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関連審決 無効2009-800215
関連ワード 進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  慣用技術 /  先行技術 /  技術的特徴 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  設定登録 /  訂正審判 /  請求の範囲 /  変更 /  審決確定(審決が確定) / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10145号 審決取消請求事件

原告株式会社キーエンス
訴訟代理人弁護士辰野嘉則
同 岡田淳
同 吉羽真 一郎
同 宮谷隆
同 飯塚卓也
訴訟代理人弁理士青山剛
被告株式会社島津製作所
訴訟代理人弁護士内田敏彦
同 宮原正志
訴訟代理人弁理士喜多俊文
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800215号事件について平成22年3月30日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯等被告は,発明の名称を「分析装置」とする特許第3293717号(平成6年9月29日出願,請求項1に係る発明について平成14年4月5日設定登録
以下「本件特許」という。)の特許権者である。
被告は,平成18年3月16日付けで訂正審判の請求をし,同年5月10日に訂正することを認めるとの審決が確定し,被告は,平成19年6月26日付けで訂正審判の請求をし,同年8月31日に訂正を認めるとの審判が確定した。
原告は,平成21年10月13日,本件特許の無効審判請求(無効2009-800215号事件)をし,被告は,平成22年1月12日付けで訂正請求をし(以下「本件訂正」という。),特許庁は,同年3月30日,「訂正を認める。本件審判の請求は成り立たない。」との審決(以下「審決」という。)をして,その謄本は,同年4月9日,原告に送達された。
2特許請求の範囲本件訂正後の本件特許の明細書(甲30)における特許請求の範囲の請求項1の記載は,次のとおりである(以下「本件発明」という。)。
【請求項1】 物質表面の原子配列や表面形状の測定結果として分析手段側から得られる画像データの任意の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と,前記輝度分布に対して,前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる任意のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を,輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いて指定して色付けを行う輝度分布の範囲を設定する手段と,前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段と,前記表示用画像データを記憶する手段と,前記輝度分布,カラーテーブル,レンジ・バー,及び表示用画像データを表示するとともに,前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する手段とを備えた分析装置であって, 前記設定された輝度分布の範囲の上限以上,また,下限以下についてはそれぞれカラーテーブルの上限また下限と同一の色付けを行うことを特徴とする分析装置。
3審決の理由(1)別紙審決書写しのとおりである。要するに,本件訂正は,特許法134条の2第1項に掲げる事項を目的とし,同条5項で読み替えて準用する同法126条3項及び4項に適合するから認めるとした上で,本件発明は,甲1(米国特許第5333244号特許公報)に記載された発明(以下「甲1発明」という。)との相違点5(後記(2)ウ(オ))について,甲1発明及び甲2(MACWORLDPhotoshop2.5大全),甲3(PHOTOSHOPBIBLEForAdobePhotoshop2.5J),甲4(特開平5-282422号公報)などに記載された事項から当業者が容易に発明することができたものではないので,特許法29条2項の規定により特許を受けることができないとはいえないとした。
(2)上記判断に際し,審決が認定した甲1発明の内容,本件発明と甲1発明との一致点及び相違点は以下のとおりである。
ア甲1発明の内容ある形状を持った表示対象物の形状情報と,該表示対象物上のサンプリング点における工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器による測定データ等のスカラ量の大きさとに基づきカラーマップを表示するマップ表示手段と,上記スカラ量の大きさに基づきあらかじめ設定済みの分割数で等分割されたヒストグラムを表示するグラフ表示手段と,該グラフ表示手段と該マップ表示手段とを制御し,上記ヒストグラムに対応するカラーマップを表示させる制御手段とを備え,該ヒストグラムの任意の区間をマウスカーソルを用いて指定する区間指定手段を有して,制御手段は,該区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラムを表示させるため,グラフ表示手段を制御する機能を有し,カラーマップ表示手段とグラフ表示手段とにより,同一画面上にカラーマップのカラーバーとヒストグラムとを対応付けて,並列的に配置して,同時に表示し,さらにヒストグラムの各区間を,対応するカラーバーの色と同色で表示するとともに,指定された区間に対応するスカラ量分布をカラーマップ表示するスカラ量分布表示装置。
イ一致点測定結果として分析手段側から得られる画像データの複数の輝度分割数に分割された輝度分布を求める手段と,前記輝度分布に対して,前記輝度分割数と実質的に1対1で対応させることができる複数のカラー分割数に分割されたカラーテーブルの割り当て範囲を,範囲指定手段により指定して色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する手段と,前記カラーテーブルの割り当てに従って画像データを表示用画像データに変換する手段と,前記表示用画像データを記憶する手段と,輝度分布,カラーテーブル,及び表示用画像データを表示する手段とを備えた分析装置。
ウ相違点 (ア)相違点1「複数の輝度分割数」及び「複数のカラー分割数」が,本件発明では「任意」の数値であるのに対し,甲1発明では「あらかじめ設定済みの」数値である点。
(イ)相違点2「範囲指定手段」が,本件発明では,「輝度分布表示に対して移動可能な表示画面上のレンジ・バーを用いたもの」であるのに対して,甲1発明では,「マウスカーソルを用いて指定するもの」である点。
(ウ)相違点3本件発明では,「前記設定された輝度分布の範囲の上限以上,また,下限以下についてはそれぞれカラーテーブルの上限また下限と同一の色付けを行う」のに対して,甲1発明では,そのような構成かどうか明らかでない点。
(エ)相違点4「測定結果」が,本件発明では,「物質表面の原子配列や表面形状の測定結果」であるのに対して,甲1発明では,「工学や物理学,化学,医学等の分野での計測機器のよる測定」の結果である点。
(オ)相違点5表示される「輝度分布」が,本件発明では「前記輝度分布」であるのに対して,甲1発明では,「区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラム」であり,「輝度分布,カラーテーブル,及び表示用画像データを表示する手段」が本件発明では,「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する」ものであるのに対して,甲1発明では,そのような構成であるかどうか明らかでない点。
第3当事者の主張1取消事由に係る原告の主張審決には,(1) 周知技術(甲4,35)を看過して,相違点5に係る構成を容易想到ではないと判断した誤り(取消事由1),(2) 甲1発明と甲4記載の技術(以下「甲4技術」という場合がある。)の組合せの認定を誤り,相違点5に係る構成を容易想到ではないと判断した誤り(取消事由2)があり,審決は取り消されるべきである。すなわち,(1)周知技術(甲4,35)を看過して,相違点5に係る構成を容易想到ではないと判断した誤り(取消事由1)審決は,甲2について,「色付けを行う輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布と,設定後のカラーテーブルの割り当てに従って画像データから変換された表示用画像データと,カラーテーブルを表示することが記載されている」が,「カラーテーブルを,表示された『色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布』上における設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に表示することは記載されていない」とし,甲3についても,甲2と同じく,「カラーテーブルを,表示された『色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布』上における設定された輝度分布の範囲の上限下限と対応する範囲内の位置に表示することが記載されていない」として,「甲1発明に甲2又は甲3に記載された構成を適用しても,相違点5における本件発明の構成を得ることはできない。」と判断した。
しかし,審決の判断には誤りがある。
本件発明と「甲1発明に甲2,3記載の技術を組み合わせたもの」との相違点は,本件発明が「表示画面上でカラーテーブルを伸縮させることにより設定範囲の上限・下限と『対応する位置』に表示している」のに対して,「甲1発明に甲2,3記載の技術の組合せたもの」は,「表示画面上ではカラーテーブルの幅を維持したまま,“△”及び“▲”というスライダの『対応関係によって』設定範囲の上限・下限との対応を表示している」という点のみにあるといえる。
そして,本件発明の「甲1発明に甲2,3記載の技術を組み合わせたもの」との相違点に係る構成は,次のとおり,甲4及び甲35記載の周知技術である「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示すること」との技術を適用することにより当業者にとって容易に達成することができる。
ア甲4について審決は,甲4には,「カラーテーブルの割り当て範囲を指定する範囲指定手段として,画像とともに表示されるカラーテーブルをマウスを用いて指示すると,・・・変更前のカラーテーブル,変更後のカラーテーブル及び移動可能なレンジ・バーが表示され,当該レンジ・バーを用いて範囲を指定するものであって,変更前のカラーテーブル上における設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に変更後のカラーテーブルを表示する構成が記載されている」と認定する。甲4によれば,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示」する技術が開示され,同技術は,周知技術であるといえる。
イ甲35について甲35は,一般的な学術雑誌に掲載された論文であり,「画素ヒストグラムがカラーマップに重なって描写されている」,「当該カラーマップが,画素ヒストグラム及び当該カラーマップ上の2本の横線を用いて範囲選択可能である」,「範囲選択をした場合,画素ヒストグラムは従前の表示のままに,2本の横線の範囲内に当該カラーマップが対応的に伸縮して表示される」という技術が記載されている。同記載によれば,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示」する技術が,周知であるといえる。
ウ以上を総合すれば,本件発明の相違点5に係る構成は,「甲1発明に甲2又は甲3に記載されたもの」に周知技術(甲4,35)を適用することによって,容易に想到できたといえる。
(2)甲1発明と甲4技術の組合せの認定を誤り,相違点5に係る構成を容易想到ではないと判断した誤り(取消事由2) 審決は,甲1発明に甲4技術の構成を採用したとしても,「画像や輝度分布とは独立した表示部であるメニュー中に,変更前のカラーテーブル,変更後のカラーテーブル及びレンジ・バーが表示される構成が得られるだけであって,「カラーテーブル」を,表示された「前記輝度分布」上における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限」と対応する範囲内の位置に表示する構成を得ることはできない。」と判断した。
しかし,審決の判断は誤りである。
甲1発明は,カラーマップ(表示用画像データ)の表示と同時に,スカラ量の分布(輝度分布)をグラフで表示することにより,特異点を容易に認識し,色付け範囲から外すことで特異点以外の任意の区間を詳細に表示することを可能としたところに改良点がある(甲1・1頁Abstract)。すなわち,甲1発明は,「輝度分布を確認しながら色付け範囲を設定する」ところにその技術思想が存するのであって,輝度分布を除いたカラーバー(カラーテーブル)のみにより色付け範囲を設定することは想定されていない。このことは,甲1において,ヒストグラム(輝度分布),カラーバー(カラーテーブル)及びカラーマップ(表示用画像データ)を同時に表示することが開示されていることからも明らかである(甲1・第7欄29〜43行)。
また,ヒストグラムとカラーバー(カラーテーブル)を並列的に記載することは,ヒストグラムを参照しながらコントラストや色調を調整する目的を達成するためであり,これは,当技術分野における周知慣用技術たる画像表示装置の表示方法である(甲1〜3,5,16,18,35)。
そうすると,甲1発明に甲4技術の構成を組み合わせる場合,上記目的のために,カラーテーブルの表示の際,(たとえ,それが画像や輝度分布とは独立した表示部であるメニュー中に表示される場合であっても)輝度分布と組み合わせた形で表示されると考えるのが自然であるから,メニュー中に表示されるのは「変更前のカラーテーブル,前記輝度分布,変更後のカラーテーブル,及びレンジ・バー」となる。そして,甲4発明における,変更後のカラーテーブルが,変更前のカラーテーブルの設定された範囲の上限・下限と対応する位置に表示される(甲4・図32)ことから,甲1発明と甲4技術の組み合わせにおいても,変更後のカラーテーブルが前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する位置に表示され,本件発明の相違点5に係る構成となる。
以上によれば,甲1発明に甲4技術を適用することによって,本件発明の相違点5に係る構成を容易に想到できたといえる。
2被告の反論 以下のとおりの理由により,審決には,取り消されるべき判断の誤りはない。
(1)取消事由1(周知技術〔甲4,35〕を看過して,相違点5に係る構成を容易想到ではないと判断した誤り)に対し 甲35は,次のとおり,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示する」という周知の技術を開示するものとはいえない。したがって,上記の技術を開示する文献は甲4のみであり,甲4のみによっては周知の技術とはいえないから,本件発明の相違点5に係る構成を容易に想到することができたということはできない。
ア甲35のルックアップテーブルは逐一作り直されていること本件発明において,表示される「カラーテーブル」は,常に,輝度分割数と実質的に1対1の対応関係が維持された状態の元のカラーテーブルであり,カラーテーブルの分布の内容は作り直されない。これに対して,甲35のルックアップテーブルは,矢印の操作の度毎に作り直される(甲35の77頁左欄1〜3行,78頁左欄14〜16行,18,19行,図5,8〜14)。したがって,本件発明の「カラーテーブル」と甲35のルックアップテーブルとは,カラーテーブルの分布の内容は作り直されるか否かの点において相違する。
イ甲35のルックアップテーブルは伸縮するものではなく,本件発明の作用効果を奏しないものであること 本件発明は,常に元のカラーテーブルが表示され,設定された範囲において表示される色数は減少せずフルカラーレンジと同じであって,「当初の全輝度範囲に対応して表示されたカラーテーブルから変動させるものとして,輝度分布(ヒストグラム)を見ながら,この輝度分布の特定部分に特定の配色を行うなどという操作が可能になる」(甲30の段落【0024】,乙1の26頁9行目以下)という作用効果を有する。これに対して,甲35のルックアップテーブルは,矢印の操作に従って伸縮するものではなく,また,矢印によって「設定された輝度分布の範囲」においては,該設定された範囲に対応する,当初よりも限定された大きさのマトリックスの行数と同じ色数まで表示の色数が減少し,設定の範囲を狭めるほどに色数が減少する(甲35の図7〜14など)。したがって,本件発明の「カラーテーブル」と甲35のルックアップテーブルとは,上記の点において,相違する。
ウ以上のとおり,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示すること」は,周知技術とはいえない。したがって,「甲1発明と甲2又は甲3に記載された技術を組み合わせたもの」に甲35,甲4を適用することもできないから,本件発明の相違点5に係る構成を想到することが容易でないとした審決の判断に誤りはない。
(2)取消事由2(甲1発明と甲4技術の組合せの認定を誤り,相違点5に係る構成を容易想到ではないと判断した誤り)に対し以下のとおり,甲1発明と甲4技術を組み合わせて,本件発明の相違点5に係る構成を想到することは容易でないとした審決の判断に誤りはない。
ア甲1発明に甲4技術を適用する動機付けがないこと甲1発明に甲4技術を適用するに当たっては,当該発明の特徴点を的確に把握するとともに,先行技術の内容の検討に当たっては,当該発明の特徴点に到達できる試みをしたであろうという推測が成り立つのみでは不十分であり,当該発明の特徴点に到達するためにしたはずであろうとの示唆等が存在することが必要である。
甲1発明には,本件発明の特徴点である「『分析手段側から得られる画像データに基づいて,色付けを行なう輝度分布の範囲を設定する前に作成された輝度分布』を表示するとともに,表示された『前記輝度分布』における『前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内』の位置に,カラーテーブルを表示すること」は開示されていない。そして,甲4技術には,本件発明の特徴点である「表示された『前記輝度分布』における『前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内』の位置に,カラーテーブルを表示する」ことに到達するためにしたはずであるとの示唆等は存在しない。
したがって,甲1発明において,画像や輝度分布とは独立した表示部であるメニュー中ではなく,画像や輝度分布と同じ表示部中に直接表示するために,甲4技術の開示する「画像とは独立した表示部であるメニュー中に,変更前のカラーテーブル,変更後のカラーテーブル及び移動可能なレンジ・バーが表示され,当該レンジ・バーを用いて範囲を指定するものであって,変更前のカラーテーブル上における設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に変更後のカラーテーブルを表示する構成」を組み合わせる動機付けはないというべきである。
イ甲1発明に甲4技術を組み合わせる阻害要因が存在すること甲1発明は,特異値を取り除く前後のヒストグラムを同時表示することによって,各々の比較を可能にし,特異値の取り除きを視覚的に確認することができるとする発明である。仮に,「表示された「前記輝度分布」における「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内」の位置に,カラーテーブルを表示する」との構成を採用すると,複数のヒストグラムを表示する甲1発明の目的を達成することができなくなる。
仮に,甲1発明の技術的特徴が,ヒストグラムが書き換えられることにより,カラーテーブルを縮小表示することなく,ヒストグラムとカラーテーブル上の色合いとの対応関係を明瞭に表示できることにあるとするならば,甲1発明に,甲4技術を組み合わせることにより,カラーテーブルを縮小表示することは,甲1発明の技術的特徴を失わせることになる。
したがって,甲1発明に甲4技術を組み合わせることについて,阻害要因があるといえる。
第4当裁判所の判断 当裁判所は,以下のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がないものと判断する。
1取消事由1(周知技術〔甲4,35〕を看過して,相違点5に係る構成を容易想到ではないと判断した誤り)について原告は,本件発明と「甲1発明に甲2,3記載の技術を組み合わせたもの」との相違点は,本件発明が表示画面上でカラーテーブルを伸縮させることにより設定範囲の上限・下限と「対応する位置」に表示しているのに対して,「甲1発明に甲2,3記載の技術の組合せたもの」は,「表示画面上ではカラーテーブルの幅を維持したまま,“△”及び“▲”というスライダの『対応関係によって』設定範囲の上限・下限との対応を表示している」という点のみにあることを前提とし,その上で,本件発明は,「甲1発明に甲2,3記載の技術を組み合わせたもの」に甲4,35記載の「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示すること」との周知技術を適用することにより当業者にとって容易に達成することができる,と主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,その前提において,失当である。
(1)本件発明が,「甲1発明に甲2,3記載の構成を組み合わせたもの」に,甲4等記載の周知技術を適用することにより容易に想到し得るかについて 前記のとおり,審決によれば,本件発明と甲1発明との相違点5は,表示される「輝度分布」が,本件発明では「前記輝度分布」であるのに対して,甲1発明では,「区間指定手段により指定された区間についてのみのヒストグラム」であること,また「輝度分布,カラーテーブル,及び表示用画像データを表示する手段」が,本件発明では,「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する」ものであるのに対して,甲1発明では,そのような構成であるかどうか明らかでない点である。すなわち,相違点5は,輝度分布とカラーテーブルの表示の態様の両者を捉えて,相違するとしたものである。
そして,本件発明においては,「前記カラーテーブルを前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内に表示する」ことから,「輝度分布」の「範囲」が設定されたことによって定まる「前記設定された輝度分布の範囲の上限・下限と対応する範囲内」に「カラーテーブル」を表示することを特定しているのに対して,甲1発明においては「指定された区間についてのみのヒストグラム」も「あらかじめ設定済みの分割数で等分割された」ものとして表示され,これと対応づけられるように「カラーバー」である「カラーテーブル」を表示するから,区間が指定されたことによって定まる範囲内に「カラーテーブル」を表示することは,特定されない。そうすると,本件発明が輝度分布上の範囲が設定されたことによって定まる位置にカラーテーブルを表示する態様を示すものであるのに対して,甲1発明はそのような態様により表示するものとはいえない点において相違するものであり,相違点5は,そのような技術的な観点を含んだ相違点であるといえる。
審決(審決44頁18行ないし31行)が認定するとおり,本件発明の特徴たる作用効果は,色付けを行う輝度分布の範囲の設定と画像表示とを繰り返し,色付けを行う輝度分布の範囲の設定がなされるたびに,少なくとも設定された後のタイミングで設定された輝度分布範囲の上限・下限と対応する範囲内にカラーテーブルが表示されることといえる。そして,本件発明は,相違点5に係る構成を採用したことにより,いったん色付けを行う輝度分布の範囲を設定して画像表示した後に,さらに輝度分布範囲を変更調整して設定する場合,表示用画像に対応したカラーテーブルの「前記輝度分布」に割り当てをする対応関係,すなわち,輝度分布のどの辺りの位置にどのような色が割り当てられているかを表示画面上で確認することを可能とし,さらに,設定された輝度分布の範囲外の輝度分布も視認しながら,輝度分布範囲の変更調整を行うことを可能とし,例えばいったん輝度分布範囲を縮めて設定した後に,当該範囲を少し広げるように調整して再設定する場合等の操作性を向上させることを可能とするものである。
他方,甲2及び甲3は,輝度分布における範囲の指定に用いるスライダ(「入力レベル」スライダ)とは別のスライダ(「出力レベル」スライダ)により「カラーテーブル」の割り当て範囲を指定する技術が記載されているのであって,輝度分布上の範囲が設定されたことによって定まる位置にカラーテーブルを示すという態様によって表示するという本件発明の技術上の特徴たる構成を備えていない。
また,甲4では,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示すること」が記載されているものの,輝度分布を表示する技術が開示されていないため,輝度分布上の範囲を設定することによって定まる位置にカラーテーブルを示すという態様によって表示するという本件発明の技術上の特徴たる構成を備えていない。
してみると,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示すること」(甲4)との技術が周知であるか否かにかかわらず,「甲1発明に甲2,3記載の構成を組み合わせた技術」を基礎として,さらに上記甲4の技術を適用したとしても,相違点5において摘示された本件発明の相違点5に係る構成に想到し得ないものである。
なお,原告は,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示する」という技術が周知であることを示す証拠として,審判手続には提出されていない甲36,37も提出するが,上記と同様,これらに基づいて原告の主張を認めることはできない。
よって,原告の主張は,その前提を欠くものであって,採用の限りでない。
(2)本件発明が,「甲1発明に甲2,3記載の構成を組み合わせたもの」に,甲35記載の周知技術を適用することにより容易に想到し得るかについて 甲35は,審判手続には提出されていない証拠である。この点,原告は,甲35は,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示する」という技術が周知であることを示す証拠であるから,本訴において提出することは許されると主張する。
原告の主張によれば,甲35記載の技術内容は,?画素ヒストグラムがカラーマップに重なって描写されている,?当該カラーマップが,画素ヒストグラム及び当該カラーマップ上の2本の横線を用いて範囲選択可能である,?範囲選択をした場合,画素ヒストグラムは従前の表示のままに,2本の横線の範囲内に当該カラーマップが対応的に伸縮して表示される,というものである。原告の主張を前提とすると,本件発明の相違点5に係る容易想到性を立証する先行技術として,無効審判において提出された甲2ないし4記載の技術とは,少なくとも,上記?の点において相違する。そうすると,甲35は,無効審判手続において原告が主張した無効理由について,単に出願当時の周知技術を立証するための補強資料にすぎないとはいえず,新たな引用例に基づいた主張を根拠づけようとする資料というべきである。したがって,本訴において,甲35に基づいて審決の適否を判断することはできないというべきである。
(3)小括 以上によれば,「甲1発明に甲2,3記載の構成を組み合わせたもの」と,本件発明の構成との相違点は,甲4及び甲35記載の周知技術,すなわち,「ある設定された範囲の上限・下限と対応する範囲内の位置に,カラーテーブルを表示する」との技術を適用することにより当業者にとって容易に達成されるとする原告の主張は,原告の主張を前提としたとしても,失当である。
2取消事由2(甲1発明と甲4技術の組合せの認定を誤り,相違点5に係る構成を容易想到でないと判断した誤り)について 当裁判所は,甲1発明に甲4技術を組み合わせる動機付けが存しないとして,両者を組み合わせることにより,相違点5に係る構成に至ることは容易とはいえないとした審決の判断に誤りはないと解する。その理由は,以下のとおりである。
(1)事実認定ア甲1発明甲1発明は,前記第2,3,(2) 記載のとおりである(争いはない)。
また,甲1のAbstract (訳文)によれば,「ある形状を持った表示対象物の形状情報と,当該表示対象物上のサンプリング点におけるスカラ量の大きさとを用いて,等高線および/またはカラーマップにより当該表示対象物上のスカラ量分布を表示するスカラ量分布表示方法において,改良点は,前記等高線および/またはカラーマップによる表示と同時に,前記スカラ量の分布をグラフで表示することからなる。スカラ量分布が同時に表示されるため,スカラ量のいかなる特異点その他を容易に認識可能である。」,「本発明の目的は,特異値以外の部分でさえも詳細に表示することができ,また表示色による絶対的な比較ができる等,データの解析が容易なスカラ量分布表示方法及びシステムを提供することにある。本発明は上記目的を達成するためになされたもので,・・・ある形状を持った表示対象物の形状情報と,該表示対象物上のサンプリング点におけるスカラ量の大きさとを用いて,等高線および/またはカラーマップにより該表示対象物上におけるスカラ量の大きさの分布を表示するスカラ量分布表示方法において,上記等高線および/またはカラーマップによる表示と,同時にまたは前に,スカラ量の大きさ分布をグラフで表示することを特徴とするスカラ量分布表示方法が提供される。この場合,上記グラフは,全サンプリング点でのスカラ量の大きさを含む範囲についてのヒストグラムであることが好ましい。」と記載されている。
イ甲4技術甲4には,以下の記載がある。
「【0005】また,医療画像処理においては,原画像のピクセル値に対応して色表示をすることが行われるが,使用するカラーマップはフルカラーであることが要求されることが多い。色表示を種々変更して原画像の検討をする場合,フルカラーそのままで種々変更して表示する場合には,少なからず時間がかかっていた。
【0006】【発明が解決しようとする課題】本発明は,これらの不都合を解消するために,以下の目的を達成できる画像処理装置を提供するものである。・・・【0012】(6)医療画像の表示における色表示の検討操作の効率を上げること。
【0013】【課題を解決するための手段】かかる目的を達成するために,本発明は,ファイルに格納された複数の原画像データの中から所望の原画像データを選択し,選択された原画像データを前記ファイルからメモリーに読み込んで処理し,2次元または3次元画像を作成し,これを表示する画像処理装置において,前記原画像データに対応するアイデンティファイアを表示する手段と,原画像データを前記メモリーに実際に読み込む前に,前記アイデンティファイアを選択することによって,表示に関するスクロール範囲および処理に関する適用範囲を設定する設定手段と,該設定手段によって設定された原画像データのみを前記ファイルから読み出す手段とを具備することを特徴とする。・・・【0019】さらに,医療画像処理において,擬似カラーとフルカラーのルックアップテーブルを切替えて画像の色付を変更し,その変化をリアルタイム表示することによって,効率的な画像の色付け変更を可能にする。
・・・【0076】実施例5一般に,医療画像は1ピクセル当たり16ビット程度の情報を持つ。医療画像表示装置はこのデータの値に応じて適当な色付けを行い表示する。この時,表示のコントラストを調整し,診断などがしやすい表示を得ることが重要である。このため,複数の医療画像を同一の画面上に同時に表示する場合には,それぞれの医療画像の特性に従った,別々のカラールックアップテーブルを用意する必要がある。任意個の画像を表示することを考えると,ハードウェア的なカラールックアップテーブルを用いてこれを実現することは困難である。」(2)容易想到性の判断甲1発明は,「指定された区間についてのみのヒストグラム」を「あらかじめ設定済みの分割数で等分割された」ものとして表示し,これと対応づけて「カラーバー」である「カラーテーブル」を表示するとともに「表示対象物の形状情報」である「表示用画像データ」と「ヒストグラム」である「輝度分布」につきカラーマップ表示を行うものである。すなわち,範囲の設定の後にその範囲についての輝度分布を再構成して,再構成された輝度分布とカラーテーブルとを対応付け,この対応付けに即した輝度分布と表示用画像データのカラーマップ表示を行うものである。したがって,特異点を色付け範囲から外すべく,範囲設定を行うに当たり確認される輝度分布は,この範囲設定による再構成される前のものであると解される。
そうすると,甲1発明において,範囲の設定の際確認される輝度分布は,その範囲の設定よりも前のものであり,その際確認される表示用画像データも範囲設定よりも前のカラーテーブルにより色付けされたものであるといえる。
これに対して,甲4技術は,医療画像の特性に合わせて,診断などがしやすい医療画像表示を行うに当たり,医療画像の色データの置き換えを行うためのカラールックアップテーブル(カラーテーブル)を医療画像の横に表示するとともに,コントラスト調整を行う際に,最適な表示が得られるまでの間表示されるコントラスト調整用メニューの画面上で,このメニュー内のupper ,lower 位置を示す横線を上下に移動させてカラーテーブルを書き換え,このカラーテーブルの書き換えと画像の再転送を繰り返すことによって,コントラスト調整を行うものである。そして,この横線の移動による範囲の設定の結果となる書き換え後のカラーテーブルによる色付けがされた画像を確認しない限り,医療画像の表示が最適であると判断することはできないから,甲4記載事項における範囲の設定は,設定に伴って書き換えられた,カラーテーブルによる書き換え後の表示用画像データを確認しながら行われることを前提とするものである。
そうすると,甲1発明は,特異値を取り除いてデータの解析が容易なスカラ量分布表示方法及びシステムを提供しようとするものであって,範囲設定前の表示用画像データ及び輝度分布を確認しながら範囲を設定するものであるのに対して,甲4技術は,医療画像の表示における色表示の検討操作の効率を上げようとするものであって,範囲設定後の表示用画像データを確認しながら範囲の設定が行われることを前提としたものであるから,甲1発明に甲4技術を組み合わせる動機付けはない。
したがって,甲1発明に甲4技術を組み合わせることにより,本件発明の相違点5に係る構成に至ることが容易であるとはいえない。
3小括以上のとおり,原告主張の取消事由はいずれも理由がない。その他,原告は縷々主張するが,いずれも採用の限りではない。したがって,審決には取り消すべき違法が認められないというべきである。
第5結論 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 齊木教朗
裁判官 武宮英子