審判番号(事件番号) | データベース | 権利 |
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平成11ワ8435特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成19ワ8449先願たる地位の不存在確認等請求事件 平成19ワ14328共有持分不存在確認請求事件 | 判例 | 特許 |
平成12ワ9657特許権侵害差止等請求事件 | 判例 | 特許 |
平成17ワ3155特許権侵害差止請求事件 | 判例 | 特許 |
平成16ワ11060職務発明の対価請求事件 | 判例 | 特許 |
関連ワード | 発明者 / 協議 / インターネット / 技術的範囲 / 発明の詳細な説明 / 共有 / クレーム / 存続期間 / 特許料(維持年金) / 文言解釈 / 実施 / 加工 / 構成要件 / 侵害 / 損害額 / 実施料 / 相当因果関係 / 不法行為(民法709条) / 持分譲渡(持分の譲渡) / 同意 / 実施権 / 専用実施権 / 設定登録 / 移転登録 / 対価 / 請求の範囲 / 変更 / |
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元本PDF | 裁判所収録の全文PDFを見る |
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事件 |
平成
21年
(ワ)
28065号
特許実施料請求事件
平成 22年 (ワ) 9264号 損害賠償請求事件 |
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東京都荒川区<以下略> 本訴原告(反訴被告)A1 東京都中央区<以下略> 本訴被告(反訴原告)株式会社エムシー研究所 訴訟代理人弁護 士片岡義夫 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 2011/02/15 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1本訴原告(反訴被告)の請求及び本訴被告(反訴原告)の反訴請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は,本訴反訴を通じて,本訴原告(反訴被告)に生じた費用は本訴原告(反訴被告)の負担とし,本訴被告(反訴原告)に生じた費用は本訴被告(反訴原告)の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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請求
1 本訴本訴被告(反訴原告)は,本訴原告(反訴被告)に対し,3238万9640円を支払え。 2 反訴本訴原告(反訴被告)は,本訴被告(反訴原告)に対し,2000万円及びこれに対する平成22年8月20日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 |
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事案の概要
1 事案の要旨本件は,?本訴被告(反訴原告)(以下「被告」という。)の元取締役の本訴原告(反訴被告)(以下「原告」という。)が,本訴として,被告に対し,原告と被告間の発明の名称を「血液フィルタおよび血液検査方法並びに血液検査装置」とする特許番号第2685544号の特許(以下,この特許を「本件特許1」,この特許権を「本件特許権1」という。)の共有持分の譲渡合意に基づく譲渡代金として400万円及び発明の名称を「血液回路及びこれを用いた血液測定装置及び血液測定方法」とする特許番号第2532707号の特許(以下,この特許を「本件特許2」,この特許権を「本件特許権2」という。)に係る実施料の支払合意に基づく実施料として2838万9640円の合計3238万9640円の支払を求め,?被告が,反訴として,原告が被告の取引先等に対するメール(電子メール)の送信及びインターネット上のホームページにおける文章掲載により被告の名誉を毀損し,これにより被告において製品の売上げが減少する財産的損害(営業上の損害)を被った旨主張し,原告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,営業上の損害1900万円及び弁護士費用相当額の損害100万円の合計2000万円並びに遅延損害金の支払を求めた事案である。 2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア原告は,平成15年6月30日から平成16年8月5日までの間,被告の取締役であった者である。 なお,原告は,現在,株式会社A1マイクロテクノロジー研究所の代表取締役及び「日本ヘモレオロジー学会」と称する団体の理事長を務めている。 イ被告は,平成14年4月1日に設立された,生命工学及びバイオテクノロジーの方法による医薬品,医療用機器,理化学機器,検査薬等の研究開発等を目的とする株式会社である。なお,被告は,監査役設置会社である。 (2) 特許権ア 本件特許権1(ア)原告と株式会社日立製作所(以下「日立」という。)は,平成9年8月15日,本件特許権1(出願日昭和63年11月11日,出願番号特願昭63-283687号)の設定登録を受けた。 本件特許権1について,平成15年9月10日,原告及び日立から被告へ持分全部の移転登録がされた。 なお,本件特許権1は,平成20年11月11日,存続期間満了により消滅した。 (イ)本件特許1に係る特許請求の範囲は,請求項1ないし17から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明1」という。)。 「【請求項1】表面に微細な溝を有して成る第1の基板と,上記溝を有する第1の基板の表面に接合される平面を有する第2の基板とから成り,上記第1の基板と上記第2の基板との接合部に上記溝によって形成される空間を血液の流路とすることを特徴とする血液フィルタ。」イ 本件特許権2(ア)原告は,平成8年6月27日,本件特許権2(出願日平成2年3月8日,出願番号特願平2-55037号)の設定登録を受けた。 本件特許権2について,平成17年11月14日,原告から株式会社クラレへ持分4分の1の移転登録がされた。 なお,本件特許権2は,平成22年3月8日,存続期間満了により消滅した。 (イ)本件特許2に係る特許請求の範囲は,請求項1ないし12から成り,その請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明2」という。)。 「【請求項1】一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配置し,且つこの窪み相互を区画する壁部に,前記流入口と流出口とを結ぶ直線に対しほぼ直交する方向において,窪み相互を連通する微小な溝を有してなる第1の基板と上記第1の基板の表面に接合ないし圧着される平面を有する第2の基板とからなり,上記第1の基板と第2の基板の接合部ないし圧着部に上記窪みおよび溝によって形成される空間を流路として有することを特徴とする血液回路。」(ウ) 本件発明2を構成要件に分説すると,次のとおりである。 「A一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配置し,B且つこの窪み相互を区画する壁部に,前記流入口と流出口とを結ぶ直線に対しほぼ直交する方向において,窪み相互を連通する微小な溝を有してなる第1の基板とC上記第1の基板の表面に接合ないし圧着される平面を有する第2の基板とからなり,D上記第1の基板と第2の基板の接合部ないし圧着部に上記窪みおよび溝によって形成される空間を流路として有するE ことを特徴とする血液回路。」(3) 専用実施権設定契約の締結ア原告と被告は,平成14年4月26日,原告が保有する本件特許1,本件特許2,特許番号第3089285号の特許及び特許番号第3258985号の特許の各特許権(以下「本件各特許権」と総称する。)について,原告は,被告に対し,?専用実施権の「期間」は契約の日から本件各特許権の権利存続中,「内容」は全範囲,「地域」は日本国内及び海外全域,?実施料は売上金額の4%,?実施料の支払は毎年3月末日及び9月末日をもって終わる満了日から2か月以内に原告の指定する銀行口座に振込入金との約定で,専用実施権を設定する旨の専用実施権設定契約(以下「本件専用実施権設定契約」という。)を締結した(甲1)。 イ被告は,平成16年1月30日,原告に対し,200万円を支払った(甲5)。 (4) 本件特許権1に係る譲渡契約書の作成ア原告と被告は,平成15年7月18日,?原告が本件特許権1及び発明の名称を「血液フィルタおよび血液検査方法並びに血液検査装置」とする五つの外国特許権(出願国・「アメリカ合衆国」,「EPC」,「イギリス」,「ドイツ」,「フランス」)のうち,原告の共有持分を譲渡する(1条),?譲渡の対価は,「金5,000,000円」とし,被告は原告に対し,平成15年8月末日限り,?の本件特許権1等の登録名義人変更手続に必要な一切の書類の引渡しを受けるのと引換えに支払う(2条),?原告は,被告に対し,平成15年8月末日限り,「金5,000,000円」の支払を受けるのと引換えに,?の本件特許権1等の登録名義人変更手続に必要な一切の書類を引き渡す(3条)旨の記載のある「特許権譲渡契約書」(以下「本件譲渡契約書」という。)に記名押印した(乙6)。 イ被告は,平成15年8月29日,原告に対し,500万円を支払った(甲4)。 (5) 被告による血液測定装置の製造販売ア被告は,商品名「MCFANHR100」,「MCFANHR300」及び「MCFANKH-7」の各血液測定装置(以下,これらを併せて「被告装置」という。)を製造販売している。 イ被告装置は,別紙1に示すように,半導体微細加工技術を用いて加工されたシリコンチップ上の微細な溝と,ガラス基板を圧着してできた流路(マイクロチャネルアレイ)に,血液を流すことにより,流路を流れる血液中の有形成分(赤血球,白血球,血小板)の状態を顕微鏡あるいはモニターにより観察及び記録する装置である(乙4,5)。 被告装置は,別紙1の「シリコンチップイメージ図」に示すように,同図左側の貫通孔より注入された血液が,中央の折り畳まれたテラス上の流路を通過して,同図右側の貫通孔からシリコンチップの外へ排出される構造を有している(甲11)。 3 争点本件の本訴の争点は,原告が保有する本件特許権1の共有持分に係る譲渡代金を900万円とする譲渡合意の成否(争点1),原告の被告に対する第2特許の実施に係る実施料請求権の存否(争点2)であり,反訴の争点は,原告によるメールの送信等の被告の名誉毀損行為該当性(争点3-1),原告の名誉毀損行為による被告の財産的損害(営業上の損害)の発生の有無及び原告が賠償すべき被告の損害額(争点3-2)である。 |
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争点に関する当事者の主張
1 本訴について(1) 争点1(譲渡代金を900万円とする譲渡合意の成否)についてア 原告の主張(ア)a原告,日立及び被告は,平成15年7月18日,?原告及び日立は,原告及び日立が保有する本件特許権1の共有持分(各2分の1)をそれぞれ代金900万円で被告に譲渡する,?被告は,原告に対し,上記譲渡代金900万円のうち,500万円を先払し,後日残額400万円を支払う,?被告は,本件特許2の実施料を原告に支払う,?本件特許2の実施料の金額については原告及び被告が別途協議する旨の合意(以下「本件合意」という。)をした。 bなお,原告が本件特許権1の共有持分の譲渡代金を500万円とする本件譲渡契約書に署名押印したのは,次の経緯によるものであり,本件合意の成立と矛盾するものではない。 被告と日立は,平成15年7月10日ころ,日立の保有する本件特許権1の共有持分の被告に対する譲渡代金を900万円とする旨の仮合意をした。その仮合意の後,被告の取締役B1は,被告の代表取締役C1と共に,原告に対し,まず500万円を支払い,後日残りの400万円を支払うという条件で,原告が保有する本件特許権1の共有持分を被告へ譲渡することの同意を求めた。しかし,原告は,日立からの本件特許権1の共有持分の譲渡があれば,原告からの譲渡にこだわらなくてもよいではないかと述べて,被告への譲渡に難色を示し続けた。 C1とB1は,同月15日午後6時ころ,原告が当時勤務していた独立行政法人食品総合研究所(以下「食総研」という。)内の原告の研究室を訪れ,後日残り400万円を絶対に支払うから,本件特許権1の共有持分の譲渡を了承して欲しい旨述べて原告の説得を始めた。原告とC1及びB1との話合いは,午後11時過ぎまで及び,原告は,本件特許権1の共有持分の譲渡を了承した。C1とB1は,同月17日午後6時ころ,再度原告の研究室を訪れ,午後11時過ぎまで,原告と話合いをした。その中で,C1とB1は,こうやって二人で後日400万円を支払うと約束しているので絶対に間違いないと繰り返し,原告の了承の念押しを重ねて帰って行った。 原告は,翌18日,被告会社において,本件譲渡契約書に記名押印した。これは,上記のとおり譲渡代金を900万円とする約束が存在し,「そこまで約束するなら」ということで,記名押印に応じたものである。 (イ)被告は,平成15年8月29日,本件合意に基づいて,本件特許権1の共有持分の譲渡代金の一部として500万円を支払った。 その後,同年9月10日,本件特許権1について,原告及び日立から被告へ持分全部の移転登録がされた。 (ウ)以上によれば,被告は,原告に対し,本件合意に基づき,本件特許権1の共有持分の譲渡代金の残金400万円の支払義務がある。 イ 被告の主張(ア)原告主張の本件合意の事実は存在しない。原告と被告は,本件譲渡契約書記載のとおり,原告が被告に対し本件特許権の共有持分を代金500万円で譲渡する旨の合意をし,被告は,原告に対し,上記譲渡代金を支払済みである。 被告が原告から本件第1特許権の共有持分を譲り受けた経緯は次のとおりである。 被告を設立して間もない平成14年10月下旬ころ,被告への出資を検討していたベンチャーキャピタルは,出資の条件として,被告に対し,被告が原告及び日立から第1特許の譲渡を受けるよう要望した。そこで,原告と被告は,同月21日,原告が保有する本件特許権1の共有持分を被告に譲渡し,その譲渡対価として原告が被告の新株予約権100個を取得する旨の同日付け「特許権移管(譲渡)に関する覚書」(乙59)と題する書面(以下「本件覚書」という。)を作成した。 しかし,被告が株式公開についての予備調査を依頼した監査法人トーマツは,平成15年1月28日,被告に対し,被告が本件特許権1の共有持分の譲渡対価として新株予約権を発行して原告に付与することは,株主総会決議で無償発行としたことと矛盾するとの指摘をした。 その結果,原告からの本件特許権1の共有持分の譲渡対価は,新株予約権ではなく,現金で給付することになったが,新株予約権100個は原告へ無償譲渡したままとなった。 原告からの本件特許権1の共有持分の譲渡対価が500万円であったのに対し,日立からの本件特許権1の共有持分の譲渡対価が900万円となった理由は,日立が,本件特許1の出願料や登録料などの諸経費を自ら負担しており,原告は,第1特許の諸経費を負担していないことにある。 (イ)原告は,被告の代表取締役C1と取締役B1が,平成15年7月15日午後6時ころ及び同月17日午後6時ころの2回にわたり,原告の研究室を訪れ,原告との間で,原告からの本件特許権1の共有持分の譲渡対価を900万円とし,そのうち,500万円を先払し,後日400万円を支払う旨の約束をした旨主張する。 しかし,C1及びB1が平成15年7月ころ食総研の原告の研究室を訪れた事実は存在しない。被告会社では,タクシー,JR,自家用車等を使用した旅費交通費については,各自が毎月「旅費交通費精算書」を作成し,所属長の承認印を得る運用をしており,仮に原告が主張するように,同月15日及び17日にC1及びB1が食総研を訪れたのであれば,同月分の「旅費交通費精算書」にその旨の記載がされたはずである。しかし,同月分に係るC1の「旅費交通費精算書」(乙61)にはそのような記載は一切存在しないから,原告の主張は失当である。 (2) 争点2(実施料請求権の存否)についてア 原告の主張(ア) 被告装置が本件発明2の技術的範囲に属することa被告装置の構成及び構成要件BないしEについて被告装置は,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」を「1個(1組)」配置した「Bloody7-7Dチップ」を含むものである。 被告装置の「Bloody7-7Dチップ」は,別紙1に示すように,「窪み相互を区画する壁部に,前記流入口と流出口とを結ぶ直線に対しほぼ直交する方向において,窪み相互を連通する微小な溝を有してなる第1の基板」と「上記第1の基板の表面に接合ないし圧着される平面を有する第2の基板」とからなり,「上記第1の基板と第2の基板の接合部ないし圧着部に上記窪みおよび溝によって形成される空間を流路として有する」構成を備える「血液回路」である。 したがって,被告装置は,本件発明2の構成要件BないしEを充足する。 b構成要件Aについて(a)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)には,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配置し」との記載(構成要件A)がある。 被告装置は,前記aのとおり,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」を「1個(1組)」配置した「Bloody7-7Dチップ」を含むものであって,「一つの窪み(流路)に流入口又は流出口のいずれか一方しか有していない構成」のものである。 別紙2の中段図及び別紙3の図は,「被告装置の原理図」であり,別紙2の下段図は,本件特許2に係る明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)の図面を単純化したものであるところ,別紙2の中段図と下段図との差異は,中段図において点線で示したように,マイクロチャネルアレイ(流路)の上流側の窪みの後端(右端)に流出口があるかないか,マイクロチャネルアレイの下流側の窪み(流路)の前端(左端)に流入口があるかないかだけである。 ところで,本件発明2において,一つの溝(流路)の両端の流入口と流出口は,流れの主軸(主流)に対して直交する向きに配置されたマイクロチャネルアレイの配置を記述するために用いられているものであり,一つの窪み(流路)に流入口と流出口が共に存在すること自体は,本件発明2の構成に必須のものではない。実際に当該窪み(流路)に当該流出口や当該流入口がそれぞれの端に存在していなくても,流れの主軸に対するマイクロチャネルのアレイの配置(向き)を指定することは可能である。 そして,別紙3に示すように,被告装置において,「デッドエンドフロー方式」(流入した液体が全て目的流路を流れる方式)の流れになるのは,マイクロチャネルアレイの(右)端の部分だけであり,それ以外のマイクロチャネルアレイの部分においては,「クロスフロー方式」(流入した液体の一部が分流して目的流路を流れる方式)が実現されている。 (b)また,「複数個」(複数組)の「配置」は,1個(1組)の配置を含むものである。 c小括以上によれば,「一つの窪み(流路)に流入口又は流出口のいずれか一方しか有していない構成」の被告装置は,本件発明2の技術的範囲に属するというべきである。 (イ) 実施料の支払合意a原告と被告は,平成14年4月26日,本件各特許権について本件専用実施権設定契約を締結した。 本件専用実施権設定契約に係る契約書(甲1)では,被告が原告に支払う実施料を売上げの4%と定めているが(4条),本件特許1と本件特許2の実施料の割合については決めておらず,一方で,「本契約書に定めのない事項又は本契約の解釈に疑義が生じたときは」,原告及び被告が協議の上,友好的に解釈する旨定めている(13条)。 b前記(1)ア(ア)aのとおり,原告,日立及び被告が平成15年7月18日にした本件合意において,原告と被告は,被告が本件特許2の実施料を原告に支払う,本件特許2の実施料の金額については別途協議する旨合意した。 c前記a又はbのとおり,原告と被告間には,本件特許2の実施料の支払合意が存在する。 d(a)原告は,本件特許権1の共有持分を被告に譲渡した後,本件特許2の実施料は,被告装置の売上げの2%が妥当な実施料の額であると考え,被告と交渉を行ってきた。 しかし,被告は,平成16年1月30日,原告に対し,本件特許2の実施料として200万円を支払った後,本件発明2の技術的範囲に属する被告装置を製造販売しているにもかかわらず,実施料の支払をしていない。 (b)被告は,後記のとおり,上記(a)の200万円は原告から本件特許権1の共有持分の譲渡を受ける前の本件特許1の実施料として支払ったものであり,本件特許2の実施料ではない旨主張する。 しかし,本件発明1は,「第1の基板」と「第2の基板」との接合部の構成を有するものであるが,被告装置においては,シリコン基板とガラス基板は,「圧着」されたものであって,「接合」(陽極接合法による接合)されたものではなく,上記「接合部」の構成を有するものではないから,本件特許1を実施していない。 したがって,被告の上記主張は,理由がない。 (ウ) 本件特許2の実施料被告が前記(イ)の実施料支払合意に基づいて原告に対し支払うべき平成16年4月1日から平成21年3月31日までの間の本件特許2の実施料は,次のとおり,被告の各事業年度(第3期ないし第7期)の売上高の2%に当たる合計2838万9640円となる。 a第3期(平成16年4月1日〜平成17年3月31日)(売上高)278,366,000円(売上げの2%)5,567,320円※健康食品の売上げは除く。 b第4期(平成17年4月1日〜平成18年3月31日)(売上高)549,706,000円(売上げの2%)10,994,120円c第5期(平成18年4月1日〜平成19年3月31日)(売上高)356,308,000円(売上げの2%)7,126,160円d第6期(平成19年4月1日〜平成20年3月31日)(売上高)134,893,000円(売上げの2%)2,697,860円※80HdG前処理キッドの売上げは除く。 e第7期(平成20年4月1日〜平成21年3月31日)(売上高)100,209,000円(売上げの2%)2,004,180円※80HdG前処理キッドの売上げは除く。 (エ) まとめ以上によれば,被告は,原告に対し,前記(イ)a又はbの実施料支払合意に基づき,平成16年4月1日から平成21年3月31日までの間の本件特許2の実施料合計2838万9640円の支払義務がある。 イ 被告の主張(ア)以下に述べるとおり,被告装置は,本件発明2の構成要件A及びBを充足せず,その技術的範囲に属さない。 a本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明は,前記争いのない事実等の(2)イ(ウ)のとおり,構成要件AないしEの構成を有する。 本件明細書の「発明の詳細な説明」には,「(課題を解決するための手段)かかる目的を達成するため,本発明は血液試料の全てが微細な溝を通過する従来の方式に代えて,大きな流路に対し略直交方向に微細な溝を形成することで,血液試料の一部のみを大きな流路から微細な溝に導く方式を採用し,併せて半導体微細加工技術を応用することにより基板上に赤血球,白血球ないし血小板の形状にそれぞれ適合した種々の形状,大きさの微細な溝を高精度に作成したものである。」(3頁左欄13行〜21行),「このように血液試料を大きな流路から微細な溝に導くには該溝の入口側と出口側,即ち血液試料を流す大きな流路となる部位と,この流路と平行しかつ前記溝によってこの流路と連通される別の流路(この別の流路には通常生理食塩水等の生理的に不活性流体が流される。)となる部位との間に静水圧差あるいは生理活性物質の濃度差を生じさせればよい。」(3頁左欄24行〜30行)との記載がある。 本件明細書の上記記載によれば,流入口と流出口を結ぶ直線に対して,窪みを相互に連通している溝がほぼ直交していることは,本件発明2において課題を解決するための重要な構成であり,窪みが流入口と流出口の双方を有することは本件発明2の本質的部分である。 bしかるに,被告装置は,「一つの窪み(流路)に流入口又は流出口のいずれか一方しか有していない構成」のものであって,本件発明2の構成要件Aの「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」の構成を備えておらず,また,血液中の赤血球,白血球,血小板等は,窪み相互を流路と同一方向で連通する微細な溝を通過する構造を採用しているものであって,構成要件Bの「前記流入口と流出口とを結ぶ直線に対しほぼ直交する方向において,窪み相互を連通する微細な溝を有してなる」との構成も備えていない。 そして,被告装置は,本件発明1と同様に,血液試料の全てが微細な溝を通過するのに対して,本件発明2は,大きな流路に対し略直交方向に微細な溝を形成することで,血液試料の一部のみを大きな流路から微細な溝に導く方式を採用している点において,明らかに異なっている。 したがって,被告装置は,本件発明2の構成要件A及びBを充足しないから,その技術的範囲に属さない。 (イ) 実施料支払合意について原告と被告は,本件専用実施権設定契約を締結したが,前記(1)イのとおり,原告主張の本件合意の事実は存在しない。 なお,被告は,原告から本件特許権1の共有持分の譲渡を受けた後の平成16年1月30日,原告に対し,200万円を支払ったが,これは,上記譲渡を受ける前の本件特許1の実施分の実施料として支払ったものであり,本件特許2の実施料ではない。 (ウ) 本件特許2の実施料について被告は,本件特許2を実施した製品を製造販売しておらず,その売上高も存在しない。 (エ) まとめ以上のとおり,被告は,本件特許2を実施していないから,原告主張の実施料請求権は存在しない。 2 反訴について(1)争点3-1(原告によるメール送信等の被告の名誉毀損行為該当性)についてア 被告の主張(ア)原告は,平成19年4月17日から平成21年12月9日にかけて,医療関係者,研究者,被告の取引先等に対し,別紙メール等一覧1記載の文章を記載した各メール(以下「原告各メール」という。)を送信し,また,別紙メール等一覧2記載の文章(以下「原告書き込み」という。)を原告が理事長を務める「日本ヘモレオロジー学会」がインターネット上に開設したホームページ(乙42。以下「本件ホームページ」という。)に掲載した。 (イ)a原告各メールは,被告の代表取締役であるC1を誹謗中傷する内容(別紙メール等一覧1記載の(1)ないし(3),(21)ないし(24)),あたかも被告装置が不良品であることを印象づける内容(同(4),(5),(7),(9),(11)ないし(14),(25)),被告が他人の業績を盗む企業,取引先と良好な関係を保てない企業,違法手段を用いてまで経済的利益を追求する企業等であることを印象づける内容(同(6),(8),(10),(15)ないし(20),(26))のものである。 原告が原告各メールを送信した範囲は,日本ヘモレオロジー学会又は日本血流血管学会の構成員である医療関係者,研究者,被告の販売代理店,被告の主要株主など広範多岐にわたっている。 このように被告ないし被告の代表取締役を誹謗中傷する内容の原告各メールが,被告装置の顧客又は顧客となり得る医療関係者,研究者,被告の販売代理店等に繰り返し送信されることにより,被告の社会的評価及び営業上の信用が低下することは明らかであるから,原告による原告各メールの送信は,被告に対する名誉毀損行為に該当する。 bまた,原告書き込みは,被告の代表取締役であるC1が血液測定装置の製造販売メーカー代表としての知識に欠けること,被告装置が不良品であること,被告が悪事をはたらく企業であることを印象づける内容のものである。 このような内容の原告書き込みが不特定多数の者が閲覧することが可能なインターネット上のホームページに掲載されることにより,被告の社会的評価及び営業上の信用が低下することは明らかであるから,原告による原告書き込みの本件ホームページにおける掲載は,被告に対する名誉毀損行為に該当する。 c原告が原告各メールを多数回にわたり繰り返し送信した動機は,自ら食総研の兼業禁止規定に違反して被告の取締役に就任していたことが発覚し,懲戒処分を受けたため,自ら被告の取締役の地位を去ったにもかかわらず,取締役の地位を不当に失ったと事実を歪曲して解釈し,被告関係者を逆恨みしたことに原因があることは明らかである。 加えて,原告は,被告への誹謗中傷のかたわら,原告の経営する会社の製品の宣伝を繰り返し行っていること(乙23,26,27)からすると,被告に対する名誉毀損に乗じ,関係者らに自社製品を売り込もうと企図したものであることなどを考え併せると,原告の動機は営利目的も絡んだ極めて悪質なものである。 したがって,原告は,故意あるいは少なくとも過失により,被告に対する名誉毀損行為を行ったものであり,原告による名誉毀損行為が違法であることは明らかである。 (ウ)原告は,後記のとおり,原告各メール及び原告書き込みの記載内容は,公共の利害に関する事実に係り,かつ,原告による原告各メールの送信及び本件ホームページにおける原告書き込みの掲載の目的は公益を図ることにあり,上記記載内容はいずれも真実であるから,原告による上記送信及び掲載は,違法性が阻却される旨主張する。 しかし,原告各メール及び原告書き込みの記載内容は真実ではない。むしろ,被告装置が有用なもので,性能に問題がなく,業界での評価を得ていることについては,平成19年ないし平成21年の日本血流血管学会における報告(乙65の1,2,66の1,2,67の1,2)から明らかであり,被告は被告装置の取引先やユーザーからも再現性等の性能につき問題があることを指摘されたことはなかった。 また,原告は,単に自己の不当な要求が受け容れられないことへの腹いせに被告の名誉や営業上の信用を毀損しているものであって,原告による上記送信及び掲載は,公益を図る目的でされたものとはいえない。 したがって,原告の上記主張は失当である。 (エ)以上によれば,原告による原告各メールの送信及び本件ホームページにおける原告書き込みの掲載は,被告に対する名誉毀損行為に該当し,不法行為を構成する。 イ 原告の主張(ア) 被告の主張(ア)の事実は認める。 (イ)原告各メール及び原告書き込みの記載内容は,被告装置が再現性,ランニングコスト等の点で問題がある不良品であり,被告装置によるデータが信用できないこと,被告の実態,被告の代表取締役であるC1の人柄を伝えたものであるが,これらは,被告を誹謗中傷するものではないし,いずれの記載内容も真実である。 加えて,原告各メール及び原告書き込みの記載内容は,被告が株式会社であることから公共の利害に関する事実に係り,かつ,原告による原告各メールの送信及び本件ホームページにおける原告書き込みの掲載の目的は被告の取引先等の関係者が被告の更なる不法行為による被害を受けることを防止するという公益を図ることにあるから,原告による原告各メールの送信及びホームページにおける原告書き込みの掲載は,違法性が阻却される。 (ウ)以上のとおり,原告による原告各メールの送信及び本件ホームページにおける原告書き込みの掲載が被告に対する名誉毀損行為の不法行為を構成するとの被告の主張は,理由がない。 (2)争点3-2(被告の財産的損害の発生の有無及びその損害額)についてア 被告の主張(ア) 被告の売上げの減少被告の売上額は,第1期(平成14年度)が約2293万円,第2期(平成15年度)が約8386万円,第3期(平成16年度)が約2億8499万円,第4期(平成17年度)が約5億4971万円,第5期(平成18年度)が約3億5631万円である。このように被告の売上げは,第1期から第4期まで順調に伸び,第5期はやや減少したものの,依然として高い水準を維持していた。 ところが,第6期(平成19年度)になると,売上額が第5期の約3分の1の約1億3529万円と大幅に減少し,続く第7期(平成20年度)も,売上額が約1億0104万円に減少し,第8期(平成21年度)においても,平成22年1月31日現在で約5715万円となった。 被告の営業活動における主力商品は,被告装置であるから,被告の売上げの変動は,被告装置の売上げの変動と直結・連動している。 (イ) 原告の名誉毀損行為と被告の売上減少との間の因果関係a近年のいわゆる健康食品ブームにより,特定保健用食品の市場規模は,平成9年度から平成19年度まで拡大を続けている。中でも,「血液ドロドロ」の原因と考えられている,コレステロール,中性脂肪,血圧への改善用途に関する平成19年度の市場規模は,平成17年度比でコレステロールは101%であるものの,中性脂肪は182%,血圧は170%と,高い拡大率を示している。 b原告が原告各メールの送信を開始した時期は,平成19年4月17日であるが,被告においては,第6期(平成19年度)から,売上げが急激に降下している。 前記aの事実に照らすと,平成19年度以降に被告の売上げが減少した原因は,健康関連市場の縮小や,一般的な景気悪化などではなく,何らかの特殊な要因によるものということができる。 また,平成19年度以降の被告を取り巻く状況についてみると,前述のとおり,原告から医療関係者や販売代理店を含む多数の者に対し,被告を誹謗中傷する原告各メールの送信が開始されたこと以外に,特に売上げに悪影響を与えるような事情は存在していない。 c原告は,後記のとおり,被告の売上げの減少は,被告装置の再現性に問題があることがユーザーにも明らかになったことによる旨主張する。 しかし,被告装置の性能に問題がなく,業界での評価が良いことは,前記(1)ア(ウ)のとおりであるから,原告の上記主張は失当である。 dそうすると,原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為がなければ,被告の売上げが減少することなどおよそあり得なかったというべきであり,被告の売上げの減少は,原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為に起因するものと合理的に推論することができる。 したがって,原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為と被告の売上減少による財産的損害(営業上の損害)との間には,因果関係が存在する。 (ウ) 損害額a営業上の損害被告は,前記(イ)のとおり,原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為により被告の売上げの減少による財産的損害(営業上の損害)を被ったものである。 そして,被告が原告の名誉毀損行為により被った営業上の損害額は,原告に原告各メールの送信が開始される直前の平成18年度の被告の売上額(約3億5631万円)を基準に順次算出するのが相当であり,上記損害額は,次のとおり,合計約2億5239万円となる。 (a) 平成19年度の損害額平成19年度の損害額について,売上減少分2億2101万円に被告の平成19年度の利益率43.3%を乗じて算出すると,約9570万円となる。 この損害額のうち,被告装置と直接的な関係のない部分(乙68)を除いた,約9493万円が被告装置の売上減少による損害額である。 (b) 平成20年度の損害額平成20年度の損害額について,売上減少分約2億5527万円に被告の平成20年度利益率46.7%を乗じて算出すると,約1億1921万円となる。 この損害額のうち,被告装置と直接的な関係のない部分(乙68)を除いた,約1億1814万円が被告装置の売上減少による損害額である。 (c) 平成21年度の損害額平成21年度の損害額について,平成22年1月31日までの売上減少分を1年間の売上減少額に換算した売上減少分約2億5527万円に被告の平成21年度の利益率60.6%を乗じて算出すると,約4156万円となる。 この損害額のうち,被告装置と直接的な関係のない部分(乙68)を除いた,約3932万円が被告装置の売上減少による損害額である。 (d) 合計額以上を合計すると,約2億5239万円となる。 b弁護士費用相当額の損害被告は,原告の名誉毀損行為により営業上の損害を被り,弁護士に依頼して本件反訴を提起せざるを得なかったものであり,被告の弁護士費用相当額の損害は100万円である。 (エ) まとめ以上によれば,原告は,被告に対し,不法行為に基づく損害賠償として,営業上の損害2億5239万円の一部である1900万円及び弁護士費用相当額の損害100万円の合計2000万円並びにこれに対する平成22年8月20日(訴え変更の申立書送達の日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払義務がある。 イ 原告の主張(ア) 被告の主張(ア)の事実は認める。 (イ) 被告の主張(イ)の事実は否認する。 被告の売上げの減少は,被告装置の再現性に問題があることがユーザーにも明らかになったことによるものに他ならない。 (ウ) 被告の主張(ウ)は争う。 |
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当裁判所の判断
1 本訴(1) 争点1(譲渡代金を900万円とする譲渡合意の成否)についてア 前提事実前記争いのない事実等と証拠(甲1ないし5,7ないし17,20,22ないし24,28,34,36,37,乙1ないし3,6ないし14,59,60(以上,枝番のあるものは枝番を含む。),原告,被告代表者C1)及び弁論の全趣旨を総合すれば,本件の経過等として,次の事実が認められる。 (ア)原告は,昭和63年11月11日,日立と共同で,本件特許1に係る特許出願をし,平成9年8月15日,特許権者を原告及び日立の両名とする本件特許権1の設定登録を受け,本件特許権1につき共有持分2分の1を取得した。 また,原告は,平成2年3月8日,本件特許2に係る特許出願をし,平成8年6月27日,本件特許権2の設定登録を受け,本件特許権2を取得した。 (イ)被告は,平成14年4月1日に設立された後,血液測定装置の開発及び販売を開始した。 原告は,被告の設立当時,特定独立行政法人である食総研の職員(マイクロチャネルアレイ工学チーム長)であった。なお,食総研は,平成18年4月に,非特定独立行政法人である独立行政法人農業・食品産業技術研究機構食品総合研究所に組織再編されている。 (ウ)原告と被告は,平成14年4月26日,原告が保有する本件特許1,本件特許2,特許番号第3089285号の特許及び特許番号第3258985号の特許の各特許権(本件各特許権)について,原告が被告に対し,?専用実施権の「期間」は契約の日から本件各特許権の権利存続中,「内容」は全範囲,「地域」は日本国内及び海外全域,?実施料は売上金額の4%,?実施料の支払は毎年3月末日及び9月末日をもって終わる満了日から2か月以内に原告の指定する銀行口座に振込入金との約定で,専用実施権を設定する旨の専用実施権設定契約(本件専用実施権設定契約)を締結した。 なお,本件各特許権について,本件専用実施権設定契約に係る専用実施権の設定登録はされていない。 (エ)a平成14年5月27日開催の被告の株主総会において,被告が新株予約権を無償で発行する旨の決議がされた。 被告は,それまでに,原告に対し,被告の新株予約権(100個)を付与していた。 b被告は,平成14年10月ころ,被告への出資を検討していたベンチャーキャピタルから,出資の条件として,原告から,本件特許権1及び2の譲渡を受けるよう要望されていた。 原告と被告は,平成14年10月21日,原告及び日立が共同で保有する本件特許権1のうち,原告の共有持分を被告に譲渡する旨の「特許権移管(譲渡)に関する覚書」(本件覚書)を締結した。 本件覚書(乙59)には,「乙は,前条による本件特許の移管(譲渡)に対して,甲に支払うべきその対価は平成14年5月27日に新株予約権100個をもってこれに充当することで,甲はこれを了承した。」(2条),「乙は,本件特許の移管(譲渡)に際しては,予め丙の承諾を得ておくものとする。」(3条),「本覚書は,甲が乙の取締役に就任することを要件として実施することを甲乙は確認した。また,特許権が移管(譲渡)された日をもって,平成14年4月26日に甲乙間で締結された「専用実施権設定契約書」の本件特許に関しては,その設定を解除するものとすることを甲乙は確認した。」(6条)との条項がある(本件覚書中の「甲」は原告,「乙」は被告,「丙」は日立である。)。 c被告は,平成15年1月28日,被告の株式公開を前提とした予備調査を依頼していた監査法人トーマツから,予備調査報告書(乙60)の提出を受けた。 監査法人トーマツは,上記予備調査報告書(乙60の80頁〜81頁)において,原告と被告間の本件覚書に関し,?本件覚書においては,原告の特許権(本件特許権1)の移管の対価として新株予約権を充てることとされているが,原告に付与した新株予約権については平成14年5月27日の株主総会決議により無償で発行する旨を決議していることと矛盾する,?原告以外の新株予約権付与者に対しては無償発行になっているので,原告が新株予約権付与の対価として特許権を譲渡した場合には,原告以外の新株予約権付与者に対し,所得税が発生する可能性がある,??については株主総会決議の瑕疵又は決議そのものが無効となる可能性があり,?については税務上の問題が発生する可能性があるため,原告からの特許権の移管については,別途,現金による取引に訂正することを勧める,?現金による取引に訂正した場合には,商法246条の「事後設立」に該当する可能性があることに留意し,譲渡の対価を慎重に決定する必要がある旨述べている。 (オ)平成15年6月30日開催の被告の株主総会(第1回定時株主総会)において,原告は,被告の取締役に選任された。 (カ)a原告と被告は,平成15年7月18日,?原告が本件特許権1及び発明の名称を「血液フィルタおよび血液検査方法並びに血液検査装置」とする五つの外国特許権(出願国・「アメリカ合衆国」,「EPC」,「イギリス」,「ドイツ」,「フランス」)のうち,原告の共有持分を譲渡する(1条),?譲渡の対価は,「金5,000,000円」とし,被告は,原告に対し,平成15年8月末日限り,?の本件特許権1等の登録名義人変更手続に必要な一切の書類の引渡しを受けるのと引換えに支払う(2条),?原告は,被告に対し,平成15年8月末日限り,「金5,000,000円」の支払を受けるのと引換えに,?の本件特許権1等の登録名義人変更手続に必要な一切の書類を引き渡す(3条)旨の記載のある「特許権譲渡契約書」(乙6)(本件譲渡契約書)に記名押印した。 b被告は,平成15年8月29日,原告に対し,500万円を支払った。 本件特許権1について,同年9月10日,原告及び日立から被告へ持分全部の移転登録がされた。 原告と日立は,そのころまでに,本件特許権1のうち,日立の共有持分の譲渡対価を900万円とする旨の合意をした。 cD1弁護士は,被告の事後設立に該当する本件特許権1及び発明の名称を「血液フィルタおよび血液検査方法並びに血液検査装置」とする五つの外国特許権の譲渡について譲渡人(日立及び原告)及び譲受価格(日立からの譲受価格900万円,原告からの譲受価格500万円の合計1400万円)をいずれも相当である旨の平成15年10月30日付け証明書(甲37)を作成した。 上記証明書(甲37の3頁〜4頁)には,原告と日立とで譲受価格が異なる理由等に関し,「(1)本件特許の譲渡人は,株式会社日立製作所とA1であり,このうちA1は会社の発起人であり大株主である。」,「(2)本件特許の譲受価格は,会社と各譲渡人との各相対の交渉によって決めた価格であるため,それぞれの譲受価格が異なっている。本来からすれば,譲渡人両名の譲渡価格は同額となるはずであるが,本件特許については株式会社日立製作所が特許申請料,維持費等の費用一切を負担してきた経緯があり,また,専用実施権設定に際して株式会社日立製作所の同意を得ておらず,株式会社日立製作所から本件特許の譲渡を受ける緊急の必要性があったことにより同社からの譲受価格の方が高額となったものであり,…」などの記載がある。 d原告は,平成15年11月30日,被告のC1代表取締役及びB1取締役に対し,件名を「株主総会」とするメール(甲28)を送信した。 上記メールには,「臨時株主総会のことを家内からの連絡で知って大変驚きました。会社の重要事項を私に知らせないでやっていくつもりですか?私に隠しておきたいことがあるのですか?このままではお二人と一緒に仕事をしていくことが困難になると思います。」,「D1弁護士による証明書も株主に対して十分正確な情報を伝えていないように思われます。」,「今回エムシー研に譲渡したのは1特許であり,私は残りの1特許に対して5万円の特許料を請求しております。」,「特許譲渡価格が私の方が安いのは,日立が特許費用を負担してきたから当然というのは全く受け入れ難く思っています。…実用化の努力を考えれば,私の方が日立の何倍もの譲渡価格になってしかるべきです。」などの記載がある。 (キ)被告は,平成16年1月30日,原告に対し,本件専用実施権設定契約に基づく実施料として200万円を支払った。 (ク)a原告は,平成16年8月4日,食総研から,同日付けで,研究成果活用企業の役員兼業の承認を取り消す旨の通知(甲20)を受けた。 原告は,同月5日付けで,被告の取締役を辞任した。 b原告は,平成16年8月23日付けで,食総研に対し,辞職願(甲23)を提出した。 c食総研は,平成16年9月7日付けで,国家公務員法82条1項1号,2号及び3号により,原告を1月間停職とする懲戒処分(甲22)を行った。 原告は,同月8日付けで,食総研を依願退職となった。 (ケ)原告は,平成17年6月6日付けの「特許実施料請求通知書」と題する書面(甲7)で,被告に対し,本件特許2の実施料として,被告装置及び付属機械等の売上げに対する2%の支払を求めた。 しかし,被告は,被告装置には本件特許2が実施されていないなどとして,原告の支払の求めに応じなかった。 その後も,原告は,被告に対し,本件特許2の実施料の支払を求め,併せて,本件特許権1の共有持分の譲渡対価の残金として400万円の支払を求めるようになったが,被告は,これに応じなかった。 イ 本件合意の成否原告は,原告,日立及び被告が,平成15年7月18日,?原告及び日立は,原告及び日立が保有する本件特許権1の共有持分(各2分の1)をそれぞれ代金900万円で被告に譲渡する,?被告は,原告に対し,上記譲渡代金900万円のうち,500万円を先払し,後日残額400万円を支払う,?被告は,本件特許2の実施料を原告に支払う,?本件特許2の実施料の金額については原告及び被告が別途協議する旨の合意(本件合意)をした旨主張する。 この点について原告の供述中には,原告が本件譲渡契約書に押印した平成15年7月18日の前日及び数日前に,被告のB1取締役とC1社長が,原告の研究室に二人で来て,後日必ず400万円を支払うから500万円の譲渡契約にサインして欲しいと説得した,400万円の支払についての書面は残しておらず,400万円の支払時期についての具体的な話はなかったが,B1取締役とC1社長は必ず払うと約束した旨の供述部分がある。また,原告作成の陳述書(甲38)中にも,被告と日立との間で,平成15年7月10日ころ,日立が保有する本件特許権1の共有持分の譲渡対価を900万円とする仮合意に達した後,C1社長とB1取締役が,同月15日ころ及び同月17日の2回にわたり,食総研の原告の研究室に現れて,原告に対し,500万円を支払い,後日400万円を絶対に支払うから,原告が保有する本件特許権1の共有持分の譲渡を了承して欲しいと懇願し,原告は,C1社長とB1取締役の両名から後日400万円を支払うとの約束があったので,本件特許権1の共有持分の譲渡を了承した旨の記載部分がある。 しかしながら,他方で,?被告代表者(代表取締役)のC1は,C1及びB1が平成15年7月15日ころ及び同月17日に原告と面会したことはなく,原告に対し,後日400万円を支払うとの約束をしたことはない旨供述していること,?原告が主張する,原告と被告間における原告が保有する本件特許権1の共有持分の譲渡対価を900万円とし,500万円を先払し,後日残額400万円を支払う旨の合意あるいは約束を裏付ける書面は作成されていないのに対し,原告及び被告間の本件譲渡契約書には,上記譲渡対価を「5,000,000円」とする旨明記されており,原告は,本件譲渡契約書記載の上記譲渡対価の額を認識した上で,本件譲渡契約書に記名押印していること(原告の供述中にも,本件譲渡契約書に500万円と書いてあったことを覚えている旨の供述部分がある。),?また,原告と被告は,原告が被告の取締役に就任することを条件として,原告が保有する本件特許権1の共有持分を被告に譲渡し,その譲渡対価は被告が原告に既に付与していた被告の新株予約権をもってこれに充当する旨の平成14年10月21日付け本件覚書を締結したが,被告において監査法人トーマツから本件覚書の問題点を指摘された上,譲渡を現金による取引に変更することを勧められた結果,原告及び被告間で本件譲渡契約書が作成されるに至った経緯があること(前記ア(エ),(カ)a),その間の平成15年6月30日に原告は被告の取締役に就任していること(前記ア(オ))からすれば,原告においては本件譲渡契約書の作成当時原告が保有する本件特許権1の共有持分を被告に譲渡すること自体について難色を示すべき理由は見出し難く,一方で,被告においては本件譲渡契約書の作成前に被告と日立間の上記譲渡交渉の内容を原告に知らせたり,日立に支払う共有持分の譲渡対価と原告に支払う共有持分の譲渡対価とを同額にする必要性があったものとは認め難いこと,?かえって,原告の供述を前提としても,原告は,被告と日立との間の本件特許権1の共有持分の譲渡交渉に関与していないこと,原告が平成15年11月30日にC1及びB1にあてて送信したメール(甲28)には,「臨時株主総会のことを家内からの連絡で知って大変驚きました。」,「D1弁護士による証明書も株主に対して十分正確な情報を伝えていないように思われます。」,「特許譲渡価格が私の方が安いのは,日立が特許費用を負担してきたから当然というのは全く受け入れ難く思っています。…実用化の努力を考えれば,私の方が日立の何倍もの譲渡価格になってしかるべきです。」などの記載があること(前記(カ)d)に照らすならば,原告は,本件譲渡契約書の作成当時,被告が日立に支払う本件特許権1の共有持分の譲渡対価が900万円であることを認識しておらず,また,上記メールを送信した時点においては,本件特許権1の共有持分の原告の譲渡対価が日立の譲渡対価よりも低い金額であったことを知り,不満を持っていたことがうかがわれること,?さらに,原告が供述するように,C1及びB1が本件譲渡契約書の作成前に原告を訪れて,原告に対し,本件特許権1の共有持分の譲渡対価として,500万円を先に支払い,後日400万円を支払うとの約束をした事実があるのであれば,原告がC1及びB1にあてて送信した上記?のメールにおいて,その約束の事実を主張してしかるべきであるのに,上記?のメールには,そのような記載はないこと,以上?ないし?の諸点に鑑みると,平成15年7月18日の前日及び数日前に,C1及びB1が,原告を訪れて,原告に対し,本件特許権1の共有持分の譲渡対価として,500万円を先に支払い,後日400万円を支払うとの約束をしたとの原告の前記供述部分及びこれと同旨の前記陳述書の記載部分は措信することができない。 他に原告主張の本件合意の事実を認めるに足りる証拠はない。 ウ 小括以上のとおり,原告主張の本件合意の事実を認めることができないから,原告の本件特許権1の共有持分の譲渡対価の請求は理由がない。 (2) 争点2(実施料請求権の存否)についてア 被告装置の本件発明2の技術的範囲の属否(ア)原告は,被告装置は,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」を「1個(1組)」配置した「Bloody7-7Dチップ」(シリコンチップ)を含むものであって,「一つの窪み(流路)に流入口又は流出口のいずれか一方しか有していない構成」のものであるが,一つの窪み(流路)に流入口と流出口が共に存在すること自体は,本件発明2の構成に必須のものではないから,被告装置は,本件発明の技術的範囲に属する旨主張する。 原告の主張は,要するに,本件発明2の構成要件Aの「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配置し」中の「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」は,一つの窪みに流入口と流出口が共に存在することを要するものではなく,「一つの窪み(流路)に流入口又は流出口のいずれか一方しか有していない構成」のものも含まれ,また,窪みを「1個(1組)」配置したものであっても,構成要件Aを充足するというにあるものと解される。 そこで,以上を前提に,被告装置の本件発明2の構成要件Aの充足性について判断する。 (イ)a本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)は,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配置し,且つこの窪み相互を区画する壁部に,前記流入口と流出口とを結ぶ直線に対しほぼ直交する方向において,窪み相互を連通する微小な溝を有してなる第1の基板と上記第1の基板の表面に接合ないし圧着される平面を有する第2の基板とからなり,上記第1の基板と第2の基板の接合部ないし圧着部に上記窪みおよび溝によって形成される空間を流路として有することを特徴とする血液回路。」というものである。 そして,請求項1を全体としてみれば,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配置し」の構成(構成要件A)は,第1の基板を構成する「窪み」は「複数個並列配置」され,その「窪み」の各々が「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する」構成を意味するものと解するのが,自然な文言解釈であるといえる。 b(a)次に,本件明細書(甲3の2)の「発明の詳細な説明」には,以下のような記載がある。 ?「(従来の技術)血液中の有形成分である赤血球,白血球,血小板の機能を測定,評価することは,健康管理,疾患の診断と治療に極めて重要である。そこで,従来,赤血球変形能を測定する目的でニュークリポア[Nuclepore]フィルター,ニッケルメッシュフィルター等の微小な孔を持った膜に対する血液の通過能が調べられてきた。また,血小板凝集能の測定には凝集に伴う血小板浮遊液の濁度の変化を測定する方法が行なわれてきた。また,白血球活性度の測定には,白血球活性のいくつかの側面に対応して,ボイデン[Boyden]チャンバー法,粒子貧食試験,化学発光測定法等が行なわれてきた。この白血球活性度は感染症,免疫療法,免疫抑制療法等において特に重要である。」(2頁左欄38行〜右欄1行)?「(発明が解決しようとする課題)しかしながら,上記測定法はいずれも効率の悪さ,再現性の低さ,定量性の低さ等の問題を持っており,重要度に相応しい有効な測定法とは成り得ていない。また,従来の血小板凝集能測定法は試料調整に手間がかかり,感度も十分なものでない。更に,赤血球変形能測定の上記従来技術は,孔あるいは溝が計測中に血液試料中の有形成分により閉塞されてしまうことで,信頼性を欠くものであった。」(2頁右欄2行〜10行)?「一方,本発明者らは,先にシリコン基板上に加工した微細な溝から構成される新型血液フィルターを開発し,かつ,それを用いた赤血球変形能測定装置を開発することにより,孔の径,形状が不均一である,孔に入る際の赤血球の向きが一様でない,変形過程を観察できない,指標の意味が明瞭でない等の従来の赤血球変形能測定法の諸問題を大幅に解決した(特願昭63-283687号)。」,「更に,本発明者らが発明したこの血液フィルターを用いた装置では,個々の赤血球の溝通過速度を直接計測し,指標としているため,結果自身が目詰まりの影響を受けることはない。しかしながら,依然として目詰まりそのものを防ぐことはできていない。そのため,フィルターの使用回数が制限され,装置実用化の上で大きな障害となっている。」,「また,従来,他種の血球の干渉を防ぐ目的で,血液試料から単一種類の血球分画だけを分離して測定することが行なわれてきたが,斯様な方法は多大な手間を要するだけでなく,その間の血球の変性あるいは分離処置による変性を防ぐことができず,そのため,結果の生理学的あるいは診断学的価値を低下せしめるものであった。」,「また,静水圧差による血球の受動的な運動と生理活性物質刺激による血球の能動的運動を完全に分離して測定すること,更に,血球に対する機械的ストレスの影響は研究及び診断上重要であると考えられるが,現在この種の問題を定量的に研究し得る方法はない。上記の本発明者らが発明した装置では,フィルターを多段にすることにより,このような研究を可能にしているが,個々の血球細胞に対する機械的ストレスの影響を追跡測定するところまではできていない。」,「また,これまで,流路がネットワークを構成した際の各血球の流れの状況を測定,研究する有効な手段がなかった。」(以上,2頁右欄11行〜42行)?「したがって,本発明は次に列拳する課題を解決する新規な血液回路,並びにこれを用いた血液測定装置および測定方法を提供することを目的とするものである。 1)白血球活性度を有効に定量化し測定すること。 2)血小板凝集能の測定を従来技術に比べてより簡便かつ高感度に行なうこと。 3)赤血球変形能の測定に際しては,血液試料中の有形成分による孔あるいは溝の閉塞を防ぎ,それにより測定の信頼性を高めること。 4)血液試料から各血球分画を分離しない状態でも,赤血球変形能,白血球活性度,血小板凝集能の計測を可能ならしめること。 5)上記4の測定にあたり他種の血球の干渉を最小にすること。 6)生理活性物質のみの作用による特定の血球細胞の遊走も測定し得ること。 7)機械的ストレスによる各血球細胞の上記機能特性の変化を追跡測定すること。 8)流路網において各血球細胞の流れの分布を測定すること。」(2頁右欄43行〜3頁左欄12行)?「(課題を解決するための手段)かかる目的を達成するため,本発明は血液試料の全てが微細な溝を通過する従来の方式に代えて,大きな流路に対し略直交方向に微細な溝を形成することで,血液試料の一部のみを大きな流路から微細な溝に導く方式を採用し,併せて半導体微細加工技術を応用することにより基板上に赤血球,白血球ないし血小板の形状にそれぞれ適合した種々の形状,大きさの微細な溝を高精度に作成したものである。血液試料の一部のみでもそこに含まれる血球細胞の数は極めて多数であり,十分の個数の血球について測定することのできるものである。」,「尚,このように血液試料を大きな流路から微細な溝に導くには該溝の入口側と出口側,即ち血液試料を流す大きな流路となる部位と,この流路と平行しかつ前記溝によってこの流路と連通される別の流路(この別の流路には通常生理食塩水等の生理的に不活性流体が流される。)となる部位との間に静水圧差あるいは生理活性物質の濃度差を生じさせればよい。」(以上,3頁左欄13行〜30行)?「血液試料を大きな流路に対し略直交方向に設けられた微細な溝流路に流す本方式では,試料の大部分を大きな流路に沿って流し,該血液試料のごく一部のみを微細な溝に導くことが可能である。そのため,例えば赤血球の合せた形状の入口を有する微細な溝の場合,白血球あるいは赤血球より大きい有形成分例えば血球の凝集塊が入口近傍にきても該溝内に入ることはできず,血液試料の主流に押し流されて溝入口から遠ざかって行くことになる。」(3頁左欄47行〜右欄5行),「このようにして白血球あるいは赤血球より大きい有形成分が該溝を閉塞することが防がれる。その際,赤血球に比べて小さい血小板の流入は防ぎ得ないが,血小板が赤血球の通過を障害することはない。同様に,白血球に合せた形状の入口を有する溝の場合,赤血球,血小板は自由に通過するが,白血球の通過に影響を及ぼすことはない。」(3頁右欄5行〜11行),「このように血液試料の流し方,溝入口の形状,測定方式を工夫することにより,径のより大きい血球あるいは有形成分の流入を防ぎながら,測定対象血球細胞による溝閉塞を含めた溝通過能を選択的に測定することが可能になる。」(3頁右欄14行〜18行)?「(実施例)以下,本発明構成を図面に示す実施例に基づいて詳細に説明する。」(3頁右欄40行〜42行目),「第2図(a)および(b)にそれぞれ本発明の血液回路の構成の一例を示す。表面に流路や溝を構成する窪みや溝を有する第1の基板60と,この第1の基板60の表面に接合される平面を有する第2の基板61とから少なくとも構成されている。第2図(a)に示される実施例は,第1の基板60に互いに平行な2つの縦長な窪み62,63を設け,それら窪み62,63の間を区画する壁部64に各窪み62,63とで形成される流路とほぼ直交する方向の溝65を設けたものである。窪み62,63はその両端に流入口66と流出口67を夫々設け,流入口66から流体を導入して窪み62あるいは63を通し流出口67から排出させるように設けられている。…また,第2図(b)に示される実施例は第1の基板60に血液試料を含む液体を流す1本の窪み62と血液試料を含まない流体を流す2本の窪み63を互いに平行に設けたものである。この各窪み62,63を相互に区画する壁部64には第2図(c)に拡大して示すように,微細な溝65が窪み62,63における流路と略直交方向に多数設けられている。尚,第2図(a)及び(b)において符号50はこれらの血液回路における血液試料の流れを,また符号51は生理食塩水の流れを示す。」(4頁左欄46行〜右欄21行)?「(発明の効果)本発明は,以上説明したように構成されるために,(1)血液試料から各血球分画を分離することなく,迅速に赤血球の大きさと変形能の度数分布,白血球の大きさと活性度あるいは刺激に対する応答の度合の度数分布,血小板の大きさと凝集能あるいは凝集塊の度数分布を測定することができ,(2)また,従来の血液像は,血液中の各血球の数とその大きさの分布の計測値に基づく,形態学的な血液像であるのに対し,本発明の装置は,各血球の機能即ち血液の機能像を与えるものであり,各種の疾患で血液の形態学的な像が変化するのは症状がかなり進行した後であるのに対して,血液の機能的変化は早期に出現する可能性が高い。また,血液の機能的変化は病態の差を強く反映するものと予想される。」,「従って,本発明の装置は各種疾患の早期診断,精密診断に貢献する。」(以上,5頁右欄47行〜6頁左欄13行)(b)前記(a)の各記載及び本件明細書の「第2図」(別紙本件明細書の図面参照)を総合すれば,本件明細書には,従来の血液中の有形成分である赤血球,白血球,血小板の機能の測定方法には,効率の悪さ,再現性の低さ,定量性の低さ等の問題があり,それらの問題を解決して測定結果の信頼性を高めるという課題があったところ,上記課題を解決するために,「本発明者ら」は,「シリコン基板上に加工した微細な溝から構成される新型血液フィルターを開発し,かつ,それを用いた赤血球変形能測定装置を開発することにより,孔の径,形状が不均一である,孔に入る際の赤血球の向きが一様でない,変形過程を観察できない,指標の意味が明瞭でない等の従来の赤血球変形能測定法の諸問題を大幅に解決した(特願昭63-283687号)」が,この新型血液フィルターを用いた装置においても,依然として目詰まりそのものを防ぐことはできていないため,フィルターの使用回数が制限され,装置実用化の上で大きな障害となっていたことなどから,本件発明2は,測定結果の信頼性を高めることなどの目的を達成するための手段として,「血液試料の全てが微細な溝を通過する従来の方式」に代えて,「大きな流路に対し略直交方向に微細な溝を形成することで,血液試料の一部のみを大きな流路から微細な溝に導く方式」を採用し,それによって,「白血球あるいは赤血球より大きい有形成分が該溝を閉塞することが防がれ」て,「血液試料から各血球分画を分離することなく,迅速に赤血球の大きさと変形能の度数分布,白血球の大きさと活性度あるいは刺激に対する応答の度合の度数分布,血小板の大きさと凝集能あるいは凝集塊の度数分布を測定することができ」るという効果を奏することが開示されているものと認められる。 加えて,本件明細書の実施例(第2図の(a),(b))には,「窪み62,63はその両端に流入口66と流出口67を夫々設け」る構成が開示されていることを併せ考慮すると,本件明細書においては,本件発明2は,並列配置した窪み(流路)の各々に流れを生じさせ,血液試料の一部のみを大きな流路から微細な溝に導くための構成,すなわち血液資料の一部のみを一方の流路から微細な溝に送り,他方の流路へ回収させるための構成として,窪み(流路)の各々に流入口及び流出口の双方が備わっていることを重要かつ不可欠な構成と捉えているものと認められる。 c前記a及びbの認定事実によれば,本件発明2の構成要件Aの「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪みを複数個並列配置し」の構成中の「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」は,「窪み」の各々が「一端部に流入口」及び「他端部に流出口」を共に有する構成を意味するものと解するのが相当である。 これに対し原告は,一つの窪み(流路)に流入口と流出口が共に存在すること自体は,本件発明2の構成に必須のものではない旨主張するが,本件発明2の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に基づかない独自の見解であって,採用することはできない。 (ウ)そこで,被告装置の本件発明2の構成要件Aの充足性について検討するに,被告装置が「一つの窪み(流路)に流入口又は流出口のいずれか一方しか有していない構成」のものであって,当該窪みが「一端部に流入口」及び「他端部に流出口」を共に有する構成を有していないことは,原告が自認するところである。 そうすると,被告装置においては,構成要件Aの「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」を備えておらず,また,「窪み」を「複数個並列配置し」たものではないから,被告装置は,構成要件Aを充足していないものと認められる。 そして,本件発明2の構成要件Bの「第1の基板」は,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」が存在することを前提に,「この窪み相互を区画する壁部」及び「窪み相互を連通する微細な溝」を有してなるものであるところ,被告装置においては,「一端部に流入口を有し,他端部に流出口を有する窪み」を備えていない以上,構成要件Bの「第1の基板」が存在しないというべきであるから,被告装置は,構成要件Bを充足していないものと認められる。 さらに,本件発明2の構成要件C及びDは,「第1の基板」の存在を前提とするものであるところ,上記のとおり,被告装置においては「第1の基板」が存在しないというべきであるから,被告装置は,構成要件C及びDのいずれも充足していないものと認められる。 (エ)以上のとおり,被告装置は,本件発明2の構成要件AないしDを充足していないから,本件発明2の技術的範囲に属するものとは認められない。 イ 小括したがって,被告による被告装置の製造販売は本件特許2の実施に当たるものとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,原告の本件特許2の実施料の請求は理由がない。 2 反訴(1)争点1(原告によるメール送信等の被告の名誉毀損行為該当性)についてア 名誉毀損行為該当性被告は,原告は,平成19年4月17日から平成21年12月9日にかけて,医療関係者,研究者,被告の取引先等に対し,原告各メールを送信し,また,原告が理事長を務める「日本ヘモレオロジー学会」がインターネット上に開設した本件ホームページに原告書き込みを掲載したことは,被告に対する名誉毀損行為に該当する旨主張する。 原告が原告各メールを送信したこと及び本件ホームページに原告書き込みが掲載されていることは,当事者間に争いがない。 ところで,不法行為の被侵害利益としての「名誉」とは,人の品性,徳行,名声,信用等の人格的価値について社会から受ける客観的評価をいい,「名誉毀損」とは,この客観的な社会的評価を低下させる行為をいうものと解されるから(最高裁昭和61年6月11日大法廷判決・民集40巻4号872頁,最高裁平成9年5月27日第三小法廷判決・民集51巻5号2024頁参照),原告各メール及び原告書き込みの記載内容が,被告の社会的評価を低下させ,被告の名誉を毀損するものであるかどうかについて,以下において検討する。 (ア) 被告装置の性能等に関する記載内容について原告各メールのうち,別紙メール等一覧1記載の(4),(5),(7),(11),ないし(14),(25)には,被告装置の「MC-FANHR300」等に関し,「臨床用に使えないという発表内容だったと思います。」(別紙メール等一覧1記載の(4)),「不良品・不当表示品の販売」(同(5)),「日本血流血管学会の先生方とエムシー研究所は責任をもってKH-7,HR300の回収に当たらなければならなくなるはずです。」(同(7)),「MC-FANは本来のレオロジー測定にはなってない」(同(11)),「HR300は使えない」(同(11)),「HR300では再現性が悪くて上記の事業を展開するのは無理」(同(12)),「再現性の悪さという致命的な問題を起こしてしまった」(同(13)),「エムシー研様に機械を回収させてくださいますようお願い申し上げます。」(同(13)),「KH-7,HR300ではどうしようもないのです。皆様のお手元に残っているだけでも有害な結果になってしまう」(同(14)),「MCFAN(HR300)は再現性に大きな問題がある装置である。」(同(25))などの記載がある。また,原告書き込みには,被告装置に関し,「偽者MC-FAN」,「MC-FANをquackery(インチキ)と決め付け」,「エムシー研様のどうしようもない機械」などの記載がある。 これらの記載は,被告装置(「MC-FANHR300」,「MC-FANKH-7」)は,「臨床用に使えない」装置,「不良品」又は「再現性」の悪い装置であるとの事実を摘示するものであり,上記各メールを受信した医療関係者等(乙19ないし21,24ないし27,40)あるいは原告書き込みが掲載された本件ホームページを閲覧した不特定多数の者に対して,被告装置は上記摘示のとおりの性能の悪い製品であるとの印象を与え,被告装置を製造販売する被告の社会的評価を低下させるものであることが認められる。 これに反する原告の主張は採用することができない。 (イ) 被告に関する記載内容について原告各メールのうち,別紙メール等一覧1記載の(14),(17),(18),(20)には,被告に関し,「エムシー研様がディスポチップでよいのだ!HR300でよいのだ!と頑張られるだけでしたら,間違いなく倒産という一番厳しい社会的制裁を受けることは必至だと存じます」(別紙メール等一覧1記載の(14)),「もう直に資金がショートするはずです。」(同(17)),「エムシー研の基本姿勢(C1社長の姿勢)が,まことに遺憾ながら,「不良品でも売り抜けてしまえばそれでよい」なので」(同(18)),「C1社長他現経営陣・旧経営陣の無能力・怠慢を示すもの以外の何物でもありません。」(同(20))などの記載がある。 これらの記載は,被告の経営状況が悪化している事実,被告が不良品を販売している事実又は被告の経営者が無能かつ怠慢であるとの事実を摘示するものであり,上記各メールを受信した医療関係者等(乙27,32,33,35)に対して,被告は上記摘示のとおりの会社であるとの印象を与え,被告の社会的評価を低下させるものであることが認められる。 これに反する原告の主張は採用することができない。 (ウ) 被告の代表取締役に関する記載内容について原告各メールのうち,別紙メール等一覧1記載の(22)(添付文書を含む。)には,「恐らく(株)エムシー研究所C1社長からの受託収賄(加重収賄)…恐らく同理事長&C1社長による三重大学医学部E1教授への「JSTに対する虚偽報告書」作成依頼」との記載があり,この記載は,C1が被告の社長として賄賂を贈って「受託収賄(加重収賄)」に関与した事実及び「三重大学医学部E1教授」に「虚偽報告書」の作成を依頼した事実を摘示するものであり,同メールを受信した朝日新聞社会部,農林水産省,筑波大学等(乙37)の関係者に対して,被告においては犯罪行為あるいは不正行為を行う人物が社長の地位にあるとの印象を与え,被告の社会的評価を低下させるものであることが認められる。 これに反する原告の主張は採用することができない。 (エ) その余の記載内容について原告各メール及び原告書き込みのうち,前記(ア)ないし(ウ)以外のものは,単にC1個人の人格を非難したり,C1個人に対する不平不満等を述べるもの(別紙メール等一覧1記載の(1)ないし(3),(19),(21)),原告と被告とが係争中であることや被告に対する不平不満,意見等を述べるもの(同(6),(9),(10),(15),(16),(26)),「F1元理事長」及び「E1教授」に関するもの(同(23),(24))であって,これらの記載内容が,C1個人等に対する名誉毀損に該当するかどうかは格別にして,被告の社会的評価を低下させるものであると認めることはできない。 これに反する被告の主張は採用することができない。 (オ) 小括以上のとおり,原告各メール及び原告書き込みのうち,前記(ア)ないし(ウ)に掲記したものは,被告の社会的評価を低下させるものと認められるが,その余のもの(前記(エ))は,被告の社会的評価を低下させるものと認められない。 したがって,原告による原告各メールの送信及び本件ホームページにおける原告書き込みの掲載は,前記(ア)ないし(ウ)に掲記のものを対象とする限度において,被告に対する名誉毀損行為に該当し,不法行為を構成するものと認められる。 イ 違法性阻却事由の有無原告は,原告各メール及び原告書き込みの記載内容は,被告が株式会社であることから公共の利害に関する事実に係り,かつ,原告による原告各メールの送信及び本件ホームページにおける原告書き込みの掲載の目的は被告の取引先等の関係者が被告の更なる不法行為による被害を受けることを防止するという公益を図ることにあり,上記記載内容は,いずれも真実であるから,原告による原告各メールの送信及び本件ホームページにおける原告書き込みの掲載は,違法性が阻却される旨主張する。 しかしながら,本件全証拠によっても,前記ア(ア)ないし(ウ)に掲記した原告各メール及び原告書き込みの記載内容が真実であることを認めるに足りない。 したがって,原告の上記主張は採用することができない。 (2)争点3-2(被告の財産的損害の発生の有無及びその損害額)についてア被告は,原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為により被告の売上減少による財産的損害(営業上の損害)を被った旨主張する。 これに対し原告は,原告による名誉毀損行為と被告主張の被告の売上減少との間には因果関係は存在しない旨主張するので,以下において,上記因果関係の有無について判断する。 (ア)被告の第1期から第7期まで(各期の年度は4月1日から翌年3月31日まで)の決算報告書(乙48ないし54)及び第8期の事業報告(乙68)には,被告の売上高について,第1期(平成14年度)が2292万6191円,第2期(平成15年度)が8385万9438円,第3期(平成16年度)が2億8498万9925円,第4期(平成17年度)が5億4970万6731円,第5期(平成18年度)が3億5630万8925円,第6期(平成19年度)が1億3529万3916円,第7期(平成20年度)が1億0103万9990円,第8期(平成21年度)が7299万4000円との記載がある。 上記記載によれば,被告の売上高は,第1期(平成14年度)から毎年増加し,第4期(平成17年度)には5億4970万6731円に達したが,第5期(平成18年度)は3億5630万8925円と減少に転じ,以後,毎年減少を続け,第8期(平成21年度)には7299万4000円となったことが認められる。 (イ)被告は,被告の売上高は,第6期(平成19年度)から急激に減少したものであるところ,当時,いわゆる健康食品ブームにより特定保健用食品の市場規模は拡大していること,原告は,平成19年4月17日から,医療関係者や販売代理店を含む多数の者に対し,被告を誹謗中傷する原告各メールの送信が開始したこと,平成19年度以降の被告を取り巻く状況についてみると,被告を誹謗中傷する原告各メールの送信が開始されたこと以外に,特に売上げに悪影響を与えるような事情は存在しないことからすると,平成19年度以降の被告の売上高の減少は,原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為に起因するものと合理的に推論することができる旨主張する。 aしかし,被告の第6期(平成19年度)ないし第8期(平成21年度)の事業報告(甲18,32,乙68)には,被告が主張するような,被告を誹謗中傷する原告各メールが医療関係者や販売代理店に送信されたことに起因して平成19年度以降の被告の売上高が減少したことをうかがわせる記述は一切みられない。 b(a)かえって,被告の第6期(平成19年度)ないし第8期(平成21年度)の事業報告には,次のような記載がある。 ? 第6期の事業報告(甲18)「1.営業の概況(1) 営業の経過及び成果当会計年度におけるわが国経済は,…米国におけるサブプライムローン問題と共に原油価格の高騰による影響と相まって先行きに不透明感を残しております。医療機器産業界におきましては,医療費抑制政策の影響から医療機器の更新サイクルも長期化しております。このような状況下で当社は,主力商品であるエムシーファンHR300の営業・販売活動に注力してまいりました。…しかしながら,長引く医療機器の設備投資の抑制や健康器具販売会社等による血液サラサラ詐欺事件の影響もあり19台の販売にとどまることになりました。…(2) 製品別の状況エムシーファンHR300につきましては,販売代理店の積極的な営業展開があったものの医療機関の設備投資の抑制や健康器具販売会社等による血液サラサラ詐欺事件による風評の影響もあり売上高は伸びず,45,382千円(前期比82.5%減)にとどまりました。…」? 第7期の事業報告(甲32)「1.営業の概況(1) 営業の経過及び成果医療機器業界におきましては,医療費抑制政策や診療報酬包括化等の医療制度改革が進められている影響から医療機器の更新サイクルは引き続き長期化しております。また,米国に端を発した経済低迷の影響も相まって,当社は厳しい経営環境にあるといえます。このような環境の中,主力商品であるエムシーファンHR300の営業・販売活動に注力してまいりました。しかしながら,長引く医療機関の設備投資の抑制の影響から20台の販売にとどまることとなりました。…(2) 製品別の状況エムシーファンHR300につきましては,医療機関の設備投資の抑制の影響から売上高は伸びず,34,895千円(前期比23.1%減)にとどまりました。…」? 第8期の事業報告(乙68)「1.営業の概況(1) 営業の経過及び成果当会計年度は,一昨年に発生した世界的な経済危機に対する国内外の景気刺激策の効果により,中国などの新興国全般の成長において景気が回復基調にありました。日本経済においても,海外経済の回復を背景に輸出や生産面の持ち直しが見られたものの,厳しい雇用情勢やデフレ懸念などから依然として景気の先行きに不透明感のある状況となっております。医療機器業界におきましては,医療費抑制を目的とする近年の医療制度改革の影響により引き続き厳しい経営環境が続いております。このような環境の中,主力商品であるエムシーファンHR300の営業・販売活動に注力してまいりましたが,長引く医療機関の設備投資の抑制から7台の販売にとどまりました。…(2) 製品別の状況HR300 売上高 15,086(単位:千円)…」(b)前記(a)?ないし?の記載を総合すれば,被告においては,医療機器産業界において医療費抑制政策の影響から医療機器の更新サイクルが長期化している状況にあり,その中で,平成19年度における被告装置(「MCFANHR300」)の売上高の減少は医療機関の設備投資の抑制や健康器具販売会社等による血液サラサラ詐欺事件による風評の影響,平成20年度における売上高の減少は医療機関の設備投資の抑制の影響,平成21年度における売上高の減少は長引く医療機関の設備投資の抑制の影響によるものであると認識していたことが認められる。 上記認定事実によれば,平成19年度以降に被告装置の売上高が減少した主たる原因は,医療機関の設備投資の抑制の影響,健康器具販売会社等による血液サラサラ詐欺事件の風評の影響によるものと推認されるcさらに,被告が主張するように健康食品ブームにより特定保健用食品の市場規模の拡大の事実があったとしても,そのことが直ちに被告装置の需要に連動するものとは認め難い。 d以上のaないしcを総合すれば,平成19年度以降の被告の売上高の減少が原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為に起因するものと合理的に推論することができるとの被告の主張は,採用することができない。 (ウ)他に原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為と被告の売上高の減少(前記(ア))との間に相当因果関係があることを認めるに足りる証拠はない。 イしたがって,原告による原告各メールの送信等の名誉毀損行為と被告主張の財産的損害(営業上の損害)との間に相当因果関係があるものとは認められないから,その余の点について判断するまでもなく,被告の反訴請求は理由がない。 (なお,付言するに,本件においては,平成22年7月23日の本件第6回弁論準備手続期日において,被告が反訴において慰謝料等の非財産的損害の請求をしない旨陳述し,弁論準備手続が終結されたため,被告の非財産的損害に基づく損害賠償請求については審理の対象とされなかった経緯がある。)3 結論以上によれば,原告の請求及び被告の反訴請求はいずれも理由がないからこれらを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
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(別紙)メール等一覧1メール(1)平成19年4月17日付けメール(乙15)「C1社長は,思慮が足りないこと恐らく病的なレベルに近い人なのではないでしょうか」(2)平成19年4月18日付けメール(乙16,17)?件名(乙16)「…ヘモレオロジーは異常行動・犯罪に関係しますか?」?本文(乙16)「M研究所に戻ります。H氏の血液は何回も測定しておりますが,何回測定してもドロドロ状態が見られます。」,「H氏に戻ります。彼は全く「切れる」ような人ではないと思っておりましたが,最近,「あっ!彼も切れるんだ!」と分かって大変驚いたことがあります。」,「M研究所のY氏は普段冷静な人ですが,突然「切れた」ことがあり,やはり大変おどろいたことがあります。」,「日本バイオレオロジー学会のU氏はすぐに興奮状態から切れた状態になる人で,明らかに正常とはいえない人です。」?添付文書(乙17)「どうか皆様十分用心して,エムシー研究所に利用されたりしないように気をつけてくださいますようお願い申し上げます。」(3)平成19年4月20日付けメール(乙18)「M研究所のH氏は病的なレベルに近く思慮の足りない人」,「彼の思慮のなさが起こした事件(犯罪)」(4)平成19年11月30日付けメール(乙19)「MC-FANHR300(MC研究所)を用いて…検討した結果,…臨床用に使えないという発表内容だったと思います。」(5)平成19年12月2日付けメール(乙20)「貴学会がお墨付きを与えてエムシー研と販売代理店がHR300(およびKH-7)を製造・販売してきたことは,不良品・不当表示品の販売を会社(エムシー研)・学会(貴学会)ぐるみで行なってきたことになるはずです。」(6)平成19年12月3日付けメール(乙28)「MC-FANを完成したものとして(HR300を第2世代として)エムシー研に講習会をやらせるのは私の業績の剽窃以外の何物でもないように思います」(7)平成19年12月7日付けメール(乙21)「ディスポチップはBloody7-7といわれてますが,実際は7-6です。そのことが再現性の問題にも関係しております。…実際にはディスポチップの圧着度の違いを測定していたとなると,…ユーザーはかんかんになって怒るはずです。日本血流血管学会の先生方とエムシー研究所は責任をもってKH-7,HR300の回収に当たらなければならなくなるはずです。」(8)平成19年12月21日付けメール(乙29)「エムシー研様に違約金1,000万円を払ってまでして,逃げるように撤退されたわけです。技術の日立が本当に泣く状態でした。」(9)平成20年1月5日付けメール(乙22)「私は同社(判決注・「?エムシー研究所」)が決して正当な業者ではないことを皆様方には説明してきたつもりです。」,「弊社KMTは皆様によって(偽MCFANによって)営業妨害された立場にございます。」(10)平成20年1月24日付けメール(乙23)「きっとエムシー研様に対するものと思いますが,きついクレームをいただきました。」(11)平成20年2月1日付けメール(乙24)?「私から皆様に理解を求めたい点は,MC-FANは本来のレオロジー測定にはなっていないということであり」?「G1先生が示されたKH-3とHR300の相関係数(R)は0.78です。これは決して相関が高いのではなく,その反対でHR300が全く使えないことを示しております。」?「私はやはりI1先生と同様に「HR300は使えない」と思っております。」(12)平成20年2月7日付けメール(乙25)「エムシー研様にご理解願いたいのは,御社のHR300では再現性が悪くて上記の事業を展開するのは無理ということです。仮に再現性が改善されても,恐らくランニングコスト的に無理かと存じます。」(13)平成20年2月11日付けメール(乙26)?「KH-7およびHR300は失礼ながら何も分かっておられない(おられなかった)エムシー研様が勝手に臨床用装置と名づけて販売したものです。研究用として販売しなければだめだと強く主張した私を,それでは商売にならないと,違法な手段で追放してまで販売したきた機械です。そして,再現性の悪さという致命的な問題を起こしてしまったのです。」?「また繰り返し申し上げますが,どうか日本血流血管学会の先生方も責任を持ってエムシー研様に機械を回収させてくださいますようお願い申し上げます。」(14)平成20年2月23日付けメール(乙27)?「繰り返して申し訳ありませんが,(株)エムシー研様のKH-7,HR300ではどうしようもないのです。皆様のお手元に残っているだけでも有害な結果になってしまう」?「エムシー研様がディスポチップでよいのだ!HR300でよいのだ!と頑張られるだけでしたら,間違いなく倒産という一番厳しい社会的制裁を受けることは必至だと存じます」(15)平成20年5月17日付けメール(乙30)「エムシー研様は関係ないということなのでしょうか?関係ないはあまりに無責任ではないですか?」(16)平成20年5月24日付けメール(乙31)「私とエムシー研は特許の係争中です。(現在は裁判以外の交渉を一切拒否された状態です。)」(17)平成20年6月22日付けメール(乙32)「会社の経費が毎月1千万円〜1千5百万円かかっているようですので,もう直に資金がショートするはずです。」(18)平成20年7月30日付けメール(乙33)「エムシー研の基本姿勢(C1社長の姿勢)が,まことに遺憾ながら,「不良品でも売り抜けてしまえばそれでよい」なので,本当に医学界で通用する真摯な研究なのか(だったのか),ごまかしの研究にすぎないのか,さらには不良品販売幇助の犯罪的研究(?)なのかが分からず」(19)平成20年8月3日付けメール(乙34)「C1社長は,その後,興和のJ1様の立会いの下で私に謝罪してくれたことをどうか忘れないでいただきたいと存じます。」(20)平成20年8月22日付けメール(乙35)「6億7千6百万円も集めての失敗(まだ確定したわけではありませんが,販売代理店も見放している状態ですから,奇跡の回復はあり得ないのではないでしょうか?)は,C1社長他現経営陣・旧経営陣の無能力・怠慢を示すもの以外の何物でもありません。」(21)平成20年9月1日付けメール(乙36)「エムシー研のC1社長がやってくれたこと(私に対する名誉毀損)は犯罪でありますので絶対に許せないことではありますが…」(22)平成21年6月10日付けメール(乙37)?メール本文「その「不祥事のデパート」(判決注・「農林水産省」)には,以下の(大)不祥事も追加していただかなければなりません。…恐らく(株)エムシー研究所C1社長からの受託収賄(加重収賄)…恐らく同理事長&C1社長による三重大学医学部E1教授への「JSTに対する虚偽報告書」作成依頼」?メール添付文書(平成21年4月7日付けの東京地方検察庁検事正に宛てた「申立書」と題する文書,平成21年3月30日付けの農林水産大臣K1に宛てた文書)上記?と同内容の記載(23)平成21年6月26日付けメール(乙38)「F1元理事長もE1教授もエムシー研の成功(上場)の暁の多額の謝礼をご期待されておったのではないでしょうか?あるいはC1社長から多額の謝礼を約束されておったのではないでしょうか?あるいはすでに謝礼をもらっておられたのではないでしょうか?これは誰が見ても,受託収賄(加重収賄)以外の何物でもありません。」(24)平成21年7月4日付けメール(乙39)「いずれにしても,エムシー研のC1社長に上手に丸め込まれてしまったわけですね!F1先生もE1先生も犯罪の片棒を担がされて,本当に恥ずかしい限りではないですか!」(25)平成21年11月17日付けメール(乙40)「エムシー研のMCFAN(HR300)は再現性に大きな問題がある装置である。」(26)平成21年12月9日付けメール(乙41)「(株)エムシー研と(独)食総研…による「知財の横領と損壊」となれば,脅して申し訳ありませんが,とても罰金&損害賠償ではすまないことであり,恐らく,懲役刑がつくものなのではないでしょうか?」2ホームページ(乙42)(1)「理事長の談話1」?「エムシー研のC1社長はこれらのこと(判決注・「血液サラサラ・ドロドロ」のこと)が全く理解できなかったのです。」?「偽者MC-FAN」,「MC-FANをquackery(インチキ)と決め付け」,?「エムシー研の悪事」(2)「理事長の談話3」?「MC-FANをもう完成していると勘違いされたのはエムシー研のC1社長だけではありません。」,「エムシー研様のどうしようもない機械…」?「仮にこの検査値(&画像)がエムシー研様のKH-7やHR300によるものだったら,私は「この値&画像は信用できませんので…」と申し上げねばならなくなります。」,「エムシー研の皆様と日本血流血管学会の先生方は,再現性のない(乏しい)検査値(&画像)がどういう結果をもたらすかお分かりなのでしょうか?」 |
裁判長裁判官 | 大鷹一郎 |
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裁判官 | 大西勝滋 |
裁判官 | 上田真史 |