• この表をプリントする
  • ポートフォリオ機能


追加

関連審決 無効2009-800054
この判例には、下記の判例・審決が関連していると思われます。
審判番号(事件番号) データベース 権利
平成22行ケ10307審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10038審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10370審決取消請求事件 判例 特許
平成22行ケ10252審決取消請求事件 判例 特許
平成21行ケ10253審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  新規性 /  進歩性(29条2項) /  容易に発明 /  周知技術 /  技術常識 /  発明の詳細な説明 /  パリ条約 /  優先権 /  補正要件 /  着想 /  参酌 /  数値限定 /  技術的意義 /  容易に想到(容易想到性) /  実施 /  構成要件 /  設定登録 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  変更 /  要旨変更 / 
元本PDF 裁判所収録の全文PDFを見る pdf
事件 平成 22年 (行ケ) 10015号 審決取消請求事件
原告新明和工業株式会社
訴訟代理人弁護士 小松 陽一郎
同 福田 あやこ
同 宇田浩康
同 井崎康孝
同 辻村和彦
同 井口 喜久治
同 川端 さとみ
同 森本純
同 中村理紗
同 山崎道雄
同 辻淳子
同 藤野睦子
被告アイティ ティ ウォーター アン ドウェイストウォーター アクチボラ グ
訴訟代理人弁護士 鈴木修
同 嶋田英樹 2
同 小野智博
訴訟代理人弁理士 星野修
同 伊藤孝美
同 鐘ヶ江 幸男
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/01/31
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 1原告の請求を棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が無効2009-800054号事件について平成21年12月11日にした審決を取り消す。
第2当事者間に争いのない事実1特許庁における手続の経緯被告は,特許第3117169号(発明の名称を「レベル・センサ」。以下「本件特許」という。)の特許権者である。
本件特許は,平成5年4月27日,出願されたが(特願平5-101428号。
パリ条約による優先権主張平成4年4月28日,スウェーデン国。以下,出願当初の明細書を図面とともに「当初明細書」という。甲6の1。なお,当初明細書の図1ないし3は,別紙図面1ないし3のとおりである。),平成10年6月25日付けで拒絶査定がされた。これに対し,被告は,平成10年10月5日付け(同月6日受付)で審判請求をし,平成12年8月3日付け手続補正書(甲6の14)によって,特許請求の範囲(請求項1),発明の詳細な説明の【0010】を補正した(以下「本件補正」といい,本件補正後の明細書を図面とともに「本件明細書」という。なお,本件明細書の図1ないし3は,当初明細書の図1ないし3(別紙図面1ないし3)と同一である。)。特許庁は,平成12年8月22日,「原査定を取り消す。本願の発明は,特許すべきものとする。」との審決をし,同年10月6日に3本件特許の設定登録がされた(請求項の数5)。
原告は,平成21年3月5日付けで,特許庁に対し,本件特許の特許請求の範囲(請求項1)記載の発明(以下「本件発明」という。)についての特許を無効とすることを求めて無効審判を請求した(無効2009-800054号)。特許庁は,平成21年12月11日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決(以下,単に「審決」という。)をし,その審決の謄本は,同月23日,原告に送達された。
2特許請求の範囲の記載(1)当初明細書(甲6の1)によれば,当初出願に係る特許請求の範囲(請求項1)の記載は,以下のとおりである。
【請求項1】ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置した電気スイッチ,マイクロスイッチ(15)に接続した電気ケーブル(2)に取付け懸架している中空本体(1)を含み,前記スイッチは本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離し位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された重りは中空本体内で支持され,2つの異なる終端位置の間で回転可能であり,平衡重りの表面の一方がマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動させるよう配置され,空気中に囲まれている時にセンサの全重量の少くとも30%の重量である平衡重り(9)はセンサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時にセンサを通る垂直線の横に重心(10)がある,電気機能の接続/切離し用のレベル・センサ。
(2)本件明細書(甲1)によれば,本件補正後の特許請求の範囲(請求項1)の記載は,以下のとおりである。
【請求項1】ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したマイクロスイッチ(15)に接続された電気ケーブル(2)に自由懸垂状態に取付けら4れた中空本体を含み,前記スイッチは前期(判決注:「前記」の誤記。)中空本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された当該可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として 回転可能に支持され,前記平衡重りの表面の一つがマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動するように配置され,前記平衡重りの重量は,前記中空本体(1),前記マイクロスイッチ(15),平衡重り(9),及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段(5,6,7,8)から成るセンサが 空気によって囲まれている時該 センサの全重量の少なくとも30%であり,前記 平衡重り(9)は,前記 センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心 を通る垂 直線の側方 に重心(10)があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり,液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブル(2)から自由懸垂状態にあることを特徴とするレベル・センサ。
3審決の理由審決の理由は,別紙審決書写しのとおりである。要するに,審決は,?本件補正には,補正要件違反はなく,出願日の繰り下げに基づく新規性及び進歩性の欠如はない,?本件発明は,甲16(実公昭52-42767号公報)記載の発明を基礎として,これに甲18(スウェーデン特願8405668-8号明細書),甲19(実公昭42-10534号公報)記載の発明及び周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に発明をすることができたとはいえず,また,甲18記載の発明を基礎として,これに甲16,17(フィンランド特許第42382号公報),19記載の発明及び周知技術を組み合わせることによって,当業者が容易に発明をすることができたとはいえない,?本件発明には,平成6年改正前の特許法(以下「旧特許法」という。)36条5項1号,同条同項2号,同条4項の規定に反しないから,本件特許を無効とすることはできないとするものである。
審決は,上記結論?を導くに当たり,甲16,甲18記載の発明及びこれらと本5件発明との一致点及び相違点を次のとおり認定した。
(1)甲16記載の発明タンク内の液面に応じて水中ポンプを起動するようなポンプの自動制御用の液面検出スイッチにおいて,フロートA内に配置したリミットスイッチ4に接続された可撓性ケーブル8に垂れ下がっている状態に取付けられたフロートAを含み,前記リミットスイッチ4は前記フロートA内に配置した重錘5の助けにより接続/切離位置へ作動され,リミットスイッチ4の底部に重錘5を固定し,リミットスイッチ4の作用片6側の作用片6と反対の端部附近を軸7によりフロートAに枢着して,リミットスイッチ4の作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるものであり,液面下にあるとき液面検出スイッチは垂直位置から傾き本体1が上になり,キャップ2が下になる状態にある液面検出スイッチ。
(2)本件発明と甲16記載の発明の一致点ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したスイッチに接続された電気ケーブルに自由懸垂状態に取付けられた中空本体を含み,前記スイッチは前記中空本体内に配置した重りの助けにより接続/切離位置へ作動され,液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾くレベル・センサ。
(3)本件発明と甲16記載の発明の相違点Aスイッチについて,本件発明は「マイクロスイッチ」であるのに対して,甲16記載の発明は「リミットスイッチ」である点。
B重りの動作について,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,前記平衡重りの表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は間接的に作動するように配置され」ているのに対して,甲16記載の発明は「リミットスイッチ4の底部に重錘5を固定し,リミットスイッチ4の作用片6側の作用片6と反対の端部附近を軸7によりフロートAに枢着して,リミットスイッチ4の6作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるもの」としている点。
C重りの重量について,本件発明は「前記平衡重りの重量は,前記中空本体,前記マイクロスイッチ,平衡重り,及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%」であるのに対して,甲16記載の発明はその重量について不明である点。
D重心について,本件発明は「前記平衡重りは,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」としているのに対して,甲16記載の発明は重りの重心位置もセンサ全体の重心位置も不明である点。
E液体中に浸漬されているときのセンサの状態について,本件発明は「液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブルから自由懸垂状態にある」のに対して,甲16記載の発明は「液面下にあるとき液面検出スイッチは垂直位置から傾く」ものの,「なお電気ケーブルから自由懸垂状態」かどうか不明である点。
(4)甲18記載の発明液体の液位に応じて電気ポンプを作動・停止するような電気回路を閉じる又は遮断するための液位センサーにおいて,中空体1内に配置したスイッチ装置3に接続された電気ケーブル2に垂れ下がった状態に取付けられた中空体1を含み,前記スイッチ装置3は前記中空体1内に配置したおもり5の助けにより閉じる又は遮断する位置へ作動され,おもり5は中空体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され,前記おもり5の表面の1つがスイッチ装置3を直接的に作動するように配置され,液体中に沈んでいるとき液位センサーは鉛直線に対して著しく傾いている液位センサー。
(5)本件発明と甲18記載の発明の一致点ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するよう7な電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したスイッチに接続された電気ケーブルに自由懸垂状態に取付けられた中空本体を含み,前記スイッチは前記中空本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離位置へ作動され,可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され,前記可動重りの表面の1つがスイッチを直接的に作動するように配置され,液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブルから自由懸垂状態にあるレベル・センサ。
(6)本件発明と甲18記載の発明の相違点Fスイッチについて,本件発明は「マイクロスイッチ」であるのに対して,甲18記載の発明はスイッチを具体的に特定していない点。
G重りの動作について,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,」としているのに対して,甲18記載の発明は「おもり5は中空体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され」としている点。
H重りの重量について,本件発明は「前記平衡重りの重量は,前記中空本体,前記マイクロスイッチ,平衡重り,及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段から成るセンサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%」であるのに対して,甲18記載の発明はその重量について不明である点。
I重心について,本件発明は「前記平衡重りは,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」としているのに対して,甲18記載の発明は重りの重心位置もセンサ全体の重心位置も不明である点。
第3取消事由に関する原告の主張審決には,補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の認定・判断の誤り(取消事由1),出願日繰下げがないとした場合,容易想到性の認定・判8断の誤り(取消事由2),重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り(取消事由3),その他の記載要件違反に係る認定・判断の誤り(取消事由4)があるから,違法として取り消されるべきである。
1取消事由1(補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の認定・判断の誤り)審決は,本件補正が発明の要旨変更に当たらないとして,本件発明につき,出願日の繰下げに基づく新規性及び進歩性の欠如は認められないとするが,かかる審決の認定・判断は,以下のとおり,誤りである。すなわち(1)補正が明細書の要旨を変更した場合とは,当該補正がされたことにより,特許請求の範囲に記載された技術的事項が,原明細書等に記載された事項,又は少なくとも出願時において当業者が原明細書等に記載された技術内容に照らし現実に記載があると認識し得る程度に自明な事項を超えるような場合を指すと解すべきである。また,当初明細書に現実に記載があると認識し得る程度に自明な事項であるというためには,現実には記載がなくとも,現実に記載されたものに接した当業者であれば,だれもがその事項がそこに記載されているのと同然であると理解するような事項でなければならず,その事項について説明を受ければ簡単に分かるという程度のものでは,自明ということはできないというべきである。さらに,当業者が,ある周知技術を前提として,当初明細書の記載から当該事項を容易に理解認識することができるというだけでは足りず,周知技術であっても,明細書又は図面の記載を,当該技術と結び付けて理解しようとするための契機(示唆)が必要であるというべきである。
(2)この点,本件補正は,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」を「該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」に変更し,同垂直線を基準線とする構成要件を新たに追加したものである。
しかし,「センサを通る垂直線」は,具体的に特定されておらず,当初明細書の発明の詳細な説明及び図面を参酌しても,せいぜい無数に存在する鉛直線のうちの一9本としか理解することができず,「センサを通る垂直線」が本件補正に係る「該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」と同一のものであると理解することはできない。当初明細書には,センサ全体の重心位置に関する記載はなく,「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置を定める基準線として規定されたものであって,センサ全体の重心位置の基準線として特定されていたものではない。また,当初明細書の図1は,センサの中空本体が空気中で吊り下げられた状態を図示しており,同図面において,センサは直立の状態で吊り下げられているところ,物体が吊り下げられた場合,当該物体の重心は吊下線の延長線上に位置するのが物理学及び力学の常識であるから,同図面に接した当業者は,センサ全体の重心は一点鎖線上にあると理解するのが自然であり,同一点鎖線が,センサ全体の重心が「側方」に位置することの基準線として記載されたものでないことは明らかである。さらに,当初明細書には,鉛直線の位置を決める「外形の中心」について全く記載がなく,図1,2記載の一点鎖線は,センサの傾斜の変化を示す線として記載されたものと解するのが自然である。
なお,被告は,審判手続きにおいて,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」は,センサの中空本体の外形を回転体として捉えた場合の回転軸であると主張していたのに対し,審決は,水平に対する鉛直方向の線であって,当初明細書の図1の一点鎖線のうち,センサの中空本体の外形部分に係る線分が鉛直方向を向いた状態のものをいうとしており,その解釈・特定が齟齬している。審決は,当初明細書の図1の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分は,空気中において,傾いて位置することを前提としており,図1の一点鎖線において,鉛直方向を向いている部分は存在しないこととなる。
(3)また,本件補正は,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)に「かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」との構成を追加するものであるが,前記(2)のとおり,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置の基準線として定めら10れていたところ,平衡重りの重心位置でセンサの傾斜方向が決まるものではないから,平衡重りの重心位置を「浮心」や「浮心を通る線」を基準として特定する必然性はなく,当初明細書の図1の一点鎖線が「センサを通る垂直線」であると解することはできない。そうすると,「センサを通る垂直線」が平衡重りの重心位置の基準線としてどのように特定されるか不明であるにもかかわらず,「中空本体全体の重心が中空本体の中心(浮心)からずれている」とすることは,新たな技術的事項を導入するものであり,当初明細書の記載から理解することはできない。
(4)したがって,本件補正は,当初明細書の要旨を変更したものに当たるから,出願日の繰下げに基づく新規性及び進歩性の欠如は認められないとした審決の認定・判断には誤りがある。
2取消事由2(出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断の誤り)仮に,本件補正が,当初明細書の要旨を変更したものに当たらないとしても,本件発明は,以下のとおり,無効理由がある。
(1)主位的主張本件発明は,以下のとおり,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができる。すなわちア本件発明と甲16の相違点Bの認定の誤り甲16記載の発明は,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって可動重りを構成しており,リミットスイッチ4と重錘5が,その自重によって,フロートA内に2つの異なる終端位置の間でリミットスイッチ4を通る軸7を中心として回転可能に支持される可動重りであるとの構成を備えている。また,甲16記載の発明は,リミットスイッチ4と重錘5の表面の一部(実際にはリミットスイッチ4の表面の一部)がスイッチを作動するように配置されている。そうすると,本件発明と甲16記載の発明は,可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,可動重りの表面の一つがスイッチを間接的に作動するように配置されるという点でも一致しており,相違点は,本件発明11は「平衡重りとして設計された当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されている」のに対し,甲16記載の発明は「可動重りであるリミットスイッチ4及び重錘5が,当該可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されている」点にすぎない。仮に,リミットスイッチ4と重錘5が一体とはいえないとしても,本件発明と甲16記載の発明は,可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で回転可能に支持され,可動重りの表面の一つがスイッチを間接的に作動するように配置されるとの点でも一致しており,相違点は,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されている」のに対し,甲16記載の発明は「可動重りである重錘5が,リミットスイッチ4の底部に固定され,リミットスイッチ4を通る軸線を中心として回転可能に支持されている」点にすぎない。
したがって,相違点Bを本件発明と甲16記載の発明との相違点とした審決の認定は誤りである。
イ相違点Bに係る容易想到性判断の誤りについてレベル・センサの技術分野においては,液中で自由懸垂状態とする構成自体は,甲18,19等にも記載されているとおり,本件特許出願当時,周知であったところ,その構成として,可動重りの重量を調整して,これを平衡重りとして設計することは,当業者であれば容易になし得る設計的事項にすぎない。また,前記アのとおり,甲16記載の発明は,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって可動重りを形成しており,該可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持される構成を具備しているところ,甲16記載の発明に,相当な大きさを有する唯一のおもりである,可動なおもり5の作用で,力のつりあいを保ち,水中において自由懸垂状態とする甲18記載の技術事項を適用することにより,平衡重りとして設計された可動重りの表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は間接的に作動するように配置することは,容易に想到することができる。
なお,発泡合成樹脂は,5メートル程度の水深には耐えるものであることからす12れば,甲16記載の発明は,液面浮遊タイプのセンサではなく,液中において,自由懸垂状態となるタイプのセンサである。また,甲20及び22記載の発明のように,液面浮遊タイプのセンサにおいても,センサ全体が液面で,どの程度傾いたときにスイッチを動作させる構成とするかは,その設計上,当然に考慮される事項であり,その傾き方向を規定する上で,センサ全体の重心を偏心させて,センサを所定方向に傾けることは,スイッチの確実な動作を実現する上で,十分な技術的意義がある。さらに,水中において自由懸垂状態となるタイプのセンサであっても,完全に水中に没した後にセンサの傾斜角度が変わることはなく,液面においてスイッチが動作するという点では,液面浮遊タイプのセンサと異なるところはない。そして,本件発明において,平衡重り単体の重心位置と平衡重りを除くセンサ全体の重心位置が中心からみて逆方向にある構成では,平衡重り単体の重心位置が中心からずれていることが,センサ全体の重心位置を中心から平衡重りの重心位置と同方向にずらすように寄与するとは限らない。
以上によれば,相違点Bは,甲16記載の発明に甲18記載の発明及び周知技術を適用することにより,容易に想到することができる。
ウ相違点Cに係る容易想到性判断の誤りについて相違点Cのうち,重量比30%には,臨界的意義ないし技術的意義はなく,甲16及び甲18に照らしても,当業者が,レベル・センサの設計上,相応の重量を持つ重りを用いることで,十分に達する数値にすぎず,かかる重量比は,液体密度とセンサの容積・形状によって決定される浮力とその作用点である浮心の位置,センサ全体の重心位置との相関関係の中で,当業者において当然に適宜選択される設計事項にすぎない。
エ相違点Dに係る容易想到性判断の誤りについてレベル・センサという技術分野において,センサ全体の重心を偏心させることの技術的意義は,センサを所定方向に倒すことで,スイッチの確実な作動を実現する点にあり,このことは液中において自由懸垂状態となるタイプか否かで変わらない。
13この点に関して,甲18,19には,液中において自由懸垂状態となるタイプのレベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成ないしセンサが液中に浸漬した時に傾く方向を一定化する構成が示唆されている。また,甲20(スペイン特許第295330号公報),甲22(実開昭62-28339号公報)及び甲28(特公昭30-9491号公報)には,センサが液体に浸漬した際に,傾く方向を一定化することで,スイッチをON/OFFする可動重りの動きを適正に規制し,スイッチの確実な作動を実現するための構成が示唆されている。以上によれば,レベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成は,本件特許出願前から,周知であったといえる。
なお,審決は,本件発明における平衡重りの重心位置は,可動重りとして機能する方向にセンサを傾かせるために特定されたものであると認定する。しかし,審決の認定した上記事項に格別の技術的意義はない。すなわち,センサの傾きを規律する重心は,センサ全体の重心と同じ位置にあり,平衡重りは,その重心位置をベアリングの直下に位置するように回転しようとするから,その重心がベアリングと同じ位置にない限りどこに位置しようとも可動重りとして機能する。したがって,平衡重りの重心が「中空本体の外形の中心を通る垂直線」を基準として側方にあり,かつセンサ全体の重心が同垂直線を基準として同じ側方にあることに,何らかの技術的意義はない。レベル・センサの可動重りが機能するように,その重心位置を決めることは,設計的事項にすぎない。
したがって,相違点Dは,甲16記載の発明に甲19記載の発明又は周知技術を適用することで,容易に想到することができる。
オ以上によれば,本件発明は,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができる。
(2)予備的主張仮に,前記(1)の主位的主張が認められないとしても,本件発明は,以下のとおり,甲18記載の発明に,甲16,17,19記載の発明及び周知技術を組み合わせる14ことにより容易に想到することができる。すなわちア本件発明と甲18の相違点Gの認定の誤り甲18記載の発明は,本件発明と同じく,センサが液体に浸漬された際に自由懸垂状態となるタイプのレベル・センサであって,かつ重りとしては可動重りであるおもり5のみが単体で存在する構成を備えている。また,重りは,重量調整を本来の役割とするところ,甲18では,おもり5が中空体内の相当の部分を占める部材として図示されており,おもり5による重量調整によって力のつりあいを保ち,センサが液体に浸漬された際に自由懸垂状態となる構成を実現しているものと理解することができる。そうすると,甲18記載のおもり5は,平衡重り又は平衡重りとして設計された可動重りに該当するから,本件発明と甲18記載の発明は,「平衡重りとして設計された可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され,前記平衡重りの表面の一つがスイッチを直接的に作動するように配置され」る点でも一致しており,相違点は,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されている」のに対し,甲18記載の発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りであるおもり5が中空体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され」るとしている点にすぎない。
したがって,相違点Gを本件発明と甲18記載の発明との相違点とした審決の認定は誤りである。
イ相違点Gに係る容易想到性判断の誤りについて前記アのとおり,甲18記載の発明は,「平衡重りとして設計された当該可動重り」との構成を備えている。また,本件特許出願前の技術水準に照らせば,レベル・センサの技術分野において,水中において自由懸垂状態とするための構成として,可動重りの重量を調整して,これを平衡重りとして設計することは,当業者であれば容易になし得る設計的事項にすぎない。
これに対し,審決は,甲18記載の発明の重りは,あくまで可動重りであって平15衡重りとして設計されたものではないし,中空本体全体の重量をもって平衡機能を発揮する甲18記載の発明において,可動重りを平衡重りとすることについてまで設計的な事項であるとはいえないとした上で,甲16記載の重錘5は可動重りではなく,錘を通る軸線を中心として回転可能に支持されるものではない,甲17記載の重り5は平衡重りとして設計されていないし,重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されていない,甲19の作動錘3は平衡重りとして設計されていないし,重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されるものではないとし,甲18記載の発明に,上記刊行物に記載された構成を適用することで,相違点Gに係る構成とすることはできないと判断している。
しかし,前記のとおり,甲18記載のおもり5は,センサを水中において自由懸垂状態とするための平衡重りとして設計されたものであり,おおよその旋回中心であるおもり5の下面の左縁部で軸支し,回転可能に支持することは,当業者が適宜なし得る設計的事項である。また,甲16のリミットスイッチ4と重錘5は一体となって可動重りを形成しており,リミットスイッチ4を通る軸7を中心に回動可能に支持されている。さらに,甲17の重り5及び甲19の作動錘3が平衡重りであるか否かはさておき,これによって,重りが回転可能に軸支される構成が開示されている。
以上からすれば,相違点Gは,甲18記載の発明に,甲16,17及び19に記載された構成を適用することで,容易に想到することができる。
ウ相違点Hに係る容易想到性判断の誤りについて前記(1)ウのとおり,30%という重量比を表す数値には,臨界的意義も技術的意義もない上,甲18記載の発明においても,おもり5は図面上相当の大きさを占めており,当業者であれば,おもり5の重量がセンサ全体の重量の30%以上に達していることを容易に認識することができる。相違点Hの30%という数値は,液体密度とセンサの容積・形状によって決定される浮力とその作用点である浮心の位置,センサ全体の重心位置との相関関係を考慮して,当業者において当然に適宜選択さ16れる設計的事項にすぎない。
エ相違点Iに係る容易想到性判断の誤りについて甲18の図面では,中間板7の左端に中空体1の内壁に接し,おもり5の左下側部を受け止める部材が設けられ,また中空体1の頂部におもり5の上面右端部を停止する部材が設けられ,更に電気ケーブル2が中空体1の右側を通ってスイッチ装置3に連結されており,甲18記載の発明において,センサ全体の重心位置が左側に偏心しており,おもり5が液面下において左方向に傾くことが予定されていることが開示又は示唆されている。また,甲18の図面では,スイッチ装置3その他の部材が右側に設けられているにもかかわらず,センサ全体の重心が左側に偏心していることからすれば,おもり5の重心も左側にあるといえる。さらに,本件発明のセンサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置は,いずれもレベル・センサの技術分野においては設計的事項又は周知技術にすぎず,甲19にはそのいずれの構成も開示されている。
したがって,相違点Iは,甲18記載の発明に甲19記載の発明及び周知技術を適用することで,容易に想到することができる。
オ以上によれば,本件発明は,甲18記載の発明に,甲16,17,19記載の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができる。
3取消事由3(重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り)本件特許の特許請求の範囲(請求項1)のうち「前記平衡重りの重量は,・・・センサが空気によって囲まれている時該センサの全重量の少なくとも30%であり,・・・」との記載は,以下のとおり,サポート要件(旧特許法36条5項1号)に違反する。すなわち,(1)本件発明は,平衡重りが,平衡重りとしても可動重りとしてもその機能を発揮していない段階,すなわちセンサが空気に囲まれている状態において,センサの全重量の30%以上と規定しているにすぎず,かかる記載の技術的意義が,平衡重りとして機能し,かつ可動重りとしても機能するための重量を規定したものと一義17的に理解することはできない。また,本件明細書の段落【0016】には,マイクロスイッチを確実に停止させるために,平衡重りがレベル・センサの全重量のかなりの部分を構成するとの記載があるものの,重量比の下限については「受入れ可能な安全性を得る最小値は全重量の30%である」と記載しているにすぎず,30%が平衡重りとして機能し,かつ可動重りとして機能するための最小値である旨は記載されていない。さらに,本件明細書の発明の詳細な説明には,重量比の最小値を30%と規定した旨が単に形式的に開示されているのみで,重量比を30%以上とすることにより実現される具体的な効果,30%という臨界を選択した科学的根拠,かかる数値限定を設けるための前提条件の有無・内容,本件特許の具体的課題であるマイクロスイッチの確実な停止と重量比30%との関係についての記載がなく,上記数値がどのような技術的な意味をもつか当業者であっても理解できない。
(2)本件発明は,液位レベルの変化に伴い回転軸を中心として平衡重りが回転することにより,マイクロスイッチが接続/切離位置へ移動する構成であるところ,その作動を確実にするためには,中空本体の主水平位置における具体的な傾斜角度,中空本体の移動時点,平衡重りの移動に伴うセンサの重心位置の移動等の具体的構成の決定が不可欠であり,具体的構成と関わりなく,平衡重りとセンサ全体の重量比を30パーセント以上と定めたところで,レベル・センサの動作を確実にするとの効果との関係で,技術的な意味はない。
(3)センサの全体重量に相当する重力は,センサ全体の重心に作用するのであるから,センサに作用する力の大きさ及び作用点は,平衡重りのセンサ全体に対する重量比の値によって決まるものではない。また,液中におけるセンサの傾きの姿勢は,吊点,重力及び重心の位置・浮力及び浮心の位置によって決定される。そうすると,平衡重りの重量は,センサ全体の重力の一部を構成するものにすぎないのであって,平衡重りのセンサ全体に対する重量比は,センサに働く力のつり合いについて,何ら技術的意義を有するものではない。また,平衡重りのセンサ全体に対する重量比は,モーメントのつり合いにおいても,何ら技術的意義を有するものでは18ない。
(4)これに対し,被告は,重量比30%の技術的意義について縷々主張している。
しかし,本件発明は,平衡重りとして設計された可動重りが,中空本体の傾斜に伴い,平衡重りを通る軸線を中心に回動してスイッチングする構成を採用しているのであって,可動重りの回動方向(スイッチングの方向)と直交する方向の回転は,本件発明の課題とは関連性がない上,センサが水流によって回転することも想定できない(流体の流れが大きい場合には,センサは流れの方向に並進運動し,流れに逆らって循環することはない。)。また,平衡重りのセンサ全体に対する重量比と,回転軸を中心として回転運動した時に元へ戻る力との間に物理的関連性はない。
(5)以上のとおり,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)のうち平衡重りのセンサ全体に対する重量比30%との記載は,本件発明の課題解決のための技術的意義を有しておらず,サポート要件(旧特許法36条5項1号)に違反する。
4取消事由4(その他の記載要件違反に係る審決の認定・判断の誤り)(1)審決は,本件特許の特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体の外形の中心」につき,図面に記載された一点鎖線によって,「センサの中空本体の外形の中心」が明示されていると認定する。
しかし,一点鎖「線」をもって,「センサの中空本体の外形の中心」(点)が明示されているとはいえない。本件明細書の発明の詳細な説明には,「センサの中空本体の外形の中心」についての記載はなく,図面における一点鎖線の記載のみでは,「センサの中空本体の外形の中心」の意義が明らかであるとはいえない。そうすると,上記「センサの中空本体の外形の中心」の記載は,発明の詳細な説明に記載がなく,その意議が不明確であり,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項が記載されておらず,また,当業者が容易にその実施をするだけの記載を欠くものであるから,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項の要件を充足していない。
(2)審決は,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体19の外形の中心を通る垂直線」について,図1の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分が鉛直方向を向いた状態のように,水平に対する鉛直方向の線が,センサの中空本体の外形の中心を通る状態の垂直線であることが明示されていると認定する。
しかし,審決の上記認定は,本件明細書の図1の一点鎖線のうち「センサの中空本体の外形部分にかかる線分」の部分だけを取り上げて,それが「鉛直方向を向いた状態」であるとするものであって,十分な根拠が示されているとはいえない。
したがって,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」の記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項の要件を充足しない。
(3)審決は,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の「前記平衡重り(9)は,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり」及び「前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」との記載について,平衡重りが下となる水平姿勢となるように傾かせるためには,センサ全体の重心を平衡重りの重心のある側にずらさなければならず,どの程度同じ側にするかについては,厳密な同一側を含むことはもちろん,マイクロスイッチが作動するように傾く範囲内であればよいことは自明であると認定する。
しかし,立体において,「線」の「側方」,「線」に対して「同じ側方」がいかなる意義を有するのか不明であるから,上記特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項の要件を充足しない。
第4被告の反論1取消事由1(補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の認定・判断の誤り)に対し本件補正における「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」は,当初明細書の図1において一点鎖線で示されたものであり,本件補正は,願書に最初に添付20した明細書又は図面に記載した事項の範囲内でなされたものであるから,要旨変更に当たらない。また,審決は,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」とは,当初明細書の図1の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分が鉛直方向を向いた状態のものであると認定しているところ,これは,上記一点鎖線のうち,可撓性の電気ケーブル2を通るために鉛直方向を向いていない部分を除いたものである。さらに,被告と審決はともに,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」を,当初明細書の図1に示される一点鎖線であると特定しており,その解釈にも齟齬はない。
したがって,本件補正には補正要件違反はなく,原告の出願日繰り下げに基づく新規性及び進歩性欠如の主張には理由がない。
2取消事由2(出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断の誤り)に対し(1)主位的主張に対し本件発明は,以下のとおり,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易想到であるとはいえない。すなわちア相違点Bの認定の誤りに対し甲16記載の発明は,フロートに発泡合成樹脂を用いているところ,発泡合成樹脂を水中に完全に沈めると,水圧により発泡合成樹脂の気泡が不可逆的に潰れてハウジングが変形しかねず,発泡性の合成樹脂を採用した意味がなくなるから,液中において,自由懸垂状態となるセンサではない。
イ相違点Cに係る容易想到性判断の誤りに対し本件明細書の段落【0016】には,マイクロスイッチを確実に機能させるために平衡重りの重量を相対的に重くすべきとして,具体的な数値を挙げており,重りの重量比の技術的効果が明確に記載されている。また,中心からずれた位置に重心がある平衡重りとセンサ全体の重量比は,センサ全体の重心位置に影響を与える要素となり,センサの液中での安定的な平衡作用の実現,マイクロスイッチの確実な21作動に関して,技術的意義を有する。
これに対し,甲16記載の発明は,本件発明のように液中に完全に沈んだ状態において自由懸垂状態となるセンサではなく,液中には完全に浸漬せずに液面に浮遊するフロート型のセンサであり,本件発明のように液中に浸漬した状態で安定的な平衡作用を実現する必要性が全くなく,センサが液中に浸漬した状態で安定的な平衡作用を実現するために重りの重量比を大きくしようという動機が当業者に生じることはない。また,仮に,甲16記載の発明において,重錘5の重量比を大きくしたとしても,重錘5の重心位置をセンサの中空本体の外形の中心を通る垂直線からずらすことが記載も示唆もされていないから,何ら効果が生じない。そうすると,甲16記載の発明において,センサ全体の重量との関係で重錘5の重量比が設計的事項であるとはいえない。
ウ相違点Dに係る容易想到性判断の誤りに対しセンサを構成する部品の相対的な重心位置及び重量比が,センサ全体の重心位置に影響を与えることは技術常識であるから,センサを構成する部品の中で相当の重量比を備える平衡重りの重心位置が,センサ全体の重心位置を調整するために重要な意義を有する。また,平衡重り単体の重心位置が中心からずれていることが,センサ全体の重心位置についても,中心から平衡重りの重心位置と同方向にずらすように寄与することも技術常識である。
これに対し,甲16記載の発明は,液面に浮遊するタイプのセンサであり,センサの上下が180°回転したときにスイッチを動作させる構成であるため,センサ全体の重心位置を中心からずらしてセンサが水面に着水したときに一定の方向に傾く構成を採用する必要性,合理性がなく,明細書には,センサが着水したときに傾く方向やセンサ全体の重心位置について,記載も示唆もない。
なお,甲28記載の発明は,水銀スイッチを使用しており,センサの安定性を確保するため液中に浸漬する必要があったが,より安定度の高いマイクロスイッチを採用した場合には,センサを液中に浸漬させる必要がない。また,甲28記載の発22明は,動作体を「吊下管」の下端に「可撓性接続手段」によって接続して吊り下げる位置固定型のセンサであり,ポンプからの強い流れによりセンサが大変荒く扱われるという技術課題がない。したがって,甲28記載の発明は,回転軸を中心とした回転方向の力に対するスイッチングの誤作動を防止するといった本件発明の課題について,何ら示唆を与えるものではない。
エ以上によれば,本件発明は,甲16記載の発明に,甲18,19記載の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易想到であるとはいえない。
(2)予備的主張に対し本件発明は,以下のとおり,甲18記載の発明に,甲16,17,19記載の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易想到であるとはいえない。すなわちア相違点Gに係る容易想到性判断等の誤りに対し甲18記載の発明においては,中間板7により区切られた上部のスペースにおもり5が配置され,中央に配置されるプランジャー4をおもり5により押込むことで,スイッチ装置3を動作させているところ,センサが着水したときに,センサ本体がどのような方向に傾いてもプランジャー4が押し上げられるよう構成されており,おもり5が360°あらゆる方向に傾くことが予定されている(なお,甲18の「ふたつの異なる位置を取れるようにしてあり」とは,プランジャー4を押し下げた位置と,プランジャー4が押し上げられた位置という,機能面からみた2つの異なる位置のことであり,幾何学的にはおもり5は,センサ内部であらゆる方向に移動する。)。そうすると,甲18記載の発明において,おもり5を通る軸線を中心として回転可能に支持した場合,おもり5が特定の一方向にしか移動できなくなってしまい,発明の特徴に反することとなる。
イ相違点Hに係る容易想到性判断の誤りに対し前記(1)イのとおり,本件発明において,平衡重りとセンサ全体の重量比は,技術的意義を有しているのに対し,甲18記載の発明においては,センサ全体の重心位置を調整して常に一定の方向に傾くようにする必要性が無く,むしろセンサ全体の23重心を中心に位置させることを志向するものである。そうすると,甲18記載の発明においては,おもりの重量比という技術的思想を導入する必然性がない。さらに,甲18記載の発明においては,本件発明とは異なり,おもり5単体の重心位置がおおむねセンサの中心にあるので,おもり5の重量比を大きくしたとしても,本件発明のように,センサ全体の重心位置を中心からずらす方向に作用させて,所定の方向に傾けるという技術的意義を持つこともない。
ウ相違点Iに係る容易想到性判断の誤りに対し甲18記載の発明におけるセンサ全体の重心位置は,センサの中心線上にあり,また,そのような重心位置であることによりセンサとして正しく動作するから,仮にセンサ全体の重心位置を中心からずらして所定の方向に傾くようにするという技術が公知ないし周知であったとしても,これを甲18記載の発明に適用する合理性,必然性はない。
エ以上によれば,本件発明は,甲18記載の発明に,甲16,17,19記載の発明及び周知技術を組み合わせることにより容易に想到することができるとはいえない。
3取消事由3(重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り)に対し本件明細書の段落【0016】には,重量比を最低でも30%と規定することに関して明確な記載がある。
そして,レベル・センサにおいて,水中で安定的につり合うとは,?レベル・センサに働く力の合力がゼロであり,?各力の任意の点の周りのモーメントの和がゼロであることとの条件を満たし,かつ,?水流等の外力を受けてレベル・センサが傾いても容易に元の姿勢に戻ろうとすることであり,平衡重りとセンサ全体の重量比は,上記?の安定性に影響する。この点に関し,原告は,レベル・センサが,水流によって,その回転軸を中心に回転することやこれにより誤作動を生じることは,通常は想定し得ないと主張する。しかし,水を含めた流体には,粘性があり,粘性を有する流体に流れが生じている状態においては,一般に流体の回転作用の大きさ,24すなわち流体中の物体を回転させる力の大きさを表わす循環はゼロにならない。また,レベル・センサは,下水溝などで利用され,汚水を排水するモータが作動して,汚水に強い流れが生じたり,水流による外力が常に働く状況もあり,回転させられる危険性がある。そうすると,当業者であれば,レベル・センサである本件発明が,液中における安定性の確保という解決課題を目的としていることは,明細書に記載がなくても当然に理解することができる。
さらに,本件明細書に,平衡重りのレベル・センサ全体に対する重量比がレベル・センサの外力に対する姿勢の安定に寄与することの理論的な説明が記載されていなくても,重量比30%以上でセンサの安定性が得られるとの趣旨の記載があれば,センサ全体に対する平衡重りの重量比を一定以上に大きくすることで,センサの回転中心とセンサ全体の重心との間の距離も大きくなり,その結果,復原モーメントも大きくなって,センサの安定性が大きくなるという関係があるということは,物理上の常識として理解される。
なお,本件発明では,平衡重りのセンサ全体に対する重量比は,レベル・センサの安定性に寄与しているものの,それはセンサ全体の重心がセンサの中心からずれているという構成,すなわち,センサが外力に対する安定性(復原モーメント)を有することを前提として,その復原力の大きさ,すなわち安定性の程度を調整するための1つの要素として機能しているのであり,30%という具体的な数値そのものが技術課題を直接達成する関係にある必要はない。したがって,課題解決のために組み合わせた構成から,センサ全体に対する平衡重りの重量比を少なくとも30%とするとの要件のみを切り離して,これが課題解決のために不可欠な構成であるか否かを判断するのは誤りである。
以上によれば,当業者からすれば,平衡重りとセンサ全体の重量比を一定比率以上とすることが,レベル・センサを液中においておおむね主水平位置に安定的に維持するという効果に寄与することは,明細書の記載と技術常識に基づいて容易に理解することができ,サポート要件に違反しない。
254取消事由4(その他の記載要件違反に係る審決の認定・判断の誤り)に対し本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)における「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」とは,本件明細書によれば,図1における一点鎖線を意味していることは当業者であれば容易に理解することができる。そうすると,本件特許に係る特許請求の範囲(請求項1)の「平衡重り(9)は,前記センサが・・・該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり」,「前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」との記載は明確であり,特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項について適切に記載されており,当業者は容易に理解し,実施することが可能である。
したがって,本件特許は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項に違反しない。
第5当裁判所の判断1取消事由1(補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の認定・判断の誤り)について原告は,?当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置を定める基準線として規定されていたものであるが,具体的に特定されておらず,本件補正後の「中空本体の外形の中心を通る垂直線」と同一のものであると理解することはできない,?当初明細書の図1において,センサは直立の状態で吊り下げられているところ,センサ全体の重心は一点鎖線上にあると理解するのが自然であり,同一点鎖線が,センサ全体の重心が「側方」に位置することの基準線として記載されたものと理解することはできない,?本件補正後の「中空本体の外形の中心を通る垂直線」について,被告と審決とは,解釈・特定について相違している,?当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置の基準線として定められていたところ,平衡重りの重心位置でセンサの傾斜方向が決まるものではないから,平衡重りの重心位置を「浮心」や「浮心を通る線」を基準として特定する必然性はなく,当初明細書の26図1の一点鎖線が「センサを通る垂直線」であると解することはできないとして,本件補正は,当初明細書に記載がなく,また,当初明細書から自明な事項でもないから,要旨の変更に当たると主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり,採用することができない。以下,理由を述べる。
(1)当初明細書の記載当初明細書の記載は,次のとおりである(甲6の1)。
「【特許請求の範囲】【請求項1】ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動のポンプ中のモーターを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置した電気スイッチ,マイクロスイッチ(15)に接続した電気ケーブル(2)に取付け懸架している中空本体(1)を含み,前記スイッチは本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離し位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された重りは中空本体内で支持され,2つの異なる終端位置の間で回転可能であり,平衡重りの表面の一方がマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動させるよう配置され,空気中に囲まれている時にセンサの全重量の少なくとも30%の重量である平衡重り(9)はセンサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時にセンサを通る垂直線の横に重心(10)がある,電気機能の接続/切離し用のレベル・センサ。」「【発明の詳細な説明】【0001】【産業上の利用分野】本発明は液体タンク中のレベルを測定し,各種機能を制御する装置へ信号を発生する電気レベル・センサに関係する。本発明は特にポンプを始動/停止し,警報等を開始する下水ポンプ部に用いられる。」「【0002】【従来技術】この目的のレベル・センサは従来から公知で,液体又は空気のどちらに囲まれているかに応じて垂直線に対して異なる角度を本体がとるような重量配置を有する自由懸垂型の中空水密体として設計されている。本体内の27水銀スイッチが高さに応じて電気回路を接続/切断する。」「【0008】【発明が解決しようとする課題】従って本発明は,環境に危険な材料を含まず,動作環境下で重大な歪みにさらされても誤りのない機能を果たすよう設計されたレベル・センサを得ることを目的とする。」「【0010】【実施例】図面において,1は中空本体を,2は水密入口3と入口解放部4を有する電気ケーブルを表わす。5は接続円板を表わし,取っ手6,7は接続ネジを表わし,8は軸を,9は平衡重りを,10はその重心を表わす。11,12,13,14は平衡重り9の表面を表わし,15はマイクロスイッチを,弾性作動ヨーク16を表わし,最後に17は電気ケーブルの導体を表わす。」「【0011】前述したように,中空本体の重量と容積は,液体に囲まれている時に垂直線に対して本体が強く傾た位置を取るように管理される液体の密度に適合されている。本体が反対に空気中に囲まれている時,これは主に垂直位置を取る。」「【0012】第1図(判決注:別紙図面1)に示す位置で,本体は完全に又は殆んど完全に空気により囲まれている。従って平衡重り9の重心10はベアリング6,8の左側に位置して,平衡重りはそのベアリングのまわりに反時計回りに回転しようとする。回転運動は表面の一方が円板5の左側縁と接触すると停止する。平衡重りがこの位置に到達する直前に,その表面13は円板5に取付けたマイクロスイッチ15上の弾性ヨーク16を作動させ,マイクロスイッチの電子回路を接続又は切離す。」「【0013】レベル・センサが主に空気に取囲まれている限り,下水部の水位レベルがセンサより下にある限り,センサは直立位置を保持し,マイクロスイッチはその接続又は切離し位置を保持する。」「【0014】水位レベルが上昇し始めると,レベルセンサは次第に傾き始め,最後に第2回(判決注:第2図(別紙図面2)の誤り。)の主水平位置へ到達する。容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサより上にいかに上昇するかとは独立にセンサはこの水平位置を取る。」28「【0015】センサがその水平位置に近い所から開始すると,平衡重り9はその重心10をベアリング6,8の下右側へ移し,そのまわりを時計回りに回転する。
この回転は中空本体1の内面と接触する平衡重り9の一方の表面により制限される。
この移動の間,平衡重りの表面13は円板15と弾性ヨーク16との接触を失う。
次いでマイクロスイッチはその他方位置へ作動され,これはスイッチが接続される又は切離されることを意味する。」「【0016】マイクロスイッチとの異なる止め部を固定するため,平衡重り9は相対的に重く,レベル・センサの全重量の相当部分を構成する。しなしながら同時に,センサは製造上の理由から重すぎてはならない。受入れ可能な安全性を得る最小値は全重量の30%であるが,適当な値は50から80%の間である。加えて,センサの全重量/容積比は管理すべき液体の密度と関連して選択すべきであり,液体に囲まれている時にレベル・センサが主水平位置を取るよう選択すべきである。」(2)前記当初明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】,【発明の詳細な説明】の段落【0010】ないし【0016】の記載及び図1,2(別紙図面1,2)によれば,当初明細書記載の発明においては,レベル・センサの中空本体が,空気中では,別紙図面1のように電気ケーブルに吊られて垂れ下がっている状態となるが,液体中に浸漬され,水位レベルが上昇し始めると,センサ本体は傾き始め,最後には別紙図面2のとおり水平位置に到達し,容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサ本体より上にいかに上昇するかに関係なく,水平位置を取るように構成されていること,センサ本体内に2つの異なる終端位置の間で重りを通る軸線を中心として回転可能に支持された平衡重り(可動重り)は,レベル・センサが液体中に浸漬されて,センサ本体が水平位置をとると,水平位置で平衡させる作用を有するとともに,自身の回転によりスイッチング作用を行うこと,平衡重りの安全性を得る最小値は全重量の30%であり,より適当な値は50から80%である上,センサの全重量/容積比は管理すべき液体の密度と関連して,液体に囲まれている時にレベル・センサが主水平位置を取るように選択されることが認められる。これ29によれば,当初明細書記載の発明においては,レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がされていること,すなわち,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができる。そうすると,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」について,明確な説明はされていないものの,平衡重り及び中空本体全体の重心の基準となる線であり,当初明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分が鉛直方向を向いた状態のもの(ただし,重心位置が偏ったレベル・センサを空気に囲まれた状態で吊り下げた場合,センサの中空本体が厳密には直立しないことは明らかであるから,センサの中空本体の外形部分にかかる線分は,厳密な意味での鉛直線ではない。)であると理解することができ,本件補正後の「該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」と同義であるといえる。
(3)これに対し,原告は,当初明細書の図1(別紙図面1)において,中空本体が完全に直立しているように図示されていることをもって,センサ全体の重心が一点鎖線上にあると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,当初明細書には,センサ全体の重心が一点鎖線上にあるとの記載はない上,センサ全体の重心が一点鎖線上にあるとすると,センサ全体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾けることができず,レベル・センサとして機能しなくなる。そうすると,当初明細書において,図1(別紙図面1)の中空本体は,図面上はほぼ垂直な位置となっているものの,完全に直立しているものではなく,センサ全体の重心が一点鎖線上にあるということはできない。
また,原告は,本件補正に係る「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」について,被告は,審判手続において,センサの中空本体の外形を回転体として捉えた場合の回転軸であると主張していたのであって,審決と異なる解釈,特定をしていると主張する。
30しかし,この点における原告の主張も,採用できない。すなわち,本件補正に係る「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」は,前記(2)のとおり,水平に対する鉛直方向の線であって,当初明細書の図1の一点鎖線のうち,センサの中空本体の外形部分に係る線分が鉛直方向を向いた状態のものをいうと解され,審決の認定に誤りはないから,被告が審判手続において異なる主張をしていたからといって,審決に誤りがあるということはできない。なお,本件発明のレベル・センサは,水位レベルの上昇に伴い,センサ本体が速やかに一定方向に傾き,水平位置をとるように構成されており,その際,センサ全体の重心と平衡重りの両重心が下方となって安定する方向に働くところ,被告と審決は,平衡重りとセンサ全体の重心が「垂直線」に対して同じ側方にあることに関し,別の表現で表わしたものにすぎず,両者が異なる解釈,特定をしていたとまでは認め難い。
さらに,原告は,当初明細書の特許請求の範囲(請求項1)の「センサを通る垂直線」は,平衡重りの重心位置の基準線として定められていたところ,平衡重りの重心位置でセンサの傾斜方向が決まるものではないから,平衡重りの重心位置を「浮心」や「浮心を通る線」を基準として特定する必然性はなく,当初明細書の図1の一点鎖線が「センサを通る垂直線」であるとすべき動機もないと主張する。
しかし,この点における原告の主張も,採用できない。すなわち,当初明細書記載の発明は,前記(2)のとおり,レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がなされており,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができるから,原告の上記主張は採用することができない。
(4)以上によれば,本件補正は,要旨の変更に当たるものではなく,審決の判断に誤りはないから,原告の補正要件違反による出願日繰下げに基づく新規性及び進歩性の主張には理由がない。
2取消事由2(出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断の誤り)31について原告は,甲16又は甲18に,その他の公知発明ないし周知技術を適用することにより,本件発明は容易想到であると主張するが,以下のとおり,いずれも採用することができない。その理由は,以下のとおりである。
(1)本件明細書の記載本件明細書の記載は,次のとおりである(甲1)。
「【特許請求の範囲】【請求項1】ポンプ媒体のレベルに応じて電気的駆動ポンプ中のモータを始動/停止するような電気機能の接続/切離し用のレベル・センサにおいて,中空本体内に配置したマイクロスイッチ(15)に接続された電気ケーブル(2)に自由懸垂状態に取付けられた中空本体を含み,前記スイッチは前期(判決注:「前記」の誤記。)中空本体内に配置した可動重りの助けにより接続/切離位置へ作動され,平衡重り(9)として設計された当該可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,前記平衡重りの表面の一つがマイクロスイッチ(15)を直接的に又は間接的に作動するように配置され,前記平衡重りの重量は,前記中空本体(1),前記マイクロスイッチ(15),平衡重り(9),及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段(5,6,7,8)から成るセンサが 空気によって囲まれている時該 センサの全重量の少なくとも30%であり,前記平衡重り(9)は,前記 センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心 を通る垂 直線の側方 に重心(10)があり,かつ前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり, 液体中に浸漬されているときセンサは垂直位置から傾きなお電気ケーブル(2)から自由懸垂状態にあることを特徴とするレベル・センサ。」「【発明の詳細な説明】【0010】【実施例】図面において,1は中空本体を,2は水密入口3と入口解放部4を有32する電気ケーブルを,5は突出部6をもった接続円板を,7は接続ネジを,8は軸を,9は平衡重りを,10は重心を,11,12,13および14は平衡重り9の表面を,15は弾性作動ヨーク16をもったマイクロスイッチを,最後に17は電気ケーブルの導体を表わす。上記部品は中空本体1内に組立てられてレベル・センサを構成し,後述するように平衡重り9は,レベル・センサが液中に浸漬されると,センサをその浮力の中心の周りに回転させ,センサを水平位置で平衡させる作用を有すると共に,自身の回転によりスイッチング作用を行う。 」「【0011】前述したように,中空本体の重量と容積は,中空本体が液体に囲まれているとき垂直線に対して強く傾斜した位置をとるように,管理される液体の密度に適合される。他方,中空本体は空気に囲まれているとき主として垂直位置をとる。 」「【0012】図1(判決注:別紙図面1)に示す位置において ,本体は完全に又は殆んど完全に空気により囲まれている。そのとき平衡重り9の重心10はベアリング6,8の左側に位置し,かくして平衡重り9はそのベアリングのまわりに反時計方向に回転しようとする。回転運動は表面の一つが接続円板5の左側縁と接触するとき停止する。平衡重りがこの位置に到達する直前に,その表面13は接続円板5に取付けたマイクロスイッチ15上の弾性ヨーク16を作動し,マイクロスイッチの電子回路を接続又は切離す。」「【0013】レベル・センサが主に空気に取囲まれている限り,下水部の水位レベルがセンサより下にある限り,センサは直立位置を保持し,マイクロスイッチはその接続又は切離し位置を保持する。」「【0014】水位レベルが上昇し始めると,レベルセンサは遂には傾き始め,最後に図2(判決注:別紙図面2)に示す主水平位置に到達する。容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサより上に如何に上昇するかに関係なく, センサはこの水平位置を取る。」「【0015】センサがその水平位置近くからスタート すると,そのとき 重心1033が ベアリング6,8の下で且つ右にある平衡重り9はベアリング 6,8のまわりを時計方向に回転する。この回転は平衡重り9の表面の一つが中空本体1の内面と接触することによって制限される。このように 移動している 間,平衡重りの表面13は接続円板5および 弾性ヨーク16との接触を失っている 。それから マイクロスイッチはスイッチが接続されるか又は切離されることを意味する他の位置をとるように作動される 。」「【0016】マイクロスイッチを確実に停止させるため,平衡重り9は相対的に重く,レベル・センサの全重量の可成りの部分を構成する。しなしながら同時に,センサは製造上の理由のために重過ぎてはならない。受入れ可能な安全性を得る最小値は全重量の30%であるが,適切な値は50から80%の間である。加えて,センサの全重量/容積関係は,レベル・センサが液体で囲まれているとき主水平位置を取ることを確保するように,管理される液体の密度と関連して選択されるであろう 。」(2)甲16の記載甲16には,次のとおり記載されている(なお,甲16の第1図は,別紙図面4のとおりである。)。
「実用新案登録請求の範囲可撓性ケーブルを取付けたフロート内の空間に作用片と重錘を有するスイッチを揺動自在に枢着し,該空間の内面一部にはフロートが浮上してフロート内の前記スイッチが一方に回動したとき該スイッチの作用片に接触してこれを押し込む受部を設けたことを特徴とする液面検出スイッチ。」(1頁1欄15〜21行)「考案の詳細な説明本考案はポンプの自動制御及液面制御するための液面検出スイッチに関するものである。」(1頁1欄22行〜23行)「図において,Aはフロートで,発砲合成樹脂の如く軽量で気密性のある材料から成る本体1と,同材料から成るキャップ2とから成り,両者はねじ込み又は嵌め34込み或は融着等にて結合し,且つ内部の空間3に水が侵入しないように完全な液密構造とする。
4は普通のリミットスイッチで,その底部に重錘5を固定し,該重錘5の取付側と反対の側の端部に作用片6を有している。このスイッチ4を該空間3内に遊嵌し,該スイッチ4の作用片6側の作用片6と反対の端部附近を軸7によりフロートAに枢着して,スイッチ4の作用片6を有する側がキャップ2の方へ向くようにする。
前記キャップ2には水中ポンプの制御回路等に接続される可撓性ケーブル8が挿通され,このケーブル8とキャップ2とを熱融着又は接着剤等に固定すると共にケーブル挿通部を液密とし,該ケーブル8の内端を前記リミットスイッチ4に接続して,水中ポンプの場合,該スイッチ4の作用片6が押し込まれるとポンプが起動し,作用片6の押圧が解けるとポンプが停止するように回路を構成する。
又,前記キャップ2の空間3に臨む部分には突出状の受部9を設け,フロートAの本体1側が上になってスイッチ4がキャップ側へ回動したとき該スイッチ4の作用片6が該受部9に押付けられて押し込まれるようにする。
本考案は上記の構成であり,水中ポンプの制御用として用いる場合,本考案スイッチを水中ポンプを装着した貯水タンク中に可撓性ケーブル8により浮上,沈下自在に取付ける。しかしてタンク内の液面が低くポンプの作動不可のときはフロートAが液面上にあって本体1を下に垂れ下がっているときはスイッチ4は自重により,第1図の鎖線のように本体1の底部の方へ回動して作用片6は受部9から離れているから,ポンプは回らない。
次に液面が次第に上昇してフロートAが液面下となり,その本体1が上になり,キャップ2が下になると,スイッチ4が自重でキャップ2側へ回動して作用片6が受部9に接触して押込まれるので,スイッチ4によりポンプが起動する。
本考案スイッチは上記のように液面がフロートAの下にあるか上にあるかによってスイッチ4を開閉し,水中ポンプ等を作用させるもので水銀スイッチを用いないので公害のおそれが全くないと共にスイッチ4は市販の普通のものを用いることが35でき,且つスイッチ4の作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるもので,フロートA内にはスイッチ4以外に可動部がないので作動が確実で故障のおそれが少ない等の効果を有するものである。」(1頁1欄33行〜2頁3欄9行)(3)甲18の記載甲18(訳文)には,次のとおり記載されている(なお,甲18の図は,別紙図面5のとおりである。)。
「中空体1は,導入口が防液性の電気ケーブル2に吊り下がっており,同ケーブルは,中空体1内の中間板7に取り付けられたスイッチ装置3に連結している。この装置3には,装置の電気回路開閉切り替え作動を行うプランジャー4が設けられている。
中間板7より上部のスペースには,ある程度可動なおもり5を設けているが,鉛直線に対する中空体の傾き具合に応じて,ふたつの異なる位置を取れるようにしてあり,このおもりが両位置の一方を取った際に,プランジャー4を作動させる仕組みになっている。」(2頁19行〜24行)「前に述べたように,中空体の重量と体積は,監視される液体の濃度に合わせ,中空体が液体で囲まれたときに鉛直線に対して著しく傾くように調節する。逆に空気に囲まれると,中空体は鉛直に垂れ下がる。
図面に示した状態において,中空体は液体に沈んでいるが,これは言い換えると,鉛直線に対し,左に傾いているということである。この位置に置かれると,おもり5の上部が中空体の壁に接触し,それと同時に中間板7からわずかに離れる。この作動により,スイッチ装置に設置されているプランジャー4はその制御部分を離れて上がり,スイッチ3内の電気回路が閉じることになる。これによって,液位が液位センサーと同じ高さか,センサーより高い状態にあることを示す。
それに対し,中空体1が空気中にある場合,中空体は垂直位置を取り,おもり5の全重量が中間板7にかかることになる。これにより,おもりがプランジャー4を押し入れ,同プランジャー4はブレーカー3内の電気回路を遮断する。これによっ36て,液位が液位センサーより下にあることを示される。」(2頁25行〜36行)「観察される液体の粘性に比例した液位センサーの重量と体積を適切に調節したり,おもり5ならびにその制御突部6を適切に形成することにより,センサーがふたつのはっきりと異なる位置を取ることが可能となり,液位を明確に示すことになる。こうして得られる信号は,例えば電動ポンプの作動・停止などに適用可能である。」(3頁1行〜4行)(4)主位的主張についてア本件発明と甲16記載の発明の相違点Bの認定の誤りについて原告は,甲16記載の発明において,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって,回転可能に支持される可動重りとしての構成を備えるとともに,スイッチを作動するように配置されているから,本件発明と甲16記載の発明は,可動重りは中空本体内に2つの異なる終端位置の間で可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され,可動重りの表面の1つがスイッチを間接的に作動するように配置されるという点において一致しており,審決の相違点Bの認定には誤りがあると主張する。
しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。すなわち,本件発明において,平衡重りとして設計された可動重りは,単体として機能しているのに対し,甲16記載の発明においては,リミットスイッチ4と重錘5は,単体の平衡重りとして機能していない。そうすると,審決が,相違点Bとして,重りの動作について,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重り」が,中空本体内において回転可能に支持され,その表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は間接的に作動するように配置されているのに対して,甲16記載の発明は「リミットスイッチ4の底部に重錘5を固定し」たものが,フロートAに枢着して,リミットスイッチ4の作用片6の作動はスイッチ自身の回動によるものとした点に誤りはない。
したがって,原告の上記主張は採用することができない。
イ相違点Bに係る容易想到性判断の誤りについて37原告は,相違点Bについて,液中において自由懸垂状態とするための構成として,可動重りの重量を調整して,これを平衡重りとすることは,当業者であれば容易になし得る設計的事項にすぎない,甲16記載の発明は,リミットスイッチ4と重錘5が一体となって可動重りを形成しており,該可動重りを通る軸線を中心として回転可能に支持される構成を具備しているところ,これに,甲18記載の技術事項を適用することにより,平衡重りの表面の1つがマイクロスイッチを直接的に又は間接的に作動するように配置することは容易想到であると主張する。
しかし,原告の上記主張は,採用の限りでない。前記本件明細書の【発明の詳細な説明】の段落【0010】,【0014】,【0016】の記載によれば,本件発明の平衡重りは,水位レベルがセンサより上昇しても,センサは水平位置を維持できるようにした重りであり,液体中で水平位置を取るために,センサの全重量と容積の関係は,レベル・センサが液体で囲まれているとき主水平位置を取ることを確保するように,管理される液体の密度と関連して選択されるものである。これに対し,甲16には,前記(2)のとおり,「次に液面が次第に上昇してフロートAが液面下となり,その本体1が上になり,キャップ2が下になると」と記載され,また,甲18には,前記(3)のとおり,「中空体の重量と体積は,監視される液体の濃度に合わせ,中空体が液体で囲まれたときに鉛直線に対して著しく傾くように調整する。逆に空気に囲まれると,中空体は鉛直に垂れ下がる。」と記載されているとおり,いずれも液体中においてセンサ本体を水平に保つ構成とすることについての示唆はない。
すなわち,甲18,19によれば,本件特許出願時において,液中において自由懸垂状態となるレベル・センサが公知であることが認められるものの,自由懸垂状態となるレベル・センサにおいて,可動重りの重量を調整することによって,これを平衡重りとすることついての示唆がなく,相違点Bに係る構成を採用することが容易であるとすることはできない。
これに対し,原告は,液面浮遊タイプのセンサにおいても,センサ全体の重心を偏心させて,センサを所定方向に傾けることは,スイッチの確実な動作を実現する38上で,十分な技術的意義があり,水中において自由懸垂状態となるタイプのセンサであっても,完全に水中に没した後にセンサの傾斜角度が変わることはなく,液面においてスイッチが動作するという点では,液面浮遊タイプのセンサと異なるところはないなどと主張する。しかし,原告の上記主張は,液体中において自由懸垂状態となるレベル・センサにおいて,可動重りの重量を調整して,これを平衡重りとして設計することについての示唆があることについて何ら具体的な論拠を挙げていない以上,採用することはできない。
なお,甲19(甲19の第1図,第2図は,別紙図面6,7のとおりである。)には,「漸次槽内液面が上昇し,浮揚体9が液中に没すると,該浮揚体は第2図に示すごとく横倒した状態にて浮遊する。」(甲19・1頁1欄27行〜2欄2行)と記載されており,浮揚体9が液体中において横倒状態で浮遊することは認められるものの,同浮揚体9において,可動重りたる作動錘3が平衡重りとして機能するとの記載はなく,むしろ主として平衡重りとして機能しているのは釣合錘11であると認められる上,上記重りはいずれも重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されておらず,甲16記載の発明に甲19の構成を適用することにより本件発明に容易に着想するとはいえない。また,甲28には,「下方動作体4”は,液体中に全く浸漬されて傾斜した位置を採る。」(甲28・1頁2欄24行〜26行)と記載されていることからして,本件発明のセンサのように,平衡重りによって,水位レベルがセンサより上にいかに上昇するかに関係なく,センサは常に液体中において水平位置を取るものであるとは認められないから,甲16記載の発明に甲28の構成を適用することにより本件発明に容易に着想するともいえない。さらに,力のつり合いとモーメントのつり合いを取ることは当業者が当然に行うことであるとしても,平衡重りにより,水位レベルがセンサより上にいかに上昇するかに関係なく,センサが常に液体中において水平位置を取ることまで,当業者が当然に行う設計事項であるということはできない。なお,本件発明においては,前記1(2),(3)のとおり,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側39方にあるものと理解することができる。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,相違点Bは,甲16記載の発明に甲18記載の構成ないし周知技術を適用することにより,容易に想到することができたとはいえない。
ウ相違点Cに係る容易想到性判断の誤りについて原告は,本件発明において,平衡重りの重量は,中空本体,マイクロスイッチ,平衡重り及び平衡重りを中空本体内に回転可能に支持する手段から成るセンサが,空気によって囲まれている時,該センサの全重量の少なくとも30%である点について,臨界的意義や技術的意義はなく,設計的事項であると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,前記本件明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】,【発明の詳細な説明】の段落【0010】,【0011】,【0012】,【0014】,【0016】の記載及び図1,2(別紙図面1,2)によれば,本件発明において,空気に囲まれているとき主として垂直位置をとるレベル・センサが,液体中に浸漬され,水位レベルが上昇し始めると,センサ本体は遂に傾き始め,最後には別紙図面2のとおり水平位置に到達するが,容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサ本体より上にいかに上昇するかに関係なく,水平位置を取るように構成されているところ,センサ本体内に2つの異なる終端位置の間で重りを通る軸線を中心として回転可能に支持された平衡重り(可動重り)は,レベル・センサが液体中に浸漬されると,センサをその浮力の中心の周りに回転させ,センサを水平位置で平衡させる作用を有するとともに,自身の回転によりスイッチング作用を行うことが記載されている。したがって,本件発明における「平衡重り」のセンサに対する30%以上との重量比は,センサ全体の重心が前記垂直線に対し平衡重りの重心と同じ側方にあることとあいまって,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるとともに,センサ本体が傾き始め,水平位置に到達した後,水位レベルがセンサ本体より上昇してもなお,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節すると40いう意味において,技術的意義を認めることができる。これに対して,甲16記載の発明は,本件発明のように液中に完全に沈んだ状態において自由懸垂状態となるセンサではなく,液中には完全に浸漬せずに液面に浮遊するフロート型のセンサであり,本件発明のように液中に浸漬した状態で安定的な平衡作用を実現する必要がないものであるから,甲16記載の発明から,「平衡重り」のセンサに対する重量比を特定することによって,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節する必要性は生じない。したがって,甲16記載の発明を基礎として,相違点Cに係る構成に至ることが容易であるとはいえない。
エ相違点Dに係る容易想到性判断の誤りについて原告は,甲18,19には,液中において自由懸垂状態となるタイプのレベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成ないしセンサが液体中に浸漬した時に傾く方向を一定化する構成が示唆されていると主張する。
しかし,原告の主張は,以下のとおり失当である。すなわち,本件発明において,平衡重りの重心位置を限定した相違点Dに係る構成は,可動重りとして機能する方向にセンサを傾かせ,これによりスイッチの確実な動作を実現する目的で,採用したものである。これに対して,甲18記載の発明は,中空体の重量と体積が,液体で囲まれたときに鉛直線に対して著しく傾くように調節され,空気に囲まれたときに鉛直に垂れ下がるものの,おもり5が可動する方向に規制がなく,スイッチの確実な動作を実現するための構成として,可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配する構成が記載ないし示唆されているとは認められない。また,甲19記載の発明においては,可動重りとして機能する作動錘3と,平衡重りとして機能する釣合錘11が別体であり,可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配するとの構成が記載ないし示唆されているとは認められない。さらに,甲20,22,28記載の発明は,いずれも液体中において水平状態を保つレベル・センサではなく,これをもって,液体中において水平状態を保つレベル・センサにおいて,センサ全体の重心を偏心させる構成が,本件特許出願前から周知のものであったという41こともできない。
したがって,相違点Dは,甲16記載の発明に甲18,19記載の構成及び周知技術を適用することにより,容易に着想することができたとはいえない。原告の上記主張は採用することができない。
オ以上によれば,本件発明の相違点に係る各構成は,甲16記載の発明を基礎として,これに甲18,19記載の構成及び周知技術を適用することによって,容易に想到し得たとはいえないから,本件発明が容易想到であるとはいえない。
(5)予備的主張についてア本件発明と甲18の相違点Gの認定の誤りについて原告は,甲18記載の発明のおもり5は,平衡重り又は平衡重りとして設計された可動重りに該当するから,本件発明と甲18記載の発明の相違点は,本件発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りが該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持されている」のに対し,甲18記載の発明は「平衡重りとして設計された当該可動重りであるおもり5が中空本体1内に2つの異なる終端位置の間で移動可能に配置され」るとしている点にすぎないと主張する。
しかし,前記(3)の記載によれば,甲18記載の発明は,液体中において水平状態を保つレベル・センサではなく,おもり5は,本件発明におけるような平衡重りとして設計されているとは認められない。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,審決の相違点Gの認定に誤りはない。
イ相違点Gに係る容易想到性判断の誤りについて原告は,相違点Gに関し,甲18記載の発明の可動重りについて,傾く軌道に即した軸支を行い回動可能に支持することは,設計的事項にすぎないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,前記(3)の記載によれば,甲18記載の発明において,おもり5は,中空体の傾き具合に応じて,プランジャー4を押し込む位置と押し込まない位置という2つの異なる位置をとる42ほか,傾く方向に制限がないものである。甲18において,軸支して,傾く軌道を限定することについて,何らの示唆等がないから,甲18を基礎として,相違点Gに係る構成を想到することが容易であるとはいえない。また,甲16記載の重錘については,前記(4)イのとおり,「平衡重りとして設計された当該可動重り」及び「該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され」るとの構成を有していない。
そして,甲17記載のセンサは,水中において自由懸垂状態ではなく,その重り5も平衡重りとして設計されておらず,甲19記載の作動錘3も,「平衡重りとして設計された当該可動重り」及び「該平衡重りを通る軸線を中心として回転可能に支持され」るとの構成を有していない。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,相違点Gは,甲18記載の発明を基礎として,これに甲16,17,19記載の構成及び周知技術を適用することにより,容易に着想することができたとはいえない。
ウ相違点Hについて前記(4)ウと同様,本件発明において,平衡重りの重量が,センサの全重量の少なくとも30%である点について,技術的意義を認めることができる。そして,甲18記載の発明を基礎として,相違点Cに係る構成に至ることが容易であるとはいえない。
エ相違点Iについて原告は,甲18記載の発明において,センサ全体の重心位置が左側に偏心しており,おもり5の重心も左側にあるといえる上,本件発明のようなセンサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置に係る構成については,甲19に開示されており,設計的事項又は周知技術にすぎないと主張する。
しかし,原告の上記主張は,以下のとおり,失当である。すなわち,前記(4)エのとおり,甲18には,スイッチの確実な動作を実現するための構成として,可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配する構成が記載ないし示唆されているとは認められず,甲19にも可動重りの重心をセンサ全体の重心と同じ側方に配す43るとの構成が記載ないし示唆されているとは認められない。また,本件発明のようなセンサ全体の重心位置及び可動重り(平衡重り)の重心位置が設計的事項又は周知技術にすぎないともいえない。
したがって,原告の上記主張は採用することができず,相違点Iは,甲18記載の発明を基礎として,これに甲19記載の構成及び周知技術を適用することにより,容易に想到することができたとはいえない。
(6)小括以上によれば,原告の主位的主張及び予備的主張はいずれも採用することができず,審決の出願日繰下げを前提としない容易想到性の認定・判断に誤りはない。
3取消事由3(重量比に関するサポート要件違反の認定・判断の誤り)について原告は,本件発明において,平衡重りとセンサの全重量の重量比が少なくとも30%であることは,本件発明の課題解決のための技術的意義を有しておらず,その数値限定に臨界的意義がないところ,上記重量比に係る数値限定を構成要素とする特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項1号(いわゆるサポート要件)に違反すると主張する。
しかし,原告のこの点の主張は,以下のとおり,採用の限りでない。すなわち,前記2(4)ウのとおり,本件明細書の段落【0010】,【0011】,【0012】,【0014】,【0016】によれば,本件発明における「平衡重り」のセンサに対する30%以上との重量比は,センサ全体の重心が前記垂直線に対し平衡重りの重心と同じ側方にあることとあいまって,センサ本体を水位レベルの上昇に伴って速やかに一定方向に傾かせるとともに,センサ本体が傾き始め,水平位置に到達した後,水位レベルがセンサ本体より上昇してもなお,センサ本体が水平位置を取るようにするため,安定性の程度を調節するという意味において,技術的意義があると理解することができるから,特許請求の範囲(請求項1)において,平衡重りのセンサ全体に対する重量比について,30%以上との限定を付した点に,旧特許法3446条5項1号の規定の違反があると解することはできない。
4取消事由4(その他の記載要件違反に係る審決の認定・判断の誤り)について原告は,本件特許に係る特許請求の範囲の記載について,「センサの中空本体の外形の中心」,「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」,「前記平衡重り(9)は,前記センサが空気に囲まれて主垂直位置を取っている時に該センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線の側方に重心(10)があり」,「前記センサ全体の重心は前記垂直線に対し前記平衡重りの重心と同じ側方にあり」と記載されているが,これらの記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項に違反すると主張する。
しかし,原告の上記主張は,次のとおり,採用することができない。すなわち,(1)本件明細書の【特許請求の範囲】の【請求項1】,【発明の詳細な説明】の段落【0010】ないし【0016】の記載及び図1,2(別紙図面1,2)によれば,本件発明においては,レベル・センサを構成する中空本体は,空気中では,別紙図面1のように電気ケーブルに吊られて垂れ下がっている状態となるが,液体中に浸漬され,水位レベルが上昇し始めると,センサ本体は傾き始め,最後には別紙図面2のとおり水平位置に到達し,容積と重量の適切な選択により,水位レベルがセンサ本体より上にいかに上昇するかに関係なく,水平位置をとるように構成されていること,センサ本体内に2つの異なる終端位置の間で重りを通る軸線を中心として回転可能に支持された平衡重り(可動重り)は,レベル・センサが液体中に浸漬されて,センサ本体が水平位置をとると,これを水平位置で平衡させる作用を有するとともに,自身の回転によりスイッチング作用を行うこと,平衡重りの最小値は全重量の30%であり,より適当な値は50から80%であること,センサの全重量/容積比は管理すべき液体の密度と関連して,液体に囲まれている時にレベル・センサが主水平位置を取るように選択されることが認められる。これによれば,本件発明においては,レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベル45の上昇にともなって速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がなされていること,すなわち,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができる。また,本件明細書には,特許請求の範囲(請求項1)の「センサの中空本体の外形の中心を通る垂直線」について,明確な説明はされていないものの,平衡重り及び中空本体全体の重心の基準となる線であり,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線のうちセンサの中空本体の外形部分にかかる線分が鉛直方向を向いた状態のもの(ただし,重心位置が偏ったレベル・センサを空気に囲まれた状態で吊り下げた場合,センサの中空本体が厳密には直立しないことは明らかであるから,センサの中空本体の外形部分にかかる線分は,厳密な意味での鉛直線ではない。)であると理解することができる。
(2)これに対し,原告は,本件明細書の記載のみでは,「センサの中空本体の外形の中心」の意義が明らかでないと主張する。しかし,前記(1)のとおり,本件明細書の記載に照らすと,「センサの中空本体の外形の中心」とは,平衡重り及び中空本体全体の重心の基準となる線であるものと理解することができる。
また,原告は,審決が,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線のうち「センサの中空本体の外形部分にかかる線分」の部分だけに言及して,それが「鉛直方向を向いた状態」とするなどの解釈をしている上,被告の主張とも齟齬していると主張する。この点,本件明細書の図1(別紙図面1)の一点鎖線は,電気ケーブル2や水密入口3からセンサの中空本体の外形の中心にかけて一直線に伸びているように見えるものの,前記1(3)と同様に,本件明細書の記載及び本件発明の要旨に照らすと,空気に囲まれている時,中空本体は,ほぼ垂直な位置となっているが,完全に直立しているとまでは認められないから,被告の主張と齟齬しているか否かはさておき,審決の認定・判断に誤りはない。
さらに,原告は,立体において,「線」の「側方」,「線」に対して「同じ側方」がいかなる意義を有するか明らかでなく,これらの要件が権利範囲の外延をいかに画するのかも不明であると主張する。しかし,前記(1)のとおり,本件発明においては,46レベル・センサを機能させるため,センサ本体を水位レベルの上昇にともなって速やかに一定方向に傾かせるための重量配置がなされており,平衡重りと中空本体全体の重心は,共に,センサの中空本体の外形の中心の同じ側方にあるものと理解することができ,「同じ側方」とは,センサが,その重心を下にして傾く状態において,平衡重りが回動してマイクロスイッチを作動できる範囲となるように,平衡重りの重心も,センサの重心とほぼ同じ側になっている状態を表現しているものと理解することができる。
したがって,上記原告の主張は採用することができない。
(3)以上によれば,本件発明に係る特許請求の範囲の記載は,旧特許法36条5項1号,同条同項2号及び同条4項に違反しない。
5結論以上のとおり,原告の主張する取消事由には理由がなく,他に本件審決にはこれを取り消すべき違法は認められない。その他,原告は,縷々主張するが,いずれも,理由がない。
よって,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 飯村敏明
裁判官 中平健
  • この表をプリントする