関連ワード | 製造方法 / 公然知られ(29条1項1号) / 進歩性(29条2項) / 技術的範囲 / 容易に想到(容易想到性) / 特許発明 / 構成要件 / 業として / 差止請求(差止) / 侵害 / 相当因果関係 / 不法行為(民法709条) / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
20年
(ワ)
13709号
特許権侵害差止等請求事件
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原告大阪ケミカル工業株式会社 同訴訟代理人弁護士村林隆一 同 井上裕史 同訴訟復代理人弁護士田上洋平 同 佐合俊彦 被告株 式会社しまむら 同訴訟代理人弁護士川井理 砂子 |
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裁判所 | 大阪地方裁判所 |
判決言渡日 | 2010/12/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1原告の請求をいずれも棄却する。 2訴訟費用は原告の負担とする。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1被告は,別紙被告製品目録記載のサンダル及びつっかけを輸入し,譲渡し又は譲渡の申出をしてはならない。 2被告は前項のサンダル及びつっかけを廃棄せよ。 3被告は,原告に対し,4400万円及びこれに対する平成20年10月25日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,発明の名称を「履物底部とその製造方法」とする後記本件特許権を有する原告が,別紙被告製品目録記載のサンダル及びつっかけを輸入・譲渡等する被告に対し,それらの製品の製造方法は,後記本件特許発明の技術的範囲に属するから,被告の上記行為が本件特許権を侵害すると主張して,特許法100条1項に基づく同目録記載のサンダル及びつっかけの輸入・譲渡等の行為の差止めと,同条2項に基づく同目録記載のサンダル及びつっかけの廃棄をそれぞれ求めるとともに,特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償請求として4400万円及びこれに対する不法行為の後の日である平成20年10月25日(訴状送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。 1判断の基礎となる事実(当事者間に争いがない )。 ( )原告の特許権1ア原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,本件特許権に係る特許を「本件特許」という。また,本件特許に係る出願の願書に添付した明細書及び図面を併せて「本件明細書」といい,特許請求の範囲の請求項7に記載の発明を「本件特許発明」という )を有している。。 登録番号特許第3027578号発明の名称履物底部とその製造方法出願日平成11年3月9日登録日平成12年1月28日特許請求の範囲【請求項7】「表皮3の裏面3aに紐状体6を当接して該表皮3を該紐状体6に沿わせて横断面山型に弯曲し,上記横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して,突条4を形成し,該突条4の上下両脇に沿って上記表皮3と上記帯体8とを2条のミシン糸目5,5にて縫製して内部に紐状体6を閉じ込めて,装飾ベルト体Rを形成し,その後,該装飾ベルト体Rを底部本体1の周囲外面2に接着することを特徴とする履物底部の製造方法 」。 イ本件特許発明は,次の構成要件に分説することができる。 A表皮3の裏面3aに紐状体6を当接して該表皮3を該紐状体6に沿わせて横断面山型に弯曲し,B上記横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して,突条4を形成し,C該突条4の上下両脇に沿って上記表皮3と上記帯体8とを2条のミシン糸目5,5にて縫製して内部に紐状体6を閉じ込めて,装飾ベルト体Rを形成し,Dその後,該装飾ベルト体Rを底部本体1の周囲外面2に接着するEことを特徴とする履物底部の製造方法。 ( )被告の行為2被告は,別紙被告製品目録記載1の履物(以下「被告製品」という )を。 販売していた(現時点での販売の有無については争いがある。。)( )被告製品の形状3被告製品の外観形状及び底部外周部を一部,分解して示した様子は,別紙被告製品説明書添付の写真のとおりである。 2争点( )被告製品底部の製造方法はイ号方法であるか(争点1)1( )イ号方法は本件特許発明の技術的範囲に属するか(争点2) 2( )本件特許のうち請求項7にかかる特許は特許無効審判により無効にされ 3るべきものか(争点3)( )原告の損害の額(争点4)4第3争点に関する当事者の主張1争点1(被告製品底部の製造方法はイ号方法であるか)について【原告の主張】( )被告製品底部の製造方法1被告製品底部の製造方法は次のとおりの方法(以下「イ号方法」という )である。なお,以下の括弧内の番号は別紙被告製品説明書に記載の番 。 号に対応する。 a表皮(3)の裏面に紐状体(6)を当接して該表皮(3)を該紐状体(6)に沿わせて横断面山型に湾曲し,b上記横断面山型に湾曲した表皮(3)の湾曲部(7)に対応する裏面に帯体(8)を当接して,突条(4)を形成し,c該突条(4)の上下両脇に沿って上記表皮(3)と上記帯体(8)とを2条のミシン糸目(5)にて縫製して内部に紐状体(6)を閉じ込めて,装飾ベルト体(R)を形成しdその後該装飾ベルト体(R)を底部本体(1)の周囲外面(2)に接着したeサンダル及びつっかけ底部の製造方法( )原告による再現実験2原告がイ号方法で履物底部を製造したところ,その外周部には被告製品底部の外周部に現れている突条の形状と一致する突条が形成されたことから,被告製品底部はイ号方法で製造されたことは明らかである。 ( )被告の主張に対する反論3被告は,被告製品底部の製造方法が後記ロ号方法であると主張する。 しかし,ロ号方法では,帯体である接着芯地を紐状体(6)を覆うように貼り付けるのであるから,突条(4)となる部分の表皮(3)の裏面の一部にも接着芯地である帯体(8)が張り付いているはずであるが,被告製品の湾曲部(7)となった表皮(3)の裏面には帯体(8)が全く付着していない(別紙被告製品説明書の写真2参照 。むしろ,被告製品では,表皮(3)の湾曲部 )(7)が形成されてから,帯体(8)が貼り付けられたことが明らかであり,これは被告製品底部がロ号方法で製造されたものではないことを示している。 また,被告は,ロ号方法でその底部を製造したとする再現製品(乙16及び17に記載の製品。以下 「再現製品」という )の底部外周部に現れた突 ,。 条の形状が被告製品の同部に現れている突条の形状と同様であると主張するが,被告製品の突条は紐状体の近傍に縫製がなされて突条が明確に形成されているのに対して,再現製品の突条は,紐状体からやや離れた部分に縫製され,被告製品のような明確な突条は形成されていないから,これは被告製品底部がロ号方法で製造されたものではないことを示している。 【被告の主張】( )被告製品底部の製造方法1被告製品底部の製造方法がイ号方法であることは否認する。被告製品底部。, の製造方法は次のとおりの方法(以下「ロ号方法」という )である。なお以下の括弧内の番号は別紙被告製品説明書に記載されている番号に対応する。 a’靴底部に付する装飾ベルト体(R)の所定位置に紐状体(6)をのりで止め,b’ベルト体(R)の裏面から,紐状体(6)の位置に沿って,紐状体(6)を覆うように接着芯地(8)を貼り,紐状体(6)を固定し,c’表皮表面から紐状体(6)の上下両脇及び突条(4)の両脇部分とをミシン糸目(5,5)で縫製し(一本針ミシンを使用し,突条の上下,両端部分を囲むように一周縫いする方法 ,)d’ミシン糸の縫製による緊張力を利用して,表皮(3)を紐状体(6)に沿わせて湾曲させ,突条(4)を形成し,e’突条(4)を有するベルト体(R)を底部外周部に接着する。 ( )被告製品の製造工場における再現実験2被告製品を実際に製造していた製造工場において,ロ号方法を用いて靴を製造してもらったところ,その靴の底部外周部には,被告製品底部外周部の突条と同様の突条が形成された。 原告は,被告製品の突条は紐状体の近傍に縫製がなされて突条が明確に形成されているのに対して,上記再現製品の突条は,紐状体からやや離れた位置に縫製され,形成されている突状が被告製品のように明確ではないと主張する。しかし,ミシン縫製は完全な手作業によっており,同一の工程でも一定の範囲内で製品誤差は生じうるから,被告製品と上記再現製品の若干の違いは,製造方法そのものの違いを示すものとはいえない。 ( )原告の主張について3原告は,被告製品の紐状体(6)の裏面に帯体(8)である接着芯地が付着していないことを理由として,表皮(3)の湾曲部(7)が形成されてから帯体(8)が貼り付けられたことが明らかであると主張する。 しかし,上記b’の「紐状体(6)を覆うように接着芯地(8)を貼り」とは,接着芯地を紐状体にぴったり沿わせるというものではなく,仮止めする目的で,紐状体の上からセロテープを貼るように布を当てるように貼るという意味である。そのため,この段階では紐状体の両脇部分に若干の空洞がある状態となっており,ミシンで縫製することによって密着固定されることとなる。 このような紐状体と表皮及び接着芯地との位置関係からすれば,紐状体裏面に接着芯地が付着していないのは何ら不自然ではなく,ロ号方法で製造されたことを否定する事実とはいえない。 原告が主張するイ号方法の場合,最初の段階で紐状体を押し付けるように突条を作るという工程が一つ増えるほか,表皮には相応の張力があるので,突条を形成した表皮が元の平たい形状に戻ってしまわないように固定しながら帯体を当接しなければならず,製造方法としてむしろ極めて不合理である。 2争点2(イ号方法は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について【原告の主張】イ号方法の構成要件aないしeは,本件特許発明の構成要件AないしEをそれぞれ充足する。 被告は,構成要件Dには突条を底部に「閉ループ状」に形成するという積極的限定を付して解釈すべきであると主張するが,特許発明の技術的範囲は特許請求の範囲の記載に基づいて解釈されるべきであり(特許法70条1項 ,本)件特許発明に係る特許請求の範囲には「閉ループ状」などといった積極的限定はない。 したがって,被告製品の製造方法は本件特許発明の技術的範囲に属する。 【被告の主張】原告の主張は争う。 なお,被告製品底部の製造方法は,ロ号方法のとおりであるが,同方法は,以下のとおり本件特許発明の技術的範囲に属しないものである。 ( )構成要件A,Bについて1ロ号方法では,ミシン糸による縫製をする前の段階では,表皮(3)を紐状体(6)に沿わせて湾曲させておらず,ミシン糸による縫製をする段階でミシン糸の緊張力により表皮(3)を湾曲させているのであるから,本件特許発明の構成要件A,Bを充足しない。 ( )構成要件Dについて2本件明細書(段落【0003【0029 )の記載によれば,本件特許 】,】発明は,底の厚い靴,サンダルを念頭に,靴底の高さをより高く見せることに一つの主眼が置かれ,そのため靴底外周部に付された突条も,あたかも靴底が2段,3段と重ねられているかのごとき外観を作出するように「ほぼ閉ループ状」である必要があると積極的に限定されている。 被告製品は,つま先部分の底部が薄く,かかと部分に向かうに従い底部が厚くなる構造となっているため,底部外周部において閉ループ状に突条を形成することが困難な設計となっている。被告製品の突条は,かかと部分に若干の飾りを付する程度の役割を果たしているだけのものであり,本件明細書で積極的に限定がなされた「閉ループ状」の範囲外である。 ( )したがって,ロ号方法は,本件特許発明の技術的範囲に属さない。 33争点3(本件特許のうち請求項7にかかる特許は特許無効審判により無効にされるべきものか)について【被告の主張】( )株式会社ハスキーが販売していた履物の製造方法1ア株式会社ハスキーは,平成9年7,8月頃には,下記の方法により商品番号5869番の履物(以下 「ハスキー社製品」といい,ハスキー社製 ,品の製造方法を「ハスキー社方法」という )を製造していた。。 記「表皮の裏面に紐状体を当接し,紐状体を一定位置に糊付け接着して仮止め固定し,表皮の表面よりミシンをかけ,表皮を横断面山型に湾曲させ突条を形成するとともに,突条の上下にミシン糸目を形成し,これを裏面にてかがり糸にて交互にジグザグ状に引っ掛けて紐状体をかがって,装飾ベルト体を形成し,その後,該ベルト体を底部本体の周囲外面に接着することを特徴とする履物底部の製造方法」イハスキー社製品は,本件特許出願前に日本国内において不特定多数の客に対して販売されていたものであり,これを分解することにより不特定多数の者が内部構造を知ることができ,同業者であればその製造方法を容易に理解することが可能であったから,ハスキー社方法は日本国内において公然知られた発明ということができる。 ( )本件特許発明とハスキー社方法との相違点2本件特許発明とハスキー社方法とは,?本件特許発明では紐状体6を当接する際に紐状体6に沿わせて表皮3を横断面山型に湾曲させるのに対し,ハスキー社方法ではミシンをかける工程(ミシンの押さえと糸の緊張力によって)表皮を横断面山型に湾曲させる点(以下「相違点1」という,?本件。)特許発明では帯体8及びミシン糸目5,5をもって紐状体6を閉じ込めて表皮に固定しているのに対し,ハスキー社方法ではミシン糸目とこれをジグザグ糸でかがり縫いをすることによって紐状体を表皮に閉じ込めて固定している点(以下「相違点2」という )が相違する。。 ( )相違点1について3本件明細書(段落【0015 )によれば,本件特許発明では,表皮に接 】着剤を塗布して,これを紐状体に沿わせて接着することにより,横断面山型を形成するとされている。 そして,靴の製造において,接着,仮止めのために糊を利用することは一般的に用いられてきた方法であるから,かがり縫いをする機能を有するアドラーミシンで形成された突条と同様のものを糊の接着力を利用して形成することは,ハスキー社方法を参照した当業者において,容易に想到することができたといえる。 ( )相違点2について4本件特許発明で帯体が用いられているのは,紐状体を内部に閉じ込めて表皮に接着(仮位置決め)することにより,位置ずれを生じさせずに容易に縫製することを可能にするためである。 ハスキー社方法においても,糊付け接着して紐状体を仮止めしており,ハスキー社製品を分解して見れば,ミシン縫製とは別に表皮裏面に紐状体が糊で接着されていることを知ることが可能であるから,紐状体を仮止め接着する必要性(課題)を容易に発見しうるものである。また,糊付け接着に気づかなかったとしても,アドラーミシンが,ダブルステッチを同時に裏面からジグザグにかがり縫いする方法により紐状体を閉じ込めて固定する機能を持っていることは当業者において周知の事項であるから,アドラーミシンを利用せずに同様のものを作成しようとした場合,紐状体をかがり糸に代わる別の方法で裏面から固定しなければならないとの課題は,同様に容易に発見できるものである。 そして,帯体を裏面から貼り付ける方法で物を接着固定(仮止め)するとの解決手段は,一般人でも思いつくような工作のレベルの技術にすぎず,かつ,粘着テープが広く利用され,衣料製品製造において布体に接着剤を塗布した接着芯地を裏面から当てる手法が一般的に用いられていることからすれば,当業者であれば,相違点2については容易に想到することができたといえる。 ( )したがって,本件特許発明は,ハスキー社方法に基づいて当業者が容易5に発明することができたといえるから,本件特許のうち請求項7にかかる特許には特許法29条2項に違反する無効理由がある。 【原告の主張】( )相違点1について1原告は,アドラーミシンで形成された突条と同様のものを糊の接着力を利用して形成することは,ハスキー社方法を参照した当業者において,容易に想到することができたと主張するが,アドラーミシンを掛ければ突条を形成することができるのであるから,糊付け作業時に突条を形成する作業を付加することの動機付けがない。 ( )相違点2について2アドラーミシンを用いて表皮に紐状体を縫い合わせるためには紐状体を表皮に位置づけすることは不要であるから,紐状体の確実な位置決めをするために帯体を付加する動機付けがない。また,帯体を付加すれば,製造工程が複雑化し,コスト増の要因となるから,ハスキー社方法に帯体を付加することには阻害事由がある。 ( )したがって,本件特許発明はハスキー社方法に基づいて当業者が容易に3発明することができたものではない。 4争点4(原告の損害の額)について【原告の主張】被告は,遅くとも平成20年1月から現在に至るまで,被告製品を少なくとも6000個販売し,4200万円の利益を得ているから,同金額が原告の損害の額と推定される(特許法102条2項 。)また,被告による本件特許権の侵害行為と相当因果関係がある弁護士費用は200万円である。 【被告の主張】否認ないし争う。 第4当裁判所の判断1争点1(被告製品の製造方法はイ号方法であるか)について( )被告製品の外観形状及び底部外周部を一部,分解して示した様子が別紙1被告製品説明書添付の写真のとおりであることは当事者間に争いがないところ,原告は,被告製品底部はイ号方法により製造されたものであると主張する。 被告製品が,イ号方法を用いてその底部を製造されたことを直接認めるに足りる証拠はないものの,証拠(甲8,甲9,検証の結果)によれば,原告がイ号方法を用いてその底部を製造したところ,製造された底部外周部に現れた突状の形状は被告製品の底部外周に現れている突状の形状と概ね一致していることが認められる。 したがって,この事実は,少なくとも,イ号方法が,被告製品底部外周部に現れている突状と同様の形状を有する履物底部を製造する有力な製造方法であることを示しているということができる。 , ( )ア他方,被告は,原告の主張に係るイ号方法を否認し,被告製品底部は2ロ号方法により製造されたものである旨を積極的に主張し,その旨の立証をしている。 ところで,物の製造方法に係る特許についての特許権侵害が主張されている本件においては,侵害していると主張される製造方法について主張立証責任を負うのは,特許権者である原告であって被告ではないが,被告が積極的に明らかにして立証した被告製品の製造方法が矛盾に満ちていたり,不自然不合理であったりするため信用できないような場合には,そのことが翻って原告主張の製造方法の立証を補強することになる場合もあり得るところである。 イそこで,以上の観点から,被告による被告製品底部がロ号方法により製造された旨の立証についてみると,証拠(乙16ないし24,検証の結果)及び弁論の全趣旨によれば,被告は,本件訴訟における立証のため,直接取引をしていた貿易会社を介して被告製品を製造していた安諾靴工業有限公司(中華人民共和国)に対し,被告製品の製造方法を明らかにするよう求めたところ,ロ号方法によって製造していることが開示されたこと,さらに同工場において,その明らかにした製造方法であるロ号方法を用いて,被告製品と同様の靴を製造させたところ,その靴(以下「再現製品」という )の底部外周部に形成された突状部分は,被告製品のそれに比べ 。 やや太いものの,突条の隆起の程度等を含めそれ以外の点では被告製品と概ね同様の形状であることが認められる(なお,原告は,安諾靴工業有限公司が被告製品の製造者であることも争っているが,証拠(乙18ないし乙24(枝番号を含む。))に加え,再現製品の靴が,その外観形状のみならず,その素材が被告製品と同じであり,さらには中敷きには被告製品と同じロゴが印刷されていることからすると,同工場が,被告製品を実際に製造していた工場であることは十分認められるというべきである。。)したがって,被告製品の直接の製造者ではない被告としては,被告製品の製造方法がイ号方法ではないことを明らかにするため,積極的にこれと異なるロ号方法である旨の主張立証は尽くしており,またその補強として,ロ号方法によって被告製品同様の製品が製造されることの立証も尽くしているということができる。 ウこれに対して原告は,再現製品と被告製品とで底部外周部に現れた突条の太さに違いを生じていることから,被告製品底部はロ号方法によって製造されたものではないとして,被告の上記関係証拠の信用性を争っている。 確かに,上記認定のとおり,安諾靴工業有限公司において被告製品を再現して製造させた靴の底部外周部に現れた突状は,被告製品のそれよりもやや太く,また証拠(乙14)によれば,被告が,それ以前に被告製品の製造工場ではない奈良県内の業者にロ号方法によってベルト体だけを製造させてみたところ,突状部分は,縫製跡が波打っており,その幅も被告製品とは似てもにつかないほど広いものであったことが認められる。 しかしながら,証拠(甲8,検証の結果)によれば,原告自らが,イ号方法のaないしcの工程,ロ号方法のa’ないし ’の工程をそれぞれ用dいてベルト体を製造したところ,いずれのベルト体でも紐状体の側部の近傍に整然とミシン縫製がされており,その状態で現れている突条の幅に違いがあるわけではないことが認められる。 そうすると,ベルト体に紐状体を縫製した場合に現れる違いは,その作業が手作業であるため,単に縫製をした者の技能の違いが結果として現れていると考えるのが自然である。その上,再現製品が,事業としてされる製造工程そのもので製造されたものはなく,本件訴訟のためにその製造過程を再現したものであることも考慮すると,再現製品と被告製品とで底部外周部に現れた突条の太さにやや違いが見られたとしても,それは担当した製造者の技能の違いや,その製造工程の特殊性が影響していると推認するのが自然であって,その程度の違いが,被告製品底部が,ロ号方法で製造されたとの被告の立証の信用性を左右すべきものということはできない。 エまた,原告は,ロ号方法では,帯体である接着芯地(8)を紐状体(6)を覆うように貼り付けるのであるから,突条(4)となる部分の表皮(3)の裏面の一部にも接着芯地である帯体(8)が張り付いているはずであるが,被告製品の湾曲部(7)となった表皮(3)の裏面には帯体である接着芯地(8)が全く付着していないから,被告製品がロ号方法で製造されたものとは認められない旨も主張する。 しかし,表皮(3)の裏面に帯体である接着芯地(8)を紐状体(6)を覆うように貼り付けたとしても,紐状体(6)に帯体である接着芯地(8)を完全に密着するように貼り付けない限り,紐状体(6)の両脇には隙間(接着芯地(8)が接着していない部分)ができ,表皮(3)表面から紐状体(6)の両脇を縫製すればその隙間部分が縫製されることになるから,縫製時に帯体である接着芯地(8)が紐状体(6)の裏側に必ず巻き込まれるということにはならず,そうであれば紐状体(6)と表皮(3)との間に接着芯地(8)が張り付くこともないはずである。 したがって,原告主張の上記問題点を考慮しても,被告製品底部がロ号方法で製造されたとする被告の立証に不自然・不合理な点があるとはいうことはできず,またその信用性が損なわれるものではない。 ( )以上のとおり,被告製品の製造方法が,イ号方法であることを推認させ3る事実は認められないではないが,他方で,被告によって,それと異なる被告製品底部の製造方法であるロ号方法が積極的に開示され立証されており,その立証の信用性を疑わせるものはないのであるから,他に,被告製品底部がイ号方法で製造されたことを認めさせるに足りる証拠がない以上,本件においては,被告製品底部が原告主張にかかるイ号方法で製造されたと認めることはできないというほかなく,むしろその製造方法はロ号方法であると認めるのが相当である。 2争点2(イ号方法は本件特許発明の技術的範囲に属するか)について( )上記1で認定判断したとおり,被告製品は,そもそもイ号方法で製造し1たものとは認められないから,それが本件特許発明の技術的範囲に属するか否かを検討する前提がないということになる。 ( )また被告がその製造方法であるとして主張立証したロ号方法が本件特許2発明の技術的範囲に属するかを念のため検討してみても,ロ号方法は,「a’靴底部に付する装飾ベルト体(R)の所定位置に紐状体(6)をのりで止め「b’ベルト体(R)の裏面から,紐状体(6)の位置に沿って,紐状体 」,(6)を覆うように接着芯地(8)を貼り,紐状体(6)を固定し「c’表皮表」,面から紐状体(6)の上下両脇及び突条(4)の両脇部分とをミシン糸目(5,5)で縫製し(一本針ミシンを使用し,突条の上下,両端部分を囲むように一周縫いする方法「d’ミシン糸の縫製による緊張力を利用して,表皮 )」,(3)を紐状体(6)に沿わせて湾曲させ,突条(4)を形成」するという,要するにミシンによる縫製をする前の段階では,表皮(3)を紐状体(6)に沿わせて湾曲させず,ミシンによる縫製をする段階でミシン糸の緊張力により表皮(3)を湾曲させる製造方法であると認められるから,少なくとも本件特許発明の構成要件A及びBの「表皮3の裏面3aに紐状体6を当接して該表皮3を該紐状体6に沿わせて横断面山型に弯曲し,上記横断面山型に弯曲した表皮3の弯曲部7に対応する裏面3aに帯体8を当接して,突条4を形成し」との要件を充足するものではないということになる。 3したがって,被告製品の製造方法は,そもそも原告主張に係るイ号方法であるとは認められないし,また被告の積極的開示によりその製造方法であると認められるロ号方法も,本件特許発明の技術的範囲に属するものではないから,被告製品を輸入販売等する行為は,本件特許権の侵害行為とは認められないということになる。 4なお原告は,被告が被告製品のほかにもイ号方法で製造されたサンダル及びつっかけ(別紙物件目録記載2の履物)の輸入・譲渡等をしていると主張するが,これを認めるに足りる証拠はない。 第5結語以上によれば,原告の請求は,その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がないから棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
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別紙被告製品目録1型番0430R0917「サイドリボンクロッグ」2上記以外の型番で,別紙「被告製品説明書」と同一の構成を有する履物別紙被告製品説明書第製造方法(イ号方法)1表皮()の裏面に紐状体()を当接して該表皮()を該紐状体()に沿わa3636せて横断面山型に弯曲し、 上記横断面山型に弯曲した表皮()の弯曲部()に対応する裏面に帯体b37()を当接して、突条()を形成し、84該突条()の上下両脇に沿って上記表皮()と上記帯体()とを条のミc4382シン糸目()にて縫製して内部に紐状体()を閉じ込めて、装飾ベルト体56()を形成し、Rその後該装飾ベルト体()を底部本体()の周囲外面()に接着したdR12サンダル及びつっかけ底部の製造方法e |
裁判長裁判官 | 森崎英二 |
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裁判官 | 北岡裕章 |
裁判官 | 山下隼人 |