関連審決 | 不服2008-26926 |
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関連ワード | 製造方法 / 進歩性(29条2項) / 容易に発明 / 一致点の認定 / 慣用技術 / 技術常識 / パリ条約 / 優先権 / 拒絶査定 / 請求の範囲 / |
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事件 |
平成
22年
(行ケ )
10159号
審決取消請求事件
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原告 カーベルシュレップ・ゲゼルシャフト・ ミット・ベシュレンクテル・ハフツング 訴訟代理人弁護士 忠内信篤弁理士 中平治池田利夫 被告 特許庁長官 指定代理人 大山健山岸利治 川本眞裕 黒瀬雅一 田村正明 |
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裁判所 | 知的財産高等裁判所 |
判決言渡日 | 2010/12/22 |
権利種別 | 特許権 |
訴訟類型 | 行政訴訟 |
主文 |
原告の請求を棄却する。 訴訟費用は原告の負担とする。 この判決に対する上告及び上告受理の申立てのための付加期間を30日と定める。 |
事実及び理由 | |
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全容
第1原告の求めた判決特許庁が不服2008-26926号事件について平成22年1月4日にした審決を取り消す。 第2事案の概要本件は,特許出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,本願発明の進歩性の有無である。 1特許庁における手続の経緯原告は,平成14年4月12日,名称を「エネルギ案内鎖の鎖リンクの製造方法及び鎖リンク」とする発明について,特許出願(パリ条約による優先権主張2001年4月12日,ドイツ連邦共和国,特願2002-581861号)をしたが,平成20年6月30日付けで拒絶査定を受けたので,同年10月3日,これに対する不服の審判を請求した。 特許庁は,上記請求を不服2008-26926号事件として審理した上,平成22年1月4日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年1月25日原告に送達された(出訴のための附加期間90日 )。 2本願発明の要旨平成19年12月20日付けの手続補正(甲 5)により補正された特許請求の範囲の請求項1に係る発明(以下「本願発明1」という。 )及び請求項14に係る発明 (以下「本願発明14」という。 )は,以下のとおりである (補正事項は下線部のとおり。 )。 【請求項1】エネルギ案内鎖のプラスチックから成る鎖リンクが互いに間隔をおいた側板(10,11,30,31,50,51,70 )及びこれらの側板を結合する下部及び上部の横連絡片(15,18,35,38,55,56,75 )を持ち,少なくとも1つの横連絡片(15,35,55,75 )が側板の1つ (10,30,50,70)に関節結合されている,鎖リンクの製造方法において, まず側板の少なくとも1つ(10,30,50,70 )が形成され ,それから横連絡片の少なくとも1つ(15,35,55,75 )の形成中に ,側板の1つ (10,30,50,70 )と横連絡片の1つ(15,35,55,75 )との関節 結合部が 同時に形 成されることを特徴とする ,鎖リンクの製造方法。 【請求項14】エネルギ案内鎖用のプラスチック製鎖リンクであって,互いに間隔をおいた側板(10,11 )及びこれらの側板を結合する下部及び上部の横連絡片(15,18 )を持ち,少なくとも1つの横連絡片 (15 )が側板の1つ (10 )に関節結合されているものにおいて,横連絡片(15 )の一部 が,側板 (10 )に形成される継手軸(16 )を継目なしに包囲していることを特徴とする,鎖リンク。 3審決の理由の要点(1)本願発明は,引用例(特開平10-238599号公報,甲3)に記載された発明に基づいて,当業者が容易に発明をすることができたものであるから,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 (2)引用例に記載された各発明(以下「引用発明1」及び「引用発明2」という。)は,次のとおりであり,これら発明と本願発明1及び本願発明14との一致点及び相違点並びに相違点についての判断も,次のとおりである。 【引用発明1】「電力ケーブルを案内する合成樹脂で成形されるケーブルチェーンが単位部材3,3′において所要の間隔をおいて相対する一対のリンクプレート5及びこれら一対のリンクプレート5を連結する支持板7及びカバー部材25を持ち,カバー部材25に,リンクプレート5の取付け部21との関節結合部が形成されている,ケーブルチェーンの成形方法において,リンクプレート5を含む単位部材3,3′を一次成形して,関節結合部を含むカバー部材25を二次成形する,ケーブルチェーンの成形方法。」【引用発明2】「電力ケーブルを案内する合成樹脂で成形されるケーブルチェーンであって,単位部材3,3′において,所要の間隔をおいて相対する一対のリンクプレート5及びこれら一対のリンクプレート5を連結する支持板7及びカバー部材25を持ち,カバー部材25に,リンクプレート5の取付け部21との関節結合部が形成されているものにおいて,カバー部材25の一方端部中央部に形成されている軸受部25aが,リンクプレート5の中央上部の取付け部21先端中央部の開口部21b内に設けられた軸部21aを全周にわたって囲巻している,ケーブルチェーン。」【引用発明1と本願発明1との一致点1】「エネルギ案内鎖のプラスチックから成る鎖リンクが互いに間隔をおいた側板及びこれらの側板を結合する下部及び上部の横連絡片を持ち,少なくとも1つの横連絡片が側板の1つに関節結合されている,鎖リンクの製造方法において,側板,横連絡片,及び,側板と横連絡片との関節結合部が形成される,鎖リンクの製造方法。」【引用発明1と本願発明1との相違点1】「側板,横連絡片,及び,側板と横連絡片との関節結合部の形成に関して,本願発明1は,「まず側板の少なくとも1つが形成され,それから横連絡片の少なくとも1つの形成中に,側板の1つと横連絡片の1つとの関節結合部が同時に形成される」構成を有しているのに対し,引用発明1は,リンクプレート5(側板)を含む単位部材3,3′を一次成形して,関節結合部を含むカバー部材25(上部の横連絡片)を二次成形している点。」(相違点1についての判断)引用発明1においても,技術常識に照らせば,リンクプレート5(側板)が形成され,それから関節結合部を含むカバー部材25(上部の横連絡片)が形成されているといえ,カバー部材25(上部の横連絡片)と関節結合部の成形タイミングについては明りょうに記載されていないが,関節結合部はカバー部材25(上部の横連絡片)の一部をなすものであり,一般的に樹脂成形品において各部(例えば,本体部と端部,本体部と取付け部等)が,その成形時に実質的に同時に形成されることは従来から慣用されている技術であることを勘案すれば,引用発明1において,カバー部材25(上部の横連絡片)と関節結合部とが同時に形成されるように構成することは,当業者が容易になし得たものである。 【引用発明2と本願発明14との一致点2】「エネルギ案内鎖用のプラスチック製鎖リンクであって,互いに間隔をおいた側板及びこれらの側板を結合する下部及び上部の横連絡片を持ち,少なくとも1つの横連絡片が側板の1つに関節結合されているものにおいて,横連絡片の一部が,側板と一体の継手軸を継目なしに包囲している,鎖リンク。」【引用発明2と本願発明14との相違点2】「側板と一体の継手軸に関して,本願発明14は,「側板(10)に形成される継手軸(16)」とされているのに対し,引用発明2は,リンクプレート5(側板)の中央上部の取付け部21先端中央部の開口部21b内に設けられた軸部21a(継手軸)とされている点。」(相違点2についての判断)軸部及び軸受部(関節結合部)を備える成形品において,成形品本体に対して,該軸部又は軸受部をどのように形成するかは,成形品形状,関節結合部における回動容易性,剛性等を勘案した設計的事項にすぎないものであり,引用発明2において,軸部21a(継手軸)をリンクプレート5(側板)に直接形成することは,当業者が容易になし得たものである。 第3原告主張の審決取消事由1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)審決は,相違点1についての検討に当たり,「一般的に樹脂成形品において各部が,その成形時に実質的に同時に形成されることは従来から慣用されている技術であり,そのことを勘案すれば,引用発明1において,カバー部材25と関節結合部とが同時に形成されるように構成することは,当業者が容易になし得たもの」(6頁20行〜25行)と判断する。 この点について,樹脂成形品として横連絡片を例に考えると,同横連絡片は,概念上は,?かぎ部分,?側板と関節結合する部分,?その余の部分という3つの部分に分けて考えることができるところ,審決が,「?,?,?が実質的に同時に形成されることは従来から慣用されている技術である。」との趣旨を述べているとすれば,その点については原告も認める。すなわち,「横連絡片」の各構成部分を実質的に同時に形成してひとつの「横連絡片」を完成させることが引用発明1から容易想到である旨の審決の判断については,争うところではない。 しかし,審決が,「?,?,?を形成しながら,同形成と同時に,継手軸に回動可能な状態で関節結合してしまうことは,従来から慣用されている技術である。」との趣旨を述べているとすれば,誤りである。 すなわち,本願発明1は,「横連絡片」を,その形成と同時に,既に完成された「側板」に関節結合してしまう製造方法を提示しているところ,従来技術は,本願発明1のような同時形成ではなく,非同時形成であるから,慣用技術であることを示す文献はないはずである。例えば,引用発明1には,完成された「カバー部材25」と完成された「リンクプレート5」の各構造が開示されているだけであって,これらを関節結合するタイミングについては何ら開示・示唆されていない。 また,審決が,「?,?,?を実質的に同時に形成することは従来から慣用されている技術であるから,本願発明1のように?,?,?の形成と同時にこれを継手軸に回動可能な状態で関節結合してしまうことは,当業者が容易になし得たものである。」との趣旨であれば,その判断も不当であり認められない。?,?,?を同時に形成することと,形成したものを同時に他の物と関節結合することとは,全く次元の違う問題である。 2取消事由2(一致点2についての認定の誤り)審決は,本願発明14と引用発明2の一致点2として,前記のとおり,「エネルギ案内鎖用のプラスチック製鎖リンクであって,互いに間隔をおいた側板及びこれらの側板を結合する下部及び上部の横連絡片を持ち,少なくとも1つの横連絡片が側板の1つに関節結合されているものにおいて,横連絡片の一部が,側板と一体の継手軸を継目なしに包囲している,鎖リンク。」と認定するが,引用発明2における「全周にわたって囲巻している」は,本願発明14における「継目なしに包囲している」ことに相当しない。引用発明2は,囲巻(包囲)している部分に「継目」があるか否かについて,一切述べていないのに対し,本願発明14では,本願発明1に係る製造方法によって,継手軸を包囲している横連絡片に「継目」が生じることもなくなるから,上記に係る一致点の認定は誤りである。 例えば,従来技術によっても,横連絡片は継手軸を「全周にわたって囲巻」するが,2つの舌片を溶接する際に舌片の溶接部分に「継目」が発生する。つまり,横連絡片が継手軸を「全周にわたって囲巻」していても,「継目」なく「全周にわたって囲巻」しているとはいえないのである。 本願発明1に係る製造方法によって,初めて,従来技術のように舌片を持つ横連絡片を形成して舌片を溶接する複雑な工程が不要となり(製造工程の省力化 ),かつ,継手軸を包囲している横連絡片に「継目」が生じることもなくなって,従来技術よりも一層強固に横連絡片を側板に関節結合することが可能となり,もって,エネルギ案内鎖の製造方法と製品としての性能が更に大きく向上するのである。 第4 被告の反論1取消事由1に対し(1) 引用例 (甲3 )の,「該カバー部材25は一次成形された単位部材3・3´に対して上記した合成樹脂で二次成形して一体成形される。そして二次成形されるカバー部材25の合成樹脂は単位部材3・3´に対して非融着状態で成形されるため,その硬化時に取付け部21・23に対して非融着になり,取付け部21の軸部21aに対してカバー部材25を回動可能にさせる」(段落【0021】 ),「カバー部材25の一方端部中央部には軸受部25aが軸部21aを全周にわたって囲巻する」(段落【0020】 )との記載及び図3から,カバー部材25は軸部21aの周囲を継目などなく包囲している態様が看取されるから,引用発明1における,「リンクプレート5を含む単位部材3・3′を一次成形して,関節結合部を含むカバー部材25を二次成形する」構成は,実質的に,「横連絡片(「カバー部材25」 )を,その形成と同時 (「二次成形」時 )に,既に完成された (「一次成形」された )側板 (「リンクプレート5」)に関節結合 (「一体成形」,「回動可能」及び「全周にわたって囲巻」)してしまう製造方法 (成形方法 )」という技術事項を示しているといえる。そうすると,引用発明1は,実質的に,「まず側板の少なくとも1つが形成され,それから横連絡片の少なくとも1つの形成中に,側板の1つと横連絡片の1つとの関節結合部が同時に形成される」構成を示しているともいえるものであるが,審決は,進歩性の判断を慎重に行うために,上記の相違点1を挙げて判断したものである。 (2) そして,審決において,引用発明1の関節結合部に関して,「該軸受部25aと軸部21aによる回動可能な結合は関節結合に該当するから,上記記載等から,カバー部材25に,リンクプレート5の取付け部21との関節結合部(以下,「関節結合部」という。 )が形成されていることが看取される。」 (4頁16行〜19行,引用例1の記載事項(え )。 )と認定していることや,一般に樹脂成形品の成形において,一次成形の後に二次成形が行われることが技術常識であることから,引用発明1における「リンクプレート5(側板 )を含む単位部材3・3′を一次成形して,関節結合部を含むカバー部材25(上部の横連絡片 )を二次成形する」とは,まず最初にリンクプレート5(側板 )が形成され,それから (カバー部材25 (上部の横連絡片 )とリンクプレート5 (側板 )とがその軸部21aと軸受部25aにより回動可能に一体に結合される)関節結合部を含むカバー部材25 (上部の横連絡片 )を形成することを意味する。 その上で,二次成形される,カバー部材25(の本体 )と,カバー部材25の一部である関節結合部との形成タイミングに関して,一般的に樹脂成形品において各部(例えば,本体部と端部,本体部と取付け部等 )が,その成形時に実質的に同時に形成されることは従来から慣用されている技術であることや引用発明1の上記技術事項を勘案すれば,引用発明1において,カバー部材25(上部の横連絡片 )と関節結合部とが同時に形成されるように構成することは,当業者が容易になし得たものであると判断したものである。 なお,引用発明2において,「所要の間隔をおいて相対する一対のリンクプレート5及びこれら一対のリンクプレート5を連結する支持板7及びカバー部材25を持ち」と記載されているから,リンクプレート5とカバー部材25とが結合されていることが理解でき,また,引用発明2の上記の記載と「カバー部材25に,リンクプレート5の取付け部21との関節結合部が形成されている」の記載を併せて検討すると,カバー部材25に形成されている関節結合部により,リンクプレート5の取付け部21とカバー部材25とが結合,つまり関節結合していることになることは明らかである。 2取消事由2に対し原告主張のように,本願発明1に係る製造方法によって,初めて囲巻(包囲 )している部分に「継目」がなくなるとする根拠は不明であるが,仮に,本願発明1に係る製造方法によって,囲巻(包囲 )している部分に「継目」がなくなるとしても,上述したように引用例には本願発明1と同様の製造方法が開示又は示唆されているのであるから,同様に継目のない関節結合部が形成されることは自明である。 第5当裁判所の判断1取消事由1(相違点1についての判断の誤り)について原告は,審決が,相違点1についての検討に当たり,「一般的に樹脂成形品において各部が,その成形時に実質的に同時に形成されることは従来から慣用されている技術であり,そのことを勘案すれば,引用発明1において,カバー部材25と関節結合部とが同時に形成されるように構成することは,当業者が容易になし得たもの」(6頁20行〜25行 )と判断して,本願発明1の進歩性を否定したことが誤りであると主張するので,以下検討する。 (1) 引用発明1は,前記第2の3 (2) の【引用発明1と本願発明1との一致点1】並びに引用例(甲3 )の段落【0019】,【0020】,【0021】及び図3の各記載によれば,以下のとおりと認められる。 すなわち,引用発明1は,リンクプレート5を含む単位部材3,3′を合成樹脂で一次成形して,関節結合部を含むカバー部材25を合成樹脂で二次成形するものであるから,まず,リンクプレート5を一次成形し,その後,カバー部材25を二次成形して,両者を関節結合するものであるところ,段落【0019】の「取付け部21・23相互間にはカバー部材25が一体成形されている。」との記載と,一体成形される合成樹脂成形品において,成形される本体部と取付け部などの各部が,溶融状態の樹脂からの成形時に,実質的に同時に形成されることが慣用技術であること(この点は争いがない。 )を考慮すると,カバー部材25は,二次成形される際,係合部などの関節結合部を含めて一体のものとして同時に形成されるものと認められる。 そして,リンクプレート5とカバー部材25の結合関係に関して,段落【0019】の「カバー部材25は単位部材3・3´の合成樹脂に対して合成樹脂を非融着状態で一体成形してなる。該カバー部材25は単位部材3・3´の合成樹脂に対して合成樹脂を非融着状態で一体成形してなる。」「単位部材3・3´に対してカバー部材25を非融着状態で成形する方法としては単位部材3・3´を形成する合成樹脂に対して低融点でカバー部材25を成形すればよい。」,段落【0020】の「カバー部材25の一方端部中央部には軸受部25aが軸部21aを全周にわたって囲巻するように・・・形成されている。」,段落【0021】の「二次成形されるカバー部材25の合成樹脂は単位部材3・3´に対して非融着状態で成形されるため,その硬化時に取付け部21・23に対して非融着になり,取付け部21の軸部21aに対してカバー部材25を回動可能にさせる」との各記載によれば,カバー部材25は,リンクプレート5の合成樹脂よりも低融点であり,溶融状態にある合成樹脂を用いることにより,リンクプレート5の軸部21aを溶融させないようにしながら,軸部21aの全周を囲巻した関節結合部を含めて一体成形され,温度が低下してカバー部材25の合成樹脂が硬化した時点で,リンクプレート5の軸部21aに対して,非融着状態で回動可能な構成により成形が完了するように,製造が行われているものと認められる。 そうすると,引用発明1では,前記慣用技術を考慮すると,まず,リンクプレート5(側板)の少なくとも1つが形成され,次に,リンクプレート5(側板)の軸部と回動可能な構成により結合された関節結合部を含むカバー部材25(上部の横連絡片)が形成されているものといえるから,引用発明1には,前記相違点1に記載された本願発明1の構成が開示されているものと認められ,この点に関する審決の判断に誤りはない。 (2) 原告は,本願発明1が,「横連絡片」を,その形成と同時に,既に完成された「側板」に関節結合してしまう製造方法を提示しているところ,従来技術は,本願発明1のような同時形成ではなく,非同時形成であるから,慣用技術であることを示す文献はなく,例えば,引用発明1には,完成された「カバー部材25」と完成された「リンクプレート5」の各構造が開示されているだけであって,これらを関節結合するタイミングについては何ら開示・示唆されていないと主張する。 しかし,審決は,一体成形される合成樹脂成形品において,成形される本体部と取付け部などの各部が,実質的に同時に形成されることが慣用技術であると認定したものであって,異なる部材である「側板」の継手軸に対して「横連絡片」が関節結合された状態で同時に形成されることが慣用技術であると認定したものではない。 そして,当該慣用技術を考慮して,カバー部材25が,二次成形される際,係合部などの関節結合部を含めて一体のものとして同時に形成されるものであるとすると,引用発明1においては,前示のとおり,まず,リンクプレート5(側板)が形成され,次に,リンクプレート5(側板)の軸部と回動可能な構成により結合された関節結合部を含むカバー部材25(上部の横連絡片)が形成されることが開示されているものと認められる(なお,本願発明1では,その特許請求の範囲において,「側板の少なくとも1つが形成され,それから横連絡片の少なくとも1つの形成中に,側板の1つと横連絡片の1つとの関節結合部が同時に形成される」ことが特定されているものの,特許請求の範囲はもとより明細書においても,引用発明1に示されたような,側板と横連絡片との関節結合部を同時に形成する具体的手法に関する限定も開示もない。)。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 (3) また,原告は,審決が,「横連絡片」の各構成部分を実質的に同時に形成することは従来から慣用されている技術であるから,本願発明1のように「横連絡片」の各構成部分の形成と同時にこれを継手軸に回動可能な状態で関節結合してしまうことを当業者が容易になし得たとの判断をしているとすれば,不当であり,「横連絡片」の各構成部分を同時に形成することと,形成したものを同時に他の物と関節結合することは,次元の違う問題であると主張する。 しかし,前示のとおり,審決は,一体成形される合成樹脂成形品において,成形される各部が実質的に同時に形成されることが慣用技術であると認定したものであって,異なる部材である「側板」の継手軸に対して「横連絡片」が関節結合された状態で同時に形成されることが慣用技術であると認定したものではない。そして,審決は,「横連絡片」の各構成部分の形成と同時にこれを継手軸に回動可能な状態で関節結合してしまうことを,慣用技術としてではなく,引用発明1に実質的に開示されていると判断したものであり,その判断が正当であることも,前示のとおりである。 したがって,原告の上記主張は,採用することができない。 2取消事由2(一致点2についての認定の誤り)について原告は,審決が認定した本願発明14と引用発明2の一致点2について,引用発明2における「全周にわたって囲巻している」は,本願発明14における「継目なしに包囲している」ことに相当せず,引用発明2は,囲巻(包囲)している部分に「継目」があるか否かについて,一切述べていないのに対し,本願発明14では,本願発明1に係る製造方法によって,継手軸を包囲している横連絡片に「継目」が生じることもなくなるから,上記に係る一致点2の認定は誤りであると主張する。 しかし,前示のとおり,一体成形される合成樹脂成形品において,成形される各部が実質的に同時に形成されるという慣用技術を考慮すると,引用発明2においては,まず,リンクプレート5(側板)が形成され,次に,リンクプレート5の合成樹脂よりも低融点であり,溶融状態にある合成樹脂を用いて,カバー部材25が形成され,その際,リンクプレート5の軸部21aを溶融させないようにしながら,軸部21aの全周を囲巻した関節結合部を成形することが開示されているものと認められる。そして,この状態から合成樹脂の温度が低下して硬化すると,カバー部材25において,継目のない関節結合部が形成されることになる。 そうすると,引用発明2では,「横連絡片の一部が,側板と一体の継手軸を継目なしに包囲している」構成の鎖リンクが開示されているものと認められるから,審決の一致点2の認定に誤りはなく,原告の上記主張は,採用することができない。 第6結論以上によれば,原告主張の取消事由は,いずれも理由がなく,審決の判断に誤りはない。 よって,原告の請求を棄却することとして,主文のとおり判決する。 |
裁判長裁判官 | 塩月秀平 |
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裁判官 | 清水節 |
裁判官 | 古谷健二郎 |