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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成18ワ23550職務発明譲渡対価等請求事件 判例 特許
平成19ネ10008職務発明対価支払等請求控訴事件 判例 特許
平成15ネ4867「窒素磁石」に係る発明の対価請求控訴事件 判例 特許
平成14ワ16635「窒素磁石」に係る発明の対価請求事件 判例 特許
平成16ワ9373職務発明対価金請求事件 判例 特許
関連ワード 特許を受ける権利 /  承継 /  発明者 /  職務発明 /  業務範囲 /  無償の通常実施権 /  相当の対価(相当な対価) /  協議 /  共同発明 /  公然実施(29条1項2号) /  慣用技術 /  技術的範囲 /  同一の発明 /  試行錯誤 /  実施料相当額 /  模倣 /  存続期間 /  優先日 /  特許料(維持年金) /  技術的意義 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  交換 /  侵害 /  算定方法 /  実施料 /  共同発明者 /  実施権 /  専用実施権 /  通常実施権 /  実施許諾(実施の許諾) /  設定登録 /  対価 /  請求の範囲 /  変更 / 
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事件 平成 20年 (ワ) 22178号 特許権承継対価請求事件
群馬県太田市<以下略>
原告亡 A訴訟承継人B群馬県邑楽郡<以下略>
原告C 群馬県邑楽郡<以下略>
原告D
原告ら訴訟代理人弁護士伊藤真
補佐人弁理士廣瀬哲夫 大阪府守口市<以下略>
被告三 洋電機株式会社
訴訟代理人弁護 士尾崎英男
同 保坂理枝
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2011/01/28
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1原告らの請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
請求
1被告は,原告Bに対し,1500万円及びこれに対する平成20年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2被告は,原告Cに対し,1000万円及びこれに対する平成20年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3被告は,原告Dに対し,1000万円及び平成20年8月30日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
事案の概要
本件は,亡Aの訴訟承継人である原告B,原告C及び原告Dが,「熱交換器」に関する後記発明は被告の従業員であった亡A,原告C及び原告D(以下,亡Aを含む上記3名を「原告ら3名」という。)が共同で発明した職務発明であり,その特許を受ける権利を被告に承継させた旨主張し,平成16年法律第79号による改正前の特許法35条(以下「特許法旧35条」という。)3項,4項の規定に基づき,被告に対し,上記特許を受ける権利承継に係る相当の対価の一部請求として合計3500万円及び訴状送達の日の翌日以降の遅延損害金の支払を求めた事案である。
1争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア(ア)亡Aは,昭和43年3月に群馬大学工学部化学工学科を卒業した後,同年4月に被告に入社し,その後平成13年10月まで被告に在職した者である。
亡Aは,本件訴訟係属後の平成22年1月5日に死亡し,その共同相続人間で同年2月17日に成立した遺産分割協議の結果,亡Aの妻である原告Bが,本件訴訟に係る亡Aの特許を受ける権利の相当対価請求権を相続により取得し,本件訴訟における亡Aの地位を承継した。
(イ)原告Cは,昭和48年3月に群馬大学工学部合成化学工学科を卒業した後,同年4月に被告に入社し,その後平成17年4月10日まで被告に在職した者である。
(ウ)原告Dは,昭和57年3月に埼玉大学工学部環境化学工学科を卒業した後,同年4月に被告に入社し,その後平成17年10月31日まで被告に在職した者である。
イ被告は,各種電気機械器具及び電気照明器具の製造,販売,保守及び賃貸借等を目的とする株式会社である。
(2) 被告による特許権の取得及びその特許発明ア(ア)被告は,昭和63年6月9日,発明の名称を「熱交換器及びこの熱交換器を組み込んだ空気調和機」とする発明につき特許出願(以下「本件出願1」という。)をし,平成9年12月19日,特許第2730908号として特許権(以下「本件特許権1」といい,この特許を「本件特許1」という。)の設定登録(請求項の数5)を受けた。
なお,本件特許権1は,平成20年6月9日,存続期間満了により消滅した。
(イ)本件特許1に係る特許請求の範囲の記載は,次のとおりである(以下,請求項1ないし5に係る発明を「本件発明1」と総称する。)。
「【請求項1】管挿入用の穴を千鳥状に配列した複数枚の板状フインと,前記穴に挿入される伝熱管とを備え,前記板状フインの管段間に幅の狭い複数の細片が気流方向と交叉する方向に切り起こされた熱交換器において,前記複数の細片の切り起こし根元を前記伝熱管の同心円上に沿って配置させると共に,これら細片を伝熱管の列の中心線に対して中央側に配直された中央側細片と,この細片の両外側に夫々複数列配置され前記中心線と交叉する線上に前記板状フインの基板部を残して分割された分割細片とから構成し,前記中心線よりも最も離れた外側列の分割細片の長さ寸法と,この分割細片同士の間隔寸法と,この分割細片よりも前記中心線側に配列された内側列の分割細片の長さ寸法とを略同一に設定したことを特徴とする熱交換器。」「【請求項2】同じ管列の隣り合う管段間に設けた外側列の分割細片同志の間隙寸法を,この管列と隣り合う別管列における外側列の分割細片同志の間隔寸法より小さく設定した請求項1記載の熱交換器。」「【請求項3】機体内の通風路中に請求項1記載の熱交換器とクロスフローファンとを組み込むと共に,熱交換器におけるクロスフローファン近傍の板状フインの一部に,管挿入用の穴の周囲を残して外側列の分割細片と共に前記周囲と周囲との間に至るように切り欠いた切欠部を設けたことを特徴とする請求項1記載の空気調和機。」「【請求項4】熱交換器における切欠部と面する板状フインの縁が少なくとも気流方向と交叉する方向に折り曲げられた請求項3記載の空気調和機。」「【請求項5】熱交換器におけるフインの折り曲げ寸法が板状フインのフイン間隔寸法よりも小さく設定された請求項4記載の空気調和機。」イ(ア)被告は,昭和63年10月11日,発明の名称を「熱交換器」とする発明につき特許出願(以下「本件出願2」という。)をし,平成9年12月19日,特許第2730926号として特許権(以下「本件特許権2」といい,この特許を「本件特許2」という。)の設定登録(請求項の数1)を受けた。
なお,本件特許権2は,平成20年10月11日,存続期間満了により消滅した。
(イ)本件特許2に係る特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明2」という。)。
「【請求項1】管挿入用の穴を千鳥状に配列した複数枚の板状フインと,前記穴に挿入される伝熱管とを備え,前記板状フインの管段間に幅の狭い複数の細片が気流方向と交叉する方向に切り起こされた熱交換器において,前記複数の細片の切り起こし根元を前記伝熱管に沿わせると共に,これら細片を伝熱管の列の中心線に対して中央側に配置された中央側細片と,この細片の両外側に夫々複数列配置され前記中心線と交叉する線上に前記板状フインの基板部を残して分割された分割細片とから構成して,前記中心線よりも最も離れた外側列の分割細片の長さ寸法と,この分割細片よりも前記中心線側に配列された内側列の分割細片の長さ寸法とを略同一に設定し,且つ外側列の分割細片間のフイン基板部と向き合う板状フインの縁部に気流方向と交叉する方向へ突出し気流方向に向かって広がる突起を設けたことを特徴とする熱交換器。」(3) 被告における職務発明に関する定めア被告においては,その従業員が行った職務発明等に関して,昭和34年6月1日に「発明考案奨励規程」(以下「被告規程」という。)が制定及び施行され,その後11回にわたる改正(最終改正平成17年4月1日)を経て,現在(本件口頭弁論終結日。以下同じ。)に至っている(乙1の1ないし5。なお,被告規程の現在の名称は「知的創造へのインセンティブ規定」である。)。
本件出願1,2(以下「本件各出願」という。)の出願時,本件特許権1,2(以下「本件各特許権」という。)の設定登録時及び現在の各時点において効力を有する被告規程の内容は,概ね以下のとおりである。
イ(ア)昭和62年6月1日改正後の被告規程(本件各出願の出願時に効力を有するもの。乙1の1)「第1条(目的)●(省略)●「第2条(特許などを受ける権利およびその実施権)●(省略)●「第6条(出願)●(省略)●2.(略)」「第7条(出願奨励金)●(省略)●(3)(略)」「第8条(登録報償金)●(省略)●(3)(略)」「第9条(実施報償金)●(省略)●「第10条(審査会)●(省略)●(イ)平成9年9月1日改正後の被告規程(本件各特許権の設定登録時に効力を有するもの。以下「平成9年改正被告規程」という場合がある。乙1の4)a「第9条(出願報償金)●(省略)●「第10条(登録報償金)●(省略)●「第18条(報償の対象者)●(省略)●「第19条(報償の対象となる特許の実施)●(省略)●「第20条(特許の評価,報償金額の決定)●(省略)●「第21条(報償金の授与および負担)●(省略)●2.(略)●(省略)●4.(略)」「第22条(評価委員会および審査会)●(省略)●「第24条(実施料収入に基づく補償)●(省略)●「第30条(補償金)●(省略)●「第31条(補償金の限度額)●(省略)●b(a)「別表2」([登録報償金の区分および金額表])は,特許の登録報償金につき●(省略)●と定めている。
(b)「別表3」([実施報償金算出表])には,●(省略)●などの記載がある。
上記記載のとおり,●(省略)●(ウ)平成17年4月1日改正後の被告規程(現在効力を有するもの。
乙1の5)a「第18条(実施報償)●(省略)●「第19条(報償の対象となる特許の実施)●(省略)●「第20条(特許の評価,報償金額の決定)●(省略)●「第21条(報償金の授与および負担)●(省略)●2.(略)●(省略)●4.(略)」「第22条(審査会)●(省略)●「付 則第5条(1997年9月1日改正の施行への特例)本規定の改正は,1997年1月1日にさかのぼって施行する。(以下略)」b「別表2」([実施報償金算出表])には,●(省略)●などの記載がある。
「別表2」記載の「権利評価基準」は,前記(イ)b(b)の「権利評価基準」と同内容である。
(4) 特許を受ける権利の譲渡,被告規程に基づく対価の支払等ア(ア)原告ら3名は,被告の従業員であった当時,共同で本件発明1,2の発明をした(以下,本件発明1,2を「本件各発明」という。)。
本件各発明は,被告の業務範囲に属し,かつ,原告3名の職務に属するものであって,特許法35条1項所定の職務発明に当たる。
(イ)原告ら3名は,本件各出願の出願時(本件出願1につき昭和63年6月9日,本件発明2につき同年10月11日)までに,被告規程に基づいて,本件各発明についての特許を受ける権利(外国における特許を受ける権利を含む。)を被告に譲渡した。
イ(ア)被告は,被告規程に基づいて,原告ら3名に対し,本件発明1に関して,●(省略)●を支払った(乙2の1,弁論の全趣旨)。
(イ)被告は,被告規程に基づいて,原告ら3名に対し,本件発明2に関して,●(省略)●を支払った。
ウなお,被告は,本件各発明について米国で特許権(米国特許第4,909,319号)を,本件発明1について韓国で実用新案権(韓国実用新案登録第73786号)をそれぞれ取得し,これらに関し,被告規程に基づく出願奨励金,登録報償金及び実施報償金(以下「報償金」と総称する場合がある。)を原告ら3名に支払っている。
(5) 被告による本件各発明の実施品の製造販売被告は,1988年(昭和63年)ころから2008年(平成20年)までの間,別紙1のとおり,本件各発明を実施した熱交換器(以下「本件熱交換器」という場合がある。)を使用したエアコン(以下「本件エアコン」という場合がある。)を製造(生産)及び販売した。本件エアコンの総生産台数は,●(省略)●であり,日本における生産台数は●(省略)●,日本における販売台数は●(省略)●である。
なお,被告は,上記の期間中,第三者に本件各発明について実施許諾をすることはなかった。
2 争点本件の争点は,原告ら3名の被告に対する本件各発明についての特許を受ける権利(ただし,外国における特許を受ける権利を除く。以下同じ。)の承継に係る特許法旧35条3項,4項の相当対価請求権の存否である。具体的には,相当の対価の額の算定方法,相当の対価の具体的な金額,当該金額が被告が被告規程に基づいて原告ら3名に支払った報償金の額を上回るかどうかである。
争点に関する当事者の主張
1 原告らの主張(1) 相当の対価の額の算定方法ア(ア)特許法旧35条3項,4項の規定に従って定められる本件各発明についての特許を受ける権利承継に係る相当の対価(以下「本件各発明に係る相当の対価」という。)の額が原告ら3名が被告から被告規程に基づいて支払を受けた報償金の額に満たないときは,原告らは,被告に対し,その不足額の支払を求めることができる(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁(以下「オリンパス事件最高裁判決」という。)参照)。
ところで,被告は,本件各発明について,他社に実施許諾をせずに,自社で独占実施(自己実施)してきた。
このように被告は,本件各発明を独占実施(自己実施)をすることにより,他社製品に比して良好な製品の独占販売が可能となり(通常実施権であれば,他社も同様の発明を用いた製品の販売が可能であった。),他社製品に対する優位性が販売に寄与し,独占権を有していない場合に比してより多くの数量の本件エアコン(本件各発明の実施品である熱交換器(本件熱交換器)を用いたエアコン)の販売をなし得たものである。
したがって,被告の本件エアコンの売上高のうち,本件熱交換器に係る部分には,被告が法定通常実施権(特許法35条1項)に基づく実施を超えて本件各特許権に基づいて独占的に売り上げることができた超過売上高が含まれており,その超過売上高に係る実施料相当分(想定実施料)が,「独占の利益」すなわち特許法旧35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益」に当たるというべきである。
(イ)以上によれば,特許法旧35条3項,4項の規定に従って定められる本件各発明に係る相当の対価は,(本件エアコンの売上総額)×(本件エアコンにおける本件各発明の寄与度)×(超過売上高の割合)×(想定実施料率)×(1-被告の貢献度)の算定式によって算定すべきである。
イこれに対し被告は,後記のとおり,前記ア(ア)の超過売上高に係る「独占の利益」に基づく相当の対価の算定は,現実から遊離したものであって妥当でないなどと主張する。
しかし,被告の主張は,オリンパス事件最高裁判決を始め,特許法旧35条3項,4項の相当の対価の額を算定したこれまでの判例及び裁判例とは異質な独自の見解であって,失当というほかない。
(2) 相当の対価の額ア 本件各発明の実施による性能向上(ア) 本件各発明の効果熱交換器は,エアコンの性能を決定する主要な部材であり,熱交換器のフィンパターン(フィンの切り起こし細片の形状及び配列パターン。以下同じ。)が熱交換器における熱交換効率の向上,小型化及び騒音の抑制に重要な意味を持つ。
本件発明1は,熱交換器における熱交換効率の向上,フィン上の外側列の分割細片の熱伝導率の向上,空気調和機(エアコン)における薄型化と騒音の抑制の効果を奏するものであり,本件発明2は,熱交換器における熱交換効率の向上と騒音の抑制の効果を奏するものである。
従前の熱交換器におけるフィンの形状において,分割細片の長さ等は考慮されていなかったが,本件各発明は,正に初めてこの点に着目し,熱交換効率の向上と騒音の抑制の効果をもたらしたものである。
(イ) エアコンの性能向上本件エアコンは,本件各発明が実施された熱交換器(本件熱交換器)を使用したことにより大きく性能が向上している。このことは,以下の諸点から明らかである。
a熱交換効率の向上と省エネルギー化国民生活センター発行の「たしかな目1995年11月号」(甲6)における各社のエアコンの性能比較では,本件熱交換器を使用した被告のエアコン製品(「Dr.ツインSAP-E256VS」)が,冷暖房のいずれにおいても,立ち上げの早さや消費電力の少なさにおいて,1項目を除き,「A評価」を得て,他社を圧倒している。
本件熱交換器を使用した被告のエアコン製品である「SAP-250VR」と,本件熱交換器を使用していない従前の被告のエアコン製品である「SAP-259V」とを比較すると,「SAP-250VR」においては,?軽量化(アルミの使用量が製品1個当たり2?軽減),?冷暖房能力の向上(冷暖房能力がそれぞれ100kcal/h向上),?消費電力の削減(10w削減),?騒音の低下(騒音レベルが2ホン低下),?空気側熱伝導率が約15%向上し,一方で,空気側圧損は約32.5%減少といった性能の向上がみられた(乙52)。
b薄型化及び小型化本件出願1に係る願書に添付された明細書(以下,図面を含めて「本件明細書1」という。)(甲2)に,「本発明の効果」として,「薄型化のために熱交換器とクロスフローファンと近接して配置しても伝熱効率を低下させることなく,かつ騒音の抑制が行えるものである。」(6頁左欄末行〜右欄3行)との記載があるように,本件発明1を実施した場合には,クロスフローファン(送風機)と熱交換器を近接させても熱交換器の外側列の分割細片の熱伝達率が落ちることがないため,これらを容易に近接させることができる。
また,伝熱効率が向上したので,熱交換器それ自体の外形寸法も,アルミフィンを小型化することができ,大幅に熱交換器を小さくできる。実際,本件各発明を実施したSAP-250VRにおいては,従来品の同等タイプのエアコンに用いていた熱交換器に比して,フィン幅を43.3?から27.2?に大幅に減少させることができた(フィン高は300?から308?に変更)。熱交換器の容積においても,25.2%という極めて大幅に容積を減らすことができた。
そして,これらのことは,エアコンの室内機全体のスリム化,小型化にも大きく資するところであった。
cコスト削減熱交換器における熱交換効率の向上,それに伴うフィンの小型化は,熱交換器に用いるアルミの使用量の大幅な軽減につながった。
交換効率の向上により,アルミフィンの板厚を0.115?から0.110?に薄くすることができ,前述のフィン幅を43.3?から27.2?に大幅に減少させることができたことと相まって,熱交換器におけるアルミの使用量(使用されるアルミの重量)は,本件各発明を実施したSAP-250VRにおいては,従前の同等タイプのエアコンに用いていた熱交換器に比して,0.254?減少(1.234?から0.98?に減少)させることができた。
当時,アルミフィンの単価は640円/?であったので,1台当たり162.56円ものコスト削減になった。
また,エアコンの室内機全体のスリム化・小型化は,輸送・梱包費におけるコスト削減にも大きく寄与するものであった。
イ 本件エアコンの売上総額本件各発明を実施した本件熱交換器を使用した本件エアコンの販売台数は,別紙1のとおり●(省略)●を超え,その平均製品単価は10万円を下回るものではない。
したがって,被告による本件エアコンの売上総額は,●(省略)●を下回るものではない。
ウ 本件エアコンにおける本件各発明の寄与度(ア)エアコンの熱交換器部分は,エアコンの心臓部で,エアコン全体の性能に直結する部分であること,エアコン全体の製品価格に占める熱交換器部分の価値は3分の1を下回るものではないこと,熱交換器部分においては,伝熱管やフィン材の皮膜処理などの他の技術にも負うところがあること,フィンに細片や突起を設けて気流を制御すること自体は慣用技術であることに鑑みると,本件エアコンにおける本件各発明の寄与度は,10%を下回るものではない。
(イ)被告は,後記のとおり,本件エアコンの売上げに対する最も大きな技術的貢献は,原告ら3名以外の他の技術者が過去に行ったインバータ制御技術である旨主張する。
しかし,コンプレッサーと熱交換器の性能こそがエアコンの性能を決定づける二本柱であって,その中で,インバータ制御技術は,コンプレッサーの可変制御を可能にした技術にすぎないから,被告の主張は理由がない。
エ 超過売上高の割合以下に述べる諸点を考慮すると,被告による本件各発明の独占実施による超過売上高の割合は,10%を下回るものではない。
(ア) 本件各発明を実施したエアコン製品の市場における優位性a売上げ及び利益の増加被告が本件各発明を実施したエアコン製品を市場に投入したのは,1989年(平成元年)の「冬商品」からである(乙27)。
平成4年における被告のエアコン製品の売上高は,昭和63年に比して,●(省略)●となっている(乙19)。
交換器,ひいてはエアコン全体の大きな性能向上効果(前記ア(イ))を奏する本件各発明を被告が独占実施(自己実施)した結果,上記のように,被告のエアコン製品の販売実績が向上した以上,被告は,独占実施による超過売上げによる利益を得ているというべきである。
b市場シェアの増加(a) 家庭用エアコンの市場シェア被告の家庭用エアコン製品の市場におけるシェアは,別紙2のとおり,平成2年(1990年)は●(省略)●であったところ,本件各発明の実施品が加わった平成3年(1991年)●(省略)●に上昇し,本件各発明が本格的に実施されるようになった平成4年(1992年)●(省略)●と急増した。
その後,被告の家庭用エアコン製品の市場シェアは●(省略)●前後に戻ったが,これには他社の製品の性能向上もあったと考えられるところであり,本件各発明の独占実施がなければ,市場シェアを更に落としていたものといえる。
上記のようなシェア向上には,本件各発明を実施した被告の家庭用エアコン製品の市場における優位性が発揮されたことは明らかである。
(b) 業務用エアコンの市場シェア被告の業務用エアコン製品において本件各発明が実施されたのは平成6年からであり,本格的に実施されるようになったのは平成7年からである。平成8年から平成14年までの間,被告の業務用エアコン製品の●(省略)●に本件各発明が実施されていた。
被告の業務用エアコン製品の市場におけるシェアは,別紙3のとおり,平成7年(1995年)に●(省略)●,平成8年(1996年)に●(省略)●であったものが,本件各発明の実施製品の割合が増加するとともに,平成9年(1997年)に●(省略)●,平成10年(1998年)に●(省略)●と上昇している。一方で,本件各発明の実施製品の割合が低下してきた平成14年(2002年)以降は,シェアも低減している。
このように,少なくとも,本件各発明の実施の導入からしばらくの期間は,本件各発明を実施した被告の業務用エアコン製品の市場における優位性が発揮されていたことは明らかである。
cOEM供給被告は,本件各発明を実施した熱交換器単体あるいは同熱交換器を使用したエアコンを他社にOEM供給している。
すなわち,被告の●(省略)●向けのエアコンのOEM供給が平成2年までは累計で●(省略)●であったものが,平成3年においては●(省略)●,平成4年においては●(省略)●となり,以降も平成9年まで●(省略)●出荷している。
また,被告は,本件各発明を実施した熱交換器単体を●(省略)●にOEM供給し,その売上高は●(省略)●に及んでいる。
OEM供給を受ける側は,多くのメーカーの中から高性能の熱交換器を自由に選んでいることからすると,被告は,本件各発明を実施した熱交換器が高性能であったからこそ,OEM供給の供給元になることができ,これにより多額の利益を得たものといえる。
(イ) 本件各発明を実施した熱交換器の長期にわたる使用エアコンの室内機部分においては,熱交換器が心臓部であるところ,本件各発明を実施した熱交換器(本件熱交換器)が,十数年間の長期にわたり,被告が製造販売するエアコンに使い続けられてきた。
このことは,本件熱交換器における技術的優位性及び経済的優位性が長期にわたり継続したことを意味する。
(ウ) 本件各特許権が存続期間満了時まで維持され続けたこと被告は,被告の有する多くの特許権について,その存続期間満了時までの特許料を納付せず,その権利を維持していないが,本件各特許権については,その存続期間満了時まで特許料を納付し,その独占権を維持し続けてきた。
オ 想定実施料率社団法人発明協会発行の「実施料率(第5版)」(甲17)によれば,?ウィンドタイプのエアコンを含まない温湿調整装置(エアコン)である「16.その他の機械」において,契約件数の最も多い実施料率は5%であり,?ウィンドタイプのエアコンが含まれる「18.民生用電気機械・電球・照明器具」において,「イニシャル無」の契約で契約件数の最も多い実施料率は5%,「イニシャル有」の契約で実施料の最も多い実施料率は4%である。
以上によれば,本件各特許権についての想定実施料率は5%が相当である。
カ 被告の貢献度(ア)被告においては,被告が製造していた伝熱管の直径が9.52?の「φ9.52スリットフィン熱交換器」のフィン形状について,●(省略)●,フィン形状の変更が急務となっていた。他方,伝熱管の細径化について技術的開発情報が文献や銅管メーカーから入るようになってきていた。
そこで,新熱交換器開発プロジェクトが結成され,プロジェクト長となった亡Aは,昭和62年5月に四国松山で開催された伝熱シンポジウムに出席したり,アルミフィン金型製造のトップメーカーである日高精機(長野県上田市所在)に何回も足を運び,意見交換するなど,研究開発を行っていた。
そのような中で,原告ら3名は,管内面積がφ9.52の伝熱管の約半分であるφ7の伝熱管に着目し,最良な溝形状,溝本数等について銅管メーカーと検討を行い,また,熱交換器の耐圧を150〜200?/c?を想定し,三菱マテリアル埼玉工場の協力を得て底肉厚を選定するなどした。
また,アルミフィンとφ7溝付管との密着性を念頭に拡管率に適する拡管機の先端に付けるブリット(拡管工具)を保持し,加圧するステーの径と強度の選定作業なども日高精機,神戸製鋼等の協力を得て行った。
伝熱管は一端がU字状になっているところ(それ故,ヘアピンと呼ばれる),このヘアピン加工もφ7溝付管では格段に難しいものとなっており,様々な検討を行って決定していった。伝熱管を1本から2本に分流する三つ又形状や,三つ又の製造時に行う溶接作業のための溶接ロー材の選定等も原告ら3名が行っている。
(イ)この新たな熱交換器の開発において,伝熱管の配列,フィンパターン及びフィンピッチの開発は,熱交換器の実機を試作して試験評価しながら,試行錯誤せざるを得なかった。その中で,原告ら3名は,伝熱管が取り付く穴が数個ついた名刺サイズ程度の大きさで,基本設計に沿った伝熱管配列の実験用フラットフィンを作成し,そこに伝熱銅管リングを拡管してフィンに密着させ,この試験サンプルを銅管部から加熱して風洞の中にセットし,所定の風速条件の下でフィンの表面温度を透明窓よりサーモビュアーにて計測し,その表面温度分布データを得るという画期的な「サーモビュアーによる検討手法」(甲16)を開発した。通常は試作品の金型を製作しなければならず,費用と期間を要し,限られたフィンパターンアイデアについての効果を試すしかなかったが,この「サーモビュアーによる検討手法」は,実機テストによることなく,より簡便,短時間かつ低廉に実験をすることができた。
「サーモビュアーによる検討手法」により各種のフィンパターンの伝熱性能を比較した結果,本件各発明における最適なフィンパターンを創出することができた。
「サーモビュアーによる検討手法」は,原告ら3名の独自の開発によるものであり,そこに被告の貢献は存在しない。
このように本件各発明は,原告ら3名が開発した手法により原告ら3名が発明したことに照らせば,本件各発明が被告の研究施設において被告の費用において発明されたことなどを斟酌しても,本件各発明についての被告の貢献度,すなわち特許法旧35条4項所定の「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度」は,90%を上回るものではない。
キ 小括以上を前提に,前記(1)ア(イ)の算定式に基づいて,本件各発明に係る相当の対価の額を算定すると,3500万円となる。
【計算式】(本件エアコンの売上総額●(省略)●)(前記イ)×(本件エアコンにおける本件各発明の寄与度0.1)(前記ウ)×(超過売上高の割合0.1)(前記エ)×(想定実施料率0.05)(前記オ)×(1-「被告の貢献度0.9」(前記カ))=3500万円(3) まとめ前記(2)キのとおり,本件各発明に係る相当の対価の額は3500万円を下るものではない。
亡Aが中心となって研究開発を行った結果,本件各発明に至ったことに照らすと,本件各発明についての原告ら3名の共同発明者間の寄与割合は,亡Aが7分の3,原告C及び原告Dが各7分の2である。
そうすると,原告らが被告から支払を受けるべき本件各発明に係る相当の対価の額は,亡Aの訴訟承継人である原告Bは1500万円,原告C及び原告Dは各1000万円を下回るものではない。
2 被告の主張(1) 相当の対価の額の算定方法ア原告らは,本件各発明についての特許を受ける権利承継対価として被告が被告規程に基づいて原告ら3名に支払った報償金を上回る額を請求することはできない。その理由は,以下のとおりである。
(ア)まず,特許法旧35条3項,4項の規定は,勤務規則によってある程度一律なルールで,相当の対価の額を定めることを禁じているものではない。
被告規程のような勤務規則に基づく報償金等の支払は,特許法旧35条3項対価の部分と,それ以外の発明奨励等を目的とする金銭の部分が双方含まれているものであるところ,このような制度による報償金等の支払が長年にわたる企業と従業員の間の慣行として確立したものとなっているという事実,多数の職務発明案件を処理しなければならない企業側の実情,実際に企業が製品を販売して業績を上げて利益を得るために働いている職務発明発明者以外の様々な部署で勤務する他の多くの従業員とのバランス等の様々な要素を考慮した一律のルールを策定して,それに基づいて特許法旧35条相当の対価の額を決定することには十分な合理性があり,それらの勤務規則は,特許法旧35条4項に規定する考慮要素を踏まえた上で定められたものであるといえる。
被告規程は,特許法旧35条4項に規定する考慮要素を踏まえて定められ,長年にわたって,特許法旧35条対価の支払のために運用されてきたものであって,企業の実情に即した相応の合理性を有しているものであるから,被告が被告規程に基づいて既に原告ら3名に対して本件各発明に関して報償金(前記第2の1(4)イ及びウ)を支払っている以上,特許法旧35条相当の対価の支払としてはそれで足りている。
したがって,原告らは,本件各発明について被告規程を適用することが不合理とする特段の事情を示さない限り,被告に対し,被告が被告規程に基づいて原告ら3名に支払った報償金を上回る額を特許法旧35条相当の対価として請求することはできないというべきである。
なお,原告らが挙げるオリンパス事件最高裁判決は,使用者企業の勤務規則の定めに法的な拘束力がないことを判示するが,相当の対価算定方法について判断したものではなく,勤務規則の定めによって支払われる金額が相当であるか否かの判断とも関係がないから,勤務規則の定めによって支払われた金銭が特許法旧35条対価として相当であると判断することは,オリンパス事件最高裁判決によって何ら妨げられるものではない。
(イ)被告が被告規程に基づいて本件各発明についての特許を受ける権利承継対価として支払うべき実施報償金及びその支払状況は,次のとおりであり,被告において実施報償金の未払はない。
a本件特許権1関係まず,平成9年改正被告規程(前記第2の1(3)イ(イ)の19条1項,20条1項及び別表3)によれば,本件特許権1の初回の実施報償は,その出願日である昭和63年6月9日以降平成9年12月31日までに実施された金額の累計総額を基準として平成10年に支払われることとなる。
平成10年に被告が支給すべき実施報償は,平成9年改正被告規程の別表3(実施報償金算出表)によって算出されるところ,被告における昭和63年以降平成9年までの本件各発明の実施品の生産台数は,米国における実施を含め,●(省略)●であること,その実施製品である熱交換器の部品価格が約6500円を上回ることがないこと,本件各発明の実施部分の当該価格に占める割合は50%を上回ることがないこと,実施製品における本件各発明の寄与割合が30%を上回ることはないことを照らし合わせると,本件特許権1に係る「生産金額」は,●(省略)●を超えることはない。
そして,本件特許1における板状フィン上の細片が,熱交換効率の低下や騒音の増大をもたらす結露を生じやすい形状であったことから,平成10年の実施報償金算定時において既にこれに代わるパターンが導入されることが決定していたこと(「技術評価」),熱交換器の構成は,各空調機メーカーが独自の仕様を有しており,本件特許1による競合他社に与える影響がないこと(「権利評価」),設定登録以前においてその実施件数が比較的多数にわたること(「営業評価」)という各点に鑑みると,本件特許権1については,少なくともその権利評価については前記別表3記載の「権利評価基準」においてCよりも高い評価を得ることはない。
したがって,被告が原告ら3名に対し支払うべき平成10年の実施報償金は,前記別表3記載の表の●(省略)●の欄と●(省略)●欄とが交差する●(省略)●となる。
しかし,被告は,原告ら3名に対し,平成10年度分の実施報償金として●(省略)●を支払っている(前記第2の1(4)イ(ア))。
この金額の差は,被告における実施報償の支給及びその額の算定が,発明者の自己申告を基にして行われたことによる。
次に,平成11年以降の実施報償は,本件特許権1の実施台数が最も多い年でも●(省略)●を上回ることはなく,本件特許権1が●(省略)●に該当することはないため,平成19年まで毎年●(省略)●ずつとなる。
被告は,原告ら3名に対し,上記金額を支払っている(前記第2の1(4)イ(ア))。
b本件特許権2関係本件特許権2は,本件特許権1と全く同一の発明ではなく,現に設定登録がされていることからすれば,本件特許権1とは別個に実施報償の支給の対象となる。
しかし,本件発明1と本件発明2は,その内容をほぼ同じくするため,その実施件数もほぼ同数となるものである。そのため,本件特許権1の評価の際に本件特許権2の存在を考慮して,その代表として本件特許1を●(省略)●の枠で評価し,他方,本件特許権2については,特許の内容自体は本件特許権1と同様であるものの,特許として別個に成立していることを考慮して,●(省略)●の枠で評価している。
そのため,本件特許権2の実施報償金は,●(省略)●に該当しないものとして,平成10年以降平成19年まで●(省略)●ずつとなる。
被告は,原告ら3名に対し,上記金額を支払っている(前記第2の1(4)イ(イ))。
イ原告らが主張する前記(1)ア(イ)の相当の対価の額の算定式((本件エアコンの売上総額)×(本件エアコンにおける本件各発明の寄与度)×(超過売上高の割合)×(想定実施料率)×(1-被告の貢献度))は,本件各発明には妥当せず,この算定式(以下「原告算定式」という場合がある。)から,本件各発明に係る相当の対価の額を導き出すことはできない。その理由は,以下のとおりである。
(ア)まず,原告算定式には「本件エアコンにおける本件各発明の寄与度」が含まれているが,これは,本件各発明が熱交換器の性能の向上に寄与し,かつ,それによって被告のエアコン事業の利益の増加に寄与したという因果関係の存在を前提とし,その前提の下で,本件エアコンの売上総額に対して熱交換器部分の寄与度を考慮しているものである。
しかし,本件各発明はフィンパターンに特徴を有する発明であるところ,原告らは,本件各発明のフィンパターンによって熱交換器の熱交換効率の向上が得られ,かつ,それによって被告のエアコン事業の利益の増加に寄与したという因果関係を示していないから,原告算定式を用いる前提が存在しない。
(イ)次に,原告算定式を用いる以上,「本件各発明を独占実施することにより発生する超過売上げ」なるものの存在を立証しなければならない。その場合,そもそも,使用者は,特許を受ける権利を譲り受けなくとも職務発明について通常実施権を取得するのであり(特許法35条1項),被告は,本件各発明に係る特許を受ける権利承継していない場合であっても,本件各発明を無償で自己実施できるのであるから,原告らは,「超過売上げ」であると主張する被告による本件エアコンの販売が,単なる自己実施ではなく,本件各特許権の独占権に基づいて,競業他社を排除した実施によって得られた売上げであることを立証しなければならない。
しかし,原告らは,そのような立証を全く行っておらず,原告算定式の「超過売上高の割合」が存在することについて具体的な主張立証がない。
(ウ)さらに,原告算定式は,本件各発明を実施した被告の製品(本件エアコン)の売上総額に対して所定の割合を乗じた金額を算定するものであるが,被告と雇用関係にあった原告ら3名が,業務範囲内で行った職務発明である本件各発明について,売上総額に対する所定割合の金銭を受け取ることができるというのは,被告と原告ら3名との間の雇用契約関係(従業者である原告ら3名の業務範囲内の活動に対する対価として賃金が支払われている。)と基本的に矛盾するものである。原告らは,特許法旧35条の下で,原告ら3名が,被告の他の従業者と異なり,雇用契約関係と整合しない特別扱いが受けられるとする根拠を何ら示していない。
(エ)また,原告算定式によって本件各発明に係る相当の対価の額が算定されることになると,本件において,「超過売上げ」あるいは「独占の利益」は発生していないから,相当な対価はゼロとなり,被告が原告ら3名に対して被告規程に基づいて報償金を支払ったのは,特許法旧35条によれば必要のない支払であったことになる。
しかし,被告は,超過利益の有無にかかわらず,発明奨励金の意味合いを含めて,原告ら3名に対して特許法旧35条相当の対価を支払っているのであるから,原告算定式によって特許法旧35条相当の対価を算定することは,現実から遊離したものであって,妥当でない。
(2) 相当の対価の額についてア 本件各発明の実施による性能向上の主張に対し(ア) 本件各発明についてa本件発明1本件発明1の特徴的部分は,「前記中心線よりも最も離れた外側列の分割細片の長さ寸法と,この分割細片同士の間隔寸法と,この分割細片よりも前記中心線側に配列された内側列の分割細片の長さ寸法とを略同一に設定した」点(請求項1)にある。
すなわち,本件明細書1(甲2)の「第2図」において示されているように,中心線x から最も離れた外側の分割細片の長さ寸法「l1」が,同分割細片同士の間隔寸法「l 」及び内側の分割細片の長 2 3さ寸法「l 」と略同一ということである(別紙本件明細書1の図面 4参照)。
本件明細書1には,上記のフィン配列形状によって,「第4図」に示されているような,上流側管列部において斜め上方から流入した気流W 〜W と,「第5図」に示されているような水平方向から流入14した気流W 〜W が熱交換器を通過できることが記載されている。 58また,本件明細書1には,本件発明1の作用効果として,?上部からの気流W 〜W は中央部の気流W 〜W よりも流速が遅くなっている14 58が,上記のフィン配列形状により,通風抵抗はW 〜W の方が気流W 〜W 14 5よりも小さくなるので,クロスフローファンの回転速度を騒音が発 8生しない程度に低く抑えても,熱交換器の上部でも熱交換効率を向上させることができること,?熱伝導率が劣る外側列の分割細片の長さを内側列の分割細片と同様に短くしたので,外側列の分割細片の熱伝導率を向上させることができることが記載されている(6頁左欄6行〜18行)。
上記?の作用効果は,本件発明1のフィンパターンの配列によって斜め上方からの気流W 〜W に対する通風抵抗を小さくすることによ14り,騒音が発生しないように送風機(クロスフローファン)の回転速度を低く抑えても熱交換器の上部での熱交換効率を向上させることができるというものである。しかし,本件発明1のフィンパターンの配列により上斜め方向からの気流の通風抵抗を低下させることによって熱交換効率が向上するとしても,上記?の作用効果のみによって熱交換器全体の熱交換効率が大きく上昇するものではない。
また,上記?の外側列の分割細片の長さを短くしたことによる作用効果は,伝熱管から離れているために熱交換効率の小さい最外側列の分割細片の長さを短くし,その分だけ分割細片間のスペースを広くして通風抵抗の低下に寄与したという意味と解される。しかし,それは極めて僅かな効果のことについて述べているにすぎない。
b本件発明2本件発明2は,本件発明1のフィンパターンを有する熱交換器に,さらに「外側列の分割細片間のフィン基板部と向き合う板状フィンの縁部に気流方向と交差する方向へ突出し気流方向に向かって広がる突起」を追加して設けた構成のものである。本件出願2に係る願書に添付された明細書(以下,図面を含めて「本件明細書2」という。)(甲3)によれば,「突起」の効果は騒音の発生を抑えることにある(5頁右欄36行〜37行)。
本件明細書2の「第2図」では気流の出口側に突起22が3か所設けられている(別紙本件明細書2の図面参照)。
(イ) 本件各発明の実施の効果について原告は,被告のエアコン製品は,本件各発明を実施した熱交換器を使用したことにより,消費電力の低減等,薄型化及び小型化,コスト削減の点において大きく性能が向上した旨主張するが,以下のとおり,理由がない。
a消費電力の低減等の点について(a)本件各発明の開発は,熱交換器における細径(直径7mm)の伝熱管の採用(熱交換器の薄型化)により,必要とされたものである。
伝熱管の細径化は,冷媒の循環速度を一定とするならば,単位時間当たりの冷媒の循環量を減少させるので,熱交換器の熱交換量を低下させる要因となる。これを防ぐために,被告は,フィン上を通す伝熱管の段数を増やし,伝熱管を流れる冷媒を分流して伝熱管の配置密度を上げ,フィンピッチを狭め,さらに熱交換器に流す風量を増加させるために送風機のファンの径を増大するという設計を行った。本件各発明も,このような熱交換器の小型化による熱交換効率の低下を改善するために検討された,いくつもの設計事項の一つにすぎない。
フィンパターンだけをみれば,本件各発明の配列が従来のフィンパターンよりも熱交換効率の向上に寄与していたとしても,熱交換器のトータルの熱交換効率は必ずしも向上するというものではない。実際のところ,被告製品において消費電力の低減や立ち上げ速度の向上に対して圧倒的な寄与をしたのは,主としてインバータ制御技術である。本件各発明を実施することによって,エアコン製品全体の消費電力が低減し,立ち上げ速度が向上したなどという原告の主張には,論理の飛躍がある。
(b)本件各発明を実施した熱交換器を搭載した最初の機種であるSAP‐250VRと,本件発明が導入される直前の機種であるSAP-259Vとを比較すると,冷房及び暖房の両機能を通じて,時間当たりの冷暖房能力,消費電力及び定格EER(能力/消費電力)の数値のいずれの点においても,SAP-250VRがSAP-259Vと比べて製品全体としての性能が特に向上しているとはいえない。なお,EERは,エアコン全体の指標であって,熱交換器の性能だけでなく,クロスフローファンやコンプレッサーの性能にも依存するから,EERの大小がそのまま熱交換器の性能の大小を表しているとはいえない。
結局,本件各発明による熱交換器のフィン配列の設計は,熱交換器の他の改良及び送風機,ユニットの改良と共に,全体として製品の性能を下げることなく熱交換器の小型化を実現することに寄与したものといえるが,本件各発明だけの寄与ということになると,特に明確にいえるものではない。
(c)また,騒音は,分割細片の寸法関係ではなく,クロスフローファンの形状や大きさに依存すると考えられる。しかし,本件発明1の効果としての騒音の低減は,上斜め方向からの気流の通風抵抗の減少による熱交換効率の向上によって,クロスフローファンの回転数を抑えることができるので騒音も低減するという間接的な関係によるものである。したがって,本件発明1の分割細片の寸法関係による熱交換効率の向上が証明されなければ,本件発明1による騒音低減の効果も認められないことになる。
b薄型化及び小型化の点についてエアコンの室内機の薄型化のためには,熱交換器の小型化と共に熱交換器とクロスフローファンの近接配置が必要であるが,本件各発明を実施した熱交換器をユニットに搭載しても,そのままではクロスフローファンとの近接配置はできない。実際,昭和62年7月中旬ころ,本件発明1を実施して新たに作成された金型の熱交換器を試作品のエアコンのユニットに組み込んでSAP-250VRの試作品の実験を行ったところ,熱交換器の風速分布が悪くピーク音が発生したため,これを改善するために熱交換器におけるファンに近い部分の中抜き型を廃止し,リップル形状を設け,フィンピッチを1.4mmとする改良を施す,設計変更を必要とした(乙9)。
また,SAP-250VRにおける熱交換器の容積の減少は,熱交換器の伝熱管を細径化(7mm)したことや熱交換器の管配列,フィン密度の設計が変更されたことなど,様々な改良設計によって実現したことである。室内機の熱交換器の小型化はSAP-250VRの開発における基本方針であり,熱交換器のフィンパターンの設計もその実現のためにされた様々な設計事項の一つであるが,他の様々な改良技術が伴わなければ熱交換器の小型化は実現しなかったのである。
cコスト削減の点について前述のとおり,SAP-250VRの開発の際に熱交換器の伝熱管を細径化(7mm)し,熱交換器を小型化,室内機を薄型化する方針が決定され,これを実現するために,熱交換器の管配列やフィン密度,送風機,ユニットの設計が変更された。本件各発明のフィンパターンもそのような設計事項の一つにすぎないのであり,本件各発明の実施によって熱交換器の熱交換効率が向上したために,フィンを小型化することができ,それによって,エアコン全体の梱包費用やアルミ使用量の減少によってコスト削減につながったものではない。
また,原告が述べるようにSAP-250VRの熱交換器においてはアルミ使用量が従前のものより0.254?減少したと考えられるが,アルミの使用量の減少は,伝熱管の配管の改良等の要因によるものと考えられ,分割細片の寸法関係に特徴を有する本件各発明によるものではない。
イ 本件エアコンの売上総額の主張に対し原告ら主張の本件エアコンの売上総額は争う。
なお,本件各発明を実施している本件熱交換器は室内機においてのみ用いられているところ,1998年(平成10年)下半期以降2008年(平成20年)下半期までの間において,本件熱交換器を使用した被告の家庭用エアコン製品の室内機の販売単価は平均●(省略)●,同業務用エアコン製品の室内機の販売単価は平均●(省略)●である。
ウ 本件エアコンにおける本件各発明の寄与度の主張に対し(ア)本件各発明を実施した熱交換器による熱交換効率の改良のエアコン全体の技術的改良に占める寄与は僅かである。エアコン全体としては,インバータやコンプレッサーの性能改善など他の技術的寄与が圧倒的に大きい。熱交換効率の改善だけをみても,多くの技術的改良がされており,本件各発明の寄与はそれらのうちの一部にすぎない。被告のエアコン製品(SAP-250VR)で実施されている特許発明は,本件各発明の2件の特許を含め46件ある(乙68)。
これらの特許技術は,いずれも,被告のエアコン製品の性能の向上と売上げに寄与している技術であるという点において本件各発明と異なるところはない。
(イ)本件発明2は,本件発明1の分割細片の寸法関係に加えて,「外側列の分割細片間のフィン基板部と向き合う板状フィンの縁部に気流方向と交叉する方向へ突出し気流方向に向かって広がる突起」を設けることを特徴としている。この突起はSAP-250VRの開発においてピーク音の発生を防止するために採用された構成である。
本件発明2の被告製品への寄与は,本件発明2に分割細片の寸法関係が含まれている点に関しては本件発明1と同じである。「突起」については,SAP-250VRではピーク音が発生し,その解決のための一つの手段として突起が効果を発揮した。しかし,被告の他のエアコン製品でも同様にピーク音が発生するかは定かではなく,また,仮にピーク音が発生したとして,「突起」が解決手段になるかどうかも不明である。ピーク音は特定のエアコン製品の構造と熱交換器の組合せにおいて生じるものであり,本件発明2を実施する被告製品のすべてに同じ解決課題が存在するわけではなく,「突起」によって解決されるものでもない。
エ 超過売上高の割合の主張に対し(ア)本件各発明を実施したエアコン製品の市場における優位性の点についてa代替技術の存在等による独占力の欠如(a)本件各発明のようなフィンパターンに関する特許発明は,実施しなければ市場において優位性のあるエアコン製品を製造できないような技術を対象とするものではない。各社がそれぞれ独自のフィンパターンを設計して,特許出願をしており,そのような状況の下で,各社は自社の狭い範囲のフィンパターンの設計を特許によって囲い込み,競合他社とのすみ分けを行っているのである。これは,特許の独占力というようなものではない。
(b)本件各発明がされた当時,競合他社はそれぞれ自ら開発した熱交換器のフィンパターンについて特許権を有し,各々が有する特許発明実施したフィンを作成していたのであるから,被告が本件各発明に独占的な意義を見出していたなどということはない。
本件各発明は,競合他社が採用しようとする熱交換器におけるフィン構造の自由度を,実質的に制限できるほどの技術的範囲を有するものではない。
以下に述べるとおり,競合他社は,本件各発明を実施することなく,各社において独自のフィン構造を採用しており,また,競合他社から本件各発明に対して実施許諾の申込みもなかったことから,被告は,本件各発明により「独占の利益」を受けていない。
? 公然実施品本件出願1の出願前に,松下電器産業株式会社(以下「松下」という。)は,特公平7-107480号公報(乙13)に開示されている実施例(「第8図」等。別紙乙13の図面参照)のうちのいずれかであったと推測される7?の伝熱管を使用した熱交換器「Zマトリックス」を搭載したルームエアコン「エオリア」を発売していた(乙7,12)。
本件発明1と乙7に開示された発明とは,どちらも伝熱管を通る中心線に対して線対称の位置に最外側列の分割細片,最内側列の分割細片及び中間列の分割細片が配置され,両者は最外側列及び中間列の分割細片の長さにおいて異なるほかに相違はなく,これらの相違は,設計上の微差にすぎない。
「エオリア」が採用する上記フィンパターンが2本の伝熱管の間に分割細片が「X」型に配置されていること,「エオリア」が壁掛型エアコンであり,クロスフローファンは熱交換器の後方下部に位置していること(乙13の第7図)からすると,「エオリア」の熱交換器においては,それを斜め方向に通過する気流が存在し,これにより本件発明1と同等あるいはそれを上回る作用効果を達成していたものと考えられる。
? 先願に係る実用新案登録出願ダイキン工業株式会社(以下「ダイキン」という。)が本件出願1の出願前の昭和62年3月27日に出願した実用新案登録出願に係る実開昭63-154976号公報(乙20)の第2図に,フィン構造が開示されている(別紙乙20の図面参照)。
上記第2図において,各フィンの長さは,略同一に設定されていると認められ,本件発明1の特徴的構成である「中心線よりも最も離れた外側列の分割細片の長さ寸法と,この分割細片同士の間隔寸法と,この分割細片よりも前記中心線側に配列された内側列の分割細片の長さ寸法とを略同一に設定した」という構成(請求項1)に極めて近い構成が開示されている。
乙20も,2本の伝熱管の間に分割細片が「X」型に配置されていて,左上から右下方向に流入する気流の通風抵抗を小さくする配列となっているので,これにより本件発明1と同等あるいはそれを上回る作用効果を達成していたものと考えられる。
? その他原告ら3名が設計した熱交換器のフィンパターンに関しては,本件各出願の出願当時,多くの競合他社の特許・特許出願があり(乙14,15),各社において独自のフィン構造を採用して,本件各発明と同等あるいはそれを上回る作用効果を達成していたものと考えられる。
(c)以上のとおり,本件発明1の寸法関係は被告製品において実施されるフィンパターンを表していると解する限りにおいて技術的意味を持つが,フィンパターンの他の構造部分が異なる他社の熱交換器に対して,本件発明1の分割細片の寸法関係が技術的意味を持つものではない。競合他社は,本件発明1の分割細片の寸法関係をほんの少し外すことにより,斜め方向の気流に対する通風抵抗を小さくした熱交換器でありながら,本件特許1を容易に回避できる。
被告が本件出願1をした目的は,被告のエアコン製品の熱交換器のフィンの形状をそのまま模倣されることを防ぐことだけであり,斜め方向の気流の通風抵抗を小さくしている熱交換器のフィン配列を独占しようとする目的ではない。つまり,本件特許1は市場において競争相手を牽制して独占力を発揮できるような特許ではない。
b本件各発明を実施したエアコン製品と他社製品との性能比較本件各発明を実施した被告のエアコン製品であるSAP-250VRのEERの数値と,被告の当該製品と同等の冷暖房能力を有する競合他社のエアコン製品のEERの数値とを比較すると,被告の製品の数値を上回る数値を誇る競業他社の複数の製品が存在することが認められる。本件各発明を実施した被告のエアコン製品におけるEERが,競合他社の製品と比較して優位性を有するものではない。
c売上げ及び利益の増加の点について●(省略)●売上げや利益の増減は,市場に安値の競争品が存在するか否かで大きく変わるのであり,本件各発明との因果関係は認められない。
d市場シェアの増加の点について(a)被告がエアコン室内機の熱交換器の薄型化を行ったのは,松下,日立の後であり,被告のエアコン製品が熱交換器の性能によって市場を実質的に独占する状態は,一時期といえども存在していない。
被告の家庭用エアコン製品のシェアは,別紙2のとおり,●(省略)●また,1988年(昭和63年)当時主要な家庭用エアコンメーカーが6社であることからしても,被告の家庭用エアコン製品のシェアは,けっして市場において競合企業に比べて優位な地位にはなく,ましてや,市場を独占している状況にはなかった。
(b)被告の業務用エアコン製品のシェアは,別紙3のとおり,●(省略)●前後で,本件各発明の実施品割合の増減にかかわらず,そのシェアに大きな増減はない。
これは,家庭用エアコンの市場には外国の安価な競合品が流入したことが被告のシェアを下げ続けた要因の一つであると解されるのに対し,業務用エアコンの場合は販売後の日常的な保守サービスが必要とされ,外国の安価な競合品の参入がなかったので,被告のシェアは略一定に維持されていたと考えられる。
仮に本件各発明がエアコンの機能や性能に大きな影響を及ぼしたとすれば,本件各発明の実施によって被告の業務用エアコン製品の販売台数が大幅に増加することが考えられるが,そのような販売台数の増加の事実はない。
したがって,本件各発明の実施によって被告の業務用エアコン製品のシェアに有意な変動を及ぼした事実はない。
eOEM供給の点についてOEM供給は,相手のブランドを付して製品供給をしているというだけのことであり,本件各特許権に関していえば被告の自己実施であることにおいて通常の販売と何ら異なることはなく,OEM供給は原告らが本件で主張しようとする「被告の超過売上げ」の根拠となるものではない。
なお,被告が●(省略)●に対して熱交換器単体をOEM供給していること,その売上げが●(省略)●であることは認めるが,その製品に本件各発明が実施されているとする点は否認する。
当該製品に本件各発明の双方又はそのいずれかが実施されているかは定かでない。
(イ)本件熱交換器の長期にわたる使用及び特許料の納付の点について熱交換器のフィンは,新規開発時に金型の作成等高額の費用を投入して開発されたものであり,そのため,一旦新型のフィンパターンが開発されると,新しい時代のニーズなどから大幅な設計変更を必要とするに至るまで,長期間にわたって使用される。
被告が,実際の製品において使用される熱交換器のフィンパターンについて特許出願(本件各出願)を行い,実施が継続する間当該特許を維持しておくのは当然のことであり,このことは,競合他社に対して特許の独占力を行使しようとすることを直ちには意味しない。
(ウ) 小括以上のとおり,原告ら主張の諸点は,本件各発明の実施により被告の「超過売上げ」が存在することの根拠となるものではなく,「超過売上げ」は認められない。
オ 想定実施料率の主張に対し職務発明につき特許を受ける権利承継する会社は,かかる権利を承継しなくとも,通常実施権の下でこれを無償で実施することができる(特許法35条1項)。原告ら主張の甲17の実施料率は,このような通常実施権を持たない第三者の支払う実施料率である。仮に特許法旧35条の下で職務発明の特許権に基づいて使用者が通常実施権に基づく実施の範囲を超えた「超過売上げ」なるものが存在するとしても,それは,使用者が「超過売上げ」分の実施について特許侵害者になることを意味するわけではない。
したがって,甲17の実施料率を職務発明の譲渡対価の算定の参考資料とすることは全く不合理である。
カ 被告の貢献度の主張に対し(ア)被告は,昭和63年に販売していたSAP-259Vの後継機種として平成元年にSAP-250VRの販売を開始した。その開発は,昭和62年12月ころから開始された。その当時,エアコンの薄型化のニーズ(エアコンを室内の壁面に取り付けたときに前方に大きく突出しない。)から考えて,この種の製品が業界の主流となることが予想され,その後,エアコン大手の松下,日立が細径(7mm)の伝熱管の熱交換器を採用ないし発表したことからも,細径の伝熱管の熱交換器が業界の主流となりつつあることが明らかとなっていた。
SAP-250VRの開発では,室内機の熱交換器の伝熱管の直径を従来の9.52mmから7mmに変更することに伴って,伝熱管の最適な冷媒の流し方の設計,伝熱管同士の最適配置設計(具体的には伝熱管同士を千鳥形状に配置),積層されるフィンピッチ(フィン間の寸法)の最適設計,フィンパターン設計,冷房運転時にこの熱交換器で生成される水をスムーズに滴下させて熱交換効率の低下を低く抑えるための表面処理対策,さらにこの熱交換器を使うことにより発生する風速分布や風量の最適設計が必要になった。
伝熱管の細径化は,冷媒の循環速度を一定とするならば,単位時間当たりの冷媒の循環量を減少させるので,熱交換器の熱交換量を低下させる要因となるが,これを防ぐために,被告は,フィン上を通す伝熱管の段数を増やし,伝熱管を流れる冷媒を分流して伝熱管の配置密度を上げ,フィンピッチを狭め,さらに熱交換器に流す風量を増加させるために送風機のファンの径を増大するという設計を行った。
本件各発明の開発は,上記のような直径7mmの伝熱管の採用(熱交換器の薄型化)という所与の被告の基本方針を前提として行われたものであり,熱交換器の小型化による熱交換効率の低下を改善するために検討された,いくつもの設計事項の一つにすぎない。
SAP-250VRの開発は,被告の当時の研究開発の分担に基づいて,第1技術部が責任を持ち,そのうち熱交換器の開発について,原告ら3名が所属する第3技術部が担当した。
(イ)原告ら主張のサーモビュアー(サーモグラフィ)は,温度分布を測定するのによく使われる装置であり,仮に原告ら3名が本件各発明に係る熱交換器のフィン配列を設計するに当たってサーモビュアーを使用したとしても,それは温度分布を測定するために一般的に使われるサーモビュアーを単に熱交換器のフィンの表面温度の測定に用いたにすぎない。
また,それらの行為はすべて被告の従業者の職務として,被告の設備を用いて行ったことであり,それに対して雇用契約に基づいて給料という対価が支払われている。サーモビュアー自体は,本件各発明の対象ではない。
原告ら3名は,被告による雇用の下で,被告の製品開発の方針に基づき,被告の設備を用いて本件各発明を行ったのであって,本件各発明には原告ら3名が雇用契約の枠を超えて被告の利益に対して個人的貢献をしたと評価されるような特別な事情は存在しない。
したがって,そもそも,本件各発明に関しては「使用者の貢献」というものを観念すること自体が相当でないが,仮に被告の貢献度を評価するならば,100%である。
(3) まとめ以上によれば,本件各発明についての特許を受ける権利承継対価として被告が被告規程に基づいて原告ら3名に支払った報償金の額は特許法旧35条3項,4項の相当の対価の額というべきであるから,原告らは,これを上回る額を請求することはできない。
当裁判所の判断
1 相当の対価額の算定方法について(1)原告らは,被告は,本件各発明の実施品である熱交換器(本件熱交換器)を用いたエアコン(本件エアコン)を製造販売し,本件各発明について,他社に実施許諾をせずに,自社で独占実施(自己実施)してきたところ,被告の本件エアコンの売上高のうち,本件熱交換器に係る部分には,被告が法定通常実施権(特許法35条1項)に基づく実施を超えて本件各特許権に基づいて独占的に売り上げることができた超過売上高が含まれており,その超過売上高に係る実施料相当分(想定実施料)が,「独占の利益」すなわち特許法旧35条4項所定の「発明により使用者等が受けるべき利益」に当たるといえるから,特許法旧35条3項,4項の規定に従って定められる本件各発明に係る相当の対価は,(本件エアコンの売上総額)×(本件エアコンにおける本件各発明の寄与度)×(超過売上高の割合)×(想定実施料率)×(1-被告の貢献度)の算定式(原告算定式)によって算定すべきである旨主張する。
そこで検討するに,特許法旧35条3項は,「従業者等は,契約,勤務規則その他の定により,職務発明について使用者等に特許を受ける権利若しくは特許権を承継させ,又は使用者等のため専用実施権を設定したときは,相当の対価の支払を受ける権利を有する。」と規定し,同条4項は,「前項の対価の額は,その発明により使用者等が受けるべき利益の額及びその発明がされるについて使用者等が貢献した程度を考慮して定めなければならない。」と規定している。
これらの規定によれば,特許法旧35条3項相当の対価の額は,同条4項の趣旨・内容に合致するものでなければならないというべきであるから,勤務規則等により職務発明について特許を受ける権利を使用者等に承継させた従業者等は,当該勤務規則等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合においても,これによる対価の額が同条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは,同条3項の規定に基づき,その不足する額に相当する対価の支払を求めることができると解するのが相当である(最高裁判所平成15年4月22日第三小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)。
ところで,特許法旧35条4項の「発明により使用者等が受けるべき利益」は,使用者等が「受けた利益」そのものではなく,「受けるべき利益」であるから,使用者等が職務発明についての特許を受ける権利承継した時に客観的に見込まれる利益をいうものと解されるところ,使用者等は,特許を受ける権利承継せずに,従業者等が特許を受けた場合であっても,その特許権について特許法35条1項に基づく無償の通常実施権を有することに照らすと,「発明により使用者等が受けるべき利益」には,このような法定通常実施権を行使し得ることにより受けられる利益は含まず,使用者等が従業者等から特許を受ける権利承継し,当該発明の実施を排他的に独占し得る地位を取得することによって受けることが客観的に見込まれる利益,すなわち「独占の利益」をいうものと解される。
また,特許を受ける権利承継の時点では,将来特許を受けることができるかどうか自体が不確実であり,その発明により将来いかなる利益を得ることができるのかを具体的に予測することは困難であることなどに照らすと,発明の実施又は実施許諾による使用者等の利益の有無やその額など,特許を受ける権利承継後の事情についても,その承継の時点において客観的に見込まれる利益の額を認定する資料とすることができると解される。
そして,使用者等が,第三者に当該発明を実施許諾することなく,自ら実施(自己実施)している場合には,特許権が存在することにより,第三者に当該発明の実施を禁止したことに基づいて使用者が得ることができた利益,すなわち,特許権に基づく第三者に対する禁止権の効果として,使用者等の自己実施による売上高のうち,当該特許権を使用者等に承継させずに,自ら特許を受けた従業者等が第三者に当該発明を実施許諾していたと想定した場合に予想される使用者等の売上高を超える分(「超過売上高」)について得ることができたものと見込まれる利益(「超過利益」)が「独占の利益」に該当するものというべきである。
この「超過利益」の額は,従業者等が第三者に当該発明の実施許諾をしていたと想定した場合に得られる実施料相当額を下回るものではないと考えられるので,超過利益を超過売上高に当該実施料率(仮想実施料率)を乗じて算定する方法にも合理性があるものと解される。
したがって,本件においては,原告らが主張するように,超過売上高を認定し,その部分に係る利益(独占の利益)をもって「その発明により使用者等が受けるべき利益」とし,これと被告の貢献の程度(「その発明がされるについて使用者等が貢献した程度)を考慮して相当の対価の額を認定することは許されるものと解される。
(2)アこれに対し被告は,被告規程は,特許法旧35条4項に規定する考慮要素を踏まえて定められ,長年にわたって,特許法旧35条対価の支払のために運用されてきたものであって,企業の実情に即した相応の合理性を有していることなどを根拠として挙げて,原告らにおいて本件各発明について被告規程を適用することが不合理とする特段の事情を示さない限り,被告に対し,被告が被告規程に基づいて原告ら3名に支払った報償金を上回る額を特許法旧35条相当の対価として請求することはできない旨主張する。
しかし,?被告規程は,特許法旧35条3項の「契約,勤務規則その他の定」にいう「勤務規則の定」に当たるが(争いがない。),被告規程が策定及び改正された具体的な経過については明らかではなく,被告とその従業者側との間で協議がされ,その協議の結果が被告規程において考慮されているのか証拠上定かでないこと,?本件各出願の出願時に効力を有する被告規程(乙1の1)においては,実施報償は,●(省略)●,これが上限額になっているものと認められること,?本件各特許権の設定登録時に効力を有する平成9年改正被告規程(乙1の4)においては,実施報償は,●(省略)●(前記第2の1(3)イ(イ)),これらが上限額となっていることが認められること,?もっとも,平成9年改正被告規程においては,●(省略)●とされていること,?被告が本件各発明に係る実施報償金の額を定めるに当たり,原告ら3名から事前の意見聴取をした形跡はうかがわれないことなどに鑑みると,被告が主張するように被告規程が様々な要素を考慮した合理性を持つ定めであるといえるとしても,その具体的適用においては●(省略)●の広範な裁量に委ねられ,しかも,上限額が上記の金額であることからすると,被告が被告規程に基づいて具体的に支給した金額であるからといってそれが直ちに特許法旧35条4項の規定の趣旨に合致した相当の対価の額に当たるものということはできず,それが相当の対価の額に当たるかどうかについては上記支給した金額についての個別的な検討が必要となるものと解される。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
イまた,被告は,原告算定式によって本件各発明に係る相当の対価の額が算定されることになると,本件においては,「超過売上げ」あるいは「独占の利益」は発生していないから,相当な対価はゼロとなり,被告が原告ら3名に対して被告規程に基づいて報償金を支払ったのは,特許法旧35条によれば必要のない支払であったことになり,原告算定式によって特許法旧35条相当の対価を算定することは,現実から遊離したものであって,妥当でない旨主張する。
しかし,本件においては,あくまで原告らが主張する本件各発明に係る相当の対価の不足額の存否を判断するものであって,その判断あるいはその判断の理由如何によって,被告が被告規程に基づいて原告ら3名に既に支払った対価(報償金)が法律上の原因を欠くことになるなどの事態が生じるものではないというべきであり,被告の上記主張は,その前提を欠くものであって,採用することができない。
そこで,以下においては,まず,被告の「独占の利益」の有無について判断することとする。
2 「独占の利益」の有無について1990年(平成2年)ころから2008年(平成20年)までの間において被告による本件各発明を実施した熱交換器(本件熱交換器)を使用したエアコン(本件エアコン)の生産台数及び販売台数は,別紙1のとおりであり(なお,別紙1の「〜1990」の記載は「1990年以前」を意味する。),総生産台数は●(省略)●である(前記第2の1(5))。
原告らは,本件各発明は技術的に優位なものであり,本件エアコンは,本件各発明を実施した本件熱交換器を使用したことにより従来の製品より大きく性能が向上し,エアコン製品の市場における優位性を獲得したこと,被告は被告のエアコン製品において本件熱交換器を長期にわたり使用していること,被告は本件各特許権についてその存続期間満了時までの特許料を納付し,権利を維持し続けてきたことからすると,被告の本件エアコンの販売台数(少なくとも●(省略)●)には「超過売上げ」に係る部分が含まれており,その超過売上高の割合は10パーセントを下回らない旨主張する。
これに対し被告は,本件各発明は,熱交換器のフィンパターンに関する発明であるところ,競合他社は,独自のフィンパターンを設計して,それを熱交換器に採用しており,このように本件各発明には代替技術が存在し,本件各発明の回避は容易であるから,本件各発明は独占力を発揮できるようなものではない,本件エアコンは,全体として製品の性能を下げることなく熱交換器の小型化を実現しているが,これは,本件各発明を実施したことのみによって実現したものではなく,熱交換器の他の改良,送風機,ユニットの改良と共に全体として熱交換器の小型化が実現されたものである,エアコン製品全体としてみても,本件各発明を実施した本件エアコンが競合他社のエアコン製品に比較して性能において優位性を有しているとはいえないなどとして,原告ら主張の被告の「超過売上げ」は存在しない旨主張するので,順次判断する。
(1) 本件各発明の技術的意義についてア 本件発明1について(ア)本件発明1の特許請求の範囲(請求項1ないし5)の記載は,前記第2の1(2)ア(イ)のとおりである。
本件明細書1(甲2)には,次のような記載がある。
a「(イ)産業上の利用分野本発明は空気調和機に内蔵される板状フィン形の熱交換器に関する。」(2頁左欄3行〜5行),「(ロ)従来の技術板状フィン形熱交換器の熱交換効率を向上させるために,特公昭63-11597号公報に示されるように板状フィンに複数の細片を気流方向と交叉する方向に橋状に切り起こして形成したり,実公昭58-49503号公報に示されるように板状フィンに複数の細片を気流方向と交叉する方向にルーバー状に切り起こして形成している。」(2頁左欄6行〜12行)b「(ハ)発明が解決しようとする課題上記の特公昭63-11597号公報で提示の熱交換器では気流が板状フィンと直交する方向に流れる場合,通風抵抗が大きい切り起こし細片と通風抵抗が小さいフィン基板部とを気流が交互に流れるため熱交換器全体の通風抵抗がほぼ同一となり熱交換効率が向上する。しかしながら,例えば室内の壁に取りつけられる壁掛型空気調和機では縦長の熱交換器に対しその下部後方にクロスフローファンが設けられるため,熱交換器の上半部では気流が斜め下向きに流れて通風抵抗の大きい切り起こし細片を全て通過すると共に,本来,流速が熱交換器の下半部を流れる気流よりも遅くなっており,このため熱交換器の上半部の熱交換効率を向上させる目的でクロスフローファンの回転速度を上げると,熱交換器の下半部を略水平方向に通る気流の速度が速くなり板状フィン間を通過する際に騒音が発生する虞れがあった。」,「又,上記の実公昭58-49503号公報で提示の熱交換器ではルーバー状の切り起こし細片の切り起こし根元を伝熱管に沿わせて気流のほとんどが熱交換器の幅一杯に設けた細片を通るようにすると共に伝熱管の列の中心線に対して最も離れた外側列の細片とこの内側列の細片とを分割してこれら分割細片の長さを短くすることによりフィン基板との熱伝達経路を短くして熱交換効率を向上させるようにしている。しかしながら,外側列の細片は伝熱管の列の中心線から最も離れ熱伝達率が劣っているにもかかわらず内側片の細片よりも長くなっているため熱交換効率が充分発揮されないと共に,この熱交換器を壁掛型空気調和機に組み込んだ場合,上記の特公昭63-11597号公報で提示の熱交換器と同様に熱交換器の上半部では気流が斜め下向きに流れて通風抵抗の大きい切り起こし細片を全て通過すると共に,本来,流速が熱交換器の下半部を流れる気流よりも遅くなっており,クロスフローファンの回転速度を上げると騒音が発生する虞れがあった。」(以上,2頁左欄13行〜46行)c「本発明はかかる課題に鑑み,気流が熱交換器に対して斜め方向に横切る通風抵抗を,水平方向に横切る通風抵抗よりも小さくなるように切り起こし細片を配列した熱交換器,並びにこの熱交換器を組み込んだ空気調和機を提供することを目的としたものである。」(2頁左欄47行〜右欄1行)d「(ニ)課題を解決するための手段本発明は上記目的を達成するために管挿入用の穴を千鳥状に配列した複数枚の板状フインと,前記穴に挿入される伝熱管とを備え,前記板状フィンの管段間に幅の狭い複数の細片が気流方向と交叉する方向に切り起こされた熱交換器において,前記複数の細片の切り起こし根元を前記伝熱管の同心円上に沿って配置させると共に,これら細片を伝熱管の列の中心線に対して中央側に配直された中央側細片と,この細片の両外側に夫々複数列配置され前記中心線と交叉する線上に前記板状フインの基板部を残して分割された分割細片とから構成し,前記中心線よりも最も離れた外側列の分割細片の長さ寸法と,この分割細片同士の間隔寸法と,この分割細片よりも前記中心線側に配列された内側列の分割細片の長さ寸法とを略同一に設定したものである。」,「併せて,同じ管列の隣り合う管段間に設けた外側列の分割細片同志の間隙寸法を,この管列と隣り合う別管列における外側列の分割細片同志の間隔寸法より小さく設定したものである。」,「併せて,機体内の通風路中に熱交換器とクロスフローファンとを組み込むと共に,熱交換器におけるクロスフローファン近傍の板状フインの一部に,管挿入用の穴の周囲を残して外側列の分割細片と共に前記周囲と周囲との間に至るように切り欠いた切欠部を設けたものである。」,「又,この切穴部と面する板状フィンの縁が少なくとも気流と交叉する方向に折り曲げられ,更にはこの折り曲げ寸法が板状フィンのフィン間隔寸法よりも小さく設定されると好ましい。」(以上,2頁右欄2行〜30行)e「(ホ)作用本発明の熱交換器は同一管列において中央側細片を挾んで略同じ長さの複数列の分割細片が斜め下方向に一直線に並んでいるため,上流側管列部では,外側片の上方の分割細片に斜め上方から流入した気流(W )は内側列の上方の分割細片と中央側細片と1内側列の下方の分割細片と外側列の下方の分割細片とに順次沿って斜め下向きに一直線に流れる。その後,下流側管列部に流れ込んでこの外側列の分割細片間をフィン基板に沿って流れ,内側列の下方の分割細片及びこの細片とこの上方の分割細片との間から中央側細片へと並流した後,伝熱管の上側面に沿って流れて熱交換器を通過する。」,「又,上流側管列部において,外側列の分割細片間に斜め上方から流入した気流(W )は内側列の下方の分割細片及びこの細2片とこの上方の分割細片との間から中央側細片へと並流した後,伝熱管の上側面に沿って流れる。その後,下流側管列部に流れ込んでこの外側列の分割細片間から内側列の下方の分割細片を流れた後,伝熱管の上側面に沿って流れて熱交換器を通過する。」,「又,上流側管列部において,外側列の下方の分割細片に斜め上方から流入した気流(W )は伝熱管の上側面と下側面とに沿って流れ,この上側3面に沿って流れた気流は外側列の分割細片間に流れる一方,下側面に沿って流れた気流は内側列の上方の分割細片を流れて外側列の上方の分割細片及びこの細片とこの下方の分割細片との間を並流する。その後,下流側管列部に流れ込んで外側列の下方の分割細片を流れた一方の気流は伝熱管の下側面に沿って流れた後,内側列の上方の分割細片及び外側列の分割細片間を流れ,他方の気流は外側列の分割細片間を通って伝熱管の下側面に沿って流れた後,中央側細片と内側列の分割細片間と外側列の分割細片間を流れて熱交換器を通過する。」,「又,上流側管列部において,伝熱管の側方のフィン基板に沿って流入した気流(W )はこの伝熱管の下側面と中央側細4片と順次流れて内側列の上方の分割細片及びこの細片とこの下方の分割細片との間を並流した後,外側列の分割細片間を流れる。その後,下流側管列部に流れ込み,中央側細片を挾んで斜め方向に一直線に並んでいる外側列の上方の分割細片から内側列の上方の分割細片と中央側細片と内側例の下方の分割細片と外側列の下方の分割細片とに順次沿って斜め下向きに一直線に流れ熱交換器を通過する。」,「一方,上流側管列部において,外側列の上方の分割細片に水平方向から流入した気流(W )は内側列の上方の分割細片,中央5側細片,内側列の上方の分割細片,外側列の上方の分割細片を順次流れた後,下流側管列部に流れ込み,外側列の下方の分割細片,内側列の下方の分割細片,中央側細片,内側列の下方の分割細片,外側列の下方の分割細片を順次流れる。このように,気流(W )は熱交5換器を蛇行状に流れながら通過する。」,「又,上流側管列部において,外側列の分割細片間に水平方向に流入した気流(W )は内側列6の両分割細片の切り起こし根元で分流された後,中央側細片を通って再び内側列の両分割細片の切り起こし根元で分流されて外側列の分割細片間を流れる。その後,下流側管列部の隣り合う管段間に設けた外側列の分割細片間に気流が狭められながら流れ込み,伝熱管で分流されてこの上下両側面に沿って流れる。このように気流(W )6は熱交換器を蛇行状に流れながら通過する。」,「又,上流側管列部において,外側列の下方の分割細片に水平方向から流入した気流(W )は上述した気流(W )と上下対称に,又,伝熱管の側方のフ7 5ィン基板に沿って流入した気流(W )は上述した気流(W )と前後対 8 6称に夫々熱交換器を蛇行状に流れながら通過する。」(以上,2頁右欄31行〜3頁左欄44行)f「(ト)発明の効果本発明は,以上説明したように構成されているので,次に記載する効果を奏する。
?請求項1の熱交換器においては,外側列の分割細片の長さと,この分割細片同志の間隔と,内側列の分割細片の長さとを略同じ寸法に設定することにより,中央側細片を挾んで外側列と内側列の分割細片を斜め方向に一直線に配列させると共に,この配列を前記寸法分だけ上流側管列部と下流側管列部とで上下方向へずらすようにしている。このため,熱交換器の上部を斜め下方に通過する主空気流は略一直線に流れると共に通風抵抗の大きい細片を一部流れずに外側列及び内側列の分割細片間の通風抵抗の小さいフィン基板部を流れるのに対し,熱交換器の中央部を水平方向に通過する主空気流は蛇行状に流れると共に通風抵抗の大きい細片を全て流れるため,熱交換器の上部は中央部と比較して通風抵抗が小さくなっており,騒音が発生しない程度に気流速度を低く抑えても熱交換器の上部でも熱交換効率を向上させることができる。しかも,熱伝達率が劣る外側列の分割細片の長さを内側列の分割細片と同様に短くしたので,外側列の分割細片の熱伝達率を向上させることができる。
?請求項2の熱交換器においては,伝熱管を回り込みながら流れる水平気流に対して通風抵抗を与えるため,上述した?の効果を更に上げることができる。
?請求項3の空気調和機においては,薄型化のために熱交換器とクロスフローファンと近接して配置しても伝熱効率を低下させることなく,かつ騒音の抑制が行えるものである。
?請求項4,請求項5に記載の空気調和機においては,上述した?の効果を更に上げることができる。」(5頁右欄47行〜6頁右欄5行目)g「第1図」ないし「第7図」(別紙本件明細書1の図面参照)は,「本発明」の実施例を示すものであり,第1図は「空気調和機の縦断面図」,第2図は「熱交換器の要部拡大図」,第3図は第2図の「III-III断面図」,第4図は「熱交換器の上部の拡大図」,第5図は「熱交換器の中央部の拡大図」,第6図は「熱交換器の下部の拡大図」,第7図は「第6図のVII-VII断面図」である。
図中の符号は,次のとおりである。
「(1)空気調和機,(2)機体,(6)通風路,(7)熱交換器,(8)クロスフローファン,(15)管挿入用の穴,(16)板状フィン,(17)伝熱管,(18 ),(18 )中央側細片,(18 ),(18 ),(18 ),(18 )外-1 -2 -3 -4 -9 -10側列の分割細片,(18 ),(18 ),(18 ),(18 )内側列の分 -5 -6 -7 -8割細片,(19)切り起こし根元,(20)フィン基板部,(22)切欠部,(24)フィン折り曲げ縁,(W )ないし(W )気流」1 8(イ)前記(ア)を総合すれば,本件明細書1には,縦長の熱交換器に対しその下部後方にクロスフローファン(送風機)が設けられた,従来の熱交換器においては,熱交換器上半部での気流が斜め下向きに流れる場合では,通風抵抗が大きい切り起こし細片を全て通過するため,流速が熱交換器下半部を流れる気流よりも遅くなり,熱交換効率が低下するという課題及び最も熱伝達率が劣っている外側列の細片がその内側列の細片よりも長さが長くなっているために熱交換効率が十分に発揮されないという課題があったところ,これらの課題を解決するために,本件発明1では,切り起こし細片の形状(長さ)及び配置を工夫して,気流が斜め下向きに流れる場合に,通風抵抗が大きい切り起こし細片を全て通過することなく,気流の流路の一部分については,経路上に切り起こし細片を配置せずフィン基板上のみを通過させるように,伝熱管より離れた切り起こし細片の長さを短くして配置することにより,熱交換器の上部での通風抵抗を小さくし,熱交換効率を向上させた点に技術的意義があることが開示されているものと認められる。
イ 本件発明2について(ア)本件発明2の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,前記第2の1(2)イ(イ)のとおりである。
本件明細書2(甲3)には,次のような記載がある。
a「(イ)産業上の利用分野本発明は空気調和機に内蔵される板状フィン形の熱交換器に関する。」(1頁右欄4行〜6行),「(ロ)従来の技術板状フィン形熱交換器の熱交換効率を向上させるために,特公昭63-11597号公報に示されるように板状フィンに複数の細片を気流方向と交叉する方向に橋状に切り起こして形成したり,実公昭58-49503号公報に示されるように板状フィンに複数の細片を気流方向と交叉する方向にルーバー状に切り起こして形成している。」(1頁右欄7行〜13行)b「(ハ)発明が解決しようとする課題上記の特公昭63-11597号公報で提示の熱交換器では気流が板状フィンと直交する方向に流れる場合,通風抵抗が大きい切り起こし細片と通風抵抗が小さいフィン基板部とを気流が交互に流れるため熱交換器全体の通風抵抗がほぼ同一となり熱交換効率が向上する。しかしながら,例えば室内の壁に取りつけられる壁掛型空気調和機では縦長の熱交換器に対しその下部後方にクロスフローファンが設けられるため,熱交換器の上半部では気流が斜め下向きに流れて通風抵抗の大きい切り起こし細片を全て通過すると共に,本来,流速が熱交換器の下半部を流れる気流よりも遅くなっており,このため熱交換器の上半部の熱交換効率を向上させる目的でクロスフローファンの回転速度を上げると,熱交換器の下半部を略水平方向に通る気流の速度が速くなり板状フィン間を通過する際に騒音が発生する虞れがあった。」,「又,上記の実公昭58-49503号公報で提示の熱交換器ではルーバー状の切り起こし細片の切り起こし根元を伝熱管に沿わせて気流のほとんどが熱交換器の幅一杯に設けた細片を通るようにすると共に伝熱管の列の中心線に対して最も離れた外側列の細片とこの内側列の細片とを分割してこれら分割細片の長さを短くすることによりフィン基板との熱伝達経路を短くして熱交換効率を向上させるようにしている。しかしながら,外側列の細片は伝熱管の列の中心線から最も離れ熱伝達率が劣っているにもかかわらず内側列の細片よりも長くなっているため熱交換効率が充分発揮されないと共に,この熱交換器を壁掛型空気調和機に組み込んだ場合,上記の特公昭63-11597号公報で提示の熱交換器と同様に熱交換器の上半部では気流が斜め下向きに流れて通風抵抗の大きい切り起こし細片を全て通過すると共に,本来,流速が熱交換器の下半部を流れる気流よりも遅くなっており,クロスフローファンの回転速度を上げると騒音が発生する虞れがあった。」(以上,1頁右欄14行〜2頁左欄32行)c「本発明はかかる課題に鑑み,気流が熱交換器に対して斜め方向に横切る通風抵抗を,水平方向に横切る通風抵抗よりも小さくなるように切り起こし細片と突起とを配列した熱交換器を提供することを目的としたものである。」(2頁左欄33行〜37行)d「(ニ)課題を解決するための手段本発明は上記目的を達成するために管挿入用の穴を千鳥状に配列した複数枚の板状フィンと,前記穴に挿入される伝熱管とを備え,前記板状フィンの管段間に幅の狭い複数の細片が気流方向と交叉する方向に切り起こされた熱交換器において,前記複数の細片の切り起こし根元を前記伝熱管に沿わせると共に,これら細片を伝熱管の列の中心線に対して中央側に配置された中央側細片と,この細片の両外側に夫々複数列配置され前記中心線と交叉する線上に前記板状フィンの基板部を残して分割された分割細片とから構成して,前記中心線よりも最も離れた外側列の分割細片の長さ寸法と,この分割細片よりも前記中心線側に配列された内側列の分割細片の長さ寸法とを略同一に設定し,且つ外側列の分割細片間のフィン基板部と向き合う板状フィンの縁部に気流方向と交叉する方向へ突出し気流方向に向かって広がる突起を設けるようにしたものである。」(2頁左欄38行〜右欄4行)e「(ホ)作用本発明の熱交換器は…上流側管列部において,外側列の下方の分割細片に水平方向から流入した気流(W )は上述した気7流(W )と上下対称に通過する。又,伝熱管の側方のフィン基板に沿5って流入した気流(W )は上述した気流(W )と前後対称に夫々熱交 8 6換器を蛇行状に流れながら通過する際,流出側縁部の位置で気流方向に向かって広がる突起により整流される。」(2頁右欄5行〜3頁左欄21行)f「(ト)発明の効果本発明によれば,熱交換器の上部を斜め下方に通過する主空気流は略一直線に流れると共に通風抵抗の大きい細片を一部流れずに外側列及び内側列の分割細片間の通風抵抗の小さいフィン基板部を流れるのに対し,熱交換器の中央部を水平方向に通過する主空気流は蛇行状に流れると共に通風抵抗の大きい細片を全て流れるため,熱交換器の上部は中央部と比較して通風抵抗が小さくなっており,騒音が発生しない程度に気流速度を低く抑えても熱交換器の上部でも熱交換効率を向上させることができる。しかも,流れが速く且つ渦を発生し易い主空気流は突起で整流させるため,騒音の発生を抑えることができる。」(5頁右欄25行〜38行)g「第1図」ないし「第5図」(別紙本件明細書2の図面参照)は,「本発明」の実施例を示すものであり,第1図は「空気調和機の縦断面図」,第2図は「熱交換器の要部拡大図」,第3図は第2図の「III-III断面図」,第4図は「熱交換器の上部の拡大図」,第5図は「熱交換器の中央部の拡大図」である。
図中の符号は,次のとおりである。
-1 - 「(15)管挿入用の穴,(16)板状フィン,(17)伝熱管,(18 ),(18)中央側細片,(18 ),(18 ),(18 ),(18 )外側列の分割2 -3 -4 -9 -10細片,(18 ),(18 ),(18 ),(18 )内側列の分割細片,(19 -5 -6 -7 -8)切り起こし根元,(20)フィン基板部,(22)突起,(W )ないし(W 1)気流」 8(イ)前記(ア)及び前記アを総合すれば,本件明細書2には,本件明細書1に示された課題と同様の課題を解決するために,本件発明2では,本件発明1の請求項1に係る構成を備えた熱交換器に「外側列の分割細片間のフィン基板部と向き合う板状フィンの縁部に気流方向と交叉する方向へ突出し気流方向に向かって広がる突起を設ける」構成を付加したことによって,本件発明1と同様に気流が斜め下向きに流れる場合に,通風抵抗が大きい切り起こし細片を全て通過することなく,気流の流路の一部分については,経路上に切り起こし細片を配置せずフィン基板上のみを通過させるように,伝熱管より離れた切り起こし細片の長さを短くして配置することにより,熱交換器の上部での通風抵抗を小さくし,熱交換効率を向上させるとともに,さらに板状フィンの縁部に気流方向に向かって広がる突起を設け,気流が板状フィンから流出する直前で整流を行い,騒音の発生を抑制できるようにした点に技術的意義があることが開示されているものと認められる。
(2) 本件各発明の技術的優位性の有無ア原告らは,熱交換効率の向上及び騒音の発生を抑制する効果を奏する本件各発明は,市場における技術的優位性を有する旨主張する。
被告は,本件各発明のようなフィンパターン(フィンの切り起こし細片の形状及び配列パターン)を特定する特許発明は,技術的範囲が限定的であり,他社が採用しようとする熱交換器におけるフィンパターンの自由度を実質的に制限できるものではないし,実施しなければ市場において優位性のあるエアコン製品を製造できないような技術を対象とするものではなく,競合他社はそれぞれ自ら開発した熱交換器のフィンパターンについて特許権を有し,各々が有する特許発明実施したフィンを作成しており(乙7,12ないし14,20),本件各発明と同等あるいはそれを上回る作用効果を奏する代替技術が存在していたから,本件各発明には技術的優位性はない旨主張する。
そこで,本件各発明の市場における技術的優位性の有無について判断する。
イ一般に,熱交換器の熱交換効率を向上させる要素としては,フィンの材料,フィンの形状,フィン同士の間隔(フィンピッチ),フィン上の切り起こし細片の形状及び配置,伝熱管の材料,伝熱管の形状,伝熱管同士の間隔,配置密度などがあり,これらの諸要素を適宜組み合わせることにより,熱交換器の熱交換効率を向上させることができる(甲14,乙9,11,52等,弁論の全趣旨)。
そして,前記(1)の認定事実によれば,本件各発明は,熱交換器において,気流の流路上の通風抵抗となっているフィンの切り起こし細片の形状(長さ等)及び配列パターンの工夫によって熱交換効率の向上及び騒音の発生の抑制を図ることを目的とした発明であり,気流が通風抵抗が大きい切り起こし細片を全て通過することなく,気流の流路の一部分については,経路上に切り起こし細片を配置せずにフィン基板上のみを通過させることに着目したことが認められる。
このように本件各発明は,熱交換器におけるフィンの切り起こし細片の形状(長さ等)及び配列パターンに係る発明であるといえる。
ウ(ア)乙13(特公平7-107480号公報)(優先日・昭和62年10月30日,出願人・松下)には,次のような記載がある。
a「特許請求の範囲」として,「【請求項1】一定間隔で平行に配置され,その間を空気が流れる複数の平板フィンと,この各平板フィンへ直角に挿入され,内部を流体が通過する伝熱管を気流の通過方向に対して直角方向(段方向)へ複数備え,前記伝熱管の段方向相互間の平板フィン面に切り起こし群を設けた熱交換器において,前記切り起こし群は,前記伝熱管の列の中心線に対し,気流上流側と気流下流側とに位置し,前記両切り起こし群の間には,前記伝熱管の中心線上に位置する中央平坦部を設け,前記気流上流側の切り起こし群は,前記伝熱管の中心線寄りに位置する中央側,前記気流上流側に位置する外側,前記中央側と外側の間に位置する中間の3列の切り起こし片より構成され,この各列の切り起こし片は,両端がフィン面より突出した立ち上がり部と,この両立ち上がり部間に橋架部より構成され,前記フィン面に対して表側と裏側に交互に突出して設けられ,前記各切り起こし片の間には,中間平坦部が形成され,前記各切り起こし片は,この中間平坦部をはさんで平行に隣接し,前記各切り起こし片の立ち上り部において,前記伝熱管近傍に位置する立ち上がり部は,前記伝熱管の外周接線と平行な線上に位置するように設けられ,前記中央側,中間の各切り起こし片は,それぞれ等脚台形状に形成され,その平行な2辺が,気流の主流方向と直角で,その各等脚台形におけるそれぞれの短辺が,前記伝熱管の中心線側に位置するように配置され,前記外側の切り起こし片は,前記等脚台形状の切り起こし片を2分し,中間部に分割平坦部を設けた一対の平行四辺形状の中切り起こし片より構成し,前記一対の中切り起こし片において,前記分割平坦部を挟む立ち上がり部は,気流の主流方向において風下側に向かうにつれて徐々にその間隔が狭くなるように方向づけられ,風下側の切り起こし群は,複数の切り起こし片により構成されている熱交換器。」,「【請求項3】風下側の切り起こし群は,前記伝熱管の中心線寄りに位置する中央側,前記気流下流側に位置する外側,前記中央側と外側の間に位置する中間の3列の切り起こしより構成され,この各列の切り起こし片は,両端がフィン面より突出した立ち上がり部と,この両立ち上がり部間に橋架された橋架部より構成され,前記フィン面に対して表側と裏側に交互に突出して設けられ,前記各切り起こし片の間には,中間平坦部が形成され,前記各切り起こし片は,この中間平坦部をはさんで平行に隣接し,前記各切り起こし片の立ち上がり部において,前記伝熱管近傍に位置する立ち上がり部は,前記伝熱管の外周接線と平行な線上に位置するように設けられ,前記中央部,中間,外側の各切り起こし片は,それぞれ等脚台形状に形成され,その平行な2辺が,気流の主流方向と直角で,その各等脚台形におけるそれぞれの短辺が,前記伝熱管の中心側に位置するように配置され,前記中間の切り起こし片は,前記等脚台形状の切り起こし片を2分し,中間部に分割平坦部を設けた一対の平行四辺形状の中切り起こし片より構成し,前記一対の中切り起こし片において,前記分割平坦部を挟む立ち上がり部は,気流の主流方向において風上側に向かうにつれて徐々にその間隔が狭くなるように方向づけられ,前記外側の切り起こし片は,前記等脚台形状の切り起こし片を,二つの平行四辺形状の小切り起こし片と,この二つの平行四辺形状の小切り起こし片に挟まれた一つの等脚台形状の小切り起こし片の3分割体とし,この分割部である二つの中間部に小分割平坦部を設けた構成とし,前記平行四辺形状の小切り起こし片と等脚台形状の小切り起こし片は,前記小分割平坦部を挟む立ち上がり部が,その間隔と平行に保ち,かつ前記等脚台形状の小切り起こし片の長辺が気流の主流方向において風下側に位置するように方向づけられている請求項1記載の熱交換器。」(以上,1頁左欄1行〜2頁左欄38行)b「従来の技術従来,この種の熱交換器は…Uベンドにより互いに接続された銅等の伝熱管2とアルミ等のフィン1よりなり,伝熱管2の内部を通過する流体とフィン1間へ矢印方向に流入する空気が熱交換を行う構造を有していた。このような熱交換器には近年小型化,高性能化が要求されているが,騒音等の問題から,フィン1相互間の空気流速は低く抑えられており,管内側の熱抵抗に比較するとフィン表面気体側の熱抵抗は非常に高い。そのためフィン1の表面積を大きく拡大することによって管内側の熱抵抗との差を減少させているがフィン1の表面積の拡大にも限界があり,現在でも,フィン表面側の熱抵抗は管内側の熱抵抗を大幅に上回ってる。このため,近年フィン表面に加工を施して,空気とフィンとの間の熱抵抗を減少させる試みがなされている。」(3頁右欄44行〜4頁左欄9行)c「発明が解決しようとする課題しかし…に示したフィンを用いたフィン付熱交換器における気体Aの混合効果は,立ち上り片116と126とに沿って気体が流れることだけによるものではないので,飛躍的に熱交換効率を向上させることはできなかった。上記発明は,実開昭57-139086号公報に開示されている。また,熱交換器の性能を向上させる発明は,上記のものに限るものではなく,そのいくつかを説明する。例えば,特公昭59-26237号公報,特開昭61-217695号公報,実開昭62-34676号公報のように,矩形状の切り起こし片を一定の条件で配列した構成,あるいは実公昭62-38152号公報のように大きさが異なる等脚台形状の切り起こし片を配列した構成が知られている。」,「しかし,前者の構成は,切り起こし片の立ち上り部が気流方向と平行に突出していることから,フィン間を通過する気流を乱す作用が乏しく,乱流作用による伝熱性能を向上する効果は期待できない。」,「また,後者の構成は,隣合う切り起こし片の立ち上り部がすべて平行に位置しているため,気流の方向を複雑に変えることはできるものの,気流を乱す作用は小さく,やはり乱流作用による伝熱性能を向上する効果は期待できない。」(以上,4頁左欄32行〜右欄4行)d「本発明の目的は,平板フィンを流れる先端部分で乱流を生じさせ,伝熱性能の向上をはかることにある。」,「本発明の他の目的は,平板フィンを流れる後端部分においても乱流を生じさせ,伝熱性能の一層の向上をはかることにある。」,「さらに本発明の他の目的は,平板フィンを流れる後端部分において発生する騒音を抑制することにある。」,「さらに本発明の他の目的は,伝熱管の列数を複数とした場合,前列で伝熱性能の向上をはかり,後列で騒音を抑制することにある。」,「さらに本発明の他の目的は,伝熱管の列数を複数とした場合,一層合理的に乱流を生じさせ,伝熱性能の一層の向上と騒音の抑制化をはかることにある。」(以上,4頁右欄5行〜17行)e「課題を解決するための手段そして上記目的を達成するために本発明は,一定間隔で平行に配置され,その間を空気が流れる複数の平板フィンと,この各平板フィンへ直角に挿入され,内部を流体が通過する伝熱管を気流の通過方向に対して直角方向(段方向)へ複数備え,前記電熱管の段方向相互間の平板フィン面に切り起こし群を設けた熱交換器において,前記切り起こし群は,前記伝熱管の列の中心線に対し,気流上流側と気流下流側とに位置し,前記両切り起こし群の間には,前記伝熱管の中心線上に位置する中央平坦部を設け,前記気流上流側の切り起こし群は,前記伝熱管の中心線寄りに位置する中央側,前記気流上流側に位置する外側,前記中央側と外側の間に位置する中央の3列の切り起こし片より構成され,この各列の切り起こし片は,両端がフィン面より突出した立ち上り部と,この両立ち上り部間に架橋された架橋部より構成され,前記フィン面に対して表側と裏側に交互に突出して設けられ,前記各切り起こし片の間には,中間平坦部が形成され,前記各切り起こし片は,この中間平坦部をはさんで平行に隣接し,前記各切り起こし片の立ち上り部において,前記伝熱管近傍に位置する立ち上り部は,前記伝熱管の外周接線と平行な線上に位置するように設けられ,前記中央側,中間の各切り起こし片は,それぞれ等脚台形状に形成され,その平行な2辺が,気流の主流方向と直角でその各等脚台形状におけるそれぞれの短辺が,前記伝熱管の中心線側に位置するよう配置され,前記外側の切り起こし片は,前記等脚台形状の切り起こし片を2分し,中間部に分割平坦部を設けた一対の平行四辺形状の中切り起こし片より構成し,前記一対の中切りこし片において,前記分割平坦部を挟む立ち上り部は,気流の主流方向において風下側に向かうにつれて徐々にその間隔が狭くなるように方向づけられ,風下側の切り起こし群は,複数の切り起こし片により構成されたものである。」(4頁右欄18行〜5頁左欄1行)f「作用 上記構成によれば,?切り起こし片とその間の中間平坦部とが境界層前縁効果を有する。
?伝熱管側の立ち上り部によって気流が伝熱管に沿って流れやすくなり,止水域減少効果を有する。
?気流の上流端または下流側の切り起こし片のそれぞれ中央部側の立ち上り部の傾斜方向により気流に旋回成分が発生し,気流の混合効果と乱流効果を促進する。
これらの各種効果により,空気とフィン表面との間の熱伝達率を飛躍的に向上させ,熱交換効率を大幅に向上させることができる。」(5頁左欄2行〜13行)g「発明の効果,上記構成によれば,?切り起こし片とその間の中間平坦部とが境界層前縁効果を有する。
?伝熱管側の立ち上り部によって気流が伝熱管に沿って流れやすくなり,止水域減少効果を有する。
?気流の上流側または下流側の切り起こし片のそれぞれ中央側の立ち上り部の傾斜方向により気流に旋回成分が発生し,気流の混合効果と乱流効果を促進する。
これらの各種効果により,空気とフィン表面との間の熱伝達率を飛躍的に向上させ,熱交換効率を大幅に向上させることができる。」(6頁右欄45行〜7頁左欄6行)h「第1図」は,第1の発明における熱交換器のフィンに形成した切り起こし群の平面図,「第8図」は第3の発明における熱交換器のフィンに形成した切り起こし群の平面図である(別紙乙13の図面)。
図中の符号は,次のとおりである。
「1平板状フィン,2伝熱管,3a中央平坦部,4切り起こし片,5,6立ち上り部。」(イ)乙20(実開昭63-154976号公報)(出願・昭和62年3月27日,公開・昭和63年10月12日,出願人・ダイキン)の第2図(別紙乙20の図面参照)には,伝熱管の中心線を基準とした場合に最も離れた外側列の分割細片の長さがその内側列の分割細片の長さよりもやや長く,上記外側列の分割細片同士の間隔がやや狭い点を除いては,本件各発明のフィンパターンに近い構成を有するフィンパターンが図示されている。
(ウ)乙14(被告従業員作成の「新型薄型フィン」と題する表」)及び乙15(被告従業員作成の図面)によれば,本件各出願前の昭和48年ころから昭和60年ころにかけて,松下,ダイキン等10社程度の被告の競合他社によってフィンの切り起こし細片の寸法(長さ,幅),形状(長方形,台形,橋状,非橋状(ルーバー)など),高さ,配置等を工夫した様々なフィンパターンに係る特許出願及び実用新案登録出願が多数出願(乙14だけでも少なくとも170程度)されていたことを推認することができ,この推認を妨げる証拠はない。
エ前記イ及びウの認定事実を総合すれば,本件各出願の出願前に,被告の競合他社は,熱交換効率を向上させる目的で,それぞれが熱交換器のフィンパターンを開発・改良し,フィンパターンについての独自の技術を有し,その独自の技術を実施した熱交換器を各社の製造するエアコンに使用していたことを推認することができ,この推認を妨げる証拠はない。
したがって,競合他社は,熱交換器のフィンパターンに関し,本件各発明の代替技術を有していたものと認められるところ,本件においては,本件各発明がこれらの代替技術よりも熱交換効率の向上その他の効果等の点において技術的に優位であったことを認めるに足りる証拠はない。
(3) 本件各発明を実施したエアコン製品の市場における優位性の有無ア原告らは,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,エアコン製品の売上げ及び利益の増加,市場シェアの増加等をもたらし,エアコン製品の市場における優位性を獲得した旨主張するので,原告らが,その根拠として挙げる諸点について検討する。
(ア) 被告のエアコン製品の市場シェアについてa被告の家庭用エアコン製品全体の市場シェアの推移(乙67)についてみると,別紙2のとおり,●(省略)●他方で,被告の家庭用エアコン製品における本件各発明の実施品割合の推移をみると,別紙2のとおり,●(省略)●上記のような被告の家庭用エアコン製品全体の市場シェアの推移と本件各発明の実施品割合の推移に照らすと,本件各発明の実施品割合の増加と市場シェアの増加とは連動しているものと認めることはできず,実施品割合の増加に伴い,シェアの増加があったものと認めることはできない。
また,被告の熱交換器あるいはエアコン製品に係る主な競合他社が,少なくとも10社程度は存在すること(乙14,弁論の全趣旨)からすると,本件各発明を実施した製品以外の製品も含めた被告の家庭用エアコン製品の市場におけるシェアは平均的なものであったことがうかがわれる。
b被告の業務用エアコン製品全体の市場シェアの推移(乙70)についてみると,別紙3のとおり,●(省略)●他方で,被告の業務用エアコン製品における本件各発明の実施品割合の推移をみると,別紙3のとおり,●(省略)●上記のような被告の業務用エアコン製品全体の市場シェアの推移と本件各発明の実施品割合の推移に照らすと,本件各発明の実施品割合の増加と市場シェアの増加とは連動しているものと認めることはできず,実施品割合の増加に伴い,シェアの増加があったものと認めることはできない。
また,本件各発明を実施した製品以外の製品も含めた被告の業務用エアコン製品の市場におけるシェアは,上記のとおり●(省略)●で推移しており,競合他社に比較して大きかったものとはいえない。
c以上によれば,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,被告のエアコン製品の市場シェアの増加をもたらしたものと認めることはできない。
また,被告のエアコン製品の市場シェアの各数値に照らしても,本件各発明を実施した被告のエアコン製品が市場を独占しているような状況や競合他社を凌ぐような状況にあったものとは認めがたい。
したがって,被告のエアコン製品の市場シェアから,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことにより,エアコン製品の市場における優位性を獲得したものということはできない。
この点,原告らは,別紙2及び3のデータの一部分を捉え,被告のエアコン製品のシェアの増加部分を強調して本件各発明の優位性を主張するが,データ全体を客観的にみれば上記のとおりに評価できるものであるから,原告らの主張を採用することはできない。
(イ) 被告のエアコン製品の売上げ及び利益の増加について原告らは,本件各発明を実施したことにより,熱交換器,ひいてはエアコン全体が従来の製品より大きく性能が向上し,被告が本件各発明を実施したエアコン製品(本件エアコン)を市場に投入してから,被告の売上高及び利益が増加し,エアコン製品の市場における優位性を獲得した旨主張する。
しかしながら,超過売上高の有無を判断するに当たっては,自社の従来製品との性能との比較ではなく,あくまで競合他社と比較した場合の優位性が問題となるというべきであり,また,売上高及び利益の増減には,市場規模全体の増減も影響することに鑑みると,競合他社との優位性の比較は,結局のところ市場シェアの割合に反映されるものと解される。
そして,被告のエアコン製品が市場シェアにおいて優位性が認められないことは前記(ア)のとおりであるから,原告らの主張は,その主張自体採用することができない。
(ウ) OEM供給について原告らは,被告が熱交換器単体あるいはそれを使用したエアコンを他社にOEM供給していることを捉えて,本件各発明を実施した熱交換器,ひいてはエアコン製品全体が高性能であったからこそ,OEM供給の供給元になることができた旨主張する。
しかし,被告による熱交換器単体あるいはそれを使用したエアコン製品のOEM供給の事実から直ちに本件各発明を実施した被告のエアコン製品が他社の製品に比べて高性能であったことを根拠づけることはできない。
したがって,原告らの主張は,採用することができない。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)によれば,被告が被告のエアコン製品に本件各発明を実施したことによりエアコン製品の市場における優位性を獲得したとの原告らの主張は,理由がない。
イまた,原告らは,被告が本件各発明を実施した熱交換器を十数年間の長期にわたり継続使用していること,本件各特許権をその存続期間満了まで維持し続けてきたことは,本件熱交換器における技術的優位性及び経済的優位性が長期にわたり継続したことを意味するなどと主張する。
しかしながら,熱交換効率を向上させる要素は本件各発明のようなフィンパターンに係る発明だけでなく,それにその他の諸要素を適宜組み合わせることによって実現されるものであること(前記(2)イ),そもそも特許発明の継続的な使用の事実や当該発明に係る特許権の維持の事実は,他社の製品との比較における当該発明の技術的優位性等とは直接的に関連性がないことに照らすならば,原告らの主張は理由がない。
(4) まとめア以上のとおり,被告の本件エアコンの販売台数に「超過売上げ」に係る部分が含まれていることの根拠とする原告らの主張は,いずれも理由がなく,他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,原告ら主張の「超過売上高」の存在を認めることはできないから,原告ら主張の「独占の利益」は,その前提を欠くものであり,認めることはできない。
イしたがって,本件各発明について,既に被告が原告ら3名に対して支払った額を超えて,原告らが主張する本件各発明に係る相当の対価の不足額が存在することを認めることはできない。
3 結論以上によれば,その余の点について判断するまでもなく,原告らの請求は理由がないからいずれも棄却することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 大西勝滋
裁判官 上田真史
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