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関連審決 不服2009-18170
関連ワード 製造方法 /  進歩性(29条2項) /  同一技術分野(同一の技術分野) /  容易に発明 /  優先権 /  技術的意義 /  置き換え /  容易に想到(容易想到性) /  加工 /  拒絶査定不服審判 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  特許協力条約 /  国際出願 / 
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事件 平成 22年 (行ケ) 10160号 審決取消請求事件
原告積水化学工業株式会社
同訴訟代理人弁理士 宮崎主税目次誠中山和俊石村知之
被告特 許庁長官
同 指定代理人佐 々木一浩所村美和豊原邦雄紀本孝豊田純一
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2011/01/11
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1請求特許庁が不服2009-18170号事件について平成22年3月30日にした審決を取り消す。
第2事案の概要本件は,原告が,下記1のとおりの手続において,原告の本件補正後の発明の要旨を下記2とする本件出願に対する拒絶査定不服審判の請求について,特許庁が同請求は成り立たないとした別紙審決書(写し)の本件審決(その理由の要旨は下記3のとおり)には,下記4の取消事由があると主張して,その取消しを求める事案である。
1特許庁における手続の経緯(1)本件出願(甲6)及び拒絶査定発明の名称:ダイシング・ダイボンディングテープ及び半導体チップの製造方法国際出願番号:PCT/JP2008/50407国内出願番号:特願2008-526309号(甲7)国際出願日:平成20年1月16日特許協力条約に基づく優先権主張日:平成19年4月19日及び同年7月19日手続補正日:平成22年2月9日付け(甲8。以下「本件補正」という。)拒絶査定:平成21年6月24日付け(2)審判手続及び本件審決審判請求日:平成21年9月28日(不服2009-18170号)審決日:平成22年3月30日審決の結論:「本件審判の請求は,成り立たない。」審決謄本送達日:平成22年4月19日2本願発明の要旨本件審決が判断の対象とした本件補正後の特許請求の範囲の請求項1に記載された発明(以下「本願発明」という。)の要旨は,以下のとおりである。なお,「/」は,原文における改行箇所である。
半導体ウェーハをダイシングし,半導体チップを得,半導体チップをダイボンディングするのに用いられるダイシング・ダイボンディングテープであって,/ダイボンディングフィルムと,前記ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付された非粘着フィルムとを有し,/前記非粘着フィルムは,光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む材料を光硬化又は熱硬化させることにより形成された非粘着フィルムであって,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含み,/前記非粘着フィルムの側面が,粘着性を有する粘着剤層及び前記ダイボンディングフィルムの内のいずれによっても覆われていないことを特徴とする,ダイシング・ダイボンディングテープ3本件審決の理由の要旨(1)本件審決の理由は,要するに,本願発明は,下記アの引用例1に記載された発明(以下「引用発明1」という。)に下記イの引用例2に記載された発明(以下「引用発明2」という。)を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものであって,特許法29条2項の規定に該当するものであるから,特許を受けることができない,というものである。
ア引用例1:特開平9-266183号公報(甲1)イ引用例2:特開2004-134689号公報(甲2)(2)本件審決が認定した引用発明1並びに本願発明と引用発明1との一致点及び相違点(以下「本件相違点」という。)は,次のとおりである。
ア引用発明1:シリコンウェーハをダイシングし,ICチップを得,ICチップをリードフレームに接着するのに用いられるテープ状のウェーハダイシング・接着用シートであって,ポリイミド系接着剤層と,前記ポリイミド系接着剤層の一方の面に貼付された,離型処理を施されたポリイミド用工程フィルムとを有し,前記ポリイミド用工程フィルムの側面が,感圧性接着剤層及び前記ポリイミド系接着剤層のうちのいずれによっても覆われていない,ウェーハダイシング・接着用シートイ一致点:半導体ウェーハをダイシングし,半導体チップを得,半導体チップをダイボンディングするのに用いられるダイシング・ダイボンディングテープであって,ダイボンディングフィルムと,前記ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付され,半導体ウェーハと共にダイシングされた後,ダイボンディングフィルムから剥離されるフィルムとを有し,前記フィルムの側面が,粘着性を有する粘着剤層及び前記ダイボンディングフィルムのうちのいずれによっても覆われていない,ダイシング・ダイボンディングテープである点ウ相違点:ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付されるフィルムが,本願発明では光硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂を含む材料を光硬化又は熱硬化させることにより形成された非粘着フィルムであって,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含むのに対し,引用発明1では離型処理を施されたポリイミド用工程フィルムである点(3)なお,「ダイシング」とは,半導体ウェーハを小さな方形あるいは立方体状に切断加工することをいい(「マグローヒル科学技術用語大辞典第3版」株式会社日刊工業新聞社発行),「ダイボンディング」とは,半導体チップ(ダイ)をリードフレームやパッケージに固定することをいう(「半導体大事典」株式会社工業調査会発行)。
4取消事由本件相違点についての判断の誤り(1)引用発明2の認定の誤り(2)引用発明1に引用発明2を適用できるとした判断の誤り第3当事者の主張〔原告の主張〕(1)引用発明2の認定の誤りについてア本件審決は,引用例2には,「半導体ウェーハをダイシングし,半導体チップを得,半導体チップをダイボンドするのに用いられるダイシング・ダイボンドフィルムであって,イミド系樹脂を含むダイ接着用接着剤層と,前記ダイ接着用接着剤層の一方の面に貼付された粘着力が低下した粘着剤層とを有し,前記粘着力が低下した粘着剤層は,放射線硬化型樹脂を含む材料を紫外線により硬化させることにより形成されたフィルムであって,(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含むこと」が記載されているとした。
イしかしながら,引用例2(【0009】【0014】【0020】【0023】【0038】【0039】【0101】)によると,引用発明2の技術的意義は,ダイ接着用接着剤層のワーク貼り付け部分(3a)に対応して粘着力が相対的に弱い部分(2a)と,ワーク貼り付け部分(3a)以外の部分(3b)に対応して粘着力が相対的に強い部分(2b)とを有し,粘着力が相対的に弱い部分(2a)が(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含んでいる粘着剤層を採用し,ワークをダイシングする際の保持力と,ダイシングにより得られるチップ状ワークをそのダイ接着用接着剤層と一体に剥離する際の剥離性とのバランス特性を改善したことにあるものであって,引用例2には,粘着剤層(2a)を粘着剤層(2b)から切り離して単独で存在させることが記載も示唆もされていないことからしても,引用発明2において,粘着力が相対的に弱い部分(2a)と,粘着力が相対的に強い部分(2b)とは,独立して存在し得るものではなく,協働する一体不可分の要素として存在するものである。
したがって,粘着剤層から,粘着力が相対的に弱い部分(2a)のみを意図的に抽出し,引用発明2を認定した本件審決には誤りがある。
(2)引用発明 1 に引用発明2を適用できるとした判断の誤りについてア剥離処理工程の省略(ア)本件審決は,引用発明1のポリイミド用工程フィルムには離型処理が施されており,このようなフィルムを用意するには離型処理工程を経る必要があるところ,工程数を減らして製造過程を単純化することは技術者が常に念頭に置くべき周知の課題であることから,ポリイミド用工程フィルムに求められるダイボンディングフィルムに対する剥離性を保ちながらポリイミド用工程フィルムの離型処理工程を省略する方法を模索することは,当業者が当然に行うものであるとした上で,ダイシング・ダイボンディングテープに関する引用例2に接した当業者が,引用発明1のポリイミド用工程フィルムに離型処理を施す代わりに,引用発明2を適用し,ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付されるフィルムを,光硬化性樹脂を光硬化させることにより形成され,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルムとすることには,格別の創意を必要とせず,引用発明2を引用発明1に適用して,本件相違点に係る本願発明の構成とすることは容易に想到することができるとした。
(イ)しかしながら,当業者が引用発明1におけるポリイミド用工程フィルムの離型処理工程を省略しようとするのであれば,これを省略してもポリイミド用工程フィルムに求められるダイボンディングフィルムに対する剥離性を保ち得ることが必須となるから,ポリイミド用工程フィルムに離型処理を行った場合と同等又はそれ以上の離型性を有するフィルムをポリイミド用工程フィルムの代替品として用いようとするのは当然である。
ところで,引用例1に記載されているポリエチレンナフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂などからなるポリイミド用工程フィルムは,引用発明2の(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含む非粘着フィルムよりも低い粘着力を有しているにすぎない。
引用発明1では,そのように粘着力が非常に低く,離型性に優れているポリエチレンナフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂などからなるポリイミド用工程フィルムの離型性を更に向上するために,ポリイミド用工程フィルムに離型処理を施して使用しているのであるから,引用発明1におけるポリイミド用工程フィルムの離型処理工程を省略するために,ポリイミド用工程フィルムよりも粘着力が高い引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルム(甲9)に置き換えようとすることは,技術的に矛盾した行為であり,当業者として試みることがないものであって,本件審決の判断には誤りがある。
イ引用例2の記載事項から粘着力が相対的に弱い部分を抜き出すことまた,上記(1)のとおり,粘着剤層のうち,粘着力が相対的に弱い部分(2a)を粘着剤層から抜き出すことは,引用発明2の技術的意義を損なうものであって,自然な発想ということはできず,粘着剤層全体から意図的に抽出された粘着剤層(2a)を本願発明の進歩性の判断の基礎とすることはできない。
(3)小括以上のとおり,?引用発明1のポリイミド用工程フィルムを,引用例1に記載されてない他の材料からなるフィルムに置き換えること,?引用例2の粘着力が相対的に弱い部分(2a)を粘着剤層から抜き出すことのいずれもが,技術的に不自然な発想であり,かつ,引用例1及び2には,そのようにすることに対する動機付けが何ら記載されていないものであるから,引用発明2の粘着力が相対的に弱い部分(2a)を粘着剤層から抜き出し,引用発明1のポリイミド用工程フィルムを,その粘着力が相対的に弱い部分(2a)に置き換えることには,当業者といえども容易に想到することができないというべきである。
したがって,引用発明1の離型処理を施されたポリイミド用工程フィルムを,引用発明2に基づいて,光硬化樹脂を光硬化させることにより形成され,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルムと代替することに格別の創意は必要とされないとした本件審決の判断は誤っている。
〔被告の主張〕(1)引用発明2の認定の誤りについてア引用例2(【0014】)によると,粘着剤層(2a)はワーク貼り付け部分(3a)に対応し,粘着剤層(2b)はそれ以外の部分に対応し,それぞれ異なる領域に形成されるものであり,また,粘着剤層(2a)はピックアップ時の剥離性,粘着剤層(2b)はダイシング時やエキスパンド時の保持力という異なる機能を有するものであって,粘着剤層としては別々のものとして認識することができる。
そして,引用発明1において,ポリイミド用工程フィルムに離型処理工程を施すことなく剥離が可能となる方法を模索する当業者が引用例2を見た場合,剥離性という引用発明1が必要とする機能を有する粘着剤層(2a)に着目し,それを採用しようと試みることは自然なことであるし,また,引用例2には,粘着剤層(2a)の部分のみにダイ接着用接着剤層を設けてウェーハを貼り付けることが記載されていること(【0029】及び図3)からして,粘着剤層(2a)と粘着剤層(2b)の両方がなければ,ウェーハを貼り付けることができないものでもない。
イしたがって,粘着剤層(2a)と粘着剤層(2b)とを常に一体不可分でしか抽出できないとする原告の主張は理由がなく,引用例2には,粘着剤層(2a),すなわち本件審決が認定した「粘着力が低下した粘着剤層」が記載されているものであって,本件審決に誤りはない。
(2) 引用発明1に引用発明2を適用できるとした判断の誤りについてア剥離処理工程の省略(ア ) 引用例1における「ポリイミド用工程フィルム」に求められる特性は,ダイシング工程等に必要十分な接着力を有し,かつ,ピックアップ工程に必要十分な剥離性を有するものであり,本件審決が説示する「ポリイミド用工程フィルムに求められるダイボンディングフィルムに対する剥離性」とは,上記のようなピックアップ工程に必要十分な剥離性を意味するものであって,原告が主張するような「ポリイミド用工程フィルムに離型処理を行った場合と同等又はそれ以上の離型性」のみを意味するものではない。
そして,工程数を減らして製造過程を単純化することは,技術者が常に念頭に置くべき周知の課題であって,離型処理工程を省略しようと試みることは当業者が普通に行うべき課題である。
(イ ) そうすると,仮に,引用発明1の剥離処理工程を施したポリイミド用工程フィルムよりも,本願発明の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルムの粘着力が高い場合があったとしても,引用発明1においては,ピックアップ工程に必要十分な剥離性が確保されていればよいことになる。
そして,引用例2には,粘着剤層(2a)に離型処理を施すことについては何ら記載されておらず,かつ,粘着剤層(2a)において,ピックアップ時の軽剥離が可能であることが記載されているのである(【0014】)から,引用発明1及び2に接した当業者であれば,離型処理工程を省略するために,ポリイミド用工程フィルムに代えて,引用発明2の粘着剤層(2a)を採用することは,格別の創意を要することなく容易に行うことができたものである。
イ引用例2の記載事項から粘着力が相対的に弱い部分を抜き出したこと上記(1) のとおり,引用例2の記載事項のうちから粘着剤層(2a)のみを抽出することができるものであり,引用発明1と引用発明2とは,いずれもダイシング・ダイボンディングフィルムという同一の技術分野に属し,ピックアップ工程において剥離を可能とするという共通の機能を有するものである。
また,引用発明1において,ポリイミド用工程フィルムは,ポリイミド系接着剤と共に用いられるものであるが,引用例2の【0063】には,ダイ接着剤として熱可塑性樹脂であるイミド系樹脂を用いることが記載されているように,引用例2記載の粘着剤層(2a)もポリイミド系接着剤と共に用いることができるものであるから,引用発明1に引用発明2を適用できないとする特段の事情もない。
(3) 小括以上によると,引用発明1及び2に接した当業者にとって,引用例1のポリイミド用工程フィルムの剥離処理工程を省略するために,同一の技術分野に属し,かつ,機能が共通する引用例2記載の粘着剤層(2a)を採用することは,各別の創意を要することなく容易に想到し得たものであって,本件審決の判断に誤りはない。
第4当裁判所の判断1引用発明2の認定の誤りについて(1)引用発明2の内容ア引用例2によると,引用発明2は,半導体チップなどのチップ状ワークと電極部材とを固着するための接着剤を,ダイシングする前にワーク(半導体ウェーハ等)に付設した状態で,ワークをダイシングに供するために用いられるダイシング・ダイボンドフィルムに係る発明であり(【0001】),ワークをダイシングする際の保持力と,ダイシングにより得られるチップ状ワークをそのダイ接着用接着剤層と一体に剥離するピックアップ時の剥離性とのバランス特性に優れるダイシング・ダイボンドフィルムを提供することなどを目的とするものであって(【0009】),ダイシング・ダイボンドフィルムの一部を構成する粘着剤層のうち,ダイ接着用接着剤層上のワーク貼付部分(3a)に位置的に対応する粘着剤層(2a)は軽剥離が可能な粘着力が相対的に弱い部分とし,他方,ダイ接着用接着剤層上のワーク貼付部分以外の部分(3b)に位置的に対応する粘着剤層(2b)は接着剤層とダイシング時やエキスパンド時に適度に接着して,粘着剤層と接着剤層とが剥離しないようにした粘着力が相対的に強い部分としたものであって(【0014】【0015】【0019】〜【0022】【0027】【0029】),その粘着剤層は,粘着剤層(2a)と粘着剤層(2b)とに粘着力の差を設けやすい放射線硬化型粘着剤により形成されることが好ましく,ワーク貼り付け部(3a)に対応する粘着剤層(2a)部分にのみ紫外線を照射することによって形成され(【0023】【0035】【0081】【0084】【0087】),(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含むものが考えられる(【0038】【0039】)との,ダイシング・ダイボンドフィルムの発明である。
イ以上によると,引用発明2は,ワーク貼付部分(3a)に位置的に対応する粘着力が相対的に弱い粘着剤層(2a)と,ワーク貼付部分以外の部分(3b)に位置的に対応する粘着力が相対的に強い粘着剤層(2b)とを設けるもので,粘着力が異なる2種類の粘着部分(2a)と(2b)とは,互いに異なる領域に各別に形成されているものであり,また,粘着部分(2b)はダイシング時やエキスパント時の機能を有するものであるのに対し,粘着部分(2a)はチップ状ワークを粘着剤層から剥離するピックアップ時の機能を有するものであって,この粘着剤層(2a)が担う軽剥離が可能とするとの機能は,粘着剤層(2b)とは独立した機能の併存によって達成されるものであるから,粘着剤層(2b)が存在することによって影響を受けるものではなく,粘着剤層(2a)のみによって独自に発揮されるものということができる。
そうであるから,引用発明2の課題が,ワークをダイシングする際の保持力と,ダイシングにより得られるチップ状ワークをピックアップする際の剥離性とのバランスを考慮したものであることを考慮しても,当業者は,引用発明2の構成に係る粘着力が相対的に弱い粘着剤層(2a)と粘着力が相対的に強い粘着剤層(2b)とをそれぞれ別個の構成のものとして認識することができ,それぞれが有する技術的意義も個別に認識することができるから,粘着剤層(2a)について,チップ状ワークを粘着剤層から剥離する時の軽剥離性に着目し,この粘着力が相対的に弱いものとして,独立して抽出することができるものということができる。
(2)小括したがって,粘着剤層につき,放射線硬化型樹脂を含む材料を紫外線により硬化させることにより形成されたフィルムであり,(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含むものである引用発明2につき,粘着力が相対的に弱い粘着剤層(2a)部分に着目して,「半導体ウェーハをダイシングし,半導体チップを得,半導体チップをダイボンドするのに用いられるダイシング・ダイボンドフィルムであって,イミド系樹脂を含むダイ接着用接着剤層と,前記ダイ接着用接着剤層の一方の面に貼付された粘着力が低下した粘着剤層とを有し,前記粘着力が低下した粘着剤層は,放射線硬化型樹脂を含む材料を紫外線により硬化させることにより形成されたフィルムであって,(メタ)アクリル系ポリマーを主成分として含む」発明と認定した本件審決には誤りはなく,原告の主張は採用することができない。
2引用発明1に引用発明2を適用できるとした判断の誤りについて(1)引用発明1の内容引用例1によると,引用発明1は,大径の状態で製造された半導体ウェーハをICチップに切断分離(ダイシング)された後に次の工程であるパッケージ用リードフレームにICチップを載置するダイボンディング工程に移す際,半導体ウェーハがあらかじめ粘着シートに貼着された状態で,ダイシング,洗浄,乾燥,エキスパンド及びピックアップの各工程が加えられた後,次工程のダイボンディング工程に移送されるもので(【0002】),このような半導体ウェーハのダイシング工程からピックアップ工程に至る各工程で用いられる粘着シートとして,ダイシング工程から乾燥工程まではウェーハチップに対して十分な接着力を有し,他方,ピックアップ時にはウェーハチップに粘着剤が付着しない程度の接着力を有しているものが望まれるものであって(【0003】),前記第2の3(2)アのとおり,「シリコンウェーハをダイシングし,ICチップを得,ICチップをリードフレームに接着するのに用いられるテープ状のウェーハダイシング・接着用シートであって,ポリイミド系接着剤層と,前記ポリイミド系接着剤層の一方の面に貼付された,離型処理を施されたポリイミド用工程フィルムとを有し,前記ポリイミド用工程フィルムの側面が,感圧性接着剤層及び前記ポリイミド系接着剤層のうちのいずれによっても覆われていない,ウェーハダイシング・接着用シート」との発明である。
(2)剥離処理工程の省略ところで,引用発明1において「ポリイミド用工程フィルム」に離型処理が施されるのは,ポリイミド用工程フィルムの特性としては,ダイシング工程等においては必要十分な接着力を有し,他方,ピックアップ工程においては必要十分な剥離性を有するものであることが求められているからである。
しかしながら,工程数を減らして製造過程を単純化することは,技術者が常に念頭に置くべき周知の課題であるから,引用発明1において,「離型処理工程」を省略しようと試みることそれ自体は当業者が普通に行うべき課題であるということができる。
そして,引用例2の記載事項から粘着力が相対的に弱い部分を抜き出すことに問題がないことは前記説示のとおりであるから,引用発明1の離型処理を施されたポリイミド用工程フィルムについて,その「離型処理」を省略しようと試みる当業者が,引用発明1と同様のダイシング・ダイボンドフィルムに関する引用発明2に係る引用例2に接した場合,前記(1)のとおりの粘着剤層(2a)が離型処理を行わなくともピックアップ工程に必要十分な剥離性を有することに着目するのはごく自然であって,このような引用発明2を引用発明1に適用することは容易に想到することができるものということができる。
(3)原告の主張についてこの点について,原告は,引用発明1では,もともと粘着力が非常に低く,離型性に優れているポリエチレンナフタレート樹脂やポリエチレンテレフタレート樹脂などからなるポリイミド用工程フィルムの離型性を更に向上するために,ポリイミド用工程フィルムに離型処理を施して使用しているのであるから,引用発明1において,ポリイミド用工程フィルムの離型処理工程を省略するために,ポリイミド用工程フィルムよりも粘着力が高い引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルムに置き換えようとすることは,技術的に矛盾した行為であって,当業者として試みることがないものであると主張する。
しかしながら,仮に,引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分して含む非粘着フィルムの粘着力が,引用発明1におけるポリイミド用工程フィルムの粘着力よりも高いものであるとしても,引用発明1においては,ピックアップ工程時,ピックアップに必要十分な剥離性が確保されていればよいものであるところ,前記1のとおり,引用発明2においては,紫外線によって硬化された粘着剤層(2a)がピックアップ時の軽剥離が可能な粘着力が相対的に弱い部分であるとされているのであるから,引用発明2に接した当業者であれば,引用発明1の離型処理工程に代えて,引用発明2の粘着剤層(2a)を採用することも,容易に想到することができたものということができ,このように想到するに際して,引用発明1のポリイミド用工程フィルムの粘着力と,引用発明2の(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分とする非粘着フィルムの粘着力とに差異があることが妨げとなるとは解されないから,原告の主張は採用することができない。
(4)小括したがって,引用発明1と同様にダイシング・ダイボンディングフィルムに関する引用発明2に係る引用例2に接した当業者が,引用発明1のポリイミド用工程フィルムに離型処理を施す代わりに,引用発明2を適用して,ダイボンディングフィルムの一方の面に貼付されるフィルムを,光硬化性樹脂を光硬化させることにより形成され,(メタ)アクリル樹脂架橋体を主成分として含む非粘着フィルムとすることに格別の創意は必要とされないとし,当業者において,本件相違点が容易想到であるとした本件審決の判断に誤りはない。
3結論以上の次第であるから,原告の請求は棄却されるべきものである。
裁判長裁判官 滝澤孝臣
裁判官 本多知成
裁判官 荒井章光