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審判番号(事件番号) データベース 権利
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平成21行ケ10366審決取消請求事件 判例 特許
関連ワード 技術的思想 /  有用性 /  上位概念 /  技術的範囲 /  発明の詳細な説明 /  化学構造 /  クレーム /  薬事法 /  存続期間 /  延長登録 /  製造承認 /  文言解釈 /  特許発明 /  実施 /  加工 /  構成要件 /  侵害 /  実施権 /  専用実施権 /  設定登録 /  拒絶査定 /  請求の範囲 /  拡張 /  変更 /  訂正明細書 /  合理的な理由 /  期間の延長 / 
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事件 平成 21年 (行ケ) 10062号 審決取消請求事件
原告 エティファー ム
訴訟代理人弁護士 畑 郁夫国谷史朗 茂木鉄平 重冨貴光
被告 特許庁長官
指定代理人 星野紹英内田淳子 唐木以知良 田村正明
裁判所 知的財産高等裁判所
判決言渡日 2010/12/22
権利種別 特許権
訴訟類型 行政訴訟
主文 特許庁が不服2008−3254号事件について平成20年10月31日にした審決を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由
全容
第1原告の求めた判決主文同旨第2事案の概要本件は,存続期間延長登録の出願に対する拒絶査定に係る不服の審判請求について,特許庁がした請求不成立の審決の取消訴訟である。争点は,本件出願が,特許法67条の3第1項1号の規定に該当するか否かである。
1特許庁における手続の経緯原告は,発明の名称を「急速崩壊性多粒子状錠剤」とする本件特許(特許2820319号,平成4年7月21日出願,平成10年8月28日設定登録,平成11年10月27日に武田薬品工業株式会社(以下「武田薬品」という。)を専用実施権者として登録)について,平成15年1月24日に特許権移転の登録を受け,平成18年9月12日に「延長を求める期間」を3年9月10日とする存続期間延長登録の本件出願(特許権存続期間延長登録願2006-700077号)をした。
本件出願は,本件特許の専用実施権者である武田薬品が受けた錠剤「タケプロンOD錠15」(販売名)に関する薬事法上の承認に基づくものであり,その願書には,特許発明実施について特許法67条2項の政令に定める処分を受けることが必要であった当該処分として,以下の内容が記載されている。
(1)延長登録の理由となる処分薬事法14条7項に規定する医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る同項の承認(2)処分を特定する番号承認番号:21400AMZ00223000(3)処分を受けた日平成18年6月15日(4)処分の対象となった物一般名称:ランソプラゾール,販売名:タケプロンOD錠15(5)処分の対象となった物について特定された用途非びらん性胃食道逆流症原告は,本件出願につき,平成19年11月6日付けで拒絶査定を受けたので,平成20年2月12日,これに対する不服の審判請求をした。
特許庁は,上記請求を不服2008-3254号事件として審理した上,平成20年10月31日,「本件審判の請求は,成り立たない。」との審決をし,その謄本は同年11月18日に原告に送達された(出訴のための附加期間90日)。
2本件特許発明の要旨本件特許発明は,平成11年異議第71718号において提出された訂正請求書に添付された訂正明細書(甲2の2)の特許請求の範囲に記載された,以下のとおりのものである。
【請求項1】投与前に水中に分散させることなく経口投与する錠剤であって,味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶または微粒子形態の有効物質と,賦形剤混合物とを含む材料を圧縮して得られ,前記賦形剤混合物がカルボキシメチルセルロース又は錠剤の全重量に対して13.3%以下の不溶網状PVPを含む少なくとも1つの崩壊剤,及び,澱粉,加工澱粉,あるいは微結晶セルロースから選択され,水と接触して高粘度を生じない少なくとも1つの膨張剤を含み,発泡剤及び遊離の有機酸を含まず,口中で唾液の存在下で咀嚼無しに60秒より短い時間で崩壊する急速崩壊性多粒子錠剤。
【請求項2】前記賦形剤混合物が,直接圧縮糖をさらに含むことを特徴とする請求項1記載の錠剤。
【請求項3】胃腸鎮静薬,制酸薬,鎮痛薬,抗炎症剤,冠状血管拡張薬,末梢および脳血管拡張薬,抗感染剤,抗生物質,抗ウイルス剤,駆虫剤,抗癌剤,抗不安剤,神経弛緩薬,中枢神経系刺激剤,抗鬱薬,抗ヒスタミン剤,下痢止め剤,緩下薬,栄養補給剤,免疫抑制薬,コレステロール低下剤,ホルモン,酵素,鎮痙剤,抗苦悶剤,心臓律動作用薬,動脈高血圧の治療薬,抗片頭痛剤,血液凝集作用薬,抗癲癇剤,筋弛緩剤,糖尿病の治療薬,甲状腺機能不全の治療薬,利尿剤,食欲抑制薬,抗ぜん息剤,去痰薬,鎮痰剤,粘液調整薬,うっ血除去薬,催眠薬,制吐剤,造血剤,尿酸排泄剤,植物抽出物,造影剤よりなる有効物質の群の少なくとも1つを,味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶の形状で含むことを特徴とする請求項1又は2記載の錠剤。
【請求項4】胃腸鎮静薬,制酸薬,鎮痛薬,抗炎症剤,冠状血管拡張薬,末梢および脳血管拡張薬,抗感染剤,抗生物質,抗ウイルス剤,駆虫剤,抗癌剤,抗不安剤,神経弛緩薬,中枢神経系刺激剤,抗鬱薬,抗ヒスタミン剤,下痢止め剤,緩下薬,栄養補給剤,免疫抑制薬,コレステロール低下剤,ホルモン,酵素,鎮痙剤,抗苦悶剤,心臓律動作用薬,動脈高血圧の治療薬,抗片頭痛剤,血液凝集作用薬,抗癲癇剤,筋弛緩剤,糖尿病の治療薬,甲状腺機能不全の治療薬,利尿剤,食欲抑制薬,抗ぜん息剤,去痰薬,鎮痰剤,粘液調整薬,うっ血除去薬,催眠薬,制吐剤,造血剤,尿酸排泄剤,植物抽出物,造影剤よりなる有効物質の群の少なくとも1つを,味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微粒子の形状で含むことを特徴とする請求項1又は2記載の錠剤。
3審決の理由の要点審決の理由の要点は,以下のとおりである。
「医薬品についての処分が特許発明実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」,すなわち,「有効成分」が特許発明構成要件として明確に特定されていることを要する。
本件特許発明の請求項1及び2に係る発明は,錠剤の発明であるが,錠剤に含有される有効成分については「味覚マスクするように被覆層(ただし,当該被覆層はステアリン酸,ステアリン酸アルミニウム,ステアリン酸カルシウム,ステアリン酸マグネシウム,ステアリン酸亜鉛及びタルクからなる群から選択される潤滑剤の有効量を含む潤滑コーティング表層膜を含まない)で被覆された微結晶または微粒子形態の有効物質」と記載されているが,どのような物質を使用するのかは特定されていない。
同請求項3及び4に係る発明では,胃腸鎮静薬,制酸薬,鎮痛薬,・・・よりなる有効物質の群の少なくとも1つが錠剤に含まれることが記載されているが,これも薬効は特定されてもどのような成分(物)を使用するかを特定するものではない。
したがって,本件出願に係る医薬品に対する本件の処分は,本件特許発明実施に必要な処分であったとは認められないから,本件出願は,特許法67条の3第1項1号の規定に該当する。」第3原告主張の審決取消事由審決は,特許法67条2項及び67条の3第1項1号所定の「その特許発明実施」との文言の解釈に際し,「行政処分の対象が特許発明構成要件として明確に特定され」ていなければならないとの限定を付しているが,以下のとおり,上記法条の文言解釈をするに際しそのような限定を付さなければならない合理的な理由(形式的・実質的根拠)は全くないのであって,審決には延長登録要件に関する法令解釈に誤りがあるから,違法として取り消されるべきである。
1特許法67条2項及び67条の3第1項1号の解釈の誤り審決は,「医薬品についての処分が特許発明実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」(7頁4行〜7行)と記載しているところ,この記載は,行政処分の対象が「特許請求の範囲」自体に明確かつ直接的に記載されていることを要求するものと解されるが,特許法67条2項及び67条の3第1項1号のいずれを精読しても,審決が説示するように,行政処分の対象が「特許発明構成要件として明確に特定され」ていなければならないと解さなければならない合理的理由,根拠は全く見当たらない。むしろ,後述する延長登録制度の趣旨に照らし,特許法67条2項及び67条の3第1項1号の文言を素直に読めば,行政処分の対象に係る医薬品(ないし行政処分の対象たる有効成分を含む医薬品)の製造販売等の行為が特許発明実施でありさえすれば,端的に「その特許発明実施」に該当すると解するのが当然であり,これを否定すべき実質的根拠は見当たらない。
すなわち,特許法67条2項及び67条の3第1項1号によれば,「その特許発明実施」について,特許法67条2項所定の政令で定める処分を受けることが必要である場合には,延長登録が認められることを定めているのであり,上記各条項は「その特許発明実施」と定めるのみであって,それ以上に何らの限定も付していないことを簡単に無視してはならない。このように,上記各条項が単に「その特許発明実施」と定めるだけである以上,その文言の意味内容は,特許法所定の定義条項に従って解釈するのが当然であり,これが条文解釈上の常道である。したがって,「その特許発明実施」とある場合の「実施」の意味内容は,特許法2条3項各号で定められているのであるから,これに従うべきであり,そうすると,「その特許発明実施」とは,特許発明構成要件を充足する医薬品の生産,使用,譲渡等を意味すると解するのが特許法の解釈として最も素直かつ整合的である。そして,本件に即していえば,「その特許発明実施」とは,承認の対象に係る医薬品(ないし承認の対象たる有効成分を含む医薬品)を技術的範囲に含む特許発明について,当該医薬品の生産,使用,譲渡等を意味することになる。
また,特許法67条2項の「政令で定める処分」が薬事法上の承認である場合において,「政令で定める処分を受けることが必要であった場合」とは,「薬事法上の承認を受けるまで当該特許発明実施(意味内容は上記のとおり)が禁止されていたが,当該承認によって禁止が解除され,これにより当該特許発明実施が可能となる場合」を意味する。
この趣旨は,特許法の逐条解説でも明確に説明されている。すなわち,特許庁編・工業所有権法(産業財産権法)逐条解説(甲21)は,特許法67条の3第1項1号所定の拒絶理由に関して,「処分を受けることによって禁止が解除された範囲と特許発明(特許権)の範囲に重複している部分がなければ,特許発明実施に当該処分を受けることが必要であるとは認められない」と述べている。これを換言すれば,行政処分によって禁止を解除された範囲(行政処分の対象)と特許発明(特許権)の範囲に重複している部分(特許発明技術的範囲に属する部分)があれば,「その特許発明実施第67条第2項所定の「政令で定める処分」を受けることが必要であった」ということになる。
さらに,特許庁策定の改善多項制及び特許権の存続期間の延長制度に関する運用基準を解説する図書(「詳説改善多項制・特許権の存続期間の延長制度」(昭和63年),甲22)においても,「「処分を受けた物(又は,物と用途)が特許請求の範囲に記載されている場合」には,処分を受けた物(又は,物と用途)が特許請求の範囲に明示されている場合のほか,処分を受けた物(又は,物と用途)の上位概念の物(又は,物と用途)が特許請求の範囲に記載されている場合も含まれる。例えば,特許請求の範囲にはマーカッシュ形式等により複数の化合物が包括的に記載されており,処分を受けた物が特許請求の範囲に明示的に記載されていない場合(例えば,処分を受けた物の化合物名が特許請求の範囲に明示的に記載されていない場合)であっても,処分を受けた物がそれに含まれていれば,処分を受けた物が特許請求の範囲に記載されていることとなる。」と記載されており,この運用基準によっても,行政処分の対象が,特許請求の範囲に明示的に記載されていない場合でも,特許請求の範囲に含まれる(換言すれば特許発明技術的範囲に属する)限り,当該対象が特許請求の範囲に記載されていると評価すべきであるとされているのである。なお,上記運用基準が取り挙げているマーカッシュ形式等による複数化合物のクレーム記載例は,その冒頭に「例えば」と記載されており,まさに例示をしているにすぎないのであって,行政処分の対象が特許発明構成要件として明確に特定されることまで要求するものでないことは明らかである。
2本件の承認との関係における実質的検討延長制度の趣旨は,行政処分の対象が特許発明構成要件として明確に特定されているか否かとは何ら関係ない。
すなわち,本件の承認対象に係る医薬品(ないし本件の承認対象たる有効成分を含む医薬品)について,本件特許発明に係る錠剤を製造・販売しようとすれば,その前提として薬事法14条7項所定の承認を得る必要があることは疑いがない。そして,薬事法14条7項所定の承認を得るためには,所要の実験によるデータ収集及び審査に長期間を要するのである。現に,本件特許の専用実施権者である武田薬品は,政令で定める処分を受けるまでの間に,平成14年9月4日に治験計画届(第?相試験:AG-1749/CCT-206)を提出し,以降,症候性胃食道逆流症患者(色調変化型)を対象とした第?相二重盲検比較試験(CCT-206)を実施し,さらに,症候性胃食道逆流症患者(色調変化型)を対象に臨床薬理試験(CPH-206)を実施し,これらの試験成績をまとめた上で,医薬品医療機器総合機構と医薬品申請前相談を行い,その後,初めて製造承認事項一部変更承認申請をしているのである(甲23)。
このようにして,武田薬品は,厚生労働大臣の承認(甲3)を得るまで実に3年9か月10日もの長期間を要したのである。当然のことながら,原告及び武田薬品は,その期間,本件特許発明について,特許権の専有による利益を享受し得ず,その期間に相当する分だけ特許期間が侵食されたことに変わりはない。そして,この事実は,新薬メーカーとしては看過できない事態である。また,かかる事態は,本件の承認対象が本件特許発明構成要件に明確に特定されているか否かによって影響を受けるものではない。
なお,医薬品は,これを服用したとき,医薬品中の有効成分が体内において溶出し,吸収され,血液中に移行し,作用部位に到達し,薬効を発揮する。医薬品を錠剤として製剤化する意義の1つは,これを服用したときの,医薬品中の有効成分の体内での溶出をコントロールし,血中濃度を有効成分の作用が発揮される濃度であって,かつ,副作用が生じない濃度に一定時間維持することを可能にすることにある。したがって,処分を受けた錠剤と,治験に使用したカプセル剤とが体内において薬物に対し同等の溶出パターンを示すならば,カプセル剤の治験の結果はそのまま錠剤にも適用できるのである。
3審決が製剤特許の医薬品上の意義を軽視したこと医薬品の開発に当たり,新たな有効成分や効能効果を発明することの重要性は明らかであるが,医薬品の開発はそのような有効成分や効能効果を発明したことをもって終了するものではなく,新たな有効成分及び効能効果に係る化学物質を医薬品として使用する場合において,副作用等を可能な限り減弱し,望ましい効果を最大限発揮する目的で製剤を研究・開発することが必要不可欠である。そして,現在,そのような目的を達成するために,日々,製剤技術や薬剤の投与方法に関する研究開発が盛んに行われている。これらの研究領域においては,古くから,いわゆるDDS(Drug Delivery System :薬物送達システム)という学問が発達し,国際的な学会であるDDS学会も創設されているほどである。このように,新たな製剤を発明することは,新たな有効成分や効能効果等を発明することと同等又はそれ以上に価値のある研究開発活動である。
したがって,製剤特許を物質や医薬用途等に関する特許と区別して延長登録を否定することを助長する法令解釈や実質的価値判断は,到底容認できるものではない。
4特許請求の範囲の広狭は存続期間延長の許否判断に影響しないこと審決は,本件特許発明がほとんどの有効成分についてそれを錠剤として経口投与する際に適用可能な製剤技術に関する発明であるとした上で(7頁末行〜8頁4行),行政処分の対象たるランソプラゾールが本件特許請求の範囲における「有効物質」に含まれることを認めつつも,ランソプラゾールを「有効物質」として使用しなければならないわけではないことを理由に,延長登録要件を否定する判断を示している(8頁5行〜11行)が,この判断は明らかに誤りである。
審決の上記判断は,特許請求の範囲の広狭が延長登録要件の充足性に影響をもたらすとの考え方に立脚するものであるが,裁判例は,以下のとおり,特許請求の範囲の広狭によって存続期間の延長の許否は影響しないとの立場を明確に採用している。すなわち,リュープリン事件(知財高裁平成18年(行ケ)10311号・平成19年7月19日)判決は,「特許請求の範囲が広い特許を取得すると1回しか特許権の存続期間の延長が認められないが,特許請求の範囲の狭い特許を取得すると複数の特許権の存続期間の延長が認められるということになり,特許権をどのように取得するかによって特許権の存続期間の延長が認められる回数が異なるという結果を招くことになる」と判示し,また,プロピオン酸ベクロメタゾン事件(知財高裁平成19年(行ケ)10017号・平成19年9月27日)判決も,「特許請求の範囲が広い特許を取得するか,狭い特許を取得するかということが,存続期間の延長の許否に影響するような解釈を採ることは相当とはいえない」と判示している。
本件において,ランソプラゾールを「有効物質」として用いることに限定する特許請求の範囲(狭い特許請求の範囲)とすれば延長登録要件を充足し,ランソプラゾールを「有効物質」として用いることに限定しない特許請求の範囲(広い特許請求の範囲)とすれば延長登録要件を充足しないと判断することは,明らかに誤りである。
5本件特許発明薬事法の規制対象ではないとする説示の誤り審決は,「薬事法による承認は,「有効成分」等を特定した医薬品の品目ごとになされるものであって,対象となる薬物が特定されない製剤形態や製剤方法自体を規制するものではないから,本件特許発明のように有効成分を選ばない製剤技術の発明は薬事法の規制の対象となるものではないということもでき,この点から見ても,特許発明実施をするために本件処分を受けることが必要であったということもできない」と判断する(8頁12行〜17行)が,誤りである。
すなわち,薬事法特許発明(技術的思想)を規制の対象とするものでないことは当然であって,上記判断は,審決を正当化する根拠にはなり得ない。いうまでもなく,薬事法は,有効成分,用法及び用量,効能等により特定される医薬品を規制対象とするものであって,技術思想である特許発明を何ら規制するものではない。
6特許庁の従来実務との相違特許庁の従来実務においては,本件と同種事案において存続期間延長登録が多数認められてきた。
すなわち,本件のように新たな効能効果(用途)を追加することに伴って薬事法上の処分を受けた場合においては,当該効能効果追加時に新たな剤形追加を伴っていなくても,「製剤」特許権の存続期間延長登録が認められてきた。しかも,延長登録を受ける基礎となった薬事法上の処分における新たな効能効果については,当該延長対象特許発明の明細書に記載されておらず,当該特許発明は新たな効能効果に関するものではないものである。(甲24〜27,44〜78)被告は,本件に限り,OD(口腔内崩壊)錠に係る本件特許発明は,本件の承認により追加された新たな効能・効果とは関係のない,既存の技術として利用されたにすぎないと主張し,新たな効能効果(用途)追加に伴う薬事法上の処分を受ける際に新たな剤形(製剤技術開発)の追加が必要であるかのような前提に立っているが,このような主張は特許庁の従来実務に相反するものである。
7被告の主張する審決を維持すべき理由に対し被告は,特許法67条の3第1項1号文言解釈を離れて,もっぱら制度趣旨・立法経緯から拒絶理由を導き出そうとしているが,何故に文言解釈では不都合なのか,その理由は全く述べられていない。被告は,特許制度を利用する国民に不公平感を抱かせかねないとの不都合を想定しているのかもしれないが,そのような不都合が本件において認められない上に,そのような不都合性が条文解釈の常道である文言解釈を放棄する合理的理由となるとはおよそ考えられない。
むしろ,特許法67条の3第1項1号文言解釈を行わずして,「趣旨・経緯」の名の下にこれまで全く挙げられてこなかった拒絶理由を特許庁(被告)が新たに作り出すような運用を許すことは法的安定性を著しく欠き,かえって国民の不公平感・混乱をきたすのである。
なお,被告は,本件訴訟における「新しい有効成分に関する特許発明又は新たな効能・効果に関する特許発明に限って延長登録を認めるべきである」との論旨について,審決段階ではそのような論旨を直接的に表現することによって規範定立したわけでない旨を自ら言明している。この言明はとりもなおさず,本件訴訟における被告の上記論旨が審決段階の規範とは異なっていることを如実に示している。
また,審決段階での規範「有効成分が特許発明構成要件として明確に特定されていなければならない」ということと,本件訴訟での規範「新しい有効成分に関する特許発明又は新たな効能・効果に関する特許発明に限って延長登録を認めるべきである」ということとは,客観的に検討しても内容が異なるといわざるを得ない。
そもそも審決取消訴訟においては,審決に示されている拒絶理由に係る判断の適否が審理対象となるのであって,審決の当該判断の誤りが結論に影響を及ぼすときは,当該審決は違法として直ちに取り消されるべきである。審決に何ら示されていない別の理由を本件訴訟で主張することは許されないと解すべきである。したがって,審決が示した「有効成分が特許発明構成要件として明確に特定されていなければならない」との規範が相当でないときは,本件訴訟における被告の新たな種々の主張の当否に立ち入るまでもなく,審決は取り消されるべきである。
第4被告の反論1特許法67条2項及び67条の3第1項1号の解釈の誤りに対し特許法67条2項及び67条の3第1項1号の「その特許発明実施」における「特許発明」とは,特許法2条2項に定義されているとおり「特許を受けている発明」である。そして,「特許を受けている発明」は,特許明細書の特許請求の範囲に記載されている発明であるから,特許請求の範囲に記載された発明と処分によって禁止を解除された範囲との対比に当たって,特許法70条特許発明技術的範囲を考慮する理由はない。
そもそも,特許法70条に規定する技術的範囲という概念は,特定の侵害対象(いわゆるイ号物件)が特許権侵害となるかどうかという特定の当事者間における特定の対象物件についてのみの効力範囲を定めるものであって,特許法67条2項や同法67条の3の規定の解釈には何ら関係しないものである。
特許発明実施に特許法67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったと認められるためには,政令で定める処分を受けることによって禁止が解除された行為と特許発明実施に重複部分があることが必要であるが,この重複範囲において特許権の効力が延長されるのであるから,上記の禁止が解除された範囲については,特許法68条の2(存続期間が延長された場合の特許権の効力)の規定からその意味内容を理解する必要がある(乙1,2)。
原告が標準的文献とする各証拠(甲20,22)を見ても,特許法67条の3第1項1号の解釈運用は,原告の主張する「行政処分によって禁止を解除された範囲(行政処分の対象)と特許発明(特許権)の範囲に重複している部分(特許発明技術的範囲に属する部分)があるか否か」ではなく,「行政処分の対象となった物,又は物と用途が,特許請求の範囲に特定されているか否か」によることが明記されているのである。
2本件の承認との関係における実質的検討に対し審査報告書(甲23)において審査され評価されているのは,有効成分であるランソプラゾールを非びらん性胃食道逆流症へ適用するに当たっての有効性と安全性であって,これが本件の承認により禁止が解除される範囲に当たる。したがって,本件明細書の特許請求の範囲において,多粒子錠剤が含有する有効物質の限定がない以上,本件特許発明には,「非びらん性胃食道症へ適用されるランソプラゾール」という薬事法による規制によって生じる禁止範囲の存在を把握することはできないから,本件の承認によって禁止が解除された範囲と本件特許発明とに重複部分が存在するということはできない。
そして,治験計画届(甲8)を見ると,CCT-206試験の治験薬の成分,分量としては「1カプセル中ランソプラゾール(…)として15mg又は30mgを含有する。」と記載され,用法用量の欄には「AG-174930mg,15mg又はプラセボ1カプセルを1日 1回, 8週間・・・経口投与する。」とされ,剤型が相違している。また,審査報告書(甲23)を見ると,CPH-206試験の治験薬は本薬(ランソプラゾール)のカプセル剤15mg又は30mgであり,剤型が相違している。
原告は,剤型発明の重要性を主張するが,本件の承認の錠剤であるOD錠の安全性,有効性については,カプセル剤の剤型で試験すれば,錠剤の剤型では別途行わなくても足りること,すなわち,本件については剤型の相違が当該医薬品の安全性の面では特に問題にならないことを自ら証明している。本件特許発明のように,ランソプラゾールという物質の使用が特定されていない錠剤の発明について,非びらん性胃食道逆流症に対するランソプラゾールの使用の安全性をカプセル剤で行った治験に要した期間がそのまま上記錠剤の特許権の延長期間として認められるという事態を容認すべきとする原告の主張は採用されるべきではない。
3審決が製剤特許の医薬品上の意義を軽視したとの主張に対し本件の承認により追加された効能・効果(非びらん性胃食道逆流症)の有効性の審査のために考慮されたデータは,前記のとおり,OD錠ではなくカプセル剤に関するものであるが,このような事実からも,OD錠に係る本件特許発明は,本件の承認により追加された新たな効能・効果とは関係のない,既存の技術として利用されたにすぎないものというべきである。
以上のとおり,本件の承認により追加された新たな効能・効果とは関係のない既存技術として利用されたものにすぎない本件特許発明の存続期間の延長を認めることは,新薬開発のインセンティブが失われることを回避し,新薬開発の促進を期待するという存続期間延長制度の趣旨に沿うものではないし,また,特許権者の保護と第三者の利用との調和という特許法全体の趣旨・目的にも反するというべきである。
4特許請求の範囲の広狭に関する主張に対し審決は,「本件特許発明(特許請求の範囲に記載された発明)は「ランソプラゾール」を構成要件としていないし,「非びらん性胃食道逆流症に使用されるランソプラゾール」も当然にその構成要件ではないから,ランソプラゾールを使用しなければ多粒子錠剤が製造できないというものではないし,ましてや「非びらん性胃食道逆流症」に使用される「ランソプラゾール」を使用しなければならないものでもない」という趣旨で,特許請求の範囲の中に,処分によって禁止が解除された範囲が存在することが把握できないことに言及しているのであって,請求の範囲の広狭を論じたものではない。したがって,原告が引用する判決の判示事項と齟齬するものではない。
特許請求の範囲においてマーカッシュクレームのように多くの物質を含む広い概念の物が記載されていても,特定の官能基を選択した場合の化合物が処分の対象となった物と一致する場合,すなわち,処分の対象となった物との同一性が確認できる場合は問題がないのであるから,これは請求の範囲の広い,狭いには関連せず,処分対象となった「物」と同一の物が実質的に記載されているか否かの問題である。
なお,本件の承認は,非びらん性胃食道症に使用されるランソプラゾールについてのものであるから,少なくともランソプラゾールが特許請求の範囲に記載されている必要があるのは当然であるが,仮にその記載がある場合には,次に特許発明実施にランソプラゾールが非びらん性胃食道症に使用される場合が包含されるか否かの検討を行う必要がある。本件については,特許請求の範囲にランソプラゾール自体の記載がないため,用途についての要件を判断する必要はなかったのである。
5本件特許発明薬事法の規制対象ではないとする説示の誤りに対し薬事法において有効性,安全性の確保という目的が掲げられたのは,医薬品の有効成分のもつ有用性,副作用をバランスよく評価する必要性に基づくものであるから,審決の判断に誤りはない。そもそも本件特許発明のように新しい有効成分又は新たな効能・効果に関する特許発明ではないものについて,延長登録出願が認められるべきでないことは,後記7のとおりである。
6特許庁の従来実務との相違に対し原告は,特許請求の範囲に「有効物質」のような広義の概念を用いた特許請求の範囲に基づく特許の延長登録があるとして,甲24〜27を提出するが,これらについては登録要件の審査に当たり何らかの錯誤が存在したことが疑われる。延長登録出願は,当初,物質特許,用途特許,物質の製法特許について出願されることが想定されていたため,製剤特許等についての審査の対応について検討が十分ではなく,このような判断の不統一が生じたもの考えられる。
特許法125条の2には延長登録無効審判が規定されているが,これは行政庁の処分であっても過誤が生じる可能性があるため,それを正すための規定であるから,特定の事例で延長登録が認められていることが直ちにその解釈運用の正しさを裏付けるものではない。
7審決を維持すべき理由特許法67条の2以下の規定による存続期間延長制度は,昭和54年の薬事法改正を契機として,医薬品の製造販売等の承認を受けるために要する期間が長期化し,新薬開発のインセンティブが失われるおそれがあったために創設されたものであり,これによって新薬の開発が進むことが期待されたものであるから,新しい有効成分や効能・効果を有する新薬に対する承認処分があった場合に特許権の延長が許されることが予定されていたことは明らかであり,また,その場合の延長が許される特許権も新薬の開発に関する特許発明,すなわち,新しい有効成分に関する特許発明,又は,新たな効能・効果に関する特許発明を予定していたことは明らかである。
特許権の存続期間延長制度についての上記立法趣旨を踏まえれば,医薬品に関しては,「その特許発明実施第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」という要件は,「有効成分(物)と効能・効果(用途)という観点から処分を受けることが必要であった」と解すべきものである。
そして,特許発明が,新薬開発に関する特許発明,すなわち,新しい有効成分に関する特許発明,あるいは,新たな効能・効果に関する特許発明ではない場合には,「有効成分(物)と効能・効果(用途)」という観点からは,特許発明実施に処分を受けることが必要であったとはいえないので,このような特許発明に係る特許権の延長登録出願は,「その特許発明実施67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」に該当し,拒絶すべき旨の査定をしなければならない。
本件特許発明は,「特定の微結晶又は微粒子形態の有効物質と特定の賦形剤混合物とを圧縮した多粒子状の錠剤」に関する発明であって,新しい有効成分又は新たな効能・効果に関する特許発明ではないので,本件出願は,「その特許発明実施に本件処分を受けることが必要であったとは認められないとき」に該当し,拒絶されるべきものである。
なお,審決では,本件特許発明が,新しい有効成分に関する発明であるか否か,あるいは,新たな効能・効果に関する発明であるか否か,更には,「有効成分(物)と効能・効果(用途)」という観点から,特許発明実施に処分を受けることが必要であったといえるか否か,について,直接そのような表現を用いて論旨を展開しているものではない。しかし,以下に述べるように,本訴において被告が主張する内容は,審決の判断と整合するものである。
すなわち,新しい有効成分又は新たな効能・効果に関する特許発明であるならば,少なくとも特許請求の範囲において,当該有効成分が具体的にどのような化学物質であるか明らかにされた上で,特許発明構成要件として明確に特定されているものであるから,「有効成分」が構成要件として明確に特定されていない特許発明は,新しい有効成分又は新たな効能・効果に関する特許発明ということはできず,存続期間延長登録の対象となるべき新薬開発に関する発明とはいえないし,そのような発明は,有効成分と効能・効果の観点から,特許法67条の3第1項1号にいう「特許発明実施のために第67条2項の処分が必要であった」とすることができないものである。
そうすると,審決が,「医薬品についての処分が特許発明実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」としたことは,新しい有効成分又は新たな効能・効果に関する発明であるか否かを判断するための考え方を示したことになるから,そのような特定がなされていない特許発明に係る本件出願について,「本件出願に係る医薬品に対する処分は本件特許発明実施に必要な処分であったとは認められないから,本件出願は,特許法第67条の3第1項第1号の規定に該当する。」としたことは,新しい有効成分又は新たな効能・効果に関する特許発明とはいえない発明は,その実施のために本件の承認が必要であったとはいえないとする本訴における被告の主張と整合するものである。
第5当裁判所の判断1本件処分の対象と本件特許発明実施について本件処分となる薬事法上の承認の対象たる「タケプロンOD錠15」(販売名)が本件特許発明の構成を備えていないことに関しては,被告において主張立証するところではないので,この対象物の製造(生産,特許法2条3項1号)は,特許法67条2項所定の「特許発明実施」に当たるものというべきである。
2特許法67条2項及び67条の3第1項1号の解釈について特許権の存続期間の延長登録について,特許法67条2項は,「特許権の存続期間は,その特許発明実施について安全性の確保等を目的とする法律の規定による許可その他の処分であって当該処分の目的,手続等からみて当該処分を的確に行うには相当の期間を要するものとして政令で定めるものを受けることが必要であるために,その特許発明実施をすることができない期間があったときは,5年を限度として,延長登録の出願により延長することができる。」と規定している。また,同法67条の3第1項1号は,特許権の存続期間の延長登録の出願について拒絶をすべき場合の1つとして,「その特許発明実施第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき。」と規定している。
これらの規定の趣旨は,「特許発明実施」について,特許法67条2項所定の「政令で定める処分」を受けることが必要な場合には,特許権が存続していても,特許権者は特許発明実施することができずにその利益を享受することが困難であり,いわば特許期間が侵食される事態が生ずるため,特許発明実施することができなかった期間について,5年を限度として,特許権の存続期間を延長することとしたものと解される。そして,この場合の「特許発明」とは,その条文上の記載から明らかなように,一般に「特許を受けている発明」(特許法2条2項)と解され,特定の特許発明に限って存続期間の延長が認められるわけではなく,また,「実施」とは,特許法2条3項各号に掲げる行為をいうものである。
ところで,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除される行為のうちに,「特許発明実施」に当たる行為の部分がなければ,「その特許発明実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったとはいえないから,「特許発明実施」に「政令で定める処分」を受けることが必要であったと認められるためには,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除される行為のうちに「特許発明実施」に当たる行為の部分が存することが必要である。そして,「政令で定める処分」が,例えば,薬事法14条所定の医薬品の製造の承認や医薬品の製造の承認事項の一部変更に係る承認である場合に,上記要件を充足するためには,薬事法14条所定の当該承認を受けることによって禁止が解除された医薬品の製造行為に,当該特許発明実施に当たる部分がなければならないと解される。
3特許法68条の2の解釈について特許権の存続期間が延長された場合の特許権の効力について,特許法68条の2は,「特許権の存続期間が延長された場合(第67条の2第5項の規定により延長されたものとみなされた場合を含む。)の当該特許権の効力は,その延長登録の理由となった第67条第2項の政令で定める処分の対象となった物(その処分においてその物の使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)についての当該特許発明実施以外の行為には,及ばない。」と規定している。
この規定の趣旨は,特許権の存続期間が延長された場合の当該特許権の効力は,その特許発明の全範囲に及ぶものではなく,「政令で定める処分の対象」となった「物」(その処分においてその物に使用される特定の用途が定められている場合にあっては,当該用途に使用されるその物)についてのみ及ぶというものである。これは,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明は,様々な上位概念で記載されることがあり,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された「物」又は「物及び用途」よりも広いことが少なくないため,「政令で定める処分」を受けることが必要なために特許権者がその特許発明実施することができなかった「物」又は「物及び用途」を超えて,延長された特許権の効力が及ぶとすることは,特許発明実施が妨げられる場合に存続期間の延長を認めるという特許権の存続期間の延長登録の制度趣旨に反することとなるからである。
4延長登録出願と特許請求の範囲このように,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」に限定して特許権の存続期間の延長が認められるのであるから,特許権の存続期間満了後に当該特許発明実施しようとする第三者に対して不測の不利益を与えないという観点から,存続期間の延長登録出願が適法であるためには,「政令で定める処分の対象」となった「物」又は「物及び用途」についてみれば,それらが客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」を基準とし,「発明の詳細な説明」の記載に照らして認識できるものでなければならず,また,それで足りるということができる。すなわち,存続期間の延長登録出願に際し,「政令で定める処分」を前提として,その対象となった「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,上記の手法に基づいて認識できるような場合には,当該「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された行為に,「特許発明実施」に当たる行為の部分があると客観的に判断することができるからである。そして,特許請求の範囲の記載によって特定される特許発明が,様々な上位概念で記載され,「政令で定める処分」を受けることによって禁止が解除された「物」又は「物及び用途」よりも広い場合であっても,当該「物」又は「物及び用途」が,客観的に明確に記載され,かつ,当該特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであれば足りるのであり,上記の禁止が解除された「物」又は「物及び用途」が,特許発明のうちの特定の構成として明文上区分されている必要まではない。
審決は,「医薬品についての処分が特許発明実施に必要であったというためには,少なくともその処分によって特定される「物」すなわち「有効成分」が特許発明構成要件として明確に特定されていることを要するというべきである。」と判断したものであるが,この判断は,当裁判所の上記判断に反するものである。
また,審決は,「本件特許発明はランソプラゾールの使用を必須とする錠剤についての発明でないのはもちろん、それが「非びらん性胃食道逆流症」という特定の用途に向けられたものでもない。」(8頁5行〜7行)と判断するが,これは,当裁判所の上記判断に反する立場を前提とするものであり,前記1の認定判断と当裁判所の上記判断を前提とする以上,審決の上記判断に基づき本件出願を拒絶すべきものであるとした審決の結論は誤りというべきである。
5被告の主張について(1) 被告は,本件において審査され評価されているのは,有効成分であるランソプラゾールを非びらん性胃食道逆流症へ適用するに当たっての有効性と安全性であって,これが本件の承認により禁止が解除される範囲に当たるにもかかわらず,本件明細書の特許請求の範囲において,多粒子錠剤が含有する有効物質の限定がないから,本件特許発明では,「非びらん性胃食道症へ適用されるランソプラゾール」という薬事法による規制によって生じる禁止範囲の存在を把握することはできず,本件の承認によって禁止が解除された範囲と本件特許発明とに重複部分が存在するということができないと主張する。
(2) その前提として被告が主張するのは,特許権の存続期間延長制度についての立法趣旨を踏まえれば,医薬品に関しては,「その特許発明実施第67条第2項の政令で定める処分を受けることが必要であった」という要件は,「有効成分(物)と効能・効果(用途)という観点から処分を受けることが必要であった」と解すべきであるから,特許発明が,新しい有効成分に関する特許発明,あるいは,新たな効能・効果に関する特許発明ではない場合には,「有効成分(物)と効能・効果(用途)」という観点からは,特許発明実施に処分を受けることが必要であったとはいえないので,このような特許発明に係る特許権の延長登録出願は,「その特許発明実施67条2項の政令で定める処分を受けることが必要であったとは認められないとき」に該当し,拒絶すべき旨の査定をしなければならないというものである。
しかし,特許権の存続期間延長制度の対象となる特許発明は,前記2のとおり,その条文上の記載から明らかなように,「特許を受けている発明」(特許法2条2項)全般であり,新しい有効成分に関する特許発明,あるいは,新たな効能・効果に関する特許発明という特定の特許発明に限定して存続期間の延長を認めるべき合理的根拠はない。
(3) 前記第2の1記載並びに本件出願書(甲1)添付の資料及び本件承認書(甲3)によれば,本件処分(承認)の対象物は,ランソプラゾールを有効成分とするタケプロンOD錠15(販売名)の錠剤であり,処分の対象となった物について特定された用途は,「非びらん性胃食道逆流症」であるところ,当該有効成分であるランソプラゾールは,下記化学構造式を有する,(±)2-[[[3-メチル-4-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)-2-ピリジル]メチル]スルフィニル]ベンズイミダゾールである。
また,当該有効成分であるランソプラゾールは,添付文書情報(甲10)4頁の【薬効薬理】の欄に記載のとおり,胃酸分泌抑制作用を有する薬剤であって,当該作用に基づき胃潰瘍,十二指腸潰瘍などの胃腸疾患や,本件の承認において特定された用途である非びらん性胃食道逆流症を鎮静化するという効能・効果を有する医薬活性成分である。
したがって,ランソプラゾールは,本件明細書(甲2の2)の発明の詳細な説明において有効物質として例示された「制酸薬」又は「胃腸鎮静薬」に該当し,本件特許発明の特許請求の範囲請求項1記載の「有効物質」に該当するものと認められる。
そうすると,本件特許の存続期間の延長登録出願に際し,本件の承認を前提として,その対象となった「物及び用途」は,客観的に明確に記載され,かつ,本件特許発明に含まれるものであることが,「特許請求の範囲」,「発明の詳細な説明」の各記載に基づいて認識できるのであって,これに基づいて,本件の承認を受けることによって禁止が解除された行為に,本件特許発明実施に当たる行為の部分があるか否かを客観的に判断することができるから,被告の上記(1) の主張を採用することはできない。
(4) 被告の主張中には,本件の承認までの厚生労働省での審査過程では,本件特許発明に係る製剤技術自体の有効性や安全性は審査対象となっていなかったから,それらの確認のために特許権が浸食されたとはいえないとする部分がある。
この主張の関係でみると,なるほど,武田薬品は,平成4年10月2日にランソプラゾールを有効成分とする「タケプロンカプセル15」(販売名)について薬事法上の承認を受け(甲5),平成12年9月22日にその効能・効果及び用法・用量についての一部変更承認を受け(甲6),さらに,平成14年3月11日に同じくランソプラゾールを有効成分とする「タケプロンOD錠15」(販売名)について薬事法上の承認を受けている(甲7)。しかし,いずれの承認においても,本件の処分(承認)の対象物について特定された用途とされる「非びらん性胃食道逆流症」は効能・効果として含まれていない。錠剤に関する本件特許権に関して,有効成分であるランソプラゾールについて用途を「非びらん性胃食道逆流症」とする薬事法上の承認は,今回が最初であり,用途(効能・効果)において従前の上記各承認とは異なるものである。すなわち,本件の承認の対象となったのは,ランソプラゾールを有効成分として含有する錠剤「タケプロンOD錠15」(販売名)であるが,用途に関して,本件の承認では,従前の上記各承認事項に加えて「非びらん性胃食道逆流症」が効能・効果として追加されたものであるところ,かかる承認の審査期間において,当該用途での当該錠剤に係る本件特許発明実施が妨げられたことを全面的に否定することはできないから,被告の主張のみをもって本件出願を一切拒絶すべき理由とすることはできない。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
第6結論以上によれば,原告の主張する取消事由には理由があり,審決は取り消されるべきものといわなければならない。
よって,原告の請求を認容することとして,主文のとおり判決する。
裁判長裁判官 塩月秀平
裁判官 清水節
裁判官 古谷健二郎
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