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事件 |
平成
21年
(ワ)
34337号
特許権侵害差止等請求事件
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東京都大田区<以下略> 原告スタジオオーシャンマークことA 同訴訟代理人弁護士小林幸夫 同 坂田洋一 同 補佐人弁理 士廣瀬哲夫大阪府東大阪市<以下略> 被告有 限会社ライラクス 同訴訟代理人弁護士白波瀬文夫 同訴訟代理人弁理士濱田俊明 |
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裁判所 | 東京地方裁判所 |
判決言渡日 | 1947/12/24 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 民事訴訟 |
主文 |
1被告は,別紙被告製品目録記載1ないし4の製品を製造し,販売してはならない。 2被告は,その占有する別紙被告製品目録記載1ないし4の製品を廃棄せよ。 3被告は,原告に対し,526万9110円及びこれに対する平成22年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 4原告のその余の請求を棄却する。 5訴訟費用は,これを7分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負担とする。 6この判決は,第3項に限り,仮に執行することができる。ただし,被告が370万円の担保を供するときは,その仮執行を免れることができる。 - 2 - |
事実及び理由 | |
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全容
第1請求1主文第1項及び第2項と同旨2被告は,原告に対し,578万9110円及びこれに対する平成22年9月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。 第2事案の概要本件は,魚の顎を挟持して魚を掴むための魚掴み器についての特許権を有する原告が,被告による別紙被告製品目録記載1ないし4の製品(以下「被告製品1」などといい,被告製品1ないし4を総称して「被告製品」という )の。 製造,販売行為は上記特許権を侵害する行為であると主張して,被告に対し,特許法100条1項に基づく被告製品の製造,販売の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄並びに不法行為に基づく損害賠償として578万9110円及びこれに対する不法行為の後である平成22年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。 1争いのない事実等(末尾に証拠を掲げていない事実は,当事者間に争いがない事実である )。 ( )当事者1原告は 「スタジオオーシャンマーク」の屋号で釣り具の開発,販売等を ,業として行う,個人事業主である。 被告は,日用雑貨,家庭用雑貨,アクセサリー等の販売等を業として行う特例有限会社である。 ( )原告の有する特許権2ア本件特許権の内容原告は,次の特許権(以下「本件特許権」といい,その特許請求の範囲請求項1の発明を「本件発明」という。また,本件発明に係る特許を「本件特許」といい,本件特許に係る明細書(別紙特許公報参照)を「本件明細書」という )を有する。。 特 許 番 号第4158990号発明の名称魚掴み器原 出 願 日平成17年1月25日分割の表示特願2005-17048の分割出願日平成18年2月1日登録日平成20年7月25日特許請求の範囲請求項1「先端基端方向に長い本体と,該本体先端部に設けられる固定歯と,本体先端部に基端部が揺動自在に支持され,先端が固定歯先端に突当てられて魚の口を掴むことができる可動歯と,本体に対して移動自在に設けられる操作体と,該操作体に設けられる指掛け部の強制移動操作により移動した該操作体を元姿勢に復帰させる復帰弾機とを備え,可動歯は,操作体が前記元姿勢に位置するときには該可動歯先端が固定歯先端から離間する方向の回動が規制され,操作体の復帰弾機に抗する強制移動に伴い回動規制が解除されて可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するよう揺動する構成になっていることを特徴とする魚掴み器 」。 イ特許査定前における請求項の補正(ア)原告は,平成18年2月1日,本件特許を出願した。出願当初の請求項1は,次のとおりであった(乙1の1 。)「握り部に内装され,可動体が弾機に弾持されて構成される量り部と,該量り部の可動体に連結され,操作部の操作で魚の口を挟持できる挟持部とを備えて構成される魚掴み器において,前記可動体の外周面に魚体の重量表示をする量り用目盛りを設けるにあたり,前記可動体外周面には,リールのドラグ力を表示するドラグ用目盛りが設けられていることを特徴とする魚掴み器 」。 (イ)原告は,平成20年1月21日提出の補正書により,請求項1を上記アの特許請求の範囲請求項1のとおり補正し(以下「本件補正」という,同年7月25日,本件特許の登録がされた。 。)( )構成要件の分説3本件発明を構成要件に分説すると,次のとおりである(以下,分説した構成要件をそれぞれ「構成要件A」などという。。)A先端基端方向に長い本体と,B該本体先端部に設けられる固定歯と,C本体先端部に基端部が揺動自在に支持され,先端が固定歯先端に突当てられて魚の口を掴むことができる可動歯と,D本体に対して移動自在に設けられる操作体と,E該操作体に設けられる指掛け部の強制移動操作により移動した該操作体を元姿勢に復帰させる復帰弾機とを備え,F可動歯は,操作体が前記元姿勢に位置するときには該可動歯先端が固定歯先端から離間する方向の回動が規制され,操作体の復帰弾機に抗する強制移動に伴い回動規制が解除されて可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するよう揺動する構成になっていることを特徴とするG魚掴み器。 ( )被告製品の製造,販売4被告は,被告製品を製造し,販売している。 ( )被告製品の構成5, (「」 被告製品1及び2の構成は 別紙被告製品機構図面1 以下 別紙図面1という )に記載のとおりであり,被告製品3及び4の構成は,別紙被告製 。 品機構図面2(以下「別紙図面2」という )に記載のとおりである。 。 被告製品は,構成要件A,B,D,E及びGを充足する(被告製品が構成要件C及びFを充足するか否かについては,後記のとおり当事者間に争いがある。。)2争点( )被告製品は本件発明の技術的範囲に属するか(争点1)1ア被告製品における可動歯は,その基端部が本体の先端部に「揺動自在に支持され (構成要件C)ているか(争点1-1) 」イ被告製品における可動歯は,操作体が元姿勢に位置するときに,可動歯の先端が固定歯の先端から離間する方向の「回動が規制され (構成要件」F ,操作体を復帰弾機に抗して強制移動することに伴い,上記「回動規 )制が解除され (同構成要件)るものか(争点1-2) 」( )本件特許は,特許無効審判により無効にされるべきものか(争点2)2ア本件補正は特許法17条の2第3項に違反するか(争点2-1)イ本件発明は進歩性を欠くか(争点2-2)( )原告の損害(争点3)33争点に関する当事者の主張( )争点1-1(被告製品における可動歯は,その基端部が本体の先端部に1「揺動自在に支持され」ているか)について[原告の主張]被告製品における可動歯は,別紙図面1及び別紙図面2に記載のとおり,本体の先端部にある支軸Aに支持され,かつ,操作部に設けられた指掛け部の引っ張り動作によって元位置から自在に揺れ動くこと,すなわち,揺動することが可能な構成である。 したがって,被告製品における可動歯は,その基端部が支軸に「揺動自在に支持され」ており,構成要件Cを充足する。 [被告の主張]「」,「。。。」() 揺動とは揺れ動くこと揺り動かすこと動揺広辞苑第5版を意味する語句である。したがって 「揺動自在に支持され (構成要件C) ,」とは 「可動歯が自在に揺れ動くことができるように支持されること」を意 ,味すると解するのが相当である。 これに対し,被告製品では,操作部と可動歯は中間片を介して常時連結し連動する構成であり(別紙図面1,2 ,可動歯の動き(拡開量)は操作部 )の引き量に連動するものであるから,可動歯の基端部が本体の先端部に「自在に揺れ動くように支持され」ているものではない。 よって,被告製品は,構成要件Cを充足しない。 ( )争点1-2(被告製品における可動歯は,操作体が元姿勢に位置すると2きに,可動歯の先端が固定歯の先端から離間する方向の「回動が規制され ,操作体を復帰弾機に抗して強制移動することに伴い,上記「回動規 」制が解除され」るものか)について[原告の主張]本件発明における「回動規制」とは,操作体が元姿勢に位置している状態では,可動歯の先端が固定歯の先端に突き当てられていて,可動歯が動かないことを意味する。この「回動規制」は,次のとおり,復帰弾機の付勢力によるものではなく,操作体が元姿勢に位置していること自体によるものであり,操作体を元姿勢から移動させると 「回動規制」が解除され,可動歯の ,先端が固定歯の先端から離間するべく,可動歯は揺動する。 すなわち,本件明細書の発明の詳細な説明によると,可動歯14は,支軸17を揺動軸として揺動するものであるが,操作体16が元姿勢状態にある時に,可動歯14を,支軸17を支点として拡開方向に強制揺動させようとすると,ピン14cを介して可動歯14に連結された作動体15が,ピン18aを支点として揺動しようとする(この揺動は,図9において左右方向の揺動となる。そして,この左右方向の揺動を,作動体15(ピン16d 。)が,作動体に設けた傾斜状の長孔15bに係合しているため,左右方向には移動しないようになっている )によって規制することで,可動歯の回動を 。 規制している。 一方,操作体16を復帰弾機20に抗して上方に強制移動操作すると,ピン16dが,作動体15に設けられた傾斜状の長孔15bを図10の上方に,,, , 向けて相対移動し これによって 作動体15は ピン18aを支点として図10において左方に揺動し,これに伴い,ピン14cも左方に移動する。 ピン14cの左方移動は,可動歯14に対する上記回動規制を解除し,可動歯を固定歯から離間する方向の揺動となる。 【図9】魚掴み器の第二本体を省略【図10】魚掴み器の第二本体を省略した閉鎖状態を示す挟持部の正面図した開放状態を示す挟持部の正面図【図11】魚掴み器の挟持部の分解斜視図一方,被告製品は,別紙図面1及び2(図5,6,9,10)のとおり,操作部が元姿勢にある時に,支軸Aを支点として揺動する可動歯を強制的に下方に拡開させようとすると,可動歯に設けられた長孔Bが,上下方向に揺動しようとする。しかしながら,長孔Bに嵌合しているピンCが設けられた作動体は,その傾斜状の長孔Gに,操作部(これは,左右方向にしか移動しない )に設けられたピンFが係合し,上下方向の移動が規制される構成と 。 なっているため,可動歯の回動は,規制される。 そして,操作部を右方向に操作すると,作動体の支軸Dが操作体の長孔Eを右側方に相対移動し,これに伴い,操作部に設けられたピンFが,作動体に設けられた傾斜状の長孔Gを右方に移動する。これによって,作動体は,支軸Dを支点として,ピンCを上方に揺動し,可動歯は,回動規制が解除され,支軸Aを支点として,固定歯から離間する方向の揺動をする。また,コイル弾機は,操作部を元姿勢に復帰させるためのものであって,可動歯の回動規制を直接行うものではない。 したがって,被告製品は,構成要件Fを充足する。 [被告の主張]構成要件Fにおける「回動規制」とは,作用的,機能的な表現である。そのため,構成要件Fを字義どおり見た場合 「操作体を操作しないときは, ,可動歯が固定歯先端に突き当たった状態に回動が規制され,操作体を操作して強制移動させると,回動規制が解除されて可動歯は拡張する 」という作。 用,機能を有する機構はすべて構成要件Fを充足する,という解釈が可能となる。 しかしながら,上記解釈は,明細書の発明の詳細な説明に開示された技術的事項の範囲を越えて特許権の効力を及ぼそうとするものであり,特許法36条6項1号(特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること)に違反する。本件発明における「回動規制」のように,作用的,機能的なクレームであるために構成要件の記載が発明の詳細な説明の記載と比較して広範すぎる場合は 「回動規制」という構成要件を,発明の詳 ,細な説明に開示された技術的事項に合理的に限定して,特許発明の技術的範囲を解釈すべきである。 そうすると,可動歯の回動を規制するための構成として本件明細書に開示されているものは,操作体16の下端縁に設けた円弧溝状のロック面16jに可動歯14の上縁部14dが入り込んでいて,可動歯が固定歯から離間する方向の回動を規制している構成(段落【0015,又は,復帰弾機2】)2が可動歯14に設けられて 可動歯を閉じる方向に絶えず付勢する構成 段 , (落【0014 ,図9〜11)であり,原告は,後者の構成は本件発明にお 】ける「回動規制」に当たらないと主張しているから,結局,本件発明における「回動規制」とは前者の構成を意味すると解するほかない。 ,,( 。) これに対し 被告製品では 操作部 本件発明における操作体に相当すると可動歯とは,直接接触しておらず,操作部に円弧溝状のロック面16jも存在しない。 また 「解除」とは 「ときのぞくこと。特別の処置をとりやめて,平常 ,,の状態にもどすこと(広辞苑第5版)を意味する。被告製品における可 。」動歯は,前記( )[被告の主張]のとおり,中間片を介して操作部と常時連1結して連動する構成であって,操作部の引き量に対応して絶えず回動が規制されているものであるから 「操作体の復帰弾機に抗する強制移動に伴い回 ,動規制が解除され」るものでもない。 したがって,被告製品は,構成要件Fを充足しない。 ( )争点2-1(補正要件違反の有無)について3[被告の主張]原告は,平成20年1月21日付け補正書により,請求項1を本件特許権の特許請求の範囲請求項1のとおり補正した。しかしながら 「回動規制が,解除され (構成要件F)る,という技術的構成は,当初明細書等に記載が 」ない。 また,本件明細書の発明の詳細な説明及び図面では,操作体16と可動歯, , 14とは 中間に作動体15が介在することによって構造的に連結しており操作体と可動歯とは連動する態様であるから,少なくとも,本件発明の実施形態では,可動歯は,操作体の操作によって「絶えず規制を受けながら回動する」ものであるというのが,正確な解釈である。 そうすると,本件発明において 「解除」という概念が一義的に生じるも ,のではなく,別途 「常時規制をされる」という概念を確立することが可能 ,である。 このように,本件補正によって新たに挿入された「解除」については,分割出願時に十分かつ明確に記載されていなかったため,その用語が本来持つ意味合い( ときのぞくこと。特別の処置をとりやめて,平常の状態にもど 「すこと(広辞苑第5版 )と,原告が主張する「連動して可動歯が開く意 。」)味合い」という,二義的な解釈を含むことになる。このような解釈を許容する本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲を超えてされたものであり,特許法17条の2第3項に違反する。 [原告の主張]本件発明における「回動規制が解除され」るという構成は,当初明細書等の段落【0015】及び【0016】に記載されている。 上記段落には,回動規制されている可動歯14が,操作体16の引き上げ操作を契機として,ボルト17を支点として固定歯13から離間して拡開する方向に揺動を開始する旨が記載されており,これは,まさに構成要件Fの「回動規制の解除」のことである。 ( )争点2-2(進歩性の有無)について4[被告の主張]本件特許は,次のとおり進歩性を欠くものであり,特許法29条2項により無効とされるべきである。 ア無効理由1(乙2公報記載の発明と周知技術による容易想到)本件発明は,以下のとおり,平成15年11月5日に公開された特開2003-311633号公報(乙2。以下「乙2公報」という )に記載。 された発明に周知技術を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。 (ア)乙2公報の記載及び同公報記載の発明と本件発明の一致点a乙2公報には,次の記載が存在する。 「 課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,手動掴 【み器具は,一端に握り部分を他端に固定あご部材を有するハウジン, 。 グと これらの端部間に設けられて長手方向に延びる柄とを備える可動あご部材は,ハウジング内に回動可能に支承され,かつ固定あご部材と協働できるように,ハウジングの開口部を通って外側へ延びる。バネで付勢された操作引金は,握り部分へ向けての操作引金の手動操作により,固定あご部材に対して可動あご部材が閉じられるように,連結部材により可動あご部材へ接続されているので,操作者は,器具の固定あご部材と可動あご部材との間で物体を掴むことができる(段落【0007 ) 。」】「 前略)摺動自在の操作引金70が,連結部材90(図2乃至図4 (を参照)を介して,回動可能な下部あご部材80へ取付けられている。操作において引金70が,使用者の手により操作端部12へ向けて引き付けられると,下部あご部材80を固定上部あご部材20へ向けて回動できる (後略(段落【0009 ) 。)」】「図2〜図4において最も良く示されるように,可動の下部あご部材80は,前方端部14に設けられて,固定あご部材20と協働するようになっている。本発明の好ましい実施例において下部あご部材80は,第1のハウジング部分30の側壁32の内面から横方向に延びる,側壁32と一体のほぼ円筒状突部59に対して回動可能に支承されている (後略(段落【0016 ) 。)」】ハウジングの一方のセグメントを取り除いた状態における器具の斜視図 【図2】() 【】図3 ハウジングの一方のセグメントを取り除いた状態における器具の側面図非作動状態) 【】図4 ハウジングの一方のセグメントを取り除いた状態における器具の側面図(作動状態bしたがって,乙2公報には,構成要件AないしEに相当する構成を有する手動掴み器具の発明が開示されている。また,乙2公報には,汎用的な掴み器具が記載されており,魚を掴むという用途を排除するものでないばかりか 「生きた動物を掴む掴み器具を開示」する特許 ,文献1を先行技術として引用しているので(段落【0004,乙】)2公報記載の発明と本件発明とは,産業上の利用分野が共通である。 (イ)本件発明と乙2公報記載の発明との相違点本件発明と乙2公報記載の発明は,本件発明は 「可動歯は,操作体,が前記元姿勢に位置するときには該可動歯先端が固定歯先端から離間する方向の回動が規制され,操作体の復帰弾機に抗する強制移動に伴い回動規制が解除されて可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するよう揺動する (構成要件F)構成を有するのに対し,乙2公報記載の発明 」では,操作者が操作引金を操作しないときは可動あご部材が開いた状態, , で 引金を引くと可動あご部材が固定あご部材に対して閉じられる構成を有する点において相違する。 (ウ)相違点の容易想到性直線的に操作した動き(操作体の操作)を回転方向の動き(可動歯の回動)に変換するには,可動歯の回転軸の左側を直線的に引けば可動歯は左回動し,反対に可動歯の回動軸の右側を直線的に引けば可動歯は右回動するという技術が一般的であり,この技術は,複雑なリンク機構を伴うことが不要な周知技術である。 また,固定歯と可動歯の関係において,可動歯が固定歯に対して閉じられたものを常態とするか,可動歯が固定歯から開かれたものを常態とするかは,当業者において適宜選択すべき事項である(何かを掴んでいる時間が比較的短い場合は,手に力を加えて操作を行えば可動歯が閉じて物を掴む技術を用い,掴んでいる時間が比較的長い場合は,疲労を避, , けるために力を加える時間を短くすべく 常態では可動歯が閉じており力を加えた時間だけ可動歯が開いて物を掴む技術を用いることになる。なお,常態では可動歯が閉じており,操作を行えば可動歯が開 。)くという構成は,洗濯ばさみのような周知技術にもみられる。 このように,本件発明は,乙2公報記載の発明に周知技術を適用することにより,当業者であれば容易に想到することができた。 ( ) イ無効理由2 乙2公報記載の発明と乙3公報記載の発明による容易想到本件発明は,乙2公報記載の発明に,平成7年7月11日に公開された特開平7-171775号公報(乙3。以下「乙3公報」という )に記。 載された発明を適用することにより,当業者が容易に発明をすることができたものである。 すなわち,本件発明と乙2公報記載の発明との相違点については上記ア(イ)のとおりであり,この相違点につき,乙3公報には,常態では開閉機構4の開閉可動部4aが固定部4bに対して閉じる方向に付勢され,ノブ20を引っ張りばね9cの力に抗して摺動するように引けば,開閉機構4の開閉可動部4aは固定部4bから離間して拡開するように回動する構, (【】, 成 つまり構成要件Fに相当する構成が開示されている 段落 0010【0015【0017【0026】〜【0029。 】,】, 】)また,乙3公報には,同公報記載の発明が民生機器などあらゆる産業上の分野に利用可能であることや,常開の構成では不都合があるので,その課題を解決するための開閉機構として常閉の構成を採用することが記載されている(段落【0001【0034。これらの記載は,この種の 】,】)保持装置(掴み具)では,当業者が常開機構と常閉機構のいずれを選択するかに困難性はなく,単なる選択事項であることを裏付けている。 以上のとおり,本件発明は,乙2公報記載の発明に乙3公報記載の発明を適用することにより,当業者であれば容易に想到することができた。 ( ) ウ無効理由3 乙2公報記載の発明と乙4公報記載の発明による容易想到本件発明は,乙2公報記載の発明に,2005年(平成17年)9月1日に公開された米国公開特許公報US2005/0189153A1(乙。「」。) , 4以下乙4公報というに記載された発明を適用することにより当業者が容易に発明をすることができたものである。 すなわち,本件発明と乙2公報記載の発明との相違点については上記ア,,,, (イ)のとおりであり この相違点につき 乙4公報には 回転あご45がバネ60によって付勢されながらラッチ50によって回転が規制されて常閉状態にあるが,ラッチ50の規制を解除すればバネ60の付勢によって回転あごが拡開方向に開く構成が開示されている。 したがって,乙4公報記載の発明の構成は,構成要件Fに該当する。 なお,乙4公報の公開日は,分割出願の親出願日である平成17年1月25日よりも後であるが,前記( )のとおり,本件発明の構成のうち,可3動歯の「回動規制が解除され」るとの技術的構成は,少なくとも,親出願の出願当初の明細書には存在しなかったものであるから,本件発明の特許要件については,分割出願の出願日である平成18年2月1日によて判断するのが相当である。 [原告の主張]ア無効理由1(乙2公報記載の発明と周知技術による容易想到)について本件発明は,針外しの途中で魚の口が外れて魚が落ちると,引っかかっている針で魚の口を著しく傷めてしまい,リリースしても生きられなくなるという課題を解決し,釣り上げた魚の口を確実に掴み続けられるようにするための構成として,構成要件AないしGの構成を備えるものである。 とりわけ,構成要件Fの構成,すなわち,操作しない状態(操作体が元姿勢に位置するとき)では,可動歯が固定歯から離間する方向の回動が規制され,操作体の強制移動に伴い,回動規制が解除されて可動歯が揺動するという構成は,上記課題を解決するために必須の構成である。 これに対し,乙2公報には 「釣り上げた魚の口を確実に掴み続けられ ,るようにする」という,本件発明に固有の上記課題を解決するために不可欠な構成要件Fに相当する構成が開示されておらず,同課題を開示する記載も示唆も存在しない。 したがって,乙2公報記載の発明を主引例として本件発明に想到することが容易であるということはできない。 , , 被告は 可動歯が固定歯に対して閉じられたものが常態である例として洗濯ばさみを挙げる。しかしながら,本件発明における固定歯は,動かないことが大前提であり,双方が可動歯である洗濯ばさみとは根本的に異なる。魚の口をしっかりつかむために,固定歯と回動規制された可動歯とで構成することは,周知技術ではない。 ( ) イ無効理由2 乙2公報記載の発明と乙3公報記載の発明による容易想到について乙3公報記載の発明は,ノブ20を図4(a)の状態から(b)の状態に操作すると,開閉可動部4aが固定部4bから離間揺動して閉姿勢から開姿勢に開くものであるといえるものの,閉姿勢において,開閉可動部4aを開方向に向けて強制操作した場合,開閉可動部4aは軸体4e回りに開放揺動する。つまり,乙3公報記載の発明では,元姿勢の状態で可動歯が固定歯から離間する方向の回動は規制されていないため,仮に,乙3公報記載の発明を魚掴み器として使用した場合に,魚が暴れて開閉可動部4aに開放方向の力が働くと,開閉可動部4aが開いて魚が外れてしまうという問題がある。 したがって,乙2公報記載の発明と乙3公報記載の発明とから本件発明に想到することが容易であるということはできない。 ( ) ウ無効理由3 乙2公報記載の発明と乙4公報記載の発明による容易想到について乙4公報記載の発明は,ラッチ50の他端51が可動あご45の歯47に係止することで,弾機62によって開方向に付勢される可動歯46の開方向の回動を規制し,閉姿勢に維持することはできる。しかしながら,閉姿勢の維持を解除するためには,握り部53を,弾機60の一端63に抗(),, して左側に握り操作 押し込み操作 することにより ラッチ他端51を支軸36を支点として右上側に移動させ,歯47から外す必要がある(図4 。また,このような開放姿勢の可動歯46を閉姿勢(図3)に戻すに )は,可動歯46に設けられる握り部49を弾機60に抗して右側に握り操作して,閉姿勢になったところで,ラッチ他端51を歯47に係止する必要がある。 このように,乙4公報記載の発明では,規制解除をするため操作されるのは,ラッチ50に設けられる握り部53であり,閉姿勢に戻すために操作されるのは,可動歯46に設けられる握り部49であって,異なる2種類の握り部を各別に操作しなければならない。これは,本件発明の構成要件Fの「操作体 (1種類である)と異なるものであり,乙4公報には, 」構成要件Fの「操作体」に相当する構成が開示されていない。 したがって,乙2公報記載の発明と乙4公報記載の発明とから本件発明に想到することが容易であるということはできない。 ( )争点3(原告の損害)について5[原告の主張]ア原告は,本件特許権の実施品である魚掴み器を自ら販売している(甲7 。)被告は,平成20年10月1日から平成22年8月31日までの間に,被告製品1を1322個,被告製品2を579個,被告製品3を1337個及び被告製品4を394個販売した。被告製品の販売による被告製品1個当たりの被告の利益額は,被告製品1が2017円であり,被告製品2が965.8円,被告製品3及び被告製品4が各903.2円である。 したがって,被告が被告製品を販売することにより原告の被った損害額は,被告が上記販売行為により受けた利益の額,すなわち,次の計算式のとおり合計478万9110円と推定される(特許法102条2項 。)(ア)被告製品1×=円1,32220172,666,474(イ)被告製品2×=円(1円未満切捨て) 579965.8559,198(ウ)被告製品3×=円(同上) 1,337903.21,207,578(エ)被告製品4×=円(同上) 394903.2355,860イ弁護士費用等原告は,被告に対し,被告製品を製造,販売する行為は本件特許権を侵害するものである旨を警告したが,被告は,被告製品の製造,販売を中止しなかった。そのため,原告は,やむを得ず,弁護士及び弁理士に委任して,本件訴えを提起した。 したがって,被告の上記不法行為と因果関係のある損害としての弁護士費用及び弁理士費用は,100万円である。 ウ合計上記ア及びイの合計額は,578万9110円である。 [被告の主張]原告の主張する事実のうち,平成20年10月1日から平成22年8月31日までの間に販売された被告製品の個数及び被告製品の販売による被告製品1個当たりの被告の利益額については,認める。その余の主張については争う。 第3当裁判所の判断1争点1-1(被告製品における可動歯は,その基端部が本体の先端部に「揺動自在に支持され」ているか)について( )被告製品1及び2の構成が別紙図面1に記載のとおりであり,被告製品13及び4の構成が別紙図面2に記載のとおりであることについては,当事者間に争いがない。 別紙図面1及び別紙図面2に記載のとおり,被告製品における可動歯は,本体の先端部にある支軸Aに支持され,操作部に設けられた指掛け部に指を掛けて引っ張ることによって元位置から離れ,指掛け部から指を離すことによって元位置に戻る構成であることが認められる。 したがって,被告製品における可動歯は,本体の先端部に基端部が支持されており,操作者が,指掛け部に指を掛けて引っ張ったり,指掛け部から指を離したりすることによって,これを「自在 ( 束縛も支障もなく,心の 」「ままであること。思いのまま(広辞苑第5版・1161頁 )に「揺動」 。」 )( 揺れ動くこと。揺り動かすこと。動揺(同・2742頁 )させるこ 「 。」)とができる構成であるといえる。 よって,被告製品における可動歯は 「本体先端部に基端部が揺動自在に ,支持され」ていると認められ,構成要件Cを充足する。 ( )これに対し,被告は,被告製品では,操作部と可動歯は中間片を介して2常時連結し連動する構成であり,可動歯の動き(拡開量)は操作部の引き量に連動するものであるから,可動歯の基端部が本体の先端部に「自在に揺れ動くように支持され」ているものではない,と主張する。 しかしながら 「揺動」及び「自在」の用語の通常の意味は上記( )のと ,1おりであるから,指掛け部を操作することによって操作者が可動歯を自在に揺動させることができることも 「揺動自在」に当たるというべきである。 ,「揺動自在」の意味を,被告の主張するように,可動歯が操作部と連動することなく常に揺れ動くことができる状態に支持されていることを要すると解すべき理由はない。 ( , , 2争点1-2 被告製品における可動歯は 操作体が元姿勢に位置するときに可動歯の先端が固定歯の先端から離間する方向の「回動が規制され ,操作体」を復帰弾機に抗して強制移動することに伴い,上記「回動規制が解除され」るものか)について( )本件では,構成要件Fにおける「回動が規制され」及び「回動規制が解1除され」の解釈が問題となる。 この点について,原告は,本件発明における「回動規制」とは,復帰弾機の付勢力によるものではなく,操作体が元姿勢に位置していること自体によ, ,「」, るものであり 操作体を元姿勢から移動させると回動規制 が解除され可動歯の先端が固定歯の先端から離間するべく可動歯が揺動すること,を意味する,と主張する。 これに対し,被告は,本件発明における「回動規制」のように,機能的,作用的な文言を用いているために構成要件の記載が発明の詳細な説明の記載と比較して広範すぎる場合は,発明の詳細な説明に開示された技術的事項に合理的に限定して解釈すべきであるとして,上記「回動規制」とは,本件明細書に開示されている構成,すなわち,操作体の下端縁に設けた円弧溝状のロック面に可動歯の上縁部が入り込むことによって,可動歯が固定歯から離間する方向の回動を規制している構成と解すべきである,と主張する。 ( )「規制」とは 「おきて。きまり。また,規律を立てて制限すること 」2 , 。 を(広辞苑第5版・647頁「解除」とは 「ときのぞくこと。特別の処 ),,置をとりやめて,平常の状態に戻すこと 」を(同・437頁「回動」と 。),は 「正逆方向に円運動すること (特許技術用語集第2版・19頁)を, , 」それぞれ意味するから,構成要件Fにおける「操作体が前記元姿勢に位置するときには該可動歯先端が固定歯先端から離間する方向の回動が規制され」とは 「操作体が元姿勢に位置するときに可動歯の先端が固定歯の先端から ,離間する方向の回動(円運動)が規制(制限)される」ことを 「操作体の,復帰弾機に抗する強制移動に伴い回動規制が解除されて可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するよう揺動する」とは,操作体を復帰弾機に抗して強制移動することにより,上記規制(制限)をとりやめ 「可動歯の先端を,固定歯の先端から離間して拡開するよう揺動させる」ことを意味するものと認められる。 もっとも,本件明細書の特許請求の範囲請求項1には,回動規制を達成するために必要な具体的な構成は明らかにされていない。このように特許請求の範囲に記載された発明の構成が機能的,作用的な表現を用いて記載されている場合において,当該記載から直ちに当該機能ないし作用効果を果たし得る構成であればすべてその技術的範囲に含まれると解することは,明細書に開示されていない技術思想に属する構成までもが発明の技術的範囲に含まれることとなりかねず,相当でない。したがって,特許請求の範囲に上記のような機能的,作用的な表現が用いられている場合には,特許請求の範囲の記載だけではなく,明細書の発明の詳細な説明の記載をも参酌し,そこに開示された具体的な構成に示されている技術思想に基づいて当該発明の技術的範囲を確定すべきものと解するのが相当である。 ( )そこで検討するに,証拠(甲2)によれば,本件明細書の発明の詳細な3説明中には,次の記載があることが認められる。 「 技術分野】本発明は,海や川等で釣り上げた魚を掴む挟持部と共に, 【その体重を測定できる量り部が設けられた魚掴み器の技術分野に属するものである(2頁20行ないし23行,段落【0001 ) 。」 】「 背景技術】今日,釣り上げた魚を放流するというスポーツフィッシン 【,, , グが盛んになり このような場合 釣り上げた魚を手で掴んで針を外すと魚体表面のヌルが手に付くだけでなく,これによって魚体が傷ついたりして魚が弱り,折角放流しても厳しい自然環境の中で生き抜くことが難しいという問題がある。そこで魚の口を挟持して魚を掴む魚掴み器が提唱されている(例えば特許文献1参照 。ところがこのものは,単に魚の口を挟 )持して魚を掴むものであって魚の体重までは測定することができないという問題がある。これに対し,魚の口を挟持した状態で量りを構成している握り部を持って持上げることで魚の体重測定ができるようにしたものが提唱されている(例えば特許文献2参照(2頁24行ないし33行,段 )。」落【0002 )】「 発明の効果】請求項1の発明とすることにより,魚への係止は,指掛 【け部に指を掛けて引き上げることにより可動歯が開放作動し,この状態で魚の口に一方の歯を入れ指掛け部を離せば自動的に魚の口(下顎)を挟持する状態となって魚掴みができ,この結果,魚つかみ操作の操作性が向上する(3頁31行ないし36行,段落【0005 ) 。」 】「 発明を実施するための最良の形態】次ぎに,本発明の実施の形態につ 【いて図面に基づいて説明する。図中,1は魚掴み器であって,該魚掴み器1は量り部2と挟持部3とで構成されている(後略(3頁37行ない)」し40行,段落【0006 )】「一方,挟持部3は,量り部2を構成する可動体10の下端部に一体的に取(),,, り付けられている 中略 そして第一 第二本体11 12の対向間には魚の顎(下顎)を挟持するための固定歯13,可動歯14,該可動歯14を揺動作動させるための作動体15,そして該作動体15の作動操作を行うための操作体16が介装されている(4頁34行ないし44行,段 。」落【0009 )】「一方,可動歯14は,固定歯13とは逆向きの鎌形状になっているが,両本体11,12の下部同志を固定するためのボルト17に揺動孔14aが回動自在に軸支されている(両本体11と12とにはボルト17を挿入するための螺子孔11cとバカ孔12dとが貫通孔として穿設されている)と共に,該揺動孔14aよりも上位置に穿設した作動孔14bに嵌入固着せしめたピン14cが,作動体15の下端部に穿設した作動孔15aに揺動自在に嵌入している。作動体15は,第一本体11に刻設した凹溝11hに,作動体15側面が少し突出する状態で嵌合して後述する揺動作動をすることになるが,作動体15には,前記作動孔15aよりも上位に位置して下側ほど固定歯13側に寄る(偏寄する)状態で傾斜した下側長孔15bと,上端部に位置する上側孔(上下方向に僅かに長孔になっている)。」(,【】) 15cとが穿設されている5頁2行ないし12行 段落 0011「また操作体16には,作動体15の前記凹溝11bから突出する部位が嵌合する凹溝16aが形成されていると共に,第二本体12に設けた上下方向を向く長溝12cに上下摺動自在に嵌合する突起16bが突設され,該突起16bの中心部に穿設した支持孔16cに固定したピン16dが前記下側長孔15bに移動自在に内嵌係合している(5頁13行ないし1 。」7行,段落【0012 )】「さらに操作体16には,上下方向に長い一対の長孔16e,16fが左右に設けられているが,これら長孔16e,16fは第一,第二本体11,12のあいだに介装した上下(第一,第二本体11,12に設けたピン孔11e,11f,12f,12gに嵌入する)ピン18,18aが貫通している。そのうちの上側のピン18aは,さらに作動体15の上側長孔1。,,, 5cに貫通している またさらに第一 第二本体11 12の中間部には両本体11,12を固定するためのビス19が挿入する孔(螺子孔)11d (バカ孔)12eが穿設されているが,該ビス19は,操作体16の ,側縁部に形成の凹溝16gの溝底に当接し,これらと,前記突起16bが下側長孔15cに内嵌係合していることで,操作体16は,第一,第二本体11,12に挟まれる状態で上下方向の移動と該移動範囲の制限がなされるようになっている(5頁18行ないし28行,段落【0013 ) 。」 】「さらに操作体16には,復帰弾機20を内装するための長孔16hが形成されているが,該復帰弾機20は,一端(下端)が孔端に支持され,他端が第一,第二本体11,12に形成のピン孔11g,12h間に介装したピン21に支持され,操作体16の上側にリング状に形成した指掛け部16iに指を入れて上側に操作することに伴う操作体16の上動で弾圧され,操作解除することで操作具16を下側元位置に復帰するようになっている。また,22は可動歯14に設けられる復帰弾機である(5頁2。」9行ないし35行,段落【0014 )】「そして挟持部3は,操作体16の未操作状態においては,復帰弾機20,22の付勢力を受けて操作体16が下側の未操作位置に位置し,可動歯14の先端が,固定歯13の先端に突き当たり当接する閉鎖姿勢となっているが,この未操作位置においては,図9に示すように,操作体16は,ピン18が長孔16eの上端位置に位置し,ピン18aが長孔16fの上端位置に位置し,ビス19が凹溝16gの上端位置に位置し,かつ突起16,,, bが長孔12cの下端位置に位置しており この姿勢では 作動体15はピン16dが作動体下側長孔15bの傾斜下端位置に位置することによって,図9におけるように可動歯14側に位置することになり,このため可動歯14は,先端側が固定歯13側に揺動した挟持姿勢(閉鎖姿勢)となっている。そしてこの状態で固定歯14を無理に開こうとしたとき,ピン,, 16dが固定歯13側に移動する方向の負荷を受けるが その負荷方向は作動体15を上側ピン18aを支点として左右方向固定歯13側に揺動しようとする負荷となり,これは突起16bが長孔12cを横切る方向の負荷であり,かつピン16dが下側長孔15bを横切る方向の負荷であり,さらに操作体16の下端縁に設けた円弧溝状のロック面16jに可動歯14の上縁部14dが入り込んでいて可動歯14が固定歯13から離間する方向の回動を規制しており,これらによって可動歯13の不用意な開放作動がなされて掴んでいる魚が外れてしまうことが防止できるようになっている(5頁36行ないし6頁2行,段落【0015 ) 。」 】「一方,操作具16を引き上げ操作した場合,該操作具16は,図10に示すように,ピン18,18a,ビス19,突起16cが前述したようにガイドされる状態で復帰弾機20の付勢力に抗して上動し,ピン18,18aは長孔16e,16fの下端位置に,またビス19は凹溝16gの下端位置に,突起16bが長孔12cの上端位置にそれぞれ相対移動するが,このとき,突起16bに設けたピン16dが,作動体下側長孔15bの傾斜面に沿って上端位置に移動する。この移動に伴い,作動体15は上側ピン18aを支点として左右方向固定歯14側に揺動し,これによって可動歯14は,ボルト17を支点として復帰弾機22の付勢力に抗して固定歯13から離間して拡開する方向に揺動し,挟持可能姿勢となるようになっている。尚,固定歯13には,針を係止するための係止孔13bが穿設されている(6頁3行ないし13行,段落【0016 ) 。」 】「叙述の如く構成された本発明の実施の形態において,魚が釣れた場合,魚掴み器1の握り部2を把持した状態で操作体16の前記引き上げ操作をして可動歯14を固定歯13から拡開させ,魚の針掛かりしている口の下顎(一般に魚は下顎が強く,ダメージを受けにくい)を挟むようにしてに(ママ)固定歯13,可動歯14の何れかを入れ,操作体16を離すと,可動歯14が揺動して閉じて下顎を両歯13,14で挟持することになる。この状態で針を外せば,魚体を触ることなく針外しができ,魚にダメージを与。()」( ,【】) えることがない後略6頁14行ないし20行段落0017( )上記発明の詳細な説明の記載及び図面によれば,本件発明は,操作者が4指掛け部から指を離す,すなわち,操作部を操作しない状態において,魚の口(下顎)をしっかり挟持することができ,魚掴み操作の操作性が向上することを,効果として狙ったものであり(段落【0005,その効果を奏】)するために,魚が釣れた場合,魚掴み器の握り部を把持した状態で操作体の引き上げ操作をして可動歯を固定歯から拡開させ,魚の針掛かりしている口の下顎を挟むようにしていずれかの歯を入れ,操作体を離すと,可動歯が揺動して閉じて下顎を両歯で挟持することになり,この状態で針を外せば,魚体を触ることなく針外しができ,魚にダメージを与えることがないという手法(段落【0017 )をとったものと認められる。 】そして,本件発明の実施例においては,操作体16が未操作のときに可動歯14を無理に開こうとすると,操作体16に形成したロック面16jと可動歯14に形成した上縁部14dが当接していることで,操作体16に左方向(固定歯13向きの左方向)の力が掛かるが,ピン18,18a,突起16bがそれぞれ対応する長孔の側部に当接しビス19が操作体16の左側面に当接することで操作体16の移動が阻止されている(操作体16を,可動歯を閉じた状態から左方向へ変移しようとすると,ピン18,18a及び突起16b等が,それぞれ対応する長孔の側部に当接し,また,ビス19が操作体16の左側面に当接するので,これによって,可動歯14を反時計回りに回そうと直接力を加えたときに,操作体16を左方向に押す力が生じれば,操作体16のロック面16jと可動歯14の上縁部14dの形状,位置の関係と,ピン18,18a,突起16b,ビス19等によって,操作体16の動きが阻止される )ことが,可動歯16についての「回動規制」の具体的 。 な技術内容であると認められる。なお,上記のとおり,上記実施例における「回動規制」は,ロック面16jと可動歯14の上縁部14dだけで実現できるものではなく,ピン18,18a,突起16bとそれぞれに対応する長孔の関連構成等も満たされて初めて実現されるものといえる。同実施例において,操作体16が未操作のときに可動歯を開こうとする力に対し,可動歯が動かないようにために,復帰弾機の付勢力を用いている旨の記載はない。 そうすると,構成要件Fの「回動規制」の技術的意義は,復帰弾機の付勢力によらずに,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止する構成を採用し,操作体が元姿勢に位置していること自体によって,可動歯が動かないようにすることにあると認められる。 ( )被告製品は,別紙図面1及び別紙図面2に記載のとおり,作動体(又は中5間片)が元姿勢に位置するときに,支軸Aを支点として揺動する可動歯に対してこれを強制的に拡開させるべく力を加えると,可動歯に設けた長孔Bが上下方向に揺動しようとするが,長孔Bに嵌合しているピンCが左端に設けられた作動体は,このとき左右方向にしか移動できない操作体に設けたピンFが作動体に設けた傾斜状の長孔Gに係合していることによって,その上下方向の移動が規制される構成となっているため,移動することはできず,可動歯は回動することができないものと認められる。 また,被告製品は,別紙図面1及び別紙図面2のとおり,操作体をコイル弾機に抗して右方向に強制移動させると,上記回動規制の状態を脱し,可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するものであることが認められる。 そうすると,被告製品における上記構成は,本件明細書の発明の詳細な説明に具体的に開示されたところの,操作体に左方向(固定歯向きの左方向)の力が掛かった際に,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止することによって可動歯を動かないようにするという構成と,技術思想を同じくするものであると解され,当業者が本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて採用し得る範囲内の構成であるといえる。 なお,別紙図面1及び別紙図面2のとおり,被告製品は,操作部に円弧溝状のロック面及び可動歯にこれと当接する上縁部は設けられておらず,この点は,本件発明における実施例と異なるものである。しかしながら,ピンや長孔を用いて操作体の移動を阻止する構成に加えて,操作部に円弧溝状のロック面及び可動歯にこれと当接する上縁部を設けることは,必ずしも,本件発明における回動規制(可動歯を強制的に拡開しようとしても,可動歯の先端が固定歯から動かない状態にすること )を実現するために不可欠なもの 。 であるとは認められず,本件発明における実施例のような構成とするか,被告製品のようにピンや長孔のみを用いて操作体の移動を阻止する構成とするかは,機械の設計上,当業者において適宜選択し得る事項であるといえる。 被告製品が,本件明細書の発明の詳細な説明の記載に基づいて当業者が採用し得る範囲内の構成によって本件発明における回動規制を実現していることについては上記のとおりである以上,上記の相違点があることは,上記判断を左右するものではない。 したがって,被告製品は,構成要件Fを充足する。 3争点2-1(補正要件違反の有無)について被告は,本件補正により新たに挿入された「回動規制が解除され (構成要」件F)という技術的構成は,当初明細書等に十分かつ明確に記載されていなかったため 「解除」という用語が本来持つ意味合い(ときのぞくこと。特別の ,処置をとりやめて,平常の状態にもどすこと )と,原告の主張する「連動し 。 」, , て可動歯が開く意味合い という 二義的な解釈を含むことになるものでありこのような解釈を許容する本件補正は,願書に最初に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲を超えてされたものであって,特許法17条の2第3項に違反すると主張する。 しかしながら,証拠(乙1の1,甲2)によれば,当初明細書等には,本件明細書の段落【0015】及び【0016】と同じ記載が存在すると認められるところ,これらの段落に,操作体が未操作のときには可動歯が固定歯から離間しない(回動しない)よう規制し,操作体を操作することによって可動歯が固定歯から離間して拡開することができるようになる旨及びそのための具体的構成について記載されていると認められることについては,上記2で説示したとおりである。 したがって,可動歯の「回動規制が解除され」るという事項は,当初明細書等に同一の文言が記載されていたものではないが,当初明細書等に記載されていた事項から自明な事項であって,当初明細書等に記載した事項の範囲内のものであると認められる。 よって,本件補正は,特許法17条の2第3項に違反するものではなく,被告の主張は理由がない。 4争点2-2(進歩性の有無)について被告は,本件発明は,乙2公報記載の発明に,洗濯ばさみなどの周知技術,乙3公報記載の発明又は乙4公報記載の発明を組み合わせることにより,当業者が容易に想到することができたものであると主張する。 ( )乙2公報の記載1証拠(乙2)によれば,乙2公報には,以下の記載が存在すると認められる。 「 発明の属する技術分野】本発明は,掴み器具,特に,その製造と組立 【を容易とする構造を有する軽量の手動掴み器具に関する(2頁2欄1。」2行ないし15行,段落【0001 )】「 従来の技術】多くの人は,その動作の範囲を制約する身体的限界を有 【するので,曲げたり,ねじったり,伸ばしたり,およびその他日常の機能実施に必要な動作を行なうことが難しい。特に,そのような限定された動作範囲により,動作が不可能でない場合でも,手の届かない物体を掴み,および/または取扱うことが難しくなることがある。したがって多くの人は,その動作範囲を拡大することができ,かつ物体または物品を掴み,またはその他,巧みに操作するようになっている手動器具があれば,それから多大の利点を得られるであろう。種々の掴み器具,および関連する器具が,従来技術において知られている。しかしながら,それらは,1つ以上の欠点および/または限界点を有する(2頁2欄16行ないし29行, 。」段落【0002 )】「既存の掴み器具の共通の欠点は,重量が比較的重く,多くの構成部材を組込んだ複雑な構造であり,それにより,製造に複雑性とコストを付加し,故障の可能性を増加し,かつ流通場所へ,または最終使用者への出荷前の事前加工を必要とする。多くの既存の掴み器具の他の欠点は,それらの器具が,器具の本体内に回動自在に位置決めされる引金機構を組込むことが多い点である。したがって,引金を握りに向けて押付けると,その器具が回動する傾向がある。この加えられた回転の動きにより,特に,体力と手先の器用さが限定された人が使用する場合に,そのような器具が幾分不安定になる(2頁2欄30行ないし41行,段落【0003 ) 。」 】「さらに,多くの既知の器具は,特殊のあごの形状または形態を必要とする特定の機能専用に設計されているので,日常生活に必要な多用途に適していない。一例として,特許文献1は生きた動物を掴む掴み器具を開示し,特許文献2は高温インベストメント鋳型を掴む掴み器具を開示し,特許文献3は,吸引カップにより捕捉できる物体を掴む掴み工具を開示し,特許文献4はスパークプラグワイヤまたはブーツを掴む工具を開示し,および特許文献5は,床から1本の石鹸を取り出すようになっている遠隔引っ掛け器具を開示する(2頁2欄42行ないし3頁3欄1行,段落【00 。」04 )】「 発明が解決しようとする課題】したがって,従来技術の上述の欠点と 【限界点を克服する掴み器具,特に限定された動作,強さ,および手の器用さの範囲を有する人が使用できるようになっている軽量の掴み器具を提供することが望ましいであろう。専用工具またはノウハウを実質的に必要とすることなく,販売者,治療専門家により,または必要に応じて最終使用者により,製造および現場組立の費用を安くする,単純で軽量な構造を有する器具を提供することが望ましい(3頁3欄8行ないし17行,段 。」落【0006 )】「 課題を解決するための手段】上記課題を解決するため,手動掴み器具 【は,一端に握り部分を他端に固定あご部材を有するハウジングと,これらの端部間に設けられて長手方向に延びる柄とを備える。可動あご部材は,ハウジング内に回動可能に支承され,かつ固定あご部材と協働できるように,ハウジングの開口部を通って外側へ延びる。バネで付勢された操作引金は,握り部分へ向けての操作引金の手動操作により,固定あご部材に対して可動あご部材が閉じられるように,連結部材により可動あご部材へ接続されているので,操作者は,器具の固定あご部材と可動あご部材との間で物体を掴むことができる(3頁3欄18行ないし30行,段落【0 。」007 )】「 発明の実施の形態】先ず図1を参照すると,全体を参照番号10で示 【される本発明の手動掴み器具の実施形態が,完全に組み立てられた状態で図示されている。この器具は,操作者による器具の支えのための後方端部すなわち操作端部12,および前方端部すなわち物体を掴みかつ取り扱う取扱端部14を備える。握り部分18と固定あご部材20を隔てる細長い柄16によりハウジングが構成されている。好ましくはハウジングは,装着手段により互いに固定される第1と第2の長手方向に延びるハウジング部分30及び60から構成される。以下で詳細に論じるように,本発明の好ましい実施形態において装着手段は,スナップ嵌め装着装置39,62の形態である。摺動自在の操作引金70が,連結部材90(図2乃至図4を参照)を介して,回動可能な下部あご部材80へ取付けられている。操作において引金70が,使用者の手により操作端部12へ向けて引き付け, 。 られると 下部あご部材80を固定上部あご部材20へ向けて回動できる一体で形成されたフック状構造部分22が,物体を掴みかつ取り扱うための別の機能を提供する(3頁3欄40行ないし4欄8行,段落【00 。」09 )】「 , , 図2〜図4において最も良く示されるように 可動の下部あご部材80は前方端部14に設けられて,固定あご部材20と協働するようになっている。本発明の好ましい実施例において下部あご部材80は,第1のハウジング部分30の側壁32の内面から横方向に延びる,側壁32と一体のほぼ円筒状突部59に対して回動可能に支承されている。好ましくは下部あご部材80には,厚肉のほぼ円筒状の壁構造部材82の内径により規定される半径を有する取付開口が備えられ,またいずれにせよ,その開口の径, , は あご部材80が突部59のまわりに円滑かつ自由に回動できるように突部59の径よりも僅かに大きい。下部あご部材80は,突部59すなわち回動中心から離間する末端部分86を有し,反対側はのこ歯状の挟み部分84に至っており,使用中に,固定あご部材52に形成される対応するのこ歯状の挟み部分54と協働する。組立てられた状態において末端部分86は,ハウジングの内部に位置決めされ,一方では,その中央部位および挟み部分84は,下部壁セグメント36内に形成された開口部87を通って外側へ延びている(図3および図4参照(4頁5欄30行ないし )。」49行,段落【0016 )】「下部あご部材80の回動を間接的に行わせるために引金機構が設けられている。図2,図3,図4および図5において最も良く示されるように,好ましくはその引金機構は,長手方向に配設される上部部分72を備えた逆L形形状を有する引金部材70と,上部部分72に関して横方向に向けられ,下方へ延びる下部部分74とを有している。下側部分74には好ましくは,使用の際に掴みを容易にする指係合溝75が形成される。長手方向の上部部分72は,上部壁セグメント34および下部壁セグメント36から内部へ延びる突起部40により,その上面と下面71および73において境界を区切られている。下側部分74の下端部位76において外側へ延びる突起部78が設けられる。これらの突起部78は,長手方向に配設さ。 れたハウジング壁と一体の案内構造部材50により摺動自在に案内されるこのようにして引金部材70は,図3の矢印Aにより示されるように,後部から前方方向に,縁部35により限定される移動範囲まで,かつ矢印Bにより示されるように,前部から後方方向に,前方壁セグメント52により限定される移動範囲までに,第1のハウジング部分30内の長手方向への移動が制限されている。同様な状態が,対向する第2のハウジング部分60について存在する (後略(4頁5欄50行ないし6欄21行,段 。)」落【0017 )】「付勢部材すなわちバネ96には,一体で形成された壁44,45および46によってハウジング構造部材内に保持された末端部と,引金部材70に連結されて後方へ延びる突起部79に装着された基端部とを有して形成されている。付勢部材96は,後部から前方すなわち前面の方向に引金を付。」( ,【】) 勢するように機能する4頁6欄25行ないし30行 段落 0018「連結部材90は末端部92と基端部94を有していて,引金部材70と可動あご部材80との間に設けられる。組立てられた状態において,連結部材90は,その末端部92において引金の上部部分72へ,およびその末, 。 端部94において 可動あご部材80の末端部分86へ取付けられている本発明の一実施例において連結部材90は,ほぼ剛性のロッド状部材から構成される。本発明のこの態様において,使用者の手により力が加えられないで,引金部材70が前方に付勢された状態すなわち非作動位置にあるとき,連結部材90は,下部あご部材80を円筒状突部59の回りに時計方向に回動させる。これにより (図3において最も良く示されるように) ,下部あご部材80は開放位置に維持される。これに対して,引金部材70が絞られると,すなわち使用者の指により後方へ力が加えられて,引金部材70が後方へ動かされると,連結部材90は,下部あご部材80を突部59の回りに反時計方向へ回動させる。この作用により (図4において,最も良く示されるように)下部あご部材80が閉止位置へ向けて動かされる(4頁6欄31行ないし49行,段落【0019 ) 。」 】「補助付勢部材98は,連結部材90がほぼ剛性ロッドの形態である実施形態にも利用できる。この場合には後方に配置された付勢部材96を無くすことができる(5頁7欄21行ないし24行,段落【0021 ) 。」 】「本発明の他の側面において,参照番号22で全体を示した一体で成形されたフック状構造部分が,器具ハウジングから上方へ突出して設けられている。好ましくは,フック状構造部分22は,先細の上面56と湾曲した後面58により少なくとも部分的に形成される。本発明の上述の各部材と同様に,フック状構造部分22は,第1と第2のハウジング部分30,60の一部分も形成する。例えば,フック状構造部分22は,身体障害者がジャケットを身に付けたり,スラックスやシャツを着たり,またはソックスを脱いだりする際の補助に使用できる。これは,屈曲が困難か,動作範囲が限定されるか,もしくは片方の手または腕だけしか使用できない人にとり特に有用である。加えて,フック状構造部分22は,手の届かない物品, ,,, を掴み および/または操作するのに有用であり また歩行器 ドアノブまたは他の便宜的な構造体に 当該器具を吊り下げる手段を提供する5 , 。」(頁7欄25行ないし41行,段落【0022」】)( )乙2公報記載の発明2以上の記載から,乙2公報には 「細長い柄と,該柄の先端部に設けられ ,る固定あご部材と,連結部材の末端部に末端部分が回動可能に支持され,挟み部分が固定あご部材の挟み部分に突当てられて物を掴むことができる可動あご部材と,柄に対して移動自在に設けられる連結部材と,該連結部材に連結される引金部材の強制移動操作により移動した該連結部材を元姿勢に復帰させるバネ,補助付勢手段とを備え,可動あご部材は,連結部材が前記元姿勢に位置するときには該可動あご部材の挟み部分が固定あご部材の挟み部分から離間しており,連結部材のバネ,補助付勢手段に抗する強制移動に伴い可動あご部材の挟み部分が固定あご部材の挟み部分に近づくよう揺動する構成になっている手動掴み器具 」の発明が開示されていると認められる(以 。 下「乙2発明」という。。)( )乙2発明と本件発明との対比3乙2発明における「細長い柄「固定あご部材「可動あご部材「連 」,」,」,結部材「バネ,補助付勢手段」及び「引金部材」は,それぞれ,本件発明 」,における先端基端方向に長い本体固定歯可動歯操作体復 「 」,「」,「」,「」,「帰弾機」及び「指掛け部」に相当する。また,固定歯(固定あご部材)に関して,乙2発明における「挟み部分」は,本件発明における「先端」に相当し,可動歯(可動あご部材)に関して,乙2発明における「末端部分「挟」,み部分 及び 回動可能 は 本件発明における 基端部先端 及び 揺 」「」 ,「」,「」「動自在」に相当する。 したがって,乙2発明と本件発明とは,構成要件AないしEに相当する構成を備える点で一致し,以下の点で相違すると認められる。 ア相違点1本件発明の可動歯は,操作体が前記元姿勢に位置するときには該可動歯先端が固定歯先端から離間する方向の回動が規制され,操作体の復帰弾機に抗する強制移動に伴い回動規制が解除されて可動歯先端が固定歯先端から離間して拡開するよう揺動するのに対し,乙2発明の可動あご部材は,操作者が操作引金を操作しない時には開いた状態で,引金を引けば可動あご部材が固定あご部材に対して閉じられる構成を有する点。 イ相違点2本件発明は魚の口を掴む「魚掴み器」であるのに対し,乙2発明の用途は限定されていない点。 ( )本件発明の容易想到性について4ア被告は,上記相違点1に相当する構成は,洗濯ばさみなどの周知技術である,又は,乙3公報若しくは乙4公報に開示されているものであり,これらの周知技術ないし発明を乙2公報記載の発明に適用することは当業者にとって容易であったものであるから,これらの周知技術等を組み合わせることによって,当業者は本件発明に容易に想到することができたと主張する。 イしかしながら,前記のとおり,本件発明における可動歯の「回動規制」とは,可動歯を強制的に拡開しようとしても,可動歯の先端が固定歯の先端から動かない状態にする(ピンや長孔を用いることなどにより,可動歯が固定歯の先端から離間する方向に移動することを阻止する )意味と解。 される。これに対し,洗濯ばさみには,そもそも,固定歯に相当する部材が存在しない上,可動歯を強制的に拡開しようとすれば,これを防ぐことはできない構成であるため,上記意味での「回動規制」の構成を備えているとは認められず,他に本件発明における「回動規制」の構成が周知であると認められる証拠はない。 したがって,上記相違点1に相当する構成は洗濯ばさみなどの周知技術であり,この周知技術を乙2発明に組み合わせることによって当業者は本件発明に容易に想到することができたとの被告の主張は理由がない。 ウ証拠(乙3)によれば,乙3公報には 「桿体に被移動体が挿入され, ,前記桿体の先端には,前記被移動体の移動に連動して開閉する開閉機構が装備され,前記開閉機構は開閉可動部とこれを受ける固定部を有し,前記開閉可動部が前記固定部に対し常時は閉じる方向に付勢され,この開閉可動部が後退して開閉動作を行うよう設定してある保持装置 」の構成が開示。 されていることが認められる。 乙3公報には,ばね体4fにより開閉可動部が閉じた位置となるようにする構成も開示されているものの,これは,当該開閉可動部が閉じた位置にあるときに,これを強制的に拡開しようとした際にそれを防ぐようにするものではないため,構成要件Fにおける「回動規制」及び「 回動規制を)解除」する構成 (が開示されているものではない。 , , したがって 上記相違点1に相当する構成は乙3公報に開示されておりこれを乙2発明に組み合わせることによって当業者は本件発明に容易に想到することができたとの被告の主張は理由がない。 エ また,分割出願である本件特許出願の出願日は,親出願の日である平成17年1月25日とみなされるから(特許法44条2項 ,その後である)同年9月1日に公開された乙4公報は,本件特許出願の時に公知となっていた刊行物には当たらず,本件発明の進歩性判断のための引用例とすることができないことは明らかである 被告は 本件発明における可動歯の 回 。, 「動規制が解除され」るという事項は,親出願の出願当初明細書に存在しなかったから,親出願の出願日ではなく本件特許の出願日である平成18年2月1日を本件特許の進歩性判断の基準時とすべきであると主張する。しかしながら,上記の事項に関する補正がされたのは,分割出願の後である平成20年1月21日であり,しかも,本件発明における可動歯の「回動規制が解除され」るという事項が,当初明細書等に記載した事項の範囲内, ,, であることについては 上記3で説示したとおりであり これらの事項が親出願の出願当初明細書等に存在しなかったと認めるに足りる証拠はない。 したがって,本件補正は本件出願の分割要件の有無に何ら影響を及ぼすものでないことは明らかであり,被告の上記主張は失当である。 また,証拠(乙4)によれば,乙4公報には 「長い担体と,該担体先端部 ,に設けられる固定あごと,担体先端部に揺動自在に支持され,先端が固定あごに突当てられて魚を掴むことができる可動あごと,担体に対して移動自在に設けられ,元姿勢に位置するときには可動あご先端が固定あご先端から離間する方向の回動を規制するラッチと,可動あごとラッチに取り付けられた,可動あご先端が固定あご先端から離間して拡開するよう付勢するばね部材とを備え,可動あごは,ラッチが元姿勢に位置するときには該可動あご先端が固定あご先端から離間する方向の回動が規制され,ラッチに設けられる握りの強制移動に伴い回動規制が解除されて可動歯先端が固。」 定歯先端から離間して拡開するよう揺動する構成になっている魚掴み器の構成が開示されていると認められる。これは,ラッチ及び可動あごをそれぞれに設けられた握り部を操作して所定の位置とすることにより,当該ラッチ及び可動あごが互いに係合した状態となって可動あごが固定あごから離間する方向に回動しないようにしたものであるが,この状態は,ばね部材の力を利用するものではなく,その解除は,ラッチの握り部の操作とばね部材の力によるものであるから,構成要件Fにおける「操作体の復帰弾機に抗する強制移動に伴い回動規制が解除」される構成を欠くものであることが,明らかである。したがって,乙4公報記載の発明は,構成要件Fにおける構成を開示するものではない。 , , したがって 上記相違点1に相当する構成は乙4公報に開示されておりこれを乙2発明に組み合わせることによって当業者は本件発明に容易に想到することができたとの被告の主張は理由がない。 5争点3(原告の損害)について( )特許法102条2項による推定1平成20年10月1日から平成22年8月31日までに販売された被告製品の数及び被告製品の販売による被告製品1個当たりの被告の利益額が,被告製品1は販売個数が1322個で1個当たりの利益額が2017円,被告製品2は販売個数が579個で1個当たりの利益額が965.8円,被告製品3は販売個数が1337個で1個当たりの利益額が903.2円,被告製品4は販売個数が394個で1個当たりの利益額が903.2円であることについては,当事者間に争いがない。 また,証拠(甲7)及び弁論の全趣旨によれば,原告は 「スタジオオー,シャンマーク」の屋号で釣り具の開発,販売等を業として行う者であり,製品名を「オーシャングリップ」とする魚掴み器を販売していることが認められる。 そうすると,被告が被告製品を製造,販売することにより原告の被った損害額は,特許法102条2項により,次の計算式のとおり合計478万9110円と推定される。 ア被告製品1×=円1,32220172,666,474イ被告製品2×=円(1円未満切捨て) 579965.8559,198ウ被告製品3×=円(同上) 1,337903.21,207,578エ被告製品4×=円(同上) 394903.2355,860オ合計+++=円 2,666,474559,1981,207,578355,8604,789,110( )弁護士費用等2本件事案の内容,認容額及び本件訴訟の経過等を総合すると,上記特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士費用及び弁理士費用の額は48万円と認められる。 ( )合計3したがって,被告は,原告に対し,上記( )及び( )の合計額である526 12万9110円及びこれに対する不法行為の後である平成22年9月1日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。 6結論以上のとおり,被告製品は本件発明の技術的範囲に属し,本件特許は無効にされるべきものとは認められないから,原告の特許法100条1項に基づく被告製品の製造,販売の差止め及び同条2項に基づく被告製品の廃棄請求は,理由がある。 また,本件特許権侵害を理由とする損害賠償請求は,上記5で認定した限度で理由がある。 よって,原告の請求は主文第1項ないし第3項の限度で理由があるからこれを認容し,その余の請求は理由がないからこれを棄却し,仮執行宣言について, , は 主文第1項及び第2項については相当でないからこれを付さないこととしてにより被告に担保を立てさせて仮執行免脱の宣言をすることとし 申立主文のとおり判決する。 て, |
裁判長裁判官 | 阿部正幸 |
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裁判官 | 山門優 |
裁判官 | 柵木澄子 |