付与した特許を取り消したり,無効にしたりすることは妥当ではないが,特許無効審判が請求され,当該特許の有効性(瑕疵の有無)の審理が改めて無効審判という俎上に乗せられた以上は,請求人が申し立てた理由のみに限定せず,情報提供,他の事件との関わり,あるいは職権調査等によって審判体が得た情報等が無効理由となり得るようなものであった場合には,これを審理し,その理由によって特許を無効とすべきものである。この場合,同条2項により特許権者にも意見を申し立てる機会があるのであるから不意打ちになるということはない。 したがって,特許法153条は,その文言どおりに適用すべきものである。 2取消事由2に対し(1)引用発明1の認定誤り,これに伴う一致点・相違点認定の誤りにつきア引用刊行物1の第2図によれば,コレット10の上端がパッキンサポータ9に接し,パッキンサポータ9はその上のパッキン15に接している状態が示されており,その状態でコレット10がパッキンサポータ9を押し上げ,さらにパッキンサポータ9がパッキン15を押圧支持している。そのようにして,シール用弾性部材であるパッキン15が,押圧されることで若干の変形圧縮をし,弾性体の性質として元の形状に戻ろうとする力が働くことにより,パッキン15とパッキンサポータ9,パイプ電極16,チャック本体の内周面等との間が密着し,シール効果が生じるのである。原告が主張するように,上方向の押圧によるシール効果がないと仮定した場合,その状態で加圧水が上から注入されれば,パッキン15とチャック本体の内周面との間に水が浸入してしまう。 以上のとおり,コレット10の上面は,パッキンサポータ9に単に接しているだけでなく,さらに「押圧支持」することでシール効果を生じているのであり,上方向の押圧によるシールはされていないという原告の主張は誤りである。 イ原告は,引用刊行物1には,パイプ電極16はコレット10に把握されていると記載されているだけで,コレット10がパイプ電極をどのように挟持固定するのか全く記載されていないと主張する。 しかし,そもそもコレットとは,中心軸部分に挟持すべき円柱体あるいは円筒状の物を挿入する挿入孔を有する円筒状をしており,その外面の軸方向の一部,又は全部が軸方向へ円錐状(テーパ)となっており,そのテーパ部分に円周方向で1箇所又は複数箇所に挿入孔まで届く軸方向のスリットを有している工具の一種であり,前記テーパに対応するテーパ孔に挿入して押し込むとテーパ部分がテーパ孔内壁からの反作用力(締付力)を受け,その結果,スリットの隙間が狭められその分だけ挿入孔の内径が小さくなることを利用して,挿入孔に挿入したパイプ電極とか,穴明け用の錐などの円筒体や円柱体をしっかり挟持するというものである。このことは当業者にとっては周知のことである。したがって,コレットを,そのテーパに見合ったテーパ孔を有する部材の挿入孔に挿入し,その後に,コレットを袋ナット等によって後方から強く押し込むか,あるいはコレットの先端の方にネジを設けておき,このネジ部に螺合させた引きネジを強く引くなどして,コレットのテーパ部をテーパ孔へ押し込み,あるいは引き込むことが示されていれば,これによって,コレットが挿通孔に挿入されている円柱状又は円筒状の部材を強く挟持又は握持するものであることは当業者にとって常識である。 以上のとおりであるから,審決が,「コレット10の体部にスリットが形成されていることは,技術常識である。」とし(17頁5行〜6行),「袋ナット11の締付けにより,…(ロ)コレット10の体部に形成したスリットの圧縮によるコレット10とパイプ電極16との間の挟持固定を同時に行うようにした…」発明が記載されていると認定した(17頁27行〜30行)ことに誤りはない。また,これに伴う一致点・相違点の認定にも誤りはない。 (2)相違点に関する判断の誤りにつきア上記(1)アのとおり,引用発明1のコレット10による上方への押圧は,パッキン15を取り付けるためだけでなく,シールも同時に行うもので,本件発明の押圧と技術的意義は同じであり,審決の判断に誤りはない。 イ原告は,引用発明2におけるシール作用はスプリング8による下方向の押圧力によるものであると主張する。 しかし,そもそもスプリング8による下方向の押圧力は,ナット2の螺子締めによりコレット7が上昇しパッキン10,座金9を介してスプリング8に上向きの押圧力が加わり,スプリング8が圧縮されることにより生じるものである。そして,引用発明2のシール作用は,コレット7からの上向きの押圧力と,座金9を介してスプリング8からの下方向の押圧力がかかることにより,パッキン10が若干押し潰されることで,コレットシャンク3の内壁とパイプ電極1の外周に密着し,その結果コレットシャンク3の嵌入孔とコレット7の間,及びコレット7とパイプ電極1との間のシールが同時に行われるのである。このように,引用発明2のシール作用は,あくまでもコレット8の上昇により始まり,生ずることであるから,引用発明2に関する審決の判断に誤りはない。 また,原告は,引用発明2において,電極ホルダ5とコレットシャンク3との間のシールは,Oリング4により行っているが,本件発明では,このOリング4に相当するものはないから,審決の認定は誤りであると主張する。 しかし,そもそも引用刊行物2に記載されたコレットシャンク3は,コレット7の嵌入孔が設けられているものであるから,本件発明の外筒(図2の符号25)に相当するものである。そして,引用刊行物2における「電極ホルダ5」は,本件発明では外筒が嵌め込まれるチャック23(図2参照)に相当するものであり,本件発明の「電極ホルダ」ではない。したがって,引用刊行物2のOリング4は,本件発明では外筒の外周に設けられた部材に相当するものであって,本件発明の構成に含まれておらず,比較の対象にならない。 第5当裁判所の判断1取消事由1(特許法153条1項の解釈適用の適否)について(1)特許法153条1項が,審判手続における職権探知主義を採用しているのは,審判が,当事者のみの利害を調整するものではなく,広く第三者の利害に関する問題の解決を目的とするものであって,公益的な観点に基づく解決を図る必要があることによるものと解される。そのような観点から行われる職権の発動は,基本的に適法なものとして許容されるべきであり,これを補完的かつ例外的な場合に限定し,それ以外の場合には違法とすべきとする原告の主張は採用することができない。そして,本件審判手続において,職権による無効理由について審理したことに関し,特に違法とすべき点は認められない。 (2)原告は,審決が引用刊行物1及び2について判断したことは,無効審判請求がないのに職権で本件発明を無効にすべきものと判断したことに相当する旨主張する。しかし,審決が無効とした本件特許の請求項13は,被告による無効審判請求の対象であるから,特許法153条3項に反することはない。本件においては,職権で審理する無効理由を,当事者に通知した上で(同条2項),無効と判断したものであるから,審決に手続上の違法な点はなく,原告の上記主張は理由がない。 以上のとおり,取消事由1については理由がない。 2取消事由2(容易想到性の存否)について(1)引用発明1の認定の当否,これに伴う一致点と相違点認定の当否についてア引用刊行物1(甲2)には,次の記載及び図面がある。 「次に,ホルダ部25に差し込んで取付けられるチャック部28の構造について説明する。 チャック部28は,主として,管状のチャック本体8,管状のコレット10,袋ナット11,管状のパッキン15,チャック本体8の内周面に配置されたOリング57,及びパイプ内に加工液を通すことができるパイプ電極16から成る。…チャック本体8の他端側には雄ねじ23が形成され,該雄ねじ23に袋ナット11の雌ねじ24が螺合される。…該コレット10の一端部に形成した突出部26は袋ナット11の端部に当接し,また,コレット10の他端部は,パッキンサポータ9に当接し,該パッキンサポータ9はチャック本体8内に配置されたパッキン15を押圧支持している。即ち,袋ナット11がチャック本体8に螺入されることによってコレット10がチャック本体8内に密封状態に固定されている。また,このコレット10にはパイプ電極16が貫通状態に配置され,パイプ電極16がコレット10に把握されている。しかも,該パイプ電極16の上端部はパッキン15を貫通して上方にパイプ口を開口している。 従って,袋ナット11が螺入され,コレット10の端部がパッキンサポータ9を介してパッキン15を押圧してパッキン15は取付けられる。チャック本体8とパイプ電極16とはパッキン15及びOリング57によって密封状態が確保される。即ち,チャック本体8とパイプ電極16との間の密封状態の確保は,ナット11の緊締に加えて,加工液の水圧がパッキン15にかかることによってパッキン15がパイプ電極16に押付けられ,シール効果が生じ,また,チャック本体8とコレット10との間はOリング57によってシール状態が確保されている。 従って,ホルダ本体1に導入された高圧水である加工液はパイプ電極16の上端部からパイプ電極16のパイプ内に漏洩することなく導入される。」(5頁右下欄13行〜6頁右上欄15行)イ上記アの記載及び図面によれば,引用刊行物1には,袋ナット11の緊締によってコレット10が上方向に押圧され,これに伴い,コレット10がパッキンサポータ9を介してパッキン15を上方向に押圧することで,シール用の弾性部材であるパッキン15が,これと接するチャック部28の内周面及びパイプ電極16に押し付けられて弾性変形し,シール効果を発揮する発明が記載されているものと認められる。したがって,審決が,引用発明1について,袋ナット11の締め付けによりパッキン15によるシールが行われると認定したことに誤りはない。 なお,上記アの記載によれば,引用発明1では,パッキン15に,コレット10による上方向の押圧に加えて,加工液による下方向の押圧もされており,これらが相まってシール効果を生じていることが認められる。しかし,技術常識に照らし,加工液による下方向の押圧は必須とはいえず,上方向の押圧のみでもシール効果は生じるから,加工液による下方向の押圧があることは,上記判断を左右しない。 ウ上記アのとおり,引用刊行物1には,コレット10にはパイプ電極16が貫通状態に配置され,パイプ電極16がコレット10に把握されているとの記載がある。そして,コレットが,「中心軸部分に挟持すべき円柱体或いは円筒状の物を挿入する挿入孔を有する円筒状をしており,その外面の軸方向の一部,又は全部が軸方向へ円錐状(テーパ)となっており,そのテーパ部分に円周方向で1箇所あるいは複数箇所に挿入孔まで届く軸方向のスリットを有している工具の一種であり,前記テーパに対応するテーパ孔に挿入して押し込むとテーパ部分がテーパ孔内壁からの反作用力(締付力)を受け,その結果,スリットの隙間が狭められその分だけ挿入孔の内径が小さくなることを利用して,挿入孔に挿入したパイプ電極とか,穴明け用の錐などの円筒体や円柱体をしっかり挟持するものであること」は,当業者にとって周知であると認められる(実公平6-34920号公報(甲1),実公平2-30166号公報(乙1),実開平6-63213号公報(乙2),実開平5-31811号公報(乙3)参照)。そうすると,引用発明1においても,ナット11の緊締によって,コレット10に形成されたスリットが圧縮され,コレット10とパイプ電極16との間の挟持固定が行われているものと認められるから,審決の認定に誤りはない。 以上のとおり,審決における引用発明1の認定に誤りはなく,これに伴い,上記の点を,本件発明との一致点として認定したこと,相違点として認定しなかったことについても誤りはない。 (2)相違点に関する判断の当否について ア原告は,本件発明と引用発明1とでは,袋ナットの締付けによる上方向の押圧の技術的意義が異なると主張する。しかし,上記(1)イで説示したとおり,引用発明1においても,袋ナットの締付けによる上方向の押圧によってシール作用が生じるものと認められるから,原告のこの主張は採用することができない。 イ原告は,引用発明2において,ナット2による上方向の押圧力はコレット7をコレットシャンク3に取り付けるためにのみ作用するものであり,シール作用は,スプリング8による下方向の押圧力が座金9を介してパッキン10に作用することにより生ずるものであると主張する。 引用刊行物2(甲3)には,次の記載及び図がある。 「〔作用〕…コレットシャンク…の内部にパッキンを取り付けたシール構造を備えているので…」(2頁右上欄10行〜14行)「第1図に示すように,パイプ電極1をコレット7に挿した後に,コレット7をナット2によりコレットシャンク3に取り付ける。」(2頁左下欄1〜3行)「コレットシャンク3の内部にあるパイプ電極1の外部に,パッキン10と座金9及びスプリング8により構成されるシール構造を設け,このシール構造によって,パイプ電極1の外部へ加工液15が流出することを防止し,パイプ電極1の内部へのみ加工液15が流入するように構成する。」(2頁左下欄7行〜13行)上記記載及び図面に照らすと,引用刊行物2のコレットシャンク3は本件発明の外筒25に相当するものであり,引用発明2においては,ナット2の螺子締めによりコレット7が上昇し,パッキン10,座金9を介してスプリング8に上向きの押圧力が加わり,スプリング8が圧縮されることで,スプリング8が下方向の押圧力を発揮し,パッキン10によるシールが行われるものと認められるから,審決が「ナット2の締付けによって,パッキン10が押圧されてシールすること」が行われると認定したことに誤りはない。 また,原告は,引用発明2のOリング4に相当する構成が本件発明にはないと主張する。しかし,引用刊行物2の記載によれば,引用発明2のOリング4は,コレットシャンクの外側に設けられたものであって,本件発明との対比に必要な,コレットシャンク内部におけるコレット及び電極とのシールに関する構成とは関係のない部分である。したがって,原告の主張は理由がない。 以上のとおり,取消事由2も理由がない。 第6結論以上によれば,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
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裁判官 | 清水節 |
裁判官 | 古谷健二郎 |