関連審決 | 無効2009-800184 |
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関連ワード | 容易に発明 / 引用発明の認定 / 発明特定事項 / 相違点の認定 / 慣用技術 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 実施 / 実施権 / 専用実施権 / 設定登録 / 請求の範囲 / 補助参加 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ)
10274号
審決取消請求事件
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原告 秋田住友ベーク株式会社 原告 オリンパスメディカル システムズ 株式会 社 原告ら訴訟代理人弁護士 田中成志 同 平出貴和 同 山田徹 同 森 修一郎 原告ら訴訟復代理人弁護士 板井典子 原告ら訴訟代理人弁理士 速水進治 被告 Y補助参加人 クリエートメディック 株式会 社 被告及 び補助参加人訴訟代理人 弁護 士 増井和夫 同 菊池毅 同 豊島真 同 工藤敦子 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2011/01/31 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
21原告らの請求を棄却する。 2訴訟費用は,原告らの負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求 特許庁が無効2009-800184号事件について平成22年7月12日にした審決を取り消す。 第2当事者間に争いのない事実 1特許庁における手続の経緯被告は,発明の名称を「医療用器具」とする特許第1907623号(平成2年12月29日出願〔特願平2-416573号〕。平成7年2月24日設定登録。以下「本件特許」という。)の特許権者である(丙1)。 被告補助参加人は,平成19年2月14日,被告から本件特許権の専用実施権の設定登録を受けた専用実施権者である。 原告らは,平成21年8月27日,本件特許(請求項1ないし7)について無効審判(無効2009-800184号)を請求し,特許庁は,平成22年7月12日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をし,その謄本は,平成22年7月23日,原告らに送達された。 2特許請求の範囲平成5年6月30日付け手続補正後の本件出願の明細書(以下,図面と併せ,「本件特許明細書」という。甲18,20)の特許請求の範囲の請求項1ないし7の記載は,次のとおりである(以下,請求項1に係る発明を「本件特許発明1」のようにいい,本件特許発明1ないし7をまとめて「本件特許発明」という。別紙「本件特許明細書図面」及び「本件特許発明の実施例を用いたカテーテル設置手術手順の参考図」参照)。 「【請求項1】 縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部3に摺動可能に挿入されたスタイレットと,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材とからなり,前記スタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。 【請求項2】第1の縫合糸挿入用穿刺針と,該第1の縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた第1の縫合糸把持用穿刺針と,該第1の縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された第1のスタイレットと,第2の縫合糸挿入用穿刺針と,該第2の縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた第2の縫合糸把持用穿刺針と,該第2の縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された第2のスタイレットと,前記第1の縫合糸挿入用穿刺針,前記第1の縫合糸把持用穿刺針,前記第2の縫合糸挿入用穿刺針および前記第2の縫合糸把持用穿刺針のそれぞれの基端部が,四角形の頂点を形成するように固定する固定部材とからなり,前記第1のスタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記第1の縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な第1の環状部材を有しており,そして,該第1の環状部材は,前記第1の縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記第1の縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該第1の環状部材の内部を貫通するように該第1の縫合糸挿入用穿刺針方向に延び,さらに,前記第2のスタイレットは,先端に弾性材料により形成され,前記第2の縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な第2の環状部材を有しており,そして,該第2の環状部材は,前記第2の縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記第2の縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該第2の環状部材の内部を貫通するように該第2の縫合糸挿入用穿刺針方向に延びることを特徴とする医療用器具。 4【請求項3】前記医療用器具は,前記縫合糸挿入用穿刺針および前記縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項1に記載の医療用器具。 【請求項4】前記医療用器具は,前記第1の縫合糸挿入用穿刺針,前記第1の縫合糸把持用穿刺針,前記第2の縫合糸挿入用穿刺針および前記第2の縫合糸把持用穿刺針が,摺動可能に貫通された平板状部材を有している請求項2に記載の医療用器具。 【請求項5】前記固定部材は,平板状となっている請求項1または2に記載の医療用器具。 【請求項6】前記縫合糸把持用穿刺針の先端の刃面は,前記縫合糸挿入用穿刺針方向に向かって開口している請求項1ないし5のいずれかに記載の医療用器具。 【請求項7】前記管状部材の先端部は,ほぼ先端を中心とするV字状,またはU字状の縫合糸把持部を有している請求項1ないし6のいずれかに記載の医療用器具。」3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。審決の判断の概要は,以下のとおりである。 (1)審決は,池内宏著「鏡視下半月板の手術」(臨床整形外科24巻7号〔1989年7月25日・株式会社医学書院発行〕805頁〜814頁。甲1)に記載された発明(以下「甲1記載の発明」という。)の内容,並びに本件特許発明1と甲1記載の発明との一致点及び相違点を以下のとおり認定した。 ア甲1記載の発明の内容「『ナイロン糸1本を通した針』と,該『ナイロン糸1本を通した針』より所定距離離間して,ほぼ平行になった『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』と,『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に摺動可能に挿入された『曲げることで25本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』とからなり,『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』は,先端に形成され,『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に収納可能なループを有しており,さらに,該ループは,前記『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の先端から突出させたとき,『ナイロン糸1本を通した針』の延長線が,該ループの内部を貫通するように該『ナイロン糸1本を通した針』方向に延びる,『半月板外縁と冠靱帯の縫合術用手術具』。」(審決書8頁2行〜14行)イ一致点「縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,所望の位置関係の縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された挿入具とからなり,前記挿入具は,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる,医療用器具。」(審決書20頁12行〜19行)ウ相違点「◇相違点1本件特許発明1では,『ほぼ平行に設けられた』縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針であり,『縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材』を有しているのに対して,甲第1号証記載の発明では,『ほぼ平行になった』縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針であり,『縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材』を有していない点。 ◇相違点2本件特許発明1では,挿入具について,これが『スタイレット』であるのに対し6て,甲第1号証記載の発明では,「『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』」である点。」(審決書20頁21行〜31行)(2)審決は,相違点に関する容易想到性の有無について,以下のとおり判断した。 「甲第1号証には,上記(5-1 )( a)(a-1 )で示した『・・・半月板制動術から発展した半月板外縁と冠靱帯の縫合術である。・・・18ゲージ長針の1本に2-0ナイロン糸を通し先端を出しておく。針の先端から約1cm 位のところを約30度位に指で曲げる。鏡視下に刺入部を十分確認後,この針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し,冠靱帯のところで一度先端を出し,改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し,このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通してからループを静かに締め,最初の針をナイロン糸を残して抜去し,第2の針をループがゆるまないようおさえたまま抜去すると,半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出すことができる。困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ,最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し,そのナイロン糸をコッヘルでつかんだまま関節外に引き出す。ついでループ状のナイロン糸も同様に関節外に出してから,初めの糸をループに関節外で通し,ループを引っぱることによって最初の糸を関節外に出すことができる・・・』との記載からして,半月板外縁と冠靱帯の縫合に際して,『針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し,冠靱帯のところで一度先端を出し,改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し,このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通して』といった複雑な操作を行う必要があると共に,操作が困難なときもあることが示されており,これは,膝関節内の構造が単純でないと共に個々の術例(症例)が一様でないことに依っていると解することができ,これからして,縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針を一定の位置関係に固定して同時に穿刺すること自体,現実的ではないということができるので,『縫合糸挿入用穿刺針および縫合7糸把持用穿刺針を一定の位置関係に固定しない』ことが記載されているに等しいということができる。 そうすると,甲第1号証記載の発明は,半月板外縁と冠靱帯の縫合に際して,『ほぼ平行に設けられた』縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に,『縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材』を設けることをそもそも想定するものではないので,甲第2ないし17号証記載の事項および周知慣用技術にかかわらず,甲第1号証記載の発明において,『ほぼ平行に設けられた』縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に,『縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材』を設けることは,出願前に当業者が容易に想到し得ることではない。」(審決書21頁1行〜36行)「甲第1号証記載の発明において,腹壁と胃壁の縫合に際して,甲第2ないし17号証記載の事項および周知慣用技術を組み合わせたとしても,『ほぼ平行に設けられた』縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に,『縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材』を設けることは,出願前に当業者が容易に想到し得ることではない。 したがって,相違点1に係る本件特許発明1の発明特定事項とすることは,甲第1号証に記載された発明および周知慣用技術に基いて,または,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて,出願前に当業者が容易になし得ることではない。」(審決書23頁25行〜24頁1行)「本件特許発明2ないし7は,本件特許発明1の上記相違点1にかかる発明特定事項を有するものであることから,本件特許発明1と同様の理由で,甲第1号証に記載された発明および周知慣用技術に基いて,または,甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて,出願前に当業者が容易に発明をすることができたものではない。」(審決書25頁3行〜7行)第3当事者の主張81取消事由に係る原告らの主張審決には,以下のとおり,(1)引用発明の認定の誤り(取消事由1),(2)一致点及び相違点の認定の誤り(取消事由2),(3)相違点1に係る容易想到性判断の誤り(取消事由3),がある。 (1)取消事由1(引用発明の認定の誤り)審決は,前記第2,3,(1)記載のとおり,甲1には,「『ナイロン糸1本を通した針』と,該『ナイロン糸1本を通した針』より所定距離離間して,ほぼ平行になった『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』と,『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に摺動可能に挿入された『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』とからなり,『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本』は,先端に形成され,『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の内部に収納可能なループを有しており,さらに,該ループは,前記『曲げることで2本になると共にループが形成されたナイロン糸1本を通した針』の先端から突出させたとき,『ナイロン糸1本を通した針』の延長線が,該ループの内部を貫通するように該『ナイロン糸1本を通した針』方向に延びる,『半月板外縁と冠靱帯の縫合術用手術具』。」(審決書8頁2行〜14行)の発明が開示されていると認定し,甲1記載の発明(引用発明)は,「縫合糸挿入用穿刺針と,該縫合糸挿入用穿刺針より所定距離離間して,所望の位置関係の縫合糸把持用穿刺針と,該縫合糸把持用穿刺針の内部に摺動可能に挿入された挿入具とからなり,前記挿入具は,先端に弾性材料により形成され,前記縫合糸把持用穿刺針の内部に収納可能な環状部材を有しており,さらに,該環状部材は,前記縫合糸把持用穿刺針の先端より突出させたとき,前記縫合糸挿入用穿刺針の中心軸またはその延長線が,該環状部材の内部を貫通するように該縫合糸挿入用穿刺針方向に延びる,医療用器具。」(審決書20頁12行〜19行)に相当すると認定した。 しかし,審決の上記認定には誤りがある。すなわち,9ア甲1は,下肢関節における半月板外縁と冠靱帯を縫合する手技による手術について解説した「鏡視下半月板の手術」(臨床成形外科)に記載された発明である。 甲1の記載には,「ナイロン糸1本を通した針」(以下「?の針」という場合がある。)と「ナイロン糸先端にループを作るためにナイロン糸1本を2重に通した針」(以下,「?の針」という場合がある。)の位置関係に関して,「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた」構成(以下「『ほぼ平行に設けられた』との構成」という場合がある。)も含めた技術が開示されていると解すべきである。審決の認定した「所定距離離間して,ほぼ平行になった」又は「所定距離離間して,所望の位置関係(にある)」との技術に限定して開示されたと解すべきではない。すなわち,甲1の図20(別紙「甲1図20参考図」参照)では,?の針は,「針の先端から約1cm 位のところを約30度位に指で曲げ(られて)」いるため,当該針の先端から突出した「2ナイロン糸」は,約30度位曲げられた針の先端方向に真っ直ぐに伸びる。そうすると,この「2-0ナイロン糸」が,「?ナイロン糸先端にループを作るために2本にして通した針」(?の針)の先端から突出したナイロン糸のループの内部を貫通するためには,?の針と?の針が,図20記載のとおり,所定距離離間して「ほぼ平行に設けられた」位置関係にならなければならない。また,甲1記載の手術では,縫合糸を皮膚に近い場所で縫合して半月板を引っ張ることから,2本の針は,近接し,かつ,平行に設けられることが必要となる。甲1記載の発明において,穿刺前の段階で,針先の曲げ位置及び曲げ角度について,「針の先端から約1cm 位のところを約30度位に指で曲げ」と数値が記載されているのは,穿刺後,ループに糸を通す時点において2本の針が,図20(別紙「甲1図20参考図」参照)に示されるとおり,ほぼ平行に配置され,かつ,それらの針の穿刺深さがほぼ同じで先端位置が同じ深さの位置にあることを想定して,針先の曲げ位置及び曲げ角度を決定したからである。 イ被告は,半月板損傷に対する治療術が複雑であるから,甲1記載の2本の針を平行に設けることが困難であると主張する。しかし,「鏡視下半月板の手術」(臨10床成形外科)中に記載された手技は,半月板の損傷を治療する手術に関するものではなく,半月板外縁と冠靱帯とを縫合する手術についてのものであるから,被告の上記主張は,失当である。 ウ以上のとおり,甲1には,本件特許発明における,「ほぼ平行に設けられた」との構成が開示されているといえるから,その開示がないとした審決の上記引用発明の認定には,誤りがある。 (2)取消事由2(一致点及び相違点の認定の誤り)審決は,甲1記載の2本の針が「ほぼ平行になった」ものにすぎないことを前提として,本件特許発明1と甲1記載の発明との一致点及び相違点を認定した。 しかし,審決の上記認定には誤りがある。すなわち,前記(1) で主張したとおり,甲1には,「ほぼ平行に設けられた」との構成が開示されているから,これを含めて一致点として,認定すべきであった。また,審決は,「ほぼ平行に設けられた」との構成を除く,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定される固定部材を有する構成(以下「本件固定部材構成」という場合がある。)のみを,相違点1として認定すべきであった。 (3)取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)審決は,前記第2,3,(2)記載のとおり,相違点1に係る容易想到性の判断について,甲1記載の発明は,「半月板外縁と冠靱帯の縫合に際して,『針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し,冠靱帯のところで一度先端を出し,改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。 この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し,このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通して』といった複雑な操作を行う必要があると共に,操作が困難なときもあることが示されており,これは,膝関節内の構造が単純でないと共に個々の術例(症例)が一様でないことに依っていると解することができ,これからして,縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針を一定の位置関係に固定して同時に穿刺すること自体,現実的ではないということができるので,11『縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針を一定の位置関係に固定しない』ことが記載されているに等しいということができる。」(審決21頁16行〜27行)とし,さらに,甲1記載の発明において,「腹壁と胃壁の縫合に際して,甲第2ないし17号証記載の事項および周知慣用技術を組み合わせたとしても,『ほぼ平行に設けられた』縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針にすると共に,『縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針の基端部が固定された固定部材』を設けることは,出願前に当業者が容易に想到し得ることではない。」(審決書23頁25行〜30行)と判断した。 しかし,審決の上記認定判断には誤りがある。すなわち,ア甲1記載の発明は,その手技を実施した状態が図20(別紙「甲1図20参考図」参照)において図示されているとおり,縫合したい半月板外縁と冠靱帯のある部位に,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針を,所定距離離間して,ほぼ平行に設けて,穿刺し,縫合糸把持用穿刺針の先端から突出したループの内部に,縫合糸挿入用穿刺針から挿入した縫合糸を貫通させるというものであって,極めて単純な操作により,縫合を可能にしようとするものである。当業者であれば,このような甲1記載の発明から,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針は一定の位置関係に固定されることが望ましいものと当業者は理解することができる。 なお,甲1記載では,施術者は,鏡視下で確認しながら実施するが,これは,半月板外縁と冠靱帯を縫い合わせるための縫合糸挿入用穿刺針から出される縫合糸を,縫合糸把持用穿刺針によって把持する必要があるからであって,被告反論のように甲1記載の手技が鏡視下で行われることをもって,その手術が複雑困難かつ多様な態様を前提とするものとはいえない。 イ甲1記載の半月板外周縁部縫合手術においては,「半月板」と「靱帯」が実質的に固定部材の役割を果たし,固定部材の構成を有するといえるものである。すなわち,甲1記載の発明における「半月板」は,通常の臓器と違って一定程度の硬度を有する軟骨組織であり,また,「靱帯」は強靱な結合組織の短い束で,骨と骨を繋12ぎ関節を形作るものであって一定程度の硬度を有する組織であるから,長針が穿刺されると2本の針の位置が固定され,先のナイロン糸の受け渡しをスムーズに行うことができるのである。 ウ当業者であれば,半月板外周縁部縫合術に用いる甲1記載の医療器具について,人体の2つの部分を縫合する種々の施術にも適用可能なものであると理解する。 そして,前記のとおり実質的に固定部材を有するともいえる甲1記載の半月板外周縁部縫合術に使用する医療器具を,例えば腹壁と胃壁の縫合術に適用する場合には,「腹壁」と「胃壁」が呼吸に伴って移動する柔らかい臓器であって,「半月板」と「靱帯」のように実質的に固定部材の役割を果たすものではないことからすると,2本の針の姿勢及び穿刺深さを確実に規定するために,2本の針の基端部を固定部材を用いて固定する構成を採用しようとすることは,当業者において容易に行い得たことである。複数の針の位置関係を正確に平行に穿刺するために,複数の針を固定部材により固定することは,甲2(別紙「甲2参考図」参照),甲4及び甲6に記載されているとおり,周知慣用技術でもある。 エそして,甲1記載の発明と甲2記載の発明は,発明の技術分野を同一にするものであり,また,両発明は,人体の特定の部位に安全,迅速,正確に複数の針を穿刺するという課題,目的を共通にするものであるから,その点からも,両者の組合せは当業者において容易であったといえる。 オなお,甲1には,審決指摘のように,「困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ,最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し,そのナイロン糸をコッヘルでつかんだまま関節外に引き出す。ついでループ状のナイロン糸も同様に関節外に出してから,初めの糸をループに関節外で通し,ループを引っぱることによって最初の糸を関節外に出すことができる。」(813頁右欄15行〜814頁左欄2行)との記載がある。しかし,その記載部分は,穿刺された縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針が,所定距離離間して,「ほぼ平行に設けられていない」場合が生じ得ることを課題として明示し,その対処法を記載したものにすぎないと13いえるから,審決認定のように,その記載が甲1記載の手技について「複雑な操作を行う必要があると共に,操作が困難なときもあること」を示したものであるとはいえない。上記の記載部分は,「困難なとき」以外の通常の場合には,2本の針が所定距離離間して「ほぼ平行に設けられる」ものであることを示すものであるといえる。よって,上記の記載部分は,甲1記載の発明に周知慣用技術である固定部材の構成を適用し,又は甲2記載の同構成を組み合せることについて妨げになるものではない。 カまた,審決は,甲2記載の発明の穿刺針は,縫合糸挿入用穿刺針や縫合糸把持用穿刺針ではないとも指摘する。しかし,原告らが甲2から引用する技術的事項は,「位置関係を正確に規定すべき複数の針を固定部材により固定すること」のみであるから,審決の指摘は甲1記載の発明に甲2記載の周知慣用技術を適用することの妨げになるものではない。 キ以上のとおり,審決認定の相違点1のうち,本件固定部材構成は,甲1記載の発明に周知慣用技術(甲2,甲4及び甲6)を適用して,又は甲2記載の発明を組み合わせて,当業者が容易に想到し得たものであるから,これを容易想到でないとした審決の前記判断には誤りがある。 本件特許発明2ないし7についても,同様の理由により当業者が容易に発明をすることができたといえるから,これを容易に発明することができなかったとした審決の判断には誤りがある。 2被告の反論(1)取消事由1(引用発明の認定の誤り)に対しア縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とが,概ね平行な位置関係にある甲1の図20の状態は,手術医の手技によって,それぞれの針につき鏡視下で適切な挿入場所を確認しながら穿刺した結果として生じたものであって,本件特許発明のように2本の穿刺針が1個の医療用器具として「ほぼ平行に設けられた」構成とは無関係である。甲1記載の発明において,医師は順に2本の針を刺すが,多少ね14じれた位置になっても,ループの大きさでカバーすることができるから,2本の針をほぼ平行に設けることは,必要とはいえない。また,縫合糸を皮膚で結ぶとしても,原告ら主張のように「2本の針の近接」や「2本の針を当然にほぼ平行に設けること」を必須とするものではない。 イ甲1記載の半月板損傷に対する施術においては,様々な形態の損傷部位を切り取ったり,縫合したりして治療をするので,その症状により,冠靭帯と縫合する部分も様々となるから(乙1),2本の穿刺針を1つの医療用器具としてほぼ平行に設けて同時穿刺を行うことは困難であるといえる。また,先端が30度曲がった?の針と直線の?の針を平行に固定して穿刺することは,穿刺する角度が異なるために不可能である。 ウこれに対し,原告らは,縫合糸挿入用穿刺針の先端が約30度に曲げられるものであることをもって,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針が平行に配置されることを予定していると主張する。 しかし,原告らの主張は理由がない。縫合糸挿入用穿刺針の先端が30度に曲がっている場合において,縫合糸挿入用穿刺針の先端から突出したナイロン糸が,縫合糸把持用穿刺針の先端から突出したループの内部を最も貫通しやすくなるのは,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針のそれぞれの中心軸(30度に曲げられた縫合糸挿入用穿刺針の先端部分は除いて考える。)の延長線が60度の角度で交差する位置関係にあるときであって,2本の針が平行に配置された状態にあるときではないからである。 また,原告らは,「困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ・・・」との甲1の記載部分は,2本の針が「ほぼ平行に設けられていない」場合が生じることを課題として記載したものであると主張する。 しかし,原告らの上記主張も誤りである。すなわち,上記の記載部分は,審決が認定するように,甲1記載の発明の手技が複雑なものであり,手技が困難なときもあることを示したものであり,全体として,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用15穿刺針を一定の位置関係に固定しないことが記載されているに等しいものであるといえる。 エ以上のとおり,甲1記載の発明は,2本の針が「ほぼ平行に設けられた」構成を開示しているとはいえず,その旨の審決の引用発明(甲1記載の発明)の認定に誤りはない。よって,原告らの取消事由1の主張は理由がない。 (2)取消事由2(一致点及び相違点の認定の誤り)に対し取消事由1の原告らの主張が成り立たない以上,それを前提とする原告らの取消事由2の主張も理由がない。 (3)取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対しア原告らは,相違点1中の「ほぼ平行に設けられた」との構成を除外した「本件固定部材構成」について,容易想到性があると主張する。 しかし,原告らの主張は,以下のとおり,失当である。まず,相違点1は,「ほぼ平行に設けられた」との構成を除外した「本件固定部材構成」のみに存在するものではないから,本件固定部材構成について容易想到であるとしても,審決の判断の適否に影響を及ぼすものとはいえない。原告ら主張は,その主張自体失当である。 イまた,以下のとおり,甲1記載の発明に,甲2記載の発明又は周知慣用技術を適用しても,本件特許発明1 の相違点1の構成(「ほぼ平行に設けられた」との構成及び本件固定部材構成)に到達することが容易であったとはいえない。 甲1記載の発明は,2本の針をほぼ平行に設けるものではなく,複雑な構造の膝関節内において,医師が複雑な手技をもって鏡視下で2本の針を別々に穿刺した結果,偶々2本の針がほぼ平行になる場合があることを示したにすぎない。甲1には,原告ら主張のように非常に単純な操作で縫合できることが記載されているとはいえず,審決認定のように,「縫合糸挿入用穿刺針および縫合糸把持用穿刺針を一定の位置関係に固定しない」ことが記載されていると理解できる。 この点,原告らは,甲1記載の発明における半月板及び靭帯には比較的硬度があり,「いわば固定部材の役割を果たす」ものであるから,甲1記載の発明を柔らかい16腹壁と胃壁の固定術に転用する際には当業者であれば本件固定部材構成を採用することが容易に想到されると主張する。しかし,原告らの主張は,理由がない。すなわち,原告らの主張は,1本ずつ穿刺した針の位置が固定されること(これらの針の位置関係は必ずしも平行ではない)と,2本の針を平行に固定した上で同時に穿刺することとの間の相違を無視するものであり,失当である。2本の針をあらかじめ平行に固定するのは,2本の針の位置関係を変えることなく同時に穿刺することを可能にするためのものであり,1本ずつ穿刺した針がそれぞれの位置に固定されることとは,その技術的意味が異なる。1本ずつ穿刺した針の位置が硬い組織により固定される事実から,穿刺前の段階から2本の針を固定部材で平行に固定して同時に穿刺するという構成に至るためには,技術思想における飛躍が要求されるのであって,容易に想到できるものではない。 甲1には,縫合糸挿入用穿刺針と,縫合糸把持用穿刺針とを,所定距離離間して平行に設け(「「ほぼ平行に設けられた」との構成),さらに,両針を基端部にて固定部材により固定すること(本件固定部材構成)を試みたはずであるとの具体的な示唆等は存在しない。 そうすると,たとえ甲2,甲4及び甲6に,「ほぼ平行に設けられた複数の針を固定する固定部材」(本件固定部材構成)が開示され,それが周知慣用技術であるとしても,その周知慣用技術を甲1記載の発明に適用することが容易であるとはいえない。 また,甲2,甲4及び甲6は,いずれも,縫合糸挿入用穿刺針及び縫合糸把持用穿刺針に関するものでもないし,縫合糸挿入用穿刺針から縫合糸把持用穿刺針への縫合糸の受け渡しに関するものでもないから,甲1記載の発明に,当該本件固定部材構成に係る周知慣用技術を適用したはずであるとの具体的な示唆等があったとはいえない。 以上によれば,当業者が,甲1記載の発明から出発して,周知慣用技術を適用し,又は甲2記載の発明を組み合わせて,本件特許発明1の「ほぼ平行に設けられた」17との構成及び本件固定部材構成に想到することが容易であったとはいえない。 ウ本件特許発明1の相違点1に係る構成が容易想到ではない以上,その相違点1に係る発明特定事項を有する本件特許発明2ないし7は,本件特許発明1と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえず,これと同旨の審決の判断に誤りはない。 よって,原告らの取消事由3の主張は,理由がない。 第4当裁判所の判断1取消事由1(引用発明の認定の誤り)について原告らは,甲1記載の発明においては,図20(別紙「甲1図20参考図」参照)記載のとおり,?縫合糸挿入用穿刺針から出るナイロン糸は,縫合糸把持用穿刺針の先端から出るループの内部を貫通するために,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とは,所定距離離間して「ほぼ平行に設けられた」位置関係になければならないこと,?甲1記載の半月板外周縁部縫合術においては,縫合糸を皮膚のところで結んで半月板を引っ張るから,その2本の針は近接したものであり,かつ,縫合糸を把持するためには2本の針が平行に設けられた状態であることが必須であることから,甲1には,2本の針が「ほぼ平行に設けられた」との構成が開示されていると主張し,これを前提として,「ほぼ平行に設けられた」との構成を認定しなかった審決の認定に誤りがあると主張する。 しかし,原告らの上記主張は,以下のとおり採用の限りでない。 (1)事実認定甲1には,以下の記載のほか,図20(別紙「甲1図20参考図」参照)の図示がある。 「3.外周縁部縫合術(図20)半月板制動術から発展した半月板外縁と冠靱帯の縫合術である。外周縁部損傷に行う。鋭匙鉗子,ディスポの18ゲージ長針2本,2-0ナイロン糸数本,小コッヘルなどを使用する。まず鋭匙鉗子で損傷部の新鮮化を行う。18ゲージ長針の118本に2 -0ナイロン糸を通し先端を出しておく。針の先端から約1 cm 位のところを約30度位に指で曲げる。鏡視下に刺入部を十分確認後,この針を半月板の位置のやや遠位側から刺入し,冠靱帯のところで一度先端を出し,改めて半月板外縁を貫通する。もう1本の長針に先端がループになるようにナイロン糸を二重に通す。この針を半月板大腿骨面と平行かそれよりやや遠位側から刺入し,このループに先に挿入したナイロン糸の先端を通してからループを静かに締め,最初の針をナイロン糸を残して抜去し,第2の針をループがゆるまないようおさえたまま抜去すると,半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出すことができる。困難なときには同側の膝蓋下穿刺部から小コッヘルを入れ,最初のナイロン糸をつかんで長針を抜去し,そのナイロン糸をコッヘルでつかんだまま関節外に引き出す。ついでループ状のナイロン糸も同様に関節外に出してから,初めの糸をループに関節外で通し,ループを引っぱることによって最初の糸を関節外に出すことができる。著者は先端を曲げた糸通しと小ペアンで行っていたが現在はこの方法を行っている。この方法は英国のDundy が早く行い,それとは関係なく片山,木村らによって行われた。後節の縫合は同側の後穿刺部に小皮切を加え,膝窩腔でsemiclosed の術式で冠靱帯と半月板を縫合する。同様に長針を曲げて使う。市販の縫合器を使わないのは半月板と冠靱帯を縫合する意義に対する配慮が足りないと思われるからである。またそれを後節の縫合に使って関節外の重要な血管,神経を損傷した例が外国にある。 術後,膝軽度屈曲位でギプス包帯をまく。」(甲1,813頁左欄下から5行〜814頁左欄14行)。 (2)判断上記の甲1の記載事項及び図20の説明図によれば,甲1記載の発明においては,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針の位置関係については,図20(別紙「甲1図20参考図」)記載のとおり,穿刺後に縫合糸挿入用穿刺針の先端から出た2-0ナイロン糸が,縫合糸把持用穿刺針の先端から出ているナイロン糸のループの内部を貫通する前の段階において,互いに他方の針から所定距離離間して,ほぼ平行19になっている図が示されているが,2本の針が穿刺前の段階から穿刺後の上記貫通前の段階に至るまで終始「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた」状態を維持するという意味での「ほぼ平行に設けられた」との構成までもが開示されていると認めることはできない。すなわち,甲1は,手術医が鏡視下でその手技により2本の針を順次別々に操作することによって,縫合糸挿入用穿刺針の先端から出たナイロン糸を,縫合糸挿入用穿刺針の先端から出たループの内部に通すものであって,図20はその途中の一段階の状態を図示したものにすぎないから,そのような図20をもって,2本の針が穿刺前の段階から穿刺後の上記貫通時の段階に至るまで終始「所定距離離間して,ほぼ平行に設けられた」状態を維持するという意味での「ほぼ平行に設けられた」との構成を開示したものであるとはいえない。また,針の先端から約1cm 位のところを約30度位に指で曲げることが記載されているが,そのような操作をする旨の記載があったとしても,同記載から,甲1記載の発明に「ほぼ平行に設けられた」との構成を示唆する記載があると理解することはできない。 以上のとおりであって,審決には「ほぼ平行に設けられた」との構成の開示を看過して引用発明を認定した点に誤りがあるとする原告らの上記主張は,採用の限りでない。 2取消事由2(一致点及び相違点の認定の誤り)について甲1には「ほぼ平行に設けられた」との構成が開示されているとする原告らの取消事由1の主張が前記説示のとおり採用の限りでない以上,その主張を前提として,審決の一致点及び相違点の認定には誤りがあるとする原告らの取消事由2の主張も採用の限りでない。 3取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)に対し原告らは,審決認定の相違点1のうち,甲1に開示されていた「ほぼ平行に設けられた」との構成が相違点1には含まれないことを前提として,その他の相違点である本件固定部材構成のみについて,甲1記載の発明への周知慣用技術(甲2,甲4及び甲6)の適用に基づき,又は,甲1及び甲2記載の各発明の組合せに基づき,20当業者が容易に想到し得たから,これを容易想到でないとした審決の上記判断は誤りである,と主張する。 しかし,原告らの主張は,以下のとおり,採用の限りでない。 (1)まず,原告らは,本件特許発明1と甲1発明の相違点1について,「ほぼ平行に設けられた」との構成を除いた本件固定部材構成のみであることを前提として,同構成部分が容易想到であると主張する。しかし,前記のとおり「ほぼ平行に設けられた」との構成が相違点に当たらないとの主張が採用できないので,原告らの主張は,その主張自体失当である。 (2)念のため,甲1記載の発明に周知慣用技術(甲2,甲4及び甲6)を適用すること又は甲2記載の各発明を組み合わせることによって,本件特許発明1の相違点1に係る構成(「ほぼ平行に設けられた」との構成及び「本件固定部材構成」)に想到することが容易であったか否かについて判断する。当裁判所は,以下のとおりの理由から,相違点1に係る上記構成は,当業者において容易想到であったとはいえないと解する。 ア甲1の前記記載によれば,甲1記載の発明は,医師が,手技によって,半月板を貫通したナイロン糸を関節外に引き出す施術を実施する際に,それに先だって行う,鏡視下で2本の針を別々に穿刺する方法を紹介又は解説したものである。図20は,膝関節内において,縫合糸挿入用穿刺針の先端から出たナイロン糸が縫合糸把持用穿刺針の先端から出たループの内部を貫通させる状態を説明するためのもので,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針の2本の針は,先端部に近づくほど狭い間隔で示されているのに対して,取手部(手で操作する部分)に近づくほど,広い間隔で示されており,2本の針は,必ずしも,その直線部分においても,平行状態で示されているわけではなく,また,説明中にも,平行状態にすべき技術的な意義も示されていない。また,原告らは,1本ずつ穿刺した針の位置が穿刺後のナイロン糸のループ内部への貫通前の一時点において膝関節内部の硬い組織により固定されたかのような状態になることをもって,穿刺前も含めて2本の針を固定部材21で固定して同時に穿刺するとの構成を示唆するものと主張するが,甲1の説明及び図が,そのような技術思想を示していると理解することはできない。 以上のとおりであり,前記説示のとおり,甲1記載の施術方法の記載は,半月板外周縁部の縫合術において,先端部を指で約30度曲げた縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とは,穿刺する角度が先端において異なること,膝関節内の構造の特殊性に由来した操作が複雑であること,同時穿刺を実施することが困難であること等を前提として,解説が述べられており,相違点1に係る構成(「ほぼ平行に設けられた」との構成及び「本件固定部材構成」)を示唆する記載は何ら存在しない。 甲1において,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針とを,所定距離離間して平行に設け(「ほぼ平行に設けられた」との構成),さらに,両針を基端部にて固定部材により固定すること(本件固定部材構成)を試みたはずであるとの具体的な示唆等は,何ら存在しない。したがって,甲1記載の発明を基礎として,穿刺後に固定されたかのような硬い組織を有する半月板外周縁部の前記縫合術に変えて,柔らかい腹壁と胃壁を縫合する手術を実施する際に,甲1記載の施術における「ほぼ平行に設けられた」との構成及び「本件固定部材構成」を採用することが当業者において容易であったと解することはできない。 イ原告らの主張に対する判断原告らは,甲1には「困難なときには同側の膝蓋下穿刺針部から小コッヘルを入れ・・・」との記載は,穿刺された縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針が,所定距離離間して,「ほぼ平行に設けられていない」場合が生じ得ることを課題として明示したものであり,「困難なとき」以外の通常の場合には,2本の針が所定距離離間して「ほぼ平行に設けられる」ものであることを示すものである旨を主張する。 しかし,原告らの上記主張は採用の限りでない。すなわち,上記記載は,ナイロン糸に関する操作が適切にされない場合の対策を説明したにすぎず,同記載から,「ほぼ平行に設けられていない場合の課題」や「ほぼ平行に設けられていることの22優位性ないし作用効果」が示されていると理解することはできない。また,甲1のいかなる記載によっても,縫合糸挿入用穿刺針と縫合糸把持用穿刺針の2つの針が平行に設けられていることの技術的優位性ないし効果を示唆する記載は存在しないのみならず,全体からは,2つの針を平行に固定しないことが前提とされていると理解するのが合理的であり,この点の原告らの上記主張は採用の限りでない。 エ以上のとおり,当業者において,甲1記載の発明に周知慣用技術(甲2,甲4及び甲6)を適用して,又は甲2記載の発明を組み合わせて,本件特許発明1の相違点1に係る構成(「ほぼ平行に設けられた」との構成及び本件固定部材構成)に想到することが容易であったとはいえない。 また,本件特許発明1の相違点1に係る構成が容易想到ではない以上,その相違点1に係る発明特定事項を有する本件特許発明2ないし7についても,本件特許発明1と同様の理由により,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない。 よって,原告ら主張の取消事由3(相違点1に係る容易想到性判断の誤り)は理由がない。 4結論以上によれば,原告ら主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告らは縷々主張するが,いずれも理由がない。よって,原告らの本訴請求は理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 飯村敏明 |
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