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審判番号(事件番号) データベース 権利
平成10ワ16832補償金請求事件 平成12ワ5572補償金請求事件 判例 特許
平成22ネ10031特許権侵害差止等請求控訴事件 判例 特許
関連ワード 使用方法 /  新規性 /  公然実施(29条1項2号) /  29条1項3号 /  頒布された刊行物 /  進歩性(29条2項) /  技術的範囲 /  同一の発明 /  特許の有効性 /  発明の詳細な説明 /  債務不履行 /  ライセンス /  抵触 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  不存在 /  信義則 /  実施 /  交換 /  構成要件 /  構成要件充足性 /  差止請求(差止) /  侵害 /  損害額 /  販売数量(販売数) /  不法行為(民法709条) /  同意 /  実施権 /  設定登録 /  請求の範囲 /  変更 /  公序良俗 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 21年 (ワ) 18507号 特許権侵害差止等請求事件
東京都台東区〈以下略〉
原告コン ビ 株式会社
訴訟代理人弁護 士稲元富保
訴訟代理人弁理 士山本晃司
同 川澄茂
補佐人弁理士小田原敬一 富山市〈以下略〉
被告株 式会社リッチェル
訴訟代理人弁護 士窪田英一郎
同 柿内瑞絵
同 乾裕介
同 今井優仁
同 野口洋高
同 中岡起代子
裁判所 東京地方裁判所
判決言渡日 2011/01/21
権利種別 特許権
訴訟類型 民事訴訟
主文 1被告は,別紙物件目録記載の幼児用補助便座を製造し,譲渡してはならない。
2被告は,前項記載の幼児用補助便座を廃棄せよ。
3被告は,原告に対し,2427万4341円及び内金720万円に対する平成21年6月13日から,内金1707万4341円に対する同年7月1日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
- 2 -4訴訟費用は被告の負担とする。
5この判決の第1項ないし第3項は,仮に執行することができる。
事実及び理由
請求
主文第1項ないし第3項と同旨
事案の概要
1 事案の要旨本件は,発明の名称を「幼児用補助便座」とする特許第2121350号の特許(以下,この特許を「本件特許」,この特許権を「本件特許権」という。)の特許権者である原告が,被告が別紙物件目録記載の幼児用補助便座(以下「被告製品」という。)を製造及び販売する行為が原告の本件特許権の侵害に当たる旨主張して,被告に対し,特許法100条1項及び2項に基づき,被告製品の製造及び譲渡の差止め並びにその廃棄を求めるとともに,特許権侵害不法行為による損害賠償を求めた事案である。
2争いのない事実等(証拠の摘示のない事実は,争いのない事実又は弁論の全趣旨により認められる事実である。)(1) 当事者ア原告は,合成樹脂製品,繊維製品,木工製品,紙パルプ製品及び金属製品の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
イ被告は,日用雑貨品及び家庭用電気製品の製造及び販売等を目的とする株式会社である。
(2) 原告の特許権ア原告は,平成6年2月22日,本件特許に係る特許出願(特願平6-46594号。以下「本件出願」という。)をし,平成8年12月20日,本件特許権の設定登録(請求項の数6)を受けた。
イ本件特許に係る願書に添付した明細書(以下,図面を含めて「本件明細書」という。)の特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件発明」という。)。
「【請求項1】座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成するとともに,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる幼児用の補助便座において,座面の周縁部に形成した載置部を,先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる幼児用補助便座。」ウ 本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである。
「A座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成するとともに,B座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる幼児用の補助便座において,C座面の周縁部に形成した載置部を,先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなるD幼児用補助便座。」(3) 被告の行為等ア被告は,平成17年5月から平成20年8月までの間,被告製品(別紙物件目録記載の幼児用補助便座)を製造し,株式会社トーホー(以下「トーホー」という。)に販売した。
イ(ア)被告製品においては,別添第1図ないし第5図に示すように,座面2の中央に前後方向に縦長な長円形状の透孔3が形成され,座面2の周縁部4は下方に湾曲し,周縁部4の下部5は,正面側の先端縁部6及び側面側の両側縁部7がほぼ水平に形成されている(検甲1,弁論の全趣旨)。
(イ) 被告製品は,本件発明の構成要件A及びDを充足している。
(4) 原告と被告間の覚書原告と被告は,平成11年3月19日,被告が製造及び販売する幼児用補助便座(商品名「らくちんおまる」)に関し,本件特許権に係る紛争解決のため,「特許権に関する紛争解決の覚書」と題する覚書(甲4。以下「本件覚書」という。)を締結した。
本件覚書には,以下の条項がある(各条項における「甲」は「被告」,「乙」は「原告」をいう。)。
第2条(和解等)1.甲及び乙は,甲が製造販売している「らくちんおまる」に関し,乙の所有する本件特許権に係る紛争解決のために,両者は和解することに合意する。
2.甲は,前項の和解により,乙に対して和解金として,金100万円(但し,消費税は別途。)を支払うものとする。
3.甲は,本条第2項の支払いを,第3条第2項に定める乙の承認後,1ヶ月以内に,甲の下記の銀行口座に振り込んで行う。(以下,略)4.乙は,この覚書締結後に,万一本件特許権の無効審判の審決が確定した場合,その他の特許権の効力が取消,消滅又は失効したいかなる場合でも,第2項に基づき甲により支払われた金員は返還しない。
第3条(設計変更等)1.乙は,本件特許権の実施権を甲に許諾しない。
2.甲は,前条の和解により,本覚書締結後,1ヶ月以内に後脚を高くする設計変更実施し,その現品を乙に提出し,乙の承認を得るものとする。
第4条(不争合意)甲は,本件特許権の有効性について,乙と争わず,かつ,乙と争う第三者を援助しない。」3 争点本件の争点は,被告製品が本件発明の構成要件をいずれも充足し,その技術的範囲に属するか(争点1),本件発明に被告主張の無効理由があり,原告の本件特許権の行使が特許法104条の3第1項により制限されるか(争点2),被告が賠償すべき原告の損害額(争点3)である。
争点に関する当事者の主張
1 争点1(技術的範囲の属否)について(1) 原告の主張ア 被告製品の具体的構成被告製品は,次のaないしdの構成を有する(以下,それぞれを「構成a」,「構成b」などという。)。別添写真は,被告製品(検甲1)の各部を示した写真である。
「a被告製品は,別添第1図に示すように,その上方から見て全体として長円形状に形成されており,座面2の中央には前後方向に縦長な長円形状の透孔3が形成されている。
b別添第5図に示すように,座面2の周縁部4は下方に湾曲しており,その下向きに湾曲した周縁部4によって,便座に載せるための載置部5(周縁部4の下部5)が構成されている。
c1別添第2図及び第3図に示すように,載置部5は,その正面側の先端縁部6及び側面側の両側縁部7がほぼ水平に形成されている。
c2載置部5は,背面側の後縁部8が上向きに湾曲しており,その後縁部8は両側縁部7に滑らかに繋がっている。
d被告製品は,幼児用補助便座である。」なお,座面2の先端部分に形成された孔9は,使用者である幼児が掴まる取っ手部を取り付けるために形成されており,その取っ手部には「パンツぱんくろう」のキャラクタが施される。
構成要件B及びCの「載置部」の意義(ア)本件発明の「載置部」は,構成要件Bの文言から,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させ」た部分であり,かつ,構成要件Cの文言から,「座面の周縁部に形成」された部分で,「先端縁」,「両側縁部」及び「後縁部」(切欠部)を含む部分であると解される。
(イ)a本件発明の「載置部」に関し,本件明細書(甲2)には,次のとおりの記載がある。
(a)「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる」(特許請求の範囲の請求項1)(b)「総括的に1で示す補助便座は,座面2の中央に縦長の透孔3を穿設した長円形状に形成するとともに,座面2の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座4に対する載置部21としている。」(段落【0010】)(c)「便座4に対する載置部21は,座面2の前縁部及び両側縁部をほぼ水平に形成しているが,後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成している。(図1,図2参照)」(段落【0011】)(d)「6…6は座面2の下面前後位置に取付けた便座設置用の支脚であり,支脚6の先端面には,便座4面に対する安定した接触を可能とするための滑り止めを兼用するゴム座61…61を高さ調節を可能とするため着脱可能に取付けている。」(段落【0016】)(e)「なお,便座設置用の支脚6…6は,支脚6の先端部に着脱可能に取付けたゴム座61…61の取付け部位を最も低くした場合に座面2の外周に形成した載置部21の下端から少しだけ露出できるよう形成することが望ましい。」(段落【0018】)b上記aの記載によれば,?「載置部」の後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成されているのであるから,当然に大人用便座に接触しない部分を含むものであること,?支脚6の先端部に着脱可能に取り付けたゴム座が載置部21の下端から少しだけ露出できるようにした場合であっても「載置部」であること,?載置「部」であって,例えば載置「面」のような大人用便座の座面と接触することを意図した用語ではないことが認められる。
そうすると,本件発明における「載置部」は,大人用便座に接触するものに限定されるものではないというべきである。
構成要件Cの「切欠部」の意義(ア)a本件発明の「切欠部」は,「変形した便座に対応させるための上向きの切欠部」である(構成要件C)。構成要件Cの「上向き」の用語は,「載置部」が座面の周縁部を少しの高さだけ「下方」に湾曲させたものと特定され(構成要件B),「先端縁」及び「両側縁部」が「ほぼ水平」に形成されていると特定されていること(構成要件C)に鑑みると,それらの水平な「先端縁」及び「両側縁部」と比較したときに,輪郭が上方に変化することを特定する趣旨で使用されているものである。
また,本件発明の「切欠部」は,「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる」(構成要件C)ものである。補助便座において,先端縁及び両側縁部が存在すれば,後縁部が存在することは自明であり,後縁部がどこからどこまでを示すかが特定されない限り,切欠部が後縁部に形成されているか否かを特定できないというものではなく,比較対象としての「ほぼ水平」な先端縁及び両側縁部が存在し,それらに対して上方に輪郭が変化する部分が,先端縁及び両側縁部よりも後縁側に存在していれば,そこが本件発明の「上向きの切欠部」に該当する。
b本件発明は,構成要件Cの「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる」との文言上,後縁部の一部に切欠部が形成されていることを要件とするものではなく,また,本件明細書の発明の詳細な説明においても,「後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成している。」(段落【0011】)と記載されているとおり,後縁部が切欠部として形成されている例が開示されている。
c本件明細書の段落【0005】,【0007】,【0010】及び【0012】の記載によれば,暖房機能,洗浄機能等の機能を持つ便座に対して,周縁部の全体が水平に形成されている従来の補助便座を載置するとその後方部位が上方に持ち上げられるという問題があり,その問題を解決するため,本件発明は,載置対象となる便座の後部形状に適応するように載置部の後縁部を上方に向けて湾曲させた形状を持つ「切欠部」を補助便座に適用したものであり,「切欠部」とは,載置部の後縁部を上方に向けて湾曲させた部分である。
d以上によれば,本件発明の「上向きの切欠部」とは,水平に形成された両側縁部に対して「上方に向けて湾曲させた」部分であると解すべきである。
(イ)被告は,後記のとおり,「切欠き」の定義を縷々述べているが,本件発明の構成要件Cは,「切欠き」ではなく,「切欠部」との文言を用いているから,そもそも「切欠き」の辞書的意味を持ち出すこと自体正確性を欠いている。
また,本件明細書の段落【0021】の「補助便座1の座面2の周縁部に,下側に向けて湾曲形成した載置部21の後端部に,適宜高さだけ上方に向けて湾曲させた切欠部22を形成したので,取付けようとする便座の構造が,……暖房機能や洗浄機能等を具備した便座4のように便座4の後端部を上方に向けた傾斜面42として形成した便座4の場合でも,補助便座の切欠部22部分が前記傾斜面42の傾斜を吸収できるので,何らのトラブルを伴うことなく使用することが可能となった。」との記載から明らかなように,本件発明における「切欠部」は,後端部が膨らんでいるような変形した便座に対応すべく,「上方に向けて湾曲させた」ものであり,その用語の意義の解釈に当たって,被告が主張するような材料力学上の定義に拘束されるべき根拠はない。
エ 被告製品の構成要件充足性(ア) 構成要件Aについて被告製品は,構成aのとおり,「座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成」しているので,本件発明の構成要件Aを充足する。
(イ) 構成要件Bについてa被告製品は,構成bのとおり,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて」いるので,本件発明の構成要件Bを充足する。
b被告は,後記のとおり,被告製品においては,その設計上,支脚のみが大人用便座と接触し,周縁部の下部は,大人用便座と接触せず,本件発明の「載置部」として機能しないから,「載置部」に当たらない旨主張する。
しかし,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
(a)まず,被告の主張が本件発明の「載置部」が大人用便座に「接触する」ものでなければならないことを前提とするものであるならば,本件明細書の記載に基づかない主張であって失当である。
(b)?次に,仮に本件発明における「載置部」が大人用便座と接触する部分を意味するとしても,甲5の写真からも明らかなように,被告製品の使用時において,被告製品の周縁部の下部は大人用便座に接触しているのであるから,被告製品の周縁部の下部は「載置部」として機能し,「載置部」となるように設計されている。
なお,甲5の写真を撮影する際に使用した人形の重量は,被告製品の適用年齢の下限である1.5歳男児の平均体重(甲6)に合わせたものである。
?甲3(被告製品の説明書)の左下段の「補助便座が取り付けられる便座のサイズ」と題する部分には,被告製品は,内径の幅が17.5〜21cmの大人用便座に取り付けが可能である旨記載されている。大人用便座の座面には,その内側の抜き孔部分に向かうほど高さが低くなるような下り勾配,あるいは湾曲が付されることが通例である。そして,その下り勾配,あるいは湾曲の程度も特に規格が存在するわけではなく,製品によって様々であることからすると,仮に被告製品の支脚が大人用便座の抜き孔部分の内径よりも外側に位置していたとしても,下り勾配,あるいは湾曲の程度によっては,周縁部の下部が大人用便座に接触することは容易に推認できる。
また,甲3の右中段の「温水便座でのご使用方法」と題する部分には,「1.補助便座はいちばん奥に取り付けてください。ただし型式により補助便座のゴム脚が大人用便座に接地せず不安定な場合がありますので安定する位置に便座を取り付けて固定具を調節してください。」と記載されており,支脚(甲3の「ゴム脚」)が大人用便座の型式によっては,便座に接地しない場合があることが明確に示されている。
?以上のとおり,被告製品は,支脚のみが大人用便座に接触するものではなく,周縁部の下部も大人用便座に接触して「載置部」として機能するものである。
(ウ) 構成要件Cについてa被告製品の「載置部」は,構成c1のとおり,先端縁及び両側縁がほぼ水平に形成され,構成c2のとおり,後縁部が変形した便座に対応させるための「上方に向けて湾曲させた」部分である「上向きの切欠部」として形成されているから,本件発明の構成要件Cを充足する。
b被告は,後記のとおり,被告製品を洗浄機能付き便座に載置した場合,その後縁部が便座の傾斜に乗り上げ,両側縁部は便座から浮いた状態となり,左右への揺れや,ガタ付きが発生し,安定して使用することはできず,危険であって,被告製品の後縁部の形状は,本件発明の「切欠部」としての作用効果を奏しないから,被告製品には,本件発明の「切欠部」が存在しない旨主張する。
しかし,被告製品は,温水便座に使用できることを前提として製造及び販売されていること(甲3)からすると,そもそも被告の上記主張には,無理があり,失当である。
(エ) 構成要件Dについて被告製品は,構成dのとおり,「幼児用補助便座」であるので,本件発明の構成要件Dを充足する。
オ 小括以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件AないしDをすべて充足するから,本件発明の技術的範囲に属する。
したがって,被告による被告製品の製造及び販売は,本件発明に係る本件特許権の侵害に当たる。
(2) 被告の主張ア 被告製品の具体的構成について原告主張の被告製品の構成については,被告製品が構成a及び構成dを有していること,構成bのうち,座面2の周縁部4が下方に湾曲していること,構成c1のうち,周縁部4の下部5の先端縁部6及び両側縁部7がほぼ水平に形成されていることは認めるが,その余は否認する。
被告製品においては,別添第2図ないし第5図に示すように,下方に支脚10が設置され,支脚10のうち,プラスチックで形成された部分が周縁部4の下部5よりも下方に位置し,さらにその下方にゴム製のキャップが取り付けられているため,被告製品を大人用便座に載せる場合,支脚10のみが大人用便座に接触し,周縁部4の下部5は大人用便座に接触しない。
このように被告製品の周縁部4の下部5は,大人用便座に接触せず,「便座に載せるための」載置部とはいえないから,被告製品には,構成b,c1及びc2記載の「載置部5」は存在しない。
構成要件B及びCの「載置部」の意義について(ア)本件発明の構成要件Bの「便座に対する載置部」とは,その文言上,「便座に対して載せて置く部分」を意味する。
そうすると,構成要件Bの「座面の周縁部を…下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる」とは,「下方に湾曲させた座面の周縁部」が便座に載せて置かれる,すなわちその周縁部が便座と接触するということにほかならない。そして,載せて置くという言葉の意味に照らせば,この場合の接触とは,便座に対して補助便座を単純に設置したときにその下方周縁部(周縁部の下部)が便座に接触することを意味するものである。
また,「載置部」が大人用の便座と接触する部分であることは,本件明細書の図3及び図4において,下方に湾曲させた座面の周縁部であるところの載置部が大人用便座と接触している様子が図示されていることからも明らかである。
(イ)原告は,本件発明の「載置部」は切欠部を含むものであるが,切欠部は便座に接触しないこと,ゴム座を載置部の下端から少しだけ露出できるように設けた場合であっても「載置部」であることなどを根拠として挙げて,本件発明の「載置部」は,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させ」,「座面の周縁部に形成」された部分で,「先端縁」,「両側縁部」及び「後縁部」(切欠部)を含む部分であって,大人用便座に接触するものに限定されるものでない旨主張する。
しかし,仮に「載置部」に大人用便座に接触しない部分があるとしても,それが「載置部」である以上,「載置部」全体としては載置するための機能を有する必要がある。
次に,本件明細書には,ゴム座は「載置部21の下端から少しだけ露出できるよう形成することが望ましい」(段落【0018】)とあえて記載されていることからすれば,本件発明では,ゴム座を設けた場合であっても,ゴム座と載置部の両方で補助便座を支えることが想定されているというべきである。
すなわち,本件明細書においてゴム座の露出が「少しだけ」に限定されていることの趣旨は,露出されるゴム座の高さを便座の勾配により吸収できる程度に抑え,補助便座をゴム座と載置部の両方で支えるようにする点にある。ゴム座のみで補助便座を支えることを想定しているのであれば,露出を「少しだけ」に限定する必要はない。
また,そもそも,本件発明は,補助便座の周縁部の下部を「載置部」として便座(大人用便座)に接触させ,他方で,便座後方の複雑な形状を切欠部で吸収させることにより,補助便座を安定して載置するものであるから(本件明細書の段落【0008】),ゴム座を設けた場合であっても,補助便座の周縁部の下部が便座に接触することは当然に想定されているというべきである。
したがって,原告の上記主張は失当である。
構成要件Cの「切欠部」の意義について(ア)a広辞苑(第5版)によれば,「切欠き」とは,「材料力学において,材料の縁に局部的にできたへこみ部。」と定義され,また,「切る」とは,「連結・結合しているものを断つ。離す。」,「欠ける」とは,「あるべきものが無い。」と定義されている。
これらの定義からすると,本件発明の「切欠部」とは,「本来あるべきものをあるべき場所から分離した結果生じた局部的なへこみの部分」を意味する。
本件明細書の図1及び図2が示すように,本件発明は,縁部がすべて水平であったと仮定した場合の後方周縁部がなす線と「切欠部22」がなす曲線で囲まれた部分を切り取った形状の構成を有している。
すなわち,切り取る前にそこに本来あるべきであった部分を分離した結果,局部的なへこみが生じているからこそ,本件発明の特許請求の範囲の請求項1で「切欠部」という用語を選択しているのである。
bまた,便座に関する技術分野において,便座に設けられた「切欠部」,「切欠き」等の形状は,本来あるべき便座の一部が分離された結果生じた局部的なへこみの部分として規定されている(乙21ないし42)。
c上記a及びbに照らすならば,本件発明の「切欠部」は,「本来あるべきものをあるべき場所から分離した結果生じた局部的なへこみの部分」を意味するというべきである。
(イ)原告は,本件明細書の段落【0011】の「後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成している。」との記載を根拠として挙げて,本件発明の「切欠部」とは「上方に向けて湾曲させた」形状を意味する旨主張する。
しかし,本件明細書の段落【0011】は,「切欠部」が存在することを前提に,その形状が「上方に向けて湾曲させた」ものであること,すなわち,切欠部の形状としてはいくつもの形状が考えられるところ,本件発明における切欠部の形状が「上方に向けて湾曲させた」形状に限定されることを明らかにしたにすぎず,「切欠部」自体が如何なるものであるかについては一切言及していない。上方に向けて湾曲させた形状であることは,「切欠部」であることの必要条件にすぎない。
また,段落【0011】は,本件明細書の図1及び図2を受けてその内容を説明したものであることからすると,切欠部とは,図1及び図2が示すように座面後方部の切り欠かれた形状をいうものである。
さらに,先に述べた「切欠部」の本来の字義からすると,「切欠部」を「上方に向けて湾曲させた」形状と解釈することはあまりに「切欠部」の意味内容から逸脱するものであって,誤りである。
したがって,原告の上記主張は失当である。
エ 被告製品の構成要件充足性について(ア) 「載置部」の不存在による構成要件B及びCの非充足a前述のとおり,本件発明の構成要件Bの「便座に対する載置部」とは,「便座に対して載せて置く部分」をいい,構成要件Bの「座面の周縁部を…下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる」とは,便座に対して補助便座を単純に設置したときにその周縁部の下部が便座に接触することを意味するところ,被告製品は,その設計上,支脚のみで補助便座を支えるため,このような載置部は存在しない。
b原告は,甲5の写真によれば,被告製品の使用時において,被告製品の周縁部の下部は大人用便座に接触しているから,被告製品の周縁部の下部は「載置部」として機能し,「載置部」となるように設計されている旨主張する。
しかし,原告の主張は,甲5の写真中の人形の重力により被告製品が変形し,その結果,周縁部の下部が便座に接触するというものであるところ,前述のとおり,構成要件Bは便座に対して補助便座を単純に設置したときに周縁部の下部が便座に接触することを意味するものであって,使用時の接触はこれに当たらないから,甲5の写真で示されたような接触をもって被告製品の周縁部の下部が「載置部」として機能しているといえない。なお,甲5の写真1,3ないし5をみても,先端縁は便座に接触しておらず,また,同写真6をみると,両側縁部と便座の間には隙間が存在しており,両側縁部も便座に接触していない。
また,甲3の右中段の「温水便座でのご使用方法」と題する部分における「ただし型式により補助便座のゴム脚が大人用便座に接地せず不安定な場合がありますので」との記述は,被告製品が支脚のみによって大人用便座に載置されるように設計されていることを端的に示し,翻って,被告製品の周縁部の下部が大人用便座に載置することにより安定化させるような設計になっていないことをも示している。そもそも,周縁部の下部を「載置部」として用いることにより安定化できるのであれば,固定具は不要であり,被告製品の周縁部の下部は「載置部」ではない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
cさらに,原告は,ゴム座を載置部の下端から少しだけ露出できるように設けた場合であっても「載置部」であるとして,本件発明の「載置部」は便座に接触するものに限定されない旨主張する。
しかし,前述のとおり,本件発明では,ゴム座を設けた場合であっても「載置部」が便座に接触することが想定されているのであり,原告の上記主張はその前提において誤りがある。また,仮に「載置部」に大人用便座に接触しない部分があるとしても,それが「載置部」である以上,「載置部」全体としては載置するための機能を有する必要があるが,被告製品には,このような機能を有する載置部は存在しない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
(イ) 「切欠部」の不存在による構成要件Cの非充足a(a)前述のとおり,本件発明の「切欠部」とは,「本来あるべきものをあるべき場所から分離した結果生じた局部的なへこみの部分」を意味するところ,被告製品は,座面後方部から何かを分断・分離しているわけではなく,局部的なへこみも存在しないから,被告製品は,「切欠部」が存在せず,構成要件 を充足しな Cい。
(b)構成要件Cの「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる」との文言によれば,本件発明の切欠部は,「変形した便座に対応させるための」ものである必要があるところ,その「変形した便座に対応させる」という文言は必ずしも一義的に明らかではない。
この点,本件明細書の段落【0021】に「補助便座の切欠部22部分が前記傾斜面42の傾斜を吸収できる」との記載があることに照らすならば,「変形した便座に対応させる」とは「切欠部が変形した便座の傾斜を吸収できる」ものと理解すべきである。
しかるに,被告製品を通常の洗浄機能付き便座に載置した場合,その後縁部が便座の傾斜に乗り上げてしまい,後縁部が補助便座を支持するような格好となり,便座の傾斜を吸収するものとはいえない。
したがって,被告製品には「変形した便座に対応させるための切欠部」があるとはいえないから,この点においても,被告製品は構成要件Cを充足しない。
(c)原告は,本件発明の構成要件Cは,その文言上,後縁部の一部に切欠部が形成されていることを要件とするものではなく,また,本件明細書の段落【0011】には,後縁部が切欠部として形成されている例が開示されており,後縁部それ自体が切欠部を構成する場合も構成要件Cを充足する旨主張する。
しかし,原告が主張するように後縁部それ自体が切欠部を構成する場合があるとするならば,構成要件Cの「後縁部には,…切欠部を形成してなる」との文言と矛盾する。
また,本件明細書の段落【0011】には,「後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成している」との記載があるが,上記記載中の「後端縁」は後縁部とはいえないし,「後縁部」を「切欠部」とする旨の記載はないことからすれば,段落【0011】の記載から,後縁部が切欠部として形成されている例が開示されているとはいえない。
したがって,原告の上記主張は失当である。
b仮に百歩譲って被告製品の構成が形式的には本件発明の構成に含まれるとしても,被告製品の後縁部の形状は,本件発明の「切欠部」の作用効果を奏しないため,被告製品には,本件発明の「切欠部」が存在しない。
すなわち,本件明細書の段落【0005】ないし【0007】,【0020】及び【0021】によれば,本件発明の「切欠部」の作用効果は,変形した便座の傾斜を吸収させることにより補助便座の後縁部が便座の傾斜に乗り上げてしまい使用時に左右への揺れや,ガタ付きが発生するというトラブルを解消し,もって補助便座を安定して使用できるようにする点にある。
しかしながら,被告製品を洗浄機能付き便座に載置した場合,その後縁部は便座の傾斜に乗り上げてしまい,補助便座はその先端部と後縁部により支持される格好となる。その結果,被告製品の両側縁部は便座から浮いた状態となり,左右への揺れや,ガタ付きが発生してしまい,安定して使用することはできない。さらに,このように両側縁部が浮いた状態で使用すると,便座との間に生じた隙間に幼児が指を挟みこみ負傷する危険すらある。
そして,このような状態での使用が安定したものでないことは明らかであり,被告製品の後縁部の形状は,本件発明の「切欠部」としての作用効果を奏しないから,被告製品には,本件発明の「切欠部」が存在しない。
オ 小括以上のとおり,被告製品は,本件発明の構成要件B及びCを充足しないから,本件発明の技術的範囲に属さない。
2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 被告の主張本件特許には,以下のとおり無効理由があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない。
ア 無効理由1(乙1に基づく新規性の欠如)本件発明は,以下のとおり,本件出願(平成6年2月22日)前に頒布された刊行物である米国特許第2,016,542号明細書(乙1)に記載された発明と同一であるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある。
(ア)乙1は,幼児用補助便座の発明に係る米国特許明細書(1935年10月8日公開)である。
乙1には,?Fig.2の図面に,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成する構成(本件発明の構成要件A),?Fig.1,2及び4の各図面に,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成(構成要件B),?Fig.1,2及び4の各図面に,座面の周縁部に形成した載置部の先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には上向きの切欠部を形成する構成(構成要件C),?表紙左欄1行目に,幼児用補助便座の構成(構成要件D)がそれぞれ記載されている(別紙乙1図面参照)。
上記?の「切欠部」について補足すると,周縁部が下方に湾曲している補助便座(Fig.1及び4)の後方部分を直線状に切断すると(Fig.2),その断面が「上方に向けて湾曲させた形状」になることは,当業者であれば当然に理解できるものであるから,乙1には,「切欠部」が開示されているといえる。
(イ)以上のとおり,乙1には,本件発明の構成要件AないしDがすべて開示されており,乙1の幼児用補助便座は,これらの構成要件をすべて備えている。
したがって,本件発明は,乙1に記載された発明と同一のものであるから,新規性が欠如している。
なお,機械の分野において,発明の同一性の有無の判断に当たり,発明の必要性,目的,作用効果等を考慮することは妥当ではなく,構成要件が同一である以上,発明の同一性を認めるべきであり,温水洗浄便座のように後方が変形した便座に対応させるために切欠部を設けるという本件発明の必要性,目的,作用効果等が乙1に記載されているかどうかは,本件発明と乙1に記載された発明の同一性の有無の判断において考慮されるべきものではない(東京高裁昭和62年6月10日判決(昭和59年(行ケ)第138号),東京高裁昭53年11月22日判決(昭和52年(行ケ)第77号),東京高裁昭46年11月30日判決(昭和41年(行ケ)第8号)参照)。
イ 無効理由2(公然実施による新規性の欠如)以下のとおり,本件発明と同一の構成を有する幼児用補助便座が本件出願前に日本国内において製造及び販売されており,本件発明は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから,本件発明に係る本件特許には,平成11年法律第41号による改正前の特許法29条1項2号(以下「特許法旧29条1項2号」という。)に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある。
(ア)株式会社ショーワプロダクツ(以下「ショーワプロダクツ」という。)は,昭和63年11月ころから,商品名「ディズニーベビーオマルCN」の製品(以下「CN」という。乙5ないし10)を,平成元年(1989年)ころから,商品名「ディズニーベビーオマルDX」の製品(以下「DX」という。検乙2)を,それぞれ製造及び販売していた。
CN及びDXを構成する各便座は,本件発明の構成要件AないしDをすべて備え,いずれも幼児用補助便座として実際に使用されていた(乙5のカタログ,乙43)。
なお,本件出願日の属する平成6年時点で温水洗浄便座の普及率が20%であったことなど(乙44ないし46)を勘案すれば,CN及びDXを構成する各便座は,本件出願前に,「温水洗浄便座」にも使用されていたものといえる。
(イ)以上のとおり,本件発明と同一の構成を有するCN及びDXを構成する各便座が本件出願前に製造及び販売されていたから,本件発明は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明と同一のものとして,新規性が欠如している。
ウ 無効理由3(乙2等に基づく進歩性の欠如)本件発明は,以下のとおり,当業者が本件出願日前に頒布された刊行物である実願平4-56326号(実開平6-11593号)のCD-ROM(乙2)に記載された発明と本件出願前に公知であった便座ないし便器に切欠部を設ける構成(乙3,4,11,12,CN)に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある。
(ア) 本件発明と乙2に記載された発明との対比乙2には,?図3に,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成する構成(本件発明の構成要件A),?図2に,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成(構成要件B),?図1及び図2に,座面の周縁部に形成した載置部の先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成する構成(構成要件Cの一部),?2頁1欄3行目に,幼児用補助便座の構成(構成要件D)がそれぞれ記載されている(別紙乙2図面参照)。
本件発明と乙2に記載された発明(幼児用補助便座)とを対比すると,両発明は,上記?ないし?の構成を有する点で一致し,本件発明は,「後縁部に上向きの切欠部を形成する構成」(構成要件Cの一部)を有するのに対し,乙2においては,このような構成が開示されていない点でのみ相違する。
(イ) 容易想到性a切欠部を設ける構成が本件出願前に公知であったこと(a)実開昭52-51748号公報(乙3)には,和式便器と洋式便器のいずれにも使用できる幼児用補助便座に係る考案が記載され,「洋式便器の便座に載せて用いるための切欠きを設けた幼児用補助便座の構成」(第2図,第3図)及び「和式便器の周縁の一部と対応する切欠き」,すなわち「和式便器の凸部を避けるための凹部を便器本体に設ける構成」(117頁右欄1行,第1図,第2図,第4図の12)が開示されている(別紙乙3図面参照)。
(b)実開平4-59791号公報(乙4)には,和式便器に設置する幼児用便器に係る考案が記載されており,「便座2の後部に幼児用便器本体部分に形成された凸形状との干渉を避けるための切欠きが設けられている構成」(第3図の断面図)及び「便器本体に大人用便器の凸部との干渉を避けるための後方凹部15aが設けられている構成」(第2図,第4図)が開示されている(別紙乙4図面参照)。
(c)前記イ(ア)のとおり,本件出願前にショーワプロダクツが製造及び販売していたCNの便座(幼児用補助便座)は,その後縁部に「切欠部」を設けた構成を有している。
(d)実公昭63-861号公報(乙11)には,従来の便器装置の技術として,「温風吹出し口39は便座32の後部中央付近Bに位置しているもので,この温風吹出し口39は連通する温風吹出し通路44は便座32の後部中央付近Bの裏側を切欠いて構成している。」(3欄14行〜17行)との記載があり,温風吹出し口付近の部分を切り欠いた便座の図面(第9図,第10図)が示されている(別紙乙11図面参照)。
(e)米国特許第3,545,015号明細書(乙12)には,便座後方に位置する温風機が作動する際,温風機のカバーを開ける隙間を設けるために便座に凹部を形成する構成(3欄27行〜32行,Fig.5)が記載されている(別紙乙12図面参照)。
(f)上記(a)ないし(e)を総合すると,補助便座,通常の便座ないし幼児用便器の技術分野において,「切欠部」を設けるという構成(相違点に係る本件発明の構成)は,本件出願前に公知であったものといえる。
b課題の公知性乙3及び乙4には,凸部と干渉しないように切欠き凹部を設けるという課題及びその解決手段が開示されており,温風装置や洗浄装置との関係で凹部を設けるという発想も,乙11及び乙12に開示されている。
c小括以上によれば,当業者であれば,乙2に記載された発明に,便座ないし便器に切欠部を設ける公知の構成(乙3,4,11,12,CN)を採用して本件発明を容易に想到することができたものというべきであるから,本件発明は,進歩性が欠如している。
エ 無効理由4(乙47等に基づく進歩性の欠如)本件発明は,以下のとおり,当業者が本件出願前に頒布された刊行物である米国特許第2,687,535号明細書(乙47)に記載された発明と本件出願前に周知であった座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成(例えば,乙1ないし4,11,12等)に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある。
(ア)乙47は,幼児用補助便座の発明に係る米国特許明細書である。
乙47には,?1頁右欄18行〜19行目,Fig.1の図面に,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成する構成(本件発明の構成要件A),?1頁左欄50行〜54行目,Fig.1及び2の各図面に,座面の周縁部に形成した載置部の先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には上向きの切欠部を形成する構成(構成要件C),?1頁左欄50行〜54行目に,幼児用補助便座の構成(構成要件D)がそれぞれ記載されている(別紙乙47図面参照)。
本件発明と乙47に記載された発明(幼児用補助便座)とを対比すると,両発明は,上記?ないし?の構成を有する点で一致し,本件発明は,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成」(構成要件B)を有するのに対し,乙2においては,このような構成が開示されていない点でのみ相違する。
(イ)幼児用補助便座において座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成(相違点に係る本件発明の構成)は,本件出願前に周知のものであった(例えば,乙1ないし4,11,12等)。
したがって,当業者であれば,乙47に記載された発明に,上記周知の構成を採用して本件発明を容易に想到することができたものというべきであるから,本件発明は,進歩性が欠如している。
オ 無効理由5(特許請求の範囲の記載不備)本件発明の特許請求の範囲の記載は,以下のとおり,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載したものとはいえないから,本件特許には,平成6年法律第116号による改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条5項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(旧特許法123条1項4号)がある。
(ア)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「変形した便座に対応させるための」との記載は,不明確である。
すなわち,「変形した便座に対応させるための」との文言自体及び本件明細書を子細に検討しても,「変形した便座に対応させるための」の構成に関する定義は存在せず,どのような構成が「変形した便座に対応させるための」上向きの切欠部を有するものといえるのか,その用語の意味の外延は全く不明であり,かかる記載は,特許請求の範囲を画する客観的な構成要件として機能し得ない。
(イ)以上によれば,本件発明の特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみ」が明確に記載されているものとはいえないから,旧特許法36条5項2号に適合していない。
したがって,本件特許には,旧特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由がある。
カ 本件覚書の不争条項の効力(ア)原告は,後記のとおり,本件覚書の4条の「不争合意」の条項(不争条項)により,被告が本件特許の無効を主張し,その有効性を争うことは許されない旨主張する。
しかし,以下のとおり,本件覚書の不争条項は,私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律(以下「独占禁止法」という。)や特許法に鑑み,公序良俗(民法90条)に反し,無効であるから,原告の主張は失当である。
a公正取引委員会作成の「特許・ノウハウライセンス契約における不公正な取引方法の規制に関する運用基準」(平成元年2月15日公表。乙13),「特許・ノウハウライセンス契約に関する独占禁止法上の指針」(平成11年7月30日公表。乙14)及び「知的財産の利用に関する独占禁止法上の指針」(平成19年9月28日公表。乙15)によれば,特許ライセンス契約において,ライセンサーがライセンシーに対し特許権の有効性について争わない義務(不争義務)を課すことは,本来特許を受けられない技術について特許権が存続し続けることにより,市場における競争秩序に悪影響を及ぼす可能性があり,独占禁止法上禁止される不公正な取引方法に該当し得るとして,一貫して問題とされている(独占禁止法19条,2条9項,不公正な取引方法(一般指定)13項)。
しかるに,本件覚書は,100万円を支払うことを条件に(2条),過去に被告が製造及び販売した製品につき原告が本件特許権の権利行使しない旨を規定する点において,一種のライセンス契約といえる。仮に本件覚書がライセンス契約そのものではないとしても,本件特許権に抵触する行為に関し,ライセンス料の支払等一定の条件の下で権利行使を控えるという点ではライセンス契約と変わらないのであり,公正取引委員会の上記指針(乙14,15)の規定は本件覚書にも同じく妥当する。
また,特許法は,本来特許を受けられない技術が特許として存続し続けることは公益上望ましくなく,そのような事態を可及的に許容しない姿勢に立つ。そのような姿勢は,何人も特許無効審判を請求できること(特許法123条2項),無効とされた特許権は初めから存在しなかったものとみなすこと(特許法125条),無効とされるべき特許は特許侵害訴訟において行使することができないこと(特許法104条の3)等の規定に見て取れる。
さらに,被告が,原告から本件特許権を新たに行使されたにもかかわらず,本件覚書に不争条項が存在することのみを理由に本件特許の無効を主張できないとすると,原告においては,本件特許の有効性を争われるというリスクなくして,被告が製造及び販売する,被告製品をはじめとするあらゆる種類の補助便座に対して本件特許権を行使することができるのに対し,他方で,被告においては,本件特許の無効を主張する防御方法を一切奪われるため,原告による本件特許の自由な行使をおそれ,補助便座を製造及び販売することを躊躇せざるを得なくなる。その結果,補助便座に係る市場に悪影響が及び,まさに独占禁止法上違法な状態が発生するところとなる。かかる事態は,本来,特許法も予定するところではなく,特許法の制度趣旨からしても許容されるべきものではない。
b以上のような独占禁止法や特許法の問題を勘案すれば,本件訴訟との関係では,本件覚書の不争条項は公序良俗に反し無効とすべきである。
(イ)仮に本件覚書の不争条項が無効でないとしても,本件覚書の締結の経緯,不争条項の趣旨及び適用範囲からすれば,本件覚書の不争条項は,原告から被告に対する本件特許権の行使がないことを前提とするものであって,原告が新たに権利行使をした場合には適用されないと解すべきである。
a被告は,平成9年ころ,商品名を「らくちんおまる」とする補助便座を製造,販売していたところ,同年6月20日,原告から,上記補助便座の製造,販売は本件特許権を侵害するものである旨の通知を受け,その後,原告及び被告間で,上記補助便座の本件発明の技術的範囲への属否,本件特許の無効原因について長期間にわたって議論をしたが,結局,平行線のまま一定の結論に達することはできなかった。そこで,被告は,早期解決のため,一定の和解金の支払を原告に提案し,その代わり原告は被告が製造する製品に対して一切権利行使しないという和解条件を提示した。そして,最終的には,被告が上記補助便座の設計変更を行い,それに対して原告は権利行使をしないという内容の本件覚書が締結された経緯がある。
本件覚書の不争条項については,当事者間で実質的な話合いが行われた形跡はなく,原告の当初案がそのまま最終的な本件覚書の不争条項となったものである。
本件覚書締結後,被告は,原告に対し,上記補助便座の後部のアーチ状の形状はそのままとし,後脚部だけを高くする設計変更を施した新たな補助便座を製作し(乙20,検乙1),これを原告に提出し,原告から承認を得た。
b上記のとおり,本件覚書は,被告が本件特許の無効主張を維持したまま締結されたものであり,本件覚書の不争条項があるからといって被告が一切の無効主張を放棄したものと理解することは明らかに当事者の意思に反する。ましてや,本件覚書には清算条項もないため,原告は前記aの補助便座あるいはその設計変更後の補助便座に対して権利行使をすることがなお可能であるが,この場合にも,被告は無効主張ができないというのではなおさら不合理である。
結局,本件覚書の不争条項は,単に被告から積極的に特許無効審判を請求したり,その他原告からの権利行使がないところで被告が本件特許の有効性を争うことを妨げるだけのものであり,被告が原告から本件特許権の権利行使を受けた場合にまで被告の無効主張を妨げるものではないと理解するのが当事者の合理的な意思に合致するものといえる。
また,前述した公正取引委員会のガイドラインあるいは特許法の趣旨,すなわち本来無効となるべき権利の行使が許されるべきではないという観点から考えれば,不争条項はできるだけ制限的に解釈すべきであり,この観点からも,本件覚書の不争条項は,「原告が被告に対して本件特許権を行使しない限りにおいて」という前提で理解すべきものである。
c以上によれば,本件訴訟における被告の無効主張には本件覚書の不争条項は適用されず,被告が特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限の主張をして本件特許の有効性を争うことは何ら妨げられないというべきである。
(2) 原告の主張ア 本件覚書の不争条項による特許法104条の3第1項の主張の制限(ア)原告と被告が平成11年3月19日に締結した本件覚書の4条は,被告が,本件特許の有効性について,原告と争わず,かつ,原告と争う第三者を援助しない旨の不争条項であり,同条項によって,被告は,本件特許の有効性を争う利益を放棄しているものといえる。
そうすると,被告が,本件訴訟において,特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限の主張をして本件特許の有効性を争うことは本件覚書の4条に違反するものであるから,許されない。
したがって,被告による特許法104条の3第1項に基づく権利行使の制限の主張は,その主張自体失当である。
(イ)a被告は,本件覚書の不争条項は,独占禁止法や特許法に鑑み,公序良俗に反し,無効である旨主張する。
(a)しかし,独占禁止法上,不争条項が問題とされるのは,特許等のライセンス契約についてであるが,本件覚書の3条1項は,原告は被告に実施権を許諾しないと規定しているのであるから,本件覚書の不争条項はライセンス契約に関するものではない。
また,被告は,本件覚書は100万円を支払うことを条件に(2条),過去に被告が製造及び販売した製品につき原告が本件特許権の権利行使しない旨を規定する点において,一種のライセンス契約である旨主張するが,本件覚書を一種のライセンス契約であると解することは,上記のとおり,本件覚書の3条1項に明白に反するのみならず,原告による本件特許権の権利行使の結果として被告が100万円の損害賠償(和解金)を支払うことで合意したのであって,本件覚書は,ライセンス契約と同質のものとはいえない。
(b)本件覚書の不争条項は,被告において本件特許の「無効主張をしない」という合意であって,本件特許権を侵害しない製品の製造,販売は自由であり,何ら独占禁止法が宥恕する事態は生じないし,被告以外の者が無効主張することは何ら制限するものではなく,特許法の制度趣旨にも反しない。
また,特許法上無効審判を請求することができ,無効の抗弁を提出することができることが規定されているとしても,不争条項自体が無効であるとする規定は存在せず,むしろ,独占禁止法ですら,不争条項が有効であることを前提として,ライセンス契約の場合を問題としているのであって,一般的に不争条項が無効であると規定しているものではない。
したがって,本件覚書の不争条項は公序良俗に反するものではなく,被告の上記主張は失当であるb被告は,本件覚書の不争条項が有効であるとしても,本件訴訟における被告の無効主張には本件覚書の不争条項は適用されない旨主張する。
しかし,被告は,特許法上何人も特許無効審判を請求できることを十分に認識しながら,本件覚書において不争条項を入れることを合意し,原告に対して100万円を支払うことで和解したにもかかわらず,本件覚書の締結の経緯,不争条項の趣旨及び適用範囲などを持ち出して,本件訴訟との関係では,本件覚書の不争条項は適用されない旨主張することは,信義則に反するものである。
しかも,原告は,被告が,問題となった補助便座の設計変更(検甲3のように,後部ストッパを極端に長くする。)を行うこと,不争条項を入れること,被告が100万円を原告に支払うことなどを前提として,和解に応じたものであって,本件覚書の趣旨,範囲及び締結の経緯に徴しても,本件において,被告が本件特許の無効主張をすることは許されない。
まして,被告は,現に,設計変更を行った幼児用補助便座を別途製造譲渡しながら,本件覚書に反して,設計変更前の製品と同様な被告製品の製造譲渡を行っているものであり,このように被告は明白な債務不履行を行いながら,本件において,本件覚書の不争条項は適用されない旨主張することは,信義則に反するものである。
以上によれば,本件訴訟との関係では,本件覚書の不争条項は適用されないとの被告の主張は,理由がない。
イ(ア) 無効理由1に対し乙1には,本件発明の構成要件Cの「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる」との構成について何ら記載がない。
被告は,Fig.2の後方部分が直線状に切られていること及び座面の周縁部が下方に湾曲していることを挙げて,乙1の幼児用補助便座は必然的に載置部の後縁部が「上方に向けて湾曲させた形状」である旨主張するが,それらの指摘事項から何故に当該形状が導き出せるのか不明である。
したがって,乙1には本件発明の構成要件Cが開示されているとはいえず,本件発明と乙1に記載された発明が同一であるとはいえないから,被告主張の無効理由1は理由がない。
(イ) 無効理由2に対し被告主張のCN及びDXの各便座において,本件発明の構成要件Cの「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる」との構成を有していることの立証はされていない。
したがって,本件発明と乙1に記載された発明が同一であるとはいえないから,被告主張の無効理由2は理由がない。
(ウ) 無効理由3に対しa被告が認めるとおり,乙2に記載された発明は,本件発明の構成要件Cの「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成」する構成を有していない点で,本件発明と相違する。
しかるに,被告が根拠として挙げる乙号各証には,以下のとおり,上記相違点に係る「変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成した幼児用補助便座」の開示がない。
(a)乙3記載の切欠きは,便器本体についての切欠きであって,便器本体に載置される幼児用補助便座に関するものではない。
(b)乙4に記載された発明は,そもそも「大人用和式便器に設置する幼児用便器」に関するものであって,本件発明の「幼児用補助便座」に関するものではない。もっとも, 乙4の第3図では,便座2の後部が(幼児用)便器本体1の形状に合わせた形状となっているが,これは単に全体としての「幼児用便器」の構成にすぎず,また,そもそも,乙4の「幼児用便器」は「大人用和式便器」に設置するものであり,「変形した便座に対応させるための」上向きの切欠部をなるものは存在しない。
(c)前述のとおり,被告主張のCN及びDXの各便座が本件発明の構成要件Cの「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる」との構成を有していることの立証はされていない。
(d)乙11及び乙12記載の発明は,便器装置そのものであって,そもそも「幼児用補助便座」に関するものではない。
b以上によれば,乙2等に基づいて相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たものとは認められないから,被告主張の無効理由3は理由がない。
(エ) 無効理由4に対し前記(ウ)と同様の理由により,乙47等に基づいて相違点に係る本件発明の構成を容易に想到し得たものとは認められないから,被告主張の無効理由4は理由がない。
(オ) 無効理由5に対しa本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,「変形した便座に対応させるための」の文言は「上向きの切欠部」の構成を特定する文言であることは明らかである。
そして,本件明細書における「便座」に関連する記載(段落【0003】,【0005】,【0007】,【0008】,【0011】,【0012】,【0021】)によれば,?本件明細書の発明の詳細な説明及び図面においては,上面が全体として平滑に,又は水平に形成されている便座をして,「従来構造の便座」と称していること,?「従来構造の便座」に取り付けられるべき,便座の上面に接する下方周縁部が全体的に水平に形成されている補助便座を「従来構造の補助便座」と称していること,?「従来構造の便座」と対比されるべきものとして,保温機能や暖房機能を付加した便座,あるいは洗浄機能付き便座のように,その後方部分が上方に傾斜した形状の便座の存在を指摘していること,?本件発明は,そのような「後方部分が上方に傾斜した形状」の便座に従来構造の補助便座を載置した場合には,補助便座の後方部位が上方に持ち上げられ,補助便座を安定して適用できないという課題を解決するためのものであることの記載がある。
そして,本件明細書の上記記載によれば,本件発明は,上記課題を解決する手段として,「変形した便座に対応させるための上向きの切欠部」を後縁部に形成したものであって,そのような補助便座によれば,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように「便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座」の場合でも,切欠部分が便座の傾斜面の傾斜を吸収できるので,何らのトラブルなく使用することが可能となったものと説明されている。かかる記載事項を,上述した「従来構造の便座」,「従来構造の補助便座」及び本件発明の課題に関する記載と対比すれば,本件発明における「変形した便座」とは,本件発明が解決すべき課題を生じさせる「暖房機能や洗浄機能等を具備することによって,後方部分が上方に傾斜した形状の便座」あるいは「便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座」を意味することは明らかであって,かつ,そのような便座に「対応させるため」とは,「従来構造の便座」とは異なる,「後方部分が上方に傾斜した形状の便座」あるいは「便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座」であっても補助便座を安定して使用できるように,それらの便座の傾斜に合わせるようにして「上向きの切欠部」を設けることを意味することは明らかである。
b以上によれば,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「変形した便座に対応させるための」の記載が意味するところは,本件明細書から明らかに導き出せるものであって,不明確とはいえず,請求項1に旧特許法36条5項2号に適合しない記載不備があるとはいえない。
したがって,被告主張の無効理由5は理由がない。
3 争点3(原告の損害額)(1) 原告の主張ア(ア)被告は,平成17年4月ころから平成21年6月ころまでの間,被告製品(商品名「パンツぱんくろう」及び「GOONパンツぱんくろう」)を合計10万4046個製造し,これらをトーホーに販売した。
被告のトーホーに対する上記販売個数の内訳は,「パンツぱんくろう」につき9万5556個,「GOONパンツぱんくろう」につき8490個である。
(イ)被告は,前記(ア)の被告製品の販売によって合計2427万4341円の利益を得た。
【計算式】(9万5556個×230.04円(1個当たりの利益額))+(8490個×270.04円(1個当たりの利益額))=2427万4341円イ被告による前記ア(ア)の被告製品の製造及び販売は,本件発明に係る本件特許権の侵害に当たる。
原告は,平成17年から平成22年に至るまで,本件発明の実施品である幼児用補助便座を製造及び販売している(甲10ないし15,検甲2)。
したがって,特許法102条2項により,原告は,被告が得た前記ア(イ)の利益の額と同額の損害を被ったものと推定される。
ウ以上によれば,原告は,被告に対し,本件特許権侵害不法行為による損害賠償として2427万4341円及び内金720万円に対する平成21年6月13日(訴状送達の日の翌日)から,内金1707万4341円に対する同年7月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
(2) 被告の主張ア原告の主張ア(ア)のうち,被告製品の製造及び販売の事実,その販売個数は認める。ただし,被告製品の製造及び販売の期間は,平成17年5月から平成20年8月までの間である。
同(イ)の事実は認める。
イ 同イ及びウは争う。
当裁判所の判断
1 争点1(技術的範囲の属否)について(1) 被告製品の具体的構成ア前記争いのない事実等の(3)イ(ア)と証拠(甲3,5,検甲1)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(ア)被告製品は,ポリプロピレン製の幼児用補助便座であり,別添第1図(平面図),第2図(側面図),第3図(正面図),第4図(背面図)及び第5図(底面側を斜め方向から示した斜視図)に示すような形状を有している。
(イ)被告製品の座面2の中央に前後方向に縦長な長円形状の透孔3が形成され(第1図),座面2の周縁部4は下方に湾曲している(第1図ないし第5図)。
(ウ)被告製品の周縁部4の下部5は,正面側の先端縁部6及び側面側の両側縁部7がほぼ水平に形成され(第2図,第3図),背面側が符号8に示すように上向きに湾曲し,両側縁部に滑らかに繋がっている(第2図,第4図)。
(エ)被告製品の底面側には,前後左右4個の支脚10及び左右2個の固定具11が取り付けられている(第5図)。支脚10の先端面にはゴム製のキャップが取り付けられている。
支脚10の先端面は,周縁部4の下部5の端面よりも下方に位置し,上記端面から露出している(第2図ないし第4図)。
(オ)被告製品は,大人用の「普通便座」,「暖房便座」及び「温水便座」に取り付けることを用途とする製品であり,大人用便座内径が幅17.5〜21?,奥行き25?以上のものに取付けが可能である(甲3)。
(カ)被告製品の説明書(甲3)は,「温水便座でのご使用方法」として,「1.補助便座はいちばん奥に取り付けてください。ただし型式により補助便座のゴム脚が大人用便座に接地せず不安定な場合がありますので安定する位置に便座を取り付けて固定具を調節してください。」との記載がある。
また,上記説明書には,「固定具の使い方」として,「大人用便座の横幅に合わせ,固定具の位置を調節してください。固定具はしっかりと大人用便座の左右を押さえるように位置を決め必ず左右対称に固定してください。」との記載がある。
イ被告製品が本件発明の構成要件A及びDを充足することについては,争いがない。
原告は,前記ア(ウ)の被告製品の周縁部4の下部5は,本件発明の構成要件B及びCの「載置部」に該当し,その背面側の符号8で示す部分(第2図,第4図)が構成要件Cの「上向きの切欠部」に該当し,被告製品は構成要件B及びCを充足する旨主張するのに対し,被告は,被告製品には「載置部」及び「切欠部」が存在せず,構成要件B及びCをいずれも充足しない旨主張して争っている。
そこで,前記アの被告製品の具体的構成を前提に,被告製品の構成要件B及びCの充足の有無について順次判断することとする。
(2) 構成要件Bの充足性ア 「載置部」の意義原告は,本件発明の「載置部」は,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させ」,「座面の周縁部に形成」された部分であって,「先端縁」,「両側縁部」及び「後縁部」(切欠部)を含む部分であるが,大人用便座に接触するものに限定されるものでない旨主張する。
(ア) 本件発明の特許請求の範囲の記載a本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成するとともに,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる幼児用の補助便座において,座面の周縁部に形成した載置部を,先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる幼児用補助便座。」というものである。
b上記記載によれば,本件発明の「載置部」は,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて周縁部に形成した部分であり,先端縁,両側縁部及び後縁部から構成され,当該先端縁及び両側縁部はほぼ水平に形成され,当該後縁部は変形した便座に対応させるための上向きの切欠部が形成されていることが認められる。
(イ) 本件明細書の記載事項a本件明細書(甲2)には,次のような記載がある。
(a)「特許請求の範囲」として,「【請求項2】座面の後部周縁部に形成する上向きの切欠部が円弧状の湾曲形状を持つものである請求項1記載の幼児用補助便座。」,「【請求項3】座面の裏面両側部の前後部位に,便座設置用の支脚を形成してなる請求項1及び2記載の幼児用補助便座。」,「【請求項4】便座設置用の支脚先端に,滑り止めを兼用するゴム座を着脱可能に取付けてなる請求項3記載の幼児用補助便座。」,「【請求項5】便座設置用の支脚先端に着脱可能に取付ける滑り止めを兼用するゴム座が,高さの異なる構成体を選択して装着できるよう構成してなる請求項4記載の幼児用補助便座。」,「【請求項6】ゴム座が,便座設置用支脚に対して昇降可能に取付けられている請求項3記載の幼児用補助便座。」(b)「【産業上の利用分野】本発明は便器付属の便座に載置して使用する幼児用補助便座に関するものであり,特に暖房機能や温水洗浄機能を具えた便座の上にも安定して設置,使用できるよう構成した幼児用補助便座に関するものである。」(段落【0001】)(c)「【従来技術】幼児の使用に供するため,大人用の便器上に幼児の体型に合致した補助便座を載置して使用できるよう構成した幼児用補助便座は従来より公知である。」(段落【0002】),「これら従来より公知の補助便座は,図5例示のように便座aの上面が全体として平滑に(水平に)形成されていたため,これに取り付ける幼児用の補助便座bの下面(便座aとの接触面)も平滑に形成したものを単純に載置するだけで安定した使用が可能であった。」(段落【0003】)(d)「【発明が解決しようとする課題】しかしながら,近時に至り保温機能や暖房機能を付加した便座や,使用者の臀部を温水等で洗浄する機構を付加した洗浄機能付き便座が提供されるようになると,便器に取付ける便座の後端部下面に洗浄水の供給機構等を取付ける必要があるため,便座aの形状が,図3例示のように後方部分が上方に傾斜した形状となってしまい,従来構造の幼児用補助便座b(図5例示のように,便座aの上面に接する補助便座bの下方周縁部が全体的に水平に形成されているもの)を載置すると補助便座bの後方部位が上方に持ち上げられ,便器上面を前方に移動させられるという問題が発生し,安定した使用方法を講ずることができないという欠点を有している。」(段落【0005】),「また従来の便座aは,座面全体を水平かつ平滑に形成し,排泄のための透孔部分のみを座面から透孔内周面に向かって円弧状に湾曲形成しただけのものであったが,近時の便座は使用感を高めるため,便座面の湾曲形状が前面位置と,後面位置では湾曲の態様を別異に形成したり,或いは座面の外側位置から内周位置に向かって徐々に傾斜させるなど複雑な座面形状を採用しているため,これらの便座に従来構造の補助便座を載置すると,補助便座が安定して載置できず,使用時に左右への揺れや,ガタ付きを発生させ安定した使用ができないというトラブルが発生していた。」(段落【0006】)(e)「【発明の目的】本発明は上記の事情に対応しようとするものであり,従来の便座に使用できることは勿論のこと,座面の形状を複雑に形成したものや,保温式便座,洗浄機能付き便座等にも安定して適用できるよう構成した幼児用補助便座を提供しようとするものである。」(段落【0007】)(f)「【発明の要点】本発明は,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成するとともに,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる幼児用の補助便座において,座面の周縁部に形成した載置部を,先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる幼児用補助便座の構造を発明の要点としている。」(段落【0008】)(g)「【実施例】…総括的に1で示す補助便座は,座面2の中央に縦長の透孔3を穿設した長円形状に形成するとともに,座面2の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座4に対する載置部21としている。」(段落【0009】,【0010】),「便座4に対する載置部21は,座面2の前縁部及び両側縁部をほぼ水平に形成しているが,後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成している。(図1,図2参照)」(段落【0011】),「前記する切欠部22の切欠形状は暖房機能,洗浄機能等の機能を具備した便座4の後部形状に適応させるためのものであり,便座4の下面後方に洗浄機構41等を取付けるため,便座4の後方が上方に向けた傾斜面42として形成したもの(図1乃至図4参照)に対応させるためのものである。」(段落【0012】)(h)「6…6は座面2の下面前後位置に取付けた便座設置用の支脚であり,支脚6の先端面には,便座4面に対する安定した接触を可能とするための滑り止めを兼用するゴム座61…61を高さ調節を可能とするため着脱可能に取付けている。」(段落【0016】),「ゴム座61…61は高さの異なる構成体を数個準備しておき,使用時にそれぞれの家庭において適当な高さのものを選択する場合のほか,支脚6及びゴム座61の双方にネジその他を形成する昇降機構を付与しておき,ゴム座61を自由に昇降させるよう構成することもできる。」(段落【0017】),「なお,便座設置用の支脚6…6は,支脚6の先端部に着脱可能に取付けたゴム座61…61の取付け部位を最も低くした場合に座面2の外周に形成した載置部21の下端から少しだけ露出できるよう形成することが望ましい。」(段落【0018】),「このようにすれば,補助便座1を便座4上に載置した時に,補助便座1が常に安定した載置状態を維持できる効果を発揮できる。」(段落【0019】)(i)「【考案の効果】上記のように構成した本考案の効果は以下のとおりである。」(段落【0020】),「(1)補助便座1の座面2の周縁部に,下側に向けて湾曲形成した載置部21の後端部に,適宜高さだけ上方に向けて湾曲させた切欠部22を形成したので,取付けようとする便座の構造が,座面が平滑である従来構造の便座の場合は勿論のこと,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座4のように便座4の後端部を上方に向けた傾斜面42として形成した便座4の場合でも,補助便座の切欠部22部分が前記傾斜面42の傾斜を吸収できるので,何らのトラブルを伴うことなく使用することが可能となった。」(段落【0021】),「(2)補助便座1の座面2の裏面側に便座設置用の支脚6…6を取付けたので便座の座面形状が複雑な湾曲形状をもったものの場合でも,前記支脚6…6がそれぞれの設置面に対応しながら安定した設置状態を維持できるようになり,極めて汎用性に優れた効果を有する。」(段落【0022】),「(3)便座設置用の支脚6…6の先端には,高さ調節を可能とした,若しくは高さの異なる構成体を選択可能とした,滑り止めを兼用するゴム座61…61をそれぞれ着脱可能に取付けたので,それぞれの支脚6…6が接する便座面の形状に合わせて精密な調節が可能となる利点がある。」(段落【0023】)(j)【図1】として「補助便座の斜視図」が,【図2】として「補助便座を裏面側から捉えた斜視図」が,【図3】として「後端部が傾斜面となった便座上に補助便座を載置した状態を示す側面図」が,【図4】として「図3における補助便座と便座部分の縦断側面図」が,【図5】として「従来の便座上に従来構造の補助便座を使用した時を示す側面図」がそれぞれ示されている(別紙本件明細書の図面参照)。
b前記aの記載を総合すれば,本件明細書には,?大人用の便器の便座上に幼児の体型に合致した補助便座を載置して使用できるように構成した幼児用補助便座の従来の構造は,従来の便座の上面が全体として水平かつ平滑に形成されていたため,補助便座の下面(便座の上面に接する補助便座の下方周縁部)が全体的に水平に形成されている構造のものを単純に載置するだけで安定した使用が可能であったこと,?ところが,近時提供されるようになった保温機能や暖房機能を付加した便座や,使用者の臀部を温水等で洗浄する機構を付加した洗浄機能付き便座においては,便座の後端部下面に洗浄水の供給機構等を取り付ける必要があるため,便座の形状が後方部分が上方に傾斜した形状となってしまい,上記?の従来構造の幼児用補助便座を載置すると補助便座の後方部位が上方に持ち上げられ,前方に移動させられるという問題が発生し,安定した使用方法を講ずることができないという欠点があり,また,従来の便座は,座面全体を水平かつ平滑に形成し,排泄のための透孔部分のみを座面から透孔内周面に向かって円弧状に湾曲形成しただけのものであったが,近時の便座は使用感を高めるため,便座面の湾曲形状が前面位置と,後面位置では湾曲の態様を別異に形成したり,あるいは座面の外側位置から内周位置に向かって徐々に傾斜させるなど複雑な座面形状を採用しているため,これらの便座に従来構造の補助便座を載置すると,補助便座が安定して載置できず,使用時に左右への揺れや,ガタ付きを発生させ安定した使用ができないというトラブルが発生するという課題があったこと,?「本発明」の目的は,上記課題に対応し,従来の便座に使用できることは勿論のこと,座面の形状を複雑に形成したものや,保温式便座,洗浄機能付き便座等にも安定して適用できるよう構成した幼児用補助便座を提供することにあること,?「本発明」は,上記課題を解決するため,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成するとともに,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる幼児用の補助便座において,座面の周縁部に形成した載置部を,先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる構造としたこと,?「本発明」の効果について,図1ないし図4(別紙本件明細書の図面)に示すように,「補助便座1の座面2の周縁部に,下側に向けて湾曲形成した載置部21の後端部に,適宜高さだけ上方に向けて湾曲させた切欠部22を形成したので,取り付けようとする便座の構造が,座面が平滑である従来構造の便座の場合は勿論のこと,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座4のように便座4の後端部を上方に向けた傾斜面42として形成した便座4の場合でも,補助便座の切欠部22部分が前記傾斜面42の傾斜を吸収できるので,何らのトラブルを伴うことなく使用することが可能となった」こと等が記載されていることが認められる。
そして,上記認定事実によれば,本件明細書には,本件発明の幼児用補助便座は,補助便座の座面の周縁部に,下側に向けて湾曲形成した載置部の後端部に,適宜高さだけ上方に向けて湾曲させた切欠部を形成した構成を採用し,これにより補助便座を取り付ける便座の構造が,座面が水平かつ平滑である従来構造の便座の場合は勿論のこと,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,補助便座の切欠部が上記傾斜面の傾斜を吸収できるので,何らのトラブルを伴うことなく使用することが可能となったことに技術的意義を有することが開示されていることが認められる。
(ウ) 検討前記(ア)のとおり,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明の「載置部」は,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて周縁部に形成した部分であり,先端縁,両側縁部及び後縁部から構成されている。
そして,?「載置」とは,「物の上に他の物を置くこと」を意味すること(「特許技術用語集(第3版)」(日刊工業新聞社)67頁),?「幼児用補助便座」は,便器付属の便座に載置して使用する構成のものを指すこと(本件明細書の段落【0001】)からすれば,本件発明の「載置部」は,便器付属の便座の上に補助便座を置く部分をいい,換言すれば,補助便座において便器付属の便座の上面に接する部分を意味するものと解される。
一方で,本件明細書の記載(前記(イ))によれば,本件発明は,従来の便座の構造は,座面全体を水平かつ平滑に形成し,排泄のための透孔部分のみを座面から透孔内周面に向かって円弧状に湾曲形成しただけのものであったが,近時の便座は,保温機能や暖房機能を付加し,あるいは洗浄機能付きのものは後方部分が上方に傾斜した形状となり,また,便座面の湾曲形状が前面位置と,後面位置では湾曲の態様を別異に形成したり,あるいは座面の外側位置から内周位置に向かって徐々に傾斜させるなど複雑な座面形状を採用したものがあり,これらの近時の便座の構造に対応するものであることに照らすと,本件発明は,座面全体を水平かつ平滑に形成した従来構造の便座だけではなく,様々な座面の形状を有する近時の便座に対応することを前提とするものといえるから,本件発明の「載置部」は,その構成部分(先端縁,両側縁部及び後縁部)の全体が便器付属の便座の上面に接することまで想定したものではなく,少なくともその構成部分の一部が便座の上面に接する部分として規定されているものと解するのが相当である。
このような解釈は,?本件明細書には,本件発明において,「載置部」の構成部分全体が便座の上面に接するものでなければならないことを明示した記載はないこと,?かえって,請求項1を直接又は間接的に引用する形式で記載された請求項3ないし6の記載(前記(イ)a(a))によれば,「座面の裏面両側部の前後部位に,便座設置用の支脚を形成してなる」幼児用補助便座(請求項3),その「便座設置用の支脚先端に,滑り止めを兼用するゴム座を着脱可能に取付けてなる」幼児用補助便座(請求項4),「便座設置用の支脚先端に着脱可能に取付ける滑り止めを兼用するゴム座が,高さの異なる構成体を選択して装着できるよう構成してなる」幼児用補助便座(請求項5),「ゴム座が,便座設置用支脚に対して昇降可能に取付けられている」幼児用補助便座(請求項6)のいずれもが本件発明(請求項1)に含まれるところ,段落【0018】には,「支脚6の先端部に着脱可能に取付けたゴム座61…61の取付け部位を最も低くした場合に座面2の外周に形成した載置部21の下端から少しだけ露出できるよう形成することが望ましい。」との記載があることからすると,請求項3ないし6に係る便座設置用の支脚については,「載置部」の下端よりも下方に露出した便座設置用の支脚のゴム座が便座と直接接する場合があることが想定されており,このような場合,便座の形状やゴム座の露出の程度如何によっては「載置部」の構成部分の一部のみが便座と接し,その構成部分全体が便座に接しない場合があり得ることにも,符合するものといえる。
したがって,本件発明の「載置部」に関する原告の主張は,上記の限度において採用することができる。
(エ) 被告の主張に対する判断被告は,?本件発明の「載置部」は,便座に対して載せて置く部分,すなわち,大人用の便座と接触する部分を意味し,このことは,本件明細書の図3及び図4において,下方に湾曲させた座面の周縁部であるところの載置部が大人用便座と接触している様子が図示されていることからも明らかである,?仮に「載置部」に大人用の便座に接触しない部分があるとしても,それが「載置部」である以上,「載置部」全体としては載置するための機能を有する必要があるところ,本件明細書には,ゴム座は「載置部21の下端から少しだけ露出できるよう形成することが望ましい」(段落【0018】)とあえて記載されていること,本件発明は,補助便座の周縁部の下部を「載置部」として便座(大人用便座)に接触させ,他方で,便座後方の複雑な形状を切欠部で吸収させることにより,補助便座を安定して載置するものであること(段落【0008】)からすると,本件発明では,ゴム座を設けた場合であっても,ゴム座と載置部の両方で補助便座を支えることが想定されている旨主張する。
そこで検討するに,上記?の点については,本件明細書の図3及び図4は,本件明細書記載の実施例を説明した図面であり,本件発明は,実施例のものに限定されるものではなく,様々な座面の形状を有する近時の便座に対応することを前提とするものであるから(前記(ウ)),図3及び図4を根拠に,本件発明の「載置部」は,その構成部分(先端縁,両側縁部及び後縁部)の全体が便器付属の便座の上面に接することまで要するものではないというべきである。そうすると,上記?に係る被告の主張は,採用することができない。
次に,前記(ウ)認定のとおり,本件発明の「載置部」は,少なくともその構成部分の一部が便座の上面に接することを要するというべきであるから,上記?に係る被告の主張は,本件発明では,支脚先端にゴム座を有する支脚を設けた場合であっても,当該ゴム座と載置部の両方で補助便座を支えることが想定されているとの限度で,是認することができる。
イ 被告製品の構成要件Bの充足の有無(ア)被告製品は,幼児用補助便座であり,その座面2の周縁部4は下方に湾曲し,周縁部4の下部5は,正面側の先端縁部6及び側面側の両側縁部7がほぼ水平に形成され(別添第2図,第3図),背面側が符号8に示すように上向きに湾曲し,両側縁部に滑らかに繋がっていること(別添第2図,第4図)は,前記(1)ア認定のとおりである。
上記認定事実と検甲1によれば,被告製品の周縁部の下部は,本件発明の構成要件Bのうち,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させ」る構成を備えていることが認められる。
そこで,被告製品を便器に付属する便座に使用した場合に,被告製品の周縁部の下部が便座の上面に接する部分の構成を備えているかどうかを検討するに,?前記(1)ア(エ)認定のとおり,被告製品の底面側には,前後左右4個の支脚10が取り付けられ(別添第5図),支脚10の先端面は,ゴム製のキャップが取り付けられていること,支脚10の先端面は,周縁部4の下部5の端面よりも下方に位置し,上記端面から露出している(別添第2図ないし第4図),その露出部分の長さは,4個の支脚においてほぼ同程度であること(検甲1),?保温機能や暖房機能を付加し,あるいは洗浄機能付きのものは後方部分が上方に傾斜した形状の便座においても,座面の透孔の大きさ,座面形状等が異なる様々なものがあること(弁論の全趣旨)に照らすと,このような後方部分が上方に傾斜した形状の便座に被告製品を使用した場合は,被告製品の周縁部の下部のうち,被告製品の前方の2個の支脚は便座の上面に接するが,被告製品の周縁部の下部のうち,正面側の先端縁部及び側面側の両側縁部が便座の上面に接しないものがあるものと推認される。
しかしながら,弁論の全趣旨によれば,このような場合であっても,被告製品の周縁部の下部のうち,被告製品の背面側の符号8で示すように上向きに湾曲し,両側縁部に滑らかに繋がっている部分の少なくとも一部は,便座の傾斜部分の上面に接し,上記2個の支脚とともに,補助便座を支えるものと推認される。
また,被告製品の周縁部の下部のうち,背面側の上記部分のほかに,正面側の先端縁部又は側面側の両側縁部の一部が上記2個の支脚とともに便座の上面に接するものもあるものと推認され,このような場合は,上記接する部分は,上記2個の支脚とともに,補助便座を支えるものと推認される。
したがって,いずれの場合であっても,被告の製品において被告製品の周縁部の下部は便座の上面に接する部分を有するということができる。
(なお,原告提出の甲5の写真(写真1ないし7)は,椅子の上に大人用便座を設置し,その上に被告製品を載せ置き,被告製品上に10.17?の人形を載せた状態で撮影した写真であるが,上記大人用便座は,椅子の上に設置されたものであって,「便器に付属する便座」として機能しているものとはいえないから,被告製品を「幼児用補助便座」(便器付属の便座に載置して使用する構成のもの)として使用した状態を撮影したものとはいえず,甲5によっては被告製品の周縁部の下部が「便器に付属する便座」に接することを直ちに認めることはできない。)(イ)前記(ア)を総合すれば,被告製品の周縁部の下部は,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させ」る構成を備え,そのうちの少なくとも一部は便座の上面に接するということができるから,「載置部」に該当するものと認められる。
したがって,被告製品は,「座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部としてなる幼児用の補助便座」に該当するから,構成要件Bを充足するものと認められる。
(ウ)これに対し被告は,被告製品は,その設計上,支脚のみで支えるため,「載置部」は存在しない旨主張する。
しかし,前記(ア)で認定したとおり,被告製品を後方部分が上方に傾斜した形状の便座に使用した場合であっても,被告製品の周縁部の下部のうちの少なくとも一部が便座と接し,当該部分と支脚によって補助便座を支えるものと推認されるものであり,被告製品の周縁部の下部は「載置部」に該当するというべきであるから,被告の上記主張は理由がない。
(3) 構成要件Cの充足性ア 「切欠部」の意義原告は,本件発明の構成要件Cの「上向きの切欠部」とは,水平に形成された両側縁部に対して「上方に向けて湾曲させた」部分である旨主張する。
(ア)本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載によれば,本件発明の構成要件Cの「上向きの切欠部」は,載置部の後縁部に「変形した便座に対応させるため」に形成されるものであることが認められる。
請求項1中には,「切欠部」の用語そのものを定義する文言はない。
そこで,本件明細書の記載をみると,?「請求項2」として,「座面の後部周縁部に形成する上向きの切欠部が円弧状の湾曲形状を持つものである請求項1記載の幼児用補助便座。」,?「便座4に対する載置部21は,…後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成している。(図1,図2参照)」(段落【0011】),?「前記する切欠部22の切欠形状は暖房機能,洗浄機能等の機能を具備した便座4の後部形状に適応させるためのものであり,便座4の下面後方に洗浄機構41等を取付けるため,便座4の後方が上方に向けた傾斜面42として形成したもの(図1乃至図4参照)に対応させるためのものである。」(段落【0012】),?「(1)補助便座1の座面2の周縁部に,下側に向けて湾曲形成した載置部21の後端部に,適宜高さだけ上方に向けて湾曲させた切欠部22を形成したので,取付けようとする便座の構造が…暖房機能や洗浄機能等を具備した便座4のように便座4の後端部を上方に向けた傾斜面42として形成した便座4の場合でも,補助便座の切欠部22部分が前記傾斜面42の傾斜を吸収できるので,何らのトラブルを伴うことなく使用することが可能となった。」(段落【0021】)との記載ある。
本件明細書の上記記載によれば,本件発明の切欠部には,「円弧状の湾曲形状を持つもの」が含まれることを理解することができる。
そして,本件明細書の図3をみると,補助便座の周縁部の下部が,先端縁から後方に向けてほぼ水平となっていたのが,便座4の後方が上方に向けた傾斜面42となっていることに対応して上向きに輪郭が湾曲して変化した形状となっている箇所について,符合22で切欠部として図示されている。
このように補助便座の周縁部の下部のほぼ水平の下面を上向きに輪郭が湾曲して変化した形状部分とすることによって,便座の傾斜面との接触による反発を抑制又は緩和させて,補助便座の後方部位が上方に持ち上げられ,前方に移動させられるなどの問題が発生することを回避することができるものといえるから,便座の傾斜面の傾斜を吸収できる機能を有するものと解される。
そうすると,補助便座の周縁部の下部のほぼ水平の下面を上向きに輪郭が円弧状に湾曲して変化した形状部分であれば,本件発明の「切欠部」に含まれるものと解するのが相当である。
(イ)これに対し被告は,?本件発明の「切欠部」は,本来の字義及び便座に関する技術分野における使用例のいずれによっても,「本来あるべきものをあるべき場所から分離した結果生じた局部的なへこみの部分」を意味する,?本件発明の「切欠部」は,本件明細書の段落【0011】を受けてその内容を説明した図1及び図2が示すように,座面後方部の切り欠かれた状態をいい,「切欠部」を「上方に向けて湾曲させた形状」と解釈することは「切欠部」の意味内容から逸脱させるものであって,誤りである旨主張する。
しかし,補助便座の周縁部の下部のほぼ水平の下面を上向きに輪郭が円弧状に湾曲して変化した形状部分については,周縁部の下部が下面全体がほぼ水平となっていた従来の補助便座(本件明細書の段落【0003】)を前提とすれば,「本来あるべき場所(水平の場所)から下面が分離し,その結果生じた」部分とみることも可能である。
また,被告のいう図1及び図2の「切り欠かれた状態」の形状は,本件発明の一実施例にすぎないし,本件明細書の記載全体をみても,「切欠部」の形状を図1及び図2の形状のものに限定する旨の記載はない。かえって,図3の符合22で示すように,補助便座の周縁部の下部のほぼ水平の下面を上向きに輪郭が湾曲して変化した形状部分のものを「切欠部」に含まれるものとして図示されているものといえる。
さらに,本件発明は,幼児用補助便座において載置部の後縁部に切欠部を形成する構成を採用することにより,補助便座を取り付ける便座の構造が後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,上記切欠部が上記傾斜面の傾斜を吸収できるので,何らのトラブルを伴うことなく使用することが可能となったことに技術的意義を有するものであり(前記(2)ア(イ)b),このような本件発明の技術的意義に照らすならば,便座の上記傾斜面の傾斜を吸収できるものであれば,切欠部が被告のいう図1及び図2の形状のものでなければならない必然性もない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
イ 被告製品の構成要件Cの充足の有無(ア)被告製品(検甲1)は,別添第2図に示すように,周縁部の下部5は,先端部6から側縁部7にかけてほぼ水平であったのが,後方の符合8で示す部分において全体的に上向きに円弧状に湾曲し,別添第4図に示すように,背面側ではその湾曲部分が左右方向に滑らかに繋がっている。
被告製品の上記湾曲部分は,被告製品の周縁部の下部のほぼ水平の下面を上向きに輪郭が円弧状に湾曲して変化した形状部分であるから,「切欠部」(前記ア(ア))に当たり,また,この「切欠部」は,上向きに形成され,被告製品の後端ないし後縁にわたって形成されているといえるから,「後縁部」に形成された「上向きの切欠部」に該当するものと認められる。
そして,被告製品は,大人用の「普通便座」のほか,「暖房便座」及び「温水便座」に取り付けることをも用途とする製品として販売されていること(前記(1)ア(オ)),被告製品の全体の形状(検甲1)に照らすならば,被告製品の上記湾曲部分は,後方部分が上方に傾斜した暖房便座又は温水便座などの「変形した便座に対応させるため」に形成されたものと認められる。
以上によれば,被告製品の上記湾曲部分は,載置部(周縁部の下部)の「後縁部」において,「変形した便座に対応させるための上向きの切欠部」に当たるものと認められる。
したがって,被告製品の載置部(周縁部の下部)は,先端縁及び両側縁部がほぼ水平に形成され,後縁部には変形した「変形した便座に対応させるための上向きの切欠部」である上記湾曲部分が形成されているといえるから,本件発明の構成要件Cを充足する。
(イ)aこれに対し被告は,?本件発明の「切欠部」とは,「本来あるべきものをあるべき場所から分離した結果生じた局部的なへこみの部分」を意味するところ,被告製品は,座面後方部から何かを分断・分離しているわけではなく,局部的なへこみも存在しないから,被告製品には,「切欠部」が存在しない,?被告製品を通常の洗浄機能付き便座に載置した場合,その後縁部が便座の傾斜に乗り上げてしまい,後縁部が補助便座を支持するような格好となり,便座の傾斜を吸収するものとはいえないから,被告製品には「変形した便座に対応させるための切欠部」があるとはいえない,?本件発明の構成要件Cの「後縁部には,…切欠部を形成してなる」との文言によれば,後縁部それ自体が切欠部を構成する場合を含まないと解すべきであり,被告製品は後縁部の一部に切欠部を構成するものではないから,被告製品には,本件発明の「切欠部」が存在しない旨主張する。
しかしながら,被告の主張は,以下のとおり理由がない。
まず,上記?の点については,前記ア(イ)で述べたとおり,本件発明の「切欠部」を被告のいうような「へこみの部分」に限定して解釈すべき理由はない。
次に,上記?の点については,被告製品を後方部分が上方に傾斜した形状の便座に使用した場合,被告製品の周縁部の下部のうちの少なくとも一部と接し,当該部分と支脚によって補助便座を支えるものであるが(前記(2)イ(ア)),上記接する部分が後縁部の場合,被告製品の周縁部の下部のほぼ水平の下面を上向きに輪郭が湾曲して変化した形状部分は,便座の傾斜面との接触による反発を抑制又は緩和させて,上記傾斜面の傾斜を吸収する機能を果たしているものと推認される。
さらに,上記?の点については,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の文言に照らし,「切欠部」は,「後縁部」に形成されるものであれば,「後縁部」そのもの(全体)として形成されるのか,その一部として形成されるのかは,問わないというべきであり,また,後縁部の一部に形成されるものでなければ,便座の傾斜面の傾斜を吸収できる機能を果たさないということもできない。
したがって,被告主張の上記?ないし?は,いずれも,被告製品に本件発明の「切欠部」が存在しないことの根拠となるものではない。
bまた,被告は,仮に被告製品の構成が形式的には本件発明の構成に含まれるとしても,被告製品を洗浄機能付き便座に載置した場合,その後縁部は便座の傾斜に乗り上げてしまい,補助便座はその先端部と後縁部により支持される格好となる結果,被告製品の両側縁部は便座から浮いた状態となり,左右への揺れや,ガタ付きが発生してしまい,安定して使用することはできないなど,被告製品の後縁部の形状は,本件発明の「切欠部」の作用効果を奏しないため,被告製品には,本件発明の「切欠部」が存在しない旨主張する。
しかし,上記aで認定したとおり,被告製品の周縁部の下部のほぼ水平の下面を上向きに輪郭が湾曲して変化した形状部分は,本件発明の「切欠部」の作用効果を奏しているものと推認される。
また,被告製品は,暖房便座及び温水便座に取り付けることをも用途とする製品として販売され(前記(1)ア(オ)),被告製品の説明書(甲3)にも,「普通便座・暖房便座・温水便座のほとんどに取り付けることができます。」と明記されていること(前記(1)ア(カ))に照らすならば,被告製品を洗浄機能付き便座に載置した場合,被告製品の両側縁部は便座から浮いた状態となり,左右への揺れや,ガタ付きが発生してしまい,安定して使用することはできない旨の被告の主張は,措信できない。
したがって,被告の上記主張は,理由がない。
(4) 小括以上によれば,被告製品は,本件発明の構成要件AないしDをすべて充足するから,本件発明の技術的範囲に属するものと認められる。
2 争点2(本件特許権に基づく権利行使の制限の成否)について(1) 本件覚書の不争条項による主張制限の成否ア被告は,本件特許には,無効理由(無効理由1ないし5)があり,特許無効審判により無効とされるべきものであるから,特許法104条の3第1項の規定により,原告は,被告に対し,本件特許権を行使することができない旨主張する。
これに対し原告は,原告と被告間で締結した本件覚書の4条は,被告が,本件特許の有効性について,原告と争わず,かつ,原告と争う第三者を援助しない旨の不争条項であり,同条項によって,被告は,本件特許の有効性を争う利益を放棄しているものといえるから,被告による特許法104条の3第1項に基づく上記主張は,本件覚書の4条に違反するものであって,その主張自体失当である旨主張する。
そこで,まず,原告主張の本件覚書の4条(不争条項)の効力について検討する。
イ前記争いの事実等の(4)と証拠(甲4,乙16ないし20,検乙1)及び弁論の全趣旨を総合すれば,次の事実が認められる。
(ア)原告の代理人弁理士は,平成9年6月20日付け内容証明郵便(乙16)で,被告に対し,被告が当時製造販売していた商品名を「らくちんおまる」とする補助便座は本件特許に係る発明の技術的範囲に属し,被告による上記製造販売は本件特許権の侵害に当たるので,その製造販売の停止を求める旨の通知をした。
(イ)被告の代理人弁理士は,平成9年7月7日付け内容証明郵便(乙17)で,原告の代理人弁理士に対し,「らくちんおまる」の後縁部は,本件出願前に公知の意匠登録第849312号公報に係る意匠,同意匠に係る市販の幼児用便器の補助便座,意匠登録第896994号意匠に係る市販の幼児用便器の補助便座と同じ構造,機能を有するので,本件特許権を侵害することはない旨の回答をした。
(ウ)被告の代理人弁理士は,原告の代理人弁護士らに対し,平成10年5月15日付け内容証明郵便(乙18)で,「らくちんおまる」が本件特許に係る発明の技術的範囲に属さないことを疑問の余地がないものと確信し,本件特許の有効性に問題があると考えているが,無用な紛争を1日も早く終息したいため,「らくちんおまる」を設計変更したいと自由意思により考えたものであるので,設計変更前の従来品に関する販売数量,売上高及び具体的な販売停止日の通知の要求には応じられない旨の通知をした。
(エ) 原告と被告は,平成11年3月19日,本件覚書を締結した。
その後,被告は,本件覚書の3条2項に従って,「らくちんおまる」の支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くする設計変更(乙20)をした製品を原告に提出し,その承認を求め,原告は,同年4月7日付けで,その承認をするとともに,本件覚書の2条2項の和解金(消費税分を含めて,105万円)の支払を請求した。
その後,被告は,原告に対し,上記和解金を支払った。
ウ本件覚書の4条は,被告を「甲」,原告を「乙」として,「第4条(不争合意)甲は,本件特許権の有効性について,乙と争わず,かつ,乙と争う第三者を援助しない。」というものであって,被告が「本件特許権の有効性」について原告と争わない旨記載されている。
しかるに,前記イの認定事実と本件覚書の各条項(甲4)を総合すれば,?原告と被告間において被告が平成9年当時製造及び販売していた「らくちんおまる」に関する本件特許権の侵害の有無をめぐる紛争があったところ,被告が上記「らくちんおまる」をめぐる紛争の早期解決のために,「らくちんおまる」の設計変更をすることを自発的に申し入れ,その後の原告と被告間の交渉の結果,被告が「らくちんおまる」の支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くする設計変更をし,原告に和解金100万円(消費税は別途)を支払う内容の和解をし,その旨の本件覚書を締結するに至ったこと,?被告は,上記交渉の過程において,本件特許の有効性について一貫して争っており,平成10年5月15日付け内容証明郵便(乙18)においても,「らくちんおまる」が本件特許に係る発明の技術的範囲に属さないことに疑問の余地はなく,本件特許の有効性には問題があると考えているが,「無用な紛争を1日も早く終息したいため,「らくちんおまる」を設計変更したいと自由意思により考えた」旨の記載があることが認められる。
上記認定事実によれば,本件覚書の4条において,被告が本件特許の有効性を争わない旨の規定を置いた趣旨は,あくまで「らくちんおまる」に関する本件特許権侵害の紛争を解決することを目的とするものであって,被告が製造販売する「らくちんおまる」とは別の製品について原告が本件特許権を行使する場合について,本件特許の有効性を争う利益を放棄したものではないと解するのが,当事者の合理的意思に合致するもの解される。
そして,被告製品と「らくちんおまる」とを対比すると,「らくちんおまる」が上記設計変更により後部2か所の支脚(後脚)を高くした点を除いても,被告製品(検甲1)と「らくちんおまる」(検乙1,乙20)とでは,座面の形状,前部2か所の支脚の位置,後縁部の形状等が異なるものといえるから,被告製品は,「らくちんおまる」とは別の製品であるものと認められる(なお,「らくちんおまる」は,設計変更の前後において,側面視における周縁部の下部の後方の湾曲形状に変更はないが(乙20),設計変更後の「らくちんおまる」は,これを取り付ける便座の傾斜面の傾斜を上記湾曲形状によって吸収するのではなく,支脚のうち,後部2か所(後脚)を高くし,当該支脚を便座に接地させることによってそれと同じ効果を奏することを意図したものとうかがわれる。)。
したがって,本件覚書の4条の効力は,原告が「らくちんおまる」とは別の製品である被告製品について本件特許権を行使する本件訴訟には及ばないというべきである。
エ以上によれば,被告による特許法104条の3第1項に基づく主張は,本件覚書の4条に違反するものであって,その主張自体失当であるとの原告の主張は,採用することができない。
そこで,以下において,被告主張の無効理由について順次判断する。
(2) 無効理由1(乙1に基づく新規性の欠如)ア被告は,本件発明は,乙1(米国特許第2,016,542号明細書)に記載された発明と同一であるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条1項3号に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある旨主張する。
すなわち,被告は,乙1には,?Fig.2の図面に,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成する構成(本件発明の構成要件A),?Fig.1,2及び4の各図面に,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成(構成要件B),?Fig.1,2及び4の各図面に,座面の周縁部に形成した載置部の先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成し,後縁部には上向きの切欠部を形成する構成(構成要件C),?表紙左欄1行目に,幼児用補助便座の構成(構成要件D)がそれぞれ記載され,乙1の幼児用補助便座は,本件発明の構成要件をすべて備えているので,本件発明は,乙1に記載された発明と同一のものである旨主張する。
イ(ア)乙1のFig.1,2及び4の各図面(別紙乙1図面)には,幼児用補助便座が図示されている。
そして,乙1の幼児用補助便座においては,環状リング3(curvedannular ring)の座面を有し,座面の中央に穿設した縦長の透孔2(central opening)が長円形状に形成する構成(Fig.2),環状リング3の座面の周縁部の下部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成(Fig.1,2及び4)が開示されており,これらによれば,乙1には,本件発明の構成要件A,B及びDを備える幼児用補助便座が記載されているものと認められる。
しかしながら,乙1の上記各図面から,乙1の幼児用補助便座において,座面の周縁部の下部のうち,先端縁及び両側縁部の一部がほぼ水平に形成され(Fig.3,4),後端部が左右方向に直線状に切断された形状に形成されていること(Fig.2)は認められるものの,他方で,乙1には,側面方向から,座面の周縁部の下部の全体を図示した図面はなく,後端部ないし後縁部において,上向きの切欠部が形成されているのか不明であるといわざるを得ない。
したがって,乙1の幼児用補助便座が本件発明の構成要件Cのうちの「後縁部には…上向きの切欠部」を形成する構成を備えるものと認めることができないから,本件発明は乙1に記載された発明と同一のものであるということはできない。
(イ)これに対し被告は,周縁部が下方に湾曲している補助便座(Fig.1及び4)の後方部分を直線状に切断すると(Fig.2),その断面が「上方に向けて湾曲させた形状」になることは,当業者であれば当然に理解できるものであるから,乙1には,上向きの「切欠部」が開示されている旨主張する。
しかし,周縁部が下方に湾曲している補助便座の後方部分を直線状に切断した場合に,その切断断面が上方に向けて湾曲させたことになることを認めるに足りる証拠はない。かえって,Fig.1をみると,後端部の直線状の切断面は,上方に向けて湾曲せずに,両側縁部と同じ高さにある可能性を一概に否定することはできない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
ウ以上のとおり,本件発明が乙1に記載された発明と同一のものであるとの被告主張の無効理由1は理由がない。
(3) 無効理由2(公然実施による新規性の欠如)ア被告は,本件発明と同一の構成を有する幼児用補助便座(ショーワプロダクツ製のCN及びDXを構成する各便座)が本件出願前に日本国内において製造及び販売されており,本件発明は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明であるから,本件発明に係る本件特許には,特許法旧29条1項2号に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある旨主張する。
すなわち,被告は,?本件出願前にショーワプロダクツが製造及び販売していたCN及びDXを構成する各便座は,本件発明の構成要件AないしDをすべて備え,いずれも幼児用補助便座として実際に使用されていた,?本件出願日の属する平成6年時点で温水洗浄便座の普及率が20%であったことを勘案すれば,CN及びDXを構成する各便座は,本件出願前に,「温水洗浄便座」にも使用されていたなどとして,本件発明は,本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明と同一のものである旨主張する。
イ(ア)まず,乙5の報告書添付のカタログ(「91SHOWABABYGOODS」),乙43のカタログ(「SHOWABABYGOODS1995」)によれば,CNを構成する便座は,オマルから取り外し可能な便座部分であり,大人用便器にも取り付けることが可能であることが認められるものの,上記各カタログからは,その座面の全体形状,特に座面の周縁部の下部全体の具体的形状は不明であるといわざるを得ない。
また,乙6ないし10の各証明書添付の写真によれば,補助便座の両端(先端部及び後端部)に切り込みが形成されていることが認められるが,上記写真からは,その座面の全体形状,特に座面の周縁部の下部全体の具体的形状を把握することは困難である。
さらに,乙5の報告書添付のカタログには,「〈CN〉の便座は大人用トイレに取り付けられます。」との記載はあるものの,他方で,?CNを構成する便座が,被告製品の説明書(甲3)のように「暖房便座・温水便座」に取り付けられることの明示の記載はなく,また,後端部の切り込みは,後方部分が上方に傾斜した形状の「暖房便座・温水便座」に取り付けることに対応させるために設けたことをうかがわせる記載もないこと,?幼児用補助便座は,幼児が使用するものであり,便座に取り付けた際の安定性には特に注意を払うべき製品であることからすると,CNを構成する便座がこのような形状の「暖房便座・温水便座」に取付けることを想定していたのであれば,カタログや説明書にその旨の記載があって然るべきであることに照らすならば,上記カタログ記載のCNを構成する便座が取り付けられる「大人用便座」は,後方部分が上方に傾斜した形状の「暖房便座・温水便座」を想定していたものと認めることはできない。むしろ,便座の後端部の切り込みは,上記のような「暖房便座・温水便座」に取り付けるために設けたものではなく,オマル本体から便座を取り外す際の便宜のために指をかける部位として設けたものとうかがわれる。
(イ)この点に関し,被告は,本件出願日の属する平成6年時点で温水洗浄便座の普及率が20%であったことなど(乙44ないし46)を勘案すれば,CNを構成する便座は,本件出願前に,「温水洗浄便座」にも使用されていたものである旨主張する。
しかし,被告主張の温水洗浄便座の普及率から直ちにCNを構成する便座が後方部分が上方に傾斜した形状の「温水便座」に取り付けることを想定して製造及び販売されていたものと推認することはできない。
また,幼児用補助便座が温水洗浄便座に使用された例があるとしても(乙46),そこで使用された幼児用補助便座の具体的形状がCNを構成する便座と同様の形状のものであるかどうか不明である。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ)以上によれば,CNを構成する便座は,少なくとも本件発明の構成要件B及びCの構成を備えているものと認めることはできないから,本件発明は,CNを構成する便座と同一の発明であるということはできない。
ウ次に,DXを構成する便座(検乙2)は,オマルの取り外し可能な便座部分であるところ,その座面は,平面視においてU字状の形状であって,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成した構成のものではないから,本件発明の構成要件Aの構成を備えているものと認めることはできない。
したがって,本件発明は,DXを構成する便座と同一の発明であるということはできない。
エ以上のとおり,本件発明が本件出願前に日本国内において公然実施をされた発明と同一のものであるとの被告主張の無効理由2は理由がない。
(4) 無効理由3(乙2等に基づく進歩性の欠如)ア被告は,乙2(実願平4-56326号(実開平6-11593号)のCD-ROM)に記載された発明と本件出願前に公知であった便座ないし便器に切欠部を設ける構成に基づいて容易に想到することができたものであるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある旨主張する。
(ア) 乙2の記載事項乙2には,?実用新案登録請求の範囲として,「【請求項1】大人用洋式便器の便座に着脱自在に載置される金隠し付の幼児用補助便座において,前記補助便座を,プラスチックにより成形すると共に,該金隠しの頂部に,把持体を一体成形により突設したことを特徴とする洋式便器に用いる幼児用便座。」,?「【産業上の利用分野】本考案は,大人用洋式便器に用いるプラスチック製の幼児用補助便座に関するものである。」(段落【0001】),?「…かかる簡素型幼児用補助便座1では,この補助便座1に幼児が座ったとき,足が着かず,しかも,手ぶらであるので不安定であり,したがって,介添えがなければ,大人用便器の上から転落する危険性があり,その上,幼児は手ぶらのため所かまわず触るおそれがあって,非衛生的でもある,という問題点があった。」(段落【0006】),「一方,おまる兼用であって,洋式または和式便器に載置されて使用する幼児用便器には,その前方に動物や乗物のキャラクタを外形とした把持体が設けられている…。」(段落【0007】),「そこで,前記問題点の解決のため,かかる把持体を金隠し付の幼児用補助便座に転用することが考えられる。」(段落【0008】),「しかしながら,空洞状のキャラクタを外形とした把持体を,金隠し付の幼児用補助便座の前方に立設すれば,便座に比べ把持体だけが大きく突設し,しかも,かかるキャラクタをプラスチック成形するには複数の部材を組立てなければ構成できず,したがって,簡素型幼児用補助便座には到底採用することができない。また,幼児用補助便座の金隠しが便蓋ヒンジ側になるよう載置される場合は,前記空洞状のキャラクタからなる把持体を設けるスペ-スにも問題があって,到底採用することができない。」(段落【0009】),?「そこで,本考案は,かかる従来技術の問題点に鑑みなされたもので,その目的は,金隠し付の幼児用補助便座を可及的に簡素化して成形容易とする点を維持しながら,把持体を設けようとするものである。」(段落【0010】),?「【課題を解決するための手段】本考案の要旨とするところは,1)大人用洋式便器の便座に着脱自在に載置される金隠し付の幼児用補助便座において,前記補助便座を,プラスチックにより成形すると共に,該金隠しの頂部に,把持体を一体成形により突設したことを特徴とする洋式便器に用いる幼児用便座にあり,また,2)大人用洋式便器の便座に着脱自在に載置されるプラスチック製金隠し付のO型幼児用補助便座において,前記補助便座の便座本体と金隠しとを別々に構成し,該金隠しを便座本体の便落とし開口部に嵌着すると共に,金隠しの頂部に把持体を一体成形により突設したことを特徴とする洋式便器に用いる幼児用便座にある。」(段落【0011】),?「【考案の効果】本考案によれば,次の有益な諸効果を得ることができる。」(段落【0028】),「1)金隠しに直接把持体を設けたので,幼児用補助便座の取扱いや保管のための簡素性を維持しながら,用便する幼児に安心性をもたらせ,また,幼児の衛生が保たれる。殊に,意外にも,幼児の人間工学上,幼児の把持位置が前後方向は勿論,上下方向も好適とすることができる。」(段落【0029】),「2)金隠しに把持体を一体成形により設けたので,安価な金型による成形が容易となって,ひいては,量産化でき,幼児用補助便座を安価に作ることができる。」(段落【0030】),「3)本体と金隠しとを別々に形成すれば,把持体の成形が更に容易になると共に,梱包輸送に際しても嵩張ることがないし,部品交換や洗浄にも便利となる。」(段落【0031】)との記載がある。
また,乙2の図1は「本考案」の実施例の正面図,図2は図1のA〜A断面図,図3は中心線aに対し左側が平面図,右側が底面図である(別紙乙2図面参照)。
(イ) 本件発明と乙2の幼児用補助便座との対比前記(ア)の認定事実によれば,乙2には,?図3に示すように,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成する構成,?図1及び図2に示すように,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成,?図1及び図2に示すように,座面の周縁部に形成した載置部の先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成する構成を備えた,?大人用洋式便器に用いるプラスチック製の幼児用補助便座が記載されていることが認められる。
そこで,本件発明と乙2に記載された発明(幼児用補助便座)とを対比すると,両発明は,本件発明は,(載置部の)「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成する構成」(構成要件Cの一部)を有するのに対し,乙2の幼児用補助便座においては,このような構成が開示されていない点でのみ相違し,本件発明のその余の構成を備えている点では一致しているものといえる。
そこで,以下においては,本件発明と乙2に記載された発明との間に上記相違点があることを前提に,当業者が乙2に記載された発明に基づいて本件発明を容易に想到することができたかどうかについて検討する。
(ウ) 便座ないし便器に切欠部を設ける構成の公知性a被告は,乙3,4,11,12,CNによれば,補助便座,通常の便座ないし幼児用便器の技術分野において,「切欠部」を設ける構成は本件出願前に公知であった旨主張する。
(a)乙3(実開昭52-51748号公報)には,「実用新案登録請求の範囲」として,「後方に便通過孔を有るる便器本体と,該通過孔内に配置される便受器と,便器本体の周壁上に載置されるほぼU字形の便座とによつておまるとして用いられる便器であり,前記便器本体はその下端面に和式便器の周縁の一部と対応する切欠きが設けられ,かつ前記便座はその内面に洋式便器の便座の内縁と少なくとも部分的に接続する係止部が形成されることにより,和式便器および洋式便器にも併用できることを特徴とする幼児用便器。」との記載がある。
そして,乙3の第1図,第2図及び第4図(別紙乙3図面)には,切欠部12として,「和式便器の周縁の一部と対応する切欠き」,すなわち「和式便器の凸部を避けるための凹部を便器本体に設ける構成」が開示されているものと認められる。
他方で,乙3には,補助便座に切欠部を設けることによって,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,当該切欠部が上記傾斜面の傾斜を吸収できることについての記載も示唆もない。
(b)乙4(実開平4-59791号公報)には,「実用新案登録請求の範囲」として,「全体が略筒状に形成され,かつ,その前面部が略垂直面となつた便器本体と,該便器本体の内側に設けられ,その後方部下端が略床面に垂れ下がり,かつ,その下端が前方上向きにした略筒状の内壁と,前記便器本体と内壁との各上端を連結して成形した便座載置用の載置面と,を含む大人用和式便器に設置する幼児用便器であって,前記便器本体の前面部下端に凹部を形成して,幼児の小便を大人用便器の金隠しに直進させると共に,該前面部を金隠し開口縁下方に当接し,かつ,前記内壁の後方部下端の外面を大人用便器の開口縁の内周に当接するようにしたことを特徴とする大人用和式便器に設置する幼児用便器。」との記載がある。
そして,乙4の第2図及び第4図(別紙乙4図面)には,便器本体1の後部に大人用和式便器の凸部との干渉を避けるための後方凹部15aが設けられている構成が開示され,また,第1図及び第3図(別紙乙4図面)には,便座2の後部に便器本体の載置面に形成された凸形状(5a)との干渉を避けるための切欠きが設けられている構成が開示されていることが認められる。
他方で,乙4には,補助便座に切欠部を設けることによって,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,当該切欠部が上記傾斜面の傾斜を吸収できることについての記載も示唆もない。
(c)前記(3)イ(ア)認定のとおり,ショーワプロダクツが製造及び販売していたCNを構成する便座(幼児用補助便座)には,乙6ないし10の各証明書添付の写真が示すように,両端(先端部及び後端部)に切り込みが形成されている。
他方で,前記(3)イ(ア)のとおり,前記切り込みは,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座に取り付けることを想定して設けられたものであることを認めるに足りる証拠はない。
(d)乙11(実公昭63-861号公報)には,従来の便器装置の技術として,「温風吹出し口39は便座32の後部中央付近Bに位置しているもので,この温風吹出し口39は連通する温風吹出し通路44は便座32の後部中央付近Bの裏側を切欠いて構成している。」(3欄14行〜17行)との記載がある。
そして,乙11の第9図及び第10図(別紙乙11図面)には,便座32において温風吹出し口39付近の部分を切り欠いた構成が開示されていることが認められる。
他方で,乙11には,補助便座に切欠部を設けることによって,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,当該切欠部が上記傾斜面の傾斜を吸収できることについての記載も示唆もない。
(e)乙12(米国特許第3,545,015号明細書)には,「人が便器に座っている際に便器に空気を通気させるために,便座の後部は54に示す箇所が凹状に切り取られ,フラップゲートが開くための隙間を設けるために便蓋は55の箇所が切り取られている(図4参照)」(3欄27行〜32行の訳文)との記載がある。
そして,乙12のFig.5の図面(別紙乙12図面)には,便座に凹部を形成する構成が開示されていることが認められる。
他方で,乙12には,補助便座に切欠部を設けることによって,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,当該切欠部が上記傾斜面の傾斜を吸収できることについての記載も示唆もない。
b上記aを総合すると,通常の便座,幼児用補助便座及び補助便器(オマル)の技術分野において,凸部との干渉を避けるために切欠部を設けることは,本件出願前に公知であったことが認められる。
(エ) 容易想到性被告は,乙3及び乙4には,凸部と干渉しないように切欠き凹部を設けるという課題及びその解決手段が開示されており,温風装置や洗浄装置との関係で凹部を設けるという発想も,乙11及び乙12に開示されていることに照らすならば,当業者であれば,乙2に記載された発明に,便座ないし便器に切欠部を設ける公知の構成を採用して,相違点に係る本件発明の構成(「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成する構成」)を容易に想到することができた旨主張する。
しかしながら,乙2には,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座に,従来構造の幼児用補助便座(便座の上面に接する補助便座の下方周縁部が全体的に水平に形成されている構造のもの)を載置すると,補助便座の後方部位が上方に持ち上げられ,前方に移動させられるという問題が発生し,安定した使用方法を講ずることができないという課題(前記1(2)ア(イ)b?)についての記載も示唆もない。
また,被告主張の乙3,4,11,12においても,同様に上記課題についての記載も示唆もないのみならず,前記aのとおり,補助便座に切欠部を設けることによって,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,当該切欠部が上記傾斜面の傾斜を吸収できることについての記載も示唆もない。
他に本件出願前に上記課題が公知であったことを認めるに足りる証拠はない。
そうすると,本件出願前に便座ないし便器に切欠部を設けること自体は公知であったとしても,乙2に接した当業者において,乙2記載の幼児用補助便座の載置部の後端部に,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座等の「変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を設ける構成」を適用することの動機付けを認めることができないというべきである。
したがって,当業者といえども,本件出願前に,乙2に記載された発明に,便座ないし便器に切欠部を設ける公知の構成を採用して,相違点に係る本件発明の構成(「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成する構成」)を容易に想到することができたものと認めることはできないから,被告の上記主張は,採用することができない。
イ 以上によれば,被告主張の無効理由3は理由がない。
(5) 無効理由4(乙47等に基づく進歩性の欠如)ア被告は,本件発明は,乙47(米国特許第2,687,535号明細書)に記載された発明と本件出願前に周知であった座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成に基づいて当業者が容易に想到することができたものであるから,本件発明に係る本件特許には,特許法29条2項に違反する無効理由(特許法123条1項2号)がある旨主張する。
(ア) 乙47の記載事項乙47には,?「本発明は子供用の便座,特に,小さい子供が使用するのにとりわけ適している便座の改良に関するものである。本発明の目的は,さまざまな大きさの従来型の便座に設置可能な子供用便座を提供することにある。」(1頁左欄1行〜7行の訳文),?「私の改良にかかる子供用便座は,前方の平坦な前方部8とU字型の後方部8-aからなる本体部7からなり,子供による使用をより快適なものとするために後方の端部は上方に湾曲している。」(1頁左欄50行〜54行の訳文),?「子供用便座7は,主として男子による使用を意図して便座に備えられた取り外し可能なガード16を収容する切欠き15を備えるために便座の前方部8に延びる通常の形状をした透孔14を有している。」(1頁右欄18行〜23行の訳文)との記載がある。
そして,乙47のFig.1は「子供用便座」の平面図(plain view),Fig.2は中央断面部の側面図(side view thereof in centaral vertical section)である(別紙乙47図面参照)。
(イ) 本件発明と乙47の子供用便座との対比a前記(ア)の認定事実によれば,乙47には,?Fig.1の図面に示すように,座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成する構成,?Fig.2の図面に示すように,座面の周縁部に形成した載置部の先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成した構成を備えた,大人用便座に載置して使用する子供用便座が記載されていることが認められる。
そこで,本件発明と乙47に記載された発明(幼児用補助便座)とを対比すると,以下のとおりとなる。
(一致点)座面の中央に穿設した縦長の透孔を長円形状に形成する構成及び座面の周縁部に形成した載置部の先端縁及び両側縁部をほぼ水平に形成した構成を備えた幼児用補助便座である点。
(相違点1)本件発明は,座面の周縁部を少しの高さだけ下方に湾曲させて便座に対する載置部を形成する構成(本件発明の構成要件B)を有するのに対し,乙47には,上記構成が開示されていない点。
(相違点2)本件発明は,(載置部の)「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成する構成」(構成要件Cの一部)を有するのに対し,乙47には,上記構成が開示されていない点。
bこれに対し被告は,乙47には,「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成する構成」が開示されており,前記aの相違点2は相違点に該当しない旨主張する。
そこで検討するに,乙47には,「子供による使用をより快適なものとするために後方の端部は上方に湾曲している。」との記載があり(前記(ア)?),Fig.2の図面には,U字型の後方部8a(U-shaped rear portion)が示されている。
しかし,Fig.2の図面からは,後方部8aの端部が左右方向に湾曲している形状を読み取ることはできない。また,乙47の「子供による使用をより快適なものとするため」との上記記載部分は,いかなる意味を有するのか明らかではない。
さらに,乙47には,子供用便座(補助便座)の後方の端部には上方に湾曲部を設けることによって,暖房機能や洗浄機能等を具備した便座のように便座の後端部を上方に向けた傾斜面として形成した便座の場合でも,当該湾曲部が上記傾斜面の傾斜を吸収できることについての記載も示唆もない。
以上によれば,乙47には,「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成する構成」が開示されているものと認めることはできない。
したがって,被告の上記主張は採用することができない。
(ウ) 容易想到性前記(イ)a認定のとおり,本件発明と乙47に記載された発明(幼児用補助便座)との間には,相違点1及び2が存在するところ,被告は,相違点2に係る本件発明の構成の容易想到性について主張立証をしていないから,その余の点について判断するまでもなく,本件発明が乙47に記載された発明と被告主張の周知の構成に基づいて当業者が容易に想到することができたとの被告の主張は理由がない。
イ 以上によれば,被告主張の無効理由4は理由がない。
(6) 無効理由5(特許請求の範囲の記載不備)ア被告は,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみ」を記載したものとはいえないから,本件特許には,旧特許法36条5項2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされた無効理由(旧特許法123条1項4号)がある旨主張する。
すなわち,被告は,請求項1の「変形した便座に対応させるための」との記載は,その文言自体及び本件明細書を子細に検討しても,「変形した便座に対応させるための」の構成に関する定義は存在せず,どのような構成が「変形した便座に対応させるための」上向きの切欠部を有するものといえるのか,その用語の意味の外延は全く不明であり,かかる記載は,特許請求の範囲を画する客観的な構成要件として機能し得ず,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみ」が明確に記載されているものとはいえないから,旧特許法36条5項2号に適合していない旨主張する。
イ旧特許法36条5項は,「第3項第4号の特許請求の範囲の記載は,次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し,同項2号は,「特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること。」と規定している。
旧特許法36条5項2号は,特許請求の範囲には,発明の構成上の必須要件でない事項を記載してはならない旨定めたものと解される。
しかるに,本件発明の特許請求の範囲(請求項1)の「後縁部には,変形した便座に対応させるための上向きの切欠部を形成してなる」との記載中の「変形した便座に対応させるための」との文言は,本件発明において,後縁部に設ける「上向きの切欠部」の機能を特定するために必須のものであると解され,発明の構成上の必須要件でない事項には該当しないというべきである。
そして,本件明細書の発明の詳細な説明には,「便座4に対する載置部21は,座面2の前縁部及び両側縁部をほぼ水平に形成しているが,後端縁は上方に向けて湾曲させた切欠部22として形成している。(図1,図2参照)」(段落【0011】),「前記する切欠部22の切欠形状は暖房機能,洗浄機能等の機能を具備した便座4の後部形状に適応させるためのものであり,便座4の下面後方に洗浄機構41等を取付けるため,便座4の後方が上方に向けた傾斜面42として形成したもの(図1乃至図4参照)に対応させるためのものである。」(段落【0012】)との記載があり,これらの記載は,上記機能の必要性及び上記機能を達成させるための具体的な手段(実施例)を開示するものといえる。
したがって,「変形した便座に対応させるための」の構成が不明確であり,かかる記載は,特許請求の範囲を画する客観的な構成要件として機能し得ない旨の被告の上記主張は採用することができない。
ウ以上によれば,被告の無効理由5は,その前提を欠くものであって,理由がない。
(7) 小括以上のとおり,被告主張の無効理由1ないし5はいずれも理由がないから,原告は特許法104条の3第1項の規定により本件特許権を行使することができないとの被告の主張は理由がない。
3 争点3(原告の損害額)について(1)前記1の認定事実によれば,被告による被告製品の製造及び販売は,原告の本件特許権の侵害に当たるものと認められる。
そして,?被告が平成17年4月ころから平成20年8月ころまでの期間に被告製品(商品名「パンツぱんくろう」及び「GOONパンツぱんくろう」)を合計10万4046個製造し,これらをトーホーに販売し,これにより被告が,合計2427万4341円の利益を得たこと(争いがない。),?原告は,上記?の期間を含む,平成17年から平成22年に至るまで,本件発明の実施品である幼児用補助便座を製造及び販売していること(甲10ないし15,検甲2)を総合すると,原告は,被告による本件特許権の上記侵害行為により,被告が得た上記?の利益の額と同額の損害を被ったものと推定される(特許法102条2項)。
(2)以上によれば,原告は,被告に対し,本件特許権侵害不法行為による損害賠償として2427万4341円及び内金720万円に対する平成21年6月13日(訴状送達の日の翌日)から,内金1707万4341円に対する同年7月1日から各支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができるというべきである。
4 結論以上によれば,原告の請求はいずれも理由があるからこれを認容することとし,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 大鷹一郎
裁判官 上田真史
裁判官 石神有吾
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